説明

受光素子、エピタキシャルウエハおよびその製造方法

【課題】近赤外〜遠赤外域に受光感度を有するIII−V族半導体において、キャリア濃度を高精度で制御できる受光素子、およびその受光素子の素材となるエピタキシャルウエハ、およびそのエピタキシャルウエハの製造方法を提供する。
【解決手段】 III−V族化合物半導体からなる基板と、光を受光するための受光層と、該受光層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窓層と、少なくとも受光層に位置するpn接合とを備え、窓層の表面において、二乗平均面粗さが10nm以上40nm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受光素子、エピタキシャルウエハおよびその製造方法であって、より具体的には、III−V族化合物半導体に形成され、近赤外〜遠赤外域に受光感度を有する多重量子井戸構造(MQW:Multiple-Quantum Well)を受光層として含む受光素子、エピタキシャルウエハおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III−V族化合物のInP系半導体は、バンドギャップエネルギが近赤外域に対応することから、通信用、夜間撮像用などの受光素子の開発を目的に、多数の研究開発が行われている。たとえばInP基板上に、InGaAs/GaAsSbのタイプ2のMQWを形成し、p型またはn型のエピタキシャル層によるpn接合によってカットオフ波長2.39μmのフォトダイオードが提案され、波長1.7μm〜2.7μmの感度特性が示されている(非特許文献1)。また、InGaAs5nmとGaAsSb5nmとを1ペアとして150ペア積層したタイプ2MQWの受光層を備える受光素子の波長1μm〜3μmの感度特性(200K、250K、295K)が示されている(非特許文献2)。
また、V族元素としてアンチモン(Sb)を含む受光層とInP窓層を含む受光層において、InP窓層にドナー不純物を含有させることによって、InP窓層へのアンチモン混入によるp型化を補償し、暗電流を低減する方策が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】R.Sidhu, et.al. "ALong-Wavelength Photodiode on InP Using Lattice-Matched GaInAs-GaAsSb Type-II Quantum Wells, IEEE Photonics Technology Letters, Vol.17, No.12(2005), pp.2715-2717
【非特許文献2】R.Sidhu, et.al. "A 2.3μm Cutoff WavelengthPhotodiode on InP Using Lattice-Matched GaInAs-GaAsSb Type-II Quantum Wells”, 2005 Intenational Conference on Indium Phosphide and RelatedMaterials, pp.148-151
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−60853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1のカットオフ波長2.39μmのフォトダイオードでは、InGaAs層を窓層として、このInGaAs層に電極、パッシベーション膜を形成したことが原因と考えられる、高い暗電流が生じている。すなわちInP層を窓層にした場合に比較して、窓層にInGaAsを用いると高い暗電流となる。窓層にInPを用いることの利点は、暗電流に限定されない。すなわちInP窓層として、窓層を光の入射側にした場合、近赤外域での吸収が小さい利点も得られる。
一方、特許文献1において、InP窓層を通してp型不純物を選択拡散させる場合、条件によっては高い暗電流が生じる場合がある。アンチモンを含むエピタキシャル層を成膜した後、その成膜室において作製条件によって未だ確定できない経路をへてアンチモンの取り込み効率やアクセプタ型の欠陥密度が増大し、InP窓層にドナー不純物を添加しても補償されないほどのアクセプタ濃度となる。このアクセプタ濃度が高くなることが原因で、選択的に形成したアノード領域以外の領域でもpn接合が形成されるため、pn接合面積が拡大すること等が原因で暗電流が増大する。
また、アクセプタ濃度が意図したレベルを超えて増大することで、意図しない半導体素子が形成され、その結果、受光感度についても大きな劣化をもたらす。
【0006】
本発明は、近赤外〜遠赤外域に受光感度を有するIII−V族化合物半導体において、キャリア濃度を高精度で制御できる受光素子、およびその受光素子の素材となるエピタキシャルウエハ、およびそのエピタキシャルウエハの製造方法を提供することを目的とする。この高精度のキャリア濃度制御を実現することで、高感度かつ低暗電流を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の受光素子は、III−V族化合物半導体からなる基板と、基板の上に位置し、光を受光するための受光層と、受光層の上に位置し、該受光層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窓層と、少なくとも受光層に位置するpn接合とを備え、窓層の表面における二乗平均面粗さ(RMS:Root Mean Square)が10nm以上40nm以下であることを特徴とする。
【0008】
ここで、従来の受光素子におけるRMS値は、10nm未満が普通であり、たとえば7nm〜8nm程度が多い。本発明においては、このRMS値を10nm以上40nm以下の範囲にしなければならない。すなわち従来より粗いレベルにしなければならない。その詳しい理由については、このあと説明してゆくが、RMS値が10nm未満の場合、窓層においてp型化の傾向が強くなる。換言すれば窓層のアクセプタ濃度が増加する。このため、キャリア濃度制御を高精度で行うことが困難になり、安定して高感度かつ低暗電流の受光素子を製造することができなくなる。
なお、RMS値が10nm以上で増加したとき窓層のアクセプタ濃度が増加しないのは、窓層中のアクセプタ型の不純物元素や点欠陥の密度が増加しないためと考えられる。すなわちRMS値が10nm未満のときは窓層中のアクセプタ型の不純物元素や点欠陥の密度が増加し、アクセプタ濃度が増加する。また、多くの実験から、p型不純物の原料が、半導体内でアクセプタとして機能するような形態で窓層に取り込まれると、RMS値は10nm未満となり(すなわち滑らかになり)、キャリア濃度制御を高精度で遂行することが困難になる。また、RMS値が10nm以上になると、アクセプタ濃度は上昇しない。このため不純物制御を既定の方針に従って行うことで、高精度のキャリア濃度制御を達成することができる。上記のことが生じる上で、このあと説明するが、基板の方位について所定の条件があるとその傾向が助長される。
一方、RMS値が40nmを超えると、通常の場合において平坦性が劣化したときに知られるように、電極の配置などに支障をきたし、やはり高感度で低暗電流の受光素子を得ることができない。
RMS値が10nm以上40nm以下の場合、平坦性は通常の意味では、とても良好とはいえないが、電極やパッシベーション膜等の形成において、手に負えないほどの平坦性ではない。それほど困難なく、電極やパッシベーション膜を形成することができる。
本発明の独自性は、平坦性が良好または普通の場合(RMS値が10nm未満の場合)、高精度の不純物制御ができにくくなることを、明確にした点にある。上述のように平坦性が過度に不良な場合(RMS値が40nm超の場合)、高感度で低暗電流の受光素子が得られないことは周知である。
RMS値の測定は、何を用いてもよい。たとえば市販のAFM(原子間力顕微鏡:AFM:Atomic Force Microscopy)を用いて、そのRMS測定を指定してデータ(平均値)を得ることができる。この測定では、測定の範囲(縦横の長さ、面積など)はとくに限定せず、どのような範囲でもよいが、たとえば画素電極と選択拡散マスクパターンとの隙間の領域、または10μm角の領域、100μm角の領域などの測定範囲での平均的なRMSを求めるのがよい。
【0009】
本発明の受光素子は、窓層からの不純物の選択拡散によって形成されたpn接合を備えることができる。
これによって、周囲から独立した受光素子の単位を得ることができる。すなわち単一の受光素子の場合、周囲の縁の影響を小さくでき、また複数の受光素子が一次元または二次元的に配列される場合、隣の受光素子との間に独立性を確保することができる。
しかし、画素領域をp型とする場合、窓層のアクセプタ濃度が増加すると選択的に形成した画素領域以外の領域にもpn接合面積が拡大する。この結果、暗電流が増大する。画素領域に導入するp型不純物としては亜鉛(Zn)が用いられる場合が多い。また、感度についても悪影響を及ぼす。
一方、画素領域がn型の場合でも、p型不純物(アクセプタ不純物)が濃化するので、過大なドナー不純物を要するので、結晶性が劣化して、やはり暗電流が増大し、感度が低下する。以下では、画素領域がp型領域である場合を主体に説明を行う。
【0010】
本発明の受光素子は、基板において、該基板の主面である(001)面からのオフ角がマイナス0.05°以上プラス0.05°以下であるのがよい。
上記の(001)面にジャストな基板(以下、ジャスト基板と呼ぶ)を用いることで、上記のRMS値の範囲にしやすく、とくにRMS値10nm以上を得ることが容易になる。通常、III−V族化合物半導体の受光素子の製造においては、ジャスト基板ではなく、オフ基板((001)面から0.05〜0.1°オフ)を用いる。これは、オフ角の表面エネルギ等を考慮すると、熱力学的に、その上に他の層をエピタキシャル成長させやすいことに理由がある。本発明においては、エピタキシャル成長させやすいオフ基板を用いると、p型不純物の取り込みが行われ易く、p型不純物は半導体内でアクセプタとして機能する。エピタキシャル成長させにくいジャスト基板を用いることで、結果的に上記のRMS値の範囲の実現が助長される。
なお、(001)面からのオフ角が±0.05°の基板は、ジャスト基板にもまたオフ基板にも入るが、本発明におけるオフ角が±0.05°は中心値0°に対する誤差と判断することができる。通常、オフ基板と断った上でオフ角が±0.05°というとき、オフ角の中心値が±0.05°と解釈するのがよい。
【0011】
本発明の受光素子は、窓層が燐(P)を含むことができる。
窓層がPを含む化合物半導体であり、RMS値が上記の範囲内にない場合、窓層はp型化しやすい。Pを含む化合物半導体を窓層とする場合、そのPを含む材料自体、またはp型不純物を含む材料がエピタキシャル成長中の窓層に入りやすい。材料が窓層に入っても、RMS値が上記の範囲内(10nm以上40nm以下)である限り、半導体内におけるキャリア濃度(アクセプタ濃度)は意図した正常な範囲にある。したがって、上述のように、たとえば他の化合物半導体では代替できない多くの卓越した利点を有するInP窓層を成長した場合、本発明の作用を得ることで高い有用性を得ることができる。
【0012】
本発明の受光素子は、受光層が、アンチモン(Sb)を含むIII−V族化合物半導体層を備えることができる。
Sbは表面に引き寄せられやすく、表層においてアクセプタ型欠陥密度の増大など多くの悪影響を生じる。本発明におけるRMS値の範囲にすることで、アンチモン特有の悪影響を緩和することができる。換言すれば、本発明はアンチモンを受光層に含む場合に、非常に効果的にアンチモンの悪影響を緩和して高品質の受光素子をもたらすことができる。
【0013】
本発明の受光素子は、窓層が、不純物元素としてアンチモン(Sb)を含むことができる。
窓層が不純物としてSbを含み、RMS値が上記の範囲内にない場合、窓層はp型化しやすい。Sbは近赤外域の受光素子の受光層に多用される趨勢にある。このため、Sbを用いながら、RMS値を上記の範囲内に入れることで、キャリア濃度を精度良く制御した上で、高感度で低暗電流の近赤外域の受光素子を得ることができる。
【0014】
本発明の受光素子は、受光層が、InGa1−xAs(0.38≦x≦1.00)とGaAs1−ySb(0.36≦y≦1.00)とのペア、または、Ga1−uInAs1−v(0.4≦u≦1.0、0<v≦0.2)とGaAs1−wSb(0.36≦w≦1.00)とのペア、からなるようにできる。
受光層を上記の多重量子井戸構造(MQW:Multi-Quantum Well)によって形成することで、波長2μm〜10μmの近赤外域〜遠赤外域の光を、高感度でかつ低暗電流で受光することができる。上記のMQWではSbを含むので、上述のRMS値などの構成要件を備えることが重要である。
【0015】
本発明の受光素子は、基板を、GaAs、GaP、GaSb、InP、InAs、InSb、AlSbおよびAlAsのうちのいずれか1つとすることができる。
上記の中から選んで基板を用いることで、近赤外域〜遠赤外域のなかでも所定の波長域に適切な受光素子などを得る上で、選択肢が増える。
【0016】
本発明の受光素子は、受光層の基板と反対側の面に接して、III−V族化合物半導体からなる拡散濃度分布調整層を備えることができる。
これによって、受光層内の不純物濃度を低めに高精度で制御することが可能になり、その結果、結晶性に優れた受光層を得ることができる。
【0017】
本発明の受光素子は、受光層がInGa1−xAs(0.38≦x≦1.00)を含み、かつ拡散濃度分布調整層がInGa1−zAs(0.38≦z≦1.00)を含み、前記InGa1−xAsと前記InGa1−zAsの合計膜厚が、2.3μm以上であるようにするのがよい。
上記の合計膜厚を2.3μm以上とすることによって、良好な感度および低暗電流を得ることができる。
【0018】
本発明のエピタキシャルウエハは、III−V族化合物半導体からなる基板と、基板の上に位置し、光を受光するための受光層と、受光層の上に位置し、該受光層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窓層とを備え、窓層の表面における二乗平均面粗さ(RMS:Root Mean Square)が10nm以上40nm以下であることを特徴とする。
上述したようにRMSの値が10nm未満の場合、窓層においてp型化の傾向が強くなる。このため、不純物制御を高精度で行うことが困難になり、安定して高感度かつ低暗電流の受光素子を製造することができなくなる。RMSの値が40nm超では、通常の意味で平坦性が劣悪であり、正常な受光素子を製造することが困難になる。
【0019】
本発明のエピタキシャルウエハは、少なくとも受光層に位置するpn接合を備えることができる。
これによって、高精度に不純物を制御した受光素子を製造するためのエピタキシャルを提供することができる。
【0020】
本発明のエピタキシャルウエハは、窓層からの不純物の選択拡散によって形成されたpn接合を備えることができる。
これによって、プレーナ型受光素子を作製するための、高精度に不純物を制御されたエピタキシャルウエハを提供することができる。
【0021】
本発明のエピタキシャルウエハは、基板において、該基板の主面である(001)面からのオフ角をマイナス0.05°以上プラス0.05°以下とするのがよい。
上記のジャスト基板を用いることで、結果的に上記のRMS値の範囲の実現を助長し、アクセプタ濃度を精度良く制御することができる。
【0022】
本発明のエピタキシャルウエハは、窓層が燐(P)を含むことができる。
Pを含む化合物半導体を窓層とする場合、そのPを含む材料自体、またはp型不純物を含む材料がエピタキシャル成長中の窓層に入りやすい。しかしRMS値が上記の範囲内(10nm以上40nm以下)である限り、半導体内におけるキャリア濃度(アクセプタ濃度)は意図した正常な範囲にある。
【0023】
本発明のエピタキシャルウエハは、受光層が、アンチモン(Sb)を含むIII−V族化合物半導体層を備えることができる。
Sbは表層においてアクセプタ型欠陥密度の増大など多くの悪影響を生じる。本発明におけるRMS値の範囲にすることで、アンチモン特有の悪影響を緩和することができる。
【0024】
本発明のエピタキシャルウエハは、窓層が、不純物元素としてアンチモン(Sb)を含むことができる。
窓層が不純物としてSbを含み、RMS値が上記の範囲内にない場合、窓層はp型化しやすい。このため、Sbを用いながら、RMS値を上記の範囲内に入れることで、キャリア濃度を精度良く制御した上で、高感度で低暗電流の近赤外域の受光素子を得ることができる。
【0025】
本発明のエピタキシャルウエハは、受光層が、InGa1−xAs(0.38≦x≦1.00)とGaAs1−ySb(0.36≦y≦1.00)とのペア、または、Ga1−uInAs1−v(0.4≦u≦1.0、0<v≦0.2)とGaAs1−wSb(0.36≦w≦1.00)とのペア、からなるようにできる。
受光層を上記のMQWによって形成することで、波長2μm〜10μmの近赤外域〜遠赤外域の光を、高感度でかつ低暗電流で受光することができる。上記のMQWではSbを含むが、本発明のRMS値などの構成要件を備えることで高品質の受光素子をもたらす。
【0026】
本発明のエピタキシャルウエハは、基板が、GaAs、GaP、GaSb、InP、InAs、InSb、AlSbおよびAlAsのうちのいずれか1つとするのがよい。
上記の中から選んで基板を用いることで、近赤外域〜遠赤外域における選択肢が増える。
【0027】
本発明のエピタキシャルウエハは、受光層の基板と反対側の面に接して、III−V族化合物半導体からなる拡散濃度分布調整層を備えることができる。
これによって、受光層内の不純物濃度を低めに高精度で制御することが可能になり、その結果、結晶性に優れた受光層を得ることができる。
【0028】
本発明のエピタキシャルウエハは、受光層がInGa1−xAs(0.38≦x≦1.00)を含み、かつ拡散濃度分布調整層がInGa1−zAs(0.38≦z≦1.00)を含み、前記InGa1−xAsと前記InGa1−zAsの合計膜厚が、2.3μm以上であるようにするのがよい。
上記の合計膜厚を2.3μm以上とすることによって、良好な感度および低暗電流を得ることができる。
【0029】
本発明のエピタキシャルウエハの製造方法は、上記のエピタキシャルウエハにおける、少なくとも受光層および窓層を、全有機気相成長法で成長することを特徴とする。
ここで、全有機気相成長法は、気相成長に用いる原料のすべてに、有機物と金属との化合物で構成される有機金属原料を用いる成長方法のことをいう。全有機気相成長法によれば、結晶品質において高品質のエピタキシャルウエハを、高能率で、製造することができる。とくに窓層にPを含む化合物半導体を用いるエピタキシャルウエハでは、全有機気相成長法によらない場合、燐原料に起因する成長室内壁への燐化合物の付着が生じるので、メンテナンス(クリーニングまたは取り換え)を確実に行わないと発火等の問題を生じる。しかし、全有機気相成長法では、原料が気相の有機燐化合物なので、このような問題は生じにくい。
【0030】
本発明のエピタキシャルウエハの製造方法は、受光層上に接して拡散濃度分布調整層を成長し、該拡散濃度分布調整層の成長温度を、受光層の成長温度以下とするのがよい。
これによって、RMS値の範囲を10nm以上40nm以下にしやすくなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、キャリア濃度が精度良く制御されることで、高感度かつ低暗電流の、近赤外域〜遠赤外域の受光素子等を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態における受光素子を示す図である。
【図2】図1の受光素子の発明上の特徴(ポイント)を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるエピタキシャルウエハを示す図である。
【図4】製造方法を示すフローチャートである。
【図5】全有機気相成長法の成膜装置の配管系統等を示す図である。
【図6】(a)は有機金属分子の流れと温度の流れを示す図であり、(b)は基板表面における有機金属分子の模式図である。
【図7】図1に示す受光素子の製造方法の後半のフローチャートである。
【図8】本発明の受光素子の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の実施の形態1における受光素子10を示す断面図である。図1によれば、受光素子10は、InP基板1の上に次の構成のIII−V族化合物半導体積層構造を有する。
(InP基板1/InPバッファ層2/In0.59Ga0.41AsとGaAs0.57Sb0.43との多重量子井戸構造(MQW)による受光層3/InGaAs拡散濃度分布調整層4/InP窓層5)
上記の層のうち、少なくとも受光層3/InGaAs拡散濃度分布調整層4/InP窓層5からなるエピタキシャル積層体7は、全有機気相成長法で成長するのがよい。
InP窓層5から多重量子井戸構造の受光層3にまでp型領域6が位置している。このp型領域6は、SiN膜の選択拡散マスクパターン36の開口部から、p型不純物のZnが選択拡散されることで形成される。隣のp型領域6とは、選択拡散されていない領域によって隔てられており、これによって、各画素Pは、互いに独立に受光情報を出力することができる。
【0034】
p型領域6にはAuZnによるp側電極11が、またInP基板1に接して位置するバッファ層2の端において露出する表面にAuGeNiのn側電極12が、それぞれオーミック接触するように設けられている。バッファ層2にはn型不純物がドープされ、所定レベルの導電性を確保されている。この場合、InP基板1は、n型導電性であっても、また半絶縁性であってもよい。
光は、InP基板1の裏面から入射される。入射光の反射を防止するためにSiON等によるAR(Anti-reflection)膜35がInP基板1の裏面を被覆する。
【0035】
上記のp型領域6の境界フロントに対応する位置にpn接合15が形成され、上記のp側電極11およびn側電極12間に逆バイアス電圧を印加することにより、受光層3のn型不純物濃度が低い側(n型不純物バックグラウンド)により広く空乏層を生じる。多重量子井戸構造の受光層3におけるバックグラウンドは、n型不純物濃度(キャリア濃度)で1×1016cm−3程度またはそれ以下である。そして、pn接合の位置は、多重量子井戸の受光層3のバックグラウンド(n型キャリア濃度)と、p型不純物のZnの濃度プロファイルとの交点で決まる。
拡散濃度分布調整層4内では、InP窓層5の表面から選択拡散されたp型不純物の濃度が、InP窓層側における高濃度領域から受光層側にかけて急峻に低下している。このため、受光層3内では、Zn濃度は5×1016cm−3以下の不純物濃度を容易に実現することができる。
【0036】
本発明が対象とする受光素子10は、近赤外域からその長波長側に受光感度を有することを追求するので、窓層には、受光層3のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギの材料を用いるのが好ましい。このため、窓層には、通常、受光層よりもバンドギャップエネルギが大きく、格子整合の良い材料であるInPが用いられる。InPとほぼ同じバンドギャップエネルギを有するInAlAsを用いてもよい。
【0037】
(本実施の形態におけるポイント)
本実施の形態における特徴は、次の点にある。
(1)InP窓層1の表面におけるRMS値が、10nm以上40nm以下であること。図2は、図1における受光素子10のInP窓層5の表面を、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy)70によって測定する状況を示す模式図である。AFM70では、カンチレバーホルダー72に保持されたカンチレバー71の先端に探針73が取り付けられ、試料表面の凹凸に応じてカンチレバー71の傾きを鋭敏に変化させる。このカンチレバー71の傾きの変化をレーザ光75によって探知することで、試料表面の凹凸情報をナノオーダーで検知することができる。試料表面のInP窓層5の表面の凹凸が測定され、RMS値として算出され、装置に自動表示される。このRMS値は、本発明では、10nm以上40nm以下になければならない。
多くの実験から、p型不純物の原料が、半導体内でアクセプタとして機能するような形態で窓層に取り込まれると、RMS値は10nm未満となり(すなわち滑らかになり)、キャリア濃度を精度良く制御することが難しくなる。またRMS値が10nm以上になると、アクセプタ濃度は上昇しない。このため不純物制御を既定の方針に従って行うことで、高精度のキャリア濃度制御を達成することができる。一方、RMS値が40nmを超えると、通常の場合において平坦性が劣化したときに知られるように、電極の配置などに支障をきたし、やはり高感度で低暗電流の受光素子を得ることができない。
RMS値が10nm以上40nm以下の場合、平坦性は従来の受光素子では通常の範囲を逸脱しており、不良の部類にいれてもよい値である。しかしながら、電極やパッシベーション膜等の形成において、手に負えないほどの平坦性ではない。この程度のRMS値であれば、それほど困難なく、電極やパッシベーション膜を形成することができる。
本発明の独自性は、平坦性が良好または従来の場合(RMS値が10nm未満の場合)、高精度のキャリア濃度制御ができにくくなることを、明確にした点にある。上述のように平坦性が過度に不良な場合(RMS値が40nm超の場合)、高感度で低暗電流の受光素子が得られないことは周知である。
(2)ただし、上記(1)の現象を助長するには、基板の方位が重要である。従来から、III−V族化合物半導体の基板には、オフ基板を用いる。すなわち(001)面から0.05〜0.1°オフした面方位の基板を用いる。この理由は、オフ角の表面エネルギ、不可避的な表面欠陥等を考慮すると、熱力学的に、その上に他の層をエピタキシャル成長させやすいからである。
本実施の形態では、しかしながら、オフ基板ではなくジャスト基板を用いるのがよい。ジャスト基板を用いることで、10nm≦RMS値≦40nmを実現することが助長され、その結果、キャリア濃度を高い精度で制御することが容易になる。
本実施の形態においては、雰囲気からのp型不純物の取り込みが行われるとき、エピタキシャル成長しやすい条件(すなわちオフ基板)であると、上述のように材料中のp型不純物は半導体内でアクセプタとして機能する。エピタキシャル成長しにくいジャスト基板を用いることで、製造にともなう不利益要因を克服して、結果的に上記のRMS値の範囲をもたらす。
【0038】
次にジャスト基板を用いて図1に示す受光素子10を製造するとき用いるエピタキシャルウエハのRMS値について説明する。本実施の形態におけるInP窓層1の表面は平坦性が良好とは言い難く、RMS値の平均値は23.4nmであり、また段差(平均値)は90nmある。このように、RMS値が10nm以上のとき、p型不純物はアクセプタ濃度を増加させる形態でInP窓層1に侵入せず、高精度のキャリア濃度制御ができる。この結果、pn接合面積が拡大してリーク暗電流が増大するなどの問題を回避することができる。
これに対して、従来の受光素子を製造するときのエピタキシャルウエハは、本実施の形態における対応物の表面に比べて表面の平坦性が良好である。上述のRMS値は8.3nmであり、かつ段差は30nmである。明らかに従来のエピタキシャルウエハに比べて、本発明におけるエピタキシャルウエハは平坦性が良くないInP窓層1の表面を有する。
上記のRMS値測定の試験体はエピタキシャルウエハであり、その100μm×100μmの領域で測定した平均値である。受光素子の場合には、画素電極と選択拡散マスクパターンとの隙間のInP窓層5の表面を測定して平均値を出すのがよい。もしくは、たとえばp側電極11を湿式エッチングにより除去したあと、InP窓層5の表面を、たとえば10μm×10μmの領域で測定して平均値を出してもよい。
【0039】
図3は、本実施の形態におけるエピタキシャルウエハ1aを示す図である。エピタキシャルウエハ1aは、本発明においては、選択拡散マスクパターンが形成される前であって、InP窓層1を形成した後の状態であっても該当する。また、選択拡散マスクパターン36を形成した後、さらにその後Zn等の選択拡散を行った後であっても該当する。
本実施の形態のエピタキシャルウエハ1aでは、InP窓層5の表面におけるRMS値が10nm以上40nm以下でなければならない。このRMS値であることで、高精度のキャリア濃度制御を担保することができ、高感度で、かつ低暗電流の受光素子が製造できるエピタキシャルウエハを提供することができる。これは上述のようにジャスト基板を用いることで助長される。
図3に示すエピタキシャルウエハ1aは、直径2インチであり、(001)ジャスト基板である。
【0040】
つぎに製造方法を、図4に従って説明する。まずInP基板1を準備し、そのInP基板1上にn型InPバッファ層2を、たとえば膜厚150nm程度に、エピタキシャル成長させる。n型のドーピングには、TeESi(テトラエチルシラン)を用いるのがよい。このときの原料ガスには、TMIn(トリメチルインジウム)およびTBP(ターシャリーブチルホスフィン)を用いる。このInPバッファ層2の成長には、無機原料のPH(ホスフィン)を用いて行っても良い。このInPバッファ層2の成長では、成長温度を600℃程度あるいは600℃程度以下で行っても、下層に位置するInP基板の結晶性は600℃程度の加熱で劣化することはない。
【0041】
バッファ層2より上の各層の成長は、成長温度を低くでき、成長能率が高い全有機気相成長法によって行う。もちろん、InPバッファ層2を全有機気相成長法によって成長してもよく、そのほうが普通である。少なくとも、タイプ2の(InGaAs/GaAsSb)MQW3、InGaAs拡散濃度分布調整層4およびInP窓層5を、全有機気相成長法によって一貫して同じ成膜室で成長する。このとき、成長温度または基板温度は、温度400℃以上かつ600℃以下の範囲に厳格に維持する必要がある。温度400℃以上かつ550℃以下がさらに望ましい。その理由として、この温度範囲より高い成長温度にすると、GaAsSbが熱のダメージを受けて相分離を生じ、粗大な凸状表面欠陥の密度が増大するからである。このような粗大な凸状表面欠陥が高密度で発生すると、製造歩留まりを著しく低下する。
400℃未満の成長温度とすると、凸状表面欠陥の密度は減少するか、またはゼロになるが、全有機気相成長の原料ガスが十分に分解せず、炭素がエピタキシャル層に取り込まれる。原料ガスにおいて金属と結合している炭化水素の炭素である。炭素がエピタキシャル層に混入すると、意図しないp型領域が形成され、半導体素子にまで仕上げた状態で、性能劣化を生じる。たとえば受光素子の状態で、暗電流が多く、実用レベルの製品にならない。なお、炭素の取り込みに起因するp型領域の拡大は、これまで度々説明してきた、RMS値と関係するキャリア濃度の変動とは別の現象である。
ここまでエピタキシャルウエハの製造方法を、図4に基づいて概括的に説明した。このあと各層の成長法について詳細に説明する。
【0042】
図5に全有機気相成長法の成膜装置60の配管系統等を示す。反応室(チャンバ)63内に石英管65が配置され、その石英管65に、原料ガスが導入される。石英管65中には、基板テーブル66が、回転自在に、かつ気密性を保つように配置される。基板テーブル66には、基板加熱用のヒータ66hが設けられる。成膜途中のエピタキシャルウエハ1aの表面の温度は、反応室63の天井部に設けられたウィンドウ69を通して、赤外線温度モニタ装置61によりモニタされる。このモニタされる温度が、成長するときの温度、または成膜温度もしくは基板温度等と呼ばれる温度である。本発明における製造方法における、温度400℃以上かつ550℃以下でMQWを形成する、というときの400℃以上および550℃以下は、この温度モニタで計測される温度である。石英管65からの強制排気は真空ポンプによって行われる。
原料ガスは、石英管65に連通する配管によって、供給される。全有機気相成長法は、原料ガスをすべて有機金属気体の形態で供給する点に特徴がある。すなわち原料ガスは、各種の炭化水素と結合した金属の形態をとる。図5では、導電型を決める不純物等の原料ガスは明記していないが、不純物も有機金属気体の形態で導入される。有機金属気体の原料ガスは、恒温槽に入れられて一定温度に保持される。搬送ガスには、水素(H)および窒素(N)が用いられる。有機金属気体は、搬送ガスによって搬送され、また真空ポンプで吸引されて石英管65に導入される。搬送ガスの量は、MFC(Mass Flow Controller:流量制御器)によって精度よく調節される。多数の、流量制御器、電磁弁等は、マイクロコンピュータによって自動制御される。
【0043】
バッファ層2の成長のあと、InGaAs/GaAsSbを量子井戸のペアとするタイプ2のMQWの受光層3を形成する。量子井戸におけるGaAsSbは、膜厚はたとえば5nm、またInGaAsの膜厚もたとえば5nmとする。GaAsSbの成膜では、TEGa(トリエチルガリウム)、TBAs(ターシャリーブチルアルシン)およびTMSb(トリメチルアンチモン)を用いる。また、InGaAsについては、TEGa、TMIn、およびTBAsを用いることができる。これらの原料ガスは、すべて有機金属気体であり、化合物の分子量は大きい。このため、400℃以上かつ550℃以下の比較的低温で完全に分解して、結晶成長に寄与することができる。MQWの受光層3を全有機気相成長法によって、量子井戸の界面の組成変化を急峻にするすることができる。この結果、高精度の分光測光をすることができる。
【0044】
Ga(ガリウム)の原料としては、TEGa(トリエチルガリウム)でもよいし、TMGa(トリメチルガリウム)でもよい。In(インジウム)の原料としては、TMIn(トリメチルインジウム)でもよいし、TEIn(トリエチルインジウム)でもよい。As(砒素)の原料としては、TBAs(ターシャリーブチルアルシン)でもよいし、TMAs(トリメチル砒素)でもよい。
Sb(アンチモン)の原料としては、TMSb(トリメチルアンチモン)でもよいし、TESb(トリエチルアンチモン)でもよい。また、TIPSb(トリイソプロピルアンチモン)、また、TDMASb(トリスジメチルアミノアンチモン)でもよい。
【0045】
原料ガスは、配管を搬送されて、石英管65に導入されて排気される。原料ガスは、何種類でも配管を増やして石英管65に練通させることができる。たとえば十数種類の原料ガスであっても、電磁バルブの開閉によって制御される。
原料ガスは、流量の制御は、図5に示す流量制御器(MFC)によって制御された上で、石英管65への流入をエア駆動バルブの開閉によってオンオフされる。そして、石英管65からは、真空ポンプによって強制的に排気される。原料ガスの流れに停滞が生じる部分はなく、円滑に自動的に行われる。よって、量子井戸のペアを形成するときの組成の切り替えは、迅速に行われる。
【0046】
図6(a)は有機金属分子の流れと温度の流れを示す図であり、図6(b)は基板表面における有機金属分子の模式図である。エピタキシャルウエハ1aの表面はモニタされる温度とされている。図6(b)に示すような、大サイズの有機金属分子がウエハ表面をかすめて流れるとき、分解して結晶成長に寄与する化合物分子は表面に接触する範囲、および表面から数個分の有機金属分子の膜厚範囲、のものに限られると考えられる。
しかし、エピタキシャルウエハ表面温度または基板温度が、400℃未満のような過度に低い場合、原料ガスの巨大な分子、とくに炭素が十分に分解・除去されないで、エピタキシャルウエハ1aに取り込まれる。III−V族半導体中に混入した炭素はp型不純物となり、意図しない半導体素子を形成することになる。このため、半導体の本来の機能を低下させ、半導体素子に製造された状態で性能劣化をもたらす。
【0047】
真空ポンプで強制排気しながら上記ペアの化学組成に適合した原料ガスをエア駆動バルブで切り替えて導入するとき、わずかの慣性をもって先の化学組成の結晶を成長させたあとは、先の原料ガスの影響を受けず、切り替えられた化学組成の結晶を成長させることができる。その結果、ヘテロ界面での組成変化を急峻にすることができる。これは、先の原料ガスが、石英管65内に実質的に残留しないことを意味している。
MQW3を形成する場合、550℃を超える温度範囲で成長するとMQWのGaAsSb層に相分離が大規模で起こり、上述の凸状表面欠陥Kの密度増加を助長させる。しかし一方で、上記のように、400℃未満の成長温度とすると、凸状表面欠陥の密度は低くできるか、またはゼロにできるかもしれないが、原料ガスに必然的に含まれる炭素がエピタキシャルウエハ内に取り込まれる。混入した炭素はp型不純物として機能するので、半導体素子に仕上げた状態で、製品にならないほどの性能劣化の原因になる。
【0048】
図4に示すようにMQWの形成からInP窓層5の形成まで、全有機気相成長法によって同じ成膜室または石英管65の中で成長を続けることが、もう一つのポイントになる。すなわち、InP窓層5の形成の前に、成膜室からエピタキシャルウエハ1aを取り出して、別の成膜法によってInP窓層5を形成することがないために、再成長界面を持たない。InGaAs拡散濃度分布調整層4とInP窓層5とは、石英管65内において連続して形成されるので、界面16,17は再成長界面ではない。再成長界面では、酸素濃度1e17cm−3以上、炭素濃度1e17cm−3以上、のうちの少なくとも1つが満たされ、結晶性は劣化し、エピタキシャル積層体の表面は平滑になりにくい。本発明では、酸素、および炭素の濃度がいずれも1e17cm−3未満である。
【0049】
本実施の形態では、MQWの受光層3の上に、たとえば膜厚0.3μm程度のノンドープInGaAs拡散濃度分布調整層4を形成する。このInGaAs拡散濃度分布調整層4は、受光素子の形成の際、高濃度のZnがMQWに進入すると、結晶性を害するので、その調整のために設ける。p型不純物のZnは、InP窓層5を形成したあと、選択拡散法によってInP窓層5からMQWの受光層3に届くように選択拡散される。このInGaAs拡散濃度分布調整層4は、上記のように配置してもよいが、なくてもよい。
InGaAs拡散濃度分布調整層4を挿入した場合であっても、InGaAsはバンドギャップが小さいのでノンドープであっても受光素子の電気抵抗を低くすることができる。電気抵抗を低くすることで、応答性を高めて良好な素子特性を得ることができる。
InGaAs拡散濃度分布調整層4の上に、同じ石英管65内にエピタキシャルウエハ1aを配置したまま連続して、アンドープのInP窓層5を、全有機気相成長法によってたとえば膜厚0.8μm程度にエピタキシャル成長するのがよい。原料ガスには、上述のように、トリメチルインジウム(TMIn)およびターシャリーブチルホスフィン(TBP)を用いる。この原料ガスの使用によって、InP窓層5の成長温度を400℃以上かつ550℃以下にすることができる。この結果、InP窓層5の下に位置するMQWのGaAsSbは、熱のダメージを受けないか、または比較的小さい熱のダメージのみを受ける。このため、凸状表面欠陥Kの密度を実用上許容できるレベルに低下させ、また炭素濃度を低くすることができる。
【0050】
たとえばMBE法によってInP窓層を成長するには、燐原料に固体の原料を用いる必要があり、安全性などの点で問題があった。また製造能率という点でも改良の余地があった。MQW3の成長に適したMBE法によって当該MQW3およびInGaAs拡散濃度分布調整層4を成長した後、安全性の問題からInP窓層5をMBE法以外の方法によって成長する場合、InGaAs拡散濃度分布調整層4とInP窓層5との界面17は、いったん大気に露出された再成長界面となる。再成長界面は、二次イオン質量分析によって、酸素濃度が1e17cm−3以上、および炭素濃度が1e17cm−3以上、の少なくとも一つを満たすことによって特定することができる。再成長界面は、p型領域と交差線を形成し、交差線で電荷リークを生じて、素子特性を著しく劣化させる。
また、たとえばInP窓層を単なるMOVPE法によって成長すると、燐の原料にホスフィン(PH)を用いるため、分解温度が高く、下層に位置するGaAsSbの熱によるダメージの発生を誘起するおそれが高い。
【0051】
ここまで図1に示す受光素子の各層のエピタキシャル成長について詳細に説明した。このあと、Zn等のp型不純物の選択拡散工程および電極11,12の形成工程について説明する。図7は、図1に示す受光素子10の製造方法を示すフローチャートである。工程S1〜S3は、上述のとおりである。とくにInGaAs拡散濃度分布調整層4の成長温度は、400℃以上という条件の下、受光層3の成長温度以下とするのがよい。RMS値を10nm以上40nm以下に入れやすくなるからである。次いで工程S4〜S5によって、Znの選択拡散による画素Pの形成、および電極の形成を行う。
InP窓層5からInGaAs層4を経て受光層3内にわたって位置するp型領域6は、SiN膜の選択拡散マスクパターン36の開口部から、p型不純物のZnを選択拡散することで形成する。p型領域6は、選択拡散されていない領域で隔てられており、画素Pの主要部となる。選択拡散マスクパターン36の開口部の間隔を調整することで、p型領域6を隣の画素または側面から所定距離隔てられる。
p型領域6にはAuZnによるp側電極11を、またInPバッファ層の端の露出している上面にAuGeNiのn側電極12を、それぞれオーミック接触するように設ける。InP基板1はn導電型でも、または半絶縁性であってもよい。ただし、InP基板1の裏面にn側電極12を設ける構造であってもよく、この場合はInP基板1はn導電型でなければならない。
【0052】
図1には、複数の画素Pが配列された受光素子を示した。図8は、単一の画素を含む受光素子10を示す図であり、このような受光素子も当然、本発明に該当する。このあと説明する実施例では、図8示す受光素子10によって、暗電流などを評価した。
【実施例】
【0053】
RMS値が10nm以上40nm以下という要件を満たすものを本発明例の試験体とし、また、RMS値が10nm未満の試験体を比較例として、受光素子を作製して暗電流および波長2μmにおける受光感度を測定した。
各試験体の条件((1)基板、(2)InGaAs拡散濃度分布調整層の成長温度、(3)InGaAs合計膜厚、(4)RMS値
<本発明例A1>:(1)ジャスト基板(0°)、(2)500℃、(3)2.3μm、(4)23.4nm
<本発明例A2>:(1)ジャスト基板(0.05°)、(2)500℃、(3)2.3μm、(4)12.0nm
<本発明例A3>:(1)ジャスト基板(−0.05°)、(2)500℃、(3)2.3μm、(4)10.5nm
<本発明例A4>:(1)ジャスト基板(0°)、(2)480℃、(3)2.3μm、(4)29.5nm
<本発明例A5>:(1)ジャスト基板(0°)、(2)460℃、(3)2.3μm、(4)38.5nm
<本発明例A6>:(1)ジャスト基板(0°)、(2)500℃、(3)2.1μm、(4)12.0nm
本発明例A1〜A6におけるRMS値は、10.5nm〜38.5nmの範囲にある。一方、比較例B1〜B4においてはRMS値は7.5nm〜9.5nmと従来の受光素子と同じレベルにある。
<比較例B1>:(1)オフ基板(0.07°)、(2)500℃、(3)2.3μm、(4)8.3nm
<比較例B2>:(1)オフ基板(−0.07°)、(2)500℃、(3)2.3μm、(4)7.5nm
<比較例B3>:(1)ジャスト基板(0°)、(2)520℃、(3)2.3μm、(4)9.5nm
<比較例B4>:(1)オフ基板(0.07°)、(2)500℃、(3)2.1、(4)8.0
上記の要件を有するエピタキシャルウエハから図8に示す受光素子を作製して、暗電流(213K、−1.2V)および波長2μmにおける感度を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1によれば、本発明例A4では、RMS値が29.5nmであり、暗電流は1pAと最良であり、感度も良好であった。暗電流が、その次に良かったのは、本発明例A1の3pAであった(RMS値23.4nm)。その他の本発明例A2(RMS値12.0nm)、A3(RMS値10.5nm)、A5(RMS値38.5nm)、A6(RMS値12.0nm)は、暗電流5pAと同一であった。これより、最も低い暗電流は、RMS値が20nm〜30nmの範囲内で実現される。また、受光感度についても、InGaAs合計膜厚が2.1μmと低い本発明例A6を除いて良好であった。本発明例A6についても、感度はそれほど低くない。
これに対して、従来の受光素子のように10nm未満のRMS値を有する比較例B1〜B3の場合、暗電流は1000pA〜3000pAであり、非常に悪い。感度についても、測定不能なほど良くない。また、比較例B4については、比較例B1〜B3よりは好ましい結果であるが、本発明例A1〜A6に比べると、その特性(暗電流および感度)が不良であることは明白である。
【0056】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、キャリア濃度を高精度に制御することができ、近赤外〜遠赤外域に高い受光感度を持ち、かつ低暗電流を実現する受光素子を得ることができる。この受光素子は窓層表面の平坦性はそれほど良好ではないが、以後の製造工程に支障をきたすほどではなく、高い経済性のもと供給することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 InP基板、1a エピタキシャルウエハ、2 InPバッファ層、3 MQW受光層、4 InGaAs層(拡散濃度分布調整層)、5 InP窓層、6 p型領域、7 全有機気相成長法で成膜するエピタキシャル層、10 受光素子、11 p側電極(画素電極)、12 グランド電極(n側電極)、16 MQWとInGaAs層との界面、17 InGaAs層とInP窓層との界面、35 AR(反射防止)膜、36 選択拡散マスクパターン、60 全有機金属気相成長法の成膜装置、61 赤外線温度モニタ装置、63 反応室、65 石英管、66 基板テーブル、66h ヒータ、69 反応室の窓、70 原子間力顕微鏡(AFM)、71 カンチレバ、72 カンシレバホルダ、73 探針、75 レーザ光。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族化合物半導体からなる基板と、
前記基板の上に位置し、光を受光するための受光層と、
前記受光層の上に位置し、該受光層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窓層と、
少なくとも前記受光層に位置するpn接合とを備え、
前記窓層の表面における二乗平均面粗さ(RMS:Root Mean Square)が10nm以上40nm以下であることを特徴とする、受光素子。
【請求項2】
前記窓層からの不純物の選択拡散によって形成されたpn接合を備えることを特徴とする、請求項1に記載の受光素子。
【請求項3】
前記基板において、該基板の主面である(001)面からのオフ角がマイナス0.05°以上プラス0.05°以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の受光素子。
【請求項4】
前記窓層が燐(P)を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の受光素子。
【請求項5】
前記受光層が、アンチモン(Sb)を含むIII−V族化合物半導体層を備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の受光素子。
【請求項6】
前記窓層が、不純物元素としてアンチモン(Sb)を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の受光素子。
【請求項7】
前記受光層が、InGa1−xAs(0.38≦x≦1.00)とGaAs1−ySb(0.36≦y≦1.00)とのペア、または、Ga1−uInAs1−v(0.4≦u≦1.0、0<v≦0.2)とGaAs1−wSb(0.36≦w≦1.00)とのペア、からなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の受光素子。
【請求項8】
前記基板が、GaAs、GaP、GaSb、InP、InAs、InSb、AlSbおよびAlAsのうちのいずれか1つであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の受光素子。
【請求項9】
前記受光層の前記基板と反対側の面に接して、III−V族化合物半導体からなる拡散濃度分布調整層を備えることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の受光素子。
【請求項10】
前記受光層がInGa1−xAs(0.38≦x≦1.00)を含み、かつ前記拡散濃度分布調整層がInGa1−zAs(0.38≦z≦1.00)を含み、前記InGa1−xAsと前記InGa1−zAsの合計膜厚が、2.3μm以上であることを特徴とする、請求項9に記載の受光素子。
【請求項11】
III−V族化合物半導体からなる基板と、
前記基板の上に位置し、光を受光するための受光層と、
前記受光層の上に位置し、該受光層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを有する窓層とを備え、
前記窓層の表面における二乗平均面粗さ(RMS:Root Mean Square)が10nm以上40nm以下であることを特徴とする、エピタキシャルウエハ。
【請求項12】
少なくとも前記受光層に位置するpn接合とを備えることを特徴とする、請求項11に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項13】
前記窓層からの不純物の選択拡散によって形成されたpn接合を備えることを特徴とする、請求項11または12に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項14】
前記基板において、該基板の主面である(001)面からのオフ角が−0.05°以上+0.05°以下であることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項15】
前記窓層が燐(P)を含むことを特徴とする、請求項11〜14のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項16】
前記受光層が、アンチモン(Sb)を含むIII−V族化合物半導体層を備えることを特徴とする、請求項11〜15のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項17】
前記窓層が、不純物元素としてアンチモン(Sb)を含むことを特徴とする、請求項11〜16のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項18】
前記受光層が、InGa1−xAs(0.38≦x≦1.00)とGaAs1−ySb(0.36≦y≦1.00)とのペア、または、Ga1−uInAs1−v(0.4≦u≦1.0、0<v≦0.2)とGaAs1−wSb(0.36≦w≦1.00)とのペア、からなることを特徴とする、請求項11〜17のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項19】
前記基板が、GaAs、GaP、GaSb、InP、InAs、InSb、AlSbおよびAlAsのうちのいずれか1つであることを特徴とする、請求項11〜18のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項20】
前記受光層の前記基板と反対側の面に接して、III−V族化合物半導体からなる拡散濃度分布調整層を備えることを特徴とする、請求項11〜19のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項21】
前記受光層がInGa1−xAs(0.38≦x≦1.00)を含み、かつ前記拡散濃度分布調整層がInGa1−zAs(0.38≦z≦1.00)を含み、前記InGa1−xAsと前記InGa1−zAsの合計膜厚が、2.3μm以上であることを特徴とする、請求項20に記載のエピタキシャルウエハ。
【請求項22】
請求項11〜21のいずれか1項に記載のエピタキシャルウエハにおける、少なくとも前記受光層および窓層を、全有機気相成長法で成長することを特徴とする、エピタキシャルウエハの製造方法。
【請求項23】
前記受光層上に接して拡散濃度分布調整層を成長し、該拡散濃度分布調整層の成長温度を、前記受光層の成長温度以下とすることを特徴とする、請求項22に記載のエピタキシャルウエハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−98385(P2013−98385A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240396(P2011−240396)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】