説明

口腔粘膜投与剤

【課題】 口腔乾燥性疾患の予防及び/又は治療のための医薬であって、優れた唾液分泌促進効果を速やかに発揮することができ、かつ、消化器官の副作用を軽減ないし回避した医薬を提供する。
【解決手段】 例えば口腔乾燥性疾患の予防及び/又は治療のために用いられる医薬であって、下記の一般式(I)
【化1】


(式中、R1及びR2は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、モノアリール置換若しくはジアリール置換メチロール基、又はアリール置換アルキル基である)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体又はその酸付加塩を有効成分として含む口腔粘膜投与形態の医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体またはその酸付加塩を有効成分として含む口腔粘膜投与剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、口腔乾燥性疾患に対する口腔粘膜投与剤としては、人工唾液のような唾液の代替として用いる保湿剤や、クエン酸やビタミンCのような酸による刺激を利用して唾液の分泌を促す飴状物質やガムが用いられている。しかしながら、これらの薬剤はいずれも十分な効果を達成できる薬剤ではなく、口腔乾燥性疾患に対して有効性に優れた薬剤の開発が望まれている。
【0003】
近年、シェーグレン症候群の口腔乾燥性疾患に対する治療剤として、2−メチルスピロ(1, 3−オキサチオラン−5, 3')キヌクリジン塩酸付加塩の水和物(「塩酸セビメリン水和物」と呼ぶ場合がある)の経口製剤が用いられるようになり、その唾液分泌促進効果が明らかとなっている(特開昭61−280497号公報、特開平6−24981号公報)。しかしながら、塩酸セビメリン水和物の経口製剤は、消化器系の副作用として嘔気、腹痛、嘔吐等の症状を伴う場合がある。これらの副作用は、塩酸セビメリン水和物を経口投与した場合の吸収部位である胃や小腸等の組織中に有効成分が高濃度に分布することにより引き起こされるものと推測されるが、副作用発現メカニズムは定かではない。塩酸セビメリン水和物を用いた製剤において上記の副作用を回避することができれば、口腔乾燥性疾患に対する治療剤として高い有用性が期待できるが、従来、このような製剤は提供されていない。
【特許文献1】特開昭61−280497号公報
【特許文献2】特開平6−24981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、口腔乾燥性疾患の予防及び/又は治療のための医薬を提供することにある。より具体的には、口腔乾燥性疾患の予防及び/又は治療のための医薬であって、優れた唾液分泌促進効果を速やかに発揮することができ、かつ、消化器官の副作用を軽減ないし回避した医薬を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、次の一般式(I)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体またはその酸付加塩を有効成分として含む口腔粘膜投与形態の医薬を提供することにより、上記の課題を解決できることを見出した。より具体的には、上記有効成分を含む口腔粘膜投与形態の医薬が優れた吸収性および唾液腺への移行性を有しており、消化器官の副作用を引き起こさずに優れた唾液分泌促進作用を発揮できることを見出した。また、本発明者らは、上記の医薬において特定のpH条件や親水性溶剤を用いることにより、さらに優れた口腔粘膜吸収性を有する医薬を提供できること、及び口腔粘膜付着型貼付剤においてより高い予防及び/又は治療効果を発揮できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成された。
【0006】
すなわち、本発明により、下記の一般式(I)
【化1】

(式中、R1及びR2は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、モノアリール置換若しくはジアリール置換メチロール基、又はアリール置換アルキル基である)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体又はその酸付加塩を有効成分として含む口腔粘膜投与形態の医薬が提供される。この医薬は、口腔乾燥性疾患の予防及び/又は治療のための医薬として用いられる。
【0007】
上記の発明の好ましい態様によれば、スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体が2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5, 3'キヌクリジン)である上記の医薬;スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体がシス・2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3'キヌクリジン)である上記の医薬;有効成分が2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5, 3'キヌクリジン)塩酸塩又はその水和物である上記の医薬;有効成分がシス・2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5, 3'キヌクリジン)塩酸塩又はその水和物である上記の医薬;及び有効成分がシス・2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5, 3'キヌクリジン)一塩酸塩・1/2水和物である上記の医薬が提供される。
【0008】
さらに本発明の好ましい態様によれば、水に可溶性ないし膨潤性の高分子、及び/又は親水性溶剤を含有する医薬組成物の形態の上記の医薬;水に可溶性ないし膨潤性の高分子が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、カラヤガム、アラビアゴム、トラガントガム、グアーガム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はその金属塩、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸の塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、プルラン、並びに低級アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体及びその誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の高分子である上記の医薬;水に可溶性ないし膨潤性の高分子が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高分子である上記の医薬;親水性溶剤が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、及びポリソルベート80からなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶剤である上記の医薬;親水性溶剤がモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、及びトリイソプロパノールアミンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶剤である上記の医薬が提供される。
【0009】
さらに好ましい態様によれば、医薬組成物のpHが6.5〜9の範囲である上記の医薬;貼付剤、舌下剤、バッカル剤、液剤、含嗽剤、噴霧剤、エアゾール剤、軟膏剤、ゼリー剤、又はフィルム状の医薬組成物の形態である上記の医薬;(1)水不溶性の支持体層、及び(2)上記支持体層に積層された粘膜付着性の粘着層を含む口腔粘膜貼付剤の形態の上記医薬;水不溶性の支持体層がエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、酢酸フタル酸セルロース、セラック、ポリイソブチレン、及びポリイソプレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の物質を含有し、かつ粘膜付着性の粘着層が口腔内の水分により粘着性を生じる水に可溶性ないし膨潤性の高分子と親水性溶剤とを含有する上記の医薬が提供される。
【0010】
別の観点からは、本発明により、上記の口腔粘膜投与形態の医薬の製造のための上記一般式(I)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体又はその酸付加塩の使用;並びに口腔乾燥性疾患の予防及び/又は治療方法であって、上記一般式(I)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体又はその酸付加塩を含む医薬組成物を口腔粘膜に投与する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の医薬は、有効成分であるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体又はその酸付加塩を口腔粘膜から極めて速やかに唾液腺内に移行させることができ、投与直後から優れた唾液分泌促進効果を発揮することができる。また、本発明の医薬では口腔粘膜からの有効成分の吸収を達成することにより、消化管への有効成分の分布を顕著に減少させことができ、従来の経口剤で問題となっていた消化器の副作用の発現を軽減ないし排除できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
上記一般式(I)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体またはその酸付加塩は公知物質であり、特開昭61-280497 号公報に開示された方法に従って当業者が容易に入手可能である。一般式(I)において、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、アミル基、又はヘキシル基等の炭素数1〜6の低級アルキルを挙げることができる。アリール基としては、置換又は無置換の単環性又は多環性のアリール基を用いることができる。例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、又はジフェニル基などを挙げることができる。モノアリール置換若しくはジアリール置換メチロール基は、ヒドロキシメチル基上に1又は2個の同一又は異なるアリール基を有する基のことであり、アリール基としては上記のアリール基を用いることができる。アリール置換アルキル基としては、アルキル基上に1又は2個以上の同一又は異なるアリール基を有する基を用いることができ、アルキル基及びアリール基としては上記のものを用いることができる。アリール置換アルキル基としては、例えば、ベンジル基又はジフェニルメチル基等を挙げることができる。
【0013】
スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体としては、例えば、2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3’キヌクリジン)、2−ジフェニルメチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3’キヌクリジン)、又は2−メチル−2−フェニルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3’キヌクリジン)などが好ましく、これらのシス体がより好ましい。これらのうち2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5、3’キヌクリジン)が特に好ましい。
【0014】
スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体としては、純粋な形態の任意の幾何異性体、鏡像異性体、若しくはジアステレオマー、それらの任意の混合物、又はラセミ体などを用いてもよい。幾何異性体に関しては、スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体のシス体を用いることが好ましい。2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5、3’キヌクリジン)のシス体は特に好ましい有効成分である。純粋な形態のシス体を本発明の医薬の有効成分として用いる場合のほか、シス体及びトランス体の混合物であって、シス体をより多く含む混合物を本発明の医薬の有効成分として用いることもできる。
【0015】
スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体の酸付加塩としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸、乳酸、酒石酸、コハク酸、又はマレイン酸等の無機酸又は有機酸との酸付加塩を例示することができる。酸付加塩としては、例えば、2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3’)キヌクリジン塩酸付加塩が好ましいが、本発明の医薬の有効成分はこの特定の酸付加塩に限定されることはない。スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体又はその酸付加塩の任意の水和物又は溶媒和物を本発明の医薬の有効成分として用いてもよい。最も好ましい有効成分は、(±)−シス−2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3’)キヌクリジン・一塩酸塩・1/2水和物(一般名「塩酸セビメリン水和物」)であり、この有効成分はすでに市販されている「エボザックカプセル30mg」(経口投与用口腔乾燥症状改善薬、第一製薬株式会社製造及び販売)の有効成分である。
【0016】
本発明の医薬の形態は、口腔粘膜の投与に適する形態であれば特に限定されないが、例えば、貼付剤、噴霧剤、含嗽剤、バッカル剤、舌下剤、液剤、軟膏剤、ゼリー剤、エアゾール剤又はフィルム状の医薬組成物などの形態であることが好ましい。貼付剤、含嗽剤、噴霧剤又はフィルム状の医薬組成物の形態であることがより好ましい。本発明の医薬の性状は特に限定されず、固体、半固形、液体、またはゲル状などの任意の性状であってもよい。
【0017】
本発明の医薬は、有効成分を口腔粘膜から唾液腺に直接送達することができる。唾液腺は口腔粘膜に非常に近い位置に存在するため、本発明の医薬を用いて口腔粘膜投与を行うことにより、従来の経口投与による医薬よりも効率的かつ直接的な唾液分泌促進効果を達成することができる。ヒトの唾液腺は大きく2つに分類されており、口腔粘膜から遠い位置にあり、口腔粘膜表面の開口から長い導管で連結されている大唾液腺(耳下腺、顎下腺及び舌下腺)と、口唇、舌、口蓋及び頬などの口腔粘膜表面近傍に広範囲に存在する小唾液腺が存在する。通常、唾液の多くは大唾液腺から分泌されていると言われており、小唾液腺から分泌される唾液量は少ないとされている。小唾液腺に関する研究は未だ十分に進んでおらず、正確な唾液量の測定を行うための確立された方法がないことから、小唾液腺については未解明な部分が多いが、口腔粘膜の乾燥感は小唾液腺機能と関係する可能性が高く、小唾液腺から分泌される唾液が口腔粘膜保湿効果の面から重要であると考えられている。
【0018】
本発明の医薬は、特に口腔粘膜近傍に位置する小唾液腺に対して有効成分を直接送達できることから、口腔粘膜の乾燥感に対する有効な予防及び/又は治療を達成できる。口腔粘膜近傍に位置する小唾液腺に対しては、口腔粘膜内での有効成分の拡散距離が非常に短くてすむことから、投与直後から高い薬物濃度を達成することができ、かつ少量の有効成分で高い薬効を期待することができる。また、有効成分の一部は短い導管を伝って直接小唾液腺に到達することも期待できる。小唾液腺は口腔内に広範囲に分布していることから、小唾液腺を標的部位とする医薬では、広範囲の口腔粘膜に適用できる噴霧剤、含嗽剤、バッカル剤、液剤又はエアゾール剤が好ましい。噴霧剤は溶液状の組成物を空気圧などで噴出させる形態であり、エアゾール剤は液化ガス又は圧縮ガスなどの噴出剤を用いて溶液状又は粉体状の組成物を噴出させる形態である。これらの手段により、粉体を直接口腔粘膜に噴出させてもよく、あるいは溶液又は懸濁液の形態の水性組成物を口腔粘膜に噴出させてもよい。
【0019】
本発明の医薬は、水に可溶性ないし膨潤性を有する高分子及び/又は親水性溶剤を含有する医薬組成物として調製されることが好ましい。水に可溶性ないし膨潤性を有する高分子とは、水に可溶であるか、又は均一に分散可能な高分子であって、溶解又は分散の際に吸水により膨潤することもある高分子のことである。この高分子は、口腔粘膜への接着性を有し、本発明の医薬の有効成分が口腔粘膜内へ吸収される際に、口腔粘膜表面において該有効成分を供給する役割を担う物質である。
【0020】
水に可溶性ないし膨潤性を有する高分子の種類は特に限定されないが、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、カラヤガム、アラビアゴム、トラガントガム、グアーガム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はその金属塩、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸の塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、プルラン、並びに低級アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体及びその誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の高分子を用いることができ、好ましくは、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる群から選ばれる1種または2種以上の高分子を用いることができる。
【0021】
親水性溶剤としては水と混じりあう有機溶媒を用いることができ、この親水性溶剤は有効成分の口腔粘膜吸収性を促進させ、及び/又は有効成分の溶解剤として用いられる。親水性溶剤の種類は特に限定されないが、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、及びポリソルベート80からなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶剤を用いることができ、好ましくは、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、及びトリイソプロパノールアミンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶剤を用いることができる。より好ましくはトリエタノールアミンを用いることができる。
【0022】
水に可溶性ないし膨潤性を有する高分子は、医薬組成物全重量に対して5〜80重量%、好ましくは10〜60重量%程度を用いることができる。親水性溶剤は、医薬組成物全重量に対して1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%程度を用いることができる。もっとも、上記の配合量は当業者に適宜選択可能であることは言うまでもない。
【0023】
医薬組成物の形態の本発明の医薬は、pH4〜9、好ましくはpH6.5〜9、より好ましくはpH7〜8.5となるように調製されていることが好ましい。このようなpHを有する医薬組成物は、有効成分の口腔粘膜吸収が特に良好である。pHが9より高い場合には口腔粘膜組織が変性し、刺激性等が生じる場合がある。製剤のpHは製剤重量の3倍量の水に溶解または懸濁した時の溶液のpHを測定することにより計測することができる。医薬組成物のpHを調節するために、例えば、塩酸などの鉱酸類、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等の無機物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の有機塩基、あるいはメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸などをpH調節剤として用いることができる。pH調節剤は、医薬組成物の全重量に対して、例えば、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜15重量%程度の割合で用いることができる。pH調節剤は2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0024】
特に好ましい医薬組成物として、(1)水不溶性の支持体層、及び(2)該支持体層に積層された粘膜付着性の粘着層を含む貼付剤が挙げられる。この貼付剤を適宜の大きさに切断して口腔粘膜に付着させることにより、口腔粘膜への投与を行なうことができる。上記の粘着層は口腔粘膜に医薬組成物を付着させて固定する機能を有しており、この接着層に添加された有効成分が該粘着層から溶出して口腔粘膜表面に達し、その粘膜表面から有効成分が粘膜内部に浸透及び拡散して唾液腺に到達する。水不溶性の支持体層は、唾液や口に汲む水や飲食物から医薬組成物を保護する機能を有する。
【0025】
水不溶性の支持体層は、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、酢酸フタル酸セルロース、セラック、ポリイソブチレン、及びポリイソプレンからなる群から選ばれる1種または2種以上の物質を含有することができる。上記の医薬組成物としては、上記の2層を積層した形態のもののほか、どちらかの層あるは両者を複数採用して3層以上の積層を含む医薬組成物であってもよい。
【0026】
医薬組成物の形態の本発明の医薬の製造にあたっては、通常用いられる製剤用添加物を1種又は2種以上用いてもよい。製剤用添加物としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、香料、界面活性剤、甘味剤、又は防腐剤などを1種又は2種以上用いることができる。他の薬理活性を有する有効成分を配合することもできる。
【0027】
賦形剤としては、例えば、無水ケイ酸、マンニトール、ソルビトール、無水リン酸カルシウム等、結合剤としては、トラガント、又はアルギン酸ナトリウム等を挙げることができ、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸又はその塩、あるいは蔗糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。着色剤としては、例えば、青色1号、黄色4号、又は二酸化チタン等などを挙げることができる。矯味矯臭剤としては、例えば、メントール、ハッカ油、リモネン、シネオール、クエン酸、フマール酸、又は酒石酸等のほか、各種香料などを挙げることができる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、又はカチオン性界面活性剤を挙げることができ、より具体的には、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、蔗糖脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル、ラクチトール脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(10,20,40,60,80,100モル)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、アルキロールアマイド、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等を挙げることができる。甘味剤としては、例えば、キシリトール、エリスリトール、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン等を挙げることができ、防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等を挙げることができる。これらの製剤用添加物は、医薬組成物の全重量に対して、例えば、0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の割合で用いることができるが、この割合は、製剤用添加物の種類や配合目的に応じて当業者が適宜選択可能である。
【0028】
他の薬理活性を有する有効成分としては、シェーグレン症候群の口腔乾燥性疾患が虫歯等の歯周疾患や口内炎を起こしやすいことを考慮して、例えば、口臭防止、歯周疾患、口腔内疾患、咽の炎症などの咽頭疾患、う蝕予防、知覚過敏などの歯科疾患に効果のある有効成分、あるいは局所麻酔剤、抗炎症剤、消炎鎮痛剤などを用いることができる。また、本発明の医薬に含まれる有効成分のほかに口腔乾燥性疾患に対して予防及び/又は治療効果が期待される有効成分を配合してもよい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。以下の実施例では、有効成分として(±)−シス・2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5, 3'キヌクリジン)一塩酸塩・一水和物を用いた(以下、この有効成分を「塩酸セビメリン水和物」と呼び、(±)−シス・2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5, 3'キヌクリジン)一塩酸塩を「塩酸セビメリン」と呼ぶ)。実施例についての各成分の組合せと配合比率をまとめて各表に示した。
「含嗽剤(液剤タイプ)」
実施例1
塩酸セビメリン水和物30mgを正確に量り、pH8.0のMaIlvaine緩衝液(MaIlvaine緩衝液:0.1mol/Lクエン酸と0.2mol/Lリン酸水素2ナトリウムの混液)を加えて溶解し、全量を10mLとして含嗽用の試験溶液とした。
実施例2
塩酸セビメリン水和物30mgを正確に量り、0.3%トリエタノールアミン-塩酸の水溶液(pH8.0)を加えて溶解し、全量を10mLとして含嗽用の試験溶液とした。
実施例3
塩酸セビメリン水和物30mgを正確に量り、1.5%トリエタノールアミン-塩酸の水溶液(pH8.0)を加えて溶解し、全量を10mLとして含嗽用の試験溶液とした。
実施例4
塩酸セビメリン水和物30mgを正確に量り、10%エタノール水溶液を加えて溶解し、全量を10mLとして含嗽用の試験溶液とした。
【0030】
「粘膜付着貼付剤」
<粘膜付着貼付剤の調製法>
(1)支持体層の調製法
比較例1の支持体層は、表1の各成分を各配合比で混和し、蒸留水を適量加えて十分に撹拌して溶解し、この液体をPETフィルムに均一に塗膏し、90℃で20分間乾燥して、厚み約30μmの均一なフィルムを調製した。実施例1〜6の支持体層は、表1の各成分を各配合比で混和し、塩化メチレン/エタノール(1:1)を適量加えて十分に撹拌して溶解し、この液体をPETフィルムに均一に塗膏し、80℃で10分間乾燥して、厚み30〜40μmの均一なフィルムを調製した。
【0031】
(2)2層性製剤の調製法(図1参照)
表1の粘着層1)の各成分を各配合比で均一に混和し、これを20mgを量り、KBr錠剤成形器(島津製作所、P/N202−32010、成形器内径13mm)、ハンドプレス(島津製作所、SSP−10A形、P/N200−64175)を用いて約140kg/cm2、1分間圧縮成形した。これに直径13mmの支持体層(厚み30〜40μm)を重ね、再度、約140kg/cm2、30秒間圧縮し成形した。その後、直径7mmに打ち抜き、動物試験の被験薬剤(厚み180〜200μm)とした。
【0032】
(3)3層性製剤の調製法(図1参照)
表1の粘着層1)の各成分を各配合比で均一に混和し、これを20mgを量り、KBr錠剤成形器(島津製作所、P/N202−32010、成形器内径13mm)とハンドプレス(島津製作所、SSP−10A形、P/N200−64175)を用いて約140kg/cm2、1分間圧縮成形した後、中心部を直径5mmに打ち抜いた。粘着層2)の各成分も同様に混和、成形した後、中心部を直径5mmに打ち抜き、この打ち抜いた部分に、直径5mmの粘着層1)をはめ込み、その上から直径13mmの支持体層(厚み30〜40μm)を重ね、これらを再度、約140kg/cm2、30秒間圧縮し成形した。その後、粘着層1)が中央にくるように直径7mmに打ち抜き、動物試験の被験薬剤(厚み180〜200μm)とした。
【0033】
実施例5
支持体層として、塩化メチレン/エタノール(1:1)の適量にヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(以下、「HPMCAS」と略す)80.0重量部、エチルセルロース5.0重量部、ポリエチレングリコール400 14.0重量部を加えて撹拌溶解し、三二酸化鉄1.0重量部を添加して均一に分散し、これをPETフィルム上に展延乾燥して厚さ約30μmの均一なフェイルムを調製した。別に、粘着層1)として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」と略す)25.1重量部、ポリビニルピロリドン25.1重量部、ポリエチレングリコール400 5.8重量部、黄色三二酸化鉄1.1重量部、炭酸水素ナトリウム0.6重量部、塩酸セビメリン水和物42.3重量部を加えて均一に混和した。また、粘着層2)として、HPMC43.5重量部、ポリビニルピロリドン43.5重量部、ポリエチレングリコール400 10.0重量部、酸化チタン2.0重量部、炭酸水素ナトリウム1.0重量部を加えて均一に混和した。これらを3層性製剤の上記調製方法に従って打錠成型した。
【0034】
実施例6
支持体層として、塩化メチレン/エタノール(1:1)の適量にカルボキシメチルエチルセルロース(以下、「CMEC」と略す)44.0重量部、エチルセルロース44.0重量部、クエン酸トリエチル10.0重量部を加えて撹拌溶解し、黄色三二酸化鉄2.0重量部を添加して均一に分散し、これをPETフィルム上に展延乾燥して厚さ約30μmの均一なフェイルムを調製した。別に、粘着層1)として、ヒドロキシプロピルセルロース25.1重量部、ポリビニルピロリドン25.1重量部、ポリエチレングリコール400 5.8重量部、三二酸化鉄1.1重量部、炭酸水素ナトリウム0.6重量部、塩酸セビメリン水和物42.3重量部を加えて均一に混和した。また、粘着層2)として、ヒドロキシプロピルセルロース43.5重量部、ポリビニルピロリドン43.5重量部、ポリエチレングリコール400 10.0重量部、酸化チタン2.0重量部、炭酸水素ナトリウム1.0重量部を加えて均一に混和した。これらを3層性製剤の上記調製方法に従って打錠成型した。
【0035】
実施例7
支持体層として、塩化メチレン/エタノール(1:1)の適量にHPMCAS80.0重量部、白色セラック5.0重量部、ポリエチレングリコール400 14.0重量部を加えて撹拌溶解し、三二酸化鉄1.0重量部を添加して均一に分散し、これをPETフィルム上に展延乾燥して厚さ約30μmの均一なフェイルムを調製した。別に、粘着層1)として、HPMC24.2重量部、ポリビニルピロリドン24.2重量部、ポリエチレングリコール400 5.8重量部、黄色三二酸化鉄1.2重量部、炭酸水素ナトリウム2.3重量部、塩酸セビメリン水和物42.3重量部を加えて均一に混和した。また、粘着層2)として、HPMC42.0重量部、ポリビニルピロリドン42.0重量部、ポリエチレングリコール400 10.0重量部、酸化チタン2.0重量部、炭酸水素ナトリウム4.0重量部を加えて均一に混和した。これらを3層性製剤の上記調製方法に従って打錠成型した。
【0036】
実施例8
支持体層として、塩化メチレン/エタノール(1:1)の適量にHPMCAS80.0重量部、エチルセルロース5.0重量部、ポリエチレングリコール400 14.0重量部を加えて撹拌溶解し、三二酸化鉄1.0重量部を添加して均一に分散し、これをPETフィルム上に展延乾燥して厚さ約30μmの均一なフェイルムを調製した。別に、粘着層として、HPMC35.0重量部、ポリビニルピロリドン35.0重量部、ポリエチレングリコール400 10.8重量部、黄色三二酸化鉄1.0重量部、トリエタノールアミン1.0重量部、塩酸セビメリン水和物17.2重量部を加えて均一に混和した。これらを2層性製剤の上記調製方法に従って打錠成型した。
【0037】
実施例9
支持体層として、塩化メチレン/エタノール(1:1)の適量にHPMCAS80.0重量部、白色セラック5.0重量部、ポリエチレングリコール400 14.0重量部を加えて撹拌溶解し、三二酸化鉄1.0重量部を添加して均一に分散し、これをPETフィルム上に展延乾燥して厚さ約30μmの均一なフェイルムを調製した。別に、粘着層として、HPMC26.0重量部、ポリビニルピロリドン26.0重量部、ポリエチレングリコール400 10.5重量部、酸化チタン1.0重量部、トリエタノールアミン2.0重量部、塩酸セビメリン水和物34.5重量部を加えて均一に混和した。これらを2層性製剤の上記調製方法に従って打錠成型した。
【0038】
実施例10
支持体層として、塩化メチレン/エタノール(1:1)の適量にHPMCAS80.0重量部、エチルセルロース5.0重量部、ポリエチレングリコール400 14.0重量部を加えて撹拌溶解し、三二酸化鉄1.0重量部を添加して均一に分散し、これをPETフィルム上に展延乾燥して厚さ約30μmの均一なフェイルムを調製した。別に、粘着層として、HPMC8.0重量部、ポリビニルピロリドン8.0重量部、ポリエチレングリコール400 10.0重量部、黄色三二酸化鉄1.0重量部、トリエタノールアミン4.0重量部、塩酸セビメリン水和物69.0重量部を加えて均一に混和した。これらを2層性製剤の上記調製方法に従って打錠成型した。
【0039】
実施例11
支持体層として、塩化メチレン/エタノール(1:1)の適量にCMEC46.0重量部、エチルセルロース38.0重量部、クエン酸トリエチル15.0重量部を加えて撹拌溶解し、黄色三二酸化鉄1.0重量部を添加して均一に分散し、これをPETフィルム上に展延乾燥して厚さ約30μmの均一なフェイルムを調製した。別に、粘着層1)として、HPMC25.1重量部、ポリビニルピロリドン25.1重量部、ポリエチレングリコール400 5.8重量部、黄色三二酸化鉄1.1重量部、トリエタノールアミン0.6重量部、塩酸セビメリン水和物42.3重量部を加えて均一に混和した。また、粘着層2)として、HPMC43.5重量部、ポリビニルピロリドン43.5重量部、ポリエチレングリコール400 10.0重量部、酸化チタン2.0重量部、トリエタノールアミン1.0重量部を加えて均一に混和した。これらを3層性製剤の上記調製方法に従って打錠成型した。
【0040】
対照
支持体層として、蒸留水の適量にヒドロキシエチルセルロース80.0重量部、ポリビニルピロリドン10.0重量部、ポリエチレングリコール400 9.0重量部を加えて撹拌溶解し、三二酸化鉄1.0重量部を添加して均一に分散し、これをPETフィルム上に展延乾燥して厚さ約30μmの均一なフェイルムを調製した。別に、粘着層として、ヒドロキシプロピルセルロース44.5重量部、ポリビニルピロリドン44.5重量部、ポリエチレングリコール400 10.0重量部、炭酸水素ナトリウム1.0重量部を加えて均一に混和した。これらを2層性製剤の上記調製方法に従って打錠成型した。
【0041】
【表1】

【0042】
試験例1:ヒトの口腔粘膜からの薬物吸収におけるpH及び添加剤の影響
健常人のボランティアに歯磨き後、各試験溶液(実施例1〜4)10mLを2分間含嗽させ、含嗽液を回収後、口腔内を蒸留水10mLで10秒間、2回洗浄した。全ての洗液を含嗽後の試験溶液に加えた。含嗽前後の試験溶液中の塩酸セビメリン量をHPLCで測定し、その差を口腔粘膜への吸収量として算出した。
【0043】
図2に塩酸セビメリン水和物の口腔粘膜吸収へ及ぼすpHと添加剤の影響を示した。pH8.0では、MaIlvaine緩衝液(0.1mol/Lクエン酸と0.2mol/Lリン酸水素2ナトリウムの混液)よりもトリエタノールアミン-塩酸緩衝液の方が吸収量が多く、トリエタノールアミン濃度は0.3%よりも1.5%が口腔粘膜吸収性は良好だった。この結果から、トリエタノールアミンは塩酸セビメリン水和物の粘膜吸収を促進させる効果があることが示唆された。なお、pH6.0よりもpH8.0の方が、塩酸セビメリン水和物の吸収量が多かった。
【0044】
試験例2:ラットの唾液分泌促進性(口腔粘膜投与)
ラット(Wistar系、♂、12週齢、体重195−240g)をウレタン(1.25g/kg.i.p.)麻酔下で、背位に固定した。試験開始前に、予め、紙ワイパー(商品名:キムワイプ)で口腔内唾液を十分に拭き取り、その15分後に再度、35×30mmに切断し、丸めた紙ワイパー3個(前もって重さを秤量した)を用いて、口腔内唾液を吸着させた(0時点)。直後に、被験製剤(実施例5,6,8〜10,対照)を投与し、その後15分毎に同様の操作により、唾液を吸着させ、唾液分泌量を算出した。試験終了後、製剤貼付部位の状態を観察した。唾液分泌量は、以下のように算出した。
「唾液量 (mg) = (唾液吸着後の紙ワイパー重量)−(唾液吸着前の紙ワイパー重量)」
【0045】
図3及び図4にラットの唾液分泌における塩酸セビメリン水和物の口腔粘膜投与剤の影響を示した。塩酸セビメリン水和物1.25mgを含む口腔粘膜付着製剤の実施例5又は6は、それぞれ適用45分又は60分より唾液分泌量の増加傾向を示した。また、口腔粘膜付着製剤である実施例9(3.0mg含有)又は実施例10(6.0mg含有)は、それぞれ処置後15又は30分よりラット唾液分泌量を増加させた。また、実施例9(3.0mg含有)と実施例10(6.0mg含有)は、製剤間で唾液分泌促進効果に明らかな差を認めた。なお、試験終了後貼付部位の口腔粘膜組織の状態を肉眼観察したが、刺激性は観察されなかった。
【0046】
試験例3:ラットの各組織への薬物移行性(口腔粘膜投与と経口投与の比較)
ラット(Wistar系、♂、9週齢、体重172-205g)をウレタン(1.25g/kg.i.p.)麻酔下で、背位に固定した。被験薬剤を投与し、0.5、1、2、4、8時間後に、製剤貼付部位の状態観察並び各組織中濃度測定のため、血漿及び各組織(小唾液腺、胃、小腸、肝臓、腎臓)を採取した。採取した小唾液腺は表面を生理食塩水中ですすぎ、胃および小腸は内容物を除き、生理食塩水中ですすいだ。採取した各組織は、測定まで−40℃で保存した。各組織中薬物濃度の測定は、LC/MS/MSにより測定した。試験には実施例9の口腔粘膜貼付剤を用い、経口投与と比較した。
【0047】
図5〜図11に経口投与及び口腔粘膜投与剤時における塩酸セビメリン水和物のラット各組織中濃度推移を示した。口腔粘膜投与は、経口投与と比較して、胃、小腸、腎臓及び肝臓中の薬物濃度が低く、濃度変化が少なかった。特に、投与初期(〜2時間)における胃、小腸、腎臓及び肝臓中の薬物濃度は明らかに低かった。また、血漿中濃度は、経口投与と比較して投与初期の濃度変化が少なく、その後も一定の低い濃度で推移した。この結果より、口腔粘膜投与は、高い消化管組織濃度に依存して起こると推測される消化器系の副作用(嘔気、腹痛、下痢、頻尿等)の発現を抑制できる可能性が示唆された。さらに、口腔粘膜投与は、標的部位である小唾液腺中の濃度は顕著に高いことから、口腔粘膜から直接薬物が到達して作用していると考えられた。以上の結果から、塩酸セビメリン水和物は、口腔粘膜からの吸収性が高く、口腔粘膜投与は経口投与に比べ、より直接的に標的部位に作用していることが分かった。さらに、消化器系組織中濃度が低く、粘膜刺激性も認められないことから安全性に優れた投与方法であることが明らかとなった。なお、口腔粘膜投与群は、口腔粘膜からの吸収以外に薬物が嚥下されて消化管から吸収される可能性が考えられたが、口腔粘膜付着製剤投与時の消化管への薬物移行量は、経口投与に比較して非常に低いことから、本試験において口腔粘膜付着製剤の嚥下による影響は少ないと推測した。
【0048】
製剤例1:フィルム状製剤
塩酸セビメリン水和物を含むフィルム状、紙状、又は、オブラート状の口腔粘膜投与製剤は、薬物を口腔内に広範囲に放出して口腔粘膜上に付着させることで、口腔粘膜から薬物を吸収させることが可能な薄膜である。この口腔粘膜投与製剤は、例えば、特表2001-506612号公報及び特表2001-506640号公報に記載されており、当業者はこれらの公報を参照することにより、上記製剤を容易に製造することができる。各公報の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。
【0049】
【表2】

【0050】
製剤例2:軟膏剤、ゼリー剤
塩酸セビメリン水和物を含むゼリー剤及び軟膏剤は、適用した口腔粘膜から薬物を吸収させることが可能な半固形製剤であり、例えば、以下の処方で調製することができる。
【0051】
【表3】

【0052】
製剤例3:エアゾール剤
塩酸セビメリン水和物を含む溶液又は懸濁液が噴霧されるように噴射剤とともにスプレー缶に充填された形態のエアゾール剤は、口腔粘膜の広範囲に適用可能であり、口腔粘膜から薬物を吸収させることが可能な製剤である。このエアゾール剤は、例えば、以下の処方により製造することができる。
【0053】
【表4】

【0054】
製剤例4:含嗽剤(水溶性高分子含有タイプ)
塩酸セビメリン水和物を含む溶液形態、又は要時適当量の溶液で溶解して使用する粉末形態の含嗽剤は、口腔粘膜の広範囲に適用可能で、口腔粘膜から薬物を吸収させることが可能な製剤である。例えば、以下の処方に従って製造することができる。粉末形態の含嗽剤は、塩酸セビメリン水和物150mgに対して20〜150mLの水を加えて溶解し、この溶液又は懸濁液を1〜5回/日に分けて口に含み、1〜5分間/回含嗽する。
【0055】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】塩酸セビメリン水和物を有効成分として含む口腔粘膜付着貼付剤の模式図である。
【図2】塩酸セビメリン水和物の口腔粘膜吸収に及ぼす添加物の影響を示すグラフである。図中、TEAはトリエタノールアミン、HClは塩酸を示す。
【図3】塩酸セビメリン水和物を有効成分として含む口腔粘膜投与剤のラットの唾液分泌に対する影響を示したグラフである。図中、対照は口腔粘膜付着製剤(塩酸セビメリン水和物なし、基剤のみ)、実施例は口腔粘膜付着製剤(塩酸セビメリン水和物1.25mg投与/ラット)を示す。
【図4】塩酸セビメリン水和物を有効成分として含む口腔粘膜投与剤のラットの唾液分泌に対する影響を示したグラフである。図中、対照は口腔粘膜付着製剤(塩酸セビメリン水和物なし、基剤のみ)、実施例は口腔粘膜付着製剤(塩酸セビメリン水和物1.5〜6.0mg投与/ラット)を示す。
【図5】口腔粘膜投与剤及び経口投与時における塩酸セビメリンのラット胃組織中濃度推移を示すグラフである。
【図6】口腔粘膜投与剤及び経口投与時における塩酸セビメリンのラット小腸組織中濃度推移を示すグラフである。
【図7】口腔粘膜投与剤及び経口投与時における塩酸セビメリンのラット膀胱組織中濃度推移を示すグラフである。
【図8】口腔粘膜投与剤及び経口投与時における塩酸セビメリンのラット腎臓組織中濃度推移を示すグラフである。
【図9】口腔粘膜投与剤及び経口投与時における塩酸セビメリンのラット肝臓組織中濃度推移を示すグラフである。
【図10】口腔粘膜投与剤及び経口投与時における塩酸セビメリンのラット血漿中濃度推移を示すグラフである。
【図11】口腔粘膜投与剤及び経口投与時における塩酸セビメリンのラット小唾液腺組織中濃度推移を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)
【化1】

(式中、R1及びR2は、同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、モノアリール置換若しくはジアリール置換メチロール基、又はアリール置換アルキル基である)で表されるスピロオキサチオランキヌクリジン誘導体又はその酸付加塩を有効成分として含む口腔粘膜投与形態の医薬。
【請求項2】
口腔乾燥性疾患の予防及び/又は治療のための請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体が2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5, 3'キヌクリジン)である請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
スピロオキサチオランキヌクリジン誘導体がシス・2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5,3'キヌクリジン)である請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項5】
有効成分が2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5, 3'キヌクリジン)塩酸塩又はその水和物である請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項6】
有効成分がシス・2−メチルスピロ(1,3−オキサチオラン−5, 3'キヌクリジン)一塩酸塩・1/2水和物である請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項7】
水に可溶性ないし膨潤性の高分子、及び/又は親水性溶剤を含有する医薬組成物の形態の請求項1ないし6のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項8】
水に可溶性ないし膨潤性の高分子が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、カラヤガム、アラビアゴム、トラガントガム、グアーガム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はその金属塩、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸の塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、プルラン、並びに低級アルキルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体及びその誘導体からなる群から選ばれる1種又は2種以上の高分子である請求項7に記載の医薬。
【請求項9】
水に可溶性ないし膨潤性の高分子が、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の高分子である請求項7に記載の医薬。
【請求項10】
親水性溶剤が、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、N-メチル-2-ピロリドン、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、クエン酸トリエチル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、及びポリソルベート80からなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶剤である請求項7ないし9のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項11】
親水性溶剤がモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、及びトリイソプロパノールアミンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶剤である請求項7ないし9のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項12】
医薬組成物のpHが6.5〜9の範囲である請求項1ないし11のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項13】
貼付剤、舌下剤、バッカル剤、液剤、含嗽剤、噴霧剤、エアゾール剤、軟膏剤、ゼリー剤、又はフィルム状の医薬組成物の形態である請求項1ないし12のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項14】
(1)水不溶性の支持体層、及び(2)上記支持体層に積層された粘膜付着性の粘着層を含む口腔粘膜貼付剤の形態の請求項1ないし12のいずれか1項に記載の医薬。
【請求項15】
水不溶性の支持体層がエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、酢酸フタル酸セルロース、セラック、ポリイソブチレン、及びポリイソプレンからなる群から選ばれる1種又は2種以上の物質を含有し、かつ粘膜付着性の粘着層が口腔内の水分により粘着性を生じる水に可溶性ないし膨潤性の高分子と親水性溶剤とを含有する請求項14に記載の医薬。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−70027(P2006−70027A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226074(P2005−226074)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【出願人】(000174622)埼玉第一製薬株式会社 (31)
【Fターム(参考)】