説明

口腔細菌叢改善剤

【課題】 口腔の衛生状態を良好にするため、口腔内の細菌の増殖を抑制するとともに、口腔内の常在の細菌の増殖を誤嚥性肺炎の起因の細菌の増殖よりも優位にすることで、常在細菌の優勢を保つことを可能し、且つ、ヒトの口腔内で作用させることに鑑み、安全性の面から、食品の成分や食品素材からなる口腔細菌叢改善剤を提供すること。
【解決手段】 カフェイン又はテオフィリンを有効成分として含有するものであり、細菌の増殖の抑制により口腔内を良好な衛生状態とし、かつ常在の細菌の増殖を誤嚥性肺炎の起因の細菌の増殖よりも優位にして常在の細菌の優勢を保つことにより、口腔内の常在の細菌の優勢を保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は口腔細菌叢改善剤に係り、主に誤嚥性肺炎の予防を目的とし、細菌の増殖抑制により口腔内を良好な衛生状態としつつ、常在の細菌の増殖を誤嚥性肺炎に起因する細菌の増殖よりも優位な状態とすることで常在細菌の優勢を保つことができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者の肺炎は、食物や唾液などを誤嚥して生じる誤嚥性肺炎が多く、約30〜70%を占めているといわれている。誤嚥性肺炎の予防には、歯科衛生士などの専門家による質の高い口腔ケアの有効性が示されている(非特許文献1〜3)が、専門家による口腔ケアの提供には限度がある。本人、家族、介護スタッフなどによる通常の口腔清拭だけでも高齢者の口腔内の衛生状態を良好に維持できるものが求められている。
【0003】
誤嚥性肺炎予防のため、口腔内の衛生状態を良好に維持するには、口腔内の細菌増殖を抑制するとともに、誤嚥性肺炎の起因となる歯周病菌や日和見感染菌などの細菌を減らし、常在の細菌の割合を増やし、口腔細菌叢を改善することが重要(非特許文献4)である。特に「Storeptococcus mitis」は、最も優勢な常在の細菌である。(非特許文献5)
【0004】
誤嚥性肺炎予防のためには、歯周病菌に対して強い成長阻害活性を有する組成物(特許文献1)や「Candida albicans」の数を減らそうとする剤(特許文献2)、殺菌剤(特許文献3)が提案されているが、細菌叢改善や常在菌への効果は、検討されていない。
【0005】
口腔の細菌叢を改善する方法としては、酪酸菌入りのガム(特許文献4)、乳酸菌(特許文献5〜8)、「Streptococcus salivarius」(特許文献9)などのプロバイオティクスが提案されているが、実際にヒトにおいてプロバイオティクスのみでの予防は難しいとの考え(非特許文献6)が示されている。
【0006】
ほかに細菌叢を改善するものや方法として、多くは、う蝕、歯周病の予防や治療といった目的で提供されており、常在の細菌への影響を調べているものは少ない(特許文献10〜15)。常在の細菌への影響を調べているもの、例えば、特許文献16は、「Storeptococcus mitis」と他の「Streptococcus属」の細菌のみの検討であり、日和見感染菌や歯周病菌への影響は不明である。例えば、特許文献17は、偏性嫌気生菌にのみ有効である。例えば、特許文献18は、日和見感染菌への影響は不明である。これらの例の細菌叢の改善は、誤嚥性肺炎の予防という観点からは、有効性が判断できない。
【0007】
なお、口腔の衛生状態を良好に保つため、既存の抗菌剤の使用が考えられるが、抗菌剤は、常在の細菌へも作用して常態の細菌叢を破壊するかもしれず、副作用や耐性菌の発生が危惧され、誤嚥性肺炎の予防の観点からは適当でない。
【0008】
一方、カフェイン及びテオフィリンは、茶、コーヒー、紅茶などに含まれる成分であり、飲料としたときの口腔の細菌への影響は、認められていない(非特許文献7)。カフェイン及びテオフィリンの抗菌性は、特許文献19で明らかにされているが、「衛生的処理」なる用語の解説において、「通常ヒトに有害な雑菌を含む全ての細菌を可能な限り除去することを意味する。」とあり、細菌叢の改善を特徴とするものではない。また、特許文献19は、洗浄剤組成物であり、「硬質表面、特にガラス表面」の衛生的処理を目的としている。
【0009】
【特許文献1】特開2007−210922号公報
【特許文献2】特開2008−44186号公報
【特許文献3】特許4203120号
【特許文献4】特開2004−189709号公報
【特許文献5】特表2003−534362号公報
【特許文献6】特開平05−004927号公報
【特許文献7】米抄2003/0170184号
【特許文献8】米抄2002/0012637号
【特許文献9】特表2005−517439号公報
【特許文献10】特開2000−344642号公報
【特許文献11】特開平10−291920号公報
【特許文献12】特開平08−175947号公報
【特許文献13】特開平08−175946号公報
【特許文献14】特開平07−206621号公報
【特許文献15】特開2007−509927号公報
【特許文献16】特開2007−509927号公報
【特許文献17】特開2007−509927号公報
【特許文献18】特開2007−509927号公報
【特許文献19】特表2003−510411号公報
【0010】
【非特許文献1】奥田 他、歯科学報、105(2)、129−137、2005年
【非特許文献2】米山 他、日本歯科医学会誌、20、2001年
【非特許文献3】弘田 他、日本老年医学会雑誌、34(2)、1997年
【非特許文献4】花田、口腔内細菌と誤嚥性肺炎. セミナー わかる!摂食・嚥下リハビリテーション、医歯薬出版、pp.14−25、2005年
【非特許文献5】Smith 他、Oral. Microbiol. Immunol.、 8、1−4、1993年
【非特許文献6】前田 他、歯薬療法、25(3)、61−68、2006年
【非特許文献7】Cogo 他、Can. J. Microbiol.、54(6)、501−508、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように、上記従来の構成によると、繰り返しになるが、口腔の衛生状態を良好にし、口腔内の細菌の増殖を抑制するとともに、口腔内の常在の細菌の増殖を誤嚥性肺炎の起因の細菌の増殖よりも優位にすることに関して、十分な検討がなされていないという問題があった。
【0012】
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、口腔の衛生状態を良好にするため、口腔内の細菌の増殖を抑制するとともに、口腔内の常在の細菌の増殖を誤嚥性肺炎の起因の細菌の増殖よりも優位にすることで、常在細菌の優勢を保つことを可能し、且つ、ヒトの口腔内で作用させることに鑑み、安全性の面から、食品の成分や食品素材からなる口腔細菌叢改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、安全性の高いと考えられる食品の成分や食品素材から有効なものを見出すべく探索を行った。その結果、カフェイン及びテオフィリンは、実験に使用した全ての常在の細菌及び誤嚥性肺炎の起因の細菌の増殖を抑制するとともに、この増殖の抑制は、常在の細菌よりも、誤嚥性肺炎の起因の細菌に強くはたらくことを見出し、本発明を成すに至った。
あわせて、誤嚥性肺炎の起因の細菌の増殖よりも、常在の細菌の増殖を抑制する食品の成分の濃度を見出した。それらの成分濃度を含まないことで、カフェイン及びテオフィリンの有効性をより発揮することができる。
すなわち、請求項1による口腔細菌叢改善剤は、カフェイン又はテオフィリンを有効成分として含有することを特徴とするものである。
又、請求項2による口腔細菌叢改善剤は、請求項1記載の口腔細菌叢改善剤において、上記カフェイン又はテオフィリンが、0.1wt%濃度以上含有することを特徴とするものである。
又、請求項3による口腔細菌叢改善剤は、請求項2記載の口腔細菌叢改善剤において、上記カフェイン又はテオフィリンが、液体の成分として0.6wt%の濃度より低いことを特徴とするものである。
又、請求項4による口腔細菌叢改善剤は、請求項2記載の配合成分において、液体の成分としてクエン酸ナトリウム塩、エピガロカテキンガレイト、及びキシリトールを、それぞれ、0.1wt%以上、0.001wt%以上、0.05wt%以上の濃度を含有しないことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように本願の請求項1記載の発明は、カフェイン又はテオフィリンを有効成分として含有することで、細菌の増殖の抑制により口腔内を良好な衛生状態とし、かつ常在の細菌の増殖を誤嚥性肺炎の起因の細菌の増殖よりも優位にして常在の細菌の優勢を保つことにより、口腔内の常在の細菌の優勢を保持する口腔細菌叢改善剤である。
【0015】
又、請求項2記載の発明は、請求項1記載の口腔細菌叢改善剤のカフェイン又はテオフィリンを0.1wt%以上の濃度を含有することにより、カフェイン又はテオフィリンの有効性を増すことを特徴とする口腔細菌叢改善剤である。
【0016】
又、請求項3記載の発明は、カフェイン又はテオフィリンが、液体の成分として0.6wt%よりも低いことにより口腔の常の在細菌の増殖を過度に抑制しないことを特徴とする請求項2記載の口腔細菌叢改善剤である。
【0017】
又、請求項4記載の発明は、請求項2記載の配合成分において、液体の成分としてクエン酸ナトリウム塩、エピガロカテキンガレイト、及びキシリトールを、それぞれ、0.1wt%以上、0.001wt%以上、0.05wt%以上の濃度で含有しないことで、口腔の常在の細菌の増殖を過度に抑制しないことを特徴とする口腔細菌叢改善剤である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図で、実施例2の評価を示すためのグラフである。
【図2】本発明の一実施の形態を示す図で、実施例3、実施例4の評価を示すためのグラフである。
【図3】本発明の一実施の形態を示す図で、実施例42の評価を示すためのグラフである。
【図4】本発明の一実施の形態を示す図で、実施例55の評価を示すためのグラフである。
【図5】本発明の一実施の形態を示す図で、実施例56、実施例57、実施例58の評価を示すためのグラフである。
【図6】本発明の一実施の形態を示す図で、実施例59、実施例60、実施例61の評価を示すためのグラフである。
【図7】本発明の一実施の形態を示す図で、実施例62、実施例63、実施例64の評価を示すためのグラフである。
【図8】本発明の一実施の形態を示す図で、実施例65、実施例66、実施例67の評価を示すためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1乃至図8を参照して本発明の一実施の形態を説明する。
まず、カフェインは、世界で天然カフェインとして年間3000トンから4000トンが、テオフィリンは、1000トンから5000トンが製造されるといわれている。日本では、茶などから抽出精製される。
【0020】
カフェイン又はテオフィリンは、口腔用のクリーム、ジェル、洗口液、口腔用スプレーの液及びガムなどの中に配合される。カフェイン又はテオフィリンは、口腔用のクリーム、ジェル、洗口液、口腔用スプレーの液及びガムなどに配合され、0.1wt%以上を含有する。
【0021】
カフェイン又はテオフィリンの口腔用のクリームやジェルなどへの配合は、クリームやジェルの液体部に溶解されるか、クリームやジェルなどに結晶、カプセルなどの状態で分散される。カフェインの口腔用のクリームやジェルなどへの配合が、クリームやジェルの液体部に溶解されるときの濃度は、2.0wt%以内である。テオフィリンの口腔用のクリームやジェルなどへの配合が、クリームやジェルなどの液体部に溶解されるときの濃度は、0.8wt%以内である。カフェイン又はテオフィリンの口腔用のクリームやジェルなどへの配合が結晶、カプセルなどの状態で分散されるときは、口腔中で過度に溶解されないことが望まれる。
【0022】
カフェイン又はテオフィリンの洗口液や口腔用スプレー液などへの配合は、液に溶解される。カフェインの洗口液や口腔用スプレー液などへの配合の濃度は2.0wt%以内である。テオフィリンの洗口液及びスプレー液などへの配合の濃度は、0.8wt%以内である。カフェイン又はテオフィリンの洗口液や口腔用スプレー液などへの口腔中で配合は、好ましくは0.6wt%以内であることが望まれる。
【0023】
カフェイン又はテオフィリンのガムへの配合は、ガムに溶解、結晶、カプセルなどの状態で分散される。カフェイン又はテオフィリンのガムへの配合が結晶、カプセルなどの状態で分散されるときは、口腔中で過度に溶解されないことが望まれる。
【0024】
口腔用のクリーム、ジェル、洗口液、口腔用スプレーの液、ガムなどへの配合成分は、配合した成分濃度が浸透圧を増すことなどで、口腔の優勢な常在の細菌の増殖を強く抑制しないことが望まれる。例えば、洗口液の配合成分は、1wt%以上の濃度の塩化ナトリウムを含まないことが望まれる。配合成分は、配合した成分濃度がpHを低下させることで、口腔の優勢な常在の細菌の増殖を強く抑制しないことが望まれる。例えば、洗口液の配合成分は、緩衝されない状態で、0.2wt%以上の濃度のアスコルビン酸を含まないことが望まれる。例えば、洗口液の配合成分は、緩衝されない状態で、0.05wt%以上の濃度のコハク酸を含まないことが望まれる。例えば、洗口液の配合成分は、緩衝されない状態で、0.05wt%以上の濃度のクエン酸を含まないことが望まれる。また、洗口液の配合成分において、クエン酸は、ナトリウム塩として、0.1wt%以上の濃度を含まないことが望まれる。配合成分は、前記以外で、配合した成分濃度が口腔の優勢な常在の細菌の増殖を強く抑制しないことが望まれる。例えば、洗口液の配合成分は、0.001wt%以上の濃度のエピガロカテキンガレイトを含まないことが望まれる。例えば、洗口液への配合成分は、0.05wt%以上の濃度のキシリトールを含まないことが望まれる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0026】
使用する細菌は、独立行政法人理化学研究所から分譲を受けた。分譲された細菌は、分譲の際に同封されていた「凍結乾燥およびL乾燥アンプルの開封法」の手順、及び各細菌のJCM Catalogueに記載された培地及び条件に従い、復元した。直ちに実験に供しない細菌は、液体窒素中に、マイクロバンク(PRO−LAB DIAGNOSTICS)又は、滅菌したスキムミルク液で保存した。口腔内で優勢な常在菌(非特許文献5)としては、Storeptococcus mitis(JCM12971)(以下、「S. mitis 」という。)、Storeptococcus oralis(JCM12997)(以下、「S. Oralis」という。)及びStoreptococcus salivarius(JCM5705)(以下、「S. salivarius 」という。)を使用した。誤嚥性肺炎の起因菌などとしては、Storeptococcus anginosus(JCM12993)(以下、「S. anginosus 」という。)、Storeptococcus sanguinis(JCM5708)(以下、「S. sanguinis 」という。)、Storeptococcus constellatus(JCM12994)(以下、「S. constellatus 」という。)、Storeptococcus intermedius(JCM12996)(以下、「S. intermedius 」という。)、Storeptococcus mutans(JCM5705)(以下、「S. mutans 」という。)、Staphylococcus aureus(JCM20624)(以下、「Stap. aureus 」という。)、Enterococcus faecalis(JCM5803)(以下、「E. faecalis 」という。)、Enterococcus faecium(JCM5804)(以下、「E. faecium 」という。)、Bacteroides fragilis(JCM11019)(以下、「B. fragilis 」という。)、Capnocytophaga ochracea(JCM12966)(以下、「C. ochracea 」という。)、Eikenella corrodens(JCM12952)(以下、「E. corrodens 」という。)、Fusobacterium nucleatum(JCM8532)(以下、「F. nucleatum 」という。)、Escherichia coli(JCM1649)(以下、「E. coli 」という。)、Prevotella melaninogenica(JCM6325)(以下、「P. melaninogenica 」という。)及びPrevotella oralis(JCM12251)(以下、「P. oralis 」という。)を使用した。
【0027】
各細菌は、Mueller Hinton Broth(Difco)(以下、「MHB」という。)における濁度OD660と生菌数(CFU/ml)との関係について、近似式を求めた。S. mitis及びS. anginosusは、MHBにおける濁度OD630と生菌数(CFU/ml)との関係について、近似式を求めた。各近似式は、増殖曲線の作成及び試験培養前後における生菌数の推定に使用した。
【0028】
実施例1から実施10は、洗口液や口腔用スプレー液などとしてカフェインを1wt%から1/2ずつの濃度となるよう配合した。ただし、評価は、細菌の増殖を比較するためMHB内への配合とした。常在で最も優勢な細菌S. mitisと誤嚥性肺炎の起因の細菌の一つとされるS. anginosusを使用して評価した。96ウェル平底マイクロプレートに、実施例1から実施例10に対しておよそ5×10CFU/mlの前記細菌の入った液を1ウェルに100μlずつ、1細菌について5ウェルを調整した。同様に、カフェインを配合していない細菌液を調整し、コントロールとした。マイクロプレートは、薬剤感受性試験用のO吸収・CO発生剤(アネロパック)の入ったジャーに入れ、35℃で8時間置いた。この後、マイクロプレートは、マイクロプレートリーダーを用いてOD630を測定し、生菌数を推定した。得られたデータは平均し、コントロールを100%としたときの値10%オーダーで評価した。
【0029】
実施例1から実施10の評価の結果は、表1に示す。評価は、S. anginosusの増殖抑制作用がS. mitis よりも大きくなったときの濃度を適(○)と、これ以外は不適(×)とした。実施例2及び実施例3は、良好な評価が得られた。
【表1】

【0030】
実施例11から実施20は、洗口液や口腔用スプレー液などとしてテオフィリンを0.5wt%から1/2ずつの濃度となるよう配合した。評価は、実施例1から実施例10と同様に行った。
【0031】
実施例11から実施20の評価の結果は、表2に示す。実施例11から実施例14までは、良好な評価が得られた。
【表2】

【0032】
実施例2では、S. mitis 、S. oralis 、S. salivarius、S. sanguinis、S. constellatus 、S. intermedius、S. mutans 、Stap. Aureus、E. faecalis 、E. faecium、B. fragilis 、C. ochracea 、E. corrodens 、F. nucleatum 、E. coli 、P. melaninogenica 、P. oralisを使用した評価を実施した。24ウェル平底マイクロプレートに、実施例2の配合に対して、およそ5×10CFU/mlの前記細菌の入った液を1ウェルに1.5mlずつ、1細菌について3ウェルを調整した。ただし、Stap. aureus、はおよそ7×104 CFU/ml、P. melaninogenica及びP. oralisは、およそ5×106CFU/mlとなるようにした。同様に、カフェインを配合していない細菌液を調整し、コントロールした。マイクロプレートは、細菌ごとに増殖曲線などから設定した条件に置いた後、OD660を測定し、生菌数を推定した。得られたデータは平均し、コントロールを100%としたときの値10%オーダーで評価した。
【0033】
実施例2の評価の結果は図1に示す。
図1のグラフは、縦軸に細菌の種類を示し、横軸にコントロールを100%としたときの細菌の増殖率を示した。又、図1中白抜きの棒グラフは口腔内の常在の細菌のコントロールを100%としたときの増殖率を示ししており、又、図1中塗りつぶした棒グラフは起因の細菌のコントロールを100%としたときの増殖率を示している。実施例2において、口腔内の常在の細菌S. mitis 、S. oralis 、S. salivariusは、増殖を40%から50%前後抑制されていた。一方、起因の細菌のS. intermedius、Stap. Aureus、B. fragilis 、C. ochracea 、E. corrodens 、F. nucleatum 、P. melaninogenica 、P. oralisは、ほぼ完全に増殖が抑制されていた。S. sanguinis、S. constellatus 、E. coli の増殖は、10%前後と常在の細菌よりも抑制されていた。なお、S. mitisの%が表1と差異を生じているのは、評価量等の条件が異なるためと考えられる。実施例2の評価の結果では、S. mitisなどの常在の細菌の増殖を抑制する濃度において、誤嚥性肺炎の起因の細菌などをこれ以上に抑制し、実施例2が本発明の解決しようとする課題を解決する上で優れた効果を示した。
【0034】
実施例1及び実施例2の評価の結果から、洗口液や口腔用スプレー液などとして、実施例21は0.8wt%、実施例22は0.7wt%、実施例23は0.6wt%のカフェインをそれぞれ配合した。評価は、S. mitis 、S. oralis 、S. salivarius、S. mutans 、E. faecalis を用い、実施例2と同様の方法で行った。
【0035】
実施例21から実施例23の評価の結果は、表3に示す。ただし、参考として実施例2の評価の結果もあわせて付す。実施例21から実施例23までは、常在で最優勢な菌種であるS. mitisをほとんど抑制してしまった。実施例11及び実施例23の評価の結果により、カフェイン及びテオフィリンの濃度は、0.6wt%よりも低いことが望ましい。
【表3】

【0036】
実施例24から実施33は、洗口液や口腔用スプレー液などとしてクエン酸ナトリウムを0.1wt%から1/2ずつの濃度となるよう配合した。評価は、実施例1から10と同様にS. mitis の増殖を観察し、S. mitisの増殖が60%以下を不適の可能性あり(×)、これ以外を適(○)とした。
【0037】
実施例24から実施33の評価の結果は、表4に示す。実施例24は、不適の可能性があった。
【表4】

【0038】
実施例34は、実施例24を参考にクエン酸ナトリウムを0.2wt%配合した。実施例34は、実施例2と同様にS. mitis 、S. oralis 、S. salivarius、S. sanguinis、S. constellatus 、S. intermedius、S. mutans 、Stap. aureus、E. faecalis 、E. faecium、B. fragilis 、C. ochracea 、E. corrodens 、F. nucleatum 、E. coli 、P. melaninogenica 、P. oralisを使用した方法により評価した。
【0039】
実施例34の評価の結果は、図2に示す。
図2のグラフは、図1と同様の方法で表記する。実施例34では、常在細菌の増殖を10%から40%まで抑制した。このクエン酸ナトリウム濃度で、S. sanguinis、C. ochracea 、E. corrodens 、F. nucleatum 、P. melaninogenica を除く起因菌の増殖抑制は、常在細菌以下の効果であった。従って、実施例34では、S. mitisなどの常在の細菌の増殖を抑制する濃度において、なお増殖を抑制できない誤嚥性肺炎の起因の細菌などがある。よって、クエン酸ナトリウムを配合するうえでは、実施例25から実施例33の範囲の濃度であることか、これら実施例より低い濃度であることが望まれる。
【0040】
実施例35から実施44は、洗口液や口腔用スプレー液などとしてエピガロカテキンガレイトを0.1wt%から1/2ずつの濃度となるよう配合した。評価は、実施例24から実施例33と同様に行った。
【0041】
実施例35から実施44の評価の結果は、表5に示す。エピガロカテキンガレイトは、実施例35から実施例41で不適の可能性があった。
【表5】

【0042】
実施例42は、実施例34と同様の方法でも評価した。
【0043】
実施例42の評価の結果は、図3に示す。
図3のグラフは、図1と同様の方法で表記する。実施例42では、常在の細菌の増殖は50%前後抑制された。これに比べて、起因の細菌のS. sanguinis、S. mutans 、E. faecium、E. coli では、増殖が抑制されず、E. faecalisでも、ほとんど増殖は抑制されなかった。従って、実施例42では、常在の細菌の増殖を抑制する濃度において、なお増殖を抑制できない誤嚥性肺炎の起因の細菌などがあり、エピガロカテキンガレイトを配合するうえでは、実施例43から実施例44の範囲の濃度であることか、これら実施例より低い濃度であることが望まれる。
【0044】
実施例45から実施54は、洗口液や口腔用スプレー液などとしてキシリトールを5wt%から1/2ずつの濃度となるよう配合した。評価は、実施例24から実施例33と同様に行った。
【0045】
実施例45から実施54の評価の結果は、表6に示す。キシリトールは、実施例45から実施例51で不適の可能性があった。
【表6】

【0046】
実施例55は、実施例51及び実施例52を参考にキシリトールを0.1wt%配合した。評価は、実施例34と同様の方法で行った。
【0047】
実施例55の評価の結果は、図4に示す。
図4のグラフは、図1と同様の方法で表記する。実施例55では、常在の細菌の増殖は40%前後抑制された。これに比べて、評価した起因の細菌への増殖抑制は、全て常在細菌と同等以下であった。従って、実施例55では、S. mitisなどの常在の細菌の増殖を抑制する濃度において、増殖を抑制できない誤嚥性肺炎の起因の細菌などが多数あった。キシリトールを配合するうえでは、実施例52から実施例54の範囲の濃度であることか、これら実施例より低い濃度であることが望まれる。
【0048】
実施例56は、2wt%カフェイン溶液10mlを、撹拌子を入れたガラス容器に入れ、ホットプレート上で加熱し、イヌリン(フジ日本精糖株式会社の商品名)10gを徐々に加え、液が透明になるまで撹拌する。この液は、24ウェルの平底マイクロプレートに1ウェルにつき500μlを静かに入れ、一昼夜静置してクリームとする。実施例57及び実施例58は、実施例56と同様の方法で、それぞれ1.5wt%カフェイン溶液10ml、1wt%カフェイン溶液10mlを用いてクリームを作成する。
【0049】
実施例59は、実施例56と同様にホットプレート上で過熱した10mlの1wt%カフェイン溶液に、1wt%となるように寒天を加え溶解する。この液は、24ウェルの平底マイクロプレートに1ウェルにつき500μlを静かに入れ、一昼夜静置してジェルとする。実施例60及び実施例61は、実施例59と同様の方法で、それぞれ0.75wt%カフェイン溶液10ml、0.5wt%カフェイン溶液10mlを用いてジェルを作成する。
【0050】
実施例56から実施例61は、カフェインの溶出を観察した。マイクロプレートは、35℃の孵卵器中に1時間置き、1ウェルについて、35℃に加温した500μlの超純水を加え、35℃の孵卵器中に入れた。一定時間後に、各ウェルから200μlを静かに採取した。採取した水は、順次希釈し、274nmの波長で吸光度を測定し、予め作成した検量線からカフェイン濃度を求めた。
【0051】
実施例56から実施例58の結果は図5に、実施例59から実施例61の結果は図6にそれぞれ示す。
図5及び図6のグラフは、横軸に孵卵器投入後からの経過時間を、縦軸に当該時間における超純水のカフェイン量を示した。実施例56から実施例61は、いずれも孵卵器投入30分後から、請求項2に示した濃度に達していると推定された。4時間後までは、請求項3に示した濃度を下回っていると推定された。イヌリンを用いたクリーム、寒天を用いたジェルは、いずれも本発明を実施する上で、カフェイン又はテオフィリンを適当な濃度で配合することにより、良好な効果が期待できる。
【0052】
実施例62から実施67は、表7のとおり配合する。
【表7】

【0053】
実施例62から実施例67は、実施例56と同様の方法で、カフェインの溶出を観察した。
【0054】
実施例62から実施例64の結果は図7に、実施例65から実施例67の結果は図8にそれぞれ示す。
図7及び図8のグラフは、図5のグラフと同様に、横軸に孵卵器投入後からの経過時間を、縦軸に当該時間における超純水のカフェイン量を示した。実施例63及び実施例66は、寒天を基材としたジェルにおいてグリセリンを加えることで、カフェインの溶出を抑制した。実施例64及び実施例67は、イヌリンとカフェインを混合した材料を用いることで、他の実施例と比べてカフェインの溶出状態と異なっていた。以上のことは、カフェイン及びテオフィリンをクリームやジェルに配合し本発明を実施する上で、グリセリンによる溶出抑制、イヌリンとカフェイン混合による溶出状態調節の効果が期待できる。
【0055】
実施例68から実施73は、表8のとおり配合する。
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の口腔細菌叢改善剤は、細菌の増殖抑制により口腔内を良好な衛生状態としつつ、常在の細菌の増殖を誤嚥性肺炎に起因する細菌の増殖よりも優位な状態とすることで常在細菌の優勢を保つことができ、高齢者の誤嚥による肺炎の発症を予防できる。
【0057】
本発明の口腔細菌叢改善剤は、口腔用のクリーム、ジェル、洗口液、口腔用スプレーの液などへの配合により、高齢者の口腔内の衛生状態を良好に維持でき、誤嚥性肺炎の予防が可能となる。
【0058】
また、本発明の口腔細菌叢改善剤は、洗口液、口腔用スプレーの液、ガムなどへの配合により、歯周病の予防などにも応用が可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カフェイン又はテオフィリンを有効成分として含有することを特徴とする口腔細菌叢改善剤。
【請求項2】
請求項1記載の口腔細菌叢改善剤において、
上記カフェイン又はテオフィリンが、0.1wt%濃度以上含有することを特徴とする口腔細菌叢改善剤。
【請求項3】
請求項2記載の口腔細菌叢改善剤において、
上記カフェイン又はテオフィリンが、液体の成分として0.6wt%の濃度より低いことを特徴とする口腔細菌叢改善剤。
【請求項4】
請求項2記載の配合成分において、
液体の成分としてクエン酸ナトリウム塩、エピガロカテキンガレイト、及びキシリトールを、それぞれ、0.1wt%以上、0.001wt%以上、0.05wt%以上の濃度を含有しないことを特徴とする口腔細菌叢改善剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−265234(P2010−265234A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119401(P2009−119401)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 平成21年度静岡県工業技術研究所研究発表会 〔主催者〕 静岡県工業技術研究所 〔開催日〕 平成21年04月14日
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】