説明

口金部材及びそれを用いた圧力容器とその製造方法

【課題】圧力容器の内側壁を構成する合成樹脂製ライナー材と口金部材との接着力を向上させ、気密シール性が高められる口金部材およびそれを用いた圧力容器とその製造方法の提供。
【解決手段】合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器と、該中空容器の外層に設けられた補強材で形成された補強材層とを有し、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器に用いられる口金部材であって、該口金部材が特定の下地処理剤により処理されている口金部材及び該口金部材を用いた圧力容器とその製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器等に使用される口金部材及びそれを用いた圧力容器とその製造方法に関し、さらに詳しくは、圧力容器の内側壁を構成する合成樹脂製ライナー材と口金部材との接着力を向上させ、気密シール性が高められる口金部材およびそれを用いた圧力容器とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス、圧縮天然ガス、酸素や窒素、水素用タンク等の圧力容器では、充填圧力が20MPa〜100MPaという高圧であり、従来では、鋳鉄、鋼鉄製からなる金属製の高圧容器が一般的に使用されてきたが、昨今の燃費の向上のため自動車部品のプラスチック化や地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量の抑制などから水素を利用した燃料電池電気自動車等の普及など、自動車等の軽量化や自動車燃料の多様化、リサイクル化等の環境面の変化から、これら圧力容器においても急速にプラスチック化が行われつつある。
【0003】
例えば、自動車の燃料としてのLPG、水素を利用した燃料電池が使用され、搭載する圧力容器の軽量化が要望されている。例えば、鋼鉄製の容器に替わるものとして、アルミ製のライナーに炭素繊維で補強したものが使用されているが、さらに軽量化をはかるために、プラスチック製のライナーを使用した樹脂製容器も開発されている。例えば、特許文献1に記載の容器は、ガスバリア性を有する樹脂製のライナーが、圧力性の繊維強化プラスチック(FRP)製の外側殻で覆われてなる圧力容器で、本質的に樹脂からなるので金属製のものに比べて軽量であり、燃費の向上が期待できる。
【0004】
このような圧力容器は、容器内へガスを充填したり、容器内からガスを取出すためのノズルを取付けるために、ノズル取付用の口金が設けられる。口金部材は、通常、容器の内側ライナー材と一体的に結合されるが、ノズルを螺合させるための口金部材は通常金属製であり、内側ライナー材は軽量化または製造工程の簡素化の観点から口金部材とは異種のプラスチック材料から構成されるので、内側ライナー材と口金部材との結合部または界面部のシール性が要求されている。
【0005】
特に、圧力容器は、25MPa〜100MPaという高圧ガスが充填されるので、極めて高いガスシール性が要求されている。これら樹脂製圧力容器において、口金部材のガスシール性を改良した技術として、例えば、特許文献2に記載の圧力容器には、内側殻端部の上下リップで口金部材の円盤状フランジ部を受容する構造とすることにより、口金部材分のガスシール性を高める構造としているが、内側殻の内壁面に口金部材の端部が露出し、この口金部材の端部に直接ガス内圧がかかるので、圧力容器の製造直後にはガス漏れがなくても、製品容器を長期間使用しているうちに、内側殻の樹脂がクリープを起して収縮し、内側殻と口金部材との界面にすき間が生じて界面のすき間からガス漏れが発生する恐れがある。
【0006】
また、特許文献3では、フィラメントを巻き付けた外殻と非金属製内部ライナーとで構成された圧力容器において、ライナーにある相補形のタブと係合するように環状フランジに設けた錠止溝とを有する圧力容器が提案され、口金部材の円盤状フランジ部の上下面に錠止溝を設け、かつ、この上下の錠止溝に合致するタブを内側ライナー端部に形成させて結合することにより、外殻とライナーとの間の漏洩を生じさせるリスクを低減させている。
しかし、この圧力容器も内側殻の内壁面に口金部材の端部が露出し、この口金部材の端部に直接、ガスの内圧がかかるので、上記したと同様の理由でガス漏れが発生する恐れがある。
【0007】
また、特許文献4では、ガスバリア性を有する内殻と、該内殻を覆うように設けた圧力性の外殻と、該内殻の首部に内装したノズル取付用口金を有するガスボンベであって、該口金にシールリングが嵌着され、該シールリングを押圧することにより、ガス漏れを抑止するものであるが、圧力が高い場合には十分なシール性が発揮されない惧れが生じ、かつ押圧されるので、シーリング材の劣化が著しく、シーリング材(Oリング等)を交換が繁雑で不経済であるばかりでなく、交換する場合にも製品容器の分解が必要とするなどの不都合が生じるものである。また同様にリップパッキングを用いたシール機構を有する圧力容器(特許文献5、特許文献6など)、あるいは自己シール部有する圧力容器(特許文献7)も提案されているが、やはり上記特許文献類と同様の問題点を内在している懸念を有する。
【0008】
また、特許文献8においては、ガスバリア性の内側殻と圧力性の外側殻を有し、少なくとも一方の端部に口金部材を取付けた圧力容器において、該内側殻のライナー材の肩部と、一端側が円板状に構成された口金部材とを接着樹脂層を介して接着し、該内側殻のライナー材と口金部材との界面のシール性が優れた圧力容器が提案されている。
上記特許文献8における接着樹脂層は、不飽和カルボン酸変性ポリエチレン樹脂が好適で、密度0.88〜0.945g/cm、MFR0.05〜50g/10分のポリエチレン、エチレン−α・オレフィン共重合体が使用されることが示されている(特許文献5、段落[0025]参照)。
【0009】
さらに特許文献9においては、ブロー成形により、インサート部材を装着し、パリソンを型閉めして、パリソンとインサート部材を一体化させる際に、パリソンとインサート部材間に熱可塑性接着剤を介して行う圧力容器の製造方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、上記特許文献類には、その実施例において、該接着剤の性状等やそれらの具体的な記載が全く示されていない。
昨今の厳しい製品の品質管理、より高圧なガス充填の要求、あるいは、特に従来の圧力容器においては、比較的分子量の大きい天然ガスなどに対しては気密性は発揮するものの、分子量の小さい水素ガスについては十分な耐水素ガス透過性を維持しているとはいい難く、より性能の高い接着性能が要求されている。
【0011】
【特許文献1】特公平5−88665号公報
【特許文献2】特開平6−42698号公報
【特許文献3】特開平6−137433号公報
【特許文献4】特開平8−219387号公報
【特許文献5】特開2000−265138号公報、
【特許文献6】特開2005−9591号公報
【特許文献7】特開2004−211763号公報
【特許文献8】特開平10−332082号公報
【特許文献9】特開2006−161978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、圧力容器の内側壁を構成する合成樹脂製ライナー材と口金部材との接着力を向上させ、気密シール性が高められた圧力容器を提供し得る口金部材及びその口金部材を用いた圧力容器とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器と、その中空容器の外層に設けられた補強材で形成された補強材層とを有し、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器であって、前記口金部材を、下地処理剤で処理することにより、飛躍的に口金部材と合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器との接着力が向上させ得る口金部材及びそれを用いた気密シール性が高められた圧力容器とその製造方法を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器と、該中空容器の外層に設けられた補強材で形成された補強材層とを有し、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器に用いられる口金部材であって、該口金部材が下記の下地処理剤により処理されている口金部材が提供される。
[下地処理剤]
キトサン及びキトサン誘導体からなる群より選ばれた1種または2種以上のキトサン類と、Ti、Hf、Mo、W、Se、Ce、Fe、Cu、Zn、V及び3価Crからなる群より選ばれた1種または2種以上の金属を含む金属化合物とを含有してなる下地処理剤
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記下地処理剤により処理してなる処理面上に、さらに接着剤による接着剤層を設けてなる口金部材が提供される。
【0016】
また、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、前記接着剤が、下記(a)〜(e)の少なくとも1種の官能基を含有するポリオレフィン系樹脂またはその組成物からなる接着剤である口金部材が提供される。
[官能基]
(a)カルボン酸基またはカルボン酸無水物基
(b)エポキシ基
(c)ヒドロキシル基
(d)アミノ基
(e)シリル基
【0017】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、前記接着剤が、前記(a)〜(e)の少なくとも1種の官能基を含有する下記(A)〜(D)から選択された1種のポリエチレン系樹脂(X)0.5〜100重量%と、下記(A)〜(E)から選択された少なくとも1種の未変性ポリエチレン系樹脂(Y)0〜99.5重量%とからなる、(z1)密度0.86〜0.97g/cm、(z2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの接着樹脂(Z)からなる口金部材が提供される。
(A):(a1)密度0.94〜0.97g/cm、(a2)メルトフローレート0.01〜100g/10minを有する高密度ポリエチレン系樹脂
(B):(b1)密度0.90〜0.94g/cm未満、(b2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂
(C):(c1)メルトフローレート0.01〜100g/10minの高圧ラジカル法ポリエチレン系樹脂
(D):(d1)密度0.86〜0.90g/cm未満、(d2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの超低密度ポリエチレン系樹脂
(E):熱可塑性エラストマー
【0018】
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、前記(A)、(B)または(D)が、シングルサイト系触媒で製造されたポリエチレン系樹脂である口金部材が提供される。
【0019】
また、本発明の第6の発明によれば、第4又は5の発明において、前記接着樹脂(Z)が、官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)5〜95重量%と、未変性ポリエチレン系樹脂(Y)5〜95重量%とからなる口金部材が提供される。
【0020】
また、本発明の第7の発明によれば、第3〜6のいずれかの発明において、前記接着剤が、前記(a)〜(e)の少なくとも1種の官能基を、接着剤全体の重量を基準として、0.001〜30重量%含有する口金部材が提供される。
【0021】
また、本発明の第8の発明によれば、第2〜7のいずれかの発明において、前記接着剤層が、粉体塗装によって設けられる口金部材が提供される。
【0022】
また、本発明の第9の発明によれば、第8の発明において、前記粉体塗装の際に使用される粉体が、中位粒度が90〜150メッシュ、嵩比重が0.2〜0.5g/cc、および静止摩擦係数が0.7〜0.9である口金部材が提供される。
【0023】
また、本発明の第10の発明によれば、第8又は9の発明において、前記粉体塗装によって設けられる接着剤層の厚みが、10μm〜2mmである口金部材が提供される。
【0024】
また、本発明の第11の発明によれば、合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器と、該中空容器の外層に設けられた補強材で形成された補強材層とを有し、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器であって、該口金部材が、請求項1〜10のいずれか1項に記載の口金部材である圧力容器が提供される。
【0025】
また、本発明の第12の発明によれば、合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器と、該中空容器の外層に設けられた補強材で形成された補強材層とを有し、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器の製造方法であって、該中空容器を、合成樹脂製ライナー材のブロー成形により形成し、かつ、該口金部材は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の口金部材を用いる圧力容器の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、合成樹脂製ライナー材で形成される内側壁と口金部材との接着力を向上させ、気密シール性が高められた圧力容器が得られる。これは、家庭用液化石油ガス容器、自動車用液化石油ガス容器、圧縮天然ガス(CNG:Compressed Natural Gas)、酸素や窒素などを保管する産業用圧力容器、燃料電池用水素タンク等として使用できる樹脂製の圧力容器である。すなわち、本発明は、予め口金部材に下地処理剤を施した後に、該下地処理剤を施した表面に接着剤を設けることで強固な接着力を有する口金部材が得られる。特にこのような特定の下地処理剤と特定の接着剤を併用することにより、相乗的に接着力が向上する。また、静電塗装等の粉体塗装等で接着剤を塗工することにより均一に皮膜形成ができるため、比較的薄くてもライナー材の内側面と口金部材との接着力が強固にでき、その気密シール性も向上する。
したがって、このような口金部材を用いることにより、より高圧の圧力容器を提供することができ、天然ガス等の低い圧力容器はもちろんのこと、水素ガスのような高圧容器としても好適に使用可能である。
また、本発明によれば、ブロー成形等で口金部材を一体化できるため、製造工程が簡単で、製造コストも安く、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、前述したように、合成樹脂製ライナー材で形成される中空容器と、その中空容器の外表面に設けられた補強材で形成される補強材層とで構成されてなり、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器に使用される口金部材であって、少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器において使用される口金部材であって、該口金部材の一端に形成された円盤部に、キトサン及びキトサン誘導体からなる群より選ばれた1種または2種以上のキトサン類と、Ti、Hf、Mo、W、Se、Ce、Fe、Cu、Zn、V及び3価Crからなる群より選ばれた1種または2種以上の金属を含む金属化合物とを含有してなる下地処理剤を処理してなる口金部材であり、特に好ましくは、該下地処理剤の処理面にさらに接着剤層、とりわけ該接着剤として後述の(a)〜(e)の官能基を少なくとも1種を含むポリオレフィン系樹脂からなる接着剤を設けた口金部材である。
【0028】
本発明の下地処理剤はキトサン類とTi、Hf、Mo、W、Se、Ce、Fe、Cu、Zn、V及び3価Crからなる群より選ばれた1種または2種以上の金属を含む金属化合物を含有する。
キトサンは、キチンを濃アルカリ溶液と加熱して得られる脱アセチル化物であり、β−1,4−ポリ−D−グルコサミンなる高分子構造を有し、分子式(C11NOで示される化合物である。キトサンは、例えばカニやエビ等の甲殻類から抽出される天然高分子キチンを60〜100モル%脱アセチル化することで得られる。なお、キチンとは、カニやエビ等の甲殻類の殻から室温で塩酸処理等により調製できるもので、ムコ多糖の一種で、分子式(C13NOで示される化合物(平均重合度850)である。
キトサン誘導体は、例えばキトサンに存在する水酸基又は/及びアミノ基に対して、カルボキシル化、グルコール化、トシル化、硫酸化、リン酸化、エーテル化、アルキル化などして得られた化合物である。中でも、前記キトサン類としては、キトサン、カルボキシメチルキトサン、カチオン化キトサン、ヒドロキシアルキルキトサン及びこれらの酸との塩からなる群より選ばれた1種又は2種以上のキトサン類を用いるのが好ましい。
【0029】
該金属化合物は、Ti、Hf、Mo、W、Se、Ce、Fe、Cu、Zn、V及び3価Crからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属を含む金属化合物を含有し、特に限定されるものではないが、例えばこれら金属の金属酸化物、水酸化物、錯体化合物、有機酸塩、無機酸塩などが挙げられる。
【0030】
前記金属化合物の中でも、3価Crを含む金属化合物を用いるのが好ましく、この場合には、高温条件下での耐電解液性をより向上させることができるし、成形性も向上させることができる。前記3価Crを含む金属化合物としては、例えば硫酸クロム、硝酸クロム、フッ化クロム、蓚酸クロム、酢酸クロム等が挙げられる。
【0031】
本発明の下地処理剤には、前記キトサン類及び前記金属化合物に加えて、さらに分子内にカルボキシル基を少なくとも1個有する有機化合物を含有せしめるのが好ましい。このような有機化合物を含有せしめることによって、キトサン類の溶解性を向上できるし、キトサン類の金属架橋度を向上させる(高分子量化する)ことができる。
【0032】
前記分子内にカルボキシル基を少なくとも1個有する有機化合物としては、特に限定されないが、例えば酢酸、蓚酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、メリト酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、セバチン酸、クエン酸、ブタントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、エチレンジアミンテトラカルボン酸、トリメリット酸等が挙げられる。
【0033】
本発明の下地処理剤には、必要に応じてさらにpH調整剤、各種添加剤などを含有せしめても良い。
【0034】
前記下地処理剤におけるキトサン類の濃度は、0.001〜10質量%の範囲に設定するのが好ましく、特に0.1〜5質量%の範囲に設定するのがより好ましい。また、前記下地処理剤における金属化合物の濃度は、0.001〜10質量%の範囲に設定するのが好ましく、特に0.1〜5質量%の範囲に設定するのがより好ましい。また、前記下地処理剤における両者の混合比については、前記キトサン類100質量部に対して前記金属化合物1〜1000質量部とするのが好ましく、特に10〜100質量部とするのがより好ましい。
【0035】
前記下地処理剤で口金部材を処理する際の処理方法としては、下地処理剤を口金部材の円盤部の表面に塗布した後、加熱乾燥させる又は乾燥させる塗布処理や、下地処理剤中の成分を金属表面と化学反応させた後に表面を水洗して乾燥させる化成処理などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。前記塗布手法としては、例えばロールコート法、スピンコート法、浸漬法、スプレー法等が挙げられる。
【0036】
しかして、前記キトサン類の口金部材の表面に対する乾燥時付着量は、キトサン換算で1〜500mg/mの範囲であり、前記口金部材の表面に対する乾燥時付着量は金属換算で1〜500mg/mの範囲であるのが好ましい。例えば、口金部材がアルミニウム製である場合には、前記キトサン類のアルミニウム表面に対する乾燥時付着量は、キトサン換算で10〜100mg/mの範囲であるのが特に好ましい。また、前記金属化合物の口金部材の表面に対する乾燥時付着量は金属換算で5〜50mg/mの範囲であるのが特に好ましい
【0037】
本発明の口金部材の下地処理層と接着剤層との間には、必要に応じてプライマー層を設けてもよい。プライマーとしては、エポキシ系、ウレタン系、エポキシウレタン系、イミン系、チタネート系、ポリエステル系又はシラン系の熱硬化型プライマーを使用することができる。これらの中ではエポキシ系プライマーが、アルミニウム層と接着剤層との接着性および耐久性が優れるため好ましい。
本発明の口金部材は、下地処理を施して下地処理層を形成し、下地処理層上に接着剤を積層するか、あるいは下地処理層上にプライマーを塗布してプライマー層を形成し、さらにプライマー層上に接着剤層を積層して製造することができる。プライマー層を形成する際、加熱硬化させた後、接着剤層を積層して加熱により融着するのが好ましいが、プライマーの塗布後硬化前に接着剤層を積層し、融着の際の熱を利用して硬化を行ってもよい。
【0038】
また、本発明は、前述したように、合成樹脂製ライナー材で形成される中空容器と、その中空容器の外表面に設けられた補強材で形成される補強材層とで構成されてなり、かつ少なくとも一方の端部に口金部材を有する圧力容器において、上記の口金部材を用いてなる圧力容器、及びその製造方法である。
以下に、本発明を各項目毎に詳細に説明する。
【0039】
1.口金部材と圧力容器の構造
以下、本発明の口金部材と圧力容器について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の口金部材の一例の一部切欠断面図を示すものである。
本発明に係る口金部材は、図1に示されるように、口金部材3の円盤部8上に、下地処理剤層4aが設けられ、さらにその処理面上に接着剤層4bを設けた口金部材である。
また図2は、本発明の圧力容器の一例の一部切欠断面図を示すものである。
本発明に係る圧力容器は、図1に示されるように、予め口金部材3の円盤部8上に下地処理剤層4aと好ましくは接着剤層4bを設けた口金部材3を、合成樹脂製ライナー材で形成される中空容器と、その中空容器の外表面に設けられた補強材で形成される補強材層とで構成され、該中空容器の少なくとも一方の端部に装着され、該合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1の内側の肩部と口金部材3の一端に形成された円盤部8とが接着剤層4bを介して接着または溶着してなる圧力容器10である。
【0040】
2.口金部材
以下に本発明で使用される原材料等について具体的に詳述する。
(1)口金部材の材料
本発明の口金部材3は、高圧ガスの充填、排出用のノズル取付けのために設置されるものであって、その一例として、一端が円盤部8の形状を有し、圧力容器10の内側の合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1と外側の耐圧性の補強材層2で構成される筒状の圧力容器の少なくとも一端に具備し、該容器の合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1の内側の半球状の肩部に、口金部材3の円盤部8が埋設するようにインサートされ、予め下地処理剤層4aを施しておいた口金部材3の円盤部8上に、接着剤4b、を介し、合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1の肩部と口金部材3の円盤部8とを当接させて接着または溶着するものである。
【0041】
口金部材3の材料は、金属、樹脂いずれであってもよい。金属としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタンの合金、これらの複合材料、およびクロム・モリブデン合金等が挙げられる。樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリオキシベンジレン、ポリスルホンなどの高剛性で耐熱性に優れたものが挙げられる。これらの中でも堅牢で、耐久性等の面から金属材料、特に軽量で比較的安価なアルミニウムが好ましい。
【0042】
本発明の口金部材3の円盤部8は、接着剤4bとの接着力を高めるために、所望により、その表面を粗面化処理、化成処理等を行った後に、下地処理剤を処理しても良い。
表面の粗面化処理法としては、サンドブラスト法、ショットブラスト法、グリッドブラスト法などにより、波型形状、三角波形状など任意の形状の粗面とすることができる。該表面の粗さ(JIS B0601:2001に準拠)は、1000μm以下、好ましくは560μm以下、さらに好ましくは0.01〜100μmの範囲で選択されることが望ましい。
【0043】
(2)下地処理剤
本発明に用いられる下地処理剤としては、キトサン及びキトサン誘導体からなる群より選ばれた1種または2種以上のキトサン類と、Ti、Hf、Mo、W、Se、Ce、Fe、Cu、Zn、V及び3価Crからなる群より選ばれた1種または2種以上の金属を含む金属化合物とを含有してなる下地処理剤であり、特に分子内にカルボキシル基を少なくとも1個有する有機化合物と金属化合物とを含有している下地処理剤が好ましい。
【0044】
前記キトサンは、例えばカニやエビ等の甲殻類から抽出される天然高分子キチンを60〜100モル%脱アセチル化することで得られる。また、キトサン誘導体は、例えばキトサンに存在する水酸基又は/及びアミノ基に対して、カルボキシル化、グルコール化、トシル化、硫酸化、リン酸化、エーテル化、アルキル化などして得られた化合物である。中でも、前記キトサン類としては、キトサン、カルボキシメチルキトサン、カチオン化キトサン、ヒドロキシアルキルキトサン及びこれらの酸との塩からなる群より選ばれた1種または2種以上のキトサン類を用いるものである。
【0045】
前記分子内にカルボキシル基を少なくとも1個有する有機化合物としては、特に限定されないが、例えば酢酸、蓚酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、メリト酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、セバチン酸、クエン酸、ブタントリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、エチレンジアミンテトラカルボン酸、トリメリット酸等が挙げられる。
【0046】
前記金属化合物としては、Ti、Hf、Mo、W、Se、Ce、Fe、Cu、Zn、V及び3価Crからなる群より選ばれた1種または2種以上の金属を含む金属化合物としては、特に限定されるものではないが、例えばこれら金属の金属酸化物、水酸化物、錯体化合物、有機酸塩、無機酸塩などが挙げられる。中でも、3価Crを含む金属化合物を用いるのが好ましく、この場合には、高温条件下での耐電解液性をより向上させることができるし、成形性も向上させることができる。前記3価Crを含む金属化合物としては、例えば硫酸クロム、硝酸クロム、フッ化クロム、蓚酸クロム、酢酸クロム等が挙げられる。
【0047】
(3)接着剤
[接着剤]
本発明に用いられる接着剤としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいは(a)カルボン酸基またはカルボン酸無水物基、(b)エポキシ基、(c)ヒドロキシル基、(d)アミノ基、(e)シリル基等の少なくとも1種の官能基を含有するポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂の一般的な接着剤を使用することができる。特に、合成樹脂製ライナーとしてポリオレフィン系樹脂を選択した場合には、これらの中でも官能基を含有するポリオレフィン系樹脂との組み合わせが好ましい。
本発明の官能基を含有するポリオレフィン系樹脂とは、上記(a)〜(e)の官能基を有する化合物またはモノマー(以下官能基含有化合物とも称す)と炭素数2〜10程度のα―オレフィンの少なくとも1種とのランダム共重合体や、ポリオレフィン系樹脂に該官能基含有化合物をグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂を包含するものである。
以下に(a)〜(e)官能基含有化合物について詳述する。
【0048】
[官能基]
官能基(a)のカルボン酸基またはカルボン酸酸無水物基を導入する化合物としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸またはこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられる。
【0049】
官能基(b)のエポキシ基を導入する化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステルおよびα−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマール酸等のグリシジルエステル類またはビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン・p−グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレンなどが挙げられるが、特に好ましいものとしてはメタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0050】
官能基(c)ヒドロキシル基を導入する化合物としては、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
官能基(d)アミノ基を導入する化合物としては、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0052】
官能基(e)シリル基を導入する化合物としては、有機シラン化合物であって、一般式RR´SiYn−3で示される化合物である。ここでRは例えばビニル基、アリル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基等の不飽和脂肪族炭化水素または不飽和のハイドロカーボンオキシ基であり、末端にビニル基を持つものが望ましい。Yはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、メトキシエトキシ基、アセトキシ基、アルキルアミノ基等任意の加水分解し得る有機基である。R´は任意の有機基であり、RまたはYと同一であってもかまわない。最も好ましいシラン化合物はビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシラン等の不飽和シラン化合物が挙げられる。
【0053】
本発明の官能基を含有するポリオレフィン系樹脂の樹脂成分中に官能基を導入する具体的な方法としては、少なくとも1種の官能基含有化合物またはモノマーをグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂として導入する方法、官能基をエチレン、プロピレン等のオレフィンと官能基含有化合物とのランダム共重合体を樹脂成分に配合し導入する方法等が挙げられる。
上記官能基の含有量は0.001〜30重量%の範囲であり、グラフト変性ポリオレフィン系樹脂の場合には、0.001〜10重量%の範囲であり、ランダム共重合体の場合では1〜30重量%の範囲であることが適性である。上記官能基の含有量が0.001重量%未満では、接着強度が低く、本発明の目的を達成することができず、官能基含有量が30重量%を超える量に調製する原料の官能基含有ポリオレフィン系樹脂を入手することが難しく、かつ経済的ではない。
【0054】
本発明の上記(a)〜(e)の官能基含有化合物の少なくとも1種をグラフトした官能基含有ポリオレフィン系樹脂の製造方法としては、ラジカル開始剤の存在下に前記官能基を有する化合物の少なくとも1種を樹脂とともに押出機内で溶融しながら反応させる溶融法、または樹脂とともに溶液で溶解しながら反応させる溶液法で重合体にグラフト化して官能基を含有させる方法が挙げられる。
ラジカル開始剤としては、有機過酸化物、ジクミル化合物等が挙げられる。
【0055】
有機過酸化物としては、例えば、ヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジアルキル(アリル)パーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、ジプロピオニルパーオキサイド、ジオクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パーオキシコハク酸、パーオキシケタール、2,5−ジメチル−2,5ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等が好適に用いられる。
【0056】
また、官能基含有オレフィン系ランダム共重合体は、チューブラー反応器、オートクレーブ反応器等を使用して一般的には高圧ラジカル重合法等で製造される。オレフィンと該官能基含有モノマーとのランダム共重合体としては、エチレン等のα−オレフィンの少なくとも1種のオレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体等が挙げられる。
例えば、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタアクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸ー酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸−酢酸ビニル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−無水マレイン酸−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0057】
上記グラフト化に供せられるポリオレフィン系樹脂としては、チーグラー触媒、フィリップス触媒、メタロセン触媒とによる高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン等や低密度ポリエチレン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等の高圧ラジカル法ポリエチレン系樹脂等のポリエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン、プロピレンーエチレン共重合体等のポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。
上記官能基含有オレフィン系ランダム共重合体およびグラフト化官能基含有ポリオレフィン系樹脂は、単独または未変性ポリオレフィン系樹脂と混合して使用される。特に官能基の含有量、MFR、密度等の調整が容易に行えることから、官能基含有ポリオレフィン系樹脂を未変性ポリオレフィン系樹脂との混合物として使用することが好ましい。これらの中でもポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0058】
以下本発明における好ましいポリエチレン系樹脂で構成される接着樹脂(Z)について詳述する。
[接着樹脂(Z)]
(i)官能基を含有するポリエチレン系樹脂(X)及び未変性ポリエチレン系樹脂(Y)の材料
[高密度ポリエチレン樹脂(A)]
本発明に係る高密度ポリエチレン系樹脂(A)は、一般的にはイオン重合で製造される高密度ポリエチレン系樹脂であって、エチレン単独重合体あるいはエチレンとα−オレフィンとの共重合体を指すものであり、(a1)密度0.94〜0.97g/cm、好ましくは密度0.945〜0.965g/cm、より好ましくは0.95〜0.96g/cmの範囲である。(a2)メルトフローレート(MFR)は0.01〜100g/10分、好ましくは、0.05〜50g/10分、より好ましくは0.1〜30g/10分の範囲である。これらの範囲であると容易に接着強度、剛性や耐クリープ性等の長期寿命(耐久性)が優れる性能が発揮されるものとなる。
上記密度はJIS K6922−1(1997)の試験方法に基づいて測定した。
また、本発明において、メルトフローレート(MFR)はJIS K6922−1(1997)の試験法に基づいて条件D(温度190℃、荷重21.18N)で測定したものである。
【0059】
[直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(B)]
本発明に係る直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(B)は、一般的にはイオン重合で製造される直鎖状低密度ポリエチレン樹脂であって、エチレンとα−オレフィンとの共重合体を指すものであり、(b1)密度0.90〜0.94g/cm、好ましくは密度0.91〜0.935g/cm、より好ましくは0.92〜0.93g/cmの範囲である。(b2)メルトフローレート(MFR)は0.01〜100g/10分、好ましくは、0.05〜50g/10分、より好ましくは0.1〜30g/10分の範囲である。これらの範囲であると容易に接着強度、剛性や耐クリープ性等の長期寿命(耐久性)が優れる性能が発揮されるものとなる。
【0060】
上記(A)成分及び(B)成分のα−オレフィンとしては、直鎖または分岐鎖状の炭素数3〜20のオレフィンが好ましく、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンを挙げることができる。またそれらを2種類以上組み合わせて使用しても良い。これら共重合体の中でも、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体が経済性の観点から好適である。
【0061】
上記イオン重合で製造される高密度ポリエチレン系樹脂(A)または直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(B)は、特に製造触媒、プロセス等に限定されるものではなく、非特許文献1(成書『ポリエチレン技術読本』(松浦一雄・三上尚孝編著、工業調査会刊行、2001年)のp.123〜160、p.163〜196等)に記載されている方法により製造することが可能である。即ち、チーグラー系触媒、シングルサイト系触媒等や、スラリー法、溶液法、気相法の各重合様式にて、各種重合反応器、重合条件、触媒にて製造することが可能である。
シングルサイト系触媒で製造されるポリエチレン系樹脂としては、日本ポリエチレン(株)社製の商品名:ハーモレックス、商品名:カーネル、日本エボリュー(株)製の商品名:エボリュー、ダウ・ケミカル(株)製の商品名:エンゲージなどが挙げられる。
【0062】
上記密度はJIS K6922−1(1997)の試験方法に基づいて測定した。
また、メルトフローレート(MFR)はJIS K6922−1(1997)の試験法に基づいて条件D(温度190℃、荷重21.18N)で測定した。
また、上記(a1)、(b1)の密度は、α−オレフィンの種類及び含有量でコントロールすることができ、該含有量が多くなると密度は低くなる傾向を示し、上記(a2)または(b2)のメルトフローレート(MFR)は、水素等の連鎖移動剤、プロセス等で制御される。これらの制御は当業者にとっては周知の慣用手段である。
【0063】
[高圧ラジカル法ポリエチレン系樹脂(C)]
本発明の高圧ラジカル法ポリエチレン系樹脂(C)とは、(c1)メルトフローレート0.01〜100g/10minの、高圧ラジカル重合法によるエチレン単独重合体(低密度ポリエチレン樹脂)、エチレン・ビニルエステル共重合体およびエチレンとα,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体との共重合体等が挙げられ、これら低密度ポリエチレン樹脂等は公知の高圧ラジカル重合法により製造され、チューブラー法、オートクレーブ法のいずれの方法で製造してもよい。
上記低密度ポリエチレン系樹脂では、密度0.91〜0.935g/cm、メルトフローレート0.05〜100g/10分、好ましくは0.1〜50g/10分の範囲のものが好適に使用される。
【0064】
エチレン・ビニルエステル共重合体は、エチレンを主成分とし、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオル酢酸ビニルなどのビニルエステル単量体との共重合体である。これらの中でも特に好ましいものとしては、酢酸ビニルを挙げることができる。エチレン50〜99.5重量%、ビニルエステル0.5〜50重量%、他の共重合可能な不飽和単量体0〜49.5重量%からなる共重合体が好ましい。さらにビニルエステル含有量は3〜20重量%、特に好ましくは5〜15重量%の範囲で選択される。
【0065】
エチレンとα,β−不飽和カルボン酸エステルとの共重合体の代表的な共重合体としては、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体等のエチレン・(メタ)アクリル酸またはそのアルキルエステル共重合体;エチレン・無水マレイン酸・酢酸ビニル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸エチル共重合体等の二元共重合体又は多元共重合体等が挙げられる。
すなわち、これらのコモノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸−n−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸ラウリル等を挙げることができる。この中でも特に好ましいものとして(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等のアルキルエステルを挙げることができる。特に(メタ)アクリル酸エステル含有量は3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%の範囲である。
【0066】
[超低密度ポリエチレン系樹脂(D)]
本発明に係る超低密度ポリエチレン系樹脂(D)とは、(d1)密度0.86〜0.90g/cm未満、好ましくは0.87〜0.89g/cmの範囲、(d2)MFRが0.01〜100g/10分、好ましくは0.1〜50g/10分の範囲のエチレンと炭素3〜12のα−オレフィン共重合体であり、結晶性を有するエチレン・α−オレフィン共重合体や微結晶性のエチレン・α−オレフィン共重合体が挙げられる。
【0067】
[熱可塑性エラストマー(E)]
本発明の熱可塑性エラストマーとは、ポリオレフィン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられるが、これらの中でも、ポリオレフィン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマーが、ライナー材料との相溶性、経済性等から好ましい。
【0068】
ポリオレフィン系エラストマーとしては、エチレンープロピレン共重合体ゴム(EPR)、エチレンープロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)等のエチレン・α−オレフィン共重合体ゴムが挙げられる。また、ポリプロピレン系樹脂とEPR,EPDM,所望により超低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂などのポリエチレン樹脂あるいはオイル及び架橋剤の存在下で、動的に部分架橋や完全架橋して得られるポリオレフィン系エラストマー(TPO)を包含する。
【0069】
また、ポリスチレン系エラストマーとしては、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレン等のうちから1種又は2種以上の芳香族ビニル化合物と、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ共役ジエン化合物とのブロック共重合体、及び/又はその水添物が挙げられる。
【0070】
上記のポリスチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレンーイソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)等が挙げられる。上記ブロック共重合体の製造方法としては数多くの方法が提案されているが、代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒又はチーグラー型触媒を用い、不活性媒体中でブロック重合させて得ることができる。
【0071】
上記水添物の具体例としては、スチレン−エチレン・ブテン共重合体(SEB)、スチレン−エチレン・プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(部分水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、SBBS)等を挙げることができる。
【0072】
他の好ましい熱可塑性エラストマーの例としてはポリブタジエン、ブタジエンーアクリロニトリルゴム、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合体ゴム、イソブチレンーイソプレンゴム、クロロプレンゴム等が挙げられる。
【0073】
(ii)官能基含有ポリエチレン樹脂(X)の構成
本発明の官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)は、前記官能基含有エチレン系ランダム共重合体及びグラフト化官能基含有ポリエチレン系樹脂を包含し、該グラフト化官能基含有ポリエチレン系樹脂の原材料として、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分のそれぞれ単独で官能基が少なくとも1種含有されていてもよいが、(A)+(B)、(B)+(C)、(A)+(C)、(A)+(D)または(A)+(B)+(C)、(A)+(B)+(D)、(A)+(C)+(D)、(B)+(C)+(D)および(A)+(B)+(C)+(D)のいずれか1種のポリエチレン樹脂組成物として官能基を含有させることもできる。これらの組成物は、官能基含有時にドライブレンドしたり、または予めこれらを、ニーダー、ヘンシェルミキサーなどの周知の混合器で混合しておいて、官能基を含有させてもよい。
また、(A)〜(D)の少なくとも1種がそれぞれ上記に記載した条件を満たさない場合は、接着力が低下し、所望の接着強度が得られない懸念が生じることから、好ましくない。
また、(A)、(B)及び(D)の少なくとも1種がシングルサイト系触媒で製造されたものであることが、接着力、機械的強度のバランスがよく好ましい。
また、官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)の構成としては、(A)〜(D)を単独で用いるよりも、二種以上の混合物とするのが、経済性、作業性等から、好ましい。 特に好ましい組み合わせとしては(B)成分の官能基含有品であり、シングルサイト系触媒による直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を主成分とする官能基含有品が望ましい。
【0074】
(iii)官能基含有モノマー
本発明の官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)においては、上記された官能基の中でも官能基(a)または官能基(b)を包含する不飽和カルボン酸またはその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種類のモノマーが好ましい。該不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、一塩基性不飽和カルボン酸、二塩基性不飽和カルボン酸、ならびに、これらの金属塩、アミド、イミド、エステルおよび無水物が挙げられる。一塩基性不飽和カルボン酸の炭素数は、多くとも20個、好ましくは15個以下である。またニ塩基性不飽和カルボン酸の炭素数は、多くとも30個、好ましくは25個以下であり、この誘導体の炭素数は、多くとも30個、好ましくは25個以下である。これら不飽和カルボン酸およびその誘導体の中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸およびその無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸およびその無水物、ならびにメタクリル酸グリシジルが好ましく、特に無水マレイン酸、5−ノルボルネン酸無水物が、ポリエチレン樹脂組成物の接着性能が優れることから好適である。
上記の含有量は、樹脂成分に対して、不飽和カルボン酸またはその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種類のモノマー量が、0.001〜30重量%であり、グラフト変性の場合には0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.1〜3重量%である。該含有量が、0.001重量部未満では本来の目的である接着性能に十分なものが得られず、10重量%より多い場合には未反応モノマーが増加するので好ましくない。また、エチレン等とのランダム共重合体の場合には、1〜30重量%、好ましくは2〜28重量%、より好ましくは3〜25重量%の範囲である。
【0075】
(iv)ラジカル開始剤
本発明においてポリエチレン系樹脂に官能基をグラフト化する際に用いるラジカル開始剤としては、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α´−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジt−ブチルジパーオキシイソフタレート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレート、アセチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。
これらの中でも、半減期1分を得るための分解温度が、160〜200℃のものが好ましい。分解温度が低すぎると原料のポリエチレン系樹脂が押出機内で十分可塑化しないうちに分解反応が始まるため、反応率が低くなる上にゲルやフィッシュアイが多くなり、逆に分解温度が高すぎると、押出機内等で反応が完結せず、未反応の不飽和カルボン酸およびその誘導体の量が多くなる。
ラジカル開始剤の配合量は、通常1次変性時において、ポリエチレン系樹脂を含む樹脂成分の合計100重量部に対して0.005〜0.5重量部、好ましくは0.01〜0.3重量部、より好ましくは0.01〜0.1重量部の範囲で使われる。0.005重量部未満ではグラフト化反応が十分に行なわれず未反応モノマーが増加するので好ましくない。また、0.5重量部より多い場合には、ゲル、フィッシュアイが多発する可能性があるため好ましくない。
【0076】
本願発明において、不飽和カルボン酸またはその誘導体モノマーとラジカル開始剤の比率は、通常、60/1〜10/1の範囲で使われる。ラジカル開始剤の量が少なすぎると未反応モノマーが増加するため好ましくない。逆にラジカル開始剤の量が過剰になると、ゲル、フィッシュアイが多発するため好ましくない。
【0077】
(v)官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)の製造方法
官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)の製造方法は、樹脂(A)、(B)、(C)及び(D)の少なくとも1種のポリエチレン系樹脂、その組成物(以下ポリエチレン系樹脂等と称す)100重量部に、不飽和カルボン酸又はその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種類の官能基含有モノマー0.05〜2.0重量部並びにラジカル開始剤0.005〜0.5重量部を加え、単軸押出機及び/又は二軸押出機や単数又は複数の反応器などを用いて溶融混練または溶媒中で変性することにより達成される。
具体的には、押出機やバンバリーミキサー、ニーダーなどを用いる溶融混練法、適当な溶媒に溶解させる溶液法、適当な溶媒中に懸濁させるスラリー法、あるいはいわゆる気相グラフト法等が挙げられる。
処理温度としては、(A)〜(D)少なくとも1種のポリエチレン系樹脂等の劣化、不飽和カルボン酸やその誘導体の分解、使用する過酸化物の分解温度などを考慮して適宜選択されるが、前記の溶融混練法を例に挙げると、通常190〜350℃であり、とりわけ200〜300℃が好適である。
本願発明に係る官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)を製造するにあたり、その性能を向上する目的で、特開昭62−10107号公報に記載のごとく既に公知の方法、例えば前記のグラフト変性時あるいは変性後にエポキシ化合物またはアミノ基もしくは水酸基などを含む多官能性化合物で処理する方法、さらに加熱や洗浄などによって未反応モノマー(不飽和カルボン酸やその誘導体)や副生する諸成分などを除去する方法を採用することができる。
上記不飽和カルボン酸およびその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種のモノマーのグラフト量は高いほど望ましいが、一般的には0.001〜10重量%の範囲(グラフト量の測定法:赤外線分光光度計による)である。
【0078】
上記ラジカル開始剤を用いて、ポリエチレン系樹脂等への反応は、グラフト化反応とポリエチレンの微架橋が同時に並行して起こるが、溶融混練時の樹脂温度を250℃以上とすることで、グラフト化反応が優先的に起こり、モノマーの高付加率を実現する。一方、樹脂温度が250℃未満ではポリエチレン系樹脂等の微架橋が優先的に起こることでゲルや樹脂焼けが増加し、得られる官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)の品質が低下する。また、樹脂温度が310℃を超えるとポリエチレン自体の劣化が加速されるため、ゲルや樹脂焼けなどが激増し、これも品質を低下させる。
また、このような高温で反応を行なうため、押出機や反応器などの内部への空気の混入はできるだけ抑える必要があり、また溶融混練では、押出機内などでの樹脂の長時間滞留も避けなければならない。このため、原料樹脂投入口付近での窒素フィードを行なうことは、極めて好ましい。
【0079】
本発明の官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)の製造においては、ポリオレフィン系樹脂材料を複数次にわたって変性することが好ましく、それにより比較的に高価なモノマーである、不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも一種の変性モノマーの変性率を充分に高めて経済性を向上させ、比較的に少量の変性モノマーにて高い変性率を達成することを実現し、接着性能が非常に優れて、未反応変性モノマーが残留せず、ゲルや樹脂焼けなども生じない、高品質の変性ポリオレフィン樹脂(X)を製造することができる。
このような溶融混練での変性方法で得られるグラフト変性率(測定法:赤外線分光光度計による)は、一般的に0.2〜2.5重量%程度の範囲であり、最終次の変性ポリエチレン系樹脂(A)のグラフト変性率での上限は高いほど望ましいが、一般的には0.55重量〜3重量%の範囲である。しかし、特にこの範囲に限定されるものではなく、より高い変性率にすることが望ましい。
【0080】
(vi)未変性ポリエチレン系樹脂(Y)の構成
本発明に係る未変性ポリエチレン系樹脂(Y)は、(a1)密度0.94〜0.97g/cm、(a2)メルトフローレート0.01〜100g/10minを有する高密度ポリエチレン樹脂(A)、(b1)密度0.90〜0.94g/cm未満、(b2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの直鎖状低密度ポリエチレン(B)、(c1)メルトフローレート0.01〜100g/10minの高圧ラジカル法ポリエチレン系樹脂(C)及び、(d1)密度0.86〜0.90g/cm未満、(d2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの超低密度ポリエチレン系樹脂(D)及び熱可塑性エラストマー(E)から選択される少なくとも1種の未変性ポリエチレン系樹脂である。
【0081】
上記(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び(E)成分は、上記の官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)で使用した樹脂と同じものでもよいが、(A+B)、(A+C)、(A+D)、(A+E)、(B+C)、(B+D)、(B+E)、(C+D)、(D+E)、(A+B+C),(A+B+D)、(A+B+E)、(A+C+D)、(A+C+E)、(B+C+D)、(B+C+E)、(B+D+E)、(C+D+E)、(A+B+C+D)、(A+B+C+E)、(A+C+D+E)、(B+C+D+E)、(A+B+C+D+E)等の少なくとも1種の未変性ポリエチレン系樹脂、その組成物とを混合してもよい。
上記(Y)成分は必須ではないが、上記(X)成分が単独の場合には、成形時に過度の樹脂劣化や、ゲル等が惹起する場合も起こり得るという弊害が生じる懸念があることやMFR、密度の調節、耐熱性、機械的特性、剛性、柔軟性等の機能の調節等が容易にできる、あるいは経済的であるということから上記の(Y)成分を使用することが好ましい。
また、上記官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)または未変性ポリエチレン系樹脂に使用される(A)、(B)及び(D)の少なくとも1種がシングルサイト系触媒で製造されたものであることが、低分子量成分が少なく、官能基含有時の樹脂劣化、ゲルの発生を抑制すること、機械的強度、接着強度等の性能を向上させることからも好ましい。
【0082】
(vii)接着樹脂(Z)の調整
本発明の接着樹脂(Z)は、合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1の内側の肩部と該口金部材3の一端に形成された円盤部8とを、ガス漏れを抑止するために、この接着樹脂(Z)で接着または溶着されるものであり、前記(a)〜(e)の少なくとも1種の官能基を含有する下記(A)〜(D)から選択された少なくとも1種の官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)0.5〜100重量%と、下記(A)〜(E)から選ばれる少なくとも1種の未変性ポリエチレン系樹脂(Y)0〜99.5重量%とからなる、(z1)密度0.86〜0.97g/cm、(z2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの接着樹脂(Z)である。
(A):(a1)密度0.94〜0.97g/cm、(a2)メルトフローレート0.01〜100g/10minを有する高密度ポリエチレン樹脂
(B):(b1)密度0.90〜0.94g/cm未満、(b2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの直鎖状低密度ポリエチレン樹脂
(C):(c1)メルトフローレート0.01〜100g/10minの高圧ラジカル法ポリエチレン系樹脂
(D):(d1)密度0.86〜0.90g/cm未満、(d2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの超低密度ポリエチレン樹脂
(E):熱可塑性エラストマー
【0083】
より具体的には、官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)の(A),(B)、(C)および(D)の1種から選択された樹脂あるいはそれらの樹脂組成物、例えば(A)+(B)、(B)+(C)、(A)+(C)、(A)+(D)または(A)+(B)+(C)、(A)+(B)+(D)、(A)+(C)+(D)、(B)+(C)+(D)および(A)+(B)+(C)+(D)のいずれか1種の官能基含有ポリエチレン系樹脂組成物(X´)と、未変性ポリエチレン系樹脂(Y)の(A)〜(E)の1種又はそれらの少なくとも1種の未変性ポリエチレン樹脂組成物(Y´)とを混合してなることを特徴とするものである。
これらの中でも好ましいものは、接着性、耐熱性、強度、易成形性の点から、成分(B)の官能基含有直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(X)単独又は該官能基含有(B)成分と、未変性高密度ポリエチレン系樹脂(A)および未変性直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(B)との未変性ポリエチレン系樹脂組成物(Y)との混合物である。好ましい配合比は、成分(B)の官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)10〜30重量%と、未変性ポリエチレン系樹脂組成物(Y)成分(A/B=5〜40/95〜60)の90〜70重量%である。
【0084】
上記官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)と未変性ポリエチレン系樹脂(Y)との配合割合(X)/(Y)は、官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)の官能基含有濃度によって異なるが、一般的には100〜0.5/0〜99.5重量%、好ましくは95〜5/5〜95重量%、より好ましくは50〜10/50〜90重量%の範囲で選択されることが望ましい。
【0085】
該接着樹脂(Z)の(z1)密度は、0.86〜0.97g/cm、好ましくは0.90〜0.96g/cm、より好ましくは0.92〜0.95の範囲である。密度が0.86g/cm未満では、接着強度が低下する惧れが生じ、0.97g/cmを超える場合は、工業的に大量生産が難しいばかりでなく、耐久性が低下する惧れが生じる。
(z2)メルトフローレートは、0.01〜100g/10min、好ましくは0.05〜50g/10min、より好ましくは0.1〜30g/10minの範囲である。MFRが0.01g/10min未満では成形加工性に難点が生じ、100g/10minを超える場合では衝撃強度等の強度が低下する惧れが生じる。
【0086】
本発明の接着剤は、上述の性状を満足するものであり、初期接着強度や、高圧ガスを充填、排出する際の、内側の合成樹脂製ライナー材が収縮、膨張などや、温度変化への対応性、これらが繰り返される経時変化、耐内容物への抵抗性等の耐久性が優れるものであり、これらの接着剤は、合成樹脂製ライナー材1に直接配合することが肝要である。特にブロー成形によれば、押出ダイスを用いて一工程で作製されるために効率的であり、生産スピード等の向上と、均一な塗膜が形成され、かつ接着強度等の性能が発揮されるので好ましい。
【0087】
本発明の接着剤4は、好ましくは上述の官能基を含有するポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくは接着樹脂(Z)である。このような接着剤であると、初期接着強度や、高圧ガスを充填、排出する際の、内側の合成樹脂製ライナー材1が収縮、膨張などや、温度変化への対応性、これらが繰り返される経時変化、耐内容物への抵抗性等の耐久性が優れるものであり、本発明の接着剤は、フィルム、シート、粉体塗装等で、予め該口金部材の一端に形成された円盤部に接着材層を形成させる。特に粉体塗装によって塗膜形成を行うことが、溶剤が不要であること、均一な塗膜が形成され、比較的薄い塗膜で接着強度等の性能が発揮されるので好ましい。また、上記予め該口金部材の円盤部に接着剤を塗膜する際に、該口金部材の円盤部の一部または全面に、所望により粗面化処理を行い、上述の下地剤処理で表面処理を行っておくことが肝要である。
また他の態様としては、予め下地処理剤を施した口金部材を用いて、多層ブロー成形法等により合成樹脂製ライナー材の外層および/または最内層に接着剤層を形成し、その接着剤層を介して合成樹脂製ライナー材と下地処理剤付口金部材とを接着または溶着する方法、あるいは該口金部材に線刻および/または溝部を設けて下地処理剤を塗工し、その下地処理した線刻および/または溝部に接着剤を埋没させて接着樹脂層を形成し、その接着樹脂層を介して、ブロー成形法や射出成形法によって合成樹脂製ライナー材と口金部材とを接着または溶着する方法、さらに合成樹脂製ライナー材に上記接着剤を直接配合し、該合成樹脂製ライナー材と下地処理剤付口金部材とを接着または溶着する方法が挙げられる。
【0088】
該粉体塗装とは、静電粉末塗装法、流動浸漬法、溶射法等が一般的に挙げられるが、本発明では特に限定されないが、中でも静電塗装法が好ましい。該静電粉末塗装法では、プラスチック粉末を噴射ガンの出口で負に帯電させ、接地された被塗膜製品に向けて噴射すると、プラスチック粉末は静電的な引力で、製品の表面に均等に付着し、これを加熱炉に送り、粉末を溶融させて均一な塗膜を形成させる噴射ガンを使用する方法や静電流動浸漬法などがあるがいずれの方法でもよい。
【0089】
上記粉体塗装に用いられる接着剤の粉末は、望ましくは密度0.90〜0.97g/cm、好ましくは0.91〜0.96g/cm、より好ましくは0.92〜0.95の範囲である。密度が0.90g/cm未満では、接着強度が低下する惧れが生じ、0.97g/cmを超える場合は、耐久性が低下する惧れが生じる。
また、メルトフローレートは、0.01〜100g/10min、好ましくは0.05〜50g/10min、より好ましくは0.1〜40g/10minの範囲である。MFRが0.01g/10min未満では成形加工性に難点が生じる惧れがあり、100g/10minを超える場合では衝撃強度等の強度が低下する惧れを生じる。
【0090】
該粉末の中位粒度は、望ましくは90〜150メッシュ(標準ふるい:JIS Z8801)、好ましくは100〜140メッシュ、より好ましくは110〜130メッシュ、嵩比重(JIS K8721に準拠)0.20〜0.50g/cc、好ましくは0.25〜0.40、より好ましくは0.30〜0.35の範囲である。
また、該粉末の静止摩擦係数(JIS K8721に準拠)は0.7〜0.9の範囲であり、好ましくは0.75〜0.85の範囲であることが望ましい。これら粉末の粒径、嵩比重、静止摩擦係数が上記範囲を逸脱する場合には、均一な塗膜や、錠止溝等の細部の個所までうまく塗装ができない場合が生じる。
【0091】
また、本発明の接着剤層の厚みは、上記の粉体塗装の場合の塗膜の厚みは10μm〜2mm、好ましくは50μm〜1.5mm、より好ましくは、300μm〜1mmの範囲であることが望ましい。厚みが10μm未満では接着強度が十分でなく、繰り返しの収縮運動等で、ガス漏れが起きる懸念が生じ、2mm以上では厚すぎて、気泡が発生するなどの不具合が発生する可能性が高くなり、接着剤層を起点にガス漏れの発生の起因となる惧れが生じる。
しかし、粉体塗装以外のフィルム、シート、あるいはライナー材に設ける接着剤層の厚みは10〜5mm程度の範囲で選択される。該接着剤層の厚みが10μm未満では粉体塗装と同じく、接着力不足となり、5mm以上厚くしても接着効果は向上せず、コスト高になり、経済性を損ねるものとなる。
【0092】
3.圧力容器
以下に本発明の圧力容器について具体的に詳述する。
本発明に係る圧力容器は、前述の通り、図2に示されるように、外側の補強材層2(外側壁)と内側の合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1(内側壁)とで構成され、該圧力容器の少なくとも一方の端部に、予め特定の性状を満足する下地処理剤4aおよび接着剤4bが施された、高圧ガスの充填、排出用のノズル取付けのための口金部材3が装着され、該圧力容器の合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1の内側の肩部と該口金部材3の一端に形成された円盤部8とを、ガス漏れを抑止するために、該接着剤4bを介して接着または溶着してなる圧力容器10である。
【0093】
(1)合成樹脂製ライナー材
内側の中空容器1を形成する合成樹脂製ライナー材は、圧力容器10に充填された高圧ガスを収納して、漏洩しないガスバリア性を有することが必要であり、その具体例としては、高密度ポリエチレン樹脂、架橋ポリエチレン、ポリプロピレン樹脂、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等ポリエステル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリイミド樹脂等のエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
上記合成樹脂製ライナー材は、中でもポリエチレン系樹脂が、ガスバリア性、加工性、作業性、経済性等の観点から最も好ましい。
上記ポリエチレン系樹脂を合成樹脂製ライナー材として用いる場合においては、密度が、0.920〜0.970g/cm、好ましくは、0.930〜0.960g/cm、さらに好ましくは、0.940〜0.950g/cmの範囲であることが望ましい。
上記密度が0.920g/cm未満では、剛性が不足しタンク口部強度の剛性が不足し、密度が0.970g/cmを超えるものは耐久性が低下する惧れが生じる。
また、上記ポリエチレン系樹脂においては、ハイロードメルトフローレート:HLMFR(JIS K6922−1(1997)、条件D(温度190℃、荷重211.8Nにて測定)が2〜70g/10分、好ましくは、3〜60g/10分、さらに好ましくは、4〜50g/10分であるものが望ましい。このような範囲であると、特に多層ブロー成形によって、合成樹脂製ライナー材と接着剤とを同時に押出す際に層乱れがなく、表面層が良くなることから好ましい。
上記HLMFRが2g/10分未満では、樹脂圧力が上昇し押出特性が低下し、70g/10分を超える場合では、衝撃性、耐久性が不足する惧れが生じる。
これら合成樹脂製ライナー材は、上記熱可塑性樹脂の単層体、複層体、複合材料とから構成されていても良い。例えば、高密度ポリエチレン樹脂の単層、あるいは該樹脂層内に、エンジニアリングプラスチック、金属部材、無機充填剤が分散された複合材料で、形成されていても良いし、少なくとも熱可塑性樹脂層/接着層/バリア層を含む多層構造からなる積層体としてもよい。
【0094】
上記エンジニアリングプラスチックとしては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12などの各種ポリアミド(PA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA)などの水酸基含有各種樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)やポリブチレンテレフタラート(PBT)などの各種ポリエステル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS)、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂やポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などが挙げられる。
【0095】
また、上記金属部材としては、鉄、アルミニウム、銅、錫、亜鉛、ニッケル、チタンなどの金属類や、これらを含む各種合金が挙げられる。
【0096】
また、無機充填剤としては、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、雲母などが挙げられるが、中でも平均粒径が0.5〜10μmの板状晶構造を持つ微粉末タルクや微粉末雲母が好適である。
【0097】
また、積層構造の合成樹脂製ライナー材としては、上記の高密度ポリエチレン樹脂などの熱可塑性樹脂層/接着材層/バリア層の3種3層構造、熱可塑性樹脂層/接着材層/バリア層/接着材層/熱可塑性樹脂層の3種5層構造の積層体、熱可塑性樹脂層/リグラインド層/接着材層/バリア層/接着材層/熱可塑性樹脂層の4種6層構造などの3層以上の積層体が挙げられるほか、熱可塑性層/接着材層の2種2層や接着材層/バリア層/接着材層の2種3層などからなる積層体が挙げられる。
前記バリア材層に好適に使用される材料としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂等が挙げられる。
接着材層としては、本発明の接着剤4やエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂等の一般の接着剤が使用することができる。
これらのライナー材を用いて中空容器とする場合には、ブロー成形法、射出成形法、回転成形法、圧縮成形法などの成形法によって製造することができる。中でも、ブロー成形法、射出成形法によるのが好適である。
【0098】
(2)外側の補強材
外側の補強材層2を形成する補強材は、内側の合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1を覆い、圧力容器10の耐圧性能を向上させる役割を担うものであり、アルミニウム、チタン、軽合金等の軽量の金属材で構成しても良いが、成形加工性、軽量化等を考慮した場合においては、繊維強化プラスチック(FRP:fiber reinforced plastics)あるいは繊維強化金属複合材料(FRM:fiber reinforced metal)で構成するのが好適である。すなわち、内側壁を構成する合成樹脂製ライナー材をブロー成形等で成形された筒状の中空容器1の外周壁を覆うようにFRP製の補強材層2を形成するためには、上記内側の筒状中空容器1の外周壁に、フィラメントワインディング法やテープワインディング法等によって、ヘリカル巻層、フープ巻層、レーベル巻層など、樹脂を含浸させた補強繊維束の巻層を形成し、ついで樹脂を加熱して溶融または硬化させて成形することによって外側壁の補強材層2とすることができる。補強材層2の強度は、巻層を形成する補強繊維の種類、巻付ける形態、巻付ける厚さ、樹脂の種類、樹脂の厚さなどを種々組合わせることにより、目的に合った好適な範囲の補強材層2とすることができる。また、織物などのような連続した補強材に熱硬化性樹脂を含浸させて成形するプリプレグ法等他の方法で形成しても良い。
【0099】
巻層を形成するための補強繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、有機高弾性率繊維(例えばポリアラミド繊維)、無機繊維(金属繊維、ウイスカ、ボロン繊維、チラノ繊維)などが挙げられ、これらは1種類でも2種類以上を併用することもできる。
これらの補強繊維は、比強度、比弾性率に優れ、ワインディング時の糸切れや毛羽の発生がほとんどなく、生産性の向上、耐衝撃性能の低下防止などの観点から、炭素繊維が特に好ましい。
【0100】
外側壁の補強材層2の形成用樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ABS樹脂、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドなどのエンジニアリングプラスチック、ポリプロピレン、ポリ4−メチルー1−ペンテン樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、強度等の性能や経済性等の観点から一般的に熱硬化性樹脂が好ましい。
【0101】
図3は本発明の好ましい製造方法の一例であるブロー成形法の主要部の断面図を示したものである。
図3において、少なくとも金型と口金の支持台を具備したブロー成形装置の少なくとも1端部の口金部材3の支持台15に係属する支持部材14の上下に、下地処理剤4a、4a´および接着剤4b、4b´を口金部材1の一端の円盤上部に塗装された口金部材3、3´が支持され、ブロー成形機(図示せず)のダイス11から中空容器1を形成する筒状のパリソン12(a,b)を押出し、金型13(a,b)間に垂下させ、該パリソン12(a,b)で金型内に設置された口金部材3の一端部に形成された円盤部を覆い、次いで、まだ十分パリソンがやわらかい状態で該金型13(a,b)を型閉めし、該パリソン12(a,b)を縮径させ、口金部材3、3´の首部をパリソン12(a,b)と同時にピンチし、密閉された金型に気体を吹込んで、パリソン12(a,b)を金型13(a,b)壁に押圧して容器を形成させ、同時に中空容器1内側の肩部と、口金部材3、3´の円盤部8に予め塗布された下地処理面上の接着剤4b、4b´とが内圧により融着され中空容器1が作製される。次いで該中空容器1の合成樹脂製ライナー材の外周を、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させた、カーボンファイバー糸や束、ガラス繊維糸や束等の繊維糸、束、マット等により、被覆して、硬化させて繊維強化材2(CFRP,GFRP等)層を形成し、圧力容器10を製造するものである。
【0102】
本発明の圧力容器の製造方法において、合成樹脂製ライナー材から形成される中空容器の製造方法は、ブロー成形法に限定されるものではなく、射出成形、回転成形、圧縮成形等によって製造しても良いが、製造時に口金部材が一体化でき、製造工程が簡単で、製造コストも安く、経済的であるため、ブロー成形法を採用することが好ましい。
【0103】
4.圧力容器の用途
本発明に係る圧力容器は、これに充填されるガスの種類は制限されるものではなく、天然ガス、液化石油ガス、窒素、酸素、水素、ヘリウムガス、アルゴンガス、ロケット燃料などが挙げられ、口金部材と合成樹脂製ライナー材との接着力が高く、気密性が優れるなどの点からいずれにも好適に使用できる圧力容器である。
【実施例】
【0104】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限りこれら実施例によって制約をうけるものではない。なお、実施例および比較例において、物性の評価は次の通りである。
【0105】
1.測定法
(1)メルトフローレート:MFR(単位:g/10min):JIS K6922−1(1997)、条件D(温度190℃、荷重21.18N)に準拠して測定した。
(2)ハイロードメルトフローレート((単位:g/10min):JIS K6922−1(1997)、条件D(温度190℃、荷重211.8N)に準拠して測定した。
(3)中位粒度:JIS Z8801(標準ふるい)に準拠して測定した。
(4)嵩比重:JIS K8721に準拠して測定した。
(5)静止摩擦係数:JIS K8721に準拠して測定した。
(6)接着剤層厚:静電塗装により接着剤を塗装した口金部の円盤部の任意箇所(5箇所)を選択し、下記厚み計((株)キーエンス社製EX―V)を用いて塗装膜厚を測定した。またシート厚についても同様に測定した(測定値は5点の平均値)。
[厚み計]
デジタル変位センサによる高精度過電流式:対象物とセンサヘッドの距離が近づくにつれ、過電流が大きくなり、発信振幅は小さくなる。この発信振幅を整流して直流電圧の変化とする。整流された信号と距離とはほぼ比例関係にあって、リニアライズ回路で直線性の補正を行い、距離と比例したリニアな出力を得る。厚みはデジタルで表示される。
(7)接着剤層外観性:静電塗装により接着剤を塗装した口金部の円盤部に形成された塗装膜やシートで形成された接着剤層の表面平滑性および表面状態を目視で観察した。
(8)接着強度:口金平面部の樹脂層のみをカッターを用いて幅10mm、長さ3cm程度捲(めくり)出し、テンシロンを用いて、テンシロンの引張速度50mm/min、長さ5cm、180度剥離で接着強度を測定した(測定値は5点の平均値)。
(9)ガス漏れテスト:圧力容器10に30MPaの水素ガスを充填し、室温で、30日間放置後のタンク内圧力の経時変化による。○はガス漏れなし、×はガス漏れあり。
【0106】
2.実施例
以下本発明を粉体塗装等で実施した例示によって実証する。
<実施例1>
[官能基含有ポリエチレン樹脂(X1)の製造]
高密度ポリエチレン樹脂(密度:0.958g/cm、MFR:20g/10分、銘柄:HS490P、日本ポリエチレン(株)社製、A1と称す)80重量部と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.921g/cm、MFR:16g/10分、銘柄:UJ370G、日本ポリエチレン(株)社製、B1と称す)20重量部からなる粉末状のポリエチレン系樹脂混合物(A1+B1)100重量部に、無水マレイン酸0.8部および2,5−ジメチル−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.02部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合した後、モダンマシナリー(株)製50mm単軸押出機を用いて、スクリュー回転数50rpm、樹脂温度280℃の条件で溶融混練し、MFR8g/10min、密度0.950g/cm、グラフトモノマー量0.5重量%の官能基含有ポリエチレン系樹脂(X1)を得た。
【0107】
[接着樹脂粉体(Z1)の製造]
官能基含有ポリエチレン樹脂(X1)20重量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製、Y1(B2)と称す)80重量%を90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて、粉砕した後、平滑処理をして、表1に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z1)を作製した。接着剤(Z1)としての密度及びMFRは、それぞれ、表1に示すとおりの値であった。
【0108】
[口金部材の下地処理]
水500質量部、グリセリル化キトサン10質量部、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸10質量部を混合した液を4時間撹拌することによってグリセリル化キトサンを十分に溶解させた。得られた溶解液にフッ化クロム(3価Cr)5質量部を添加して、下地処理剤を得た。次いで、アルミニウム製の口金部材の円盤部に前記下地処理剤をロールコーターで塗布した後、200℃で30秒間加熱乾燥することによって、下地処理層(皮膜、図2の4b)を形成せしめた。
【0109】
[静電塗装]
静電塗装機(GEMA社製)を用いて、静電塗装ガンで、加電圧45KVで上記接着樹脂粉体を図1に示されるような一端に円盤部を有する口金部材の円盤部8に表1に示すような塗膜厚300μmに静電塗布後、200℃のオーブンに30分間入れ、塗布された口金部材を得た。その結果(接着強度、塗面平滑性等)を表1に示した。
【0110】
[圧力容器の製造]
図3に示したように、上記塗装された口金部材を支持台15に係属する支持部14の上下にインサートし、口金部材3、3´を設置して、(株)日本製鋼所製NB150連続多層中空成形機を用い、下記条件で、ブロー成形機(図示せず)のダイス11から筒状のパリソン12(a,b)を押出し、金型13(a,b)間に垂下させ、まだ十分パリソンがやわらかい状態で該金型13(a,b)を型閉めし、該パリソン12(a,b)を縮径し、口金部材3、3´の首部をパリソン12と同時にピンチして、空気をブローしてパリソン12を金型13壁に押圧して合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器1を形成する。一方、中空容器1の肩部7と、口金部材3の円盤部8に予め塗布された下地処理剤4a上の接着剤4bとは内圧により、口金部材3(ロッド)が中空容器1の肩部7に押圧されて、融着され、容積30リットルの口金部が接着された中空容器1を作製した。次いで中空容器1の外周を、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含浸させた、カーボンファイバー束を被覆巻回した後、エポキシ樹脂を硬化させてカーボンファイバー繊維強化材(CFRP)層2を形成し、圧力容器10を製造した。
この圧力容器10を用いて、30MPaの水素ガスを充填し、ガス漏れの有無を確認した。ガス漏れの有無については、60℃×60日または室温×30日間放置後のタンク内圧力の経時変化により行った。その結果を表1に示した(○はガス漏れなし、×はガス漏れあり)。
上記の原材料の物性、圧力容器の評価結果等を表1に示した。
【0111】
[ブロー成形条件]
成形温度210℃、ブロー圧力1.4MPa、金型温度20℃、吹込時間130secの条件で、外層側から高密度ポリエチレン層/リグラインド層/接着材層/ガスバリヤ−層(EVOH層)/接着材層/高密度ポリエチレン層(最内層)の4種6層(層厚:0.7mm(最外層)/2.0mm/0.1mm/0.15mm/0.1mm/2.0mm(最内層))の円筒状の中空容器を製造した。具体的な層構成は以下のとおりである。
【0112】
<層構成>
[内外の高密度ポリエチレン樹脂層]
商品名:ノバテックHD HB111R、日本ポリエチレン(株)社製、密度=0.945g/cm、メルトフローレート(MFR:測定温度190℃、荷重21.18N)=0.04g/10min、ハイロードメルトフロート(HLMFR:測定温度190℃、荷重211.8N)=6g/10min.
[リグラインド材層]
高密度ポリエチレン樹脂、接着材、エチレン−ビニルアルコール共重合体の組成比率は、各々87.2重量%、6.5重量%、6.3重量%である。
[接着材層]
商品名:アドテックス FT61AR3、日本ポリエチレン(株)社製、密度0.933g/cm、MFR0.6g/10min。
[ガスバリヤ−層]
エチレン−ビニルアルコール共重合体層(EVOH層)
商品名:エバールF101B(株)クラレ製)
【0113】
<実施例2〜3>
[官能基含有ポリエチレン樹脂(X2)の製造]
粉末状の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製 (B2と称す)100重量部に、無水マレイン酸0.8部および2,5−ジメチル−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.02部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合した後、モダンマシナリー(株)製50mm単軸押出機を用いて、スクリュー回転数50rpm、樹脂温度280℃の条件で溶融混練し、MFR4g/10min、密度0.925g/cm、グラフトモノマー量が0.5重量%の官能基含有ポリエチレン樹脂(X2)を得た。
【0114】
[接着樹脂粉体(Z2)の製造]
官能基含有ポリエチレン樹脂(X2)20重量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製 Y1(B2)と称す)80重量%を、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理して、表1に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z2)を作製した。接着樹脂粉体(Z2)としての密度及びMFRは、それぞれ、表1に示すとおりの値であった。
上記接着樹脂粉体(Z2)を用いて、実施例1と同様に口金部材の円盤部に静電塗装を行い、厚み塗膜300μmと800μmの2種の口金部材を作製し、その物性を表1に示した。次いでこの口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表1に示した。
【0115】
<実施例4>
[官能基含有ポリエチレン樹脂(X3)の製造]
[官能基含有ポリエチレン樹脂(X3)の製造]
粉末状のシングルサイト系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.930g/cm、MFR:3g/10分、銘柄:ハーモレックスLL NW584N、日本ポリエチレン(株)社製、B3と称す)100重量部に、無水マレイン酸0.6部および2,5−ジメチル−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.02部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合した後、モダンマシナリー(株)製50mm単軸押出機を用いて、スクリュー回転数50rpm、樹脂温度280℃の条件で溶融混練し、MFR2g/10min、密度0.930g/cm、グラフト化率0.4重量%の官能基含有ポリエチレン樹脂(X3)を得た。
【0116】
[接着樹脂粉体(Z3)の製造]
官能基含有ポリエチレン樹脂(X3)20重量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製 Y1(B2)と称す)80重量%を、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理して表1に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z3)を作製した。接着樹脂粉体(Z3)としての密度及びMFRは、それぞれ、表1に示すとおりの値であった。
上記接着樹脂粉体(Z3)を用いて、実施例1と同様に口金部材の円盤部に静電塗装を行い、厚み塗膜300μmの口金部材を作製し、その物性を表1に示した。次いでこの口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表1に示した。
【0117】
<実施例5>
[接着樹脂粉体(Z4)の製造]
官能基含有ポリエチレン樹脂(X1)20重量%と高密度ポリエチレン樹脂(密度:0.963g/cm、MFR:7.0g/10分、銘柄:HM560N、日本ポリエチレン(株)社製、A2と称す)80重量%を、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理して表1に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z4)を作製した。接着樹脂粉体(Z4)としての密度及びMFRは、それぞれ、表1に示すとおりの値であった。
上記接着樹脂粉体(Z4)を用いて、実施例1と同様に口金部材の円盤部に静電塗装を行い、厚み塗膜300μmの口金部材を作製し、その物性を表1に示した。次いでこの口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表1に示した。
【0118】
【表1】

【0119】
<実施例6〜9>
[官能基含有ポリエチレン樹脂(X4)〜(X7)の製造]
直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.921g/cm、MFR:16g/10分、銘柄:UJ370G、日本ポリエチレン(株)社製 B1と称す)80重量部と低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.919g/cm、MFR:8.5g/10分、銘柄:LC607A、日本ポリエチレン(株)社製、C1と称す)20重量部とからなる粉末状のポリエチレン樹脂混合物(B1+C1)100重量部に、無水マレイン酸0.8部および2,5−ジメチル−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.02部を添加し、ヘンシェルミキサーで混合した後、モダンマシナリー(株)製50mm単軸押出機を用いて、スクリュー回転数50rpm、樹脂温度280℃の条件で溶融混練し、官能基含有ポリエチレン樹脂(X4)を得た。
また、官能基含有ポリエチレン系樹脂用の下記原料樹脂A、B、CおよびDの各樹脂を表2に示す割合で配合し、上記官能基含有ポリエチレン樹脂(X4)と同様にして官能基含有ポリエチレン樹脂(X5)〜(X7)を得た。
原料樹脂:
A1:高密度ポリエチレン樹脂(密度:0.958g/cm、MFR:20g/10分、銘柄:HS490P、日本ポリエチレン(株)社製
B1:直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.921g/cm、MFR:16g/10分、銘柄:UJ370G、日本ポリエチレン(株)社製
C1:低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.919g/cm、MFR:8.5g/10分、銘柄:LC607A、日本ポリエチレン(株)社製
D1:直鎖状超低密度ポリエチレン(密度:0.870g/cm、MFR:5g/10分、銘柄:エンゲージ8200、ダウ・ケミカル日本(株)製
【0120】
[接着樹脂粉体(Z5)〜(Z8)の製造]
官能基含有ポリエチレン樹脂(X4)〜(X7)の各20重量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製 Y1(B2)と称す)80重量%を、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理して表2に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z5)〜(Z8)を作製した。各接着樹脂粉体(Z5)〜(Z8)の密度及びMFRは、それぞれ、表2に示すとおりの値であった。
上記接着樹脂粉体(Z5)〜(Z8)を用いて、実施例1と同様に口金部材の円盤部に静電塗装を行い、厚み塗膜300μmの口金部材を作製し、その物性を表2に示した。
また、この口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表2に示した。
【0121】
【表2】

【0122】
<実施例10〜12>
接着樹脂粉体(Z9)として、実施例1で使用した官能基含有ポリエチレン樹脂(X1)の20重量%と、未変性ポリエチレン樹脂(Y)として低密度ポリエチレン(密度:0.919g/cm、MFR:8.5g/10分、銘柄:LC607A、日本ポリエチレン(株)社製 Y2(C1)と称す)80重量%を溶融混練し、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理して表3に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z9)を作製した。上記接着樹脂粉体(Z9)を用いて、実施例1と同様に口金部材の円盤部に静電塗装を行い、厚み塗膜300μmの口金部材を作製し、その物性を表3に示した。
また、接着樹脂粉体(Z10)については実施例1で使用した官能基含有ポリエチレン樹脂(X1)の50重量%と、未変性ポリエチレン(Y)として直鎖状超低密度ポリエチレン(密度:0.870g/cm、MFR:5g/10分、銘柄:エンゲージ8200、ダウ・ケミカル日本(株)社製、Y3(D1)と称す))50重量%を90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて、表3に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z10)を作製した。
さらに、接着樹脂粉体(Z11)については、実施例1で使用した官能基含有ポリエチレン樹脂(X1)の50重量%と、熱可塑性エラストマー(密度:0.870g/cm、MFR:5g/10分、銘柄:タフマーP−0180、三井化学(株)社製)50重量% Y4(E1)と称す)を、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理して表3に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z11)を作製した。
上記接着樹脂粉体(Z9)〜(Z11)を用いて、実施例1と同様に口金部材の円盤部に静電塗装を行い、厚み塗膜300μmの口金部材を作製し、その物性を表3に示した。
またこれらの口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表3に示した。
【0123】
<実施例13>
官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)としてエチレン−無水マレイン酸(MAH)−メチルアクリレート(MA)のランダム三元共重合体(密度=0.94g/cm、MFR=8、MAH=3重量%、MA=10重量%、日本ポリエチレン(株)社製、ETと称す)20重量%と直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製 Y1(B2)と称す)80重量%を、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理して表3に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z12)を作製した。
上記接着樹脂粉体(Z12)を用いて、実施例1と同様に口金部材の円盤部に静電塗装を行い、厚み塗膜300μmの口金部材を作製し、その物性を表3に示した。
また、この口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表3に示した。
【0124】
<実施例14>
変性ポリエチレン系樹脂(X1)20重量%と直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)製 Y1(B2)と称す))80重量%を、単軸押出機を用いて200℃にて溶融混練後、Tダイ成型機にて500μmのシートを作成し、200℃のオーブンにて30分間予熱した口金に圧着させることにより作製した口金部材の接着強度は実施例1の粉体塗装のものと同じであった。この口金部材を実施例1と同様ににして圧力容器を製造し、評価した結果、ガス漏れは確認されなかった。評価結果を表3に示した。
【0125】
【表3】

【0126】
<比較例1>
[樹脂粉体(Z13)の製造]
上記実施例1において、接着樹脂の代わりに口金部材に未変性直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製 Y1(B2)と称す)粉体(Z13)を使用した以外は実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表4に示した。
【0127】
<実施例15>
[接着樹脂粉体(Z13)の製造]
官能基含有ポリエチレン樹脂(X2)20重量%と、未変性ポリエチレン(Y)として直鎖状超低密度ポリエチレン(密度:0.870g/cm、MFR:5g/10分、銘柄:エンゲージ8200、ダウ・ケミカル日本(株)社製 Y5(D1)と称す)80重量%を溶融混練あるいはドライブレンド後、40メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理して表4に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z14)を作製した。接着樹脂粉体(Z14)としての密度及びMFRは、それぞれ、表4に示すとおりの値であった。
上記実施例1の方法と同じように口金部材に静電塗装して、その塗膜の接着強度、塗面平滑性等を表4に示した。
また、その口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表4に示した。
【0128】
【表4】

【0129】
<参考例1、2>
粉体塗装における粉体性状について評価した結果を以下に示した。
官能基含有ポリエチレン樹脂(X2)20重量%と未変性直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製 Y1(B2)と称す)80重量%を溶融混練あるいはドライブレンド後、60メッシュのふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理して表5に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z15)を作製した。
上記接着樹脂粉体(Z15)を使用して、実施例1の方法と同じように口金部材に静電塗装により、300μm、800μmの塗膜を形成した口金部材を作製した。その塗膜の接着強度、塗面平滑性等を表5に示した。
また、その口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表5に示した。
【0130】
<参考例3>
官能基含有ポリエチレン樹脂(X2)20重量%と未変性直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製Y1(B2)と称す)80重量%を溶融混練あるいはドライブレンド後、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて、表5に示したような性状を有する接着樹脂粉体(Z16)を作製した。接着樹脂粉体(Z16)の密度及びMFRは、それぞれ、表5に示すとおりの値であった。
上記接着樹脂粉体(Z16)を使用して、実施例1の方法と同じように口金部材に静電塗装により、2.3mmの塗膜を形成した口金部材を作製した。その塗膜の接着強度、塗面平滑性等を表5に示した。
また、その口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表5に示した。
【0131】
<参考例4>
官能基含有ポリエチレン樹脂(X2)20重量%と未変性直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製Y1(B2)と称す)80重量%を溶融混練あるいはドライブレンド後、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機を用いて粉砕後、平滑処理を行わないで、表5に示したような静止摩擦係数を有する接着樹脂粉体(Z16)を作製した。接着樹脂粉体(Z17)の密度及びMFRは、それぞれ、表5に示すとおりの値であった。
上記接着樹脂粉体(Z17)を使用して、実施例1の方法と同じように口金部材に静電塗装により、300μmの塗膜を形成した口金部材を作製した。その塗膜の接着強度、塗面平滑性等を表5に示した。
また、その口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表5に示した。
【0132】
<参考例5>
官能基含有ポリエチレン樹脂(X2)20重量%と未変性直鎖状低密度ポリエチレン(密度:0.924g/cm、MFR:9g/10分、銘柄:Z50MG、日本ポリエチレン(株)社製Y1(B2)と称す)80重量%を溶融混練あるいはドライブレンド後、90メッシュふるいをセットした機械式粉砕機のカッタークリアランスを調製し、表5に示したような嵩比重を有する接着樹脂粉体(Z18)を作製した。接着樹脂粉体(Z18)の密度及びMFRは、それぞれ、表5に示すとおりの値であった。
上記接着樹脂粉体(Z18)を使用して、実施例1の方法と同じように口金部材に静電塗装により、300μmの塗膜を形成した口金部材を作製した。その塗膜の接着強度、塗面平滑性等を表5に示した。
また、その口金部材を使用して実施例1と同様に圧力容器を製造し、評価した結果を表5に示した。
【0133】
【表5】

【0134】
3.評価結果
表1〜表3の実施例1〜実施例14に示されるように、予め下地処理を行い、粉体塗装のような接着剤を均一に施した口金部に使用することにより、飛躍的に接着強度が向上し、ガス漏れがなく、気密シール性(耐圧性)、耐久性等の著しく向上した圧力容器が提供される。
また、表4の比較例1のように接着樹脂なしの本発明の特許請求の範囲外では、接着強度が低く、気密シール性が悪かった。また、実施例15の密度を低くした場合には接着剤層が柔らかくなり、幾分塗装ムラが生じ、ガス漏れテストでは50日で漏れが発生し出した。しかし、ガス充填圧力が低い場合には十分に使用可能である。
【0135】
また、粉体塗装における粉体性状について評価した結果、表5の参考例1および2に示されるように、中位粒度が80メッシュ、参考例3のように、接着剤層の厚みは2.3mm、参考例4に示されるように静止摩擦係数が0.95、参考例5の嵩密度が0.18の場合においては、いずれも気泡や、塗装ムラが生じ、均一な塗膜層が得られず、気密シール性(耐圧性)、耐久性等が低下することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の耐圧容器およびその製造方法により、合成樹脂製ライナー材で形成される中空容器の内側壁と口金部材との接着力を向上させ、気密シール性が高められた圧力容器及びその圧力容器を簡単な工程で経済的に製造できる製造方法を提供できることから、家庭用液化石油ガス容器、自動車用液化石油ガス容器、圧縮天然ガス(CNG:Compressed Natural Gas)、酸素や窒素などを保管する産業用圧力容器、燃料電池用水素タンク等として使用できる樹脂製の圧力容器等に特に好適に用いることができるため、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】図1は、本発明の好ましい口金部材の一例の一部切欠断面図である。
【図2】図2は、本発明の圧力容器の一例の一部切欠断面図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい製造方法の一例であるブロー成形法の主要部の断面図である。
【符号の説明】
【0138】
1:中空容器1
2:補強材層
3、3´:口金部材
4a:下地処理剤
4、4´、4b:接着剤
5:外側口金部
6:Oリング
7:中空容器の肩部
8:口金の円盤部
10:圧力容器
11:押出しダイス
12a:パリソンa
12b:パリソンb
13a:金型a
13b:金型b
14:支持部
15:支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器と、該中空容器の外層に設けられた補強材で形成された補強材層とを有し、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器に用いられる口金部材であって、該口金部材が下記の下地処理剤により処理されている口金部材。
[下地処理剤]
キトサン及びキトサン誘導体からなる群より選ばれた1種または2種以上のキトサン類と、Ti、Hf、Mo、W、Se、Ce、Fe、Cu、Zn、V及び3価Crからなる群より選ばれた1種または2種以上の金属を含む金属化合物とを含有してなる下地処理剤
【請求項2】
前記下地処理剤により処理してなる処理面上に、さらに接着剤による接着剤層を設けてなる請求項1に記載の口金部材。
【請求項3】
前記接着剤が、下記(a)〜(e)の少なくとも1種の官能基を含有するポリオレフィン系樹脂またはその組成物からなる接着剤である請求項2に記載の口金部材。
[官能基]
(a)カルボン酸基またはカルボン酸無水物基
(b)エポキシ基
(c)ヒドロキシル基
(d)アミノ基
(e)シリル基
【請求項4】
前記接着剤が、前記(a)〜(e)の少なくとも1種の官能基を含有する下記(A)〜(D)から選択された1種のポリエチレン系樹脂(X)0.5〜100重量%と、下記(A)〜(E)から選択された少なくとも1種の未変性ポリエチレン系樹脂(Y)0〜99.5重量%とからなる、(z1)密度0.86〜0.97g/cm、(z2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの接着樹脂(Z)からなる請求項3に記載の口金部材。
(A):(a1)密度0.94〜0.97g/cm、(a2)メルトフローレート0.01〜100g/10minを有する高密度ポリエチレン系樹脂
(B):(b1)密度0.90〜0.94g/cm未満、(b2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂
(C):(c1)メルトフローレート0.01〜100g/10minの高圧ラジカル法ポリエチレン系樹脂
(D):(d1)密度0.86〜0.90g/cm未満、(d2)メルトフローレート0.01〜100g/10minの超低密度ポリエチレン系樹脂
(E):熱可塑性エラストマー
【請求項5】
前記(A)、(B)または(D)が、シングルサイト系触媒で製造されたポリエチレン系樹脂である請求項4に記載の口金部材。
【請求項6】
前記接着樹脂(Z)が、官能基含有ポリエチレン系樹脂(X)5〜95重量%と、未変性ポリエチレン系樹脂(Y)5〜95重量%とからなる請求項4又は5に記載の口金部材。
【請求項7】
前記接着剤が、前記(a)〜(e)の少なくとも1種の官能基を、接着剤全体の重量を基準として、0.001〜30重量%含有する請求項3〜6のいずれか一項に記載の口金部材。
【請求項8】
前記接着剤層が、粉体塗装によって設けられる請求項2〜7のいずれか一項に記載の口金部材。
【請求項9】
前記粉体塗装の際に使用される粉体が、中位粒度が90〜150メッシュ、嵩比重が0.2〜0.5g/cc、および静止摩擦係数が0.7〜0.9である請求項8に記載の口金部材。
【請求項10】
前記粉体塗装によって設けられる接着剤層の厚みが、10μm〜2mmである請求項8又は9に記載の口金部材。
【請求項11】
合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器と、該中空容器の外層に設けられた補強材で形成された補強材層とを有し、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器であって、該口金部材が、請求項1〜10のいずれか1項に記載の口金部材であることを特徴とする圧力容器。
【請求項12】
合成樹脂製ライナー材で形成された中空容器と、該中空容器の外層に設けられた補強材で形成された補強材層とを有し、かつ少なくとも1つの口金部材を有する圧力容器の製造方法であって、該中空容器を、合成樹脂製ライナー材のブロー成形により形成し、かつ、該口金部材は、請求項1〜10のいずれか1項に記載の口金部材を用いることを特徴とする圧力容器の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−164113(P2008−164113A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355939(P2006−355939)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】