説明

可変容量形ポンプ

【課題】カムリングの作動時における駆動トルクの低減を図り得る可変容量形ポンプを提供する。
【解決手段】偏心量が大きくなる方向へカムリング15を付勢する第1スプリング33と、カムリング15の偏心量が所定以上のときに当該偏心量が小さくなる方向へとカムリング15を付勢する第2スプリング34と、ポンプハウジングとカムリング15との間に隔成された制御油室30内に導入される吐出圧と、をもってカムリング15の偏心量を制御するように構成すると共に、前記制御油室30内への吐出圧の導入を制御弁40により制御することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用の内燃機関の各摺動部等に作動油を供給する油圧源に適用される可変容量形ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関に適用される従来の可変容量形ポンプとしては、例えば、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
概略を説明すれば、この可変容量形ポンプは、ベーン式の可変容量形オイルポンプであって、ロータの回転中心に対するカムリングの偏心量が大きくなる方向(以下「偏心方向」と称す。)へ当該カムリングを付勢する第1スプリングと、前記カムリングの偏心量が所定以下となったときに当該カムリングを偏心方向へと付勢する第2スプリングとによるばね力と、ポンプハウジングとカムリングとの間に隔成された制御油室に導入され、前記両スプリングのばね力に抗してカムリングを同心方向(反偏心方向)へ付勢するように作用する吐出圧と、によってカムリングの偏心量を制御することで、吐出量を可変するようになっている。
【0004】
具体的には、エンジンの回転数が上昇してポンプの吐出圧が第1所定油圧に達したところで、カムリングが第1スプリングのばね力に打ち勝って第2スプリングへと当接するまで同心方向へ移動し、その後、さらにエンジンの回転数が上昇してポンプの吐出圧が第2所定油圧に達すると、カムリングが第1スプリングと第2スプリングの両ばね力に打ち勝ってさらに同心方向へと移動する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/003169号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記可変容量形ポンプでは、ポンプの駆動トルクを低減して燃費向上等に貢献するべくカムリングの偏心量を減少させることとしているため、カムリングの各作動後、つまり吐出圧が第1所定油圧に到達後第2所定油圧が必要になる直前及び吐出圧が第2所定油圧に到達後は、エンジン回転数の上昇に伴う吐出圧の上昇が生じないことが望ましい。
【0007】
しかしながら、前記従来の可変容量形ポンプの場合には、前記カムリングの各作動規制に前記各スプリングを用いているため、前記カムリングの各作動時において前記各スプリングのばね定数の分だけエンジン回転数の上昇に伴って吐出圧が上昇してしまうこととなり、燃費やエンジン出力の十分な向上が図れないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、前記従来の可変容量形ポンプの技術的課題に鑑みて案出されたものであって、カムリング作動時における駆動トルクの低減を図り得る可変容量形ポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、偏心量が大きくなる方向へカムリングを付勢する第1付勢部材と、カムリングの偏心量が所定以上のときに当該偏心量が小さくなる方向へとカムリングを付勢する第2付勢部材と、ハウジングとカムリングとの間に隔成された制御油室内に導入される吐出圧と、をもってカムリングの偏心量が制御されることにより吐出量を可変にする可変容量形ポンプであって、とりわけ、吐出圧が、第1付勢部材と第2付勢部材の付勢力の合力に対してはカムリングを移動可能とし、かつ、第1付勢部材のみの付勢力に対してはカムリングを移動可能としない範囲内である所定圧を超えると、制御油室に当該吐出圧を導入するように構成された油圧導入手段を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、カムリングの偏心量が所定以上の比較的大きい状態では、吐出圧が所定圧に達した後に当該吐出圧を制御油室に供給するように構成したことから、前記両付勢部材の合力に抗して行う当該カムリングの移動が速やかに行われることとなり、このカムリングの移動時における吐出圧の不要な上昇の抑制に供される。
【0011】
一方、カムリングの偏心量が所定未満の比較的小さい状態でも、当該カムリングの同心方向の移動を第1付勢部材の付勢力のみで規制するように構成したことにより、このカムリングの移動に要する油圧が低減されて当該カムリングの円滑な移動が図れ、このカムリングの移動時における吐出圧の不要な上昇の抑制に供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る可変容量形ポンプの構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示す可変容量形ポンプの背面図である。
【図3】図2のA−A線に沿う断面図である。
【図4】図3のB−B線に沿う断面図である。
【図5】図3に示すポンプボディ単体をカバー部材との合わせ面側から見た図である。
【図6】図3に示すカバー部材単体をポンプボディとの合わせ面側から見た図である。
【図7】図2のC−C線に沿う断面図である。
【図8】同実施形態に係る可変容量形ポンプの油圧特性を表すグラフである。
【図9】同実施形態に係る可変容量形ポンプの油圧回路図であって、(a)は図8に示す区間aの状態を示し、(b)は図8に示す区間b〜cの状態を、(c)は図8に示す区間dの状態を示している。
【図10】本発明の第1実施形態の変形例に係る可変容量形ポンプの油圧回路図であって、(a)は図8に示す区間aの状態を示し、(b)は図8に示す区間b〜cの状態を、(c)は図8に示す区間dの状態を示している。
【図11】本発明の第2実施形態に係る可変容量形ポンプの油圧回路図であって、(a)は図8に示す区間aの状態を示し、(b)は図8に示す区間b〜cの状態を、(c)は図8に示す区間dの状態を示している。
【図12】本発明の第3実施形態に係る可変容量形ポンプの油圧回路図であって、(a)は図8に示す区間aの状態を示し、(b)は図8に示す区間b〜dの状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る可変容量形ポンプの各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、下記の各実施形態では、この可変容量形ポンプを、自動車用内燃機関の摺動部や機関弁の開閉時期を制御するバルブタイミング制御装置に機関の潤滑油を供給するオイルポンプとして適用した例を示している。
【0014】
図1〜図9は本発明に係るオイルポンプの第1実施形態を示しており、このオイルポンプ10は、図外の内燃機関のシリンダブロックやバランサ装置の各前端部に設けられ、図1〜図4に示すように、一端側が開口形成されて内部にポンプ収容室13が設けられた縦断面ほぼコ字形状のポンプボディ11と当該ポンプボディ11の一端開口を閉塞するカバー部材12とからなるポンプハウジングと、該ポンプハウジングに回転自在に支持され、前記ポンプ収容室13のほぼ中心部を貫通して図外のクランクシャフトないしバランサシャフト等によって回転駆動される駆動軸14と、前記ポンプ収容室13内にて移動(揺動)可能に収容された可動部材であるカムリング15と、該カムリング15の内周側に収容され、駆動軸14により図4中の反時計方向に回転駆動されることで、前記カムリング15との間に形成される複数の作動油室であるポンプ室PRの容積を増減させることでポンプ作用を行うポンプ構成体と、前記ポンプハウジング(カバー部材12)に付設され、後述する制御油室30への吐出圧の導入を制御することでカムリング15の揺動制御に供する油圧導入手段である制御弁40と、を備えている。
【0015】
ここで、前記ポンプ構成体は、カムリング15の内周側において回転自在に収容され、その中心部が駆動軸14外周に結合されたロータ16と、該ロータ16の外周部に放射状に切欠形成された複数のスリット16a内においてそれぞれ出没自在に収容されたベーン17と、前記ロータ16より小径に形成され、当該ロータ16の内周側両側部に配設された一対のリング部材18,18と、から構成されている。
【0016】
前記ポンプボディ11は、アルミニウム合金材により一体に形成されていて、ポンプ収容室13の一端壁を構成する端壁11aのほぼ中央位置には、駆動軸14の一端部を回転自在に支持する軸受孔11bが貫通形成されている。また、ポンプ収容室13の内周壁の所定位置には、棒状のピボットピン19を介してカムリング15を揺動自在に支持する横断面ほぼ半円状の支持溝11cが切欠形成されている。さらに、ポンプ収容室13の内周壁には、軸受孔11bの中心と支持溝11bの中心とを結ぶ直線(以下「カムリング基準線」という。)Mに対して図4中の下半側に、カムリング15の外周部に配設されるシール部材20が摺接するシール摺接面11dが形成されている。このシール摺接面11dは、支持溝11c中心から所定半径R1をもって構成される円弧面状に形成されると共に、カムリング15が偏心揺動する範囲においてシール部材20が常時摺接可能な周方向長さに設定されていて、カムリング15が偏心揺動する際には当該シール摺接面11dに沿って摺動案内されることによって、カムリング15の円滑な作動(偏心揺動)が得られるようになっている。
【0017】
また、前記ポンプボディ11の端壁11aの内側面には、特に図4、図5に示すように、軸受孔11bの外周域に、前記ポンプ構成体によるポンプ作用に伴い前記各ポンプ室PRの容積が拡大する領域(以下「吸入領域」という。)に開口するようにほぼ円弧凹状の吸入部である吸入ポート21が、また、前記各ポンプ室PRの容積が縮小する領域(以下「吐出領域」という。)に開口するようにほぼ円弧凹状の吐出部である吐出ポート22が、それぞれ軸受孔11bを挟んでほぼ対向するように切欠形成されている。
【0018】
前記吸入ポート21は、その周方向ほぼ中間位置に、後記の第1スプリング収容室28側へ膨出するように形成された導入部23が一体に設けられていて、この導入部23と吸入ポート21との境界部近傍であって当該吸入ポート21始端側となる位置には、ポンプボディ11の端壁11aを貫通し外部へと開口する吸入口21aが貫通形成されている。かかる構成から、内燃機関のオイルパン(図示外)に貯留された潤滑油が、前記ポンプ構成体のポンプ作用に伴い発生する負圧に基づき、吸入口21a及び吸入ポート21を介して吸入領域に係る各ポンプ室PRに吸入されるようになっている。なお、前記吸入口21aは、前記導入部23と共に、吸入領域のカムリング15外周域に形成される低圧室35と連通するように構成されていて、当該低圧室35にも前記吸入圧である低圧の作動油を導くようになっている。
【0019】
前記吐出ポート22は、その始端部に、ポンプボディ11の端壁11aを貫通して外部へと開口する吐出口22aが貫通形成されている。かかる構成から、前記ポンプ構成体によるポンプ作用により加圧されて吐出ポート22へと吐出された作動油が、吐出口22aから前記シリンダブロック内に設けられた図外のオイルメインギャラリを介して機関内における各摺動部やバルブタイミング制御装置等(いずれも図示外)へと供給されることとなる。なお、前記吐出口22aは、その一部が吐出ポート22に対して径方向外側へと膨出するように設けられていて、その外周側が、カムリング15の内部に形成される内部通路24を介してカバー部材12に設けられる第1連通孔31とも連通するようになっている。
【0020】
また、前記吐出ポート22の終端側には、当該吐出ポート22と軸受孔11bとを連通する連通溝25が切欠形成されていて、この連通溝25を介して軸受孔11bに作動油を供給すると共にロータ16及び各ベーン17の側部にも作動油を供給することで、各摺動部位の良好な潤滑が確保されている。なお、かかる連通溝25は、各ベーン17の出没方向と合致しないように形成されており、これら各ベーン17が出没する際の当該連通溝25への脱落が抑制されている。
【0021】
前記カバー部材12は、図3、図6に示すように、ほぼ板状を呈し、複数のボルトB1によりポンプボディ11の開口端面に取り付けられるものであって、ポンプボディ11の軸受孔11bに対向する位置には、駆動軸14の他端側を回転自在に支持する軸受孔12aが貫通形成されている。また、かかるカバー部材12には、カムリング15の内部通路24と対向する位置に、該内部通路24を介して吐出口22aと制御弁40の第1ポート51とを連通させる第1連通孔31が貫通形成されていると共に、吐出領域におけるカムリング15の外周域に形成される制御油室30と対向する位置に、該制御油室30と制御弁40の第2ポート52とを連通する第2連通孔32が、それぞれ貫通形成されている。
【0022】
前記駆動軸14は、図3に示すように、ポンプボディ11の端壁11aを貫通して外部へと臨む軸方向一端部が前記図外のクランクシャフト等に連係されていて、当該クランクシャフト等から伝達される回転力に基づいてロータ16を図4中の反時計方向へ回転させる。ここで、図4に示すように、この駆動軸14中心を通り、かつ、前記カムリング基準線Mと直交する直線(以下「カムリング偏心方向線」という。)Nが、吸入領域と吐出領域の境界となっている。
【0023】
前記ロータ16は、図1及び図4に示すように、その中心側から径方向外側へ放射状に形成された前記複数のスリット16aが切欠形成されていると共に、該各スリット16aの内側基端部には、それぞれ吐出油を導入する横断面ほぼ円形状の背圧室16bが設けられていて、当該ロータ16の回転に伴う遠心力と背圧室16b内の圧力とにより、前記各ベーン17が外方へと押し出されるようになっている。
【0024】
前記各ベーン17は、ロータ16の回転時において、各先端面がカムリング15の内周面に摺接すると共に、各基端面が前記各リング部材18,18の外周面にそれぞれ摺接するようになっている。すなわち、これらの各ベーン17は、前記各リング部材18,18によってロータ16の径方向外側へ押し上げられる構成となっており、機関回転数が低く、また、前記遠心力や背圧室16bの圧力が小さい場合であっても、各先端がそれぞれカムリング15の内周面と摺接して前記各ポンプ室PRが液密に隔成されるようになっている。
【0025】
前記カムリング15は、いわゆる燒結金属によりほぼ円筒状に一体形成され、その外周部の所定位置には、ピボットピン19に嵌合することで偏心揺動支点を構成するほぼ円弧凹溝状のピボット部15aが軸方向に沿って切欠形成されると共に、該ピボット部15aに対しカムリング15の中心を挟んで反対側の位置には、その両側に対向配置される、所定のばね定数に設定された第1スプリング33と当該第1スプリング33よりも小さいばね定数に設定された第2スプリング34とに連係するアーム部15bが径方向に沿って突設されている。なお、前記アーム部15bには、その移動(回動)方向の一側部に、ほぼ円弧凸状の押圧突部15cが突設されている一方、他側部には、後述する規制部28の厚さ幅よりも長く設定された押圧突起15dが延設されていて、前記押圧突部15cが第1スプリング33の先端部に、前記押圧突起15dが第2スプリング34の先端部に、それぞれ常時当接することにより、アーム部15bと前記各スプリング33,34とが連係するようになっている。
【0026】
また、かかる構成から、前記ポンプボディ11の内部には、図4及び図5に示すように、前記支持溝11bと対向する位置に、第1、第2スプリング33,34を収容保持する第1、第2スプリング収容室26,27が、図4中の前記カムリング偏心方向線Nに沿うようにポンプ収容室13に隣接して設けられていて、第1スプリング収容室26には、その端壁とアーム部15b(押圧突部15c)との間に、第1スプリング33が所定のセット荷重W1をもって弾装されている一方、第2スプリング収容室27には、その端壁とアーム部15b(押圧突起15d)との間に、前記第1スプリング33よりも小さい線径に設定された第2スプリング34が所定のセット荷重W2をもって弾装されている。そして、前記第1、第2スプリング収容室26,27の間には、段差縮径状に構成された規制部28が設けられていて、この規制部28の一側部にアーム部15bの他側部が当接することにより、該アーム部15bの反時計方向の回動範囲が規制される一方、前記規制部28の他側部に第2スプリング34の先端が当接することにより、該第2スプリング34の最大伸長量が規制されるようになっている。
【0027】
このようにして、前記カムリング15については、前記両スプリング33,34のセット荷重W1,W2の合力W0、すなわち相対的に大きなばね荷重を発揮する第1スプリング33の付勢力をもって、アーム部15bを介してその偏心量が増大する方向(図4中の反時計方向)へ常時付勢されることで、図4に示すように、その非作動状態において、アーム部15bの押圧突起15dが第2スプリング収容室27内へと入り込んで第2スプリング34を圧縮させ、当該アーム部15bの他側部が規制部28の一側部へと押し付けられた状態となり、これによって、その偏心量が最大となる位置に規制されている。
【0028】
また、前記カムリング15の外周部には、図4に示すように、ポンプボディ11のシール摺接面11dと対向するように形成された当該シール摺接面11dと同心円弧状のシール面15fを有する横断面ほぼ三角形状のシール構成部15eが突設されていると共に、このシール構成部15eのシール面15fに、横断面ほぼ矩形状のシール保持溝15gが軸方向に沿って切欠形成されていて、このシール保持溝15g内には、カムリング15の偏心揺動時にシール摺接面11dに摺接するシール部材20が収容保持されている。
【0029】
ここで、前記シール面15fは、前記シール摺接面11dを構成する半径R1よりも僅かに小さい所定の半径R2によって構成されていて、これらシール摺接面11dとシール面15fとの間には、所定の微小なクリアランスが形成されるようになっている。一方、前記シール部材20は、例えば低摩擦特性を有するフッ素系樹脂材によりカムリング15の軸方向に沿って直線状に細長く形成され、シール保持溝15gの底部に配設されたゴム製の弾性部材20aの弾性力によってシール摺接面11dに押し付けられることで、当該シール摺接面11dとシール面15fとの間が液密に隔成されることとなる。
【0030】
さらに、前記カムリング15の外周域には、ピボットピン19とシール部材20とによって前記制御油室30が隔成されていて、当該制御油室30には、第2連通孔32を通じ、制御弁40を介して吐出圧が導入されるようになっている。そして、この制御油室30内に導入された吐出圧が当該制御油室30に面するシール構成部15eの側面によって構成される受圧面15hに作用することで、カムリング15に対してその偏心量を減少させる方向(図4中の時計方向)へ揺動力(移動力)が付与されることとなる。換言すれば、かかる制御油室30は、その内圧をもって、前記受圧面15hを介してロータ16の回転中心に対してカムリング15の中心が同心に近づく方向(以下「同心方向」という。)へと当該カムリング15を付勢することにより、このカムリング15の同心方向の移動量制御に供されている。
【0031】
なお、この際、前記シール摺接面11dがロータ16の回転中心を通る前記カムリング偏心方向線Nよりも吸入ポート21側に、また、これによって隔成される前記制御油室30が前記カムリング偏心方向Nよりも吐出ポート22側に、それぞれ配置されるよう構成されている。このように、シール摺接面11dを前記カムリング偏心方向Nよりも吸入ポート21側に設けることにより、制御油室30内のオイル中に含まれる空気(エア)が吸入領域の負圧によってポンプボディ11及びカバー12の各内側面とシール構成部15eとのクリアランス等を通じ低圧室35へと排出されることになり、また、制御油室30を前記カムリング偏心方向Nよりも吐出ポート22側に設けることにより、吐出領域に係る前記各ポンプ室PRから漏出したオイルが制御油室30へ流入可能となって当該制御油室30内にオイルが溜まり易くなることから、当該制御油室30の内圧が前記受圧面15hへと十分に作用することとなって、その結果、カムリング15の適切な揺動制御に供されることとなる。
【0032】
こうした構成から、前記オイルポンプ10では、第1スプリング33のばね荷重に基づく偏心方向の付勢力と、第2スプリング34のばね荷重と制御油室30の内圧とに基づく同心方向の付勢力と、が所定の力関係をもってバランスするように構成されていて、第1スプリング33のセット荷重W1と第2スプリング34のセット荷重W2との差分となる両スプリング33,34のセット荷重の合力W0(=W1−W2)に対し制御油室30の内圧に基づく付勢力が小さいときには、カムリング15は図4に示すような最大偏心状態となる一方、吐出圧の上昇に伴って前記制御油室30の内圧に基づく付勢力が前記両スプリング33,34のセット荷重の合力W0を上回ったときには、その吐出圧に応じてカムリング15が同心方向へ移動することとなる。
【0033】
また、前記制御弁40は、特に図7に示すように、一端側が開口形成され他端側が閉塞されるほぼ筒状に形成されたバルブボディ41と、該バルブボディ41の一端開口部を閉塞するプラグ42と、前記バルブボディ41の内周にて軸方向へ摺動自在に収容され、その各軸方向端部にバルブボディ41内周面と摺接する第1ランド部43a及び第2ランド部43bが形成された弁体43と、前記バルブボディ41の一端側内周にてプラグ42と弁体43との間に、後述するポート切換油圧Pkに基づく付勢力と等しくなるような所定のセット荷重Wkをもって弾装され、弁体43をバルブボディ41の他端側へ常時付勢するバルブスプリング44と、を備え、カバー部材12の外側部において、制御油室30よりも高い(鉛直方向上側の)位置に配設されている。
【0034】
前記バルブボディ41は、弁体43の前記各ランド部43a,43bとほぼ同径に設定され、当該弁体43を収容する弁体収容部41aと、その他端部に段部41cを介して前記弁体収容部41aに対し段差縮径状に設けられ、弁体43の第2ランド部43bによって隔成されることで内部に背圧室45を構成する背圧室構成部41bと、からなる弁孔を有し、カバー部材12の外側面に複数のボルトB2によって固定されている。そして、前記背圧室構成部41bの周壁には、第1連通孔31に直接開口することによって当該第1連通孔31に接続される第1ポート51が貫通形成されると共に、前記弁体収容部41aの周壁には、第2連通孔32に直接開口することによって当該第2連通孔32に接続される第2ポート52と、カバー部材12と対向しない周方向範囲(本実施形態では、カバー部材12との反対向部)に設けられると共に、前記第2ポート52よりも小径に設定された、外部へ直接開口するドレン孔である第3ポート53と、がそれぞれ貫通形成されている。
【0035】
前記弁体43は、その軸方向中間部に周方向に沿って連続する環状溝が切欠形成されることで前記両ランド部43a,43bが構成され、当該両ランド部43a,43bによってバルブボディ41内周面との間に環状空間54が隔成されるようになっている。また、前記環状溝の底部における所定の周方向位置には、当該弁体43の内外周を連通する連通孔55が径方向に沿って貫通形成されている。これにより、前記環状空間54ないし当該環状空間54と連通孔55の両者を介して第1ポート51と第2ポート52ないし第3ポート53とが連通するようになっている。
【0036】
かかる構成から、前記制御弁40は、図8(a)に示すように、背圧室45内に導入される吐出圧が低く、この背圧室45の内圧に基づく付勢力がバルブスプリング44のセット荷重Wkよりも小さい状態では、該バルブスプリング44の付勢力をもって弁体43(第2ランド部43b)がバルブボディ41の段部41cに押し付けられることとなる。これにより、第1ポート51は第2ランド部43b(弁体43の先端面)により遮断され、第2ポート52が環状空間54、連通孔55及び弁体43の内周側空間部を通じて第3ポート53と連通することとなり、この結果、制御油室30が第2ポート52から前記環状空間54等を通じ第3ポート53を介して大気中へと開放されることとなる。換言すれば、前記第2ポート52〜第3ポート53によって、制御油室30と大気とを連通させて制御油室30内のオイルを排出する排出通路が構成されている。
【0037】
一方、図8(b)に示すように、内燃機関の回転数、すなわちオイルポンプ10の回転数の上昇に伴い背圧室45内に導入される吐出圧が高まり、この背圧室45の内圧に基づく付勢力がバルブスプリング44のセット荷重Wkよりも大きい状態になると、当該吐出圧に基づく付勢力をもって弁体43がバルブスプリング44の付勢力に抗してバルブボディ41の一端側(プラグ42側)へと移動することとなる。これにより、第1ポート51がバルブボディ41の他端側にて第2ランド部43bにより弁体収容部41a内に隔成される空間部を介して第2ポート52と連通する一方、第3ポート53は第1ランド部43aによって閉塞されることとなって、第1ポート51から導入される吐出圧のほぼ全てが制御油室30へ導かれることとなる。換言すれば、前記第1ポート51〜第2ポート52によって、吐出口22a(第1連通孔31)と制御油室30とを連通させて制御油室30内に吐出圧を供給する供給通路が構成されている。
【0038】
以下、本実施形態に係るオイルポンプ10の特徴的な作用について、図8、図9に基づいて説明する。
【0039】
まず、前記オイルポンプ10の作用説明に入る前に、当該オイルポンプ10の吐出圧制御の基準となる内燃機関の必要油圧について、図8に基づいて説明すれば、図中のP1は、例えば燃費向上等に供するバルブタイミング制御装置を採用した場合の当該装置の要求油圧に相当する第1機関要求油圧を、図中のP2は、ピストンの冷却に供するオイルジェットを採用する場合の当該装置の要求油圧に相当する第2機関要求油圧を、図中のP3は、機関高回転時の前記クランクシャフトの軸受部潤滑に要する第3機関要求油圧を、それぞれ示し、これら点P1〜P3を一点鎖線により繋いだものが、内燃機関の機関回転数Rに応じた理想的な必要油圧(吐出圧)Pを表している。なお、同図中における実線は本願発明に係る前記オイルポンプ10の油圧特性を、破線は前記従来のポンプの油圧特性を、それぞれ表したものである。また、同図中におけるPfは、制御油室30の内圧に基づく付勢力によってカムリング15が前記両スプリング33,34の合力W0に抗して揺動を開始する第1作動油圧を、Psは、制御油室30の内圧に基づく付勢力によってカムリング15が第1スプリング33のばね荷重W1に抗してさらに揺動を開始する第2作動油圧を、それぞれ示している。
【0040】
すなわち、前記オイルポンプ10の場合には、機関始動から低回転域までの回転域に相当する図8中の区間aでは、図9(a)に示すように吐出圧(機関内油圧)Pが第1作動油圧Pfよりも小さいことから、制御弁40の弁体43がバルブボディ41の段部41cへと押し付けられた状態となり、当該制御弁40の第1ポート51が遮断され、第2ポート52と第3ポート53とが連通した状態となる。これにより、制御油室30は制御弁40を介して第3ポート53と連通することとなって、当該制御油室30にはオイルは導入されずに、前記両スプリング33,34の合力W0による付勢力、つまり相対的に大きな第1スプリング33のばね荷重に基づく付勢力によって、カムリング15が、アーム部15bが規制部28に当接した最大偏心状態で保持されることとなる。その結果、ポンプの吐出量は最大となって、吐出圧Pも機関回転数Rの上昇に伴ってほぼ比例するかたちで増大する特性となる。
【0041】
その後、図9(b)に示すように、機関回転数Rが上昇して吐出圧Pが第1作動油圧Pfよりも若干大きく設定されたポート切換油圧Pkに到達すると、制御弁40内において、背圧室45の内圧に基づく付勢力がバルブスプリング44のセット荷重Wkに打ち勝って、当該バルブスプリング44のセット荷重Wkに抗して弁体43がプラグ42側へと移動することとなる。これにより、第2ポート52と第3ポート53との連通が遮断され、第1ポート51と第2ポート52とが連通することとなり、制御油室30には吐出圧Pが導入されることとなる。そして、この制御油室30への吐出圧Pの導入によって、やがて当該制御油室30の内圧に基づく付勢力が前記両スプリング33,34の合力W0による付勢力に打ち勝つことになると、第1スプリング33の付勢力に抗してカムリング15が同心方向へ移動を開始することとなる。この結果、当該カムリング15の偏心量が漸次減少することとなって吐出量の増加が制限され、これによって、機関回転数Rの上昇に基づく吐出圧Pの増大化も抑制されることとなる(図8中の区間b)。
【0042】
ここで、前記制御弁40によるポート切換制御に際しては、吐出圧Pが前記ポート切換油圧Pkに到達した直後(図8中の区間b)は、図9(b)に示すように、当該制御弁40における第1ポート51に対しての第2ポート52の開口量が十分でなく、第1ポート51から導かれる吐出圧Pは当該極小の開口部によって減圧され、制御油室30には、当該吐出圧Pよりも低い油圧Pxが導入されることとなる。これにより、制御油室30に対する急激な油圧の導入が抑制され、カムリング15につき、そのハンチングを抑制しつつ偏心させることに供される。
【0043】
また、前記カムリング15の同心方向移動に際しては、制御弁40にて弁体43が前記ポート切換油圧Pkに相当する吐出圧Pにより円滑に移動することによってカムリング15が滑らか、かつ、速やかに移動することになるため、この区間bにおける吐出圧Pは、図8中に破線で示した従来のポンプのように機関回転数Rの上昇に基づいて比例的に増大するのではなく、ほぼフラットな特性となって、前記理想的な必要油圧(図8中の一点鎖線)に極力近づけることができる。これにより、本実施形態に係るオイルポンプ10では、機関回転数Rの上昇に伴いスプリングのばね定数分だけ吐出圧Pの増大を余儀なくされていた従来のオイルポンプ(図8中に示す破線)に対し、当該吐出圧Pを無駄に増加させてしまうことによって生ずる動力損失(図8中にハッチングで示した範囲S1)を削減することが可能となる。
【0044】
そして、かかるカムリング15の同心方向の移動に伴い第2スプリング34が伸長し、やがてその先端が規制部28に当接すると(図9(b)参照)、当該第2スプリング25による助勢作用がなくなることから、当該カムリング15の同心方向の移動が停止することとなる。この結果、オイルポンプ10の吐出圧Pは、機関回転数Rの上昇に伴って、再び当該機関回転数Rにほぼ比例するかたちで増大することとなる(図8中の区間c)。
【0045】
そして、かかる特性に従って機関回転数Rが上昇することにより吐出圧Pがさらに増大すると、図9(c)に示すように、制御弁40の弁体43が図9(b)に示す状態よりもさらにプラグ42側へと移動することとなって、第1ポート51と第2ポート52とが完全に連通した状態となる。これにより、吐出圧Pが制御油室30に導入される際に減圧されることがなくなり、制御油室30に導入される油圧と当該吐出圧Pとがほぼ等しくなることから、制御油室30の内圧及びこれに基づくカムリング15の移動は、当該吐出圧Pに応じて、よりダイレクトに制御されることとなる。よって、その後、機関回転数Rがさらに上昇することで、吐出圧Pが第2機関要求油圧P2よりも高く設定される第2作動油圧Psに到達することとなって、制御油室30の内圧に基づく付勢力が第1スプリング33の付勢力に打ち勝ち、カムリング15がさらに同心方向へと移動することとなる。このため、当該カムリング15の偏心量が徐々に減少することとなって吐出量の増加が制限され、これによって、機関回転数Rの上昇に基づく吐出圧Pの増大化も抑制されることとなる(図8中の区間d)。
【0046】
ここで、本実施形態に係るオイルポンプ10では、当該区間dの機関回転数領域におけるカムリング15の同心方向移動の制限につき、2つのスプリングの付勢力に基づいて行う従来のオイルポンプ(図8中に示す破線)とは異なり、第1スプリング33の付勢力のみに基づいて行われるため、カムリング15の同心方向の移動に際して、最低限の制御油圧(吐出圧P)をもって足り、当該吐出圧Pを無駄に高めてしまうことによって生ずる動力損失(図8中にハッチングで示した範囲S2)を最小限に抑えることが可能となる。
【0047】
以上のように、前記オイルポンプ10では、前記両スプリング33,34及び制御弁40によって吐出圧Pを多段階的に増大させるようにカムリング15を揺動制御することで、当該吐出圧Pを無駄に増大させることがなく、従来のオイルポンプと比較しても、前記理想的な必要油圧(一点鎖線)に極力沿った特性を得ることができる(図8参照)。
【0048】
すなわち、前記オイルポンプ10によれば、前記カムリング15の第1作動にあたり、制御弁40を用いて制御油室30に導入する油圧(吐出圧)を調整し、当該制御油室30に第1作動油圧Pfよりも大きく設定された前記所定のポート切換油圧Pk以上の吐出圧を供給するようにしたことで、前記両スプリング33,34の合力W0に抗して行う当該カムリング15の移動を速やかに行うことが可能となる。この結果、当該カムリング15の第1作動時における前記両スプリング33,34のばね定数の影響を回避することができ、かかるばね定数の影響に基づく前記従来のような吐出圧の不要な上昇を抑制することに供される。
【0049】
さらには、前記オイルポンプ10の場合、前記カムリング15の第2作動にあたって、当該カムリング15の同心方向の移動を単一の第1スプリング33の付勢力のみによって規制するようにしたことにより、当該規制に際し2つのスプリングを使用する前記従来に比べ、これに抗して行われるカムリング15の第2作動に要する油圧(吐出圧)を低減することが可能となる。この結果、当該第2作動に係るカムリング15の円滑な移動を確保でき、前記従来のように2つのスプリングの合力に抗するために必要とされる吐出圧の不要な上昇を抑制することに供される。
【0050】
換言すれば、上述のようにしてカムリング15の各作動時の吐出圧の不要な上昇を抑制することによってポンプの動力損失を効果的に抑制し、前記従来のオイルポンプに比べて、ポンプの吐出特性をより理想的な特性へと近づけることができ、燃費の向上等に供されることとなる。
【0051】
また、前記オイルポンプ20にあっては、制御弁40を制御油室30よりも鉛直方向上側となる位置に配設したことから、制御油室30内のオイル中に生じた空気を、制御弁40を介して外部へと排出することが可能となる。これによって、当該空気が制御油室30内に溜まってしまうことによる不具合を抑制することができる。
【0052】
なお、この際、前記第3ポート53については、第2ポート52よりも小径となるオリフィス状に形成したことで、制御油室30内の油圧変化を抑制可能になると共に、当該制御油室30内のオイルの漏出も抑制可能となってポートを切換時の応答性の向上にも供される。
【0053】
さらには、前記バルブスプリング44について、制御弁40が閉弁状態から開弁状態へと移行する際に、当該移行時の吐出圧に基づく弁体43の移動量によっては第1ポート51と第2ポート52とが完全には連通しないような付勢力に設定したことにより、当該制御弁40の作動時において弁体43が過大に移動してしまうおそれがなく、当該制御弁40の適切な制御にも寄与できる。
【0054】
図10は本発明に係る可変容量形ポンプの前記第1実施形態の変形例を示しており、前記制御弁40の開弁直後の所定範囲において、前記第2ポート52が前記第1ポート51及び第3ポート53の双方に同時に連通する構成としたしたものである。
【0055】
すなわち、本実施形態では、前記第1実施形態に係る弁体43につき、その軸方向長さを短縮すると共に前記環状溝の溝幅を拡大することで、図10(b)に示すように、機関回転数Rが上昇して吐出圧Pが前記ポート切換油圧Pkに達したときに(図8参照)、前記制御油室30が、第1ポート51と第2ポート52とが連通することによって構成される前記供給通路と、第2ポート52と第3ポート53とが連通することによって構成される前記排出通路と、に同時開口することとなる。これにより、制御弁40が開弁した直後における制御油室30の内圧の急激な変化を一層低減することが可能となり、当該内圧増大に基づく前記カムリング15のハンチング等の不都合のさらなる抑制に供されることとなる。
【0056】
図11は本発明に係る可変容量形ポンプの第2実施形態を示したものであり、前記第1実施形態に係る弁体43を、ほぼ円柱状に形成し、いわゆるスプール状に構成したものである。なお、かかる構成以外の基本的構成については前記第1実施形態と同様であり、当該第1実施形態と同一の構成及び作用については、当該第1実施形態と同一の符号を付すことによってその説明を省略する。
【0057】
すなわち、本実施形態では、ほぼ円柱状を成す弁体43の両端部が大径状の第1、第2ランド部43a,43bとして構成され、かつ、その中間部が段差縮径状に形成されることによってバルブボディ41内周面との間に比較的幅広の環状空間54が隔成されるようになっている。そして、かかる構成に基づき、弁体43がバルブボディ41の段部41cに押し付けられた状態においては、第2ランド部43bにより第1ポート51が遮断され、環状空間54を介して第2ポート52と第3ポート53とが連通するようになっている一方(図11(a)参照)、当該弁体43がバルブボディ41の一端側へ移動した状態においては、第2ランド部43bにより第3ポート53が遮断され、弁体収容部41a内にてバルブボディ41他端側に第2ランド部43bにより隔成される空間部を介して第1ポート51と第2ポート52とが連通することとなる(図11(b)、(c)参照)。
【0058】
したがって、本実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用効果が奏せられるのは勿論のこと、特に本実施形態では、前記弁体43をスプール状に構成することによって、制御弁40(弁体43)の構成を簡素化することが可能となり、オイルポンプ10の生産性向上や製造コストの低廉化に寄与することができる。
【0059】
図12は本発明に係る可変容量形ポンプの第3実施形態を示しており、前記第2実施形態に係る制御弁40を、機関運転状態に応じて車載のECU(図示外)からの励磁電流に基づき作動するソレノイドバルブSVによって構成し、当該ソレノイドバルブSVによって前記ポート切換制御を電気的に行うこととしたものである。なお、図12(a)は、ソレノイドバルブSVに励磁電流が通電された状態を、図12(b)は、ソレノイドバルブSVに励磁電流が通電されない状態を、それぞれ表している。
【0060】
すなわち、前記ソレノイドバルブSVは、所定のセンサ等により検出された内燃機関の回転数や水温、油温等を考慮し決定される前記ポート切換油圧Pkを閾値として作動制御されるようになっている。具体的には、吐出圧Pが前記各パラメータにより決定された前記ポート切換油圧Pkよりも低い状態では、前記ECUから励磁電流が通電され、図12(a)に示すように、ソレノイド60によって、弁体43がバルブスプリング44の付勢力に抗して一端側(反ソレノイド60側)へと押し退けられた(進出した)状態となる。これにより、第1ランド部43aによって第1ポート51が遮断され、弁体43中間部に設けられた縮径部によってバルブボディ41内周面との間に隔成された環状空間54を介して第2ポート52と第3ポート53とが連通することとなり、この結果、制御油室30が前記環状空間54等を通じて大気中に開放されて、当該制御油室30内のオイルを外部へと排出可能となる。
【0061】
一方、吐出圧Pが前記切換油圧Pkに達すると、前記ECUからの励磁電流は遮断され、弁体43がバルブスプリング44の付勢力により他端側へと押し退けられる(後退する)結果、第2ランド部43bによって第3ポート53が遮断され、代わりに環状空間54を介して第1ポート51と第2ポート52とが連通することとなり、制御油室30内に前記ポート切換油圧Pkに相当する吐出圧Pが導入されることとなる。
【0062】
以上のように、本実施形態では、前記制御弁40によるポート切換制御を、ソレノイドバルブSVを用いることによって電気的に行うようにしたことから、前記第1、第2実施形態のように吐出圧(作動油圧)をもって前記ポート切換制御を行う場合に比べて、ポンプ10各部の摩耗や油種変更による油圧変化の影響等を受けることがないため、当該ポート切換制御を常時適切に行うことが可能となる。これにより、特に図8中の区間bにおける前記カムリング15の円滑かつ速やかな作動に供され、当該区間でのポンプの動力損失をより効果的に抑制することが可能となり、さらなる燃費向上が図れる。
【0063】
しかも、本実施形態の場合、前記ポート切換油圧Pkを、内燃機関の回転数、水温及び油温等を考慮して決定されるため、制御弁40をより適切に制御することが可能となっている。
【0064】
なお、本実施形態に係るソレノイドバルブSVについては、いわゆるリニアソレノイドバルブを採用することも可能であり、当該リニアソレノイドバルブにより、第1ポート51と第2ポート52とを徐々に連通させる構成としてもよい。かかる構成とすることで、前記ポート切換時における制御油室30内の油圧変化を抑制することが可能となり、前記カムリング15のハンチング等の不都合の抑制に供される。
【0065】
本発明は前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば前記機関要求油圧P1〜P3、前記第1、第2作動油圧Pf,Ps及び前記ポート切換油圧Pkは、前記オイルポンプ10が搭載される車両の内燃機関やバルブタイミング制御装置等の仕様に応じて自由に変更することができる。
【0066】
また、前記各実施形態では、前記制御弁40を、前記オイルポンプ10とは別体に構成したもの(ポンプ本体のハウジングを構成するカバー部材12と、制御弁40のハウジングを構成するバルブボディ41と、が別体となるように構成したもの)を例に説明しているが、本願発明に係る制御弁は上記の構成に限定されるものではなく、カバー部材12とバルブボディ41とを一体に形成することによって、制御弁40とオイルポンプ10とを一体に構成することも可能である。なお、かかる構成とする場合には、前記各連通孔31,32及び前記各ポート51〜53からなる油通路の構成を簡素化することが可能となり、当該油通路の容易な形成に供されると共に、当該制御弁40の構成部品点数の削減も可能となり、オイルポンプ10の組立作業性の向上にも供されることとなる。
【0067】
前記各実施形態から把握される特許請求の範囲に記載した発明以外の技術的思想について、以下に説明する。
【0068】
(a)請求項1〜3のいずれか一項に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記所定圧は、前記内燃機関の可変動弁装置の駆動に要する吐出圧よりも大きく設定されていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0069】
(b)請求項1に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記第1付勢部材の付勢力は、前記内燃機関のピストン冷却に供するオイルジェット装置の駆動に要する吐出圧を前記制御油室に導入したときに前記カムリングに作用する付勢力よりも大きく設定されていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0070】
(c)請求項1又は2に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御油室は、前記ハウジングの内周面と前記カムリングの外周面と前記カムリングの移動に供するピボットとにより画成され、前記ハウジングと前記カムリングの間はシール部材によってシールされていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0071】
(d)前記(c)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御油室のシール部は、前記ロータの回転中心を通る前記吸入部と前記吐出部の間の境界よりも前記吸入部側に設けられていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0072】
かかる構成とすることで、制御油室内に溜まった空気が吸入部の負圧に基づいてシール部より漏れることとなって、当該制御油室内のエア抜きに供される。
【0073】
(e)請求項2に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御弁は、前記制御油室と大気とを連通させる排出通路及び前記制御油室と前記吐出部とを連通させる供給通路を構成する弁孔と、
前記弁孔内に収容配置され、前記排出通部を介して導入される吐出圧によって軸方向移動することにより前記排出通路と前記供給通路の各連通を制御する弁体と、
前記第1連通部を介して導入される吐出圧に抗して前記弁体を軸方向一方側へ付勢するように設けられた付勢部材と、を有することを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0074】
(f)前記(e)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記弁孔はほぼ円筒状に形成され、前記弁体は前記弁孔内にて軸方向へ自在に摺動可能なほぼ有底円筒状に形成され、前記付勢部材はコイルばねによって構成されていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0075】
(g)前記(e)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記弁孔はほぼ円筒状に形成され、前記弁体は前記弁孔内において軸方向へ自在に摺動可能なほぼ円柱状に形成され、前記付勢部材はコイルばねによって構成されていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0076】
(h)前記(e)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記弁孔は、前記ハウジングに一体に設けられていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0077】
かかる構成とすることで、前記各連通路の構成を簡素化することに供され、当該各連通路を容易に設けることができる。
【0078】
(i)前記(c)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御油室は、前記ロータの回転中心を通る前記吸入部と前記吐出部の間の境界よりも前記吐出部側に設けられていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0079】
かかる構成とすることで、カムリングの停止時に制御油室内の作動油が漏出してしまうおそれがない。
【0080】
(j)前記(e)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御弁には、前記弁孔に、当該制御弁の閉時期に前記弁体によって構成される油通路を通じて前記制御油室内の作動油を前記弁孔の外部へと排出するドレン孔が設けられていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0081】
かかる構成とすることで、制御弁の開弁時期を遅らせることが可能となり、これによって、前記カムリングの偏心量が比較的大きい場合における当該カムリングの速やかな作動に供される。
【0082】
(k)前記(j)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記ドレン孔の方が前記油通路よりも断面積が小さく設定されていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0083】
このようにしてドレン孔に絞りを設けることで、制御油室内の作動油の油圧変化を小さくし、当該制御油室内の作動油の漏出を抑制することに供される。
【0084】
(l)前記(e)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御弁には、前記弁孔に、当該制御弁の閉時期に前記弁体に設けられたスプール部を介して前記制御油室内の作動油を前記弁孔の外部へ排出するドレン孔が設けられていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0085】
かかる構成とすることで、制御弁の開弁時期を遅らせることが可能となり、これによって、前記カムリングの偏心量が比較的大きい場合における当該カムリングの速やかな作動に供される。
【0086】
(m)前記(f)又は(g)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記コイルばねは、前記制御弁が静止状態から作動状態へ移行した際の吐出圧に基づく前記弁体の移動によっては前記制御油室と前記吐出部とを連通させないように、その付勢力が設定されていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0087】
かかる構成とすることで、制御弁の作動時において、弁体が過大に移動してしまうおそれがなく、当該制御弁の適切な制御に供される。
【0088】
(n)前記(e)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御弁は、前記制御油室よりも鉛直方向上側に設けられていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0089】
かかる構成とすることで、制御油室内の作動油中に生じた空気を、制御弁を介して排出することが可能となる。これにより、当該制御油室内の作動油中に生じた空気が制御油室内に溜まってしまう不都合の抑制に供される。
【0090】
(o)前記(e)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御弁は、ソレノイドバルブによって構成され、前記制御油室への吐出圧の供給をソレノイドバルブの開閉によって切り換えることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0091】
かかる構成とすることで、制御油室への油圧供給をより適切に制御することが可能となる。
【0092】
(p)前記(o)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記ソレノイドバルブの開閉は、前記吐出部における所定油圧を閾値として行われることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0093】
(q)前記(p)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記閾値は、前記内燃機関の回転数及び当該機関に供給される冷却水の水温ないし潤滑油の油温を考慮し、当該機関の状態に応じて可変させることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0094】
かかる構成とすることで、前記閾値をより適切な値に設定することができ、制御弁をより適切に制御することが可能となる。
【0095】
(r)前記(e)に記載の可変容量形ポンプにおいて、
前記制御弁が開弁した直後は、前記排出通路と前記供給通路とがいずれも連通した状態となるように構成されていることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【0096】
かかる構成とすることで、制御弁が開弁した直後の制御油室の内圧の急激な増大に供され、当該内圧の増大に基づくカムリングのハンチング等の不都合を抑制することに供される。
【符号の説明】
【0097】
10…オイルポンプ
11…ポンプボディ(ハウジング)
12…カバー部材(ハウジング)
15…カムリング
16…ロータ
17…ベーン
21…吸入ポート(吸入部)
22…吐出ポート(吐出部)
30…制御油室
33…第1スプリング(第1付勢部材)
34…第2スプリング(第2付勢部材)
40…制御弁(油圧導入手段)
PR…ポンプ室(作動油室)
Pk…ポート切換油圧(所定圧)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関によって回転駆動されるロータと、
前記ロータの外周側に出没自在に設けられた複数のベーンと、
前記ロータと前記複数のベーンをその内周側に収容することによって複数の作動油室を隔成すると共に、前記ロータの回転中心に対する偏心量が変化するように移動することで前記ロータの回転時における前記各作動油室の容積の増減量を変化させるカムリングと、
前記カムリングをその内部に収容し、その内側面に、前記カムリングが一方側へ偏心移動した際に容積が増大する作動油室に開口する吸入部と前記カムリングの一方側偏心移動時に容積が減少する作動油室に開口する吐出部とが設けられたハウジングと、
前記ロータの回転中心に対する前記カムリングの偏心量が大きくなる方向へ当該カムリングを付勢する第1付勢部材と、
前記カムリングの偏心量が所定以上の状態では、前記第1付勢部材よりも小さな付勢力をもって前記カムリングをその偏心量が小さくなる方向へ付勢し、前記カムリングの偏心量が所定未満の状態では、付勢力を蓄えつつ前記カムリングに対しては付勢力を付与しないように設けられた第2付勢部材と、
吐出圧が導かれることにより前記第1付勢部材の付勢力に抗して前記カムリングを移動させる制御油室と、
吐出圧が、前記第1付勢部材と前記第2付勢部材の付勢力の合力に対しては前記カムリングを移動可能とし、かつ、前記第1付勢部材のみの付勢力に対しては前記カムリングを移動可能としない範囲内である所定圧を超えると、前記制御油室に当該吐出圧を導入するように構成された油圧導入手段と、を備えたことを特徴とする可変容量形ポンプ。
【請求項2】
内燃機関によって回転駆動されるロータと、
前記ロータの外周側に出没自在に設けられた複数のベーンと、
前記ロータと前記複数のベーンをその内周側に収容することによって複数の作動油室を隔成すると共に、前記ロータの回転中心に対する偏心量が変化するように移動することで前記ロータの回転時における前記各作動油室の容積の増減量を変化させるカムリングと、
前記カムリングをその内部に収容し、その内側面に、前記カムリングが一方側へ偏心移動した際に容積が増大する作動油室に開口する吸入部と前記カムリングの一方側偏心移動時に容積が減少する作動油室に開口する吐出部とが設けられたハウジングと、
前記ロータの回転中心に対する前記カムリングの偏心量が大きくなる方向へ当該カムリングを付勢する第1コイルばねと、
前記カムリングの偏心量が所定以上の状態では、前記第1コイルばねよりも小さな付勢力をもって前記カムリングをその偏心量が小さくなる方向へ付勢し、前記カムリングの偏心量が所定未満の状態では、付勢力を蓄えつつ前記カムリングに対しては付勢力を付与しないように設けられた第2コイルばねと、
吐出圧が導かれることにより前記第1コイルばねの付勢力に抗して前記カムリングを移動させる制御油室と、
前記吐出部に連通する第1連通部と前記制御油室に連通する第2連通部とを有し、前記第1連通部と前記第2連通部との連通を制御することによって前記制御油室へ導入する吐出圧を制御する制御弁と、を備え、
吐出圧が、前記第1コイルばねと前記第2コイルばねの付勢力の合力に抗し前記カムリングを移動可能とする圧力以上であり、かつ、前記第1コイルばねのみの付勢力に抗し前記カムリングを移動可能とする圧力以下である所定圧を超えると、前記制御弁が開弁することにより前記第1連通部と前記第2連通部とを連通させることを特徴とする可変容量形ポンプ。
【請求項3】
ロータが回転駆動されることによって複数の作動油室の容積を増減させることで吸入部から前記各作動油室に導入されたオイルを吐出部から吐出するポンプ構成体と、
前記ポンプ構成体によるオイルの吐出圧をもって可動部材が可動することで前記吐出部に開口する前記各作動油室の容積を変化させる可変機構と、
前記各作動油室の容積変化量が大きくなる方向へ前記可動部材を付勢する第1付勢部材と、
前記各作動油室の容積変化量が所定以上大きくなる方向へ前記可動部材が移動した状態では、前記第1付勢部材よりも小さな付勢力をもって前記可動部材を前記各作動油室の容積変化量が小さくなる方向へ付勢し、前記各作動油室の容積変化量が所定未満に小さくなる方向へ前記可動部材が移動した状態では、セット荷重を有したまま前記可動部材に付勢力が作用しないように設けられた第2付勢部材と、
吐出圧が導かれることで前記第1付勢部材の付勢力に抗して前記可動部材を移動させる制御油室と、
吐出圧が、前記第1付勢部材と前記第2付勢部材の付勢力の合力に対しては前記可動部材を移動可能とし、かつ、前記第1付勢部材のみの付勢力に対しては前記可動部材を移動可能としない範囲内である所定圧を超えると、前記制御油室に当該吐出圧を導入するように構成された油圧導入手段と、を備えたことを特徴とする可変容量形ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−241665(P2012−241665A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114718(P2011−114718)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】