説明

可変容量形ポンプ

【課題】ポンプの小型化に供する可変容量形オイルポンプを提供する。
【解決手段】この可変容量形オイルポンプ10は、カムリング17の作動により吐出量を可変にするベーンタイプの可変容量形オイルポンプであって、吐出領域側のカムリング17の外周域に、それぞれ吐出圧が導入され、カムリング17に対して偏心量を減少させる方向へ吐出圧を作用させる第1受圧面33を有する第1圧力室31及びカムリング17に対して偏心量を増大させる方向へ吐出圧を作用させる第2受圧面34を有する第2圧力室32を、互いにピボット部17aを挟んで対向するように配置して、前記両圧力室31,32の内圧のバランスによってカムリング17の偏心量を制御するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用の内燃機関の各摺動部等に作動油を供給する油圧源に適用され、とりわけ、運転状態に応じて吐出量(吐出圧)を可変し得る可変容量形ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のオイルポンプに適用される従来の可変容量形オイルポンプとしては、例えば、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
概略を説明すれば、この可変容量形ポンプは、いわゆるベーンポンプであって、ハウジングとカムリングとの間に画成された2つの圧力室へ選択的に吐出圧を供給して、スプリングによりロータの回転中心に対して常時偏心する方向へ付勢されたカムリングの偏心量を制御することによって、吐出量(吐出圧)を可変にするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−524500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の可変容量形オイルポンプにあっては、前記両圧力室の内圧(吐出圧)による油圧力に対してスプリングの付勢力をバランスさせる構造としているため、スプリングの付勢力を大きなものとする必要があり、その結果、ポンプを大型化せざるを得ないという問題があった。
【0006】
本発明は、前記従来の可変容量形オイルポンプの技術的課題に鑑みて案出されたもので、ポンプの小型化に供する可変容量形オイルポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、いわゆるベーンタイプの可変容量形オイルポンプであって、とりわけ、カムリングの外周側にそれぞれ画成され、かつ、内部に吐出圧が導入され、カムリングに対して偏心量を減少させる方向へ吐出圧を作用させる第1受圧面を有する第1圧力室及びカムリングに対して偏心量を増大させる方向へ吐出圧を作用させる第2受圧面を有する第2圧力室を備えたことを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、前記両圧力室の内圧をバランスさせることによってカムリングの偏心量を制御する構成としたことから、必ずしもスプリング等の付勢部材を用いる必要がなく、また、かかる付勢部材を用いる場合であっても、当該付勢部材の付勢力を大きくする必要がないことから、ポンプの小型化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る可変容量形オイルポンプの構成を示す分解斜視図である。
【図2】同実施形態に係る可変容量形オイルポンプにつきカバー部材を外した状態を示す正面図であって、カムリングの偏心量が最大の状態を表したものである。
【図3】同実施形態に係る可変容量形オイルポンプにつきカバー部材を外した状態を示す正面図であって、カムリングの偏心量が最小の状態を表したものである。
【図4】図2のA−A線断面図である。
【図5】同実施形態に係るハウジングの内部を示す正面図である。
【図6】同実施形態に係るソレノイドバルブの非通電時の状態を示す縦断面図である。
【図7】同実施形態に係るソレノイドバルブの通電時の状態を示す縦断面図である。
【図8】同実施形態に係る可変容量形オイルポンプの油圧回路図である。
【図9】同実施形態に係る可変容量形オイルポンプについての機関の回転数と油圧との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の第1実施形態の変形例に係るソレノイドバルブの非通電時の状態を示す縦断面図である。
【図11】同変形例に係るソレノイドバルブの通電時の状態を示す縦断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態に係る可変容量形オイルポンプの構成を示す分解斜視図である。
【図13】同実施形態に係る可変容量形オイルポンプにつきカバー部材を外した状態を示す正面図であって、カムリングの偏心量が最大の状態を表したものである。
【図14】同実施形態に係る可変容量形オイルポンプにつきカバー部材を外した状態を示す正面図であって、カムリングの偏心量が最小の状態を表したものである。
【図15】本発明の第3実施形態に係るカバー部材の正面図である。
【図16】同実施形態に係るカバー部材の背面図である。
【図17】本発明の第4実施形態に係る可変容量形オイルポンプにつきカバー部材を外した状態を示す正面図であって、カムリングの偏心量が最大の状態を表したものである。
【図18】本発明の第4実施形態に係る可変容量形オイルポンプにつきカバー部材を外した状態を示す正面図であって、カムリングの偏心量が最小の状態を表したものである。
【図19】本発明の第5実施形態に係る油圧方向切換弁の非作動状態を示す縦断面図である。
【図20】同実施形態に係る油圧方向切換弁の作動状態を示す縦断面図である。
【図21】同実施形態に係る可変容量形オイルポンプの油圧回路図である。
【図22】同実施形態に係る可変容量形ポンプについての機関の回転数と油圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る可変容量形オイルポンプの各実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、各実施の形態では、この可変容量形オイルポンプを、自動車用内燃機関の摺動部及び機関弁の開閉時期を制御するバルブタイミング制御装置に機関の潤滑油を供給するオイルポンプとして適用した例を示している。
【0011】
図1〜図9は、本発明に係る可変容量形オイルポンプの第1実施形態を示しており、このオイルポンプ10は、内燃機関のシリンダブロックの前端部等に設けられ、図1〜図3に示すように、一端側が開口するように形成されて内部に円柱状の空間からなるポンプ収容室13を有する断面コ字形状のポンプボディ11及び該ポンプボディ11の一端開口を閉塞するカバー部材12からなるハウジングと、該ハウジングに回転自在に支持され、ポンプ収容室13のほぼ中心部を貫通して機関のクランク軸によって回転駆動される駆動軸14と、ポンプ収容室13内に回転自在に収容されて中心部が駆動軸14に結合されたロータ15及び該ロータ15の外周部に放射状に切欠形成された複数のスリット15a内にそれぞれ出没自在に収容されたベーン16からなるポンプ要素と、該ポンプ要素の外周側にロータ15の回転中心に対して偏心可能に配置され、ロータ15及び隣接するベーン16,16と共に複数の作動油室であるポンプ室20を画成するカムリング17と、ポンプボディ11内に収容され、ロータ15の回転中心に対するカムリング17の偏心量が増大する方向へ当該カムリング17を常時付勢する付勢部材であるスプリング18と、ロータ15の内周側の両側部に摺動自在に配置された当該ロータ15よりも小径な一対のリング部材19,19と、を備えている。
【0012】
前記ポンプボディ11は、アルミ合金材によって一体に形成されていて、図4及び図5にも示すように、ポンプ収容室13の底面13aのほぼ中央位置には、駆動軸14の一端部を回転自在に支持する軸受孔11aが貫通形成されている。また、ポンプボディ11の内側面となるポンプ収容室13の内周壁の所定位置には、図5に示すように、カムリング17を揺動自在に支持する断面ほぼ半円状の支持溝11bが切欠形成されている。さらに、ポンプ収容室13の内周壁には、軸受孔11aの中心と支持溝11bの中心とを結ぶ直線(以下「カムリング基準線」という。)Mを挟んで両側に、カムリング17の外周部に配設される後記のシール部材30,30がそれぞれ摺接する第1、第2シール摺接面11c,11dが形成されている。これら各シール摺接面11c,11dは、支持溝11bの中心からそれぞれ所定の半径R1,R2により構成される円弧面状になっていると共に、カムリング17の偏心揺動範囲において前記各シール部材30,30が常時摺接可能な周方向長さに設定されている。これによって、カムリング17が偏心揺動する際に、前記各シール摺接面11c,11dに沿って摺動案内されることとなって、当該カムリング17の円滑な作動(偏心揺動)が得られるようになっている。
【0013】
また、前記ポンプ収容室13の底面13aには、図2及び図5に示すように、軸受孔11aの外周域に、前記ポンプ要素のポンプ作用に伴ってポンプ室20の内部容積が増大する領域(吸入領域)に開口するようにほぼ円弧凹状の吸入部である吸入ポート21が、前記ポンプ要素のポンプ作用に伴ってポンプ室20の内部容積が減少する領域(吐出領域)に開口するようにほぼ円弧凹状の吐出部である吐出ポート22が、それぞれ軸受孔11aを挟んでほぼ対向するように切欠形成されている。
【0014】
前記吸入ポート21は、当該吸入ポート21のほぼ中央位置から後記のスプリング収容室28側に延設された導入通路24に接続され、該導入通路24の途中には、ポンプボディ11の底壁を貫通して外部へと開口する吸入孔21aが貫通形成されている。これにより、図8に示すように、機関のオイルパン52に貯留された潤滑油が、前記ポンプ要素のポンプ作用に伴って発生する負圧に基づき吸入孔21a及び吸入ポート21を介して前記吸入領域の各ポンプ室20に吸入されるようになっている。なお、前記吸入孔21aは、前記導入通路24と共にポンプ吸入側におけるカムリング17の外周域に臨むように構成されており、該カムリング17のポンプ吸入側の外周域に吸入圧を導くようになっている。これによって、前記吸入領域の各ポンプ室20に隣接するポンプ吸入側におけるカムリング17の外周域が吸入圧又は大気圧となることから、吸入領域の各ポンプ室20から当該ポンプ吸入側におけるカムリング17の外周域への潤滑油の漏出の抑制に供される。ここで、前記ポンプ吸入側とは、図2中における後記のカムリング偏心方向線Nよりも左側の領域を意味している。
【0015】
前記吐出ポート22は、当該吐出ポート22の始端部からカムリング17の外周側に画成される後記の第1圧力室31に臨むようにして延設された導入通路25に接続され、該導入通路25の終端部には、ポンプボディ11の底壁を貫通して外部へ開口する吐出孔22aが貫通形成されている。なお、この吐出孔22aは、図外のオイルメインギャラリを介して機関内の各摺動部及びバルブタイミング制御装置に接続されている。かかる構成から、前記ポンプ要素のポンプ作用により加圧されて前記吐出領域の各ポンプ室20から吐出された潤滑油が、吐出ポート22及び吐出孔22aを介して機関内の各摺動部及びバルブタイミング制御装置に供給されるようになっている。なお、前記吐出孔22aは、前記導入通路25と共にポンプ吐出側におけるカムリング17の外周域に臨むように構成されており、該カムリング17のポンプ吐出側の外周域に吐出圧を導くようになっている。ここで、前記ポンプ吐出側とは、図2中における後記のカムリング偏心方向線Nよりも右側の領域を意味している。
【0016】
さらに、前記吐出ポート22の始端部の近傍には、当該吐出ポート22と軸受孔11aとを連通する連通溝23が切欠形成されていて、該連通溝23を介して軸受孔11aに潤滑油を供給すると共にロータ15やベーン16の側部にも潤滑油を供給して、各摺動部位の潤滑性を確保するようになっている。なお、この連通溝23は、前記各ベーン16の出没方向と合致しないように形成されており、これらベーン16が出没する際の当該連通溝23への脱落が抑制されている。
【0017】
前記カバー部材12は、ほぼ板状を呈し、外側部におけるポンプボディ11の軸受孔11aに対応する位置が若干厚肉に形成されると共に、当該厚肉部分には、駆動軸14の他端側を回転自在に支持する軸受孔12aが貫通形成されている。なお、本実施形態では、カバー部材12の内側面はほぼ平坦状となっているが、ポンプボディ11の底面と同様に吸入、吐出ポート21,22を形成することも可能であり、また、前記連通溝23のような軸受孔12aに潤滑油を導くための溝部を設けることも可能である。そして、このカバー部材12は、複数のボルト26によりポンプボディ11の開口端面に取り付けられている。
【0018】
前記駆動軸14は、クランク軸から伝達された回転力によってロータ15を図2中における時計方向に回転するように構成されており、当該駆動軸14の中心において前記直線Mと直交する直線(以下「カムリング偏心方向線」という。)Nを境界として、図2中の左半分が前記ポンプ吸入側、右半分が前記ポンプ吐出側となっている。
【0019】
前記ロータ15は、図1及び図2に示すように、内部中心側から径方向外側へ放射状に形成された前記複数のスリット15aが切欠形成されていると共に、該各スリット15aの内側基端部には、前記吐出ポート22に吐出された吐出油を導入する断面ほぼ円形状の背圧室15bがそれぞれ形成されている。これにより、前記各ベーン16がロータ15の回転に伴う遠心力と背圧室15bの油圧とによって外方へ押し出されるようになっている。
【0020】
前記各ベーン16は、各先端面がそれぞれカムリング17の内周面に摺接すると共に、各基端部の側面が各リング部材19,19の外摺面にそれぞれ摺接するようになっている。これによって、機関回転数が低く、前記遠心力や背圧室15bの油圧が小さいときでも、ロータ15の外周面、隣接するベーン16,16の各内側面及びカムリング17の内周面と、側壁であるポンプボディ11のポンプ収容室13の底面13a及びカバー部材12の内側面と、が前記各ポンプ室20を液密的に画成している。
【0021】
前記カムリング17は、いわゆる燒結金属によってほぼ円筒状に一体形成され、外周部の所定位置に、ポンプボディ11の支持溝11bに嵌合して偏心揺動支点を構成するほぼ円弧凸状のピボット部17aが軸方向に沿って突設されていると共に、該ピボット部17aに対しカムリング17の中心を挟んで反対側の位置に、スプリング18と連係するアーム部17bが軸方向に沿って突設されている。
【0022】
ここで、前記ポンプボディ11内には、前記支持溝11bと反対側の位置に、所定の幅Lに設定された連通部27を介してポンプ収容室13と連通するようにスプリング収容室28が設けられており、このスプリング収容室28内にスプリング18が収容されている。このスプリング18は、前記連通部27を通じてスプリング収容室28内まで延出する前記アーム部17bの先端部の下面とスプリング収容室28の底面との間に、所定のセット荷重Wをもって弾性保持されている。なお、前記アーム部17bの先端部の下面には、スプリング18の内周側に係合するほぼ円弧状に形成された支持突起17iが突設されており、該支持突起17iによってスプリング18の一端が支持されている。
【0023】
かかる構成から、前記スプリング18は、前記セット荷重Wに基づく弾性力をもって、前記アーム部17bを介してカムリング17を、その偏心量が増大する方向(図2中の時計方向)へ常時付勢するようになっている。これにより、図2に示すカムリング17の非作動状態において、当該カムリング17は、前記スプリング18の付勢力によってアーム部17bの上面がスプリング収容室28の蓋部に突設されたストッパ部28aに押し付けられた状態となり、その偏心量が最大となる位置に規制されている。そして、このように、ピボット部17aと反対側にアーム部17bを延設して、該アーム部17bの先端部をスプリング18によって付勢するように構成することで、カムリング17に対し最大限のトルクを発生させることができるため、当該スプリング18の小型化が図れ、この結果、ポンプ自体の小型化に供される。
【0024】
また、前記カムリング17の外周部には、前記第1、第2シール摺接面11c,11dと対向するように形成された当該各シール摺接面11c,11dと同心円弧面状の第1、第2シール面17g,17hを有する横断面ほぼ三角形状の一対の第1、第2シール構成部17c,17dが軸方向に沿ってそれぞれ突設されていると共に、該各シール構成部17c,17dのシール面17g,17hに、横断面ほぼ矩形状の第1、第2シール保持溝17e,17fが軸方向に沿って切欠形成されていて、該各シール保持溝17e,17fには、カムリング17の偏心揺動時に各シール摺接面11c,11dに摺接する一対のシール部材30,30がそれぞれ収容保持されている。
【0025】
ここで、前記各シール面17g,17hは、それぞれ前記ピボット部17aの中心からこれに対応する前記各シール摺接面11c,11dを構成する半径R1,R2よりも僅かに小さい所定の半径R3,R4によって構成されており、当該各シール面17g,17hと前記各シール摺接面11c,11dとの間には、それぞれ微小なクリアランスCが形成されるようになっている。
【0026】
前記各シール部材30,30は、例えば低摩擦特性を有するフッ素系樹脂材によりカムリング17の軸方向に沿って直線状に細長く形成され、各シール保持溝17e,17fの底部に配設されたゴム製の弾性部材29,29の弾性力により各シール摺接面11c,11dに押し付けられるようになっている。これにより、後述する各圧力室31,32の良好な液密性が常時確保されるようになっている。
【0027】
そして、カムリング17の非作動状態において、前記ポンプ吐出側となるカムリング偏心方向線Nよりもピボット部17a側におけるカムリング17の外周域には、該カムリング17の外周面とポンプボディ11の内側面との間に、カムリング17の外周面、ピボット部17a、前記各シール部材30,30及びポンプボディ11の内側面をもって、ピボット部17aを挟んで両側に、第1圧力室31及び第2圧力室32がそれぞれ画成されている。なお、本実施形態では、前記第1、第2圧力室31,32の全体を、カムリング17の外周域において、前記ポンプ吐出側の範囲内に収めた実施例を示しているが、望ましくは、径方向において加圧領域となる前記吐出領域と重合する領域、つまり、カムリング17の周壁を挟んで常時正圧となるポンプ室20と対向する領域内に収める方がよい。
【0028】
前記第1圧力室31には、吐出ポート22に吐出された吐出圧が導入通路25を介して常時導入されるようになっており、当該第1圧力室31に面するカムリング17の外周面によって構成されてスプリング18の付勢力を妨げるように作用する力を受ける第1受圧面33に吐出圧を作用させることで、カムリング17に対しその偏心量を減少させる方向(図2中の反時計方向)へ揺動力(移動力)を付与するようになっている。すなわち、この第1圧力室31は、前記第1受圧面33を介してカムリング17の中心がロータ15の回転中心と同心に近づく方向へ当該カムリング17を常時付勢することによって、このカムリング17の同心方向の移動量制御に供されている。
【0029】
一方で、前記第2圧力室32には、ポンプボディ11の底壁に貫通形成されて機関運転状態に応じて制御される後記のソレノイドバルブ40を介して吐出孔22aに接続された導入孔35を通じて吐出圧が適宜導入されるようになっており、当該第2圧力室32に面するカムリング17の外周面によって構成されてスプリング18の付勢力を助勢する方向に作用する力を受ける第2受圧面34に吐出圧を作用させることで、カムリング17に対しその偏心量を増大させる方向(図2中の時計方向)へ揺動力を付与するようになっている。
【0030】
ここで、図2に示すように、前記第2受圧面34の受圧面積S2は、前記第1受圧面33の受圧面積S1よりも小さく設定されており、第2圧力室32の内圧に基づく付勢力とスプリング18の付勢力とによるカムリング17の偏心方向の付勢力と、第1圧力室31による付勢力と、が所定の力関係をもってバランスするように構成されていて、当該第2圧力室32による付勢力がスプリング18の付勢力を補助するようになっている。すなわち、前記第2圧力室32は、前記ソレノイドバルブ40を介して必要に応じて供給された吐出圧を第2受圧面34に作用させてスプリング18の付勢力を適宜助勢することで、カムリング17の偏心方向の移動量制御に供されている。
【0031】
また、前記オイルポンプ10には、図8に示すように、車載のECU51からの励磁電流に基づき機関の運転状態に応じて作動するソレノイドバルブ40が当該オイルポンプ10とは別体に設けられており、このソレノイドバルブ40を介して吐出孔22aと導入孔35とが接続され、これによってソレノイドバルブ40の開弁時に第1圧力室31と第2圧力室32が連通するようになっている。
【0032】
前記ソレノイドバルブ40は、図6及び図7に示すように、一端側が開口形成されて他端側が閉塞された円筒状のバルブボディ41と、該バルブボディ41内に軸方向へ摺動自在に収容され、両端部にバルブボディ41の内周面に摺接する第1、第2ランド部42a,42bが形成された弁体42と、該弁体42の第2ランド部42bによってバルブボディ41の他端側に画成された背圧室45に収容され、弁体42をバルブボディ41の一端側へ付勢するスプリング43と、バルブボディ41の開口端部に取り付けられ、通電に伴ってロッド44bを進出させてスプリング43の付勢力に抗して弁体42をバルブボディ41の他端側へ軸方向移動させる電磁ユニット44と、から主として構成されている。
【0033】
前記バルブボディ41は、その周壁に、吐出孔22aに接続されるINポート41aと、導入孔35に接続されるOUTポート41bと、吸入ポート21又は外部に接続されるドレインポート41cと、がそれぞれ貫通形成されていると共に、他端部の側壁には、吸入ポート21又は外部に接続されて背圧室45に常時開口する背圧ポート41dが貫通形成されている。
【0034】
前記弁体42は、軸方向の中間部が縮径形成されていて、前記両ランド部42a,42bによってバルブボディ41との間に環状空間46を画成し、この環状空間46を介してOUTポート41bとINポート41a又はドレインポート41cとが連通するようになっている。
【0035】
前記電磁ユニット44は、周知のように構成され、ボビンにコイルが巻回され、これにヨークを外嵌してなるコイルユニット44aと、該コイルユニット44aの内周側に軸方向へ進退可能に設けられた磁性材からなる図外のアーマチュアと、該アーマチュアに結合され、通電状態に応じてアーマチュアに伴い進退移動するロッド44bと、から主として構成されている。
【0036】
ここで、前記ソレノイドバルブ40は、図6に示すように、いわゆるノーマルオープン型に構成されていることから、非通電状態においては、環状空間56を介してINポート41aとOUTポート41bとが連通することとなり、第2圧力室32に吐出圧が導入されることとなる(本発明に係る第1状態)。このとき、ドレインポート41cは、背圧室45に開口した状態となっている。
【0037】
一方、図7に示すように、コイルユニット44aに励磁電流が通電された通電時には、ロッド44bの押圧力によりスプリング43の付勢力に抗して弁体42がバルブボディ41の他端側へと押し戻されることとなる。これによって、INポート41aは弁体42の第1ランド部42aによって遮断され、OUTポート41bは環状空間46を介してドレインポート41cと連通することとなって、第2圧力室32は吸入圧又は大気圧に開放されることとなる(本発明に係る第2状態)。
【0038】
以上のような構成から、前記オイルポンプ10は、第1圧力室31の内圧と、スプリング18の付勢力及びソレノイドバルブ40により制御される第2圧力室32の内圧と、のカムリング17に作用する相対的な力関係を制御することで、該カムリング17の偏心量を制御するようになっている。そして、この偏心量を制御して、ポンプ作用時における前記各ポンプ室20の内部容積の変化量を制御することで、当該オイルポンプ10の吐出圧特性を制御するようになっている。
【0039】
以下、本実施形態に係るオイルポンプ10の特徴的な作用、つまりカムリング17の偏心量制御に基づくポンプの吐出圧制御について、図2、図3及び図9に基づいて説明する。
【0040】
まず、前記オイルポンプ10の吐出圧は、機関の各摺動部やバルブタイミング制御装置における要求油圧によって決定される。そこで、機関の要求油圧は当該機関の運転状態に応じて変化することから、その要求油圧も様々であるが、そのうちの代表的なものを図9のマップに示す。すなわち、例えば、燃費の向上等を目的としてバルブタイミング制御装置を用いた場合には、その要求油圧は図中のP1となる。また、内燃機関の要求油圧としては、主としてクランク軸の軸受部の潤滑に要する油圧によって決まるが、この要求油圧は機関の回転数及び負荷(スロットル開度)や油温等に応じて変化するものであって、例えば、低負荷又は低油温時であれば図中のP2が、高負荷又は高油温時であれば図中のP4が、それぞれ要求油圧となる。さらに、機関の高負荷時には、ピストン冷却のためにオイルジェットを使用する必要があり、中回転時である所定の回転数nにおいて図中のP3の油圧が必要となる。
【0041】
そこで、前記オイルポンプ10は、低負荷又は低油温時に図9中のP1もしくはP2のどちらか一方、又はP1及びP2の両方の要求油圧を満足する第1吐出圧特性である低圧特性Xとなるように設定されていると共に、高負荷又は高油温時に図9中のP3もしくはP4のどちらか一方、又はP3及びP4の両方の要求油圧を満足する第2吐出圧特性である高圧特性Yとなるように設定されていて、前記ソレノイドバルブ40のON−OFFを切り換えることにより、カムリング17の作動特性、つまり、カムリング17の作動に必要となる吐出圧である第1、第2作動圧Px,Pyを変更し、機関の運転状態に応じて前記両油圧特性X,Yのうち最適な油圧特性を選択することで、前記機関の各要求油圧を満足するようになっている。
【0042】
なお、本実施形態では、図9に示すように、前記低圧特性Xについては、可変バルブタイミング制御装置の要求油圧P1と低負荷又は低油温状態における機関の高回転時の要求油圧P2とを結んだ破線で示す油圧特性に設定されている一方、前記高圧特性Yについては、高負荷又は高油温状態における機関の中回転時の要求油圧P3と当該状態における機関の高回転時の要求油圧P4とを結んだ実線で示す油圧特性に設定されている。
【0043】
すなわち、前記オイルポンプ10では、スプリング18のセット荷重Wが前記第1作動油圧Pxに設定されていて、低負荷又は低油温時には、ECU51からソレノイドバルブ40に励磁電流が通電されることでINポート41aが遮断され、第1圧力室31内にのみ吐出圧が導入されることとなる。これによって、第1圧力室31の内圧が第1作動油圧Pxに達するまでカムリング17の偏心量が最大の状態で維持されて(図2参照)、機関の回転数の上昇に伴って吐出圧が急激に立ち上がることとなる。そして、吐出圧の上昇により第1圧力室31の内圧が第1作動油圧Pxに達すると、カムリング17がピボット部17aを支点として前記カムリング偏心方向線Nの下方となる当該カムリング17の偏心量が減少する方向へと揺動することとなる(図3参照)。これにより、ポンプ作用時の前記各ポンプ室20の容積変化量が小さくなり、その結果、機関の回転数の上昇に伴う吐出圧の上昇が緩やかになることから、図9に示す低圧特性Xが得られることとなる。
【0044】
続いて、前記低負荷又は低油温状態から高負荷又は高油温状態へ移行した場合には、ECU51からのソレノイドバルブ40への励磁電流が遮断されて、INポート41aとOUTポート41bとが連通することとなり、吐出圧が、第1圧力室31のみならず、第2圧力室32にも導入されることとなる。すると、第2圧力室32の第2受圧面34に作用する圧力は、スプリング18の付勢力を助勢するようにはたらくため、第1圧力室31の内圧が図9中の第1作動油圧Pxに達してもカムリング17は作動せず、第1圧力室31の内圧と第2圧力室32の内圧により第1受圧面33と第2受圧面34に作用する油圧力差がスプリング18の付勢力に達するまで、カムリング17は、当該カムリング17の偏心量が最大となる状態で保持される(図2参照)。すなわち、当該高負荷又は高油温時には、図9に示すように、吐出圧が、第1圧力室31の内圧と第2圧力室32の内圧により第1受圧面33と第2受圧面34に作用する油圧力差がスプリング18の付勢力と等しくなるような第2作動油圧Pyに達するまで、カムリング17の偏心量が最大の状態で維持され、機関の回転上昇に伴って吐出圧が大きく立ち上がることとなる。そして、第1圧力室31の内圧が第2作動油圧Pyに達すると、カムリング17が偏心量の減少する方向へ揺動することとなる(図3参照)。これにより、ポンプ作用時の前記各ポンプ室20の容積変化量が小さくなって機関の回転数の上昇に伴う吐出圧の上昇が緩やかになることから、図9に示すような高圧特性Yが得られることとなる。
【0045】
このように、前記オイルポンプ10では、原則として、機関の回転数や負荷、油温等を基準に、ECU51により高圧が必要と判断された場合にポンプ吐出圧特性が高圧特性Yに移行することとなる。そこで、通常は、機関の負荷や油温等が高い場合に前記高圧特性Yに移行することとなるので、上述の説明では、当該高圧特性Yを発揮する場合として機関の負荷や油温が高い状態を例に説明したが、例えば、バルブタイミング制御装置においても前記要求油圧P1よりも高い油圧が必要となる場合があり、かかる場合には、ECU51によりバルブタイミング制御装置の作動信号に合わせてソレノイドバルブ40の切り換えが行われ、機関の負荷や油温等が低い状態であってもポンプ吐出圧特性が前記高圧特性Yに移行することとなる。換言すれば、本実施例では、前記要求油圧P1をバルブタイミング制御装置の通常の要求油圧に設定したものを示しているが、搭載する車両の仕様等に応じて前記要求油圧P1をバルブタイミング制御装置における最低限の要求油圧として設定することも可能である。
【0046】
また、前記高負荷又は高油温状態から再び前記低負荷又は低油温状態へと移行した場合には、ECU51から励磁電流が再び通電されてソレノイドバルブ40が図7に示すような通電状態となり、第2圧力室32が大気圧又は吸入圧に開放されることとなる。これにより、カムリング17の作動は第1圧力室31の内圧とスプリング18の付勢力との力関係に依存することとなって、ポンプの吐出圧特性が低圧特性Xへと変更される。この結果、低負荷又は低油温状態へ移行したことで不要となる吐出圧を低減し、機関の動力損失を抑制することができる。
【0047】
このように、前記オイルポンプ10は、機関の回転数や負荷、油温等の各種の運転情報に基づきECU51がソレノイドバルブ40を切り換えることで、カムリング17の作動特性を変更し、当該機関の回転数や負荷、油温等に適した吐出圧特性を選択することができる。これにより、ポンプとしての仕事のムダを省き、機関の動力損失を最小限に抑えることが可能となる。
【0048】
しかも、このオイルポンプ10の場合は、上述のようなカムリング17の作動制御につき、デューティ制御等の複雑な制御を必要とせずソレノイドバルブ40のON−OFFによる単純な制御によって、さらには、該ソレノイドバルブ40におけるポート形状等の精密加工や開弁特性等のチューニングをも必要とせず一般的なソレノイドバルブ40を用いた簡素な構造をもって、容易に実現することができる。このことから、ポンプの製造コストの低廉化も図れる。
【0049】
また、前記オイルポンプ10は、図3中に太実線矢印で示すように、吐出領域に係る前記各ポンプ室20の内圧がカムリング17のピボット部17a側の内周面に作用することになるため、該カムリング17は、前記カムリング基準線Mに沿って図中の右方向、つまり、前記支持溝11b側へ押圧されて、ピボット部17aが当該支持溝11bに押し付けられることとなる。しかしながら、本実施形態に係るオイルポンプ10の場合には、前記ポンプ吐出側におけるカムリング17の外周域に、つまり、前記吐出領域に係る前記各ポンプ室20に対しカムリング17の周壁を挟んでこれらポンプ室20と対向するように、前記両圧力室31,32が配置されていることから、図3中に太破線矢印で示すように、これら両圧力室31,32の内圧がそれぞれカムリング17を支持溝11bと反対側へ押し返すように作用することとなり、ピボット部17aの支持溝11bへの圧接が軽減される。これによって、カムリング17の偏心揺動時におけるピボット部17bと支持溝11bの摩擦を低減することができる。この結果、当該ピボット部17aや支持溝11bの摩耗、特にカムリング17と比べて硬度の低い材質からなる支持溝11bの摩耗を抑制することが可能となり、ポンプの耐久性の向上に供される。
【0050】
なお、かかる作用により、前記ポンプ吐出側においてカムリング17の内外周側に作用する力はほぼ相殺されるものの、前記支持溝11bと反対側に位置する前記ポンプ吸入側のカムリング17の外周域には導入通路24を介して大気圧又は吸入圧が作用して、該大気圧又は吸入圧によってピボット部17aは少なからず支持溝11b内に押圧されることになるため、該ピボット部17aが支持溝11bの内面から離間してしまうおそれもない。これによって、ピボット部17aが支持溝11bに適度に摺接したカムリング17の適切な作動を得ることができる。
【0051】
さらには、上述のように、前記ポンプ吐出側の領域において、吐出領域に係る前記各ポンプ室20と対向するように前記両圧力室31,32が配置されていることから、かかる領域においてカムリング17の内周側に作用する圧力と外周側に作用する圧力とが全て吐出圧となってほぼ等しくなることから、当該吐出領域におけるカムリング17の内外周の圧力差を最小限に抑えることができる。これによって、前記吐出領域においてカムリング17の両側面とポンプ収容室13の底壁13a及びカバー部材12の内側面との間に介在する微小隙間を介しての潤滑油の漏出(リーク)を最小限に抑えることが可能となる。この結果、オイルポンプ10の仕事のムダが極力低減されて、当該オイルポンプ10の高効率化も図れる。
【0052】
以上、本実施形態に係るオイルポンプ10によれば、ピボット部17aを挟んで両側に第1、第2圧力室31,32を配置したことで、第2圧力室32の内圧がスプリング18の付勢力を助勢するように作用することになるため、該スプリング18の付勢力を極力小さく設定することが可能となる。具体的には、かかる第2圧力室32の配置により、スプリング18は、前記低圧特性Xを確保し得る付勢力、つまり、第1作動油圧Pxとつり合うだけの付勢力を有していればよいため、従来よりもばね常数の小さい低荷重のスプリングを用いることができる。これにより、ポンプボディ11においてスプリング18の配置に要するスペースを縮小することができ、当該オイルポンプ10の小型化・軽量化が図れる。この結果、オイルポンプ10の機関への搭載性が向上する。
【0053】
しかも、前記第2受圧面34は、前記第1受圧面33よりも小さい受圧面積に設定されていることから、第2圧力室32によってカムリング17の作動油圧を二段階に設定することが可能になる。これにより、ポンプの吐出圧特性の自由度を向上させることもできる。
【0054】
また、パワーステアリング装置用の可変容量形ポンプ等、二つの圧力室の差圧によってカムリングを揺動制御するように構成されたポンプは、従来から種々のもの提供されているが、かかる従来のポンプはいずれもオリフィス等による圧力損失に基づいて差圧を発生させる構造を有しており、この圧力損失がポンプ効率を低下させている。これに対して、本実施形態に係るオイルポンプ10の場合は、第1圧力室31及び第2圧力室32内へ圧力損失を伴わずに吐出圧を導入することとし、該両圧力室31,32の受圧面積差、つまり、第1受圧面33と第2受圧面34の面積差によってカムリング17の作動トルクを発生させる構造となっていることから、前記従来の可変容量形ポンプのようなポンプ効率の低下を生じるおそれがない。これにより、前記従来の可変容量形ポンプと比べて、前記圧力損失が生じない分、ポンプ効率の向上に寄与することができる。
【0055】
さらには、本実施形態に係るオイルポンプ10にあっては、ソレノイドバルブ40が非通電時において前記高圧特性となるように設定されているため、該ソレノイドバルブ40が故障した場合であっても機関使用領域の全域において必要な吐出圧を確保できる、といったフェールセーフとしての機能も備えている。
【0056】
図10及び図11は前記第1実施形態の変形例を示しており、該第1実施形態に係るソレノイドバルブ40を、いわゆるノーマルクローズ型に構成したものである。
【0057】
すなわち、本変形例に係るソレノイドバルブ40は、前記第1実施形態のものとは逆の特性を有するいわゆるノーマルクローズ型に構成されたものであって、図10に示すように、非通電時において、INポート51aが遮断されてOUTポート51bがドレインポート51cと連通し、図11に示すように、通電時において、INポート51aとOUTポート51bとが連通するように構成されている。これによって、オイルポンプ10は、ソレノイドバルブ40の非通電時に低圧特性Xとなり、該ソレノイドバルブ40の通電時に高圧特性Yとなる。
【0058】
かかる構成によれば、機関に要求されるオイルポンプ10の吐出圧特性につき、低圧特性Xの頻度と比べて高圧特性Yの頻度が低い場合、ソレノイドバルブ40に対する通電時間を短縮することが可能になるため、該ソレノイドバルブ40の経時劣化の抑制に供される。
【0059】
図12〜図16は、本発明に係るオイルポンプの第2実施形態を示しており、前記第1実施形態に係るシール部材30,30の配置を変更すると共に、ソレノイドバルブ40をハウジングに一体に構成したものである。
【0060】
すなわち、本実施形態では、前記第1実施形態においてカムリング17の前記各シール構成部17c,17dに設けられた前記各シール保持溝17e,17fが廃止され、代わりに、前記各シール摺接面11c,11dにおいて、前記廃止した各シール保持溝17e,17fと対向する位置に、該各シール保持溝17e,17fと同様のシール保持溝11e,11fが形成されていて、該各シール保持溝11e,11f内に、前記各弾性部材29,29と共に前記各シール部材30,30の収容配置されている。
【0061】
また、本実施形態では、図12、図15及び図16に示すように、ソレノイドバルブ40のバルブボディ41が、カバー部材12の外側面12bに、前記カムリング偏心方向線Nと平行に一体形成されていて、当該ソレノイドバルブ40がハウジングと一体に構成されている。なお、ソレノイドバルブ40の構造については、前記第1実施形態と同様であり、前記カバー部材12に一体に形成されたバルブボディ41内に弁体41が摺動自在に収容され、当該バルブボディ41の図15中の上端部である一端開口部に電磁ユニット44が取り付けられている。
【0062】
また、かかる構成の変更に伴い、前記カバー部材12の内側面12cには、図16に示すように、吸入ポート21、吐出ポート22、吐出ポート22と軸受孔12aを連通する連通溝23、及び吐出ポート22から延設される導入通路25が、ポンプボディ11と同様にそれぞれ設けられている。
【0063】
さらに、このカバー部材12には、前記ポンプボディ11の内部(ポンプ収容室13)とバルブボディ41の内部とを連通するように、導入通路24の所定の位置にINポート41aが、該INポート41aに対して前記カムリング基準線Mを挟んでほぼ対称となる所定位置に導入孔35を兼ねるOUTポート41bが、それぞれ穿設されていると共に、当該カバー部材12に一体形成されたバルブボディ11の周壁及び底壁の各所定位置には、ドレインポート41c及び背圧ポート41dがそれぞれ貫通形成されている。
【0064】
したがって、この実施形態によれば、カムリング17の偏心揺動時において、前記各シール部材30,30が、アルミニウム合金材からなるポンプボディ11よりも硬度の高い鉄系の焼結材からなるカムリング17の前記各シール面17g,17hと摺接することになるため、当該各シール部材30,30による相手部材の摩耗を抑制することができる。これにより、前記第1実施形態と比べて、オイルポンプ10の耐久性の向上に供される。
【0065】
さらに、本実施形態では、ソレノイドバルブ40を、カバー部材12、つまり、ハウジングと一体に形成したことから、図8に示すオイルポンプ10の油圧回路が当該オイルポンプ10内で完結させることができる。このため、オイルポンプ10を中心とした油圧供給システムとしての小型化に供される。
【0066】
図17及び図18は、本発明に係るオイルポンプの第3実施形態を示しており、前記第2実施形態の構成を基本として、該第2実施形態に係るカムリング17の前記各シール構成部17c,17dにおける前記各シール保持溝17e,17f並びにこれに収容される前記各弾性部材29,29及び前記各シール部材30,30を廃止したものである。
【0067】
すなわち、本実施形態では、前記各シール部材30,30等を廃止した代わりに、前記カムリング17の第1シール構成部17cの側面17jが平坦状に形成されていると共に、各図中のボルト挿通部11g近傍となるポンプボディ11の内側部に、カムリング17の最大偏心時に当該カムリング17の第1シール構成部17cの側面17jと当接することによってシール部SLを構成するシール構成部11hが、前記第1シール構成部17cの側面17jと対向するように設けられている。
【0068】
このシール構成部11hは、カムリング17の最大偏心時において当該カムリング17の第1シール構成部17cの側面17jと密着するように設けられていて、当該シール構成部11hによりカムリング17の偏心方向への移動が規制されると共に、当該シール構成部11hによって構成されるシール部SLにより第1圧力室31内が液密に保持されるようになっている。なお、上記の構成変更に伴い、本実施形態では、前記第1実施形態においてポンプボディ11の内側部にカムリング17の最大偏心位置を規制するべく設けられていた前記支持突起11iが廃止されている。
【0069】
かかる構成によれば、前記カムリング17の非作動時(最大偏心時)、つまり、吐出圧を上昇させる段階では、前記シール部SLにより、前記各シール部材30,30を用いた前記第2実施形態と同様の程度に第1圧力室31内を液密に保持することが可能となる。これによって、機関低回転時における最小限の必要油圧として設定された第1作動油圧Pxまでは、吐出圧を適切な時間(レスポンス)をもって上昇させることができる。この結果、前記バルブタイミング制御装置の要求油圧P1等、機関低回転時における要求油圧を確保することができる。
【0070】
一方、前記カムリング17の作動時(偏心揺動時)、つまり、吐出圧の上昇を抑制させる段階では、前記各圧力室31,32は、それぞれ前記各シール摺接面11c,11dと前記各シール面17g,17hとの間に形成される前記微小のクリアランスCによってシールされることとなる。この場合には、微小のクリアランスCを介しての多少のリークが発生することになるものの、当該段階においては吐出圧が第1作動油圧Pxを超えて該吐出圧の上昇を抑制する状態にあることから、前記リークは許容することができる。
【0071】
なお、前記微小のクリアランスCは、当該実施形態に係るオイルポンプ10におけるロータ15やカムリング17とカバー部材12の内側面12cやポンプ収容室13の底壁13aとの軸方向の隙間、あるいは周知のトロコイドポンプにおけるロータの外周面とハウジングの内周面との径方向の隙間と同程度の隙間に設定されており、原則として、リークが許容範囲内に収まるように設定されている。
【0072】
したがって、この実施形態によれば、前記各シール部材30,30等を廃止したことで、特に前記各シール部材30,30及びこれに付随する前記各弾性部材29,29といったオイルポンプ10の各構成部品を削減することができ、これによって、当該オイルポンプ10の組み付け工数の低減化が図れる。この結果、オイルポンプ10の製造コストの低廉化に供される。
【0073】
しかも、前記オイルポンプ10の各構成部品の削減により、組み付け不良等、組み付けに付随する不具合を抑制することも可能となり、当該オイルポンプ10の品質の安定や向上にも供される。
【0074】
図19〜図22は、本発明に係るオイルポンプの第4実施形態を示しており、前記第1実施形態の構成を基本として、該第1実施形態に係るソレノイドバルブ40に代えて、吐出圧により作動する油圧方向切換弁50をもってポンプの吐出圧特性を変更するように構成したものである。
【0075】
すなわち、本実施形態では、前記ソレノイドバルブ40の代替として、周知のスプール形の油圧方向切換弁50が用いられており、この油圧方向切換弁50は、図19〜図21に示すように、一端側が開口形成されて他端側が閉塞された円筒状のバルブボディ51と、該バルブボディの一端開口部を閉塞するプラグ52と、バルブボディ51内に軸方向へ摺動自在に収容され、両端部に有する第1、第2ランド部53a,53bによって当該バルブボディ51内に圧力室55及び背圧室56を画成する弁体53と、背圧室56内に収容され、弁体53を圧力室55側へ付勢するスプリング54と、を備え、圧力室54の内圧が前記要求油圧P1より高く前記要求油圧P2よりも低く設定された所定の設定圧Pzを超えると、図20に示すように、弁体53がスプリング54の付勢力に抗して背圧室56側へ移動するように設定されている。
【0076】
前記バルブボディ51は、その周壁における軸方向の所定位置に、吐出孔22aに接続されるINポート51aと、導入孔35に接続されるOUTポート51bと、吸入ポート21又は外部に接続されるドレインポート51cとがそれぞれ貫通形成されていると共に、背圧室55側の側壁に、吸入ポート21又は外部に接続されて背圧室45を吸入圧又は大気圧に常時開放する背圧ポート51dが貫通形成されている。
【0077】
前記プラグ52は、前記バルブボディ51の一端側における開口端部の内周面に設けられた雌ねじ部に螺着されており、軸心に沿って導入ポート52aが貫通形成され、該導入ポート52aを通じて圧力室55内に吐出圧が常時導入されるようになっている。
【0078】
前記弁体53は、軸方向の中間部が縮径形成されていて、前記両ランド部53a,53bによってバルブボディ51との間に環状空間57を画成し、この環状空間57を介してOUTポート51bとINポート51a又はドレインポート51cとが連通するようになっている。すなわち、弁体53が非作動状態にあるときは、第1ランド部53aによりINポート51aが遮断され、OUTポート51bとドレインポート51cとが環状空間57を介して連通することとなる一方、弁体53が作動したときには、第2ランド部53bによりドレインポート51cが遮断され、INポート51aとOUTポート51bとが環状空間57を介して連通することとなる。
【0079】
以上のような構成から、本実施形態に係るオイルポンプ10の場合には、機関の回転数が低い状態においては、油圧方向切換弁50のINポート51aが遮断されて第1圧力室31にのみ吐出圧が作用することから、図22に示すように、吐出圧が第1作動油圧Pxに達すると、カムリング17が偏心量減少方向へ揺動することとなって吐出圧の上昇が緩やかになるといった前記低圧特性Xを発揮することとなる。(同図中のT1区間)。そして、吐出圧が上昇して圧力室55の内圧が前記設定圧Pzに達すると、該圧力室55の内圧に基づき弁体53がスプリング53の付勢力に抗して背圧室55側へ軸方向移動を開始し、この弁体52の軸方向移動に伴い、ドレインポート51cが第2ランド部53bによって閉塞されると共にINポート51aが環状空間57に漸次開口することとなる。これによって、INポート51aとOUTポート51bとが環状空間57を介して徐々に連通することとなって、第2圧力室32内に吐出圧が漸次導入されるようになる。この結果、第2圧力室32の内圧が上昇し、これに伴いカムリング17が偏心量増大方向へ揺動することから、吐出圧がさらに大きく増大するといった前記高圧特性Yを発揮することとなる(図22中のT2区間)。
【0080】
このように、本実施形態によれば、前記第1実施形態に係るソレノイドバルブ40のように機関の運転状態に応じた吐出圧特性の自由な切り換えはできないが、より低廉な製造コストでもって機関の回転数に合わせた吐出圧特性を備えるオイルポンプを得ることができる。
【0081】
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば前記要求油圧P1〜P5、前記第1、第2作動油圧Px,Py、及び前記設定圧Pzは、オイルポンプ10が搭載される車両の内燃機関やバルブタイミング制御装置等の仕様に応じて自由に変更することができる。
【0082】
また、前記各実施形態では、本発明に係る各側壁をポンプボディ11の底壁とカバー部材12とから構成したものを例に説明したが、当該各側壁を、例えば、前記ポンプ要素の両側であってポンプボディ11の底壁及びカバー部材12の各軸方向間にそれぞれ介装した別部材として構成する、といった前記ハウジングと別体構造とすることも可能である。
【0083】
また、前記各実施形態では、第1圧力室31の内圧に対してスプリング18の付勢力と第2圧力室32の内圧をバランスさせることによってカムリング17の作動を制御しているが、ポンプの仕様によっては、第1受圧面33の受圧面積を第2受圧面34の受圧面積よりも大きく設定することにより、スプリング18を廃止し、前記両圧力室31,32の内圧(差圧)のみによってカムリング17の作動を制御するようにしてもよい。
【0084】
さらには、前記各実施形態では、前記第2受圧面34の受圧面積を第1受圧面33の受圧面積よりも小さく設定しているが、内燃機関等の要求によっては前記両受圧面33,34を等しく設定してもよい。
【符号の説明】
【0085】
11…ポンプボディ(ハウジング)
12…カバー部材(ハウジング)
13…ポンプ収容部
14…駆動軸
15…ロータ
16…ベーン
17…カムリング
18…スプリング(付勢部材)
20…ポンプ室(作動油室)
21…吸入ポート(吸入部)
22…吐出ポート(吐出部)
31…第1圧力室
32…第2圧力室
33…第1受圧面
34…第2受圧面
40…ソレノイドバルブ(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内燃機関の各摺動部に作動油を供給する可変容量形オイルポンプであって、
内燃機関によって回転駆動されるロータ及び該ロータの外周部に出没自在に設けられた複数のベーンから構成されるポンプ要素と、
前記ポンプ要素を内周側に収容すると共に、外周側に設けられた揺動支点を中心として揺動することで前記ロータの回転中心に対する偏心量が変化するカムリングと、
前記カムリングの軸方向両側に側壁が配置されることによって前記ロータ及び隣接するベーンにより画成される複数の作動油室と、
前記カムリングを内部に収容すると共に、前記ロータの回転方向に沿って前記複数の作動油室の容積が減少する吐出領域に前記側壁を介して開口する吐出部及び前記ロータの回転方向に沿って前記複数の作動油室の容積が増大する吸入領域に前記側壁を介して開口する吸入部を有するハウジングと、
前記ロータの回転中心に対して前記カムリングの偏心量を増大させる方向へ該カムリングを付勢する付勢部材と、
前記カムリングの外周側と前記ハウジングの内周面と前記カムリングの揺動支点とによって画成され、かつ、内部に吐出圧が導入されて、前記付勢部材の付勢力を妨げるように吐出圧を作用させる第1受圧面を介して前記カムリングに対し偏心量を減少させる方向へ揺動力を付与する第1圧力室と、
前記カムリングの外周側と前記ハウジングの内周面と前記カムリングの揺動支点とによって画成され、かつ、内部に吐出圧が導入されて、前記付勢部材の付勢力を助勢するように吐出圧を作用させる第2受圧面を介して前記カムリングに対し偏心量を増大させる方向へ揺動力を付与する第2圧力室と、
前記第2圧力室への吐出圧の供給を切換制御する制御手段と、を備え、
前記第1受圧面の面積が、前記第2受圧面の面積よりも大きく設定されると共に、
前記第1圧力室及び第2圧力室が、それぞれ室の一部が少なくともロータ径方向において前記吐出領域と重合するように、前記カムリングの中心に対し前記揺動支点側に設けられていることを特徴とする可変容量形オイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−57326(P2013−57326A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−284030(P2012−284030)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2009−54366(P2009−54366)の分割
【原出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】