説明

可搬式自動加工装置

【課題】 既設構造物などに対して持ち運んで自動加工を行うことが出来るとともに、必要な精度を確保することができる可搬式自動加工装置を提供すること。
【解決手段】 加工基準点Oとこれから一定位置O’に加工用ロボット11を設置し、これを制御手段13に予め入力したプログラムで制御して加工を行うことで、可搬式の加工用ロボット11を用いて現場で自動加工を行うようにする。
容易にできるようにしている。
これにより、複雑な形状のスカラップ孔Fであっても自動加工することができ、高精度に加工でき、作業者の負担を大幅に軽減できるとともに、切削油などを使用することで、工具の寿命を延長し、効率良く短時間に加工することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可搬式自動加工装置に関し、既設の構造物などに持ち運んで設置し、穴加工や切削加工などを予め入力したプログラムによって自動的に行うことができるようにしたもので、特に鋼製橋脚の隅角部の補修工事として行われるスカラップ孔などの自動施工に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
既設の構造物などに対して穴加工や切削加工などを行う必要がある場合の一つに鋼製橋脚の隅角部の補修工事として行われるスカラップ孔などの加工がある。
【0003】
例えば、図4に示すように、都市内高速道路の鋼製橋脚Aでは、近年、梁Bと柱Cの交差部(以下、隅角部Dと称す)に疲労損傷が見つかっており、その原因は、隅角部Dの溶接内部に潜在するきず、せん断遅れなどの影響による応力集中と考えられ、これらの補修・補強のため、あて板による補強E、スカラップ施工F、ストップホール施工および大コア抜き施工などが行われている。
【0004】
このような鋼製橋脚Aの隅角部Dに形成するスカラップ孔Fは、例えば図4(b)に示すように、3方向の溶接が交差している部分に形成され、図5に示すように、溶接部の不完全溶込み部分を除去するように形成するものである。
【0005】
このようなスカラップ孔Fは、例えば図4および図6に示すように、大円弧部F1と小円弧部F2とを複数の直線部F3で結んだ複雑な形状で、しかも小円弧部F2や直線部F3は上下方向にも広がるように形成される。
【0006】
従来、このようなスカラップ孔の施工は、手作業で行われており、まず穴あけ機械として、例えばジェットブローチを用いて大円弧部を形成する大きな孔、例えば直径50mmの孔をあけ、この孔の周囲を棒グラインダで水平方向に拡げ、こののち上下方向にも拡げるようにしている。
【0007】
ところが、鋼製橋脚Aの隅角部Dは、非常に作業性の悪いところが多く、しかも手作業であるため、加工時の寸法精度の確保が難しく、施工に時間がかかるという問題がある。
【0008】
また、手作業による棒グラインダでの加工であることから、切削油を使用すると周囲に飛散したり、作業者に付着するため、切削油を使用することができず、超硬工具を使用しても消耗が激しく、段取り替えが頻繁に必要となるという問題もある。
【0009】
さらに、加工にともない切り粉が飛散し、作業者に付着するなどの問題もある。
【0010】
一方、このような加工を自動化する装置については、現在のところなく、工場で加工を行う装置としては、例えば特許文献1〜3等に開示されている等種々の加工装置が提案されている。
【特許文献1】特開2000−127018号公報
【特許文献2】特開平11−267945号公報
【特許文献3】実開平5−24222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、工場に設置して使用する加工装置をそのまま現場に持ち運び、スカラップ孔加工などを行おうとしても、ワークとなる鋼製橋脚の隅角部を装置の加工部にセットすることもできず、既存の装置では、これらの作業を簡単に自動化することが出来ないという問題がある。
【0012】
この発明は、かかる従来技術の課題と要望に鑑みてなされたもので、既設の構造物などに対して持ち運んで自動加工を行うことが出来るとともに、必要な精度を確保することができる可搬式自動加工装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来技術が有する課題を解決するため、この発明の請求項1記載の可搬式自動加工装置は、被加工物に設けた加工基準点に対して一定の位置に設置される可搬式の加工用ロボットと、この加工用ロボットに装着される加工用工具と、前記加工基準点に対する加工形状を予めプログラムするとともにこのプログラムにしたがって前記加工用ロボットを制御する制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
この可搬式自動加工装置によれば、被加工物に設けた加工基準点に対して一定の位置に設置される可搬式の加工用ロボットと、この加工用ロボットに装着される加工用工具と、前記加工基準点に対する加工形状を予めプログラムするとともにこのプログラムにしたがって前記加工用ロボットを制御する制御手段とを備えるようにしており、加工基準点とこれから一定位置に加工用ロボットを設置し、これを制御手段に予め入力したプログラムで制御して加工を行うことで、可搬式の加工用ロボットで現場での自動加工が容易にできるようにしている。
【0015】
また、この発明の請求項2記載の可搬式自動加工装置は、請求項1記載の構成に加え、前記加工用工具に向けて切削油等を供給する切削油等供給手段を設けてなることを特徴とするものである。
【0016】
この可搬式自動加工装置によれば、前記加工用工具に向けて切削油等を供給する切削油等供給手段を設けるようにしており、切削油の供給により加工工具の寿命を延長し、効率的に加工できるようにしている。
【0017】
さらに、この発明の請求項3記載の可搬式自動加工装置は、請求項1または2記載の構成に加え、前記加工用工具による切り粉等を回収する切り粉等回収手段を設けてなることを特徴とするものである。
【0018】
この可搬式自動加工装置によれば、前記加工用工具による切り粉等を回収する切り粉等回収手段を設けるようにしており、切り粉の飛散を防止して環境への悪影響を排除して加工を行うことができるようになる。
【0019】
また、この発明の請求項4記載の可搬式自動加工装置は、請求項1〜3のいずれかに記載の構成に加え、前記被加工物が既設の鋼製橋脚であり、その隅角部にスカラップ孔を加工可能に構成してなることを特徴とするものである。
【0020】
この可搬式自動加工装置によれば、前記被加工物が既設の鋼製橋脚であり、その隅角部にスカラップ孔を加工可能に構成するようにしており、鋼製橋脚の隅角部のスカラップ孔加工であっても、自動化することができるようになる。
【0021】
さらに、この発明の請求項5記載の可搬式自動加工装置は、請求項1〜4のいずれかに記載の構成に加え、前記可搬式の加工用ロボットを多関節ロボットで構成したことを特徴とするものである。
【0022】
この可搬式自動加工装置によれば、前記可搬式の加工用ロボットを多関節ロボットで構成するようにしており、多関節ロボットとすることで、小型化を図り、現場での作業を一層容易にできるようにしている。
【0023】
また、この発明の請求項6記載の可搬式自動加工装置は、請求項1〜5のいずれかに記載の構成に加え、前記加工用工具による加工を監視する監視用手段を設けるとともに、この監視用手段による監視情報に基づき緊急停止させる遠隔停止手段を設けたことを特徴とするものである。
【0024】
この可搬式自動加工装置によれば、前記加工用工具による加工を監視する監視用手段を設けるとともに、この監視用手段による監視情報に基づき緊急停止させる遠隔停止手段を設けるようにしており、遠隔で監視しながら緊急時にも対応して自動加工を行うことができるようにしている。
【発明の効果】
【0025】
この発明の請求項1記載の可搬式自動加工装置によれば、被加工物に設けた加工基準点に対して一定の位置に設置される可搬式の加工用ロボットと、この加工用ロボットに装着される加工用工具と、前記加工基準点に対する加工形状を予めプログラムするとともにこのプログラムにしたがって前記加工用ロボットを制御する制御手段とを備えるようにしたので、加工基準点とこれから一定位置に加工用ロボットを設置し、これを制御手段に予め入力したプログラムで制御して加工を行うことで、可搬式の加工用ロボットにより現場で自動加工を容易に行うことができる。
【0026】
また、この発明の請求項2記載の可搬式自動加工装置によれば、前記加工用工具に向けて切削油等を供給する切削油等供給手段を設けるようにしたので、切削油の供給により加工工具の寿命を延長し、効率的に加工することができる。
【0027】
さらに、この発明の請求項3記載の可搬式自動加工装置によれば、前記加工用工具による切り粉等を回収する切り粉等回収手段を設けるようにしたので、切り粉の飛散を防止して環境への悪影響を排除して加工を行うことができる。
【0028】
また、この発明の請求項4記載の可搬式自動加工装置によれば、前記被加工物が既設の鋼製橋脚であり、その隅角部にスカラップ孔を加工可能に構成するようにしたので、鋼製橋脚の隅角部のスカラップ孔加工であっても、自動化することができる。
【0029】
さらに、この発明の請求項5記載の可搬式自動加工装置によれば、前記可搬式の加工用ロボットを多関節ロボットで構成するようにしたので、多関節ロボットとすることで、小型化を図り、現場での作業を一層容易に行うことができる。
【0030】
また、この発明の請求項6記載の可搬式自動加工装置によれば、前記加工用工具による加工を監視する監視用手段を設けるとともに、この監視用手段による監視情報に基づき緊急停止させる遠隔停止手段を設けるようにしたので、遠隔で監視しながら緊急時にも対応して自動加工を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、この発明の一実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
図1〜図3は、この発明の可搬式自動加工装置の一実施の形態にかかり、図1は全体の概略正面図、図2は全体の概略斜視図、図3は制御系のブロック図である。
【0032】
この可搬式自動加工装置10では、加工対象として、例えば鋼製橋脚Aの隅角部Dにスカラップ加工Fを施すため、例えば図1および図2に示すように、可搬式の加工用ロボットとして小型多関節ロボット11を備え、その先端部に加工用工具12として棒グラインダや超硬バー等を装着し、この小型多関節ロボット11を自動制御してスカラップ孔Fの自動加工を行うための制御手段としてプログラムコンピュータ13を備えて構成してある。
【0033】
この可搬式自動加工装置10では、加工対象である構成橋脚Aの隅角部Dに加工基準点Oを設けておき、この加工基準点Oから一定の所定位置に小型多関節ロボット11を設置することで、可搬式の多関節ロボット11であっても自動加工ができるようにしている。
【0034】
すなわち、構成橋脚Aの隅角部Dの3方向の溶接線が交差する頂部を、例えば加工基準点Oとし、この加工基準点Oから一定位置、例えば梁Bのフランジ面上をX−Y平面とした場合のある座標O’(X0、Y0)を設置位置として多関節ロボット11をセットする。
【0035】
この多関節ロボット11のセットには、予めセット用の治具を用意しておくことで、現場での作業を容易にできるようにすることが好ましく、固定には、真空吸着装置やマグネット吸着装置などを用いるようにすれば良い。
【0036】
そして、このような加工基準点Oと多関節ロボット11の設置点O’とに基づき、予め制御手段であるプログラムコンピュータ13に自動加工のためのプログラムをパーソナルコンピュータPC等を介して入力する。
【0037】
これにより、この可搬式自動加工装置10では、現場に持ち運び、簡単にセットして加工用工具12による自動加工を行うことが可能となる。
この可搬式自動加工装置10では、加工の際、切削油等を供給できるようにするため切削油等供給手段として切削油等供給装置14が設けられ、切削油供給ノズル14aを多関節ロボット11のアーム先端部に取りつけるとともに、切削油等タンクから油ポンプなどで供給できるようにしてある。
【0038】
また、加工にともなう切り粉および供給後の切削油等を回収する切り粉等回収手段として切り粉等回収装置15が設けられ、強制吸入ノズル15aで加工用工具12の周囲からの切り粉や切削油等を吸引して上部回収タンク15bに回収するとともに、加工対象の下方に切り粉等回収バケット15cが設けられて下部回収タンク15dに回収され、上下部回収タンク15b、15dに回収された切削油は切り粉と分離して循環使用できるようにしてある。
【0039】
さらに、この可搬式自動加工装置10には、監視用手段として監視用カメラ16が設けられ、監視用モニタ17により離れた管理事務所などから加工状況を監視できるとともに、遠隔停止手段として非常停止ボタン18が設けられ、緊急停止させることができるようにしてある。
【0040】
このように構成した可搬式自動加工装置10では、鋼製橋脚Aの隅角部Dにスカラップ加工を行う場合には、予めパソコンPCなどによりスカラップ加工Fに必要な加工情報をCADデータなどを利用するなどでプログラムコンピュータ13に入力しておく。
【0041】
そして、小型多関節ロボット11を隅角部Dの近傍の梁Bのフランジ上に持ち運び、予め定めた加工基準点Oとこの加工基準点Oから一定の位置に定めた多関節ロボット11の設置位置O’に多関節ロボット11をセットする。
【0042】
こののち、加工に必要な加工用工具12として棒グラインダ等をセットし、自動加工を開始する。
【0043】
この加工開始と同時に、切削油等供給装置14を運転して切削油供給ノズル14aから切削油を供給するとともに、切り粉等回収装置15を運転して強制吸入ノズル15aおよび切り粉等回収バケット15cにより切り粉および切削油を上部および下部回収タンク15b、15dに回収し、切り粉などを分離した後、切削油を循環供給するようにする。
【0044】
これにより、複雑な形状のスカラップ孔Fであっても自動加工することができ、高精度に加工でき、作業者の負担を大幅に軽減できるとともに、切削油などを使用することで、工具の寿命を延長し、効率良く短時間に加工することができる。
【0045】
また、切削にともない切り粉などが周囲に飛散することがなく、環境への影響を回避して加工を行うことができる。
【0046】
さらに、自動加工が出来るので、作業者がその場についている必要がなく、離れたところから監視用カメラ16と監視用モニタ17で監視することができるとともに、非常の場合には、非常停止ボタン18で非常停止することができる。
【0047】
なお、上記実施の形態では、小型多関節ロボットを用いて鋼製橋脚の隅角部にスカラップ加工を施す場合を例に説明したが、これに限らず、他の形式の加工用ロボットを用いるようにしても良く、加工対象も隅角部のスカラップ孔に限らず、他の加工であっても良く、可搬式のロボットにより加工する場合に広く適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】この発明の可搬式自動加工装置の一実施の形態にかかる全体の概略正面図である。
【図2】この発明の可搬式自動加工装置の一実施の形態にかかる全体の概略斜視図である。
【図3】この発明の可搬式自動加工装置の一実施の形態にかかる制御系のブロック図である。
【図4】この発明の可搬式自動加工装置による加工対象の一例にかかる鋼製橋脚の隅角部およびスカラップ加工の説明図である。
【図5】この発明の可搬式自動加工装置による加工対象の一例にかかる溶接部の説明図である。
【図6】この発明の可搬式自動加工装置による加工対象の一例にかかるスカラップ加工部の平面説明図および左側面説明図である。
【符号の説明】
【0049】
A 鋼製橋脚
B 梁
C 柱
D 隅角部
E あて板による補強
F スカラップ施工
F1 大円弧部
F2 小円弧部
F3 直線部
O 加工基準点
O’ 設置点(設置位置)
10 可搬式自動加工装置
11 小型多関節ロボット(加工用ロボット)
12 加工用工具
13 プログラムコンピュータ(制御手段)
14 切削油等供給装置(切削油等供給手段)
14a 切削油供給ノズル
15 切り粉等回収装置(切り粉等回収手段)
15a 強制吸入ノズル
15b 上部回収タンク
15c 切り粉等回収バケット
15d 下部回収タンク
16 監視用カメラ(監視用手段)
17 監視用モニタ
18 非常停止ボタン(遠隔停止手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に設けた加工基準点に対して一定の位置に設置される可搬式の加工用ロボットと、この加工用ロボットに装着される加工用工具と、前記加工基準点に対する加工形状を予めプログラムするとともにこのプログラムにしたがって前記加工用ロボットを制御する制御手段とを備えることを特徴とする可搬式自動加工装置。
【請求項2】
前記加工用工具に向けて切削油等を供給する切削油等供給手段を設けてなることを特徴とする請求項1記載の可搬式自動加工装置。
【請求項3】
前記加工用工具による切り粉等を回収する切り粉等回収手段を設けてなることを特徴とする請求項1または2記載の可搬式自動加工装置。
【請求項4】
前記被加工物が既設の鋼製橋脚であり、その隅角部にスカラップ孔を加工可能に構成してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の可搬式自動加工装置。
【請求項5】
前記可搬式の加工用ロボットを多関節ロボットで構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の可搬式自動加工装置。
【請求項6】
前記加工用工具による加工を監視する監視用手段を設けるとともに、この監視用手段による監視情報に基づき緊急停止させる遠隔停止手段を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の可搬式自動加工装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−39893(P2006−39893A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218084(P2004−218084)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】