説明

可溶性の免疫制御因子

本発明は、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)によってコードされるvOX2タンパク質の可溶性誘導体、並びに炎症性疾患、例えば、自己免疫疾患、アレルギー、及び移植片拒絶等の治療のためのそれらの使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫制御分子、特にカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)によってコードされるvOX2タンパク質の可溶性誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類の免疫システムの生理学的機能は、微生物感染に対して宿主を防御することである。防御は、先天性免疫の初期反応と適応免疫の遅延応答によってもたらされる。活性化される免疫システムの最も初期の抗ウイルス成分は炎症性応答であり、内皮細胞を含む障害を受けた細胞からの走化性媒介物質の放出を特徴とし、白血球(主要な好中球であり、免疫システムの最も多く存在する細胞性成分)を末梢血から炎症反応の部位へ誘導する。好中球は、ファゴサイトーシスの過程で病原菌及び感染した細胞を消化することによってそれらを除去することにより、感染に対する先天性免疫応答において重要な役割を果たす。この過程は、ファゴソーム内のエフェクター「呼吸バースト」を伴い、有毒な活性酸素中間代謝物(ROI;例えばO2OH、H2O2等)の産生をもたらす酸化的代謝の突然の増加を伴う。ROIは病原体を細胞内で除去するために産生されるが、それらが組織にダメージを与える可能性を有する炎症の部位内に細胞膜を介して必然的に拡散し、それによって免疫病原性を増強する。
【0003】
炎症性応答の最も重要な炎症誘発性細胞間媒介物質は、ケモカイン、インターロイキン8(IL-8)、及びマクロファージ遊走促進タンパク質−1(MCP-1)である。
【0004】
蓄積する証拠により、急性(好中球)及び慢性(マクロファージ/単球)炎症の主要な媒介物質としてIL-8及びMCP-1が示されている(Akahoshiら, 1994;Frangogiannisら, 2002;Hatanoら, 1999;Smithら, 1997;Villigerら, 1992)。CXC−ケモカインIL-8は、白血球に対する生存促進シグナルであり、多数の報告は、単球、Tリンパ球、好中球、線維芽細胞、内皮細胞、及び上皮細胞を含む種々の細胞が、IL-8 mRNAを発現し、IL-8タンパク質を急速に産生していることを示している。しかし、それは主に単球/マクロファージ系列細胞によって産生され、優勢的に好中球を誘導する(Baggiolini, 2001;Mukaidaら, 1998に概説)。MCP-1は、細胞の可動化及び刺激に関わる炎症誘発性ケモカインであり、リンパ球、単球、肥満細胞、及び好酸球上で優勢的に作用する(Mukaidaら, 1998)。このケモカインは、IL-1、腫瘍壊死因子(TNF)、及び免疫グロブリン(Ig)G等の異なる刺激に応答して、単球、平滑筋細胞、及びヒト血管内皮細胞(HUVEC)を含む種々の細胞種によって発現される(Rollinsら, 1990;Sicaら, 1990;Yangら, 2004)。TNF-α及びIgG複合体は、同様に、ROI産生の既知の刺激因子である(Satrianoら, 1993)。
【0005】
ウイルスはそれらの宿主と共進化しているため、同様にそれらは免疫応答を回避するための戦略を進化させている。カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)は、非常に最近になって同定されたヒトに感染するヘルペスウイルスであり(Changら, 1994)、且つカポジ肉腫(KS)、並びにおそらく原発性滲出液リンパ腫及び多中心性キャッスルマン病の病理学的作用因子である(Saridら, 1999の概説を参照)。約90個のKSHVオープンリーディングフレーム(ORF)のゲノムから、少なくとも16個が宿主の免疫応答を調節し得るタンパク質を規定している(Russoら, 1996)。炎症性応答は、ウイルス感染及び伝播を増大するための、免疫調節の重要な標的と考えられているかもしれない。実際、KSHVは3つのCXCケモカイン調節因子をコードしている(Boshoffら, 1997)。
【0006】
KSHVの溶菌サイクルの間に産生される他のタンパク質は、K14と称されるオープンリーディングフレームによってコードされる(Jennerら, 2001)。このタンパク質は、哺乳類のOX2タンパク質(CD200とも呼ばれる)との相同性を示し、膜関連糖タンパク質の免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、内皮細胞、B細胞、T細胞、神経細胞、及び扁桃小胞(tonsil follicle)を含む多くの細胞種の表面上に発現される(Morris & Beech, 1987;Wrightら, 2001)。
【0007】
細胞性OX2の役割は、骨髄系細胞の活性を制御することの一つであると考えられ、おそらく補助シグナルとして作用している(Wrightら, 2000)。OX2の発現の上昇は、マウス及びラットにおける腎臓及び皮膚の同種移植片の存続を増大させ(Gorczynskiら, 1998;Gorczynskiら, 1999)、OX2が寛容化シグナルを送出していることを示唆している(Gorczynski, 2001に概説)。OX2のシグナル送出は、おそらくOX2リガンド(レセプター)との結合を介するものであり、その発現は骨髄系細胞に限られている(Gorczynskiら, 2000;Wrightら, 2003)。
【0008】
この相同性の結果として、当該ウイルス性タンパク質は、通常、vOX2と称される。しかし、これは単なる便宜的表記である。当該2つのタンパク質は、アミノ酸レベルでほんの約40%の配列同一性を有し、それゆえ、当該ウイルス性タンパク質が、当該細胞性タンパク質の活性のいずれかを模倣するとは考えられない。さらに、当該ウイルス性タンパク質は、神経細胞接着分子(NCAM)、Thy-1、及びL1とも相同性を有し、それゆえ、vOX2はまた、vNCAM及びv-adhとも称されている。
【非特許文献1】Chung, Y. H., Means, R. E., Choi, J. K., Lee, B. S. & Jung, J. U. (2002) Kaposi’s sarcoma-associated herpesvirus OX2 glycoprotein activates myeloid-lineage cells to induce inflammatory cytokine production. J. Virol. 76, 4688-4698.
【非特許文献2】Foster-Cuevas, M., Wright, G. J., Puklavec, M. J., Brown, M. H. & Barclay, A. N. (2004) Human herpesvirus 8 K14 protein mimics CD200 in down-regulating macrophage activation through CD200 receptor. J. Virol. 78, 7667-7676.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在までのvOX2の機能についての研究の結果は、矛盾するものである。Chungら(2002)は、可溶性GST融合タンパク質として発現したvOX2タンパク質は、主要な単球、マクロファージ、及び樹状細胞を刺激し得、且つそれらが炎症性サイトカインを産生するように誘導し得ることを報告している。この研究において、Bリンパ球の表面上に発現したvOX2は、単球細胞による炎症性サイトカインの産生を刺激し得ることも示されている。当該著者らは、この炎症誘発性活性がリンパ球のKSHV感染の部位への誘導をもたらし、当該ウイルスによる感染に対してさらなる細胞を提供し、それにより、感染した宿主のシステム全体にわたる当該ウイルスの伝播を促進すると提唱している。それに反して、Foster-Cuevasら(2004)は、膜に発現したvOX2がマクロファージの活性化を下方制御すると結論づけている。彼らは、Chungの結果が彼らの可溶性組換えタンパク質のミスフォールディングのためであるかもしれないと示唆しているが、このことは、当該2つの研究における細胞表面に発現したタンパク質に関して得られた矛盾する結果を説明することにはならない。従って、現在までのところ、vOX2の生物学的活性は不明のままである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、可溶性のvOX2が免疫システムの先天性アーム(arm)に抗炎症作用を及ぼし得ることを見出した。従って、その最も一般的な形態において、本発明は、抗炎症剤としての可溶性vOX2の使用を提供する。
【0011】
第一の特徴点において、本発明は、免疫システムの細胞集団を可溶性vOX2と接触させることを含む、炎症性免疫応答を抑制するための可溶性vOX2の使用を提供する。そのような使用のすべては、in vitro、ex vivo、またはin vivoのいずれで実施されるにせよ、本発明の範囲内に含まれる。
【0012】
前記細胞集団は、典型的に、任意的にTリンパ球(CD4+及びCD8+Tリンパ球を含む)及びBリンパ球を含む免疫システムの種々の他の細胞と組み合わせた、先天性の免疫システムの細胞、特に好中球、単球、及び/またはマクロファージ等の貪食細胞を含む。
【0013】
いずれかの特定の説によって結び付けられることを望むことなく、可溶性vOX2は、単球細胞(マクロファージ等)等の貪食細胞及び好中球に抗炎症作用を及ぼすと考えられる。例えば、それは、インターフェロンγで処理されたマクロファージ様細胞株U937によるMCP-1及びIL-8の産生を特異的に低下させ得、且つさらに好中球の酸化的バーストを抑制し得る。
【0014】
従って、当該方法は、炎症性免疫応答の抑制の程度を測定する工程を含んでよい。これは、特にマクロファージによる炎症性サイトカインまたはケモカイン(例えば、MCP-1及び/またはIL-8)産生、並びに/あるいはO2若しくはOHラジカル、またはH2O2等の活性酸素中間代謝物の産生量を測定することによって達成され得る。当然、当該方法をin vivoで実施する場合、任意の適切な炎症症状を用いて、vOX2タンパク質の効果、例えば、炎症性細胞による組織侵入、膨張、赤色(redness)等をモニターすることができる。
【0015】
可溶性vOX2によって示される抗炎症特性により、それは、不適切なまたは非所望の免疫応答が、自己免疫疾患、アレルギー、及び移植片拒絶を含む患者の症状及び/または疾患の原因に関係している炎症性疾患または他の状態の治療に適したものになる。そのような状態は、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、接触性及びアレルギー性皮膚疾患、炎症性眼疾患、移植片拒絶、血管炎症(心疾患)、並びに炎症性神経性症候群を含む。
【0016】
本明細書に記載の治療方法は、炎症部位へ可溶性vOX2を送達する任意の適切な方法を含んでよい。例えば、可溶性vOX2タンパク質を、それを必要とする患者に直接に投与することができる。あるいは、可溶性vOX2をコードする核酸を患者に投与し、それによって前記患者自身の細胞によって当該タンパク質を合成及び分泌させることができる。さらなる代替策において、可溶性vOX2を発現及び分泌し得る細胞を、当該患者に投与してもよい。
【0017】
従って、本発明は、医学的治療の方法における使用のための、可溶性vOX2タンパク質、可溶性vOX2をコードする核酸、または可溶性vOX2を発現且つ分泌し得る細胞を提供する。
【0018】
本発明はさらに、炎症性疾患の予防または治療のための医薬の調製における使用のための、可溶性vOX2タンパク質、可溶性vOX2をコードする核酸、または可溶性vOX2を発現且つ分泌し得る細胞を提供する。
【0019】
本発明はさらに、有効な量の可溶性vOX2タンパク質、可溶性vOX2をコードする核酸、または可溶性vOX2を発現且つ分泌し得る細胞を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、炎症性疾患の予防または治療の方法を提供する。
【0020】
本発明はさらに、製薬上許容し得るキャリアと組み合わせた、可溶性vOX2タンパク質、可溶性vOX2をコードする核酸、または可溶性vOX2を発現且つ分泌し得る細胞を含む製薬組成物を提供する。
【0021】
本発明の方法における使用のためのvOX2タンパク質は、典型的に、好ましくは真核細胞から、組換え発現及び分泌によって得られる。
【0022】
前記vOX2タンパク質は多価であってよい。すなわち、それは、二価、三価、四価の状態の、またはより高位の複合体中に、2つ以上のvOX2成分を含む。いずれかの特定の説によって結び付けられることを望むことなく、多価のvOX2は、一価のvOX2よりもより効果的に標的細胞の表面上のレセプターと交差結合し得、それゆえ、一価のタンパク質よりもより効果的にその抗炎症活性を及ぼし得る。
【0023】
個々のvOX2成分は、vOX2複合体中で、共有結合的にまたは非共有結合的に会合し得る。当該会合は、直接的(すなわち、vOX2成分間で)または間接的(当該vOX2成分に連結した異種成分を介した)であってよい。
【0024】
例えば、当該vOX2成分は、互いに化学的に交差結合することができる。
【0025】
あるいは、当該vOX2成分は、任意的に適切なポリペプチドリンカーによって分離された、単一ポリペプチド鎖中に2つ(以上)のvOX2成分を含む融合タンパク質として発現させることができる。
【0026】
あるいは、当該vOX2成分を、互いに相互作用し会合を生じる異種(すなわち、vOX2でない)成分に連結させることができる。従って、当該複合体は、それぞれの第一及び第二の異種成分と連結した第一及び第二のvOX2成分を含み、前記第一及び第二の異種成分は互いに会合することができる。前記第一及び第二の異種成分は同じまたは異なってよく、且つ共有結合性のまたは非共有結合性の相互作用を介して互いに会合することができる。
【0027】
好ましくは、それぞれのvOX2成分は、そのそれぞれの異種成分を有する融合タンパク質として発現される。異種成分の例としては、転写因子のオリゴマー化ドメイン、例えば、疎水性相互作用を介して互いに会合するロイシンジッパーモチーフ等を含む。しかし、異種成分の特に好ましい例は、抗体Fc領域である。その本来のコンフォメーションにおけるvOX2-Fc融合タンパク質は、通常、各鎖が1つのFc成分と1つのvOX2成分とからなる2つのポリペプチド鎖を含み、前記ポリペプチド鎖は当該Fc成分間のジスルフィド結合によって共有結合的に会合している。
【0028】
当該異種成分は、vOX2分子の薬物動態学的性質を調節し得る。例えば、それは、生体利用性、可溶性、安定性、in vivoにおける半減期等を調節し得る。抗体Fc領域(イムノアドヘシンとしても知られる)と連結したエフェクター分子を含む融合タンパク質は、通常、前記エフェクター分子のみと比較して、可溶性、安定性、及び半減期を増大させる。(通常、vOX2成分のこれらの性質を増大させることが望ましいが、時には、これらの性質の一部またはすべてを減少させることが望ましいことがあると解される。適切な異種成分は、それに応じて選択されてよい。)
【0029】
また、vOX2成分を、その薬物動態学的性質を所望のように調節するが、多価の複合体中へのvOX2成分の会合を媒介しない異種成分と連結させることも望ましい。
【0030】
さらなる特徴点において、本発明は、少なくとも2つのvOX2成分の複合体を含む、可溶性の抗炎症剤を提供する。
【0031】
前述のように、当該複合体は、それぞれの第一及び第二の異種成分と連結した第一及び第二のvOX2成分を含み、前記第一及び第二の異種成分は互いに会合することができる。
【0032】
当該異種成分がタンパク質またはペプチドである場合、それらは好ましくは、それらのそれぞれのvOX2成分を有する融合タンパク質として発現される。従って、本発明は、そのような融合タンパク質をコードする核酸を提供し、前記融合タンパク質は、好ましくは、宿主細胞によって分泌され得る。また、そのような核酸を含む発現ベクター及びそのような発現ベクターを含む宿主細胞も提供する。
【0033】
当該異種成分が同じである場合(すなわち、同一の異種成分が互いに会合している)、通常、ちょうど1つのそのような核酸コンストラクトからタンパク質生成物を発現することによって、多価の複合体を形成することが可能である。
【0034】
当該異種成分が異なる場合(すなわち、1つの異種成分がもう1つの異なるタイプと会合している)、それぞれのタイプの融合タンパク質をコードする核酸からタンパク質生成物を発現させる必要がある。
【0035】
従って、本発明は、第一のvOX2成分と第一の異種成分を含む融合タンパク質をコードする第一の核酸、及び第二のvOX2成分と第二の異種成分を含む融合タンパク質をコードする第二の核酸を含む組成物を提供し、タンパク質として発現された場合、前記第一及び第二の異種成分は互いに会合する。前記融合タンパク質は、典型的に、適切な宿主細胞によって分泌され得る。前記第一及び第二の核酸は、別々の発現ベクターまたは同じ発現ベクター上にあってよい。本発明はさらに、前記第一及び第二の核酸を含む宿主細胞を提供する。
【0036】
好ましい実施態様において、当該異種成分は抗体Fc領域である。従って、本発明は、可溶性vOX2-Fc融合タンパク質を提供する。
【0037】
本発明はさらに、適切な宿主細胞によって分泌され得る可溶性vOX2-Fc融合タンパク質をコードする核酸を提供する。従って、前記核酸は、典型的に、当該融合タンパク質が、それが発現される宿主細胞によって分泌されるのを可能にするために、前記融合タンパク質のN末端でシグナルペプチドをコードする。
【0038】
本発明はさらに、可溶性vOX2-Fc融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを提供する。典型的に、前記ベクターは、当該宿主細胞による当該タンパク質の転写及び翻訳を可能にするために、当該融合タンパク質をコードする配列に操作可能に連結された適切な転写及び翻訳制御配列を含む。
【0039】
本発明はさらに、本明細書に記載の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。前記宿主細胞は、好ましくは、真核生物宿主細胞、例えば、哺乳類細胞、昆虫細胞、または酵母細胞等である。いくつかの実施態様において、哺乳類細胞(例えば、CHO細胞またはヒト細胞等)が好ましいかもしれない。
【0040】
本発明はさらに、製薬上許容し得るキャリアと組み合わせた、本発明の第二の特徴点に関して記載されたような、融合タンパク質、核酸、発現ベクター、または宿主細胞を含む製薬組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
[vOX2]
vOX2は、KSHVウイルスのK14と称されるオープンリーディングフレームによってコードされるタンパク質である(Jennerら, 2001)。Russoら(PNAS 93: 14862, 1996)から引用した、vOX2タンパク質の代表的配列は以下のとおりである。
【化1】

【0042】
前記ウイルスタンパク質は、N末の細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン(下線を引いた)、及びC末の細胞内ドメインを含む、膜結合型タンパク質である。当該オープンリーディングフレームは、アミノ酸1と78の位置に2つの可能性のある開始メチオニンを含む。メチオニン78は、通常、in vivoにおける開始コドンとして使用されるとほぼ考えられている。
【0043】
In vivoにおけるvOX2の機能は議論の余地がある。しかし、本発明者は現在、可溶性vOX2が抗炎症特性を示し、その結果として、in vivo及びin vitroの両方における炎症性応答を抑制するのに用いられ得ることを見出した。
【0044】
本発明の方法に用いられる可溶性vOX2タンパク質は、多価であってよい。すなわち、それらは2つ以上のvOX2成分を含んでよい。多価のvOX2は、一価のvOX2よりも、標的細胞の表面上でレセプターとより効率的に交差結合し得る。
【0045】
安定性、おそらくさらに活性のために共有結合が好ましいが、vOX2成分は、共有結合的にまたは非共有結合的に相互に会合し得る。
【0046】
当該2つのvOX2成分は、融合タンパク質として共発現されてよい。融合タンパク質を産生するために、1つの連続オープンリーディングフレーム中に各成分に対するコード配列を含む核酸発現ベクターが構築され、それによって、前記2つのvOX2成分が同じポリペプチド鎖の一部として翻訳され得る。
【0047】
典型的に、柔軟性のあるペプチドリンカーが当該2つの成分間に含まれ、前記2つの成分が立体障害なく互いに自由に相互作用することが可能になる。当業者であれば、適切なリンカーを完璧に設計し得る。
従来的に、そのようなリンカーは、12-20アミノ酸の長さであり、高い比率の小さく且つ親水性のアミノ酸(例えば、グリシン及びセリン)を有し、当該分子の水溶性を低めることなく必要な柔軟性を提供する。
【0048】
あるいは、当該vOX2成分を、互いに対するそれらのアフィニティーを増大させるように設計してよい。これは、種々の方法で達成され得る。例えば、システイン残基を導入することにより、当該2つの成分が互いでジスルフィド結合を形成することが可能になる。
【0049】
さらなる代替策として、当該2つのvOX2成分間の相互作用を、それぞれ1つを異種成分に連結させることによって促進させることができ、当該2つの異種成分は互いに会合し得る。前記異種成分がポリペプチドである場合、それらは当該vOX2成分を有する融合タンパク質として発現させることができる。
【0050】
好ましい異種成分は、抗体Fc配列、好ましくは1つ以上の抗体Fcドメイン(例えば、IgG、IgM等のCH2、CH3、及び/またはCH4ドメイン(適切な場合))を含むポリペプチドである。好ましくは、通常、当該CH1及びCH2ドメイン間に位置するヒンジ配列をさらに含む。前記ヒンジ領域は、完全長の天然抗体の重鎖間にジスルフィド結合を形成するシステイン残基を含む。従って、本明細書に記載のvOX2-Fc分子中にヒンジ領域が存在する場合、同様の結合が形成され、当該鎖の間の相互作用を安定化させるであろう。ヒトIgG1が好ましい融合パートナーである。
【0051】
当業者であれば、vOX2成分間の相互作用を増大または安定化させるために、代わりの異種成分を用いることができると解するであろう。これらは、疎水性相互作用を介して二量体化するロイシンジッパーポリペプチドを含む。
【0052】
組換え方法が好ましいが、vOX2成分を化学的方法によって共有結合的に連結させてもよい。互いに接合するまたは交差結合するポリペプチド分子に適した二機能性及び多機能性の化学的リンカー分子が、当業者に公知である。
【0053】
多価または一価のいずれにせよ、本明細書に記載の可溶性vOX2タンパク質の各vOX2成分は、好ましくは、vOX2タンパク質の細胞外ドメイン(すなわち、所望によりシグナルペプチドを含むまたは含まない、アミノ酸78-309の配列)、あるいは抗炎症作用を示すのに十分なその断片を含む。実施例に記載のアッセイのいずれか1つを用いることによって評価されるように、抗炎症作用によって、U937細胞によるIL-8またはMCP-1産生、好中球による酸化的バースト、カラギーナンモデルにおける炎症、あるいはDBAマウスを用いることによるコラーゲン誘発性関節炎モデルにおける疾患の発症率または重症度の、いずれか1つ以上における統計的に有意な低下が意味される。
【0054】
好ましくは、当該vOX2成分は、上記に示したECD配列の少なくとも50アミノ酸を含み、上記に示したECD配列の少なくとも100、150、または200アミノ酸を含んでよい。
【0055】
しかし、当業者であれば、当該可溶性タンパク質の抗炎症活性を実質的に維持しつつ、このアミノ酸配列にある変化をもたらすことができると解するであろう。従って、当該vOX2タンパク質または成分は、それが必要とされる抗炎症活性を示す限り、関連する重複部分にわたるその配列と少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性、より好ましくはその配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する、少なくとも50、100、150、または200アミノ酸の配列を含んでよい。
【0056】
特に、当該vOX2配列中の保存的置換(当該基準配列と比較して)は、機能への実質的な作用なく、とりわけよく許容され得る。
【0057】
保存的置換は、アミノ酸分類内の置換及び/またはBLOSUM62マトリックスにおいてプラスのスコアを示す置換として定義され得る。
【0058】
一分類によれば、当該アミノ酸分類は、酸性、塩基性、非電荷極性、及び非極性であり、酸性アミノ酸はAspとGlu、塩基性アミノ酸はArg、Lys、及びHis、非電荷極性アミノ酸はAsn、Gln、Ser、Thr、及びTyr、並びに非極性アミノ酸はAla、Gly、Val、Leu、Ile、Pro、Phe、Met、Trp、及びCysである。
【0059】
別の分類によれば、アミノ酸分類は、小さい親水性、酸性/酸性アミド/親水性、塩基性、小さい疎水性、及び芳香族であり、小さい親水性アミノ酸はSer、Thr、Pro、Ala、及びGly、酸性/酸性アミド/親水性アミノ酸はAsn、Asp、Glu、及びGln、塩基性アミノ酸はHis、Arg、及びLys、小さい疎水性アミノ酸はMet、Ile、Leu、及びVal、並びに芳香族アミノ酸はPhe、Tyr、及びTrpである。
【0060】
BLOSUM62マトリックスにおいてプラスのスコアを示す置換は、以下のとおりである。
【表1】

【0061】
基準配列に関するアミノ酸配列同一性のパーセント(%)は、当該配列を並べ、ギャップを挿入した後に、必要な場合には、最大パーセントの配列同一性に達するために、当該配列同一性の一部としての任意の保存的置換を考慮せずに、前記基準配列中のアミノ酸残基と一致する、候補配列中のアミノ酸配列のパーセンテージとして定義される。同一性の値%は、WU-BLAST-2によって決定され得る(Altschulら, Methods in Enzymology, 266: 460-480, 1996)。WU-BLAST-2はいくつかの検索パラメーターを使用し、そのほとんどは規定値に設定される。調整可能なパラメーターは、以下の値:重複範囲(overlap span)=1、重複部分(overlap fraction)=0.125、ワード閾値(word threshold)(T)=11に設定される。アミノ酸配列同一性の値%は、WU-BLAST-2によって決定された一致する同一残基の数によって決定され、当該基準配列の残基の総数で割り(無視されることになるアライメントスコアを最大にするために、当該基準配列中にWU-BLAST-2によってギャップが挿入される)、100を掛ける。
【0062】
アミノ酸相同性のパーセント(%)は、BLOSUM62マトリックスにおいてプラスの値を示す残基がカウントされることを除いては、同一性と同じように定義される。従って、同一ではないが類似の性質を有する残基(例えば、保存的置換の結果として)もカウントされる。
【0063】
同様に、基準核酸に関する核酸配列同一性のパーセント(%)は、前記基準核酸配列中のヌクレオチド残基と一致する、候補配列中のヌクレオチド残基のパーセンテージとして定義される。本明細書に用いられる同一性の値は、重複範囲と重複部分がそれぞれ1と0.125に設定された規定値に設定されたWU-BLAST-2のBLASTNモジュールによって生じ得る。
【0064】
本明細書に記載の可溶性vOX2タンパク質は、好ましくは真核細胞、例えば、酵母細胞、Sf9細胞等の昆虫細胞、及びCHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞)等の哺乳類細胞から発現される。
【0065】
好ましくは、前記タンパク質は正しく折り畳まれ、それにより、CD200リセプター(CD200R)に結合することができる。適切なアッセイは、Foster-Cuevasら(2004)及び本明細書に引用される参考文献によって記載される。好ましくは、当該vOX2タンパク質の調製物中のvOX2成分の少なくとも20%がCD200リセプターに結合することができ、より好ましくは、当該vOX2タンパク質の調製物中のvOX2成分の少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%がCD200リセプターに結合することができる。CD200リセプターを用いたアフィニティー精製技術を用いて、可溶性vOX2タンパク質の調製物において所望のレベルの結合活性を達成することができる。
【0066】
[可溶性vOX2タンパク質の治療的使用]
本発明者は、可溶性vOX2が抗炎症特性を有すること、特に、免疫システムの先天性アーム、例えば、好中球及びマクロファージによって媒介される反応を下方制御し得ることを示している。前記タンパク質は、特に、インターフェロンγで処理されたマクロファージ様細胞株U937によるMCP-1及びIL-8の産生を低下させることができ、さらに好中球の酸化的バーストを抑制することもできる。それはさらに、マウスモデルにおけるカラギーナンによって誘発された炎症を軽減することもでき、且つ重要なことに、DBAマウスにおけるコラーゲン誘発性関節炎の進行及び重症度への重大な効果を有する。この結果は、特に驚くべきことである。
【0067】
従って、可溶性vOX2を、炎症、炎症性疾患、あるいは先天性の免疫システムに関わる不適切なまたは非所望の免疫応答が疾患の症状及び/または病因に関係している他の疾患の治療に使用することができる。そのような状態は、自己免疫疾患、アレルギー、及び移植片拒絶を含む。従って、例えば、可溶性vOX2を用いて、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、接触性及びアレルギー性皮膚疾患、炎症性眼疾患、移植片拒絶、血管炎症(心疾患)、並びに炎症性神経性症候群の治療をすることができる。
【0068】
可溶性vOX2タンパク質を、製薬組成物の状態で、被験者に直接的に投与することができる。
【0069】
あるいは、可溶性vOX2タンパク質をコードする核酸を患者に投与することができ、それによって、可溶性vOX2タンパク質が前記患者自身の細胞から発現され、且つ分泌される。典型的に、前記核酸は、裸の核酸としてまたはウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、レンチウイルス、またはレトロウイルスベクター)等の送達媒介物の状態で投与され得る、1つ以上の発現ベクターの一部である。
【0070】
代替策として、可溶性vOX2タンパク質を分泌するように設計されている細胞を被験者に投与することができる。好ましくは、前記細胞は、前記被験者と同系または組織適合性である。例えば、1つ以上の適切なベクターをトランスフェクションした細胞を、患者から取り出すことができ、且つ前記患者に再投与することができる。あるいはさらに、分泌細胞を、例えば生物学的に不活性のポリマーでカプセル化して、移植された細胞と宿主の免疫システムとの間の相互作用を予防することができる。
【0071】
当業者であれば、治療的使用のための(並びに、本明細書に記載の他の使用のための)適切な核酸発現ベクターを設計することができるであろう。前記ベクターは、典型的に、投与されるべき可溶性vOX2タンパク質の特定の形態に依存して、プロモーター配列、ターミネーター断片、エンハンサー配列、マーカー遺伝子、及び他の配列を含む適切な制御配列を含む(前記参照)。前記ベクターは、宿主細胞染色体中に組み込むことを意図されてよく、またはエピソームとして宿主染色体から独立して存在及び複製することができる。
【0072】
本発明の方法による治療のための好ましい被験者は、哺乳類である。好ましい被験者は、霊長類(ヒトを含む)、げっ歯類(マウスとラットを含む)、並びにウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等を含むが、これに制限されない他の一般的な実験室用、家庭用、及び農業用動物である。
【0073】
本明細書に記載の複合体、ポリペプチド、核酸、及び細胞を、製薬組成物に製剤することができる。これらの組成物は、前記の物質の1つに加えて、製薬上許容し得る賦形剤、キャリア、バッファー、安定化剤、または当業者に公知の他の材料を含んでよい。そのような材料は、無毒性であるべきであり、且つ当該活性成分の有効性を妨げるべきではない。前記キャリアまたは他の材料の正確な性質は、投与の経路、例えば、経口的、静脈内、皮膚または皮下的、経鼻的、筋肉内、及び腹腔内経路に依存してよい。
【0074】
経口投与用の製薬組成物は、錠剤、カプセル剤、粉末、または液体の形態であってよい。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバント等の固形キャリアを含んでよい。液体製薬組成物は、通常、水、石油、動物性または植物性油、鉱物油、あるいは合成油等の液体キャリアを含む。生理食塩水、ブドウ糖または他の糖類溶液、グリコール、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコール等のグリコールを含んでもよい。
【0075】
静脈内、皮膚または皮下注射、あるいは疾患部位への注射用に、当該活性成分は、発熱物質フリーで、且つ適切なpH、等張性、及び安定性を有する、非経口的に許容し得る水溶液の形態をとる。当業者であれば、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、乳酸加リンゲル液等の等張性の溶媒を用いることによって、適切な溶液を調製することが十分に可能である。必要に応じて、保存剤、安定化剤、バッファー、抗酸化剤、及び/または他の添加物を含んでもよい。
【0076】
個体に供されるべき活性物質(例えば、本発明に係る細胞、ポリペプチド、核酸分子、他の製薬上有用な作用物質)の性質がどのようなものであれ、投与は好ましくは、「予防上有効な量」または「治療上有効な量」であり(場合によって、予防は治療として考えられ得るが)、これは前記個体に有益性を示すのに十分である。投与される実際の量、及び投与の速度と時間経過は、処置されるものの性質及び重症度に依存する。治療の処方、例えば、投与量等の決定は、一般的臨床医及び他の医師の責任の範囲内であり、典型的に、処置されるべき疾患、個々の患者の状態、送達の部位、投与方法、及び臨床医に既知の他の要因を考慮する。前述の技術及びプロトコールの例を、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkinsの中に見つけることができる。
【0077】
あるいは、ターゲット療法を用いて、リガンド特異的抗体または細胞等のターゲットシステムの使用により、当該活性物質をあるタイプの細胞へより特異的に送達することができる。ターゲッティングは、例えば、当該作用物質が許容されない有毒性である場合、またはそうでなければ、非常に高い投与量を必要とする場合、またはそうでなれば、当該標的細胞に入ることができない場合等、種々の理由で望ましいものであり得る。
【0078】
組成物は、単独で、あるいは治療されるべき状態に依存して同時にまたは連続して、他の治療法と組み合わせて投与することができる。
【0079】
<材料と方法>
[vOX2融合タンパク質のクローニング]
KSHV vOX2タンパク質を、インフレームでヒトIgG1のFc領域のC末断片を有する融合タンパク質のアミノ末端ドメインとして発現させた。我々自身の研究(データは示さず)及び以前に公示された分析(Chungら, 2002;Neipelら, 1997;Russoら, 1996)に基づいて、2つの可能性のあるメチオニン残基の(残基1または残基78)の二番目を開始コドンとして選択した。ORF K14をPCR増幅し、pCR2.1-TOPOベクター(Invitrogen社)内にTAクローニングした。当該遺伝子は、PCRプライマー:センス5’- GCT CTA GAT GTC TAG CCT CTT CAT TTC ATT AC-3’、アンチセンス5’-TAT GCG GCC GCG GCC GCG GGA AGG TCA TGG GC-3’を用いて、BC-1 KSHVを感染させた原発性滲出液リンパ腫細胞株(Cesarmanら, 1995)から増幅した。これらの増幅プライマーは、発現ベクター内への遺伝子のサブクローニングを可能にする制限酵素サイト(Not IとXba I)を含んだ。当該K14インサートの両鎖のシークエンシングにより、PCRによるエラーが挿入されていないことが確認され、前記遺伝子をpDR2ΔEF1α発現ベクター(Spillerら, 2003を参照)内にサブクローニングし、pvOX2-Fcを作製した。サブクローニングは、Spe IとNot Iを用いたpCR2.1-TOPOからの前記K14インサートの消化、及びSpe IとNot Iで消化されたpDR2ΔEF1α内へのライゲーションを含んだ。当該pvOX2-Fcプラスミドを、K14がクローニングされた部位にわたってシークエンシングし、当該ライゲーションにより前記ウイルスとIgG1遺伝子のインフレーム融合が生じたことを確認した。得られたvOX2-Fc融合タンパク質のアミノ酸配列を図7に示す。
【0080】
[細胞及び細胞培養]
ヒト単球性細胞株U937を、10%熱非働化したウシ胎児血清(FBS)、L-グルタミン(2mM)、ペニシリン−ストレプトマイシン(1%)、非必須アミノ酸(0.1mM)を補充したRPMI 1640培地(BioWhittaker社)中で、37℃、5% CO2で培養した。U937細胞をマクロファージ様の表現型に分化させるために、それらを、組換えインターフェロン(IFN)-γ(5ng/mL;R&D Systems社)の存在下で48時間培養した。
【0081】
健常な成人志願者から、彼らのインフォームドコンセントを得た後に、ヘパリン化した静脈血を回収した。白血球及び差分カウントを、Sysmex SE, 9500血球学分析装置(Sysmex社, Japan)で実施した。いくつかのアッセイにおいて、多形核細胞を、デキストラン沈降及び赤血球の低張性溶解、次いで、フィコール(Sigma社)を通した差異的密度勾配遠心によって全血から単離した。
【0082】
vOX2-Fcタンパク質産生細胞株を作製するために、pvOX2-FcをCHO細胞内にトランスフェクションした。安定細胞株を、ハイグロマイシンB(500μg/mL)を含む培地中で作製し、抗ヒトIgG-FITC(Sigma社)または抗ヒトIgG-HRP(Sigma社)抗体をそれぞれ用いた免疫蛍光法及びウエスタンブロットによって、組換えタンパク質の産生についてスクリーニングした。vOX2-Fcタンパク質の産生に対して最も生産的な細胞株を、CHO-15”69と称した。
【0083】
[タンパク質の産生及び精製]
CHO-15”69細胞上清を回収し、vOX2-Fcを、AKTAタンパク質精製システム(Amersham社)を用いたプロテインAカラム(Hi Trap;Amersham社)でアフィニティー精製した。切断されたvOX-Fc及びFcタンパク質断片を除去するために、次いで、このタンパク質をSuperdex 200ゲルろ過カラム(Amersham社)を用いたゲルろ過によって「洗練」させた。タンパク質精製度を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びクマシーブリリアントブルーR250(Bio-Rad Laboratories社)またはSypro Ruby(Analgene社)を用いた染色による前記ゲルの解析、並びに抗ヒトIgG-HRP及び抗ウシIg-HRP(Sigma社)を用いたウエスタンブロット検出によって評価した。すべてのタンパク質バンドを切り出し、マススペクトロメトリー(MS)またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)MSのいずれかによって同定した。いくつかの実験におけるネガティブコントロールとしての使用のために、ヒトIgGを同じプロトコールによって精製した。
【0084】
[酸化的バーストアッセイ]
ファゴサイトーシスの過程の酸化的バースト成分を、全血末梢多形核単球において、市販のフローサイトメトリーに基づくバーストテストアッセイ(OPREGEN Pharma社;BD Bioscience社, Oxford, UK)を用いて測定した。このアッセイにより、白血球活性の定量的測定が、当該細胞の事前の精製によってそれを混乱させることなく可能となる。前記バーストテストは、特定の刺激としての非標識オプソニン化大腸菌と酸化的活性の蛍光発生基質としてのジヒドロローダミン(DHR)123に依存している。簡潔には、ヘパリン化した全血を、組換えvOX2-Fc(10μg/mL)または精製ヒトIgG(10μg/mL)のいずれかとインキュベートし(90分間、37℃、5% CO2)、オプソニン化大腸菌細胞(白血球あたり6細胞)と再度インキュベートした(7分間、37℃、5% CO2)。刺激なしのサンプルは、ネガティブ(バックグラウンド)コントロールとして働く。次いで、DHR 123を添加し、当該細胞をインキュベートした(10分間、37℃、5% CO2)。当該反応を、特に白血球を固定し且つ赤血球を溶解する、溶解バッファーの添加によって停止させた。最後に、細菌または血小板の凝集人工産物を除去するために、細胞DNAをフローサイトメトリー分析の直前に染色した。フローサイトメトリー(FACSCalibur;BD Biosciences社)、及び活性酸素ラジカルを産生している細胞のパーセンテージと数を得るのに必要とされる5000の顆粒球事象、並びに平均蛍光強度によって測定されるようなそれらの酵素活性の程度によって、細胞を解析した。
【0085】
[ファゴサイトーシスアッセイ]
ファゴサイトーシスの飲み込み状況を、全血末梢多形核単球において、市販のフローサイトメトリーに基づくファゴテストキット(OPREGEN Pharma社;BD Bioscience社)を用いて測定した。前記バーストテストと同様に、このアッセイシステムにより、白血球の飲み込み活性の定量的測定が、事前の精製によってそれを混乱させることなく可能となる。簡潔には、ヘパリン化した全血を、組換えvOX2-Fc(10μg/mL)または精製ヒトIgG(10μg/mL)のいずれかとインキュベートし(90分間、37℃、5% CO2)、オプソニン化FITC標識大腸菌細胞(白血球あたり6細胞)と再度インキュベートした(10分間、37℃、5% CO2)。飲み込みを、4℃におけるインキュベート及びクエンチング液の添加により停止させた。この溶液により、表面結合した細菌のFITC蛍光を消光するが、内在化した粒子の蛍光は変化しないままであることによって、付着した及び内在化した細菌間のフローサイトメトリーによる識別が可能となる。洗浄工程の後、低張性溶解によって赤血球が除去される。最後に、前記バーストテストアッセイについて記載されたように、細胞DNAを染色した。フローサイトメトリー(FACSCalibur;BD Biosciences社)、及び必要とされる5000の顆粒球事象によって、細胞を解析した。
【0086】
[MCP-1及びIL-8タンパク質の測定]
U937細胞(1×106/mL)を処理しない、あるいは組換えvOX2-Fcタンパク質(10μg/mL)の存在または非存在下でrIFN-γ(5ng/mL)で処理し、48時間インキュベートした(37℃、5% CO2)。次いで、当該培養液を回収し、サイトカイン及びケモカインの濃度をLuminexアッセイによって定量化した。
【0087】
[in vivoにおける検討]
急性炎症のマウスモデルを調査し、組換えvOX2-Fcタンパク質のin vivoにおける抗炎症作用を評価した。このモデルにおいて、BALB/cマウス(Jackson Laboratories)の足蹠の急性炎症を、以前に記載されているように(Leungら, 2001)、各動物の一方の後ろ足への海草抽出物カラギーナンの投与によって誘発した。各実験において、4群のBALB/cマウスは、カラギーナン投与の30分前に、組換えvOX2-Fc(80μg/マウス)、精製ヒトIgG(80μg/マウス)、デキサメタゾン(500μg/マウス)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)のいずれかの腹腔内(IP)投与を受けた。足蹠の厚さの測定により炎症の程度を測定し、同じ動物の非接種の後ろ足蹠と比較した、カラギーナンを接種された後ろ足蹠との間の厚みの差として算出した。これらの測定値を、カラギーナン投与の6、12、及び24時間後にとった。3回の独立した単盲検実験を実施した。
【0088】
[統計解析]
前記バーストテスト、ファゴテスト、及びサイトカインアッセイにおける処理群間の差を、ノンパラメトリック(分布に依存しない)マン・ホイットニ(Mann Whitney)検定によって決定した。P≦0.05の場合、これらの差を有意であると見なした。In vivoにおける検討のために、データをGLM繰返し測定によって、次いで、前記4つの処理群間の多重比較検定(SPSS)としてTukeyによって測定した。各時点(6、12、24時間)における群間の差を分析するために、前記マン・ホイットニ検定を実施した。P≦0.05の場合、差を有意であると見なした。
【0089】
<結果>
[組換えvOX2-Fcタンパク質のクローニング、産生、及び精製]
全長のKSHV ORF K14遺伝子をpDR2ΔEF1α真核生物ベクター内にクローニングし、そこから、vOX2タンパク質をヒトIgG1 FcのC末ドメインとの融合体として産生した。このIgG1ドメインとの融合タンパク質としてvOX2を発現させることの利点としては、(i)それにより、タンパク質精製のためのアフィニティータグを提供される、及び(ii)それにより、組換えタンパク質の半減期が10倍まで増大し得る(Harrisら, 2002)ことを挙げることができる。次いで、組換えvOX2-Fcタンパク質を、前記細胞株CHO-15”69において産生し(図1A)、当該培養液を、プロテインAアフィニティー及びゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した(図1B)。組換えvOX2-Fcの複数のバンドがプロテインAアフィニティークロマトグラフィーのみにより精製されたため、ゲルろ過クロマトグラフィーが選択された(図1B)。MSまたはMALDI-TOF MSによって、vOX2-Fc二量体、一量体及び切断体、並びにFcのみであるかについて、これらのバンドの正体を決定した(データは示さず)。ゲルろ過クロマトグラフィーの後、組換えvOX2-Fcの単一バンドが得られた(図1B)。
【0090】
[in vitroにおける、vOX2-Fcタンパク質による骨髄性細胞炎症応答の抑制]
vOX2-Fcタンパク質が骨髄性細胞炎症応答を調節するかどうかを判定するために、サイトカイン産生プロファイルを、この組換えタンパク質に暴露させたマクロファージ様U937細胞により評価した。U937細胞を処理しない、あるいはvOX2-Fcタンパク質の存在及び非存在下でrIFN-γで処理し、且つ炎症性サイトカイン産生について分析した。vOX2-Fcでの処理により、MCP-1の産生は約30%(図2A)、並びにIL-8は約50%(図2B)有意に低下した。エオタキシン、MIP-1α、MIP-1β、RANTES、IL-1β、IL-6、及びTNF-αを含む他の炎症性サイトカインは影響を受けなかったため(データは示さず)、この作用は特異的であった。
【0091】
vOX2-Fcによる骨髄性細胞活性の調節についてのさらなる検討により、前記タンパク質が、主要なヒト好中球の酸化的バースト活性を、少なくとも25%、有意に下方制御することが明らかになった(図3A)。これらの細胞の飲み込み活性は影響を受けなかったため、この抑制はファゴサイトーシスのこの性質に特異的であった(図3B)。
【0092】
[in vivoにおける、組換えvOX2-Fcによる急性炎症応答の抑制]
組換えvOX2-Fcタンパク質は、in vitroにおいて抗炎症活性に影響を与えたため、これに関するそのin vivoにおける可能性を判定した。従って、実験的急性炎症の進行へのvOX2-Fc効果を検討するために、BALB/cマウスを組換えvOX2-Fcタンパク質(80μg)で処理し、これは足蹠のカラギーナンでの接種による急性炎症誘発の30分前にIP投与された。足蹠の炎症の程度を、6、12、及び24時間後に判定した(方法を参照)。3つのコントロール群のマウスのそれぞれに、vOX2-Fcの代わりに、精製ヒトIgG(80μg)、デキサメタゾン(500μg)、またはPBSのいずれかを注射した(図4)。GLM繰返し測定による、次いでTukey検定による分析に従った、足蹠の厚さの測定によって判定されたように、全体的に、組換えvOX2-Fcは急性炎症応答を有意に抑制した−PBS対vOX2-Fc:P<0.0001、IgG対vOX2-Fc:P<0.005、デキサメタゾン対vOX2-Fc:P<0.001。予想どおり、PBS及びIgG処理群における炎症応答の間に有意な差はなかった。各時点(6、12、及び24時間)におけるvOX2-Fcの群間の抑制効果を分析するために、ノンパラメトリックなマン・ホイットニ検定を実施した(表1)。これらの分析により、組換えvOX2-Fcタンパク質は、当該調査の期間(24時間)及び少なくとも12時間のPBS処理群と比較した場合、並びにヒトIgGでの処理と比較した場合、実験的に誘発された急性炎症を有意に抑制したことが示された。
【0093】
当該足蹠の組織病理学的分析は、これらの分析を支持している。従って、当該データにより、未処理のマウスと比較して、急性炎症の重症度及び炎症部位における炎症性細胞の誘導の統計的に有意な減少が示された。
【0094】
【表2】

【0095】
表1:マウス足蹠のカラギーナン処理により誘発された炎症の抑制についての統計解析
マン・ホイットニ・ノンパラメトリック分析により、vOX2-Fc処理群に対する測定結果を、それぞれのコントロール群のものと比較した。当該実験方法についての図4の説明文を参照。
【0096】
[DBAマウスにおけるコラーゲン誘発性関節炎の抑制]
DBAマウスにおけるコラーゲンによって誘発された関節炎へのvOX2-Fcの効果を、盲検において検討した。コントロールとして、2つの他のFc融合タンパク質を用いた。これらは、補体制御タンパク質KCPのFc融合体、及び補体制御活性を欠失した前記KCPタンパク質のトリプルリジン変異体(KCPmut)のFC融合体であった。
【0097】
マウスを、0日目にタイプIIコラーゲンと完全フロイントアジュバントで免疫化し、21日目に生理食塩水中のタイプIIコラーゲンを抗原投与した。疾患の最初の徴候が27日目に予想される。広範囲にわたる疾患が35日目に予想される。
【0098】
マウスの群(各群に10匹)に、-1及び0日目のそれぞれに、PBS中の関連Fc融合タンパク質100μgを投与した。各群に、3日目及びその後3日目ごとに27日目を含む日まで、PBS中のタンパク質50μgを投与した。マウスのさらなるコントロール群に、PBSのみを投与した。37日目までの結果を図5に示す。当該データは、適切な時点における各群に対する平均スコアとして示される。42日目までの結果(KSP-Fcコントロールを除く)を図6に示す。
【0099】
当該データは、vOX2-Fcが、このモデルにおける関節炎の進行及び重症度を有意に抑制することを示している。
【0100】
<考察>
KSHVは、非常に最近になって、ヒト発ガン性ウイルスとして記載されている(Changら, 1994)。それは、カポジ肉腫(KS)の病因物質であり、AIDS患者及び高齢の地中海人種の男性に影響を及ぼす複合腫瘍であり、アフリカで発症する最も一般的な腫瘍である。KSの病因は非常に複雑であり、最近の証拠は、KSHVが感染した内皮細胞のリンパ性表現型への転写の再プログラミングを誘導し、それによるリンパ管発生、且つそれによる腫瘍発生を促進すると指摘している(Hongら, 2004;Wangら, 2004)。この転写の再編成に関わるウイルス遺伝子は、依然として決定的に同定されるべきであるが、Gタンパク質結合レセプターを含む可能性がある(Baisら, 2003)。それにもかかわらず、KSHVゲノムのほぼ20%は、免疫調節活性を有する遺伝子を含む。それらは、MHC I表面発現の阻害(Coscoy & Ganem, 2000)、T細胞免疫シナプスの調節(Coscoy & Ganem, 2001)、補体活性の阻害(Spillerら, 2003)、インターフェロンシグナルカスケードの妨害(Zhuら, 2002)、ケモカインシグナル伝達(Boshoffら, 1997)、及びB細胞レセプターシグナル伝達(Choiら, 2000)を規定する遺伝子を含む。
【0101】
推定上の免疫調節性KSHV遺伝子(ORF K14)の1つのvOX2生成物の機能は、議論の余地があり、マクロファージの活性化(Chungら, 2002)及び阻害(Foster-Cuevasら, 2004)活性の両方に起因すると考えられている。
【0102】
本研究におけるvOX2の機能を評価するために、それを、ヒトIgG1のC末の結晶化可能な断片(Fc)とのN末融合タンパク質として発現させた。我々は、食作用の飲み込み、主要な細胞及び細胞株における酸化的バースト及び炎症誘発性サイトカインの放出へのvOX2-Fcの効果を測定することによって、in vitroにおけるvOX2-Fcの抗炎症特性を評価し、且つ、それが好中球における酸化的バースト活性を低下させ、炎症誘発性サイトカインIL-8及びMCP-1の産生を下方制御することを見出した。重要なことに、当該vOX2-Fcの効果をさらに、マウスの足蹠の急性炎症を海草抽出物カラギーナンの投与によって誘発するモデルにおいて評価した。組換えvOX2-Fcの投与はこの炎症作用を有意に抑制し、この組換えタンパク質による、急性炎症応答、特に好中球の流入の抑制に対する議論の余地のない証拠を提供している。我々の発見により、組換えvOX2-Fcタンパク質が、貪食細胞へ負の免疫調節シグナルを伝達し、それにより先天性炎症応答を抑制していることが明らかになった。当該vOX2-Fc融合タンパク質はさらに、マウスモデルにおけるコラーゲン誘発性関節炎の進行を抑制し得る。
【0103】
当該vOX2-Fcタンパク質は、ヒト末梢血好中球によるROI産生を、細菌性細胞によるそれらの刺激後に抑制した。ROI恒常性は、多くの細胞シグナル伝達事象にとって低量が致命的であるため、適切な細胞機能に重要である。生理学的条件下で、正常な細胞代謝の間に産生されるROIの量と内在性抗酸化物の量との間には平衡が存在し、酸化ダメージから組織を防御するのに役立っている(McCord, 1993)。好中球における酸化的バーストのvOX2-Fcによる抑制は、vOX2-Fcと前記細胞との少なくとも2時間のプレインキュベーションすることに依存した。細胞と他の免疫調節因子とのプレインキュベーションへのこの依存性は、以前に報告されている(Chenら, 2004;Lehnら, 1989)。さらに注目すべきは、IgG複合体はROI産生の既知の刺激因子であり(Satrianoら, 1999)、vOX2-FCの阻害活性が当該分子のFc成分によるものではない、という我々のIgGコントロールの検討に対してさらなる支持を提供している。
【0104】
酸化ストレスは炎症反応に関係しており、ROIの一過性の増加でさえ、血管生態学の重要な媒介因子であり、細胞増殖、アポトーシス、移行、炎症、及び分泌に影響を及ぼす(Fattmanら, 2003;Touyz & Schiffrin, 2004に概説)。さらに、ROIの過剰産生は、多くの疾患、例えば、循環器疾患、神経系疾患、腎不全、及び肺疾患等の病因に関連している(Bowler & Crapo, 2002;Delanty & Dichter, 1998;Fukaiら, 2002に概説)。
【0105】
ROIはさらに、遺伝子活性化のためのセカンドメッセンジャーシステムを表し(Droge, 2002に概説)、組織損傷の間のMCP-1及びIL-8等のケモカインの産生に重要である可能性がある(DeForgeら, 1993;Satrianoら, 1993;Vlahopoulosら, 1999)。実際、ケモカインの放出は、vOX2-Fcによって負に制御される二次的骨髄性系統の機能であった。我々は、IFN-γ処理によって分化させられている単球U937細胞が、両方とも炎症誘発性であるMCP-1及びIL-8(Akahoshiら,1994;Baggioline, 2001;Endoら, 1994;Frangogiannisら, 2002;Hatanoら, 1999;Poddarら, 2001;Withanageら, 2004;Yla-Herttualaら, 1991)を産生するそれらの能力を有意に阻害されたことを見出した(図2)。
【0106】
炎症誘発性ケモカイン及び有毒性酸素代謝物は、循環器系、関節炎、腫瘍性、及び神経変性の疾患の病因を増大させるため、vOX2-Fcは、これらの疾患に対する新規の治療法の開発への洞察を提供する。
【0107】
本発明は、前述の例示的実施例と結びつけて記載されているが、多くの同等の変更及び変化は、本開示を与えれば当業者に明らかであろう。従って、説明された本発明の例示的実施例は例証であり、制限するものではないと見なされる。記載される実施例への種々の変化は、本発明の精神と範囲から離れずになされてよい。本明細書に引用されたすべての参考文献は、参考文献によって明確に導入されている。
【0108】
(参考文献)








【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】vOX2-Fcの産生及び精製。A:安定的にトランスフェクションされたCHO細胞におけるvOX2-Fcの産生。回収され、抗ヒトIgG-HRP抗体で分析され、且つECLブロッティング試薬(Amersham社)で可視化された、改変したCHO細胞の上清のウエスタンブロット分析。レーン1:トランスフェクションされていない正常なCHO細胞、レーン2:組換えpDR2ΔEF1αプラスミド誘導体をトランスフェクションされ、関連しないFc融合タンパク質のKSHV補体制御タンパク質(KCP-Fc)を発現するCHO細胞、レーン3:安定的にpvOX2-FcをトランスフェクションされたCHO細胞株(CHO-15”69)。分子サイズマーカーの位置を、当該ブロットの左に示す。B:タンパク質精製及び洗練、アフィニティー精製され、且つ「洗練された」組換えvOX2-Fcのウエスタンブロット分析。レーン1:トランスフェクションされていない正常なCHO細胞、レーン2:安定的にpvOX2-FcをトランスフェクションされたCHO細胞株(CHO-15”69)から精製された組換えvOX2-Fc。タンパク質精製は、アフィニティークロマトグラフィー(Hi Trap Protein Aカラム)及びゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex 200)によって実施された。精製したvOX2-Fcタンパク質を、抗ヒトIgG-HRP抗体を用いたウエスタンブロットによって分析し、ECLブロッティング試薬(Amersham社)で可視化した。
【図2】U937単球細胞における、組換えvOX2-Fcタンパク質による炎症性ケモカイン産生の抑制。A:MCP-1レベル。B:IL-8レベル。U937細胞を組換えIFN-γ(5ng)及びvOX2-Fc(10μg/mL)の存在または非存在下で、1×106の密度で48時間培養後に、Luminexアッセイによる培養液からのサイトカインの定量化。
【図3】主要なヒト末梢血好中球における、組換えvOX2-Fcタンパク質による、飲み込みではなく、酸化的バーストの抑制。A:酸化的バースト。B:飲み込み。これらの成分の食作用活性を、全血において、顆粒球をゲートでコントロールし、それに対して5000の事象が得られる、市販のバーストテスト(Bursttest)及びファゴテスト(Phagotest)アッセイ(OPREGEN Pharma社;BD Biosciences社)によりフローサイトメトリーを用いて測定した。前記アッセイを実施する前に、すべてのヘパリン化した血液を、組換えvOX2-Fc(10μg/mL)、または精製ヒトIgG(10μg/mL)のいずれかとインキュベートし(90分間、37℃、5% CO2)、あるいは未処理のままにした。白血球の差分カウントを、回収の時間に各血液サンプルについて実施し、当該アッセイは6:1の大腸菌:好中球の比率で実施可能になり、当該データを各被験者に対する平均蛍光強度(MFI)に対して標準化した。3つの別々の実験における、11人の健常被験者からの13の全血液サンプルの調査に対して、累積データを示す。
【図4】組換えvOX2-Fcによる、カラギーナンによって誘発された急性炎症性応答のin vivoにおける抑制。BALB/cマウスの足蹠の急性炎症を、各動物の一方の後ろ足への海草抽出物カラギーナンの投与によって誘発した。4群のマウスが、カラギーナン投与の30分前に、並びにカラギーナン投与の6、12、及び24時間後に再度、組換えvOX2-Fc(80μg/マウス;「黒い四角」群)、精製ヒトIgG(80μg/マウス;「黒い三角」群)、デキサメタゾン(500μg/マウス;「黒い丸」群)、またはPBS(「黒いダイヤ」群)のいずれかの腹腔内(IP)投与を受けた。足蹠の厚さの測定により炎症の程度を評価し、同じ動物の非接種の後ろ足蹠と比較した、カラギーナンを接種された後ろ足蹠との間の厚みの差として算出した。当該データを、3回の独立した単盲検実験からプールし、平均+/−SEとして表す(PBS及びvOX2-Fc処理に対して1群につき24匹のマウスであり、8匹のマウスが精製ヒトIgGを接種され、16匹がデキサメタゾンで処理された)。群の比較データを表中に示す。
【図5】DBAマウスにおける、コラーゲンによって誘発された関節炎の進行及び重症度へのvOX2-Fcの効果。パネルAは、各群の10匹のマウスに対する平均関節炎スコアを示す。パネルBは、各群内の関節炎の発症率パーセンテージを示す。図5は、37日までの疾患の推移を示す。
【図6】DBAマウスにおける、コラーゲンによって誘発された関節炎の進行及び重症度へのvOX2-Fcの効果。パネルAは、各群の10匹のマウスに対する平均関節炎スコアを示す。パネルBは、各群内の関節炎の発症率パーセンテージを示す。図6は、42日までの同じ実験の結果を示す。
【図7】この研究において使用されたvOX2-Fc融合タンパク質のアミノ酸配列。vOX2配列を、通常のフォントで下線を引いて示す。これは、Russoらによって提唱されている全長アミノ酸配列であるアミノ酸78-307を示す。AADPI配列(通常のフォント、下線なし)はリンカー領域である。免疫グロブリンγ1 Fc配列を、イタリックフォントで示す。免疫グロブリンヒンジ領域(PKSCDKPHTCP)をイタリック且つ下線を引いて示す。
【0110】
(配列表)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫システムの細胞集団を可溶性vOX2と接触させる工程を含む、炎症性免疫応答を抑制する方法。
【請求項2】
前記接触させる工程をin vivo、in vitro、またはex vivoにおいて実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞集団が先天性免疫システムの細胞を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞集団が好中球、単球、及び/またはマクロファージ等の貪食細胞を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞集団がTリンパ球及び/またはBリンパ球をさらに含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記炎症性免疫応答の抑制の程度を測定する工程をさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
炎症性サイトカインまたはケモカイン産生量を測定する工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記炎症性サイトカインまたはケモカインがMCP-1及び/またはIL-8である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
活性酸素中間代謝物の産生量を測定する工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記方法をin vivoにおいて実施し、且つ炎症性細胞による組織侵入、膨張、赤色等の炎症症状を用いて、前記炎症性免疫応答の抑制の程度をモニターする、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記vOX2タンパク質が2つ以上のvOX2成分を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記vOX2成分が互いに相互作用する異種成分に連結されて、前記vOX2成分の会合を引き起こす、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
各vOX2成分がそのそれぞれの異種成分との融合タンパク質として発現される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記異種成分が抗体Fc領域である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記異種成分が転写因子のオリゴマー化ドメインである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
前記異種成分がロイシンジッパーモチーフである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
自己免疫疾患、アレルギー、または移植片拒絶の予防または治療のためにin vivoにおいて実施される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、接触性若しくはアレルギー性皮膚疾患、炎症性眼疾患、移植片拒絶、血管炎症(心疾患)、または炎症性神経性症候群の予防または治療のためにin vivoにおいて実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
可溶性vOX2タンパク質、可溶性vOX2タンパク質をコードする核酸、または可溶性vOX2タンパク質を発現及び分泌し得る細胞を、それらを必要とする被験者に投与する工程を含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
医学的治療方法における使用のための、可溶性vOX2タンパク質。
【請求項21】
炎症性疾患の予防または治療のための、可溶性vOX2タンパク質。
【請求項22】
有効な量の可溶性vOX2タンパク質をそれを必要とする患者に投与する工程を含む、炎症性疾患の予防または治療の方法。
【請求項23】
製薬上許容し得るキャリアと組み合わせた、可溶性vOX2タンパク質を含む製薬組成物。
【請求項24】
前記炎症性疾患が自己免疫疾患、アレルギー、または移植片拒絶である、請求項21に記載の可溶性vOX2タンパク質または請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記炎症性疾患が、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、接触性若しくはアレルギー性皮膚疾患、炎症性眼疾患、移植片拒絶、血管炎症(心疾患)、または炎症性神経性症候群である、請求項24に記載の可溶性vOX2タンパク質または方法。
【請求項26】
前記vOX2タンパク質が2つ以上のvOX2成分を含む、請求項20から25のいずれか一項に記載の可溶性vOX2タンパク質、方法、または製薬組成物。
【請求項27】
前記vOX2成分が互いに相互作用する異種成分に連結されて、前記vOX2成分の会合を引き起こす、請求項26に記載の可溶性vOX2タンパク質、方法、または製薬組成物。
【請求項28】
各vOX2成分がそのそれぞれの異種成分との融合タンパク質として発現される、請求項27に記載の可溶性vOX2タンパク質、方法、または製薬組成物。
【請求項29】
前記異種成分が抗体Fc領域である、請求項27または28に記載の可溶性vOX2タンパク質、方法、または製薬組成物。
【請求項30】
前記異種成分が転写因子のオリゴマー化ドメインである、請求項27または28に記載の可溶性vOX2タンパク質、方法、または製薬組成物。
【請求項31】
前記異種成分がロイシンジッパーモチーフである、請求項30に記載の可溶性vOX2タンパク質、方法、または製薬組成物。
【請求項32】
医学的治療方法における使用のための、可溶性vOX2をコードする核酸。
【請求項33】
炎症性疾患の予防または治療のための、可溶性vOX2をコードする核酸。
【請求項34】
可溶性vOX2をコードする有効な量の核酸をそれを必要とする患者に投与する工程を含む、炎症性疾患の予防または治療の方法。
【請求項35】
製薬上許容し得るキャリアと組み合わせた、可溶性vOX2をコードする核酸を含む製薬組成物。
【請求項36】
前記炎症性疾患が自己免疫疾患、アレルギー、または移植片拒絶である、請求項33に記載の核酸または請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記炎症性疾患が、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、接触性若しくはアレルギー性皮膚疾患、炎症性眼疾患、移植片拒絶、血管炎症(心疾患)、または炎症性神経性症候群である、請求項36に記載の核酸または方法。
【請求項38】
前記可溶性vOX2タンパク質がそれを発現する宿主細胞から分泌され得る、請求項32から37のいずれか一項に記載の核酸、方法、または製薬組成物。
【請求項39】
前記核酸が、任意的にリンカーによって分離された、2つ以上のvOX2成分を含む融合タンパク質をコードする、請求項32から38のいずれか一項に記載の核酸、方法、または製薬組成物。
【請求項40】
前記核酸が、異種成分に連結した可溶性vOX2成分を含む融合タンパク質をコードし、前記vOX2成分の会合を媒介するために、前記2つの異種成分が互いに会合し得る、請求項32から38のいずれか一項に記載の核酸、方法、または製薬組成物。
【請求項41】
前記融合タンパク質がそれを発現する宿主細胞から分泌され得る、請求項39または40に記載の核酸、方法、または製薬組成物。
【請求項42】
前記異種成分が抗体Fc領域である、請求項40に記載の核酸、方法、または製薬組成物。
【請求項43】
医学的治療方法における使用のための、可溶性vOX2を発現及び分泌し得る細胞。
【請求項44】
炎症性疾患の予防または治療のための、可溶性vOX2を発現及び分泌し得る細胞。
【請求項45】
可溶性vOX2を発現及び分泌し得る有効な量の細胞をそれを必要とする患者に投与する工程を含む、炎症性疾患の予防または治療の方法。
【請求項46】
製薬上許容し得るキャリアと組み合わせた、可溶性vOX2を発現及び分泌し得る細胞を含む製薬組成物。
【請求項47】
前記炎症性疾患が自己免疫疾患、アレルギー、または移植片拒絶である、請求項44に記載の細胞または請求項45に記載の方法。
【請求項48】
前記炎症性疾患が、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、接触性若しくはアレルギー性皮膚疾患、炎症性眼疾患、移植片拒絶、血管炎症(心疾患)、または炎症性神経性症候群である、請求項47に記載の細胞または方法。
【請求項49】
前記可溶性vOX2タンパク質が請求項26から31のいずれか一項において定義されるものである、請求項43から48のいずれか一項に記載の細胞、方法、または製薬組成物。
【請求項50】
第一のvOX2成分と第一の異種成分を含む融合タンパク質をコードする第一の核酸、及び第二のvOX2成分と第二の異種成分を含む融合タンパク質をコードする第二の核酸を含む組成物であって、タンパク質として発現させた場合、前記第一及び第二の異種成分が互いに会合する組成物。
【請求項51】
前記融合タンパク質がそれらを発現する宿主細胞から分泌され得る、請求項50に記載の組成物。
【請求項52】
前記第一及び第二の核酸が別々の発現ベクター上にある、請求項50または51に記載の組成物。
【請求項53】
前記第一及び第二の核酸が同じ発現ベクター上にある、請求項50または51に記載の組成物。
【請求項54】
前記異種成分が転写因子のオリゴマー化ドメインである、請求項50から53のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項55】
前記異種成分がロイシンジッパーモチーフである、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
医学的治療方法における使用のための、請求項50から55のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項57】
炎症性疾患の予防または治療のための、請求項50から55のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項58】
有効な量の請求項50から55のいずれか一項に規定の第一及び第二の核酸を、それらを必要とする患者に投与する工程を含む、炎症性疾患の予防または治療の方法。
【請求項59】
製薬上許容し得るキャリアと組み合わせた、請求項50から55のいずれか一項に記載の組成物を含む製薬組成物。
【請求項60】
前記炎症性疾患が自己免疫疾患、アレルギー、または移植片拒絶である、請求項59に記載の組成物または方法。
【請求項61】
前記炎症性疾患が、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、接触性若しくはアレルギー性皮膚疾患、炎症性眼疾患、移植片拒絶、血管炎症(心疾患)、または炎症性神経性症候群である、請求項60に記載の組成物または方法。
【請求項62】
請求項50から55のいずれか一項に規定の第一及び第二の核酸を含むキット。
【請求項63】
それぞれの前記核酸を製薬上許容し得るキャリアと組み合わせた、請求項62に記載のキット。
【請求項64】
前記第一及び第二の核酸がそれぞれの第一及び第二の発現ベクター上に存在している、請求項62または63に記載のキット。
【請求項65】
請求項38から42のいずれか一項に記載の核酸、または請求項50から55のいずれか一項に規定の第一及び第二の核酸を含む宿主細胞。
【請求項66】
医学的治療方法における使用のための、請求項65に記載の細胞。
【請求項67】
炎症性疾患の予防または治療のための、請求項65に記載の細胞。
【請求項68】
有効な量の請求項65に記載の細胞をそれを必要とする患者に投与する工程を含む、炎症性疾患の予防または治療の方法。
【請求項69】
製薬上許容し得るキャリアと組み合わせた、請求項65に記載の細胞を含む製薬組成物。
【請求項70】
前記炎症性疾患が自己免疫疾患、アレルギー、または移植片拒絶である、請求項67に記載の細胞または請求項68に記載の方法。
【請求項71】
前記炎症性疾患が、関節リウマチ、乾癬、炎症性腸疾患、多発性硬化症、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、接触性及びアレルギー性皮膚疾患、炎症性眼疾患、移植片拒絶、血管炎症(心疾患)、または炎症性神経性症候群である、請求項70に記載の細胞または方法。
【請求項72】
少なくとも2つのvOX2成分の複合体を含む、可溶性の抗炎症剤。
【請求項73】
任意的にリンカーによって分離された、少なくとも2つのvOX2成分を含む融合タンパク質を含む、請求項72に記載の可溶性の抗炎症剤。
【請求項74】
それぞれの第一及び第二の異種成分に連結させた第一及び第二のvOX2成分を含み、前記第一及び第二の異種成分が互いに会合している、請求項72に記載の可溶性の抗炎症剤。
【請求項75】
前記異種成分がそれらのそれぞれのvOX2成分との融合タンパク質である、請求項74に記載の可溶性の抗炎症剤。
【請求項76】
前記異種成分が抗体Fc領域である、請求項74または75に記載の可溶性の抗炎症剤。
【請求項77】
前記異種成分が転写因子のオリゴマー化ドメインである、請求項74または75に記載の可溶性の抗炎症剤。
【請求項78】
前記異種成分がロイシンジッパーモチーフである、請求項77に記載の可溶性の抗炎症剤。
【請求項79】
請求項73または75から78のいずれか一項に規定の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項80】
請求項79に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項81】
請求項79に記載の核酸または請求項80に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−537743(P2008−537743A)
【公表日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503600(P2008−503600)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001219
【国際公開番号】WO2006/103472
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(503392976)ザ・ユニヴァーシティ・コート・オブ・ザ・ユニヴァーシティ・オブ・グラスゴー (7)
【Fターム(参考)】