説明

合成桁の構造及び合成桁の構築方法

【課題】鋼製桁部とコンクリート製の床版との一体化が可能な合成桁の構造を提供する。
【解決手段】上面にずれ止め22が設けられた鋼製桁部2とコンクリート製の床版50とによって形成される合成桁1の構造である。そして、鋼製桁部の上面フランジ21の両側縁において、ずれ止め22より外側の鋼製桁部上に端部が載置されて、両側縁から張り出されるプレキャストコンクリート製のHPCa部3,3と、HPCa部間を連結する部材であって両端部41,41の下部がHPCa部に埋設されて上部が上方に突出するトラス筋4と、鋼製桁部上及びHPCa部上に打設されてトラス筋を埋設させる現場打ちコンクリート部5とによって床版50が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や鉄道などの高架橋及び橋梁などの架設に際して使用される鋼材とコンクリートとの複合断面を有する合成桁の構造、及び合成桁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工期の短縮、品質の向上、施工現場における制約の解消などを目的に、プレキャストコンクリート部材を使用した高架橋の架設がおこなわれている(特許文献1,2など参照)。
【0003】
例えば、特許文献1,2には、床版の下半分をコンクリートで成形したハーフプレキャスト床版を使用し、そのハーフプレキャスト床版に下部を埋設させたトラス筋を介して、ハーフプレキャスト床版とその上に現場で打設されるコンクリートとを一体にさせる高架橋の構築方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、鋼板上に現場でコンクリートを打設する合成床版が開示されており、鋼板とコンクリートとを一体化させるために、鋼板上に複数のU字状ボルトを突設させることが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、隣接するハーフプレキャスト床版同士の接合にループ型継手筋を使用することが開示されている。
【特許文献1】特許第3323463号公報
【特許文献2】特許第3176309号公報
【特許文献3】特許第3950757号公報
【特許文献4】特許第3590302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の高架橋の構築方法は、ハーフプレキャスト部材とその上に打設されるコンクリートとの一体化、又は鋼板とその上に打設されるコンクリートとの一体化についての発明であり、鋼製桁とその上に形成されるコンクリート床版とを一体化させる発明については開示されていない。
【0007】
他方、鋼製桁上にコンクリート床版を構築する場合においても、施工上の制約の解消、工期の短縮、品質の向上などを目的にしてプレキャストコンクリート部材の使用が望まれている。
【0008】
そこで、本発明は、鋼製桁部とコンクリート製の床版との一体化が可能な合成桁の構造、及び合成桁の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の合成桁の構造は、上面にずれ止めが設けられた鋼製桁部とコンクリート製の床版とによって形成される合成桁の構造であって、前記鋼製桁部の上面の両側縁において、前記ずれ止めより外側の前記鋼製桁部上に端部が載置されて、前記両側縁から張り出されるプレキャストコンクリート製のプレキャスト張出部と、前記プレキャスト張出部間を連結する部材であって両端の下部が前記プレキャスト張出部に埋設されて上部が上方に突出する連結補強材と、前記鋼製桁部上及び前記プレキャスト張出部上に打設されて前記連結補強材を埋設させる現場打ちコンクリート部とによって前記床版が形成されることを特徴とする。
【0010】
ここで、前記鋼製桁部の両側縁の端面から最も近くに配置された前記ずれ止めまでの離隔が所定の間隔以上に設定されるようにすることが好ましい。
【0011】
また、前記プレキャスト張出部から前記鋼製桁部上に向けて突出された取付片と、前記鋼製桁部の上面とがボルトによって締結される構造とすることもできる。
【0012】
さらに、本発明の合成桁の構築方法は、上面にずれ止めが設けられた鋼製桁部とコンクリート製の床版とによって形成される合成桁の構築方法であって、前記鋼製桁部の幅よりも長い連結補強材の両端に、床部とそれより上方に延設される壁部とを備えたプレキャスト張出部をコンクリートによって成形して床版ユニットを製作する工程と、前記壁部間を着脱可能な仮連結材によって連結する工程と、前記床版ユニットを吊り上げ、前記鋼製桁部の上面の両側縁に前記プレキャスト張出部をそれぞれ載置する工程と、前記仮連結材を前記壁部から取り外し撤去する工程と、前記鋼製桁部上及び前記プレキャスト張出部上に鉄筋を配筋してコンクリートを打設する工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、上面にずれ止めが設けられた鋼製桁部とコンクリート製の床版とによって形成される合成桁の構築方法であって、前記鋼製桁部の幅よりも長い連結補強材の両端に、コンクリートによってプレキャスト張出部を成形して床版ユニットを製作する工程と、前記床版ユニットを吊り上げ、前記鋼製桁部の上面の両側縁に前記プレキャスト張出部をそれぞれ載置する工程と、前記プレキャスト張出部から前記鋼製桁部上に向けて突出された取付片と、前記鋼製桁部の上面とをボルトによって締結する工程と、前記鋼製桁部上及び前記プレキャスト張出部上に鉄筋を配筋してコンクリートを打設する工程とを備えた方法であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の合成桁の構造は、鋼製桁部上に端部が載置されてそこから張り出されるプレキャスト張出部と、そのプレキャスト張出部間を連結して上部が突出される連結補強材とを備えている。そして、鋼製桁部上にはずれ止めが設けられている。
【0015】
このため、コンクリートが、鋼製桁部上面とプレキャスト張出部と連結補強材との間に連続して充填されて、鋼製桁部とコンクリート製の床版とが一体化された合成桁を形成することができる。
【0016】
また、鋼製桁部の両側縁の端面から最も近くに配置されたずれ止めまでの離隔を所定の間隔以上に設定することで、プレキャスト張出部とずれ止めとの間にずれが生じないだけのコンクリート幅の確保と、ずれ止めからの応力分散を図ることができる。
【0017】
さらに、プレキャスト張出部から突出された取付片と鋼製桁部の上面とをボルトによって締結する構造にすることで、プレキャスト張出部と鋼製桁部との接合強度を高めることができる。
【0018】
また、本発明の合成桁の構築方法では、鋼製桁部から張り出させるプレキャスト張出部をプレキャストコンクリートで成形するため、現場でのプレキャスト張出部下方の支保工を省略することができる。
【0019】
さらに、現場では、鋼製桁部とプレキャスト張出部とを下面型枠にしてコンクリートを打設することができるので、下面側の型枠及び支保工の設置及び解体作業が不要である。
【0020】
このため、プレキャスト張出部下方に道路や鉄道があるような現場であっても、飛来落下のおそれなどによる施工上の制限を受けることがなく、容易に合成桁を構築することができる。
【0021】
また、プレキャスト張出部の壁部間を着脱可能な仮連結材で連結することで、吊り上げ時などに床版ユニットに一時的に作用する力に対しても抵抗させることができる。
【0022】
さらに、設置などによって床版ユニットが安定した後には、仮連結材を取り外すことができるので、配筋作業などに際して仮連結材が支障になることはない。
【0023】
また、プレキャスト張出部に取付片を設け、鋼製桁部と取付片とをボルトによって締結するようにすれば、プレキャスト張出部を鋼製桁部上に載置した後に迅速に固定をおこなうことができる。
【0024】
さらに、プレキャスト張出部が鋼製桁部に固定されていれば、コンクリートを打設する際の支保工を省略又は低減することができるので、工期及び工費の削減が可能になる。また、このボルト締結によって、現場打ちコンクリート部が硬化して所定の強度が発現するまでの支保を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本実施の形態の合成桁1の構造の構成を示した断面図である。また、図2は、合成桁1を架け渡す高架橋60の構成を示した断面図である。
【0027】
まず、図2を参照しながら高架橋60の構成について説明する。この高架橋60は、鉄道の列車64を複数の階層で走行させることが可能な構造物である。この高架橋60は、地中に構築された杭63,・・・と、その杭頭間を連結する地中梁62とによって構築された基礎に支持されている。
【0028】
そして、この地中梁62上に門形の鋼製ラーメン61が構築される。なお、ここでは、鋼製ラーメン61の上に更に上段ラーメン66を設ける場合について例示してある。
【0029】
この鋼製ラーメン61は、地上において列車64,・・・が走行する軌道67を挟んで地中梁62上に立設される鋼管柱61a,・・・と、その上部間に架け渡される鋼製梁61bとによって構成される。
【0030】
そして、このような鋼製ラーメン61は、軌道67の延伸方向に間隔を置いて設けられ、この鋼製ラーメン61,61の鋼製梁61b,61b間に合成桁1が架け渡される。
【0031】
この図2では、合成桁1に隣接してプラットフォーム65が設置され、そのプラットフォーム65を挟んだ反対側に、同様の構造の合成桁1Aが架け渡されている。また、上段ラーメン66にも、合成桁1と同様の構造の合成桁1B,1C及びプラットフォーム65が架け渡されている。
【0032】
この合成桁1は、図1に示すように、上面にずれ止め22が設けられた鋼製桁部2と、コンクリート製の床版50とによって形成される。また、この床版50は、鋼製桁部2の上面の両側縁から張り出されるプレキャストコンクリート製のプレキャスト張出部としてのHPCa(ハーフプレキャストコンクリート)部3,3と、HPCa部3,3間に横架される連結補強材としてのトラス筋4と、鋼製桁部2上及びHPCa部3,3上に打設されてトラス筋4を埋設させる現場打ちコンクリート部5とによって主に構成される。
【0033】
この鋼製桁部2は、上下に間隔を置いて平行に配置される上面としての上面フランジ21及び下面フランジ25と、それらの間を接続するウェブ24,24と、その内部に配置される補強部26とから主に構成される。
【0034】
この上面フランジ21は、現場打ちコンクリート部5の下型枠にもなる面であり、現場打ちコンクリート部5と上面フランジ21とを一体化させるために、複数のずれ止め22,・・・及びスタッド23,・・・が上方に向けて突設されている。
【0035】
このずれ止め22は、上面フランジ21の最も側縁側に配置されるずれ止め部材で、U字形の一方の脚部が拡幅フランジ部21a上に載置されるように取り付けられる。また、図3に示すように、鋼製桁部2の延伸方向に間隔を置いて複数のずれ止め22,・・・が取り付けられている。
【0036】
また、スタッド23,・・・は、図1に示すように上面フランジ21の中央とその両側に取り付けられるとともに、図3に示すように鋼製桁部2の延伸方向に間隔を置いて複数のスタッド23,・・・が取り付けられている。
【0037】
また、ウェブ24よりも外側に張り出される拡幅フランジ部21aは、ずれ止め22とHPCa部3の端面との間に所定の間隔が確保されるように、鋼製桁部2上に現場打ちのコンクリートのみで床版を構築する場合に比べて、拡幅されて張出し量が大きくなるように形成される。
【0038】
さらに、HPCa部3,3とその間に横架されるトラス筋4とは、床版ユニット30として工場などで製作される。このHPCa部3は、床部31と、その側縁から略直角に上方に向けて延設される壁部32とによって、断面視略L字状に成形される。
【0039】
このHPCa部3は、鉄筋コンクリートによって成形されるプレキャストコンクリート部材で、下部に配置される主鉄筋34は、他方のHPCa部3の内部にまで延設され、2つのHPCa部3,3は主鉄筋34によって連結されることになる。
【0040】
また、床部31に配筋される主鉄筋34と同様に、壁部32にも鉄筋33が配筋されて、その端部は壁部32上部から突出されて、フック状に折り曲げられて現場打ちコンクリート部5の壁の内部に埋設されることになる。
【0041】
さらに、主鉄筋34の上方には、トラス筋4が配置される。このトラス筋4は、図1,7に示すように二等辺三角形の各頂点に平行に配置される上弦材42及び下弦材43,43間が、波状のラチス筋44,44で連結された三角形トラス状の鉄筋部材である。
【0042】
このトラス筋4の端部41では、図1,3に示すように、その下部の下弦材43,43がHPCa部3の床部31に埋設され、その上部の上弦材42とラチス筋44,44の一部が床部31上に突出して露出している。
【0043】
また、トラス筋4は、その両端部41,41の下部がHPCa部3,3にそれぞれ埋設されているので、離隔されたHPCa部3,3間を連結することとなる。すなわち、図3の平面図に示すように、鋼製桁部2の両側縁に配置されるHPCa部3,3は、鋼製桁部2の延伸方向に間隔を置いて配置される複数のトラス筋4,・・・によって連結されることになる。
【0044】
さらに、これらのトラス筋4,・・・は、上面フランジ21上方では略全体が露出し、HPCa部3では上部が露出しており、現場でコンクリートを打設することによって現場打ちコンクリート部5に埋設されて補強材として機能することになる。
【0045】
また、HPCa部3の鋼製桁部2側(内側)の端面からは、板状の取付片35が水平に突出されている。この取付片35は、図3に示すように、平面視四角形の板材で、略中央にボルト(図示省略)を挿入させるボルト孔35aが設けられている。
【0046】
次に、本実施の形態の合成桁1の構築方法について説明する。
【0047】
まず、工場又は製作ヤードにおいて、図4に示すような、HPCa部3,3間がトラス筋4で連結された床版ユニット30を製作する。また、HPCa部3,3の壁部32,32間は、着脱自在の仮連結材としてのタイロッド7によって連結しておく。
【0048】
一方、現場では鋼製桁部2を鋼製ラーメン61,61間に架け渡しておく。そして、HPCa部3,3を工場から現場まで搬送し、吊りワイヤ71によって吊り上げ、鋼製桁部2の上面フランジ21上に載置する。
【0049】
ここで、HPCa部3,3は、上面フランジ21の最も側縁側に取り付けられたずれ止め22,22より外側に配置される位置に設けられているので、設置に際してHPCa部3,3とずれ止め22,22とが干渉することはない。
【0050】
また、上面フランジ21の拡幅フランジ部21a,21aは、HPCa部3,3の直下に至るまで拡幅されているので、上面フランジ21上に床版ユニット30を載置することができる。
【0051】
さらに、床版ユニット30は、HPCa部3,3間をトラス筋4,・・・で連結した構成であるため、全断面をプレキャストコンクリートで成形した床版に比べて非常に軽く、使用するクレーンの規模を抑えることができる。また、重量が軽くなれば、搬送、吊り上げ作業時の取り扱いが容易になる。
【0052】
そして、床版ユニット30を鋼製桁部2上に載置した後には、取付片35,35と上面フランジ21とをボルト(図示省略)によって締結する。
【0053】
さらに、HPCa部3,3間を連結していたタイロッド7を取り外し、図5に示すように現場打ちコンクリート部5用の鉄筋51の配筋をおこなう。
【0054】
ここで、図7(a)に示すように、HPCa部3の鋼製桁部2の延伸方向(図5の紙面直交方向)の両端部からは、隣接して配置される別のHPCa部3との接合に利用される接合鉄筋36の大フック部36a及び小フック部36bが突出されている。
【0055】
すなわち、図7(b)に示すように、隣接する一方のHPCa部3から突出された大フック部36aと、他方のHPCa部3から突出された小フック部36bとをループ状に重ね合わせて、その内空に複数の鉄筋36c,・・・を挿通させることで接合部の配筋をおこなう。また、HPCa部3,3の端面間には継手ゴム37を介在させる。
【0056】
一方、HPCa部3,3上及び上面フランジ21上の配筋に際しては、図5及び図7(b)に示すように、トラス筋4,・・・をスペーサとして利用することで容易に鉄筋51を配置することができる。
【0057】
さらに、図8に示すように、鋼製桁部2の桁端部2a付近に設置するHPCa部3,3の下面側には、工場での製作段階で格子状のメッシュ筋38,38をそれぞれ埋設させておき、上面フランジ21上には、床版ユニット30Aを吊り降ろす前に格子状のメッシュ筋52を配筋しておく。
【0058】
このようにメッシュ筋38,52を配筋することで、鋼製桁部2の桁端部2a付近に温度応力や乾燥収縮によってひび割れが発生することを抑えることができる。
【0059】
そして、図6に示すように、鋼製桁部2の上面フランジ21とHPCa部3,3の床部31,31とを下面型枠にして、コンクリートを打設することで現場打ちコンクリート部5を構築する。
【0060】
また、現場打ちコンクリート部5が所定の強度になった後に、台座コンクリートや軌道などを設けて、列車64の走行が可能な状態に床版50を仕上げればよい。
【0061】
次に、本実施の形態の合成桁1の構造及びその構築方法の作用について説明する。
【0062】
このように構成された本実施の形態の合成桁1の構造は、鋼製桁部2上に端部が載置されてそこから張り出されるプレキャストコンクリート製のHPCa部3,3と、そのHPCa部3,3間を連結して上部が突出するトラス筋4,・・・とを備えている。
【0063】
また、鋼製桁部2の上面フランジ21にはずれ止め22,・・・が設けられている。そして、鋼製桁部2の上面フランジ21とHPCa部3,3とを下面型枠にして現場打ちコンクリート部5が形成される。
【0064】
このため、現場で打設されたコンクリートが、鋼製桁部2上面とHPCa部3,3とトラス筋4,・・・との間に連続して充填されて、鋼製桁部2とHPCa部3,3とが一体化された合成桁1を形成することができる。
【0065】
また、ずれ止め22を設けることで、上面フランジ21と現場打ちコンクリート部5とが一体となって合成断面の圧縮フランジとして機能させることができ、鉄道のように繰り返し荷重が載荷されるような場所に適用しても合成桁1の一体性を保持することができる。
【0066】
さらに、上面フランジ21及びHPCa部3,3が下面型枠となるので、下面側の型枠や支保工の設置作業及び撤去作業をおこなう必要がなく、迅速かつ安全にコンクリートの打設作業をおこなうことができる。また、工場で製作されるプレキャストコンクリート部材であれば、高品質を確保することができる。
【0067】
一方、鋼製桁部2の側縁の端面から最も近くに配置されたずれ止め22までの離隔を所定の間隔以上に設定することで、HPCa部3とずれ止め22との間にずれが生じないだけのコンクリート幅を確保することができる。すなわち、HPCa部3とずれ止め22との離隔が少ないと、その間に介在される現場打ちのコンクリートの量が少なくなって、ずれを防ぐのに必要なせん断耐力が確保できなくなる。また、ずれ止め22からの応力が狭い範囲のコンクリートに作用して応力集中が起きるおそれがある。
【0068】
これに対して、HPCa部3とずれ止め22との離隔を所定の間隔以上に設定することで、充分にコンクリートが充填されてずれの防止と応力分散を図ることができる。また、このように必要となる間隔を確保するために、上面フランジ21の拡幅フランジ部21aの張出し量を大きくしておくとよい。
【0069】
なお、HPCa部3の端面は、必要に応じて目あらし等による打ち継ぎ処理をして、水平方向のせん断力に充分に抵抗できるようにしておくのが好ましい。また、HPCa部3とずれ止め22との間に所定の間隔が確保できない場合でもあっても、目あらし等によって所望する性能を確保することはできる。
【0070】
さらに、HPCa部3から突出された取付片35と鋼製桁部2の上面フランジ21とをボルト(図示省略)によって締結する構造にすることで、現場打ちコンクリート部5が硬化して所定の強度が発現するまでの支保を確保することができる。
【0071】
また、本実施の形態の合成桁1の構築方法では、鋼製桁部2から張り出させるHPCa部3,3をプレキャストコンクリートで成形するため、張出部の自立性が高く、現場でのHPCa部3下方の支保工を省略することができる。
【0072】
このため、HPCa部3下方に道路や鉄道があって地上から足場や支保工が組めないような現場や、飛来落下のおそれなどによって上空に足場などを設置することが禁止されるような現場であっても、施工上の制限を受けることなく、容易に合成桁1を構築することができる。
【0073】
また、HPCa部3,3の壁部32,32間を着脱可能なタイロッド7で連結することで、吊り上げ時などに床版ユニット30に一時的に作用する力に対しても抵抗させることができる。すなわち、床版ユニット30を吊り上げる際には、設置時には作用しないような方向の曲げなどの力が作用することになるが、そのために本設構造として補強をおこなうことは経済的とはいえない。そこで、床版ユニット30の吊り上げ時にたわみが発生し難くなるように壁部32,32間をタイロッド7で連結しておき、鋼製桁部2上に載置した後には不要となったタイロッド7を取り外して回収するようにすればよい。
【0074】
さらに、設置などによって構造体が安定した後にタイロッド7を取り外すことによって、その後の配筋工程やコンクリートを打設する工程においても作業の支障になることがない。
【0075】
また、プレキャストコンクリート製のHPCa部3に取付片35を設け、鋼製桁部2と取付片35とをボルト(図示省略)によって締結するようにすれば、床版ユニット30を鋼製桁部2上に載置した後に迅速に固定をおこなうことができる。
【0076】
さらに、HPCa部3,3が鋼製桁部2に固定されていれば、コンクリートを打設してその重量が作用しても、HPCa部3,3の変位を抑制することができるので、支保工を省略又は低減することが可能になり、工期及び工費を削減することができる。
【0077】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0078】
例えば、前記実施の形態では、ずれ止め22について例示したが、その形状、数及び配置箇所はこれに限定されるものではない。
【0079】
また、前記実施の形態では、床部31と壁部32とを備えたHPCa部3について説明したが、これに限定されるものではなく、床部31のみで壁部32のない構成のプレキャスト張出部であってもよい。
【0080】
さらに、前記実施の形態では、連結補強材としてトラス筋4について説明したが、これに限定されるものではなく、剛性が高くHPCa部3,3間を連結した状態で吊り上げ可能な程度の形状保持性能を備え、現場打ちコンクリート部5とHPCa部3との一体化が可能な部材であれば、例えば梯子状の鋼材などを連結補強材として使用してもよい。
【0081】
また、前記実施の形態では、タイロッド7は現場でコンクリートを打設する前に取り外したが、これに限定されるものではなく、現場打ちコンクリート部5に所望する強度が発現するまでは支保工として設置しておくこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の最良の実施の形態の合成桁の構造の構成を説明する断面図である。
【図2】合成桁が架け渡される高架橋の構成を説明する断面図である。
【図3】合成桁の構造の構成を説明する平面図である。
【図4】鋼製桁部の上に床版ユニットを吊り降ろす工程を示した説明図である。
【図5】現場打ちコンクリート部用の配筋をおこなう工程を示した説明図である。
【図6】コンクリートを打設する工程を示した説明図である。
【図7】鋼製桁部の延伸方向のHPCa部同士の接合について説明する図であって、(a)は接合鉄筋の形状を説明するHPCa部の断面図、(b)はHPCa部同士の接合部の構成を説明する部分拡大断面図である。
【図8】鋼製桁部の桁端部付近に設置されるHPCa部の下部と上面フランジ上に配置されるメッシュ筋の構成を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 合成桁
1A,1B,1C 合成桁
2 鋼製桁部
21 上面フランジ(上面)
22 ずれ止め
3 HPCa部(プレキャスト張出部)
30 床版ユニット
31 床部
32 壁部
35 取付片
35a ボルト孔
4 トラス筋(連結補強材)
41 端部
5 現場打ちコンクリート部
50 床版
7 タイロッド(仮連結材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面にずれ止めが設けられた鋼製桁部とコンクリート製の床版とによって形成される合成桁の構造であって、
前記鋼製桁部の上面の両側縁において、前記ずれ止めより外側の前記鋼製桁部上に端部が載置されて、前記両側縁から張り出されるプレキャストコンクリート製のプレキャスト張出部と、
前記プレキャスト張出部間を連結する部材であって両端の下部が前記プレキャスト張出部に埋設されて上部が上方に突出する連結補強材と、
前記鋼製桁部上及び前記プレキャスト張出部上に打設されて前記連結補強材を埋設させる現場打ちコンクリート部とによって前記床版が形成されることを特徴とする合成桁の構造。
【請求項2】
前記鋼製桁部の両側縁の端面から最も近くに配置された前記ずれ止めまでの離隔が所定の間隔以上に設定されることを特徴とする請求項1に記載の合成桁の構造。
【請求項3】
前記プレキャスト張出部から前記鋼製桁部上に向けて突出された取付片と、前記鋼製桁部の上面とがボルトによって締結されることを特徴とする請求項1又は2に記載の合成桁の構造。
【請求項4】
上面にずれ止めが設けられた鋼製桁部とコンクリート製の床版とによって形成される合成桁の構築方法であって、
前記鋼製桁部の幅よりも長い連結補強材の両端に、床部とそれより上方に延設される壁部とを備えたプレキャスト張出部をコンクリートによって成形して床版ユニットを製作する工程と、
前記壁部間を着脱可能な仮連結材によって連結する工程と、
前記床版ユニットを吊り上げ、前記鋼製桁部の上面の両側縁に前記プレキャスト張出部をそれぞれ載置する工程と、
前記仮連結材を前記壁部から取り外し撤去する工程と、
前記鋼製桁部上及び前記プレキャスト張出部上に鉄筋を配筋してコンクリートを打設する工程とを備えたことを特徴とする合成桁の構築方法。
【請求項5】
上面にずれ止めが設けられた鋼製桁部とコンクリート製の床版とによって形成される合成桁の構築方法であって、
前記鋼製桁部の幅よりも長い連結補強材の両端に、コンクリートによってプレキャスト張出部を成形して床版ユニットを製作する工程と、
前記床版ユニットを吊り上げ、前記鋼製桁部の上面の両側縁に前記プレキャスト張出部をそれぞれ載置する工程と、
前記プレキャスト張出部から前記鋼製桁部上に向けて突出された取付片と、前記鋼製桁部の上面とをボルトによって締結する工程と、
前記鋼製桁部上及び前記プレキャスト張出部上に鉄筋を配筋してコンクリートを打設する工程とを備えたことを特徴とする合成桁の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−101072(P2010−101072A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273756(P2008−273756)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(592245627)京浜急行電鉄株式会社 (6)
【出願人】(000228350)日本カイザー株式会社 (14)
【Fターム(参考)】