説明

合成樹脂製スタンプの製造方法

【課題】燃焼させても油煙の量が少なく、硫黄酸化物や窒素酸化物が発生しないスタンプの製造方法を提供する。
【解決手段】スタンプの基材となる熱可塑性樹脂組成物と有機過酸化物からなる架橋剤とを混合して成形材料を得る混合工程ST1と、前記成形材料を成形型に注入し、160〜190℃、5〜10分の直圧成形を行って架橋反応させて成形物を得る架橋成形工程ST2と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造やレーザー光彫刻にて印面が形成される合成樹脂製スタンプの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の鋳造又は彫刻スタンプは、明治22年に日本で初めて作られた記録があり、以来彫刻ゴム印が、一般に作られるようになった(特許文献1の段落0002)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−239046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在一般に使用されている鋳造ゴム印材は、燃焼時に多量の油煙および、環境汚染物質である硫黄酸化物(加硫剤)や窒素酸化物(加硫促進剤)が発生する。また、保存する場合は冷蔵保管する必要がある。さらに、レーザー光を用いて彫刻する際には、強い臭気が発生するなどの問題が指摘されている。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、燃焼させても油煙の量が少なく、硫黄酸化物や窒素酸化物が発生しないスタンプの製造方法を提供することである。また、常温室内保存でも問題なく使用でき、レーザー光彫刻に際しても強い臭気が発生しないスタンプの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材である熱可塑性樹脂と有機過酸化物からなる架橋剤を混合した成形材料を成形型に注入し、160〜190℃で5〜10分の直圧成型を行って、架橋反応させることにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基材で使用する熱可塑性樹脂が燃焼した場合に油煙の発生が従来のゴム印材と比較して大幅に少ない。また、従来のゴム印材に使用される加硫剤(硫黄)や、加硫促進剤(窒素化合物)を使用しないため、燃焼時に硫黄酸化物や窒素酸化物は発生しない。さらに、レーザー光を用いて彫刻しても強い臭気は発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態を適用したスタンプの製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態を適用したスタンプの製造方法について図面を参照しながら説明する。本例の鋳造又はレーザー光彫刻により印面が形成されるスタンプは、図1に示すように、熱可塑性樹脂と有機過酸化物からなる架橋剤とを混合して成形材料を得る混合分散工程ST1と、前記成形材料を成形型に注入し、160〜190℃で5〜10分の直圧成型を行って架橋反応を成立させる架橋成形工程ST2とを有する製造方法により得ることができる。
【0010】
《成形材料》
本例で用いられる熱可塑性樹脂は、有機過酸化物からなる架橋剤で架橋されるものが好ましい。
【0011】
このような架橋型ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリルアミド、ポリメチルビニルエーテル、ポリメチルビニルケトン、ポリブタジェン樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0012】
これらのなかで、混練加工温度が150℃以下であり、硬さがJIS K6253のタイプAデュロメーターで80ポイント以下のものが望ましい。これらの条件を満たす樹脂としては、エチレン酢酸ビニルコーポリマー、超低密度ポリエチレン、熱可塑性エラストマーに分類されるポリスチレン・ビニルイソプロピレントリブロック共重合体・ポリブタジェン樹脂が挙げられる。
【0013】
本例で用いられる架橋剤は、用いられる熱可塑性樹脂を架橋することがきる架橋剤であればよい。合成樹脂を架橋することができる架橋剤としては、ジアルキルパーオキサイド系、パーオキシケタール系、ヒドロペルオキシド系、ペルオキシエステル系、ジアルキルペルオキシド系などがあるが、成形材料を混練加工する段階で130〜150℃に加熱されるため、架橋分解温度が高い方が望ましい。
【0014】
ただし、分解温度が高すぎると架橋温度が高くなり、架橋時間も長くなるので好ましくない。一方で、架橋分解温度が低すぎると混練加工中に架橋剤の分解がはじまり、良好な成形物を得ることができない。したがって、最高混練温度が100℃以上であること、標準架橋温度が160〜190℃である架橋剤が望ましい。こうした架橋剤として、ジアルキルパーオキサイドの選択が望ましい。
【0015】
本例の成形材料には、熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂、架橋剤の他に、可塑剤、鉱物油、界面活性剤、顔料、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、老化防止剤などが必要に応じて使用することができる。こうした添加物は、樹脂成分100重量部に対して50重量部以下であることが望ましい。
【0016】
混合分散工程ST1で熱可塑性エラストマーと超低密度ポリエチレンを併用する場合は、熱可塑性エラストマー100重量部に対して、超低密度ポリエチレン10〜100重量部であることが望ましい。超低密度ポリエチレンが100重量部を超えると硬度が高くなり捺印性が悪くなる。
【0017】
熱可塑性樹脂100重量部に対する架橋剤の量は1〜5重量部、望ましくは0.5〜2重量部である。
【0018】
《混合分散工程》
本例の混合分散工程ST1では、上記の熱可塑性樹脂に架橋剤及び必要に応じて使用される添加材を配合し、均質に混合することにより成形材料が得られる。混合分散工程ST1では、オープンロール、加熱加圧ニーダー、インテシブミキサー、単軸押出機、2軸押出機、インターナルミキサー、コニーダー、2軸ローター付き連続混練機などが適宜使用される。
【0019】
《架橋成形工程》
本例の架橋成形工程ST2は、上記混合分散工程ST1で得られた成形材料を、印面の形状に対応した凹凸が形成されたキャビティを有する成形型に充填し、以下の条件で直圧成形(圧縮成形・コンプレッション成形・熱プレスとも云う)することで、架橋反応と印面の成形架橋ができる。
【0020】
架橋・成形する温度と時間は、熱可塑性樹脂組成物が、溶融軟化する温度であり、かつ架橋剤が分解して架橋物ができる、150〜190℃の範囲である。時間は、予熱・エヤー抜き・ガス抜きを含めて5〜10分である。架橋温度が150℃未満になると、架橋反応が充分成立しないため、気泡が発生したり、窪みが生じたり、成形型より離型し難くなったりして、良好な成形物が得られない。架橋・成形時間については、4分より短いと架橋反応が終了していない場合が発生して、良好な成形物が得られないことがある。また、架橋時間が10分より長くなると生産性が低くなりコスト高になる。
【0021】
なお、架橋成形工程ST2で用いられる成形型は、アルミニウムや鉄などの金属製成形型と、フェノール樹脂やエボナイトなどの合成樹脂製成形型のいずれでもよい。ただし、金属製成形型で銅やその合金である真鍮製の成形型は、銅が架橋反応を阻止するため、本例の使用には適していない点に留意するべきである。
【0022】
架橋成形工程ST2で用いられる直圧成形機は、ゴムの架橋に一般使用されている加熱式のプレス機で、加圧能力が10〜50トン程度のものであればよい。温度は200℃程度昇温できればよいが、温度制御は正確であることが必要とされる。
【0023】
架橋成形工程ST2での手順は、使用する成形型を成形温度まで予備加熱した後にペレット状の成形材料を成形型に均一に充填し、予熱・加圧・エヤー抜き・ガス抜きの順にトータル5〜10分加熱・加圧状態で成形する。成形物は、30〜60秒自然冷却後、成形型より取り出した方が安定した形状になる。
【0024】
なお、架橋成形工程ST2において主面が平坦な成形物を架橋成形し、この成形物の主面を、レーザー光を用いて印面の形状に対応した凹凸形状に彫刻加工してもよい。
【実施例】
【0025】
《実施例1》
熱可塑性エラストマー70部、超低密度ポリエチレン30部、架橋剤2部、赤色有機顔料0.025部をドラムタンブラーで10分混合して均一な混合物を得た。この混合物を2軸押出機で混練加工して、実施例1の成形材料を得た。
《実施例2》
熱可塑性エラストマー30部、超低密度ポリエチレン70部、架橋剤2部、赤色有機顔料0.025部を実施例1と同じ処理をして、実施例2の成形材料を得た。
《実施例−3》
エチレン酢酸ビニルコーポリマー(酢ビ41%)50部、エチレン酢酸ビニル(酢ビ28%)、架橋剤2部、赤色有機顔料0.025部を実施例1と同じ処理をして、実施例3の成形材料を得た。
【0026】
《評価用試料作製》
上記のようにして得られた実施例1,2,3の成形材料を次の条件で成形した。樹脂成形型を160℃まで予熱した後、成形材料50グラムを樹脂成形型の上に均一に置き、20秒予備加熱した後、加圧してエヤー抜きを4〜5回実施後、50kg/cmに加圧放置し、4分後ガス抜きを2回、5分後に直圧成形機より取り出した。そして、60秒自然冷却した後に樹脂成形型より取り出して成形物を得た。
【0027】
《捺印評価》
スタンプ台(シャチハタ社製の顔料系,黒 HGN−2)を使用して、実施例1,2,3で得たものを捺印評価した。成形物は、一見同じような成形物にみえるが、実施例2は実施例1,3に比べると相対的に劣る。これに対し、実施例1,3の捺印物は、きれいな転写ができていた。以下の評価は、実施例1,3のみを対象にする。
【0028】
《耐溶剤性》
本例で云う耐溶剤性とは、スタンプ台インキに使用されている溶剤に対しての評価である。スタンプ台として市販されているものの中で、非吸収面対応スタンプ台(金属・プラスチック・ガラス・皮革・布など)がこれに該当するものである。
【0029】
溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレグリコールモノプロピルエーテルなどグリコールエーテル類、エチレグリコール、プロピレングリコール、2メチル2,4ペンタンジオールなどジオール類、ポロピレングリコールモノリシリレートなどエステル類、メタノール、エタノール、IPA、ブタノール、3メトキシ1−ブタノールなどアルコール類である。
これらのうち、一般によく使用されている、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3メトキシ1ブタノールを選び、30日間常温浸漬して評価した結果、実施例1,3は、変化なく問題なく使用できた。
【0030】
《燃焼試験》
ゴム材と実施例1,3の燃焼時の油煙発生の多寡を目視比較した。両者とも油煙は発生するが、その量は、数倍ゴム材の方が多かった。ゴム材は、硫黄や窒素化合物を含むため、燃焼すると硫黄酸化物や窒素酸化物を発生して強い臭気が出る。これに対して本発明に係る実施例1,3は、素材に硫黄や窒素化合物を使用していないためその発生はなく、燃焼させても臭気は少ない。
【0031】
《保存性について》
実施例1,3の成形材料を室内・常温で6カ月放置した後、樹脂成形型に投入し、160℃×6分の条件で直圧成形機により架橋させたところ、良好な成形物を得た。
ゴム材は、冷蔵保存が求められるが、本発明に係る実施例1,3のものは、常温室内保存であればよい。
【0032】
《レーザー彫刻試験》
実施例1の成形材料を、厚さ3mm、たて・よこ100mmのアルミ製型枠に投入して、170℃×6分の条件で加圧成形した。得られた成形物にレーザー彫刻したところ良好な彫刻物を得た。
【符号の説明】
【0033】
ST1…混合分散工程
ST2…架橋成形工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタンプの基材となる熱可塑性樹脂組成物と有機過酸化物からなる架橋剤とを混合して成形材料を得る混合工程と、
前記成形材料を成形型に注入し、160〜190℃、5〜10分の直圧成形を行って架橋反応させて成形物を得る架橋成形工程と、を備える合成樹脂製スタンプの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の合成樹脂製スタンプの製造方法において、
前記架橋成形工程は、前記スタンプの印面に応じた凹凸が形成された成形型を用いて前記印面の成形加工が前記架橋反応と同時に行われる合成樹脂製スタンプの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の合成樹脂製スタンプの製造方法において、
前記架橋成形工程により得られた成形物の主面に、レーザー光を用いて印面を彫刻する彫刻工程をさらに備える合成樹脂製スタンプの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成樹脂製スタンプの製造方法において、
前記熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリルアミド、ポリメチルビニルエーテル、ポリメチルビニルケトン、熱可塑性エラストマー、ポリブタジェン樹脂からなる群より選ばれる一又は二以上の組成物であり、 前記架橋剤は、ジアルキルパーオキサイド系架橋剤、パーオキシケタール系架橋剤、ヒドロペルオキシド系架橋剤、ペルオキシエステル系架橋剤、ジアルキルペルオキシド系架橋剤からなる群より選ばれる一又は二以上の架橋剤である合成樹脂製スタンプの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の合成樹脂製スタンプの製造方法において、
前記熱可塑性樹脂組成物は、エチレン酢酸ビニル共重合体、超低密度ポリエチレン、ポリスチレン・ビニルイソプロピレントリブロック共重合体、ポリブタジェン樹脂からなる群より選ばれる一又は二以上の組成物であり、
前記架橋剤は、ジアルキルパーオキサイドである合成樹脂製スタンプの製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の合成樹脂製スタンプの製造方法において、
前記熱可塑性樹脂組成物は、超低密度ポリエチレン及び熱可塑性エラストマーであり、前記熱可塑性エラストマー100重量部に対して前記超低密度ポリエチレンが10〜100重量部である合成樹脂製スタンプの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−148478(P2012−148478A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8896(P2011−8896)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(501125013)
【出願人】(510047177)
【出願人】(510047188)
【Fターム(参考)】