説明

合成樹脂鏡およびその製造方法

【課題】金属反射膜が加熱成形により軟化した樹脂基板に追従しクラックや白化を起こさない金属光沢を有した合成樹脂鏡を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂基板1上に金属反射膜2および保護塗膜3がこの順に積層された合成樹脂鏡であって、金属反射膜がスズ13〜51質量%、インジウム87〜49質量%を含有する合金からなる合成樹脂鏡;並びに、金属反射膜2をスパッタリングまたは真空蒸着により形成する工程と、金属反射膜2上に保護塗膜3を形成する工程を有する前記合成樹脂鏡の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱成形が可能な合成樹脂鏡およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂板を用いた加熱成形品への金属反射膜の成膜は、加熱成形後にその表面または裏面に施されている。成膜方法として一般には、電解メッキ等の湿式メッキと真空蒸着法やスパッタリング法等の乾式メッキが用いられている。湿式メッキは、製造工程で扱う薬品の有害性や廃液処理等の制約がある。乾式メッキでは、深絞りされた形状の場合、蒸着源からの角度により成膜できない箇所が発生することや更に被成膜品のサイズが大きい場合は、真空チャンバーの容積に制約を受け生産性が悪化することがある。
【0003】
このような制約を改善するために、あらかじめ金属反射膜を成膜した合成樹脂板を加熱成形し従来と同等の金属光沢を得る材料が望まれていたが、従来の合成樹脂鏡における金属反射膜材料であるアルミニウム、クロム、ニッケル、銀またはそれらの合金は、加熱成形時における合成樹脂板の軟化に金属反射膜が追従できず、クラックや白化を起こす問題があった。
【0004】
これらの問題を克服するために、例えば特許文献1では金属反射膜の成膜材料にインジウム合金が好ましいとされている。
【0005】
特許文献1では、加熱成形可能な金属反射膜にインジウム合金が提案されているが、良好な成形性を得るためには主鎖にベンゼン環とシクロヘキサン環またはナフタレン環を持つポリエステル系高分子フィルムの併用が必要であるとされており、アクリルフィルムを樹脂基板へ用いた場合は立体成形には適していないことが記されている。一般に、主鎖にベンゼン環とシクロヘキサン環またはナフタレン環を持つポリエステル系高分子フィルムより耐熱性が低いアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を用いて良好な成形性を得る場合、成膜する材料には展延性が高くかつ融点が樹脂基板の加熱成型温度以下である金属にすることが望ましい。単一金属または合金が使用できるが融点を制御する必要がある場合は、合金を使用すればよい。樹脂基板の加熱成型温度と融点が適切でない金属または合金を成膜した場合、加熱成形時における樹脂基板の軟化へ金属反射膜が追従できず金属反射膜がクラックや白化を起こし金属光沢を損なう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−370311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アクリル樹脂基板上へ加熱成形温度以下の融点を有し、スズおよびインジウムを特定組成で含有する合金を成膜することで金属反射膜が加熱成形により軟化した樹脂基板に追従しクラックや白化を起こさない金属光沢を有した合成樹脂鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アクリル樹脂基板上に金属反射膜および保護塗膜がこの順に積層された合成樹脂鏡であって、金属反射膜がスズ13〜51質量%、インジウム87〜49質量%を含有する合金からなる合成樹脂鏡である。
【0009】
また本発明は、金属反射膜をスパッタリングまたは真空蒸着により形成する工程と、前記金属反射膜上に保護塗膜を形成する工程を有する前記合成樹脂鏡の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アクリル樹脂基板上へ加熱成形温度以下の融点を有した合金を成膜することで金属反射膜が加熱成形により軟化した樹脂基板に追従し、クラックや白化を起こさない金属光沢を有した合成樹脂鏡が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を示す概略構成図である。
【図2】示差走査熱量測定装置により合金の融点を測定した例(実施例1の測定チャート)である。
【図3】成形性試験3で用いる型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いる合成樹脂基板は、アクリル樹脂基板である。加熱成形温度が140℃から170℃のアクリル樹脂を用いることが好ましい。前記基板の厚みは0.5〜5mmの範囲が好ましい。また透明であれば着色してもよい。前記基板の製造方法は連続キャスト法、セルキャスト法、押し出し法等の公知の方法が適用でき特に限定されない。
【0013】
前記合成樹脂基板上に形成する金属反射膜は、融点制御と展延性及び環境性の点からスズ(Sn)とインジウム(In)を使用する。Snの含有率が13〜51質量%、Inの含有率が87〜49質量%の範囲にある。Snの含有率が16質量%以上であることが好ましく、48質量%以下であることが好ましい。またInの含有率が52質量%以上であることが好ましく、84質量%以下であることが好ましい。金属反射膜2中のSnとInの含有率がこの範囲にある場合は金属反射膜2の融点を約120〜140℃にすることが出来る。これにより加熱成形温度が140℃から170℃の場合、合成樹脂基板上へ加熱成形温度以下の融点を有した合金を成膜することで金属反射膜が加熱成形により軟化した樹脂基板に追従しクラックや白化を起こさない金属光沢を有した合成樹脂鏡を得ることができる。
【0014】
金属反射膜にSnとInを単体で用いる場合はそれらの融点が決まっているためSnとInの合金化により加熱成形温度の下限140℃以下の融点を持つ金属反射膜を得る必要がある。また融点のピークを複数もつSnとInの構成比率は加熱成形時に金属反射膜のクラックや白化を起こしやすく不安定であるためSnとInの構成比率は融点のピークが単一で且つ140℃以下とする必要がある。これにより十分な金属光沢を有する膜厚であっても加熱成形時にクラックや白化を起こさない金属反射膜を得ることが出来る。SnとIn以外にもビスマス、亜鉛、鉛、カドミウム、アンチモン等の低融点金属と呼ばれる金属元素を合金化しても融点の制御は可能であるが、展延性あるいは有害性の点で好ましくない。なお、金属反射膜の光線透過率は、通常5〜30%程度である。
【0015】
保護塗膜は樹脂基板の加熱成形時に追従するものであれば特に限定しないが、例えばアクリル系、ウレタン系等の塗料が挙げられる。その塗布方法は、スプレー法、フローコーター法等の公知の技術・方法により行うことができる。塗布後、加熱または光照射により塗膜を硬化させることができる。硬化後の保護塗膜の厚みは、防食の観点から10μm以上であることが好ましく、また密着性の観点から30μm以下であることが好ましい。
【0016】
SnとInを含んだ金属反射膜を得るための方法としては、スパッタリング法と真空蒸着法が好ましい。スパッタリング法の場合はSnとInの合金をターゲット材として各々作成し単元カソードのスパッタリング装置で成膜させる方法のほか、2元カソードによるスパッタリング装置を用いてSnとInの個別のターゲットからの同時成膜でも可能である。真空蒸着法の場合はSnとInの合金を使用、あるいはSnとInの別々の蒸着材料を各々同一のタングステンボートにセットし同一の蒸着源として使用することができるが、合金を用いる方が好ましい。
【0017】
以下に図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。
【0018】
本実施形態の合成樹脂鏡は、アクリル樹脂基板1の一方の主面(図1中、上面)に、SnとInからなる金属反射膜2および保護塗膜3がアクリル樹脂基板1側からこの順に積層されてなる。
【0019】
半透過鏡として用いる場合は金属反射膜2の膜厚または反射率によって光線透過率を制御する点から、合成樹脂基板として、透明性を持ったアクリル、ポリスチレン、MS樹脂、ポリカーボネート等の透明樹脂基板が挙げられるが、本発明ではアクリル樹脂基板が使用できる。透明樹脂基板の厚みは0.5〜5mmが好ましいが特に限定されない。
【実施例】
【0020】
本発明について実施例と比較例を挙げて更に説明する。
【0021】
(合金の融点)
所定の組成で合金を調整したものを試料として、その合金の融点を示差走査熱量測定装置(セイコーインスツルメンツ(株)製 DSC6200)を用いて測定した。この測定では図2に示すようなチャートが得られ、そのピークが示す温度を融点とした(小数点第2位以下四捨五入)。
【0022】
(真空蒸着)
真空蒸着装置((株)アルバック製EBX−10D)により樹脂基板上に真空蒸着した。上記真空蒸着の条件を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
(合金の組成)
形成した金属反射膜中のスズとインジウムの組成(質量比)は、光電子分光分析法による質量分析を行って決定した。高真空状態にした光電子分光装置((株)島津製作所製 AXIS ULTRA)の試料室内に上記スズとインジウムの合金膜が表面に形成されたアクリル板を10mm角に切断した試料をおき、その金属反射膜表面にX線を照射し、光電効果により表面から放出される光電子を利用し表面の金属反射膜の元素分析を行い、質量比を算出した(小数点第1位以下四捨五入)。
【0025】
(金属反射膜の光線透過率)
光線透過率の測定は、デンシトメーター(コニカミノルタ製 PDA100)を用い、次式:
吸光度=−log10(透過率)
に従って、光学濃度(吸光度)から透過率(出射光強度/入射光強度)を求めた。
【0026】
(実施例1)
厚さ2mmのアクリル板((株)クラレ製 コモグラス CG−001)を用意しこのアクリル板上に鏡として十分な金属光沢が得られるように光線透過率を約7%となるようにスズ24mgとインジウム126mgを蒸着材料として用いてスズ−インジウム合金からなる金属反射膜を形成した。金属反射膜は質量比Sn:Inが16:84となり、融点139.5℃の単一ピークを得た。
【0027】
次にこの合金膜上にアクリル系透明塗料(三菱レイヨン(株)製 商品名LR902)をスプレーコート法により、乾燥膜厚が約20μmとなるように塗布しその後60℃に設定した乾燥炉で1時間乾燥し、本実施例の合成樹脂鏡を得た。
【0028】
(実施例2)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=17:83とした。
【0029】
(実施例3)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=18:82とした。
【0030】
(実施例4)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=19:81とした。
【0031】
(実施例5)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=30:70とした。
【0032】
(実施例6)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=40:60とした。
【0033】
(実施例7)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=47:53とした。
【0034】
(実施例8)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=48:52とした。
【0035】
(実施例9)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=49:51とした。融点120.5℃のピークが1つであったが120〜140℃の箇所に歪みがあった。
【0036】
(実施例10)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=50:50とした。融点120.3℃のピークが1つであったが120〜140℃の箇所に歪みがあった。
(実施例11)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=15:85とした。
【0037】
(比較例1)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=52:48とした。融点120.3℃のピークが1つであったが120〜140℃の箇所に歪みがあった。
【0038】
(比較例2)
スズとインジウムの量を変えたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。スズ:インジウム=12:88とした。
【0039】
(比較例3)
金属反射膜をインジウムのみとしたこと以外は実施例1と同様にして合成樹脂鏡を作成した。
【0040】
上記の合成樹脂鏡のそれぞれについて以下の試験を行い、それら結果を表2に示す。
【0041】
(成形性試験1)
実施例と比較例で得た試料を140℃に予め温度を設定した恒温槽内に6分間放置し金属反射膜の状態を確認した。
【0042】
(成形性試験2)
実施例と比較例で得た試料を140℃に予め温度を設定した恒温槽内に10分間放置し金属反射膜の状態を確認した。
【0043】
(成形性試験3)
実施例と比較例で得た試料表面の温度が130〜140℃になるように成形装置のヒーター設定温度を300℃、加熱時間70〜80秒と調節し、図3に示すように大きさの異なる直方体を重ねた形状の内部空間を有する型を用いて真空成型を行い金属反射膜の状態を確認した。
【0044】
(評価基準)
下記を金属反射膜の状態を示す基準とした。
◎:鏡として使用可能な金属光沢を有しておりクラックも白化も全く起こしていない。
○:鏡として使用可能な金属光沢を有しているが部分的且つ僅かにクラックまたは白化を起こしている。
△:鏡として使用可能な金属光沢を有しているが部分的にクラックまたは白化を起こしている。
×:鏡として使用可能な金属光沢を有しておらず全体的にクラックまたは白化を起こしている。
【0045】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、加熱成形が可能な合成樹脂鏡として、広く適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 アクリル樹脂基板
2 金属反射膜
3 保護塗膜
4 一辺175mm
5 一辺115mm
6 深さ20mm
7 深さ20mm

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂基板上に金属反射膜および保護塗膜がこの順に積層された合成樹脂鏡であって、金属反射膜がスズ13〜51質量%、インジウム87〜49質量%を含有する合金からなる合成樹脂鏡。
【請求項2】
金属反射膜をスパッタリングまたは真空蒸着により形成する工程と、前記金属反射膜上に保護塗膜を形成する工程を有する請求項1に記載の合成樹脂鏡の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171175(P2012−171175A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34632(P2011−34632)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(390025313)株式会社菱晃 (12)
【Fターム(参考)】