説明

含フッ素シルセスキオキサン重合体を用いた表面処理剤

【課題】 撥水撥油性、防汚性、耐熱性、耐候性および耐磨耗性に優れた表面処理剤を提供する。
【解決手段】 (A)重合性基を含有する含フッ素シルセスキオキサン単量体(a)から誘導された構成単位を有して成る含フッ素重合体を含んでなる表面処理剤を提供する。含フッ素重合体は、構成単位(A)に加えて、(B)フッ素原子を含まない単量体(b)から誘導された構成単位、および(C)必要により存在する、架橋性単量体(c)から誘導された構成単位、を有して成ることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性、撥水撥油性の表面処理剤に関する。より詳細には繊維製品や石材、静電フィルター、防塵マスク、燃料電池の部品、金属、セラミックス、石英ガラス、ガラス、シリコン、木材、紙、汎用樹脂に、優れた撥水性、撥油性、防汚性、耐熱性、耐候性および耐磨耗性を付与する含フッ素シルセスキオキサン重合体、その製造方法及びそれを用いた処理に関する。
さらに本発明は、より低い誘電性を有し、および半導体層間絶縁膜、難燃化剤、半導体用封止剤として使用する場合に必要な機械的特性、熱安定性、耐候性などの特性を向上し得る含フッ素シルセスキオキサン重合体およびその製造方法に関する。
したがって本発明の重合体は繊維の撥水撥油剤、カーペットの防汚加工剤、プラスチックフィルムのハードコート剤、床剤の防汚加工剤、石材の防汚加工剤、反射防止膜、高反射膜、表示素子の保護膜、光学用接着剤、プリンターヘッドインク撥水性膜、難燃化剤、半導体用封止剤、半導体用絶縁膜に好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、含ケイ素系材料による各種基剤表面の改質、具体的にはシリコーン化合物の塗布による撥水防汚性機能の付与は幅広く検討されてきた。この中で最近、シルセスキオキサンと呼ばれる含ケイ素材料は、従来の有機ケイ素材料とは異なる特異なサイズ、形状を有しているためその特性を生かした新規な表面改質や重合体改質技術の検討がなされている。
シルセスキオキサンの構造的な特徴は、1)-SiO-ユニットからなる立方体の無機骨格、および2)立方体の無機骨格を形成する8個のケイ素原子にそれぞれ有機基(有機基は反応性基や重合性基等である。)が結合していることである。当該有機基を選択、設計することにより各種基材との親和性を向上させたり、各種高分子材料との親和性や反応性を付与し、難燃性や絶縁性等の機能を付与することが可能となる。
【0003】
このためシルセスキオキサンは有機構造と無機構造が分子レベルで複合化した3次元構造の新タイプの機能材料として検討がなされている。具体的にはJ.F.Brown.らがモノアルキルトリクロロシランよりシルセスキオキサンが得られることを見出した(J.F.Brown. J.Am.Chem.Soc. 87,4313(1965).)。
この方法は反応時間が長く実用性に欠けていたが、その後、F.J.Feher やJ.D.Lichtenhan らが改良合成を検討しシルセスキオキサンの立方体の一角のケイ素がはずれた構造をとるトリシラノールにビニル基やエポキシ基、アクリレート基などの各種重合性置換基を導入する検討をおこなった。
F.J.Feher Am.Chem.Soc. 111,1741(1989).
F.J.Feher Am.Chem.Soc. 112,1931(1990).
F.J.Feher Organometallics 10,2526(1991).
J.D.Lichtenhan Macromolecules 28,8435(1995).
J.D.Lichehan Appl.Organometal.Chem.12,707-713(1998).
【0004】
しかしながら上記検討はケイ素に炭化水素系有機化合物を導入するものであり、表面処理剤等に要求される撥水性、撥油製性、防汚性等の機能は十分でないものであった。さらに半導体層間絶縁膜、難燃化剤、半導体用封止剤等に要求される機械的特性、熱安定性、耐候性、低誘電性等の機能も十分でないものであった。
【0005】
一方、上記欠点を解決する手段としてMichael J. Owenらは有機基としてフルオロアルキル基のシルセスキオキサンへの導入を検討している(Michael J. Owen, Macromol.Symp.82,115(1994).)しかしながらこの化合物は重合性基を含有していないため重合体とならないため強靭な塗膜とならず、上記技術分野において耐久性を有しないといった欠点があった。
【0006】
特開平5−86193号公報にはアクリル官能性メチルフルオロアルキルシルセスキシロサン化合物、特開平5−230215号公報にはフッ素素含有ポリオルガノシルセスキオキサンとその製造方法について開示されている。しかし、これらシロキサン化合物は、ラダー型のものであり、立方体状のシルセスキオキサンと異なり、架橋反応が進行するため溶解性に問題がある。
【0007】
最近、Federal Register(FR Vol.68,No.73/April 16,2003[FRL-2303-8])
(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafr.pdf)や
EPA Environmental News FOR RELEASE: MONDAY APRIL 14, 2003
EPA INTENSIFIES SCIENTIFIC INVESTIGATION OF A CHEMICAL PROCESSING AID
(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoaprs.pdf)や
EPA OPPT FACT SHEET April 14, 2003(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafacts.pdf)は、「テロマー」が分解または代謝によりPFOAを生成する可能性があると公表している。また、「テロマー」が、泡消火剤;ケア製品と洗浄製品;カーペット、テキスタイル、紙、皮革に設けられている撥水撥油被覆および防汚加工被覆を含めた多くの製品に使用されていることをも公表している。
【0008】
さらに最近の研究結果(EPAレポート"PRELIMINARY RISK ASSESSMENT OF THE DEVELOPMENTAL TOXICITY ASSOCIATED WITH EXPOSURE TO PERFLUOROOCTANOIC ACID AND ITS SALTS" (http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoara.pdf))などから、PFOA(perfluorooctanoic acid)に対する環境への負荷の懸念が明らかとなってきており、2003年4月14日EPA(米国環境保護庁)がPFOAに対する科学的調査を強化すると発表した。
またこれまでの表面処理剤(特に、撥水撥油剤)に関する種々の研究結果より繊維への実用処理では、その表面特性として、静的な接触角ではなく、動的接触角、特に後退接触角が重要であることが明らかとなっている。前進接触角はフルオロアルキル基の側鎖炭素数に依存しないが、水の後退接触角は、側鎖の炭素数8以上に比較して7以下では著しく小さくなることを示している。
【0009】
これと対応してX線解析は、側鎖の炭素数が7以上では側鎖の結晶化が起こることを示している。実用的な撥水性が側鎖の結晶性と相関関係を有していること、および表面処理剤分子の運動性が実用性能発現の重要な要因であることが知られている(例えば、前川隆茂、ファインケミカル、Vol23,No.6,P12(1994))。
したがって、側鎖の炭素数が7以下(特に、6以下)と短いフルオロアルキル基をもつアクリレート系重合体では側鎖の結晶性が低いため実用性能(特に撥水性)を満足しない問題がある。これは撥水撥油剤としての実用性能を得るためには上記EPA OPPT FACT SHEETに記載されているところの「テロマー」が必要であることを意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−86193号公報
【特許文献2】特開平5−230215号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】F.J.Feher Am.Chem.Soc. 111,1741(1989).
【非特許文献2】F.J.Feher Am.Chem.Soc. 112,1931(1990).
【非特許文献3】F.J.Feher Organometallics 10,2526(1991).
【非特許文献4】J.D.Lichtenhan Macromolecules 28,8435(1995).
【非特許文献5】J.D.Lichehan Appl.Organometal.Chem.12,707-713(1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような状況を背景としてなされたものであって、その目的は、撥水撥油性、防汚性、耐熱性、耐候性および耐磨耗性に優れた表面処理剤を提供することにある。
本発明の他の目的は低誘電性、絶縁性、難燃性に優れた難燃化剤、半導体用封止剤、半導体用絶縁膜などを提供することにある。
また別の目的は、フッ素部分の化合物の構造において上記「テロマー」とは異なる化学骨格構造をもつ代替化合物を提供することにある。具体的にはフルオロアルキル基の炭素数6以下であっても、優れた撥水性、撥油性、防汚性を有する含フッ素シルセスキオキサン重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
重合性基を持つ含フッ素シルセスキオキサンモノマーからなる含フッ素重合体を提供することにある。具体的には
(A)重合性基を含有する含フッ素シルセスキオキサン単量体から誘導された構成単位
を有して成る含フッ素重合体を提供する。
本発明は、(1)溶液重合法により、重合開始剤の存在下で、単量体を有機溶剤に溶解させ、加熱撹拌して重合することからなる、あるいは、(2)乳化重合法により、重合開始剤および乳化剤の存在下で、単量体を水中に乳化させ、撹拌して重合することからなる、前記含フッ素重合体の製造方法を提供する。
加えて、本発明は、前記含フッ素重合体を含んでなる表面処理剤を提供する。
さらに、本発明は、前記含フッ素重合体を含んでなる難燃化剤、半導体用封止剤および半導体用絶縁膜を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、撥水撥油性、防汚性、耐熱性、耐候性および耐磨耗性に優れた表面処理剤、ならびに低誘電性、絶縁性、難燃性に優れた難燃化剤、半導体用封止剤および半導体用絶縁膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
含フッ素重合体が、構成単位(A)に加えて、
(B)フッ素原子を含まない単量体から誘導された構成単位、および
(C)必要により存在する、架橋性単量体から誘導された構成単位
を有してよい。
含フッ素重合体は、構成単位(A)のみからなる単独重合体、または他の構成単位(例えば、構成単位(B)および(C))をも有する共重合体である。
【0016】
構成単位(A)は、(a)含フッ素シルセスキオキサン単量体から構成される。含フッ素シルセスキオキサン単量体(a)の重合性基が炭素-炭素二重結合であってよい。含フッ素シルセスキオキサン単量体(a)において、重合性基の数は、1〜6、例えば、1〜5、特に1、2または3であってよい。
構成単位(A)は、フルオロアルキル基またはフルオロエーテル基を有する。構成単位(A)におけるフルオロアルキル基およびフルオロエーテル基の数は、1〜7、例えば1〜5、特に1〜4であってよい。
【0017】
含フッ素シルセスキオキサン単量体(a)は、(i)含フッ素不完全縮合シルセスキオキサンと(ii)重合性官能基をもつ反応性シランとを反応することによって得られる。
含フッ素不完全縮合シルセスキオキサン(i)は、フルオロアルキル基またはフルオロエーテル基を有する不完全縮合シルセスキオキサンであってよい。
【0018】
フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。フルオロアルキル基の炭素数は、1〜6、特に1〜4であってよい。フルオロアルキル基の例は、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2CF3、−CF(CF3) 2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF)3、−(CF2)4CF3、−(CF2)2CF(CF3)2、−CF2C(CF3)3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3)2、−(CF2)4CF(CF3)2、−(CF2)7CF3、−(CF2)5CF(CF3)2、−(CF2)6CF(CF3)2、−(CF2)9CF3等である。
フルオロエーテル基は、パーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。フルオロエーテル基の例は、
F(CFCFCFO)CFCF−、
F(CF(CF)CFO)CF(CF)−
[式中、aの平均値は2〜100、特に5〜50、例えば25である]等である。
【0019】
含フッ素不完全縮合シルセスキオキサン(i)の例は、
一般式:
[R-Si(OH)O2/2]l[R'-SiO3/2]m
[式中、それぞれのRおよびR'は、独立的に、Rf、Rf-A、アルキル基(炭素数1〜10)、または、アルキル基(炭素数1〜10)の誘導体を表し(ただし、RおよびR'の少なくとも1つはRf またはRf-Aである。)(ここでRfはフルオロアルキル基を表し、Aは、炭素数1〜4のアルキレン基、−SON(R21)R22−基(但し、R21は炭素数1〜4のアルキル基、R22は炭素数1〜4のアルキレン基である)または−CHCH(OH)CH−基である。)、
lおよびmは、1以上(例えば2以上)の数であり、不完全縮合シルセスキオキサンの分子量が500〜100000となるような数である。]
で示されるものである。
アルキル基の誘導体の例は、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2CF3、−CF(CF3)2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF)3、−(CF2)4CF3、−(CF2)2CF(CF3)2、−CF2C(CF3)3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3)2、−(CF2)4CF(CF3)2、−(CF2)7CF3、−(CF2)5CF(CF3)2、−(CF2)6CF(CF3)2、−(CF2)9CF3等である。
【0020】
シルセスキオキサンはPOSS(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxane)とも呼ばれる。
不完全縮合シルセスキオキサン(i)のシラノール基は反応性が高く、一般に、分子中に1〜3個存在する。
【0021】
不完全縮合シルセスキオキサンの具体例は、例えば次のもの(構造式I)などである。
【化1】

(構造式I)
【0022】
重合性官能基をもつ反応性シラン(ii)は、重合性官能基および反応性基を有する。反応性シラン(ii)において、重合性官能基の例は、(メタ)アクリル基、アルファ置換アクリル基、エポキシ基、ビニル基などである。反応性シラン(ii)において、反応性基の例は、トリクロロシリル基およびトリアルコキシシリル基(アルコキシ基の炭素数は1〜5である。)である。
【0023】
反応性シラン(ii)は、例えば、一般式:
A11−A21−Si(A31)3
[式中、A11は、重合性官能基であり、
A21は、直接結合または炭素数1〜20(例えば、1〜10)のアルキル基であり、
A31は、ハロゲン原子(例えば、塩素原子および臭素原子)またはアルコキシ基(アルコキシ基の炭素数は1〜5である。)である。]
で示される化合物である。
【0024】
含フッ素シルセスキオキサン単量体(a)の例は、次のとおりである。
【化2】

【0025】
構成単位(B)は、フッ素原子を含まない単量体(b)によって誘導される。単量体(b)は、フッ素を含有せず、炭素-炭素二重結合を有する単量体であることが好ましい。単量体(b)は、フッ素を含有しないビニル性単量体であることが好ましい。フッ素原子を含まない単量体(b)は、一般に、1つの炭素-炭素二重結合を有する化合物である。フッ素原子を含まない単量体(b)として好ましい単量体としては、例えば、エチレン、酢酸ビニル、ハロゲン化ビニル(例えば、塩化ビニル)、ハロゲン化ビニリデン(例えば、塩化ビニリデン)、アクリロニトリル、スチレン、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ビニルアルキルエーテル、イソプレンなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
フッ素原子を含まない単量体(b)は、アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルであってよい。アルキル基の炭素数は、1〜30、例えば、6〜30、例示すれば、10〜30であってよい。例えば、フッ素原子を含まない単量体(b)は一般式:
CH=CACOOA
[式中、Aは水素原子またはメチル基、AはC2n+1(n=1〜30)で示されるアルキル基である。]
で示されるアクリレート類であってよい。
【0027】
構成単位(C)は、架橋性単量体(c)によって誘導される。架橋性単量体(c)は、少なくとも2つの反応性基および/または炭素−炭素二重結合を有し、フッ素を含有しない化合物であってよい。架橋性単量体(c)は、少なくとも2つの炭素−炭素二重結合を有する化合物、あるいは少なくとも1つの炭素−炭素二重結合および少なくとも1つの反応性基を有する化合物であってよい。反応性基の例は、ヒドロキシル基、エポキシ基、クロロメチル基、ブロックドイソシアネート、アミノ基、カルボキシル基、などである。
【0028】
架橋性単量体(c)としては、例えば、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブタジエン、クロロプレン、グリシジル(メタ)アクリレートなどが例示されるが、これらに限定されるものでない。
【0029】
単量体(b)および/または単量体(c)を共重合させることにより、撥水撥油性や防汚性およびこれらの性能の耐クリーニング性、耐洗濯性、溶剤への溶解性、硬さ、感触などの種々の性質を必要に応じて改善することができる。
【0030】
含フッ素重合体が共重合体である場合、含フッ素シルセスキオキサン単量体(a)100重量部に対して、フッ素原子を含まない単量体(b)の量が0.1〜100重量部、例えば0.1〜50重量部であり、架橋性単量体(c)の量が50重量部以下、例えば20重量部以下、特に0.1〜15重量部であってよい。
【0031】
含フッ素シルセスキオキサン重合体は以下のようにして製造することができる。溶液重合では、重合開始剤の存在下で、単量体を有機溶剤に溶解させ、窒素置換後、30〜120℃の範囲で1〜10時間、加熱撹拌する方法が採用される。重合開始剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどが挙げられる。重合開始剤は単量体100重量部に対して、0.01〜20重量部、例えば0.01〜10重量部の範囲で用いられる。
【0032】
有機溶剤としては、単量体に不活性でこれらを溶解するものであり、例えば、アセトン、クロロホルム、HCHC225、イソプロピルアルコール、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、テトラクロロジフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタンなどが挙げられる。有機溶剤は単量体の合計100重量部に対して、50〜2000重量部、例えば、50〜1000重量部の範囲で用いられる。
【0033】
乳化重合では、重合開始剤および乳化剤の存在下で、単量体を水中に乳化させ、窒素置換後、50〜80℃の範囲で1〜10時間、撹拌して重合させる方法が採用される。重合開始剤は、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルパーベンゾエート、1−ヒドロキシシクロヘキシルヒドロ過酸化物、3−カルボキシプロピオニル過酸化物、過酸化アセチル、アゾビスイソブチルアミジン−二塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性のものやアゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどの油溶性のものが用いられる。重合開始剤は単量体100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲で用いられる。
【0034】
放置安定性の優れた重合体水分散液を得るためには、高圧ホモジナイザーや超音波ホモジナイザーのような強力な破砕エネルギーを付与できる乳化装置を用いて、単量体を水中に微粒子化し、油溶性重合開始剤を用いて重合することが望ましい。また、乳化剤としてはアニオン性、カチオン性あるいはノニオン性の各種乳化剤を用いることができ、単量体100重量部に対して、0.5〜20重量部の範囲で用いられる。アニオン性および/またはノニオン性および/またはカチオン性の乳化剤を使用することが好ましい。単量体が完全に相溶しない場合は、これら単量体に充分に相溶させるような相溶化剤、例えば、水溶性有機溶剤や低分子量の単量体を添加することが好ましい。相溶化剤の添加により、乳化性および共重合性を向上させることが可能である。
【0035】
水溶性有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エタノールなどが挙げられ、水100重量部に対して、1〜50重量部、例えば10〜40重量部の範囲で用いてよい。また、低分子量の単量体としては、メチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートなどが挙げられ、単量体の総量100重量部に対して、1〜50重量部、例えば10〜40重量部の範囲で用いてよい。
【0036】
含フッ素シルセスキオキサン重合体は、表面処理剤として使用することができる。
本発明の表面処理剤は、溶液、エマルションまたはエアゾールの形態であることが好ましい。表面処理剤は、含フッ素重合体および媒体(例えば、有機溶媒および水などの液状媒体)を含んでなる。表面処理剤において、含フッ素シルセスキオキサン重合体の濃度は、例えば、0.01〜50重量%であってよい。
【0037】
本発明の表面処理剤は、従来既知の方法により被処理物に適用することができる。通常、該表面処理剤を有機溶剤または水に分散して希釈して、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布などのような既知の方法により、被処理物の表面に付着させ、乾燥する方法が採られる。また、必要ならば、適当な架橋剤と共に適用し、キュアリングを行ってもよい。さらに、本発明の表面処理剤に他の表面処理剤(例えば、撥水剤や撥油剤)あるいは、防虫剤、柔軟剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、塗料定着剤、防シワ剤などを添加して併用することも可能である。浸漬塗布の場合、浸漬液における含フッ素重合体の濃度は0.05〜10重量%であってよい。スプレー塗布の場合、処理液における含フッ素重合体の濃度は0.1〜5重量%であってよい。ステインブロッカーを併用してもよい。ステインブロッカーを使用する場合には、アニオン性またはノニオン性乳化剤を使用することが好ましい。
【0038】
本発明の表面処理剤(例えば、撥水撥油剤)で処理される被処理物としては、繊維製品、石材、フィルター(例えば、静電フィルター)、防塵マスク、燃料電池の部品(例えば、ガス拡散電極およびガス拡散支持体)、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面、およびプラスターなどを挙げることができる。繊維製品は、特にカーペットであってよい。繊維製品としては種々の例を挙げることができる。例えば、綿、麻、羊毛、絹などの動植物性天然繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維などの無機繊維、あるいはこれらの混合繊維が挙げられる。本発明の加工剤は、洗剤溶液、ブラッシング(機械的)に対する抵抗性に優れるので、ナイロン、ポリプロピレンのカーペットに対して好適に使用できる。
【0039】
繊維製品は、繊維、布等の形態のいずれであってもよい。本発明の表面処理剤でカーペットを処理する場合に、繊維または糸を表面処理剤で処理した後にカーペットを形成してもよいし、あるいは形成されたカーペットを表面処理剤で処理してもよい。
【実施例】
【0040】
本発明の実施例について具体的に説明するが、実施例が本発明を限定するものではない。
【0041】
撥水性試験
撥剤処理済カーペットを温度21℃、湿度65%の恒温恒湿機に4時間以上保管する。試験液(イソプロピルアルコール(IPA)、水、及びその混合液 表1に示す)も温度21℃で保存したものを使用する。試験は温度21℃、湿度65%の恒温恒湿室で行う。試験液をカーペット上にマイクロピペッターで各50μlずつ5滴を静かに滴下し、10秒間放置後、液滴がカーペット上に4滴または5滴残っていれば、その試験液をパスしたものとする。撥水性は、パスした試験液のイソプロピルアルコール(IPA)含量(体積%)の最大なものをその点数とし、撥水性不良なものから良好なレベルまでFail、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10の12段階で評価する。
【0042】
【表1】

【0043】
撥油性試験
撥剤処理済カーペットを温度21℃、湿度65%の恒温恒湿機に4時間以上保管する。試験液(表2に示す)も温度21℃で保存したものを使用する。試験は温度21℃、湿度65%の恒温恒湿室で行う。試験液をカーペット上にマイクロピペッターで各50μlずつ5滴を静かに滴下し、30秒間放置後、液滴がカーペット上に4滴または5滴残っていれば、その試験液をパスしたものとする。撥油性は、パスした試験液の最高点数とし、撥油性不良なものから良好なレベルまでFail、1、2、3、4、5、6、7、及び8の9段階で評価する。
【0044】
【表2】


【0045】
防汚性試験
AATCC Test Method 123-1989 に準じて行った。防汚性の評価は、変退色用グレースケールを用いて防汚性試験前のカーペット試料と比較し、変退色の著しいものから全く変退色のないレベルまで1、1-2、2、2-3、3、3-4、4、4-5及び5の9段階で評価する。
【0046】
以下のように、モノマーを合成した。
製造例1
3F-シルセスキオキサントリオールの製造
充分に乾燥した3L-4つ口フラスコに2.6M水酸化ナトリウム水溶液(0.3L)、テトラヒドロフラン(0.5L) を仕込んだ。この混合溶液を攪拌しながら内温64℃まで昇温し、還流条件下3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシラン(50g,0.216mol))/テトラヒドロフラン(0.5L)溶液を約1時間かけて滴下した。滴下終了後10時間加熱還流し、室温まで冷却した。その後ロータリーエバポレーターによるテトラヒドロフランの留去により析出した粘性物質を濾過で取り出し、減圧条件下で乾燥することにより水を除去した。得られた物質に更にテトラヒドロフランを加え、析出した沈殿物を濾過により除去し、濾液を濃縮、乾燥することで白色固体を得た。得られた白色固体とテトラヒドロフラン(0.6L)、35%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド溶液(40g)を3L-4つ口フラスコに仕込み、この混合溶液を攪拌しながら内温64℃まで昇温し、4時間加熱還流した。還流終了後室温まで冷却し、ロータリーエバポレーターによりテトラヒドロフランを留去した後パーフルオロイソヘキサンを加えた。この溶液に0.1N塩酸を加え中和することにより析出してきた白色沈殿を濾過により取り出した。得られた白色沈殿をパーフルオロイソヘキサン中で再結晶することにより白色結晶(20g,収率60%)を得た。白色結晶の同定は1H-NMR、13C-NMR、29Si-NMR、19F-NMR、IR、及びGPCにより行った。
得られた白色結晶である3F-シルセスキオキサントリオールの化学式は次のとおりである。
【0047】
【化3】

【0048】
製造例2
9F-シルセスキオキサントリオールの製造
充分に乾燥した3L-4つ口フラスコに1.4M水酸化ナトリウム水溶液(0.3L)、テトラヒドロフラン(0.5L)を仕込んだ。この混合溶液を攪拌しながら内温64℃まで昇温し、還流条件下3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン(42g,0.11mol)/テトラヒドロフラン(0.5L)溶液を約1時間かけて滴下した。滴下終了後10時間加熱還流し、室温まで冷却した。その後ロータリーエバポレーターによるテトラヒドロフランの留去により析出した粘性物質を濾過で取り出し、減圧条件下で乾燥することにより水を除去した。得られた物質に更にテトラヒドロフランを加え、析出した沈殿物を濾過により除去し、濾液を濃縮、乾燥することにより白色固体が得られた。得られた白色固体とテトラヒドロフラン(0.6L)、35%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド溶液(30g)を3L-4つ口フラスコに仕込み、この混合溶液を攪拌しながら内温64℃まで昇温し、4時間加熱還流した。還流終了後室温まで冷却し、ロータリーエバポレーターによりテトラヒドロフランを留去した後パーフルオロイソヘキサンを加えた。この溶液に0.1N塩酸を加え中和することにより析出してきた白色沈殿を濾過により取り出した。得られた白色沈殿をパーフルオロイソヘキサン中で再結晶することにより白色結晶(20g,収率59%)を得た。白色結晶の同定は1H-NMR、13C-NMR、29Si-NMR、19F-NMR、IR、及びGPCにより行った。
得られた白色結晶である9F-シルセスキオキサントリオールの化学式は次のとおりである。
【0049】
【化4】

【0050】
製造例3
メタクリレート含有3Fシルセスキオキサンの製造
窒素気流下で充分に乾燥した1L-ナスフラスコに、製造例1で得た3F-シルセスキオキサントリオール(20g,0.019mol)、トリエチルアミン(6.4g,0.063mol)、テトラヒドロフラン(0.5L)を加え混合し、系内を十分に窒素置換した。この混合液を攪拌しながら氷浴で0℃に保ち、メタクリロキシプロピルトリクロロシラン(7.3g,0.028mol)を約30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で2時間攪拌した後、濃縮することにより黄色粘性物質を得た。これをパーフルオロイソヘキサンを用いて再結晶し、白色結晶(14g,収率60%)を得た。白色結晶の同定は1H-NMR、13C-NMR、29Si-NMR、19F-NMR、IR、GPC及び元素分析により行った。
得られた白色結晶であるメタクリレート含有3Fシルセスキオキサンの化学式は次のとおりである。
【0051】
【化5】

【0052】
製造例4
メタクリレート含有9Fシルセスキオキサンの合成
窒素気流下で充分に乾燥した1L-ナスフラスコに、製造例2で得た9F-シルセスキオキサントリオール(20g,9.42mmol)、トリエチルアミン(3.2g,0.032mol)、テトラヒドロフラン(0.5L)を加え混合し、系内を十分に窒素置換した。この混合液を攪拌しながら氷浴で0℃に保ち、メタクリロキシプロピルトリクロロシラン(3.7g,0.014mol)を約30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で2時間攪拌した後、濃縮することにより黄色粘性物質を得た。これをパーフルオロイソヘキサンを用いて再結晶し、白色結晶(13g,収率61%)を得た。白色結晶の同定は1H-NMR、13C-NMR、29Si-NMR、19F-NMR、IR、GPC及び元素分析により行った。
得られた白色結晶であるメタクリレート含有9Fシルセスキオキサンの化学式は次のとおりである。
【0053】
【化6】

【0054】
製造例5
3F-シルセスキオキサンホモポリマーの製造
100ml 4つ口フラスコに製造例3で合成したモノマー(メタクリレート含有3Fシルセスキオキサンモノマー)10g (8.5mmol)とテトラクロロヘキサフルオロブタン(ダイキン工業社製S-316)55gを仕込んで30分間溶液中の窒素バブリング後、気相中の窒素置換を30分行った。内温を60℃に昇温後、トリクロロエタン3.67gに溶かしたパーブチルPV 0.75g(0.0043mol)を添加し、6時間反応させた。反応の工程管理はガスクロで行い、モノマーピークの消失を確認して反応終了とした。反応終了後、重合上がり溶液にメタノールを加えて析出した白色の沈殿物について減圧ろ過を行い、真空デシケーターで乾燥して白色の固体7.0g (ポリマー収率70%)を得た。ポリマーの同定は、1H-nmr、19F-nm、13C-nmrで行った。
【0055】
製造例6
9F-シルセスキオキサンホモポリマーの製造
100ml 4つ口フラスコに製造例4で合成したモノマー(メタクリレート含有9Fシルセスキオキサンモノマー)10g (4.9mmol)とテトラクロロヘキサフルオロブタン(ダイキン工業社製S-316)55gを仕込んで30分間溶液中の窒素バブリング後、気相中の窒素置換を30分行った。内温を60℃に昇温後、トリクロロエタン3.67gに溶かしたパーブチルPV 0.75g(0.0043mol)を添加し、6時間反応させた。反応の工程管理は反応時間で行った。反応終了後、重合上がり溶液にメタノールを加えて析出した白色の沈殿物について減圧ろ過を行い、真空デシケーターで乾燥して白色の固体68.5g (ポリマー収率85%)を得た。ポリマーの同定は1H-nmr、19F-nm、13C-nmrで行った。
【0056】
比較製造例1
イソブチル-シルセスキオキサントリオールの製造
充分に乾燥した3L-4つ口フラスコに2.6M水酸化ナトリウム水溶液(0.4L)、テトラヒドロフラン(0.5L)を仕込んだ。この混合溶液を攪拌しながら内温64℃まで昇温し、還流条件イソブチル-トリクロロシラン(56g,0.29mol)/テトラヒドロフラン溶液(0.5L) を約1時間かけて滴下した。滴下終了後10時間加熱還流し、室温まで冷却した。その後ロータリーエバポレーターによるテトラヒドロフランの留去により析出した白色沈殿を濾過で取り出し、減圧条件下で乾燥することで白色固体を得た。得られた白色固体とテトラヒドロフラン(0.5L)、35%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド溶液(50g)を3L-4つ口フラスコに仕込み、この混合溶液を攪拌しながら内温64℃まで昇温し、4時間加熱還流した。還流終了後室温まで冷却し、ロータリーエバポレーターによりテトラヒドロフランを留去した後アセトニトリルを加えた。この溶液に0.1N塩酸を加え中和することにより析出してきた白色沈殿を濾過により取り出した。得られた白色沈殿をアセトニトリル中で再結晶することにより白色結晶(20g,収率60%)を得た。白色結晶の同定は1H-NMR、13C-NMR、29Si-NMR、19F-NMR、IR、により行った。
【0057】
比較製造例2
メタクリレート含有イソブチルシルセスキオキサンの製造
窒素気流下で充分に乾燥した1L-ナスフラスコに、比較製造例1で得たイソブチル-シルセスキオキサントリオール20g(0.025mmol)、トリエチルアミン8.9g(0.088mol)、テトラヒドロフラン(0.5L)を加え混合し、系内を十分に窒素置換した。この混合液を攪拌しながら氷浴で0℃に保ち、メタクリロキシプロピルトリクロロシラン(9.9g,0.038mol)を約30分かけて滴下した。滴下終了後、室温で2時間攪拌した後、濃縮することにより白色固体を得た。これをアセトンを用いて再結晶し、白色結晶(15g,65%)を得た。白色結晶の同定は1H-NMR、13C-NMR、29Si-NMR、19F-NMR、IR、により行った。
【0058】
比較製造例3
イソブチル-シルセスキオキサンホモポリマーの製造
100ml 4つ口フラスコに比較製造例3で合成したモノマー(メタクリレート含有イソブチルシルセスキオキサン)12gとテトラクロロヘキサフルオロブタン(ダイキン工業社製S-316)55gを仕込んで30分間溶液中の窒素バブリング後、気相中の窒素置換を30分行った。内温を60℃に昇温後、トリクロロエタン3.67gに溶かしたパーブチルPV 0.75g(0.0043mol)を添加し、6時間反応させた。反応の工程管理はガスクロで行い、モノマーピークの消失を確認して反応終了とした。反応終了後、重合上がり溶液にメタノールを加えて析出した白色の沈殿物について減圧ろ過を行い、真空デシケーターで乾燥して白色の固体7.0g (ポリマー収率70%)を得た。ポリマーの同定は、1H-nmr、19F-nm、13C-nmrで行った。
【0059】
比較製造例4
9F-Alc/AA ホモポリマー
200ml 4つ口フラスコに2-(パーフルオロブチル)エチル アクリレート(9F-Alc/AA)(ダイキン化成品販売(株)製R-1420)15g (0.047mol)とテトラクロロヘキサフルオロブタン(ダイキン工業社製S-316)121.45gを仕込んで30分間溶液中に窒素バブリング後、気相中の窒素置換を30分行った。内温を60℃に昇温後、トリクロロエタン 7.86gに溶かしたパーブチルPV 1.61g(0.0092mol)を添加し、5時間反応させた。反応の工程管理はガスクロで行い、モノマーピークの消失を確認して反応終了とした。反応終了後、重合上がり溶液にメタノールを加えると、白色水あめ状沈殿物が析出した。デカンテーションにより上澄み液を取り除き、沈殿物をエバポレーターにかけて溶媒を除去すると、非常に粘度の高い透明な液状化合物9.36g (ポリマー収率62.40%)が得られた。ポリマーの同定は1H-nmr、19F-nm、13C-nmrで行った。
【0060】
比較製造例5
17F-Alc/AA ホモポリマー
200ml 4つ口フラスコに2-(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(17F-Alc/AA)(ダイキン化成品販売(株)製R-1820)15g (0.03mol)とテトラクロロヘキサフルオロブタン(ダイキン工業社製S-316)121.45g (0.40mol)を仕込んで30分間溶液中に窒素バブリング後、気相中の窒素置換を30分行った。内温を60℃に昇温後、トリクロロエタン 7.86gに溶かしたパーブチルPV 1.61g(0.0092mol)を添加し、5時間反応させた。反応の工程管理はガスクロで行い、モノマーピークの消失を確認して反応終了とした。反応終了後、重合上がり溶液にメタノールを加えて析出した白色沈殿物について減圧ろ過を行い、真空デシケーターで乾燥して白色粉末状化合物 12.55g (ポリマー収率83.33%)を得た。ポリマーの同定は1H-nmr、19F-nm、13C-nmrで行った。
【0061】
比較製造例6
9F-Alc/AA StA 共重合体
100ml 4つ口フラスコに2-(パーフルオロブチル)エチル アクリレート(9F-Alc/AA)(ダイキン化成品販売(株)製R-1420)7.00g(0.022mol)、ステアリルアクリレート 3.00g(0.0093mol)、テトラクロロヘキサフルオロブタン(ダイキン工業社製S-316)56.47g(0.19mol)を仕込み、30分間溶液中に窒素バブリング後、気相中の窒素置換を30分行った。内温を60℃に昇温後、トリクロロエタン 3.67gに溶かしたパーブチルPV 0.75g(0.0043mol)を添加し、6時間反応後、トリクロロエタン 3.67gに溶かしたパーブチルPV 0.75g(0.0043mol)を追加して、さらに6時間反応させた。反応の工程管理はガスクロで行い、9F-Alc/AAモノマーとステアリルアクリレートモノマーのピークの消失を確認して反応終了とした。反応終了後、重合上がり溶液にメタノールを加えると、白色沈殿物が析出した。デカンテーションにより上澄み液を取り除き、沈殿物をエバポレーターにかけて溶媒を除去すると、非常に粘度の高い白濁した液状化合物7.06g (ポリマー収率70.60%)が得られた。ポリマーの同定は1H-nmr、19F-nm、13C-nmrで行った。ポリマーにおけるモノマー組成は、仕込み組成とほぼ同様であった。
【0062】
比較製造例7
17F-Alc/AA StA 共重合体
200ml 4つ口フラスコに2-(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート(17F-Alc/AA)(ダイキン化成品販売(株)製R-1820)21.00g(0.041mol)、ステアリルアクリレート 9.00g(0.028mol)、テトラクロロヘキサフルオロブタン(ダイキン工業社製S-316)170.00g(0.56mol)を仕込み、30分間溶液中に窒素バブリング後、気相中の窒素置換を30分行った。内温を60℃に昇温後、トリクロロエタン 11.00gに溶かしたパーブチルPV 02.25g(0.013mol)を添加し、5時間反応させた。続けて更にトリクロロエタン 3.67g(0.027mol)に溶かしたパーブチルPV 0.75g(0.0043mol)を再添加して、5時間反応させた。反応の工程管理はガスクロで行い、17F-Alc/AAモノマーとステアリルアクリレート のピークの消失を確認して反応終了とした。反応終了後重合上がり溶液にメタノールを加えて析出した白色沈殿物について減圧ろ過を行い、真空デシケーターで乾燥して白色粉末状の化合物27.07g(ポリマー収率90.23%)を得た。ポリマーの同定は1H-nmr、19F-nm、13C-nmrで行った。ポリマーにおけるモノマー組成は、仕込み組成とほぼ同様であった。
【0063】
実施例1
製造例5で得られた3F-シルセスキオキサンホモポリマー 5gとメチルイソブチルケトン(MIBK)5gを混合し、75℃〜80℃で10分間加温した。別容器に純水14.4g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ノニオン性乳化剤)0.5g及びα-オレフィンスルホン酸ナトリウム(アニオン性乳化剤)0.1gを混合し、75℃〜80℃で10分間加温した。この二つの液を混合し、超音波乳化機で乳化した。
この乳化液2.0gに水 98.0gを加えて全量100gとし、処理液とした。この処理液をカーペット(20cm×20cm、ナイロン6、カットパイル(密度32oz/yd2))にWPU(wet pick up、カーペット100gに対して20gの液がのっている場合にWPU20%)量が20%となるようスプレー処理した。次に熱キュアを120℃で10分間行った。
次に撥水性試験、撥油性試験、防汚性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0064】
実施例2
製造例6で得られたポリマーを実施例1と同様に乳化した。この乳化液1.3gに水 98.7gを加えて全量100gとし、処理液とした。この処理液を実施例1と同様に処理した。次に撥水性試験、撥油性試験、防汚性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0065】
比較例1
比較製造例3で得られたポリマーを実施例1と同様に乳化した。この乳化液2.0gに水 98.0gを加えて全量100gとし、処理液とした。この処理液を実施例1と同様に処理した。次に撥水性試験、撥油性試験、防汚性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0066】
比較例2
比較製造例4で得られたポリマーを実施例1と同様に乳化した。この乳化液1.4gに水 98.6gを加えて全量100gとし、処理液とした。この処理液を実施例1と同様に処理した。次に撥水性試験、撥油性試験、防汚性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0067】
比較例3
比較製造例5で得られたポリマーを実施例1と同様に乳化した。この乳化液1.2gに水 98.8gを加えて全量100gとし、処理液とした。この処理液を実施例1と同様に処理した。次に撥水性試験、撥油性試験、防汚性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0068】
比較例4
比較製造例6で得られたポリマーを実施例1と同様に乳化した。この乳化液2.0gに水 98.0gを加えて全量100gとし、処理液とした。この処理液を実施例1と同様に処理した。次に撥水性試験、撥油性試験、防汚性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0069】
比較例5
比較製造例7で得られたポリマーを実施例1と同様に乳化した。この乳化液1.7gに水 98.3gを加えて全量100gとし、処理液とした。この処理液を実施例1と同様に処理した。次に撥水性試験、撥油性試験、防汚性試験を実施した。結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の重合体は繊維の撥水撥油剤、カーペットの防汚加工剤、プラスチックフィルムのハードコート剤、床剤の防汚加工剤、石材の防汚加工剤、反射防止膜、高反射膜、表示素子の保護膜、光学用接着剤、プリンターヘッドインク撥水性膜、難燃化剤、半導体用封止剤、半導体用絶縁膜に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性基を含有する含フッ素シルセスキオキサン単量体(a)から誘導された構成単位
を有して成る含フッ素重合体を含んでなる表面処理剤。
【請求項2】
含フッ素重合体が、構成単位(A)に加えて、
(B)フッ素原子を含まない単量体(b)から誘導された構成単位、および
(C)必要により存在する、架橋性単量体(c)から誘導された構成単位
を有して成る請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
構成単位(A)を構成する含フッ素シルセスキオキサン単量体(a)の重合性基が炭素-炭素二重結合である請求項1または2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
構成単位(A)を構成する含フッ素シルセスキオキサン単量体(a)が、(i)含フッ素不完全縮合シルセスキオキサンと(ii)重合性官能基をもつ反応性シランとを反応することによって得られたものである請求項1または2に記載の表面処理剤。
【請求項5】
含フッ素不完全縮合シルセスキオキサン(i)が、フルオロアルキル基(炭素数1〜6のフルオロアルキル基)またはフルオロエーテル基を有する不完全縮合シルセスキオキサンである請求項4に記載の表面処理剤。
【請求項6】
含フッ素不完全縮合シルセスキオキサン(i)が、
一般式:
[R-Si(OH)O2/2]l[R'-SiO3/2]m
[式中、それぞれのRおよびR'は、独立的に、Rf、Rf-A、アルキル基(炭素数1〜10)、または、アルキル基(炭素数1〜10)の誘導体を表し(ただし、RおよびR'の少なくとも1つはRf またはRf-Aである。)(ここでRfはフルオロアルキル基を表し、Aは、炭素数1〜4のアルキレン基、−SON(R21)R22−基(但し、R21は炭素数1〜4のアルキル基、R22は炭素数1〜4のアルキレン基である)または−CHCH(OH)CH−基である。)、
lおよびmは、1以上(例えば2以上)の数であり、不完全縮合シルセスキオキサンの分子量が500〜100000となるような数である。]
で示される請求項4に記載の表面処理剤。
【請求項7】
重合性官能基をもつ反応性シラン(ii)において、重合性官能基が、(メタ)アクリル基、アルファ置換アクリル基、エポキシ基またはビニル基である請求項4に記載の表面処理剤。
【請求項8】
反応性シラン(ii)において、反応性基の例が、トリクロロシリル基およびトリアルコキシシリル基(アルコキシ基の炭素数は1〜5である。)である請求項4に記載の表面処理剤。
【請求項9】
反応性シラン(ii)が、一般式:
A11−A21−Si(A31)3
[式中、A11は、重合性官能基であり、
A21は、直接結合または炭素数1〜20のアルキル基であり、
A31は、ハロゲン原子(例えば、塩素原子および臭素原子)またはアルコキシ基(アルコキシ基の炭素数は1〜5である。)である。]
で示される化合物である請求項4に記載の表面処理剤。
【請求項10】
構成単位(B)を構成する単量体(b)が、フッ素を含有せず、炭素-炭素二重結合を有する単量体である請求項2に記載の表面処理剤。
【請求項11】
構成単位(B)を構成する単量体(b)が、アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルである請求項2に記載の表面処理剤。
【請求項12】
構成単位(B)を構成する単量体(b)が一般式:
CH=CACOOA
[式中、Aは水素原子またはメチル基、AはC2n+1(n=1〜30)で示されるアルキル基である。]
で示されるアクリレート類である請求項2に記載の表面処理剤。
【請求項13】
架橋性単量体(c)が、少なくとも2つの反応性基および/または炭素−炭素二重結合を有し、フッ素を含有しない化合物である請求項2に記載の表面処理剤。
【請求項14】
架橋性単量体(c)が、少なくとも2つの炭素−炭素二重結合を有する化合物、あるいは少なくとも1つの炭素−炭素二重結合および少なくとも1つの反応性基を有する化合物であり、反応性基は、ヒドロキシル基、エポキシ基、クロロメチル基、ブロックドイソシアネート、アミノ基またはカルボキシル基である請求項2に記載の表面処理剤。
【請求項15】
撥水撥油剤または防汚加工剤である請求項1〜14のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項16】
難燃化剤、半導体用封止剤または半導体用絶縁膜である請求項1〜14のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項17】
請求項1〜14のいずれかに記載の表面処理剤を被処理物の表面に付着させることからなる被処理物の処理方法。
【請求項18】
請求項17に記載の処理方法によって製造された、表面処理剤が被処理物の表面に付着している被処理物。

【公開番号】特開2012−1724(P2012−1724A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163261(P2011−163261)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【分割の表示】特願2004−84332(P2004−84332)の分割
【原出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】