説明

含フッ素化合物及びその製造方法

【課題】水素原子を残存させた含フッ素スルホン酸エステル化合物、その製造方法及びその用途を提供する。
【解決手段】含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2(RF’1、RF’2は、フッ素化アルキル基を示す。)をフッ素化して含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2へ選択的に変換する工程、を含むことからなる含フッ素化合物の製造方法、上記のRF1SOOCHFRF2をアルコラートRO−M(Rは、アルキル基、Mは、金属を示す。)と反応させて、含フッ素エタノールRF2C(OR)Hに変換することからなる含フッ素化合物の製造方法、及びそれらの用途。
【効果】水素原子を1ヶ残存させた含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2、その製造方法及び用途を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業的に有用な、含フッ素スルホン酸エステル化合物等の含フッ素化合物及びその製造方法等に関するものであり、更に詳しくは、特定の新規含フッ素スルホン酸エステル化合物等の含フッ素化合物、それらの製造方法及びその誘導体合成原料等としての用途に関するものである。本発明は、新規な含フッ素スルホン酸エステル化合物等の含フッ素化合物及びその製造方法を提供すると共に、それらの化合物から誘導される環境負荷を低減させた含フッ素系溶媒等としての用途を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工業的に炭化水素化合物のすべての水素原子をフッ素原子に置換した含フッ素化合物を得る方法として、電解フッ素化法、液相中でフッ素ガスを用いてフッ素化する方法等が行われている。すなわち、炭化水素化合物の−CH部分のすべてを−CFにフッ素化する方法の先行技術として、電解槽中でフッ化水素をフッ素源として電気化学的にフッ素化反応を行う方法や、フッ素ガスを用いて液相中で直接フッ素化する方法等が知られている。例えば、工業的には、ペルフルオロスルホン酸フロリドRF1SOF(RF1:C2n+1、nは、1〜12)は、対応するスルホン酸ハライドやスルホン酸エステル類の電解フッ素化で製造され、各誘導体(X:Cl,OH等)に導かれている。
【0003】
しかし、電解フッ素化によるフッ素化反応では、反応の過程で、異性化、主鎖の切断、再結合等が起こり、多種類の副生物が生じるという問題がある。すなわち、例えば、スルホン酸エステル類RSOORの電解フッ素化では、R基のプロトンのフッ素化と共に、S−O結合部位の断裂が起こるため、スルホン酸エステルの構造を保持したままのペルフルオロ化は困難であった。
【0004】
先行技術文献では、例えば、炭化水素化合物をフッ素ガスに対して安定な液相(溶媒)中でフッ素ガスで直接フッ素化してペルフルオロ化する方法が報告されている(特許文献1)。また、他の文献では、ペルフルオロカルボニル化合物と炭化水素アルコールからエステルを合成し、液相中でF/Nガスでフッ素化してペルフルオロエステルにし、求核剤と共に加熱分解する方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、これらの文献には、ペルフルオロ化(フッ素化)の過程で、水素原子を選択的に残存させた化合物を合成することについては、何も報告されていない。また、ペルフルオロスルホン酸誘導体RF1SOOCHF2等を液相中でフッ素ガスによるフッ素化反応で製造することは、報告例がない。また、フッ素ガスを用いてフッ素化する方法では、一般に、ペルフルオロ化のプロセスにおける水素からフッ素への置換数の制御は、困難であった。
【0006】
上述のように、炭化水素系のエステル化合物をフッ素ガスを用いて液相で直接フッ素化することによりペルフルオロ化されたエステル化合物を得る方法等が知られている。しかしながら、この種の方法は、例えば、カルボン酸エステル等をフッ素ガスにより完全にフッ素化する方法に係るものであり、従来、フッ素化によるペルフルオロ化のプロセスで、選択的に水素原子を1ヶ残存させたペルフルオロ化合物を合成する方法は、未だ知られていないのが実情であった。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5093432号明細書
【特許文献2】WO00/56694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、−CH含有化合物中の−CH部分をフッ素化することによりペルフルオロ化合物を製造する方法において、−CH部分の選択的フッ素化により−CFへの置換数を制御することを可能とする新しいペルフルオロ化(フッ素化)の手法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、含フッ素スルホン酸エステルを、例えば、ペルフルオロアルカン液相中でフッ素ガスを用いてフッ素化することにより、一般的なペルフルオロ化への予想に反し、水素原子が1ヶ残存した含フッ素スルホン酸エステルが選択的に生成するという新規知見を見出し、本発明を開発するに至った。
【0009】
本発明は、水素原子が選択的に残存した含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2及びその製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記含フッ素スルホン酸エステルにアルコラートを反応させて含フッ素ケタールRF2C(OR)Hに変換して、含フッ素ケタール化合物RF2C(OR)を製造する方法及びその化合物を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記含フッ素ケタールRF2C(OR)Hからなる環境負荷を低減させた含フッ素系溶媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)−CH含有化合物中の−CH部分をフッ素化する方法において、フッ素化の過程で選択的に水素原子を残存させた含フッ素化合物を製造する方法であって、含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2(RF’1、RF’2は、フッ素化アルキル基を示し、水素を含んでいてもよい。)をフッ素化して、含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2(RF1、RF2は、ペルフルオロアルキル基を示す。)へ選択的に変換する工程、を含むことを特徴とする含フッ素化合物の製造方法。
(2)上記含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2が、ペルフルオロスルホン酸ハライドRF’1SOX(RF’1:フッ素化アルキル基、X:F、Cl)とα−ジヒドロフルオロアルコールRF’2CHOH(RF’2:フッ素化アルキル基)とを反応させて合成した、含フッ素スルホン酸エステルである、前記(1)に記載の含フッ素化合物の製造方法。
(3)上記含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2のRF’1及び/又はRF’2が、C1〜12のフッ素化アルキル基である、前記(1)又は(2)に記載の含フッ素化合物の製造方法。
(4)前記(1)から(3)のいずれか1項に記載の方法によりフッ素化の過程で選択的に水素原子を残存させて合成した含フッ素スルホン酸エステルRF1SOOCHFRF2を、アルコラートRO−M(Rは、アルキル基、Mは、金属を示す。)と反応させて、含フッ素ケタールRF2C(OR)Hに変換して含フッ素ケタール化合物RF2C(OR)Hを製造することを特徴とする含フッ素化合物の製造方法。
(5)上記選択的な変換反応の過程で、同時に副生するRF1SOM(Mは、金属を示す。)を回収、再使用する、前記(4)に記載の方法。
(6)一般式RF1SOOCHFRF2(RF1、RF2は、ペルフルオロアルキル基を示す。)で表される含フッ素スルホン酸エステル化合物。
(7)一般式RF2C(OR)H(RF2は、ペルフルオロアルキル基を示し、Rは、アルキル基を示す。)で表される含フッ素ケタール化合物。
(8)前記(7)に記載の含フッ素ケタールRF2C(OR)Hからなることを特徴とする環境負荷を低減させた含フッ素系溶媒。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、−CH含有化合物中の−CH部分をフッ素化する方法において、フッ素化の過程で選択的に水素原子を残存させた含フッ素化合物を製造する方法であって、含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2(RF’1、RF’2は、フッ素化アルキル基を示し、水素を含んでいてもよい。)をフッ素化して含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2(RF1、RF2は、ペルフルオロアルキル基を示す。)へ選択的に変換する工程、を含むことを特徴とするものである。
【0012】
本発明では、上記含フッ素スルホン酸エステルが、ペルフルオロスルホン酸ハライドRF’1SOX(RF’1:フッ素化アルキル基、X:F、Cl)とα−ジヒドロフルオロアルコールRF’2CHOH(RF’2:フッ素化アルキル基)とを反応させて合成した、含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2(RF’1、RF’2は、フッ素化アルキル基、例えば、C1〜12のフッ素化アルキル基を示し、水素を含んでいてもよい。)であること、を好ましい実施の態様としている。
【0013】
また、本発明は、上記方法によりフッ素化の過程で選択的に水素原子を残存させて合成した含フッ素スルホン酸エステルRF1SOOCHFRF2を、アルコラートRO−M(Rは、アルキル基を示し、Mは、金属を示す。)と反応させて、含フッ素ケタールRF2C(OR)Hに変換して含フッ素ケタール化合物RF2C(OR)Hを製造することを特徴とするものである。本発明では、上記選択的な変換反応の過程で、同時に副生するRF1SOM(Mは、金属を示す。)を回収、再使用すること、を好ましい実施の態様としている。
【0014】
上記含フッ素化合物の製造方法において、出発原料のペルフルオロスルホン酸ハライドRF’1SOX(X:F、Cl)は、スルホン酸ハライドやスルホン酸エステルを電解フッ素化によりペルフルオロ化することでRF’1SOX(X:F)を製造することができ、必要に応じて、これを誘導体(X:Cl)に導くことができる。この場合、上記RF’1は、C2n+1であり、例えば、C1〜12のフッ素化アルキル基が例示される。
【0015】
本発明において、フッ素化原料を得る方法としては、ペルフルオロスルホン酸ハライドRF’1SOX(RF’1:C2n+1、例えば、n=1〜12のフッ素化アルキル基、X:F、Cl)とα−ジヒドロフルオロアルコールRF’2CHOH(RF’2:C2n+1、例えば、n=1〜12のフッ素化アルキル基)との反応でペルフルオロスルホン酸α−ジヒドロペルフルオロエステルRF’1SOOCHF’2類を合成する。
【0016】
次に、上記ペルフルオロスルホン酸α−ジヒドロペルフルオロエステルRF’1SOOCHF’2類を液相中でフッ素ガス等のフッ素化剤を使ってフッ素化する。この場合、好適には、例えば、上記含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2類をペルフルオロアルカン液相中でF/Nガスによりフッ素化を行う。それにより、従来の液相で行うフッ素ガスによるペルフルオロ化への予想に反し、水素原子が1ヶ残存した含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2(RF、RFは、ペルフルオロアルキルを示す。)が選択的に生成される。
【0017】
次に、上記含フッ素スルホン酸エステルRF1SOOCHFRF2とアルコラートR−OM(R:CH,C等のアルキル基、M:Na等のアルカリ金属)とを反応させて、含フッ素ケタールRF2C(OR)Hに変換して含フッ素ケタール化合物RF2C(OR)Hを製造する。これにより、水素原子を1ヶ残存させた含フッ素ケタールを合成することができる。
【0018】
従来、電解フッ素化や液相中でのフッ素ガスによるフッ素化は、炭化水素化合物のすべての水素原子をフッ素原子に置換したペルフルオロ化合物を得る方法として知られているが、本発明の方法により合成した含フッ素スルホン酸エステルRF1SOOCHFRF2は、従来の液相で行うフッ素ガスによるペルフルオロ化の予想に反し、水素原子が1ヶ残存した含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2であり、本発明の方法では、当該含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2を選択的に合成できることが分かった。
【0019】
また、本発明では、上記含フッ素ケタールの製造方法において、その選択的な変換反応の過程で、同時に副生するRF1SOMを回収し、原料として再利用することが可能であり、本発明の反応系において、そのRF1SOMの回収及び再利用のシステムを設けることで、本発明の含フッ素化合物の製造工程の連続的プロセスの構築を図ることが可能である。
【0020】
上記製造工程で得られる含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2は、後記する実施例でその確認データを示した新規な化合物であり、該化合物自体、フッ素化の過程で水素原子を残存させたことで、反応性を有する各種誘導体合成原料やフッ素化ビルディングブロック等として有用である。また、上記含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2をアルコラートと反応させて得られる含フッ素ケタールRF2C(OR)Hは、α位の炭素に水素原子を残存させたことで、従来製品と比べて、環境負荷を低減させた環境に優しい含フッ素系の溶媒として有用である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)液相でのフッ素ガスによるスルホン酸エステルのフッ素化のプロセスにおいて、水素原子を1ヶ残存させた含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2を選択的に合成し、提供することができる。
(2)上記含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2は、水素原子を残存させたことで、従来のペルフルオロ化合物と異なり、−CHに起因する反応性を有することから、各種誘導体合成原料やフッ素化合物合成のビルディングブロック等として有用である。
(3)上記含フッ素スルホン酸エステルから含フッ素ケタールRF2C(OR)Hを合成し、提供することができる。
(4)上記含フッ素ケタールは、水素原子を残存させたことで、水素原子のすべてをFに変換した従来製品と比べて、環境負荷を低減させた環境に優しい含フッ素系の溶媒として有用である。
(5)上記含フッ素ケタールの合成と同時に副生するRF1SOMを回収し、再利用することが可能であり、当該プロセスを付加することで、上記含フッ素スルホン酸エステル化合物の製造工程を連続プロセスとして構築することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
(1)ノナフルオロブタンスルホン酸トリフルオロエチルエステルCSOOCHCFの合成
機械式撹拌機(撹拌羽根)、還流冷却器を備えたフラスコに、塩化メチレン200ml、炭酸カリウム62.2g(0.45mol)及びトリフルオロエタノール60g(0.6ml)を仕込み、撹拌しながら浴によって−15℃に冷却した。ペルフルオロブタンスルホニルクロライド96g(0.3ml)を、ロートから反応器に内温−12℃以下を保つように30分かけて滴下した。
【0024】
その後、これを0℃で6時間、更に、室温で16時間反応させた。反応液から固形物を濾過で除き、水洗し、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。次いで、減圧蒸留を行い、65℃/40mmHgの留分を分画し、目的化合物96.2gを得た。そのガスクロ純度は99.9%、収率は84%であった。
【0025】
(2)化合物の確認データ
合成した化合物について、GC−MS、NMR及びIR分析を行った。GC−MSは、島津QP−5050Aを使用し、イオン化は電子衝撃法70eVで行って、測定した。NMRは、JEOL JMN−GSX270を用い、1Hは、270MHzで、標準物質としてTMSを用いて、19Fは、254MHzで標準物質としてCClFを用いて測定した。IRは、日本分光FT/IR−4100でkBrを用いて測定した。確認データとして、図1に、それらの分析データを示す。
【実施例2】
【0026】
(ノナフルオロブタンスルホン酸テトラフルオロエチルエステルの合成CSOOCHFCF
ガス出入り口、原料投入口、その間にNaFペレット充填管及び反応液返送配管を設置した0℃と−78℃の2段のコンデンサー、フッ素樹脂被覆撹拌子、外部温度調節器を備えた300ml容量のフッ素樹脂PFA製の反応器に、ペルフルオロヘキサン200mlを仕込み、Nガスを、2.4L/Hrで1時間、液中に吹き込んだ。
【0027】
ガスを20%−F/80%−Nガスに切り替え、1.62L/Hrで1時間液中に吹き込んだ。ノナフルオロブタンスルホン酸トリフルオロエチルエステル7.64g(20mmol)をペルフルオロヘキサンで全量25mlとして溶解し、20%−F/80%−Nガス1.62L/Hrを保ったままの反応器に、4時間かけて供給した。
【0028】
次いで、ヘキサフルオロベンゼン0.38g(2mmol)をペルフルオロヘキサンで全量10mlとして溶解し、20%−F/80%−Nガスを1.02L/Hrとして吹き込みながら、1時間かけて供給し、その後、Nガスを2.4L/Hrで1時間液中に吹き込み、反応器をパージした。全区間にわたり、反応液の温度は22〜25℃に調節した。次いで、反応液を蒸留して濃縮し、更に、残液を減圧蒸留し、50〜52℃/50mmHgの留分を分画し、目的化合物4.16gを得た。そのガスクロ純度は98.1%、収率は51%であった。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図2に示す。
【実施例3】
【0029】
(ノナフルオロブタンスルホン酸n−ペンタフルオロプロピルエステルCSOOCHCFCFの合成)
実施例1と同様の組合せの装置を用い、塩化メチレン30ml、炭酸カリウム10.36g(75mmol)及びn−ペンタフルオロプロパノール11.25g(75mmol)を仕込み、冷却温度を−20℃にして、ペルフルオロブタンスルホニルクロライドを15.92g(50mmol)滴下し、滴下時の内温−18℃以下で30分間、その後、0℃まで1時間、更に、0℃で17時間、反応させた。実施例1と同様の後処理を行い、減圧蒸留によって、59〜60℃/20mmHgの留分を分画し、目的化合物19.15gを得た。ガスクロ純度は99.9%、収率は89%であった。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図3に示す。
【実施例4】
【0030】
(ノナフルオロブタンスルホン酸n−ヘキサフルオロプロピルエステルCSOOCHFCFCFの合成)
20%−F/80%−Nガスを1.5L/Hr、ノナフルオロブタンスルホン酸n−ペンタフルオロプロピルエステル8.64g(20mmol)、ヘキサフルオロベンゼン0.56g(3mmol)、20%−F/80%−Nガスを1.5L/Hrのまま1時間とした他は、実施例2と同様に反応させた。反応液を蒸留して濃縮し、更に、残液を減圧蒸留し、57〜60℃/40mmHgの留分を分画し、目的化合物4.80gを得た。そのガスクロ純度は97.8%、収率は52%であった。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図4に示す。
【実施例5】
【0031】
(ノナフルオロブタンスルホン酸n−ヘプタフルオロブチルエステルCSOOCHCFCFCFの合成)
ペルフルオロヘキサン30ml、炭酸カリウム12.42g(90mmol)、n−ヘプタフルオロブタノール18g(90mmol)、ノナフルオロブタンスルホニルクロライドを19.11g(60mmol)とした他は、実施例3と同様に反応を行った。次いで、減圧蒸留によって72℃/20mmHgの留分を分画し、目的化合物27.05gを得た。そのガスクロ純度は99.9%、収率は93%であった。確認データとして実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図5に示す。
【実施例6】
【0032】
(ノナフルオロブタンスルホン酸n−オクタフルオロブチルエステルCSOOCHFCFCFCFの合成)
20%−F/80%−Nガスを1.74L/Hr、ノナフルオロブタンスルホン酸n−ヘプタフルオロブチルエステル9.64g(20mmol)とした他は、実施例2と同様に反応させた。次いで、反応液を蒸留して濃縮し、更に、残液を減圧蒸留し、61〜63℃/20mmHgの留分を分画し、目的化合物4.95gを得た。そのガスクロ純度は98.9%、収率は49%であった。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図6に示す。
【実施例7】
【0033】
(トリデカフルオロヘキサンスルホン酸トリフルオロエチルエステルC13SOOCHCFの合成)
ペルフルオロヘキサン100ml、炭酸カリウム62.19g(45mol)、トリフルオロエタノール60g(0.6mol)、トリデカフルオロヘキサンスルホニルフルオリドを120.6g(0.3mol)とし、滴下温度を−30℃として1時間、−30℃から室温まで4時間、50℃で4時間、反応させた他は、実施例3と同様に反応を行った。次いで、反応液をロータリーエバポレーターで濃縮し、更に、残液を減圧蒸留し、76℃/16mmHgの留分を分画し、目的化合物119.5gを得た。そのガスクロ純度は96.8%、収率は80%であった。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図7に示す。
【実施例8】
【0034】
(トリデカフルオロヘキサンスルホン酸テトラフルオロエチルエステルC13SOOCHFCFの合成)
20%−F/80%−Nガスを1.8L/Hr、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸トリフルオロエチルエステルを9.64g(20mmol)とし、導入時間を3時間とした他は、実施例2と同様に反応させた。次いで、反応液を蒸留して濃縮し、更に、残液を減圧蒸留し、66℃/20mmHgの留分を分画し目的化合物4.38gを得た。そのガスクロ純度は97.4%、収率は43%であった。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図8に示す。
【実施例9】
【0035】
(ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸トリフルオロエチルエステルC17SOOCHCFの合成)
ヘプタデカフルオロオクタンスルホニルフルオリドを150.6g(0.3mol)とした他は、実施例7と同様に反応及び処理を行った。次いで、減圧蒸留し、92〜93℃/10mmHgの留分を分画し、目的化合物139.6gを得た。常温でワックス状白色固体であり、そのガスクロ純度は95.2%、収率80%であった。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図9に示す。
【実施例10】
【0036】
(ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸テトラフルオロエチルエステルC17SOOCHFCFの合成)
ペルフルオロオクタンスルホン酸トリフルオロエチルエステル11.64g(20mmol)とし、導入時間を3.5時間とした他は、実施例8と同様に反応させた。次いで、反応液をロータリーエバポレーターで濃縮し、更に、残液を減圧蒸留し、80〜81℃/10mmHgの留分を分画し、目的化合物5.86g得た。そのガスクロ純度は98.5%、収率は48%であった。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図10に示す。
【実施例11】
【0037】
(1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジメトキシエタンCFC(OCHHの合成)
フッ素樹脂被覆撹拌子を入れ、窒素置換した100mlの反応容器にペルフルオロブタンスルホン酸テトラフルオロエチルエステル12g(30mmol)、脱水メタノール24mlを入れ、−20℃に冷却した。28%−ナトリウムメチラート/メタノール溶液13.89gを滴下ロートに取り、−15℃以下で2時間かけて加えた後、2時間をかけて室温にし、氷水を加え、塩化メチレンで抽出した。
【0038】
抽出液を水、次いで、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮し、蒸留を行い、79〜81℃の留分3.11gを得た。そのガスクロマト純度は98%、収率は70%であった。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、NMR及びIR分析による分析データを図11に示す。抽出残液をロータリーエバポレーターで濃縮することによって、ペルフルオロブタンスルホン酸ナトリウム塩を、副生するフッ化ナトリウムと共に回収した。
【実施例12】
【0039】
(1,1,1−トリフルオロ−2,2−ジエトキシエタンCFC(OCHの合成)
溶媒を脱水エタノール2ml、20%−ナトリウムエチラート/エタノール溶液1.36g(0.4mmol)に替えた他は、実施例11と同様に行った。確認データとして、実施例1と同様の測定装置及び方法を用いて行ったGC−MS、及びNMR分析による分析データを以下に示す。
GC−MS:m/z(EI) 29(100%)、47(72)、75(28)、103(28)、31(24)
1H−NMR(溶媒CDCl) δ(ppm) 4.6(q1H)、3.7(m,4H)、1.2(t,3H×2)
19F−NMR(溶媒CDCl) δ(ppm) −81.2(d,3F)
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上、詳述したように、本発明は、含フッ素化合物、その製造方法及び用途に係るものであり、本発明により、スルホン酸エステルのフッ素化のプロセスにおいて、水素原子を1ヶ残存させた含フッ素スルホン酸エステルRF1SOOCHFRF2を選択的に合成し、提供することができる。また、上記含フッ素スルホン酸エステルから含フッ素ケタールRF2C(OR)Hを合成し、提供することができる。上記含フッ素スルホン酸エステルは、反応性を有する誘導体合成原料乃至フッ素化合物ビルディングブロックとして有用である。上記含フッ素ケタールは、環境に優しいフッ素系溶媒として有用である。本発明は、従来のペルフルオロ化合物の製法と比べて、ペルフルオロ化を制御して特定の水素原子を残存させた含フッ素スルホン酸エステル化合物を合成する方法、当該含フッ素スルホン酸エステル化合物等及びそれらの用途を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図2】実施例2の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図3】実施例3の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図4】実施例4の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図5】実施例5の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図6】実施例6の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図7】実施例7の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図8】実施例8の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図9】実施例9の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図10】実施例10の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。
【図11】実施例11の合成化合物のGC−MS、NMR、及びIRによる分析データを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−CH含有化合物中の−CH部分をフッ素化する方法において、フッ素化の過程で選択的に水素原子を残存させた含フッ素化合物を製造する方法であって、含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2(RF’1、RF’2は、フッ素化アルキル基を示し、水素を含んでいてもよい。)をフッ素化して、含フッ素スルホン酸エステル化合物RF1SOOCHFRF2(RF1、RF2は、ペルフルオロアルキル基を示す。)へ選択的に変換する工程、を含むことを特徴とする含フッ素化合物の製造方法。
【請求項2】
上記含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2が、ペルフルオロスルホン酸ハライドRF’1SOX(RF’1:フッ素化アルキル基、X:F、Cl)とα−ジヒドロフルオロアルコールRF’2CHOH(RF’2:フッ素化アルキル基)とを反応させて合成した、含フッ素スルホン酸エステルである、請求項1に記載の含フッ素化合物の製造方法。
【請求項3】
上記含フッ素スルホン酸エステルRF’1SOOCHF’2のRF’1及び/又はRF’2が、C1〜12のフッ素化アルキル基である、請求項1又は2に記載の含フッ素化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法によりフッ素化の過程で選択的に水素原子を残存させて合成した含フッ素スルホン酸エステルRF1SOOCHFRF2を、アルコラートRO−M(Rは、アルキル基、Mは、金属を示す。)と反応させて、含フッ素ケタールRF2C(OR)Hに変換して含フッ素ケタール化合物RF2C(OR)Hを製造することを特徴とする含フッ素化合物の製造方法。
【請求項5】
上記選択的な変換反応の過程で、同時に副生するRF1SOM(Mは、金属を示す。)を回収、再使用する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
一般式RF1SOOCHFRF2(RF1、RF2は、ペルフルオロアルキル基を示す。)で表される含フッ素スルホン酸エステル化合物。
【請求項7】
一般式RF2C(OR)H(RF2は、ペルフルオロアルキル基を示し、Rは、アルキル基を示す。)で表される含フッ素ケタール化合物。
【請求項8】
請求項7に記載の含フッ素ケタールRF2C(OR)Hからなることを特徴とする環境負荷を低減させた含フッ素系溶媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−155267(P2009−155267A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335333(P2007−335333)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】