説明

含油樹脂成形体の製造方法

【課題】射出成形機に樹脂および潤滑油または潤滑グリースを導入して溶融成型する際、潤滑油を含む成形材料に空気が混入しないようにして成形可能として、成形不良のない含油樹脂成形体を製造することである。
【解決手段】射出成形機のシリンダ1内に成形材料として樹脂2と潤滑油または潤滑グリース3を導入する際に、潤滑油または潤滑グリース3を容器(ペール缶など)4内に所要時間静置または遠心分離等することで脱泡状態に調製したものを使用し、これを缶内からポンプ5でシリンダ1内に導入するために、耐圧性のフレキシブルチューブ6などの管路で気密に圧送し、これら成形材料を導入したシリンダ1の外面をバンドヒータ7で加熱すると共に、スクリュ8で混合しながらシリンダ1の先端に向けて強制移動させ、溶融状態にまで可塑化させた成形材料A´を、ノズル9から転がり軸受10の内部に射出して含油樹脂成形体Lを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被潤滑の転がり軸受などの機械要素または装置に付属させて潤滑油や潤滑グリースを供給する含油樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、転がり軸受などの内・外輪および保持器と転動体との潤滑には、半固体状のグリースが使用されているが、大きな遠心力が作用してグリースが流動する場合や、その使用条件として油滴や蒸気の飛散防止が求められる印刷機械、撚線機、電動機器もしくは自動車部品等の各種軸受に使用される場合などには、含油樹脂成形体が用いられている。
【0003】
例えば超高分子量ポリエチレン等のプラスチックと潤滑グリースを混合した含油樹脂(固形潤滑剤とも別称される。)を軸受内空間に充填し、次いで加熱して固形化した軸受用の固形潤滑剤(NTN社製:ポリルーブ)が周知であり、このような固形潤滑剤を組込んで潤滑される軸受は、上記過酷な条件でも長期使用が可能である。
【0004】
このような軸受用の固形潤滑剤は、超高分子量のポリエチレンまたは、超高分子量のポリオレフィンとこのポリエチレンまたは、ポリオレフィンの融解温度より高い滴点を有する潤滑グリースを配合した潤滑剤を軸受の内部空間に充填した後、軸受をヒータ使用の加熱器(恒温槽)を用いて、超高分子量ポリエチレンまたは、超高分子量ポリオレフィンの融解温度に加熱し、潤滑剤を固形化し成形する(特許文献1)。
【0005】
さらに、図2に示すように、固形潤滑剤を効率よく軸受内で成形するためには、射出成形機のシリンダ1に供給された樹脂2を溶融しながら、ホッパー20から潤滑油または潤滑グリース3をシリンダ1内に導入し、両者を混合しながら加圧してシリンダ先端からゲート21を経由して金型22内のキャビティー、または転がり軸受内に直接に射出成形することが知られている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特公昭63−23239号公報
【特許文献2】特開2004−262250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した従来の射出成形機を用いた含油樹脂成形体の製造方法では、ホッパー20から潤滑油または潤滑グリース3を自重で射出成形機内に導入しているため、ホッパーの上面開口は大気に接するように開放されており、ここから空気が潤滑油または潤滑グリースに混入する場合がある。
【0008】
その際、空気粒が溶融した樹脂に混じると、先端のノズルまでの経路中で脱気することは困難であり、成形体に空気粒が混じって気孔が形成され、ショートショットと呼ばれる成形不良を起こす可能性もある。
【0009】
このような空気混入による成形不良が起きる問題は、液体やスラリー状の原料をスクリュ式またはプランジャ式の射出成形機に供給し、含油樹脂成形体を製造する場合に特有である。例えば、原料がペレットのように流動しながら連通する空隙を形成するものなら、シリンダ内に背圧をかけて混入した空気を後方へ逃がすことも可能であるが、原料が液状ではそれができないことから、上記のような問題が起こる。
【0010】
また、ホッパーを用いて原料を供給する際、重力(自重)による流動性で原料を残さずに完全に送り出すことは困難であり、少量ずつホッパーに付着したまま残存する。また、ホッパーでは送り出し速度を任意に加減できないので、原料供給速度の調整による製造効率の改善は困難であった。
【0011】
なお、特許文献2には、ホッパー内にフィードスクリュにて原料を強制的に供給するものも開示されているが、その場合にホッパーの上面開口は大気に接しているから、ここから空気の混入の可能性がある。
【0012】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、射出成形機に樹脂および潤滑油または潤滑グリースを導入して溶融成型する際、潤滑油を含む成形材料に空気が混入しないようにして成形可能として、成形不良のない含油樹脂成形体を製造することである。
【0013】
また、この発明は、上記課題の解決と共に、潤滑油または潤滑グリースの混合量を適宜に調節できる含油樹脂成形体の製造方法とすることを第2の課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記第1の課題を解決するために、この発明においては、射出成形機のシリンダ内に樹脂と潤滑油または潤滑グリースを必須成分とする成形材料を導入し、この成形材料を加熱および混合しながら前記シリンダの先端に向けて強制移動させ、可塑化させた状態でノズルから射出して成形体を製造する含油樹脂成形体の製造方法において、前記成形材料のうち、潤滑油または潤滑グリースを気泡の含まれない状態に調製し、これを前記シリンダ内に管路で気密に圧送することを特徴とする含油樹脂成形体の製造方法としたのである。
【0015】
上記したように構成されるこの発明の含油樹脂成形体の製造方法では、気泡の含まれない状態に調製された流動性潤滑剤が、シリンダ内に管路で気密に圧送されるので、成形材料に気泡が混入しない。
【0016】
そのため、シリンダ内で溶融して液体やスラリー状となった樹脂に対し、混合される潤滑油またはグリースからの気泡混入がないので、成形不良のない緻密な含油樹脂成形体を製造できる。
【0017】
このような緻密な含油樹脂成形体を、より確実に製造できる成形材料の組成としては、超高分子量ポリエチレン樹脂を含むポリエチレン樹脂10〜80重量%と、潤滑油またはグリース20〜90重量%を含有する成形材料である。潤滑油または潤滑グリースが20重量%未満の配合割合では、成形体に潤滑性が充分になく、90重量%を超える配合割合では、成形性を確実にすること、成形後の強度を充分に得ることが困難になって好ましくないからである。
【0018】
上記の第1および第2の課題を解決するために、上記の工程における管路が、ポンプを介設した管路である含油樹脂成形体の製造方法を採用したのである。
【0019】
この発明では、ポンプによって潤滑油または潤滑グリースが、管路を任意の速度で圧送されるから、シリンダ内の成形材料の移動速度に合わせて、潤滑油または潤滑グリースを単位時間当りに必要な量だけ供給することができる。
【0020】
また、管路のポンプより下流に脱気用バルブが付設された管路は、万一、潤滑油または潤滑グリースに気泡が混入した場合において、バルブから不良な潤滑油または潤滑グリースを抜き取って、シリンダ内に供給されないようにすることができる。この操作によって緻密で成形不良のない含油樹脂成形体をより確実に製造できる。
【発明の効果】
【0021】
この発明は、予め潤滑油または潤滑グリースを脱泡状態に調製し、これを射出成形機のシリンダ内に管路を経由して気密に圧送したので、シリンダ内で溶融した樹脂に潤滑油またはグリースを導入する際に、気泡が混入せず、成形不良のない緻密な含油樹脂成形体を製造できるという利点がある。
【0022】
また、管路に、ポンプを介設すれば、シリンダ内の成形材料の移動速度を適当に変えても、常に最適量の潤滑油または潤滑グリースが供給されることが可能になり、最適組成の含油樹脂成形体を製造できる。
【0023】
さらにまた、潤滑油および潤滑グリースを所定の配合割合とする所定成形材料の製法を採用することにより、成形不良のない緻密な含油樹脂成形体を確実に成形できる。
また、管路の所定位置に脱気用バルブが付設されると、緻密で成形不良のない含油樹脂成形体を確実に製造できる利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明の実施形態を以下に添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、実施形態は、射出成形機のシリンダ1内に成形材料として樹脂2と潤滑油または潤滑グリース3を導入する際に、潤滑油または潤滑グリース3を容器(ペール缶など)4内に所要時間静置または遠心分離等することで脱泡状態に調製したものを使用し、これを缶内からポンプ5でシリンダ1内に導入するために、耐圧性のフレキシブルチューブ6などの管路で気密に圧送し、これら成形材料を導入したシリンダ1の外面をバンドヒータ7で加熱すると共に、スクリュ8で混合しながらシリンダ1の先端に向けて強制移動させ、溶融状態にまで可塑化させた成形材料A´を、ノズル9から転がり軸受10の内部に射出して含油樹脂成形体Lを製造する方法を示すものである。
【0025】
この発明に用いる射出成形機は、特にその型式や混合機構や加熱装置を限定したものではなく、軸受または成形用金型などへの溶融材料の供給を行なうための装置であり、射出プランジャまたはスクリュのいずれの前進圧力によるものでもよく、シリンダ内を所要温度に加熱可能な周知の射出成形機(プランジャ式、スクリュープリプラ式、インラインスクリュー式など)を採用すればよい。
【0026】
この発明に用いる成形材料のうち、樹脂は、射出成形の可能な熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれであってもよく、また弾性のあるゴムまたはエラストマーと称される樹脂であってもよい。たとえばポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂または周知の弾性ゴム材料が挙げられる。
【0027】
これらの樹脂には、その機械的強度を高める等の物性改良を目的として種々の樹脂を配合してもよく、例えばポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ABS樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性または熱可塑性樹脂を添加することができる。
【0028】
この発明に用いる潤滑油としては、ポリα−オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテル油などのエーテル油、フタル酸エステルのようなエステル油等が挙げられ、これらの単独若しくは混合油の形で混ぜて調製したものでもよい。またこれら潤滑油に対して、黒鉛、窒化硼素、フッ素樹脂、二硫化モリブデン、二硫化タングステン等の固体潤滑剤を配合してもよく、さらに酸化防止剤、錆止め剤、摩耗防止剤、消泡剤、極圧剤等の各種添加剤を加えたものでもよい。
【0029】
この発明に用いる潤滑グリースは、上記した潤滑油を基油として、これを増ちょうさせた周知の潤滑グリースであり、増ちょう剤の例としては、リチウム石鹸、リチウムコンプレックス石鹸、カルシウム石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸、アルミニウム石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸等の石鹸類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア系化合物などが挙げられる。
【0030】
このような成形材料のうち、特に耐熱性および潤滑性を安定させるために好ましい材料の配合例としては、超高分子量ポリエチレン樹脂またはこれを含むポリエチレン樹脂10〜80重量%と、潤滑油またはグリース20〜90重量%を含有する成形材料が挙げられる。
【0031】
上述した潤滑油または潤滑グリースは、成形材料に混合前に、予め遠心分離機または真空脱気処理または長時間静置されるなどの周知の脱気泡処理によって脱泡状態にするか、またはそのような脱泡状態の市販品を使用し、これを密閉性容器(ペール缶など)に収納されたものが使用に便利であり、かつ含油樹脂成形体の品質安定化のために好ましい。
【0032】
密閉性容器は、潤滑油または潤滑グリースを脱泡状態に保つためのものであるが、通常、市販の潤滑グリースが収容されているペール缶、その他の密閉性容器をそのまま転用できる。この発明に使用する直前に、遠心分離装置などで気泡のない状態に調製する場合は、調製された潤滑油または潤滑グリースを装置から直接に管路に導入してもよい。
【0033】
成形材料の樹脂は、図外のホッパーからペレットをシリンダ1の後端から内部に供給してもよく、またシリンダ1の後端からスクリュ8を油圧シリンダなどで後退させてからバッチ式に導入してもよい。このようにしてシリンダ1内に導入された成形材料の樹脂は、電動モータMで回転するスクリュ8とシリンダ1の間に形成された螺旋状通路を回転させることで先端方向へ移送されながらバンドヒータ7で加熱され、かつスクリュ8の軸径の増大変化によって加圧されつつ、溶融および混練される。
【0034】
また、樹脂には、溶融直前に潤滑油または潤滑グリースが配合される。この配合装置は、予め脱泡状態に調整されている市販のペール缶からなる容器4内の潤滑油または潤滑グリースを、いわゆるグリースポンプPでもって吸い上げ、耐圧性のあるフレキシブルチューブ6でシリンダ1の側面に形成されている注入孔11から圧入することにより行なわれる。
【0035】
図示したグリースポンプPは、グリース(ペール)缶からなる容器4内から先端開口の吸入管12で潤滑グリース3を吸上げ、フレキシブルチューブ6の先端から潤滑グリース3を吐出できる電動のポンプ5を備えたものであり、ペール缶などからなる容器4の上面開口部を密閉する蓋13は、蝶ボルト14などで蓋13の周縁に固定され、この蓋13の中央に吸入管12と、この外側にスライド自在に案内される落とし蓋15を備えている。
【0036】
落とし蓋15は、潤滑油または潤滑グリースの表面に接した(浮いた)状態で容器4の内周面とできるだけ気密状態で摺接できるよう深皿形状に設けたものが好ましい。このような落とし蓋15は、潤滑グリース3の表面を平らに均すと共に、潤滑油または潤滑グリースの液面が徐々に下がった際に容器4の内周面に不使用のグリースが付着することなく、潤滑グリースを最後まで無駄の無く使用できるように配慮したものである。また、落とし蓋15は、吸入管12の外周に沿って長手方向に空気の流通隙間が形成されないように設けられたものであり、ポンプ5が空気を吸入しないようにしている。
【0037】
そして、フレキシブルチーブ6のポンプ5より下流側には、脱気用バルブ16が付設されており、この脱気用バルブ16を所要時間だけ開放することにより、気泡が混入した場合に脱気用バルブ16から一部の潤滑油または潤滑グリースを抜き取り、シリンダ1内に供給されないようにすることができる。
【0038】
溶融直前の成形材料A´に対して、潤滑油または潤滑グリース3がシリンダ1内に圧入されると、所定時間だけスクリュ8が回転して材料が充分に混練および加熱し、その後、リング状の逆流防止弁17の内側に流路を通って成形材料がシリンダ1の先端部に溜められる。そして、溜められる成形材料の体積増加に伴ってスクリュ8は後退し、一定距離だけ後退してから、その回転が自動的に止まり、次いで射出時には図外の油圧シリンダでスクリュ8が回転しながら前進する。
【0039】
前進するスクリュ8のヘッド18は、リング状の逆流防止弁17によって、射出する時には後方流路が閉鎖されるので、シリンダ1の先端部内に溜められた成形材料A´は、ノズル9から金型や転がり軸受10の内・外輪の空間をキャビティーとして気泡を含まない含油樹脂成形体が射出成型されるのである。
なお、図1では、片側端面にシール部品19を設けた転がり軸受を示したが、両端面に取り付けてもよく、また成形用金型を用いてシール部品19を省略してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態を示す射出成形機と潤滑グリースと管路の一部断面正面図
【図2】従来例を示す射出成形機と潤滑グリースとホッパーの一部断面正面図
【符号の説明】
【0041】
1 シリンダ
2 樹脂
3 潤滑グリース
4 容器
5 ポンプ
6 フレキシブルチューブ
7 バンドヒータ
8 スクリュ
9 ノズル
10 転がり軸受
11 注入孔
12 吸入管
13 蓋
14 蝶ボルト
15 落とし蓋
16 脱気用バルブ
17 逆流防止弁
18 ヘッド
20 ホッパー
21 ゲート
22 金型
A、A´、B 成形材料
L 含油樹脂成形体
P グリースポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形機のシリンダ内に樹脂と潤滑油または潤滑グリースを必須成分とする成形材料を導入し、この成形材料を加熱および混合しながら前記シリンダの先端に向けて強制移動させ、可塑化させた状態でノズルから射出して成形体を製造する含油樹脂成形体の製造方法において、
前記成形材料のうち、潤滑油または潤滑グリースを気泡の含まれない状態に調製し、これを前記シリンダ内に管路で気密に圧送することを特徴とする含油樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
成形材料が、超高分子量ポリエチレン樹脂を含むポリエチレン樹脂10〜80重量%と、潤滑油またはグリース20〜90重量%を含有する成形材料である請求項1に記載の含油樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
管路が、ポンプを介設した管路である請求項1または2に記載の含油樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
管路が、ポンプの下流に脱気用バルブを付設した管路である請求項1〜3のいずれかに記載の含油樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−136719(P2007−136719A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330280(P2005−330280)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】