説明

吸引カテーテルおよびその製造方法

【課題】吸引性能および挿入性に優れた吸引カテーテルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】吸引カテーテル10は、遠位端および近位端にそれぞれ開口14、15を有し、血栓等を吸引するための吸引ルーメン12a、12bと、遠位端および近位端にそれぞれ開口26、27を有し、吸引ルーメンと略平行に延びるとともに、ガイドワイヤ等を挿通するためのガイドワイヤルーメン18とが形成されており、吸引ルーメン12a、12bは、当該カテーテルの遠位端から近位端側への少なくとも一部分において、長手方向に直交する面の断面形状が楕円形状の扁平部20を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内の血栓等を吸引して除去するために用いられる吸引カテーテルに関し、より詳しくは、カテーテル交換が容易なラピッドエクスチェンジ型構造であって、吸引性能および挿入性に優れた吸引カテーテルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冠動脈が血栓により閉塞し、冠動脈中の血流が妨げられる心筋梗塞に対しては、バルーンカテーテルにより閉塞部位を拡張する治療法が主に用いられている。しかしながら、バルーンカテーテルによって閉塞部位を拡張すると、閉塞部位から血栓が剥離して流出し、末梢血管でその血栓が詰まる場合がある。そのため、多量の血栓により冠動脈が閉塞した症例においてバルーンカテーテルを使用すると、重篤な末梢塞栓症を誘発する場合があった。
【0003】
近年、このような症例に対しては、特許文献1に記載されているような吸引カテーテルを用いて、血栓を吸引して除去する治療法(冠動脈血栓吸引療法)が有効であることが明らかとなってきている。
【0004】
特許文献1に記載された吸引カテーテルでは、血管に挿入したガイドワイヤに沿わせて挿入するために、図6および図7に示すように、ガイドワイヤを挿通するためのガイドワイヤルーメン105を有するガイドワイヤシャフト103と、血栓等を吸引する吸引ルーメン102を有するメインシャフト101と、を有する構造(ラピッドエクスチェンジ型構造)を採用している。
【0005】
この吸引カテーテルは、ガイドワイヤシャフト103をメインシャフト101の最先端部の外側に配置しており、そのメインシャフト101は、図6および図7に示すように、吸引ルーメンを確保し易いように、真円の断面形状を有している。
【特許文献1】特開2004−65326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の吸引カテーテルのような構造では、それぞれ真円の断面形状を有するガイドワイヤシャフトとメインシャフトが重なっているため、メインシャフトの吸引ルーメンの断面積が小さくなるという問題があった。すなわち、血管の内径、又は、血管中で吸引カテーテルを所望の位置まで誘導するガイディングカテーテルの内径、ガイドワイヤシャフトの内径、および管の肉厚のそれぞれの制限寸法はそれぞれ決められている。それゆえに、断面形状が真円のガイドワイヤシャフトとメインシャフトを重ねてできる吸引カテーテルを血管又はガイディングカテーテルに納まるように設計すると、メインシャフトの内径が小さくなる。その結果、このタイプの吸引カテーテルの吸引力は不十分であるという問題があった。
【0007】
これに対して、吸引力を大きくするために、メインシャフトの断面形状を維持したまま内径を大きくすると、吸引カテーテルの図7(a)における高さ方向の長さが大きくなり、制限寸法を超えてガイドワイヤシャフトに入らなくなるという問題があった。
【0008】
さらに、このように、断面形状が真円である2本の管を重ねた吸引カテーテルは、その断面形状が管の重なる方向(以下、「高さ方向」という。)に長くなっているため、血管やガイディングカテーテルの内部で引っ掛かりやすく、また、図7(a)における高さ方向の屈曲性が悪い等、挿入性が悪いという問題もあった。
【0009】
そこで、本発明は、吸引性能および挿入性に優れた吸引カテーテルおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0011】
請求項1に記載の発明は、遠位端および近位端にそれぞれ開口(14、15)を有し、血栓等を吸引するための吸引ルーメン(12a、12b)と、遠位端および近位端にそれぞれ開口(26、27)を有し、吸引ルーメンと略平行に延びるとともに、ガイドワイヤ等を挿通するためのガイドワイヤルーメン(18)とが形成された吸引カテーテル(10)であって、吸引ルーメンは、当該カテーテルの遠位端から近位端側への少なくとも一部分において、長手方向に直交する面の断面形状が楕円形状の扁平部(20)を有する、吸引カテーテルにより、上記課題を解決しようとするものである。
【0012】
「遠位端」とは、本発明の吸引カテーテル、並びに、該吸引カテーテルを構成する吸引ルーメンおよびガイドワイヤルーメンにおいて、それらの操作側(以下、「近位端」という。)とは反対側の先端部のことをいう。また、吸引ルーメンの近位端とは操作側の端のことをいい、一方、ガイドワイヤルーメンの近位端とは、ガイドワイヤルーメンが遠位端から例えば10mm〜300mm程度延びているときはその操作側の端のことを、手元まで延びているときは手元側の端のことをいう。
【0013】
ガイドワイヤルーメンは、吸引カテーテルの長手方向に直交する断面で見た場合、吸引ルーメンの楕円形状の短軸延長線上にカテーテル管に隣接するように設けられる。
【0014】
扁平部の楕円形状は、必ずしも真の楕円である必要はなく、やや変形した略楕円形状であってもよい。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の吸引カテーテル(10)において、扁平部(20)の扁平率が、49%〜95%であることを特徴とする。
【0016】
扁平部の断面形状が楕円であるときの扁平率は、その楕円の短径を長径で除して求めることができる。なお、扁平部の断面形状が真の楕円ではない略楕円形状である場合には、当該略楕円形状において長径となる部分と平行な長辺を有する、当該略楕円形状に外接する矩形を求め、この矩形の短辺を矩形の長辺で除して求めることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の吸引カテーテル(10)において、扁平部(20)は、遠位端から近位端側に向けて10mm〜300mmの範囲であることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2に記載の吸引カテーテル(10)において、扁平部(20)は、遠位端から近位端までの全範囲であることを特徴とする。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の吸引カテーテル(10)において、内部に吸引ルーメン(12a、12b)が形成されたカテーテル管(13)と、内部にガイドワイヤルーメン(18)が形成されたガイドワイヤ挿通管(19)、を備え、カテーテル管とガイドワイヤ挿通管とが接合されてなる吸引カテーテルにより、上記課題を解決しようとするものである。
【0020】
請求項6に記載の発明は、遠位端および近位端にそれぞれ開口を有し、かつ断面形状が真円状で、その内部にルーメンが形成された管の、遠位端を含む少なくとも一部分を押圧することにより、断面形状が楕円形状の扁平部が形成されたカテーテル管を成形する工程(S4)と、遠位端および近位端にそれぞれ開口を有するガイドワイヤ挿通管を、カテーテル管の扁平部に接合させる工程(S5)と、を備える吸引カテーテルの製造方法により、上記課題を解決しようとするものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、吸引ルーメンの断面形状を楕円形状とすることにより、従来品と比べて内腔断面積の大きい吸引カテーテルを作製することができる。これにより、吸引カテーテルの吸引性能(つまり、所定圧下、単位時間当たりの血栓等の吸引重量)の向上を図ることができる。また、吸引カテーテルの断面形状が、横方向に広がるため、血管またはガイディングカテーテルへの挿入性に優れた吸引カテーテルを提供することができる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、吸引性能が最適となるように扁平率が設定された扁平部を吸引ルーメンの断面形状とする吸引カテーテルを提供することができる。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、遠位端から近位端側に向けて所定の長さに限り、扁平部を設けていることにより、成形が容易で、吸引性能および挿入性に優れた吸引カテーテルを提供することができる。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、遠位端から近位端までの全範囲に亘ってガイドワイヤルーメンを有することで、吸引性能および挿入性に優れた吸引カテーテルを提供することができる。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、吸引性能を向上させつつ、製造が容易な吸引カテーテルを提供することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明によれば、吸引カテーテルの吸引効率が高く、血管又はガイディングカテーテルへの挿入性に優れた吸引カテーテルを容易に製造する方法を提供することができる。
【0027】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0029】
[第一実施形態]
(吸引カテーテル)
図1は、本発明の第1実施形態に係る吸引カテーテルを示す平面図である。また、図2(a)は、図1に記載の吸引カテーテルのA−A’断面図であり、図2(b)は、図1に記載の吸引カテーテルのB−B’断面図である。以下、図1並びに図2(a)および(b)に沿って、本発明の第1実施形態に係る吸引カテーテルについて説明する。なお、図1中の破線は、カテーテル管13と、ガイドワイヤ挿通管19とが接合される箇所を表している。
【0030】
本発明の第1実施形態に係る吸引カテーテル10は、遠位端および近位端に開口14、15を有しつつ、内部に吸引ルーメン12a、12bを有するカテーテル管13と、遠位端および近位端に開口26、27を有しつつ、内部に吸引ルーメンと略平行に延びるガイドワイヤルーメン18を有するガイドワイヤ挿通管19と、を具備している。吸引ルーメン12a、12bは、この吸引カテーテル10の遠位端開口14から近位端側への少なくとも一部分において、長手方向に直交する面の断面形状が楕円形状の扁平部20を有している。
【0031】
ここで、遠位端とは、吸引カテーテル10、並びに、該吸引カテーテルを構成するカテーテル管13およびガイドワイヤ挿通管19において、それらの操作側の端(近位端、図1において右側)とは反対側の先端部(図1において左側)のことをいう。具体的には、図1の例によれば、カテーテル管13の遠位端はその開口14近傍を指し、ガイドワイヤ挿通管19の遠位端はその開口26近傍を指す。一方、カテーテル管13の近位端とは操作側の端にある開口15近傍のことをいい、ガイドワイヤ挿通管19の近位端とは、管が遠位端から例えば10mm〜300mm程度の範囲で設けられているときはその手元側の端にある開口27近傍のことをいう。
【0032】
図1で示されるように、吸引カテーテル10は、独立して存在するカテーテル管13の外面とガイドワイヤ挿通管19の外面とを、互いに接合してなる。具体的には、吸引カテーテル10の遠位端側において、図2(a)で示すように、吸引カテーテル10の高さ方向の図面下側にカテーテル管13の扁平部20があり、その上にガイドワイヤ挿通管19がある。このとき、カテーテル管13は、その扁平部20の断面形状となる楕円形状の長軸が、吸引カテーテル10の高さ方向と直交するように配置されている。ガイドワイヤ挿通管19が接合される位置は、カテーテル管13の遠位端と一致していてもよいが、挿入性の観点から、ガイドワイヤ挿通管19の先端がカテーテル管13の遠位端よりも少し突出している位置であることが好ましい。その他の部分、すなわち吸引カテーテル10の近位端側の部分(図1においては、線分の13bで示される範囲)では、図2(b)で示すように、カテーテル管13は単独で存在する。
【0033】
(カテーテル管)
【0034】
本発明の第一実施形態の吸引カテーテル10において、カテーテル管13は、管の断面形状が楕円形状である扁平部20と、断面形状が真円である真円部22の、2つの部分が連続してなる。扁平部20は、カテーテル管13のうち、遠位端近傍であって少なくともカテーテル管13上でガイドワイヤ挿通管19が接合される部分(図1において線分13aにより示される範囲)を指す。また、真円部22は、カテーテル管13のうち、管上にガイドワイヤ挿通管19が接合されていない部分、すなわち、ガイドワイヤ挿通管19が接合される部分より近位端側の部分(図1において線分13bにより示される範囲)を指す。
【0035】
カテーテル管13の扁平部20は、断面形状が楕円形状である。このようなカテーテル管は、例えば、断面形状が真円である従来のカテーテル管よりも内径が大きめの管を、扁平部の断面形状が楕円形状となるようにつぶして作製することができる。断面形状は必ずしも真の楕円である必要はなく、やや変形した略楕円形状であってもよい。このように、従来よりもやや大きめの管に扁平部を設けてカテーテル管13とすることで、血管又は血管内に挿入して用いるガイディングカテーテルの内径に納めることができ、かつ、従来品と比べて血栓等の吸引性能を向上させることができる。
【0036】
扁平部20の扁平率は、49%〜95%であることが好ましい。扁平部の扁平率は、その楕円形状の短径を長径で除して求めることができる。以下、楕円形状の長軸方向を「横方向」と、楕円形状の短軸方向を「縦方向」として、説明することもある。扁平部20の扁平率は49%以下になると、カテーテル管13の断面積が17%以上減少するために吸引カテーテル10の吸引性能を損ない、また、血管又はガイディングカテーテルの断面形状である真円の横方向外側に著しくはみ出し、挿入性に悪影響を及ぼす虞があり、好ましくない。一方、扁平率が95%以上になると扁平部20の形状が真円に近づくため、吸引カテーテル10の高さ方向の長さ(以下、吸引カテーテルの「高さ」という。)が大きくなり、ガイディングカテーテルの内での挿入性が著しく低下する虞がある。したがって、上記のとおり、扁平部20の扁平率は、49%〜95%であることが好ましい。
【0037】
カテーテル管13における扁平部20の長さは、遠位端側開口から近位端側に向けて10mm〜300mmであることが好ましい。
【0038】
カテーテル管13に用いる管として、断面真円状の管を径方向につぶして楕円形状のカテーテル管を成形する場合には、断面形状を楕円形状にする前の管の内径が、例えば、6フレンチサイズの吸引カテーテルの場合、1.10mm、7フレンチサイズの吸引カテーテルの場合、1.35mmのものを用いることが好ましい。
【0039】
カテーテル管13において、扁平部20と真円部22の境目は、挿入性の観点から、テーパ状に成形されていることが好ましい。
【0040】
カテーテル管13の先端の開口14は、吸引カテーテル10の挿入性の観点から、高さ方向上側(扁平部20上側)を先端として管を長手方向に対して斜めに切断加工等をして形成される。開口14は、カテーテル管13aの断面形状が楕円になっているため、上記長手方向に対して斜めの開口14の断面積が長手方向に直交する面の断面形状と比べて広くなり、より大きい血栓等を吸引することが可能となる。
【0041】
カテーテル管13の材質は、樹脂管又はブレードチューブであることが好ましい。ブレードチューブとは、例えば、ステンレス鋼メッシュを有する樹脂管のことをいう。具体的には、樹脂管を内層として、その外側にステンレス鋼メッシュを被覆し、さらにその外側に、管の表面材として、柔軟な樹脂素材を被覆されてなる管であることが好ましい。そして、カテーテル管13の材質における性能として、体内に挿入し易く、体内を傷つけにくい柔軟性を有し、また、管が折れ曲がりにくい耐キンク性に優れていることが好ましい。
【0042】
さらに、カテーテル管13の近位端には、他の医療機器と接続するためのストレインリリーフ35およびコネクタ36を装着していてもよい。
【0043】
(ガイドワイヤ挿通管)
ガイドワイヤ挿通管19は、遠位端および近位端に開口26、27を有するとともに、内部にガイドワイヤルーメン18を有している。ガイドワイヤ挿通管19は、図2(a)及び図2(b)に示すように、断面形状が真円の管である。ガイドワイヤ挿通管19の内径は、ガイドワイヤが容易に挿入できる程度のガイドワイヤルーメン18を有していればよく、特に限定されない。しかし、カテーテル管の内径を大きくするために、ガイドワイヤ挿通管19の内径はできるだけ小さい方が好ましい。また、ガイドワイヤ挿通管19は、本発明の第1実施形態では扁平部20(カテーテル管13a)上に配置されるため、ガイドワイヤ挿通管19の長さは10mm〜300mmであることが好ましい。さらに、ガイドワイヤ挿通管19は、柔軟性に優れた樹脂管であることが好ましい。
【0044】
さらに、ガイドワイヤ挿通管19の開口26近傍には、吸引カテーテルの体内における位置をX線透視下で確認するための造影マーカー31を装着していてもよい。
【0045】
[第2実施形態]
(吸引カテーテル)
図3は、本発明の第2実施形態に係る吸引カテーテルを示す平面図である。以下、図3に沿って、本発明の第2実施形態に係る吸引カテーテル50について説明する。吸引カテーテル50は、遠位端および近位端に開口54、55を有しつつ、内部に吸引ルーメン(不図示)を有するカテーテル管53と、遠位端および近位端に開口66、67を有しつつ、内部に吸引ルーメンと略平行に延びるガイドワイヤルーメン(不図示)を有するガイドワイヤ挿通管59と、を具備している点で、本発明の第1実施形態に係る吸引カテーテル10と共通している。しかし、カテーテル管53の遠位端から近位端までの全範囲で、吸引ルーメン(不図示)の長手方向に直交する面の断面形状が楕円形状の扁平部60を有する点で、本発明の第1実施形態に係る吸引カテーテル10と異なる。
【0046】
吸引カテーテル50は、カテーテル管53において、吸引ルーメン(不図示)の長手方向に直交する面の断面形状が楕円形状である範囲が異なる点以外は、本発明の第1実施形態に係る吸引カテーテル10と同一であるので、カテーテル管53およびガイドワイヤ挿通管59についての説明は省略する。
【0047】
[第3実施形態]
(吸引カテーテル)
図4は、本発明の第3実施形態に係る吸引カテーテルを示す平面図である。以下、図4に沿って、本発明の第3実施形態に係る吸引カテーテル80について説明する。吸引カテーテル80は、遠位端および近位端に開口84、85を有しつつ、内部に吸引ルーメン(不図示)を有するカテーテル管83と、遠位端および近位端に開口96、97を有しつつ、内部に吸引ルーメンと略平行に延びるガイドワイヤルーメン(不図示)を有するガイドワイヤ挿通管89と、を具備しており、カテーテル管83の遠位端側開口84から近位端開口85までの範囲で、吸引ルーメン(不図示)の長手方向に直交する面に関する断面形状が楕円形状の扁平部90を有する点で、本発明の第2実施形態と共通している。しかし、ガイドワイヤ挿通管89が、カテーテル管83の遠位端から近位端までの全範囲に設けられている点で、本発明の第2実施形態と異なる。
【0048】
吸引カテーテル80は、ガイドワイヤ挿通管89の長さが異なる点以外では、本発明の第2実施形態に係る吸引カテーテル50と同一であるから、カテーテル管83およびガイドワイヤ挿通管89についての説明は省略する。
【0049】
[製造方法]
図5は、本発明の吸引カテーテルの製造方法の工程順を表した図である。以下、図5の順に沿って、本発明の吸引カテーテルの製造方法を説明する。本発明の吸引カテーテルの製造では、まず、ガイドワイヤ挿通管の遠位端開口近傍に造影マーカーを装着する工程S1を行う。次に、造影マーカーを装着したガイドワイヤ挿通管の遠位端開口部を加熱して丸くする工程S2を行う。その後、断面形状が真円のカテーテル管用管の一端側を斜めに切断する工程S3を行う。これら工程S1〜S3は、通常の吸引カテーテルの製造工程と同じものである。
【0050】
次に、遠位端および近位端にそれぞれ開口を有し、かつ断面形状が真円状で、その内部にルーメンが形成された管の、遠位端を含む少なくとも一部分を押圧することにより、断面形状が楕円形状の扁平部が形成された、カテーテル管を成形する工程S4を行う。遠位端を含む少なくとも一部分とは、例えば、本発明の第1実施形態の場合、図1において、長手方向に対してカテーテル管13aで示される範囲のことをいい、本発明の第2実施形態の場合、図3において、長手方向に対してカテーテル管53の遠位端から近位端までの全範囲のことをいう。そして、この範囲に圧力をかけて、断面形状が真円の管から断面形状が楕円形状のカテーテル管を成形する。圧力は、斜めに切断した管の先端の尖った部分が、楕円の短軸方向の上側(扁平部上側)にくるように管を配置して、下向きにかける。成形方法は、プレス加工による加圧成形が好ましいが、これに限定されない。
【0051】
さらに、遠位端および近位端にそれぞれ開口を有するガイドワイヤ挿通管を、カテーテル管の扁平部に接合する工程S5を行う。ガイドワイヤ挿通管をカテーテル管の遠位端に配置するとき、ガイドワイヤ挿通管の遠位端がカテーテル管の遠位端より少し突出することが、吸引カテーテルの挿入性の観点から、好ましい。また、例えば、本発明の第3実施形態のように、ガイドワイヤ挿通管がカテーテル管の遠位端から近位端までの全範囲に延在している場合、ガイドワイヤ挿通管は、カテーテル管の遠位端のみならず、カテーテル管の全長に亘って配置し、熱を加えて接合する。
【0052】
この他に、本発明の特徴的な工程S4およびS5の後工程として、吸引カテーテルが他の医療機器と接続できるように、カテーテル管の近位端にコネクタおよびストレインリリーフ等を挿入し、接着剤等を用いて接合する工程S6を行う。なお、図5には示していないが、S6工程の後、ガイドワイヤ挿通管とカテーテル管をより密着させ、かつ挿入性を向上させるために、これら管の周囲に樹脂製の膜を被覆して加熱する工程を設けてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0054】
1.試験片の作成
(実施例1)
カテーテル管用の断面形状が真円の管の内径を1.10mm、吸引カテーテルの高さを1.70mmとし、カテーテル管の断面形状である楕円の短径が1.00mm(扁平率が82%)となるように、本発明の第1実施形態に係る吸引カテーテルを作製した。この吸引カテーテルのカテーテル管の断面形状が楕円である部分の長さは、6mmとした。
【0055】
(実施例2)
吸引カテーテルのカテーテル管の断面形状が楕円である部分の長さを、60mmとすること以外は、実施例1と同様の方法で吸引カテーテルを作成した。
【0056】
(比較例1)
カテーテル管用の断面形状が真円の管の内径を1.10mm、吸引カテーテルの高さを1.80mmとし、カテーテル管の内径が1.10mm(断面形状が真円)となるように、図6並びに図7(a)および(b)で示す従来タイプの吸引カテーテルを作製した。ガイドワイヤ挿通管およびカテーテル管には、実施例1と同一の材料を用いた。
【0057】
2.評価方法
上記の実施例1および2、並びに比較例1の吸引カテーテルを用いて、吸引カテーテルのカテーテル管の断面形状が楕円の場合と、真円の場合とで、吸引カテーテルの吸引性能の変化を測定した。具体的には、これらの吸引カテーテルを用いて、30mL吸引シリンジにて、24.5℃の被吸引物(トマトジュース)を30秒間吸引した時に、吸引できた被吸引物の重量を測定した。上記の試験方法で、各吸引カテーテルについて、3回ずつ試験を行い、測定した被吸引物の重量の平均値を算出した。
【0058】
上記の実施例1および2、並びに比較例1における測定結果を表1に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
2.評価結果
カテーテル管の扁平率が82%で、カテーテル管の断面形状が楕円の部分の長さが6mmである実施例1では、被吸引物の平均重量は24.18gであった。また、同じく、カテーテル管の扁平率が82%で、カテーテル管の断面形状が楕円の部分の長さが60mmである実施例2では、被吸引物の平均重量は24.14gであった。このことから、カテーテル管の断面形状が楕円の部分の長さが長いほど、若干ではあるが、被吸引物の重量が減少することが分かった。
しかしながら、カテーテル管の扁平率が0%で、楕円部分の長さが0mmの比較例1では、被吸引物の平均重量が24.29gであり、実施例1および2と大きく変わるものではなかった。したがって、カテーテル管の扁平率が82%程度の吸引カテーテルの吸引性能は、扁平率が0%である吸引カテーテルの吸引性能と比べても、ほとんど違いがないことが分かった。また、実施例1および2は、従来の吸引カテーテルのカテーテル管よりもより内径の大きい管を用いて吸引カテーテル管を作製したため、カテーテル管の断面形状を楕円にしても、その吸引性能は向上することが分かった。
【0061】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う吸引カテーテルおよびその製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1実施形態に係る吸引カテーテルを示す平面図である。
【図2】(a)は、図1に記載の吸引カテーテルのA−A’断面図であり、(b)は、図1に記載の吸引カテーテルのB−B’断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る吸引カテーテルを示す平面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る吸引カテーテルを示す平面図である。
【図5】本発明の吸引カテーテルの製造工程順を表した図である。
【図6】従来の吸引カテーテルを示す平面図である。
【図7】(a)は、図6に記載の吸引カテーテルのC−C’断面図であり、(b)は、図6に記載の吸引カテーテルのD−D’断面図である。
【符号の説明】
【0063】
10 吸引カテーテル
12a、12b 吸引ルーメン
13、13a、13b カテーテル管
14 開口
15 開口
18 ガイドワイヤルーメン
19 ガイドワイヤ挿通管
20 扁平部
22 真円部
26 開口
27 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位端および近位端にそれぞれ開口を有し、血栓等を吸引するための吸引ルーメンと、 遠位端および近位端にそれぞれ開口を有し、前記吸引ルーメンと略平行に延びるとともに、ガイドワイヤ等を挿通するためのガイドワイヤルーメンとが形成された吸引カテーテルであって、
前記吸引ルーメンは、当該カテーテルの遠位端から近位端側への少なくとも一部分において、長手方向に直交する面の断面形状が楕円形状の扁平部を有する、吸引カテーテル。
【請求項2】
前記扁平部の扁平率が、49%〜95%であることを特徴とする、請求項1に記載の吸引カテーテル。
【請求項3】
前記扁平部は、前記遠位端から前記近位端側に向けて10mm〜300mmの範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吸引カテーテル。
【請求項4】
前記扁平部は、前記遠位端から前記近位端までの全範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吸引カテーテル。
【請求項5】
内部に前記吸引ルーメンが形成されたカテーテル管と、
内部に前記ガイドワイヤルーメンが形成されたガイドワイヤ挿通管と、を備え、
前記カテーテル管と前記ガイドワイヤ挿通管とが接合されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の吸引カテーテル。
【請求項6】
遠位端および近位端にそれぞれ開口を有し、かつ断面形状が真円状で、その内部にルーメンが形成された管の、前記遠位端を含む少なくとも一部分を押圧することにより、断面形状が楕円形状の扁平部が形成されたカテーテル管を成形する工程と、
遠位端および近位端にそれぞれ開口を有するガイドワイヤ挿通管を、前記カテーテル管の前記扁平部に接合させる工程と、
を備える吸引カテーテルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−86476(P2008−86476A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269474(P2006−269474)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】