説明

吸着剤の再生方法およびフッ素含有界面活性剤の回収方法

【課題】 フッ素含有化合物を分解することなく吸着剤から脱着できる吸着剤の再生方法を提供する。
【解決手段】 フッ素含有化合物を吸着した吸着剤に高圧の流体を接触させ、そして、吸着剤と接触している流体の相を吸着剤から分離することにより、フッ素含有化合物の吸着量が低下した吸着剤と、フッ素含有化合物を含む流体の相とを得る。これによって、フッ素含有化合物を吸着した吸着剤からフッ素含有化合物を脱着させて吸着剤を再生できると共に、フッ素含有化合物を分解することなく流体中に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機化合物を吸着した吸着剤の再生方法に関する。更に、本発明はフッ素含有界面活性剤を含む水相からフッ素含有界面活性剤を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有界面活性剤は、フッ素含有ポリマーを製造する際の乳化重合のための乳化剤、凝析安定剤などとして利用されている。近時、製品および製造廃水中におけるフッ素含有界面活性剤の濃度を低減する技術について盛んに研究開発がなされており、例えば、水溶液中のフッ素含有界面活性剤を分離する方法として、逆浸透膜法、イオン交換膜法などが検討されてきた(例えば特許文献1および2を参照のこと)。
【0003】
加えて、フッ素含有界面活性剤を含む水溶液を逆浸透膜で処理した後、活性炭による吸着処理に付すことが提案されている(非特許文献1を参照のこと)。フッ素含有界面活性剤を吸着した活性炭はエタノールで抽出することにより再生できる。
【0004】
また、水溶液中のフッ素含有界面活性剤を超臨界二酸化炭素で抽出し、常温常圧下にてゼオライトや活性炭などの吸着剤に吸着させ、得られた吸着剤を超臨界水または亜臨界水と高温加圧下にて接触させてフッ素含有界面活性剤を分解する方法も提案されている(例えば特許文献3を参照のこと)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−58966号公報
【特許文献2】特開2002−59160号公報
【特許文献3】特開2004−174387号公報
【非特許文献1】ゲー・アー・バイストロフ(G. A. Bystrov)、プラスティケスキー・マーシ(Plasticheskie Massy)、(ロシア)、1990年、第4号、p.75−78
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような逆浸透膜またはイオン交換膜を利用する方法では膜が汚染され易く、その度に膜の交換が必要となり、コスト面に問題があった。
【0007】
また、膜分離後に活性炭で処理し、処理に用いた活性炭をエタノール抽出により再生する方法では膜を利用しているために上記と同様の問題があり、十分な再生効率が得られない。
【0008】
これに対し、上述のようなフッ素含有界面活性剤を吸着させた吸着剤を超臨界水または亜臨界水に接触させる方法は膜を利用しないのでそのような問題はない。しかしながら、この方法ではフッ素含有界面活性剤が分解されてしまうので、高価なフッ素含有界面活性剤を回収して再利用することはできない。
【0009】
本発明の目的は、フッ素含有界面活性剤などの有機化合物を分解することなく吸着剤から脱着できる吸着剤の再生方法を提供し、また、この再生方法を利用して、フッ素含有界面活性剤を含む水相からフッ素含有界面活性剤を回収する新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の要旨によれば、有機化合物を吸着した吸着剤の再生方法であって、
(i)有機化合物を吸着した吸着剤に高圧の流体を接触させ、および
(ii)吸着剤と接触している流体の相を吸着剤から分離することにより、有機化合物の吸着量が低下した吸着剤と、有機化合物を含む流体の相とを得る
ことを含む方法が提供される。
【0011】
本発明の上記再生方法により、有機化合物を吸着した吸着剤から有機化合物を脱着させて高圧の流体中に移すことができる。本発明はいずれの理論によっても拘束されるものではないが、高圧にすることで流体の拡散係数が大きくなり、および/または、高圧にすることで流体に対する有機化合物の溶解度が高くなるので、このような高圧の流体に有機化合物を吸着した吸着剤を接触させると、有機化合物を吸着剤から流体中へ移動させることができると考えられる。このような本発明の再生方法によれば吸着剤を再生できると共に、有機化合物を分解することなく吸着剤から分離して得ることができる。本発明の再生方法は、有機化合物を吸着剤から脱着させる方法としても理解され得るであろう。
【0012】
本発明において「流体の相」とは流体および脱着させた有機化合物を含んで成り、後述するような水および/または有機溶剤などの他の成分を含み得る相を意味する。
【0013】
また、本発明において「高圧」とは0.1MPaより高い圧力を意味する。工程(i)は、例えば約4〜50MPaの圧力および約20〜300℃の温度条件下にて実施してよい。
【0014】
上記工程(i)にて流体は圧力および温度に応じて液体、気体、亜臨界流体および超臨界流体であってよい。気体は液体に比べて拡散係数が4桁ほど高く、吸着剤の孔内へより容易に導入されるという利点がある。他方、液体は気体よりも溶解度が高く、より多くの有機化合物をその中に溶解させることができるという利点がある。工程(i)における高圧の流体が液体および気体のいずれであることが好ましいかは吸着剤の種類、有機化合物の種類、吸着力などに応じて決まる。亜臨界流体および超臨界流体は気体と同程度に高い拡散係数および液体と同程度に高い溶解度を有し、有機化合物をより効率的に脱着させることができるため、工程(i)における高圧の流体は亜臨界流体または超臨界流体であることがより好ましい。尚、流体が液体、亜臨界流体または超臨界流体である場合には、高圧の流体を溶剤とし、有機化合物は吸着剤から溶剤中に抽出されるものとして理解できるであろう。
【0015】
ここで「超臨界流体」とは、一般的に知られているように、温度Tおよび圧力Pがその臨界点(臨界温度(Tc)および臨界圧力(Pc)の双方)を超える条件下(P−T線図では、T>TcかつP>Pcである領域)にある流体を意味する。また、「亜臨界流体」は一般的には必ずしも明確に規定されるものではないが、本発明においては、温度Tおよび圧力Pが、T/Tc≧0.7かつP/Pc≧0.7であって、T/Tc≦1およびP/Pc≦1の少なくとも一方を満たす条件下(P−T線図では、T≧0.7TcかつP≧0.7Pcである領域から、T>TcかつP>Pcである超臨界領域を除いたL字形の領域)にある流体を意味する。
【0016】
流体としては、例えば二酸化炭素(CO)を使用することができる。二酸化炭素は化学的に安定で、安価であり、比較的低い温度および圧力条件下にて超臨界流体が得られるので好ましい。二酸化炭素は、Tc=約31.1℃より高い温度およびPc=約7.38MPaより高い圧力条件下において超臨界流体となり、また、必ずしも明確に規定できないものの概略的には約20〜300℃および約5〜30MPaの温度および圧力条件下において亜臨界流体となる。
【0017】
吸着剤としては、例えば炭素質吸着剤である活性炭、シリカ・アルミナ系吸着剤、高分子吸着剤である合成吸着剤およびこれらの2種以上を含んで成る複合体などを使用することができる。活性炭はペレット条、粉末状、粒状または繊維状のものであってよく、また、水分を含んでいても、いなくてもよい。ゼオライト(天然ゼオライトおよびモレキュラーシーブなどの合成ゼオライトを含む)に代表されるシリカ・アルミナ系吸着剤は、一般式M2/nO・Al・xSiO・yHO(式中、xは陽イオンMの価数、xは2以上の整数、yは0以上の整数)で表される結晶性含水アルミノケイ酸塩の総称である。xの値は一般にシリカ/アルミナ比と呼ばれ、シリカ・アルミナ系吸着剤の吸着特性を決めるパラメーターであり、現在は200種を超えるシリカ・アルミナ系吸着剤が知られているが、任意の適当なものを使用できる。高分子吸着剤は天然高分子吸着剤と樹脂吸着剤とに大別されるが、活性炭やゼオライトと同様に適用可能である。
【0018】
有機化合物はフッ素含有界面活性剤であってよい。フッ素含有界面活性剤は、フッ素元素を有する化合物であって、1つの分子中に親水性部分および疎水性部分を有し、物質の界面に作用して性質を変化させるものであればよい。このようなフッ素含有界面活性剤は、フッ素含有ポリマーの製造において一般的に乳化剤または凝析補助剤などとして使用されている。しかしながら、有機化合物は吸着剤に吸着され得る限り界面活性作用を有する必要はなく、例えばモノマーとして使用可能なオレフィンおよびこれらの低分子重合体ならびに重合開始剤(これらはいずれもフッ素を含んでいても、いなくてもよい)などであってもよい。
【0019】
フッ素含有界面活性剤は、例えば1分子あたりの炭素数が38個以下であるフッ素含有化合物から成る。1分子あたりの炭素数が38個を超えると界面活性能が低下する場合がある。1分子あたりの炭素数は14個以下が好ましく、より好ましくは10個以下である。また、1分子あたりの炭素数は4個以上が好ましく、より好ましくは6個以上である。フッ素含有界面活性剤はヘテロ原子、すなわち炭素でも水素でもない原子、例えば酸素、窒素、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素などの原子を1個またはそれ以上有していてもよい。酸素原子を有する場合、酸素原子はエーテル結合を形成していてよい。
【0020】
このフッ素含有化合物は、例えば、
下記一般式(1):
【化1】

(式中、YはHまたはFを示す。x1は4〜13の整数およびy1は0〜3の整数を示し、好ましくはx1は6〜10の整数およびy1は0〜2の整数を示し、より好ましくはx1は6〜10の整数およびy1は0の整数を示す。Aは−SOMまたは−COOMを示し、MはH、NH、Li、Na、Mg、Al、KまたはCaを示す。)で表されるエーテル酸素を有しないアニオン性化合物、および
下記一般式(2):
【化2】

(式中、x2は1〜5の整数およびy2は0〜10の整数を示し、好ましくはx2は1〜5の整数およびy2は0〜3の整数を示し、より好ましくはx2は1〜3の整数およびy2は0〜3の整数を示す。XはFまたはCF、好ましくはCFを示す。Aは−SOM’または−COOM’、好ましくは−COOM’を示し、M’はH、NH、Li、Na、Mg、Al、KまたはCaを示す。)で表されるエーテル酸素を有するアニオン性化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であってよい。
【0021】
より詳細には、上記一般式(1)で表されるフッ素含有界面活性剤はパーフルオロカルボン酸(例えばパーフルオロオクタン酸(PFOA))およびその塩類(例えばアンモニウムパーフルオロオクタン酸(APFO))であってよい。
【0022】
有機化合物がフッ素含有界面活性剤である場合、上記工程(i)は水の存在下で、高圧の流体が水と相分離する条件にて実施することが好ましい。フッ素含有界面活性剤は、親水性部分が寄り集まって水を内部に取り込み、疎水性部分を高圧の流体(好ましくは二酸化炭素)に向けることによって、逆ミセルまたはこれに類似する会合体(以下、これらを代表して単に逆ミセルと言う)を形成する。よって、フッ素含有界面活性剤は吸着剤から脱着した後、逆ミセルの形成により流体の相中で安定に存在でき、この結果、フッ素含有界面活性剤を吸着剤からより効率的に脱着させることができる。
【0023】
また、有機化合物がフッ素含有界面活性剤である場合、上記工程(i)はフッ素含有界面活性剤の溶解度が高圧の流体よりも高い有機溶剤の存在下で実施することも好ましい。このような有機溶剤はエントレーナ(フッ素含有界面活性剤の溶解度を上昇させる助溶剤)として理解され、この結果、フッ素含有界面活性剤を吸着剤からより効率的に脱着させることができる。有機溶剤は高圧の流体(好ましくは二酸化炭素)に対して溶解することが望ましい。
【0024】
有機溶剤には、例えばメタノールおよびエタノールなどのアルコール、アセトンなどのケトン、ならびにR141b(CHCFCl)およびR113(CFClCFCl)などのフッ素含有ハロゲン化炭化水素(水素を有していても、いなくてもよい)を含むフッ素系溶剤からなる群から選択される少なくとも1種の化合物などを使用できる。
【0025】
上記工程(i)は水および有機溶剤のいずれか一方の存在下にて実施してよいが、双方の存在下にて実施することがより好ましい。
【0026】
本発明の第2の要旨によれば、フッ素含有界面活性剤を含む水相からフッ素含有界面活性剤を回収する方法であって、
(a)フッ素含有界面活性剤を含む水相に吸着剤を接触させ、
(b)水相と接触している吸着剤を水相から分離することにより、フッ素含有界面活性剤を有機化合物として吸着した吸着剤と、フッ素含有界面活性剤の濃度が低下した水相とを得、
(c)これにより得られた吸着剤を本発明の第1の要旨による再生方法に付して、フッ素含有界面活性剤の吸着量が低下した吸着剤と、フッ素含有界面活性剤を含む流体とを得、および
(d)フッ素含有界面活性剤を含む流体からフッ素含有界面活性剤を分離する
ことを含む方法が提供される。
【0027】
本発明の上記回収方法により、フッ素含有界面活性剤を含む水相からフッ素含有界面活性剤を効果的に除去できると共に、フッ素含有界面活性剤を分離して回収することができる。これにより得られた水相はそのまま廃棄し得る程度にフッ素含有界面活性剤が除去されており、他方、回収したフッ素含有界面活性剤は再利用することができる。
【0028】
上記工程(a)に用いる水相はフッ素含有界面活性剤を例えば約100〜10000重量ppm、より詳細には約500〜3000重量ppmで含んでいてよい。このような水相のフッ素含有界面活性剤濃度は工程(b)の後、用いる吸着剤および接触条件などにもよるが、例えば約0.1〜2000重量ppm、好ましくは約0.1〜500重量ppmにまで低下させることができる。
【0029】
本発明に使用される水相はフッ素含有界面活性剤および水に加えて他の成分、例えばフッ素含有ポリマーなどを含んでいてもよい。
【0030】
本発明の第1の要旨による再生方法および第2の要旨による回収方法はバッチ式および連続式のいずれで実施してもよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、有機化合物を吸着した活性体に高圧の流体を接触させ、そして、流体の相を分離することにより、有機化合物を分解することなく吸着剤から脱着できる吸着剤の再生方法が提供される。また、本発明によれば、このような再生方法を利用して、フッ素含有界面活性剤を含む水相からフッ素含有界面活性剤を回収する新規な回収方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の1つの実施形態について詳細に説明する。尚、本実施形態は全体として上述の本発明の第2の要旨による回収方法に関するが、その一部である工程(c)は上述の本発明の第1の要旨による再生方法に関するものであることに留意されたい。
【0033】
まず、フッ素含有界面活性剤を含む水相と吸着剤とを準備する。
【0034】
このような水相はフッ素含有ポリマーの製造において生じるプロセス水または廃水であり得る。フッ素含有ポリマーの例には以下のものが含まれる:
PVdF(ポリフッ化ビニリデン)、VdF(ビニリデンフルオライド)/HFP(ヘキサフルオロプロピレン)共重合体およびVdF/TFE(テトラフルオロエチレン)/HFP共重合体などのVdF系フッ素ゴム;
TFE/Pr(プロピレン)共重合体[TFE−P](商品名「アフラス」、旭硝子株式会社製);
Et(エチレン)/TFE共重合体[ETFE]、Et/TFE/HFP共重合体[EFEP]およびPCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などのパーフルオロでないフッ素樹脂;および
パーフルオロエラストマーであるTFE/PAVE(パーフルオロアルキルビニルエーテル)共重合体(例えばTFE/PMVE(パーフルオロメチルビニルエーテル)共重合体[MFA]およびTFE/PPVE(パーフルオロプロピルビニルエーテル)共重合体[PFA])、低分子量PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(商品名「ルブロン」、ダイキン工業株式会社製)ならびにTFE/HFP共重合体[FEP]などのパーフルオロ樹脂。
これらのうちVdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、パーフルオロ樹脂およびルブロンなどが精製効率に優れる点で好ましい。フッ素含有界面活性剤は上述の一般式(1)または(2)で表されるような、1分子あたりの炭素数が38個以下であるフッ素含有化合物であってよく、例えばパーフルオロカルボン酸、より詳細にはパーフルオロオクタン酸(PFOA)またはアンモニウムパーフルオロオクタン酸(APFO)である。パーフルオロカルボン酸はイオン性界面活性剤であり、水相中に溶解してイオンの形態で存在し得る。更に、水相は分離されずに残留しているフッ素含有ポリマーを含んでいてよい。
【0035】
吸着剤は上記のフッ素含有界面活性剤を吸着できる任意の適当なものであり得るが、例えば活性炭、ゼオライト、多孔質セラミクスまたはこれらの2種以上の複合体を使用してよい。使用する吸着剤の量は、吸着させるべきフッ素含有界面活性剤の量および吸着剤の吸着能などに応じて適宜選択できるであろう。
【0036】
工程(a)
これら水相および吸着剤を十分に接触させる。接触させている間、水相中のフッ素含有界面活性剤が吸着剤に吸着される。フッ素含有界面活性剤がパーフルオロカルボン酸である場合、水相中ではイオンの形態で存在するが、吸着剤には化合物の形態で吸着され得ると考えられる。
【0037】
このような接触は、例えば水相および吸着剤を混合または撹拌すること、または吸着剤の床(固定床または流動床など)に水相を流入させることなどによって実施できる。接触条件、例えば接触時間、温度および圧力などは水相中のフッ素含有界面活性剤の大部分、好ましくは実質的に全部を吸着剤に吸着させ得るように選択できる。
【0038】
工程(b)
その後、水相と接触している吸着剤を水相から分離する。これにより、フッ素含有界面活性剤を吸着した吸着剤と、フッ素含有界面活性剤の濃度が低下した水相とが得られる。得られた水相は、そのまま廃棄できる程度に低いフッ素含有界面活性剤濃度を有する。
【0039】
このような分離は一般的な固液分離、例えば水相および吸着剤の混合物をフィルターなどに通して濾過すること、吸着剤を水相中で沈降させること、または吸着剤の床に水相を流通させて取り出すことなどによって実施できる。
【0040】
工程(c)−(i)
上記のようにフッ素含有界面活性剤(有機化合物)を吸着させた吸着剤に高圧の流体を接触させる。高圧の流体は亜臨界または超臨界二酸化炭素(以下、本実施形態において代表的に超臨界COと言う)であることが好ましく、吸着剤に吸着されていたフッ素含有界面活性剤は吸着剤から脱着して亜臨界または超臨界CO中に移動および溶解し得る。しかし、本発明はこれに限定されず、0.1MPaよりも高い圧力、例えば約4〜50MPaの圧力および約20〜300℃の温度条件下にて流体と吸着剤とを接触させてよい。
【0041】
吸着剤には上記工程(b)で接触していた水相の水が付着していてよく、また、上記工程(b)にて完全に固液分離せずに、あるいは意図的に水を添加して、水の存在下にて吸着剤と超臨界COを接触させることが好ましい。水が存在すると、超臨界CO中に溶解していたフッ素含有界面活性剤は超臨界CO中で水を取り囲んで逆ミセルを形成して安定に存在できる。この結果、超臨界CO中で逆ミセルを形成することなく溶解しているフッ素含有界面活性剤の濃度が低下するため、フッ素含有界面活性剤が吸着剤から脱着して超臨界CO中に溶解することが促進される。
【0042】
更に、メタノール、エタノール、アセトン、フッ素含有ハロゲン化炭化水素などの有機溶剤を添加して、有機溶剤の存在下にて吸着剤と超臨界COを接触させることが好ましい。このような有機溶剤は超臨界COに対して溶解性が高く、完全に溶解して超臨界COの相中で一様に存在する。フッ素含有界面活性剤が有機溶剤に抽出されると、超臨界CO中で有機溶剤に抽出されることなく溶解しているフッ素含有界面活性剤濃度が低下するため、フッ素含有界面活性剤が吸着剤から脱着して超臨界CO中に溶解することが促進される。水と有機溶剤との双方が存在する場合、上記のような逆ミセル形成と溶媒抽出とが複合的に起こるものと考えられる。
【0043】
接触状態において、フッ素含有界面活性剤を吸着した吸着剤1重量部に対して、超臨界COは約10〜1000重量部、水は約0.1〜1000重量部、および有機溶剤は約0.1〜1000重量部で存在することが好ましい。しかし本発明はこれに限定されず、これらを適当な割合で接触させることができるであろう。
【0044】
このような接触は、例えば吸着剤および水の混合物を撹拌しながら高圧の流体(超臨界CO)および有機溶剤を流通させること、または吸着剤の床(固定床、流動床など)に高圧の流体、水および有機溶剤を流入させることなどによって実施できる。接触条件、例えば接触時間および流量などフッ素含有界面活性剤を吸着剤から流体中に効果的に移動させ得るように選択できる。
【0045】
工程(c)−(ii)
その後、吸着剤と接触している超臨界COの相を吸着剤から分離する。これにより、フッ素含有界面活性剤の吸着量が低下した吸着剤と、フッ素含有界面活性剤を含む超臨界COの相とが得られる。得られた吸着剤はフッ素含有界面活性剤の吸着量が低下した分、再生されており、工程(a)に再使用することができる。
【0046】
このような分離は一般的な固液分離または気液分離と同様の方法、例えば吸着剤、水および有機溶媒を含む混合物に超臨界COを接触させて抜き出すこと、または吸着剤の床に超臨界CO、水および有機溶剤を流通させて取り出すことなどによって実施できる。
【0047】
工程(d)
上記で得られたフッ素含有界面活性剤を含む超臨界COの相からフッ素含有界面活性剤を分離する。
【0048】
このような分離は超臨界COの相を、例えば背圧弁を通して減圧および/または冷却して超臨界COを気体のCOとすることによって実施できる。フッ素含有界面活性剤は超臨界COに溶解できるが、気体のCOに対しては溶解度が極めて低いので、水の不存在下では超臨界COに溶解していたフッ素含有界面活性剤(但し、水の不存在下では溶解度はあまり高くない)は化合物として析出し得る。水の存在下ではフッ素含有界面活性剤は超臨界CO中で水を取り囲んで逆ミセルを形成し得るが、逆ミセルは気体のCO中で維持できないので、フッ素含有界面活性剤および水が気体のCOから分離し、フッ素含有界面活性剤は水に対して溶解したイオンの形態で分離される。また、有機溶剤は超臨界COに比べて気体のCOに対する溶解度が極めて低いので、有機溶剤を液体として分離することもできる。
【0049】
しかし、本発明はこれに限定されず、他の任意の適切な方法によって超臨界COの相からフッ素含有界面活性剤を分離してもよい。
【0050】
これにより、フッ素含有界面活性剤を回収することができ、例えばポリマー製造のための界面活性剤として再使用できる。また、分離した残りとして得られるCOは、上記工程(c)−(i)に再使用してよい。
【0051】
以上、本実施形態によれば、フッ素含有界面活性剤を吸着した吸着剤を再生できると共に、フッ素含有界面活性剤を分解することなく吸着剤から脱着させることができて、フッ素含有界面活性剤を含む水相からフッ素含有界面活性剤を回収することができる。
【実施例】
【0052】
(準備)
まず、フッ素含有界面活性剤としてアンモニウムパーフルオロオクタン酸(APFO)を水中に3000重量ppmで含む水溶液を調製した。そして、この水溶液400gと市販で入手した吸着剤(粒状活性炭、商品名「ゼオコールM−10A」、朝日濾過材株式会社製)を4.5g(約160℃にて前処理乾燥させた直後に秤量)とをガラス容器に入れ、室温(約25℃)にて12時間に亘って振盪させた。
【0053】
振盪させる間、水溶液を定期的にサンプリングして高速液体クロマトグラフ〔HPLC〕(東ソー社製 本体ユニットSC8010)にて分析し、水溶液中のAPFO濃度(より詳細にはパーフルオロオクタン酸イオン濃度)を求めた。APFO濃度は振盪初期では急激に低下するが、次第に低下量が小さくなり、振盪終了時にはほぼ定常状態に達した。これにより、吸着剤がAPFOを飽和吸着したことが確認された。
【0054】
また、市販で入手した吸着剤1gあたりのAPFO飽和吸着量Asは以下の式(I)から0.217gであることがわかった。
【数1】

(式中、Asは吸着剤1gあたりのAPFO吸着量[g−APFO/g−吸着剤]、Mは使用した水溶液量=400[g]、mは使用した吸着剤量=4.5[g]、Cは初期APFO濃度=3000×10−6[g/g]、Cは最終APFO濃度=560×10−6[g/g]である。)
【0055】
その後、水相から吸着剤を濾過分離し、吸着剤表面に付着しているAPFO水溶液を純水で置換するように吸着剤を純水で数秒間洗浄した。その後、この吸着剤を室温にて放置して水分を蒸発乾燥させた。
【0056】
これにより、APFOを飽和吸着させた吸着剤が得られた。
【0057】
(実施例1)
次に、図1に示すフッ素含有化合物回収装置40を用いて実験した。
【0058】
上記で準備した吸着剤4.5g(上記の準備段階における前処理乾燥直後の重量)および純水10gをサンプル10として容器9に入れた。そして、撹拌翼13を回転させながら(回転速度300rpm)、流体ボンベ1から二酸化炭素(CO)を冷却器3、ポンプ5および流体供給ライン7を通じて容器9に供給し、容器9から流れ出て来るCOの相を流体取出ライン15、フィルター17、第1回収容器21、回収ライン23、第2回収容器25および流体排出ライン31を通して流通させた。尚、本実施例においては有機溶剤供給ライン39は閉じられている。
【0059】
流量計29によって測定されるCOの相の流量は8.0g/分とし、重量計Wによって減量として測定されるCO総流量が1000gとなるまでCOを供給した。この間、温度計Tにて測定される容器9内の温度はヒータ11により約35℃に維持し、圧力計Pにて測定される容器9内の圧力は冷却器3およびポンプ5を用いて約15MPaに維持した。COは容器9内にて超臨界COとして吸着剤および水と一緒に混合され、水の存在下にて吸着剤と十分に接触する。
【0060】
また、容器9から流体取出ライン15を通じて流れ出るCOの相は自動背圧弁19により0.1MPaまで圧力低下させた。これにより、超臨界COは気体のCOとなり、超臨界COの相中に存在していた水(これは超臨界COに溶解している分と逆ミセルに取り込まれている分を含む)およびAPFOは気体のCOから分離して第1回収容器21にて液体20aとして捕集および回収される。気体となったCOの相は回収ライン23を通じて氷浴27で約0℃の温度に維持された第2回収容器25へと流れ、第1回収容器にて回収しきれなかった水およびAPFOが気体のCOから分離して第2回収容器27にて液体20bとして捕集および回収される。
【0061】
CO総流量が所定量となったとき、COの供給および撹拌翼13の回転を停止し、容器9内のサンプル(吸着剤および水)をベント33から取り出し、サンプルを濾過して残っている水分を分離することにより吸着剤を得た。
【0062】
(実施例2)
有機溶剤容器35からメタノールをポンプ37および有機溶剤供給ライン39を通じて容器9へ供給したこと以外は実施例1と同様とした。メタノールは容器9内の温度および圧力条件において超臨界COに対してほぼ完全に溶解し、超臨界COと共に流体取出ライン15から流れ出るので、供給するCOの量に対してメタノールが平均的に約5重量%の割合で存在するように、CO供給前にメタノールを12.5g供給し、その後、重量計Wによって減量として測定されるCO量で250g毎に12.5g供給して、合計50gを4回に分けて供給した。COは容器9内にて超臨界COとして吸着剤、水およびメタノールと一緒に混合され、水およびメタノールの存在下にて吸着剤と十分に接触する。
【0063】
本実施例では自動背圧弁19で圧力低下して超臨界COが気体のCOとなると、超臨界COの相中に存在していたAPFO、水およびメタノールは気体のCOから分離して第1回収容器21にて液体20aとして、および第2回収容器27にて液体20bとして捕集および回収される。よって、本実施例で回収された液体20aおよび20bはAPFO、水およびメタノールを含んで成る。
【0064】
(吸着剤の再生率の評価)
実施例1および2で得られた吸着剤を水相から濾過分離し、吸着剤表面に付着しているAPFO水溶液を純水で置換するように吸着剤を純水で数秒間洗浄した。その後、この吸着剤を室温にて放置して水分を蒸発乾燥させた。
【0065】
APFOを水中に3000重量ppmで含む水溶液を別途調製し、この水溶液400gと、上記で乾燥させた吸着剤4.5g(上記の準備段階における前処理乾燥直後の重量)とをガラス容器に入れ、上述の準備操作にて説明したのと同様にして、室温(約25℃)にて12時間に亘って振盪させ、水溶液中のAPFO濃度を求めた。
【0066】
実施例1および2で得られた吸着剤1gあたりの新たに吸着したAPFO吸着量As’は以下の式(II)からそれぞれ約0.0213gおよび約0.102gであることがわかった。
【数2】

(式中、As’は吸着剤1gあたりのAPFO吸着量[g−APFO/g−吸着剤]、M’は使用した水溶液量=400[g]、m’は使用した吸着剤量=4.5[g]、C’は初期APFO濃度=3000×10−6[g/g]、C’は最終APFO濃度=2760×10−6[g/g](実施例1)および1850×10−6[g/g](実施例2)である。)
【0067】
この操作によって実施例1および2で得られた吸着剤に新たに吸着されたAPFO吸着量は、それぞれ実施例1および2にて脱着されたAPFO脱着量に等しいと考えられるので、実施例1および2における吸着剤の再生率Rを以下の式(III)により求めた。
【数3】

(式中、Rは再生率[%]、Asは上記式(I)の通り、As’は上記式(II)の通りである。)
【0068】
この結果、再生率Rは実施例1で9.8%、実施例2で47.1%であった。これにより、実施例1および2の双方において吸着剤を再生できることが確認された。また、水の存在下にて超臨界COを吸着剤に接触させた実施例1よりも、水およびメタノールの存在下にて超臨界COを吸着剤に接触させた実施例2のほうが高い再生率が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、フッ素含有化合物を分解することなく吸着剤から脱着できる吸着剤の再生方法を提供し、またこの再生方法を利用して、フッ素含有界面活性剤を含む水相からフッ素含有界面活性剤を回収する新規な回収方法を提供するものである。本発明を限定する意図ではないが、本発明によればフッ素含有ポリマーの重合用乳化剤として使用されているパーフルオロカルボン酸、とりわけパーフルオロオクタン酸(PFOA)およびその塩類、例えばアンモニウムパーフルオロオクタン酸(APFO)を回収することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施例を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 流体(CO)ボンベ
3 冷却器
5 ポンプ
7 流体供給ライン
9 容器
10 サンプル(吸着剤および水)
11 ヒータ
13 撹拌翼
15 流体取出ライン
17 フィルター
19 自動背圧弁
20a、20b 液体(フッ素含有界面活性剤(APFO)および水、ならびに供給する場合には有機溶剤)
21 第1回収容器
23 回収ライン
25 第2回収容器
27 氷浴
29 流量計
31 流体排出ライン
33 ベント
35 有機溶剤(メタノール)容器
37 ポンプ
39 有機溶剤供給ライン
40 フッ素含有化合物回収装置
P 圧力計
T 温度計
W 重量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を吸着した吸着剤の再生方法であって、
(i)有機化合物を吸着した吸着剤に高圧の流体を接触させ、および
(ii)吸着剤と接触している流体の相を吸着剤から分離することにより、有機化合物の吸着量が低下した吸着剤と、有機化合物を含む流体の相とを得る
ことを含む方法。
【請求項2】
工程(i)を4〜50MPaの圧力および20〜300℃の温度で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(i)において流体は亜臨界流体または超臨界流体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
流体は二酸化炭素(CO)である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
有機化合物はフッ素含有界面活性剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
フッ素含有界面活性剤は1分子あたりの炭素数が38個以下であるフッ素含有化合物から成る、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
フッ素含有界面活性剤は、
一般式(1):
【化1】

(式中、YはHまたはFを示す。x1は4〜13の整数を示し、y1は0〜3の整数を示す。Aは−SOMまたは−COOMを示し、MはH、NH、Li、Na、Mg、Al、KまたはCaを示す。)で表されるアニオン性化合物、および
一般式(2):
【化2】

(式中、x2は1〜5の整数を示し、y2は0〜10の整数を示す。XはFまたはCFを示す。Aは−SOM’または−COOM’を示し、M’はH、NH、Li、Na、Mg、Al、KまたはCaを示す。)で表されるアニオン性化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
工程(i)は水の存在下で、高圧の流体が水と相分離する条件にて実施される、請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
工程(i)はフッ素含有界面活性剤の溶解度が高圧の流体よりも高い有機溶剤の存在下で実施される、請求項5〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
有機溶剤はメタノール、エタノール、アセトン、フッ素含有ハロゲン化炭化水素からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
フッ素含有界面活性剤を含む水相からフッ素含有界面活性剤を回収する方法であって、
(a)フッ素含有界面活性剤を含む水相に吸着剤を接触させ、
(b)水相と接触している吸着剤を水相から分離することにより、フッ素含有界面活性剤を吸着した吸着剤と、フッ素含有界面活性剤の濃度が低下した水相とを得、
(c)これにより得られた吸着剤を請求項5〜10のいずれかに記載の方法に付して、フッ素含有界面活性剤の吸着量が低下した吸着剤と、フッ素含有界面活性剤を含む流体の相とを得、および
(d)フッ素含有界面活性剤を含む流体の相からフッ素含有界面活性剤を分離する
ことを含む方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−181416(P2006−181416A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−375656(P2004−375656)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】