説明

吸音構造体、吸音構造体群、吸音構造、音響室及び騒音低減方法

【課題】板・膜振動型の吸音構造において、吸音率が高い周波数帯を広げて効率良く吸音する。
【解決手段】側壁12の一方の開口部に底面部11を固着し、もう一方の開口部に第1振動体20−1を固着する。また、側壁12の内側であって底面部11から第1振動体20−1側へ所定距離離れた位置には、底面部11と平行となるようにして第2振動体20−2を側壁12に固着する。これにより第1振動体20−1の質量成分、第2振動体20−2の質量成分、第1空気層30−1のバネ成分および第2空気層30−2のバネ成分によって、吸音率のピークとなる周波数が異なる複数のバネマス系の吸音メカニズムが形成され、広い周波数帯で吸音を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音を吸音する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された吸音構造のように、板状(または膜状)の振動体と、この振動体の背後の空気層により音を吸収する吸音構造(以下、板・膜振動型吸音構造という)がある。この板・膜振動型吸音構造においては、振動体の質量成分と空気層のバネ成分によってバネマス系の吸音メカニズムが形成されて音が吸音される。
【0003】
【特許文献1】特開2006−11412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、板・膜振動型吸音構造においては、空気層の厚さや振動体の素材を替えることにより、吸音する音の周波数を変えることができる。しかしながら、吸音率が高い周波数帯が狭いため、幅広い帯域で効率良く吸音することができないという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、板・膜振動型の吸音構造において、吸音率が高い周波数帯を広げて効率良く吸音する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために本発明は、複数の板状または膜状の振動体を有し、前記振動体は、振動体間で距離をおいて表面が他の振動体の表面に面し、振動体と空気層とが交互に積層された吸音構造体を提供する。
【0007】
本発明においては、前記振動体の数が3つ以上であってもよい。
また、本発明においては、少なくとも一つの前記振動体が、面している他の振動体と非平行であってもよい。
また、本発明においては、少なくとも一つの前記振動体の表面が非平面であってもよい。
また、本発明においては、前記空気層に多孔質吸音材を有していてもよい。
また、本発明においては、空気層と交互に重なっている前記複数の振動体のうち最も外側にある2つの振動体の一方に対して非振動体が面していてもよい。
【0008】
また、本発明は、上記いずれかの吸音構造体を有し、当該吸音構造体の振動体が部屋の境界面に面して当該振動体と当該境界面との間に空気層がある吸音構造を提供する。
この吸音構造においては、前記振動体と前記境界面とが非平行であってもよい。
【0009】
また、本発明は、上記いずれかの吸音構造体を複数組み合わせた吸音構造体群を提供する。
また、本発明は上記いずれかの吸音構造体、吸音構造または吸音構造体群を有する音響室を提供する。
この音響室においては、音響室の境界面が非平面であってもよい。
また、本発明は、複数の板状または膜状の振動体を、振動体間に距離をおいて表面が他の振動体の表面に面するように配置して振動体と空気層とを交互に重ね、前記振動体が振動して騒音を低減する騒音低減方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、板・膜振動型の吸音構造において、吸音率が高い周波数帯を広げて効率良く吸音することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る吸音構造体1の外観図、図2は、吸音構造体1の分解斜視図、図3は吸音構造体1のA−A線断面矢視図である。なお、図面においては、本実施形態の構成を分かりやすく図示するために、吸音構造体1の寸法を実際の寸法とは異ならせてある。
【0012】
(各部の構成)
吸音構造体1は、図に示したように大別すると筐体10、第1振動体20−1および第2振動体20−2で構成されている。
金属板で形成されている筐体10は、正方形で板状の底面部11と、角管の形状で断面形状が正方形の側壁12とを有している。なお、本実施形態においては筐体10は金属で形成されているが、素材は金属に限定されず、第1振動体20−1と第2振動体20−2を支持して前記第1振動体20−1及び第2振動体20−2に振動を発現させるものであれば、金属以外の合成樹脂や木質材料、繊維板など他の素材であってもよい。
【0013】
第1振動体20−1は、ポリエチレンを薄い膜状にしたものであり、形状が正方形となっている。第1振動体20−1は、弾性を有しており、力(音圧)を加えると変形し、弾性により復元力を発生して振動する。なお、本実施形態においては、第1振動体20−1の素材はポリエチレンとしているが、素材はポリエチレンに限定されず、弾性を有し振動が生じるのであればポリエチレン以外の合成樹脂、紙、金属、繊維板など他の素材であってもよい。
【0014】
第2振動体20−2は、ABS(Acrylonitrile:アクリロニトリル、Butadiene:ブタジエン、Styrene:スチレンの共重合合成樹脂)樹脂を板状にしたものである。第2振動体20−2は、形状が正方形となっており、その面積は側壁12の中空部の断面積と同じとなっている。そして、第2振動体20−2も弾性を有しており、力(音圧)を加えると変形し、弾性により復元力を発生して振動する。なお、本実施形態においては、第2振動体20−2の素材はABS樹脂としているが、素材はABS樹脂に限定されず、弾性を有し振動が生じるのであればABS樹脂以外の合成樹脂、紙、金属、繊維板など他の素材であってもよい。
【0015】
(全体構成)
吸音構造体1においては、側壁12の一方(裏側)の開口部に底面部11が固着され、他方(表側)の開口部に第1振動体20−1が固着されて底面部11と第1振動体20−1が平行となっている。また、側壁12の内側であって底面部11から第1振動体20−1側へ所定距離離れた位置には、底面部11と平行となるようにして第2振動体20−2が側壁12に固着されている。
【0016】
これにより、第1振動体20−1、側壁12および第2振動体20−2とで囲まれて第1振動体20−1の直ぐ背後には長方体の形状に区画された第1空気層30−1が形成されており、第2振動体20−2、側壁12および底面部11とで囲まれて第2振動体20−2の直ぐ背後には長方体の形状に区画された第2空気層30−2が形成されている。
なお、本実施形態において第1空気層30−1と第2空気層30−2は密閉されているが、側壁12や底面部11に孔を設けて第1空気層30−1や第2空気層30−2が吸音構造体1の外側の空間と通じるようにしてもよい。
【0017】
このように構成された吸音構造体1においては、第1振動体20−1の質量成分、第2振動体20−2の質量成分、第1空気層30−1のバネ成分および第2空気層30−2のバネ成分によって、以下(1)〜(5)に示したように複数のバネマス系の吸音メカニズムがそれぞれ単独または相互に連成して吸音構造体1の吸音メカニズムが形成される。
(1)第1振動体20−1と第1空気層30−1で形成される吸音メカニズム。
(2)第2振動体20−2と第2空気層30−2で形成される吸音メカニズム。
(3)第1振動体20−1と、第1空気層30−1および第2空気層30−2が一体となった空気層で形成される吸音メカニズム。
(4)第2振動体20−2と第1空気層30−1で形成される吸音メカニズム。
(5)第1振動体20−1と第2振動体20−2と第2空気層30−2で形成される吸音メカニズム。
また、第1振動体20−1と第2振動体20−2は弾性を有しており、これらの振動体が屈曲振動する場合には、屈曲振動(固有振動)による屈曲系の吸音メカニズムも形成される。なお、本実施形態においては底面部11及び筐体10は第1振動体20−1と第2振動体20−2より高い剛性を有しており、振動しない部材(非振動体)として機能する。
【0018】
ここで、(1)〜(5)の各吸音メカニズムでは、吸音メカニズム毎に吸音率のピークが発現するが、各吸音メカニズムは質量成分又はバネ成分が各々異なるため、吸音率がピークとなる音の周波数も各吸音メカニズムで異なる。つまり、吸音構造体1では複数の周波数で吸音率のピークが発現し、広帯域で効率よく吸音を行うこととなる。
【0019】
図4は、吸音構造体1の垂直入射吸音率のオクターブ分析(1/3オクターブバンド)の測定結果を示したグラフ(図4の(2))である(垂直入射吸音率の測定は、JIS A 1405-2(音響管による吸音率及びインピーダンスの測定−第2部:伝達関数法)による)。この吸音率の測定においては、吸音構造体1は、図5(a)に示したように第1振動体20−1の厚さが0.85[mm]、第1空気層30−1の厚さが30[mm]、第2振動体20−2の厚さが3[mm]、第2空気層30−2の厚さが30[mm]となっており、第1振動体20−1の面密度は第2振動体20−2の面密度より小さく設定され、音波が入射する表側の第1振動体20−1の共振周波数が、裏側の第2振動体20−2の共振周波数より相対的に高く設定されている。
【0020】
なお、図4においては比較のため、第2振動体20−2および第2空気層30−2を備えない他の吸音構造体(図5(b)、図5(c))の垂直入射吸音率の測定結果のグラフも示している。
図5(b)に示した吸音構造体は、第2振動体20−2を備えず、第1振動体20−1の厚さが0.85[mm]、第1振動体20−1の背後の空気層の厚さが30[mm]であり、図5(c)に示した吸音構造体は、第2振動体20−2を備えず、第1振動体20−1の素材をABS樹脂に替えてその厚さを3[mm]とし、第1振動体20−1の背後の空気層の厚さを30[mm]としたものである。
【0021】
図5(b)に示した吸音構造体の場合、第1振動体20−1の質量成分と空気層のバネ成分とで吸音メカニズムが形成され、音波が第1振動体20−1に到達すると吸音がされる。図4の(1)のグラフが図5(b)に示した吸音構造体の測定結果であるが、この吸音構造体においては、400[Hz]付近が吸音率のピークとなっている。一方、250[Hz]以下では吸音率が低く、広い帯域で吸音が行えていないことが分かる。
【0022】
また、図5(c)に示した吸音構造体の場合、図4の(3)のグラフが図5(c)に示した吸音構造体の測定結果であるが、この吸音構造体においては、250[Hz]付近で吸音率のピークが表れているが、これより高いまたは低い周波数では吸音率が低くなっている。つまり、250[Hz]付近については吸音が行えるものの、これ以外の周波数帯については吸音率が低く、広い帯域で吸音が行えていないことが分かる。
【0023】
一方、図5(a)に示した本実施形態に係る吸音構造体1の場合、図4の(2)のグラフに示されているように235[Hz]付近で吸音率のピークが表れつつ、315[Hz]以上においても図5(b)に示した吸音構造体と同等の吸音率が得られている。従って、図5(b)や図5(c)のように振動体と空気層が一つの吸音構造と比較して、図5(b)や図5(c)の吸音特性を包含する広い周波数帯で吸音がなされていることが分かる。
【0024】
なお、自動車において車室を構成する各種パネルなどの境界面や、一般家屋、ビルの会議室や居室などの部屋、防音室、音楽室、ホール、劇場、音響機器のリスニングルームなどの音響室など各種部屋の境界面(壁、床、天井など)において、吸音構造体1の第1振動体20−1を音場に向け、底面部11を境界面に接触させて固定して設置すると、各振動体の共振周波数以外の音波は、例えば以下の(a)〜(d)ように各振動体を透過する成分と各振動体に反射される成分に別れる。
(a)第1振動体20−1で反射される反射波。
(b)第1振動体20−1を透過して第2振動体20−2で反射され、第1振動体20−1を透過する反射波。
(c)第1振動体20−1と第2振動体20−2とを透過して底面部11で反射され第2振動体20−2と第1振動体20−1を透過する反射波。
(d)第1振動体20−1を透過して第2振動体20−2で反射され、第1振動体20−1で再び反射された後、第2振動体20−2で再度反射されて第1振動体20−1を透過する反射波。
これらの反射波は、少しずつ位相がずれて音場に到達する。すると、これら位相がずれた反射波が重畳された音場においては、音圧分布の偏り(定在波)が緩和されるため、吸音だけでなく車室や音響室などの部屋の騒音を低減することもできる。また、オーディオや楽音、音声などの音質を改善することもできる。
【0025】
また、比較的容積の小さい車室などにおいては各種騒音(ロードノイズ、風切り音、エンジン音など)が入射することにより、車室内に孤立した固有振動モードが励起されやすく、特定の周波数帯域で騒音が大きくなるが、吸音構造体1によって少しずつ位相のずれた反射波が形成されて車室内に再入射すると車室内の孤立した固有振動モードが緩和されるため、車室の騒音を低減することもできる。
【0026】
なお、吸音構造体1においては、第1空気層30−1または第2空気層30−2にグラスウール、フェルト、発泡ポリウレタン、不織布など多孔質の吸音材を配置し、上述したバネマス系の吸音メカニズムが吸音する音をさらに広帯域に吸音するようにしてもよい。
【0027】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る吸音構造体1Aについて説明する。
吸音構造体1Aは、第1実施形態の吸音構造体1と同様に、底面部11と側壁12で構成された筐体10、第1振動体20−1および第2振動体20−2を備えており、外観については第1実施形態の吸音構造体1と同じである。吸音構造体1Aが第1実施形態の吸音構造体1と異なる点は、図6(吸音構造体1Aの断面図)に示したように側壁12の内側に複数の振動体を有している点である。なお、図面においては、本実施形態の構成を分かりやすく図示するために、吸音構造体1の寸法を実際の寸法とは異ならせてある。また、下の説明においては、第1実施形態と同じ構成の部材については第1実施形態と同じ符号を付し、その詳細については説明を省略する。
【0028】
第3振動体20−3、第4振動体20−4および第5振動体20−5は、ポリエチレンを薄い膜状にしたものであり、形状が第2振動体20−2と同じであるが各々厚さが異なっている。第3振動体20−3〜第5振動体20−5は、弾性を有しており、力を加えると変形し、弾性により復元力を発生して振動する。なお、本実施形態においては、第3振動体20−3〜第5振動体20−5の素材はポリエチレンとしているが、素材はポリエチレンに限定されず、弾性を有し振動が生じるのであればポリエチレン以外の合成樹脂、紙、金属、繊維板など他の素材であってもよい。
【0029】
吸音構造体1Aにおいては、第1実施形態と同様に側壁12の一方の開口部に底面部11が固着され、もう一方の開口部に第1振動体20−1が固着されて底面部11と第1振動体20−1が平行となっている。また、側壁12の内側においては、底面部11と平行で底面部11から距離をおいて第2振動体20−2が側壁12に固着されている。さらに側壁12の内側においては、第2振動体20−2から距離をおいて平行に第3振動体20−3が固着され、第3振動体20−3から距離をおいて平行に第4振動体20−4が固着され、第4振動体20−4から距離をおいて平行に第5振動体20−5が固着されている。
【0030】
これにより、筐体10の内側が区画され、第1振動体20−1の直ぐ背後に第1空気層30−11、第5振動体20−5の直ぐ背後に第2空気層30−12、第4振動体20−4の直ぐ背後に第3空気層30−13、第3振動体20−3の直ぐ背後に第4空気層30−14、第2振動体20−2の直ぐ背後に第5空気層30−15が形成されている。
なお、本実施形態において各空気層は密閉されているが、側壁12や底面部11に孔を設けて各空気層が吸音構造体1Aの外側の空間と通じるようにしてもよい。
【0031】
このように構成された吸音構造体1Aにおいても、各振動体および各空気層の組み合わせにより共振周波数の異なる複数のバネマス系の吸音メカニズムが形成され、吸音メカニズム毎に吸音率のピークが発現する。ここで各吸音メカニズムは質量成分又はバネ成分が各々異なるため、吸音率がピークとなる音の周波数も各吸音メカニズムで異なる。つまり、吸音構造体1Aにおいても広帯域で効率よく吸音を行うことができる。
【0032】
また、各種部屋の境界面において第1振動体20−1を音場に向け、底面部11を境界面に接触させて固定して設置すると、吸音構造体1と同様にして複数の振動体により少しずつ位相のずれた多重反射波が形成される。そして、この反射波が音場に到達すると音場における定在波や部屋の固有振動モードが緩和され、吸音だけでなく車室や音響室などの部屋の騒音を低減することもできる。
【0033】
なお、本実施形態においては、第1振動体20−1〜第5振動体20−5について、それぞれ異なる素材としてもよい。また、第1振動体20−1〜第5振動体20−5について、全て同じ素材とする一方、振動体毎に厚さを異ならせるようにしてもよい。また、側壁12の内側に位置する第2振動体20−2〜第5振動体20−5については、側壁12の断面形状である正方形とは異なる形状(長方形、多角形など)としてもよく、また、第2振動体20−2〜第5振動体20−5毎に形状を異ならせてもよい。また、本実施形態においても、底面部11と第2振動体20−2との間に多孔質の吸音材を配置してもよい。
【0034】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態に係る吸音構造体1Bについて説明する。
図7は、吸音構造体1Bの外観図、図8は、吸音構造体1Bの分解斜視図、図9は吸音構造体1BのB−B線断面矢視図である。なお、図面においては、本実施形態の構成を分かりやすく図示するために、吸音構造体1Bの寸法を実際の寸法とは異ならせてある。
【0035】
(各部の構成)
吸音構造体1Bは、図に示したように側壁12、第1振動体20−11および第2振動体20−12で構成されている。
側壁12は、第1実施形態の側壁12と同じ構成である。第1振動体20−11と第2振動体20−12は、合成樹脂を薄い膜状にしたものであり、形状が正方形となっている。第1振動体20−11と第2振動体20−12は、弾性を有しており、力を加えると変形し、弾性により復元力を発生して振動する。
【0036】
(全体構成)
吸音構造体1Bにおいては、側壁12の一方の開口部に第2振動体20−12が固着され、もう一方の開口部に第1振動体20−11が固着されて第1振動体20−11と第2振動体20−12が平行となっている。
そして、吸音構造体1Bは、いずれか一方の振動体が車室や音響室などの部屋の境界面の側に向けられ、境界面の側に向けられた振動体と境界面との間に空間(空気層)が形成されるようにして配置される。
なお、吸音構造体1Bを境界面から離れた位置に配置する方法としては、一例として柱状の支持部材の一方の端部を吸音構造体1Bの四隅に固着し、支持部材のもう一方の端部を境界面に固着して振動体と境界面との間に空間を形成する方法などがある。
【0037】
図9のように吸音構造体1Bを境界面から離して配置した吸音構造では、第1振動体20−11、側壁12および第2振動体20−12とで囲まれて第1振動体20−11の背後には長方体の形状に区画された第1空気層30−1が位置し、第2振動体20−12と境界面との間に第2空気層30−2が位置する。
なお、本実施形態において第1空気層30−1は密閉されているが、側壁12に孔を設けて第1空気層30−1が吸音構造1の外側の空間と通じるようにしてもよい。
【0038】
吸音構造体1Bを境界面から離した構成の吸音構造においても、第1振動体20−11および第2振動体20−12という2つの振動体と、第1空気層30−1および第2空気層30−2という2つの空気層があるため、第1実施形態と同様にバネマス系の吸音メカニズムが複数形成される。
そして、複数の吸音メカニズム毎に吸音率のピークが発現し、各吸音メカニズムでは質量成分やバネ成分が各々異なるため、吸音率がピークとなる音の周波数帯も各吸音メカニズムで異なる。つまり、図9のように吸音構造体1Bを境界面から離れた位置に配置した吸音構造においても、広帯域で効率よく吸音を行うことができる。
【0039】
図10の(1)のグラフは、吸音構造体1Bにおいて、第1振動体20−11と第2振動体20−12の素材をPVC(polyvinyl chloride:ポリ塩化ビニル)として厚さを0.5[mm]とし、第1空気層30−1の縦と横の大きさが100[mm]×100[mm]で厚さが10[mm]であり、第2空気層30−2の厚さが20[mm]の吸音構造(図11(a))のランダム入射吸音率のオクターブ分析(1/3オクターブバンド)の測定結果を示したグラフである。
なお、比較のため図10においては、第1振動体20−11の素材をPVCとして厚さを0.5[mm]とし、第2振動体20−12に替えて底面部11を側壁12に固着し、第1空気層30−1の縦と横の大きさが100[mm]×100[mm]で第1空気層30−1の厚さが30[mm]であり、第2空気層30−2を備えない吸音構造(図11(b))のランダム入射吸音率の測定結果のグラフ(図10の(2)のグラフ)も示している。
【0040】
図11(b)に示したように、振動体が第1振動体20−11のみで第1空気層30−1の厚さを厚くした場合には、400[Hz]付近で吸音率のピークが表れていることが分かる。
一方、図11(a)に示した吸音構造の場合には、図11(b)のように第1空気層30−1の厚さを厚くした構成と比較すると、400[Hz]に加えて315[Hz]付近でも吸音率が高くなっており、図11(b)の構成より広い帯域で吸音が行えていることが分かる。
また、図10(a)に示した本実施形態に係る吸音構造では、図11(b)に示した吸音構造体より薄い吸音構造体で低域の音を吸音することが可能となっており、小さな体積の吸音構造体で効率良く吸音ができるという効果も得られる。
【0041】
なお、吸音構造体1Bを各種部屋の境界面から離れた位置に配置した吸音構造でも、各振動体の共振周波数以外の音波は、各振動体を透過する成分と各振動体に反射される成分に別れ、吸音構造体1と同様にして少しずつ位相のずれた多重反射波が形成される。そして、この反射波が音場に到達すると、音場における定在波や部屋の固有振動モードが緩和され、吸音だけでなく車室や音響室などの部屋の騒音を低減することもできる。
【0042】
(第3実施形態の変形例)
上述した吸音構造体1Bにおいては、第1振動体20−11と第2振動体20−12との間に多孔質の吸音材を配置するようにしてもよい。
【0043】
上述した吸音構造体1Bでは、第1振動体20−11と第2振動体20−12が平行となっているが、図12(a)に示したように、断面で見て第1振動体20−11が第2振動体20−12に対して所定の角度を為して非平行となるようにしてもよい。
なお、図12(a)に示した吸音構造体を配置する場合、図12(a)に示したように第2振動体20−12が境界面と平行になるように配置してもよく、図12(b)に示したように第1振動体20−11が境界面と平行になるように配置してもよい。
また、図12(c)に示したように第1振動体20−11と第2振動体20−12の両方が境界面と平行にならないように配置してもよい。
なお、振動体を境界面と平行にしないという観点では、第1振動体20−11と第2振動体20−12が平行な吸音構造体について、図12(d)に示したように第1振動体20−11と第2振動体20−12の両方が境界面と平行にならないように配置してもよい。
【0044】
また、上述した実施形態では、第2振動体20−12は板状で平面となっているが、図13(a)に示した第2振動体20−13のように断面で見て上下に起伏のある形状としてもよい。なお、第2振動体20−13の起伏は正弦波や方形波のように周期的に規則的な起伏であってもよいし、不規則な起伏であってもよい。
また、図13(a)に示した吸音構造体を配置する場合、第1振動体20−11が境界面に対して平行となるようにしてもよく、第1振動体20−11が境界面に対して平行にならないようにしてもよい。
また、図13(a)に示した吸音構造体を使用する場合、第1振動体20−11を境界面に平行に対向させ、第2振動体20−13を音場に向けて配置するようにしてもよく、また、第1振動体20−11を境界面に対向させる場合、第1振動体20−11が境界面に対して平行にならないように対向させて、第2振動体20−13を音場に向けて配置するようにしてもよい。
【0045】
また、上述した実施形態では、平面となっている境界面に対向させて吸音構造体1Bを配置しているが、図13(b)に示したように断面で見て起伏のある非平面の境界面に対向させて吸音構造体1Bを配置するようにしてもよい。
また、吸音構造体1Bにおいても、側壁12の内側に複数の振動体を固着して、側壁12の内側に複数の空気層を設けるようにしてもよい。
【0046】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。
【0047】
本発明において振動体は、弾性を有して振動するのであれば、板状または膜の形状(フィルム状やシート状)のいずれであってもよい。なお、板状とは、直方体(立体)に対して相対的に厚さが薄く2次元的な広がりをもつことを意味し、膜状(フィルム状、シート状)とは、板状よりもさらに相対的に厚さが薄く、張力により復元力を発生することを意味する。
【0048】
本発明においては、振動体の素材は塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート、ポリエステル、合成ゴム(イソプレンゴム、ニトリルゴム、フッ素ゴム、ブタジエンスチレン共重合体、共重合体ポリマなど)、ポリアミドなど有機高分子を主体とするものであってもよく、また、シリコーンゴムなど無機高分子を主体とするものであってもよい。
また、これらの素材においては、有機低分子(可塑剤、架橋剤、架橋促進剤、酸化防止剤)や、無機充填剤がふくまれていてもよい。
【0049】
また、筐体10の素材は、ABSではなく、ポリプロピレン、ポリアミドなどの熱可塑性プラスチック、エポキシ樹脂などの熱硬化性プラスチック、繊維強化プラスチックなど他の素材であってもよい。
【0050】
上述した本発明に係る吸音構造体は、上方から見た時の形状が正方形となっているが、上方から見た時の形状が、長方形、台形、多角形、円形、楕円形など、他の形状となるように振動体や筐体を形成してもよい。
【0051】
なお、上述した実施形態または変形例に係る吸音構造体を配置する場合、大きさの同じ吸音構造体を複数組み合わせた吸音体群を配置してもよい。
また、吸音構造体を複数組み合わせる場合には、組み合わせる吸音構造体毎に振動体の素材や厚さ、密度、ヤング率、損失正接(tanδ)を異ならせてもよい。
また、吸音構造体を複数組み合わせる場合には、吸音構造体毎に空気層の厚さを異ならせてもよい。また、空気層のサイズを各々異ならせてもよく、空気層の厚さとサイズの両方を各々異ならせてもよい。
【0052】
また、本発明に係る吸音構造体においては、筐体10の内部を図14に示したように仕切部材13で格子状に区切り、側壁12の内側で複数の空気層が形成されるようにしてもよい。
【0053】
上述した実施形態においては、振動体は、側壁12に固着されて固定支持されており、固着部位においては変位(移動)も回転も拘束されているが、振動体は、側壁12に対して変位が拘束され、回転が許容されている単純支持状態であってもよい。また、変位が許容されている支持状態や自由支持など他の支持状態であってもよい。
【0054】
上述した本発明に係る吸音構造体を、吸音構造体の吸音率のピークの周波数の音が騒音として発生している場所に配置して騒音を低減させてもよい。このように吸音構造体を騒音の発生場所に配置して騒音を低減させる騒音低減方法によれば、振動体が振動して騒音のエネルギが消費されて騒音が低減されることとなる。なお、騒音の発生場所としては、例えば車両や飛行機など各種輸送機器の内部、工場や工事現場などで運転されている各種機械などがある。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る吸音構造1の外観図である。
【図2】吸音構造1の分解斜視図である。
【図3】吸音構造1の断面図である。
【図4】吸音構造1の吸音率の測定結果を示したグラフである。
【図5】吸音率の測定に使用した吸音構造の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る吸音構造体1Aの断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る吸音構造体1Bの外観図である。
【図8】吸音構造体1Bの分解斜視図である。
【図9】吸音構造体1Bの断面図である。
【図10】第3実施形態に係る吸音構造の吸音率の測定結果を示したグラフである。
【図11】吸音率の測定に使用した吸音構造の断面図である。
【図12】本発明の変形例に係る吸音構造の断面図である。
【図13】本発明の変形例に係る吸音構造の断面図である。
【図14】本発明の変形例に係る吸音構造体の分解図である。
【符号の説明】
【0056】
1,1A,1B・・・吸音構造、10・・・筐体、11・・・底面部、12・・・側壁、13・・・仕切部材、20−1〜20−5,20−11〜20−13・・・振動体、30−1,30−2,30−11〜30−15・・・空気層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板状または膜状の振動体を有し、
前記振動体は、振動体間で距離をおいて表面が他の振動体の表面に面し、
振動体と空気層とが交互に積層された吸音構造体。
【請求項2】
前記振動体の数が3つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項3】
少なくとも一つの前記振動体が、面している他の振動体と非平行であることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項4】
少なくとも一つの前記振動体の表面が非平面であることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項5】
前記空気層に多孔質吸音材を有することを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項6】
空気層と交互に重なっている前記複数の振動体のうち最も外側にある2つの振動体の一方に対して非振動体が面していることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の吸音構造体を有し、
当該吸音構造体の振動体が部屋の境界面に面して当該振動体と当該境界面との間に空気層がある吸音構造。
【請求項8】
前記振動体と前記境界面とが非平行であることを特徴とする請求項7に記載の吸音構造。
【請求項9】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の吸音構造体を複数組み合わせた吸音構造体群。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の吸音構造体、吸音構造または吸音構造体群を有する音響室。
【請求項11】
請求項10に記載の音響室において、当該音響室の境界面が非平面であることを特徴とする音響室。
【請求項12】
複数の板状または膜状の振動体を、振動体間に距離をおいて表面が他の振動体の表面に面するように配置して振動体と空気層とを交互に重ね、前記振動体が振動して騒音を低減する騒音低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−293252(P2009−293252A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146826(P2008−146826)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】