説明

吸音構造体

【課題】低周波域での吸音特性を良好にすることができると共に安定した吸音特性を有し、しかも製造が容易な吸音構造体の提供を目的とする。
【解決手段】開口部13を有する熱可塑性合成樹脂製の中空筐体11と、前記筐体11の開口部13を塞ぐシート材21とで吸音構造体10を構成し、前記シート材21を熱可塑性合成樹脂層23と金属層25が接合された二層構造とし、前記熱可塑性合成樹脂層23を筐体11側としてシート材21を筐体11に融着で固定し、これによってシート材21の厚みを抑えながら面密度を増大させて吸音性を低周波域側へシフトさせ、かつ安定した吸音特性を得ることができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体の開口部が非通気性のシート材で塞がれた吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸音構造体として、中空からなる筐体の開口部が非通気性のシート材で塞がれた膜振動型のものが提案されている。前記膜振動型の吸音構造体においては、筐体内の空気層からなるバネ成分とシート材の重量成分により、バネ−マス系を構成し、共振系の吸音機構を実現することで、音源から発生する伝播音を低減するものであり、式(1)で示す予測共振周波数fr[Hz]からなる吸音特性が得られる。式(1)におけるρは空気密度[kg/m]、cは音速[m/s]、mはシート材の面重量[kg/m]、Lはシート材背後の空気層距離(筐体の高さに相当)[m]である。
【数1】

【0003】
吸音材の使用場所等によっては、低周波域での吸音性の向上が求められる場合がある。式(1)より、吸音性のピークは、筐体の高さが大になるほど、またシート材の面密度が大になるほど低周波域へシフトすることがわかる。そのため、低周波域の吸音性を向上させるには、重いシート材を用い、高さの高い筐体を用いて吸音構造体を構成すればよいことになる。
【0004】
しかしながら、筐体は、吸音構造体の使用場所によって高さが決まるため、高さの自由度に制限があり、筐体の高さを増大させることによって低周波域の吸音性向上を図ることは困難である。
一方、シート材は、厚みを大にすることによってシート材の面密度を大にすることが可能である。しかしながら、シート材の厚みを大にするとシート材の剛性が増大して膜振動が損なわれ、吸音性が低下するようになる。また、シート材を軽量な合成樹脂から重い金属板に変更することによっても、シート材の面密度を高めることができる。しかしながら、金属板は、筐体への固定方法が接着剤や接着テープ等となるため、使用中に剥離するおそれがあり、さらには固定作業に手間取り、コストが増大する問題もある。
【0005】
また、複数枚の膜状体を膜状体の外縁で接合したシート材によって筐体の開口部を塞いだ吸音構造体も提案されている。しかしながら、複数枚の膜状体を用いる吸音構造体は、複数枚の膜状体を外縁で接合する際に、膜状体の状態を一定の状態にするのが難しく、引っ張り具合等にバラツキを生じやすいため、吸音構造体の製造作業が難しく、吸音性がバラツキ易い問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−198902号公報
【特許文献2】特開2009−204836号公報
【特許文献3】特開2009−205153号公報
【特許文献4】特開2009−288355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、低周波域での吸音性を良好にすることができると共に安定した吸音性を有し、しかも製造が容易な吸音構造体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、開口部を有する中空の筐体と、前記筐体に固定されて前記開口部を塞ぐ非通気性のシート材とよりなる吸音構造体において、前記筐体が熱可塑性合成樹脂からなり、前記シート材が熱可塑性合成樹脂層と金属層とが接合された二層からなり、前記熱可塑性合成樹脂層を前記筐体側にして前記筐体に融着固定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記シート材の熱可塑性合成樹脂層と金属層が、対向する面で全面接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、開口部を塞ぐシート材が、熱可塑性合成樹脂層と金属層の二層構造からなるため、シート材を合成樹脂のみで構成する場合と比べてシート材の厚み増大を抑えながらシート材の面密度を大にすることができ、シート材の厚み増大による吸音性低下を生じることなく、吸音性のピークを低周波域へシフトさせることができる。さらに、シート材は、熱可塑性合成樹脂層と金属層が接合されているため、一枚のシート材として扱うことができ、吸音構造体の製造が容易になる。
【0011】
請求項2の発明によれば、シート材の熱可塑性合成樹脂層と金属層が、対向する面で全面接合されているため、一方の層(合成樹脂層あるいは金属層)が弛んだりすることなく、バラツキの少ない吸音性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る吸音構造体の断面図である。
【図2】実施形態の吸音構造体を分解して示す断面図である。
【図3】シート材と筐体と加熱した平板の断面図である。
【図4】残響室法吸音率の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態の吸音構造体について、図面を用いて説明する。図1に示す吸音構造体10は、筐体11と、前記筐体11に固定された非通気性のシート材21とよりなる。
前記筐体11は、図2にも示すように開口部13、14を有する。図示の例では筐体11は、周壁12によって形成された枠状体からなり、両側に開口部13、14を有する。前記筐体11の開口部13、14は、必ずしも図示の例のように筐体11の両側に設ける必要はなく、片側のみに設け、反対側は壁面で閉じてもよい、さらに、前記筐体11に両側に壁面を設けて前記壁面の一部に開口部を形成してもよい。前記筐体11の材質は、ポリプロピレン等の熱可塑性合成樹脂からなる。前記筐体11のサイズは、前記吸音構造体10の使用場所等に応じて最適なサイズとされる。
【0014】
前記シート材21は、振動可能な膜体として作用するものであり、熱可塑性合成樹脂層23と金属層25とが接合された二層構造からなる。前記表面シート材21は、0.01mmより厚みが薄い(面密度が小さい)と、融着力が低く剥がれの要因となり、吸音率がピークとなるピーク周波数が高周波側にずれ、吸音率が低くなる。逆に3mmより厚みが厚いと、ピーク周波数が低周波側にずれるものの、膜振動がし難くなって吸音率が低くなる。そのため、前記シート材21の厚みは、膜振動を損なわないように、0.01〜3.00mmに設定され、0.05〜2.00mmがより好ましい。
【0015】
前記熱可塑性合成樹脂層23は、前記筐体11に対して熱融着可能な熱可塑性合成樹脂であればよく、特に限定されるものではない。前記熱可塑性合成樹脂層23の厚みは、熱融着性及び膜振動を損なわない厚みとされ、10〜500μmのフィルム状のものが好ましい。
前記金属層25は、前記シート材21の面密度を増加させるものであり、厚みが大きすぎるとシート材21の膜振動を損なうことになるため、5〜200μmの箔状のものが好ましい。前記金属層25を構成する金属としては、アルミニウム、鉄、あるいはメッキ処理されたもの等種々の材質及び比重のものを使用することができる。また、前記金属層25を構成する金属の種類を変更することにより、前記シート材21の面密度を容易に変更することができ、吸音率がピークとなる周波数をコントロールすることが可能である。
前記熱可塑性合成樹脂層23と前記金属層25は、互いの対向面が接着剤等によって全面接合されている。
【0016】
前記シート材21は、前記熱可塑性合成樹脂層23を前記筐体11側として前記シート材21の周縁22で前記筐体11の周壁12の端面12aに熱融着されている。前記熱融着は、図3に示すように、前記シート材21を、前記熱可塑性合成樹脂層23が前記筐体11側となるようにして、前記筐体11の周壁12の端面12aに載置し、加熱した平板51により前記金属層25側から熱プレスすることにより、容易に行うことができる。また、その際、前記加熱した平板51は、前記金属層25を介して前記熱可塑性合成樹脂層23を加熱し、前記熱可塑性樹脂層23とは直接接触することがないため、前記加熱した平板51に前記熱可塑性合成樹脂層23が融着して離れなくなったり、前記加熱した平板51を冷却しなければ前記シート材21から離せなくなったりすることがなく、熱プレス作業を効率よく行うことができる。
【0017】
なお、前記の例では、予め前記熱可塑性合成樹脂層23と前記金属層25を接着剤等で全面接合したものを前記筐体11に熱融着しているが、接合前の熱可塑性合成樹脂層23と金属層25を用い、前記熱可塑性合成樹脂層23を前記筐体11に熱融着する際に、同時に前記熱可塑性合成樹脂層23と前記金属層25の対向する面同士を接合することもできる。例えば、接合前の熱可塑性合成樹脂層23と金属層25を重ね、前記熱可塑性合成樹脂層23を前記筐体11側として、前記熱可塑性合成樹脂層23と前記金属層25を前記筐体11の周壁12の端面12aに載置し、前記熱可塑性合成樹脂層23と前記金属層25の端部を保持した状態で前記加熱した平板51により前記金属層25側から熱プレスすることにより、前記熱可塑性合成樹脂層23と金属層25を前記熱可塑性合成樹脂層23の熱融着で全面接合すると共に、前記熱可塑性合成樹脂層23を前記筐体11の周壁11の端面12aに固定するようにしてもよい。
【0018】
また、前記の例では筐体11における片側の開口部13のみをシート材21で塞いだが、両側の開口部13、14をシート材21で塞いでもよい。
【実施例】
【0019】
板厚3mm、高さ35mmのポリプロピレン板を周壁に用いて、120×120×高さ35mmからなる、図2と同様の両面に開口部を有する中空の筐体を作成した。また、厚み50μmのアルミニウム箔(金属層)と、厚み50μmのポリプロピレンフィルム(熱可塑性合成樹脂層)とを接着剤で全面接合した二層構造のシート材(面密度180g/m)を120×120mmのサイズとし、このシート材のポリプロピレンフィルム側が筐体側となるようにし、かつ前記筐体の一側の開口部を塞ぐようにして筐体上に載置し、130〜180℃に加熱した平板でシート材側から熱プレスし、前記シート材の周縁を筐体の周縁に融着により固定し、実施例の吸音構造体を得た。この実施例の吸音構造体を36個隙間無く配置し、JIS A 1409に基づき残響室法吸音率を測定した。但し、残響室容積は36mのものを使用した。測定結果を図4に示す。
【0020】
また、前記実施例のシート材に代えて、前記実施例のシート材とは面密度が略同一で厚みが0.2mm(面密度182g/m)からなるポリプロピレンシートを用い、その他は実施例と同様にして比較例の吸音構造体を得た。この比較例の吸音構造体に対して、実施例の吸音構造体と同様にして残響室法吸音率を測定した。測定結果を図4に示す。
【0021】
図4に示すように、実施例の吸音構造体は、800Hzに吸音性のメインピークを有し、しかも500Hz以下の低周波域における吸音性が良好であることがわかる。
一方、比較例の吸音構造体は、シート材の面密度が実施例の吸音構造体と略同一であるため、実施例の吸音構造体と同様に800Hzに吸音性のメインピークを有している。しかし、比較例の吸音構造体は、シート材の厚みが実施例の吸音構造体よりも厚いため、500Hz以下の低周波域における吸音性が実施例の吸音構造体よりも劣っていた。
【0022】
このように、本発明の吸音構造体は、低周波域での吸音性を良好にすることができ、建設機械のファンなどの騒音対策、工場における集塵機、空調機など各種モーター機械騒音対策、電気機器類の騒音対策、鉄道・新幹線などのデッキ、パンタグラフでの騒音対策、建物の壁・天井・床の防音材、オフィス・トイレなどの仕切り壁、道路・空港などの防音壁、自動車の吸音材などとして好適なものである。
しかも、本発明の吸音構造体は、熱融着によってシート材を筐体に固定することができるため、製造が容易である。さらに、シート材の熱可塑性合成樹脂層と金属層が全面で接合されることにより、安定した吸音性を発揮することができる。
【符号の説明】
【0023】
10 吸音構造体
11 筐体
12 周壁
13、14 筐体の開口部
21 シート材
23 熱可塑性合成樹脂層
25 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する中空の筐体と、前記筐体に固定されて前記開口部を塞ぐ非通気性のシート材とよりなる吸音構造体において、
前記筐体が熱可塑性合成樹脂からなり、前記シート材が熱可塑性合成樹脂層と金属層が接合された二層からなり、前記熱可塑性合成樹脂層を前記筐体側にして前記筐体に融着固定されていることを特徴とする吸音構造体。
【請求項2】
前記シート材の熱可塑性合成樹脂層と金属層が、対向する面で全面接合されていることを特徴とする請求項1に記載の吸音構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−170003(P2011−170003A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32068(P2010−32068)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】