説明

周波数解析装置および自律神経活動評価装置

【課題】生体情報の取得と、自律神経活動度指標の算出と、その算出値や算出値に基づく情報の報知とを自動的に行うことができる周波数解析装置、および、かかる周波数解析装置を備え、自律神経の活動状態の評価結果を報知し得る自律神経活動評価装置を提供すること。
【解決手段】自律神経活動評価装置100は、心電計300と、情報処理回路202と、評価回路203と、表示部500とを有し、情報処理回路202は、所定の処理区間毎に、心電計300により得られた心拍のパターンを周波数解析することにより、自律神経活動度指標を算出し、心電計300による所定の測定期間が経過した後、各処理区間毎に算出された自律神経活動度指標の値の平均値を求め、評価回路203は、平均値に基づいて生体の自律神経活動状態を評価する。そして、表示部500は、情報処理回路202により求められた平均値および/または評価回路203による評価結果を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数解析装置および自律神経活動評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
採血中や採血後に、しばしば、副反応(異常反応)として血管迷走神経反応(vaso−vagal−reactions:VVR)、遅発性のめまいや失神が認められることがある。
【0003】
このVVRが採血中に発生すると、ドナーや患者は、気分不良、めまい、失神やショック症状を起こすことがあり、まれには重篤な場合もある。また、ドナーや患者に精神的なダメージを与え、採血に対する恐怖心を植え付けてしまい、以降の採血や治療等に支障を来たすおそれがある。
【0004】
また、ドナーや患者が採血室を後にしてから、めまいや失神を起こして転倒し、頭部等を強打して、病院に搬送されるという事例も報告されている。
【0005】
このようなVVRは、採血中または採血後に、自律神経系のバランスが崩れ、採血による血圧低下を抑制できないことが原因であると考えられている。
【0006】
したがって、これらの問題を解消するためには、ドナーや患者について、採血前または採血中に予め、自律神経の活動状態を評価し、自律神経の活動状態が不安定であると評価された場合には、採血を中止したり、VVRの発生を抑えるような対策を講じたりしておくことが有効である。
【0007】
自律神経の活動状態を示す指標(自律神経活動度指標)としては、心電図R−R間隔変動を周波数解析することによって求められる高周波成分(HF)や低周波成分/高周波成分(LH/HF)比が知られており(例えば、非特許文献1参照。)、これらの指標を用いることによって、自律神経の活動状態の評価を行うことにより、VVRの発生予測が行なえるものと考えられる。
【0008】
しかしながら、これまで、心電図の測定(生体情報の取得)、HFやLH/HF比等の自律神経活動度指標の算出等が別個に行われ、医療現場でリアルタイムに確認するための手段がなかった。
【0009】
【非特許文献1】日本輸血学会誌,第48巻,第6号,455〜464頁(2002年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、生体情報の取得と、自律神経活動度指標の算出と、その算出値や算出値に基づく情報の報知とを自動的に行うことができる周波数解析装置、および、かかる周波数解析装置を備え、自律神経の活動状態の評価結果を報知し得る自律神経活動評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)〜(11)の本発明により達成される。
(1) 心拍または脈拍を測定し生体情報として取得する生体情報取得手段と、
該生体情報取得手段により取得した心拍のパターンまたは脈拍のパターンを周波数解析する情報処理手段と、
報知手段とを有し、
前記情報処理手段は、所定の処理区間毎に、前記心拍のパターンまたは脈拍のパターンを周波数解析することにより、自律神経の活動状態を示す自律神経活動度指標を算出し、前記生体情報取得手段による所定の測定期間が経過した後、前記各処理区間毎に算出された前記自律神経活動度指標の値の平均値を求め、
前記報知手段は、前記情報処理手段により求められた前記平均値および/または該平均値に基づく情報を報知するよう構成されていることを特徴とする周波数解析装置。
【0012】
(2) 隣り合う前記処理区間同士は、一部が互いに重なるよう設定されている上記(1)に記載の周波数解析装置。
【0013】
(3) 隣り合う前記処理区間同士の始点のズレ時間をA[sec]とし、1つの前記処理区間の時間をB[sec]としたとき、A/Bが0.0001〜1なる関係を満足する上記(2)に記載の周波数解析装置。
【0014】
(4) 隣り合う前記処理区間同士の始点のズレ時間は、0.01〜60secである上記(2)または(3)に記載の周波数解析装置。
【0015】
(5) 1つの前記処理区間の時間をB[sec]とし、前記測定期間をC[sec]としたとき、B/Cが0.008〜1なる関係を満足する上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の周波数解析装置。
【0016】
(6) 前記測定期間は、60〜7200secである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の周波数解析装置。
【0017】
(7) 1つの前記処理区間の時間は、30〜300secである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の周波数解析装置。
【0018】
(8) 前記周波数解析の手法は、最大エントロピー法である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の周波数解析装置。
【0019】
(9) 前記自律神経活動度指標は、高周波成分(HF)、低周波成分/高周波成分(LF/HF)比およびHF/(LF/HF)×αのうちの少なくとも1つである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の周波数解析装置。
(10) 前記αは、10〜100である上記(9)に記載の周波数解析装置。
【0020】
(11) 上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の周波数解析装置と、
前記情報処理手段により求められた前記平均値に基づいて、生体の自律神経の活動状態を評価する評価手段とを有し、
前記報知手段は、前記平均値に基づく情報として、前記評価手段による評価結果を報知するよう構成されていることを特徴とする自律神経活動評価装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、生体情報の取得、自律神経活動度指標の算出、その算出値や算出値に基づく情報の報知、さらには、自律神経の活動状態の評価結果の報知を自動的に行うことができる。その結果、例えば、医療行為や日常行動等に際して、例えば血管迷走神経反応(VVR)のような自律神経の活動に伴う血圧低下、めまいや失神等の症状の発生を予測して、未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の周波数解析装置を適用した自律神経活動評価装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
まず、本発明の自律神経活動評価装置の実施形態について説明する。
図1は、本発明の自律神経活動評価装置の実施形態を示すブロック図、図2は、図1に示す自律神経活動評価装置における測定時間および各処理区間の設定例を示す図である。
【0024】
図1に示す自律神経活動評価装置100は、例えば、ドナーから採血等を開始するのに先立って、ドナー(生体)の自律神経の活動状態(以下、単に「自律神経活動状態」と言う。)を評価するのに用いられる装置であり、この自律神経活動状態を、処理区間毎に生体情報として取得された心拍のパターンを周波数解析することにより自律神経活動度指標(自律神経の活動状態を示す指標)を算出し、各処理区間毎に算出された自律神経活動度指標の値の平均値を求め、求められた平均値に基づいて評価するよう構成された装置である。
【0025】
この自律神経活動評価装置100は、心電計300、表示部500、メモリ600および制御手段200(後述する通信回路201、情報処理回路202、評価回路203)によって構成される。
【0026】
以下、各部の構成について、順次説明する。
心電計300は、自律神経の活動により生じるドナー(生体)の反応を生体情報として取得する生体情報取得手段を構成する。
【0027】
心電計300は、ハンドグリップ型、リストバンド型、腕帯型、指式等の着衣のまま使用できるもの、すなわち、生体情報を非観血的(非観血式)に取得するものであるのが好ましい。これにより、血液を提供するようなドナー等に対して、心電計を容易に装着することができ、測定に要する時間を短縮することができる。
【0028】
また、図1に示すように、心電計300は、通信回路301を有している。通信回路301は、制御手段200が有する通信回路201(後述する)との間でワイヤレス通信(無線の通信)が可能とされている。これにより、心電計300は、取得した生体情報をメモリ600へワイヤレス通信により送信することができる。
【0029】
このような構成により、ドナーには、自律神経活動評価装置100に拘束されているというような感覚(圧迫感)を低減させ、その結果、例えば、血管迷走神経反応(VVR)、めまい、失神等の異常反応を引き起こす要因の一つである不安・緊張の低減を図り、自律神経状態の評価をより正確に行うこともできる。
【0030】
心電計300は、生体情報としてドナーの心拍(心拍動)を取得(検出)するものであり、具体的には、+電極、−電極およびE電極(アース)の3つの電極を用いて、心筋の活動電位を示す心電誘導波(心電図)を連続的に検出して、心拍の間隔を記憶するものである。この心電計300は、小型のものを用いるのが好ましい。小型の心電計300を用いることにより、ドナーの圧迫感を低減させることができる。
【0031】
また、心電計300が備える各電極は、使い捨てされるもの、再使用されるもののいずれであってもよい。各電極を使い捨てとすることにより、電極の装着や取り外しが容易になるうえ、ドナーに対して医療行為が衛生的に行われることを印象付けることができ、かかる点からも、異常反応(副反応)を引き起こす要因の一つである不安の低減を図り、自律神経状態の評価をより正確に行うことができる。一方、各電極を再使用可能なものとすれば、自律神経活動状態の評価におけるコストの削減を図ることができる。
【0032】
制御手段200は、例えば、マイクロコンピュータ等で構成されており、ワイヤレス通信を可能とする通信回路201と、取得した心拍のパターン(心電図からパターン認識等により検出したR−R間隔のゆらぎ)を周波数解析する情報処理回路(情報処理手段)202と、情報処理回路202により得られたデータ(求められた値)を、予め設定した評価基準に従って評価する評価回路(評価手段)203とを内蔵している。
【0033】
通信回路201は、心電計300が測定し取得した心拍(生体情報)をワイヤレス通信により受信し、メモリ600に出力する。メモリ600は、心拍を随時記憶(記録)する。
なお、心電計300と制御手段200とは、一体化されていてもよい。
【0034】
情報処理回路202は、メモリ600に記憶された心拍を随時読み出し、この心拍に基づいて、自律神経活動度指標を経時的に繰り返し算出し、自律神経活動度指標の値の平均値を求める。
【0035】
具体的には、情報処理回路202は、先ず、メモリから読み出された心拍(心電図)のR−R間隔(心拍のパターン)を、所定の処理区間毎に周波数解析することにより、自律神経活動度指標を算出する。
【0036】
図2に示す例では、各処理区間d(d〜d)(ここで、iは、1〜nの整数値を示す)同士は、それぞれ、時間B[sec]に設定され、かつ、隣り合う処理区間d,di+1同士が一部が互いに重なるよう設定されている。
【0037】
なお、隣り合う処理区間d,di+1同士は、互いに重なり合わないよう(間欠出力方式)に設定されていてもよいが、一部が互いに重なるよう(連続出力方式)に設定されていることにより、ドナーの自律神経活動状態を正確に評価することができる。
【0038】
次に、心電計300による所定の測定期間Cが経過した後、情報処理回路202は、各処理区間d〜d毎に算出された自律神経活動度指標の値の平均値を求める。
【0039】
ここで、自律神経活動度指標としては、例えば、副交感神経活動度指標である高周波成分(HF)[msec]、交感神経活動度指標である低周波成分/高周波成分(LF/HF)比、交感神経活動度に対する副交感神経活動度の大きさを示すHF/(LF/HF)×α[msec]、心電図R−R間隔の変動係数(CVRR)、隣り合った心電図R−R間隔の差を自乗して得られた値の平均値の平方根(rMSSD)、隣り合った心電図R−R間隔の差が50msecを超える心拍の割合(pNN50)の、瞬時心拍数(HR)等が挙げられるが、HF、LF/HF比およびHF/(LF/HF)×αのうちの少なくとも1つを用いるのが好ましい。これらの指標を用いることにより、ドナーの自律神経活動状態を特に正確に評価することができる。
【0040】
また、HF/(LF/HF)×αにおいて、αは、10〜100であるのが好ましく、25〜75であるのがより好ましく、例えば50とされる。これにより、HF/(LF/HF)×αで求められる値が、自律神経活動状態をより正確に反映するものとなる。
【0041】
そして、隣り合う処理区間d,di+1同士の始点のズレ時間A[sec]とし、1つの処理区間dの時間をB[sec]としたとき、A/Bが0.0001〜1なる関係を満足するのが好ましく、0.017〜0.5なる関係を満足するのがより好ましく、例えば0.05とされる。これにより、測定期間Cが不要に長くなるのを防止しつつ、ドナーの自律神経活動状態を正確に反映する自律神経活動度指標の値を算出することができる。
【0042】
隣り合う処理区間d,di+1同士の始点のズレ時間Aの具体的な値は、0.01〜60secであるのが好ましく、1〜10secであるのがより好ましく、例えば3secとされる。これにより、各処理区間d〜dにおいて、それぞれ算出される自律神経活動度指標の値が、ドナーの自律神経活動状態をより正確に反映するものとなる。
【0043】
また、1つの処理区間の時間をB[sec]とし、測定期間をC[sec]としたとき、B/Cが0.008〜1なる関係を満足するのが好ましく、0.05〜0.5なる関係を満足するのがより好ましく、例えば0.2とされる。これにより、測定期間Cにおいて十分な数の処理区間の数を確保することが可能となり、ドナーの自律神経活動状態を正確に評価し得る自律神経活動度指標の値の平均値を求めることができる。
【0044】
測定期間Cの具体的な値は、60〜7200secであるのが好ましく、180〜1200secであるのがより好ましく、例えば300secとされる。これにより、測定期間Cが不要に長くなるのを防止しつつ、ドナーの自律神経活動状態を正確に反映する自律神経活動度指標の値の平均値を求めることができる。
【0045】
また、1つの処理区間dの時間Bの具体的な値は、30〜300secであるのが好ましく、45〜180secであるのがより好ましく、例えば60secとされる。なお、1つの処理区間dの時間Bが前記下限値より小さい場合には、データの数が少なすぎ、ドナーの自律神経活動状態を正確に反映する自律神経活動度指標の値を算出するのが困難になるおそれがあり、一方、1つの処理区間dの時間Bを前記上限値を超えて長くしても、それ以上の効果は得られず、心拍の取得のために、ドナーを長時間拘束するようになるだけで好ましくない。
【0046】
心拍(心電図)のR−R間隔(心拍のパターン)の周波数解析(時間周波数解析)の手法としては、例えば、最大エントロピー法(MEM法)、高速フーリエ変換法(FFT法)、ウェーブレット法等が挙げられるが、これらの中でも、最大エントロピー法を用いるのが好ましい。最大エントロピー法によれば、時間分解能の高い解析を行うことができるので、この手法を用いることにより、自律神経活動状態を正確に反映する自律神経活動度指標の値やその平均値を得るのに必要な測定期間Cや、1つの処理区間d1〜dnの時間Bを比較的短く設定することができる。
【0047】
次に、情報処理回路202は、各処理区間d(d〜d)毎に算出された自律神経活動度指標の値を合計し、処理区間d〜dの数nで割ることにより、その平均値を求める。
なお、経時的に平均値を求めて、その平均値を更新させるようにしてもよい。
【0048】
次に、評価回路203は、情報処理回路202により求められた平均値を、予め設定した評価基準に従って評価する。
【0049】
例えば、採血終了後にVVRが発生する可能性を評価する場合、評価基準は、以下のように設定される。
【0050】
I:自律神経活動度指標としてHFを用いる場合
安全域: (HF)≦SA1
注意域:SA1<(HF)≦SA2
危険域:SA2<(HF)
ただし、(HF)は、HFの値の平均値を示す。
【0051】
A1は、200〜325であるのが好ましく、250〜300であるのがより好ましく、例えば275とされる。
【0052】
また、SA2は、326〜500であるのが好ましく、350〜450であるのがより好ましく、例えば415とされる。
【0053】
II:自律神経活動度指標としてLF/HF比を用いる場合
安全域:SB1≦(LF/HF)
注意域:SB2≦(LF/HF)<SB1
危険域: (LF/HF)<SB2
ただし、(LF/HF)は、LF/HF比の値の平均値を示す。
【0054】
B1は、3.5〜7であるのが好ましく、4.5〜5.5であるのがより好ましく、例えば5.0とされる。
【0055】
また、SB2は、0.5〜3.4であるのが好ましく、1〜2であるのがより好ましく、例えば1.5とされる。
【0056】
III:自律神経活動度指標としてHF/(LF/HF)×50を用いる場合
安全域: (HF/(LF/HF)×50)≦SC1
注意域:SC1<(HF/(LF/HF)×50)≦SC2
危険域:SC2<(HF/(LF/HF)×50)
ただし、(HF/(LF/HF)×50)は、HF/(LF/HF)×50の値の平均値を示す。
【0057】
C1は、1〜3であるのが好ましく、1.5〜2.5であるのがより好ましく、例えば2.3とされる。
【0058】
また、SC2は、3.1〜6であるのが好ましく、4〜5であるのがより好ましく、例えば4.3とされる。
【0059】
なお、SA1、SA2、SB1、SB2、SC1、SC2は、ドナーの性別、年齢や、日常生活におけるめまいや立ちくらみ(失神)の傾向等の問診結果等に基づき、自律神経活動評価装置100の操作者(オペレータ)が、それぞれ、前述したような範囲内で適宜設定(変更)し得るよう構成されていてもよい。
【0060】
また、高速フーリエ変換法、ウェーブレット法を用いて周波数解析する場合には、最大エントロピー法を用いて周波数解析したときの値と多少異なるので、周波数解析の手法に応じて、SA1、SA2、SB1、SB2、SC1、SC2を、それぞれ、前述したような範囲内で適宜設定(変更)し得るよう構成されていてもよい。
【0061】
ここで、「安全域」とは、ドナーの自律神経活動状態が安定しており、ドナーが、採血中または採血を終えて採血ベッドから起立した後、前述したような症状(副反応)を引き起こす可能性が低い状態を示し、「注意域」とは、ドナーの自律神経活動状態が「安全域」より不安定であり、ドナーが、採血中または採血を終えて採血ベッドから起立した後、前述したような症状(副反応)を引き起こす可能性が若干あり、採血中や採血後の観察を要する状態を示し、「危険域」とは、ドナーの自律神経活動状態が「注意域」より不安定であり、ドナーが、採血中または採血を終えて採血ベッドから起立した後、前述したような症状(副反応)を引き起こす可能性が高く、採血に際してドナーの体位を変化させる必要がある状態や、採血中や採血後の観察を十分に要する状態を示す。
【0062】
表示部(報知手段)500は、例えば、発光ダイオード(LED)やEL素子等の発光素子、ランプ、EL表示素子や液晶表示素子(LCD)等で構成されており、評価回路203による評価結果を表示する。例えば、「安全域」、「注意域」または「危険域」なる文字により表示するように構成できる他、例えば、かかる内容を示す色またはアイコン(図形)等により表示することができる。これにより、自律神経活動評価装置100の操作者(医師や看護師)がドナーの自律神経活動状態を容易に把握することができる。
【0063】
また、表示部500には、かかる表示に代えて、または、かかる表示とともに情報処理回路201で算出された平均値を、表示するようにしてもよい。
【0064】
なお、報知手段は、これらに限らず、その他、例えば、ブザー(一定の音やメロディー等を発する装置)、言葉を発する装置等の音声出力部で構成することもできる。また、報知手段として、表示部および音声出力部の双方を備えていてもよい。
【0065】
以上のように、本実施形態の自律神経活動評価装置100では、生体情報の取得と、自律神経活動度指標の算出と、自律神経活動状態の評価を自動的に行うよう構成されているので、ドナーの異常反応が発生するか否かの予測を、他の装置を組み合わせることなく、この自律神経活動評価装置100のみで容易に行うことができる。
【0066】
また、自律神経活動状態を評価するための一定の評価基準が予め設定されているので、操作者に依らず、一定の評価結果を得ることができる。
【0067】
次に、自律神経活動評価装置100の作用について、図1および図2を参照しつつ説明する。なお、ここではドナーの異常反応として、採血開始後にVVRが発生する可能性を評価する場合を例にする。
【0068】
[1] 採血ベッドに横(臥位)になったドナーは、心電計300を装着して作動させる。
【0069】
[2] そして、所定の測定期間が経過すると、表示部500には、評価回路203による評価結果が、例えば、青色で「安全域」、黄色で「注意域」、赤色で「危険域」と表示される。
【0070】
[3] 操作者は、表示部500に表示された評価結果を確認し、その評価結果に応じた対応を行う。
【0071】
例えば、表示部500に、「安全域」と表示された場合には、通常の手法で、採血操作を行う。
【0072】
また、表示部500に、「注意域」と表示された場合には、副反応の発生を抑制するような処置を行った後、または、処置を行いつつ採血操作を行う。このような処置としては、例えば、採血操作を行う前にドナーに水分を補給させる処置、採血操作を行う際にベッドを少し倒す処置、採血操作を行った後できるだけ長い時間休憩させる処置等が挙げられる。
【0073】
また、表示部500に、「危険域」と表示された場合には、ドナーを臥位状態として採血操作を行うようにして、採血操作を行った後には十分な水分を補給させるとともに、十分に休憩をとらせたり、採血操作そのものを中止または一時中止し、必要に応じて、足よりも頭の位置が若干低くなるように、ベッドの角度を調整して休憩をとらせる。
【0074】
以上のような対応により、ドナーがVVR(副反応)を引き起こすのを未然に防止して、ドナーの安全を確保することができる。また、採血操作を途中で中止せざるを得ない状態が生じるのを防止して、採血操作に使用する採血針、バッグ、採血回路等を無駄に破棄することを防止することもできる。
【0075】
なお、本実施形態では、生体情報取得手段が心電計300で構成されていたが、生体情報取得手段は、心電計300に代わり、脈拍計で構成することもでき、心電計および脈拍計の双方で構成することもできる。
【0076】
ここで、脈拍計は、生体情報として脈拍(脈拍動)を取得(検出)することができるものであり、例えば、心臓の拍動とともに発生する指尖容積脈波を連続的に検出する。このとき、脈拍間隔を精度よく検出するため、2回微分した脈波(加速度脈波)を使うことが好ましい。得られた脈波からは、例えば、隣り合った脈の間隔に基づいて、前記と同様の処理により、前記と同様のHF、LF/HF比、HF/(LF/HF)×α等の自律神経活動度指標を算出することができる。
【0077】
この脈拍計としては、例えば、指尖容積脈波法、オシロメトリック法、圧脈波法またはこれらを応用した方法を用いた血圧計等を用いることができる。
【0078】
また、これらのものは、リストバンド型、フィンガークリップ型、イヤークリップ型、接触型等の着衣のまま使用できるものが好適である。このような脈拍計を用いることにより、簡便かつ正確なドナーの脈波測定が可能となる。
【0079】
なお、脈拍計のセンサーも、使い捨てされるもの、再使用されるもののいずれであってもよい。
【0080】
その他、生体情報取得手段は、血管幅を画像解析により連続的に監視する装置で構成することにより、自律神経活動度指標(交感神経活動度指標または副交感神経活動度指標)として代用することもできる。
【0081】
以上、本発明の周波数解析装置および自律神経活動評価装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものに置換することができ、また、必要に応じて任意の構成を付加することも、任意の構成を省略することもできる。
【0082】
例えば、本発明の自律神経活動評価装置は、採血装置や血液成分採取装置と組み合わせて使用するようにしてもよい。
【0083】
採血装置としては、例えば、特許第3241966号公報に記載のものを用いることができる。
【0084】
この採血装置は、真空ポンプにより減圧される真空採血室を備え、この真空採血室に血液バッグをセットし、制御手段により真空ポンプ(減圧手段)の作動を制御して、真空採血室を減圧することにより血液バッグへの採血を行うものである。この採血装置では、真空採血室および真空ポンプにより採血手段が構成される。
【0085】
そして、採血中に、自律神経活動評価装置により、異常反応の発生する可能性が高くなったものと評価された場合には、例えば、制御手段により採血手段の作動を制御して採血速度を低減または採血操作を停止(注しまたは一時停止)するように構成することができる。
なお、採血装置は、落差式のものを用いてもよい。
【0086】
また、血液成分採取装置は、例えば、採血針および血漿バッグに接続されたポンプと、採血された血液を複数の血液成分に分離する遠心分離器を有して構成される。
【0087】
そして、採血中に、自律神経活動評価装置により、異常反応の発生する可能性が高くなったものと評価された場合には、例えば、制御手段によりポンプの作動を制御して、採血速度または返血速度を低減もしくは脱血操作または返血操作を停止(中止または一時停止)するように構成することができる。
【0088】
また、本発明の周波数解析装置および自律神経活動評価装置は、採血操作や脱血操作に伴う異常反応(副反応)を防止することを目的とする使用の他、例えば、各種医療行為に際して発生し得る自律神経の活動に伴う異常反応や、各種疾病あるいは日常生活行動(例えば、食事、入浴、起立、階段のかけ上がり等)に伴うめまい、立ちくらみや失神の発生を防止することを目的として使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の周波数解析装置を適用した自律神経活動評価装置の実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示す自律神経活動評価装置における測定時間および各処理区間の設定例を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
100 自律神経活動評価装置
200 制御手段
201 通信回路
202 情報処理回路
203 評価回路
300 心電計
301 通信回路
500 表示部
600 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心拍または脈拍を測定し生体情報として取得する生体情報取得手段と、
該生体情報取得手段により取得した心拍のパターンまたは脈拍のパターンを周波数解析する情報処理手段と、
報知手段とを有し、
前記情報処理手段は、所定の処理区間毎に、前記心拍のパターンまたは脈拍のパターンを周波数解析することにより、自律神経の活動状態を示す自律神経活動度指標を算出し、前記生体情報取得手段による所定の測定期間が経過した後、前記各処理区間毎に算出された前記自律神経活動度指標の値の平均値を求め、
前記報知手段は、前記情報処理手段により求められた前記平均値および/または該平均値に基づく情報を報知するよう構成されていることを特徴とする周波数解析装置。
【請求項2】
隣り合う前記処理区間同士は、一部が互いに重なるよう設定されている請求項1に記載の周波数解析装置。
【請求項3】
隣り合う前記処理区間同士の始点のズレ時間をA[sec]とし、1つの前記処理区間の時間をB[sec]としたとき、A/Bが0.0001〜1なる関係を満足する請求項2に記載の周波数解析装置。
【請求項4】
隣り合う前記処理区間同士の始点のズレ時間は、0.01〜60secである請求項2または3に記載の周波数解析装置。
【請求項5】
1つの前記処理区間の時間をB[sec]とし、前記測定期間をC[sec]としたとき、B/Cが0.008〜1なる関係を満足する請求項1ないし4のいずれかに記載の周波数解析装置。
【請求項6】
前記測定期間は、60〜7200secである請求項1ないし5のいずれかに記載の周波数解析装置。
【請求項7】
1つの前記処理区間の時間は、30〜300secである請求項1ないし6のいずれかに記載の周波数解析装置。
【請求項8】
前記周波数解析の手法は、最大エントロピー法である請求項1ないし7のいずれかに記載の周波数解析装置。
【請求項9】
前記自律神経活動度指標は、高周波成分(HF)、低周波成分/高周波成分(LF/HF)比およびHF/(LF/HF)×αのうちの少なくとも1つである請求項1ないし8のいずれかに記載の周波数解析装置。
【請求項10】
前記αは、10〜100である請求項9に記載の周波数解析装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の周波数解析装置と、
前記情報処理手段により求められた前記平均値に基づいて、生体の自律神経の活動状態を評価する評価手段とを有し、
前記報知手段は、前記平均値に基づく情報として、前記評価手段による評価結果を報知するよう構成されていることを特徴とする自律神経活動評価装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−44442(P2007−44442A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234998(P2005−234998)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000231729)日本赤十字社 (7)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】