説明

周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体

【課題】建物の窓に取り付けたり室内の透明な間仕切りに使用することができる、視認性に優れると共に厚みを薄くできて、広帯域の共振周波数を有する周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体を提供する。
【解決手段】所定周波数帯域の電磁波を遮蔽するため、透明な固体誘電体からなる中間基材層の両端面に、誘電体からなる透明基材が粘着剤層を介して積層され、前記透明基材の一方の表面には、それぞれ電磁波遮蔽用のFSS素子からなる細線パターンが配設されてなり、前記中間基材層の厚みは略λ/60〜λ/5(但し、λは中間基材層における電磁波の遮蔽しようとする所定周波数での波長を表す。)であり、前記2つの細線パターンは導電性の金属層からなる細線パターンであり、前記透明基材の一方の面に対して垂直な方向から視て2つの細線パターンの配列間隔が略重なる位置に配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の周波数帯域の電磁波のみを選択的に遮蔽し、他の周波数の電磁波を透過する周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体に関する。さらに詳細には、屋外からの電磁波の進入を防止し、あるいは屋内からの電磁波の漏洩を防止するために、建物の窓に取り付けたり室内の透明な間仕切りに使用することができる、視認性に優れると共に厚みを薄くできて、広帯域の共振周波数を有する周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の電子機器から発生する電磁波が人体に悪影響を与えたり、周囲の電子機器を誤動作させることが問題とされるようになり、さらには、無線LANの普及により通信データが建物の外部に漏洩して傍受されるのを防止する必要が生じている。
このため、所定の周波数の電磁波のみを選択的に遮蔽し、その他の周波数の電磁波を透過するという、周波数選択遮蔽型の電磁波シールドの対策がますます重要視されつつある。
【0003】
具体的には、企業における業務上の無線LANによる通信データが建物の外部に、あるいは複数の企業が混在する複合ビルにあっては間仕切り壁の外部に、不必要に漏洩するのを防止するため、2.4GHz帯及び5.2GHz帯の周波数を使用する無線LANの電波が透過するのを遮蔽する必要がある。
また、外部との業務連絡に使用している携帯電話(0.8GHz帯、1.5GHz帯、2.0GHz帯)及び地上デジタルテレビ放送用(470〜770MHz)の電波等は、業務連絡用あるいは緊急時の情報入手用として重要であり遮蔽しないで透過させる必要がある。
従って、所定の周波数帯域の電磁波のみを選択的に遮蔽し、その他の周波数の電磁波を透過させる機能を有する周波数選択遮蔽型の電磁波シールド材が必要とされている。
【0004】
従来、遮蔽しようと意図している所定の周波数の電磁波のみを選択的に遮蔽し、その他の周波数の電磁波を透過させる周波数選択遮蔽型の電磁波シールド材及び電磁波シールド積層体としては、導電体からなるFSS素子(FSS:Frequency Selective Surface)を繰り返し配列したものが知られている(特許文献1〜7参照)。
【0005】
FSS素子を用いた周波数選択性の電磁波遮蔽(シールド)材の使用方法及び電磁波遮蔽(シールド)積層体としては、次のような構成が知られている。
(1)表面にFSS素子を形成した透明基材を窓ガラスなどの片面に貼る(特許文献1,2,3,6)。
(2)表面にFSS素子を形成した基材層を一定間隔で離して複数個を設ける(特許文献4,5)。
(3)誘電体の片面に電磁波吸収層として抵抗体層を設け、他方の面に反射層としてFSS素子を形成する(特許文献7)。
【0006】
従来技術において、上記(1)の1枚のFSS素子で周波数選択遮蔽する場合は、基本的で簡単な構成であるが、特定の周波数に対してのみ鋭い共振周波数を有するという特性から、試行錯誤しながら細線パターンの図形形状及び寸法を調整する必要があった。
また、上記(2)のFSS素子を形成した基材層を一定間隔で離して複数個数を設けるという構成は、1枚のFSS素子も用いたものよりも遮蔽レベルが高まるという効果を有するが、電磁波遮蔽体の厚みを薄くすることを意図したものではなかった(例えば、特許文献4)。
【0007】
また、上記(3)の誘電体の片面に電磁波吸収層として抵抗体層を設け、他方の面に反射層としてFSS素子を形成するものは、誘電体の厚みを波長λの1/4(ここで、波長λは誘電体における遮蔽しようと意図する周波数での波長を表す。)に設定するものである。いわゆるλ/4型の遮蔽体である。抵抗体層の表面で反射された表面反射波と、特定の周波数の電磁波のみをFSS素子で反射された内部反射波が逆位相で、かつ同振幅となることにより吸収されるものである。このため、特定の周波数に対して選択遮蔽するためには、誘電体の誘電率と厚みとを調整する必要があるが、既存の窓ガラスに適用する場合には、特定された窓ガラスの誘電率に応じて窓ガラスの厚みを変更することになり、汎用的に実用化することが困難であった。
【0008】
一方、FSS素子の製造方法に関しては、次の3種類が知られている。
(イ)透明基材の片面に金属箔を貼り合せ、または透明基材に金属薄膜を蒸着した後、フォトリソグラフ法によりFSS素子のパターンを形成するエッチング法(特許文献1,3,5)。
(ロ)透明基材の上に金属ペーストを印刷してFSS素子のパターンを形成する印刷法(特許文献4,6)。
(ハ)透明基材の上に金属線または金属片にてFSS素子のパターンを形成する金属線法(特許文献2)。
【0009】
FSS素子の細線パターンの製造方法においては、上記(イ)のエッチング法では、エッチングにより細線部分となるほんのわずかな部分のみを残し、それ以外のほとんど大部分の金属を溶解除去するのは資源を節減するという観点から問題である。さらに、エッチング処理液の廃液処理に費用が嵩むため、製造コストが高くなるという問題がある。また、金属の薄膜を蒸着する場合は、膨大な設備費が必要となることから簡単に製造を行うことができないという問題があった。
【0010】
また、上記(ロ)の印刷法によるFSS素子の細線パターンの製造方法において、従来技術では、細線パターンの線幅を100μm以上(特許文献2)、あるいは0.1〜1.2mm(特許文献5)としているため、細線パターンの図形が目視可能であり視る者に対して心理的な不快感を与えてしまうという問題があった。
【0011】
また、上記(ハ)の金属線法では、目視できないような極めて細い金属細線を効率よく細線パターンに配置することが技術的に困難であるという問題があった。
【特許文献1】米国特許第4656487号明細書
【特許文献2】特開平08−330783号公報
【特許文献3】特開平10−126090号公報
【特許文献4】特開平11−068374号公報
【特許文献5】特開平11−195890号公報
【特許文献6】特開2000−068675号公報
【特許文献7】特開2000−323920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術による、上記(1)の表面にFSS素子を形成した透明基材を窓ガラスなどの片面に貼り合せた電磁波シールド積層体、及び、上記(2)の表面にFSS素子を形成した基材層を一定間隔で離して複数個を設けた電磁波シールド積層体においては、通常、共振周波数の設定値に対する遮蔽レベルの半値幅が狭く、結果として共振周波数のピークが鋭くて許容誤差が非常に狭くなっている。従って、共振周波数の設定値から少しでもずれると、遮蔽効果が著しく低下するという問題があった。
【0013】
また、従来技術として、上記(2)のように表面にFSS素子を形成した基材層を一定間隔で離して複数個数を設けることは知られているが、本発明のように、厚みを薄くできて、広帯域の共振周波数を有する周波数選択遮蔽型の電磁波シールド材とするため、厚みが略λ/60〜λ/5(但し、λは中間基材層における電磁波の遮蔽しようとする所定周波数での波長を表す。)の透明な固体誘電体からなる中間基材層の両端面に、誘電体からなる透明基材が粘着剤層を介して積層され、その透明基材の一方の表面に配設されたFSS素子の細線パターンが略重なるようにして基材層を一定間隔で配置したものは知られていない。
【0014】
例えば、特許文献4は、表面にFSS素子を形成した基材層を所定誘電率の物質(具体的には空気層)を介在させて、一定間隔で離して複数個数を設けた周波数選択性の電磁波遮蔽体であって、表面にFSS素子を形成した基材層を、電磁遮蔽する電波の波長をλとした場合に略λ/4の奇数倍の一定間隔で配置したものである。また、特許文献4の第2及び第3の実施形態では、巻取りロールにFSS素子を配設したシートを取り付けてあり、巻取りロールの停止位置は任意であることからしてみると、特許文献4は、一定間隔を隔てた2枚のFSS素子を配設したシートにおいて、FSS素子のパターンが重なることを意図したものではない。
【0015】
また、特許文献5には、エッチングによるFSS素子の細線パターンの製造方法を用いて、互いに平行な複数の平面上に、平面に垂直な方向からみて重ならないように規則的に配置された複数のFSS素子パターンを用いた周波数選択性の電磁波シールド積層体が開示されている。なお、3次元的に配置する場合においては、平面に垂直な方向からみてFSS素子パターンの一部分が重なっても良いとの記載も見られるが、基本的には、隣接するFSS素子パターンが重ならない配置としている。
【0016】
また、共振周波数に影響を及ぼすFSS素子の細線パターンの図形形状、線幅、寸法(開放図形の場合には図形の長さを波長λの1/2とし、環状図形の場合には図形の全周長さを波長λと等しくする)、パターン間隔を試行錯誤にて設定するため、最終的に細線パターンの図形形状、配列を決定するまでに多くの煩雑な作業を必要としていた。
特に複数の共振周波数に対して遮蔽できるようにするためには、複数種類のFSS素子を配列させる必要があり、各FSS素子の図形配列の調整が複雑になるという問題があった。
【0017】
また、特許文献6では、段落0019に記載されているように、導電性双極性素子(FSS素子)の線幅は、一般には0.1〜10mm、好ましくは0.1〜5mm、さらに好ましくは0.1〜1mmであるとしている。線幅が0.1mmを下回ると遮蔽力が弱くなり、10mmを上回るとシールド性には問題ないが透視性が問題になることが記載されていることから、特許文献6では、線幅を0.1mm(100μm)以下にして視認性を高めることは困難であった。
【0018】
また、上記(ロ)の印刷法によるFSS素子の細線パターンの製造方法においては、細線パターンの線幅を100μm以上(特許文献2)、あるいは0.1〜1.2mm(特許文献5)としているため、細線パターンの図形が目視可能であり視る者に対して心理的な不快感を与えてしまうという問題があった。
【0019】
上記のような問題を解決するためには、周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体においては、FSS素子パターンの形状寸法、配列間隔、誘電体の厚みなどにある程度の許容誤差を含んでいても、所定の共振周波数での電磁波遮蔽効果が得られようにして、視る者に対して心理的な不快感を与えないように視認性に優れると共に、厚みを薄くできて、広帯域の共振周波数を有する電磁波シールド積層体が求められていた。
【0020】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、視認性に優れると共に厚みを薄くできて、広帯域の共振周波数を有する周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記課題を解決するため、本発明は、所定周波数帯域の電磁波を遮蔽するための周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体であって、透視性を有し、1層又は誘電率の異なる2層以上の透明な固体誘電体からなる中間基材層の両端面に、誘電体からなる透明基材が粘着剤層を介して積層され、前記透明基材の一方の表面には、それぞれ電磁波遮蔽用のFSS素子からなる細線パターンが配設されてなり、前記中間基材層の厚みは略λ/60〜λ/5(但し、λは中間基材層における電磁波の遮蔽しようとする所定周波数での波長を表す。)であり、前記中間基材層の両面側に配される2つの細線パターンは写真製法により生成された現像銀層からなる金属層であって、前記透明基材の一方の面に対して垂直な方向から視て前記2つの細線パターンの配列間隔が略重なる位置に配設されてなることを特徴とする電磁波シールド積層体を提供する。
【0022】
また、本発明は、所定周波数帯域の電磁波を遮蔽するための周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体であって、透視性を有し、1層又は誘電率の異なる2層以上の透明な固体誘電体からなる中間基材層の両端面に、誘電体からなる透明基材が粘着剤層を介して積層され、前記透明基材の一方の表面には、それぞれ電磁波遮蔽用のFSS素子からなる細線パターンが配設されてなり、前記中間基材層の厚みは略λ/60〜λ/5(但し、λは中間基材層における電磁波の遮蔽しようとする所定周波数での波長を表す。)であり、前記中間基材層の両面側に配される2つの細線パターンは導電性ペーストを印刷することにより生成された金属層であって、前記透明基材の一方の面に対して垂直な方向から視て前記2つの細線パターンの配列間隔が略重なる位置に配設されてなることを特徴とする電磁波シールド積層体を提供する。
【0023】
本発明の電磁波シールド積層体においては、前記FSS素子の細線パターンの図形形状が開放図形の場合には、図形の両端間の長さを波長λの1/2とし、環状図形の場合には、図形の全周長さを波長λに等しくすることが好ましい。
【0024】
また、前記透明基材の少なくとも一方の表面には、特定の商号、商標、型番などのロゴマーク及び/又は位置合わせマークであって、前記中間基材層の両面側に配される2つの細線パターンの重なる位置を調整するのに利用できる、図形、文字、記号、符号などの群から選択された1種類以上が、目視可能な大きさによって、縦及び横方向にそれぞれ一定の間隔で配設されてなることが好ましい。
【0025】
また、前記金属層からなる細線パターンの線幅が15〜80μmであり、かつ厚みが0.05〜15μmであることが好ましい。
【0026】
また、前記細線パターンは、1つ又は複数の共振周波数に対して遮蔽できるように、1種類又は複数種類の形状からなるFSS素子が配列されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体によれば、透明な固体誘電体からなる中間基材層の両面側に、中間基材層の平面に対して垂直な方向からみて、両面側のFSSからなる細線パターンの間隔が略重なるように配置されているので、片面側にのみFSS素子を配列した場合に比べて、共振周波数の設定値に遮蔽レベルの半値幅が広くてピークが鈍くなり、即ち、広帯域の共振周波数を有するので、共振周波数に影響を及ぼす、FSS素子パターンの線幅、パターン寸法の許容誤差の範囲が広くなり、パターン形状、配列間隔を決定し易くなる。
【0028】
また、本発明によると、共振周波数が広帯域化しているので、逆に捉えると、許容される共振周波数帯域の上限側に遮蔽しようとする周波数が来るように、透明な固体誘電体からなる中間基材層、ひいては電磁波シールド積層体の厚みを薄くして調整することができる。すなわち、厚みの薄い電磁波シールド積層体を得ることができる。
【0029】
また、本発明の周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体によれば、細線パターンの金属層の線幅が15〜80μmであり、かつ厚みが0.05〜15μmであるので、視認性(目視されないこと)に優れ、視る者に対して心理的な不快感を与えることを防ぐことができる。
特に、FSS素子の導電性の金属からなる細線パターンに写真製法による現像銀層を用いると、細線幅を30μm以下にまですることが可能であり、より優れた視認性(目視されないこと)を有する電磁波シールド積層体とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0031】
図1,図2は、本発明の周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体の一例を示す概略の拡大断図面である。図1は、単層からなる透明な中間基材層2の両端面にFSS素子からなる細線パターン3,3及び4,4が形成された透明基材5,6が粘着剤層7,8を介して積層された電磁波シールド積層体1の概略断面図である。
【0032】
図2は、2層からなる透明な中間基材層11,12の両端面にFSS素子からなる細線パターン13,13及び14,14が形成された透明基材15,16が粘着剤層17,18を介して積層された電磁波シールド積層体10の概略断面図である。なお、中間基材層11,12は、粘着剤層19を介して積層されている。
【0033】
図3(a),(b)は、従来技術と本発明とで、共振周波数Pにおける帯域幅の違いを示す概念図である。
図4(a)〜(k)は、それぞれFSS素子のパターンの細線パターンの形状例を示す部分拡大正面図である。
【0034】
図3は、本発明の効果を概念的に示す図であって、図3(a)は、従来技術による1つのFSS素子からなる細線パターンを使用した場合の共振周波数Pにおける遮蔽レベルαでの許容周波数の帯域幅wを示している。図3(b)は、本発明による一定の間隔をおいて重なる2つのFSS素子からなる細線パターンを使用した場合の共振周波数Pにおける遮蔽レベルαでの許容周波数の帯域幅wを示している。
図3(a)と図3(b)とを比較すると、従来技術による遮蔽レベルαでの許容帯域幅wに比べて、本発明による遮蔽レベルαでの許容周波数の帯域幅wの方が広帯域である。従って、本発明による電磁波シールド積層体によれば、製作された電磁波シールド積層体における最大の共振周波数が目標とした共振周波数から少しずれていても一定の遮蔽レベルαが維持できる。
【0035】
従来の周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体においては、通常、共振周波数の設定値に対する遮蔽レベルの半値幅が狭く、結果として共振周波数のピークが鋭くて許容誤差が非常に狭くなっている。従って、共振周波数の設定値から少しでもずれると、遮蔽効果が著しく低下するという問題があった。
特に複数の共振周波数に対して遮蔽できるようにするために、複数種類のFSS素子を配列する場合には、各FSS素子の図形配列の調整が複雑になるという問題があった。
しかし、本発明を用いることにより、複数の周波数に対する遮蔽用のFSS素子の図形配列の調整をより簡便化することができる。
【0036】
図1に示す周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体1は、単層の透明な固体誘電体からなる中間基材層2の両端面に、FSS素子からなる細線パターン3,3及び4,4が形成された透明基材5,6が粘着剤層7,8を介して積層されていて、所定周波数の電磁波を遮蔽する。
図1において、左方向から電磁波が入射するとして、細線パターン3,3によって遮蔽されない他の周波数の電磁波は右方向に透過する。また、細線パターン3,3で遮蔽されないで透過した所定周波数の電磁波の一部は、透明基材6の他の面に設けられた細線パターン4,4によって再度、遮蔽される。
また、細線パターン3,3及び4,4は、導電性の金属層からなる細線パターンであり、透明基材5,6の一方の面に対して垂直な方向から視て、2つの細線パターン3,3と4,4は、配列間隔が略重なる位置に配設されている。
【0037】
図1に示す本発明の実施形態を具体的に利用する方法としては、1層の透明な固体誘電体からなる中間基材層2の両端面に、FSS素子からなる細線パターン3,3及び4,4が形成された透明基材5,6が粘着剤層7,8を介して積層された周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体1の片面に、粘着剤層を設けて建物の窓ガラスなどに貼り合せてもよい。
また、室内の透明な間仕切りにおいて、間仕切りの部材となる1層の透明な固体誘電体からなる中間基材層2の両端面に、FSS素子からなる細線パターン3,3及び4,4が形成された透明基材5,6が粘着剤層7,8を介して積層し、本発明の周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体1を形成してもよい。
【0038】
なお、透明基材のFSS素子からなる細線パターン3,3及び4,4が配設されていない方の表面には、特定の商号、商標、型番などのロゴマーク及び/又は位置合わせマークであって、2つの細線パターンの重なる位置を調整するのに利用できる、図形、文字、記号、符号などの群から選択された1種類以上が、目視可能な大きさによって、縦及び横方向にそれぞれ一定の間隔で配設されてなるので、2つの細線パターンを配列間隔が略重なる位置に調整して配設することが容易となる。
【0039】
2つの細線パターンの重なる位置を調整するのに利用できる、図形、文字、記号、符号などの図形類は、インキ、塗料を公知の印刷方法、インクジェットプリンタを用いて印刷したり、レーザプリンタなどを用いて刻印してもよい。また、透明な樹脂フィルムの表面にこのような図形類を印刷した小片を、透明基材5,6の片面の縦及び横方向にそれぞれ一定の間隔で粘着剤を用いて貼り付けてもよい。
【0040】
透明基材5に形成された1つの細線パターン3,3のみにより所定周波数の電磁波を遮蔽する場合に比べて、2つの細線パターン3,3と4,4とが中間基材層の厚みを隔てて略重なるように配置して所定周波数の電磁波を遮蔽する方が、共振周波数の設定値に遮蔽レベルの半値幅が広くてピークが鈍くなる。即ち、広帯域の共振周波数を有するので、共振周波数に影響を及ぼすFSS素子パターンの線幅、パターン寸法の許容誤差の範囲が広くなるので、パターン形状、配列間隔を決定し易くなる。
【0041】
図2に示す周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体10は、粘着剤層19を介して積層された誘電率の異なる2層の透明な固体誘電体からなる中間基材層11及び12からなる透明な中間基材層の両端面に、FSS素子からなる細線パターン13,13及び細線パターン14,14が形成された透明基材15,16が粘着剤層17,18を介して積層されている。
本実施形態を具体的に利用する方法としては、例えば、透明な中間基材層12が窓ガラスであって、その窓ガラスの片面に厚みを調整するための、窓ガラスとは誘電率の異なる透明な中間基材層11が粘着剤層19を介して積層され、これらの中間基材層の両端面に2つのFSS素子の細線パターン13,13及び14,14が形成された透明基材15及び16が粘着剤層17及び18を介して積層し、周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体10を形成することができる。
【0042】
なお、図1及び図2においては、透明基材の金属層が形成された面側に粘着剤層を設け、中間基材層に積層している場合を示しているが、透明基材の金属層が形成されていない面側に粘着剤層を設け、中間基材層に積層してもよい。
【0043】
図1及び図2に示すFSS素子の細線パターン3,4,13,14は、透明基材の表面に導電性ペーストを印刷することにより生成する方法、または写真製法により生成された現像銀層から生成する方法を用いて形成することができる。
【0044】
(透明基材)
本発明に使用される誘電体からなる透明基材5,6、15,16は、可視領域で透明性を有し、一般に全光線透過率が90%以上のものが好ましい。具体的には、透明ガラス、樹脂シート、樹脂フィルムなどを用いることができる。中でも、フレキシブル性を有する樹脂フィルムは、取扱い性に優れることから透明基材の材質として好ましい。透明基材に使用される樹脂フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等からなる厚さ50〜300μmの単層フィルム又は前記樹脂からなる複数層の複合フィルムが挙げられる。
【0045】
(透明な中間基材層)
透明な固体誘電体からなる中間基材層2,11,12は、中間基材層の両面に積層される2つの細線パターンの距離を保持するために挿入するものであって、上記に示された透明基材に使用される材料の中から選択して用いることができる。中でも透明ガラス、樹脂シートの単層あるいは積層体を使用して必要とされる厚みとするのが好ましい。
【0046】
(FSS素子)
透明基材5,6及び15,16の一方の面には、所定周波数の電磁波を遮蔽するための電磁波遮蔽用のFSS素子からなる細線パターン3,4及び13,14が一定間隔で規則的に配列されている。
一般に、所定周波数の電磁波遮蔽用のFSS素子からなる細線パターンは、所定周波数の電磁波に共振してエネルギーの一部を熱として消耗させ、共振周波数の電磁波を減衰させるが、共振周波数の電磁波の一部は、電磁波の入射側及びその反対側に再放出されて、見かけ上は細線パターンから反射し、わずかな部分は透過したような現象を示す。
図1及び図2において、電磁波が左方向から入射するものとすると、電磁波遮蔽用のFSS素子からなる細線パターン3,3及び13,13は、基本的には共振する周波数の電磁波を遮蔽するものであって、共振周波数以外の電磁波は遮蔽されないで右方向に透過してしまう。
【0047】
また、透明基材6、16の上には、所定周波数の電磁波を遮蔽するための細線パターン4,4及び14,14が一定間隔で規則的に配列されている。細線パターン3,3と同様に、細線パターン4,4も、所定周波数の電磁波に共振してエネルギーの一部を熱として消耗させ、共振周波数の電磁波を減衰させる素子であるが、共振した所定周波数の電磁波の一部は、電磁波の入射側及びその反対側に再放出されて、見かけ上は細線パターン4,4を反射し、わずかな部分は透過したような現象を示す。
また、細線パターン4,4及び14,14は、基本的には共振する周波数の電磁波を遮蔽するものであって、共振周波数以外の電磁波は遮蔽されないで透過してしまう。
【0048】
本発明のように、透明な固体誘電体からなる中間基材層の両面に、透明な誘電体からなる透明基材が粘着剤層を介して積層され、その透明基材の一方の表面に配設されたFSS素子の細線パターンが略重なるようにして基材層を一定間隔で配置すると、電磁波の遮蔽効果が高まる。さらに、理由は明確ではないが共振周波数が広帯域化する現象が見られた。
【0049】
この現象を利用すると、FSS素子パターンの形状寸法、配列間隔、誘電体の厚みなどにある程度の許容誤差を含んでいても所定の共振周波数での電磁波遮蔽効果を得ることができる。
【0050】
より具体的に説明すると、例えば、中間基材層が1層の透明な固体誘電体からなり、電磁波シールド積層体が室内に設置される透明な間仕切りの場合では、透明な固体誘電体である合成樹脂板の両面に、FSS素子の細線パターンが形成された透明基材フィルムを、粘着剤を用いて貼り合わせ積層したものとすることができる。
この場合、誘電体である合成樹脂板の固有な誘電率から、中間基材層における遮蔽しようと意図する電磁波の周波数における波長λは、次の数式(1)で求められるように、空気中での波長に比べて短縮されることが知られている。
【0051】
λ=λ(a)/√ε ・・・・・・ (1)
【0052】
ここで、λ:誘電体(中間基材層)での波長[mm]であり、λ(a):空気中での波長[mm]であり、ε:誘電体の比誘電率[−]である。
【0053】
このため、比誘電率の高い中間基材層とする程、中間基材層における遮蔽しようと意図する電磁波の周波数における波長λが短くなり、ひいては中間基材層の厚みを薄くすることができる。例えば、透明な合成樹脂として一般的なアクリル樹脂を誘電体として用いる場合では、アクリル樹脂の比誘電率が4.0であることから、中間基材層での波長λは空気中の波長λ(a)の1/2となる。
すなわち、固体誘電体からなる中間基材層としてアクリル樹脂を用いた場合では、一般的には空気層を介してFSS素子の配線パターンを隔離する場合に比べて、中間基材層の厚みを1/2に薄くすることができる。
【0054】
また、本発明によると、許容される共振周波数帯域の上限側に遮蔽しようとする周波数が来るように、透明な固体誘電体からなる中間基材層の厚みを薄くして調整することができる。すなわち、本発明では、上記の中間基材層の比誘電率の効果による厚みの低減に加えて、さらに、共振周波数が広帯域化することを利用して、固体誘電体からなる中間基材層の厚みを薄くすることができ、ひいては電磁波シールド積層体の厚みを薄くすることができる。
本発明では、固体誘電体からなる中間基材層の厚みは、略λ/60〜λ/5(但し、λは中間基材層における電磁波の遮蔽しようとする所定周波数での波長を表す。)とすることができる。中間基材層の厚みは、略λ/60よりも薄いと共振周波数が広帯域化する効果が少なく、また、略λ/5よりも厚いと重量が重くなり設置作業時の取扱いに不便を生じるという不都合がある。
【0055】
なお、FSS素子パターンの図形寸法としては、固体誘電体からなる中間基材層における選択遮蔽しようとする周波数での波長をλとすると、FSS素子の細線パターンの図形形状が開放図形の場合には、図形の両端間の長さを波長λの1/2とし、環状図形の場合には、図形の全周長さを波長λに等しくなるようにする。
【0056】
ところで、本発明の周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体の場合、透過性の観点からFSS素子からなる細線パターンが用いられる。細線パターンに用いるFSS素子の形状、寸法、配列間隔などは、遮蔽対象の周波数に応じて最適な値にされる。
【0057】
また、図1に示す細線パターン3,3及び4,4、さらには図2に示す細線パターン13,13及び14,14は、導電性の金属層からなる細線パターンであり、透明基材5,6及び15,16の一方の面に対して垂直な方向から視て、2つの細線パターン3,3と4,4及び13,13と14,14とは、配列間隔が略重なる位置に配設されている。
細線パターン3,3及び13,13のみにより所定周波数の電磁波を遮蔽する場合に比べて、この細線パターンと略重なる位置に対向して、細線パターン4,4及び14,14の2つの細線パターンを配置する方が、共振周波数の設定値に遮蔽レベルの半値幅が広くてピークが鈍くなり、即ち、広帯域の共振周波数を有するので、共振周波数に影響を及ぼす、FSS素子パターンの線幅、パターン寸法の許容誤差の範囲が広くなるので、パターン形状、配列間隔を決定し易くなる。
【0058】
本発明の周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体におけるFSS素子からなる細線パターンの金属層は、導電性ペーストを印刷することにより生成する金属層、写真製法により生成された現像銀層から生成する金属層のいずれかであることが好ましい。
【0059】
特に高レベルの電磁波遮蔽を行う場合には、FSS素子の金属層からなる細線パターンの導電性を一層高めるため、写真製法により目的とするFSS素子からなる細線パターンの現像銀層を生成し、更にこの現像銀層の上に金属メッキ層を形成する方法により行うのが好ましい。
【0060】
本発明の周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体には、図4に示すような形状例をしたFSS素子のパターンの細線パターンが用いられる。
本発明に係わる電磁波シールド積層体の形状は、特に制限されないが、透視性を有し、1層又は誘電率の異なる2層以上の透明な固体誘電体からなる中間基材層の両端面に、誘電体からなる透明基材が粘着剤層を介して積層され、前記透明基材の一方の表面には、それぞれ電磁波遮蔽用のFSS素子からなる細線パターンが配設されてなり、前記中間基材層の厚みは略λ/60〜λ/5(但し、λは中間基材層における電磁波の遮蔽しようとする所定周波数での波長を表す。)であり、前記中間基材層の両側に配された2つの細線パターンは金属層であって、前記透明基材の一方の面に対して垂直な方向から視て前記2つの細線パターンの配列間隔が略重なる位置に配設されてなるものである。
【0061】
FSS素子を形成する金属層からなる細線パターンの線幅は、15〜80μmが好ましく、さらには15〜50μmであることがより好ましい。線幅を15μm以下の微細線にすると、金属層の細線パターンを導電性のペーストを用いて印刷して形成するためのスクリーン印刷の原版や、金属層の細線パターンを写真製法で形成するための露光マスクの製造コストが著しく上昇するので好ましくない。逆に線幅を太くして80μm以上にすると、導電性は高くなるが透視性は低下するので好ましくない。
また、金属層の細線パターンの厚みは、所望とする特性により任意に変えることができるが、好ましくは0.05〜15μmの範囲であり、より好ましくは0.05〜10μmの範囲である。金属層の細線パターンの膜厚が薄いと電磁波シールド性能が低くなり過ぎてしまい、又、細線パターンの膜厚が厚いとコスト高の要因となってしまう。
【0062】
図4に示すFSS素子のうち、より好ましい形状は、図4の(b)、(c)に示すような末端を有する線分の組み合わせからなる開放図形、図4の(f)、(g)に示すような末端を有しない閉じた図形(環状図形)などであり、その他には、図4(d)に示すような開放図形と閉じた図形の組み合わせ、図4(h)に示すような大小2種類の閉じた図形の組み合わせなどがある。FSS素子の寸法は、末端を有する線分の組み合わせからなる開放図形の場合、線分の中心からの長さが遮蔽する電磁波の波長の約1/4である。また、末端を有しない閉じた図形(環状図形)の場合、周囲の長さが遮蔽する電磁波の波長と同程度とされる。
【0063】
図4(a)に示すFSS素子は、金属層の細線により輪郭を形成した正方形(正方形ループ型)を4つ集合したものである。
図4(b)に示すFSS素子は、金属層の細線により逆Y字形(トリポール型)を形成したものである。この形状の素子によれば、三辺のそれぞれがダイポールアンテナとして機能し、どのような電波の傾きに対しても電磁波シールドを持たせることができる。
図4(c)に示すFSS素子は、金属層の細線により十字形(クロスダイポール型)を形成したものである。これにより、水平方向および垂直方向のいずれに対しても電磁波シールドを持たせることができる。
図4(d)に示すFSS素子は、金属層の細線により三角形の輪郭とその内部のY字形を形成したものであり、三角形の素子と逆Y字形の素子とのそれぞれで異なる波長の電磁波を遮蔽することができる。
【0064】
図4(e)に示すFSS素子は、金属層の細線により正方形の輪郭を二重に形成したものである。
図4(f)に示すFSS素子は、金属層の細線により逆Y字形の輪郭を環状に形成したものである。
図4(g)に示すFSS素子は、金属層の細線により十字形の輪郭を環状に形成したものである。
図4(h)に示すFSS素子は、金属層の細線により十字形の輪郭とX字形の輪郭を環状に形成し、組み合わせたものである。
【0065】
図4(i)に示すFSS素子は、金属層の細線によりH字形の輪郭を形成し、縦向きのH字形と横向きのH字形とを交互に配列して組み合わせたものである。
図4(j)に示すFSS素子は、金属層の細線により三角形の輪郭を形成したものであり、水平方向には正位置の三角形と逆位置の三角形とを交互に配列するとともに、垂直方向には正位置および逆位置の同じものを、それぞれ列を成して配列したものである。これにより、FSS素子の設置密度を高くすることができ、電磁波シールド効果を高めることができる。
図4(k)に示すFSS素子は、金属層の細線によりV字形の輪郭を形成し、正位置のV字形と逆位置のV字形とを交互に配列したものである。
【0066】
この他、図示は省略するが、円形リング型やエルサレムクロス型、あるいは所望の基本形状に対して自己相似なフラクタル形状なども、本発明に適用することが可能なFSS素子形状として例示することができる。また、異なる2種類以上の形状、寸法が異なるFSS素子を組み合わせて用いることにより、2種類以上の周波数の電磁波を選択して遮蔽することが可能な電磁波シールド積層体を構成することも可能である。
【0067】
本発明では、FSS素子の細線パターンである導電性の金属層の作製方法として、導電性ペーストを印刷することにより生成する方法、写真製法により生成された現像銀層から生成する方法、写真製法により生成された現像銀層とその上に積層された金属メッキ層とから生成する方法などを用いることができるが、以下にそれぞれの方法による導電性の金属層による細線パターンの作製方法と、併せて無電解メッキの方法を順に説明する。
【0068】
(印刷による金属層の生成)
本発明に用いる導電性ペーストは、導電性の金属層からなるFSS素子の細線パターンとなるものであるから、通常は金属粉末をバインダーとなる樹脂成分に混ぜ込んだ導電性ペーストが用いられる。前記の金属粉末としては、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉が用いられるが、導電性、価格の点から銅または銀の微粉末を用いるのが好ましい。
【0069】
印刷したFSS素子の細線パターンに含まれる金属粉末に起因する金属光沢を消して外光の反射を抑え、窓ガラスに貼り付けた場合に視認性を高めるために、導電性ペーストの中にカーボンブラックなどの黒色顔料を混ぜ込むのが好ましい。黒色顔料は、導電性ペーストの中に0.1〜10重量%で含有させるのが好ましい。
【0070】
印刷するFSS素子の細線パターンの線幅は15〜80mm程度であることから、導電性ペーストに用いる金属粉末は、特別な超微粒子である必要性はなく、金属粉末の粒子径は0.1〜5μmであればよい。
印刷した電極枠の厚みは、特に制限されないが、0.05〜15μm程度である。
【0071】
導電性ペーストに用いられる樹脂成分としては、好ましくは、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂が用いられる。また、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂などの熱硬化型であってもよい。
導電性ペーストは、これらの樹脂成分に金属粉末、及び黒色顔料を混ぜ込んだ後にアルコールやエーテルなどの有機溶剤を加えて粘度調整を行なう。
【0072】
図1の透明基材5,6及び図2の透明基材15,16の片面に、導電性ペーストを用いてFSS素子の細線パターンを印刷し、溶剤を乾燥除去して、細線パターンを硬化させる。
導電性ペーストを塗布してFSS素子の細線パターンを形成する方法は特に制限されないが、簡便さからスクリーン印刷にて印刷するのが好ましい。
【0073】
(写真製法による現像銀層からの金属層の生成)
現像銀層を生成するための写真製法に基づく露光現像法には、(a)露光マスクに覆われていなくて露光された部分に現像銀が発現する、即ち、露光マスクと反対の形に現像銀が表れるいわゆるネガ型の露光現像方法と、(b)露光マスクに覆われて露光されなかった部分には現像銀が発現する、即ち、露光マスクと同じ形に現像銀が表れるいわゆるポジ型の露光現像方法の2通りがある。
【0074】
本発明には、上記の2つの写真製法である(a)ネガ型の露光・現像方法と、(b)ポジ型の露光・現像方法のいずれでも適用できる。
【0075】
(写真製法)
以下、ポジ型の露光・現像方法(DTR法)による現像銀メッシュパターンの作製方法について説明する。DTR法の場合、透明基材表面には、予め物理現像核層が設けられていることが好ましい。物理現像核としては、重金属あるいはその硫化物からなる微粒子(粒子サイズは1〜数十nm程度)が用いられる。例えば、金、銀等のコロイド、パラジウム、亜鉛等の水溶性塩と硫化物を混合した金属硫化物等が挙げられる。これらの物理現像核の微粒子層は、真空蒸着法、カソードスパッタリング法、コーティング法等によって透明基材上に設けることができる。生産効率の面からコーティング法が好ましく用いられる。物理現像核層における物理現像核の含有量は、固形分で1平方メートル当たり0.1〜10mg程度が適当である。
【0076】
図1の透明基材5,6及び図2の透明基材15,16には、塩化ビニリデンやポリウレタン等のポリマーラテックス層の接着層を設けることができ、また接着層と物理現像核層との間にはゼラチン等の親水性バインダーからなる中間層を設けることもできる。
【0077】
物理現像核層は、親水性バインダーを含有するのが好ましい。親水性バインダー量は物理現像核に対して10〜300質量%程度が好ましい。親水性バインダーとしては、ゼラチン、アラビアゴム、セルロース、アルブミン、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、各種デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとビニルイミダゾールの共重合体等を用いることができる。物理現像核層には親水性バインダーの架橋剤を含有することもできる。
【0078】
物理現像核層や前記中間層等の塗布には、例えばディップコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、バーコーティング、エアーナイフコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティングなどの塗布方式で塗布することができる。本発明において物理現像核層は、上記したコーティング法によって、通常連続した均一な層として設けることが好ましい。
【0079】
物理現像核層に金属銀を析出させるためのハロゲン化銀の供給は、基材上に物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層をこの順に一体的に設ける方法、あるいは別の紙やプラスチック樹脂フィルム等の基材上に設けられたハロゲン化銀乳剤層から可溶性銀錯塩を供給する方法がある。コスト及び生産効率の面からは前者の物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層を一体的に設けるのが好ましい。
【0080】
前記ハロゲン化銀乳剤は、ハロゲン化銀写真感光材料の一般的なハロゲン化銀乳剤の製造方法に従って製造することができる。ハロゲン化銀乳剤は、通常、硝酸銀水溶液、塩化ナトリウムや臭化ナトリウムのハロゲン水溶液をゼラチンの存在下で混合熟成することによって作られる。
前記ハロゲン化銀乳剤層のハロゲン化銀組成は、塩化銀を80モル%以上含有するのが好ましく、特に90モル%以上が塩化銀であることが好ましい。塩化銀含有率を高くすることによって形成された物理現像銀の導電性が向上する。
【0081】
前記ハロゲン化銀乳剤層は、各種の光源に対して感光性を有している。本発明において物理現像銀によりFSS素子のパターンを形成する場合、ハロゲン化銀乳剤層の露光方法として、前記FSS素子パターンの透過原稿とハロゲン化銀乳剤層を密着して露光する方法、あるいは各種レーザー光を用いて走査露光する方法等がある。前者の密着露光は、ハロゲン化銀の感光性は比較的低くても可能であるが、レーザー光を用いた走査露光の場合は比較的高い感光性が要求される。従って、後者の露光方法を用いる場合は、ハロゲン化銀の感光性を高めるために、ハロゲン化銀は化学増感あるいは増感色素による分光増感を施してもよい。
【0082】
化学増感としては、金化合物や銀化合物を用いた金属増感、硫黄化合物を用いた硫黄増感、あるいはこれらの併用が挙げられる。好ましくは、金化合物と硫黄化合物を併用した金−硫黄増感である。上記したレーザー光で露光する方法においては、450nm以下の発振波長の持つレーザー光、例えば400〜430nmに発振波長を有する青色半導体レーザー(バイオレットレーザーダイオードともいう)を用いることによって、明室下(明るいイエロー蛍光灯下)でも取り扱いが可能となる。
【0083】
物理現像核層が設けられる基材上の任意の位置、たとえば接着層、中間層、物理現像核層あるいはハロゲン化銀乳剤層、保護層、または支持体を挟んで設けられる裏塗り層にハレーションないしイラジエーション防止用の染料もしくは顔料を含有させてもよい。
【0084】
物理現像核層の上に直接にあるいは中間層を介してハロゲン化銀乳剤層が塗設された感光材料を用いて現像銀を生成する場合は、FSS素子パターンの透過原稿と上記感光材料を密着して露光、あるいは、FSS素子パターンのデジタル画像を各種レーザー光の出力機で上記感光材料に走査露光した後、可溶性銀錯塩形成剤と還元剤の存在下でアルカリ液中で処理することにより銀錯塩拡散転写現像(DTR現像)が起こり、未露光部のハロゲン化銀が溶解されて銀錯塩となり、物理現像核上で還元されて金属銀が析出してFSS素子パターンの物理現像銀薄膜を得ることができる。露光された部分はハロゲン化銀乳剤層中で化学現像されて黒化銀となる。現像後、ハロゲン化銀乳剤層及び中間層、あるいは必要に応じて設けられた保護層は水洗除去されて、FSS素子パターンの物理現像銀薄膜が表面に露出する。
【0085】
DTR現像後、物理現像核層の上に設けられたハロゲン化銀乳剤層等の除去方法は、水洗除去あるいは剥離紙等に転写剥離する方法がある。水洗除去は、スクラビングローラ等を用いて温水シャワーを噴射しながら除去する方法や温水をノズル等でジェット噴射しながら水の勢いで除去する方法がある。
【0086】
一方、物理現像核層が塗布された基材とは別の基材上に設けたハロゲン化銀乳剤層から可溶性銀錯塩を供給する場合、前述と同様にハロゲン化銀乳剤層に露光を与えた後、物理現像核層が塗布された基材と、ハロゲン化銀乳剤層が塗布された別の感光材料とを、可溶性銀錯塩形成剤と還元剤の存在下でアルカリ液中で重ね合わせて密着し、アルカリ液中から取り出した後、数十秒〜数分間経過した後に、両者を剥がすことによって、物理現像核上に析出したFSS素子パターンの物理現像銀薄膜が得られる。
【0087】
次に、銀錯塩拡散転写現像のために必要な可溶性銀錯塩形成剤、還元剤、及びアルカリ液について説明する。可溶性銀錯塩形成剤は、ハロゲン化銀を溶解し可溶性の銀錯塩を形成させる化合物であり、還元剤はこの可溶性銀錯塩を還元して物理現像核上に金属銀を析出させるための化合物であり、これらの作用はアルカリ液中で行われる。
【0088】
本発明に用いられる可溶性銀錯塩形成剤としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウムのようなチオ硫酸塩、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウムのようなチオシアン酸塩、アルカノールアミン、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素カリウムのような亜硫酸塩、T.H.ジェームス編のザ・セオリー・オブ・ザ・フォトグラフィック・プロセス4版の474〜475項(1977年)に記載されている化合物等が挙げられる。
【0089】
前記還元剤としては、写真現像の分野で公知の現像主薬を用いることができる。例えば、ハイドロキノン、カテコール、ピロガロール、メチルハイドロキノン、クロルハイドロキノン等のポリヒドロキシベンゼン類、1−フェニル−4,4−ジメチル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−3−ピラゾリドン、1−フェニル−4−メチル−4−ヒドロキシメチル−3−ピラゾリドン等の3−ピラゾリドン類、パラメチルアミノフェノール、パラアミノフェノール、パラヒドロキシフェニルグリシン、パラフェニレンジアミン等が挙げられる。
【0090】
上記した可溶性銀錯塩形成剤及び還元剤は、物理現像核層と一緒に基材に塗布してもよいし、ハロゲン化銀乳剤層中に添加してもよいし、またはアルカリ液中に含有させてもよく、更に複数の位置に含有してもよいが、少なくともアルカリ液中に含有させるのが好ましい。
【0091】
アルカリ液中への可溶性銀錯塩形成剤の含有量は、現像液1リットル当たり、0.1〜5モルの範囲で用いるのが適当であり、還元剤は現像液1リットル当たり0.05〜1モルの範囲で用いるのが適当である。
【0092】
アルカリ液のpHは10以上が好ましく、更に11〜14の範囲が好ましい。銀錯塩拡散転写現像を行うためのアルカリ液の適用は、浸漬方式であっても塗布方式であってもよい。浸漬方式は、例えば、タンクに大量に貯流されたアルカリ液中に、物理現像核層及びハロゲン化銀乳剤層が設けられた基材を浸漬しながら搬送するものであり、塗布方式は、例えばハロゲン化銀乳剤層上にアルカリ液を1平方メートル当たり40〜120ml程度塗布するものである。
【0093】
透視性(目視されないこと)を確保するため、金属層からなる細線パターンによりFSS素子を構成する。FSS素子からなる細線パターンの金属層の線幅は、15〜80μmが好ましく、さらには15〜40μmであることがより好ましい。細線パターンの金属層の厚みは、所望とする特性により任意に変えることができるが、好ましくは0.05〜12μmの範囲であり、より好ましくは0.05〜3μmの範囲である。
前述したように、本発明の周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体において、FSS素子からなる細線パターンの線幅を小さくして15μm以下にすると、透視性(目視されないこと)は上がるが導電性(及び遮蔽する波長の電磁波のシールド性)は低下し、逆に線幅を大きくして80μm以上にすると、透視性は低下するが導電性は高くなる。また、線幅を15μm以下の微細線にすると、金属層の細線パターンを写真製法で形成するための露光マスクの製造コストが著しく上昇するので好ましくない。
【0094】
本発明に係る透明基材上に形成された任意の細線パターンの物理現像による現像銀層は、膜厚みが極めて薄いが導電性が高いので、細線化することが可能であり周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体の透視性を高くすることができる。
また、この物理現像による現像銀層自身は、現像処理後に得られた現像銀層を形成する金属銀粒子が極めて小さく、かつ、現像銀層中に存在する親水性バインダー量が極めて少ないことにより、現像銀層を形成する金属銀粒子が最密充填状態に近い状態で現像銀層が形成されて通電性を有しているため、銅やニッケルなどの金属による鍍金(メッキ)を施すことが可能であり、必要に応じて、現像銀層の上に金属メッキ層を積層することができる。
【0095】
(金属メッキ層)
FSS素子からなる細線パターンの金属層である現像銀層の上に金属メッキ層を積層するときに用いるメッキ法は、無電解メッキ法による。FSS素子からなる細線パターンの基礎部分である現像銀層には導電性があるが、現像銀層からなるFSS素子パターンは、個々に独立して配置されていて、隣接するFSS素子パターン同士は電気的に絶縁している。したがって、多数のFSS素子のパターンを同時に一括して電解メッキすることができず、無電解メッキ法を適用してメッキせざるを得ない。
【0096】
本発明において、金属メッキ法は公知の方法で行うことができるが、例えば無電解メッキ法は、銅、ニッケル、銀、金、スズ、はんだ、あるいは銅/ニッケルの多層あるいは複合系などの従来公知の方法を使用でき、これらについては、「無電解めっき 基礎と応用;日刊工業新聞社、1994年5月30日初版」等の文献を参照することができる。
【0097】
メッキが容易で、かつメッキ層の導電性が優れ、さらに厚膜にメッキでき、低コストであるなどの理由により、メッキに用いる金属としては、銅(Cu)および/またはニッケル(Ni)が好ましい。金属メッキ層は、メッキを複数回行うことにより、同種の金属または異種の金属を複数層積層することも好ましい。例えば、現像銀層の上に第1のメッキ層、さらにその上に第2のメッキ層を積層する場合に、一方のメッキ層が無電解ニッケルメッキ層であり、他方のメッキ層が無電解銅メッキ層である組み合わせが好ましい。
メッキに使用するメッキ槽の型式は、竪型、横型のいずれであっても構わないが、所定のメッキ滞留時間を確保できるように長さを決定する。
【0098】
(黒化処理)
前記金属メッキ層の表面に黒化処理を施すことにより、反射率を低下させるための黒化層を形成してもよい。黒化層は、光を反射しにくい暗色の層であればよく、真黒だけでなく、例えば黒っぽい茶色や黒っぽい緑色等でもよい。黒化層の形成により、金属細線が一層目立ちにくくなり、例えば、窓ガラス等に電磁波シールド積層体を貼り付けて用いる場合に透明基材を通して向こう側が見やすくなるため、好ましい。
黒化層は、黒色インクの塗布によるインキ処理、ルテニウムやニッケル、スズなどの表面が黒色を呈する金属のメッキによる黒化メッキ処理、金属細線の化成処理(酸化処理等)などにより形成することができる。このうち化成処理では、金属層の表面に金属酸化物の薄膜が形成されることにより、黒色を呈するようになる。
【0099】
(露光装置)
上記のハロゲン化銀乳剤層を露光する露光装置としては、枚葉式の露光マスク(フォトマスク)を用いる枚葉処理方式の露光装置と、連続したパターンが形成できる連続露光装置とがある。枚葉処理方式の露光装置は、所定のマスクパターンが形成された枚葉式の露光マスク(フォトマスク)を用いて、基材を間欠送りで露光装置に送り、装置内を真空排気して露光マスクと基材とを密着させて隙間を無くしてから、例えば紫外線で露光する。枚葉処理方式の露光装置では、真空排気、露光、大気開放を間欠的に行うので、連続的な生産ができず、処理速度は遅くなる。
【0100】
これに対して、基材を連続的に露光できる連続露光装置を用いると、枚葉処理方式の露光装置に比較して処理速度が速く、連続的な生産が可能になるという長所がある。
連続露光装置の一例としては、写真製法における露光に用いられる光を透過する材質からなる円筒ドラムと、円筒ドラムの外周壁に設けられたFSS素子に対応したパターンが形成された露光マスクフィルムと、円筒ドラムの内部に配設された露光用光源とを備え、円筒ドラムの内側の光源から出射した光によって円筒ドラムに巻き付けられた基材を露光する装置である。
【0101】
(粘着剤層)
本発明の電磁波シールド積層体は、ガラス板や透明プラスチック板を用いた窓材などの、透明な固体誘電体からなる中間基材層の両端面に、FSS素子の細線パターンが形成された透明基材が粘着剤層を介して積層されてなるものである。
また、透明な固体誘電体からなる中間基材層の両端面に、FSS素子の細線パターンが形成された透明基材が粘着剤層を介して積層されてなる本発明の電磁波シールド積層体を、粘着剤層を用いて窓ガラスに貼り合せてもよい。
使用される粘着剤層は透明であるものが好ましい。具体的には粘着剤層の全光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましい。
【0102】
粘着剤層を構成する粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等いずれのものでもよいが、中でもアクリル系粘着剤が特に好ましい。これにより、透明性に優れ、粘着剤層の耐候性を良好に維持することができる。
このような粘着剤成分の1つとして挙げられるアクリル系粘着剤としては、粘着性を与える低Tgの主モノマー、接着性や凝集力を与える高Tgのコモノマー、架橋や接着性改良のための官能基含有モノマー(モノエチレン性不飽和モノマー)等から成るものが用いられる。
【0103】
主モノマーとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられ、これらのものを1種または2種以上を混合して用いることができる。
コモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルエーテル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニル基含有化合物が挙げられる。
官能基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマー、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−ト、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレ−ト、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有モノマー、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の三級アミノ基含有モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有モノマー、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド等のN−置換アミド基含有モノマー、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有モノマーが挙げられる。
【0104】
このような材料を用いることにより、粘着性や凝集性、耐久性に優れ、また、モノマーの種類や組合せの選択により用途に応じた任意の品質、特性を得ることができる。
粘着剤成分の重量平均分子量は、30万〜300万が好ましく、50万〜200万がより好ましい。粘着剤成分の分子量が小さ過ぎると、粘着剤の粘着力や凝集力が劣り、耐ブリスター性が十分に得られず、分子量が大き過ぎると粘着剤が硬くなり、粘着性が不十分となって貼着の作業性が悪くなる。
【0105】
また、粘着剤成分のガラス転移点(Tg)は、−20℃以下であるのが好ましい。ガラス転移点が−20℃を超える場合、使用温度によっては粘着剤が硬くなり、粘着性を維持できなくなることがある。
以上のような粘着剤は、架橋型、非架橋型のいずれのものも使用できる。架橋型の場合、エポキシ系化合物、イソシアナート系化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩、アミン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド系化合物等の各種架橋剤を用いる方法等が挙げられ、これらは、それぞれの有する官能基により適宜選択される。
粘着剤層に含まれる硬化性成分は、特に限定されないがエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂等の熱硬化性を有するもの、または後述する放射線硬化性を有するもの等が挙げられるが、特に放射線硬化性を有するものが好ましい。これにより、硬化性成分を常温や低温下で、かつ非常に短時間で硬化を進行させることができ取扱性に優れる。
【0106】
ここでいう、放射線硬化性とは、例えば、紫外線、レーザー光線、α線、β線、γ線、X線、電子線の照射により分子鎖の成長や架橋反応が誘起され、硬化性成分が硬化する性質のことを意味する。
このような放射線硬化性成分としては、特に限定されないが、例えばアクリル系モノマーまたはオリゴマーを有するものが好ましい。これにより耐候性の優れた粘着剤層を形成することができる。
このような放射線硬化性のアクリル系モノマーまたは/およびオリゴマーとしては、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上を混合して用いてもよい。
【0107】
さらに、上記アクリル系モノマーまたはオリゴマーは、アクリロイル基を有する反応性モノマーまたはオリゴマーを含むものが好ましく、アクリロイル基を2以上有するものがより好ましい。アクリロイル基を2以上含むことにより、網目構造の形成が十分に行われ、粘着剤の凝集性がさらに向上し、良好な粘着剤層が得られる。
上記放射線硬化性成分等の硬化性成分の含有量は、前記粘着剤成分100重量部に対し、0.05〜50重量部が好ましく、0.1〜20重量部がより好ましい。硬化性成分の量が少な過ぎると粘着剤の凝集力との関係で、発生したガスによる発泡や膨れの抑制効果が十分に得られない場合がある。一方、硬化性成分の量が多すぎると、粘着剤層が硬くなり過ぎて粘着力が低下するおそれが生じる。
硬化性成分は粘着剤成分とブレンドする場合、粘着剤成分との相溶性が良いものが好ましい。その他、硬化性成分を粘着剤成分の主ポリマーとの共重合体として用いることも可能である。
放射線硬化性成分を紫外線照射等により硬化させる場合、粘着剤層は光透過性を有するものが好ましく、例えば、実質的に透明または半透明(無色または有色)であるものがよく、これにより、粘着剤層の硬化を容易に行うことができる。
なお、本発明における粘着剤層は、通常、接着剤と称されるもので形成しても差し支えない。
【0108】
透明性、無色性、ハンドリング性の観点から、粘着剤層の厚みは1〜100μm程度であることが好ましい。粘着剤層を接着剤で形成する場合は、粘着剤層の厚みは上記範囲で薄めにする。具体的には1〜20μm程度が好ましい。粘着剤で形成する場合は、粘着剤層の厚みは上記範囲で厚めにする。具体的には5〜60μm程度が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、従来技術では対応できない、建物の窓に取り付けたり室内の透明な間仕切りに使用することが容易にできる、視認性に優れると共に従来のλ/4型の電磁波遮蔽体よりも厚みを薄くできて、広帯域の共振周波数を有する周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体を提供することができるので、無線通信の環境改善が容易となり益するところが大である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明に係る周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体の概略構成を示す部分拡大断面図である。
【図2】本発明に係る周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体の別の概略構成を示す部分拡大断面図である。
【図3】(a)は、従来技術における共振周波数Pにおける遮蔽レベルαでの帯域幅wを示す概念図である。(b)は、本発明における共振周波数Pにおける遮蔽レベルαでの帯域幅wを示す概念図である。
【図4】(a)〜(k)は、それぞれFSS素子のパターンの例を示す部分拡大正面図である。
【符号の説明】
【0111】
1,10…周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体、2,11,12…透明な中間基材層、3,4,13,14…FSS素子細線パターンの金属層、5,6,15,16…透明基材、7,8,17,18,19…粘着剤層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数帯域の電磁波を遮蔽するための周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体であって、透視性を有し、1層又は誘電率の異なる2層以上の透明な固体誘電体からなる中間基材層の両端面に、誘電体からなる透明基材が粘着剤層を介して積層され、前記透明基材の一方の表面には、それぞれ電磁波遮蔽用のFSS素子からなる細線パターンが配設されてなり、前記中間基材層の厚みは略λ/60〜λ/5(但し、λは中間基材層における電磁波の遮蔽しようとする所定周波数での波長を表す。)であり、前記中間基材層の両面側に配される2つの細線パターンは写真製法により生成された現像銀層からなる金属層であって、前記透明基材の一方の面に対して垂直な方向から視て前記2つの細線パターンの配列間隔が略重なる位置に配設されてなることを特徴とする電磁波シールド積層体。
【請求項2】
所定周波数帯域の電磁波を遮蔽するための周波数選択遮蔽型の電磁波シールド積層体であって、透視性を有し、1層又は誘電率の異なる2層以上の透明な固体誘電体からなる中間基材層の両端面に、誘電体からなる透明基材が粘着剤層を介して積層され、前記透明基材の一方の表面には、それぞれ電磁波遮蔽用のFSS素子からなる細線パターンが配設されてなり、前記中間基材層の厚みは略λ/60〜λ/5(但し、λは中間基材層における電磁波の遮蔽しようとする所定周波数での波長を表す。)であり、前記中間基材層の両面側に配される2つの細線パターンは導電性ペーストを印刷することにより生成された金属層であって、前記透明基材の一方の面に対して垂直な方向から視て前記2つの細線パターンの配列間隔が略重なる位置に配設されてなることを特徴とする電磁波シールド積層体。
【請求項3】
前記FSS素子の細線パターンの図形形状が開放図形の場合には、図形の両端間の長さを波長λの1/2とし、環状図形の場合には、図形の全周長さを波長λに等しくすることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波シールド積層体。
【請求項4】
前記透明基材の少なくとも一方の表面には、特定の商号、商標、型番などのロゴマーク及び/又は位置合わせマークであって、前記中間基材層の両面側に配される2つの細線パターンの重なる位置を調整するのに利用できる、図形、文字、記号、符号などの群から選択された1種類以上が、目視可能な大きさによって、縦及び横方向にそれぞれ一定の間隔で配設されてなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電磁波シールド積層体。
【請求項5】
前記金属層からなる細線パターンの線幅が15〜80μmであり、かつ厚みが0.05〜15μmであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電磁波シールド積層体。
【請求項6】
前記細線パターンは、1つ又は複数の共振周波数に対して遮蔽できるように、1種類又は複数種類の形状からなるFSS素子が配列されてなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電磁波シールド積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−252046(P2008−252046A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95093(P2007−95093)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】