説明

周辺視野を有するセンサ、センサユニット、およびセンサの製造方法

【課題】保持部に対して浅い仰角方向から到来する波動(すなわち、周辺視野)をも検知し、広い方位角範囲で検知対象を非接触で検出することが可能なセンサ、センサユニット、及びセンサの製造方法を提供する。
【解決手段】検知対象を非接触で検出するセンサ100であって、検知対象から到来する波動を検知する検知素子102と、検知素子102の第1端102a側を保持する保持部104とを備え、検知素子102の第2端102b側は、保持部から離間する方向に変位している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象を非接触で検出するセンサ、センサユニット、およびセンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
センサは、人間の感覚に代わり、機械的、電磁気的、化学的変化を検知する装置である。例えば、触覚センサ、超音波センサが研究されている。
【0003】
触覚センサは、静的に加わった力を検知する。触覚センサは、例えばロボットの手足に設けられる。触覚センサの検知素子として、片持ち梁状の素子が研究されている。特許文献1は、垂直応力だけでなく剪断力も検知することができる触覚センサを開示する。また、特許文献2および特許文献3は、湾曲状検知素子を備えた触覚センサの製造方法を開示する。
【0004】
一方、超音波センサは、超音波に基づく振動を検知する。例えば、非特許文献1は、超音波入射により誘起される撓み振動を電気信号に変換することで超音波を検知する超音波センサを開示する。超音波センサは、シリコンMEMS技術を用いて作製した微小なダイアフラム構造と、ダイアフラム構造上に形成された圧電体(PZT薄膜)とを備える。
【0005】
図8は、従来の超音波センサ500を示す(a)平面図、(b)断面図、及び(c)拡大断面図である。超音波センサ500は、検知対象を非接触で検出する前方視野型センサである。超音波センサ500は、検知対象から到来する波動を検知する検知素子502と、保持部504とを備える。検知素子502は、圧電体を含む。検知素子502は、超音波センサ500に対して前方から到来する音波を検知面で検知する。保持部504は、例えば、シリコン基板を含む。
【0006】
超音波発生部(図示せず)から発生された超音波は、検知対象に到達し、検知対象で反射する。検知対象で反射した超音波は、超音波センサ500に到来する。検知素子502は、保持部504に対して前方から到来する超音波を検知面で検知する。検知素子502に含まれた圧電体は、超音波によって振動し、電圧を発生する。超音波センサ500は発生した電圧に基づいて検知対象を非接触で検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−201061号公報
【特許文献2】特開2008−008854号公報
【特許文献3】特開2008−049438号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】アイ・イー・イー・ジェイ トランザクションズ オン センサズ アンド マイクロマシンズ(IEEJ Transactions on Sensors and Micromachines)、第128巻、第5号、p193-197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、触覚センサは、力が加わったときの静的撓みから力覚を得ることを目的としており、検知素子はシリコーンゴム等で覆われている。接触により検知素子が破壊されることを防ぐためである。従って、触覚センサをそのまま非接触型のセンサに転用しても、検知対象から到来する波動はシリコーンゴム等に遮られて検知素子に届くまでに殆ど減衰し、非接触での検知は不可能である。
【0010】
一方、超音波センサ500は、基板面に垂直な方向から測った角度θに対してcosθに比例する基本的な指向性を持つ。検知素子502の一端は、保持部504に対して反り上がっていない。したがって、超音波センサ500は、基板面に対して垂直方向が最も感度が高く、いわば「前方視野」を得るために有用な特性を有しているが、基板面に平行または浅い角度方向に対して殆ど感度を持たない。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来の正面方向から到来する波動(すなわち、前方視野)を検知するだけでなく、保持部に対して浅い仰角方向から到来する波動(すなわち、周辺視野)をも検知し、広い方位角範囲で検知対象を非接触で検出することが可能なセンサ、センサユニット、及びセンサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係るセンサの特徴構成は、検知対象を非接触で検出するセンサであって、検知対象から到来する波動を検知する検知素子と、検知素子の第1端側を保持する保持部とを備え、検知素子の第2端側は、保持部から離間する方向に変位していることにある。
【0013】
背景技術の項目で説明したように、従来の前方視野型センサでは、正面付近に対しては高い感度を有しているが、保持部に対して浅い仰角の範囲に対しては殆ど感度を有していなかった。これは、前方視野型センサは、検知面が前方を向いているゆえ、保持部に対して浅い仰角方向から到来する波動を十分に感知できないからである。
【0014】
この点、本発明のセンサによれば、波動を検知する検知素子のうち、第2端側が保持部から離間する方向に変位している(すなわち、反り上がっている)ので、保持部に対して浅い仰角方向から到来する波動を反り上がった検知面で確実に検知することができる。その結果、広い方位角範囲で検知対象を非接触で検出することが可能となる、いわゆる、周辺視野型センサを構築することができる。
【0015】
例えば、本発明の一実施例である超音波センサによれば、保持部に対して浅い角度で到来する音波によって、検知素子が保持部に対して水平な方向に振動するため、「周辺視野」を有するMEMS超音波センサを実現し得る。
【0016】
本発明によるセンサを用いれば、防犯用侵入者検知システムや自動ドアの開閉制御、さらにはホームからの転落防止等のセンシングを高精度かつ簡便に行うことができる。
【0017】
本発明に係るセンサによれば、検知素子は、第1内部応力を含む第1層と、第1内部応力とは異なる第2内部応力を含む第2層とを備え、検知素子の第2端側は、第1内部応力と第2内部応力との差に基づいて、保持部から離間する方向に変位していてもよい。本構成のセンサであれば、センサを作製する場合、2つの異なる応力の差を利用して、検知素子が保持部から自発的に離間する方向に変位することにより反り上がるプロセスを用いることができる。例えば、シリコン微細加工技術を用いて検知素子の形状を完成させる際に、検知素子を構成する材料に含まれる内部応力を利用することにより、検知素子は保持部から自発的に離間し、反り上がる。
【0018】
検知素子にPZT薄膜とシリコン熱酸化膜とが含まれる場合は、PZT薄膜をゾル・ゲル法によって製膜すればPZT薄膜には保持部上で縮もうとする応力が生じ、一方、シリコン熱酸化膜には伸びようとする応力(逆向きの応力)が生じる。これらの応力差により、検知素子は保持部から離間する方向に自発的に反り上がる。
【0019】
上記課題を解決するための本発明に係るセンサユニットの特徴構成は、検知対象を非接触で検出するセンサユニットであって、検知対象から到来する波動を検知する複数の検知素子と、複数の検知素子の第1端側を保持する保持部とを備え、複数の検知素子の少なくとも1つの第2端側は、保持部から離間する方向に変位している(すなわち、反り上がっている)ことにある。
【0020】
検知対象から発生する波動は、現実には、四方八方に散乱する場合がある。したがって、これら種々の方向に散乱しながら移動する波動を確実に検知するためには、検知素子の構成をさらに工夫する必要がある。
【0021】
この点、本構成のセンサユニットによれば、保持部から離間する方向に変位している検知素子を複数備えているので、あらゆる方向又は予期せぬ方向から到来する波動を確実に検知することができる。また、複数の検知素子のうちの1つの検知能力が落ちた場合でも、残りの健常な検知素子によって、保持部に対して浅い仰角方向から到来する波動を検知することができる。
【0022】
なお、本構成のセンサユニットは、シリコンマイクロマシニング技術により、容易に作製できる。その結果、周辺視野方向でも角度分解して特定の方向のみに注目し、その注目方向を電子的に走査し得るセンサユニットを実現することができる。
【0023】
本発明に係るセンサユニットにおいて、複数の検知素子の第2端側は保持部から離間する方向に変位しており、複数の検知素子の配置方向は各々異なっていてもよい。本構成のセンサユニットによれば、複数の検知素子の各々は、配置方向が異なっているため、例えば、センサユニットに対し放射状又は円周状に高角度の方向から到来する波動によって振動することができる。したがって、このセンサユニットは、センサユニットに対し放射状又は円周状に略全ての方向において感度を有し得る周辺視野型センサとして利用することができる。
【0024】
また、例えば、検知素子の湾曲の軸を変えたセンサを集積化することもできるので、保持部に対して0度から180度までの仰角方向において感度を有し、さらにセンサユニットに対し放射線状に略全ての方向において感度を有し得る全方位視野型センサとして利用することができる。
【0025】
さらに、同一基板上に前方視野のセンサと周辺視野のセンサとを集積化することも容易である。
【0026】
本発明によるセンサユニットを用いれば、例えば、防犯や、自動ドア制御、ホームからの転落防止といった人の動向を検知するセンシングにおいて、人の位置だけでなくその動作・進行方向についても詳細な情報を得ることができる。その結果、誤検知や検知漏れのより少ない高度なセンシングと、それに基づく信頼性の高い制御が可能となる。
【0027】
上記課題を解決するための本発明に係るセンサの製造方法の特徴構成は、検知対象を非接触で検出するセンサの製造方法であって、検知対象から到来する波動を検知する検知素子を保持部の上に形成する形成工程と、検知素子の第2端側が保持部から離間する方向に変位するように検知素子を変形する変形工程とを包含する。
【0028】
本発明に係るセンサの製造方法によれば、上記説明した本発明のセンサと同様の作用効果を奏する。すなわち、変形工程において、波動を検知する検知素子のうち、第2端側を保持部から離間する方向に変位させている(すなわち、反り上げている)ので、出来上がった検知素子は、保持部に対して浅い仰角方向から到来する波動を反り上がった検知面で確実に検出することができる。その結果、広い方位角範囲で検知対象を非接触で検出することが可能となる、いわゆる、周辺視野型センサを構築することができる。
【0029】
本発明に係るセンサの製造方法によれば、検知素子は、第1内部応力を含む第1層と、第1内部応力とは異なる第2内部応力を含む第2層とを備え、変形工程は、検知素子の第2端側が、第1内部応力と第2内部応力との差に基づいて、保持部から離間する方向に変位することにより実行されてもよい。
【0030】
本構成のセンサ製造方法であれば、センサを作製する場合、2つの異なる応力の差を利用して、検知素子が保持部から自発的に離間する方向に変位することにより反り上がるプロセスを用いることができる。例えば、シリコン微細加工技術を用いて検知素子の形状を完成させる際に、検知素子を構成する材料に含まれる内部応力を利用することにより、検知素子は保持部から自発的に離間し、反り上がる。
【0031】
検知素子にPZT薄膜とシリコン熱酸化膜とが含まれる場合は、PZT薄膜をゾル・ゲル法によって製膜すればPZT薄膜には保持部上で縮もうとする応力が生じ、一方、シリコン熱酸化膜には伸びようとする応力(逆向きの応力)が生じる。これらの応力差により、検知素子は保持部から離間する方向に自発的に反り上がる。
【0032】
本発明に係るセンサの製造方法において、変形工程は、検知素子に外力を作用させることにより実行されてもよい。本構成のセンサ製造方法であれば、検知素子に外力を作用させることにより、例えば、当該検知素子を引き付けることができる。この場合、検知素子を構成する材料に含まれる内部応力を利用することなく、検知素子を保持部から離間するように反り上げることができる。例えば、検知素子に磁性体が含まれる場合には、変形工程は、磁性体に磁力が作用することにより実行され得る。この場合、磁力により検知素子を引き付けることができる。この方法によれば、検知素子が微細な場合でも、検知素子を非接触で保持部から離間させて反り上げることができるので、検知素子を破壊することなくセンサを作製し得る。検知素子を非接触で反り上げる他の方法として、静電力、陰圧による吸引力等を利用することも可能である。
一方、検知素子に外力を作用させることにより実行される変形工程は、人の手により機械的に折り曲げたり、物理的な引張力等によっても実行可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態のセンサの構成を示す断面図である。
【図2】センサの断面図である。
【図3】屈曲状検知素子を備えたセンサを示す(a)平面図、(b)断面図、及び(c)拡大断面図である。
【図4】湾曲状検知素子を備えたセンサを示す(a)平面図、(b)断面図、及び(c)拡大断面図である。
【図5】湾曲状検知素子の拡大写真図である。
【図6】本発明の第2実施形態のセンサユニットの構成例を示す平面図である。
【図7】本発明の第3実施形態のセンサの製造方法を示す工程図である。
【図8】従来の超音波センサを示す(a)平面図、(b)断面図、及び(c)拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図1から図7を参照して本発明のセンサ、センサユニット、及びセンサの製造方法に関する実施形態を説明する。本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図せず、当該構成と均等な構成も含む。
【0035】
〔第1実施形態:センサの構成〕
図1は、本発明の第1実施形態のセンサ100の構成を示す断面図である。センサ100は、検知対象を非接触で検出するセンサである。センサ100は、検知対象から到来する波動を検知する検知素子102と、保持部104とを備える。
【0036】
検知素子102は、第1端102aと第2端102bとを有する。検知素子102は、圧電体を含む。圧電体に振動や圧力などの力が加わると圧電体に電圧が発生し、逆に圧電体に電圧が加えられると伸縮する。検知素子102の表面は剥き出しであってもよいが、圧電体に振動や圧力が伝達し得る限り、例えば、被膜コーティングが施されていても構わない。検知素子102の表面に被膜コーティングを施した場合、耐久性、耐傷性、防汚性等の機能向上が期待できる。検知素子102の第2端102b側は、保持部104に対して反り上がっている。
【0037】
保持部104は、検知素子102の第1端102a側を保持している。保持部104は、シリコン基板を含む。なお、保持部104は、検知素子102の第1端102a側を保持し得る限りは、シリコン基板に限定されない。例えば、ガラス基板でもよい。
【0038】
波動発生源の一例である超音波発生部(図示せず)から発生された超音波は、検知対象に到達し、検知対象で反射する。検知対象で反射した超音波は、センサ100に到来する。検知素子102は、正面から到来する超音波を第2端102b側で検知し(図1中の縦方向の両矢印)、保持部104に対して浅い仰角方向から到来する超音波を保持部104から離間する方向に変位している(すなわち、反り上がっている)検知面で検知する(図1中の横方向の両矢印)。検知素子102に含まれた圧電体は、超音波によって振動し、電圧を発生する。センサ100は、発生した電圧に基づいて検知対象を非接触で検出する。
【0039】
なお、本明細書において、「検知素子の第2端側が保持部から離間する方向に変位する」ことは、上記のとおり「検知素子の第2端側が保持部に対して反り上がる」ことを意味する。そして、反り上がりの程度、曲率、形状等は、特に問わないものとする。
【0040】
図2は、センサ100の断面図である。保持部104は、第1SiO層202とSi層204とを含む。検知素子102は、第2SiO層206と、下部電極層208と、圧電体層210と、上部電極層212とを含む。
【0041】
下部電極層208は、PtとTiとを含む。例えば、Pt/Ti電極が下部電極層208として機能する。圧電体層210は、ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O):以下、「PZT」と記す。)を含む。例えば、PZT層が圧電体層210として機能する。上部電極層212は、Auを含む。例えば、Au電極が上部電極層212として機能する。
【0042】
第2SiO層206には、第2SiO層206が伸びる方向に内部応力が作用している。Si層にO原子が入り込むことでSiO層の体積がSi層の体積よりも大きくなるためである。圧電体層210には、圧電体層210が縮む方向に内部応力が作用している。ゾル・ゲル法により圧電体層210を製膜する過程で、圧電体層210の結晶化の後に圧電体層210の体積が小さくなるためである。
【0043】
検知素子102の第2端102b側は、第2SiO層206が有する内部応力と圧電体層210が有する内部応力との差によって保持部104から離間し、反り上がっている。
【0044】
以上のように、センサ100は、超音波を検知する検知素子102の第2端102b側が保持部104から離間する方向に変位しているので、保持部104に対して浅い仰角方向から到来する音波を検知素子102で確実に検知することができる。その結果、広い方位角範囲で検知対象を非接触で検出することが可能となる、いわゆる、周辺視野型センサを構築することができる。
【0045】
なお、検知素子102の形状は、検知素子102の第2端102b側が保持部104から離間する方向に変位している限りは、種々の形状で構成し得る。
【0046】
例えば、センサ100において、検知素子102の第2端102b側は保持部104に対して屈曲していてもよい。
【0047】
図3は、屈曲状検知素子を備えたセンサ100aを示す(a)平面図、(b)断面図、及び(c)拡大断面図である。センサ100aは、第2端102b側が保持部104に対して屈曲している検知素子102を備える。
【0048】
センサ100aであれば、保持部104に対して略平行に到来する波動に対しても検知素子102が確実に振動するため(図3中の横方向の両矢印)、単一の素子で、広範な検知領域を持つ周辺視野型センサを実現し得る。検知素子102は、例えば、機械的に折り曲げることにより、比較的簡単に作製し得る。
【0049】
例えば、センサ100において、検知素子102の第2端102b側は保持部104に対して湾曲していてもよい。
【0050】
図4は、湾曲状検知素子を備えたセンサ100bを示す(a)平面図、(b)断面図、及び(c)拡大断面図である。センサ100bは、第2端102b側が、検知素子102の第2端102bを巻き込むように反り上がっている検知素子102を備える。
【0051】
センサ100bであれば、保持部104に対して略平行に到来する波動のみならず、保持部104に対して浅い仰角方向から到来する波動に対しても、検知素子102が確実に振動するため、単一の素子で、より広範な検知領域を持つ周辺視野型センサを実現し得る。
【0052】
特に、検知素子102の第2端102b側が、検知素子102の第2端102bを巻き込むように360度反り上がっている場合は、検知素子102は、保持部104に対して0度から180度までの仰角方向から到来する波動によっても振動するため(図4中の3つの両矢印)、保持部に対して略全方向で感度を有し得る。このように、単一の検知素子102で、保持部104に対して略全方向の信号を大きく捉えることができる。
【0053】
なお、図4の湾曲状検知素子を備えたセンサ100bにおいては、検知素子102の第2端102bの巻き込み度合いが大きい程、指向性として感度が得られる角度範囲が広くなる。また、このセンサ100bにおいて、検知素子102の第2端102b側から所定の距離のところを切断すると、例えば、図1に示すセンサ100と同様のものを得ることも可能である。このように、本発明では、湾曲状検知素子を備えたセンサ100bを元にして、検知素子102bの長さを調整することにより、測定条件に応じた最適な性能及び形状を有するセンサを容易に作製することが可能となる。
【0054】
図5は、本発明の一例として作製した湾曲状検知素子の拡大写真図である。図5の上側の写真によれば、検知素子の第2端側が、検知素子の第2端を巻き込むように180度から360度反り上がっていることが明らかである。図5の下側の写真によれば、検知素子の第2端側が、検知素子の第2端を巻き込むように360度以上反り上がっていることが明らかである。本発明者の研究によれば、検知素子の幅、検知素子の厚さ等に応じて、反り上がり角度を制御し得ることが判明している。
【0055】
上記説明では、波動として主に超音波に基づく波動を想定しているが、検知素子が検知対象から到来する波動を検知し得る限りは、到来する波動は、超音波に基づく波動に限定されない。例えば、到来する波動が、電磁波(光、赤外線、X線等)に基づく波動でもよい。
【0056】
到来する波動が光に基づく波動である場合、検知素子として、例えば光電素子を採用し得る。光発生部(発光素子)は検知対象に向けて光を発する。光は、検知対象に到達し、検知対象で反射する。検知対象で反射した光は、センサに到来する。光電素子は、保持部に対して浅い仰角方向から到来する光波を、保持部から離間して反り上がった検知面で検知する。光電素子が光を受光することによって、光電素子に電流が流れる。センサは電流に基づいて検知対象を非接触で検出する。
【0057】
上記光電素子としては、例えば硫化カドミウム素子(CdS素子)を採用し得る。CdS素子の外部から定電圧をかけておいて、CdS素子への光照射による抵抗変化を通してCdS素子を流れる電流値が変化するのを検知する。例えば、CdS素子に到来する光の強弱を制御することにより、CdS素子の抵抗値を変更し得、明るさに応じてCdS素子の抵抗値が変化する。周囲が暗い時はCdS素子の抵抗値が高く、CdS素子にはほとんど電流が流れない。周囲が明るくなると、CdS素子の抵抗値が低くなり、CdS素子に電流が流れる。
【0058】
検知素子として、例えば、フォト・ダイオードを採用し得る。フォト・ダイオードのPN接合に光が当たると電位差が生じ、フォト・ダイオードに電流が流れる。
【0059】
〔第2実施形態:センサユニットの構成〕
図6は、本発明の第2実施形態のセンサユニット300の構成例を示す平面図である。(a)は、複数の検知素子を放射状に配置した構成例である。(b)は、複数の検知素子を円周状に配置した構成例である。なお、このセンサユニット300では、8個の検知素子を使用しているが、検知素子の数は2つ以上あればよく、状況に応じて適宜増減することができる。センサユニット300は、検知対象を非接触で検出する。センサユニット300は、第1検知素子302a、第2検知素子302bと、第3検知素子302c、第4検知素子302d、第5検知素子302e、第6検知素子302f、第7検知素子302g、第8検知素子302h(以下、第1〜8検知素子302と称する)、及び保持部304を備える。
【0060】
第1〜8検知素子302は、検知対象から到来する波動を検知する。
【0061】
保持部304は、第1〜8検知素子302の各々の第1端側を保持する。第1〜8検知素子302の各々の第2端側は、保持部104から離間する方向に変位している(すなわち、反り上がっている)。第1〜8検知素子302の配置方向は、(a)又は(b)に例示したように、各々異なっている。保持部304は、例えば、シリコン基板を含む。
【0062】
センサユニット300によれば、保持部304から離間する方向に変位している複数の検知素子(第1〜8検知素子302)を備えているので、あらゆる方向又は予期せぬ方向から到来する波動を確実に検知することができる。また、複数の検知素子(第1〜8検知素子302)のうちの1つの検知能力が落ちた場合でも、残りの健常な検知素子によって、保持部304に対して浅い仰角方向から到来する波動を検知することができる。
【0063】
また、センサユニット300によれば、複数の検知素子は、保持部304上で放射状又は円周状に配置されている。したがって、センサユニット300に対し放射状又は円周状に高角度の方向から到来する波動によって振動するため、センサユニット300に対し放射状又は円周状に高角度の方向の信号を大きく捉えることができる。
【0064】
また、例えば、検知素子の湾曲の軸を変えたセンサを集積化することもできるので、保持部に対して0度から180度までの仰角方向において感度を有し、さらにセンサユニットに対し放射線状に略全ての方向において感度を有し得る全方位視野型センサとして利用することができる。
【0065】
さらに、同一基板上に前方視野型センサと周辺視野型センサとを集積化することも容易である。
【0066】
なお、センサユニット300は、シリコンマイクロマシニング技術により、容易に作製できる。その結果、周辺視野方向でも角度分解して特定の方向のみに注目し、その注目方向を電子的に走査し得るセンサユニットを実現できる。
【0067】
本発明によるセンサユニット300を用いれば、例えば、防犯や、自動ドア制御、ホームからの転落防止といった人の動向を検知するセンシングにおいて、人の位置だけでなくその動作・進行方向についても詳細な情報を得ることができる。その結果、誤検知や検知漏れのより少ない高度なセンシングと、それに基づく信頼性の高い制御が可能となる。
【0068】
〔第3実施形態:センサの製造方法〕
図7は、本発明の第3実施形態のセンサ100の製造方法を示す工程図である。センサ100は、工程402〜工程412を実行することによって製造される。以下、センサ100の製造方法を工程402〜工程412ごとに説明する。
【0069】
工程402:シリコン基板の表面を酸化し、第1SiO層202とSi層204と第2SiO層206とを含む表面熱酸化シリコン基板を作製する。第2SiO層206には、第2SiO層206が伸びる方向に内部応力が作用している。Si層にOが入り込むことでSiO層の体積がSi層の体積よりも大きくなるためである。なお、第1SiO層202とSi層204とから保持部104が構成される。
【0070】
工程404:スパッタリング法により第2SiO層206の上に下部電極層208を製膜し、リフトオフ法により下部電極層208をパターニングする。例えば、Pt/Ti電極が下部電極層208として機能する。
【0071】
工程406:ゾル・ゲル法により下部電極層208の上に圧電体層210を製膜し、硝酸により圧電体層210をパターニングする。例えば、PZT層が圧電体層210として機能する。圧電体層210には、圧電体層210が縮む方向に内部応力が作用している。ゾル・ゲル法により圧電体層210を結晶化する過程で、圧電体層210の製膜の前後で圧電体層210の体積が小さくなるためである。
【0072】
工程408:蒸着法により圧電体層210の上に上部電極層212を製膜し、ヨウ素とヨウ化カリウムとを含む水溶液により上部電極層212をパターニングする。例えば、Au電極が上部電極層212として機能する。
【0073】
工程410:下部電極層208と第2SiO層206とが当接する部分を残すように、第2SiO層206の一部をフッ酸によりエッチングし除去する。犠牲層エッチング用の窓明けのためである。
【0074】
工程412:XeFガスにより第2SiO層206の下部(保持部104のうち検知素子102の第2端102b側に当接する領域)の一部を犠牲層エッチングする。犠牲層エッチングにより、第2SiO層206に含まれている内部応力と圧電体層210に含まれている内部応力とが解き放たれる。その結果、検知素子102の第2端102b側が第2SiO層206に含まれている内部応力と圧電体層210に含まれている内部応力との差に基づいて保持部104に対して反り上がる。
【0075】
以上のように、検知素子102にPZT層とSiO層とが含まれる場合は、PZT層をゾル・ゲル法によって製膜すればPZT層には保持部上で縮もうとする応力が生じ、一方、SiO層には伸びようとする応力(逆向きの応力)が生じる。これらの応力差により、検知素子102は保持部104から離間する方向に自発的に反り上がる。このように、センサの製造工程の最終段階で、保持部104のうち検知素子102の第2端102b側に当接する領域をエッチングすることにより、第2端部側が保持部104から離間して反り上がるので、カンチレバー構造を容易に作製することができる。
【0076】
また、工程412において、検知素子102の第2端102b側を保持部104に対して反り上げているので、センサ100は、保持部104に対して浅い仰角方向から到来する波動を反り上がった検知素子102の検知面で確実に検出することができる。その結果、広い方位角範囲で検知対象を非接触で検出することが可能となる、いわゆる、周辺視野型センサを構築することができる。
【0077】
本発明の第3実施形態のセンサ100の製造方法によれば、工程402〜工程410は、検知素子102を保持部104の上に形成する形成工程に相当する。この形成工程では、形成された検知素子102は平面内において三方を周囲から分離されることが必要となる。さらに、工程412は、検知素子102の第2端102b側が保持部104に対して反り上がるように検知素子102を変形する変形工程に相当する。この変形工程では、検知素子102の第2端102b側が保持部104から離間する方向に変位すること、言い換えると、検知素子102の第2端102b側が厚み方向において保持部104から隔絶されることが必要となる。
【0078】
なお、変形工程は、検知素子102の第2端102b側が保持部104から離間する方向に変位するように検知素子102を変形し得る限りは、2つの異なる内部応力の差を利用することにより実行される工程に限定されない。変形工程は、検知素子102に外力を作用させることにより実行することも可能である。
【0079】
例えば、検知素子102に磁性体が含まれる場合には、変形工程は、磁性体に磁力が作用することにより実行され得る。この場合、磁力により検知素子を引き付けることができるので、検知素子を構成する材料に含まれる内部応力を利用することなく、検知素子を保持部から離間させて反り上げることができる。したがって、検知素子が微細な場合でも検知素子を非接触で反り上げることができるので、検知素子を破壊することなくセンサを作製し得る。
【0080】
その他、変形工程は、静電力、陰圧による吸引力、あるいは、物理的な引張力等によっても実行可能である。
【0081】
〔別実施形態〕
上記実施形態では、センサ100を構成する検知素子102、又はセンサユニット300を構成する検知素子302の形状は、図6に示すように、上方視で方形のものとして説明した。しかし、検知素子102又は検知素子302を、例えば、上方視で十字型にすることも有効である。この場合、十字型の検知素子の中央部を保持部に対して固定し、4つの端部を保持部から離間する方向に変位させて反り上げ得る。十字型の検知素子の4つの端部の内の1つを保持部に対して固定し、残り3つの端部を保持部から離間する方向に変位させて反り上げてもよい。検知素子102又は検知素子302を十字型にすれば、単一のセンサでありながら、平面視で複数の方向から感度を有し得る周辺視野型センサを構築することができる。また、十字型の検知素子を用いてセンサユニットを構成すれば、検知素子の数を比較的少なくしても、広範な角度方向から感度を有し得る周辺視野型センサユニットを構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によるセンサ、センサユニット、およびセンサの製造方法は、センシング分野(例えば、防犯用侵入者検知システムや自動ドアの開閉制御、さらにはホームからの転落防止等のセンシングの分野)に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0083】
100 センサ
102 検知素子
102a 検知素子の第1端
102b 検知素子の第2端
104 保持部
300 センサユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象を非接触で検出するセンサであって、
前記検知対象から到来する波動を検知する検知素子と、
前記検知素子の第1端側を保持する保持部と
を備え、
前記検知素子の第2端側は、前記保持部から離間する方向に変位している、センサ。
【請求項2】
前記検知素子は、
第1内部応力を含む第1層と、
前記第1内部応力とは異なる第2内部応力を含む第2層と
を備え、
前記検知素子の前記第2端側は、前記第1内部応力と前記第2内部応力との差に基づいて、前記保持部から離間する方向に変位している、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
検知対象を非接触で検出するセンサユニットであって、
前記検知対象から到来する波動を検知する複数の検知素子と、
前記複数の検知素子の第1端側を保持する保持部と
を備え、
前記複数の検知素子の少なくとも1つの第2端側は、前記保持部から離間する方向に変位している、センサユニット。
【請求項4】
前記複数の検知素子の第2端側は、前記保持部から離間する方向に変位しており、
前記複数の検知素子の配置方向は各々異なっている、請求項3に記載のセンサユニット。
【請求項5】
検知対象を非接触で検出するセンサの製造方法であって、
前記検知対象から到来する波動を検知する検知素子を保持部の上に形成する形成工程と、
前記検知素子の第2端側が前記保持部から離間する方向に変位するように前記検知素子を変形する変形工程と
を包含する、センサの製造方法。
【請求項6】
前記検知素子は、
第1内部応力を含む第1層と、
前記第1内部応力とは異なる第2内部応力を含む第2層と
を備え、
前記変形工程は、前記検知素子の前記第2端側が、前記第1内部応力と前記第2内部応力との差に基づいて、前記保持部から離間する方向に変位することにより実行される、請求項5に記載のセンサの製造方法。
【請求項7】
前記変形工程は、前記検知素子に外力を作用させることにより実行される、請求項5に記載のセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−10132(P2011−10132A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152910(P2009−152910)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】