説明

回転伝達軸及びパワーシートスライド装置

【課題】非円形断面の軸孔に嵌合する嵌合部を有する回転伝達軸において、軸孔に対する嵌合精度が高く、トルク伝達の応答性にも優れる回転伝達軸を提供する。
【解決手段】軸孔に対する嵌合部が、弾性体からなるインナーマッスルと、該インナーマッスルの外側に位置する金属製のアウターシェルとを有し、このアウターシェルは軸孔の内面に対して不連続に接触する複数の分割接触部を有し、軸孔に対して嵌合部を挿入させたとき、インナーマッスルが弾性変形してアウターシェルの複数の分割接触部を軸孔の内面に押圧接触させることを特徴とする回転伝達軸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータなどの駆動源からの回転力を伝達する伝導機構を構成する回転伝達軸、及び車両用シートに適用されるパワーシートスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の伝導機構において、回転伝達軸の端部の断面形状を非円形(多角形)とし、回転力の伝達側や被伝達側の部材に形成した非円形(多角形)断面の孔部(軸孔)に嵌合させたものが知られている。異音の発生を防ぐため、回転伝達軸と軸孔はガタのない状態で嵌合されることが望ましく、例えば特許文献1では、車両用パワーシート装置の駆動機構を構成するフレキシブルシャフト(トルクケーブル)において、シャフト端部の外面と軸孔の内面との間に弾性体を挿入した構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−86236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように回転伝達軸の外面と軸孔の内面の間に弾性体を設けた構成では、この弾性体の撓みによって、回転伝達軸と軸孔部材との間のトルク伝達の応答性が低下するおそれがある。そこで本発明は、軸孔に対する嵌合精度が高く、かつトルク伝達の応答性にも優れた回転伝達軸、及びこのような回転伝達軸を備えたパワーシートスライド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、非円形断面の軸孔に嵌合する嵌合部を有する回転伝達軸において、回転伝達軸の嵌合部が、弾性体からなるインナーマッスルと、該インナーマッスルの外側に位置する金属製のアウターシェルとを有し、このアウターシェルは軸孔の内面に対して接触する複数の分割接触部を有し、軸孔に対して嵌合部を挿入させたとき、インナーマッスルが弾性変形してアウターシェルの複数の分割接触部を軸孔の内面に押圧接触させることを特徴としている。
【0006】
アウターシェルの複数の分割接触部は、インナーマッスルの外面を構成する平面部に沿う平面状部と、インナーマッスルの外面を構成するコーナー部に沿うアウターコーナー部を適宜組み合わせて構成することができる。ひとつの形態として、インナーマッスルの複数の平面部に沿う複数の平面状部によりアウターシェルの分割接触部を構成することができる。別の形態として、インナーマッスルの複数のコーナー部に沿う複数のアウターコーナー部によりアウターシェルの分割接触部を構成してもよい。あるいは、少なくとも一つの平面状部と少なくとも一つのアウターコーナー部を組み合わせてアウターシェルの分割接触部を構成することも可能である。
【0007】
回転伝達軸の両端部に嵌合部が形成される場合、その一端部と他端部で、アウターシェルの分割接触部を回転方向に異なる位相で形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
以上の本発明の回転伝達軸及び該回転伝達軸を適用したパワーシートスライド装置によれば、インナーマッスルの弾性力でアウターシェルの複数の分割接触部を軸孔の内面に押圧接触させるため、軸孔に対する嵌合精度が高くガタを防ぐことができる。また、回転伝達軸における軸孔との接触領域に金属製のアウターシェルを用いているため、トルク伝達の応答性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態の回転伝達軸の斜視図である。
【図2】図1の回転伝達軸を構成するアウターシェルの展開図である。
【図3】図1の回転伝達軸の嵌合部を軸孔に嵌合させた状態を示す断面図である。
【図4】図1の回転伝達軸からアウターシェルの先端形状を異ならせた実施形態を示す斜視図である。
【図5】回転伝達軸の異なる実施形態を示す分解斜視図である。
【図6】回転伝達軸の異なる実施形態を示す分解斜視図である。
【図7】回転伝達軸の異なる実施形態を示す分解斜視図である。
【図8】回転伝達軸の異なる実施形態を示す断面図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ、四角形状の軸孔に対するアウターシェルの分割接触部の形状を異ならせた態様を示す。
【図9】回転伝達軸の異なる実施形態を示す断面図であり、(a)、(b)、(c)はそれぞれ、三角形状の軸孔に対するアウターシェルの分割接触部の形状を異ならせた態様を示す。
【図10】回転伝達軸の異なる実施形態を示す断面図である。
【図11】本発明の回転伝達軸を適用したパワーシートスライド装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示す回転伝達軸10は、弾性体からなるインナーマッスル11と、金属製のアウターシェル12から構成されている。本発明はこれらの材質を厳密に限定するものではないが、インナーマッスル11はニトリルゴムなどの合成ゴム、アウターシェル12はバネ鋼により形成することが好ましい。
【0011】
インナーマッスル11は、回転伝達軸10の長手方向に2分割されており、そのいずれも長手方向に一定断面の四角柱状に形成されている。インナーマッスル11の外面は、それぞれが回転伝達軸10の回転中心を挟んだ対辺位置にある一対の平面部11aと一対の平面部11bとからなる。一対の平面部11aは互いに略平行で、一対の平面部11bも互いに略平行であり、平面部11aと平面部11bは略直交する関係にある。
【0012】
図2に示すように、アウターシェル12は、中央接続部13から二対(4本)の平面状腕部14、15を略等間隔で延出させた十字状の展開形状をなす。より詳しくは、一対の平面状腕部14が中央接続部13を挟んで互いに反対方向に延出され、該一対の平面状腕部14と略直交する関係で、一対の平面状腕部15が中央接続部13を挟んで互いに反対方向に延出されている。そして、中央接続部13を挟んだ対称位置にある一対の平面状腕部14を同方向に曲げて互いに略平行となるように対向させ、残る一対の平面状腕部15を平面状腕部14とは反対方向に曲げて互いに略平行となるように対向させる。つまり、一対の平面状腕部14と一対の平面状腕部15が、回転伝達軸10の回転方向に約90度位相(回転方向の位置関係)をずらせた形で配置される。それぞれの平面状腕部14、15と中央接続部13の間には、山形の折り返し部16が形成される。アウターシェル12のそれぞれの先端部には、平面状腕部14、15の幅を徐々に小さくさせる傾斜形状をなす面取り部18が形成されている。
【0013】
一対のインナーマッスル11の一方は、その一端部を中央接続部13の一方の面に当て付けた状態で一対の平面状腕部14により挟着固定され、他方のインナーマッスル11は、その一端部を中央接続部13の他方の面に当て付けた状態で一対の平面状腕部15により挟着固定される。インナーマッスル11とアウターシェル12は接着剤などで固定される。回転伝達軸10において、一対の平面状腕部14によってインナーマッスル11を挟着した側を嵌合部10A、一対の平面状腕部15によってインナーマッスル11を挟着した側を嵌合部10Bとする。上述のように、アウターシェル12において一対の平面状腕部14と一対の平面状腕部15が互いに約90度位相(回転方向の位置関係)をずらせた形で形成されているため、嵌合部10A側での一対の平面状腕部14とインナーマッスル11の積層方向と、嵌合部10B側での一対の平面状腕部15とインナーマッスル11の積層方向は、互いに略直交した関係にある。
【0014】
回転伝達軸10の各嵌合部10A、10Bは、面取り部18が形成される先端付近の一部領域を除いて、その長手方向(軸方向)に一様な四角形断面を有しており、先端部ではインナーマッスル11とアウターシェル12が面一となるように互いの長さが揃えられている。より詳しくは、各嵌合部10A、10Bでは、インナーマッスルの外面を構成する4つの平面部のうち、回転伝達軸10の回転中心を挟む対称位置にある2つの平面部11aの外側に沿ってアウターシェル12の一対の平面状腕部14、15が設けられている。また、インナーマッスルの残る2つの平面部11bは、各嵌合部10A、10Bの外観に露出し、平面状腕部14、15の両側部と略面一に位置している。つまり、四角形断面を有する各嵌合部10A、10Bのうち、回転中心を挟む対称位置にある2つの外面は、アウターシェル12の一対の平面状腕部14、15によって形成され、残る2つの外面は、インナーマッスル11の平面部11bと、これを挟む一対の平面状腕部14、15の側面とによって形成されている。
【0015】
図3に示すように、四角形断面の嵌合部10A、10Bの端部はそれぞれ、四角形(非円形断面)の内面形状をなす軸孔H1に挿入嵌合される。アウターシェル12の先端に面取り部18を形成したことにより、軸孔H1に対して嵌合部10A、10Bをスムーズに挿入させることができる。嵌合部10A、10Bは、この軸孔H1への挿入嵌合時にインナーマッスル11が若干の圧縮を受けるサイズに形成されており、圧縮されたインナーマッスル11の弾発力によって、嵌合部10Aにおいては一対の平面状腕部14、嵌合部10Bにおいては一対の平面状腕部15がそれぞれ、軸孔H1の一対の対向内面に対して押し付けられる。また、軸孔H1の残る一対の対向内面に対しては、インナーマッスル11の平面部11bと一対の平面状腕部14(15)の側面とが対向して当接する。すなわち、各嵌合部10A、10Bにおいて、アウターシェル12の一対の平面状腕部14、15は、軸孔H1の内面に対して回転方向に不連続の領域で接触する複数の分割接触部を構成しており、この平面状腕部14、15が、インナーマッスル11の弾発力によって異なる方向(軸線直交方向)に押圧されて軸孔H1の内面に対して押圧接触される構成となっている。これによって、各嵌合部10A、10Bと軸孔H1の間のガタつきが防止される。また、軸孔H1の内面全周に亘って弾性体からなるインナーマッスル11を当接させるのではなく、金属製のアウターシェル12の一対の平面状腕部14、15を、軸孔H1のうち回転中心を挟む対称位置にある2つの面に当接させたことにより、嵌合部10A、10Bと軸孔H1の間のトルク伝達の応答性にも優れている。よって、嵌合の精度が高く、ロスの少ない回転伝達が可能となる。
【0016】
図4は、アウターシェル12の先端形状を異ならせた実施形態を示している。この実施形態では、嵌合部10Aを構成する平面状腕部14の先端に連続して、インナーマッスル11の端部よりも突出する一対の屈曲部19を形成している。一対の屈曲部19は、先端側に進むにつれて互いの間隔を接近させるように屈曲形成されている。この一対の屈曲部19の傾斜形状により、軸孔H1に対して嵌合部10Aをスムーズに挿入させることができる。なお、図4では嵌合部10Aを示しているが、反対側の嵌合部10Bについても、平面状腕部15の先端に同様の屈曲部19を形成することができる。
【0017】
以上の実施形態の回転伝達軸10は、十字状の展開形状をなす金属板の各腕部を曲げ加工することでアウターシェル12が形成されているため、部品点数が少なく製造が容易である。但し、回転伝達軸10の嵌合部10A、10Bと同様の端部形状を有する回転伝達軸を、図5ないし図7に示す態様で形成することも可能である。
【0018】
図5の回転伝達軸110を構成するアウターシェル112は、四角筒状をなす中間筒部113の一端部に、略平行に対向する一対の平面状腕部114を延出させ、中間筒部113の他端部に、略平行に対向する一対の平面状腕部115を延出させたプレス成形品として形成されている。先の実施形態の回転伝達軸10と同様に、一方の嵌合部110Aを構成する一対の平面状腕部(分割接触部)114と、他方の嵌合部110Bを構成する一対の平面状腕部(分割接触部)115は、回転方向に略直交する位相(回転方向の位置関係)で配置されている。中間筒部113と各平面状腕部114の間には段部116が形成され、中間筒部113と各平面状腕部115の間には段部117が形成されている。インナーマッスル111は、同一形状の2部材を、軸方向に反転させかつ回転方向に90度位相(回転方向の位置関係)を変えた状態でアウターシェル112の一端部と他端部に装着される。それぞれのインナーマッスル111は、アウターシェル112の一対の平面状腕部114(115)に挟着される四角柱状断面の被挟着部111cと、段部116(117)に嵌合して抜け止めされる段部111dと、中間筒部113に嵌合する基部111eとを有する。インナーマッスル111における被挟着部111cの外面は、アウターシェル112の一対の平面状腕部114(115)に覆われる一対の平面部111aと、嵌合部110A(110B)の外観に露出する一対の平面部111bを有している。2つのインナーマッスル111をそれぞれ嵌合部110A側と嵌合部110B側でアウターシェル112に組み付けることにより、一体構造の回転伝達軸110が完成する。
【0019】
図5の回転伝達軸110とは逆に、図6の回転伝達軸210は、インナーマッスル211を、一方の嵌合部210Aから他方の嵌合部210Bまで連続する一部材で構成している。アウターシェル212は、回転伝達軸210の回転中心に関して略対称形状をなす2分割部材からなり、それぞれの部材はL字状断面の中間部分筒部213と、該中間部分筒部213から正逆方向に延出される一対の平面状腕部(分割接触部)214、215と、中間部分筒部213と各平面状腕部214、215の間に形成した段部216、217を有する。インナーマッスル211は、アウターシェル212の一対の平面状腕部214に挟着される四角柱状断面の被挟着部211c-1と、一対の平面状腕部215に挟着される四角柱状断面の被挟着部211c-2と、段部216に嵌合して抜け止めされる段部211d-1と、段部217に嵌合して抜け止めされる段部211d-2と、中間部分筒部213に嵌合する基部211eとを有する。インナーマッスル211における被挟着部211c-1、211c-2の外面はそれぞれ、アウターシェル212の一対の平面状腕部214(215)に覆われる一対の平面部211aと、嵌合部210A(210B)の外観に露出する一対の平面部211bを有している。2分割部材からなるアウターシェル212をそれぞれインナーマッスル211の外面に沿って固定することで、一体構造の回転伝達軸210が完成する。
【0020】
図7の回転伝達軸310は、中間パイプ320の一端部と他端部にインナーマッスル311とアウターシェル312を組み付けて嵌合部を構成したものである。図7には回転伝達軸310の一端側の嵌合部310Aを構成するインナーマッスル311とアウターシェル312のみを示しているが、他端側の嵌合部310Bは、図7のインナーマッスル311とアウターシェル312を軸方向に反転させかつ回転方向に90度位相(回転方向の位置関係)を変えた状態で中間パイプ320の他端部に組み付けることにより構成される。図7中に括弧内で示す符号は、回転伝達軸310の他端側の嵌合部310Bとして適用した場合の対応部位を示す。アウターシェル312は、回転伝達軸310の回転中心に関して略対称形状をなす2分割部材からなり、それぞれの部材はL字状断面の中間部分筒部313と、該中間部分筒部313から略平行に延出された一対の平面状腕部(分割接触部)314(315)と、中間部分筒部313と平面状腕部314(315)の間に形成した段部316(317)を有する。インナーマッスル311は、アウターシェル312の一対の平面状腕部314(315)に挟着される四角柱状断面の被挟着部311cと、段部316(317)に嵌合して抜け止めされる段部311dと、中間部分筒部313に嵌合する基部311eとを有する。インナーマッスル311における被挟着部311cの外面は、アウターシェル312の一対の平面状腕部314(315)に覆われる一対の平面部311aと、嵌合部310A(310B)の外観に露出する一対の平面部311bを有している。2分割部材からなるアウターシェル312をそれぞれインナーマッスル311の外面に沿って固定することで、2つのアウターシェルの中間部分筒部313が一体化されて角筒部を形成し、この角筒部を中間パイプ320の角筒状端部321に挿入することで、嵌合部310A(310B)が中間パイプ320に支持固定される。
【0021】
以上の各実施形態は、四角柱状断面をなす回転伝達軸の各嵌合部のうち、回転中心を挟む対辺に位置するインナーマッスルの2つの平面部を、金属製のアウターシェルの一対の平面状腕部で挟んだ構成であるが、本発明は、インナーマッスルの弾性変形に応じて径方向に拡縮変形可能なアウターシェルの複数の分割接触部を備え、該分割接触部を介して軸孔との間で回転伝達が可能であるという基本構造を有していれば、以上とは異なる形態とすることも可能である。
【0022】
図8は、内面が四角形状の軸孔H1に対する回転伝達軸の嵌合部の異なる形態を示している。図8(a)の回転伝達軸410は、四角柱状断面のインナーマッスル411の外面を構成する4つの平面部の全てに沿って、軸孔H1の内面に当接するアウターシェル412の分割接触部を構成する計4つの平面状部413が設けられている。図8(b)の回転伝達軸510は、四角柱状断面のインナーマッスル511のうち、回転中心を挟んで対角位置にある2つの角部をそれぞれ覆う(それぞれが該角部を挟んで隣接する2つの平面部に沿う)2つのL字状断面の屈曲面部(アウターコーナー部)513によって、軸孔H1に当接するアウターシェル512の分割接触部が構成されている。図8(b)には図示していないが、インナーマッスル511の残る2つの角部と軸孔H1の内面の間にも同様の屈曲面部513を設け、インナーマッスル411の4つの角部全てが屈曲面部513で覆われるようにすることも可能である。図8(c)の回転伝達軸610は、四角柱状断面のインナーマッスル611の1つの角部を覆う(該角部を挟んで隣接する2つの平面部に沿う)1つのL字状断面の屈曲面部(アウターコーナー部)613と、インナーマッスル611における該角部と対角位置にある角部を挟む2つの平面部に沿う2つの平面状部614との組み合わせによって、軸孔H1に当接するアウターシェル612の分割接触部が構成されている。
【0023】
図9は、内面が三角形状の軸孔H2に対する回転伝達軸の嵌合部の形態を示している。図9(a)の回転伝達軸710は、三角柱状断面のインナーマッスル711の外面を構成する3つの平面部の全てに沿って、軸孔H2の内面に当接するアウターシェル712の分割接触部を構成する計3つの平面状部713が設けられている。図9(b)の回転伝達軸810は、三角柱状断面のインナーマッスル811の3つの角部(頂点)をそれぞれ覆う(それぞれが該角部を挟んで隣接する2つの平面部に沿う)3つのV字状断面の屈曲面部(アウターコーナー部)813によって、軸孔H2に当接するアウターシェル812の分割接触部が構成されている。図9(c)の回転伝達軸910は、三角柱状断面のインナーマッスル911の1つの角部(頂点)を覆う(該角部を挟んで隣接する2つの平面部に沿う)1つのV字状断面の屈曲面部(アウターコーナー部)913と、インナーマッスル911における該角部の対辺位置にある平面部に沿う1つの平面状部914との組み合わせによって、軸孔H1に対するアウターシェル912の分割接触部が構成されている。
【0024】
本発明はさらに、内面に5以上の面数を有する多角形(五角形以上)の軸孔に嵌合する回転伝達軸に関しても適用が可能である。詳細の図示は省略するが、図8や図9に示す平面状部や屈曲面部(アウターコーナー部)を基本要素として、軸孔側の当接面の数や配置に応じて、該基本要素を適宜組み合わせてアウターシェルの分割接触部を構成していけばよい。
【0025】
なお、図8及び図9の各実施形態では、回転伝達軸のインナーマッスルにおいて隣接する平面部を鋭角または直角の角部で接続し、当該角部を覆うアウターシェルの屈曲面部も鋭角または直角に屈曲された断面形状をなしているが、これらの角部や屈曲面部を曲面で構成することも可能である。つまり、本発明におけるインナーマッスルのコーナー部やアウターシェルのアウターコーナー部は、角を有する形状に限定されるものではなく、曲面を有する湾曲形状を含む概念である。また、軸孔についても、図8及び図9のように隣接する平面部を角部で接続した形状に限らず、角部に相当する箇所を滑らかな湾曲形状として形成することもできる。
【0026】
また、以上の各実施形態では、回転伝達軸を構成するインナーマッスルについては、多角形の軸孔の内面形状と略相似をなす多角形状の断面としたが、少なくともアウターシェルの分割接触部を多角形軸孔の内面に確実に嵌合させるものであれば、インナーマッスルの断面形状はある程度自由に設定することができる。例えば、図10に示す回転伝達軸1010の嵌合部におけるインナーマッスル1011は、アウターシェル1012の分割接触部を構成する一対の平面状腕部1013を固定させる領域が略平行な一対の平面部1011aとして形成されているのに対し、該一対の平面部1011aを接続する外面部分が、回転伝達軸1010の回転中心から外径方向に突出する湾曲状外面部1011bとして形成されている。このインナーマッスル1011の湾曲状外面部1011bは、軸孔H1の内面に弾接して内側に弾性変形される。この構成でも、軸孔H1に対する回転伝達軸1010の嵌合精度とトルク伝達の応答性を両立させることができる。
【0027】
本発明の回転伝達軸は、様々な技術分野に適用が可能であり、その適用の一例を図11に示す。図11は車両用のパワーシートスライド装置30を示しており、シートとフロアの間に一対のシートトラック31L、31Rが設けられている。それぞれのシートトラック31L、31Rは、フロア側に固定されるロアレール32L、32Rと、ロアレール32L、32Rに対して摺動可能に支持されるアッパレール33L、33Rからなる。アッパレール33L、33R上には図示しないシート本体が固定される。アッパレール33L、33Rはロアレール32L、32Rに対して電動で前後移動させることが可能であり、その電動駆動機構は次のように構成されている。それぞれのアッパレール33L、33Rの内部には、その長手方向に沿って不図示の送りねじが回転可能に配置されており、この送りねじに対して、ロアレール32L、32Rに固定された不図示のナット部材が螺合している。各アッパレール33L、33Rには、送りねじを駆動するギヤボックス34L、34Rが設けられている。一対のアッパレール33R、33Rは連結ブラケット35で接続されており、この連結ブラケット35上にモータ36が支持されている。モータ36は正逆方向に突出する2つの出力軸37、38を有し、それぞれの出力軸37、38が、フレキシブルシャフト40、41の一端部に接続している。フレキシブルシャフト40、41の他端部は、アッパレール33L、33R上のギヤボックス34L、34Rに接続している。モータ36の出力軸37の回転はフレキシブルシャフト40を介してギヤボックス34Lに伝達され、モータ36の出力軸38の回転はフレキシブルシャフト41を介してギヤボックス34Rに伝達され、それぞれのギヤボックス34L、34Rを介して送りねじが回転され、アッパレール32L、32R、すなわちシート本体が前後に移動される。このパワーシートスライド装置30のフレキシブルシャフト40、41に、本発明による回転伝達軸を適用することができる。すなわち、モータ36の出力軸37、38側やギヤボックス34L、34R側に非円形断面の軸孔を形成し、この軸孔に対して嵌合するフレキシブルシャフト40、41の端部が、既述の実施形態のように、複数の分割接触部を有するアウターシェルとその内部のインナーマッスルとによって構成される。なお本発明は、軸による回転伝達を含むものであれば、図11以外の形態の電動駆動機構を用いたパワーシートスライド装置にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 回転伝達軸
10A 10B 嵌合部
11 インナーマッスル
11a 11b 平面部
12 アウターシェル
13 中央接続部
14 15 平面状腕部
16 折り返し部
18 面取り部
19 屈曲部
30 パワーシートスライド装置
31L 31R シートトラック
32L 32R ロアレール
33L 33R アッパレール
34L 34R ギヤボックス
35 連結ブラケット
36 モータ
37 38 出力軸
40 41 フレキシブルシャフト
110 回転伝達軸
110A 110B 嵌合部
111 インナーマッスル
111a 111b 平面部
111c 被挟着部
111d 段部
111e 基部
112 アウターシェル
113 中間筒部
114 115 平面状腕部
116 117 段部
210 回転伝達軸
210A 210B 嵌合部
211 インナーマッスル
211a 211b 平面部
211c-1 211c-2 被挟着部
211d-1 211d-2 段部
211e 基部
212 アウターシェル
213 中間部分筒部
214 215 平面状腕部
216 217 段部
310 回転伝達軸
310A 310B 嵌合部
311 インナーマッスル
311a 311b 平面部
311c 被挟着部
311d 段部
311e 基部
312 アウターシェル
313 中間部分筒部
314 315 平面状腕部
316 317 段部
320 中間パイプ
321 角筒状端部
410 回転伝達軸
411 インナーマッスル
412 アウターシェル
413 平面状腕部
510 回転伝達軸
511 インナーマッスル
512 アウターシェル
513 屈曲面部
610 回転伝達軸
611 インナーマッスル
612 アウターシェル
613 屈曲面部
614 平面状腕部
710 回転伝達軸
711 インナーマッスル
712 アウターシェル
713 平面状腕部
810 回転伝達軸
811 インナーマッスル
812 アウターシェル
813 屈曲面部
910 回転伝達軸
911 インナーマッスル
912 アウターシェル
913 屈曲面部
914 平面状腕部
1010 回転伝達軸
1011 インナーマッスル
1011a 平面部
1011b 湾曲状外面部
1012 アウターシェル
1013 平面状腕部
H1 H2 軸孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非円形断面の軸孔に嵌合する嵌合部を有する回転伝達軸において、上記嵌合部は、弾性体からなるインナーマッスルと、該インナーマッスルの外側に位置する金属製のアウターシェルとを有し、該アウターシェルは上記軸孔の内面に対して接触する複数の分割接触部を有し、上記軸孔に対して上記嵌合部を挿入させたとき、上記インナーマッスルが弾性変形して上記アウターシェルの上記複数の分割接触部を軸孔の内面に押圧接触させることを特徴とする回転伝達軸。
【請求項2】
請求項1記載の回転伝達軸において、上記インナーマッスルの外面は、上記軸孔の内面に対向する複数の平面部を有し、上記アウターシェルの複数の分割接触部は、それぞれがインナーマッスルの上記複数の平面部に沿う複数の平面状部を有していることを特徴とする回転伝達軸。
【請求項3】
請求項1記載の回転伝達軸において、上記インナーマッスルの外面は、上記軸孔の内面に対向する複数の平面部と該複数の平面部の間の複数のコーナー部とを有し、上記アウターシェルの複数の分割接触部は、それぞれがインナーマッスルの上記複数のコーナー部に沿う複数のアウターコーナー部を有していることを特徴とする回転伝達軸。
【請求項4】
請求項1記載の回転伝達軸において、上記インナーマッスルの外面は、上記軸孔の内面に対向する複数の平面部と該複数の平面部の間の複数のコーナー部とを有し、上記アウターシェルの複数の分割接触部は、インナーマッスルの上記複数の平面部の少なくとも一つに沿う平面状部と、上記複数のコーナー部の少なくとも一つに沿うアウターコーナー部を有していることを特徴とする回転伝達軸。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の回転伝達軸において、上記嵌合部は回転伝達軸の両端部に形成されており、その一端部と他端部で、上記アウターシェルの複数の分割接触部が回転方向に異なる位相で形成されていることを特徴とする回転伝達軸。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載の回転伝達軸によって、ロアレールに対してアッパレールを進退移動させるシート駆動機構に対してモータの回転駆動力を伝達することを特徴とするパワーシートスライド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−180894(P2012−180894A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44111(P2011−44111)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】