説明

回転変動吸収ダンパプーリ

【課題】回転変動を吸収しながらトルクを伝達する回転変動吸収ダンパプーリにおいて、ベルトスリップの発生を有効に防止する。
【解決手段】回転軸に取り付けられてこの回転軸と一体的に回転するハブ1と、その外周側に同心的に配置されたプーリ4と、このプーリ4の内周面に一体的に設けられた弾性体10と、ハブ1の円周方向所定箇所に揺動可能に結合されたリンク7と、このリンク7の揺動端に揺動可能に結合されハブ1の正回転側へ向けて円弧状に延びるアーム9を備え、弾性体10の内周面の所定箇所に、ハブ1に対するプーリ4の遅角差動時にのみアーム9の先端部9bと係合可能な係合部10aが形成され、アーム9がリンク7の揺動によって弾性体10の圧縮方向へ径方向変位可能となっているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用内燃機関のクランクシャフト等の回転軸からベルトを介して他の回転機器へトルクを伝達すると共にその回転変動を吸収してベルト駆動を平滑化する回転変動吸収ダンパプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダンパプーリとしては、クランクシャフトと共に回転するハブと、このハブの外周に配置されてベルトが巻き掛けられるプーリと、前記ハブとプーリとを連結するゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状の第一の弾性体と、前記ハブの外周にゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなる環状の第二の弾性体を介して環状の質量体を弾性的にかつ同心的に連結した構造のダイナミックダンパ等により構成されたものが知られている。
【0003】
すなわち従来の回転変動吸収ダンパプーリは、ハブの外周に第二の弾性体を介して環状の質量体を弾性的に連結したダイナミックダンパが、所定の振動数域において円周方向へ共振することによる動的吸振効果によって、クランクシャフトの捩り振動を低減すると共に、クランクシャフトからハブへ入力された駆動トルクを、第一の弾性体の円周方向剪断変形作用によって反復的な回転変動(伝達トルクの変動)を吸収しながらプーリへ伝達するものである(例えば下記の特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、従来の回転変動吸収ダンパプーリは、プーリと、これをハブの外周に弾性的に連結している低ばねの第一の弾性体によって、共振点(共振周波数)の低い振動系を構成しているため、内燃機関を起動又は停止する過程でクランクシャフトの回転変動が前記共振点を通過することによってプーリが捩り方向(円周方向)へ大きく振動し、プーリと、これに巻き掛けられたベルトとの間にスリップを生じてしまう問題が指摘される。また、常用回転域で急激なトルク変動が発生した場合も、同様なベルトスリップが発生することがあった。
【0005】
そして上述のようなベルトスリップの発生は、「ベルト鳴き」と呼ばれる異音が発生する原因となるほか、ベルトの摩耗によってその耐久性が低下し、走行に支障を来たすなどの懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−107637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、回転変動を吸収しながらトルクを伝達する回転変動吸収ダンパプーリにおいて、ベルトスリップの発生を有効に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る回転変動吸収ダンパプーリは、回転軸に取り付けられてこの回転軸と一体的に回転するハブと、その外周側に同心的に配置されると共に前記ハブと相対回転可能なプーリと、このプーリの内周面に一体的に設けられた弾性体と、前記ハブの円周方向所定箇所に揺動可能に結合されたリンクと、このリンクの揺動端に揺動可能に結合され前記ハブの正回転側へ向けて延びるアームを備え、前記弾性体の内周面の所定箇所に、前記ハブに対する前記プーリの遅角差動時にのみ前記アームの先端部と係合可能な係合部が形成され、前記アームが前記リンクの揺動によって前記弾性体の圧縮方向へ径方向変位可能となっているものである。
【0009】
上記構成の回転変動吸収ダンパプーリは、ハブに対するプーリの遅角差動時にハブ側からプーリ側へ正回転方向のトルクを伝達し、ハブに対するプーリの進角差動時にはトルク伝達を遮断するといったワンウェイクラッチ機構をなすと共に、伝達トルクの変動によるハブとプーリの円周方向相対変位を、リンクの揺動によって径方向反復変位するアームによる弾性体の圧縮量の変化として変換してプーリの回転を平滑化するものである。
【0010】
すなわちハブが回転軸と共に正回転方向へ起動すると、遠心力によってアームが外径側へ変位してその先端部が弾性体の内周面を滑り、プーリはハブに対して相対的に遅角差動状態になるので、やがてアームの先端部が弾性体の内周面に形成された係合部と係合する。このため、ハブに入力された正回転方向のトルクは、リンクからアームを介して弾性体へ伝達され、さらにプーリへ伝達されて、プーリの回転が開始される。そしてこの状態では、伝達トルクによってリンクとアームの結合部が折れるように変位して、アームが弾性体を径方向へ圧縮変形させ、その圧縮反力によってトルク反力を負荷することになる。
【0011】
また、ハブの正回転の減速時には、プーリ側の慣性によってプーリにハブに対する進角差動を生じると、アームの先端部が弾性体の係合部とは係合せず、プーリがアームと弾性体の内周面との滑りを伴いながら進角方向へ回転可能となるので、プーリとその外周に巻き掛けられるベルトの滑りが防止される。
【0012】
請求項2の発明に係る回転変動吸収ダンパプーリは、請求項1に記載の構成において、ハブと同心的に配置された環状マスと、この環状マスをハブに弾性的に支持するマス支持弾性体からなるトーショナルダンパ部を備えるものである。
【0013】
上記構成において、トーショナルダンパ部は、環状マスの捩り方向慣性質量とマス支持弾性体の捩り方向ばね定数による共振周波数域で入力振動と共振することによって、回転軸の捩り振動を動的に吸収する制振機能を発揮するものである。
【0014】
また、請求項3の発明に係る回転変動吸収ダンパプーリは、請求項1又は2に記載の構成において、アームが円弧状に形成されたものであって、その先端部が係合部と係合すると共にリンクの揺動によって最も外径側へ変位した状態ではプーリの内周面と略同心の円弧状をなすようになっているものである。
【0015】
上記構成において、アームはリンクの揺動によって、プーリの内周面と略同心となるように外径側へ変位して行くので、アームによる弾性体の圧縮が円周方向に広い範囲で行われ、圧縮応力が一部分に集中しないようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る回転変動吸収ダンパプーリによれば、プーリをマスとする共振系が構成されないので、起動や回転停止の過程でプーリとそれに巻き掛けられたベルトとの間でプーリの共振運動によるスリップが発生することはなく、ハブからの伝達トルクの変動(回転変動)によるプーリの遅角差動時には先端部が係合部と係合したアームによって弾性体が径方向へ圧縮変形され、プーリの進角差動時にはアームが係合部と係合されずに弾性体の内周面を滑る、といった動作によって、ハブからプーリへのトルクの伝達と回転変動の吸収を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る回転変動吸収ダンパプーリの好ましい実施の形態を、軸心Oを通る平面で切断して示す断面図である。
【図2】図1におけるII−II線位置で軸心Oと直交する平面で切断して示す断面斜視図である。
【図3】本発明に係る回転変動吸収ダンパプーリの好ましい実施の形態を、プーリを取り外した状態で示す斜視図である。
【図4】図1におけるII−II線位置で軸心Oと直交する平面で切断して示す、トルク非伝達状態の断面図である。
【図5】図1におけるII−II線位置で軸心Oと直交する平面で切断して示す、ハブに対するプーリの遅角差動によるトルク伝達開始状態の断面図である。
【図6】図1におけるII−II線位置で軸心Oと直交する平面で切断して示す、ハブに対するプーリの遅角差動による弾性体の圧縮量が小さい状態の断面図である。
【図7】図1におけるII−II線位置で軸心Oと直交する平面で切断して示す、ハブに対するプーリの遅角差動による弾性体の圧縮量が増大した状態の断面図である。
【図8】図1におけるII−II線位置で軸心Oと直交する平面で切断して示す、ハブに対するプーリの遅角差動による弾性体の圧縮量が最大となった状態の断面図である。
【図9】図1におけるII−II線位置で軸心Oと直交する平面で切断して示す、ハブに対するプーリの進角差動によるアームと弾性体の滑り状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る回転変動吸収ダンパプーリの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において用いられる「正面側」とは、図1における左側、すなわち車両のフロント側のことであり、「背面側」とは、図1における右側、すなわち内燃機関が存在する側のことであり、正回転方向とは、図1を除く各図における時計回りの方向をいう。
【0019】
まず図1において、参照符号1は、自動車の内燃機関のクランクシャフト(不図示)の軸端に取り付けられるハブである。このハブ1は、金属材料の鋳造等により製作されたものであって、回転軸であるクランクシャフトに固定される内筒部1aと、そこから外径側へ展開する円盤部1bと、その径方向中間から正面側へ突出した中間筒部1cと、円盤部1bの外径端部から背面側へ延びる外筒部1dを有する。
【0020】
ハブ1の外筒部1dの外周には環状マス2が配置されており、この環状マス2と前記外筒部1dは、マス支持弾性体3を介して捩り方向(円周方向)相対変位可能に弾性的に連結されている。環状マス2は、密度(比重)の高い金属材料の鋳造等により製作されたものであり、マス支持弾性体3は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で環状(円筒状)に加硫成形され、環状マス2と外筒部1dの間の曲がりくねった隙間へ圧入されたものである。
【0021】
そして、環状マス2とマス支持弾性体3は機関振動に起因するクランクシャフトの捩り方向の共振を動的に吸収するトーショナルダンパ部TVDを構成するものであって、すなわちこのトーショナルダンパ部TVDの捩り方向共振周波数は、環状マス2の慣性質量と、マス支持弾性体3のばね定数によってクランクシャフトの捩れ角が最大となる所定の振動数域と合致するように同調されている。
【0022】
ハブ1の外周側にはプーリ4が同心的に配置されている。このプーリ4は金属板のプレス成形及び転造等によって製作されたものであって、トーショナルダンパ部TVDにおける環状マス2の外周にラジアルベアリング5を介して回転可能に同心支持されたプーリ本体4aと、そこから正面側へ延在された円筒部4bと、この円筒部4bの端部からトーショナルダンパ部TVD(環状マス2及びマス支持弾性体3)の正面側を内径方向へ延びる内向きフランジ4cとからなる。プーリ本体4aの外周面にはポリV溝が形成されており、不図示の無端ベルトが巻き掛けられるようになっている。
【0023】
環状マス2とプーリ4のプーリ本体4aの間に摺動可能に介在しているラジアルベアリング5は、摺動性及び耐摩耗性に優れたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの合成樹脂材料からなるものであって、円筒状に成形されている。
【0024】
ハブ1における円盤部1bの正面側には、図2及び図3に一層明確に示すように、この円盤部1bにおける180度対称位置に軸心Oと平行に植設された取付軸6を介して、それぞれリンク7が揺動可能に結合されており、各リンク7の揺動端には、リンクピン8を介してアーム9が揺動可能に結合されている。アーム9は、リンク7との連結端部9aからハブ1の正回転側(図2及び図3における時計回りの方向)へ向けて円弧状をなして延びている。
【0025】
プーリ4における円筒部4bの内周面には弾性体10が一体的に設けられている。この弾性体10は、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で環状に加硫成形され、成形と同時に前記円筒部4bに一体的に加硫接着されたものである。
【0026】
弾性体10の内周面には、図2に示すように、山形の突起からなる係合部10aと、なだらかに隆起した被圧縮部10bがそれぞれ円周方向六等配(60度間隔)で交互に形成されている。係合部10aは、その頂部から見て正回転方向(図2における時計回りの方向)側の面がなだらかな斜面をなし、その反対側の面がほぼ半径方向へ切り立った形状をなすものであって、ハブ1に対するプーリ4の遅角差動時にのみ、アーム9の先端部9bと係合可能となっているものである。
【0027】
また、取付軸6を中心として揺動するリンク7の揺動端部が、図8に示すように外径方向を向いた状態(可動範囲における最も外径側へ変位された状態)では、これによって変位されるアーム9の連結端部9aが弾性体10の内周面の係合部10a及び被圧縮部10bよりも外径側に位置するように、前記リンク7の揺動半径が規定されている。そして前記アーム9は、その先端部9bが係合部10aと係合すると共に、リンク7との連結端部9aがリンク7の揺動によって最も外径側へ変位した状態では、弾性体10における2組分の係合部10aと被圧縮部10bを連ねた長さ(円周方向へ約120度の長さ)で、プーリ4の円筒部4bの内周面と略同心の円弧状をなすものである。
【0028】
説明を図1に戻すと、ハブ1の中間筒部1cの外周面には内側押さえ部材11が取り付けられている。この内側押さえ部材11は金属板のプレス成形等によって製作されたものであって、前記中間筒部1cの外周面に圧入嵌着された嵌合筒部11a及びその正面側の端部から外径方向へ展開したフランジ部11bを有し、このフランジ部11bによって、取付軸6からのリンク7の脱落が防止されている。
【0029】
プーリ4の内向きフランジ4cは内側押さえ部材11のフランジ部11bの正面側に位置していて、この内側押さえ部材11のフランジ部11bと軸方向に対向する内向きフランジ4cの内側面には、プーリ4の円筒部4bの内周に設けられた弾性体10から延在されたスラストばね部10cが一体に設けられ、その端面には内側スラストベアリング12が一体に設けられている。すなわちスラストばね部10cは、弾性体10の成形に際して同時に成形され、前記内向きフランジ4cに一体的に加硫接着されたものであり、内側スラストベアリング12は摺動性及び耐摩耗性に優れたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの合成樹脂材料からなるものであって、平ワッシャ状に成形され、前記内側押さえ部材11のフランジ部11bに摺動可能に密接されている。
【0030】
ハブ1の中間筒部1cの内周面には外側押さえ部材13が取り付けられている。この外側押さえ部材13は金属板のプレス成形等によって製作されたものであって、前記中間筒部1cの内周面に圧入嵌着された嵌合筒部13a及びその正面側の端部から外径方向へ展開したフランジ部13bを有する。このフランジ部13bはプーリ4の内向きフランジ4cの正面側に位置していて、互いに軸方向に対向する前記内向きフランジ4cとフランジ部13bの間には、外側スラストベアリング14が摺動可能に介在されている。この外側スラストベアリング14は摺動性及び耐摩耗性に優れたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの合成樹脂材料からなり、平ワッシャ状に成形されたものである。
【0031】
したがってプーリ4は、その内向きフランジ4cが、弾性体10のスラストばね部10c及び内側スラストベアリング12と外側スラストベアリング14を介して、内側押さえ部材11のフランジ部11bと外側押さえ部材13のフランジ部13bの間に相対回転可能に挟持されることによって、軸方向変位が規制されている。
【0032】
以上の構成を備える回転変動吸収ダンパプーリは、ハブ1に対するプーリ4の遅角差動時にはハブ1側からプーリ4側へ正回転方向のトルクを伝達し、ハブ1に対するプーリ4の進角差動時にはトルク伝達を遮断するといったワンウェイクラッチ機構をなし、回転変動によるハブ1とプーリ4の円周方向相対変位を、弾性体10の径方向圧縮量の変化として変換することによりプーリ4の回転を平滑化するものである。
【0033】
詳しくは、まずハブ1が停止した状態では、図4に示すようにアーム9の先端部9bが弾性体10の内周面に形成された係合部10aと非係合状態にある。
【0034】
そしてこの停止状態から内燃機関の起動によってハブ1が不図示のクランクシャフトと共に正回転方向(図4における時計回りの方向)へ起動すると、この時点ではプーリ4にはハブ1の正回転方向のトルクは伝達されないから、プーリ4はハブ1に対して相対的に遅角差動状態になるので、ハブ1と共に回転を開始するアーム9は、遠心力によって外径側へ変位してその先端部9bが弾性体10の内周面を滑り、やがて図5に示すように、係合部10aの切り立った面と係合する。このため、ハブ1に入力された正回転方向のトルクは、リンク7からアーム9を介して係合部10aから弾性体10へ伝達され、この弾性体10と一体のプーリ4の回転が開始される。
【0035】
なお、上述のように、図5に示す係合状態となることによってプーリ4は回転を開始することになるが、わかりやすいように、図5〜図9では、プーリ4及びこれと一体の弾性体10は図4と同じ状態(同じ回転角)にあるものとして、ハブ1、リンク7及びアーム9と、プーリ4及びこれと一体の弾性体10の相対的な動作を表現してある。また、図中の三角印は、ハブ1とプーリ4の相対変位量の変化をわかりやすく示すために付したものである。
【0036】
図5に示すように、アーム9の先端部9bが弾性体10の係合部10aと係合した後、ハブ1の回転が加速されて行くのに伴い、プーリ4はハブ1に対してさらに遅角差動状態になって行くので、リンク7はトルク負荷によって取付軸6を中心として外径側へ揺動し、すなわちリンクピン8によるリンク7とアーム9の関節部が外径側へ折れるように変位し、図6に示す状態を経て図7に示す状態へ変化して行く。そしてこのような動作の過程で、アーム9がリンク7の揺動及び遠心力によって、係合部10aを支点として外径側へ変位する。このため弾性体10に形成された被圧縮部10bが、図6及び図7に破線で示すように、アーム9によって径方向へ圧縮変形され、その圧縮反力によってトルク反力が負荷される。
【0037】
詳しくは、図6に示す状態では各アーム9がその先端部9b寄りの部分で1箇所の被圧縮部10bのみを圧縮しているのに対し、図7に示す状態では各アーム9が2箇所の被圧縮部10b及びその間の係合部10aを圧縮しており、先端部9b寄りの部分による圧縮量も図6に示す状態よりも増大している。このため、ばね定数が非線形的に上昇する。
【0038】
図8は、リンク7の揺動端部がほぼ外径方向を向くことによって、アーム9におけるリンク7との連結端部9aが最も外径側へ変位した状態を示しており、すなわち弾性体10の圧縮量が最大となっている。そしてこの状態では、アーム9はプーリ4の円筒部4bの内周面と略同心の円弧状をなす位置にあり、アーム9による弾性体10の圧縮が円周方向に広い範囲で行われ、圧縮応力が一部分に集中しないようになっている。
【0039】
また、図5に示す係合初期状態では、アーム9の先端部9bと弾性体10の係合部10aのみが係合することでトルク伝達が行われるが、その後はアーム9がリンク7の揺動によって外径側へ変位するのに伴い、弾性体10との接触面積が増大すると共に圧接力も大きくなることによってトルク伝達力が増大して行くので、トルク伝達による負荷が係合部10aのみに集中することがない。
【0040】
そして、周期的な回転変動の入力においては、ベルトや補機を含むプーリ4側の慣性によってプーリ4にハブ1に対する遅角差動と進角差動が反復的に発生することになるが、プーリ4の遅角差動においては上述のようにアーム9による弾性体10の圧縮量が増大し、プーリ4の進角差動においては上述と逆の動作によってアーム9による弾性体10圧縮量が減少する。すなわち比較的小さな回転変動によるハブ1とプーリ4の反復的な円周方向相対変位は、リンク7の揺動によって径方向反復変位するアーム9による弾性体10の圧縮量の変化として変換され、これによってベルトや補機を含むプーリ4側の平滑な回転が維持される。
【0041】
また、このような回転変動の入力によるハブ1とプーリ4の円周方向相対変位θ(図8参照)に対して、弾性体10の小さな径方向圧縮量の変化として変換されるため、圧縮ばねとなるにも拘らず、常用回転時の比較的小さな回転変動においては円周方向のばね定数が低く抑えられるので回転変動が良好に吸収され、しかも弾性体10が受ける負荷も小さく抑えられる。
【0042】
さらに、クランクシャフトの共振によってその捩れ角が最大となる回転域では、環状マス2とマス支持弾性体3からなるトーショナルダンパ部TVDが入力される回転変動と逆位相で捩り方向(円周方向)に共振し、すなわちその共振によるトルクは入力されるトルク変動と逆方向へ生じるため、クランクシャフトの回転変動のピークを有効に低減する動的吸振効果を発揮する。
【0043】
また、例えば内燃機関を停止させるときなどにハブ1の正方向の回転が減速されることによって、プーリ4がハブ1に対して大きく進角差動し、すなわちオーバーラン状態になった場合は、図5に示す状態から図9に示すように、アーム9の先端部9bが弾性体10の内周面に形成された係合部10aとは係合せず、アーム9と弾性体10の内周面との滑りを伴いながらプーリ4が自由回転することができる。
【0044】
したがって、これらの作用によって、プーリ4とその外周に巻き掛けられるベルトの滑りが防止され、ひいてはこのようなベルトスリップによる「ベルト鳴き」と呼ばれる異音の発生や、ベルトの耐久性低下が有効に防止される。
【符号の説明】
【0045】
1 ハブ
2 環状マス
3 マス支持弾性体
4 プーリ
7 リンク
9 アーム
9b 先端部
10 弾性体
10a 係合部
10b 被圧縮部
TVD トーショナルダンパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に取り付けられてこの回転軸と一体的に回転するハブと、その外周側に同心的に配置されると共に前記ハブと相対回転可能なプーリと、このプーリの内周面に一体的に設けられた弾性体と、前記ハブの円周方向所定箇所に揺動可能に結合されたリンクと、このリンクの揺動端に揺動可能に結合され前記ハブの正回転側へ向けて延びるアームを備え、前記弾性体の内周面の所定箇所に、前記ハブに対する前記プーリの遅角差動時にのみ前記アームの先端部と係合可能な係合部が形成され、前記アームが前記リンクの揺動によって前記弾性体の圧縮方向へ径方向変位可能であることを特徴とする回転変動吸収ダンパプーリ。
【請求項2】
ハブと同心的に配置された環状マスと、この環状マスをハブに弾性的に支持するマス支持弾性体からなるトーショナルダンパ部を備えることを特徴とする請求項1に記載の回転変動吸収ダンパプーリ。
【請求項3】
アームが円弧状に形成されたものであって、その先端部が係合部と係合すると共にリンクの揺動によって最も外径側へ変位した状態ではプーリの内周面と略同心の円弧状をなすようになっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転変動吸収ダンパプーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−50135(P2013−50135A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187375(P2011−187375)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】