説明

回転軸の軸受構造

【課題】回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、粘性摩擦損失の低減と最小油膜厚さの増大とを両立させる。
【解決手段】大端部軸受30の軸受内周面41においては、往復荷重の一方側に沿った基準方向(角度0°)に相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度θに進む位置まで軸受中心軸30Cに対する距離が徐々に単調減少し、角度θに相当する位置で軸受中心軸30Cに対する距離がδだけ急増し、角度180°−θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度180°+θに進む位置まで軸受中心軸30Cに対する距離が徐々に単調減少し、角度180°+θに相当する位置で軸受中心軸30Cに対する距離がδだけ急増し、角度360°−θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に基準方向に進む位置まで軸受中心軸30Cに対する距離が徐々に単調減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸の軸受構造に関し、特に、ラジアルすべり軸受の軸受内周面と回転軸との間の隙間に充填される潤滑油を介して、回転軸を支持する回転軸の軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受の軸受内周面で支持する軸受構造の関連技術が下記特許文献1,2に開示されている。特許文献1には、クランクピンの断面形状が非真円形であって、この断面形状とすべり軸受との間の軸受隙間の最小位置が、クランクジャーナルの回転中心とすべり軸受の中心とを結ぶ軸線上にないクランクシャフトが開示されている。特許文献1では、クランクピンの断面形状を楕円形状に加工し、軸受隙間の最小位置とすべり軸受の中心とを結ぶ軸線と、クランクジャーナルの回転中心とすべり軸受の中心とを結ぶ軸線との成す角度を、クランクジャーナルの回転方向と反対方向へ90°以下としている。また、特許文献2には、軸受本体の負圧が発生すると予測される部分に、軸受本体外部と連通する窪みまたは孔を設けたジャーナルすべり軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−278739号公報
【特許文献2】特開昭61−157819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受の軸受内周面で支持する場合に、回転軸の径方向に沿った荷重が回転軸から潤滑油を介して軸受内周面に作用すると、軸受内周面における荷重を受ける部分と回転軸との間に形成される、回転軸の回転方向に先細りの隙間に、潤滑油が粘性のために引きずり込まれるくさび効果によって、荷重と釣り合う油膜圧力(くさび油膜圧力)が発生する。その際には、回転軸の中心軸がラジアルすべり軸受の軸受中心軸に対して荷重作用方向から回転軸の回転方向にある角度進んだ方向に偏心した状態で、荷重と油膜圧力とが釣り合う。そのため、回転軸と軸受内周面との間に形成される油膜厚さも、荷重作用方向から回転軸の回転方向にある角度進んだ位置で最小膜厚となる。回転軸の偏心量が大きくなり、最小油膜厚さが小さくなると、高負荷時における焼付きや磨耗の虞が増すことになる。
【0005】
ラジアルすべり軸受が通常の真円軸受である場合は、回転軸と軸受内周面との間のクリアランスが小さい方が、くさび効果が増大しやすくなり、回転軸の偏心量を小さくして最小油膜厚さを大きくするのに有利となる。ただし、回転軸と軸受内周面との間のクリアランスを小さくすると、回転軸がラジアルすべり軸受に対して回転するときの粘性摩擦損失が大きくなり、特に、高オイル粘度となる低温時の粘性摩擦損失が大きくなる。そのため、通常の真円軸受の場合は、粘性摩擦損失の低減と最小油膜厚さの増大とを両立させることが困難となる。
【0006】
特許文献1では、すべり軸受(真円軸受)における荷重を受ける部分と断面形状が楕円形状のクランクピンとの間に、クランクピンの回転方向と反対方向に先細りの隙間が形成される。そのため、十分なくさび効果を得ることが困難となり、クランクピンの偏心量を小さくして最小油膜厚さを大きくすることが困難となる。さらに、特許文献1では、クランクピンの非真円加工(楕円加工)に特殊な技術が必要となるため、コスト高を招くことになる。また、特許文献2は、軸受本体内部に負圧が発生しないようにすることで振動低減を狙った技術であり、粘性摩擦損失の低減と最小油膜厚さの増大とを両立させることについては示されていない。
【0007】
本発明は、回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する場合に、粘性摩擦損失の低減と最小油膜厚さの増大とを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転軸の軸受構造は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明に係る回転軸の軸受構造は、ラジアルすべり軸受の軸受内周面と回転軸との間の隙間に充填される潤滑油を介して、回転軸の径方向に沿った往復荷重を受ける回転軸の軸受構造であって、軸受内周面においては、θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、軸受中心軸と直交し且つ前記往復荷重の一方側に沿った方向を基準に、回転軸の回転方向に角度θ進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、角度θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、角度180°−θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度180°+θに進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、角度180°+θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、角度360°−θに相当する位置から回転軸の回転方向に前記基準に進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少することを要旨とする。
【0010】
また、本発明に係る回転軸の軸受構造は、ラジアルすべり軸受の軸受内周面と回転軸との間の隙間に充填される潤滑油を介して、回転軸の径方向に沿った往復荷重を受ける回転軸の軸受構造であって、θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、軸受中心軸と直交し且つ前記往復荷重の一方側に沿った方向を基準に、回転軸の回転方向に角度θ進んだ位置と角度180°+θ進んだ位置とで分割された2つの半割り軸受を含んでラジアルすべり軸受が構成され、一方の半割り軸受は、角度θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度180°+θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、他方の半割り軸受は、角度180°+θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、角度θに相当する軸受分割位置付近で、一方の半割り軸受における軸受内周面が、他方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれており、角度180°+θに相当する軸受分割位置付近で、他方の半割り軸受における軸受内周面が、一方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれていることを要旨とする。
【0011】
また、本発明に係る回転軸の軸受構造は、コネクティングロッドの大端部に装着されたラジアルすべり軸受の軸受内周面と、クランクシャフトのクランクピンとの間の隙間に充填される潤滑油を介して、クランクピンを支持する回転軸の軸受構造であって、軸受内周面においては、θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、軸受中心軸と直交し且つ軸受中心軸からコネクティングロッドの小端部中心軸へ向かう方向を基準に、クランクピンの回転方向に角度θ進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、角度θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、角度180°−θに相当する位置からクランクピンの回転方向に角度180°+θに進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、角度180°+θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、角度360°−θに相当する位置からクランクピンの回転方向に前記基準に進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少することを要旨とする。
【0012】
また、本発明に係る回転軸の軸受構造は、コネクティングロッドの大端部に装着されたラジアルすべり軸受の軸受内周面と、クランクシャフトのクランクピンとの間の隙間に充填される潤滑油を介して、クランクピンを支持する回転軸の軸受構造であって、θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、軸受中心軸と直交し且つ軸受中心軸からコネクティングロッドの小端部中心軸へ向かう方向を基準に、クランクピンの回転方向に角度θ進んだ位置と角度180°+θ進んだ位置とで分割された2つの半割り軸受を含んでラジアルすべり軸受が構成され、一方の半割り軸受は、角度θに相当する位置からクランクピンの回転方向に角度180°+θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、他方の半割り軸受は、角度180°+θに相当する位置からクランクピンの回転方向に角度θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、角度θに相当する軸受分割位置付近で、一方の半割り軸受における軸受内周面が、他方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれており、角度180°+θに相当する軸受分割位置付近で、他方の半割り軸受における軸受内周面が、一方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれていることを要旨とする。
【0013】
本発明の一態様では、2つの半割り軸受における軸受内周面の曲率が等しく、一方の半割り軸受における軸受内周面の曲率中心が、他方の半割り軸受における軸受内周面の曲率中心に対して、角度θに相当する軸受分割位置へずれていることが好適である。
【0014】
また、本発明に係る回転軸の軸受構造は、ラジアルすべり軸受の軸受内周面と回転軸との間の隙間に充填される潤滑油を介して、回転軸の径方向に沿った荷重を受ける回転軸の軸受構造であって、軸受内周面においては、θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、軸受中心軸と直交し且つ前記荷重に沿った方向を基準に、回転軸の回転方向に角度θ進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、角度θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、角度360°−θに相当する位置から回転軸の回転方向に前記基準に進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少することを要旨とする。
【0015】
また、本発明に係る回転軸の軸受構造は、ラジアルすべり軸受の軸受内周面と回転軸との間の隙間に充填される潤滑油を介して、回転軸の径方向に沿った荷重を受ける回転軸の軸受構造であって、θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、軸受中心軸と直交し且つ前記荷重に沿った方向を基準に、回転軸の回転方向に角度θ進んだ位置と角度180°+θ進んだ位置とで分割された2つの半割り軸受を含んでラジアルすべり軸受が構成され、一方の半割り軸受は、角度θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度180°+θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、他方の半割り軸受は、角度180°+θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、角度θに相当する軸受分割位置付近で、一方の半割り軸受における軸受内周面が、他方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれていることを要旨とする。
【0016】
本発明の一態様では、一方の半割り軸受における軸受内周面の曲率中心が、他方の半割り軸受における軸受内周面の曲率中心に対して、角度θに相当する軸受分割位置へずれていることが好適である。
【0017】
本発明の一態様では、一方の半割り軸受における軸受内周面の曲率が、他方の半割り軸受における軸受内周面の曲率より小さいことが好適である。
【0018】
本発明の一態様では、θは20°以上且つ70°以下の所定角度であることが好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、回転軸の径方向に沿った荷重が回転軸から潤滑油を介してラジアルすべり軸受の軸受内周面に作用するときに、この荷重と釣り合う油膜圧力の発生に寄与する領域でのくさび効果を増大させることができるので、回転軸の偏心量が小さい状態で荷重と釣り合う油膜圧力を発生させることができ、最小油膜厚さを大きくすることができる。さらに、回転軸とラジアルすべり軸受の軸受内周面との間のクリアランスを、荷重と釣り合う油膜圧力の発生に寄与しない領域において増加させることができるので、回転軸がラジアルすべり軸受に対して回転する際の粘性摩擦損失を低減することができる。したがって、粘性摩擦損失の低減と最小油膜厚さの増大とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る回転軸の軸受構造が適用される内燃機関のコネクティングロッドの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造の概略を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転軸の軸受構造の作用を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態に係る回転軸の軸受構造の作用を説明する図である。
【図5】真円軸受を用いた回転軸の軸受構造の作用を説明する図である。
【図6】真円軸受を用いた回転軸の軸受構造の作用を説明する図である。
【図7】所定角度θを変化させた場合における最小油膜厚さと粘性摩擦トルクの変化を流体潤滑計算により調べた結果を示す図である。
【図8】粘性摩擦トルクを計測した実験結果を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造の他の例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造の他の例を示す図である。
【図11】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造の他の例を示す図である。
【図12】本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る回転軸の軸受構造が適用される内燃機関のコネクティングロッドの概略構成を示す図であり、図2は、本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸(クランクピン)の軸受構造の概略を示す図であり、いずれも回転軸方向から見た図を示す。ただし、図1,2を含む各図において、ラジアルすべり軸受(大端部軸受)の厚さや、回転軸(クランクピン)とラジアルすべり軸受(大端部軸受)との間の隙間等のサイズについては、説明の便宜上、実際のサイズよりも大きく図示している。
【0023】
内燃機関のコネクティングロッド10は、ピストン11の往復直線運動を図示しないクランクシャフトに伝達して回転運動に変換する部品である。図1に示すように、コネクティングロッド10は、ピストン11側の小端部12と、クランクシャフト側の大端部13と、小端部12と大端部13との間を繋ぐコラム部14とから構成されている。なお、コネクティングロッド10は、ニッケル・クロム鋼、クロム・モリブデン鋼、チタン合金などの材料から構成され、高い機械的強度が要求される部材である。
【0024】
小端部12は、ピストン11との接続部であって、ピストン11に連結されたピストンピン15が挿通される小端部貫通孔16が形成されている。そして、小端部貫通孔16には、ピストンピン15を支持するための小端部軸受17が設けられる。小端部軸受17は、例えば、爆発行程における高荷重を、ピストン11を介して受けるため、高い負荷容量が要求される。小端部12の運動形態は、コネクティングロッド10全体の往復運動と大端部13の回転運動との合成から揺動運動となるため、小端部軸受17には、軸受内周面の広い範囲に亘って高荷重が作用する。したがって、軸受内周面には、例えば、大端部13に形成される図示しないジェット孔や連通孔から潤滑油が給油され、潤滑油を介して軸荷重を支持する。
【0025】
大端部13は、クランクシャフトとの接続部であって、クランクシャフトのクランクピン18が挿通される大端部貫通孔19が形成されている。そして、大端部貫通孔19には、クランクピン18を支持するための大端部軸受30が設けられる。なお、大端部13は、コラム部14と一体成形された大端部本体20と大端部本体20に締結されるキャップ21とから構成され、大端部本体20にキャップ21を締結して形成される大端部貫通孔19に半割り構造の大端部軸受30が装着される。
【0026】
コラム部14は、上記のように、小端部12と大端部13との間を繋ぐ部分であって、一般的に、コラム部14、小端部12、及び大端部本体20は一体成形される。コラム部14には、大端部13から小端部12に潤滑油を供給するために、例えば、図示しない連通孔が形成される。また、クランクピン18は、上記のように、クランクシャフトと大端部13とを接続する軸であって、ピストン11の往復動による力を受けて回転すると共に、その力をクランクシャフトに伝達するための部材である。
【0027】
上記のように、コネクティングロッド10がピストン11とクランクシャフトのクランクピン18とを連結することにより、エンジンの作動時にピストン11が図示しないシリンダ内を往復運動すると、その往復運動がコネクティングロッド10を介してクランクシャフトの回転運動に変換され、クランクシャフトの回転動力がエンジン出力として得られる仕組みになっている。
【0028】
大端部軸受30は、回転軸である円筒形状のクランクピン18を支持するラジアルすべり軸受(ジャーナルすべり軸受とも称される)であり、図1,2に示すように、回転軸の周方向に関して2分割された略半円筒形状の半割り軸受31A,31Bにより構成される。一方の半割り軸受31Aは軸受支持部材としてのキャップ21に装着され、他方の半割り軸受31Bは軸受支持部材としての大端部本体20に装着され、2つの半割り軸受31A,31Bの周方向に関する両端部同士を合わせることで、大端部軸受30が構成される。各半割り軸受31A,31Bは、裏金と、裏金の内周側に形成されたライニング層としての軸受合金層とを含んで構成される。裏金の種類としては、例えば鋼等が挙げられ、軸受合金層の種類としては、例えば銅−鉛合金やアルミニウム合金等が挙げられる。この軸受合金層の表面が、軸受摺動面である軸受内周面41である。
【0029】
クランクシャフトには、給油路が形成されており、この給油路を経てクランクピン18の外周面と大端部軸受30の軸受内周面41との間の隙間に潤滑油が充填される。半割り構造の大端部軸受30は、クランクピン18を潤滑油を介して軸受内周面41(軸受合金層の表面)で回転自在に支持することで、クランクピン18の径方向に沿った荷重を潤滑油を介して受ける。ここでの潤滑油は、油膜を形成することにより、軸と軸受が焼き付くことなく機関を運転すること、軸と軸受内周面との摩擦損失や磨耗を低減することを主な役割とするが、冷却、洗浄、防錆等の役割も果たしている。
【0030】
内燃機関(4ストロークエンジン)のサイクルにおいて、圧縮上死点では、クランクピン18から大端部軸受30の軸受内周面41にシリンダ内の燃焼圧力による高荷重が作用する。ここでのクランクピン18から軸受内周面41への高荷重の作用方向は、大端部軸受30の軸受中心軸30C(大端部中心軸)及び小端部軸受17の軸受中心軸17C(小端部中心軸)と直交し、且つ軸受中心軸30Cから軸受中心軸17Cへ向かう方向(図1,2の矢印F1に示す方向)である。また、吸気下死点、排気下死点では、クランクピン18から大端部軸受30の軸受内周面41にピストン系の慣性力による高荷重が作用する。ここでのクランクピン18から軸受内周面41への高荷重の作用方向も、軸受中心軸30C及び軸受中心軸17Cと直交し、且つ軸受中心軸30Cから軸受中心軸17Cへ向かう方向(図1,2の矢印F1に示す方向)である。また、吸気上死点でも、クランクピン18から大端部軸受30の軸受内周面41にピストン系の慣性力による高荷重が作用する。ただし、ここでのクランクピン18から軸受内周面41への高荷重の作用方向は、軸受中心軸30C及び軸受中心軸17Cと直交し、且つ軸受中心軸17Cから軸受中心軸30Cへ向かう方向(図1,2の矢印F2に示す方向)である。このように、クランクピン18から大端部軸受30の軸受内周面41に作用する高荷重は、主としてシリンダ内の燃焼圧力及びピストン系の慣性力による荷重であり、大端部軸受30の軸受中心軸30C及び小端部軸受17の軸受中心軸17Cと直交するコンロッド主軸10Aの方向(図1,2の矢印F1,F2に示す方向)に沿った往復荷重となる。大端部軸受30は、この往復荷重を潤滑油を介して軸受内周面41で受ける。
【0031】
通常のコネクティングロッドでは、大端部13における大端部本体20とキャップ21との分割面(大端部軸受30の分割面)が、コンロッド主軸10A(往復荷重の作用方向)と垂直である。これに対して本実施形態では、θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、大端部13における大端部本体20とキャップ21との分割面13C,13D(大端部軸受30の分割面31C,31D)が、コンロッド主軸10A(往復荷重の作用方向)に対して、クランクピン18の回転方向(図1,2の矢印Rに示す方向)に所定角度θ傾斜している。ここで、軸受中心軸30Cと直交し且つ軸受中心軸30Cから軸受中心軸17C(小端部中心軸)へ向かう方向、つまり往復荷重の一方側に沿った方向(図1,2の矢印F1に示す方向)を基準方向(角度0°)とすると、基準方向に対して軸受中心軸30Cの周りにクランクピン18の回転方向に沿って角度θ進んだ位置(分割面13C)と角度180°+θ進んだ位置(分割面13D)とで、大端部13が大端部本体20とキャップ21とに分割される。
【0032】
キャップ21においては、略半円筒形状の凹曲面である軸受装着面13Aが、角度θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度180°+θに進む位置にかけて形成されており、この軸受装着面13Aに一方の半割り軸受31Aが装着される。大端部本体20においては、略半円筒形状の凹曲面である軸受装着面13Bが、角度180°+θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度θに進む位置にかけて形成されており、この軸受装着面13Bに他方の半割り軸受31Bが装着される。したがって、基準方向に対して軸受中心軸30Cの周りにクランクピン18の回転方向に沿って角度θ進んだ位置(分割面31C)と角度180°+θ進んだ位置(分割面31D)とで、大端部軸受30が2つの半割り軸受31A,31Bに分割される。そして、一方の半割り軸受31Aは、角度θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度180°+θに進む位置にかけて略半円筒形状の軸受内周面41Aを形成し、他方の半割り軸受31Bは、角度180°+θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度θに進む位置にかけて略半円筒形状の軸受内周面41Bを形成し、これらの軸受内周面41A,41Bによって、大端部軸受30の軸受内周面41が形成される。2つの軸受装着面13A,13Bの曲率は互いに等しく、2つの半割り軸受31A,31Bにおける軸受内周面41A,41Bの曲率は互いに等しく、いずれもクランクピン18の外周面の曲率より小さい。
【0033】
さらに、本実施形態では、キャップ21の軸受装着面13Aの曲率中心30Aが、軸受中心軸30Cに対して、角度θに相当する分割面13C側へδ/2だけずれており、大端部本体20の軸受装着面13Bの曲率中心30Bが、軸受中心軸30Cに対して、角度180°+θに相当する分割面13D側へδ/2だけずれている。つまり、軸受装着面13Aの曲率中心30Aが、軸受装着面13Bの曲率中心30Bに対して、角度θに相当する分割面13C側へδだけずれている。したがって、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aの曲率中心30Aが、軸受中心軸30Cに対して、角度θに相当する分割面31C(軸受分割位置)側へδ/2だけずれており、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bの曲率中心30Bが、軸受中心軸30Cに対して、角度180°+θに相当する分割面31D(軸受分割位置)側へδ/2だけずれている。つまり、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aの曲率中心30Aが、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bの曲率中心30Bに対して、角度θに相当する分割面31C(軸受分割位置)側へδだけずれている。これによって、軸受装着面13A,13Bに装着された半割り軸受31A,31B間にδの食い違いが生じており、角度θに相当する分割面31C付近では、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aが、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bよりも径方向外側へδだけずれており、角度180°+θに相当する分割面31D付近では、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bが、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aよりも径方向外側へδだけずれている。なお、図2を含む各図において、δについては、説明の便宜上、実際の寸法よりも大きく図示している。
【0034】
上記構成により、大端部軸受30の軸受内周面41においては、基準方向(角度0°)に相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度θに進む位置(分割面31C)まで軸受中心軸30Cに対する距離が徐々に単調減少し、角度θに相当する位置で軸受中心軸30Cに対する距離がδだけ急増する。そして、角度θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度180°+θに進む位置(分割面31D)まで軸受内周面41の軸受中心軸30Cに対する距離が徐々に単調減少し、角度180°+θに相当する位置で軸受内周面41の軸受中心軸30Cに対する距離がδだけ急増する。そして、角度180°+θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に基準方向(角度0°)に進む位置まで軸受内周面41の軸受中心軸30Cに対する距離が徐々に単調減少する。
【0035】
これによって、クランクピン18の中心軸18Cが大端部軸受30の軸受中心軸30Cと一致する無負荷状態での、軸受内周面41とクランクピン18との間の隙間(クリアランス)は、基準方向(角度0°)に相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度θに進む位置まで徐々に単調減少し、角度θに相当する位置でδだけ急拡大する。そして、角度θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度180°+θに進む位置までクリアランスが徐々に単調減少し、角度180°+θに相当する位置でクリアランスがδだけ急拡大する。そして、角度180°+θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に基準方向(角度0°)に進む位置までクリアランスが徐々に単調減少する。
【0036】
大端部軸受30に対するクランクピン18の回転時に、圧縮上死点でのシリンダ内の燃焼圧力、または吸気下死点や排気下死点でのピストン系の慣性力によって、コンロッド主軸10Aに沿って軸受中心軸30Cから軸受中心軸17Cへ向かう方向(図1,2の矢印F1に示す方向)の高荷重がクランクピン18から潤滑油を介して軸受内周面41に作用すると、軸受内周面41における高荷重を受ける部分とクランクピン18との間に形成される、回転軸の回転方向に先細りの隙間に、潤滑油が粘性のために引きずり込まれるくさび効果によって、高荷重と釣り合う油膜圧力(くさび油膜圧力)が発生する。その際には、図3に示すように、クランクピン18の中心軸18Cが、大端部軸受30の軸受中心軸30Cに対して、高荷重作用方向からクランクピン18の回転方向にある角度進んだ方向に偏心した状態で、高荷重と油膜圧力とが釣り合う。また、吸気上死点でのピストン系の慣性力によって、コンロッド主軸10Aに沿って軸受中心軸17Cから軸受中心軸30Cへ向かう方向(図1,2の矢印F2に示す方向)の高荷重がクランクピン18から潤滑油を介して軸受内周面41に作用する際にも、軸受内周面41における高荷重を受ける部分とクランクピン18との間に形成される、回転軸の回転方向に先細りの隙間に、潤滑油が粘性のために引きずり込まれるくさび効果によって、高荷重と釣り合う油膜圧力が発生する。その際にも、図4に示すように、クランクピン18の中心軸18Cが、大端部軸受30の軸受中心軸30Cに対して、高荷重作用方向からクランクピン18の回転方向にある角度進んだ方向に偏心した状態で、高荷重と油膜圧力とが釣り合う。
【0037】
図5,6に示すような通常の真円軸受では、荷重付加に伴って、その荷重と釣り合う油膜圧力を発生するように、クランクピン18(回転軸)の中心軸18Cが大端部軸受30の軸受中心軸30Cに対して偏心するため、クランクピン18と大端部軸受30との間の油膜厚さは、荷重方向に対してクランクピン18の回転方向にある角度進んだ位置で最小膜厚となる。図5に示すような、無負荷状態でのクランクピン18と大端部軸受30との間の平均クリアランスが大きい場合は、図6に示すような、無負荷状態でのクランクピン18と大端部軸受30との間の平均クリアランスが小さい場合と比較して、クランクピン18が大端部軸受30に対して回転するときの粘性摩擦損失は小さくなるものの、くさび効果による油膜圧力発生領域が狭くなることで、同一荷重に対するクランクピン18の偏心量が大きく、最小油膜厚さhminが小さくなる。その結果、高負荷時における焼付き、磨耗の虞が増すことになる。このように、通常の真円軸受の場合は、粘性摩擦低減に対しては、クランクピン18と大端部軸受30との間の平均クリアランスが大きい方が有利となるものの、最小油膜厚さhmin増大に対しては、クランクピン18と大端部軸受30との間の平均クリアランスが小さい方が有利となり、粘性摩擦低減と最小油膜厚さhmin増大とを両立させることが困難となる。
【0038】
これに対して本実施形態では、角度360°−θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に基準方向(角度0°)を経て角度θに進む位置にかけて、無負荷状態での軸受内周面41とクランクピン18との間のクリアランス(軸受内周面41の軸受中心軸30Cに対する距離)が徐々に単調減少することで、角度360°−θから角度θにかけてクランクピン18の回転方向に先細りの隙間が無負荷状態でも形成される。これによって、基準方向(図1,2の矢印F1に示す方向)に沿った高荷重がクランクピン18から潤滑油を介して軸受内周面41に作用するときに、この先細りの隙間(図3の範囲A)に潤滑油が粘性により引きずり込まれるくさび効果を増大させることができ、油膜圧力発生に寄与する領域でのくさび効果を増大させることができる。そのため、図3に示すように、クランクピン18の偏心量が小さい状態で、基準方向に沿った高荷重と釣り合う油膜圧力を発生させることができ、最小油膜厚さhminを大きくすることができる。そして、本実施形態では、角度180°−θに相当する位置からクランクピン18の回転方向に角度180°+θに進む位置にかけて、無負荷状態での軸受内周面41とクランクピン18との間のクリアランス(軸受内周面41の軸受中心軸30Cに対する距離)が徐々に単調減少することで、角度180°−θから角度180°+θにかけてクランクピン18の回転方向に先細りの隙間が無負荷状態でも形成される。これによって、基準方向と反対方向(図1,2の矢印F2に示す方向)に沿った高荷重がクランクピン18から潤滑油を介して軸受内周面41に作用するときに、この先細りの隙間(図4の範囲B)に潤滑油が粘性により引きずり込まれるくさび効果を増大させることができ、油膜圧力発生に寄与する領域でのくさび効果を増大させることができる。そのため、図4に示すように、クランクピン18の偏心量が小さい状態で、基準方向と反対方向に沿った高荷重と釣り合う油膜圧力を発生させることができ、最小油膜厚さhminを大きくすることができる。
【0039】
さらに、本実施形態では、角度θに相当する位置で軸受内周面41とクランクピン18との間のクリアランスがδだけ急拡大することで、角度θに相当する位置よりクランクピン18の回転方向に進んだ範囲(図3の範囲C)でのクリアランスを増加させることができ、油膜圧力発生に寄与しない領域でのクリアランスを増加させることができる。そして、角度180°+θに相当する位置で軸受内周面41とクランクピン18との間のクリアランスがδだけ急拡大することで、角度180°+θに相当する位置よりクランクピン18の回転方向に進んだ範囲(図4の範囲D)でのクリアランスを増加させることができ、油膜圧力発生に寄与しない領域でのクリアランスを増加させることができる。
【0040】
このように、本実施形態では、高荷重と釣り合う油膜圧力の発生に寄与する領域でのくさび効果を増大させることができ、クランクピン18の偏心量を小さくして最小油膜厚さhminを大きくすることができるので、高温(低オイル粘度)・高負荷時における焼付き、磨耗を防止することができる。そして、油膜圧力発生に寄与しない領域でのクリアランスを増加させることができるので、低温(高オイル粘度)時において、クランクピン18が大端部軸受30に対して回転する際の粘性摩擦損失を低減することができる。したがって、粘性摩擦低減と最小油膜厚さhmin増大とを両立させることができる。さらに、半割り軸受31A,31B自体は、一般的な構造の半割り軸受をそのまま用いることが可能となるため、コストアップは、大端部13(大端部本体20及びキャップ21)側の加工に必要な分だけで済む。
【0041】
本実施形態の構成で所定角度θを変化させた場合における最小油膜厚さhminと粘性摩擦トルクの変化を流体潤滑計算により調べた結果を図7に示す。最小油膜厚さhminと粘性摩擦トルクの計算の際には、回転軸と軸受との間の平均クリアランスを40μmとし、θの値だけでなく、δの値も10μm〜60μmの範囲で変化させている。さらに、比較のために、真円軸受の場合における最小油膜厚さhminと粘性摩擦トルクも回転軸と軸受との間のクリアランスを20μm〜50μmの範囲で変化させながら計算し、その計算結果も図7に示している。なお、最小油膜厚さhminの計算の際には、潤滑油の温度を120℃、回転軸の回転数を2000rpm、回転軸から軸受に作用する荷重を50kNとする、高温(低オイル粘度)・高負荷の条件としている。また、粘性摩擦トルクの計算の際には、潤滑油の温度を20℃、回転軸の回転数を1000rpm、回転軸から軸受に作用する荷重を10kNとする、低温(高オイル粘度)・低負荷の条件としている。
【0042】
図7の計算結果に示すように、θ=20°からθ=70°までの場合は、真円軸受の場合と比較して、同等以上の最小油膜厚さhminを確保しつつ、粘性摩擦トルクを低減できていることがわかる。ただし、θ=10°及びθ=80°の場合は、真円軸受の場合と比較して、粘性摩擦トルクが増加している。そこで、本実施形態の構成において、粘性摩擦トルクを低減するためには、θの値を20°以上且つ70°以下の所定角度に設定することが好ましい。そして、粘性摩擦トルクをさらに低減するためには、θの値を20°に設定することが好ましい。
【0043】
また、θ=30°、δ=20μm、無負荷時の回転軸と軸受との間の最小クリアランスCmin=43.5μmの場合における粘性摩擦トルクを計測した実験結果を図8に示す。図8には、比較のために、真円軸受の場合における粘性摩擦トルクも回転軸と軸受との間のクリアランスを53.5μmとする条件で計測し、その実験結果も示している。粘性摩擦トルクの計測の際には、潤滑油の温度を25℃、回転軸の回転数を1200rpm、回転軸から軸受に作用する荷重を10kNとしている。図8の実験結果に示すように、本実施形態の構成によれば、真円軸受の場合と比較して、粘性摩擦トルクを低減できていることがわかる。
【0044】
以上の説明では、本発明の実施形態に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造として、コネクティングロッド10の大端部軸受30を例に挙げて説明した。ただし、本発明に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造は、コネクティングロッド10の大端部軸受30以外に、例えば図9,10に示すような回転機械の軸受に適用することも可能である。このように、本発明に係るラジアルすべり軸受を用いた回転軸の軸受構造は、回転軸を潤滑油を介してラジアルすべり軸受で支持する構造であれば、種々の軸受に適用することが可能である。なお、以下の説明では、図1〜4に示した構成と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については図1〜4に示した構成と同様である。
【0045】
図9,10に示す構成例では、以下の(1)〜(3)の条件を満たす場合には、回転軸18から潤滑油を介してラジアルすべり軸受30の軸受内周面41に作用する荷重は、回転部分50の重量による一方向の下向き荷重(静荷重)が主体となる。その場合は、図10に示すように、基準方向(荷重作用方向)を鉛直下方向に設定し、基準方向(鉛直下方向)に対して軸受中心軸30Cの周りに回転軸18の回転方向に沿って角度θ進んだ位置(分割面13C)と角度180°+θ進んだ位置(分割面13D)とで、軸受支持部材13を軸受支持部材本体20とキャップ21とに分割する。そして、一方の半割り軸受31Aをキャップ21に形成された軸受装着面13Aに装着し、他方の半割り軸受31Bを軸受支持部材本体20に形成された軸受装着面13Bに装着する。
(1)回転軸18が水平軸で、回転部分50の重量が比較的大きい。
(2)回転部分50の回転速度が比較的低く、慣性(回転)荷重成分が小さい。
(3)回転軸18の回転方向が一定方向である。
【0046】
図10に示す構成例でも、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aの曲率中心30Aが、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bの曲率中心30Bに対して、角度θに相当する分割面31C(軸受分割位置)側へδだけずれていることにより、角度θに相当する分割面31C付近では、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aが、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bよりも径方向外側へδだけずれている。この構成により、軸受内周面41においては、基準方向(角度0°)に相当する位置から回転軸18の回転方向に角度θに進む位置(分割面31C)まで軸受中心軸30Cに対する距離が徐々に単調減少し、角度θに相当する位置で軸受中心軸30Cに対する距離がδだけ急増し、角度360°−θに相当する位置から回転軸18の回転方向に基準方向(角度0°)に進む位置まで軸受中心軸30Cに対する距離が徐々に単調減少する。これによって、角度360°−θに相当する位置から回転軸18の回転方向に基準方向(角度0°)を経て角度θに進む位置にかけて、無負荷状態での軸受内周面41と回転軸18との間のクリアランスが徐々に単調減少する。そのため、基準方向(図9,10の矢印F1に示す方向)に沿った荷重が回転軸18から潤滑油を介して軸受内周面41に作用するときに、角度360°−θから角度θにかけての油膜圧力発生に寄与する領域でのくさび効果を増大させることができる。したがって、回転軸18の偏心量が小さい状態で、基準方向に沿った高荷重と釣り合う油膜圧力を発生させることができ、最小油膜厚さhminを大きくすることができる。さらに、角度θに相当する位置で軸受内周面41と回転軸18との間のクリアランスがδだけ急拡大することで、角度θに相当する位置より回転軸18の回転方向に進んだ、油膜圧力発生に寄与しない領域でのクリアランスを増加させることができる。したがって、回転軸18がラジアルすべり軸受30に対して回転する際の粘性摩擦損失を低減することができる。その際には、θの値を20°以上且つ70°以下の所定角度に設定することが好ましい。
【0047】
さらに、回転軸18から潤滑油を介してラジアルすべり軸受30の軸受内周面41に作用する荷重が主として一方向となる場合は、例えば図11や図12に示すように、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aの曲率を、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bの曲率より小さくすることもできる。図11に示す構成例では、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aの曲率半径が、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bの曲率半径よりδ/2だけ大きく、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aの曲率中心30Aが、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bの曲率中心30Bに対して、角度θに相当する分割面31C(軸受分割位置)側へδ/2だけずれていることにより、角度θに相当する分割面31C付近では、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aが、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bよりも径方向外側へδだけずれている。また、図12に示す構成例では、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aの曲率中心30Aが、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bの曲率中心30Bと一致しており、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aの曲率半径が、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bの曲率半径よりδだけ大きいことにより、角度θに相当する分割面31C付近では、半割り軸受31Aの軸受内周面41Aが、半割り軸受31Bの軸受内周面41Bよりも径方向外側へδだけずれている。
【0048】
図11や図12に示す構成例でも、基準方向(図11,12の矢印F1に示す方向)に沿った荷重が回転軸18から潤滑油を介して軸受内周面41に作用するときに、油膜圧力発生に寄与する領域でのくさび効果を増大させることができるので、回転軸18の偏心量が小さい状態で、基準方向に沿った高荷重と釣り合う油膜圧力を発生させることができ、最小油膜厚さhminを大きくすることができる。さらに、角度θに相当する位置で軸受内周面41と回転軸18との間のクリアランスがδだけ急拡大することで、油膜圧力発生に寄与しない領域でのクリアランスを増加させることができるので、回転軸18がラジアルすべり軸受30に対して回転する際の粘性摩擦損失を低減することができる。その際には、θの値を20°以上且つ70°以下の所定角度に設定することが好ましい。
【0049】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
10 コネクティングロッド、10A コンロッド主軸、11 ピストン、12 小端部、13 大端部(軸受支持部材)、13A,13B 軸受装着面、13C,13D,31C,31D 分割面、14 コラム部、15 ピストンピン、16 小端部貫通孔、17 小端部軸受、17C,30C 軸受中心軸、18 クランクピン(回転軸)、18C 中心軸、19 大端部貫通孔、20 大端部本体(軸受支持部材本体)、21 キャップ、30 大端部軸受(ラジアルすべり軸受)、30A,30B 曲率中心、31A,31B 半割り軸受、41,41A,41B 軸受内周面、50 回転部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアルすべり軸受の軸受内周面と回転軸との間の隙間に充填される潤滑油を介して、回転軸の径方向に沿った往復荷重を受ける回転軸の軸受構造であって、
軸受内周面においては、
θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、
軸受中心軸と直交し且つ前記往復荷重の一方側に沿った方向を基準に、回転軸の回転方向に角度θ進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、
角度θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、
角度180°−θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度180°+θに進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、
角度180°+θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、
角度360°−θに相当する位置から回転軸の回転方向に前記基準に進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少する、回転軸の軸受構造。
【請求項2】
ラジアルすべり軸受の軸受内周面と回転軸との間の隙間に充填される潤滑油を介して、回転軸の径方向に沿った往復荷重を受ける回転軸の軸受構造であって、
θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、
軸受中心軸と直交し且つ前記往復荷重の一方側に沿った方向を基準に、回転軸の回転方向に角度θ進んだ位置と角度180°+θ進んだ位置とで分割された2つの半割り軸受を含んでラジアルすべり軸受が構成され、
一方の半割り軸受は、角度θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度180°+θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、
他方の半割り軸受は、角度180°+θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、
角度θに相当する軸受分割位置付近で、一方の半割り軸受における軸受内周面が、他方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれており、
角度180°+θに相当する軸受分割位置付近で、他方の半割り軸受における軸受内周面が、一方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれている、回転軸の軸受構造。
【請求項3】
コネクティングロッドの大端部に装着されたラジアルすべり軸受の軸受内周面と、クランクシャフトのクランクピンとの間の隙間に充填される潤滑油を介して、クランクピンを支持する回転軸の軸受構造であって、
軸受内周面においては、
θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、
軸受中心軸と直交し且つ軸受中心軸からコネクティングロッドの小端部中心軸へ向かう方向を基準に、クランクピンの回転方向に角度θ進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、
角度θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、
角度180°−θに相当する位置からクランクピンの回転方向に角度180°+θに進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、
角度180°+θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、
角度360°−θに相当する位置からクランクピンの回転方向に前記基準に進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少する、回転軸の軸受構造。
【請求項4】
コネクティングロッドの大端部に装着されたラジアルすべり軸受の軸受内周面と、クランクシャフトのクランクピンとの間の隙間に充填される潤滑油を介して、クランクピンを支持する回転軸の軸受構造であって、
θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、
軸受中心軸と直交し且つ軸受中心軸からコネクティングロッドの小端部中心軸へ向かう方向を基準に、クランクピンの回転方向に角度θ進んだ位置と角度180°+θ進んだ位置とで分割された2つの半割り軸受を含んでラジアルすべり軸受が構成され、
一方の半割り軸受は、角度θに相当する位置からクランクピンの回転方向に角度180°+θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、
他方の半割り軸受は、角度180°+θに相当する位置からクランクピンの回転方向に角度θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、
角度θに相当する軸受分割位置付近で、一方の半割り軸受における軸受内周面が、他方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれており、
角度180°+θに相当する軸受分割位置付近で、他方の半割り軸受における軸受内周面が、一方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれている、回転軸の軸受構造。
【請求項5】
請求項2または4に記載の回転軸の軸受構造であって、
2つの半割り軸受における軸受内周面の曲率が等しく、
一方の半割り軸受における軸受内周面の曲率中心が、他方の半割り軸受における軸受内周面の曲率中心に対して、角度θに相当する軸受分割位置へずれている、回転軸の軸受構造。
【請求項6】
ラジアルすべり軸受の軸受内周面と回転軸との間の隙間に充填される潤滑油を介して、回転軸の径方向に沿った荷重を受ける回転軸の軸受構造であって、
軸受内周面においては、
θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、
軸受中心軸と直交し且つ前記荷重に沿った方向を基準に、回転軸の回転方向に角度θ進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少し、
角度θに相当する位置で軸受中心軸に対する距離が急増し、
角度360°−θに相当する位置から回転軸の回転方向に前記基準に進む位置まで軸受中心軸に対する距離が徐々に減少する、回転軸の軸受構造。
【請求項7】
ラジアルすべり軸受の軸受内周面と回転軸との間の隙間に充填される潤滑油を介して、回転軸の径方向に沿った荷重を受ける回転軸の軸受構造であって、
θを0°より大きく且つ90°より小さい所定角度とすると、
軸受中心軸と直交し且つ前記荷重に沿った方向を基準に、回転軸の回転方向に角度θ進んだ位置と角度180°+θ進んだ位置とで分割された2つの半割り軸受を含んでラジアルすべり軸受が構成され、
一方の半割り軸受は、角度θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度180°+θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、
他方の半割り軸受は、角度180°+θに相当する位置から回転軸の回転方向に角度θに進む位置にかけて軸受内周面を形成し、
角度θに相当する軸受分割位置付近で、一方の半割り軸受における軸受内周面が、他方の半割り軸受における軸受内周面より径方向外側へずれている、回転軸の軸受構造。
【請求項8】
請求項7に記載の回転軸の軸受構造であって、
一方の半割り軸受における軸受内周面の曲率中心が、他方の半割り軸受における軸受内周面の曲率中心に対して、角度θに相当する軸受分割位置へずれている、回転軸の軸受構造。
【請求項9】
請求項7または8に記載の回転軸の軸受構造であって、
一方の半割り軸受における軸受内周面の曲率が、他方の半割り軸受における軸受内周面の曲率より小さい、回転軸の軸受構造。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1に記載の回転軸の軸受構造であって、
θは20°以上且つ70°以下の所定角度である、回転軸の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−236923(P2011−236923A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106126(P2010−106126)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】