説明

回転軸支持構造

【課題】回転軸とすべり軸受との摺動面間に介在される油膜の厚さの検出精度を向上させることが可能であり、信頼性を向上させることが可能な回転軸支持構造を提供する。
【解決手段】内燃機関クランクシャフトは、アッパーメタルおよびロアーメタル8からなる軸受メタルを介して、シリンダブロックおよびこのシリンダブロックに一体的に取り付けられるクランクキャップに回転自在に支持されている。クランクシャフトのジャーナル部22とメタル摺動面間には油膜Aが介在されている。上記油膜Aの厚さを検出する検出装置は、一対の電極91,92を備え、一方の電極91は、ロアーメタル8の摺動面に形成されている。そして、一方の電極91は、絶縁層91b、電極層91a、保護層91cを有する薄膜電極として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸をすべり軸受を介してハウジングに回転自在に支持する回転軸支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジン等の機関では、各種の回転軸がすべり軸受を介して軸受ハウジングに回転自在に支持される。一例を挙げると、自動車用エンジンでは、クランクシャフトのジャーナル部が、すべり軸受としての軸受メタルを介してシリンダブロックに回転自在に支持されている。クランクシャフトのジャーナル部と軸受メタルとの摺動面間には、油膜が形成されるようになっている。
【0003】
上述のような回転軸支持構造では、すべり軸受の軸受幅を大きくするほど、受圧面積が大きくなるので、油膜が保持されやすくなって耐焼付き性が向上する傾向となる反面、フリクションが大きくなる傾向となる。逆に、すべり軸受の軸受幅を小さくするほど、受圧面積が小さくなるので、フリクションが小さくなる傾向となる反面、耐焼付き性が低下する傾向となる。
【0004】
このように、油膜厚さは、すべり軸受の設計上、最も重要な情報の1つである。また、駆動中において、油膜厚さをモニタすることは、回転軸やすべり軸受の損傷を素早く検出したり、損傷の発生を未然に回避するうえで有効である。油膜厚さの検出は、例えば、回転軸とすべり軸受との間の静電容量を計測することによって行うことが可能である。
【0005】
特許文献1には、ベアリングの内輪および外輪のベアリングギャップを検出する技術が開示されている。具体的には、ベアリングの内輪の外周面にリング状の内側電極を埋設するとともに、外輪の内周面に外側電極を埋設し、両電極間の静電容量を計測することで、ベアリングギャップを検出することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−100602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、油膜厚さの検出を回転軸とすべり軸受との間の静電容量を計測することによって行う構成において、油膜厚さ検出用の電極をすべり軸受に埋設する場合、軸受表面(摺動面)と電極表面との一致性が問題となる。軸受表面と電極表面との両表面が一致していなければ、回転軸とすべり軸受との摺動面間に介在される油膜厚さの検出精度が悪化して、信頼性が低下することが懸念される。例えば、エンジンのクランクシャフトの場合、クランクシャフトのジャーナル部と軸受メタルとの摺動面間に介在される油膜厚さは、最小で数μm以下と言われており、このような油膜厚さが薄い部分では、両表面の一致性が特に問題となる。
【0008】
ここで、すべり軸受に電極を埋設した後に研磨等を行うことで、軸受表面と電極表面との両表面を静的にはほぼ一致させることが可能である。しかし、駆動時の負荷による変形や熱膨張などに起因して、軸受表面の電極が存在する部分の表面と、電極の周囲の部分の表面とが一致しなくなる可能性がある。したがって、油膜厚さを検出しても、軸受表面の電極が存在する部分の油膜厚さが分かるだけで、電極の周囲の部分の油膜厚さを推定することは困難である。
【0009】
本発明は、そのような問題点を鑑みてなされたものであり、回転軸とすべり軸受との摺動面間に介在される油膜の厚さの検出精度を向上させることが可能であり、信頼性を向上させることが可能な回転軸支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題を解決するための手段を以下のように構成している。すなわち、本発明は、回転軸がすべり軸受を介してハウジングに回転自在に支持され、上記回転軸とすべり軸受との摺動面間には油膜が介在される回転軸支持構造であって、上記回転軸とすべり軸受との間の静電容量を計測することで、上記油膜の厚さを検出する検出装置を備え、上記検出装置は、少なくとも上記すべり軸受の摺動面に電気的に絶縁された状態で設けられた薄膜電極を有することを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、駆動時には、すべり軸受の変形に追従して薄膜電極も変形するため、すべり軸受の摺動面の薄膜電極が存在する部分の表面と、薄膜電極の周囲の部分の表面とをほぼ一致させることができる。つまり、駆動時にも、すべり軸受の摺動面に発生する凹凸をほとんどなくすことができ、すべり軸受の摺動面と薄膜電極の表面との一致性を保つことができる。これにより、すべり軸受の摺動面の薄膜電極が存在する部分において、上記油膜の厚さを検出することで、すべり軸受の摺動面の薄膜電極が存在する部分の油膜の厚さが分かるだけではなく、薄膜電極の周囲の部分の油膜の厚さを容易に推定することができる。したがって、回転軸とすべり軸受との摺動面間の油膜の厚さの検出精度を向上させることができ、信頼性を向上させることができる。その結果、回転軸やすべり軸受の損傷を素早く検出でき、損傷の発生を未然に回避することができる。
【0012】
本発明において、上記薄膜電極と対になる相手側の電極を、上記回転軸に設ける構成としてもよい。この場合、上記薄膜電極と対になる相手側の電極を、上記回転軸の摺動面に電気的に絶縁された状態で設けられた薄膜電極(第2の薄膜電極)とすることが可能である。
【0013】
また、上記薄膜電極と対になる相手側の電極も、上記薄膜電極と同様にすべり軸受に設ける構成としてもよい。この場合、上記薄膜電極と対になる相手側の電極は、すべり軸受の摺動面に電気的に絶縁された状態で設けられた薄膜電極(第2の薄膜電極)であり、上記薄膜電極とは間隔を隔てて配置されていることが好ましい。この構成では、回転軸に電極を設ける必要がなくなるため、配線などの構成が簡素で済み、断線などが発生する可能性も低くなる。
【0014】
本発明において、薄膜電極としては、例えば、電極層を絶縁層と保護層とで挟んだ構成のものを用いることが可能である。ここで、薄膜電極の絶縁層は、すべり軸受の摺動面の全面に形成されていることが好ましい。また、絶縁層は、SiO2で形成され、厚みが2〜10μmに設定されていることが好ましい。さらに、薄膜電極の電極層は、TiまたはCrで形成されていることが好ましい。また、電極層は、厚みが1μm以下に設定されていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、絶縁層の材質をSiO2とした場合、材質をAl23等とした場合に比べて、電極層とすべり軸受との間の電気的な絶縁を保つことが可能な最小の厚みを小さくすることができる。これにより、絶縁層の成膜時間を短くできる。また、絶縁層の厚みを、2〜10μmとしているので、電極層とすべり軸受との間の電気的な絶縁を効果的に保ちつつ、絶縁層に亀裂等が生じることを抑制することができる。絶縁層の厚みの下限値(2μm)は、電極層とすべり軸受との間の電気的な絶縁を保つことが可能な最小の厚みに設定されている。一方、絶縁層の厚みの上限値(10μm)は、絶縁層に亀裂等が生じることを抑制可能な厚みに設定されている。
【0016】
また、絶縁層をすべり軸受の摺動面の全体にわたって設けているので、すべり軸受の摺動面に生じる凹凸をできるだけ低減することができる。しかも、電極層の厚みを、1μm以下としているため、すべり軸受の摺動面に生じる凹凸をさらに低減することができる。これにより、回転軸とすべり軸受との摺動面間の油膜の厚さの検出精度をさらに向上させることができ、信頼性をさらに高めることができる。併せて、回転軸の摺動抵抗も低減できる。
【0017】
本発明の具体的な適用対象として、例えば、内燃機関のクランクシャフトの支持構造が挙げられる。この場合、上記回転軸が、内燃機関のクランクシャフトであり、上記すべり軸受が、アッパーメタルおよびロアーメタルからなる軸受メタルであり、上記ハウジングが、内燃機関のシリンダブロック、および、このシリンダブロックに一体的に取り付けられるクランクキャップである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、回転軸とすべり軸受との摺動面間に介在される油膜の厚さの検出精度を向上させることができ、信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用する実施形態の装置構成を概略的に示す模式図である。
【図2】図1の内燃機関のクランクシャフトの外観を示す図である。
【図3】図1の内燃機関のクランクシャフトの支持構造の分解斜視図である。
【図4】図2のX1−X1線断面の矢視図である。
【図5】図2のX2−X2線断面の矢視図である。
【図6】アッパーメタルおよびロアーメタルを示す斜視図である。
【図7】ロアーメタルの摺動面を示す展開図である。
【図8】クランクシャフトとロアーメタルとの摺動面間の油膜厚さを検出する検出装置、および、ロアーメタルの摺動面に設けられた電極の断面を模式的に示す図である。
【図9】クランクシャフトとロアーメタルとの摺動面間の油膜厚さを検出する検出装置の変形例において、図7に対応する図である。
【図10】クランクシャフトとロアーメタルとの摺動面間の油膜厚さを検出する検出装置の変形例において、図8に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を具体化した実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0021】
以下では、本発明を自動車用エンジンのクランクシャフトの支持構造に適用した実施形態について説明する。この実施形態では、直列4気筒型の内燃機関を例に挙げている。
【0022】
図1に示すように、内燃機関100においては、クランクシャフト2が複数の軸受を介してシリンダブロック1に回転自在に支持されている。クランクシャフト2は、シリンダブロック1のシリンダ内を往復移動するピストン4とコネクティングロッド3を介して連結されている。そして、内燃機関100の運転時、燃焼室内で燃料が燃焼する際の燃焼エネルギーによりピストン4が往復運動すると、その往復運動がコネクティングロッド3を介してクランクシャフト2の回転運動に変換されて出力されるようになっている。つまり、内燃機関100は、ピストン4の往復運動を回転運動に変換してクランクシャフト2の回転動力を得るレシプロ方式の機関となっている。内燃機関100では、ピストン4、シリンダ等によって、機関の駆動部が構成されている。
【0023】
内燃機関100の各種制御は、制御装置としてのエンジンECU110によって行われる。エンジンECU110は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM、入力インターフェース、出力インターフェース等を備えて構成される。このエンジンECU110には、内燃機関100の運転状態を検出する各種センサ、後述する油膜厚さを検出するための検出装置9等が接続されている。
【0024】
次に、内燃機関100におけるクランクシャフト2の支持構造について説明する。
【0025】
図2〜図5に示すように、クランクシャフト2は、シリンダブロック1に回転自在に支持されるジャーナル部22と、コネクティングロッド3が揺動自在に支持されるクランクピン21と、ジャーナル部22とクランクピン21とを連結するクランクアーム23とを含んだ構成となっている。クランクアーム23には、回転バランスを取るためのカウンタウェイトが一体的に設けられている。この実施形態では、クランクシャフト2は、直列4気筒型の内燃機関100に用いられるものである関係より、5つのジャーナル部22と、4つのクランクピン21と、8つのクランクアーム23とを有している。
【0026】
クランクシャフト2のジャーナル部22は、シリンダブロック1の下側の台座11とそれにボルト6等で結合されるクランクキャップ5との間に挟まれた状態で回転自在に支持されている。台座11には、シリンダブロック1の上側へ向けて断面略U字形に凹む凹部12が設けられている。また、クランクキャップ5には、シリンダブロック1側へ向けて断面略U字形に凹む凹部51が設けられている。
【0027】
そして、クランクシャフト2の各ジャーナル部22の回転支持部分、詳しくは、クランクシャフト2のジャーナル部22の外周面と、台座11の凹部12の内面(嵌め合い面)16およびクランクキャップ5の凹部51の内面(嵌め合い面)52との対向間には、すべり軸受としてのメタル7,8が介装されるようになっている。
【0028】
これらクランクジャーナル用のメタル7,8は、一般的に、円筒形のものを2つ割りとしたような形状であり、2つ一対で使用される(図6参照)。メタル7,8は、例えば、Al系合金、Cu系合金などによって形成される。これら2種のメタルのうち、一方のメタル7は、台座11の凹部12の嵌め合い面16に嵌合装着され、他方のメタル8は、クランクキャップ5の凹部51の嵌め合い面52に嵌合装着される。この装着関係に応じて、以下では、シリンダブロック1の台座11側に配置されるメタル7をアッパーメタル(アッパーベアリング)、また、クランクキャップ5側に配置されるメタル8をロアーメタル(ロアーベアリング)と言う。
【0029】
アッパーメタル7は、その凹状面の軸方向中間領域に一定深さの油溝71が設けられたタイプとされている。アッパーメタル7の油溝71の底において周方向2箇所には、厚み方向に貫通する油孔72が設けられている。
【0030】
ロアーメタル8は、アッパーメタル7とは異なり、油溝や油孔が設けられていないタイプとされている。
【0031】
なお、クランクシャフト2のクランクピン21には、コネクティングロッド3が揺動可能に取り付けられており、このコネクティングロッド3の揺動支持部分にも、上記ジャーナル部22と同様にすべり軸受としてのメタル(図示略)が介装されるようになっている。
【0032】
クランクシャフト2のジャーナル部22の回転支持部分に対して、シリンダブロック1の油路13,14や、アッパーメタル7の油溝71および油孔72を経てエンジンオイル(潤滑油)が供給されるようになっている。そして、クランクシャフト2のジャーナル部22と、アッパーメタル7およびロアーメタル8との摺動面間には油膜A(図8参照)が形成されるようになっている。
【0033】
また、クランクシャフト2の内部にも、エンジンオイルを供給するための通路が設けられている。具体的には、クランクシャフト2の5つのジャーナル部22について、そのフロント(Fr)側からリア(Rr)側へ向けて1番から5番まで番号を付けると、1番ジャーナル部22から1番クランクピン21へ、2番ジャーナル部22から2番クランクピン21へ、また、4番ジャーナル部22から3番クランクピン21へ、5番ジャーナル部22から4番クランクピン21へ、それぞれエンジンオイル通路が設けられている。
【0034】
エンジンオイル通路は、クランクシャフト2の5つのジャーナル部22のうち、軸方向中央の3番ジャーナル部22を除いた4つのジャーナル部22に径方向に貫通して設けられる径方向孔24と、4つのクランクピン21すべてにおける各端面側から外周面へ貫通して設けられる傾斜孔25と、これら径方向孔24と傾斜孔25とを上述した関係で連通するよう対応するクランクアーム23の厚み方向に貫通して設けられる傾斜連通孔26とを組み合わせて構成されている。
【0035】
この実施形態では、クランクシャフト2のジャーナル部22とすべり軸受との間の静電容量を計測することで、ジャーナル部22とすべり軸受との摺動面間に介在される油膜Aの厚さを検出する検出装置9を備えている。そして、検出装置9は、少なくともすべり軸受の摺動面に電気的に絶縁された状態で設けられた薄膜型の電極(薄膜電極)を有していることを特徴としている。以下、この特徴部分について、図1、図6〜図8等を参照して説明する。
【0036】
図6〜図8に示すように、検出装置9は、ジャーナル部22とすべり軸受との摺動面間に介在する油膜Aを挟むように対向配置される一対の電極91,92を備えている。一方の電極91は、すべり軸受としてのメタル7,8のうち、ロアーメタル8の摺動面81に設けられている。一方の電極91は、リード線等を介してエンジンECU110に電気的に接続されている。一方の電極91は、5つのロアーメタル8に対しそれぞれ設けられている(図1参照)。また、油膜Aを挟んで一方の電極91に対向して設けられるクランクシャフト2のジャーナル部22が他方の電極92となっている。この場合、電極92は、クランクシャフト2に設けられたスリップリング等を介してエンジンECU110に電気的に接続されている。
【0037】
上記一方の電極91は、薄膜電極として構成されている。以下では、一方の電極91を、「薄膜電極91」とも言う。薄膜電極91は、半円筒形のロアーメタル8の内面(摺動面)で、周方向のほぼ中央部分(図6では下側の部分)に設けられている。
【0038】
図8に示すように、薄膜電極91は、電極層91aと、絶縁層91bと、保護層(被覆層)91cとを備えた構成になっている。具体的には、薄膜電極91は、ロアーメタル8の摺動面81の上に、絶縁層91b、電極層91a、保護層91cの順で積層された3層構造となっており、電極層91aを絶縁層91bと保護層91cとで挟んだ構成となっている。
【0039】
電極層91aは、薄膜電極91の電極として機能する部分であり、例えば、Ti(チタン)、Cr(クロム)等の導体で形成されている。絶縁層91bは、電極層91aの電気的な絶縁を確保するために設けられており、例えば、SiO2等のような絶縁体で形成されている。保護層91cは、電極層91aの電気的な絶縁を確保し、電極層91aの表面を保護するために設けられており、例えば、SiO2等のような絶縁体で形成されている。なお、電極層91a、絶縁層91b、保護層91cの材質は一例であって、同様の性質を有する材質であれば上記以外の材質を用いてもよい。
【0040】
絶縁層91b、電極層91a、保護層91cは、例えば、スパッタリング等の手段によって、ロアーメタル8の摺動面81上に順に形成される。この場合、クランクシャフト2等と比べてロアーメタル8のサイズは小さいため、スパッタ装置等のチャンバー内において、ロアーメタル8の摺動面81への絶縁層91b、電極層91a、保護層91cの成膜を容易に行うことが可能である。
【0041】
電極層91aは、図7に示すように、ロアーメタル8の摺動面81の一部分(ドットで示す部分)に形成されている。電極層91aの厚みは、1μm以下に設定されている。電極層91aは、リード線と接続されるロアーメタル8の側面83まで延びている。詳細には、電極層91aは、軸方向(図7では上下方向)のほぼ中央に設けられる矩形部分91dと、この矩形部分91dからロアーメタル8の側面83側(図7では下側)に向けて延びる線状部分91eとを有している。そして、線状部分91eが、ロアーメタル8の側面83側において、例えば、半田や導電性ペーストなどにより、リード線と接続されている。なお、図7では、薄膜電極91の絶縁層91b、保護層91cの図示を省略している。
【0042】
絶縁層91bおよび保護層91cは、電極層91aの上下の部分だけではなく、ロアーメタル8の摺動面81の全体にわたって形成されている。絶縁層91bの厚みは、2〜10μmに設定されている。絶縁層91bおよび保護層91cにより、電極層91aが、ロアーメタル8および他方の電極92に対して電気的に絶縁されている。
【0043】
そして、エンジンECU110により、一対の電極91,92間の静電容量が計測される。一対の電極91,92間の静電容量の計測は、例えば、一対の電極91,92間に交流電圧を印加した際に流れる電流値を計測することによって行うことが可能である。ここで、一対の電極91,92間の静電容量は、一対の電極91,92間の距離に反比例するため、一対の電極91,92間の静電容量を計測することによって、一対の電極91,92間の距離が検出される。したがって、一対の電極91,92間に介在する油膜Aの厚さが検出される。この場合、ロアーメタル8の摺動面81の電極91(電極層91a)が存在する部分の油膜Aの厚さが検出される。なお、一対の電極91,92間の静電容量は、エンジンオイルの比誘電率に比例するが、エンジンオイルの比誘電率は、温度および圧力に対しほぼ一定であるため、一対の電極91,92間の静電容量の変化には、一対の電極91,92間の油膜Aの厚さの変化のみが反映されることになる。
【0044】
エンジンECU110は、検出された油膜Aの厚さに基づいて内燃機関100の運転状態を制御する。例えば、エンジンECU110は、検出された油膜Aの厚さが予め設定された閾値以上である場合には、現在の内燃機関100の制御を継続して行う。一方、エンジンECU110は、検出された油膜Aの厚さが予め設定された閾値を下回った場合には、クランクシャフト2やメタル7,8の損傷を回避するために、油膜Aの厚さを増大させるように、内燃機関100の運転状態を制御する。具体的には、エンジンECU110は、内燃機関100の燃料噴射量、吸入空気量、点火時期等を制御することで、内燃機関100の負荷を低下させるか、あるいは、内燃機関100の回転数を増加させることによって、油膜Aの厚さを増大させる。なお、上記閾値は、実験的または経験的に設定されるものであり、クランクシャフト2およびメタル7,8の損傷を回避可能な値に設定される。
【0045】
また、例えば、エンジンECU110は、検出された油膜Aの厚さが上記閾値を下回った場合には、警報装置120を作動させ、警報を発するようにしてもよい。警報装置120は、ユーザに対し、油膜Aの厚さの減少によりクランクシャフト2やメタル7,8が損傷する可能性があることを知らせるもので、警報装置120による警報としては、例えば、音声手段による警報、発光手段の点灯や点滅による警報、表示手段への表示による警報等がある。
【0046】
この実施形態では、上述したように、油膜厚さ検出用の薄膜電極91がロアーメタル8の摺動面81に設けられているので、次のような効果が得られる。
【0047】
内燃機関100の駆動時(運転中)には、ロアーメタル8の変形に追従して薄膜電極91も変形するため、ロアーメタル8の摺動面81の電極層91aが存在する部分の表面と、電極層91aの周囲の部分の表面とをほぼ一致させることができる。つまり、駆動時にも、ロアーメタル8の摺動面81に発生する凹凸をほとんどなくすことができ、ロアーメタル8の摺動面81と薄膜電極91の表面との一致性を保つことができる。これにより、一対の電極91,92間の油膜Aの厚さを検出することで、ロアーメタル8の摺動面81の電極層91aが存在する部分の油膜Aの厚さが分かるだけではなく、電極層91aの周囲の部分の油膜Aの厚さを容易に推定することができる。したがって、クランクシャフト2のジャーナル部22とロアーメタル8との摺動面間に介在される油膜Aの厚さの検出精度を向上させることができ、信頼性を向上させることができる。その結果、クランクシャフト2やメタル7,8の損傷を素早く検出でき、損傷の発生を未然に回避することができる。
【0048】
また、薄膜電極91の絶縁層91bおよび保護層91cをロアーメタル8の摺動面81の全体にわたって設けているので、ロアーメタル8の摺動面81に生じる凹凸をできるだけ低減することができる。しかも、薄膜電極91の電極層91aの厚みを、1μm以下としているため、ロアーメタル8の摺動面81に生じる凹凸をさらに低減することができる。これにより、クランクシャフト2のジャーナル部22とロアーメタル8との摺動面間の油膜Aの厚さの検出精度をさらに向上させることができ、信頼性をさらに高めることができる。併せて、クランクシャフト2のジャーナル部22の摺動抵抗も低減できる。
【0049】
また、薄膜電極91の絶縁層91bをSiO2で形成し、その厚みを、2〜10μmとしているので、電極層91aとロアーメタル8との間の電気的な絶縁を効果的に保ちつつ、絶縁層91bに亀裂等が生じることを抑制することができる。
【0050】
詳細には、絶縁層91bを薄くするほど、電極層91aとロアーメタル8との間の電気的な絶縁を保つことが困難になる。このため、絶縁層91bの厚みの下限値を、電極層91aとロアーメタル8との間の電気的な絶縁を保つことが可能な最小の厚みに設定している。ここで、絶縁層91bの材質をSiO2とした場合、材質をAl23等とした場合に比べて、絶縁層91bの厚みの下限値を小さくすることができる。具体的には、Al23の場合、絶縁層91bの厚みの下限値を、6μmとしなければならない。これに対し、SiO2の場合、絶縁層91bの厚みの下限値を、2μmとすればよく、絶縁層91bの成膜時間も短くなり、好ましい。なお、絶縁層91bの材質をSiO2とした場合、電極層91aの材質をTiまたはCrとすれば、電極層91aを絶縁層91b上に密着させやすくなり、好ましい。
【0051】
一方、絶縁層91bを厚くするほど、内部応力が高くなり、亀裂が生じやすくなったり、ロアーメタル8の摺動面81から剥がれやすくなる。このため、絶縁層91bの厚みの上限値を、絶縁層91bに亀裂等が生じることを抑制可能な厚みに設定している。絶縁層91bの材質をSiO2とした場合、その厚みが10μmを超えると、絶縁層91bに亀裂等が生じやすくなるので、絶縁層91bの厚みの上限値を、10μmに設定している。
【0052】
−他の実施形態−
以上、本発明の実施形態について説明したが、ここに示した実施形態は一例であり、さまざまに変形することが可能である。
【0053】
上記実施形態で説明した薄膜電極91の電極層91aの形状、数、配置位置などは一例であって、適宜変更することが可能である。例えば、ロアーメタル8の摺動面81に複数の電極層91aを設けて、複数の箇所において、クランクシャフト2のジャーナル部22とロアーメタル8との摺動面間の油膜Aの厚さを検出する構成としてもよい。この場合、複数の電極層91aを、互いに電気的な絶縁を確保できる距離だけ離間して配置すればよい。
【0054】
また、薄膜電極91は、油膜厚さ検出用の電極層が、メタル7,8および他方の電極92に対して電気的に絶縁されているものであれば、どのような構造のものを用いてもよい。
【0055】
上記実施形態では、薄膜電極91をロアーメタル8の摺動面81に設けた例を挙げたが、薄膜電極91をアッパーメタル7の摺動面に設ける構成としてもよい。この場合、スパッタリング等の手段によって、アッパーメタル7の摺動面上に、絶縁層91b、電極層91a、保護層91cを順に形成すればよい。
【0056】
また、検出装置9の他方の電極92も、上述した一方の電極91と同様に、薄膜電極として構成してもよい。例えば、スパッタリング等の手段によって、クランクシャフト2のジャーナル部22の外周面上に、絶縁層、電極層、保護層を順に形成すればよい。この場合、一対の電極91,92のいずれか一方をリング状に形成し、他方を油膜厚さの検出箇所に形成すればよい。
【0057】
あるいは、検出装置9の他方の電極92も、上述した一方の電極91と同様に、すべり軸受に設ける構成としてもよい。この場合、他方の電極92は、薄膜電極として構成することが好ましい。他方の電極92は、一方の電極91に対して電気的な絶縁を確保できる距離だけ離間して配置すればよい。なお、一対の電極91,92を、すべり軸受の摺動面上に軸方向に並べて配置してもよいし、周方向に並べて配置してもよい。この構成では、クランクシャフト2などの回転体に電極を設ける必要がなくなるため、配線などの構成が簡素で済み、断線などが発生する可能性も低くなる。
【0058】
図9、図10には、ロアーメタル8の摺動面81に検出装置9の一対の薄膜電極91,92が、間隔L1を隔てて軸方向に並べて配置された変形例を示している。検出装置9の一対の薄膜電極91,92のうち、一方の薄膜電極91は、上記実施形態の薄膜電極91とほぼ同様の構成であり、図10に示すように、電極層91aを絶縁層91bと保護層91cとで挟んだ構成となっている。他方の薄膜電極92も、上記実施形態の薄膜電極91とほぼ同様の構成であり、図10に示すように、電極層92aを絶縁層92bと保護層92cとで挟んだ構成となっている。
【0059】
図9に示すように、薄膜電極91,92は、ロアーメタル8の摺動面81の一部分(ドットで示す部分)に形成されている。薄膜電極91の電極層91aは、リード線と接続されるロアーメタル8の側面83まで延びている。薄膜電極92の電極層92aは、リード線と接続されるロアーメタル8の側面84まで延びている。
【0060】
薄膜電極91の電極層91aの矩形部分91dと、薄膜電極92の電極層92aの矩形部分92dとは、間隔L1を隔てて軸方向に配置されている。薄膜電極91の電極層91aの矩形部分91dには、ロアーメタル8の側面83側(図9では下側)に向けて延びる線状部分91eが接続されている。薄膜電極92の電極層92aの矩形部分92dには、ロアーメタル8の側面84側(図9では上側)に向けて延びる線状部分92eが接続されている。間隔L1は、電極層91a,92aの互いの電気的な絶縁が確保できる距離であれば、特に限定されない。なお、間隔L1は、例えば、数mmに設定され、クランクシャフト2のジャーナル部22とロアーメタル8との摺動面間に介在される油膜Aの厚さに比べ極めて大きい。
【0061】
薄膜電極91の絶縁層91bと、薄膜電極92の絶縁層92bとは、図10に示すように、別々に設けてもよいし、あるいは、両絶縁層91b,92bを一体的に形成してもよい。薄膜電極91の保護層91cと、薄膜電極92の保護層92cとは、図10に示すように、別々に設けてもよいし、あるいは、両保護層91c,92cを一体的に形成してもよい。
【0062】
そして、エンジンECU110により、一対の薄膜電極91,92間の静電容量が計測される。この例では、エンジンECU110により計測される静電容量には、薄膜電極91とクランクシャフト2のジャーナル部22との間の距離と、ジャーナル部22と薄膜電極92との間の距離との合計の距離が寄与する。つまり、一対の薄膜電極91,92間の静電容量は、上記合計の距離に反比例するため、一対の薄膜電極91,92間の静電容量を計測することによって、上記合計の距離が検出される。したがって、検出された合計の距離から、クランクシャフト2のジャーナル部22とロアーメタル8との摺動面間に介在される油膜Aの容易に求めることができる。この場合、例えば、薄膜電極91とクランクシャフト2のジャーナル部22との間の距離と、ジャーナル部22と薄膜電極92との間の距離とを同じに設定しておけばよい。
【0063】
上記実施形態では、本発明を内燃機関のクランクシャフトの支持構造に適用した例を挙げたが、本発明は、回転軸をすべり軸受を介してハウジングに回転可能に支持するように構成されていれば、任意の回転軸支持構造に対しても適用することが可能である。
【0064】
例えば、回転軸は、機関が有する出力軸、動力伝達軸等の任意の軸とすることが可能である。この場合、機関は、回転動力を外部へ出力するものであれば、自動車用エンジン等の内燃機関だけに限定されない。回転軸の一例を挙げれば、コンプレッサの回転軸などがある。
【0065】
また、すべり軸受は、円筒形のものを2つ割りとしたアッパーベアリングおよびロアーベアリングからなるものではなく、円筒形のものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、回転軸がすべり軸受を介してハウジングに回転自在に支持され、回転軸とすべり軸受との摺動面間に油膜が介在される構造に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 シリンダブロック(ハウジング)
2 クランクシャフト(回転軸)
22 ジャーナル部
5 クランクキャップ(ハウジング)
7 アッパーメタル(すべり軸受)
8 ロアーメタル(すべり軸受)
81 摺動面
9 検出装置
91 薄膜電極
91a 電極層
91b 絶縁層
91c 保護層
92 電極(相手側の電極)
100 内燃機関
110 エンジンECU
A 油膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸がすべり軸受を介してハウジングに回転自在に支持され、上記回転軸とすべり軸受との摺動面間には油膜が介在される回転軸支持構造であって、
上記回転軸とすべり軸受との間の静電容量を計測することで、上記油膜の厚さを検出する検出装置を備え、
上記検出装置は、少なくとも上記すべり軸受の摺動面に電気的に絶縁された状態で設けられた薄膜電極を有することを特徴とする回転軸支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載の回転軸支持構造において、
上記薄膜電極と対になる相手側の電極は、上記回転軸に設けられていることを特徴とする回転軸支持構造。
【請求項3】
請求項2に記載の回転軸支持構造において、
上記薄膜電極と対になる相手側の電極は、上記回転軸の摺動面に電気的に絶縁された状態で設けられた薄膜電極であることを特徴とする回転軸支持構造。
【請求項4】
請求項1に記載の回転軸支持構造において、
上記薄膜電極と対になる相手側の電極は、上記すべり軸受の摺動面に電気的に絶縁された状態で設けられた薄膜電極であり、上記薄膜電極とは間隔を隔てて配置されていることを特徴とする回転軸支持構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の回転軸支持構造において、
上記薄膜電極は、電極層を絶縁層と保護層とで挟んだ構成となっていることを特徴とする回転軸支持構造。
【請求項6】
請求項5に記載の回転軸支持構造において、
上記絶縁層は、上記すべり軸受の摺動面の全面に形成されていることを特徴とする回転軸支持構造。
【請求項7】
請求項5または6に記載の回転軸支持構造において、
上記絶縁層は、SiO2で形成され、厚みが2〜10μmに設定されていることを特徴とする回転軸支持構造。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1つに記載の回転軸支持構造において、
上記電極層は、TiまたはCrで形成されていることを特徴とする回転軸支持構造。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1つに記載の回転軸支持構造において、
上記電極層は、厚みが1μm以下に設定されていることを特徴とする回転軸支持構造。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の回転軸支持構造において、
上記回転軸が、内燃機関のクランクシャフトであり、
上記すべり軸受が、アッパーメタルおよびロアーメタルからなる軸受メタルであり、
上記ハウジングが、内燃機関のシリンダブロック、および、このシリンダブロックに一体的に取り付けられるクランクキャップであることを特徴とする回転軸支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−281355(P2010−281355A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133814(P2009−133814)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】