説明

回転電機の固定子,回転電機,回転電機駆動システム及び電気自動車

【課題】同相間絶縁性能を確保でき、高電圧化に対応し、小型にして高出力化を図ることができる回転電機の固定子を提供する。
【解決手段】本実施形態の回転電機の固定子は、複数の単位コイルが連結されてなる複数相の固定子コイルが固定子鉄心に巻装されるものにおいて、前記各相の固定子コイルは、複数の単位コイルを直列に接続してなるコイル列の一端が、インバータ装置より供給される交流電力が入力される電源入力端子に接続され、前記各相の電源入力端子に接続される入力側単位コイルは、絶縁皮膜の膜厚が他の単位コイルよりも厚く設定され、且つ導体部分の断面積が他の単位コイルよりも小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機の固定子、及びこの固定子を備えた回転電機、この回転電機を備えた回転電機駆動システム、この回転電機駆動システムを備えた電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車やハイブリッド自動車に駆動電動機として搭載される車両用の回転電機において、固定子を構成する複数相の固定子コイルの各相の固定子コイルには、複数の単位コイルが直列に接続されて構成されるコイル列を1列又は2列並列に接続したものがある。これらの単位コイルは、各々が磁極を形成するように固定子鉄心に巻装され、一端は電源入力端子に接続され、他端は中性点端子に接続されている。そして、同相の単位コイル間の絶縁(同相間絶縁)は、各単位コイルを構成する導線のエナメル皮膜により行われるようになっている。
【0003】
ところで、電気自動車やハイブリット自動車などの車両用モータにおいては、小型にして高出力を得るため、印加電圧(使用電圧)をより高く設定する傾向にあるが、使用電圧が高くなると同相単位コイル間の電位差が大きくなり、絶縁性能を確保できないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−252519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、同相間絶縁性能を確保でき、高電圧化に対応し、小型にして高出力化を図ることができる回転電機の固定子、及びこの固定子を備えた回転電機、この回転電機を備えた
回転電機駆動システム、この回転電機駆動システムを備えた電気自動車を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の回転電機の固定子は、複数の単位コイルが連結されてなる複数相の固定子コイルが固定子鉄心に巻装されるものにおいて、
前記各相の固定子コイルは、複数の単位コイルを直列に接続してなるコイル列の一端が、インバータ装置より供給される交流電力が入力される電源入力端子に接続され、
前記各相の電源入力端子に接続される入力側単位コイルは、絶縁皮膜の膜厚が他の単位コイルよりも厚く設定され、且つ導体部分の断面積が他の単位コイルよりも小さく設定されている。
【0007】
また、本実施形態の回転電機は、請求項1ないし3の何れかに記載の固定子と、
この固定子の界磁空間に配置された回転子とを備える。
また、本実施形態の回転電機の駆動システムは、請求項4ないし6の何れかに記載の回転電機と、
この回転電機の固定子コイルに交流電力を供給するインバータ装置とで構成される。
また、本実施形態の電気自動車は、請求項6記載の回転電機の駆動システムを備え、前記回転電機が出力する駆動力により車両が駆動される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態のU相の固定子コイルの接続構成を模式的に示す図
【図2】U相の固定子コイルの配置及び接続構成を簡略的に示す図
【図3】永久磁石電動機の構成を示す概略図
【図4】U相の固定子コイルの等価回路を示す図
【図5】三相の固定子コイルの等価回路を模式的に示す図
【図6】電気自動車の構成を概略的に示す機能ブロック図
【図7】第2実施形態を示す図1相当図
【図8】図4相当図
【図9】図2相当図
【図10】第3実施形態であり、電動機及び冷却装置の断面を模式的に示す図
【図11】図10のII−II線に沿った断面を示す図
【図12】第4実施形態を示す図10相当図
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下、電気自動車やハイブリッド自動車などに用いられ、インバータにより駆動されるの永久磁石電動機に適用した第1実施形態について、図1ないし図6を参照して説明する。図3に示すように、永久磁石電動機1(回転電機)は、固定子2及び回転子3を備えている。固定子2は、固定子鉄心4に、複数相、例えば三相(U相、V相、W相)の固定子コイル5(U相コイル5u、V相コイル5v、W相コイル5w)が巻装された構成である。固定子鉄心4は、電磁鋼板からなる複数枚の円環状の鉄心材を積層して一体的に結着することで形成されていて、円筒状をなしている。
【0010】
固定子鉄心4の内周には、各相の固定子コイル5u〜5wを収納するための72個のスロット6が等角度で形成されている。各スロット6の内部にはそれぞれスロット絶縁紙(図示しない)が配置されていて、これにより、固定子鉄心4とスロット6内に配設される各相の固定子コイル5u〜5wとの間が絶縁されるようになっている。
【0011】
回転子3は、回転子鉄心7と、回転子鉄心7の内周側に設けられている回転軸8とを備えている。回転子鉄心7は、電磁鋼板からなる複数枚の円環状の鉄心材を積層して一体的に結着することで形成されていて、円筒状をなしている。回転子3は、固定子2の界磁空間に、その外周面と固定子2の内周面との間に僅かな隙間(エアギャップ)を隔てて配置され、固定子2に対して回転可能になっている。回転軸8は、回転子鉄心7を鉄心材の積層方向に貫いており、回転子鉄心7に固定されている。
【0012】
回転子鉄心7の外周部には、外周に向かうに従って対向距離が順次大となる一対の磁性体スロット9が複数対、例えば12対(12極)、周方向に一定の間隔を存して設けられていて、これらは回転子鉄心7を鉄心材の積層方向に貫いている。各磁性体スロット9には永久磁石10が挿入されている。一対の永久磁石10は、回転子鉄心7の外周側において極性(N極、S極)が交互に逆になるように配置され、永久磁石電動機1の磁極を形成している。
【0013】
図4は、U相の固定子コイル5uの等価回路を示している。U相コイル5uは、12個のコイルU1〜U12が直列に接続されたもので、このコイル列の一方の端子が電源入力端子Puに接続され、各他方の端子が中性点端子Nに接続されている。なお、V相コイル5v、W相コイル5wもU相コイル5uと同様の構成となっている。
【0014】
図5は、三相の固定子コイル5u,5v,5wの巻線構造の模式図を示している。U相コイル5u、V相コイル5v、W相コイル5wは、中性点端子Nを介してスター結線されている。そして、これらスター結線されたU相コイル5u、V相コイル5v、W相コイル5wの各一方の端子は、三相の電源入力端子Pu,Pv,Pwに接続されている。これらの電源入力端子Pu,Pv,Pwは、インバータ装置の各相出力端子に接続される。
【0015】
図1は、U相コイル5uにおける各コイルの接続構成を模式的に示す図で、図1に示すように、各コイルは渡り線を介して接続されている。U相コイル5uは、中性点端子Nを巻き始め端として巻装が開始され、コイルU12,U11,U10,U9,U8,U7,U6,U5,U4,U3,U2,U1の順に、交互に逆回りになるように巻回され、電源入力端子Puを巻き終わり端として巻装が終了される。
【0016】
図2は、U相コイル5uの配置及び接続構成を簡略的に示す図である。図2に示すように、12個の単位コイルU1〜U12が、周方向に隣接して固定子鉄心4の全周にわたって配置されて構成されている。なお、図3に示すように、V相コイル5vは、固定子鉄心4のスロット6に、U相コイル5uに対して右回りに4スロットずらして、上記したU相コイル5uと同様に各単位コイル間を渡り線で接続されて収納されている。また、W相コイル5wも、固定子鉄心4のスロット6に、V相コイル5vに対して右回りに4スロットずらして、上記したU相コイル5uと同様に各単位コイル間を渡り線で接続されて収納されている。
【0017】
各相の固定子コイル5u〜5wにおいて、異相間(U相とV相とのコイルエンド部間、V相とW相とのコイルエンド部間)は、図示しない相間絶縁紙により絶縁されている。これに対し、同相の各単位コイル間(例えばU相の場合、コイル列5uの各コイルU1〜U12の隣接するコイルエンド部間)は、各コイルを構成する導線のエナメル皮膜により絶縁されるようになっている。この場合、U相コイル5uにおいて、U相コイル5uとV相コイル5vとのコイルエンド部間の相間絶縁紙の一部を折り曲げて、この折曲部を単位コイルU1と単位コイルU12との間に同相間絶縁紙として挿入するとよい。他のV相コイル5v及びW相コイル5wについても同様である。
【0018】
そして、本実施形態では、図1に示すように、破線で囲んだ単位コイルU1のみ、エナメル皮膜(絶縁皮膜)の膜厚が、その他の単位コイルU2〜U12よりも厚くなるように設定されている。また、単位コイルU1(入力側単位コイル)については、エナメル皮膜の膜厚を厚くした分だけ、導体部分の断面積がその他の単位コイルU2〜U12よりも小さく設定されている。
【0019】
ここで、具体数値例を挙げると、コイルの導体径がφ0.80mmである場合に、コイルのワイヤを0種,1種
最少皮膜厚さ 最大仕上がり外形
0種 0.031mm φ0.914mm
1種 0.021mm φ0.882mm
の2種類用意する。そして、単位コイルU1については0種のワイヤを用いて、15本パラ,9ターンでスロット内のワイヤ数を135本とする。その他の単位コイルU2〜U12については1種のワイヤを用いて、16本パラ,9ターンでスロット内のワイヤ数を144本とする。すなわち、単位コイルU1は、スロット内のワイヤ数がその他の単位コイルU2〜U12よりも少なくすることで、導体部分の断面積がその他の単位コイルU2〜U12よりも小さくなっている。
【0020】
このように調整することで、各スロット6内に各単位コイルU1〜U12を収容できる。また、0種のワイヤについては、エナメル被膜の耐熱グレードが1種のワイヤよりも高いものを使用するのが好ましい。例えば、前者にはPEW(ポリエステルエナメル),後者にはAIW(ポリアミドイミドエナメル)などを選択する。
【0021】
図6は、永久磁石電動機1を走行駆動用の電動機とし、当該電動機1を駆動するシステムを搭載した電気自動車、あるいはハイブリッド車の構成概略的に示す機能ブロック図である。1000は自動車のシャーシであり、組電池パック400内には、図示しない組電池が単数あるいは複数組み込まれている。この電池パック400のプラス、マイナス電極は、インバータ装置を含み電圧を変換すると共に、運転指令を受けて出力電流・電圧のレベル制御及び位相制御などを行う電圧変換及び運転制御部500に接続されている。
【0022】
電圧変換及び運転制御部500の出力は、永久磁石電動機1に駆動電力として供給される。永久磁石電動機1の回転は、例えば差動ギアユニットを介して、駆動輪WR,WLに伝達される。電池管理基板300は、組電池の状態を管理すると共に通信を行うための回路(制御部、通信インターフェース、記憶部などを含む)が搭載されている。
【0023】
以上のように本実施形態によれば、各相の固定子コイル5u〜5wは、複数の単位コイル(U相;U1〜U12)を直列に接続してなるコイル列の一端が、インバータ装置より供給される交流電力が入力される電源入力端子Pu,Pv,PWに接続され、各相の電源入力端子に接続される入力側単位コイル(U相;U1)は、エナメル皮膜の膜厚が他の単位コイルよりも厚く設定され、且つ導体部分の断面積を他の単位コイル(U相;U2〜U12)よりも小さく設定した。これにより、入力側単位コイルに印加される高い電圧に対応して絶縁性を確保できる。また、入力側単位コイルは、エナメル皮膜の耐熱グレードを他の単位コイルよりも高く設定したので、高温に対する耐熱性をより向上させることができる。
【0024】
そして、上記のように構成される各相の固定子コイル5u〜5wを備えてなる固定子2と、回転子3とで永久磁石電動機1を構成し、固定子コイル5u〜5wに交流電力を供給するインバータ装置(電圧変換及び運転制御部500)とで駆動システムを構成し、当該駆動システムを備え、永久磁石電動機1が出力する駆動力により車両が駆動される電気自動車,或いはハイブリッド車を構成した。すなわち、電気自動車の走行駆動用に使用される永久磁石電動機1の固定子コイル5u〜5wには、インバータ装置を介して非常に高い電圧が印加されるので、入力側単位コイルに高い絶縁性を備えた永久磁石電動機1が好適である。
【0025】
[第2実施形態]
図7ないし図9は第2実施形態であり、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。第1実施例の各相固定子コイルは、各相毎に単位コイルが直列に接続されたものであるが(1Y結線)、第2実施形態の固定子コイルは、図7及び図8はU相について示すが、6個の単位コイルU1〜U6が直列に接続されたコイル列5u1と、6個の単位コイルU1’〜U6’が直列に接続されたコイル列5u2との2つのコイル列が並列に接続されている(2Y結線)。また、図9は図2相当図である。
【0026】
このような2Y結線の場合も、図7に破線で囲んだ部分を示すように、電源入力端子Puに直接接続される入力側単位コイルU1及びU1’については、エナメル皮膜の膜厚が、その他の単位コイルU2〜U6,U2’〜U6’よりも厚くなるように設定されており、且つ、エナメル皮膜の膜厚を厚くした分だけ、導体部分の断面積がその他の単位コイルU2〜U6,U2’〜U6’よりも小さく設定されている。このように構成される第2実施形態によれば、各相の固定子コイルが2Y結線される構成についても第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0027】
[第3実施形態]
図10及び図11は第3実施形態であり、第1実施形態と異なる部分のみ説明する。第3実施形態では、永久磁石電動機1に冷却装置100を組み合わせた構成を示す。図10に示すように、永久磁石電動機1は、回転軸8が水平方向(横軸)となるように、筐体12が設置されている。回転軸8は、回転子鉄心7を挟んだ両端部側がそれぞれ軸受部材(例えばベアリング)21により回転可能に支持されている。回転軸8は、一方の端部すなわち図示右方の端部が筐体12の外側に突出しており、図示しない駆動対象物を回転駆動する。回転軸8と突出側の筐体12との間は、図示しないパッキンなどにより水密且つ気密となるように構成されている。
【0028】
以下、図10に示すように、重力に沿った方向を上下として説明する。冷却装置100は、永久磁石電動機1の筐体12の上側に設けられている。すなわち、冷却装置100は、永久磁石電動機1が設置された状態において、固定子2よりも重力方向の上側に設けられている。冷却装置100は、蓋部30、壁部31および底部32を有する冷却液タンク33を備えている。これら蓋部30、壁部31および底部32は、貯留室34を形成しており、貯留室34は、冷却液としての冷却オイル35を貯留している。冷却液タンク33は、固定子鉄心4の両端部に形成されるコイルエンド17を含めた固定子2の軸方向の全長よりも長く形成されている。また、冷却液タンク33は、図2に示すように、その幅が回転子3の直径とほぼ同等または回転子3の直径よりも若干大きく形成されている。つまり、本実施形態の冷却液タンク33は、永久磁石電動機1の軸方向の全長とほぼ等しい長さを有し、永久磁石電動機1の上面側をほぼ覆う直方体形状に形成されている。換言すると、冷却液タンク33の底部32は、重力方向において貯留室34と固定子2との間に設けられている。
【0029】
冷却液タンク33の底部32には、複数の接続孔36が設けられている。各接続孔36は、コイルエンド17の上方に位置して設けられており、底部32の上面側と下面側すなわち貯留室34と冷却液タンク33の外側とを接続している。ここで、「接続孔」とは、本実施形態のように軸方向が長く形成された溝状のスリットや、円形状あるいは楕円形状の孔など他の形状も含んでいる。つまり、接続孔36は、貯留室34と冷却液タンク33の外部とを接続するものであれば、任意の形状にすることができる。
【0030】
一方、永久磁石電動機1の上側の筐体12には、冷却液タンク33の複数の接続孔36に対応する位置に複数の供給孔37が設けられている。この供給孔37は、接続孔36とほぼ同一の形状に形成され、筐体12の外部と固定子2が収容されている筐体12内の空間38とを接続している。より具体的には、供給孔37は、固定子2の上方を覆う筐体12の一部に設けられており、冷却液タンク33が設けられている側の筐体12の外部と、固定子2が設けられている筐体12の内部とを接続している。つまり、冷却液タンク33の貯留室34と筐体12内の空間38とは、接続孔36および供給孔37により互いに連通している。
【0031】
また、冷却液タンク33の壁部31には、貯留室34に接続する補給口39が設けられている。補給口39は、図11に示すように、循環ポンプ40に接続された補給管部41に接続している。補給管部41は、循環ポンプ40が駆動されると、貯留室34に冷却オイル35を補給する。また、筐体12内部の下部側には、下方に窪んだ冷却液溜まり42と、この冷却液溜まり42に接続する排出口43とが設けられている。排出口43は、排出管部44に接続しており、排出管部44は、排出口43と反対側の端部が循環ポンプ40に接続している。
【0032】
次に、冷却装置100の作用について説明する。永久磁石電動機1は、固定子コイル5u,5v,5wへの通電に伴い動作中に発熱することから、永久磁石電動機1の特性の悪化を抑制するためには永久磁石電動機1の冷却が重要になる。しかし、上記したような構成の永久磁石電動機1では、冷却対象となるコイルエンド17は、軸方向の両端部に形成されるとともに、固定子2の周方向の全域に形成される。したがって、コイルエンド17を冷却するため冷却剤を供給する配管を複数箇所に設けると、配管部材を設置する設置スペースが増大する。そして、この設置スペースの増大は、設置スペースが限られていることが多い車載用の永久磁石電動機1では問題となる。そこで、本実施形態の冷却装置100は、以下のようにして設置スペースの増大を抑制しつつ、永久磁石電動機1の冷却を行っている。
【0033】
冷却装置100は、冷却液タンク33の貯留室34に、例えば鉱油系のATF(Automatic Transmission Fluid)である冷却オイル35を貯留している。この冷却オイル35は、固定子コイル5の腐食や浸食を低減するため、例えば硫黄含有量が1%未満の低硫黄含有油を用いることが望ましい。固定子コイル5への通電に伴い発生した熱は、固定子2を介して筐体12に伝達され、永久磁石電動機1全体の温度を上昇させる。また、筐体12に伝達された熱は、冷却液タンク33の底部32を介して貯留室34内の冷却オイル35に伝達される。
【0034】
このとき、冷却オイル35は、上記したように冷却液タンク33が永久磁石電動機1の上面部をほぼ覆っていることから、永久磁石電動機1の上面部のほぼ全域において熱を吸収する。換言すると、冷却装置100の冷却液タンク33は、それ自体が固定子鉄心15やコイルエンド17を間接的に冷却する冷却器として機能する。これにより、冷却オイル35による熱の吸収、すなわち、永久磁石電動機1からの放熱が促される。
【0035】
また、冷却液タンク33は、コイルエンド17の上方に位置する底部32に接続孔36を有している。この接続孔36は、筐体12の供給孔37とともに、貯留室34と固定子2側の空間38とを接続している。そのため、貯留室34に貯留されている冷却オイル35は、これら接続孔36および供給孔37を経由して図中に矢印Aで示すようにコイルエンド17に供給される。
【0036】
このとき、冷却液タンク33が固定子2に対して重力方向の上側に設けられているので、冷却オイル35は、重力による自然滴下によってコイルエンド17に滴下する。そして、冷却オイル35は、コイルエンド17に供給される。すなわち、接続孔36と供給孔37とにより形成される経路すなわち冷却オイル35をコイルエンド17に供給するための供給経路は、重力方向に延びている。そして、各接続孔36からは、冷却オイル35の自重により均等に冷却オイル35が供給される。これにより、コイルエンド17は、ポンプなどの供給手段を用いることなく、重力による自然流下によって供給される冷却オイル35により直接的に冷却される。
【0037】
コイルエンド17に供給された冷却オイル35は、永久磁石電動機1の下部に設けられている冷却液溜まり42に一旦貯留される。そして、循環ポンプ40の駆動が開始されると、排出口43から排出され、排出管部44および補給管部41を経由して貯留室34に貯留される。冷却オイル35は、図示しない例えば空冷式のオイルクーラーなどにより冷却された後、貯留室34に貯留される。そして、再び貯留室24において永久磁石電動機1から発生した熱を吸収するとともに、接続孔36から滴下されてコイルエンド17を直接的に冷却する。このように、冷却装置100は、冷却オイル35を還流しながら、永久磁石電動機1の全体を冷却しつつ、コイルエンド17を直接的に冷却する。
【0038】
このように、永久磁石電動機1と冷却装置100とを組み合わせて使用する場合、冷却オイル35は、上方の冷却液タンク33より下方に位置する永久磁石電動機1に滴下されるので、固定子コイル5の冷却状態を想定すると、冷却液タンク33により近くなる上方に位置するものが冷却され易い。そこで、永久磁石電動機1を、図10に示すように、U,V,W相の入力側単位コイルが上方に位置するように配置する(図示は、単位コイルU1のみ)。これにより、各相の入力側単位コイルの冷却効率を向上させることができる。
【0039】
以上のように第3実施形態によれば、永久磁石電動機1における回転子3の回転軸8が水平方向に沿うように設置される際に、固定子コイル5を冷却するための冷却液を、固定子3の上方より供給する構造の冷却装置100を備え、固定子3を、入力側単位コイルU1が上方に位置するように配置する。したがって、入力側単位コイルU1の冷却を十分に行うことができる。
【0040】
[第4実施形態]
図12は第4実施形態であり、第3実施形態と異なる部分のみ説明する。第4実施形態では、第3実施形態のように永久磁石電動機1に冷却装置100を組み合わせる構成ではないが、永久磁石電動機1をやはり回転軸8が水平方向に沿うように配置する。そして、この場合、各相の入力側単位コイル(図示はU相対応のU1のみ)が下方に位置するように配置する。すなわち、筺体12の内部では、熱せられた空気が上方に移動するので、上方空間の温度が比較的高くなる。したがって、入力側単位コイルU1等を下方に配置すれば、熱の影響を受け難くすることができる。
【0041】
本実施形態によれば、複数の単位コイルが連結されてなる複数相の固定子コイルが固定子鉄心に巻装されるものにおいて、前記各相の固定子コイルは、複数の単位コイルを直列に接続してなるコイル列の一端がインバータ装置より供給される交流電力が入力される電源入力端子に接続され、前記各相の電源入力端子に接続される入力側単位コイルは、絶縁皮膜の膜厚が他の単位コイルよりも厚く設定され、且つ導体部分の断面積が他の単位コイルよりも小さく設定されるので、入力側単位コイルの絶縁性をより高めることができる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
上記実施形態では、12極の場合について述べたが、例えば、8極、16極など、磁極の数は適宜変更してよい。また、上記したように各単位コイルのターン数も適宜変更してよい。
第1実施形態で示した具体数値例はあくまでも一例であり、個別の設計に応じて適宜変更すれば良い。
入力側単位コイルのエナメル皮膜の耐熱グレードを、その他の単位コイルの耐熱グレードと同等にしても良い。
【0043】
また、絶縁皮膜は、エナメル以外の素材であっても良い。
第3実施形態において、固定子における各相の入力側単位コイルの実態配置によるが、例えばU相の入力側単位コイルU1を上方に位置させた場合に、V相,W相の入力側単位コイルが同様に上方側に配置できない場合は、それらを下方側に位置するように配置しても良い。このように構成すれば、V相,W相の入力側単位コイルについては、第4実施形態のように熱の影響を受け難くすることができる。
コイルにリッツ線を使用する場合、入力側単位コイルについては、その他の単位コイルよりも素線数を減らすことで、導体部分の断面積を他の単位コイルよりも小さくすれば良い。
【符号の説明】
【0044】
図面中、1は永久磁石電動機(回転電機)、2は固定子、3は回転子、4は固定子鉄心、5は固定子コイル、5uはU相コイル、5vはV相コイル、5wはW相コイル、5uはコイル列、U1〜U12は単位コイル、100は冷却装置、500は電圧変換及び運転制御部(インバータ装置)、Pu,Pv,Pwは電源入力端子、Nは中性点端子を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単位コイルが連結されてなる複数相の固定子コイルが固定子鉄心に巻装される回転電機の固定子において、
前記各相の固定子コイルは、複数の単位コイルを直列に接続してなるコイル列の一端が、インバータ装置より供給される交流電力が入力される電源入力端子に接続され、
前記各相の電源入力端子に接続される入力側単位コイルは、絶縁皮膜の膜厚が他の単位コイルよりも厚く設定され、且つ導体部分の断面積が他の単位コイルよりも小さく設定されていることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項2】
前記入力側単位コイルは、絶縁皮膜の耐熱グレードが他の単位コイルよりも高く設定されていることを特徴とする請求項1記載の回転電機の固定子。
【請求項3】
請求項1又は2記載の固定子と、
この固定子の界磁空間に配置された回転子とを備えたことを特徴とする回転電機。
【請求項4】
前記回転子の回転軸が水平方向に沿うように設置される際に、
前記固定子は、前記入力側単位コイルが下方に位置することを特徴とする請求項3記載の回転電機。
【請求項5】
前記回転子の回転軸が水平方向に沿うように設置される際に、
前記固定子コイルを冷却するための冷却液を、前記固定子の上方より供給する構造の冷却装置を備え、
前記固定子は、前記入力側単位コイルが上方に位置することを特徴とする請求項3記載の回転電機。
【請求項6】
請求項3ないし5の何れかに記載の回転電機と、
この回転電機の固定子コイルに交流電力を供給するインバータ装置とで構成されることを特徴とする回転電機の駆動システム。
【請求項7】
請求項6記載の回転電機の駆動システムを備え、
前記回転電機が出力する駆動力により車両が駆動されることを特徴とする電気自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−34289(P2013−34289A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168354(P2011−168354)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(500414800)東芝産業機器製造株式会社 (137)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】