回転電機
【課題】ダブルスター結線分布巻の回転電機固定子において、並列接続される結線間の循環電流の発生を抑制することである。
【解決手段】回転電機の固定子巻線は、予め定めた単位コイル間隔でコイル素線を巻回して形成される単位コイルをn個直列接続配置して形成される第1分布巻線部と、第1分布巻線部と予め定めた所定スロット間隔だけ離れているスロットを用いて、単位コイルをn個直列接続配置して形成される第2分布巻線部とを並列接続したダブルスター分布巻線である。ロータ30は、軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部32と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部34とを有し、第1ロータ部32の磁極中心位置と第2ロータ部34の磁極中心位置が、所定スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なる。
【解決手段】回転電機の固定子巻線は、予め定めた単位コイル間隔でコイル素線を巻回して形成される単位コイルをn個直列接続配置して形成される第1分布巻線部と、第1分布巻線部と予め定めた所定スロット間隔だけ離れているスロットを用いて、単位コイルをn個直列接続配置して形成される第2分布巻線部とを並列接続したダブルスター分布巻線である。ロータ30は、軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部32と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部34とを有し、第1ロータ部32の磁極中心位置と第2ロータ部34の磁極中心位置が、所定スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に係り、特に、各相コイルの結線をダブルスター結線とする回転電機固定子を用いる回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
三相回転電機における固定子巻線の配置方法として、各相巻線の一方端をそれぞれインバータ等の駆動回路に接続される動力線端子とし、各相巻線の他方端をそれぞれ相互に接続して中性点端子とするスター結線が知られている。また、スター結線の各相巻線のそれぞれについて、動力線端子と中性点端子の間に2つの巻線を並列接続するダブルスター結線も知られている。
【0003】
特許文献1には、ステータ鉄心の巻線方法として、各相コイルの結線をダブルスター結線とすることで、モータを駆動する際の印加電圧を低くできることが述べられている。ここでは、例えば、U相巻線として、同じスロットに一方のU相巻線と他方のU相巻線が配置されて、これらが並列接続され、一方のU相巻線も他方のU相巻線も、それぞれがステータの周方向に直列に接続された4つのU相コイルで構成されることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、セグメント順次接合ステータコイル型回転電機において、1つのスロットに複数の部分コイルを直列に接続したものを径方向直列コイルとして、3つの径方向直列コイルをそれぞれ異なるスロットに配置して、相互に並列接続する構成、すなわち、径方向直列、周方向並列の構成が述べられている。この場合、並列接続される3つの径方向直列コイルの起電力は互いに位相がスロット間隔分ずれるので、そのままでは、並列接続される3つの径方向直列コイルの間で起電力の差が生じ、循環電流が流れる。そこで、位相が進む部分コイルと位相が遅れる部分コイルとは互いに異なるスロットに配置されるが、径方向直列コイルは、スロットをまたいで、位相が進む部分コイルと位相が遅れる部分コイルとを組み合わせて直列接続することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−12974号公報
【特許文献2】特許第3815674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、固定子巻線において、スロットを異ならせて並列接続される3つの径方向直列コイルの間で循環電流が発生することを指摘している。特許文献2では、周方向並列接続、径方向直列接続である。分布巻を用いるダブルスター結線は、周方向直列、径方向並列であるが、径方向並列でスロットを異ならせると、同様に循環電流が発生することが予想される。
【0007】
本発明の目的は、分布巻を用いるダブルスター結線において、並列接続される結線間の循環電流の発生を抑制できる回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転電機は、周方向に沿って配置され、それぞれが径方向に延びる複数のスロットを有するステータコアと、予め定めたスロット間隔を単位コイル間隔として、単位コイル間隔でコイル素線を巻回して形成されるコイルを単位コイルとして、ステータコアの周方向の1周に単位コイルをn個直列接続配置して形成される第1分布巻線部と、第1分布巻き線部と予め定めた所定スロット間隔だけ離れている異なるスロットを用いて、ステータコアの周方向の1周に単位コイルをn個直列接続配置して形成される第2分布巻線部と、を並列接続されて形成される分布巻の各相巻線と、軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部と、を有するロータであって、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置が、所定スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なるロータと、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る回転電機において、第1分布巻線部は、単位コイル間隔を6スロットとして、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周にn個直列に接続配置して形成し、第2分布巻線部は、第1分布巻線部で用いたスロットの隣のスロットを用い、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周にn個直列に接続配置して形成し、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置は、ステータコアの周方向における1スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記構成により、回転電機における固定子の分布巻各相巻線は、それぞれ、第1分布巻線部と第2分布巻線部とが並列接続されているダブルスター結線で配置されている。ここで、第2分布巻き線部は、第2分布巻線部に用いられるスロットと、予め定めた所定スロット間隔だけ離れている異なるスロットを用いる。そして、ロータは、軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部とを有し、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置が、分布巻き各相巻線の第1分布巻線部と第2分布巻線部との間における所定スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なる。これによって、第1分布巻線部を構成する各単位コイルの鎖交磁束と、これに対応して所定スロット間隔だけ離れている第2分布巻線部を構成する各単位コイルの鎖交磁束とを同じにできる。したがって、回転電機が動作するとき、第1分布巻線部と第2分布巻線部との間で電圧差が生じず、循環電流が生じない。
【0011】
また、回転電機において、第2分布巻線部として、第1分布巻線部で用いたスロットの隣のスロットを用いるときは、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置は、ステータコアの周方向における1スロット間隔に相当する周方向距離だけ異ならせればよい。これによって、第1分布巻線部を構成する各単位コイルの鎖交磁束と、これに対応する第2分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束とを同じにできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】分布巻を用いる回転電機の固定子におけるスター結線とダブルスター結線を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の回転電機の固定子において、ダブルスター結線される分布巻の各相巻線の配置の様子を、U相分布巻線に代表させて説明する図である。
【図3】図2におけるU相分布巻線を抜き出して説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の回転電機のロータの構成を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の回転電機の固定子において、循環電流が発生することが予想されるが、基本となるU相分布巻線の並列接続される2つの巻線部の1つである第1分布巻線部の配置の様子を説明する図である。
【図6】図5の第1分布巻線部と並列接続される第2分布巻線部の配置の様子を説明する図である。
【図7】図5、図6をまとめて、本発明に係る実施の形態の回転電機の固定子において、基本となるU相分布巻線の配置の様子を模式的に説明する図である。
【図8】図7に対する等価回路図を用いて、並列接続されるU1コイルとU2コイルの間に循環電流が発生する様子を説明する図である。
【図9】図7において、回転電機が動作するときに各コイルに発生する起電力に基づく相間電圧の様子を説明する図である。
【図10】本発明に係る実施の形態の回転電機において、第1分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束と、第2分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束とが同じとなることを説明する模式図である。
【図11】従来のロータを用いるときに、第1分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束と、第2分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束とが異なることを説明する模式図である。
【図12】本発明に係る実施の形態の回転電機において、回転電機が動作するときに第1ロータ部によって生じる第1分布巻線部の電圧と第2分布巻線部の電圧の様子を説明する図である。
【図13】図12に対応して、第1ロータ部によって生じる第1分布巻線部の電圧と第2分布巻線部の電圧の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、回転電機として、車両に搭載される三相同期型回転電機を説明するが、車両搭載以外に用いられるものでもよい。以下では、回転電機固定子として、三相同期型回転電機を説明するが、分布巻コイルを含む固定子であればよく、三相に限らない。また、以下では、固定子が48スロットを有し、各相巻線がそれぞれ16の単位コイルで構成されるものとして説明するが、各相巻線を構成する単位コイルの数はこれ以外でもよく、それに応じたスロット数としてもよい。また、以下では、各単位コイルは、5回巻回されるものとして説明するが、勿論これは例示であって、これ以外の巻回数であっても構わない。
【0014】
また、以下では、ロータを永久磁石型として説明するが、リラクタンス型のロータであってもよい。例えば、突極を有するロータであってもよい。その場合の磁極中心は、リラクタンス型モータの構成によって定めることができる。なお、永久磁石型としては、表面永久磁石型を説明するが、埋め込み永久磁石型であってもよい。また、単位コイルC1と単位コイルC9の間のスロット差を1スロットとしたが、これは1つの例であって、必ずしも1スロット差でなく、予め定めた所定スロット差であっても構わない。その場合には、第1ロータ部の磁極中心位置と第2ロータ部の磁極中心位置との差は、所定スロット差に対応する大きさとなる。
【0015】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0016】
最初に、ダブルスター結線について説明する。図1は、三相同期型回転電機の固定子における各相巻線の結線の様子を説明する図で、(a)がスター結線、(b)がダブルスター結線である。スター結線では、各相巻線であるU相巻線、V相巻線、W相巻線の一方端を、それぞれインバータ等の駆動回路に接続される動力線端子PU,PV,PWとし、それぞれの他方端は中性点端子Nに接続される。各相巻線に分布巻を用いるスター結線では、各相巻線が複数のコイルの直列接続となる。図1(a)のスター結線で、各相巻線が複数の抵抗素子の直列接続として示されているのは、コイルの抵抗成分を図示したためであり、各抵抗素子がそれぞれコイルを表している。
【0017】
ダブルスター結線は、スター結線の各相巻線のそれぞれについて、動力線端子PU,PV,PWと中性点端子Nの間に2つの巻線を並列接続したものである。例えば、図1(b)のU相巻線は、動力線端子PUと中性点端子Nとの間に、U1とU2とが並列接続されている。U1,U2は、それぞれ複数のコイルを直列接続して構成される。ダブルスター結線は、例えば、回転電機の固定子に流せる最大電流を増やしたいとき等に用いられる。一例をあげると、回転電機の固定子の最大電流を2倍にしたいとき、コイルの導体線に流す電流密度を同じとすると、コイルの導体径を2倍としなければならない。この場合、太い導体線を用いることになるので、渦電流損失が増加し、また、巻線の加工性が低下する。ダブルスター結線を用いれば、同じ導体径のコイルを2組準備すれば足りるので、渦電流損失を抑制でき、コイルの加工性もそのまま維持できる。
【0018】
図2から図4は、車両搭載用の三相同期型回転電機を構成する回転電機固定子10と、ロータ30の様子を説明する図である。図2と図3は、回転電機固定子10を示し、図4は、回転電機固定子10の中心部に同軸に配置されるロータ30を示す図である。
【0019】
回転電機固定子10は、円環状の電磁鋼板を複数枚積層したステータコア12と、ステータコア12に巻回される分布巻の三相巻線とで構成される。図2では、分布巻の三相巻線のうちの1相分である分布巻のU相配線の様子が示されている。なお、以下では、分布巻のU相配線のことを、U相分布巻線20と呼ぶことにする。スロット14は、ステータコア12の円環状の内周側に開口し、径方向に延び、周方向に複数個配置される溝で、ここに分布巻形式で各相巻線が配置される。図2では、スロット14がステータコア12の周方向に沿って48個配置され、そのうちの16個にU相分布巻線20が配置されている。
【0020】
図3は、回転電機固定子10に配置されるU相分布巻線20を抜き出して示す図である。U相分布巻線20は、導体線であるコイル素線をほぼ6角形に巻回された単位コイル21がステータコア12の周方向に沿って16個配置されて構成される。図3でC1からC16と示してあるのは、16個の単位コイル21を区別するためのコイル番号である。
【0021】
図3から分かるように、単位コイルC1のすぐ隣に単位コイルC2が配置され、以下、C3,C4,C5,C6,C7,C8と順次隣り合わせに配置され、円周方向に1周する。また、単位コイルC9のすぐ隣に単位コイルC10が配置され、以下、C11,C12,C13,C14,C15,C16と順次隣り合わせに配置され、円周方向に1周する。
【0022】
各単位コイルは、図2に示されるように、6スロット間隔をおいて配置される2つのスロット14の間に巻回される。
【0023】
また、単位コイルC1が配置される他方側のスロット14と、単位コイルC2が配置される一方側のスロット14は同じスロット14である。同様に、単位コイルC2からC8の間では、コイル番号をiとして、i番コイルが配置される他方側のスロット14と、(i+1)番コイルが配置される一方側のスロット14は同じスロット14である。同様に、単位コイルC9からC16の間でも、コイル番号をiとして、i番コイルが配置される他方側のスロット14と、(i+1)番コイルが配置される一方側のスロット14は同じスロット14である。
【0024】
また、図2に示されるように、単位コイルC1と単位コイルC9とは1スロット分ずれている。同様に、コイル番号をiとして、i番コイルと(i+8)番コイルとは、1スロット分ずれている。
【0025】
ここで、単位コイルC1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8の8個を順次直列に接続し、図1で説明したU1コイルとし、単位コイルC9,C10,C11,C12,C13,C14,C15,C16の8個を順次直列に接続し、図1で説明したU2コイルとすることができる。この場合には、U1コイルを構成する各単位コイルと、U2コイルを構成する各単位コイルとは、1スロット分ずれているので、回転電機が動作すると、後に詳述するように、U1コイルとU2コイルの間に循環電流が発生する。
【0026】
図4は、循環電流の発生を抑制する構成を有するロータ30を示す図である。ここでは、軸方向を紙面の上下方向として配置したロータ30の斜視図と、ロータ30の軸方向の一方端部側を示す底面図と、他方端側を示す上面図が示されている。図4にXYZ方向を示したが、Z方向が軸方向である。ロータ30は、8個の永久磁石型の磁極を有し、図4では、NとSとで、N極の磁極領域とS極の磁極領域がそれぞれ示されている。8個のNとSの磁極は、回転電機固定子10のC1からC8の8個の単位コイル、あるいはC9からC16の8個の単位コイルに対応する。
【0027】
ロータ30は、通常に用いられるロータ構造と異なり、軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部32と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部34とを有する。第1ロータ部32の8個のNとSの磁極は、回転電機固定子10のC1からC8の8個の単位コイルに対応する。また、第2ロータ部34の8個のNとSの磁極は、回転電機固定子10のC9からC16の8個の単位コイルに対応する。この対応に応じて、第1
ロータ部32の周方向に沿った磁極中心位置と、第2ロータ部34の周方向に沿った磁極中心位置は、ΔPだけずれている。このΔPは、単位コイルC1と単位コイルC9との間の配置差である1スロット分である。
【0028】
このように、第1ロータ部32の磁極中心位置と第2ロータ部34の磁極中心位置とをΔP=1スロット分だけずらすことで、回転電機が動作したときに生じ得る循環電流を抑制できる。その説明の前に、通常のロータ構造、つまり、軸方向に沿って、一様に8個の磁極が形成され、ΔP=0の場合のロータ構造の場合に、循環電流が生じ得ることを説明する。
【0029】
U相分布巻線20のダブルスター結線では、C1からC8の単位コイル21が直列に接続され、またC9からC16の単位コイル21が直列に接続される。ここで、C1からC8の単位コイル21が直列に接続されたものを、第1分布巻線部U1とし、C9からC16の単位コイル21が直列に接続されたものを、第2分布巻線部U2と呼ぶことにする。なお、U相分布巻線20は、第1分布巻線部U1と第2分布巻線部U2とを、動力線端子PUと中性点端子Nとの間で並列接続したものである。
【0030】
図5は、第1分布巻線部U1における単位コイル21の巻回の様子を示す模式図で、図6は、第2分布巻線部U2における単位コイル21の巻回の様子を示す模式図である。
【0031】
ここでは、ステータコア12の平面図とその外側に各単位コイル21の間の接続の様子が模式的に示されている。なお、ステータコア12の48個のスロット14について、説明に必要な範囲でこれらを区別するためのスロット番号が付されている。図5、図6のステータコア12に付されているスロット番号は、記載するスペースが少ないため、単に数字の1から48のみが示されているが、以下では、スロット番号をS1からS48とSの記号を付して説明する。なお、以下で説明するスロット番号の付し方は一例であって、勿論、他の付し方であっても構わない。また、以下では、スロット14の符号14は、スロット番号と混同されることを避けるため、その表示を適宜省略した。同様に単位コイル21の符号21は、単位コイル番号と混同されることをさけるため、その表示を適宜省略した。
【0032】
分布巻の場合、予め定めたスロット間隔をまたいでコイル素線23が配置される。この予め定めたスロット間隔は、単位コイル21の6角形の外形を規定することになるので、これを単位コイル間隔26と呼ぶことにする。図5、図6の例では、単位コイル間隔26は、6スロット間隔となっている。すなわち、コイル素線23が単位コイル間隔26である6スロット間隔分だけまたいで、5回巻回されることで、1つの単位コイル21が形成される。
【0033】
図5において、単位コイルC1は、第1分布巻線部U1の巻き始めの単位コイルである。第1分布巻線部U1の巻き始めは、動力線端子PUに接続されるので、図5では、単位コイルC1の巻き始めがPUとして示される。
【0034】
巻き始めの単位コイルC1は、スロットS4とスロットS10との間に渡ってコイル素線23が5回巻回される。単位コイルC1の巻き始めは、スロットS4のステータコア12の外周側である。図5の紙面の表側をステータコア12の表側、図5の紙面の裏側をステータコア12の裏側とすると、コイル素線23は、単位コイルC1の巻き始めのスロットS4の位置からステータコア12の裏側に下がり、ステータコア12の裏側において、スロットS4からスロットS10に単位コイル間隔26だけ渡る。
【0035】
そして、スロットS10でステータコア12の裏側から表側に上がり、ステータコア12の表側において、スロットS10からスロットS4に単位コイル間隔26だけ渡る。スロットS4では、再び、ステータコア12の表側から裏側に下がる。そして、ステータコア12の裏側において、先ほどのスロットS4からスロットS10に渡ったコイル素線23と重ならないように、ステータコア12の内周側に位置をずらして、スロットS4からスロットS10へ、単位コイル間隔26だけ渡る。
【0036】
スロットS10では、再び、ステータコア12の裏側から表側に上がる。そして、ステータコア12の表側において、先ほどのスロットS10からスロットS4に渡ったコイル素線23と重ならないように、ステータコア12の内周側に位置をずらして、スロットS10からスロットS4へ、単位コイル間隔26だけ渡る。
【0037】
これを繰り返して、コイル素線23をスロットS4とスロットS10の間で5回巻回して、単位コイルC1の形成は終る。つまり、単位コイルC1は、ステータコア12の内周側から見ると、反時計方向に5回コイル素線23が巻回されて形成される。
【0038】
単位コイルC1の巻き終わりは、ステータコア12の最内周側で、裏側である。そして、コイル素線23は、ステータコア12の最内周側をスロットS4からスロットS10へ単位コイル間隔だけ渡り、スロットS10を上がり、ステータコア12の表側に出て単位コイルC2の巻き始めとなる。このように、スロットS10を共通として、単位コイルC1と単位コイルC2とが隣接して接続される。なお、図5では、単位コイル間の接続が分かりやすいように、コイル素線23の巻き方の方向を丸印の中に黒点マークとXマークとで示してある。黒点マークは、コイル素線23がステータコア12の表側から裏側へ出る場合、Xマークは、コイル素線23がステータコア12の裏側から表側へ出る場合をそれぞれ示す。
【0039】
単位コイルC2は、この巻き始めからステータコア12の表側において、スロットS10からスロットS16に単位コイル間隔26だけ渡る。スロットS16に渡った後は、スロットS16でステータコア12の表側から裏側に下がり、ステータコア12の裏側において、スロットS16からスロットS10に単位コイル間隔26だけ渡る。スロットS10では、再び、ステータコア12の裏側から表側に上がる。そして、ステータコア12の表側において、先ほどのスロットS10からスロットS16に渡ったコイル素線23と重ならないように、ステータコア12の外周側に位置をずらして、スロットS10からスロットS16へ、単位コイル間隔26だけ渡る。
【0040】
スロットS16では、再び、ステータコア12の表側から裏側に下がる。そして、ステータコア12の裏側において、先ほどのスロットS16からスロットS10に渡ったコイル素線23と重ならないように、ステータコア12の外周側に位置をずらして、スロットS16からスロットS10へ、単位コイル間隔26だけ渡る。
【0041】
これを繰り返して、コイル素線23をスロットS10とスロットS16の間で5回巻回して、単位コイルC2の形成は終る。つまり、単位コイルC2は、ステータコア12の内周側から見ると、単位コイルC1と異なり、時計方向に5回コイル素線23が巻回されて形成される。
【0042】
以後、さらに、同様な巻回が単位コイルC3から単位コイルC8について繰り返される。巻き方は、単位コイルC3、単位コイルC5、単位コイルC7が単位コイルC1と同じ反時計方向で、単位コイルC4、単位コイルC6、単位コイルC8が単位コイルC2と同じ時計方向である。そして、単位コイルC8の巻き終わりがステータコア12の最外周側でスロットS46から表側に出て、これが中性点端子Nに接続される。このようにして、第1分布巻線部U1の形成が終了する。
【0043】
図6は、第2分布巻線部U2の巻回の順序を示す図である。ここでは、図5と同様に、動力線端子PUが単位コイルC9の巻き始めとなる。単位コイルC9は、単位コイルC1から1スロット分ずれて、スロットS3とスロットS9との間に渡ってコイル素線23が5回巻回される。巻き方は、第1分布巻線部U1の単位コイルC1と同じように、反時計方向である。単位コイルC9の巻き終わりは、ステータコア12の最内周側で、裏側である。そして、コイル素線23は、ステータコア12の最内周側をスロットS3からスロットS9へ単位コイル間隔だけ渡り、スロットS9を上がり、ステータコア12の表側に出て単位コイルC10の巻き始めとなる。このようにして、単位コイルC9と単位コイルC10とが隣接して接続される。
【0044】
以後、図5で説明したのと同様な手順が、1スロット分ずらして行われ、同様な巻回が単位コイルC10から単位コイルC16まで繰り返される。そして、単位コイルC16の巻き終わりがステータコア12の最外周側でスロットS45から表側に出たところとなる。これが第2分布巻線部U2の巻き終わりで、中性点端子Nに接続される。
このように、単位コイル間隔を6スロットとして、第1分布巻線部U1は、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周に8個直列に接続配置して形成される。また、第2分布巻線部U2は、第1分布巻線部U1で用いたスロットの隣のスロットを用い、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周に8個直列に接続配置して形成される。
【0045】
図7は、図5、図6をまとめて、U相分布巻線20における単位コイル21の配置の様子を模式的に説明する図である。ここでは、ステータコア12におけるスロット14の内周側に、第1分布巻線部U1の単位コイルC1から単位コイルC8までを、実線でそれぞれ示した。また、スロット14の外周側に、第2分布巻線部U2の単位コイルC9から単位コイルC16までを、破線でそれぞれ示した。
【0046】
第1分布巻線部U1を構成する8個の単位コイルのそれぞれは、対応する8個の第2分布巻線部U2の単位コイルのそれぞれと、互いに1スロット間隔だけずらして配置される。周方向に沿って磁極が配置される通常の構造の回転子を用いるとして、その1スロット間隔のずれが、回転電機が動作するときに、回転子の磁極によって第1分布巻線部U1の単位コイルに発生する起電力と、第2分布巻線部U2の単位コイルに発生する起電力との間に差を生じさせる。具体的には、起電力の発生タイミングが、1スロット分ずれる。起電力が電気角によって変動するものであると、対応する第1分布巻線部U1の単位コイル21と第2分布巻線部U2の単位コイル21との間に起電力の差が生じる。
【0047】
図8は、U相分布巻線20の等価回路図である。上記のように、U相分布巻線20は、単位コイルC1から単位コイルC8を直列に接続した第1分布巻線部U1と、単位コイルC9から単位コイルC16を直列に接続した第2分布巻線部U2を、動力線端子PUと中性点端子Nとの間に並列接続したものである。第1分布巻線部U1を構成する各単位コイルと、第2分布巻線部U2を構成する各単位コイルとは、互いに1スロット間隔だけずらして配置される。そこで、回転電機が動作するときに発生する起電力の差によって、第1分布巻線部U1と第2分布巻線部U2との間に電圧差が生じる。そして、その電圧差によって、第1分布巻線部U1と第2分布巻線部U2との間に、図8の矢印で示すように、循環電流が発生する。
【0048】
図9は、回転電機の電気角と、U相分布巻線20の相間電圧の関係を示す図である。相間電圧としては、第1分布巻線部U1のPUとNの間の電圧、第2分布巻線部U2のPUとNの間の電圧、およびこれらの間の電圧差が示されている。この電圧差が、循環電流の原因となる電圧差である。電圧差は、電気角によって変動し、プラス側の電圧差とマイナス側の電圧差がある。図8の循環電流の矢印の方向は、第2分布巻線部U2の電圧が第1分布巻線部U1の電圧より高い場合である。
【0049】
上記で、U相分布巻線20の構成と、その構成において循環電流が発生することの説明を行ったので、次に、図4で説明した構成のロータ30によって循環電流が抑制できることを説明する。
【0050】
図10は、比較のために、従来構造のロータ、つまり、軸方向に一様な磁極を有し、ΔP=0の場合のロータを用いたときの第1分布巻線部U1の単位コイルにおける鎖交磁束と、第2分布巻線部U2の単位コイルにおける鎖交磁束の様子を説明する図である。図10の中段の図は、従来構造のロータ36の一部を示す図である。図10の上段と下段には、第2分布巻線部U2の単位コイルC9の中心位置がロータ36のN極の中心位置と合ったときの様子が示されている。この状態は、図9で説明した電気角が90°または270°に相当する。
【0051】
このとき、第1分布巻線部U1の単位コイルC1の中心位置は、第2分布巻線部U2の単位コイルC9の中心位置と1スロット分ずれている。この1スロット分のずれは、図4で説明したロータ30の第1ロータ部32の磁極の中心位置と第2ロータ部34の磁極の中心位置との差であるΔPと同じである。そこで、図10では、ロータ30との比較がしやすいように、この1スロット分のずれをΔPとして示した。
【0052】
図10から分かるように、第2分布巻線部U2の単位コイルC9についてのN極からの鎖交磁束は、ロータ36のN極領域の全体からの分である。これに対し、第1分布巻線部U1の単位コイルC1についてのN極からの鎖交磁束は、ロータ36のN極領域の全体からΔPの分を差し引いた分である。つまり、第1分布巻線部U1の単位コイルC1についてのN極からの鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC9についてのN極からの鎖交磁束よりも少ない。
【0053】
図10には、第1分布巻線部U1の単位コイルC2と、第2分布巻線部U2の単位コイルC10の様子も示されている。第2分布巻線部U2の単位コイルC10についてのS極からの鎖交磁束は、ロータ36のS極領域の全体からの分である。これに対し、第1分布巻線部U1の単位コイルC2についてのS極からの鎖交磁束は、ロータ36のS極領域の全体からΔPの分を差し引いた分である。つまり、第1分布巻線部U1の単位コイルC2についてのS極からの鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC10についてのS極からの鎖交磁束よりも少ない。
【0054】
図11は、第1分布巻線部U1の単位コイルにおける鎖交磁束と、第2分布巻線部U2の単位コイルにおける鎖交磁束の様子を説明する図である。図11の中段の図は、ロータ30の一部を示す図である。第1ロータ部32と第2ロータ部34の磁極の中心位置はΔPだけずれている。このΔPは、第1分布巻線部U1の単位コイルC1と第2分布巻線部の単位コイルC9との間における配置差である1スロット分と同じである。図11の上段と下段には、第1分布巻線部U1の単位コイルC1の中心位置が第1ロータ部32のN極の中心位置と合い、第2分布巻線部U2の単位コイルC9の中心位置が第2ロータ部34のN極の中心位置と合ったときの様子が示されている。この状態は、図10の状態と同様に、図9で説明した電気角が90°または270°に相当する。
【0055】
図11から分かるように、第1分布巻線部U1の単位コイルC1についてのN極からの鎖交磁束は、第1ロータ部32のN極領域の全体からの分と、第2ロータ部34のN極領域の全体からΔPの分を差し引いた分との和である。また、第2分布巻線部U2の単位コイルC9についてのN極からの鎖交磁束は、第1ロータ部32のN極領域の全体からΔPの分を差し引いた分と、第2ロータ部34のN極領域の全体からの分との和である。したがって、第1分布巻線部U1の単位コイルC1についてのN極からの鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC9についてのN極からの鎖交磁束と同じである。
【0056】
図11には、第1分布巻線部U1の単位コイルC2と、第2分布巻線部U2の単位コイルC10の様子も示されている。第1分布巻線部U1の単位コイルC2についてのS極からの鎖交磁束は、第1ロータ部32のS極領域の全体からの分と、第2ロータ部34のS極領域の全体からΔPの分を差し引いた分との和である。また、第2分布巻線部U2の単位コイルC10についてのS極からの鎖交磁束は、第1ロータ部32のS極領域の全体からΔPの分を差し引いた分と、第2ロータ部34のS極領域の全体からの分との和である。したがって、第1分布巻線部U1の単位コイルC2についてのS極からの鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC10についてのS極からの鎖交磁束と同じである。
【0057】
図11において、第1ロータ部32について見ると、第1分布巻線部U1の単位コイルC1または単位コイルC2における鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC9または単位コイルC10における鎖交磁束よりも先に最大値になっている。つまり、第1ロータ部32では、鎖交磁束の変化について、第1分布巻線部U1の単位コイルの方が第2分布巻線部U2の単位コイルよりも位相が進んでいる。
【0058】
これに対し、第2ロータ部34においては、第2分布巻線部U2の単位コイルC9または単位コイルC10における鎖交磁束の方が、第1分布巻線部U1の単位コイルC1または単位コイルC2における鎖交磁束よりも先に最大値になっている。つまり、第2ロータ部34では、鎖交磁束の変化について、第2分布巻線部U2の単位コイルの方が第1分布巻線部U1の単位コイルよりも位相が進んでいる。
【0059】
その様子を図12、図13に示す。図12、図13は、図9と同様の図で、横軸に電気角、縦軸に相間電圧がとられている。相間電圧としては、第1分布巻線部U1の電圧と、第2分布巻線部U2の電圧と、第1分布巻線部U1の電圧と第2分布巻線部U2の電圧の間の電圧差が示されている。第1分布巻線部U1の電圧は、第1分布巻線部U1を構成する単位コイルの鎖交磁束の大きさに比例し、第2分布巻線部U2の電圧は、第2分布巻線部U2を構成する単位コイルの鎖交磁束の大きさに比例する。
【0060】
図12から分かるように、第1ロータ部32においては、第1分布巻線部U1の電圧の方が、第2分布巻線部U2の電圧よりも位相が進んでいる。また、図13から分かるように、第2ロータ部34においては、第2分布巻線部U2の電圧の方が、第1分布巻線部U1の電圧よりも位相が進んでいる。
【0061】
また、図13に示される第2分布巻線部U2の電圧と第1分布巻線部U1の電圧の間の電圧差と、図12に示される第1分布巻線部U1の電圧と第2分布巻線部U2の電圧の間の電圧差とは、電気角に対し、同じ波形となっている。すなわち、第1ロータ部32による電圧差と、第2ロータ部34による電圧差は、符号が逆で大きさが同じである。これによって、第1ロータ部32による第1分布巻線部U1の電圧と第2分布巻線部U2の電圧の間の電圧差と、第2ロータ部34による第1分布巻線部U1の電圧と第2分布巻線部U2の電圧の間の電圧差とは、互いに打消し合う。したがって、第1分布巻線部U1と第2分布巻線部U2の間に、循環電流が生じない。
【0062】
このようにして、図7で説明したU相分布巻線20に、図4で説明した構成のロータ30を組み合わせることで、ダブルスター分布巻結線における循環電流の発生を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る回転電機固定子は、ダブルスター結線の分布巻固定子を用いる回転電機に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
10 回転電機固定子、12 ステータコア、14 スロット、20 U相分布巻線、21 単位コイル、23 コイル素線、26 単位コイル間隔、30,36 ロータ、32 第1ロータ部、34 第2ロータ部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に係り、特に、各相コイルの結線をダブルスター結線とする回転電機固定子を用いる回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
三相回転電機における固定子巻線の配置方法として、各相巻線の一方端をそれぞれインバータ等の駆動回路に接続される動力線端子とし、各相巻線の他方端をそれぞれ相互に接続して中性点端子とするスター結線が知られている。また、スター結線の各相巻線のそれぞれについて、動力線端子と中性点端子の間に2つの巻線を並列接続するダブルスター結線も知られている。
【0003】
特許文献1には、ステータ鉄心の巻線方法として、各相コイルの結線をダブルスター結線とすることで、モータを駆動する際の印加電圧を低くできることが述べられている。ここでは、例えば、U相巻線として、同じスロットに一方のU相巻線と他方のU相巻線が配置されて、これらが並列接続され、一方のU相巻線も他方のU相巻線も、それぞれがステータの周方向に直列に接続された4つのU相コイルで構成されることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、セグメント順次接合ステータコイル型回転電機において、1つのスロットに複数の部分コイルを直列に接続したものを径方向直列コイルとして、3つの径方向直列コイルをそれぞれ異なるスロットに配置して、相互に並列接続する構成、すなわち、径方向直列、周方向並列の構成が述べられている。この場合、並列接続される3つの径方向直列コイルの起電力は互いに位相がスロット間隔分ずれるので、そのままでは、並列接続される3つの径方向直列コイルの間で起電力の差が生じ、循環電流が流れる。そこで、位相が進む部分コイルと位相が遅れる部分コイルとは互いに異なるスロットに配置されるが、径方向直列コイルは、スロットをまたいで、位相が進む部分コイルと位相が遅れる部分コイルとを組み合わせて直列接続することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−12974号公報
【特許文献2】特許第3815674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2では、固定子巻線において、スロットを異ならせて並列接続される3つの径方向直列コイルの間で循環電流が発生することを指摘している。特許文献2では、周方向並列接続、径方向直列接続である。分布巻を用いるダブルスター結線は、周方向直列、径方向並列であるが、径方向並列でスロットを異ならせると、同様に循環電流が発生することが予想される。
【0007】
本発明の目的は、分布巻を用いるダブルスター結線において、並列接続される結線間の循環電流の発生を抑制できる回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転電機は、周方向に沿って配置され、それぞれが径方向に延びる複数のスロットを有するステータコアと、予め定めたスロット間隔を単位コイル間隔として、単位コイル間隔でコイル素線を巻回して形成されるコイルを単位コイルとして、ステータコアの周方向の1周に単位コイルをn個直列接続配置して形成される第1分布巻線部と、第1分布巻き線部と予め定めた所定スロット間隔だけ離れている異なるスロットを用いて、ステータコアの周方向の1周に単位コイルをn個直列接続配置して形成される第2分布巻線部と、を並列接続されて形成される分布巻の各相巻線と、軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部と、を有するロータであって、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置が、所定スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なるロータと、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る回転電機において、第1分布巻線部は、単位コイル間隔を6スロットとして、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周にn個直列に接続配置して形成し、第2分布巻線部は、第1分布巻線部で用いたスロットの隣のスロットを用い、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周にn個直列に接続配置して形成し、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置は、ステータコアの周方向における1スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
上記構成により、回転電機における固定子の分布巻各相巻線は、それぞれ、第1分布巻線部と第2分布巻線部とが並列接続されているダブルスター結線で配置されている。ここで、第2分布巻き線部は、第2分布巻線部に用いられるスロットと、予め定めた所定スロット間隔だけ離れている異なるスロットを用いる。そして、ロータは、軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部とを有し、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置が、分布巻き各相巻線の第1分布巻線部と第2分布巻線部との間における所定スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なる。これによって、第1分布巻線部を構成する各単位コイルの鎖交磁束と、これに対応して所定スロット間隔だけ離れている第2分布巻線部を構成する各単位コイルの鎖交磁束とを同じにできる。したがって、回転電機が動作するとき、第1分布巻線部と第2分布巻線部との間で電圧差が生じず、循環電流が生じない。
【0011】
また、回転電機において、第2分布巻線部として、第1分布巻線部で用いたスロットの隣のスロットを用いるときは、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置は、ステータコアの周方向における1スロット間隔に相当する周方向距離だけ異ならせればよい。これによって、第1分布巻線部を構成する各単位コイルの鎖交磁束と、これに対応する第2分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束とを同じにできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】分布巻を用いる回転電機の固定子におけるスター結線とダブルスター結線を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の回転電機の固定子において、ダブルスター結線される分布巻の各相巻線の配置の様子を、U相分布巻線に代表させて説明する図である。
【図3】図2におけるU相分布巻線を抜き出して説明する図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の回転電機のロータの構成を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の回転電機の固定子において、循環電流が発生することが予想されるが、基本となるU相分布巻線の並列接続される2つの巻線部の1つである第1分布巻線部の配置の様子を説明する図である。
【図6】図5の第1分布巻線部と並列接続される第2分布巻線部の配置の様子を説明する図である。
【図7】図5、図6をまとめて、本発明に係る実施の形態の回転電機の固定子において、基本となるU相分布巻線の配置の様子を模式的に説明する図である。
【図8】図7に対する等価回路図を用いて、並列接続されるU1コイルとU2コイルの間に循環電流が発生する様子を説明する図である。
【図9】図7において、回転電機が動作するときに各コイルに発生する起電力に基づく相間電圧の様子を説明する図である。
【図10】本発明に係る実施の形態の回転電機において、第1分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束と、第2分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束とが同じとなることを説明する模式図である。
【図11】従来のロータを用いるときに、第1分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束と、第2分布巻線部の単位コイルの鎖交磁束とが異なることを説明する模式図である。
【図12】本発明に係る実施の形態の回転電機において、回転電機が動作するときに第1ロータ部によって生じる第1分布巻線部の電圧と第2分布巻線部の電圧の様子を説明する図である。
【図13】図12に対応して、第1ロータ部によって生じる第1分布巻線部の電圧と第2分布巻線部の電圧の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、回転電機として、車両に搭載される三相同期型回転電機を説明するが、車両搭載以外に用いられるものでもよい。以下では、回転電機固定子として、三相同期型回転電機を説明するが、分布巻コイルを含む固定子であればよく、三相に限らない。また、以下では、固定子が48スロットを有し、各相巻線がそれぞれ16の単位コイルで構成されるものとして説明するが、各相巻線を構成する単位コイルの数はこれ以外でもよく、それに応じたスロット数としてもよい。また、以下では、各単位コイルは、5回巻回されるものとして説明するが、勿論これは例示であって、これ以外の巻回数であっても構わない。
【0014】
また、以下では、ロータを永久磁石型として説明するが、リラクタンス型のロータであってもよい。例えば、突極を有するロータであってもよい。その場合の磁極中心は、リラクタンス型モータの構成によって定めることができる。なお、永久磁石型としては、表面永久磁石型を説明するが、埋め込み永久磁石型であってもよい。また、単位コイルC1と単位コイルC9の間のスロット差を1スロットとしたが、これは1つの例であって、必ずしも1スロット差でなく、予め定めた所定スロット差であっても構わない。その場合には、第1ロータ部の磁極中心位置と第2ロータ部の磁極中心位置との差は、所定スロット差に対応する大きさとなる。
【0015】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0016】
最初に、ダブルスター結線について説明する。図1は、三相同期型回転電機の固定子における各相巻線の結線の様子を説明する図で、(a)がスター結線、(b)がダブルスター結線である。スター結線では、各相巻線であるU相巻線、V相巻線、W相巻線の一方端を、それぞれインバータ等の駆動回路に接続される動力線端子PU,PV,PWとし、それぞれの他方端は中性点端子Nに接続される。各相巻線に分布巻を用いるスター結線では、各相巻線が複数のコイルの直列接続となる。図1(a)のスター結線で、各相巻線が複数の抵抗素子の直列接続として示されているのは、コイルの抵抗成分を図示したためであり、各抵抗素子がそれぞれコイルを表している。
【0017】
ダブルスター結線は、スター結線の各相巻線のそれぞれについて、動力線端子PU,PV,PWと中性点端子Nの間に2つの巻線を並列接続したものである。例えば、図1(b)のU相巻線は、動力線端子PUと中性点端子Nとの間に、U1とU2とが並列接続されている。U1,U2は、それぞれ複数のコイルを直列接続して構成される。ダブルスター結線は、例えば、回転電機の固定子に流せる最大電流を増やしたいとき等に用いられる。一例をあげると、回転電機の固定子の最大電流を2倍にしたいとき、コイルの導体線に流す電流密度を同じとすると、コイルの導体径を2倍としなければならない。この場合、太い導体線を用いることになるので、渦電流損失が増加し、また、巻線の加工性が低下する。ダブルスター結線を用いれば、同じ導体径のコイルを2組準備すれば足りるので、渦電流損失を抑制でき、コイルの加工性もそのまま維持できる。
【0018】
図2から図4は、車両搭載用の三相同期型回転電機を構成する回転電機固定子10と、ロータ30の様子を説明する図である。図2と図3は、回転電機固定子10を示し、図4は、回転電機固定子10の中心部に同軸に配置されるロータ30を示す図である。
【0019】
回転電機固定子10は、円環状の電磁鋼板を複数枚積層したステータコア12と、ステータコア12に巻回される分布巻の三相巻線とで構成される。図2では、分布巻の三相巻線のうちの1相分である分布巻のU相配線の様子が示されている。なお、以下では、分布巻のU相配線のことを、U相分布巻線20と呼ぶことにする。スロット14は、ステータコア12の円環状の内周側に開口し、径方向に延び、周方向に複数個配置される溝で、ここに分布巻形式で各相巻線が配置される。図2では、スロット14がステータコア12の周方向に沿って48個配置され、そのうちの16個にU相分布巻線20が配置されている。
【0020】
図3は、回転電機固定子10に配置されるU相分布巻線20を抜き出して示す図である。U相分布巻線20は、導体線であるコイル素線をほぼ6角形に巻回された単位コイル21がステータコア12の周方向に沿って16個配置されて構成される。図3でC1からC16と示してあるのは、16個の単位コイル21を区別するためのコイル番号である。
【0021】
図3から分かるように、単位コイルC1のすぐ隣に単位コイルC2が配置され、以下、C3,C4,C5,C6,C7,C8と順次隣り合わせに配置され、円周方向に1周する。また、単位コイルC9のすぐ隣に単位コイルC10が配置され、以下、C11,C12,C13,C14,C15,C16と順次隣り合わせに配置され、円周方向に1周する。
【0022】
各単位コイルは、図2に示されるように、6スロット間隔をおいて配置される2つのスロット14の間に巻回される。
【0023】
また、単位コイルC1が配置される他方側のスロット14と、単位コイルC2が配置される一方側のスロット14は同じスロット14である。同様に、単位コイルC2からC8の間では、コイル番号をiとして、i番コイルが配置される他方側のスロット14と、(i+1)番コイルが配置される一方側のスロット14は同じスロット14である。同様に、単位コイルC9からC16の間でも、コイル番号をiとして、i番コイルが配置される他方側のスロット14と、(i+1)番コイルが配置される一方側のスロット14は同じスロット14である。
【0024】
また、図2に示されるように、単位コイルC1と単位コイルC9とは1スロット分ずれている。同様に、コイル番号をiとして、i番コイルと(i+8)番コイルとは、1スロット分ずれている。
【0025】
ここで、単位コイルC1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8の8個を順次直列に接続し、図1で説明したU1コイルとし、単位コイルC9,C10,C11,C12,C13,C14,C15,C16の8個を順次直列に接続し、図1で説明したU2コイルとすることができる。この場合には、U1コイルを構成する各単位コイルと、U2コイルを構成する各単位コイルとは、1スロット分ずれているので、回転電機が動作すると、後に詳述するように、U1コイルとU2コイルの間に循環電流が発生する。
【0026】
図4は、循環電流の発生を抑制する構成を有するロータ30を示す図である。ここでは、軸方向を紙面の上下方向として配置したロータ30の斜視図と、ロータ30の軸方向の一方端部側を示す底面図と、他方端側を示す上面図が示されている。図4にXYZ方向を示したが、Z方向が軸方向である。ロータ30は、8個の永久磁石型の磁極を有し、図4では、NとSとで、N極の磁極領域とS極の磁極領域がそれぞれ示されている。8個のNとSの磁極は、回転電機固定子10のC1からC8の8個の単位コイル、あるいはC9からC16の8個の単位コイルに対応する。
【0027】
ロータ30は、通常に用いられるロータ構造と異なり、軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部32と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部34とを有する。第1ロータ部32の8個のNとSの磁極は、回転電機固定子10のC1からC8の8個の単位コイルに対応する。また、第2ロータ部34の8個のNとSの磁極は、回転電機固定子10のC9からC16の8個の単位コイルに対応する。この対応に応じて、第1
ロータ部32の周方向に沿った磁極中心位置と、第2ロータ部34の周方向に沿った磁極中心位置は、ΔPだけずれている。このΔPは、単位コイルC1と単位コイルC9との間の配置差である1スロット分である。
【0028】
このように、第1ロータ部32の磁極中心位置と第2ロータ部34の磁極中心位置とをΔP=1スロット分だけずらすことで、回転電機が動作したときに生じ得る循環電流を抑制できる。その説明の前に、通常のロータ構造、つまり、軸方向に沿って、一様に8個の磁極が形成され、ΔP=0の場合のロータ構造の場合に、循環電流が生じ得ることを説明する。
【0029】
U相分布巻線20のダブルスター結線では、C1からC8の単位コイル21が直列に接続され、またC9からC16の単位コイル21が直列に接続される。ここで、C1からC8の単位コイル21が直列に接続されたものを、第1分布巻線部U1とし、C9からC16の単位コイル21が直列に接続されたものを、第2分布巻線部U2と呼ぶことにする。なお、U相分布巻線20は、第1分布巻線部U1と第2分布巻線部U2とを、動力線端子PUと中性点端子Nとの間で並列接続したものである。
【0030】
図5は、第1分布巻線部U1における単位コイル21の巻回の様子を示す模式図で、図6は、第2分布巻線部U2における単位コイル21の巻回の様子を示す模式図である。
【0031】
ここでは、ステータコア12の平面図とその外側に各単位コイル21の間の接続の様子が模式的に示されている。なお、ステータコア12の48個のスロット14について、説明に必要な範囲でこれらを区別するためのスロット番号が付されている。図5、図6のステータコア12に付されているスロット番号は、記載するスペースが少ないため、単に数字の1から48のみが示されているが、以下では、スロット番号をS1からS48とSの記号を付して説明する。なお、以下で説明するスロット番号の付し方は一例であって、勿論、他の付し方であっても構わない。また、以下では、スロット14の符号14は、スロット番号と混同されることを避けるため、その表示を適宜省略した。同様に単位コイル21の符号21は、単位コイル番号と混同されることをさけるため、その表示を適宜省略した。
【0032】
分布巻の場合、予め定めたスロット間隔をまたいでコイル素線23が配置される。この予め定めたスロット間隔は、単位コイル21の6角形の外形を規定することになるので、これを単位コイル間隔26と呼ぶことにする。図5、図6の例では、単位コイル間隔26は、6スロット間隔となっている。すなわち、コイル素線23が単位コイル間隔26である6スロット間隔分だけまたいで、5回巻回されることで、1つの単位コイル21が形成される。
【0033】
図5において、単位コイルC1は、第1分布巻線部U1の巻き始めの単位コイルである。第1分布巻線部U1の巻き始めは、動力線端子PUに接続されるので、図5では、単位コイルC1の巻き始めがPUとして示される。
【0034】
巻き始めの単位コイルC1は、スロットS4とスロットS10との間に渡ってコイル素線23が5回巻回される。単位コイルC1の巻き始めは、スロットS4のステータコア12の外周側である。図5の紙面の表側をステータコア12の表側、図5の紙面の裏側をステータコア12の裏側とすると、コイル素線23は、単位コイルC1の巻き始めのスロットS4の位置からステータコア12の裏側に下がり、ステータコア12の裏側において、スロットS4からスロットS10に単位コイル間隔26だけ渡る。
【0035】
そして、スロットS10でステータコア12の裏側から表側に上がり、ステータコア12の表側において、スロットS10からスロットS4に単位コイル間隔26だけ渡る。スロットS4では、再び、ステータコア12の表側から裏側に下がる。そして、ステータコア12の裏側において、先ほどのスロットS4からスロットS10に渡ったコイル素線23と重ならないように、ステータコア12の内周側に位置をずらして、スロットS4からスロットS10へ、単位コイル間隔26だけ渡る。
【0036】
スロットS10では、再び、ステータコア12の裏側から表側に上がる。そして、ステータコア12の表側において、先ほどのスロットS10からスロットS4に渡ったコイル素線23と重ならないように、ステータコア12の内周側に位置をずらして、スロットS10からスロットS4へ、単位コイル間隔26だけ渡る。
【0037】
これを繰り返して、コイル素線23をスロットS4とスロットS10の間で5回巻回して、単位コイルC1の形成は終る。つまり、単位コイルC1は、ステータコア12の内周側から見ると、反時計方向に5回コイル素線23が巻回されて形成される。
【0038】
単位コイルC1の巻き終わりは、ステータコア12の最内周側で、裏側である。そして、コイル素線23は、ステータコア12の最内周側をスロットS4からスロットS10へ単位コイル間隔だけ渡り、スロットS10を上がり、ステータコア12の表側に出て単位コイルC2の巻き始めとなる。このように、スロットS10を共通として、単位コイルC1と単位コイルC2とが隣接して接続される。なお、図5では、単位コイル間の接続が分かりやすいように、コイル素線23の巻き方の方向を丸印の中に黒点マークとXマークとで示してある。黒点マークは、コイル素線23がステータコア12の表側から裏側へ出る場合、Xマークは、コイル素線23がステータコア12の裏側から表側へ出る場合をそれぞれ示す。
【0039】
単位コイルC2は、この巻き始めからステータコア12の表側において、スロットS10からスロットS16に単位コイル間隔26だけ渡る。スロットS16に渡った後は、スロットS16でステータコア12の表側から裏側に下がり、ステータコア12の裏側において、スロットS16からスロットS10に単位コイル間隔26だけ渡る。スロットS10では、再び、ステータコア12の裏側から表側に上がる。そして、ステータコア12の表側において、先ほどのスロットS10からスロットS16に渡ったコイル素線23と重ならないように、ステータコア12の外周側に位置をずらして、スロットS10からスロットS16へ、単位コイル間隔26だけ渡る。
【0040】
スロットS16では、再び、ステータコア12の表側から裏側に下がる。そして、ステータコア12の裏側において、先ほどのスロットS16からスロットS10に渡ったコイル素線23と重ならないように、ステータコア12の外周側に位置をずらして、スロットS16からスロットS10へ、単位コイル間隔26だけ渡る。
【0041】
これを繰り返して、コイル素線23をスロットS10とスロットS16の間で5回巻回して、単位コイルC2の形成は終る。つまり、単位コイルC2は、ステータコア12の内周側から見ると、単位コイルC1と異なり、時計方向に5回コイル素線23が巻回されて形成される。
【0042】
以後、さらに、同様な巻回が単位コイルC3から単位コイルC8について繰り返される。巻き方は、単位コイルC3、単位コイルC5、単位コイルC7が単位コイルC1と同じ反時計方向で、単位コイルC4、単位コイルC6、単位コイルC8が単位コイルC2と同じ時計方向である。そして、単位コイルC8の巻き終わりがステータコア12の最外周側でスロットS46から表側に出て、これが中性点端子Nに接続される。このようにして、第1分布巻線部U1の形成が終了する。
【0043】
図6は、第2分布巻線部U2の巻回の順序を示す図である。ここでは、図5と同様に、動力線端子PUが単位コイルC9の巻き始めとなる。単位コイルC9は、単位コイルC1から1スロット分ずれて、スロットS3とスロットS9との間に渡ってコイル素線23が5回巻回される。巻き方は、第1分布巻線部U1の単位コイルC1と同じように、反時計方向である。単位コイルC9の巻き終わりは、ステータコア12の最内周側で、裏側である。そして、コイル素線23は、ステータコア12の最内周側をスロットS3からスロットS9へ単位コイル間隔だけ渡り、スロットS9を上がり、ステータコア12の表側に出て単位コイルC10の巻き始めとなる。このようにして、単位コイルC9と単位コイルC10とが隣接して接続される。
【0044】
以後、図5で説明したのと同様な手順が、1スロット分ずらして行われ、同様な巻回が単位コイルC10から単位コイルC16まで繰り返される。そして、単位コイルC16の巻き終わりがステータコア12の最外周側でスロットS45から表側に出たところとなる。これが第2分布巻線部U2の巻き終わりで、中性点端子Nに接続される。
このように、単位コイル間隔を6スロットとして、第1分布巻線部U1は、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周に8個直列に接続配置して形成される。また、第2分布巻線部U2は、第1分布巻線部U1で用いたスロットの隣のスロットを用い、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周に8個直列に接続配置して形成される。
【0045】
図7は、図5、図6をまとめて、U相分布巻線20における単位コイル21の配置の様子を模式的に説明する図である。ここでは、ステータコア12におけるスロット14の内周側に、第1分布巻線部U1の単位コイルC1から単位コイルC8までを、実線でそれぞれ示した。また、スロット14の外周側に、第2分布巻線部U2の単位コイルC9から単位コイルC16までを、破線でそれぞれ示した。
【0046】
第1分布巻線部U1を構成する8個の単位コイルのそれぞれは、対応する8個の第2分布巻線部U2の単位コイルのそれぞれと、互いに1スロット間隔だけずらして配置される。周方向に沿って磁極が配置される通常の構造の回転子を用いるとして、その1スロット間隔のずれが、回転電機が動作するときに、回転子の磁極によって第1分布巻線部U1の単位コイルに発生する起電力と、第2分布巻線部U2の単位コイルに発生する起電力との間に差を生じさせる。具体的には、起電力の発生タイミングが、1スロット分ずれる。起電力が電気角によって変動するものであると、対応する第1分布巻線部U1の単位コイル21と第2分布巻線部U2の単位コイル21との間に起電力の差が生じる。
【0047】
図8は、U相分布巻線20の等価回路図である。上記のように、U相分布巻線20は、単位コイルC1から単位コイルC8を直列に接続した第1分布巻線部U1と、単位コイルC9から単位コイルC16を直列に接続した第2分布巻線部U2を、動力線端子PUと中性点端子Nとの間に並列接続したものである。第1分布巻線部U1を構成する各単位コイルと、第2分布巻線部U2を構成する各単位コイルとは、互いに1スロット間隔だけずらして配置される。そこで、回転電機が動作するときに発生する起電力の差によって、第1分布巻線部U1と第2分布巻線部U2との間に電圧差が生じる。そして、その電圧差によって、第1分布巻線部U1と第2分布巻線部U2との間に、図8の矢印で示すように、循環電流が発生する。
【0048】
図9は、回転電機の電気角と、U相分布巻線20の相間電圧の関係を示す図である。相間電圧としては、第1分布巻線部U1のPUとNの間の電圧、第2分布巻線部U2のPUとNの間の電圧、およびこれらの間の電圧差が示されている。この電圧差が、循環電流の原因となる電圧差である。電圧差は、電気角によって変動し、プラス側の電圧差とマイナス側の電圧差がある。図8の循環電流の矢印の方向は、第2分布巻線部U2の電圧が第1分布巻線部U1の電圧より高い場合である。
【0049】
上記で、U相分布巻線20の構成と、その構成において循環電流が発生することの説明を行ったので、次に、図4で説明した構成のロータ30によって循環電流が抑制できることを説明する。
【0050】
図10は、比較のために、従来構造のロータ、つまり、軸方向に一様な磁極を有し、ΔP=0の場合のロータを用いたときの第1分布巻線部U1の単位コイルにおける鎖交磁束と、第2分布巻線部U2の単位コイルにおける鎖交磁束の様子を説明する図である。図10の中段の図は、従来構造のロータ36の一部を示す図である。図10の上段と下段には、第2分布巻線部U2の単位コイルC9の中心位置がロータ36のN極の中心位置と合ったときの様子が示されている。この状態は、図9で説明した電気角が90°または270°に相当する。
【0051】
このとき、第1分布巻線部U1の単位コイルC1の中心位置は、第2分布巻線部U2の単位コイルC9の中心位置と1スロット分ずれている。この1スロット分のずれは、図4で説明したロータ30の第1ロータ部32の磁極の中心位置と第2ロータ部34の磁極の中心位置との差であるΔPと同じである。そこで、図10では、ロータ30との比較がしやすいように、この1スロット分のずれをΔPとして示した。
【0052】
図10から分かるように、第2分布巻線部U2の単位コイルC9についてのN極からの鎖交磁束は、ロータ36のN極領域の全体からの分である。これに対し、第1分布巻線部U1の単位コイルC1についてのN極からの鎖交磁束は、ロータ36のN極領域の全体からΔPの分を差し引いた分である。つまり、第1分布巻線部U1の単位コイルC1についてのN極からの鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC9についてのN極からの鎖交磁束よりも少ない。
【0053】
図10には、第1分布巻線部U1の単位コイルC2と、第2分布巻線部U2の単位コイルC10の様子も示されている。第2分布巻線部U2の単位コイルC10についてのS極からの鎖交磁束は、ロータ36のS極領域の全体からの分である。これに対し、第1分布巻線部U1の単位コイルC2についてのS極からの鎖交磁束は、ロータ36のS極領域の全体からΔPの分を差し引いた分である。つまり、第1分布巻線部U1の単位コイルC2についてのS極からの鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC10についてのS極からの鎖交磁束よりも少ない。
【0054】
図11は、第1分布巻線部U1の単位コイルにおける鎖交磁束と、第2分布巻線部U2の単位コイルにおける鎖交磁束の様子を説明する図である。図11の中段の図は、ロータ30の一部を示す図である。第1ロータ部32と第2ロータ部34の磁極の中心位置はΔPだけずれている。このΔPは、第1分布巻線部U1の単位コイルC1と第2分布巻線部の単位コイルC9との間における配置差である1スロット分と同じである。図11の上段と下段には、第1分布巻線部U1の単位コイルC1の中心位置が第1ロータ部32のN極の中心位置と合い、第2分布巻線部U2の単位コイルC9の中心位置が第2ロータ部34のN極の中心位置と合ったときの様子が示されている。この状態は、図10の状態と同様に、図9で説明した電気角が90°または270°に相当する。
【0055】
図11から分かるように、第1分布巻線部U1の単位コイルC1についてのN極からの鎖交磁束は、第1ロータ部32のN極領域の全体からの分と、第2ロータ部34のN極領域の全体からΔPの分を差し引いた分との和である。また、第2分布巻線部U2の単位コイルC9についてのN極からの鎖交磁束は、第1ロータ部32のN極領域の全体からΔPの分を差し引いた分と、第2ロータ部34のN極領域の全体からの分との和である。したがって、第1分布巻線部U1の単位コイルC1についてのN極からの鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC9についてのN極からの鎖交磁束と同じである。
【0056】
図11には、第1分布巻線部U1の単位コイルC2と、第2分布巻線部U2の単位コイルC10の様子も示されている。第1分布巻線部U1の単位コイルC2についてのS極からの鎖交磁束は、第1ロータ部32のS極領域の全体からの分と、第2ロータ部34のS極領域の全体からΔPの分を差し引いた分との和である。また、第2分布巻線部U2の単位コイルC10についてのS極からの鎖交磁束は、第1ロータ部32のS極領域の全体からΔPの分を差し引いた分と、第2ロータ部34のS極領域の全体からの分との和である。したがって、第1分布巻線部U1の単位コイルC2についてのS極からの鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC10についてのS極からの鎖交磁束と同じである。
【0057】
図11において、第1ロータ部32について見ると、第1分布巻線部U1の単位コイルC1または単位コイルC2における鎖交磁束は、第2分布巻線部U2の単位コイルC9または単位コイルC10における鎖交磁束よりも先に最大値になっている。つまり、第1ロータ部32では、鎖交磁束の変化について、第1分布巻線部U1の単位コイルの方が第2分布巻線部U2の単位コイルよりも位相が進んでいる。
【0058】
これに対し、第2ロータ部34においては、第2分布巻線部U2の単位コイルC9または単位コイルC10における鎖交磁束の方が、第1分布巻線部U1の単位コイルC1または単位コイルC2における鎖交磁束よりも先に最大値になっている。つまり、第2ロータ部34では、鎖交磁束の変化について、第2分布巻線部U2の単位コイルの方が第1分布巻線部U1の単位コイルよりも位相が進んでいる。
【0059】
その様子を図12、図13に示す。図12、図13は、図9と同様の図で、横軸に電気角、縦軸に相間電圧がとられている。相間電圧としては、第1分布巻線部U1の電圧と、第2分布巻線部U2の電圧と、第1分布巻線部U1の電圧と第2分布巻線部U2の電圧の間の電圧差が示されている。第1分布巻線部U1の電圧は、第1分布巻線部U1を構成する単位コイルの鎖交磁束の大きさに比例し、第2分布巻線部U2の電圧は、第2分布巻線部U2を構成する単位コイルの鎖交磁束の大きさに比例する。
【0060】
図12から分かるように、第1ロータ部32においては、第1分布巻線部U1の電圧の方が、第2分布巻線部U2の電圧よりも位相が進んでいる。また、図13から分かるように、第2ロータ部34においては、第2分布巻線部U2の電圧の方が、第1分布巻線部U1の電圧よりも位相が進んでいる。
【0061】
また、図13に示される第2分布巻線部U2の電圧と第1分布巻線部U1の電圧の間の電圧差と、図12に示される第1分布巻線部U1の電圧と第2分布巻線部U2の電圧の間の電圧差とは、電気角に対し、同じ波形となっている。すなわち、第1ロータ部32による電圧差と、第2ロータ部34による電圧差は、符号が逆で大きさが同じである。これによって、第1ロータ部32による第1分布巻線部U1の電圧と第2分布巻線部U2の電圧の間の電圧差と、第2ロータ部34による第1分布巻線部U1の電圧と第2分布巻線部U2の電圧の間の電圧差とは、互いに打消し合う。したがって、第1分布巻線部U1と第2分布巻線部U2の間に、循環電流が生じない。
【0062】
このようにして、図7で説明したU相分布巻線20に、図4で説明した構成のロータ30を組み合わせることで、ダブルスター分布巻結線における循環電流の発生を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る回転電機固定子は、ダブルスター結線の分布巻固定子を用いる回転電機に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
10 回転電機固定子、12 ステータコア、14 スロット、20 U相分布巻線、21 単位コイル、23 コイル素線、26 単位コイル間隔、30,36 ロータ、32 第1ロータ部、34 第2ロータ部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿って配置され、それぞれが径方向に延びる複数のスロットを有するステータコアと、
予め定めたスロット間隔を単位コイル間隔として、単位コイル間隔でコイル素線を巻回して形成されるコイルを単位コイルとして、ステータコアの周方向の1周に単位コイルをn個直列接続配置して形成される第1分布巻線部と、第1分布巻き線部と予め定めた所定スロット間隔だけ離れている異なるスロットを用いて、ステータコアの周方向の1周に単位コイルをn個直列接続配置して形成される第2分布巻線部と、を並列接続されて形成される分布巻の各相巻線と、
軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部と、を有するロータであって、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置が、所定スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なるロータと、
を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
第1分布巻線部は、
単位コイル間隔を6スロットとして、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周にn個直列に接続配置して形成し、
第2分布巻線部は、
第1分布巻線部で用いたスロットの隣のスロットを用い、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周にn個直列に接続配置して形成し、
第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置は、ステータコアの周方向における1スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なることを特徴とする回転電機。
【請求項1】
周方向に沿って配置され、それぞれが径方向に延びる複数のスロットを有するステータコアと、
予め定めたスロット間隔を単位コイル間隔として、単位コイル間隔でコイル素線を巻回して形成されるコイルを単位コイルとして、ステータコアの周方向の1周に単位コイルをn個直列接続配置して形成される第1分布巻線部と、第1分布巻き線部と予め定めた所定スロット間隔だけ離れている異なるスロットを用いて、ステータコアの周方向の1周に単位コイルをn個直列接続配置して形成される第2分布巻線部と、を並列接続されて形成される分布巻の各相巻線と、
軸方向に沿って一方端部側の半分領域である第1ロータ部と、他方端部側の半分領域である第2ロータ部と、を有するロータであって、第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置が、所定スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なるロータと、
を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
第1分布巻線部は、
単位コイル間隔を6スロットとして、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周にn個直列に接続配置して形成し、
第2分布巻線部は、
第1分布巻線部で用いたスロットの隣のスロットを用い、隣接する単位コイルの一方の巻き終わりスロットと他方の巻き始めスロットを共通にして、ステータコアの周方向の1周にn個直列に接続配置して形成し、
第1ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置と第2ロータ部の周方向に沿った磁極中心位置は、ステータコアの周方向における1スロット間隔に相当する周方向距離だけ異なることを特徴とする回転電機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−222963(P2012−222963A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86372(P2011−86372)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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