説明

固体走査型光書込み装置

【課題】 シャッタオフ時での漏れ光の影響を排除でき、過度的な透過光量の変動、回路ノイズの発生などを抑制できる固体走査型光書込み装置を得る。
【解決手段】 電気光学効果を有する複数の光シャッタ素子を主走査方向に並置し、光源から放射されたR,G,B光を、光シャッタ素子への電圧印加によって変調し、感光材上に画像を形成する固体走査型光書込み装置。光シャッタ素子の共通電極及び個別電極には光の波長に応じた電圧が印加される。正電界駆動時において、個別電極にはVopBが印加され、共通電極には、R露光時には−VbiasR、G露光時には−VbiasG、B露光時には0Vが印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体走査型光書込み装置、特に、電気光学効果を有する複数の光シャッタ素子を主走査方向に並置した光シャッタモジュールによって光源から放射された光を変調し、印画紙などの感光材上に画像を描画する固体走査型光書込み装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、銀塩感材を用いた印画紙やフィルムにカラー画像を形成するために、電気光学効果を有する材料であるPLZTやLiNbO3からなる多数の光シャッタ素子を主走査方向に配列し、R,G,B光を順次1画素ずつオン/オフ制御する固体走査型光書込み装置が種々提供されている。
【0003】
従来の固体走査型光書込み装置にあっては、特許文献1,2に記載されているように、光シャッタ素子の共通電極及び個別電極に印加する電圧の極性を、例えば1走査ラインごとに切り換えるようにしている。
【0004】
しかしながら、このような従来の装置においては、印加電圧極性の切換え時及び光シャッタ素子のオンからオフへの切換え時に素子に印加される電界極性が切り換わるため、過度的にシャッタ特性の劣化が見られた。また、駆動回路の電源に要求される電圧が高くなり、応答性の劣化と過度ノイズが画像に及ぼす影響が無視できなくなっている。さらに、光シャッタ素子のオフ時の特性(漏れ光の存在)が、感度の低いR光に対して感度の高いB光で劣化することが顕著であった。
【0005】
このような問題点につき、以下に具体的に説明する。PLZTからなる光シャッタ素子において、駆動電圧VDと透過光量(透過率)とは図8に示す関係にある。透過光量が最大となる電圧を半波長電圧±VDopと称し、通常この半波長電圧±VDopを印加する状態(オン)と印加しない状態(オフ)を利用してシャッタ動作を実現している。
【0006】
この半波長電圧±VDopは光源色の波長によって異なり、波長の長い光ほど半波長電圧±VDopが高くなる。即ち、±VDopはR>G>Bとなる。従って、半波長電圧±VDopを光源色ごとに最適値に切り換えて駆動することが必要である。
【0007】
また、光シャッタ素子はヒステリシス特性を有し、駆動電圧の継続的な印加によって履歴現象を呈する。そのため、同一方向への継続的な電圧印加は、シャッタ特性を劣化させる原因となっていた。そこで、光シャッタ素子への印加電圧の極性を走査ラインごとに反転させる方式が採用されている。
【0008】
このような反転駆動方式は、従来、図9に示す駆動ICにて制御されている。図9において、13は光シャッタ素子、14は個別電極、15は共通電極である。二つの半導体スイッチSW1を1ラインの描画ごとに同期して切り換えることにより、素子13に印加される駆動電圧が正/負に切り換えられる。信号SHTONは光シャッタ素子13のオン/オフを切り換える。電圧Vddは個別電極14に印加される電圧、Vbiasは共通電極15に印加されるバイアス電圧である。また、スイッチング素子Q1はオンのとき個別電極14に電圧Vddを印加し、スイッチング素子Q2がオンされると個別電極14はグランドに落とされる。
【0009】
前記駆動ICにおける制御状態を表1に示す。表1に示されているように、正電界が印加されるとき、駆動電圧VDはVdd−Vb0であり、オフ時には−Vb0が印加される。負電界が印加されるとき、駆動電圧VDは−Vdd+Vb0であり、オフ時には+Vb0が印加される。
【0010】
【表1】

【0011】
ところで、駆動電圧Vddは、比較的高い電圧(40〜70V)であることと高速露光動作を実現するために、光源色と同期して切り換えることはできない。そのため、個別電極14にはR,G,Bいずれの露光時であっても最大の半波長電圧(R色に対応する)VopRを印加し、共通電極15にはR露光時には0V、G露光時にはVbiasG(VopR−VopG)、B露光時にはVbiasB(VopR−VopB)となるように印加している。
【0012】
以上の電圧印加状態(シャッタオン時)を正電界駆動及び負電界駆動の全てにわたって以下の表2に示し、駆動電界パターンを図10に示す。
【0013】
【表2】

【0014】
図10において、点線Aは個別電極に印加される電圧、実線Bは共通電極に印加される電圧を示し、斜線部分が光シャッタ素子への印加電圧である。この図10から明らかなように、B露光時のバイアス電圧が高くなり(図10の領域C参照)、シャッタオフ時の漏れ光量が大きくなって描画に影響が出やすい傾向にある。これは、光シャッタ素子のヒステリシス特性及び半波長電圧に対する透過光量は波長が短くなるほど感度が高くなることに起因している。
【0015】
また、光シャッタ素子がオンからオフへ切り換わったときに、駆動電圧極性が切り換わることから、シャッタオフ時には+VDopから−Vbiasまで電圧が変化することになる。これにて、過度的な透過光量の変動、電圧振幅に依存する回路ノイズの発生といった不具合が生じている。
【0016】
一方、駆動電圧を0Vとしても、図8に示したように透過光量が最低値にはならない。従って、光シャッタ素子の駆動に際しては、この点も考慮しなければならない。
【特許文献1】特開2001−88353号公報
【特許文献2】特開2004−50700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明の目的は、シャッタオフ時での漏れ光の影響を排除でき、過度的な透過光量の変動、回路ノイズの発生などを抑制できる固体走査型光書込み装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上の目的を達成するため、本発明に係る固体走査型光書込み装置は、電気光学効果を有する複数の光シャッタ素子を主走査方向に並置した光シャッタモジュールと、R,G,Bそれぞれの波長の光を順次に切り換えて光シャッタ素子を照射する光源と、光シャッタ素子に電界を印加するための共通電極及び個別電極と、共通電極及び個別電極に光源から照射される光の波長に応じた電圧を印加して各光シャッタ素子をオン/オフさせる駆動回路と、を備え、光シャッタ素子にR,G,Bのうち少なくとも一つの光が照射されるとき、シャッタオン時の印加電圧極性とシャッタオフ時の印加電圧極性とが同一であることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る固体走査型光書込み装置にあっては、光シャッタ素子にR,G,Bのうち少なくとも一つの光が照射されるとき、シャッタオン時の印加電圧極性とシャッタオフ時の印加電圧極性とが同一であるため、バイアス電圧が低くて済み、シャッタオフ時の漏れ光量が減少する。また、光シャッタ素子がオンからオフへ切り換わったときの印加電圧の変化も小さくなり、過度的な透過光量の変動、回路ノイズの発生を抑えることができる。
【0020】
本発明に係る固体走査型光書込み装置において、光シャッタ素子にB光が照射されるとき、シャッタオフ時に印加される電圧が0Vであることが好ましい。感度の高いB露光のシャッタオフ時の電圧を0Vに設定することにより、漏れ光の影響による画質劣化を好適に改善することができる。即ち、画質改善のためにB露光時の特性に最適化した固体走査型光書込み装置を得ることができる。
【0021】
また、光シャッタ素子にR,G,Bのうち少なくとも一つの光以外の波長の光が照射されるとき、シャッタオフ時に微小な電圧が印加されるようにしてもよい。光シャッタ素子にあっては、駆動電圧を0Vとするよりも微小電圧を印加するほうが透過光量が最低値になる。これにて、実質的にシャッタオフ時の特性(漏れ光の抑制)が良好になる。このように、シャッタオフ時に微小な電圧が印加される波長の光はB光であることが好ましい。感度の高いB光の特性を改善することが高品質の画像を得ることにつながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係る固体走査型光書込み装置の実施例について、添付図面を参照して説明する。
【0023】
(固体走査型光書込み装置の概略構成、図1参照)
図1に示す固体走査型光書込み装置は、印画紙や感光フィルムなどの記録媒体上に画像を形成するためのプリントヘッドとして構成したもので、概略、光源ユニット1と、光ファイバアレイ5と、偏光子6と、光シャッタモジュール10と、検光子7と、結像レンズアレイ8とで構成されている。
【0024】
光源ユニット1は、描画光であるRGBの三色に分けられた複数のLED群1R,1G,1Bから放射された光を、ダイクロイックミラー2R,2G,2Bでそれぞれ反射/透過させて光ファイバアレイ5の入射端部5aに導く。LED群1R,1G,1Bのオン/オフは駆動回路4にて制御される。
【0025】
光ファイバアレイ5は、多数の光ファイバ単体を集束したもので、入射端部5aから入射した光を出射端部5bから直線状に出射する。偏光子6と検光子7はクロスニコルに配置され、かつ、各偏光面が各光シャッタ素子へ印加される電界方向に対して45°になるように配置されている。
【0026】
光シャッタモジュール10は、ガラス製の基板11上にPLZTからなる複数の光シャッタチップ12を主走査方向Xに配置し、各光シャッタチップ12に形成されている個々の光シャッタ素子を駆動IC20にて駆動する。
【0027】
(光シャッタ素子の構成、図2及び図3参照)
図2に示すように、光シャッタチップ12には1画素に対応する多数の光シャッタ素子13が形成されている。光シャッタ素子13は2列に配置され、各素子13が1画素ずつ千鳥状に形成され、2列で主走査方向Xに1ラインの画像を形成する。
【0028】
各光シャッタ素子13は、立体的な形状とされ、個別電極14と共通電極15とが設けられている。PLZTはよく知られているように、カー定数の大きい電気光学効果を有する透光性のセラミックスであり、偏光子6で直線偏光された光は、光シャッタ素子13への電圧印加によって偏光面の回転を生じ、検光子7から出射される。電圧オフ時には透過光の偏光面は回転することなく、このような透過光は検光子7でカットされる。
【0029】
駆動回路は、概略、図3に示すように構成されており、個別電極14には駆動IC20が接続され、共通電極15にはバイアス電源に接続されている。
【0030】
(第1実施例、図4及び図5参照)
第1実施例は、図4に示す駆動IC20を備え、シャッタオン時には表3に示す状態で電圧を印加する。駆動IC20は図9に示した従来の駆動ICと基本的には同様の構成からなり、共通電極15に印加されるバイアス電圧Vbiasは負極性とされている。
【0031】
【表3】

【0032】
表3に示すように、正電界駆動時(偶数ライン描画時)において、個別電極14にはR,G,Bいずれの露光時であっても光源色Bに対応する半波長電圧VopBを印加する。そして、共通電極15には、R露光時には−VbiasR、G露光時には−VbiasG、B露光時には0Vを印加する。
【0033】
また、負電界印加時(奇数ライン描画時)において、個別電極14にはR,G,Bいずれの露光時であっても0Vを印加する。そして、共通電極15には、R露光時にはVopB+VbiasR、G露光時にはVopB+VbiasG、B露光時にはVopBを印加する。
【0034】
この制御状態での駆動電界パターンは図5に示すとおりであり、点線Aは個別電極14に印加される電圧、実線Bは共通電極15に印加される電圧を示し、斜線部分が光シャッタ素子13への印加電圧である。
【0035】
このように、負極性のバイアス電圧を印加することにより、光シャッタ素子13をオンからオフへ切り換えるときに、その印加電圧極性を同一にすることができ、バイアス電圧が低くて済む。特に、本第1実施例では、感度の高いB露光時のシャッタオフ時のバイアス電圧が0Vであり、シャッタオフ時の漏れ光量が減少し、画像への悪影響を排除できる。また、光シャッタ素子13がオンからオフへ切り換わったときの印加電圧の変化も小さくなり、過度的な透過光量の変動、回路ノイズの発生を抑えることができる。
【0036】
(第2実施例、図6及び図7参照)
第2実施例は、図6に示す駆動IC20を備え、シャッタオン時には表4に示す状態で電圧を印加する。駆動IC20は図9に示した従来の駆動ICと基本的には同様の構成からなり、共通電極15に印加されるバイアス電圧Vbiasは交番電圧とされている。
【0037】
【表4】

【0038】
表4に示すように、正電界駆動時(偶数ライン描画時)において、個別電極14にはR,G,Bいずれの露光時であっても光源色Bに対応する半波長電圧VopBに電圧Voffを重畳した電圧を印加する。電圧Voffは図8に示すように透過光量が最低値となる電圧である。そして、共通電極15には、R露光時には−VbiasR+Voff、G露光時には−VbiasG+Voff、B露光時にはVoffを印加する。
【0039】
また、負電界印加時(奇数ライン描画時)において、個別電極14にはR,G,Bいずれの露光時であっても0Vを印加する。そして、共通電極15には、R露光時にはVopB+VbiasR、G露光時にはVopB+VbiasG、B露光時にはVopBを印加する。
【0040】
この制御状態での駆動電界パターンは図7に示すとおりであり、点線Aは個別電極14に印加される電圧、実線Bは共通電極15に印加される電圧を示し、斜線部分が光シャッタ素子13への印加電圧である。
【0041】
本第2実施例では、前記第1実施例と同様の効果を奏するとともに、共通電極15に印加されるバイアス電圧に透過光量が最低値となる電圧Voffを重畳するようにしたため、R及びB露光時のシャッタオフ時に電圧Voffが印加され、透過光量が最低値になる。これにて、実質的にシャッタオフ時の漏れ光を排除でき、より良質な画像を得ることができる。特に、B光のシャッタオフ時に微小な電圧Voffが印加されることから、感度の高いB光の特性を改善することができ、高品質の画像を得ることにつながる。
【0042】
(他の実施例)
なお、本発明に係る固体走査型光書込み装置は前記実施例に限定するものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る固体走査型光書込み装置の一例を示す斜視図である。
【図2】光シャッタチップを示す斜視図である。
【図3】光シャッタ素子の駆動回路を示すブロック図である。
【図4】第1実施例における光シャッタ素子の駆動ICを示すブロック図である。
【図5】第1実施例における光シャッタ素子への駆動電界パターンを示すチャート図である。
【図6】第2実施例における光シャッタ素子の駆動ICを示すブロック図である。
【図7】第2実施例における光シャッタ素子への駆動電界パターンを示すチャート図である。
【図8】光シャッタ素子の駆動電圧に対する透過率を示すグラフである。
【図9】従来例における駆動ICを示すブロック図である。
【図10】従来例における光シャッタ素子への駆動電界パターンを示すチャート図である。
【符号の説明】
【0044】
1…光源ユニット
1R,1G,1B…LED群
10…光シャッタアレイ
13…光シャッタ素子
14…個別電極
15…共通電極
20…駆動IC


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する複数の光シャッタ素子を主走査方向に並置した光シャッタモジュールと、R,G,Bそれぞれの波長の光を順次に切り換えて光シャッタ素子を照射する光源と、光シャッタ素子に電界を印加するための共通電極及び個別電極と、共通電極及び個別電極に光源から照射される光の波長に応じた電圧を印加して各光シャッタ素子をオン/オフさせる駆動回路と、を備え、
光シャッタ素子にR,G,Bのうち少なくとも一つの光が照射されるとき、シャッタオン時の印加電圧極性とシャッタオフ時の印加電圧極性とが同一であること、
を特徴とする固体走査型光書込み装置。
【請求項2】
光シャッタ素子にB光が照射されるとき、シャッタオフ時に印加される電圧が0Vであることを特徴とする請求項1に記載の固体走査型光書込み装置。
【請求項3】
光シャッタ素子にR,G,Bのうち少なくとも一つの光以外の波長の光が照射されるとき、シャッタオフ時に微小な電圧が印加されることを特徴とする請求項1に記載の固体走査型光書込み装置。
【請求項4】
シャッタオフ時に微小な電圧が印加される波長の光はB光であることを特徴とする請求項3に記載の固体走査型光書込み装置。
【請求項5】
所定ラインの走査ごとに光シャッタ素子に印加される電圧の極性が反転されることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の固体走査型光書込み装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−227287(P2006−227287A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40741(P2005−40741)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(303050159)コニカミノルタフォトイメージング株式会社 (1,066)
【Fターム(参考)】