説明

固定治具並びにワークの処理方法

【課題】ワークに力が加わるような処理を行う場合にもワークを確実に密着固定できると共に、処理後のワークの脱離も容易な固定治具並びにこの固定治具を用いたワークの処理方法を提供する。
【解決手段】治具本体2に、密着層3側の外面に開口する、区画空間6に連通しない吸着孔8が形成される。そして、吸着孔8に連通する貫通孔9を密着層3に形成し、吸着孔8の真空引きによりワークWに吸着力を作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の薄板状ワークを固定する固定治具並びにこの固定治具を用いたワークの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において、半導体チップを小型化するために、半導体ウエハ(以下、ウエハという)の裏面を研削して薄くする工程(バックグラインド工程)がある。このバックグラインド工程では、ウエハの表面(回路が形成された面)に粘着シート等からなる保護シートを貼り付け、表面を保護している。そして、バックグラインド工程後に、保護シートをウエハから剥離する処理を行う。
【0003】
ところで、バックグラインド工程により極薄化されたウエハは僅かな衝撃によっても破損してしまう。そこで、従来、極薄化されたウエハが、搬送時や加工時に、自重、加速度あるいは加工応力により歪んで破損しないように、板状の治具本体と、治具本体の片面に設けられた、ワークを着脱自在に密着保持する密着層とから構成され、ウエハを支持固定する固定治具が提案されている(例えば、特許文献1参照)。治具本体は、片面に密着層を支持する複数の支持突起を有すると共に、片面の外周部に支持突起と同等高さの側壁を有し、この側壁の端面に密着層が接着されて、密着層と治具本体との間に側壁で囲われた区画空間が画成され、治具本体に区画空間に連通する通気孔が形成されている。
【0004】
そして、通気孔の真空引きにより、通気孔を介して区画空間内の空気を吸引すると、密着層が支持突起間で窪むように変形し、密着層に対するウエハの接触面積が減少する。そのため、ウエハをこれに無理な力をかけずに固定治具から脱離できるようになる。
【特許文献1】特開2006−216775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
然し、保護シートが貼付されたウエハから保護シートの剥離処理を行う場合、上記の固定治具にウエハを固定して上記処理を行うと、処理時にウエハに加えられる力が部分的に強力であることにより、ウエハが固定治具から容易に脱離してしまう。また、処理条件に合わせてウエハが脱落しないように密着層の種類を変えた場合には、通気孔の真空引きで区画空間を減圧しても、ウエハに対する密着が強すぎて密着層の変形が起き難くなる。その結果、ウエハを固定治具から脱離する際に、ウエハに無理な力が作用してその破損を生じ易くなる。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、ワークに力が加わるような処理を行う場合にもワークを確実に密着固定できると共に、処理後のワークの脱離も容易な固定治具並びにこの固定治具を用いたワークの処理方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、薄板状のワークを固定する固定治具であって、板状の治具本体と、当該治具本体の片面に設けられた、ワークを着脱自在に密着保持する密着層とから構成され、前記治具本体は、片面に前記密着層を支持する複数の支持突起を有すると共に、片面の外周部に前記支持突起と同等高さの側壁を有し、この側壁の端面に前記密着層が接着されて、前記密着層と前記治具本体との間に前記側壁で囲われた区画空間が画成され、前記治具本体に前記区画空間に連通する通気孔が形成され、この通気孔を介して前記区画空間内の空気を吸引することにより、前記密着層が変形されるようにしたものにおいて、前記治具本体に、前記密着層側の外面に開口する、前記区画空間に連通しない吸着孔が形成されると共に、この吸着孔に連通する貫通孔が前記密着層に形成され、前記吸着孔の真空引きにより前記ワークに吸着力が作用するようにしたことを特徴とする。
【0008】
また、上記課題を解決するために、請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の固定治具を用いて行うワークの処理方法であって、前記固定治具の前記密着層に薄板状のワークを密着保持させ、前記通気孔は真空引きせずに前記吸着孔を真空引きした状態で前記ワークに所定の処理を施す工程と、前記吸着孔の真空引きを停止し、前記通気孔を真空引きして前記区画空間内の空気を吸引することにより前記密着層を変形させて、前記固定治具から前記ワークを脱離させる工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワークは密着層との間の密着力に加えて、吸着孔の真空引きによる吸着力で固定治具に固定され、部分的にワークの固定力が増強される。従って、保護シートの剥離処理等のワークに力が加えられる処理を行う場合にも、ワークは固定治具から脱離しない。
【0010】
また、吸着力が得られることから、ワークに対する密着層の密着力を然程強くする必要がない。そのため、通気孔を真空引きして区画空間内の空気を吸引すれば、密着層が確実に変形する。従って、ワークをこれに無理な力をかけずに固定治具から脱離でき、ワーク脱離時のワークの破損を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1、図2を参照して、1は薄板状ワークたるウエハWを固定する固定治具を示している。この固定治具1は、板状の治具本体2と、治具本体2の片面に設けられた密着層3とで構成されている。
【0012】
治具本体2は、ウエハWよりも僅かに大径の円板状に形成されている。治具本体2の材料は、機械強度に優れたものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ステンレス等の金属材料、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリプロピレン、アクリル、ポリ塩化ビニル等の樹脂成形材料、ガラス等の無機材料、ガラス繊維強化エポキシ樹脂等の有機無機複合材料等が挙げられる。
【0013】
治具本体2の片面には、0.05〜0.5mm程度の高さで直径が0.05〜1.0mm程度の円柱状の支持突起4が0.2〜2.0mm程度のピッチで複数形成されている。更に、治具本体2の片面の外周部には、支持突起3と同等高さの円筒状の側壁5が形成されている。尚、支持突起4は円柱状以外の形状、例えば、円錐台形に形成されていても良い。
【0014】
密着層3は、可撓性、柔軟性、耐熱性、弾性、粘着性等に優れたウレタン系、アクリル系、フッ素系、シリコーン系等のエラストマーから成る20〜200μmの厚さのフィルムで形成される。そして、治具本体2の側壁5の端面に、密着層3の外周部を接着剤、ヒートシール等で接着している。これにより、密着層3と治具本体2との間に側壁5で囲われた区画空間6が画成される。また、密着層3は各支持突起4の平坦な端面に当接して支持される。
【0015】
治具本体2には、治具本体2をその厚さ方向に貫通して区画空間6に連通する少なくとも1個の通気孔7が形成されている。治具本体2には、更に、治具本体2をその厚さ方向に貫通して密着層3側の外面に開口する、区画空間6に連通しない少なくとも1個の吸着孔8が形成されている。本実施形態では、後述する保護シートSの剥離処理で保護シートSを剥離し始める側に位置する治具本体2の周囲一側部に、側壁5から内方に膨出する膨出部5aを周方向の間隔を存して3個形成し、これら膨出部5aの端面に開口するように吸着孔8が複数(3個)形成されている。また、密着層3には、各吸着孔8に連通する貫通孔9が形成されている。
【0016】
次に、図3を参照して、ウエハWの表面に貼り付けられた保護シートSをバックグラインド工程後に剥離する処理方法について説明する。
【0017】
ウエハWには、まずバックグラインド工程に先だって、当該ウエハWの表面に形成された回路を保護するためその回路面(表面)に保護シートSが貼付される。次に、バックグラインド装置に搭載し、ウエハWの裏面を所定の厚さまで研削処理が行われる。この段階のウエハWは、自重等で撓まないように特別な搬送装置により次の処理装置の処理テーブル等に移動しなければ、破損してしまう程極薄となっている。そこで、ウエハWは、バックグラインドした処理テーブル上から移載せず、ウエハWの裏面(研削面)に固定冶具1の密着層3に密着保持させる。これにより、ウエハWは強度が増し、極薄化の前と同等に通常の搬送装置により搬送が可能になる。
【0018】
次に、不要となった保護シートSの剥離処理が行われる。固定冶具1に支持されたウエハWは、シート剥離装置の処理テーブル10に転載される。シート剥離装置としては、例えば、特開平11−016862号公報記載の装置があげられるが、処理テーブル10は、図3(a)に示すような構造を有する。具体的には、処理テーブル10は固定冶具1よりやや小径のポーラス構造の吸着部11を備え、吸着部11を図示省略したバキュームポンプにより真空引きすることで、固定治具1が密着層3とは反対側の下面において処理テーブル10に吸着固定される。なお、ウエハWをシート剥離装置に転載する際には、固定冶具1の吸着部11がシート剥離装置の剥離起点に合致するように位置合わせされて行われる。
【0019】
ここで、治具本体2の下面の吸着孔8の開設箇所は吸着部11上に位置するが、治具本体2の下面の通気孔7の開設箇所には吸着部11が存在しない。従って、吸着部11を真空引きすると、通気孔7と吸着孔8とのうち吸着孔8のみが吸着部11を介して真空引きされる。そして、吸着孔8の真空引きにより密着層3の貫通孔9を介してウエハWに吸着力が部分的に作用する。
【0020】
次に、図3(b)に示すように、保護シートSの周方向一側部に剥離用テープ12を貼付し、このテープ12を把持ヘッド13で把持する。そして、把持ヘッド13を、図3(b)に仮想線で示すように、ウエハWに対しテープ貼付箇所を通るウエハWの直径方向に相対移動させ、保護シートSをウエハWから剥離する。この際、ウエハWには保護シートSの剥離に伴い上記直径方向の水平力に加え上向きの分力が作用する。
【0021】
ここで、上記エラストマーで形成される密着層3は高いせん断密着力を有するため、ウエハWに作用する水平力には十分耐えられる。然し、密着層3のウエハWに対する剥離強度は後述するように然程強くできない。そのため、密着層3の密着力だけでは上向き分力に抗しきれず、剥離が開始されるウエハWの周方向一側部を起点にしてウエハWが密着層3から浮き上がって固定治具1から脱離したり、ウエハWが上向き分力による曲げモーメントで破損する可能性がある。
【0022】
本実施形態では、ウエハWの周方向一側部に吸着孔8を介して吸着力が部分的に作用するため、この吸着力で十分に上向き分力に抗することができる。従って、ウエハWが密着層3から浮き上がって固定治具1から脱離したり、ウエハWが上向き分力による曲げモーメントで破損するといった不具合は生じない。
【0023】
保護シートSの剥離処理の完了後は、吸着部11の真空引きを停止し、固定治具1を処理テーブル10から取外す。これにより、吸着孔8の真空引きも停止される。次に、図3(c)に示すように、通気孔7にバキュームポンプ14を接続し、通気孔7を真空引きして、区画空間6内の空気を吸引する。これによれば、区画空間6が減圧され、この減圧に伴い密着層3が各支持突起4間の部分で下方に窪むように変形する。その結果、密着層3に対するウエハWの接触面積が減少し、ウエハWをこれに無理な力をかけずに固定治具1から脱離できるようになる。
【0024】
ところで、密着層3のウエハWに対する剥離強度を強くすれば、吸着孔8による吸着力をウエハWに作用させなくても、保護シートSの剥離に伴う上向き分力でウエハWが密着層3から浮き上がることを防止できる。然し、これでは、区画空間6を減圧しても、ウエハWに対する密着力が強すぎて密着層3の変形が起き難くなる。その結果、ウエハWを固定治具1から脱離する際に、ウエハWに無理な力が作用してその破損を生じやすくなる。これに対し、本実施形態では、保護シートSの剥離処理時に吸着孔8による吸着力が部分的にウエハWに作用するため、密着層3のウエハWに対する剥離強度を然程強くする必要がない。その結果、区画空間6の減圧で密着層3が確実に変形するようになり、上記の不具合は生じない。
【0025】
尚、本実施の形態では、ウエハWから保護シートSを剥離する処理で使用する固定治具1に本発明を適用したものについて説明したが、保護シートSの剥離処理以外のウエハWの処理で使用する固定治具、或いは、石英ガラス等からなる精密基板といったウエハW以外の薄板状ワークの処理で使用する固定治具にも同様に本発明を適用できる。
【0026】
また、上記実施形態では、治具本体2の外周部の周囲一側部に吸着孔8を形成したが、吸着孔8の形成位置はこれに限定されない。例えば、固定治具1の中央部でのワークの吸着が必要になる場合は、中央部に位置する支持突起4を大径に形成し、この支持突起4の端面に開口するように吸着孔を形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態の固定治具の模式的断面図。
【図2】実施形態の固定治具の治具本体の平面図。
【図3】実施形態の固定治具を用いて行う保護シートの剥離処理の作業手順を示す説明図。
【符号の説明】
【0028】
1 固定治具
2 治具本体
3 密着層
4 支持突起
5 側壁
6 支持突起
7 通気孔
8 吸着孔
W ウエハ(ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状のワークを固定する固定治具であって、板状の治具本体と、当該治具本体の片面に設けられた、ワークを着脱自在に密着保持する密着層とから構成され、前記治具本体は、片面に前記密着層を支持する複数の支持突起を有すると共に、片面の外周部に前記支持突起と同等高さの側壁を有し、この側壁の端面に前記密着層が接着されて、前記密着層と前記治具本体との間に前記側壁で囲われた区画空間が画成され、前記治具本体に前記区画空間に連通する通気孔が形成され、この通気孔を介して前記区画空間内の空気を吸引することにより、前記密着層が変形されるようにしたものにおいて、
前記治具本体に、前記密着層側の外面に開口する、前記区画空間に連通しない吸着孔が形成されると共に、この吸着孔に連通する貫通孔が前記密着層に形成され、前記吸着孔の真空引きにより前記ワークに吸着力が作用するようにしたことを特徴とする固定治具。
【請求項2】
請求項1記載の固定治具を用いて行うワークの処理方法であって、
前記固定治具の前記密着層に薄板状のワークを密着保持させ、前記通気孔は真空引きせずに前記吸着孔を真空引きした状態で前記ワークに所定の処理を施す工程と、
前記吸着孔の真空引きを停止し、前記通気孔を真空引きして前記区画空間内の空気を吸引することにより前記密着層を変形させて、前記固定治具から前記ワークを脱離させる工程とを備えることを特徴とするワークの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−43996(P2009−43996A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208264(P2007−208264)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】