説明

固定砥粒ワイヤおよびその製造方法

【課題】超砥粒が固定された固定砥粒ワイヤにおいて、スライス加工時に研削液を十分に取り込むことが可能な長寿命の固定砥粒ワイヤを得ること。
【解決手段】ワイヤ芯線2上に断面のアスペクト比が1.2〜1.6の超砥粒4および一般砥粒5を、断面の短辺側からバインダ3の表面に突き出させて固定した固定砥粒ワイヤ1であり、それぞれの突き出し高さを大きくした超砥粒4の間に一般砥粒5が配置され、超砥粒4と一般砥粒5との間に研削液を取り込むことが可能な間隙が形成されるため、この固定砥粒ワイヤ1を用いてスライス加工を行うと、超砥粒4の高い切削精度が得られるとともに、研削液が固定砥粒ワイヤ1の表面に保持されるので、研削面への研削液の供給が十分になされるようになり、固定砥粒ワイヤ1の寿命を延ばすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、半導体シリコン、磁性体、サファイアやSiCなどの結晶系材料のスライス加工に用いられる固定砥粒ワイヤおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池や半導体用シリコンのスライス方法としては、砥粒を研削液に混入させてスラリ状に供給して加工する遊離砥粒方式が最も多く採用されているが、遊離砥粒方式では、加工速度が遅いことや、スラリ供給側の加工溝が大きくなり、ウエハの厚みのばらつきが大きくなることなどの問題がある。そこで、高い切削精度が得られるワイヤソーとして、例えば特許文献1〜3には、ダイヤモンドやCBNなどの超砥粒を電着やレジンボンドで固着したシリコンスライス用の固定砥粒ワイヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−150314号公報
【特許文献2】特開平11−245154号公報
【特許文献3】特開平11−320379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のダイヤモンドやCBNなどの超砥粒が固定された固定砥粒ワイヤでは高い切削精度が得られる一方、超砥粒が非常に摩耗しにくいので、ワイヤの周囲に超砥粒が密に付きすぎると逆に切れ味が悪くなるという問題があるため、従来はワイヤ表面積の20%〜30%程度の領域にのみ固定されており、図7に示すように従来の固定砥粒ワイヤ20では、ワイヤ21上のダイヤモンド砥粒22の間は、バインダ23のみが露出して平坦となっている。
【0005】
そのため、従来のダイヤモンド砥粒が固定された固定砥粒ワイヤ20では、研削液が固定砥粒ワイヤ20の表面に保持されにくく、この固定砥粒ワイヤ20を用いてスライス加工する際に研削液の供給が十分になされず、固定砥粒ワイヤ20の寿命が短くなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明においては、ダイヤモンドやCBNなどの超砥粒が固定された固定砥粒ワイヤにおいて、スライス加工時に研削液を十分に取り込むことが可能な長寿命の固定砥粒ワイヤを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の固定砥粒ワイヤは、ワイヤ芯線上にバインダを介して砥粒が固定された固定砥粒ワイヤであって、砥粒が、断面のアスペクト比が1.2〜1.6の超砥粒および一般砥粒であり、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定されたものである。本発明の固定砥粒ワイヤでは、断面の長辺側が超砥粒および一般砥粒の突き出し高さ方向となっており、超砥粒および一般砥粒の突き出し高さが大きい。そして、この固定砥粒ワイヤでは、このそれぞれの突き出し高さを大きくした超砥粒の間に一般砥粒が配置され、超砥粒と一般砥粒との間に研削液を取り込むことが可能な間隙が形成されるため、スライス加工する際に研削液が固定砥粒ワイヤの表面に保持されるようになる。
【0008】
なお、本発明において超砥粒とは、ダイヤモンド(ヌープ硬さ7000〜8000)やCBN(ヌープ硬さ4700)などの硬度が高い(ヌープ硬さ4000以上)砥粒である。一方、一般砥粒とは、これらの超砥粒を除く、アルミナ系砥粒(アランダム)、炭化ケイ素系砥粒(カーボランダム)や炭化ホウ素系砥粒などの硬度が低い(ヌープ硬さ1250〜2500)の砥粒をいう。アルミナ系砥粒としては、A、GA、KA、WA、PA、SA、6AやVA等を用いることができる。炭化ケイ素系砥粒としては、CやGC等を用いることができる。炭化ホウ素系砥粒としては、B4C等を用いることができる。
【0009】
また、本発明の固定砥粒ワイヤは、固定される砥粒のうち50%以上が超砥粒であることが望ましい。これにより、超砥粒の高い切削精度を生かしつつ、超砥粒と一般砥粒との間に形成される間隙に効率良く研削液が取り込まれるようになり、研削液の循環が良くなるため、切れ味の低下が防止される。なお、一般砥粒の割合がこの範囲よりも多い場合、超砥粒よりも一般砥粒により多くが切削されることになるので、切削精度が低下していく。
【0010】
また、超砥粒および一般砥粒は、両方でワイヤ芯線上のバインダの表面積の20%〜95%、より好ましくは40%〜60%に固定されたものであることが望ましい。超砥粒および一般砥粒の両方でバインダの表面積の20%〜95%に砥粒が固定されたことにより、バインダの表面に研削液の通路となる隙間が十分に確保され、研削液の循環が良くなるので、切れ味の低下が防止される。特に、40%〜60%に固定されたものであれば、研削液の流れと切粉排出が最適となるため、さらに良い。
【0011】
また、一般砥粒は、超砥粒の粒径に対して10%〜110%であることが望ましい。一般砥粒は、主に超砥粒との間に研削液を保持するための間隙を形成するためのものであるため、切削には機能しないように超砥粒の粒径よりも小さい方が良いが、超砥粒よりも硬度が低いため、超砥粒の粒径に対して110%までであれば切削精度への影響は少ない。一方、一般砥粒の粒径が超砥粒の粒径に対して10%未満では超砥粒との間に研削液を保持できなくなる可能性がある。
【0012】
本発明の固定砥粒ワイヤの製造方法は、ワイヤ芯線上にバインダを介して砥粒が固定された固定砥粒ワイヤの製造方法であって、ワイヤ芯線上にバインダを塗付すること、断面のアスペクト比が1.2〜1.6の超砥粒および一般砥粒を、粉体の状態で断面の短辺側からバインダの表面に突き出させることを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の固定砥粒ワイヤの製造方法によれば、断面のアスペクト比1.2〜1.6の超砥粒および一般砥粒の粉体を、例えば飛翔させることによって、飛翔するダイヤモンド砥粒および一般砥粒は、断面の短辺側をバインダの表面に向け、この断面の短辺側からバインダの表面に突き刺さり、バインダにより固定される。これにより、断面の長辺側が超砥粒および一般砥粒の突き出し高さ方向となるので、超砥粒および一般砥粒の突き出し高さが大きい固定砥粒ワイヤが得られる。
【0014】
そして、この固定砥粒ワイヤでは、このそれぞれの突き出し高さを大きくしたダイヤモンド砥粒の間に一般砥粒が配置され、ダイヤモンド砥粒と一般砥粒との間に研削液を取り込むことが可能な間隙が形成されるため、スライス加工する際に研削液が固定砥粒ワイヤの表面に保持されるようになる。
【0015】
なお、アスペクト比が1.2未満の場合には、砥粒が飛翔によって向きを変えにくく、砥粒の向きが揃いにくくなる。一方、アスペクト比が1.6超の場合には、砥粒が折れやすくなり、固定砥粒ワイヤの寿命を縮める可能性がある。
【0016】
また、この方法により製造される固定砥粒ワイヤでは、バインダの表面に突き刺さった超砥粒および一般砥粒の粉体のみが固定されるため、砥粒が重なって複数層となることがなく、ワイヤ芯線の周囲に1層のみが固定された固定砥粒ワイヤが得られる。また、この固定砥粒ワイヤには、超砥粒および一般砥粒の粉体が断面の短辺側からバインダの表面に突き出させているため、長辺側から突き出させた場合よりも数多くの超砥粒および一般砥粒がワイヤ芯線の周囲に配置された固定砥粒ワイヤを実現できる。
【0017】
ここで、ダイヤモンド砥粒および一般砥粒は、静電塗装法により飛翔させることが望ましい。静電塗装法によりマイナスに帯電させたダイヤモンド砥粒および一般砥粒を飛翔させることで、ダイヤモンド砥粒および一般砥粒は、静電気力によってワイヤ芯線上のバインダに向かって強く引き寄せられる。そして、ダイヤモンド砥粒および一般砥粒は、この間に、その断面の短辺側をバインダの表面に向け、この断面の短辺側からバインダの表面に突き刺さるようになる。
【0018】
また、超砥粒および一般砥粒のうち、少なくとも導電性の超砥粒および一般砥粒は、非導電性物質によりコーティングされたものであることが望ましい。導電性の超砥粒および一般砥粒は帯電が不安定となるため、非導電性物質によりコーティングされたものを使用することで、安定してマイナスに帯電するようになり、静電気力によってワイヤ芯線上のバインダに向かって強く引き寄せられるようになる。
【0019】
また、超砥粒および一般砥粒は、混合状態で飛翔させてバインダの表面に突き刺さらせることが可能であるし、超砥粒を飛翔させてバインダの表面に突き刺さらせた後、一般砥粒を飛翔させてバインダの表面に突き刺さらせることも可能である。
【0020】
また、超砥粒および一般砥粒は、ワイヤ芯線に対して複数の異なる方向から、それぞれ互いに離れた位置へ飛翔させることが望ましい。ワイヤ芯線に対して複数の異なる方向から飛翔させることで、ワイヤ芯線の周囲に満遍なく超砥粒および一般砥粒を突き出させることができる。また、それぞれ互いに離れた位置へ飛翔させることにより、互いのノズルから砥粒を飛翔させるためのエアーの干渉を防止することができ、砥粒の向きを、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させる方向に揃えることができる。
【発明の効果】
【0021】
断面のアスペクト比が1.2〜1.6の超砥粒および一般砥粒を、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定した固定砥粒ワイヤによれば、それぞれの突き出し高さを大きくした超砥粒の間に一般砥粒が配置され、超砥粒と一般砥粒との間に研削液を取り込むことが可能な間隙が形成されるため、この固定砥粒ワイヤを用いてスライス加工を行うと、超砥粒の高い切削精度が得られるとともに、研削液が固定砥粒ワイヤの表面に保持されるので、研削面への研削液の供給が十分になされるようになり、固定砥粒ワイヤの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態における固定砥粒ワイヤの縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における固定砥粒ワイヤの横断面図である。
【図3】静電塗装法による超砥粒および一般砥粒の吹き付け工程を示す概略図である。
【図4】断面のアスペクト比が1、1.2、1.4、1.6、1.8の超砥粒および一般砥粒を用い、超砥粒と一般砥粒の体積比を変えた固定砥粒ワイヤによりスライス加工試験を行ったときのウエハ内の厚みのばらつきを比較したグラフを示す図である。
【図5】断面のアスペクト比が1.4の超砥粒および一般砥粒を用い、超砥粒と一般砥粒の体積比を変えた固定砥粒ワイヤによりスライス加工したウエハ内の厚みばらつきを比較したグラフ示す図である。
【図6】断面のアスペクト比が1.4の超砥粒および一般砥粒を用い、超砥粒と一般砥粒の体積比を変えた固定砥粒ワイヤの使用前後の径を比較したグラフを示す図である。
【図7】従来の固定砥粒ワイヤの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明の実施の形態における固定砥粒ワイヤの縦断面図、図2は横断面図である。図1および図2に示すように、本発明の実施の形態における固定砥粒ワイヤ1は、ワイヤ芯線2上にバインダ(固着材)3を介して超砥粒4および一般砥粒5が固定されたものである。ワイヤ芯線2は、ピアノ線、高張力線や高抗張力の非金属繊維線(ファイバ)等の線材であり、線径はφ10μm〜φ300μmである。なお、ワイヤ芯線2の断面形状は円形であるが、多角形とすることも可能である。
【0024】
バインダ3は、熱硬化樹脂やUV硬化樹脂などの合成樹脂系の接着剤である。特にUV硬化樹脂などの光硬化型樹脂を使用すれば、乾燥工程が不要となり、効率良く固定砥粒ワイヤを得ることができる。バインダ3のワイヤ芯線2上への塗付は、電着塗装、静電塗装、吹き付けやディッピングなどの方法による。超砥粒4は、ダイヤモンドまたはCBNを使用する。一般砥粒5は、アルミナ系砥粒(アランダム)、炭化ケイ素系砥粒(カーボランダム)や炭化ホウ素系砥粒などを使用する。
【0025】
超砥粒4および一般砥粒5は、平均粒径が2μm〜40μm、断面のアスペクト比が1.2〜1.6のものを用いる。但し、一般砥粒5の粒径は、超砥粒4の粒径に対して10%〜110%のものを使用する。ここで、断面のアスペクト比は、超砥粒4および一般砥粒5を取り囲む最小容積の直方体を構成する辺のうち最も長い辺(長辺a)と最も短い辺(短辺b)により構成される断面の長辺aと短辺bとの比(長辺a/短辺b)である。
【0026】
この断面のアスペクト比が1.2〜1.6の超砥粒4および一般砥粒5を、粉体の状態でワイヤ芯線2上に向かって吹き付けや静電塗装法などにより飛翔させると、超砥粒4および一般砥粒5は、それぞれ前述の超砥粒4および一般砥粒5を取り囲む最小容積の直方体を構成する6面のうち、抵抗が小さくなる面積のより小さい面をバインダ3の表面に向けるようになる。すなわち、超砥粒4および一般砥粒5は、それぞれの飛翔中に断面の短辺b側をバインダ3の表面に向け、長辺a側がワイヤ芯線2の法線方向に揃うようになり、この断面の短辺b側からバインダ3の表面に突き刺さるようになる。
【0027】
なお、超砥粒4および一般砥粒5は、予め混合した状態で飛翔させてバインダ3の表面に突き刺さらせることが可能であるし、超砥粒4を飛翔させてバインダ3の表面に突き刺さらせた後、一般砥粒5を飛翔させてバインダ3の表面に突き刺さらせることも可能である。また、いずれの場合であっても、固定される砥粒のうち50%以上が超砥粒4となるようにする。
【0028】
そして、本実施形態においては、静電塗装法によりマイナスに帯電させた超砥粒4および一般砥粒5を飛翔させることで、超砥粒4および一般砥粒5は、静電気力によってワイヤ芯線2上のバインダ3に向かって強く引き寄せられる。そして、超砥粒4および一般砥粒5は、この間に、その断面の短辺b側をバインダ3の表面に向け、この断面の短辺b側からバインダ3の表面に突き刺さるようになる。これにより、長辺a側が突き出し高さ方向となるように超砥粒4および一般砥粒5をバインダ3上に配置することができる。
【0029】
なお、超砥粒4については導電性であるため、帯電が不安定となるため、予め非導電性物質によりコーティングされたものを用いることが望ましい。また、一般砥粒についても、導電性のものを使用する際には、同様の理由により、予め非導電性物質によりコーティングされたものを用いることが望ましい。
【0030】
図3は静電塗装法による超砥粒4および一般砥粒5の吹き付け工程を示す概略図である。図3に示すように、超砥粒4および一般砥粒5の吹き付け工程では、バインダ3(図示せず。)の塗付後のワイヤ芯線2の上下に、静電塗装装置のノズル10a,10bをそれぞれ互いに離れた位置に配置し、移動中のワイヤ芯線2に対して異なる方向から超砥粒4および一般砥粒5を飛翔させる。図示例では、ノズル10a,10bは、ワイヤ芯線2に対して180°異なる方向から、それぞれ互いに離れた位置へ超砥粒4および一般砥粒5を飛翔させている。
【0031】
このように、ワイヤ芯線2に対して異なる方向から超砥粒4および一般砥粒5を飛翔させることにより、ワイヤ芯線2の周囲に満遍なく超砥粒4および一般砥粒5を突き出させることができる。また、それぞれ互いに離れた位置へ飛翔させるため、互いのノズル10a,10bから超砥粒4および一般砥粒5を飛翔させるためのエアーの干渉を防止することができ、超砥粒4および一般砥粒5の向きを、断面の短辺b側からバインダ3の表面に突き出させる方向に揃えることができる。
【0032】
なお、ノズルの個数を増やし、ワイヤ芯線2に対してさらに異なる方向から超砥粒4および一般砥粒5を飛翔させる構成とすることも可能である。この場合も、互いのノズルのエアーの干渉を防止するため、それぞれのノズルから互いに離れた位置へ飛翔させるようにする。また、ノズル10a,10bはワイヤ芯線2に対して左右方向に配置したり、斜め方向に配置したりすることも可能である。なお、超砥粒4と一般砥粒5とは予め混合した状態でノズル10a,10bから飛翔させるほか、それぞれのノズル10a,10bから別々に飛翔させることも可能である。超砥粒4と一般砥粒5とを別々に飛翔させることで、バインダ3の表面への吹き付け圧力を別個に制御することができ、それぞれの埋込量を容易にコントロールすることが可能となる。
【0033】
そして、熱硬化やUV硬化により、超砥粒4および一般砥粒5をバインダ3に固着させる。これにより、超砥粒4および一般砥粒5の長辺a側が突き出し高さ方向となった超砥粒4および一般砥粒5の突き出し高さが大きい固定砥粒ワイヤ1が得られる。また、この固定砥粒ワイヤ1では、突出している超砥粒4および一般砥粒5の表面がバインダ3等の接着剤により被覆されていない。なお、超砥粒4および一般砥粒5をバインダ3上に配置する際、それぞれの超砥粒4および一般砥粒5のバインダ3上の突き出し高さhを、その超砥粒4および一般砥粒5の高さh0の40%〜80%となるようにする。また、超砥粒4および一般砥粒5は、ワイヤ芯線2上のバインダ3の表面積の20〜95%に配置されるようにする。
【0034】
こうして得られた固定砥粒ワイヤ1では、上記のように、それぞれの突き出し高さを大きくした超砥粒4の間に一般砥粒5が配置され、超砥粒4と一般砥粒5との間に研削液を取り込むことが可能な間隙6が形成されるため、スライス加工する際に研削液が固定砥粒ワイヤ1の表面に保持される。したがって、この固定砥粒ワイヤ1を用いてスライス加工を行うと、超砥粒4の高い切削精度が得られるとともに、研削液が固定砥粒ワイヤ1の表面に保持されるので、研削面への研削液の供給が十分になされるようになり、固定砥粒ワイヤ1の寿命を延ばすことができる。
【0035】
また、この方法により製造される固定砥粒ワイヤ1では、バインダ3の表面に突き刺さった超砥粒4および一般砥粒5の粉体のみがバインダ3に固定されるため、従来の超砥粒を電着したもののように超砥粒4および一般砥粒5が重なって複数層となることがなく、ワイヤ芯線2の周囲に1層のみが固定されたものとなる。そのため、加工面に接触する超砥粒4および一般砥粒5の固定砥粒ワイヤ1の単位長さ当たりの数が多くなる。
【0036】
また、この固定砥粒ワイヤ1には、超砥粒4および一般砥粒5の粉体が断面の短辺b側からバインダ3の表面に突き刺さらせているため、長辺a側から突き刺さらせた場合よりも数多くの超砥粒4および一般砥粒5がワイヤ芯線2の周囲に配置されたものとなる。したがって、超砥粒4および一般砥粒5の摩滅までの時間が長く、長寿命の固定砥粒ワイヤ1となる。
【0037】
また、本実施形態における固定砥粒ワイヤ1は、固定される砥粒のうち50%以上が超砥粒4であることによって、超砥粒4の高い切削精度を生かしつつ、超砥粒4と一般砥粒5との間に形成される間隙6に効率良く研削液が取り込まれるようになっている。これにより、研削液の循環が良くなり、切れ味の低下が防止されている。
【0038】
また、本実施形態における固定砥粒ワイヤ1では、超砥粒4および一般砥粒5は、両方でワイヤ芯線2上のバインダ3の表面積の20%〜95%に砥粒が固定されたものであるため、バインダ3の表面に研削液の通路となる隙間6が十分に確保されており、研削液の循環が良く、切れ味の低下が防止されている。
【実施例】
【0039】
本発明に係る固定砥粒ワイヤについて、表1に示す試験条件によりスライス加工試験を行った。
【表1】

【0040】
図4は断面のアスペクト比が1、1.2、1.4、1.6、1.8の超砥粒および一般砥粒を用い、超砥粒と一般砥粒の体積比を変えた固定砥粒ワイヤによりスライス加工試験を行ったときのウエハ内の厚みのばらつきを測定した結果を示している。同図(a)〜(c)はニッケル(Ni)コートされたダイヤモンド(DIA)を非導電性物質としての樹脂によりコーティングした超砥粒と、一般砥粒としてのGC(緑化炭化珪素系)砥粒とを、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定した固定砥粒ワイヤである。
【0041】
同図(d)〜(f)はダイヤモンドを非導電性物質としての樹脂によりコーティングした超砥粒と、一般砥粒としてのGC砥粒とを、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定した固定砥粒ワイヤである。同図(g)〜(i)はニッケルコートされたダイヤモンドの超砥粒(樹脂コーティング無し)と、一般砥粒としてのGC砥粒とを、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定した固定砥粒ワイヤである。また、同図(j)〜(l)は、ニッケルコートされたダイヤモンドの超砥粒と、一般砥粒としてのGC砥粒とを従来法により固定した固定砥粒ワイヤ(砥粒方向性無し)である。
【0042】
図4の(a)、(b)、(d)、(e)、(g)、(h)に示されるように、断面のアスペクト比が1.2、1.4、1.6ではウエハ厚みのばらつきが小さいが、アスペクト比が1.2未満である1および1.6超である1.8の場合、ウエハ厚みのばらつきが大きくなった。アスペクト比が1.2未満の場合には、砥粒が飛翔によって向きを変えにくく、砥粒の向きが不揃いになっているためである。一方、アスペクト比が1.6超の場合には、砥粒が折れやすくなっているため、ウエハ厚みのばらつきが大きくなっていると考えられる。
【0043】
一方、図4の(c)、(f)、(i)に示されるように、超砥粒よりも一般砥粒の割合が多い(超砥粒が50%未満)場合には、ウエハ厚みのばらつきが大きくなった。また、図4の(j)〜(k)に示されるように、砥粒方向性無しの固定砥粒ワイヤでは、砥粒の向きが不揃いであるため、図4の(a)、(b)、(d)、(e)、(g)、(h)と比較して全体にウエハ厚みのばらつきが大きい結果となった。
【0044】
また、図5に断面のアスペクト比が1.4の超砥粒および一般砥粒を用い、超砥粒と一般砥粒の体積比を変えた固定砥粒ワイヤによりスライス加工したウエハ内の厚みばらつき(μm)を比較したグラフを、図6にそれぞれの固定砥粒ワイヤの使用前後の径(μm)を比較したグラフをそれぞれ示した。
【0045】
なお、図5および図6において、各グラフはそれぞれ左から順に、(1)ニッケルコートされたダイヤモンドを非導電性物質としての樹脂によりコーティングした超砥粒と、一般砥粒としてのGC砥粒とを、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定した固定砥粒ワイヤ、(2)ダイヤモンドを非導電性物質としての樹脂によりコーティングした超砥粒と、一般砥粒としてのGC砥粒とを、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定した固定砥粒ワイヤ、(3)ニッケルコートされたダイヤモンドの超砥粒(樹脂コーティング無し)と、一般砥粒としてのGC砥粒とを、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定した固定砥粒ワイヤ、(4)ニッケルコートされたダイヤモンドの超砥粒と、一般砥粒としてのGC砥粒とを従来法により固定した固定砥粒ワイヤ(砥粒方向性無し)である。
【0046】
図5の(a)〜(d)に示されるように、断面のアスペクト比が1.4の超砥粒および一般砥粒を、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定した固定砥粒ワイヤでは、砥粒方向性無しの固定砥粒ワイヤと比較して、超砥粒および一般砥粒の体積比に関わらず、ウエハ内の厚みばらつきが約半分以下であり、高精度な加工が可能であることが分かった。一方、同図の(e)、(f)に示されるように、超砥粒よりも一般砥粒の割合が多い(超砥粒が50%未満)場合には、ウエハ厚みのばらつきが大きくなった。
【0047】
また、図6の(b)、(c)、(d)に示されるように、超砥粒と一般砥粒との体積比が9〜7:1、6〜4:1、3〜1:1の固定砥粒ワイヤでは、同図(a)の超砥粒のみの固定砥粒ワイヤと比較して、使用前後での製品径の減少幅が小さく、長寿命であることが確認できた。特に、同図(c)の超砥粒と一般砥粒との体積比が6〜4:1の固定砥粒ワイヤでは使用前後での製品系の減少幅が最小であった。一方、同図(e)、(f)に示されるように、超砥粒よりも一般砥粒の割合が多い(超砥粒が50%未満)場合には、使用前後での製品系の減少幅が最大であった。
【0048】
以上のように、断面のアスペクト比が1.2〜1.6の超砥粒および一般砥粒を、断面の短辺側からバインダの表面に突き出させて固定した本発明の固定砥粒ワイヤによれば、超砥粒の高い切削精度が得られるとともに、研削液が固定砥粒ワイヤの表面に保持されるので、研削面への研削液の供給が十分になされるようになり、固定砥粒ワイヤの寿命を延ばすことができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の固定砥粒ワイヤは、太陽電池、半導体シリコン、磁性体、サファイアやSiCなどの結晶系材料のスライス加工に有用である。
【符号の説明】
【0050】
1 固定砥粒ワイヤ
2 ワイヤ芯線
3 バインダ
4 超砥粒
5 一般砥粒
6 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ芯線上にバインダを介して砥粒が固定された固定砥粒ワイヤであって、
前記砥粒は、断面のアスペクト比が1.2〜1.6の超砥粒および一般砥粒であり、前記断面の短辺側から前記バインダの表面に突き出させて固定されたものである固定砥粒ワイヤ。
【請求項2】
前記超砥粒および一般砥粒のうち、少なくとも導電性の超砥粒および一般砥粒は、非導電性物質によりコーティングされたものである請求項1記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項3】
前記砥粒のうち50%以上が前記超砥粒である請求項1または2に記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項4】
前記超砥粒および一般砥粒が、両方で前記ワイヤ芯線上のバインダの表面積の20%〜95%に固定された請求項3記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項5】
前記一般砥粒の粒径は、前記超砥粒の粒径に対して10%〜110%である請求項1から4のいずれかに記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項6】
前記バインダが光硬化型樹脂であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項7】
ワイヤ芯線上にバインダを介して砥粒が固定された固定砥粒ワイヤの製造方法であって、
前記ワイヤ芯線上にバインダを塗付すること、
断面のアスペクト比が1.2〜1.6の超砥粒および一般砥粒を、粉体の状態で前記断面の短辺側から前記バインダの表面に突き出させること
を含む固定砥粒ワイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−152830(P2012−152830A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11179(P2011−11179)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】