説明

圧力変動吸着型酸素濃縮装置

【課題】原料空気中の水分を効率よく除去可能な除湿器を搭載した圧力変動吸着型酸素濃縮装置を提供する。
【解決手段】酸素よりも窒素を選択的に吸着する吸着剤を充填した吸着床と、該吸着床に原料である加圧空気を供給し且つ該吸着床からの排気を吸引除去する空気供給手段120と、該吸着床から生成した酸素濃縮空気を使用者に供給する酸素供給手段を具備した圧力変動吸着型酸素濃縮装置1であり、空気中の水分を分離する水分透過膜131を備え、且つ該水分透過膜131の1次側が該空気供給手段120と該吸着床との間の加圧空気を供給する導管に接続され、該水分透過膜131の2次側が該吸着床と該空気供給手段120との真空排気用の導管に接続された水分分離手段を備えることを特徴とする圧力変動吸着型酸素濃縮装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中から酸素濃縮ガスを分離し、呼吸器疾患患者などの使用者に供給する圧力変動吸着型酸素濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、喘息、肺気腫症、慢性気管支炎等の呼吸器系疾患に苦しむ患者が増加する傾向にあるが、その最も効果的な治療法の一つとして酸素吸入療法があり、酸素ボンベあるいは空気中から酸素濃縮ガスを直接分離する酸素濃縮装置が開発され、酸素吸入療法のための治療装置として使用されている。
【0003】
このような酸素濃縮装置として、窒素を選択的に吸着し得る吸着剤を充填した吸着筒に、コンプレッサで圧縮空気を導入して加圧状態で窒素を吸着させることにより、酸素濃縮ガスを得る吸着工程と、吸着筒の内圧を減少させて窒素を脱着させ吸着剤の再生を行う脱着工程とを交互に行うことにより酸素濃縮ガスを連続的に生成する吸着型酸素濃縮装置がある。脱着工程時の圧力が加圧状態から大気圧付近まで開放し吸着窒素を排気する圧力変動吸着(PSA:Pressure Swing Adsorption)型と、真空ポンプを用いて吸着筒内圧力を大気圧以下まで減圧し、より脱着効率を高めた真空圧力変動吸着(VPSA:Vacuum Pressure Swing Adsorption)型の2つの種類が存在する。
【0004】
かかる酸素濃縮装置は、吸着剤として5A型や13X型のナトリウムゼオライト、Li−X型ゼオライトなどを使用し、加圧状態での空気成分の吸着率の違いから、窒素を吸着し未吸着の酸素を取出す装置である。吸着剤の特性として、酸素よりも更に水の吸着率が高い為、空気中の水分は全て吸着除去され、生成された酸素濃縮ガスはほぼ絶乾に近い乾燥状態にある。一方で吸着筒に充填された吸着剤が水分を吸着すると、空気中の酸素ガスよりも窒素ガスを選択的に吸着するという吸着能も低下することが指摘されている。このため、通常、吸着筒に供給される原料空気は乾燥させたり、加熱させたりするなどの対応が行なわれている。
【0005】
プラント等の大型装置では、熱交換器を介し空気中の水分を凝縮分離する冷却法や、アルミナ等の水分吸着材を充填した乾燥筒を介して乾燥空気を得る吸着法が採用されている。しかし医療用の小型酸素濃縮装置では、上記のような乾燥工程を伴う2段階処理は、機器の複雑化、大型化、コスト増を招き、更にはエネルギーロスを引き起こすなどの理由によりほとんど採用されていない。新たな方法として、特開平2−99113号公報に記載のように、水分透過膜を使用し、加圧空気中の水分を分離膜を介して吸着筒からの再生パージガス中に移行させ、乾燥空気を得る方法が知られている。
【0006】
絶乾状態にある酸素濃縮空気を長期間、多量に使用者に吸入させると、例えば、上気道粘膜の繊毛運動低下、体内水分,熱量の損失及び喀痰の乾燥による喀出困難といった問題が生じる。そこで、このような問題を回避するために、使用者に供給する酸素富化空気は、吸入する前に適度に加湿しておくことが好ましい。このような絶乾状態に近い酸素濃縮ガスを加湿するために、PSA型の酸素濃縮装置では加湿器が設けられる。かかる加湿器には加湿源として水を用いたバブリング式、表面蒸発式の加湿器が用いられる他、特開平8−141087号公報、特開平10−287403号公報に記載のような水分透過膜を使用し、原料加圧空気あるいは脱着再生ガス中の水分を製品酸素ガスの加湿に使用する方法を利用した無給水式加湿器が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平2−99113号公報
【特許文献2】特開平8−141087号公報
【特許文献3】特開平10−287403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
原料空気中に含まれる水分は、吸着剤の性能劣化を引き起こす。結果として酸素濃縮器の場合は製品酸素濃縮ガスの酸素濃度の低下、長期耐久性の低下を招き、更にロータリーバルブを用いて流路を切り替え、吸脱着制御を行う装置の場合には、摺動面に水分が入るとメニスカス力が働き回転トルクの上昇を引き起こし、機器停止を引き起こす可能性もある。
【0009】
これを防ぐ手段として上記の水分透過膜を使用した除湿器を採用することが出来る。このような除湿器は、他の気体よりも水蒸気を選択的に透過させる水分透過膜、例えば、官能基としてスルフォン酸基を配位させた水分透過膜などを用いて、水分透過膜内外の水蒸気の分圧差を利用し、原料空気中の水分を絶乾状態の酸素濃縮ガス、或いは再生パージガス中へ透過させて加湿(除湿)するものである。
【0010】
原料空気中の水分を除去する為には、湿度ゼロの製品酸素濃縮ガスと原料加圧空気との間の水分交換を行うのが水蒸気の分圧差を最大限に活用する上でベストである。しかし、生成供給される製品酸素濃縮ガスに対して原料空気中の水分量の方が多い為、製品酸素濃縮ガスが供給中に外気に冷やされて結露を起こす可能性があり、特に酸素供給流量が少ない場合には、除湿・加湿の水分コントロールが困難となる。
【0011】
一方、PSAの脱着工程で発生する排気ガスと原料加圧空気との間で水分交換を行う場合、かかる排気ガス中には水分が含まれており、充分な水蒸気分圧差が確保できないといった問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に対して本願発明は、以下の酸素濃縮装置を提供する。すなわち、本願発明は、酸素よりも窒素を選択的に吸着する吸着剤を充填した吸着床と、該吸着床に原料である加圧空気を供給し且つ該吸着床からの排気を吸引除去する空気供給手段と、該吸着床から生成した酸素濃縮ガスを使用者に供給する酸素供給手段を具備した圧力変動吸着型酸素濃縮装置であり、空気中の水分を分離する水分透過膜を備え、且つ該水分透過膜の1次側が該空気供給手段と該吸着床との間の加圧空気を供給する導管に接続され、該水分透過膜の2次側が該吸着床と該空気供給手段との真空排気用の導管に接続された水分分離手段を備えることを特徴とするVPSA型の圧力変動吸着型酸素濃縮装置を提供するものである。
【0013】
また本願発明は、かかる水分分離手段が、中空糸状水分透過膜及びそれを含む筐体を供え、該中空糸状水分透過膜の中空側が該水分透過膜の1次側、該中空糸状水分透過膜の外側を該水分透過膜の2次側とすることを特徴とする圧力変動吸着型酸素濃縮装置であり、特に該水分透過膜がパーフルオロスルホン酸型イオン交換中空糸膜であることを特徴とする圧力変動吸着型酸素濃縮装置を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の圧力変動吸着型酸素濃縮装置の実施態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態である圧力変動吸着型酸素濃縮装置を例示した概略装置構成図である。
【0015】
かかる圧力変動吸着型(VPSA型)酸素濃縮装置1は、外部空気取り込みフィルター101、空気供給手段120、切り替え弁104、吸着筒105、逆止弁106、製品タンク107、調圧弁108、流量設定手段109、フィルター110、加湿器111を備える。これにより外部から取り込んだ原料空気から酸素ガスを濃縮した酸素濃縮ガスを製造することができる。
【0016】
先ず、外部から取り込まれる原料空気は、塵埃などの異物を取り除くための外部空気取り込みフィルター101などを備えた空気取り込み口から取り込まれる。このとき、通常の空気中には、約21%の酸素ガス、約77%の窒素ガス、0.8%のアルゴンガス、水蒸気ほかのガスが1.2%含まれている。かかる装置では、呼吸用ガスとして必要な酸素ガスのみを濃縮して取り出す。
【0017】
この酸素ガスの取り出しは、原料空気を酸素ガス分子よりも窒素ガス分子を選択的に吸着するゼオライトなどからなる吸着剤が充填された吸着筒105に対して、切り替え弁104によって対象とする吸着筒105を順次切り替えながら、原料空気を空気供給手段120の加圧ポートである加圧ポンプ121により加圧して供給し、吸着筒105内で原料空気中に含まれる約77%の窒素ガスを選択的に吸着除去する。通常、窒素ガスとともに水蒸気も吸着除去されるために、吸着筒105に供給される加圧空気を一旦、中空糸水分透過膜131を内蔵した除湿器モジュール130の中空糸内側を通し、除湿した後に吸着筒に供給する。一方、中空糸外側は吸着筒105からの脱着空気を真空ポンプ122を介して真空除去するVPSAの真空排気ラインに接続し、除湿に必要な水分透過膜を介した水蒸気分圧差を充分に確保する。
【0018】
ここで、本発明に使用する除湿器130について説明する。この除湿器130は、前述のように中空糸状の水分透過膜モジュールを備えており、水分透過膜を形成した中空糸131、水分透過膜モジュール本体及び中空糸の内側(1次側)と外側(2次側)の出入り口を備える。水分透過膜を形成した中空糸131の内側に加圧ポンプで加圧された原料空気が中空糸内部を通して吸着筒105に供給される。
【0019】
この水分透過膜モジュールの実施形態としては、例えば、水分透過膜が形成された中空糸131を適当な長さに切断し、これを多数本束ねた中空糸131の束を作成して、この中空糸束の両端部の中空が塞がらないように両端をエポキシ樹脂のような樹脂で水分透過膜モジュール本体の内壁部に一体に固めて納め、図1に例示したようにモジュ−ル化したものを好適に使用することができる。
【0020】
図1に例示した実施形態例では水分透過膜を形成した中空糸モジュールを使用しているが、本発明は、このような中空糸膜モジュールに限定されることはなく、例えば、平膜モジュールや平膜をスパイラル状に形成したモジュールを用いることもできる。このとき、前述の平膜モジュールでは、例えば、良好な通気性を有する平板状支持体の両面に水分透過膜を形成し、水分透過膜支持体の表裏両面に圧力差を付けることによって、加圧空気側(1次側)の水蒸気を水分透過膜の表面に溶解させて水分透過膜内を拡散移動させた後、真空側(2次側)の水分透過膜の表面から離脱させるという原理を使用したものがある。このような平膜モジュールでは、水分透過膜膜を形成した前記平板状支持体は隔壁を挟んだサンドイッチ構造を繰り返し単位として、これを複数個積層したものが通常使用される。
【0021】
また、本発明では前記水分透過膜として周知のものを使用することができ、例えば、特開昭54−152679号公報、特開昭60−183025号公報、特開昭61−195117号公報、特開昭62−42723号公報等に記載された吸水性高分子膜、特開昭53−86684号公報、特開昭60−257819号公報、特開昭60−261503号公報、特開昭62−42772号公報等に記載されたポリスルホン多孔膜、ポリプロピレン多孔膜、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜およびこれらと他の膜との複合膜、特開昭62−42723号公報等に記載された芳香族ポリイミド膜を挙げることができ、更に、パーフルオロスルホン酸系イオン交換膜、炭化水素スルフォン酸系イオン交換膜、またイオン交換膜と吸水性高分子膜との複合膜などを例示することができる。また、市場に供されている水分透過膜を挙げるならば、その商品名/商標名が、NAFION膜(DuPont社製)、ダウ膜(ダウケミカル製)、フレミオン(旭硝子製)、アシプレックス(旭化成製)などと称されているものを例示することができる。
【0022】
その中でも、水蒸気の分圧差を利用し、加圧及び真空の圧力差に伴う機械的強度と水分透過性能を実現する上で中空糸型の水分透過膜を使用するのが好ましく、強度、製膜性、透過性能の点からパーフルオロスルホン酸型イオン交換中空糸膜を使用することが出来る。
【0023】
前記の吸着筒105としては、前記吸着剤を充填した円筒状容器で形成され、通常、1筒式、2筒式の他に3筒以上の多筒式が用いられるが、連続的かつ効率的に原料空気から酸素富化空気を製造するためには、多筒式の吸着筒105を使用することが好ましい。また、前記の空気供給手段120としては、揺動型空気圧縮機が用いられるほか、スクリュー式、ロータリー式、スクロール式などの回転型空気圧縮機が用いられる場合もある。VPSAとして加圧ポンプ121及び真空ポンプ122の2つの機能が必要である為、2ヘッドのコンプレッサーが使用される。また、この空気圧縮装置120を駆動する電動機の電源は、交流であっても直流であってもよい。
【0024】
前記吸着筒105で吸着されなかった酸素ガスを主成分とする酸素富化空気は、吸着筒105へ逆流しないように設けられた逆止弁106を介して、製品タンク107に流入する。
【0025】
なお、吸着筒105内に充填された吸着剤に吸着された窒素ガスは、新たに導入される原料空気から再度窒素ガスを吸着するために吸着剤から脱着させる必要がある。このために、空気供給手段120の加圧ポンプ121によって実現される加圧状態から、切り替え弁104によって真空減圧状態に切り替え、吸着されていた窒素ガスを脱着させて吸着剤を再生させる。この脱着工程において、その脱着効率を高めるため、吸着工程中の吸着筒の製品端側或いは製品タンク107から酸素富化空気をパージガスとして逆流させるようにしてもよい。
【0026】
原料空気から酸素濃縮空気が製造され、製品タンク107へ蓄えられる。この製品タンク107に蓄えられた酸素濃縮空気は、例えば95%といった高濃度の酸素ガスを含んでおり、調圧弁108や流量設定手段109などによってその供給流量と圧力とが制御されながら、加湿器121へ供給される。水加湿器あるいは同様の中空糸型の無給水式加湿器によって加湿したのち、呼吸器疾患患者等の使用者に供給される。
【実施例】
【0027】
内径250μm、長さ200mmのパーフルオロスルホン酸型イオン交換中空糸膜(ナフィオン膜)、1000本使用し、両端をエポキシ樹脂で固定し中空糸水分透過膜モジュールを作成した。空気供給手段としてはThomas 社製の2ヘッドタイプのレシプロ型コンプレッサを使用し、中空糸内側にはコンプレッサから平均150kPaABSの圧力で加圧空気を供給し、吸着筒に供給した。酸素濃縮器の吸着床には4本の吸着筒を順次ロータリーバルブで切替えて使用する多筒式吸着筒を採用し、吸着材にはLi-X型ゼオライトを使用した。一方、吸着筒からの脱着空気は、上記コンプレッサの真空ポンプ機能を利用し、平均圧力50kPaABSで引き、コンプレッサと吸着筒の間の真空ラインを中空糸膜モジュールの2次側(外側)と接続することにより、原料空気側の水分を真空排気ガス中に移動させ除湿した。
【0028】
35℃相対湿度90%RHの外気環境下で実験を行った結果、除湿器なしでは結露する条件下であるが、上記除湿器を使用することにより、35℃で60%RH まで、原料空気の水分を除湿することができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の圧力変動吸着型酸素濃縮装置の実施態様例の模式図。
【符号の説明】
【0030】
1:酸素濃縮装置
101:外部空気取り込みフィルター
104:切り替え弁
105:吸着筒
106:逆止弁
107:製品タンク
108:調圧弁
109:流量設定手段
110:フィルター
111:加湿器
120:空気供給手段
121:加圧ポンプ
122:真空ポンプ
130:除湿器
131:中空糸水分透過膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素よりも窒素を選択的に吸着する吸着剤を充填した吸着床と、該吸着床に原料である加圧空気を供給し且つ該吸着床からの排気を吸引除去する空気供給手段と、該吸着床から生成した酸素濃縮ガスを使用者に供給する酸素供給手段を具備した圧力変動吸着型酸素濃縮装置であり、空気中の水分を分離する水分透過膜を備え、且つ該水分透過膜の1次側が該空気供給手段と該吸着床との間の加圧空気を供給する導管に接続され、該水分透過膜の2次側が該吸着床と該空気供給手段との真空排気用の導管に接続された水分分離手段を備えることを特徴とする圧力変動吸着型酸素濃縮装置。
【請求項2】
該水分分離手段が、中空糸状水分透過膜及びそれを含む筐体を供え、該中空糸状水分透過膜の中空側が該水分透過膜の1次側、該中空糸状水分透過膜の外側を該水分透過膜の2次側とすることを特徴とする請求項1記載の圧力変動吸着型酸素濃縮装置。
【請求項3】
該水分透過膜がパーフルオロスルホン酸型イオン交換中空糸膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧力変動吸着型酸素濃縮装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−44116(P2007−44116A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−229293(P2005−229293)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】