説明

圧力容器及びその製造方法

【課題】複数の板部材が摩擦攪拌接合法によって接合されてなる圧力容器において、容器の寸法精度を大幅に低下させることなく、高い気密性を実現することができる構成を得る。
【解決手段】複数の板部材11,11には、それぞれ、板部材同士が接合された状態で壁部12の側面外方側に凹溝部1aを構成する切り欠き溝部11aを形成する。この切り欠き溝部11aにおいて、横断面視で少なくとも一つの角部分にR部11bを形成する。上記凹溝部11a内に該凹溝部11aの内壁面に密着するように形成された柱状のスペーサ部材12,13を配置した状態で、上記板部材11,11同士の境界部分と該板部材11及びスペーサ部材12,13の境界部分とを、該板部材11の側面外方側及び上下面側で上記摩擦攪拌接合法によって接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の板部材によって壁部を構成するように該板部材を摩擦攪拌接合法によって接合することにより、内部に減圧若しくは加圧のための圧力空間が形成される圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の板部材によって壁部を構成するように該板部材を接続することにより、内部に減圧若しくは加圧のための圧力空間が形成される圧力容器が知られている。このような圧力容器は、例えば、PVD(物理気相成長法)やCVD(化学気相成長法)などの薄膜形成を行う装置に用いられている。
【0003】
上記圧力容器は、例えば特許文献1に開示されているように、壁部を構成する複数の板部材を互いに接合することによって形成される。この接合方法としては、溶接やボルト締結等の方法以外に、上記特許文献1に開示されるような摩擦攪拌接合法などが知られている。この摩擦攪拌接合法とは、接合する部材に対してピンを回転させながら押し付けて、該ピンの先端で部材内に塑性流動を生じさせることにより部材同士を接合する方法であり、別部材を溶かして部材同士を接合する溶接などに比べて、高い接合強度が得られる。
【0004】
一方、上記摩擦攪拌接合法は、上述のとおり、ピンを回転させることによって、部材内に塑性流動を生じさせる方法であるため、厚い部材同士の場合には、部材内を十分に攪拌することができず、部材同士の十分な接合強度が得られない可能性がある。そのため、圧力容器などのように、比較的、肉厚の厚い部材同士を接合して構造体を形成する場合には、上記特許文献1に開示されているように、別部材を用いて、接合する部分の肉厚ができるだけ薄くなるようにしている。
【0005】
詳しくは、上記特許文献1の容器(真空容器)の製造方法は、接合する板部材の接合部分に、該板部材が接合された状態で断面視階段状の凹溝部となるような切り欠き溝部を形成し、該凹溝部の底部を容器の壁部の側面外方側から摩擦攪拌接合法によって接合する。そして、上記凹溝部内に直方体状の第1スペーサ部材(挿入板)を配置して、該第1スペーサ部材の全体を、容器の壁部の側面外方側から摩擦攪拌接合法によって、上記凹溝部の内周面に接合する。その後、上記凹溝部内に別の直方体状の第2スペーサ部材(挿入板)を配置し、該第2スペーサ部材もその全体を、容器の壁部の側面外方側から摩擦攪拌接合法によって、上記第1スペーサ部材及び板部材に接合する。
【特許文献1】特開2005−131666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1のような構成の場合には、比較的薄い部材同士しか接合できない摩擦攪拌接合法を用いて、圧力容器などの厚い壁部を形成できる反面、上記スペーサ部材の全体に摩擦攪拌接合法によって塑性流動を生じさせて、板部材に接合することになるため、該スペーサ部材及び板部材の歪みが大きくなり、容器の寸法精度が大幅に低下するという問題が生じる。
【0007】
これに対し、上記摩擦攪拌接合法によって接合する部分を減らすことにより、上記スペーサ部材及び板部材の歪みを抑えることが考えられるが、単に接合部分を減らすと、スペーサ部材と板部材との間に隙間が生じ、圧力容器で最も重要な気密性を確保できなくなる可能性がある。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数の板部材が摩擦攪拌接合法によって接合されてなる圧力容器において、容器の寸法精度を大幅に低下させることなく、高い気密性を実現することができる構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る圧力容器では、板部材同士を接合した状態で壁部の側面外方側に構成される凹溝部内に、柱状のスペーサ部材を配置した状態で、該板部材同士の境界部分や該板部材とスペーサ部材との境界部分を、板部材の側面外方側及び上下面側で、摩擦攪拌接合法によって接合することで、接合部分をできるだけ少なくしつつ、該接合部分の気密性を確保できるようにした。
【0010】
具体的には、第1の発明では、複数の板部材がそれぞれ壁部を構成するように、該板部材を互いに摩擦攪拌接合法によって接合してなる圧力容器を対象とする。
【0011】
そして、上記複数の板部材には、それぞれ、板部材同士が接合された状態で上記壁部の側面外方側に凹溝部を構成する切り欠き溝部が形成されていて、上記切り欠き溝部は、横断面視で少なくとも一つの角部分にR部が形成されており、上記凹溝部内に該凹溝部の内壁面に密着するように形成された柱状のスペーサ部材を配置した状態で、上記板部材同士の境界部分と該板部材及びスペーサ部材の境界部分とが、該板部材の側面外方側及び上下面側で上記摩擦攪拌接合法によって接合されてなるものとする。
【0012】
以上の構成により、接合される板部材の切り欠き溝部によって構成される凹溝部内に、スペーサ部材が配置された状態で、上記板部材同士の境界部分と該板部材及びスペーサ部材の境界部分とが、該板部材の側面外方側及び上下面側で摩擦攪拌接合法によって接合され、上記境界部分全体を完全に接合することができる。したがって、従来のように、上記スペーサ部材全体を摩擦攪拌接合法によって潰さなくても、接合強度を確保しつつ、気密性を確保することができる。
【0013】
しかも、上記切り欠き溝部は、横断面視で少なくとも一つの角部分にR部が形成されているため、上述のように、上記境界部分を板部材の上下面側で摩擦攪拌接合法によって接合する場合、上記R部に沿ってピンを連続的に移動させることができ、連続して摩擦攪拌接合を行うことができる。したがって、上記境界部分の角部で摩擦攪拌接合を中断する必要がなくなるため、作業性の向上を図れる。
【0014】
上述の構成において、上記R部は、上記板部材の切り欠き溝部において、上記スペーサ部材が該板部材の側面側で摩擦攪拌接合法によって該板部材と接合されない角部分に形成されているのが好ましい(第2の発明)。
【0015】
これにより、上記R部の形成された角部分では、板部材の切り欠き溝部によって構成される凹溝部の内壁面とスペーサ部材とがより密着するため、該内壁面とスペーサ部材との間の気密性を向上することができる。しかも、上記R部を、スペーサ部材が板部材の側面側で摩擦攪拌接合法によって該板部材と接合されない角部分に形成することで、当該角部分を板部材の上下面側で連続して摩擦攪拌接合を行うことができ、作業性の向上を図れる。
【0016】
また、上記凹溝部は、横断面視で略階段状に形成されており、上記スペーサ部材は、複数の部材によって構成されていて、それぞれの部材と上記板部材との境界部分が上記板部材の側面外方側及び上下面側で上記摩擦攪拌接合法によって接合されているものとする(第3の発明)。
【0017】
このように、接合する板部材同士の間に形成される凹溝部を、横断面視で階段状に形成し、該凹溝部内に、複数の部材からなるスペーサ部材を配置して接合することで、該スペーサ部材と板部材との接合箇所を増やすことができ、接合強度及び気密性の向上を図れる。しかも、上述のような階段形状にすることで、板部材の凹溝部の内壁面に対して密着するスペーサ部材の面の数を増やすことができるため、圧力容器の壁部の接合部分の気密性を高めることができる。
【0018】
また、上記スペーサ部材を構成する複数の部材同士は、その境界部分が上記板部材の上下面側で上記摩擦攪拌接合法によって接合されているのが好ましい(第4の発明)。こうすることで、スペーサ部材を構成する複数の部材同士も、摩擦攪拌接合法によって強固に接合することができるため、圧力容器の壁部の接合強度及び該圧力容器の気密性の向上をより確実に図れる。
【0019】
また、上記スペーサ部材を構成する複数の部材は、上記凹溝内に板部材の厚み方向に積層するように配置されていて、上記複数の部材同士が上面視で幅方向略中央部分で上記壁部の側面外方側から摩擦攪拌接合法によって接合されているのが好ましい(第5の発明)。
【0020】
これにより、スペーサ部材を構成する複数の部材が、上面視で幅方向に長い場合でも、その幅方向略中央部分で摩擦攪拌接合法によって互いに接合されるため、圧力容器の壁部の接合強度及び該圧力容器の気密性の向上をさらに確実に図れる。
【0021】
また、上記スペーサ部材を構成する複数の部材同士の間には、流体が流れるための流路が形成されているのが好ましい(第6の発明)。このように、スペーサ部材を構成する複数の部材同士の間に、流体が流れるための流路を設けることで、該流体の流路を別に設ける必要がなくなるので、その分の配管が不要になって、コスト低減を図れるとともに、配管スペースも不要になって、容器周辺の構成のコンパクト化を図れる。
【0022】
第7の発明は、圧力容器の製造方法に関するものである。この第7の発明によれば、上記第1の発明のような構成の圧力容器を得ることができる。
【0023】
具体的には、複数の板部材がそれぞれ壁部を構成するように該板部材を互いに摩擦攪拌接合法によって接合してなる圧力容器の製造方法を対象とする。
【0024】
そして、上記複数の板部材同士の接合部分に、それぞれ、該板部材同士を接合した状態で凹溝部を構成し且つ少なくとも一つの角部分にR部を有する切り欠き溝部を形成する切り欠き溝形成工程と、上記板部材同士を組み合わせた状態で上記切り欠き溝部の底部同士を上記壁部の側面外方側から摩擦攪拌接合法により接合する板部材接合工程と、上記凹溝部内にスペーサ部材を配置して、該スペーサ部材と上記板部材との境界部分を、該板部材の側面外方側及び上下面側で摩擦攪拌接合法により接合するスペーサ部材接合工程と、を備えているものとする。
【0025】
以上の方法により、接合される板部材の切り欠き溝部によって構成される凹溝部内に、スペーサ部材を配置した状態で、該スペーサ部材と板部材との境界部分が、該板部材の側面外方側及び上下面側で摩擦攪拌接合法によって接合されるため、該境界部分を強固に且つシールするように接合することができる。したがって、従来構成のように、スペーサ部材の全体を摩擦攪拌接合で潰すことなく、十分な接合強度及び気密性を得ることができる。したがって、容器全体の寸法精度を低下させることなく、容器の気密性を確保することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明に係る圧力容器によれば、板部材に横断面視で少なくとも一つの角部分にR部を有する切り欠き溝部を形成して、板部材同士を接合した状態で該切り欠き溝部によって構成される凹溝部内にスペーサ部材を配置した状態で、板部材同士の境界部分と該板部材とスペーサ部材との境界部分とを、該板部材の側面外方側及び上下面側で摩擦攪拌接合法によって接合することで、容器の寸法精度を大幅に低下させることなく、該容器の接合強度及び気密性を確保することができる。
【0027】
また、第2の発明によれば、上記R部は、上記スペーサ部材が板部材の側面外方側で該板部材と接合されない角部分に形成されているため、容器の気密性の向上を図れるとともに、上記境界部分の板部材の上下面側を摩擦攪拌接合法によって接合する際の作業性の向上を図れる。
【0028】
また、第3の発明によれば、上記凹溝部は、横断面視で略階段状に形成されていて、上記スペーサ部材を構成する複数の部材は、上記板部材との境界部分が、該板部材の側面外方側及び上下面側で摩擦攪拌接合法によって接合されているため、容器の壁部の接合強度及び気密性の向上を図れる。
【0029】
また、第4の発明によれば、上記スペーサ部材を構成する複数の部材同士は、境界部分が板部材の上下面側で摩擦攪拌接合法によって接合されているため、容器の壁部の接合強度及び気密性の向上をより確実に図れる。
【0030】
また、第5の発明によれば、上記スペーサ部材を構成する複数の部材は、上記凹溝部内で厚み方向に積層され、該部材同士が上面視で幅方向中央部分で壁部の側面外方側から摩擦攪拌接合法によって接合されているため、容器の壁部の接合強度及び気密性の向上をさらに確実に図れる。
【0031】
さらに、第6の発明によれば、上記スペーサ部材を構成する複数の部材同士の間には、流体が流れるための流路が形成されているため、圧力容器周辺の構成を低コスト且つコンパクトな構成にすることができる。
【0032】
第7の発明に係る圧力容器の製造方法によれば、複数の板部材の接合部分に、少なくとも一つの角部分にR部が設けられた切り欠き溝部を形成し、該板部材同士を組み合わせた状態で上記切り欠き溝部の底部同士を壁部の側面外方側から摩擦攪拌接合法によって接合した後、該切り欠き溝部によって構成される凹溝部内にスペーサ部材を配置して該スペーサ部材と板部材との境界部分を該板部材の側面外方側及び上下面側で摩擦攪拌接合法により接合することで、上記第1の発明の圧力容器を得ることができ、該第1の発明と同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0034】
《実施形態1》
図1に本発明の実施形態1に係る圧力容器1の概略構成を示す。この圧力容器1は、例えばPVDやCVDなどによって薄膜を形成する際に真空室を形成するために用いられるもので、該容器1の各壁部2,2,…を構成する厚肉の板部材11,11,…によって形成されている。なお、上記図1において、上記圧力容器1の上面壁及び底面壁は、説明の都合上、記載が省略されている。
【0035】
上記圧力容器1の側壁を構成する板部材11,11同士は、第1及び第2スペーサ部材12,13を介して接続されている。すなわち、上記板部材11,11の接合部分には、それぞれ、該板部材11,11同士を接合した状態で容器1の上下方向に延び且つ上面視で該容器1の側面外方に向かって2段階で幅広になる凹溝部1aを構成するように、段状の切り欠き溝部11a,11aが設けられている。そして、図2にも示すように、この凹溝部1aの底部において上記板部材11,11の切り欠き溝部11a,11a同士が、上記壁部2の側面外方側(凹溝部1aの底面側)で摩擦攪拌接合法によって接合されているとともに、該凹溝部1a内に上記スペーサ部材12,13が配置された状態で、これらのスペーサ部材12,13と板部材11,11とが上記壁部2の側面外方側及び上下面側で摩擦攪拌接合法によって接合されている。
【0036】
また、図4に示すように、上記板部材11,11の切り欠き溝部11a,11aでは、後述する摩擦攪拌接合法における治具103が板部材11,11とスペーサ部材12,13との境界部分に沿って連続して移動できるように、角部にR部11bが形成されている。具体的には、このR部11bは、上記切り欠き溝部11aのうち、板部材11の内方に窪んでいて、且つ、後述するように上記スペーサ部材12,13が板部材11と上記壁部2の側面側で摩擦攪拌接合法によって接合されない角部に設けられている。このように、スペーサ部材12,13と板部材11とが上記壁部2の側面側で摩擦攪拌接合法によって接合されていない角部にR部11bを設けることで、該スペーサ部材12,13と上記凹溝部1aの内壁面との密着性を向上することができる。これにより、上記圧力容器1の接合部分での気密性の向上を図れる。
【0037】
ここで、上記摩擦攪拌接合法とは、図3に示すように、被接合部材101,102の接合箇所において、円柱状の治具103の先端に設けられたピン104を食い込ませて回転させることにより、該ピン104との摩擦熱によって上記被接合部材101,102に塑性流動を生じさせるとともに、上記治具103をさらに押し込むことにより、該治具103のショルダー部105によっても摩擦熱を生じさせて上記被接合部材101,102の塑性流動をより広範囲で生じさせることで、該被接合部材101,102同士を接合する方法である。
【0038】
上記スペーサ部材12,13は、アルミ合金からなるもので、図1、図2及び図4に示すように、それぞれ、断面略蒲鉾形状を有する柱状に形成されている。すなわち、上記スペーサ部材12,13は、直方体の部材において、上記板部材11の切り欠き溝部11aに形成されたR部11bに対応するように、同じ側の2つの角部にR部を形成してなる。また、上記第1スペーサ部材12は、幅方向寸法が上記凹溝部1aの底部側の段部の幅とほぼ同じで、且つ厚み寸法が該凹溝部1aの底部側の段部の高さとほぼ同じ寸法になるように形成されている。一方、上記第2スペーサ部材13は、幅方向寸法が上記凹溝部1aの上段側の段部の幅とほぼ同じで、且つ厚み寸法が該凹溝部1aの上段側の段部の高さとほぼ同じ寸法になるように形成されている。
【0039】
これにより、上記スペーサ部材12,13を階段状の上記凹溝部1a内に配置すると、該スペーサ部材12,13によって凹溝部1aの内部をほぼ埋めることができる。
【0040】
上記スペーサ部材12,13は、上記凹溝部1a内に配置された状態で、該スペーサ部材12,13と板部材11,11との境界部分を、上記壁部2の側面外方側で容器1の上下方向に亘って上記摩擦攪拌接合法により接合される。すなわち、上記凹溝部1aの底部側に配置される第1スペーサ部材12は、その幅方向両端部で上記板部材11,11と摩擦攪拌接合法により接合され、上記凹溝部1aの上段側に配置される第2スペーサ部材13も、その幅方向両端部で上記板部材11,11と摩擦攪拌接合法により接合される。これらの接合箇所を、上記図1、図2及び図4に符号14で示す。
【0041】
また、上記スペーサ部材12,13は、上述のように上記板部材11,11と壁部2の側面外方側で接合された後、該壁部2の上下面側で該板部材11,11との境界部分を摩擦攪拌接合法によって接合される。この接合箇所を、上記図1、図2及び図4に符号15で示す。
【0042】
−接合方法−
上記板部材11,11及びスペーサ部材12,13の接合方法について、上記図4に基づいて以下で説明する。
【0043】
まず、板部材11,11に、それぞれ段状の切り欠き溝部11a,11aを形成する。そして、上記切り欠き溝部11a,11aが凹溝部1aを構成するように上記板部材11,11を組み合わせて、図4(A)に示すように、該凹溝部1aの底面部に位置する切り欠き溝部11a,11aの境界部分(接合箇所14)を摩擦攪拌接合法によって接合する。次に、図4(B)に示すように、上記凹溝部1aの底部側に、第1スペーサ部材12を配置して、該第1スペーサ部材12と板部材11,11との境界部分(接合箇所14)を、容器1の壁部2の側面外方側で上下方向全体に亘って摩擦攪拌接合法によって接合する。
【0044】
そして、図4(C)に示すように、上記凹溝部1aの上段側に、第2スペーサ部材13を配置して、該第2スペーサ部材13と板部材11,11との境界部分(接合箇所14)を、容器1の壁部2の側面外方側で上下方向全体に亘って摩擦攪拌接合法によって接合する。その後、図4(D)に示すように、上記スペーサ部材12,13と板部材11,11との境界部分(接合箇所15)を、容器1の壁部2の上下面側のほぼ全体に亘って摩擦攪拌接合法によって接合する。
【0045】
なお、上記図4(D)では、スペーサ部材12,13同士の境界部分は、接合していないが、この限りではなく、該境界部分を容器1の壁部2の上下面側で摩擦攪拌接合により接合してもよい。この場合には、まず、上記第2スペーサ部材13の外周に沿って摩擦攪拌接合法により上記板部材11,11及び第1スペーサ部材12と接合した後、該第1スペーサ部材12の外周に沿って摩擦攪拌接合法により上記板部材11,11と接合すればよい。
【0046】
ここで、上記板部材11,11に、それぞれ、段状の切り欠き溝部11a,11aを形成する工程が切り欠き溝形成工程に、該切り欠き溝部11a,11aの境界部分同士を摩擦攪拌接合法によって接合する工程が板部材接合工程に、上記切り欠き溝部11a,11aによって構成された凹溝部1a内にスペーサ部材12,13を配置して、該スペーサ部材12,13と板部材11,11との境界部分を摩擦攪拌接合法によって接合する工程がスペーサ接合工程に、それぞれ対応している。
【0047】
−実施形態1の効果−
以上より、この実施形態によれば、上記スペーサ部材12,13の板部材11,11との境界部分(接合箇所14,15)のみを摩擦攪拌接合法によって接合することで、該スペーサ部材12,13の全体を摩擦攪拌接合する場合に比べて、接合部分を低減することができ、その分、該摩擦攪拌接合に起因する歪みが小さくなり、上記容器1の寸法精度が大幅に低下するのを防止できる。
【0048】
しかも、上記スペーサ部材12,13と板部材11,11との境界部分は、上記壁部2の側面外方側及び上下面側の全体が摩擦攪拌接合法によって接合されているため、上記スペーサ部材12,13と板部材11,11とを確実に接合し且つ両者間の隙間を確実にシールすることができる。したがって、上記圧力容器1の接合部分の強度及び気密性を十分に確保することができる。
【0049】
また、上記板部材11,11の切り欠き溝部11a,11aにおいて、上記スペーサ部材12,13が該板部材11,11の側面側で摩擦攪拌接合法によって該板部材11,11と接合されない角部分にR部11bを形成したため、該R部11bの形成された角部分では、凹溝部1aの内壁面とスペーサ部材12,13とがより密着するため、該内壁面とスペーサ部材12,13との間の気密性を向上することができる。しかも、上記角部分にR部11bを形成することで、当該角部分を板部材11,11の上下面側で連続して摩擦攪拌接合を行うことができ、作業性の向上を図れる。
【0050】
−実施形態1の変形例1−
図5に上記実施形態1の変形例1を示す。この変形例1では、スペーサ部材22,23の形状が上記実施形態1とは異なる。
【0051】
具体的には、凹溝部1aの底部側に配置される第1スペーサ部材22は、本体部22aに、その一側の側面の幅方向中央部分から突出する突条部22bが設けられていて、全体として断面略T字状に形成されている。また,上記凹溝部1aの上段側に配置される第2スペーサ部材23は、上記第1スペーサ部材22の突条部22bに対応して一側の側面の幅方向中央部分に溝部23aが設けられていて、全体として断面略コの字状に形成されている。
【0052】
そして、上記スペーサ部材22,23は、上記実施形態1のように、上記凹溝部1a内で板部材11,11と境界部分で接合された状態で、容器1の壁部2の側面外方側から上記第2スペーサ部材23の幅方向中央部分で摩擦攪拌接合法により接合される。すなわち、上記第1スペーサ部材22の突条部22bの先端部が上記第2スペーサ部材23の溝部23aの内部で接合される。
【0053】
これにより、上記第2スペーサ部材23が幅方向に長い部材の場合でも、その幅方向中央部分で上記第1スペーサ部材22と接合されるため、該第2スペーサ部材23と第1スペーサ部材22とをより強固に接合することができ、圧力容器1の壁部2の接合強度の向上を図れる。
【0054】
《実施形態2》
図6及び図7に、実施形態2に係る圧力容器31の概略構成を示す。この実施形態2では、凹溝部及びスペーサ部材の形状が実施形態1と異なるだけなので、異なる部分についてのみ以下で説明する。
【0055】
具体的には、圧力容器31の壁部32を構成する各板部材41には、接合された状態で3段の階段状の凹溝部31aを構成するように、段状の切り欠き溝部41aが形成されている。この切り欠き溝部41aは、スペーサ部材42,43と板部材41,41との境界部分で上記壁部32の側面外方側から摩擦攪拌接合法によって接合されない角部に、R部41bが形成されている。上記実施形態1と同様、上記板部材41,41を組み合わせて、凹溝部31aの底面部に位置する切り欠き溝部41a,41aの境界部分(接合箇所44)を摩擦攪拌接合法によって接合する
上記凹溝部31aの底部側及び2段目に配置される第1スペーサ部材42は、断面視略十字状に形成された柱状のアルミ合金製の部材からなる。また、上記凹溝部31aの3段目に配置される第2スペーサ部材43は、断面視で概略コの字状に形成された柱状のアルミ合金製の部材からなる。
【0056】
上記第1スペーサ部材42は、上記階段状に形成された凹溝部31aの底部側に配置された状態で、該凹溝部31aの底部側及び2段目を埋めるような形状に形成されている。すなわち、上記第1スペーサ部材42は、90度の間隔で突出する4つの突出部42a,42a,…を有していて、該4つの突出部42a,42a,…のうち一つの突出部12aが上記凹溝部31aの底部に配置されるとともに、該突出部42aに対して直交するように突出する突出部42a,42aが上記凹溝部31aの底部側の2段目に配置されている。なお、上記第1スペーサ部材42は、上記凹溝部31aの角部に形成されたR部41bに対応して、上記突出部42a,42a,…によって形成される各角部にもR部が形成されている。
【0057】
そして、上述のように上記凹溝部31a内に第1スペーサ部材42を配置した状態で、該第1スペーサ部材42は、上記凹溝部31aの底部側の2段目に配置された突出部42a,42aの先端側が該凹溝部31aの内壁面に対し摩擦攪拌接合法によって接合されている。
【0058】
上記第2スペーサ部材43は、上記第1スペーサ部材42の容器外方側を覆うように上記凹溝部31a内に配置される。すなわち、上記断面概略コの字状の第2スペーサ部材43は、2段の階段状の開口を有していて、その開口の底部側に、上記第1スペーサ部材42の容器外方に向かって突出する突出部42aが位置付けられるとともに、該開口側を形成する2つの突出部43a,43aが上記凹溝部31aの3段目に配置されている。また、上記第2スペーサ部材43は、上記凹溝部31a内に配置された状態で、開口側とは反対側の平面状の背面が上記圧力容器1の外面と略面一になるように形成されている。この状態で、上記第2スペーサ部材43は、背面側の幅方向両端部が圧力容器の外面と摩擦攪拌接合法によって接合され、背面側の幅方向中央部が上記第1スペーサ部材42の突出部42aと摩擦攪拌接合法によって接合されている。
【0059】
また、上記第1スペーサ部材42及び第2スペーサ部材43と板部材41との境界部分は、容器31の壁部32の上下面側のほぼ全体に亘って摩擦攪拌接合法によって接合されている。
【0060】
なお、上記図6及び図7において、上記第1スペーサ部材42及び第2スペーサ部材43と板部材41との境界部分を、容器31の側面外方側から摩擦攪拌接合法によって接合した箇所を符号44で示すとともに、上記境界部分を容器31の上下面側から摩擦攪拌接合法によって接合した箇所を符号45で示す。
【0061】
これにより、上記第1スペーサ部材42及び第2スペーサ部材43によって上記凹溝部31aの容器外方側を塞ぐことができるとともに、該スペーサ部材42,43の突出部42a,43aの外表面を上記階段状の凹溝部31aの内壁面に密着させて、シールすることができる。しかも、上記第2スペーサ部材43を、上記第1スペーサ部材42の容器外方を覆うように配置して、圧力容器31の壁部32を構成する板部材41及び上記第1スペーサ部材42に接合することで、該第1スペーサ部材42を上記凹溝部31a内に確実且つ強固に保持することができる。
【0062】
また、上述のように、上記凹溝部31a内に、上記スペーサ部材42,43を配置して、上記板部材11,11に接合することで、該スペーサ部材42,43同士の間に、貫通孔31b,31bが形成される。この貫通孔31bは、例えば、流体を流すために利用することができる。このように、上記スペーサ部材42,43間に、流体を流すための貫通孔31bを形成することで、配管を別途、設ける必要がなくなり、圧力容器31の周辺構成のコスト低減及びコンパクト化を図れる。
【0063】
−実施形態2の効果−
以上より、この実施形態によれば、板部材41に、接合した状態で3段の階段状の凹溝部31aが構成されるように、段状の切り欠き溝部41aを設けるとともに、該凹溝部31aの各段を埋めるようにスペーサ部材42,43を配置して該スペーサ部材42,43と上記板部材41,41とを摩擦攪拌接合法によって接合したため、上記板部材41,41同士をより強固に接合することができ、圧力容器31の壁部32の接合強度の向上を図れる。さらに、上述の構成に加えて、上記切り欠き溝部41aにおいて、上記スペーサ部材42,43と板部材41,41との境界部分で容器31の壁部32の側面外方側から摩擦攪拌接合法で接合されていない角部に、R部41bを形成することで、上記スペーサ部材42,43と板部材41,41とのシール性を向上することができ、圧力容器31の気密性の向上を図れる。
【0064】
しかも、上記スペーサ部材42,43間に貫通孔31bを形成することで、該貫通孔31b内に流体を流すことができ、別に配管を設ける必要が無くなる分だけ、圧力容器31の周辺構成のコスト低減及びコンパクト化を図れる。
【0065】
《その他の実施形態》
本発明の構成は、上記各実施形態に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。すなわち、上記各実施形態では、複数の段を有する階段状の凹溝部1a,31aを形成しているが、この限りではなく、図8に示すように、一段の溝状の凹溝部51aを形成してもよい。この場合には、略長方形状のスペーサ部材52を、該凹溝部51a内に配置して、摩擦攪拌接合法によって板部材61,61と接合することで、圧力容器51を形成すればよい。
【0066】
また、上記各実施形態では、2段や3段の階段状の凹溝部1a,31aを形成しているが、この限りではなく、それ以上の段数の凹溝部を形成してもよい。さらに、上記各実施形態では、凹溝部1a,31a内にスペーサ部材を2つ配置しているが、この限りではなく、3つ以上のスペーサ部材を配置してもよい。なお、当然のことながら、スペーサ部材の形状は、上記各実施形態のような形状に限らず、凹溝部を埋めて板部材同士を接続できるような形状であれば、どのような形状であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、複数の板部材を摩擦攪拌接合法で接合してなる圧力容器に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施形態1に係る圧力容器の壁部の概略構成を示す斜視図である。
【図2】壁部の接合部分の構造を示す上面図である。
【図3】摩擦攪拌接合法を模式的に示す模式図である。
【図4】壁部の接合の各段階を(A)から(D)で示す上面図である。
【図5】変形例1に係る図2相当図である。
【図6】実施形態2に係る圧力容器の図1相当図である。
【図7】壁部の接合部分の構造を示す図2相当図である。
【図8】その他の実施形態に係る圧力容器の図2相当図である。
【符号の説明】
【0069】
1,31 圧力容器
1a,31a,51a 凹溝部
2,32 壁部
11,41,61 板部材
11a,41a 切り欠き溝部
11b,41b R部
12,22,42 第1スペーサ部材(スペーサ部材)
13,23,43 第2スペーサ部材(スペーサ部材)
31b 貫通孔(流路)
52 スペーサ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板部材がそれぞれ壁部を構成するように、該板部材を互いに摩擦攪拌接合法によって接合してなる圧力容器であって、
上記複数の板部材には、それぞれ、板部材同士が接合された状態で上記壁部の側面外方側に凹溝部を構成する切り欠き溝部が形成されていて、
上記切り欠き溝部は、横断面視で少なくとも一つの角部分にR部が形成されており、
上記凹溝部内に該凹溝部の内壁面に密着するように形成された柱状のスペーサ部材を配置した状態で、上記板部材同士の境界部分と該板部材及びスペーサ部材の境界部分とが、該板部材の側面外方側及び上下面側で上記摩擦攪拌接合法によって接合されてなることを特徴とする圧力容器。
【請求項2】
請求項1において、
上記R部は、上記板部材の切り欠き溝部において、上記スペーサ部材が該板部材の側面側で摩擦攪拌接合法によって該板部材と接合されない角部分に形成されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項3】
請求項1または2において、
上記凹溝部は、横断面視で略階段状に形成されており、
上記スペーサ部材は、複数の部材によって構成されていて、それぞれの部材と上記板部材との境界部分が上記板部材の側面外方側及び上下面側で上記摩擦攪拌接合法によって接合されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項4】
請求項3において、
上記スペーサ部材を構成する複数の部材同士は、その境界部分が上記板部材の上下面側で上記摩擦攪拌接合法によって接合されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項5】
請求項3または4において、
上記スペーサ部材を構成する複数の部材は、上記凹溝部内に板部材の厚み方向に積層するように配置されていて、上記複数の部材同士が上面視で幅方向中央部分で上記壁部の側面外方側から摩擦攪拌接合法によって接合されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか一つにおいて、
上記スペーサ部材を構成する複数の部材同士の間には、流体が流れるための流路が形成されていることを特徴とする圧力容器。
【請求項7】
複数の板部材がそれぞれ壁部を構成するように該板部材を互いに摩擦攪拌接合法によって接合してなる圧力容器の製造方法であって、
上記複数の板部材同士の接合部分に、それぞれ、該板部材同士を接合した状態で凹溝部を構成し且つ少なくとも一つの角部分にR部を有する切り欠き溝部を形成する切り欠き溝形成工程と、
上記板部材同士を組み合わせた状態で上記切り欠き溝部の底部同士を上記壁部の側面外方側から摩擦攪拌接合法により接合する板部材接合工程と、
上記凹溝部内にスペーサ部材を配置して、該スペーサ部材と上記板部材との境界部分を、該板部材の側面外方側及び上下面側で摩擦攪拌接合法により接合するスペーサ部材接合工程と、を備えていることを特徴とする圧力容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−106872(P2010−106872A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276761(P2008−276761)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(508323311)タイム株式会社 (3)
【Fターム(参考)】