説明

圧力脈動解析装置

【課題】配管系全体における減衰の影響を考慮した圧力脈動解析装置を提供する。
【解決手段】圧力脈動解析装置100において、変動速度分布形状算出部104は、入力された設定条件を用いて、配管系における変動速度の分布形状を、圧力脈動の減衰を考慮せずに算出する。全損失エネルギ算出部106は、変動速度分布形状に基づいて、配管系全体で失われる脈動の全損失エネルギを算出する。支配方程式保持部112は、圧力脈動の減衰を考慮した形の、励振源における流体の支配方程式を保持する。等価減衰係数算出部108は、全損失エネルギを、励振源で失われる損失エネルギと設定し、励振源の等価減衰係数を算出する。励振源脈動応答解析部110は、支配方程式に、等価減衰係数を代入し、励振源における脈動応答を解析する。配管系脈動応答解析部114は、励振源における脈動応答と、変動速度の分布形状とに基づいて、配管系全体における脈動応答を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプや圧縮機などによる配管内の圧力脈動を解析する技術に関し、特に遠心圧縮機や遠心ポンプなどの遠心式流体機械による配管内の圧力脈動を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機や遠心送風機は各種プラントを始め、様々な装置で数多く用いられている。遠心圧縮機や遠心送風機に伴う騒音・振動問題では、内部の圧力脈動が支配要因となる場合があり、特に羽根通過周波数成分(Zn成分)の脈動の抑制が重要である。機器単体のZn成分の脈動・騒音に関しては、古くから研究が行われており、各種騒音則が提案されている。遠心圧縮機や遠心送風機が配管内に設置された場合には、圧力脈動は配管系の音響特性の影響を受けることが知られており、往復動圧縮機などの容積形の回転機に関しては、配管内の脈動評価手法が確立されている。
【0003】
一方、遠心圧縮機や遠心送風機と同様の脈動発生機構を有する遠心ポンプに関しては、配管系内に設置された遠心ポンプの脈動特性を、波動伝搬特性と脈動発生特性に分離する手法(Two−port Model)が提案されており、実測により伝搬特性を表すマトリックス各要素の値が求まれば、配管内脈動特性を再現できることが示されている(非特許文献1)。遠心ポンプの配管内設置位置と発生脈動の関係に関しては、脈動発生源が配管内圧力脈動分布の節に設置されたとき、共振時の脈動振幅が最大となることが実験により示されている(非特許文献2)。
【0004】
【非特許文献1】G.ツェントコウスキーおよびS.バオヤ、「遠心ポンプのブレード通過周波数での音源としての実験特性」、JPS、第14巻、p.529-558、2000年(Experimental characterization of centrifugal as an acoustic source at the blade-passing frequency, G.Rzentkouski and S.Zbaoja, JPS, vol14, pp.259-558, 2000)
【非特許文献2】佐野勝志、「ターボ形ポンプ配管系の圧力脈動に関する研究(第2報、共振時の脈動振幅に及ぼすポンプ位置の影響)」、日本機械学会論文集(B編)、50巻458号、p.2316−2324、昭59−10
【非特許文献3】松田博行および葉山眞治、「往復動圧縮機と配管系の相互干渉を考慮した管内圧力脈動の計算方法(第1報、定式化と簡単な実験)」、日本機械学会論文集(C編)、51巻463号、p.515−524、昭60−3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遠心ポンプや遠心圧縮機などの遠心式流体機械を含むシステムにおいて、遠心式流体機械によって発生した圧力脈動は、遠心式流体機械を含む配管系全体で減衰する。しかしながら、従来の圧力脈動の解析技術では、配管系全体における減衰の影響は考慮されておらず、実用的な解析手法は未だ確立されていない。
【0006】
本発明は、こうした状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、配管系全体における減衰の影響を考慮した圧力脈動の解析技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の圧力脈動解析装置は、励振源による圧力脈動を解析する圧力脈動解析装置であって、励振源と、励振源に接続された配管と、を含む配管系の物理モデルの設定条件を入力する入力部と、圧力脈動の減衰を考慮しない形の支配方程式を保持する第1保持部と、入力部に入力された設定条件と、第1保持部に保持された支配方程式とを用いて、配管系における変動速度の分布形状を算出する変動速度分布形状算出部と、変動速度分布形状算出部で算出された変動速度分布形状に基づいて、配管系全体で失われる脈動の全損失エネルギを算出する全損失エネルギ算出部と、圧力脈動の減衰を考慮した形の、励振源における流体の支配方程式を保持する第2保持部と、全損失エネルギ算出部で算出された全損失エネルギを、励振源で失われる損失エネルギと設定し、励振源の等価減衰係数を算出する等価減衰係数算出部と、第2保持部に保持された支配方程式に、等価減衰係数算出部で算出された等価減衰係数を代入し、励振源における脈動応答を解析する励振源脈動応答解析部と、励振源脈動応答解析部で解析された励振源における脈動応答と、変動速度分布形状算出部で算出された変動速度の分布形状とに基づいて、配管系全体における脈動応答を解析する配管系脈動応答解析部と、を備える。
【0008】
この態様によると、配管系全体における減衰の影響を考慮して圧力脈動を評価できるので、圧力脈動の解析精度を向上できる。
【0009】
配管系脈動応答解析部による解析結果を受けて、入力部に入力された設定条件の是非を判定する評価部をさらに備えてもよい。たとえば、圧力脈動の応答値が所定値を超える場合に、設定条件が不適切であることを判定してもよい。
【0010】
励振源は、遠心ポンプや遠心圧縮機などの遠心式流体機械であってもよい。
【0011】
なお、第2保持部に保持される支配方程式は、
【数1】

で表現されてもよい。なお、上記の数式中では、質量流量変動mを用いているが、質量流量変動mと変動速度uの関係は、m=ρ・A・uで表される。ここで、ρは密度、Aは配管要素または流体機械内部の等価面積である。
【0012】
全損失エネルギは、配管入口の集中抵抗により失われる配管入口損失エネルギと、配管出口の集中抵抗により失われる配管出口損失エネルギと、配管系抵抗要素により失われる損失エネルギと、配管の管摩擦抵抗により失われる管摩擦抵抗損失エネルギと、遠心式流体機械の内部抵抗により失われる励振源損失エネルギとの和であってもよい。
【0013】
なお、等価抵抗係数は、
【数2】

で表現されてもよい。この式では、配管入口、出口、弁、オリフィスなどの配管系集中抵抗による寄与を、右辺第2項にまとめて表している。本圧力脈動解析装置を適用する配管系に合わせて、この右辺第2項を計算し、等価抵抗係数を算出する。たとえば、配管系において配管入口と出口の集中抵抗をもつ場合には、右辺第2項として、配管入口、出口の2つの場合について計算を行う。なお、等価抵抗係数は、質量流量の平均成分と変動成分の関係によって式が変わってくるため、ここでは、質量流量の平均成分が変動成分よりも大きい場合、質量流量の平均成分が零の場合、質量流量の平均成分が変動成分以下(但し、零より大)である場合、の3つの式を示している。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、配管系全体における減衰の影響を考慮した圧力脈動の解析技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る脈動解析手法を適用するための脈動物理モデルを示す図である。遠心圧縮機10は、励振源としての遠心式流体機械の一例であり、吸入側と吐出側とが連通していることを特徴とする。遠心式流体機械としては、たとえば、遠心ポンプであってもよい。遠心圧縮機10は、吸入側配管12と吐出側配管14の間に配置される。図1に示す脈動物理モデルでは、遠心圧縮機10の一部分を、圧縮機励振部26と設定する。吸入側配管12の遠心圧縮機10と反対側の端部には、吸入側配管入口22が設けられ、吐出側配管14の遠心圧縮機10と反対側の端部には、吐出側配管出口24が設けられる。吸入側配管入口22、吐出側配管出口24は開口端となっている。図1に示す物理モデルでは、x軸を配管長方向に設定し、原点を吸入側配管入口22の位置に設定している。
【0017】
本実施の形態では、作動流体を空気として説明を行うが、作動流体は空気に限られず、他の種類の気体であってもよい。また、吸入側配管入口22および吐出側配管出口24にタンクを接続し、作動流体として液体を用いることもできる。吸入側配管入口22から吸入された空気は、吸入側配管12、遠心圧縮機10、吐出側配管14を通って、吐出側配管出口24より吐出される。
【0018】
図1の脈動物理モデルでは、遠心圧縮機10の吸入側と吐出側とが連通しているため、遠心圧縮機10から吐出された流体による吐出側配管出口24からの圧力波のはね返りの影響が、遠心圧縮機10の吐出口を通過して伝達されることになる。すなわち、吸入側の圧力変動p、吐出側の圧力変動pは、はね返り圧力波の増減も含めた重ね合わせの結果となっている。遠心圧縮機10は励振源であり、吸入側の圧力変動p、吐出側の圧力変動pは不連続となる場合もある。
【0019】
本実施の形態では、遠心圧縮機10内でインペラがボリュート舌部(図示せず)を通過する際に発生する圧力脈動は、図1に示す一次元の脈動物理モデルの一断面で、外力として流体に与えられるものとする。図1の脈動物理モデルにおいて、圧縮機励振部吸入側における質量流量変動mおよび圧力変動p、並びに圧縮機励振部吐出側における質量流量変動mおよび圧力変動pは、式(1)〜式(3)により求められる。なお、数式中では、質量流量変動mを用いているが、質量流量変動mと変動速度uの関係は、m=ρ・A・uで表される。ここで、ρは密度、Aは配管要素または流体機械内部の等価面積である。
【数3】

【0020】
式(1)は、圧縮機励振部26における運動方程式であり、左辺第一項、第二項は運動量の変化、第三項は圧縮機励振部26前後の圧力勾配、第四項は圧力損失による減衰項を表す。左辺第一項、第二項の運動量の変化に関しては、質量流量、流速を平均成分と変動成分に分離し、変動成分は平均成分より小さいものとして、非線形項を省略し、式(4)を導いた。なお、式(1)の左辺第二項は、寄与が小さい場合には、省略してもよい。
【数4】

【0021】
式(2)は、圧縮機励振部26前後における連続の式である。遠心圧縮機10の圧縮機励振部26では流量の増減がないため、容積が無視できる場合には、吸入側と吐出側の質量流量は一定となる。しかしながら、共振時に圧縮機励振部26の位置における圧力変動が大きくなると、圧縮機励振部26における流体の圧縮性によって、圧縮機励振部26前後の質量流量が異なってくる。本実施の形態では、式(2)右辺第二項によって、圧縮機励振部26の位置における圧力変動が脈動応答に与える影響を考慮している。この式(2)右辺第二項は、寄与が小さい場合には、省略してもよい。
【0022】
式(3)は、式(1)第四項の配管系全体の等価線形抵抗係数Rを表す式である。式(3)に示すように、配管系全体の等価線形抵抗係数Rは、配管系全体の集中抵抗の抵抗係数ξと等価線形質量流量の積を用いて表される。なお、式(3)の等価線形質量流量は、速度二乗形の非線形減衰が脈動の一周期中に失うエネルギと等価なエネルギを失うように定めた。
【0023】
遠心圧縮機10で発生する圧力脈動は、遠心圧縮機10内部および配管系の各要素で減衰し、エネルギ損失が発生する。本発明者は、特に共振周波数付近では、遠心圧縮機10により配管系内で発生する圧力脈動振幅は、減衰により支配されていると考察し、配管系全体における減衰の影響を考慮した圧力脈動の解析技術を考案した。以下に、本発明者が考案した圧力脈動の解析手法について説明する。
【0024】
(ステップ1)
本発明者が考案した圧力脈動の解析手法では、まず、遠心圧縮機10を含む配管系全体における変動速度の分布形状を、圧力脈動の減衰を考慮せずに算出する。具体的には、圧力脈動の減衰を考慮しない形の支配方程式を用いて、変動速度の分布形状を算出する。この変動速度の分布形状の算出は、伝達マトリックス法、有限要素法などの汎用の解析プログラムを用いて行うことが可能である。
【0025】
図2は、配管系全体における変動速度の分布形状を算出した例を示す図である。図2の横軸は、x軸の原点と設定した吸入側配管入口22からの距離を表す。図2の距離2.5mは、図1の脈動物理モデルにおける吐出側配管出口24に対応する。図2の縦軸は、変動速度(m/s)を表す。図2で示した変動速度の分布形状は、二次の変動速度モード形状と一致している。変動速度の分布形状は、共振周波数においては変動速度モード形状と一致する。非共振周波数では固有モードは存在しないが、遠心圧縮機10の運転周波数に応じて、変動速度の分布形状を算出すればよい。
【0026】
(ステップ2)
次に、算出した変動速度分布形状に基づいて、配管系全体で失われる脈動のエネルギ(以下、全損失エネルギE)を算出する。図1に示す脈動物理モデルにおいて、全損失エネルギEは、吸入側配管入口22において失われる脈動のエネルギ(以下、配管入口損失エネルギErin)と、吐出側配管出口24において失われる脈動のエネルギ(以下、配管出口損失エネルギErout)と、吸入側配管12および吐出側配管14の管摩擦抵抗により失われるエネルギ(以下、管摩擦抵抗損失エネルギE)と、励振源である遠心圧縮機10の内部抵抗により失われるエネルギ(以下、励振源損失エネルギE)との和として表すことができる。なお、図1では図示していない、たとえば弁、オリフィスなどの配管系集中抵抗要素がある場合には、これらの配管系集中抵抗要素における損失エネルギを加える。以下において、それぞれの損失エネルギの導出方法を説明する。
【0027】
(配管入口損失エネルギErinの導出)
吸入側配管入口22における集中抵抗による圧力損失Δprinは、式(5)で表される。
【数5】

【0028】
また、脈動の一周期Tの間に吸入側配管入口22で失われる単位面積あたりのエネルギεrinは、式(5)をエネルギ積分することにより、式(6)のように得られる。
【数6】

【0029】
質量流量を平均値と変動成分に分け、式(7)で表すと、式(5)〜式(7)より、式(8)のようにεrinを導くことができる。但し、ここでは、質量流量の変動成分は、平均成分よりも小さい場合の結果を示す。なお、質量流量の変動成分が平均成分より大きい場合、もしくは平均成分が零の場合にも、式(5)〜式(7)と同様の積分を実行することにより、εrinを導くことができる。
【数7】

【数8】

【0030】
式(8)より、吸入側配管入口22において損失する一周期Tあたりの配管入口損失エネルギErinは、式(9)で表される。式(9)に、算出した配管系全体における変動速度の分布形状を参照して、吸入側配管入口22における平均質量流量、質量流量変動振幅の値を代入することで、配管入口損失エネルギErinを求めることができる。
【数9】

【0031】
(配管出口損失エネルギEroutの導出)
同様に、吐出側配管出口24において損失する一周期Tあたりの配管出口損失エネルギEroutは、式(10)で表される。式(10)に、算出した配管系全体における変動速度の分布形状を参照して、吐出側配管出口24における平均質量流量、質量流量変動振幅の値を代入することで、配管出口損失エネルギEroutを求めることができる。
【数10】

【0032】
(管摩擦抵抗損失エネルギEの導出)
配管内の管摩擦抵抗による圧力勾配は、式(11)で表される。
【数11】

【0033】
脈動の一周期Tの間に長さlの配管要素内で管摩擦抵抗によって失われる単位面積あたりのエネルギεは、式(12)で表される。
【数12】

【0034】
式(11)、式(12)より、配管要素の長さlが圧力脈動の波長に比べ十分に短い場合、管摩擦抵抗によって失われる一周期TあたりのエネルギEは、式(8)と同様に積分を実行することで、式(13)のように表される。
【数13】

【0035】
従って、配管系を圧力脈動の波長より十分小さいN個の区間Δlに分割した場合、配管系全体で管摩擦抵抗によって失われる一周期Tあたりのエネルギ(管摩擦抵抗損失エネルギE)は、各配管要素の代数和として式(14)のように求められる。式(14)に、算出した配管系全体における変動速度の分布形状を参照して、各配管要素における平均質量流量、質量流量変動振幅の値を代入することで、管摩擦抵抗損失エネルギEを求めることができる。
【数14】

【0036】
(励振源損失エネルギEの導出)
遠心圧縮機10の内部抵抗は、遠心圧縮機10の運転点によって変化する。本実施の形態では、運転点の変化が小さい範囲においては、遠心圧縮機10の内部抵抗は、圧縮機励振部26における集中抵抗で表現できるとし、式(9)と同様に、脈動の一周期Tの間に遠心圧縮機10の内部抵抗により失われるエネルギを式(15)のように求める。式(15)に、算出した配管系全体における変動速度の分布形状を参照して、圧縮機励振部26における平均質量流量、質量流量変動振幅の値を代入することで、励振源損失エネルギEを求めることができる。
【数15】

【0037】
以上のように導出された配管入口損失エネルギErin、配管出口損失エネルギErout、管摩擦抵抗損失エネルギEおよび励振源損失エネルギEを用いて、遠心圧縮機10を含む配管系システム全体で脈動の一周期の間に失われるエネルギ(全損失エネルギE)は、式(16)のように表すことができる。
【数16】

【0038】
(ステップ3)
次に、上記のように算出された全損失エネルギEを、圧縮機励振部26で失われる損失エネルギと設定し、圧縮機励振部26における等価抵抗係数ξを算出する。これは、配管系の各要素における抵抗(配管入口・出口における集中抵抗、管摩擦抵抗、圧縮機内部抵抗)を、圧縮機励振部26における集中抵抗として設定することを意味する。配管系システム全体で脈動の一周期中に失われるエネルギと等価なエネルギを失うように圧縮機励振部26の等価抵抗係数ξを式(17)によって定めると、式(16)および式(17)より、等価抵抗係数ξは、式(18)のように表すことができる。なお、式(18)は、質量流量の平均成分が変動成分よりも大きい場合の式である。等価抵抗係数ξは、質量流量の平均成分と変動成分の関係によって式が変わってくるが、質量流量の平均成分が零の場合、質量流量の平均成分が変動成分以下(但し、零より大)である場合の式も、式(18)と同様の過程により導出することができる。
【数17】

【数18】

【0039】
(ステップ4)
次に、圧縮機励振部26における支配方程式である式(1)〜式(3)に、上記のように求めた等価減衰係数ξを代入し、圧縮機励振部26における脈動応答を解析する。すなわち、圧縮機励振部吸入側における質量流量変動mおよび圧力変動p、並びに圧縮機励振部吐出側における質量流量変動mおよび圧力変動pを算出する。
【0040】
(ステップ5)
次に、解析した圧縮機励振部26における脈動応答と、変動速度の分布形状とに基づいて、配管系全体における脈動応答(圧力変動および質量流量変動)を解析する。配管系システムにおける圧力脈動の固有モードのモード形状は、減衰が小さい場合には圧力脈動の大きさによって形状が変わらないことが知られている。つまり、固有モードの腹および節の位置、並びに、配管における各位置間の相対的な脈動応答値の比は、変わらない。従って、圧縮機励振部26における脈動応答が求まれば、算出した変動速度分布形状を参照して圧縮機励振部26における脈動応答との比を計算することにより、配管各位置における脈動応答を算出することができる。なお、実際の脈動応答の計算では、ステップ1〜ステップ5までを行って脈動応答値が算出された後に、その算出された脈動応答値を用いて、ステップ2〜ステップ5を繰り返し、脈動応答値の収束計算を行う。
【0041】
図3は、本発明の実施の形態に係る遠心式流体機械の圧力脈動解析装置100の構成を示す図である。図3に示すように、圧力脈動解析装置100は、設定条件入力部102、変動速度分布形状算出部104、全損失エネルギ算出部106、等価減衰係数算出部108、励振源脈動応答解析部110、支配方程式保持部112、配管系脈動応答解析部114、評価部116および設定条件決定部118を備える。支配方程式保持部112は、ハードディスクやメモリなどの記憶装置における記憶領域として構成される。
【0042】
圧力脈動解析装置100は、CPU、メモリ、メモリにロードされたプログラムなどによって実現され、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。プログラムは、圧力脈動解析装置100に内蔵されていてもよく、また記録媒体に格納された形態で外部から供給されるものであってもよい。したがってこれらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者に理解されるところである。
【0043】
設定条件入力部102は、遠心圧縮機10と、遠心圧縮機10の吸入側配管12と吐出側配管14とを含む脈動物理モデルの設定条件を入力する。設定条件として、脈動解析に用いるパラメータ、すなわち圧縮機形状、境界条件、遠心圧縮機10のインペラ回転数、流体速度などの運転条件、また配管系寸法などが入力される。設定条件とは、物理モデルの解析に必要なパラメータであり、具体的には、上記の式(1)〜式(3)に示した流体の支配方程式に要求されるパラメータである。支配方程式保持部112は、式(1)〜式(3)の流体の支配方程式を保持する。
【0044】
変動速度分布形状算出部104は、設定条件入力部102に入力された設定条件を用いて、配管系における変動速度の分布形状を、圧力脈動の減衰を考慮せずに算出する。変動速度分布形状の算出は、伝達マトリックス法、有限要素法などの汎用の解析プログラムを用いて行うことが可能である。
【0045】
変動速度分布形状算出部104は、圧力脈動の減衰を考慮しない変動速度の分布形状を算出するために、式(19)、式(20)の支配方程式を保持する。式(19)、式(20)の支配方程式を保持する保持部を設け、そこから、支配方程式を読み出す形にしてもよい。式(19)は流体の運動方程式、式(20)は、連続の式である。式(19)は、式(1)の運動方程式から、第四項の減衰項を省略し、右辺の励振力を除いた形となっている。設定条件入力部102に入力された設定条件を式(19)に代入することにより、脈動の減衰を考慮していない形の、配管系における変動速度の分布形状を算出することができる。なお、式(19)左辺第二項は、省略してもよい。
【数19】

【0046】
全損失エネルギ算出部106は、変動速度分布形状算出部104で算出された変動速度分布形状に基づいて、配管系全体で失われる脈動の全損失エネルギEを算出する。全損失エネルギ算出部106は、上記の式(16)を保持しており、変動速度分布形状算出部104で算出された変動速度分布形状の脈動応答値と、設定条件入力部102に入力された設定条件とを式(16)に代入することにより、全損失エネルギEを算出する。
【0047】
等価減衰係数算出部108は、全損失エネルギ算出部106で算出された全損失エネルギEを、圧縮機励振部26で失われる損失エネルギと設定し、圧縮機励振部26の等価減衰係数ξを算出する。具体的に、等価減衰係数算出部108は、式(18)を保持しており、設定条件入力部102に入力された設定条件と、全損失エネルギ算出部106で算出された全損失エネルギEとを用いて、等価減衰抵抗ξを算出する。
【0048】
励振源脈動応答解析部110は、支配方程式保持部112に保持された支配方程式に、等価減衰係数算出部108で算出された等価減衰係数ξを代入し、圧縮機励振部26における脈動応答を解析する。具体的には、設定条件入力部102に入力された設定条件と、等価減衰係数ξとを式(1)〜式(3)に代入することにより、圧縮機励振部吸入側における質量流量変動mおよび圧力変動p、並びに圧縮機励振部吐出側における質量流量変動mおよび圧力変動pを算出する。
【0049】
配管系脈動応答解析部114は、励振源脈動応答解析部110で解析された圧縮機励振部26における脈動応答と、変動速度分布形状算出部104で算出された変動速度の分布形状とに基づいて、配管系全体における脈動応答を解析する。具体的には、変動速度分布形状算出部104で算出された変動速度分布形状を参照して圧縮機励振部26における脈動応答との比を計算することにより、配管各位置における脈動応答(圧力変動および質量流量変動)を算出する。
【0050】
評価部116は、配管系脈動応答解析部114による解析結果を受けて、設定条件入力部102において入力された設定条件の是非を判定する。たとえば、入力した設定条件により共鳴が発生する場合、その設定条件が不適切であることを判定する。共鳴の発生は、たとえば圧力脈動変動値が所定値を超えたかどうかの判断に基づいて判定される。このとき、評価部116は、新たな設定条件の入力を行うように、設定条件入力部102に指示してもよい。この指示は、脈動解析プログラムに対して自動的に実行されるものであってもよく、設定条件を入力するオペレータに対してモニタないしは音声を通じて示されるものであってもよい。
【0051】
設定条件決定部118は、評価部116による評価結果で設定条件が適切であったことが判定された場合に、その設定条件を適切なものとして決定する。
【0052】
図4は、本実施の形態の係る圧力脈動解析装置100の処理フローを示す。まず、ユーザは、設定条件入力部102に、遠心圧縮機10と、遠心圧縮機10の吸入側配管12と吐出側配管14とを含む脈動物理モデルの設定条件を入力する(S10)。
【0053】
次に、変動速度分布形状算出部104は、入力された設定条件を用いて、配管系における変動速度の分布形状を、圧力脈動の減衰を考慮せずに算出する(S12)。次に、全損失エネルギ算出部106は、算出された変動速度分布形状に基づいて、励振源の変動速度初期値を用いて配管系全体で失われる脈動の全損失エネルギEを算出する(S14)。次に、等価減衰係数算出部108は、算出された全損失エネルギEを、圧縮機励振部26で失われる損失エネルギと設定し、圧縮機励振部26の等価減衰係数ξを算出する(S16)。
【0054】
次に、励振源脈動応答解析部110は、支配方程式保持部112に保持された支配方程式に、等価減衰係数算出部108で算出された等価減衰係数ξを代入し、圧縮機励振部26における脈動応答を解析する(S18)。次に、配管系脈動応答解析部114は、励振源脈動応答解析部110で解析された圧縮機励振部26における脈動応答と、変動速度分布形状算出部104で算出された変動速度の分布形状とに基づいて、配管系全体における脈動応答(圧力変動および質量流量変動)を解析する(S20)。配管系脈動応答解析部114は、脈動応答が収束したか否かを判定する(S22)。脈動応答が収束していない場合(S22のN)、S14に戻り、S20で算出された質量流量変動値を式(16)に代入し、再びS14からS20までを行う。収束の判定は、1つ前に算出された脈動応答との差分が、所定値以下になったか否かに基づいて行う。
【0055】
脈動応答値が収束している場合(S22のY)、評価部116は、配管系脈動応答解析部114による解析結果を受けて、設定条件入力部102において入力された設定条件が適切か否かを判定する(S24)。設定条件が適切でなかった場合、評価部116は、新たな設定条件の入力を行うように設定条件入力部102に指示する(S26のN)。設定条件が適切であった場合(S26のY)、設定条件決定部118は、その設定条件を適切なものとして決定する(S28)。以上で、圧力脈動解析装置100の処理フローは終了する。
【0056】
以下に、本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100を用いたシミュレーション結果と、実験値との比較を示す。図5は、圧力脈動測定の実験系200を示す図である。実験系200は、遠心送風機30、モータ40、吸入側配管32、吐出側配管34、吸入側配管入口36および吐出側配管出口38で構成される。
【0057】
遠心送風機30内のインペラ(図示せず)は、モータ40によって回転される。作動流体には、空気を用い、吸入側配管入口36、吐出側配管出口38とも開口端とし、常温・常圧下で運転を行った。吸入側配管32および吐出側配管34は、内径31mmに統一し、総長1.87mで一定となるように遠心送風機30の設置位置を変えて、発生脈動振幅と励振源位置の関係を測定した。インペラ羽枚数は5枚で、インバータによりモータ回転数を10〜50rpsの範囲内で変化させ、配管内各点の圧力脈動を計測し、AD変換器を通じてPCにデータを記録した。
【0058】
本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100には、実験系200と同様の脈動物理モデルを構築し、その設定条件を入力して圧力脈動のシミュレーションを行った。
【0059】
図6は、圧力脈動の周波数応答を示す。図6では、本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100によるシミュレーション結果と、実験系200における実験値の両方をプロットしている。配管内各点の圧力脈動の各時刻暦波形に対して、FFTにより周波数分析を行い、Zn成分のみを抽出することで、周波数応答曲線を作成した。図6の周波数応答は、励振源位置Xcomを0.562mとしたときの吐出配管内脈動の周波数応答である。各種設定条件は、Xcom=1.032(m)のケースにおいて実験値より求めた値を全周波数に亘って用いた。脈動振幅は、式(21)に示すように羽根車外周速度Uを用いた動圧を用いて無次元化している。
【数20】

【0060】
図6に示すように、圧力脈動解析装置100を用いたシミュレーションの結果では、70Hz付近で一次の共振周波数が、145Hz付近で二次の共振周波数が、230Hz付近で、三次の共振周波数が発生している。一方、実験系200での実験結果も、共振周波数がシミュレーションの結果とほぼ一致しており、本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100によって、配管内の脈動振幅を良好に評価できることが示された。
【0061】
図7は、一次の共振周波数における脈動振幅の最大値と圧縮機設置位置の関係を示す。図8は、二次の共振周波数における脈動振幅の最大値と圧縮機設置位置の関係を示す。図7、図8では、本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100によるシミュレーション結果と、実験系200における実験値の両方をプロットしている。
【0062】
図7に示すように、圧力脈動解析装置100を用いたシミュレーションの結果では、励振源位置Xcom=0.75mにおいて、最大脈動振幅が最小となっている。一方、実験系200での実験結果も、励振源位置Xcom=0.75m付近において最大脈動振幅が最小となっており、シミュレーション結果と、実験値がほぼ一致している。また、図8に示すように、圧力脈動解析装置100を用いたシミュレーションの結果では、励振源位置Xcom=0.25m、1.5mにおいて最大脈動振幅が最小となっており、Xcom=0.8m付近において、最大脈動振幅が最大となっている。一方、実験系200での実験結果も、シミュレーション結果とほぼ一致している。このように、本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100は、脈動励振源の位置と最大脈動振幅の関係を良好に評価することが可能である。
【0063】
以上、説明したように、本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100によれば、配管系全体における減衰を考慮して圧力脈動を解析することができるので、圧力脈動の解析精度を向上することができる。圧力脈動解析装置100を用いることにより、同じ長さの配管系システムであっても、流体機械の設置位置を調整することによって、圧力脈動を最小とする配管系システムを設計することができる。
【0064】
また、本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100は、配管系における減衰を考慮しない汎用の解析プログラム(伝達マトリックス法、有限要素法など)を用いて配管系全体の減衰を考慮した圧力脈動を解析できるため、減衰を考慮した新たな解析プログラムを作成する必要がなく、コスト面において有利である。
【0065】
汎用の解析プログラムでは、配管系を多数のメッシュに分割して圧力脈動の解析を行うので、計算機にかかる負荷が非常に重くなる。本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100によれば、配管系をメッシュに分割して配管系各位置における圧力脈動を解析する処理は、変動速度分布形状算出部104において一度だけ行えばよく、その後は、算出した変動速度分布形状を用いた比率計算で、配管系各位置における圧力脈動を計算できる。従って、計算機にかかる負荷が軽減され、スムーズに配管系システムの設計を行うことができる。
【0066】
上記の本実施の形態では、配管内における励振源として、遠心ポンプや遠心圧縮機などの流体機械を設定したが、本実施の形態に係る圧力脈動解析装置100は、流体機械を励振源とする場合に限られず、配管内に励振源が存在するシステムに適用することが可能である。たとえば、配管内の弁などのキャビティで発生する渦に伴う配管内脈動の解析に適用することができる。
【0067】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態に係る脈動解析手法を適用するための脈動物理モデルを示す図である。
【図2】配管系全体における変動速度の分布形状を算出した例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る遠心式流体機械の圧力脈動解析装置の構成を示す図である。
【図4】本実施の形態の係る圧力脈動解析装置の処理フローを示す図である。
【図5】圧力脈動測定の実験系を示す図である。
【図6】圧力脈動の周波数応答を示す図である。
【図7】一次の共振周波数における脈動振幅の最大値と圧縮機設置位置の関係を示す図である。
【図8】二次の共振周波数における脈動振幅の最大値と圧縮機設置位置の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
10 遠心圧縮機、 12、32 吸入側配管、 14、34 吐出側配管、 22、36 吸入側配管入口、 24、38 吐出側配管出口、 26 圧縮機励振部、 30 遠心送風機、 40 モータ、 100 圧力脈動解析装置、 102 設定条件入力部、 104 変動速度分布形状算出部、 106 全損失エネルギ算出部、 108 等価減衰係数算出部、 110 励振源脈動応答解析部、 112 支配方程式保持部、 114 配管系脈動応答解析部、 116 評価部、 118 設定条件決定部、 200 実験系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励振源による圧力脈動を解析する圧力脈動解析装置であって、
励振源と、前記励振源に接続された配管と、を含む配管系の物理モデルの設定条件を入力する入力部と、
圧力脈動の減衰を考慮しない形の支配方程式を保持する第1保持部と、
前記入力部に入力された設定条件と、前記第1保持部に保持された支配方程式とを用いて、前記配管系における変動速度の分布形状を算出する変動速度分布形状算出部と、
前記変動速度分布形状算出部で算出された変動速度分布形状に基づいて、配管系全体で失われる脈動の全損失エネルギを算出する全損失エネルギ算出部と、
圧力脈動の減衰を考慮した形の、前記励振源における流体の支配方程式を保持する第2保持部と、
前記全損失エネルギ算出部で算出された全損失エネルギを、前記励振源で失われる損失エネルギと設定し、前記励振源の等価減衰係数を算出する等価減衰係数算出部と、
前記第2保持部に保持された支配方程式に、前記等価減衰係数算出部で算出された等価減衰係数を代入し、前記励振源における脈動応答を解析する励振源脈動応答解析部と、
前記励振源脈動応答解析部で解析された前記励振源における脈動応答と、前記変動速度分布形状算出部で算出された変動速度の分布形状とに基づいて、配管系全体における脈動応答を解析する配管系脈動応答解析部と、
を備えることを特徴とする圧力脈動解析装置。
【請求項2】
前記配管系脈動応答解析部による解析結果を受けて、前記入力部に入力された設定条件の是非を判定する評価部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の圧力脈動解析装置。
【請求項3】
前記励振源は、遠心式流体機械であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧力脈動解析装置。
【請求項4】
前記第2保持部に保持される支配方程式は、
【数1】

で表現されることを特徴とする請求項3に記載の圧力脈動解析装置。
【請求項5】
前記全損失エネルギは、配管入口の集中抵抗により失われる配管入口損失エネルギと、配管出口の集中抵抗により失われる配管出口損失エネルギと、配管系抵抗要素により失われる損失エネルギと、配管の管摩擦抵抗により失われる管摩擦抵抗損失エネルギと、遠心式流体機械の内部抵抗により失われる励振源損失エネルギとの和であることを特徴とする請求項3または4に記載の圧力脈動解析装置。
【請求項6】
前記等価抵抗係数は、
【数2】

で表現されることを特徴とする請求項5に記載の圧力脈動解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−184949(P2008−184949A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18040(P2007−18040)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本機械学会 機械力学・計測制御部門講演会2006CD−Rom論文集 平成18年8月4日 発行
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】