説明

圧力調整弁

【課題】コイルばねの全周に作用する荷重特性を均一にすることができるようにした圧力調整弁を提供すること。
【解決手段】タンク内の流体をポンプにより送給する通路に設けられ、前記流体の圧力を調整する圧力調整弁であって、流体の導入口と、流体の吐出口と、弁体と、弁座と、コイルばねと、ばね受け部とを有し、前記コイルばねは、前記弁体と前記ばね受け部との間に介在し、前記通路内の流体圧力が所定値以下の時には前記弁体を閉鎖し、前記通路内の流体圧力が所定値より大きくなると前記弁体を開放する圧力調整弁において、前記コイルばねは、その上端巻部の上部巻端と、その下端巻部の下部巻端とは平面視で180度ずれている構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク内の流体をポンプにより送給する通路に設けられ、前記流体の圧力を調整する圧力調整弁、例えば、燃料ポンプにより燃料タンクから内燃機関のインジェクタに供給される燃料の圧力を調整する圧力調整弁のコイルばねに関する。
【背景技術】
【0002】
流体の供給系である自動車等の燃料供給系は、図17に示すように、燃料タンク1、燃料ポンプ2及びエンジンのインジェクタ6を連通する燃料通路5を有し、燃料タンク1内に設ける燃料ポンプ2により燃料タンク1内の燃料をフィルタ3、4を介してエンジンのインジェクタ6に供給する。その場合、エンジンの運転状態等により燃料通路5内の燃料圧力が変動するため、燃料の圧力を所定値に調整する圧力調整弁8が燃料供給系に設けられる。この圧力調整弁8は、燃料通路5からの分岐通路7に設けられ、燃料供給系の圧力が所定値以上になると開放し、燃料を燃料タンク1に戻す。
【0003】
図16に従来の圧力調整弁10の一例を示す。圧力調整弁10は、ケース11、弁体14及びコイルばね16等からなる。ケース11は、圧力調整弁10の外郭を形成する部材であり、燃料導入口12及び燃料吐出口13を有し、燃料導入口12近傍の内面には弁座18が形成され、その底部にはばね受け17を有する。
【0004】
前記弁体14は、筒状部15を有し、該筒状部15をガイドにしてケース11内を上下動する部材であり、弁体14の内底面とばね受け17との間にはコイルばね16が介在される。コイルばね16は、常時、弁体14を燃料導入口12方向へ押圧し、弁体14の先端を弁座18に当接させ、燃料供給系と燃料タンク1との連通を遮断するが、燃料供給系の燃料の圧力が所定値以上になると弁体14により下方へ押圧される。その結果、弁体14は弁座18から離間するため、余剰燃料は燃料タンク1に戻される。このような圧力調整弁10は、ケース11内面をガイドする筒状部15を有しているため、弁体14が偏心することはなく弁のシール性が良好になるという利点を有する反面、嵌合寸法、形状公差により多少の傾きが発生し引っ掛かりによりヒステリシスが生じてしまう。また、嵌合部には高い寸法精度が必要となりそれだけコストが高騰するという問題を有していた(特許文献1参照)。
【0005】
このような問題を解決するものとして、例えば、図1に示すような弁体が円錐状のポペット弁が知られている。このポペット弁は、弁体34にガイドとなる部材がなくコイルばね40により支持されるものであり、弁体34の開放時にはコイルばね40の一端で浮遊状態に支持され、弁体34の閉鎖時にはコイルばね40により弁座31bに当接されるものである。
【0006】
ところで、このようなポペット弁は、弁体が円錐状に形成されており、弁体の閉弁時に該弁体の軸心より多少偏心したり傾斜して弁座に当接してもそれなりのシール性が確保されるため、ばねの材質を均一にしたり、ばね全体の径を均一にしたりする手段は施されてはいるが、それ以外コイルばねの変位時にばねの全周に作用するばね荷重を均一にする手段、例えば上下端面にそれぞれ有する上部巻端及び下部巻端を平面視でどのように配置するかについては特に考慮されていなかった。そのため、従来のコイルばねは、コイルばねの変位時、コイルばねがその軸心に対して偏心したり傾斜して変位する傾向にあった。
【0007】
近年、自動車等の燃料供給は緻密な制御が求められ、圧力調整弁での圧力調整も精緻な調整が求められるようになっている。しかしながら、上記したように、従来のコイルばねは、変位時に偏心したり傾斜する傾向にあり、コイルばねが変位時に偏心したり傾斜すると弁体も偏心したり傾斜して開閉動することになるが、弁体が偏心したり傾斜すると弁体の開弁時付近と閉弁時付近での圧力特性にヒステリシスが生じたり、或いは閉弁時のシール性が損なわれる等の問題が生じ、その結果、精緻な圧力調整を行うという要求に十分応えることができないという問題を有していた。
【特許文献1】特開平8−320074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、コイルばねの全周に作用する荷重特性を均一にすることができる圧力調整弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本願発明は以下の構成を採用する。
【0010】
請求項1に係る発明では、タンク内の流体をポンプにより送給する通路に設けられ、前記流体の圧力を調整する圧力調整弁であって、流体の導入口と、流体の吐出口と、弁体と、弁座と、コイルばねと、ばね受け部とを有し、前記コイルばねは、前記弁体と前記ばね受け部との間に介在し、前記通路内の流体圧力が所定値以下の時には前記弁体を閉鎖し、前記通路内の流体圧力が所定値より大きくなると前記弁体を開放する圧力調整弁において、前記コイルばねは、その上端巻部の上部巻端と、その下端巻部の下部巻端とは平面視で180度ずれている構成。
【0011】
請求項2に係る発明では、請求項1に記載の発明に加え、前記コイルばねは、前記上端巻部及び前記下端巻部に平面部を有する構成。
【0012】
請求項3に係る発明では、タンク内の流体をポンプにより送給する通路に設けられ、前記流体の圧力を調整する圧力調整弁であって、流体の導入口と、流体の吐出口と、弁体と、弁座と、コイルばねと、ばね受け部とを有し、前記コイルばねは、前記弁体と前記ばね受け部との間に介在し、前記通路内の流体圧力が所定値以下の時には前記弁体を閉鎖し、前記通路内の流体圧力が所定値より大きくなると前記弁体を開放する圧力調整弁において、前記コイルばねは、その上部有効巻端と、その下部有効巻端とは平面視で180度ずれており、前記弁体の作動範囲では、前記コイルばねの巻部同士が当接しないようにする構成。
【0013】
請求項4に係る発明では、請求項3に記載の発明に加え、前記コイルばねの巻部同士が当接しないようにする手段は、スペーサである構成。
【0014】
請求項5に係る発明では、請求項3に記載の発明に加え、前記コイルばねは、前記1個のオープンエンド等ピッチばねと、該オープンエンド等ピッチばねの上下に取り付けられる支持部材からなり、前記支持部材は、外周に前記オープンエンド等ピッチばねを支持するための該オープンエンド等ピッチばねと同一ピッチの螺旋突起又は螺旋溝を有する構成。
【0015】
請求項6に係る発明では、請求項3に記載の発明に加え、前記コイルばねは、ばね軸方向には長く径方向には短い断面形状を有するオープンエンド等ピッチばねであり、上端巻部及び下端巻部に平面部を有する構成。
【0016】
請求項7に係る発明では、請求項3に記載の発明に加え、前記コイルばねは、ばね鋼パイプの外周に等ピッチ螺旋貫通溝を設ける構成。
【0017】
請求項8に係る発明では、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の発明に加え、前記圧力調整弁は、自動車用燃料系に用いられる構成。
【0018】
そしてこのような構成により、コイルばねの上下端面における荷重特性はほぼ均一化され、圧力調整弁の弁体は垂直に保たれるため、圧力調整範囲である弁体の作動範囲において弁体作動軸と流体導入口の軸はほぼ同一に保たれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、コイルばねの上部巻端と下部巻端、或いは、上部有効巻端と下部有効巻端とを平面視で180度ずれるように配置することにより、弁体から受けるばね荷重をその全円周上でほぼ均一化することができ、圧力調整弁の弁体を垂直に保持し、弁体の作動範囲において弁体作動軸と流体導入口の軸とをほぼ同一に保つことができる。また、弁体の開弁時付近と閉弁時付近での圧力特性のヒステリシスを低減することができるとともに、閉弁時のシール性を向上することができる。更に、弁体に対し高い寸法精度を要求するガイド部材を別途設ける必要がないためそれだけ生産コストを低減することができる。
【実施例】
【0020】
図1に本発明のコイルばねを備えた圧力調整弁を示し、図2に本発明の上下部巻端が180度(0.5巻)ずれたコイルばねの断面図を示し、図3にその平面図を示し、図4に図3のA−A線での断面図を示し、図4に対して下部巻端が90度(0.25巻)ずれたコイルばねの断面図を図5に示す。
【0021】
本発明の圧力調整弁30は、図17の符号8で示すものに相当し、燃料ポンプ2とエンジンのインジェクタ6とを結ぶ燃料通路5に連通するように、例えば、燃料タンク1内に配置され、余剰燃料を燃料タンク1に戻すとともに、インジェクタ6に供給する燃料圧力を所定値に適正に調整する。
【0022】
圧力調整弁30は、ケース32、ばね受け33、弁体34及びコイルばね40等からなる。ケース32は、上下が開口した中空部材であり、その内部に空間32aを有する。また、その中空部先端には燃料導入口31aを有し、その燃料導入口31aの下端部内周には円錐形の弁座31bを有する。そして燃料導入口31aから矢印で示すように空間32aに燃料供給系の燃料が供給される。
【0023】
前記ばね受け33は、ケース32の下部内周面に圧着される肉厚の部材であり、その中心部には燃料吐出口33aを有し、矢印で示すように燃料供給系の余剰燃料を燃料タンク1に戻す。また、ばね受け33の内底面には、燃料吐出口33aを囲むようにばね支持用の段部33bが設けられる。
【0024】
前記弁体34は、その先端に円錐部34aを有するポペット弁である。該円錐部34aは、略円錐形の弁座31bに対向する部分であり、閉弁時、弁座31bに当接する。なお、円錐部34aは、その表面が円錐状であるため弁体34と弁座31bとの軸心が多少ずれても両者のシール性は良好に保たれる。
【0025】
コイルばね40について説明する。コイルばね40は、略同径の棒状部材をコイル状に巻いた既に知られたばねであり、その上下端面は、水平且つ平行の平面部に形成されている。即ち、図4に示すようにコイルばね40を、上方から上部巻端41を有する第1巻部T1、第2巻部T2、第3巻部T3、第4巻部T4、第5巻部T5、及び下部巻端42を有する第6巻部T6とした場合、コイルばね40は、上端巻部である第1巻部T1の上部巻端41の部分を第2巻部T2近傍にまで、或いは当接するまで第2巻部T2側に折り曲げるとともに、第1巻部T1の上面を水平に研削して平面部とし、同様に、下端巻部である第6巻部T6の下部巻端42の部分を第5巻部T5近傍にまで、或いは当接するまで第5巻部T5側に折り曲げるとともに、第6巻部T6の下面を水平に研削して平面部とする。
【0026】
そのコイルばね40の平面を図3に示す。図3に示す符号45は平面部である水平面と円弧面との境界であり、上部巻端41とこの境界45との右側の広い領域は研削した水平面43を示し、この境界45と上部巻端41との間の左側の狭い領域は研削していない円弧面44を示す。なお、図4は図3のA−A線断面図であり、図3のA−A線は図2のイ−イ線に相当し、図3のロ−ロ線はA−A線に直交する線であり、図2のロ−ロ線に相当する。
【0027】
コイルばね40は、弁体34の段部34bとばね受け部33の段部33bとの間に配置され、燃料通路内の燃料圧力が所定値以下の時には弁体34を弁座31bに当接し、燃料通路内の燃料が燃料タンク1内に環流することを防止する。燃料通路内の燃料圧力が所定値より大きくなると、コイルばね40は押圧され、弁体34はコイルばね40のばね力に抗して弁座31bから離間し、燃料通路内の余剰燃料を燃料タンク1内へ環流する。開弁時、前記弁体34は、コイルばね40の一端(図4でいえば下端巻部である第6巻部T6)で浮遊状態に支持される。なお、弁体の作動範囲は、極狭い範囲、例えば、0〜0.3mm程度である。
【0028】
これまで上端巻部の第1巻部T1に設けられる上部巻端41と、下端巻部の第6巻部T6に設けられる下部巻端42との位置関係については特に考慮が払われていなかった。発明者は、図5に示す上部巻端41と下部巻端42とが例えば90度、即ち、時計方向に0.25巻ずれたものを用い、図3で示すP点(巻端0度位置)、R点(巻端90度位置)、Q点(巻端180度位置)及びS点(巻端270度位置)でのばねのたわみ量に対する剛性について実験を行い、その結果、図6(B)で示すように各点でバラツキが生じることを見出した。
【0029】
その理由は次のようなことによるものと思われる。即ち、図5の第1巻部T1と第2巻部T2との距離についてみると、P点ではほぼゼロ、R点(又はS点)ではh、Q点ではR点のhより大のHであり、コイルばねが押圧される際、特に第1巻部T1と第2巻部T2との上部巻端41の位置であるP点、及び第5巻部T5と第6巻部T6との下部巻端42の位置であるR1点では、隣り合う巻部との距離が最も短いためこの箇所での剛性が他の箇所のものに比べ高くなり、弁体34の上下動時に弁体34が軸心に対し偏心したり傾斜したりするようになるためと思われる。その結果、後記する図7で示すようにヒステリシスが発生し良好な圧力調整を行うことができなかった。
【0030】
図4に示すように本発明のものは、上部巻端41と下部巻端42とを平面視で180度ずらして配置したものである。このように上部巻端41と下部巻端42とを平面視で径方向に対向して配置することにより、コイルばねの円周上における荷重をほぼ均一にすることができる。即ち、図4の第1巻部T1と第2巻部T2との距離についてみると、上部巻端41であるP点ではほぼゼロで、その点での剛性は最大になり、P点に対向したQ点では最大のHで、その点での剛性は最小になる。また、下部巻端42であるQ1点ではほぼゼロで、その点での剛性は最大になり、Q1点に対向したP1点では最大のHで、その点での剛性は最小になる。
【0031】
このように、上部巻端41と下部巻端42とを平面視で180度ずらして配置することにより、P点の軸方向の剛性と、Q点の軸方向の剛性とは上下反対の関係になるが略等しくなる。更に、R点及びS点についてみると、R点及びS点での第1巻部T1と第2巻部T2との距離はほぼ等しく、第5巻部T5と第6巻部T6との距離もほぼ等しいため、軸方向の剛性も略等しくなる。なお、その実験結果を図6(A)に示す。即ち、図6(A)は、たわみ量に対するP、R、Q、S点でのばね荷重の変化を示すものであるが、図から明らかなように各点での特性はほぼ等しいものであった。
【0032】
また、図7にヒステリシスが低減する実験データを示す。図7は横軸に流量、縦軸に弁体の開弁時付近と閉弁時付近での圧力変動幅を示すもので、両巻端が90度ずれたのもの(丸印のもの)は、変動幅がどうしても大きくなる。それに対し、両巻端が180度ずれた本発明のもの(四角印のもの)ではその変動幅がゼロ近くに低減した。このようなコイルばねを用いることにより、弁体34の上下動時に弁体34がその軸心に沿うようになり、その結果ヒステリシスを低減することができるとともに、良好な圧力調整を行うことができるようになる。
【0033】
ところで、上記したコイルばね40は、上部巻端41が第2巻部T2に当接する(なお、下部巻端42と第5巻部T5との間も同様であるが、以下においては第1巻部T1と第2巻部T2とで説明する。)、所謂クローズエンドタイプのコイルばねであるところ、このようなコイルばねの第1巻部T1の領域は、ばね作用を有しない弁体を支持するための領域(所謂座巻と呼ばれる領域)であり、ばね作用を有する領域は、第1巻部T1と第2巻部T2とが当接する箇所以降の領域になる。この箇所を「上部有効巻端」(第5巻部T5と第6巻部T6との場合は「下部有効巻端」)とし、それ以降の「下部有効巻端」までの領域を「有効巻数」とすれば、上部有効巻端の上方に上部巻端41がある、これを平面視でいえば上部有効巻端と上部巻端41とは同じ箇所になる。即ち、クローズエンドタイプのコイルばねの場合には、上下部巻端41、42での条件と上下部有効巻端での条件は同じになり、上下部有効巻端を180度ずらすと言い換えることもできる。
【0034】
上記クローズエンドタイプのコイルばねの作用について図15(A)〜(C)で説明すると、弁体34にセット後では、上部巻端41の下面が第2巻部T2の上面に当接した状態になる(なお、下部巻端42と第5巻部T5との間も同様であるが、以下においては第1巻部T1と第2巻部T2とで説明する。)。その後、弁体34が作動するとコイルばね40は下方に押し下げられ、ピッチは小さくなっていくが、第1巻部T1と第2巻部T2との間の間隔は図15(A)〜(C)に示すように変化することになる。
【0035】
図15は、たわみ量に応じた第1巻部T1と第2巻部T2間の有効巻数の変遷図であり、(A)にセット時のたわみ量ゼロの状態を示し、(B)にたわみ量小の状態を示し、(C)にたわみ量大の状態を示す。たわみ量ゼロの(A)では、上部巻端41と第2巻部T2との当接部(上部有効巻端でもある。)は最も左側にあり、当接部の右側は第6巻部T6まですべて有効巻数になっている。そして、上部巻端41と第2巻部T2との間には、不等ピッチ角領域と等ピッチ角領域を有している。
【0036】
弁体34が少し下がり、(A)の状態から(B)の状態になると、不等ピッチ角領域及び等ピッチ角領域とも間隔が狭くなる。すると、当接部は右側により、その結果、有効巻数は減少する。弁体34が更に下がり、(B)の状態から(C)の状態になると、不等ピッチ角領域及び等ピッチ角領域とも更に間隔が狭くなる。すると、当接部は更に右側により、有効巻数は更に減少し荷重の不均衡が生じ弁体34が偏心するようになる。
【0037】
ところで、コイルばね40を上記した条件に合うように形成したとしても、そのコイルばねを弁体にセットする際、すべて同じようにセットすることは難しく、製品毎に当接部の位置に相違が生じ、精度にばらつきが発生する恐れが生じる。以下に、このような弊害をなくすことができる例を示す。
【0038】
上記弊害は、当接部、即ち、上下部有効巻端の位置が移動し、有効巻数が減少することによって引き起こされるものであり、以下の例は、上下部有効巻端に着目し、上下部有効巻端を平面視で180度ずらすとともに、弁体34の作動中に上下部有効巻端が移動しコイルばねの有効巻数が減少することがないようにすることにより、クローズエンドタイプのコイルばねだけではなく所謂オープンエンド等ピッチばねであっても適用可能にするものである。
【0039】
図8に示すものは、図2と同じような所謂クローズエンドタイプのコイルばね40aを用い、座巻である第1巻部T1と第2巻部T2の間と、座巻である第6巻部T6と第5巻部T5の間に、最大厚さS1の楔状のスペーサ49をろう付け或いは溶接等で固着することによりそれぞれ介在し、上下スペーサ49の最大厚さS1の位置を平面視で180度になるようにするものである。即ち、この例の場合は、上下スペーサ49の最大厚さS1の位置が上下部有効巻端の位置になり、その位置では間隙S1の段差を有することになる。その結果、弁体34作動中にコイルばね40aが変形したとしても上下部有効巻端以降の巻部が当接することはなく、上下部有効巻端の位置は移動しない。
【0040】
図15(D)にその状態図を示す。図に示すように、第1巻部T1と第2巻部T2との間には楔状のスペーサ49が挿入され、最大厚さである間隙S1が設けられる。この間隙S1の位置が当接部であり上下部有効巻端位置になる。その結果、弁体34作動中に上下部有効巻端以降の巻部同士が当接し有効巻数が変化することはないため、所期の作用効果である精緻な燃料の圧力調整が可能になる。
【0041】
図9に示すものは、所謂オープンエンド等ピッチばねを用いる例であり、1個のコイルばね50と2個の支持部材55とからなるコイルばねユニット54を用いるものである。なお、このコイルばねユニット54をコイルばねと呼んでもよい。また、図9は上端部の状態のみを示すが下端部も同様である。
【0042】
コイルばね50は、所謂オープンエンド等ピッチばねであり、支持部材55は、図10(A)にその正面図を、図10(B)にその背面図を示す。支持部材55は、その上端部のフランジ部56と、下端部の円柱部57とからなる金属製或いは樹脂製の部材である。フランジ部56の上面は、水平な平面部56aを有し、その下面には、図9、10に示すようにコイルばね50と同一ピッチの螺旋突起59が上方の始端部58から下方に向かって所定長さ(図では略第1巻部T1の長さ)に亘って形成される。
【0043】
また、円柱部57は、上下に貫通した中空部57aを有する筒状の部材であり、その外径は、コイルばね50の内径に嵌合されている。そして、該円柱部57には、始端部58にコイルばね50の上部巻端50aを当接する形態で、第1巻部T1が嵌合される。この場合、第1巻部T1及び下端巻部は支持部材55に対する支持部として利用される。そして、使用時には円柱部57の上下に貫通した中空部57a内に弁体34を嵌合して用いられる。なお、支持部材55の上面に弁体34を一体に形成するようにしてもよい。このような形態にすることにより部品点数並びに組み立て工数を低減することができる。
【0044】
この例の場合、有効巻端の位置は、螺旋突起59とコイルばね50とが密着する箇所から密着しなくなる位置、図9でいえば矢印P点である。即ち、この例では、上下有効巻端Pの位置を平面視で180度になるようにするものである。その結果、上下有効巻端Pの位置では図9に示すように間隙S2の段差を有することになり、弁体34作動中にコイルばね50が変形したとしても上下部有効巻端以降の巻部が当接することはなく、上下部有効巻端の位置は移動しない。そのため、所期の作用効果である精緻な燃料の圧力調整が可能になる。なお、この例の場合、上部巻端50aと図示しない下部巻端とは平面視で180度ずれていてもよいし、ずれていなくてもよい。
【0045】
図11に示すものは、図9のものと同様に所謂オープンエンド等ピッチばねを用いる例であり、1個のコイルばね50と2個の支持部材61とからなるコイルばねユニット60を用いるものである。なお、このコイルばねユニット60をコイルばねと呼んでもよい。また、図11は上端部の状態のみを示すが下端部も同様である。
【0046】
コイルばね50は、図9のものと同じ所謂オープンエンド等ピッチばねであり、支持部材61は、図12の(A)にその正面図を、図12の(B)にその背面図を示す。支持部材61は、金属製或いは樹脂製の上下に貫通した中空部61bを有する円柱状部材であり、その上面は、水平な平面部61aを有し、その外周には螺旋溝62が上方の始端部63から下方に向かって所定長さ(図では略第1巻部T1の長さ)に亘って形成される。
【0047】
また、第2巻部T2以降の部分については、切欠64が形成され、図11に示すように第2巻部T2の上面との間に隙間S3を有している。そして、該螺旋溝62には、始端部63にコイルばね50の上部巻端50aを当接する形態で、第1巻部T1が嵌合され、第1巻部T1及び下端巻部は支持部材61に対する支持部として利用される。そして、使用時には支持部材61の上下に貫通した中空部61b内に弁体34を嵌合して用いる。なお、支持部材61の上面に弁体34を一体に形成するようにしてもよい。このような形態にすることにより部品点数並びに組み立て工数を低減することができる。
【0048】
この例の場合、上下部有効巻端の位置は、螺旋溝62とコイルばね50とが密着する箇所から密着しなくなる位置、図11でいえば矢印Q点である。即ち、この例では、上下部有効巻端Qの位置を平面視で180度になるようにするものである。その結果、上下部有効巻端Qの位置では図11に示すように間隙S3の段差を有することになり、弁体34作動中にコイルばね50が変形したとしても上下部有効巻端以降の巻部が当接することはなく、上下部有効巻端の位置は移動しない。そのため、所期の作用効果である精緻な燃料の圧力調整が可能になる。なお、この例の場合も、上部巻端50aと図示しない下部巻端とは平面視で180度ずれていてもよいし、ずれていなくてもよい。
【0049】
図13に示すものは、ばね鋼パイプから形成したコイルばね80である。コイルばね80は、筒状のばね鋼パイプに等ピッチの螺旋貫通溝81を設けることにより形成され、上方から座巻に相当する第1巻部T1、第2巻部T2、第3巻部T3、第4巻部T4、第5巻部T5及び座巻に相当する第6巻部T6を有してなる。そして、使用時にはコイルばね80の上下に貫通した開口内に弁体34を嵌合して用いる。なお、コイルばね80の上面に弁体34を一体に形成するようにしてもよい。
【0050】
この例の場合、コイルばね80は、オープンエンド等ピッチばねになり、上下部有効巻端の位置は、図13で示す螺旋貫通溝81の上部巻端81aと、下部巻端81bになる。即ち、この例では、上部巻端81aと下部巻端81bとの位置を平面視で180度になるようにするものである。その結果、上部巻端81aの位置では図13に示すように間隙S4の段差を有することになり、弁体34が作動しコイルばね80が変形したとしても上下部有効巻端以降の巻部が当接することはなく、上下部有効巻端の位置は移動しない。そのため、所期の作用効果である精緻な燃料の圧力調整が可能になる。
【0051】
図14に示すものは、座巻に相当する第1巻部T1の上面と同じく座巻に相当する下端巻部の第6巻部T6の下面にそれぞれ水平な平面部71を形成した所謂オープンエンド等ピッチばねを用いるものである。コイルばね70は、断面矩形状のもので、コイルばね70の軸心方向の長さをbとし、径方向の長さをaとし、ピッチをpとすれば、b>a、b≧(5/8)pの関係にあるばねを用いるものである。この関係を図14(B)の平面図で示す平面部71と円弧部72との関係でいえば、第1巻部T1の上面に平面部71が225度以上の範囲に亘って形成されることになる。なお、平面部71が形成される範囲は、作動中に弁体34が傾くことがない範囲であればよく、例えば180度より大きければよいが弁体34の安定性等を確保するためには225度以上が好ましい。この平面部の範囲は、上述したすべての例のものに適用可能である。
【0052】
この例の場合、上部有効巻端は、弁体34が載る第1巻部T1の水平な平面部71と、この平面部71から連続する円弧部72との境界の傾斜始端部72aであり、下部有効巻端は、ばね受け部33が当接する第6巻部T6の水平な平面部71と、この平面部71から連続する円弧部72との境界の傾斜始端部72bである。そしてこの傾斜始端部72aと傾斜始端部72bとが180度の関係になるように成形する。
【0053】
この例の場合、平面部71と円弧部72とは連続している、即ち、図8、図9、図11及び図13の例のもののように段差がないものであり、弁体34作動中に傾斜始端部72a及び傾斜始端部72bが、図15(A)〜(C)で説明したように移動するのではないかの疑義が生じる。しかし、使用するばねは所謂オープンエンド等ピッチばねであるため、図15(E)に示すように円弧部72は平面部71に対し、広い角度θを持って連続することになる。そのため、弁体34作動中に傾斜始端部72a及び傾斜始端部72bが移動することはなく、上下部有効巻端の位置は移動しない。なお、この例のものはコイルばね70を断面矩形状のものとして説明したが、楕円等であってもよい。
【0054】
なお、本発明は、前記実施例の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜設計変更可能であり、例えば、弁体は、球、平面または円弧状のものを用いることができるし、圧力調整弁の用途も自動車用以外にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の圧力調整弁の断面図
【図2】本発明の両巻端が180度(0.5巻)ずれたセット時のコイルばねの斜視図
【図3】本発明の両巻端が180度ずれたセット時のコイルばねの平面図
【図4】図3のA−A線での断面図
【図5】両巻端が90度(0.25巻)ずれたセット時のコイルばねの断面図
【図6】(A)は本発明のばね特性図、(B)は図5のばね特性図
【図7】本発明と図5のヒステリシス特性の比較図
【図8】本発明の上下有効巻端が180度ずれたコイルばねの一部断面図
【図9】本発明の上下有効巻端が180度ずれた他のコイルばねの一部断面図
【図10】図9で示す支持部材の正面図及び背面図
【図11】本発明の上下有効巻端が180度ずれた更に他のコイルばねの一部断面図
【図12】図11で示す支持部材の正面図及び背面図
【図13】本発明の上下有効巻端が180度ずれた更に他のコイルばねの正面図
【図14】本発明の上下有効巻端が180度ずれた更に他のコイルばねの断面図及び平面図
【図15】本発明のたわみ量に応じた第1巻部T1と第2巻部T2間の有効巻数の変遷図
【図16】従来の圧力調整弁の断面図
【図17】自動車の燃料供給系の概略図
【符号の説明】
【0056】
30・・・圧力調整弁 31a・・・燃料導入口
31b・・・弁座 32・・・ケース
32a・・・空間 33・・・ばね受け部
33a・・・燃料吐出口 33b・・・段部
34・・・弁体 34a・・・円錐部
34b・・・段部 40・・・コイルばね
41・・・上部巻端 42・・・下部巻端
43・・・水平面 44・・・円弧面
45・・・水平面と円弧面との境界 49…スペーサ
50・・・コイルばね 50a・・・上部巻端
54…コイルばねユニット 55…支持部材
56…フランジ部 56a…平面部
57…円柱部 58…始端部
59…螺旋突起 60…コイルばねユニット
61…支持部材 61a…平面部
62…螺旋溝 63…始端部
64・・・切欠 70・・・コイルばね
71…平面部 72…円弧部
73・・・上部巻端 74・・・下部巻端
80・・・コイルばね 81…螺旋貫通溝
T1・・・第1巻部 T2・・・第2巻部
T3・・・第3巻部 T4・・・第4巻部
T5・・・第5巻部 T6・・・第6巻部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内の流体をポンプにより送給する通路に設けられ、前記流体の圧力を調整する圧力調整弁であって、流体の導入口と、流体の吐出口と、弁体と、弁座と、コイルばねと、ばね受け部とを有し、前記コイルばねは、前記弁体と前記ばね受け部との間に介在し、前記通路内の流体圧力が所定値以下の時には前記弁体を閉鎖し、前記通路内の流体圧力が所定値より大きくなると前記弁体を開放する圧力調整弁において、
前記コイルばねは、その上端巻部の上部巻端と、その下端巻部の下部巻端とは平面視で180度ずれていることを特徴とする圧力調整弁。
【請求項2】
前記コイルばねは、前記上端巻部及び前記下端巻部に平面部を有することを特徴とする請求項1に記載の圧力調整弁。
【請求項3】
タンク内の流体をポンプにより送給する通路に設けられ、前記流体の圧力を調整する圧力調整弁であって、流体の導入口と、流体の吐出口と、弁体と、弁座と、コイルばねと、ばね受け部とを有し、前記コイルばねは、前記弁体と前記ばね受け部との間に介在し、前記通路内の流体圧力が所定値以下の時には前記弁体を閉鎖し、前記通路内の流体圧力が所定値より大きくなると前記弁体を開放する圧力調整弁において、
前記コイルばねは、その上部有効巻端と、その下部有効巻端とは平面視で180度ずれており、前記弁体の作動範囲では、前記コイルばねの巻部同士が当接しないようにすることを特徴とする圧力調整弁。
【請求項4】
前記コイルばねの巻部同士が当接しないようにする手段は、スペーサであることを特徴とする請求項3に記載の圧力調整弁。
【請求項5】
前記コイルばねは、前記1個のオープンエンド等ピッチばねと、該オープンエンド等ピッチばねの上下に取り付けられる支持部材からなり、前記支持部材は、外周に前記オープンエンド等ピッチばねを支持するための該オープンエンド等ピッチばねと同一ピッチの螺旋突起又は螺旋溝を有することを特徴とする請求項3に記載の圧力調整弁。
【請求項6】
前記コイルばねは、ばね軸方向には長く径方向には短い断面形状を有するオープンエンド等ピッチばねであり、上端巻部及び下端巻部に平面部を有することを特徴とする請求項3に記載の圧力調整弁。
【請求項7】
前記コイルばねは、ばね鋼パイプの外周に等ピッチ螺旋貫通溝を設けることを特徴とする請求項3に記載の圧力調整弁。
【請求項8】
前記圧力調整弁は、自動車用燃料系に用いられることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の圧力調整弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−20061(P2008−20061A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108851(P2007−108851)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【出願人】(000161840)京三電機株式会社 (99)
【Fターム(参考)】