説明

圧力開閉弁

【課題】 弁体の振動による打音をより効果的に防止できるようにした圧力開閉弁を提供する。
【解決手段】 この圧力開閉弁10は、第1ポート11dと第2ポート12iとを備えたハウジング13と、該ハウジング内に収容され、バネ24によって付勢されて前記第1ポートを通常は閉塞しかつ前記第1ポートと前記第2ポートとの差圧が所定値を超えると開く弁体20とを有している。前記弁体に作用する前記バネによる開閉付勢力の軸線Mが、前記弁体が当接する弁座の軸線Lに対して傾いており、その傾き方向は前記弁座の軸線L方向に沿って見たとき、鉛直方向の下方から±30°の範囲に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃料タンク用チェックバルブ等に好適な圧力開閉弁に関し、特に作動時に弁体が振動して発生する打音を低減できるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料タンクには、燃料タンク内の圧力が上昇したときに、燃料蒸気を外部に排出して燃料タンクの破裂等を防ぎ、一方、燃料タンク内の圧力が低下したときには、燃料タンク外から外気を流入させることによって、燃料タンクの潰れ等を防止するチェックバルブが取付けられている。このチェックバルブは、燃料タンク内に連通するチューブを一端に連結され、外部に配設されるキャニスターに連通するチューブを他端に連結されて設置される。
【0003】
ところで、例えば自動車が山道を登っていくとき、燃料タンク内の温度が上昇して圧力が高まるので、チェックバルブが開いて燃料蒸気をキャニスターに逃がす。そして、山の頂上の目的地に到着してエンジンを停止したとき、燃料タンク内の温度は更にしばらく上昇を続けた後、ある程度時間が経過してから徐々に温度が低下していく。このため、車両が停止した後も、燃料タンク内の圧力が高く、チェックバルブが開いて燃料蒸気をキャニスターに逃がす状態がしばらく続くことがある。そのようなときに、燃料蒸気の通過に伴って、半開き状態にある弁体がチェックバルブのハウジング内で振動し、ハウジング内壁に衝突して打音を発生し、耳障りな異音を発生するという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するため、下記特許文献1には、第1ポートと第2ポートとを備えたハウジングと、該ハウジング内に収容され、バネによって付勢されて前記第1ポートを通常は閉塞し且つ前記第1ポートと前記第2ポートとの差圧が所定値を超えると開く弁体とを有する圧力開閉弁において、前記弁体に作用する前記バネによる開閉付勢力の軸線が、前記弁体が当接する弁座の軸線に対して不平行となるようにした圧力開閉弁が開示されている。この圧力開閉弁によれば、弁体がハウジングの内面に片当りするため、弁体がハウジング内で踊ることがなくなり、打音を発生しなくなるとされている。
【特許文献1】特開2005−83395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された圧力開閉弁においても、燃料タンク内の圧力が変動して、チェックバルブが半開き状態となるようなときに、弁体の振動による打音を完全には防止できないことがあった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、弁体の振動による打音をより効果的に防止できるようにした圧力開閉弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、上記特許文献1に記載された圧力開閉弁においては、該開閉弁が横向きに設置されるときには、バネによる開閉付勢力の軸線が、弁体が当接する弁座の軸線に対して不平行となるようにしても、弁体自身の重力も作用するため、弁体をハウジングに対して効果的に片当りさせることができず、打音防止効果が十分に得られないという事実を発見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1は、第1ポートと第2ポートとを備えたハウジングと、該ハウジング内に収容され、バネによって付勢されて前記第1ポートを通常は閉塞しかつ前記第1ポートと前記第2ポートとの差圧が所定値を超えると開く弁体とを有する圧力開閉弁において、前記弁体に作用する前記バネによる開閉付勢力の軸線が、前記弁体が当接する弁座の軸線に対して傾いており、その傾き方向は前記弁座の軸線方向に沿って見たとき、鉛直方向の下方から±30°の範囲に設定されていることを特徴とする圧力開閉弁を提供するものである。
【0009】
上記発明によれば、バネによる開閉付勢力の軸線を、弁体が当接する弁座の軸線に対して傾かせると共に、その傾き方向を前記弁座の軸線方向に沿って見たとき、鉛直方向の下方から±30°の範囲に設定したことにより、バネによる開閉付勢力と弁体自身の重力とが協働して、ハウジング内面に弁体をより効果的に片当りさせることができ、打音の発生をより確実に防止することができる。
【0010】
また、本発明の第2は、第1ポートと第2ポートとを備えたハウジングと、該ハウジング内に収容され、バネによって付勢されて前記第1ポートを通常は閉塞しかつ前記第1ポートと前記第2ポートとの差圧が所定値を超えると開く弁体とを有する圧力開閉弁において、前記バネの一端が当接する前記ハウジングに設けた第1バネ座の中心に対して、前記バネの他端が当接する前記弁体に設けた第2バネ座の中心が、ハウジングの中心軸線方向に沿って見たとき、鉛直方向下方から±30°の範囲の方向に偏位して配置されており、前記バネは、圧縮コイルバネからなり、その両端面が互いに平行で、軸線が両端面に対して直立するように形成されており、前記第1バネ座及び第2バネ座によって支持されて、前記両端面の中心がオフセット状態に組付けられていることを特徴とする圧力開閉弁を提供するものである。
【0011】
上記発明によれば、前記第1バネ座の中心に対する前記第2バネ座の中心の偏位方向が鉛直方向下方から±30°の範囲になるようにしたことにより、バネによる付勢力と弁体自身の重力とが協働して、ハウジング内面に弁体をより効果的に片当りさせることができ、打音の発生をより確実に防止することができる。
【0012】
更に、本発明の第3は、前記第1又は第2の発明において、前記ハウジングには、被取付け部に対する取付け手段が設けられ、この取付け手段は、取付け状態において前記開閉付勢力の軸線又は前記第1バネ座の中心に対する前記第2バネ座の中心の偏位方向が前記角度範囲になるように配置されている圧力開閉弁を提供するものである。
【0013】
上記発明によれば、ハウジングに設けられた被取付け部への取付け手段が、上記のように配置されていることにより、被取付け部に上記取付け手段を介して圧力開閉弁を取付けたとき、バネによる開閉付勢力の軸線の、弁座の軸線に対する傾き方向、又は前記第1バネ座の中心に対する前記第2バネ座の中心の偏位方向が、必然的に鉛直方向の下方から±30°の範囲になるようにすることができる。
【0014】
更に、本発明の第4は、前記第1〜3の発明のいずれかにおいて、前記ハウジングには、圧力開閉弁にチューブを接続する際に該圧力開閉弁を保持させるための治具に対する位置決め手段が設けられ、この位置決め手段は、該治具に保持された圧力開閉弁にチューブを接続して形成される配管ユニットの予定される取付け状態において、前記開閉付勢力の軸線又は前記第1バネ座の中心に対する前記第2バネ座の中心の偏位方向が前記角度範囲になるように配置されている請求項1〜3のいずれか1つに記載の圧力開閉弁。
【0015】
上記発明によれば、圧力開閉弁を治具に保持させてチューブを接続することにより、配管ユニットを形成したとき、配管ユニットの予定される取付け状態において、バネによる開閉付勢力の軸線の、弁座の軸線に対する傾き方向、又は前記第1バネ座の中心に対する前記第2バネ座の中心の偏位方向が、必然的に鉛直方向の下方から±30°の範囲になるようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バネによる開閉付勢力の軸線の、弁座の軸線に対する傾き方向、又は前記第1バネ座の中心に対する前記第2バネ座の中心の偏位方向を、前記弁座の軸線方向に沿って見たとき、鉛直方向の下方から±30°の範囲に設定したことにより、バネによる開閉付勢力と弁体自身の重力とが協働して、ハウジング内面に弁体をより効果的に片当りさせることができ、打音の発生をより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜7には、本発明による圧力開閉弁を自動車の燃料タンクの蒸気配管(ベーパーライン)に設けるチェックバルブに適用した一実施形態が示されている。
【0018】
図1〜2に示すように、このチェックバルブ10は、本体部11及び蓋体部12とからなるハウジング13を有している。なお、図2〜4において、矢印Aは鉛直方向下方を示している。
【0019】
本体部11は、複合弁体20を収容する円筒部11aと、この円筒部11aの内部に連通し、後述する燃料タンク内周に沿って配設される蒸気導入管が接続される接続管部11bとを有している。本体部11内の前記接続管部11bに連通する部分が第1ポート11dをなし、その開口部周縁には、前記複合弁体20が当接する弁座11cが形成されている。
【0020】
また、円筒部11aの外周には、燃料タンク内壁に形成されるブラケットに固定するためのフック14が設けられており、フック14は、円筒部11aの周壁から突設された支柱14aと、支柱14aの先端から錨型に円筒部11a方向に延出された係止片14bとで構成されている。このフック14が、本発明における被取付け部への取付け手段を構成している。また、フック14の係止片14bの先端方向に位置して、円筒部11aの外周には、リブ状のブラケットへの当り部15a、15bが形成されている。
【0021】
一方、蓋体部12は、上記本体部11の円筒部11aの開口部を閉塞するように組み付けられるフランジ部12aと、このフランジ部12aの組付け面に形成された円筒部12fと、燃料タンクから引き出されて、図示しないキャニスターに接続される配管が接続される接続管部12bとを有している。この接続管部12bに連通する部分が第2ポート12iをなしている。そして、円筒部12fを本体部11の円筒部11a内周に挿入し、フランジ部12aを本体部11の端面に当接させて、その状態で溶着することにより、蓋体部12は本体部11に固着されるようになっている。
【0022】
また、蓋体部12の内面には、後述する第1圧縮コイルバネ24の一端が当接する第1バネ座12eが形成されている。この第1バネ座12eは、上記円筒部12fの内周に所定間隔で突設された複数のリブ12cにより囲まれて形成されている。各リブ12cは、円筒部12fの内周から半径方向内方に伸び、その上面が次第に低くなるテーパ状をなしている。また、各リブ12cの半径方向の長さが変化していて、第1バネ座12eの第1圧縮コイルバネ24の一端が嵌合して着座する部分が、前記本体部11のフック14の延出方向とは反対方向に偏心するように形成されている。
【0023】
更に、蓋体部12の接続管部12bの基部には、フランジ12gが形成されており、このフランジ12gに所定方向の切欠き部12hが形成されている。この切欠き12hは、後述する治具60にチェックバルブ10を保持させる際に、治具60に対してチェックバルブ10が所定の方向で保持されるようにする位置決め手段をなしている。
【0024】
一方、複合弁体20は、外側弁体21と、内側弁体22と、これらの弁体21、22の間に介在し、外側弁体21の内周に螺着された中間筒体23とで構成されている。
【0025】
外側弁体21は、円筒部11aの内周に遊嵌して、円筒部11a内でスライド可能に配置されている。そして、一方の端部に曲面状のシール面21aを有しており、このシール面21aの中央部は開口21bをなしている。シール面21aは、円筒部11aの弁座11cに当接して、前記接続管部11bに連通する第1ポート11dを開閉するようになっている。
【0026】
外側弁体21の他方の端部は開口されていて、この開口部に前記中間筒体23が取付けられている。すなわち、中間筒体23は、全体として円筒状をなし、その一方の端部外周は、上記外側弁体21の内周に挿入され、他端にはフランジ部23aが形成されていて、このフランジ部23aが外側弁体21の開口端部に当接して溶着シールされている。なお、溶着シールに先だって、内側弁体22は、中間筒体23の内部に予め挿入されている。
【0027】
中間筒体23は、内側弁体22が当接する弁座23bを有している。また、フランジ23aの後端面と、蓋体部12との間には、第1圧縮コイルバネ24が介装されている。第1圧縮コイルバネ24の一端は、前述した蓋体部12の第1バネ座12eに嵌合し、ハウジング13の中心軸線に対して偏心して配置されている。第1圧縮コイルバネ24の他端は、複合弁体20のフランジ部23aの後端面に設けた第2バネ座23cに当接している。第1圧縮コイルバネ24は、複合弁体20全体を第1ポート11d方向にバネ付勢し、前記蒸気導入管41、42からの蒸気圧が一定値を超えるまでは、複合弁体20の前記シール面21aを弁座11cに当接させる。
【0028】
なお、第1圧縮コイルバネ24は、その両端面が互いに平行で、軸線が両端面に対して直立するように形成されており、上記のように第1バネ座12e及び第2バネ座23cによって支持されて、前記両端面の中心がオフセット状態に組付けられている。
【0029】
内側弁体22は、端面が閉塞された半球状のシール面22aを有し、シール面22aに対向する端部は椀状に開口していて、この開口縁内周に設けた拡径段部22bと、外側弁体21の内周に設けたバネ受け部21cの間に、第2圧縮コイルバネ25が介装されている。第2圧縮コイルバネ25は、内側弁体22を弁座23bに当接させる方向にバネ付勢する。
【0030】
次に、このチェックバルブ10に蒸気導入管41及びキャニスターに連結される配管45を接続して、配管ユニットを形成する方法について説明する。
【0031】
図5に示すように、この配管ユニット46を形成する際には、チェックバルブ10を治具60に保持させる。治具60は、その上面にチェックバルブ10が適合する凹溝61を有し、この凹溝61には、フック14が挿入される孔部62、フランジ12gが挿入される拡径溝63が形成されている。拡径溝63には、フランジ12gに形成された切欠き部12hに適合する部分があり、チェックバルブ10を所定の方向に挿入しないと保持できないようになっている。
【0032】
こうして、チェックバルブ10を治具60に保持させた状態で、チェックバルブ10の一方の接続管部12bに燃料タンク内に連結される蒸気配管41を接続し、他方の接続管部11bにキャニスターに連結される配管45を接続する。この実施形態の場合、蒸気配管41及び配管45は、ポリアミド等の耐熱性の樹脂チューブで形成され、適用されるタンク形状に適合するような形状に予め曲げ加工されている。このため、チェックバルブ10に蒸気配管41及び配管45を接続して配管ユニット46を形成した状態で、燃料タンクに取付けられた状態での上下方向が定められることになる。
【0033】
そして、本発明では、チェックバルブ10に設けたフランジ12gの切欠き部12hによって、治具60にチェックバルブ10を所定の方向に挿入しないと保持できないようになっているので、チェックバルブ10に対する蒸気配管41及び配管45の取付け角度が定められ、配管ユニット46の下方にフック14が位置するようにされている。
【0034】
図6、7に示すように、この配管ユニット46は、燃料タンク50の上面に設置されるようになっている。この実施形態の場合、燃料タンク50には、蓋体51が装着される開口部52が2つ設けられており、車体57や周辺装置に干渉しないような凹凸形状をなす上面を有している。そして、配管ユニット46は、開口部52を避けて上面の凹凸形状に適合するように予め曲げ加工されており、いくつかのブラケット53を介して、燃料タンク50及び車体57に固定されている。なお、蒸気配管41は、その端部にコネクタ47を有しており、このコネクタ47を介して、燃料タンク50内に導入された配管54に連結される。
【0035】
この場合、チェックバルブ10のフック14は、その下方に配置されたブラケット53の取付け孔55に挿入されて係止されている。このとき、チェックバルブ10の当り部15a、15bがブラケット53の上面に当接して、チェックバルブ10をガタ付きなく保持するようになっている。
【0036】
こうして、配管ユニット46を燃料タンク50に取付けた状態で、チェックバルブ10の第1圧縮コイルバネ24の一端が嵌合する第1バネ座12eは、ハウジング13の中心軸線Lに対して上方に偏心している。このため、第1圧縮コイルバネ24の後端部は、ハウジング13の中心軸線Lに対して上方に偏って支持され、その結果、複合弁体20に作用する第1圧縮コイルバネ24による開閉付勢力の軸線Mが、ハウジング13の中心軸線(言い換えると弁座11cの軸線)Lに対して、鉛直方向下方に傾いている。
【0037】
その結果、図3,4に示すように、複合弁体20は、第1圧縮コイルバネ24による開閉付勢力の傾きによってやや傾いた状態で配置され、その両端部外周がハウジング13の内周に片当りした状態となる。なお、図3,4は、この状態をわかりやすく誇張して記載しているが、実際にはこれほど大きく傾いているわけではない。上記第1圧縮コイルバネ24による開閉付勢力の軸線Mの、ハウジング13の中心軸線(言い換えると弁座11cの軸線)Lに対する傾き角度θは、15〜20°であることが好ましい。
【0038】
また、ハウジング13の中心軸線(言い換えると弁座11cの軸線)方向に見たとき、上記第1圧縮コイルバネ24による開閉付勢力の軸線Mの方向は、鉛直方向の下方から±30°、好ましくは±10°の範囲に設定されていればよく、この実施形態では、ほぼ鉛直方向下方に向いている。
【0039】
次に、このチェックバルブ10の作用について説明する。このチェックバルブ10においては、燃料タンク50内の蒸気圧が所定値以下のときは、図2、3に示すように、第1圧縮コイルバネ24の付勢力によって複合弁体20のシール面21aが本体部11の弁座11cに当接し、チェックバルブ10は閉じた状態となる。
【0040】
また、燃料タンク50内の蒸気圧が所定値以上になると、図4に示すように、第1圧縮コイルバネ24の付勢力に抗して、複合弁体20が本体部11の弁座11cから離れ、蒸気導入管41を通して、燃料タンク50内の燃料蒸気が導入され、チェックバルブ10及び配管45を通って、図示しないキャニスターに送られる。
【0041】
更に、燃料タンク50内の圧力が所定値以下の負圧となったときには、キャニスターに接続された配管45側の方が高い圧力となるため、複合弁体20内の第2圧縮コイルバネ25に抗して、内側弁体22のシール面22aが弁座23bから離れて内部に押込められ、配管45側の気体が複合弁体20内を通って燃料タンク50内に導入される。
【0042】
こうして、燃料タンク50内の圧力を常時一定の範囲に保って、燃料タンク50の破裂や変形、給油口からの燃料の吹き出し等を防ぐようにしている。
【0043】
ところで、前述したように、例えば自動車が山道を登り、頂上の目的地に到着してエンジンを停止したときような場合には、燃料タンク内の温度は更にしばらく上昇を続けた後、ある程度時間が経過してから徐々に温度が低下していく。このため、車両が停止した後も、燃料タンク内の圧力が高く、チェックバルブ10が図4に示すような半開き状態になって、燃料蒸気をキャニスターに逃がす状態がしばらく続くことがある。そのようなときに、従来のチェックバルブでは、燃料蒸気の通過に伴って、半開き状態にある複合弁体20がハウジング13内で踊って振動し、ハウジング13内壁に衝突して打音を発生し、運転者等に不安をいだかせることがあった。
【0044】
しかし、このチェックバルブ10においては、前述したように、複合弁体20に作用する第1圧縮コイルバネ24による開閉付勢力の軸線Mが、ハウジング13の中心軸線(言い換えると弁座11cの軸線)Lに対して鉛直方向下方に傾いており、複合弁体20自身の重力もそれと同じ方向に作用するため、複合弁体20の両端部外周が、図3,4に示すように、ハウジング13の内周に片当りした状態となる。そのため、複合弁体20がハウジング13内で踊って振動することが効果的に防止され、打音が発生することをほぼ確実に防止することができる。
【0045】
図8〜10には、上記チェックバルブ10を用いた打音発生試験の方法及び結果が示されている。
【0046】
図8において、(a)は試験に供したチェックバルブ10の側面図であり、(b)は試験に供したチェックバルブ10の軸線方向から見たときの、第1圧縮コイルバネ24の第1バネ座12e(太線)及び第2バネ座23c(細線)の位置関係を示している。矢印Aは鉛直方向下方を示している。なお、第1圧縮コイルバネ24としては、その両端面が互いに平行で、軸線が両端面に対して直立するように形成され、第1バネ座12e及び第2バネ座23cによって支持されて、前記両端面の中心がオフセット状態に組付けられているものを使用した。
【0047】
また、同図(b)における点M’は、第1圧縮コイルバネ24による開閉付勢力の軸線Mの傾き方向を示している。そして、1〜6の試験条件は、同一試験品を軸方向を中心として回転させて試験台に固定することにより、上記第1圧縮コイルバネ24による開閉付勢力の軸線Mの傾き方向を変えている。試験条件1は、上記軸線Mが鉛直方向上方に傾いており、試験条件2は、上記軸線Mが上記軸線Mが鉛直方向上方から45°傾いており、試験条件3は、上記軸線Mが水平方向に傾いており、試験条件4は、上記軸線Mが鉛直方向下方から45°傾いており、試験条件5は、上記軸線Mが鉛直方向下方から30°傾いており、試験条件6は、上記軸線Mが鉛直方向下方に向いている。本発明の実施例となるのは、上記試験条件5,6の取付け状態である。なお、矢印Aは鉛直方向下方を示している。
【0048】
すなわち、上記各チェックバルブ10の第1ポート11dに、空気圧を0→10KPaとなるように徐々に増大してかけた後、10→3KPaとなるように徐々に減圧させて、チェックバルブ10を通過する空気の流量を流量計(50L/min計)で測定すると共に、そのときの音圧をチェックバルブ10から540mm離れた位置に配置した騒音計(小野測器製、商品名「LA1245」)によって測定した。複合弁体20が開いて、流れる空気量が増大するに伴って音圧は徐々に高まるが、複合弁体20がハウジング13内で振動して異音(打音)が発生するときには、上記音圧は急激に増大する。したがって、音圧の変化を調べることにより、異音の発生の有無をより正確に調べることができる。
【0049】
図9は、上記試験結果を示している。同図(a)は、上記試験条件1〜6について、それぞれ20個ずつの試料を用いて試験した結果を示し、加圧NGとは加圧時に異音が発生したこと、減圧NGとは減圧時に異音が発生したことを示し、加圧OKとは加圧時に異音が発生しなかったこと、減圧OKとは減圧時に異音が発生しなかったことを示す。
【0050】
このように、本発明の実施例となる試験条件5,6は、異音の発生が顕著に抑制されており、特に試験条件6は、加圧時における異音の発生がほとんどないことがわかる。
【0051】
また、軸線Mが鉛直方向下方から45°以上傾いている試験条件1〜4においては、加圧時又は減圧時のいずれか、又は両方で異音が発生しており、軸線Mを傾かせたものであっても、異音発生抑制効果が十分に得られていないことがわかる。特に、軸線Mが鉛直方向上方から±45°の範囲にある試験品1,2では、異音発生抑制効果がほとんど得られないことがわかる。その理由は、第1圧縮コイルバネ24による開閉付勢力の軸線Mを傾かせてあっても、その傾き方向が上方に向いている場合には、複合弁体20の重力が、軸線Mの傾きによる偏心した付勢力を、ハウジング13の軸線Lに近い方向に是正してしまうためと考えられる。
【0052】
また、同図(b)は、第1圧縮コイルバネ24の第1バネ座12eの中心が、第2バネ座23cの中心に対して偏心しておらず、ハウジング13の軸心に配置された試料を作成し、この試料について、第1バネ座12eを、第2バネ座23cに対して、軸方向を中心として回転させて試験台に固定し、上記と同様な異音発声抑制効果についての試験を行った結果を示している。この結果から、第1バネ座12eの中心が、第2バネ座23cの中心に対して偏心していない場合には、いずれの試料も加圧時及び減圧時でNGとなり、異音発生を抑制できないことが分かる。
【0053】
図10は、図9(a)の試料No.1について、試験条件1,3,6の測定結果を示しており、横軸は空気流量(単位L/min)、縦軸は音圧(db)を表している。エアを流す前での暗騒音は約50dbで、空気の流量が増大するにつれて、音圧は徐々に上昇していき、流量50L/minでは約60dbとなる。このとき、試験条件1においては、途中で急激に音圧が上昇し、異音が発生する。また、試験条件3においては、試験条件1よりも遅れて音圧が急激に上昇し、やはり異音が発生する。これに対して、試験条件6では、音圧が急激に上昇するところはなく、異音はほぼ確実に抑制されることがわかる。
【0054】
図11〜13には、本発明による圧力開閉弁を自動車の燃料タンクの蒸気配管(ベーパーライン)に設けるチェックバルブに適用した他の実施形態が示されている。なお、図中矢印Aは鉛直方向下方を示している。
【0055】
図11に示すように、この実施形態によるチェックバルブ10aは、ハウジング13の本体部11に、分岐した2つの接続管部11e、11fが設けられており、蓋体部12の第1バネ座12eが、フック14と同じ方向に偏心して形成されている点が、上記実施形態と異なっている。
【0056】
図12に示すように、チェックバルブ10aの接続管部11b、11cには、蒸気導入管41、42が接続され、この蒸気導入管41、42の先端にはカットバルブ43、44が接続される。また、上記チェックバルブ10の接続管部12bには、図示しないキャニスターに連結される配管45が接続される。そして、この配管ユニット46aは、燃料タンク50内の天井壁に固定されるようになっている。
【0057】
すなわち、図13に示すように、燃料タンク50の天井壁の内面に固着されたブラケット53の取付け孔55に、チェックバルブ10aのフック14を挿入して係止することにより、チェックバルブ10aは燃料タンク50の天井壁内面に固定される。この状態で、第1圧縮コイルバネ24の一端を支持する第1バネ座12eは上方に偏って配置されている。
【0058】
したがって、この実施形態においても、複合弁体20に作用する第1圧縮コイルバネ24による開閉付勢力の軸線Mが、ハウジング13の中心軸線(言い換えると弁座11cの軸線)Lに対して鉛直方向下方に傾いており、複合弁体20自身の重力もそれと同じ方向に作用するため、複合弁体20の両端部外周がハウジング13の内周に片当りした状態となり、複合弁体20がハウジング13内で踊って振動することが効果的に防止され、打音が発生することをほぼ確実に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えば燃料タンク用チェックバルブ等に好適な圧力開閉弁であって、作動時に弁体が振動して発生する打音を低減できる圧力開閉弁として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の圧力開閉弁を燃料タンク用チェックバルブに適用した一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】同チェックバルブの弁が閉じた状態の断面図である。
【図3】同チェックバルブの取付け状態における弁が閉じた状態の断面図である。
【図4】同チェックバルブの取付け状態における弁が開いた状態の断面図である。
【図5】同チェックバルブに蒸気導入管及びキャニスターに連結される配管を接続して配管ユニットを形成する方法を示す説明図である。
【図6】同配管ユニットを燃料タンクに取付けた状態を示す断面図である。
【図7】同配管ユニットを燃料タンクに取付けた状態を示す平面図である。
【図8】チェックバルブを用いた打音発生試験の方法を示す説明図である。
【図9】同試験結果を示す説明図である。
【図10】同試験において空気の流量と音圧との関係を測定した結果を示す図表である。
【図11】本発明の圧力開閉弁を燃料タンク用チェックバルブに適用した他の実施形態を示す分解斜視図である。
【図12】同チェックバルブを燃料タンク内に配設する状態を示す斜視図である。
【図13】同チェックバルブを燃料タンクの天井壁内面に取付けた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10,10a チェックバルブ
11 本体部
11d 第1ポート
11a 円筒部
11c 弁座
11b、11e、11f 接続管部
12 蓋体部
12a フランジ部
12b 接続管部
12c リブ
12e 第1バネ座
12f 円筒部
12g フランジ
12h 切欠き部
12i 第2ポート
13 ハウジング
14 フック
14b 係止片
14a 支柱
15a、15b 当り部
20 複合弁体
21 外側弁体
21a シール面
21c バネ受け部
21b 開口
22 内側弁体
22b 拡径段部
23c 第2バネ座
23 中間筒体
23a フランジ部
23b 弁座
24 第1圧縮コイルバネ
25 第2圧縮コイルバネ
41、42 蒸気導入管
43、44 カットバルブ
45 キャニスターに連通する配管
46、46a 配管ユニット
47 コネクタ
50 燃料タンク
51 蓋体
52 開口部
53 ブラケット
54 配管
55 孔
60 治具
61 凹溝
62 孔部
63 拡径溝
L ハウジングの中心軸線(言い換えると弁座の軸線)
M 第1圧縮コイルバネによる開閉付勢力の軸線
A 鉛直方向下方

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ポートと第2ポートとを備えたハウジングと、該ハウジング内に収容され、バネによって付勢されて前記第1ポートを通常は閉塞しかつ前記第1ポートと前記第2ポートとの差圧が所定値を超えると開く弁体とを有する圧力開閉弁において、前記弁体に作用する前記バネによる開閉付勢力の軸線が、前記弁体が当接する弁座の軸線に対して傾いており、その傾き方向は前記弁座の軸線方向に沿って見たとき、鉛直方向の下方から±30°の範囲に設定されていることを特徴とする圧力開閉弁。
【請求項2】
第1ポートと第2ポートとを備えたハウジングと、該ハウジング内に収容され、バネによって付勢されて前記第1ポートを通常は閉塞しかつ前記第1ポートと前記第2ポートとの差圧が所定値を超えると開く弁体とを有する圧力開閉弁において、前記バネの一端が当接する前記ハウジングに設けた第1バネ座の中心に対して、前記バネの他端が当接する前記弁体に設けた第2バネ座の中心が、ハウジングの中心軸線方向に沿って見たとき、鉛直方向下方から±30°の範囲の方向に偏位して配置されており、前記バネは、圧縮コイルバネからなり、その両端面が互いに平行で、軸線が両端面に対して直立するように形成されており、前記第1バネ座及び第2バネ座によって支持されて、前記両端面の中心がオフセット状態に組付けられていることを特徴とする圧力開閉弁。
【請求項3】
前記ハウジングには、被取付け部に対する取付け手段が設けられ、この取付け手段は、取付け状態において前記開閉付勢力の軸線又は前記第1バネ座の中心に対する前記第2バネ座の中心の偏位方向が前記角度範囲になるように配置されている請求項1又は2記載の圧力開閉弁。
【請求項4】
前記ハウジングには、圧力開閉弁にチューブを接続する際に該圧力開閉弁を保持させるための治具に対する位置決め手段が設けられ、この位置決め手段は、該治具に保持された圧力開閉弁にチューブを接続して形成される配管ユニットの予定される取付け状態において、前記開閉付勢力の軸線又は前記第1バネ座の中心に対する前記第2バネ座の中心の偏位方向が前記角度範囲になるように配置されている請求項1〜3のいずれか1つに記載の圧力開閉弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−329245(P2006−329245A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150705(P2005−150705)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000124096)株式会社パイオラックス (331)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】