圧縮成形装置、及び金型
【課題】効率的な熱成形が可能な圧縮成形装置、及び金型を提供することを課題とする。
【解決手段】金型に原料10を投入して加熱し加圧して成形する圧縮装置1であって、原料10を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型3と、型枠に入れた原料10を圧縮する第二の金型6と、第二の金型6を支持して加熱する熱源部7と、を備え、第二の金型6は、熱源部7側に一端16が位置し、原料10を押圧する押圧面14側に他端17が位置するヒートパイプ13と、ヒートパイプ13の長手方向に沿ってヒートパイプ13を包む断熱層15と、を有する。
【解決手段】金型に原料10を投入して加熱し加圧して成形する圧縮装置1であって、原料10を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型3と、型枠に入れた原料10を圧縮する第二の金型6と、第二の金型6を支持して加熱する熱源部7と、を備え、第二の金型6は、熱源部7側に一端16が位置し、原料10を押圧する押圧面14側に他端17が位置するヒートパイプ13と、ヒートパイプ13の長手方向に沿ってヒートパイプ13を包む断熱層15と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮成形装置、及び金型に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金型に原料を投入して加熱・加圧成形して作製される、車両を制動するブレーキ用摩擦部材は、車軸と共に回転するディスクやブレーキドラムと接触する摩擦材がプレッシャプレートあるいはリムに圧着されている。摩擦材は、苛酷な使用環境下においても所定の摩擦力を発揮するべく、各種の材料を混ぜたものを結合材で結合している。
【0003】
摩擦材の熱成形に際しては、金型の熱伝導率を高めるため、例えば、金型にヒートパイプを埋設したものが考案されている(例えば、特許文献1を参照)。なお、ヒートパイプは、他の成形金型や融雪装置などでも利用されている(例えば、特許文献2〜4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−91820号公報
【特許文献2】特許第3896461号公報
【特許文献3】特開平11−350411号公報
【特許文献4】特開平5−337997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧縮成形に用いる金型の熱容量が大きいと、熱源から被成形物と接する押圧面への伝熱に時間を要する。伝熱速度の問題はヒートパイプで解消し得るが、金型の熱容量が大きいと押圧面が所望の温度に達するまでに時間を要する。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、効率的な熱成形が可能な圧縮成形装置、及び金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、金型に内蔵したヒートパイプを断熱層で包むことにした。
【0008】
詳細には、金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形装置であって、前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、前記第二の金型を支持して加熱する熱源部と、を備え、前記第二の金型は、前記熱源部側に一端が位置し、前記原料を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプと、前記ヒートパイプの長手方向に沿って該ヒートパイプを包む断熱層と、を有する。
【0009】
上記圧縮成形装置は、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキの摩擦材といった被成形物の熱成形に適用することが可能であり、プレッシャプレートやリムに摩擦材を圧着して熱成形することができる。
【0010】
ここで、金型は、様々な形状のものを生産可能なようにするべく、成形装置の熱盤といった熱源部に載置される。よって、被成形物に効率よく熱が伝わるようにするには、金型
の熱伝導率の向上が求められる。上記圧縮成形装置は、熱源部側に一端が位置し、被成形物を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプを金型に設けることで、金型の熱伝導率の向上を図っている。
【0011】
ところで、例えば摩擦材のような被成形物を熱成形するという観点に鑑みれば、金型全体が昇温される必要はなく、被成形物と接触する押圧面さえ昇温されていればよい。ところが、ヒートパイプは、局部的に加熱されて蒸発した作動液が非加熱部分で凝縮することで熱を瞬時に移動させるものであるため、はじめは被成形物と接触する押圧面にのみ熱が移動するが時間が経過するにつれて金型全体に広がってしまう。また、ヒートパイプの側面から金型内部への熱の移動もあり、熱が押圧面以外の昇温に奪われてしまう。そこで、上記圧縮成形装置は、ヒートパイプの長手方向に沿ってヒートパイプを包む断熱層を有している。これにより、熱源部の熱が押圧面に伝わりやすくなり、金型内部への熱の伝達を防ぎ、効率的な熱成形が可能となる。
【0012】
なお、前記断熱層は、前記第二の金型の内部に形成される空間であり、該空間には前記熱源部側から前記押圧面側へ延在して該押圧面を背後から支持する支持部が設けられていてもよい。このように形成される金型であれば、押圧面の昇温に寄与しない金型の内部が空洞になっているので、押圧面がヒートパイプにより効率的に昇温され且つヒートパイプによって移動した熱が押圧面の昇温以外に浪費されにくくなり、効率的な熱成形が可能となる。更に、押圧面は背後から支持部によって支持されているので、被成形物を押圧する際の押圧力にも耐えられる。
【0013】
また、前記第二の金型は、前記押圧面を形成する第一の部材と、前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、前記第一の部材と前記第二の部材との間に挟まれる第一の断熱材と、前記第二の部材と前記熱源部との間に挟まれる第二の断熱材と、を有するものであってもよい。これにより、金型は、押圧面を形成する第一の部材とそれ以外の第二の部材と別々に構成され、更に、第二の部材は、第一の断熱材と第二の断熱材で挟まれる。金型がこのように形成されていれば、熱源部の熱が第二の部材に伝わることなく、ヒートパイプによって第一の部材へ伝えられるため、効率的な熱成形が可能となる。
【0014】
また、前記ヒートパイプの両端のうち少なくとも一端側には、該ヒートパイプの熱伸縮量を吸収する隙間が設けられていてもよい。このような隙間が設けられていれば、ヒートパイプの、常温時と熱成形時の使用温度差による線膨張率の違いから生じる伸縮によるヒートパイプの損傷を予防することができる。
【0015】
また、前記第二の金型は、前記押圧面を形成する第一の部材と、前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、を有し、前記第二の部材には、前記第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置したヒートパイプが埋設されていてもよい。第二の部材にヒートパイプがこのように埋設されていれば、熱源部から第二の部材を介して第一の部材へ熱が伝わる過程で、第二の部材から周囲へ放射される熱量が少なくなるので、熱源部の熱が押圧面へ効果的に伝わる。
【0016】
なお、本願発明は、金型としての側面からも捉えることができる。例えば、本願発明は、金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形用の金型であって、前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、を備え、前記第二の金型は、前記第二の金型を支持して加熱する熱源部側に一端が位置し、前記原料を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプと、前記ヒートパイプの長手方向に沿って該ヒートパイプを包む断熱層と、を有するものであってもよい。
【0017】
また、本願発明は、金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形装置であって、前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、前記第二の金型を支持して加熱する熱源部と、を備え、前記第二の金型は、前記押圧面を形成する第一の部材と、前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、を有し、前記第二の部材には、前記第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置したヒートパイプが埋設されているものであってもよい。第一の部材を支持する第二の部材に、ヒートパイプがこのように埋設されていれば、第二の部材を介して第一の部材の押圧面へ伝わる熱源部の熱が、第二の部材から周囲へ放熱されにくくなるので、熱源部の熱が押圧面へ効果的に伝わるようになる。
【0018】
また、前記第二の部材は、前記第一の部材と該熱源部との間に配置される板状の部材であり、前記第二の部材には、前記熱源部の熱のうち前記第一の部材が配置されている領域以外の領域の熱を該第一の部材へ運ぶ、該第一の部材を支持する面に沿って延在する前記ヒートパイプが、該第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置された状態で埋設されていてもよい。第一の部材と熱源部との間に配置された板状の部材に、第一の部材が配置されている領域以外の領域の熱を第一の部材へ運ぶヒートパイプが埋設されていれば、周囲へ放熱される熱源部の熱が第一の部材へ集まるため、熱源部の熱が押圧面へ効果的に伝わるようになる。
【0019】
また、前記第一の部材は、前記第二の部材の中心部で支持されており、前記第二の部材には、前記中心部の周辺部と該中心部とを跨ぐように配置した前記ヒートパイプが埋設されていてもよい。第一の部材を支持している第二の部材の中心部とその周辺部とを跨ぐように配置したヒートパイプが前記第一の部材に埋設されていれば、周辺部から周囲へ放熱される熱源部の熱が中心部へ集まるため、熱源部の熱が押圧面へ効果的に伝わるようになる。
【発明の効果】
【0020】
効率的な熱成形が可能な圧縮成形装置、及び金型を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る成形装置の構造図である。
【図2】第一変形例に係る成形装置の構造図である。
【図3】第二変形例に係る成形装置の構造図である。
【図4】第二変形例の別態様に係る成形装置の構造図である。
【図5】第二変形例の別態様に係る成形装置の構造図である。
【図6】ヒートパイプの上端の固定状態を拡大した図である。
【図7】変形例に係る嵌合部の斜視図である。
【図8】伝熱グリースの充填状態を示す図である。
【図9】ヒートパイプの下端の固定状態を拡大した図である。
【図10】第一変形例の別態様に係る成形装置の構造図である。
【図11】下型に埋め込んだヒートパイプの位置を上から見た図である。
【図12】実施形態の別態様に係る成形装置の構造図である。
【図13】実施形態の別態様に係る成形装置の熱の移動を示した図である。
【図14】実施形態の別態様に係る成形装置の変形例を示した図である。
【図15】ヒートパイプと放熱との関係を示した図である。
【図16】下熱盤から押圧面までの温度勾配を示したグラフである。
【図17】押圧面の昇温が完了するまでの温度変化のグラフである。
【図18】ヒートパイプの本数と到達可能な温度との関係を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願発明の実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る成形装置1の構造図である。成形装置1は、図1に示すように、上型2、中型3、及び下型4の上に立設されたパンチ6を有する金型5と、下型4を介してパンチ6が固定された下熱盤7および上型2が固定された上熱盤8を有する熱成形装置本体9とを備える。下熱盤7および上熱盤8は、図示しない加温ヒータを内蔵している。下熱盤7の熱はパンチ6へ伝わり、上熱盤8の熱は上型2へ伝わる。また、下熱盤7は、図示しない油圧シリンダにより上下動に動き、金型5に入れられた摩擦材10の原料を成形可能な様になっている。
【0023】
金型5は、ディスク式ブレーキのブレーキパッドの摩擦材を熱成形するための金型5であり、中型3が構成する型枠内に摩擦材10の原料を投入したのち、ばね部材12に弾性支持された中型3の上にプレッシャプレート11を載せ、下型4を上に上げてプレスする。下型4を上に上げるとパンチ6が摩擦材10の原料を圧縮し、やがてプレッシャプレート11が上型2に接触する。これにより、プレッシャプレート11の摩擦材10を熱成形すべき領域が中型3の型枠によって囲まれる。
【0024】
金型5は、上熱盤8と下熱盤7によって加熱されているため、成形を続けると、摩擦材10の原料に含まれている摩擦調整材等の成分が結合材によって結合され、プレッシャプレート11に固定された状態で熱成形される。
【0025】
ここで、パンチ6は、図1に示すように、ヒートパイプ13を有している。ヒートパイプ13は、パンチ6の下端付近に一端が位置しており、摩擦材を押圧する押圧面14の背部、換言すると、パンチ6の上端付近に他端が位置するように、パンチ6の内部で上下方向に複数本配置されている。
【0026】
また、パンチ6は、図1に示すように、ヒートパイプ13の長手方向に沿って該ヒートパイプ13を包む断熱層15を有している。この断熱層15は、空気の層である。ヒートパイプ13の周囲に断熱層15が設けられていることにより、ヒートパイプ13の下側、換言すると下熱盤7側の端部である下端16に入った熱は、途中でパンチ6に奪われること無くそのまま上端17に伝えられる。なお、上記断熱層15は、中空の空気層のみならず、熱伝導性の低い各種素材を用いて熱伝導を抑える構成を採ってもよい。
【0027】
ヒートパイプ13は、パイプ中に揮発性の作動液を封入したものであるため、局部的に加熱されると作動液が蒸発して非加熱部分で凝縮するというサイクルを繰り返すことで、熱を瞬時に移動する。ヒートパイプ13を設けない場合、不可避的にパンチ6全体を温めることになるので多くの熱と目標温度に到達するまでに長い時間を必要とし、また、金型5は主成分が鉄であるために熱伝導も非常に遅い。ヒートパイプ13の熱伝導率が20000〜40000W/mKであるのに対し、鋳鉄の熱伝導率は84W/mK程度である。
【0028】
断熱層15を設けない場合、ヒートパイプ13内で下端16から伝わる熱が上端17に到達する前にヒートパイプ13の側面からパンチ6に広がってしまう。しかし、本実施形態に係るパンチ6は、断熱層15を設けているため、ヒートパイプ13の下端16で下熱盤7から受けとった熱がヒートパイプ13の側面からパンチ6内部へ逃げることなく上端17へ伝わる。これにより、下熱盤7の熱が効率的に押圧面14に移動する。このため、本実施形態に係る金型5によれば、冷温状態から起動しても押圧面14が瞬時に加熱され、速やかに熱成形を開始することができる。
【0029】
なお、上記実施形態は、以下のように変形してもよい。説明の便宜上、上述した実施形態に係る成形装置1の構成要素と同一の部材については同一の符号を付し、その詳細な説
明を省く。
【0030】
図2は、第一変形例に係る成形装置1Aの構造図である。成形装置1Aは、図2に示すように、上型2、中型3、及び下型4の上に立設されたパンチ6Aを有する金型5Aと、下型4を介してパンチ6Aが固定された下熱盤7および上型2が固定された上熱盤8を有する熱成形装置本体9とを備える。
【0031】
ここで、パンチ6Aは、摩擦材を押圧する押圧面14を形成する上部パンチ28と、上部パンチ28を支持する下部パンチ29の2つの部材を備えており、また、パンチ6と同様にヒートパイプ13や断熱層15を有している。また、上部パンチ28と下部パンチ29との間、及び下部パンチ29と下型4との間には、断熱材がそれぞれ配置されている。下側の断熱材を下部断熱材18、上側の断熱材を上部断熱材19と呼ぶことにする。パンチ6Aは、これらの部材、すなわち、上部パンチ28や下部パンチ29、上部断熱材19や下部断熱材18を図示しないボルトで締結することにより構成される。上部断熱材19や下部断熱材18は、熱成形時の押圧力に耐えられる材料であり、例えば、マイカ、ガラス、ガラス繊維、シリコンなどの複合材料で構成される。
【0032】
下部断熱材18は、下熱盤7の熱がパンチ6Aの加熱不要な中間部分である下部パンチ29に拡散するのを防ぐことで、下熱盤7の熱がヒートパイプ13に伝わりやすくする。また、上部断熱材19は、ヒートパイプ13から得た熱が下部パンチ29に拡散するのを防ぐことで、ヒートパイプ13の熱が上部パンチ28の押圧面14に伝わりやすくする。パンチ6Aが上部パンチ28や下部パンチ29、上部断熱材19や下部断熱材18による複層構造を採るため、本変形例に係る金型5Aによれば、冷温状態からの起動であっても押圧面14が瞬時に加熱され、速やかに熱成形を開始することができる。
【0033】
図3は、第二変形例に係る成形装置1Bの構造図である。成形装置1Bは、図3に示すように、上型2、中型3、及び下型4の上に立設されたパンチ6Bを有する金型5Bと、下型4を介してパンチ6Bが固定された下熱盤7および上型2が固定された上熱盤8を有する熱成形装置本体9とを備える。
【0034】
ここで、パンチ6Bは、パンチ6と同様にヒートパイプ13や断熱層15Bを有している。ここで、本変形例に係る断熱層15Bは、既述した断熱層15と同様、ヒートパイプ13の長手方向に沿って該ヒートパイプ13を包んでいるが、この層はパンチ6Bの内部の全体に広がっている。すなわち、断熱層15Bは、パンチ6Bの内部に空洞を形成している。パンチ6Bの内部に空洞が形成されていることにより、熱容量を小さくし、途中で放熱することなくヒートパイプ13の下端16から上端17へ熱が伝わり、また、下熱盤7の熱が拡散することなくヒートパイプ13に伝わりやすくなる。パンチ6Bが中空構造を採るため、本変形例に係る金型5Bによれば、冷温状態からの起動であっても押圧面14が瞬時に加熱され、速やかに熱成形を開始することができる。
【0035】
なお、成形装置1Bは、例えば、図4に示すように、成形時の押圧面14の撓みを抑えるため、断熱層15B内に立設される支持部20を設けてもよい。この支持部20は、柱状のものであってもよいし、板状のものであってもよい。断熱層15Bに支持部20が設けられていれば、成形時に押圧面14に加わる荷重に耐えることができる。支持部20の配置箇所や形状、本数、大きさは、断熱層15Bの大きさやヒートパイプ13の本数、成形時の荷重等に応じて適宜決定する。例えば、図5に示すような変形例もある。
【0036】
ところで、上記各実施形態や変形例に係る各ヒートパイプは、以下のようにして固定されている。図6は、実施形態に係る金型5のヒートパイプ13の上端17の固定状態を拡大した図である。ヒートパイプ13が銅で構成されているのに対し、パンチ6は鋳鉄で構
成されているため、ヒートパイプ13の熱膨張率は下型4やパンチ6よりも大きい。そこで、パンチ6は、常温の場合、図6に示すようにヒートパイプ13の上端17とパンチ6の対向面22との間に隙間23Aができるように構成する。この隙間23Aの上下方向の長さは、パンチ6とヒートパイプ13との熱膨張率の差、ヒートパイプ13の常温から使用温度へ昇温させたときの線膨張差、ヒートパイプ13の長さ等に応じて適宜決定する。また、ヒートパイプ13の上端17と対向するパンチ6の対向面22と押圧面14との間の厚さHは、圧縮成形による変形がないよう適切な強度計算によって設計される。なお、上記パンチ6は鋳鉄のみならず、他の鉄系材料(例えば、鋼材や各種の合金類)を使用してもよい。また、ヒートパイプの材料は、銅に限定されず、例えば、アルミニウムやステンレスなどを採用してもよい。
【0037】
また、隙間23Aには、ヒートパイプ13とパンチ6との間の熱伝導率を保つため、伝熱グリースを注入しておいてもよい。伝熱グリースは、高い熱伝導率が発揮されるよう、銅粉等が混入された粘性の液体であり、ヒートパイプ13をパンチ6に組み付ける際に嵌合部21内に注入しておく。なお、伝熱グリースを用いる場合は、例えば、図7に示すように、対向面22の縁に環状のスリット25を設けてもよいし、敢えてスリット25を設けずに、ヒートパイプ13と周壁面24との間に隙間ができるようにしてもよい。対向面22の縁にスリット25を設けておけば、図8に示すように、ヒートパイプ13の上端17と嵌合部21とが熱膨張により相対的に変位しても、隙間23Aに入っている伝熱グリース27がスリット25に保持される。よって、熱膨張により隙間23Aが狭くなっても嵌合部21の周壁面24とヒートパイプ13との間の隙間から伝熱グリースが噴出して断熱層15内に飛散し、嵌合部21内から失われてしまうようなことが無い。
【0038】
なお、ヒートパイプ13は、以下のように固定してもよい。図9は、実施形態に係る金型5のヒートパイプ13の下端16の固定状態を拡大した図である。ヒートパイプ13の下端16は、常温の場合、図9に示すようにヒートパイプ13の下端16と下熱盤7との間に隙間23Bができるように構成する。この隙間23Bの上下方向の長さは、隙間23Aと同様、パンチ6とヒートパイプ13との熱膨張率の差、ヒートパイプ13の常温から使用温度へ昇温させたときの線膨張差、ヒートパイプ13の長さ等に応じて適宜決定する。ここで、この隙間23Bには、隙間23Aと異なり、板バネ26が挿置されている。板バネ26は、ヒートパイプ13の下端16を上方向に付勢する。これにより、ヒートパイプ13とパンチ6とが熱膨張しても、ヒートパイプ13の上端17と嵌合部21の対向面22との密着性、換言すると、ヒートパイプ13の上端17とパンチ6との間の熱伝導率が保たれる。なお、板バネ26の代わりに螺旋状のバネ、或いは耐熱性の弾性部材を挿置してもよい。
【0039】
なお、図7〜9では、実施形態に係る金型5を変形する場合について例示したが、各変形例に係る金型5A,Bについても同様に変形可能である。
【0040】
また、上記各実施形態や変形例は、以下のように変形してもよい。第一実施形態の第一変形例に係る成形装置1Aの別態様を図10に示す。なお、ここでは上記成形装置1Aの別態様を例示しているが、実施形態に係る成形装置1や、第二変形例1Bについても同様に適用できる。本態様に係る成形装置1Axは、図10に示すように、下熱盤7を覆う板状の下型4xにヒートパイプ13xが横方向に埋め込まれている。このヒートパイプ13xは、下熱盤7に内蔵されている図示しない加温ヒータの熱をパンチ6へ集めることで、下型4の放熱を抑制する。
【0041】
ヒートパイプ13xは、下熱盤7に内蔵されている加温ヒータの熱がパンチ6に集中するよう、図11(A)や図11(B)や図11(C)に示すように、パンチ6が配置されている領域RIとそれ以外の領域ROとを跨ぐ様に下型4に埋め込まれている。ヒートパ
イプ13xは、一端が領域RIにあり他端が領域ROに位置して両領域を跨いでいてもよいし、両端が領域ROにありその間に領域RIが挟まれるように位置して両領域を跨いでいてもよい。領域RIは、パンチ6が配置されている領域であって、加熱されるとパンチ6の押圧面14が昇温する領域である。また、領域ROは、パンチ6が配置されている領域以外の領域であって、下熱盤7の熱を周囲の空気へ放熱する領域である。なお、図11に示すヒートパイプ13xの位置は単なる一例であって本発明はこれに限定されるものでなく、領域RIと領域ROとを跨ぐものであれば如何なる位置に配置されていてもよい。例えば、パンチ6が複数配置されていれば、パンチ6が配置されている各領域RIとそれ以外の領域ROとを跨ぐようにヒートパイプ13xが配置してもよい。
【0042】
また、ヒートパイプ13xを下型4に横方向に埋め込むことによるパンチ6への集熱効果は、パンチ6の内部に埋め込んだヒートパイプ13の有無に関わらない。すなわち、上記成形装置1Axは、例えば、パンチ6に埋め込んだヒートパイプ13を省いてもよい。ヒートパイプ13を省いた構成については、本態様を実施形態に係る成形装置1や第二変形例1Bについて適用した場合についても同様に適用できる。実施形態に係る成形装置1のヒートパイプ13を省く代わりに、下型4にヒートパイプを横方向に埋め込んだ態様を図12に示す。本態様に係る成形装置1yは、図12に示すように、パンチ6に埋め込まれていたヒートパイプ13を省く代わりに、下型4yにヒートパイプ13yが横方向に埋め込まれている。このヒートパイプ13yは、下熱盤7の熱をパンチ6へ集める。ヒートパイプ13yの位置は、図11に示したものと同様であり、パンチ6が配置されている領域RIとそれ以外の領域ROとを跨ぐ様に下型4に埋め込まれている。
【0043】
図13は、本態様に係る成形装置1yの熱の移動を示した図である。成形装置1yは、ヒートパイプ13yが埋め込まれているため、例えば、図13に示すように、下型4yの上に配置されたパンチ6の周囲から放熱される下熱盤7の熱の放散が抑えられる。ヒートパイプ13yは、温度の高い所から低い所へ熱を輸送する性質を有するため、摩擦材10が金型5へ繰り返し投入されることで熱が奪われるパンチ6へ周囲の熱が集まる。
【0044】
一方、例えば、図14に示すように、ヒートパイプ13yが埋め込まれていない場合、摩擦材が金型へ繰り返し投入されて熱が奪われてもパンチへ周囲の熱が集まらず、パンチの周囲から放熱される下熱盤の熱の放散が抑えられない。
【0045】
また、横のヒートパイプ13xと縦のヒートパイプ13とは互いに別体であるものに限定されるものではなく、例えば、ヒートパイプが領域ROから領域RIを通過してから上方向へ曲がってパンチ内に配置されたような、L字状に形成されていてもよい。
【0046】
ヒートパイプと放熱との関係を図15に示す。ヒートパイプ13のみを設けたもの、換言すると、縦のヒートパイプのみを設けたものを図15(A)に示す。また、ヒートパイプ13xのみを設けたもの、換言すると、横のヒートパイプのみを設けたものを図15(B)に示す。また、ヒートパイプ13とヒートパイプ13xの両方を設けた本変形例のものを図15(C)に示す。なお、図15(A)〜(C)では、パンチと下型のみを図示しており、その他は省いている。図15(A)〜(C)に示すように、縦のヒートパイプのみを設けたものは下熱盤の熱がパンチへ集まらないため、下型の放熱量が多い。また、横のヒートパイプのみを設けたものは下熱盤の熱がパンチへ集まるものの、パンチの押圧面までの間の側方への放熱量が多い。一方、縦と横の両方のヒートパイプを設けたものは、下熱盤の熱がパンチの押圧面へ効率的に集まり、放熱量が少ない。
【0047】
本実施形態の効果を実験で検証したので、その結果を以下に示す。図16は、ヒートパイプや断熱層を有しない金型(比較例1)、縦のヒートパイプを有し断熱層を有しない金型(比較例2)、縦のヒートパイプと断熱層を有する第一変形例に係る金型(実施例1)
、横のヒートパイプを有する実施形態の別態様に係る金型(実施例2)、縦と横のヒートパイプと断熱層を有する第一変形例の別態様に係る金型(実施例3)について、下熱盤から押圧面までの温度勾配を示したグラフである。図16のグラフから明らかなように、比較例1の場合、熱盤から離れて押圧面に近づくにつれて徐々に温度が低下することが判る。比較例2の場合、比較例1ほど急激ではないものの、比較例1と同様に温度が低下することが判る。他方、実施例1〜3の場合、熱盤から離れて押圧面に近づくにつれても、温度がほとんど低下しないことが判る。特に、実施例3の場合には実施例1や実施例2に比べても著しく温度低下しないことが判る。
【0048】
これは、次のような理由による。すなわち、比較例1の場合、熱の輸送経路は、熱盤―パンチ内部―押圧面というルートをたどる。比較例2の場合、熱の輸送経路は、熱盤―ヒートパイプ―パンチ内部―押圧面というルートをたどる。これに対し、実施例1や実施例3の場合、熱の輸送経路は、熱盤―ヒートパイプ―押圧面―パンチ内部というルートをたどる。すなわち、パンチ内部への伝熱が最後になるため、押圧面が優先的に昇温される。また、実施例2の場合、熱の輸送経路は、熱盤―横ヒートパイプ―パンチ内部―押圧面というルートをたどる。すなわち、下熱盤の熱が下型に広がるよりも前にパンチ内部へ集まるため、押圧面が優先的に昇温される。これにより、コールドスタート後であっても押圧面が瞬時に加熱され、速やかに熱成形を開始することができる。特に実施例3の場合、下型の周囲への放熱量が少ないので、熱盤の熱が効率的にヒートパイプへ伝わり、押圧面が更に優先的に昇温される。
【0049】
また、実施例1〜3と比較例1、比較例2について、押圧面の昇温が完了するまでの温度変化のグラフを図17に示す。図17に示すように、実施例1の場合、約150℃で飽和するまでの時間は10分程度である。また、実施例2の場合、約151℃で飽和するまでの時間は12分程度である。また、実施例3の場合、約153℃で飽和するまでの時間は5分程度である。一方、比較例1の場合、約80℃で飽和するまでに80分程度を要する。また、比較例2の場合、約140℃で飽和するまでに50分程度を要する。なお、この実験を行なった際の熱盤の設定温度は160℃である。
【0050】
このように、実施例1〜3は比較例1や比較例2よりも極めて瞬時に押圧面が昇温されるため、以下のような有利な点がある。すなわち、比較例1や比較例2のように、昇温が遅いため、熱盤の温度と押圧面の温度との差を無視できない場合、押圧面が所望の温度に達して例えば、摩擦材を熱成形可能であるか否かを確かめるために、熱電対をパンチ内部に埋め込み、配線類を下型から取り出す等の措置を講ずる必要がある。このため、熱盤に載せた金型の交換等が極めて面倒となる。一方、実施例1〜3のように、昇温が速いため、熱盤の温度と押圧面の温度との差がほとんど生じないと、押圧面が所望の温度に達して摩擦材を熱成形可能であるか否かを確かめるために、熱電対をパンチ内部に埋め込む必要が無い。熱盤の温度を計測すれば済むからである。よって、配線類を下型から取り出す等の措置を講ずる必要がなくなり、熱盤に載せた金型の交換等が極めて容易となる。また、実施例のように押圧面の温度が制御しやすいと、成形する摩擦材の品質を安定させやすい。特に、実施例3の場合には実施例1や実施例2に比べても下型における放熱量が少ないので押圧面の飽和温度も高く、しかも短時間で飽和温度に達する。
【0051】
なお、ヒートパイプの本数は、押圧面が到達可能な温度と相関があると考えられたので、その検証結果を以下に示す。
【0052】
図18は、ヒートパイプの本数と到達可能な温度との関係を比較したグラフである。図18に示すように、ヒートパイプが1,2本程度だと到達する温度(飽和温度)が90〜110℃程度であるの対し、ヒートパイプが3本以上だと到達する温度が120℃程度となることが判る。なお、このときの熱盤の設定温度は120℃としている。そして、ヒー
トパイプの本数を増やすと、昇温速度は速くなるものの、この検証結果においては飽和温度は3本以上であればほとんど差異が無い事が判る。ヒートパイプの本数やヒートパイプの長さ、形状(断面)、太さ(径)は製造する製品の形状や昇温速度、金型の温度が安定する飽和温度に応じて適宜決定することができる。
【符号の説明】
【0053】
1,1A,1B・・成形装置
5,5A,5B・・金型
6,6A,6B・・パンチ
7・・下熱盤
10・・摩擦材
11・・プレッシャプレート
13,13x・・ヒートパイプ
14・・押圧面
15,15B・・断熱層
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮成形装置、及び金型に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、金型に原料を投入して加熱・加圧成形して作製される、車両を制動するブレーキ用摩擦部材は、車軸と共に回転するディスクやブレーキドラムと接触する摩擦材がプレッシャプレートあるいはリムに圧着されている。摩擦材は、苛酷な使用環境下においても所定の摩擦力を発揮するべく、各種の材料を混ぜたものを結合材で結合している。
【0003】
摩擦材の熱成形に際しては、金型の熱伝導率を高めるため、例えば、金型にヒートパイプを埋設したものが考案されている(例えば、特許文献1を参照)。なお、ヒートパイプは、他の成形金型や融雪装置などでも利用されている(例えば、特許文献2〜4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−91820号公報
【特許文献2】特許第3896461号公報
【特許文献3】特開平11−350411号公報
【特許文献4】特開平5−337997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧縮成形に用いる金型の熱容量が大きいと、熱源から被成形物と接する押圧面への伝熱に時間を要する。伝熱速度の問題はヒートパイプで解消し得るが、金型の熱容量が大きいと押圧面が所望の温度に達するまでに時間を要する。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、効率的な熱成形が可能な圧縮成形装置、及び金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、金型に内蔵したヒートパイプを断熱層で包むことにした。
【0008】
詳細には、金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形装置であって、前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、前記第二の金型を支持して加熱する熱源部と、を備え、前記第二の金型は、前記熱源部側に一端が位置し、前記原料を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプと、前記ヒートパイプの長手方向に沿って該ヒートパイプを包む断熱層と、を有する。
【0009】
上記圧縮成形装置は、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキの摩擦材といった被成形物の熱成形に適用することが可能であり、プレッシャプレートやリムに摩擦材を圧着して熱成形することができる。
【0010】
ここで、金型は、様々な形状のものを生産可能なようにするべく、成形装置の熱盤といった熱源部に載置される。よって、被成形物に効率よく熱が伝わるようにするには、金型
の熱伝導率の向上が求められる。上記圧縮成形装置は、熱源部側に一端が位置し、被成形物を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプを金型に設けることで、金型の熱伝導率の向上を図っている。
【0011】
ところで、例えば摩擦材のような被成形物を熱成形するという観点に鑑みれば、金型全体が昇温される必要はなく、被成形物と接触する押圧面さえ昇温されていればよい。ところが、ヒートパイプは、局部的に加熱されて蒸発した作動液が非加熱部分で凝縮することで熱を瞬時に移動させるものであるため、はじめは被成形物と接触する押圧面にのみ熱が移動するが時間が経過するにつれて金型全体に広がってしまう。また、ヒートパイプの側面から金型内部への熱の移動もあり、熱が押圧面以外の昇温に奪われてしまう。そこで、上記圧縮成形装置は、ヒートパイプの長手方向に沿ってヒートパイプを包む断熱層を有している。これにより、熱源部の熱が押圧面に伝わりやすくなり、金型内部への熱の伝達を防ぎ、効率的な熱成形が可能となる。
【0012】
なお、前記断熱層は、前記第二の金型の内部に形成される空間であり、該空間には前記熱源部側から前記押圧面側へ延在して該押圧面を背後から支持する支持部が設けられていてもよい。このように形成される金型であれば、押圧面の昇温に寄与しない金型の内部が空洞になっているので、押圧面がヒートパイプにより効率的に昇温され且つヒートパイプによって移動した熱が押圧面の昇温以外に浪費されにくくなり、効率的な熱成形が可能となる。更に、押圧面は背後から支持部によって支持されているので、被成形物を押圧する際の押圧力にも耐えられる。
【0013】
また、前記第二の金型は、前記押圧面を形成する第一の部材と、前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、前記第一の部材と前記第二の部材との間に挟まれる第一の断熱材と、前記第二の部材と前記熱源部との間に挟まれる第二の断熱材と、を有するものであってもよい。これにより、金型は、押圧面を形成する第一の部材とそれ以外の第二の部材と別々に構成され、更に、第二の部材は、第一の断熱材と第二の断熱材で挟まれる。金型がこのように形成されていれば、熱源部の熱が第二の部材に伝わることなく、ヒートパイプによって第一の部材へ伝えられるため、効率的な熱成形が可能となる。
【0014】
また、前記ヒートパイプの両端のうち少なくとも一端側には、該ヒートパイプの熱伸縮量を吸収する隙間が設けられていてもよい。このような隙間が設けられていれば、ヒートパイプの、常温時と熱成形時の使用温度差による線膨張率の違いから生じる伸縮によるヒートパイプの損傷を予防することができる。
【0015】
また、前記第二の金型は、前記押圧面を形成する第一の部材と、前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、を有し、前記第二の部材には、前記第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置したヒートパイプが埋設されていてもよい。第二の部材にヒートパイプがこのように埋設されていれば、熱源部から第二の部材を介して第一の部材へ熱が伝わる過程で、第二の部材から周囲へ放射される熱量が少なくなるので、熱源部の熱が押圧面へ効果的に伝わる。
【0016】
なお、本願発明は、金型としての側面からも捉えることができる。例えば、本願発明は、金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形用の金型であって、前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、を備え、前記第二の金型は、前記第二の金型を支持して加熱する熱源部側に一端が位置し、前記原料を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプと、前記ヒートパイプの長手方向に沿って該ヒートパイプを包む断熱層と、を有するものであってもよい。
【0017】
また、本願発明は、金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形装置であって、前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、前記第二の金型を支持して加熱する熱源部と、を備え、前記第二の金型は、前記押圧面を形成する第一の部材と、前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、を有し、前記第二の部材には、前記第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置したヒートパイプが埋設されているものであってもよい。第一の部材を支持する第二の部材に、ヒートパイプがこのように埋設されていれば、第二の部材を介して第一の部材の押圧面へ伝わる熱源部の熱が、第二の部材から周囲へ放熱されにくくなるので、熱源部の熱が押圧面へ効果的に伝わるようになる。
【0018】
また、前記第二の部材は、前記第一の部材と該熱源部との間に配置される板状の部材であり、前記第二の部材には、前記熱源部の熱のうち前記第一の部材が配置されている領域以外の領域の熱を該第一の部材へ運ぶ、該第一の部材を支持する面に沿って延在する前記ヒートパイプが、該第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置された状態で埋設されていてもよい。第一の部材と熱源部との間に配置された板状の部材に、第一の部材が配置されている領域以外の領域の熱を第一の部材へ運ぶヒートパイプが埋設されていれば、周囲へ放熱される熱源部の熱が第一の部材へ集まるため、熱源部の熱が押圧面へ効果的に伝わるようになる。
【0019】
また、前記第一の部材は、前記第二の部材の中心部で支持されており、前記第二の部材には、前記中心部の周辺部と該中心部とを跨ぐように配置した前記ヒートパイプが埋設されていてもよい。第一の部材を支持している第二の部材の中心部とその周辺部とを跨ぐように配置したヒートパイプが前記第一の部材に埋設されていれば、周辺部から周囲へ放熱される熱源部の熱が中心部へ集まるため、熱源部の熱が押圧面へ効果的に伝わるようになる。
【発明の効果】
【0020】
効率的な熱成形が可能な圧縮成形装置、及び金型を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る成形装置の構造図である。
【図2】第一変形例に係る成形装置の構造図である。
【図3】第二変形例に係る成形装置の構造図である。
【図4】第二変形例の別態様に係る成形装置の構造図である。
【図5】第二変形例の別態様に係る成形装置の構造図である。
【図6】ヒートパイプの上端の固定状態を拡大した図である。
【図7】変形例に係る嵌合部の斜視図である。
【図8】伝熱グリースの充填状態を示す図である。
【図9】ヒートパイプの下端の固定状態を拡大した図である。
【図10】第一変形例の別態様に係る成形装置の構造図である。
【図11】下型に埋め込んだヒートパイプの位置を上から見た図である。
【図12】実施形態の別態様に係る成形装置の構造図である。
【図13】実施形態の別態様に係る成形装置の熱の移動を示した図である。
【図14】実施形態の別態様に係る成形装置の変形例を示した図である。
【図15】ヒートパイプと放熱との関係を示した図である。
【図16】下熱盤から押圧面までの温度勾配を示したグラフである。
【図17】押圧面の昇温が完了するまでの温度変化のグラフである。
【図18】ヒートパイプの本数と到達可能な温度との関係を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本願発明の実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る成形装置1の構造図である。成形装置1は、図1に示すように、上型2、中型3、及び下型4の上に立設されたパンチ6を有する金型5と、下型4を介してパンチ6が固定された下熱盤7および上型2が固定された上熱盤8を有する熱成形装置本体9とを備える。下熱盤7および上熱盤8は、図示しない加温ヒータを内蔵している。下熱盤7の熱はパンチ6へ伝わり、上熱盤8の熱は上型2へ伝わる。また、下熱盤7は、図示しない油圧シリンダにより上下動に動き、金型5に入れられた摩擦材10の原料を成形可能な様になっている。
【0023】
金型5は、ディスク式ブレーキのブレーキパッドの摩擦材を熱成形するための金型5であり、中型3が構成する型枠内に摩擦材10の原料を投入したのち、ばね部材12に弾性支持された中型3の上にプレッシャプレート11を載せ、下型4を上に上げてプレスする。下型4を上に上げるとパンチ6が摩擦材10の原料を圧縮し、やがてプレッシャプレート11が上型2に接触する。これにより、プレッシャプレート11の摩擦材10を熱成形すべき領域が中型3の型枠によって囲まれる。
【0024】
金型5は、上熱盤8と下熱盤7によって加熱されているため、成形を続けると、摩擦材10の原料に含まれている摩擦調整材等の成分が結合材によって結合され、プレッシャプレート11に固定された状態で熱成形される。
【0025】
ここで、パンチ6は、図1に示すように、ヒートパイプ13を有している。ヒートパイプ13は、パンチ6の下端付近に一端が位置しており、摩擦材を押圧する押圧面14の背部、換言すると、パンチ6の上端付近に他端が位置するように、パンチ6の内部で上下方向に複数本配置されている。
【0026】
また、パンチ6は、図1に示すように、ヒートパイプ13の長手方向に沿って該ヒートパイプ13を包む断熱層15を有している。この断熱層15は、空気の層である。ヒートパイプ13の周囲に断熱層15が設けられていることにより、ヒートパイプ13の下側、換言すると下熱盤7側の端部である下端16に入った熱は、途中でパンチ6に奪われること無くそのまま上端17に伝えられる。なお、上記断熱層15は、中空の空気層のみならず、熱伝導性の低い各種素材を用いて熱伝導を抑える構成を採ってもよい。
【0027】
ヒートパイプ13は、パイプ中に揮発性の作動液を封入したものであるため、局部的に加熱されると作動液が蒸発して非加熱部分で凝縮するというサイクルを繰り返すことで、熱を瞬時に移動する。ヒートパイプ13を設けない場合、不可避的にパンチ6全体を温めることになるので多くの熱と目標温度に到達するまでに長い時間を必要とし、また、金型5は主成分が鉄であるために熱伝導も非常に遅い。ヒートパイプ13の熱伝導率が20000〜40000W/mKであるのに対し、鋳鉄の熱伝導率は84W/mK程度である。
【0028】
断熱層15を設けない場合、ヒートパイプ13内で下端16から伝わる熱が上端17に到達する前にヒートパイプ13の側面からパンチ6に広がってしまう。しかし、本実施形態に係るパンチ6は、断熱層15を設けているため、ヒートパイプ13の下端16で下熱盤7から受けとった熱がヒートパイプ13の側面からパンチ6内部へ逃げることなく上端17へ伝わる。これにより、下熱盤7の熱が効率的に押圧面14に移動する。このため、本実施形態に係る金型5によれば、冷温状態から起動しても押圧面14が瞬時に加熱され、速やかに熱成形を開始することができる。
【0029】
なお、上記実施形態は、以下のように変形してもよい。説明の便宜上、上述した実施形態に係る成形装置1の構成要素と同一の部材については同一の符号を付し、その詳細な説
明を省く。
【0030】
図2は、第一変形例に係る成形装置1Aの構造図である。成形装置1Aは、図2に示すように、上型2、中型3、及び下型4の上に立設されたパンチ6Aを有する金型5Aと、下型4を介してパンチ6Aが固定された下熱盤7および上型2が固定された上熱盤8を有する熱成形装置本体9とを備える。
【0031】
ここで、パンチ6Aは、摩擦材を押圧する押圧面14を形成する上部パンチ28と、上部パンチ28を支持する下部パンチ29の2つの部材を備えており、また、パンチ6と同様にヒートパイプ13や断熱層15を有している。また、上部パンチ28と下部パンチ29との間、及び下部パンチ29と下型4との間には、断熱材がそれぞれ配置されている。下側の断熱材を下部断熱材18、上側の断熱材を上部断熱材19と呼ぶことにする。パンチ6Aは、これらの部材、すなわち、上部パンチ28や下部パンチ29、上部断熱材19や下部断熱材18を図示しないボルトで締結することにより構成される。上部断熱材19や下部断熱材18は、熱成形時の押圧力に耐えられる材料であり、例えば、マイカ、ガラス、ガラス繊維、シリコンなどの複合材料で構成される。
【0032】
下部断熱材18は、下熱盤7の熱がパンチ6Aの加熱不要な中間部分である下部パンチ29に拡散するのを防ぐことで、下熱盤7の熱がヒートパイプ13に伝わりやすくする。また、上部断熱材19は、ヒートパイプ13から得た熱が下部パンチ29に拡散するのを防ぐことで、ヒートパイプ13の熱が上部パンチ28の押圧面14に伝わりやすくする。パンチ6Aが上部パンチ28や下部パンチ29、上部断熱材19や下部断熱材18による複層構造を採るため、本変形例に係る金型5Aによれば、冷温状態からの起動であっても押圧面14が瞬時に加熱され、速やかに熱成形を開始することができる。
【0033】
図3は、第二変形例に係る成形装置1Bの構造図である。成形装置1Bは、図3に示すように、上型2、中型3、及び下型4の上に立設されたパンチ6Bを有する金型5Bと、下型4を介してパンチ6Bが固定された下熱盤7および上型2が固定された上熱盤8を有する熱成形装置本体9とを備える。
【0034】
ここで、パンチ6Bは、パンチ6と同様にヒートパイプ13や断熱層15Bを有している。ここで、本変形例に係る断熱層15Bは、既述した断熱層15と同様、ヒートパイプ13の長手方向に沿って該ヒートパイプ13を包んでいるが、この層はパンチ6Bの内部の全体に広がっている。すなわち、断熱層15Bは、パンチ6Bの内部に空洞を形成している。パンチ6Bの内部に空洞が形成されていることにより、熱容量を小さくし、途中で放熱することなくヒートパイプ13の下端16から上端17へ熱が伝わり、また、下熱盤7の熱が拡散することなくヒートパイプ13に伝わりやすくなる。パンチ6Bが中空構造を採るため、本変形例に係る金型5Bによれば、冷温状態からの起動であっても押圧面14が瞬時に加熱され、速やかに熱成形を開始することができる。
【0035】
なお、成形装置1Bは、例えば、図4に示すように、成形時の押圧面14の撓みを抑えるため、断熱層15B内に立設される支持部20を設けてもよい。この支持部20は、柱状のものであってもよいし、板状のものであってもよい。断熱層15Bに支持部20が設けられていれば、成形時に押圧面14に加わる荷重に耐えることができる。支持部20の配置箇所や形状、本数、大きさは、断熱層15Bの大きさやヒートパイプ13の本数、成形時の荷重等に応じて適宜決定する。例えば、図5に示すような変形例もある。
【0036】
ところで、上記各実施形態や変形例に係る各ヒートパイプは、以下のようにして固定されている。図6は、実施形態に係る金型5のヒートパイプ13の上端17の固定状態を拡大した図である。ヒートパイプ13が銅で構成されているのに対し、パンチ6は鋳鉄で構
成されているため、ヒートパイプ13の熱膨張率は下型4やパンチ6よりも大きい。そこで、パンチ6は、常温の場合、図6に示すようにヒートパイプ13の上端17とパンチ6の対向面22との間に隙間23Aができるように構成する。この隙間23Aの上下方向の長さは、パンチ6とヒートパイプ13との熱膨張率の差、ヒートパイプ13の常温から使用温度へ昇温させたときの線膨張差、ヒートパイプ13の長さ等に応じて適宜決定する。また、ヒートパイプ13の上端17と対向するパンチ6の対向面22と押圧面14との間の厚さHは、圧縮成形による変形がないよう適切な強度計算によって設計される。なお、上記パンチ6は鋳鉄のみならず、他の鉄系材料(例えば、鋼材や各種の合金類)を使用してもよい。また、ヒートパイプの材料は、銅に限定されず、例えば、アルミニウムやステンレスなどを採用してもよい。
【0037】
また、隙間23Aには、ヒートパイプ13とパンチ6との間の熱伝導率を保つため、伝熱グリースを注入しておいてもよい。伝熱グリースは、高い熱伝導率が発揮されるよう、銅粉等が混入された粘性の液体であり、ヒートパイプ13をパンチ6に組み付ける際に嵌合部21内に注入しておく。なお、伝熱グリースを用いる場合は、例えば、図7に示すように、対向面22の縁に環状のスリット25を設けてもよいし、敢えてスリット25を設けずに、ヒートパイプ13と周壁面24との間に隙間ができるようにしてもよい。対向面22の縁にスリット25を設けておけば、図8に示すように、ヒートパイプ13の上端17と嵌合部21とが熱膨張により相対的に変位しても、隙間23Aに入っている伝熱グリース27がスリット25に保持される。よって、熱膨張により隙間23Aが狭くなっても嵌合部21の周壁面24とヒートパイプ13との間の隙間から伝熱グリースが噴出して断熱層15内に飛散し、嵌合部21内から失われてしまうようなことが無い。
【0038】
なお、ヒートパイプ13は、以下のように固定してもよい。図9は、実施形態に係る金型5のヒートパイプ13の下端16の固定状態を拡大した図である。ヒートパイプ13の下端16は、常温の場合、図9に示すようにヒートパイプ13の下端16と下熱盤7との間に隙間23Bができるように構成する。この隙間23Bの上下方向の長さは、隙間23Aと同様、パンチ6とヒートパイプ13との熱膨張率の差、ヒートパイプ13の常温から使用温度へ昇温させたときの線膨張差、ヒートパイプ13の長さ等に応じて適宜決定する。ここで、この隙間23Bには、隙間23Aと異なり、板バネ26が挿置されている。板バネ26は、ヒートパイプ13の下端16を上方向に付勢する。これにより、ヒートパイプ13とパンチ6とが熱膨張しても、ヒートパイプ13の上端17と嵌合部21の対向面22との密着性、換言すると、ヒートパイプ13の上端17とパンチ6との間の熱伝導率が保たれる。なお、板バネ26の代わりに螺旋状のバネ、或いは耐熱性の弾性部材を挿置してもよい。
【0039】
なお、図7〜9では、実施形態に係る金型5を変形する場合について例示したが、各変形例に係る金型5A,Bについても同様に変形可能である。
【0040】
また、上記各実施形態や変形例は、以下のように変形してもよい。第一実施形態の第一変形例に係る成形装置1Aの別態様を図10に示す。なお、ここでは上記成形装置1Aの別態様を例示しているが、実施形態に係る成形装置1や、第二変形例1Bについても同様に適用できる。本態様に係る成形装置1Axは、図10に示すように、下熱盤7を覆う板状の下型4xにヒートパイプ13xが横方向に埋め込まれている。このヒートパイプ13xは、下熱盤7に内蔵されている図示しない加温ヒータの熱をパンチ6へ集めることで、下型4の放熱を抑制する。
【0041】
ヒートパイプ13xは、下熱盤7に内蔵されている加温ヒータの熱がパンチ6に集中するよう、図11(A)や図11(B)や図11(C)に示すように、パンチ6が配置されている領域RIとそれ以外の領域ROとを跨ぐ様に下型4に埋め込まれている。ヒートパ
イプ13xは、一端が領域RIにあり他端が領域ROに位置して両領域を跨いでいてもよいし、両端が領域ROにありその間に領域RIが挟まれるように位置して両領域を跨いでいてもよい。領域RIは、パンチ6が配置されている領域であって、加熱されるとパンチ6の押圧面14が昇温する領域である。また、領域ROは、パンチ6が配置されている領域以外の領域であって、下熱盤7の熱を周囲の空気へ放熱する領域である。なお、図11に示すヒートパイプ13xの位置は単なる一例であって本発明はこれに限定されるものでなく、領域RIと領域ROとを跨ぐものであれば如何なる位置に配置されていてもよい。例えば、パンチ6が複数配置されていれば、パンチ6が配置されている各領域RIとそれ以外の領域ROとを跨ぐようにヒートパイプ13xが配置してもよい。
【0042】
また、ヒートパイプ13xを下型4に横方向に埋め込むことによるパンチ6への集熱効果は、パンチ6の内部に埋め込んだヒートパイプ13の有無に関わらない。すなわち、上記成形装置1Axは、例えば、パンチ6に埋め込んだヒートパイプ13を省いてもよい。ヒートパイプ13を省いた構成については、本態様を実施形態に係る成形装置1や第二変形例1Bについて適用した場合についても同様に適用できる。実施形態に係る成形装置1のヒートパイプ13を省く代わりに、下型4にヒートパイプを横方向に埋め込んだ態様を図12に示す。本態様に係る成形装置1yは、図12に示すように、パンチ6に埋め込まれていたヒートパイプ13を省く代わりに、下型4yにヒートパイプ13yが横方向に埋め込まれている。このヒートパイプ13yは、下熱盤7の熱をパンチ6へ集める。ヒートパイプ13yの位置は、図11に示したものと同様であり、パンチ6が配置されている領域RIとそれ以外の領域ROとを跨ぐ様に下型4に埋め込まれている。
【0043】
図13は、本態様に係る成形装置1yの熱の移動を示した図である。成形装置1yは、ヒートパイプ13yが埋め込まれているため、例えば、図13に示すように、下型4yの上に配置されたパンチ6の周囲から放熱される下熱盤7の熱の放散が抑えられる。ヒートパイプ13yは、温度の高い所から低い所へ熱を輸送する性質を有するため、摩擦材10が金型5へ繰り返し投入されることで熱が奪われるパンチ6へ周囲の熱が集まる。
【0044】
一方、例えば、図14に示すように、ヒートパイプ13yが埋め込まれていない場合、摩擦材が金型へ繰り返し投入されて熱が奪われてもパンチへ周囲の熱が集まらず、パンチの周囲から放熱される下熱盤の熱の放散が抑えられない。
【0045】
また、横のヒートパイプ13xと縦のヒートパイプ13とは互いに別体であるものに限定されるものではなく、例えば、ヒートパイプが領域ROから領域RIを通過してから上方向へ曲がってパンチ内に配置されたような、L字状に形成されていてもよい。
【0046】
ヒートパイプと放熱との関係を図15に示す。ヒートパイプ13のみを設けたもの、換言すると、縦のヒートパイプのみを設けたものを図15(A)に示す。また、ヒートパイプ13xのみを設けたもの、換言すると、横のヒートパイプのみを設けたものを図15(B)に示す。また、ヒートパイプ13とヒートパイプ13xの両方を設けた本変形例のものを図15(C)に示す。なお、図15(A)〜(C)では、パンチと下型のみを図示しており、その他は省いている。図15(A)〜(C)に示すように、縦のヒートパイプのみを設けたものは下熱盤の熱がパンチへ集まらないため、下型の放熱量が多い。また、横のヒートパイプのみを設けたものは下熱盤の熱がパンチへ集まるものの、パンチの押圧面までの間の側方への放熱量が多い。一方、縦と横の両方のヒートパイプを設けたものは、下熱盤の熱がパンチの押圧面へ効率的に集まり、放熱量が少ない。
【0047】
本実施形態の効果を実験で検証したので、その結果を以下に示す。図16は、ヒートパイプや断熱層を有しない金型(比較例1)、縦のヒートパイプを有し断熱層を有しない金型(比較例2)、縦のヒートパイプと断熱層を有する第一変形例に係る金型(実施例1)
、横のヒートパイプを有する実施形態の別態様に係る金型(実施例2)、縦と横のヒートパイプと断熱層を有する第一変形例の別態様に係る金型(実施例3)について、下熱盤から押圧面までの温度勾配を示したグラフである。図16のグラフから明らかなように、比較例1の場合、熱盤から離れて押圧面に近づくにつれて徐々に温度が低下することが判る。比較例2の場合、比較例1ほど急激ではないものの、比較例1と同様に温度が低下することが判る。他方、実施例1〜3の場合、熱盤から離れて押圧面に近づくにつれても、温度がほとんど低下しないことが判る。特に、実施例3の場合には実施例1や実施例2に比べても著しく温度低下しないことが判る。
【0048】
これは、次のような理由による。すなわち、比較例1の場合、熱の輸送経路は、熱盤―パンチ内部―押圧面というルートをたどる。比較例2の場合、熱の輸送経路は、熱盤―ヒートパイプ―パンチ内部―押圧面というルートをたどる。これに対し、実施例1や実施例3の場合、熱の輸送経路は、熱盤―ヒートパイプ―押圧面―パンチ内部というルートをたどる。すなわち、パンチ内部への伝熱が最後になるため、押圧面が優先的に昇温される。また、実施例2の場合、熱の輸送経路は、熱盤―横ヒートパイプ―パンチ内部―押圧面というルートをたどる。すなわち、下熱盤の熱が下型に広がるよりも前にパンチ内部へ集まるため、押圧面が優先的に昇温される。これにより、コールドスタート後であっても押圧面が瞬時に加熱され、速やかに熱成形を開始することができる。特に実施例3の場合、下型の周囲への放熱量が少ないので、熱盤の熱が効率的にヒートパイプへ伝わり、押圧面が更に優先的に昇温される。
【0049】
また、実施例1〜3と比較例1、比較例2について、押圧面の昇温が完了するまでの温度変化のグラフを図17に示す。図17に示すように、実施例1の場合、約150℃で飽和するまでの時間は10分程度である。また、実施例2の場合、約151℃で飽和するまでの時間は12分程度である。また、実施例3の場合、約153℃で飽和するまでの時間は5分程度である。一方、比較例1の場合、約80℃で飽和するまでに80分程度を要する。また、比較例2の場合、約140℃で飽和するまでに50分程度を要する。なお、この実験を行なった際の熱盤の設定温度は160℃である。
【0050】
このように、実施例1〜3は比較例1や比較例2よりも極めて瞬時に押圧面が昇温されるため、以下のような有利な点がある。すなわち、比較例1や比較例2のように、昇温が遅いため、熱盤の温度と押圧面の温度との差を無視できない場合、押圧面が所望の温度に達して例えば、摩擦材を熱成形可能であるか否かを確かめるために、熱電対をパンチ内部に埋め込み、配線類を下型から取り出す等の措置を講ずる必要がある。このため、熱盤に載せた金型の交換等が極めて面倒となる。一方、実施例1〜3のように、昇温が速いため、熱盤の温度と押圧面の温度との差がほとんど生じないと、押圧面が所望の温度に達して摩擦材を熱成形可能であるか否かを確かめるために、熱電対をパンチ内部に埋め込む必要が無い。熱盤の温度を計測すれば済むからである。よって、配線類を下型から取り出す等の措置を講ずる必要がなくなり、熱盤に載せた金型の交換等が極めて容易となる。また、実施例のように押圧面の温度が制御しやすいと、成形する摩擦材の品質を安定させやすい。特に、実施例3の場合には実施例1や実施例2に比べても下型における放熱量が少ないので押圧面の飽和温度も高く、しかも短時間で飽和温度に達する。
【0051】
なお、ヒートパイプの本数は、押圧面が到達可能な温度と相関があると考えられたので、その検証結果を以下に示す。
【0052】
図18は、ヒートパイプの本数と到達可能な温度との関係を比較したグラフである。図18に示すように、ヒートパイプが1,2本程度だと到達する温度(飽和温度)が90〜110℃程度であるの対し、ヒートパイプが3本以上だと到達する温度が120℃程度となることが判る。なお、このときの熱盤の設定温度は120℃としている。そして、ヒー
トパイプの本数を増やすと、昇温速度は速くなるものの、この検証結果においては飽和温度は3本以上であればほとんど差異が無い事が判る。ヒートパイプの本数やヒートパイプの長さ、形状(断面)、太さ(径)は製造する製品の形状や昇温速度、金型の温度が安定する飽和温度に応じて適宜決定することができる。
【符号の説明】
【0053】
1,1A,1B・・成形装置
5,5A,5B・・金型
6,6A,6B・・パンチ
7・・下熱盤
10・・摩擦材
11・・プレッシャプレート
13,13x・・ヒートパイプ
14・・押圧面
15,15B・・断熱層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形装置であって、
前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、
前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、
前記第二の金型を支持して加熱する熱源部と、を備え、
前記第二の金型は、
前記熱源部側に一端が位置し、前記原料を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプと、
前記ヒートパイプの長手方向に沿って該ヒートパイプを包む断熱層と、を有する、
圧縮成形装置。
【請求項2】
前記断熱層は、前記第二の金型の内部に形成される空間であり、該空間には前記熱源部側から前記押圧面側へ延在して該押圧面を背後から支持する支持部が設けられている、
請求項1に記載の圧縮成形装置。
【請求項3】
前記第二の金型は、
前記押圧面を形成する第一の部材と、
前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、
前記第一の部材と前記第二の部材との間に挟まれる第一の断熱材と、
前記第二の部材と前記熱源部との間に挟まれる第二の断熱材と、を有する、
請求項1または2に記載の圧縮成形装置。
【請求項4】
前記ヒートパイプの両端のうち少なくとも一端側には、該ヒートパイプの熱伸縮を吸収するための隙間が設けられている、
請求項1から3の何れか一項に記載の圧縮成形装置。
【請求項5】
前記第二の金型は、
前記押圧面を形成する第一の部材と、
前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、を有し、
前記第二の部材には、前記第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置したヒートパイプが埋設されている、
請求項1から4の何れか一項に記載の圧縮成形装置。
【請求項6】
金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形用の金型であって、
前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、
前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、を備え、
前記第二の金型は、
前記第二の金型を支持して加熱する熱源部側に一端が位置し、前記原料を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプと、
前記ヒートパイプの長手方向に沿って該ヒートパイプを包む断熱層と、を有する、
圧縮成形用の金型。
【請求項7】
金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形装置であって、
前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、
前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、
前記第二の金型を支持して加熱する熱源部と、を備え、
前記第二の金型は、
前記押圧面を形成する第一の部材と、
前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、を有し、
前記第二の部材には、前記第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置したヒートパイプが埋設されている、
圧縮成形装置。
【請求項8】
前記第二の部材は、前記第一の部材と該熱源部との間に配置される板状の部材であり、
前記第二の部材には、前記熱源部の熱のうち前記第一の部材が配置されている領域以外の領域の熱を該第一の部材へ運ぶ、該第一の部材を支持する面に沿って延在する前記ヒートパイプが、該第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置された状態で埋設されている、
請求項5または7に記載の圧縮成形装置。
【請求項9】
前記第一の部材は、前記第二の部材の中心部で支持されており、
前記第二の部材には、前記中心部の周辺部と該中心部とを跨ぐように配置した前記ヒートパイプが埋設されている、
請求項5、7、8の何れか一項に記載の圧縮成形装置。
【請求項1】
金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形装置であって、
前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、
前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、
前記第二の金型を支持して加熱する熱源部と、を備え、
前記第二の金型は、
前記熱源部側に一端が位置し、前記原料を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプと、
前記ヒートパイプの長手方向に沿って該ヒートパイプを包む断熱層と、を有する、
圧縮成形装置。
【請求項2】
前記断熱層は、前記第二の金型の内部に形成される空間であり、該空間には前記熱源部側から前記押圧面側へ延在して該押圧面を背後から支持する支持部が設けられている、
請求項1に記載の圧縮成形装置。
【請求項3】
前記第二の金型は、
前記押圧面を形成する第一の部材と、
前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、
前記第一の部材と前記第二の部材との間に挟まれる第一の断熱材と、
前記第二の部材と前記熱源部との間に挟まれる第二の断熱材と、を有する、
請求項1または2に記載の圧縮成形装置。
【請求項4】
前記ヒートパイプの両端のうち少なくとも一端側には、該ヒートパイプの熱伸縮を吸収するための隙間が設けられている、
請求項1から3の何れか一項に記載の圧縮成形装置。
【請求項5】
前記第二の金型は、
前記押圧面を形成する第一の部材と、
前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、を有し、
前記第二の部材には、前記第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置したヒートパイプが埋設されている、
請求項1から4の何れか一項に記載の圧縮成形装置。
【請求項6】
金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形用の金型であって、
前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、
前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、を備え、
前記第二の金型は、
前記第二の金型を支持して加熱する熱源部側に一端が位置し、前記原料を押圧する押圧面側に他端が位置するヒートパイプと、
前記ヒートパイプの長手方向に沿って該ヒートパイプを包む断熱層と、を有する、
圧縮成形用の金型。
【請求項7】
金型に原料を投入して加熱し加圧して成形する圧縮成形装置であって、
前記原料を圧縮成形する領域を囲む型枠を形成する第一の金型と、
前記型枠に入れた前記原料を圧縮する第二の金型と、
前記第二の金型を支持して加熱する熱源部と、を備え、
前記第二の金型は、
前記押圧面を形成する第一の部材と、
前記第一の部材と前記熱源部との間に配置されて該第一の部材を支持する第二の部材と、を有し、
前記第二の部材には、前記第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置したヒートパイプが埋設されている、
圧縮成形装置。
【請求項8】
前記第二の部材は、前記第一の部材と該熱源部との間に配置される板状の部材であり、
前記第二の部材には、前記熱源部の熱のうち前記第一の部材が配置されている領域以外の領域の熱を該第一の部材へ運ぶ、該第一の部材を支持する面に沿って延在する前記ヒートパイプが、該第一の部材が配置されている領域とこれ以外の領域とを跨ぐように配置された状態で埋設されている、
請求項5または7に記載の圧縮成形装置。
【請求項9】
前記第一の部材は、前記第二の部材の中心部で支持されており、
前記第二の部材には、前記中心部の周辺部と該中心部とを跨ぐように配置した前記ヒートパイプが埋設されている、
請求項5、7、8の何れか一項に記載の圧縮成形装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−207212(P2011−207212A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7861(P2011−7861)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】
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