説明

圧縮木材の回復性能を生かした圧縮板・圧縮ダボ挿入接合法

【課題】金物を全く使用せず、かつ強度性能は鋼製の接合法に匹敵する木材同士の接合法を提供することを課題とする。
【解決手段】低比重木材を130℃以下で圧縮・圧密化することによって製造した圧縮木材の板を接合部材に挿入し、圧縮木材のダボを打ち込むことによって構成する接合法で、接合部の強度性能は伝統工法で用いられてきた木材同士の接合法が実現できながら、金物を全く使用せず、在来軸組で多く用いられてきた鋼製の接合法に匹敵する強度性能を持ち、かつその圧密化された接合具材は、周辺の温湿度変化による回復特性及び応力緩和防止効果により、接合部内の隙間・ガタを無くし、接合部の嵌合度の低下を防ぐことを特徴とする。また、圧縮ダボを挿入した後、圧縮ダボの両端部分が拘束されないことによる更なる回復により、この回復した部分がボルトナットのように働きながら接合部の開きを止め、接合部の剛性及び強度が高まることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木構造の在来軸組み接合法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の木構造軸組工法において、鋼板挿入ドリフトピン接合方法は、鋼鈑を挿入し、かつ鋼製のドリフトピンで留める方法である。また、圧縮木材は、スギのような低比重の木材を高温で圧縮変形・冷却固定することによって製造できるもので、一般に家具や床材などの材料として開発されたものである。
【非特許文献1】飯田生穂,則元 京:木材学会誌, 33(12),929-933,(1987).
【非特許文献2】則元 京:木材学会誌,39(8),867-874,(1993).
【非特許文献3】井上雅文,足立幸司,金山公三:木材学会誌,47(3),198-204,(2001).
【非特許文献4】鄭 基浩,黄 権煥,小松幸平:木材学会誌,52(1),44-49,(2006)
【非特許文献5】鄭 基浩,黄 権煥,小松幸平:木材学会誌,52(3) ,153-159,(2006)
【非特許文献6】鄭 基浩,北守顕久,A.J.M. Leijten,小松幸平:木材学会誌,52(6),358-367 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
鋼板挿入ドリフトピン接合方法は、接合部の強度性能が良いので、よく用いられてきたが、木製の接合部材との異質性が高い鋼板及び鋼製ドリフトピンの金物を使用するため、接合部が非常に重く、また現場ではドリフトピンの先孔が合わない場合も多い。また、接合部の隙間及びガタによる接合部材同士の遊びも、木材同士で組み立てる伝統的な嵌合接合法と比べ、大きな弱点である。そこで、スギ、またはスプルースのような低比重木材を高密度に圧縮・圧密化した圧縮木材を接合具として用いることによって、金物を全く使用せず、かつ強度性能は鋼製の接合法に匹敵する木材同士の接合法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
スギ又はスプルースのような低比重木材を熱圧温度130℃以下の比較的低温で圧縮・圧密化した上に数十分間維持し、その後冷却することによって製造した圧縮木材の板を接合部材に挿入し、圧縮木材のダボを打ち込むことによって構成する接合法で、接合部の強度性能は伝統工法で用いられてきた木材同士の接合法が実現できながら、金物を全く使用せず、在来軸組で多く用いられてきた鋼製の接合法に匹敵する強度性能を持ち、かつその圧密化された接合具材は、周辺の温湿度変化による自然な回復特性、及び応力緩和防止効果により、接合部内の隙間及びガタを無くし、接合部の嵌合度の低下を防ぐことを特徴とする。また、圧縮ダボを挿入した後、圧縮ダボの両端部分が拘束されないことによる更なる回復により、この回復した部分がボルトとナットのように働きながら接合部の開きを止め、接合部の剛性及び強度が高まることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本件では、金物を一切使用しない、木材同士の高性能の接合法を開発するために、鋼板及びドリフトピンの替わりに高い強度性能を持つ高圧縮率の圧縮板及び圧縮ダボを導入することにより、在来軸組で多く用いられてきた鋼製の接合法に匹敵する接合部が実現できる。
【0006】
ここで接合具材として導入する圧縮木材は、材質の圧密化によって、スギ圧縮木材の場合、曲げ強度においてMORが250MPa、MOEが30GPa以上で、一般のスギ材と比べ3倍以上の強度を、また伝統工法で栓型接合具材としてよく使われてきたカシのような比重8.8以上の堅木よりも約2倍以上の非常の優れた強度性能を持ち、更に130℃以下の比較的低温圧密化したため、長期に亘る自然な周期的温湿度変化によって回復する特性を持つ。
【0007】
一般的な木材同士接合部は、含水率変化による収縮・膨潤による影響で、嵌合度が落ち、接合部の性能が低下するが、本開発で導入した圧縮木材は、スギ、又はスプルースのような低比重木材を130℃以下で比重1以上の高圧縮率で圧縮し製造したため、温湿度の変化による圧縮木材の変形回復によって接合部の嵌合度の低下を防ぐ。
【0008】
圧縮ダボの両端の拘束されていない部分が、ダボ孔内部の拘束されている部分よりさらに回復することで、ボルトナットのように接合部材の広がりを留め、かつダボの内部へ引き込みに対する抵抗を持ち、ロープ効果を与えることによって接合部の性能が向上する。
【0009】
接合部での圧縮木材導入は、圧縮による接合具材質の均一化、スギのような低比重木材の有効利用、金物の排除による軽量化及び低エネルギー消費の実現が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
スギ又はスプルースを熱圧温度130℃以下の比較的低温で圧縮・圧密化した上に数十分間維持し、その後冷却することによって製造した圧縮木材の板を接合部材に挿入し、圧縮木材のダボを打ち込むことによって構成する接合法で、圧縮木材の製造後に樹脂や蒸気処理のような固定処理を全く行わず、圧縮木材の回復性能を生かした圧縮板・圧縮ダボ挿入型接合法において、柱と土台間接合部の適用例の詳細を、図1に示す。予め圧縮板挿入用の部分を切削加工したそれぞれ柱と土台間に圧縮板を2枚挿入し組み立てる。その後、ドリルによって柱及び土台部分に圧縮ダボ挿入用のダボ孔が穿設され、圧縮ダボを挿入することによって完成する。
【0011】
柱と梁間接合部の適用例の詳細を、図2と図3に示す。予め圧縮挿入用の部分を切削加工したそれぞれ柱と梁間に圧縮板を上下2枚ずつ挿入し組み立てる。その後、ドリルによって柱及び土台部分に圧縮ダボ挿入用のダボ孔が穿設され、圧縮ダボを挿入することによって完成する。
圧縮板及び圧縮ダボは、自然状態で湿度の周期的変化により、自然的に徐々に回復する特性によって図4―図6に示すように、接合部の嵌合度を高める。また圧縮ダボにおいては、図5と図6のように、圧縮ダボの両端の拘束されていない部分が、ダボ孔内部の拘束されている部分よりさらに回復することで、ボルトナットのように接合部材の広がりを留め、かつダボの内部へ引き込みに対する抵抗を持ち、ロープ効果を与えることによって接合部の性能が向上する。但し、圧縮ダボの回復によるロープ効果を与えるためには、圧縮ダボの両端に回復が大きく起こる非拘束区間が必要になる。すなわち、図5のような方法の場合は、接合部材より十分な圧縮ダボの長さを確保しなければならない。また、図6のような方法の場合は、圧縮ダボを挿入する前に、予め接合部材におけるダボ孔の両端の径を斜めに広げておく必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】柱と土台接合部を示す斜視図である。
【図2】柱と片方向梁接合部を示す斜視図である。
【図3】柱と両方向梁接合部を示す斜視図である。
【図4】圧縮板の回復による嵌合度向上効果の模式図である。
【図5】圧縮板及び長い寸法の圧縮ダボの回復による嵌合度向上及びボルトナット効果の模式図である。
【図6】圧縮板及び同じ寸法の圧縮ダボの回復による嵌合度向上及びボルトナット効果の模式図である。但し、この接合法の場合は、予め母材におけるダボ孔の両端の径を少し斜めに広げる必要がある。
【符号の説明】
【0013】
1 圧縮板挿入
2 圧縮ダボ打ち込み
3 圧縮板の回復による嵌合度の向上
4 圧縮ダボの回復によるボルトナット効果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スギ又はスプルースのような低比重の木材を放射方向に熱圧温度130℃以下の比較的低温で高圧縮率に圧縮変形・圧密化、冷却し製造した圧縮木材の板を接合部材に挿入し、圧縮木材のダボを打ち込むことによって、構成する接合法で、その圧縮板材及び圧縮ダボ材が樹脂や蒸気処理などによる固定をせず、低温で製造したことにより湿度変化によって自然に変形回復することを特徴とし、圧縮ダボの両端部分が拘束されないことによる更なる回復により、ボルトナットのように働き、接合部にロープ効果を与えることを特徴とする接合法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−202271(P2008−202271A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37668(P2007−37668)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(307004361)
【Fターム(参考)】