説明

圧縮機用摺動部品の製造方法および圧縮機用摺動部品

【課題】耐焼付き性や低い摩擦係数を示すとともに圧縮機用途に優れた摺動部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法は、成膜炉と、少なくとも炭素からなる炭素ターゲット11と、硫化物からなる硫化物ターゲット12,14と、金属原子を含む金属ターゲット13と、を成膜炉内でリング状に配列するターゲット固定手段10と、部品本体(A、B)を保持するとともに部品本体を移動させて部品本体と対向するターゲット11〜14を連続的に変更する部品保持手段20と、少なくともターゲット固定手段10に結線されターゲット11〜14を放電させる電源装置と、を具備するスパッタリング装置を用い、電源装置を操作してターゲット11〜14を放電させるとともに部品保持手段10により部品本体を移動させて、非晶質炭素と前記硫化物を構成する原子と金属原子とを部品本体の表面に微視的かつ周期的に順次堆積させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種摺動部品に形成される摺動層として有効な低摩擦係数を示す複合膜をもつ圧縮機用摺動部品の製造方法および摺動層として複合膜を有する圧縮機用摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機内で摺動運動を行う圧縮機用摺動部品は、一般に、金属製の部品本体と、その摺動面側に形成された摺動層と、からなり、摺動層により摺動部品の摺動性を向上させている。多くの場合、摺動層として、真空蒸着等により形成された固体潤滑材からなる被膜や、固体潤滑材を保持する樹脂層が形成される。ところが、樹脂層は固体潤滑材の含有量に限界があるため、二硫化モリブデン(MoS)膜などの固体潤滑材からなる被膜の他、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜と呼ばれる非晶質炭素膜も、摺動面の摺動性を高める被膜として利用されている。これらの被膜の摺動特性をさらに向上させるため、膜組成や成膜方法について種々の研究がなされている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、DLCからなる第1層と鉄を主成分とする第2層とを部品本体の表面に交互に積層した低摩擦炭素薄膜が開示されている。また、特許文献2には、タングステンを含むDLC膜を最表面にもつ多層膜からなる耐摩耗性機械部品が開示されている。また、特許文献3では、二硫化モリブデン粉末とチタンを含む粉末とからなる混合粉末を原料として用いた蒸着により、部品本体の表面にMoS/Ti複合膜を製造している。さらに、非特許文献1では、MoSとWSと炭素を交互に積層させたMoS/WS/C潤滑積層膜が開示されている。
【0004】
ところが、固体潤滑材からなる被膜であるMoS/Ti複合膜は低摩擦係数を示す一方、摺動条件によっては相手材への移着が発生し、低面圧・低摺動速度であっても長時間の摺動後に焼付きに至ることがある。また、DLC膜は優れた耐焼付き性を示すが、組成や製法によっては、MoS膜に比べて摩擦係数が大きくなるため、摺動面で発熱して摺動性が低下することがある。
【特許文献1】特開2000−320673号公報
【特許文献2】特開2003−171758号公報
【特許文献3】特開2003−129219号公報
【非特許文献1】「トライボロジスト」第49巻、第11号(2004)894−900
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記問題点に鑑み、DLCとMoSとTiとを微視的に交互に堆積させることにより、DLC膜およびMoS/Ti複合膜のそれぞれの優れた特性が発現する複合膜が得られることに想到した。
【0006】
すなわち、本発明は、低い摩擦係数を示すとともに耐焼付き性に優れた圧縮機用摺動部品の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法により得られる圧縮機用摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法は、圧縮機内で摺動運動を行う圧縮機用摺動部品の製造方法であって、
成膜炉と、
少なくとも炭素からなる炭素ターゲットと、硫化物からなる硫化物ターゲットと、金属原子を含む金属ターゲットと、を前記成膜炉内でリング状に配列するターゲット固定手段と、
部品本体を保持するとともに該部品本体を移動させて該部品本体と対向する前記ターゲットの種類を連続的に変更する部品保持手段と、
少なくとも前記ターゲット固定手段に結線され前記各ターゲットを放電させる電源装置と、
を具備するスパッタリング装置を用い、
前記電源装置を操作して前記各ターゲットを放電させるとともに前記部品保持手段により前記部品本体を移動させて、非晶質炭素と前記硫化物を構成する原子と前記金属原子とを該部品本体の摺動面側に微視的かつ周期的に順次堆積させて低摩擦複合膜を成膜することを特徴とする。
【0008】
前記部品保持手段は、非晶質炭素が堆積しはじめた位置から次に非晶質炭素が堆積しはじめるまでの厚さが0.5〜20nmとなるように前記部品本体を移動させるのが望ましい。
【0009】
前記低摩擦複合膜は、全体を100at%としたときに炭素を20〜80at%含み、残部が主として前記金属原子と前記硫化物とからなり、該金属原子を該硫化物に対して5〜20at%含有するのが好ましい。また、前記硫化物は、二硫化モリブデン(MoS)および/または二硫化タングステン(WS)であるのが好ましく、金属原子は、周期律表の第IVa族〜第VIa族に属する元素のうち少なくとも1種からなる、なかでも、チタン(Ti)および/またはクロム(Cr)であるのが好ましい。
【0010】
また、本発明の圧縮機用摺動部品は、上記スパッタリング装置を用い、非晶質炭素と前記硫化物を構成する原子と前記金属原子とを該部品本体の少なくとも摺動面側に微視的かつ周期的に順次堆積させてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法では、スパッタリング装置を用いた成膜において、圧縮機用摺動部品の部品本体と対向するターゲットの種類(具体的には、炭素ターゲット、硫化物ターゲット、金属ターゲット、等)を連続的に変更することで、非晶質炭素と硫化物を構成する原子(分子状態の硫化物を含む)と金属原子とを部品本体の表面に微視的かつ周期的に順次堆積させる。このようにして得られる低摩擦複合膜は、巨視的に、炭素、硫化物を構成する原子および金属原子が均一に分散した複合膜である。
【0012】
そして、この複合膜は、硫化物がもつ低摩擦係数と、非晶質炭素がもつ耐焼付き性と、の双方に優れる。そのため、この複合膜を部品本体の摺動面側に有する本発明の圧縮機用摺動部品は、摺動性に優れる。
【0013】
また、非晶質炭素と硫化物と金属原子とを「微視的かつ周期的に順次堆積させる」とは、たとえば、中間層や表層などというように、はっきりとした複数の層に分かれているのではなく、極薄い層が何層にもなって繰り返し積層する状態である。各層は、ナノメートルスケールの厚さで成膜される。具体的には、非晶質炭素が堆積しはじめた位置から次に非晶質炭素が堆積しはじめるまでの厚さ(すなわち一周期分の厚さ)が0.5〜20nmとなるような堆積速度で成膜を行えばよい。
【0014】
本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法によって得られる複合膜が、全体を100at%としたときに炭素を20〜80at%含み、残部が主として金属原子と硫化物とからなり、金属原子は硫化物に対して5〜20at%含有すれば、硫化物がもつ低摩擦係数と、非晶質炭素がもつ耐焼付き性と、の両者の性質が良好に発現するため好ましい。特に、硫化物が、潤滑性に優れたMoSおよび/またはWSであれば、さらには、金属原子がTiおよび/またはCrであれば、厳しい条件で使用される圧縮機であっても摺動部品の摩擦係数が小さく抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法および圧縮機用摺動部品を実施するための最良の形態を、図1を用いて説明する。
【0016】
本発明は、圧縮機内で摺動運動を行う圧縮機用摺動部品に関するものであるが、「圧縮機用摺動部品」は、圧縮機内で摺動運動を行う複数の摺動部品のうちの少なくとも1つであればよい。圧縮機は、斜板式やワッブル式、両頭型や片頭型、可変容量型や固定容量型、等いずれの形態であってもよい。摺動部品は、斜板式圧縮機の斜板およびシュー、駆動軸または駆動軸を支持する軸受、ピストン式圧縮機のピストン、等の素地表面(部品本体の表面)に、以下に詳説する低摩擦複合膜が成膜されたものである。
【0017】
本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法は、成膜炉と、複数のターゲットを成膜炉内にリング状に配列するターゲット固定手段と、部品本体を保持するとともに部品本体を移動可能な部品保持手段と、各ターゲットを放電させる電源装置と、を具備するスパッタリング装置を用いて、低摩擦複合膜の成膜が行われる。
【0018】
スパッタリング装置は、成膜炉に配置され、主として高電圧を印可したターゲットからなる陰極および部品本体を保持する陽極で構成される一般的なスパッタリング装置と基本的な構成は同様である。ただし、本発明では、ターゲットとして、少なくとも、炭素からなる炭素ターゲットと、硫化物からなる硫化物ターゲットと、金属原子を含む金属ターゲットと、を用い、部品本体を移動可能とした。
【0019】
成膜炉は、一般に各種成膜装置に用いられる成膜炉であれば、形状や材質に特に限定はない。たとえば、円筒形状部を有する成膜炉のほか、断面方形状の成膜炉であってもよいが、本発明では複数のターゲットがリング状に配列されるため、成膜炉本体が円筒形上部を有するのが望ましい。成膜炉には、成膜炉内を排気できる真空系や処理ガスを供給するガス供給手段が配設されるとよい。真空系は、ロータリーポンプ等を有し、配管により成膜炉と連通する。また、ガス供給手段は、ノズル等により成膜炉内に処理ガスを導入する。
【0020】
ターゲット固定手段は、少なくとも炭素からなる炭素ターゲットと、硫化物からなる硫化物ターゲットと、金属原子を含む金属ターゲットと、を成膜炉内に固定する。ターゲットは、少なくとも、炭素ターゲット、所望の硫化物からなる硫化物ターゲット、所望の金属原子を含む金属ターゲット、からなる3つのターゲットを用いればよいが、それぞれのターゲットを複数個用いてもよい。たとえば、炭素ターゲットを2つ以上用いてもよいし、異なる硫化物、異なる金属原子を含む複数のターゲットを準備してもよい。また、金属ターゲットは、所望の金属を含むターゲットであれば特に限定はなく、所望の金属からなる合金ターゲットであってもよい。
【0021】
複数のターゲットは、成膜炉内にリング状に配列される。ターゲットは、リング状に配列されていればよいが、隣接するターゲットが等間隔となるように配列されるとよい。配列されるリング形状は、円環状でもよいし、矩形環状でもよい。ターゲットの配列の一例を図1に示す。図1は、本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法に用いられるスパッタリング装置の一例であって、装置の主要部を示す説明図である。なお、図1は、リング状に配列されたターゲットを軸方向から見た図である。図1では、複数(4つ)のターゲット11〜14は、その全ての放電面が中心部(リングの内側)を向くように固定されているが、遠心方向(リングの外側)に向くようにしてもよい。また、ターゲットは、全てのターゲットの放電面が上向きまたは下向きとなるように固定されてもよい。
【0022】
また、各ターゲットがそれぞれ載置される複数のマグネトロンを有するのが望ましい。ターゲットの裏面へのマグネトロンの設置により、ターゲットの表面(放電面)に平行な磁界が発生するため、ターゲットが放電する際のプラズマのイオン化が促進される(マグネトロンスパッタリング法)。この際、特に、マグネトロンが互いに異なる極性である内側極と外側極を有し、外側極が互いに異なる極性となるように複数のマグネトロン16〜19がリング状に配置されるのが望ましい(図1参照)。この構成により、マグネトロンの磁力線は連続的なバリヤーを形成する(図1の点線参照)ため、拡散するプラズマが捕捉される。その結果、緻密で密着性の高い被膜を形成することができる(クローズドフィールドアンバランストマグネトロンスパッタリング(CFUBMS)法)。また、部品本体に電場を印加する電場手段を有してもよい。
【0023】
部品保持手段は、部品本体を保持しつつ移動させる。部品保持手段は、部品本体を保持することができ、その部品本体を移動させることができれば、その形態に特に限定はない。ターゲットの配列や部品本体の形状に応じて、適宜選択すればよい。たとえば、図1に示すように、各ターゲット11〜14の放電面がターゲット固定手段10により内側を向いて配列されている場合には、部品保持手段20は、ターゲット固定手段10の内側で部品本体を保持するのが望ましい。また、各ターゲットの放電面がターゲット固定手段により外側を向いて配列されている場合には、ターゲット固定手段の外側で部品本体を保持すればよく、全てのターゲットの放電面が上向きまたは下向きとなるように固定されていれば、その上側または下側に部品本体を保持すればよい。
【0024】
部品保持手段は、上記のように部品本体を保持するとともに部品本体を自転および/またはターゲット固定手段の中央部に対して公転させるのが望ましい。部品本体を自転させるか公転させるかは、部品本体の形状や成膜部位に応じて、部品本体と対向するターゲットの種類を連続的に変更できるように適宜決定すればよい。たとえば、各ターゲットの放電面がターゲット固定手段により内側を向いて配列されている場合には、部品本体をターゲット固定手段の中央部(すなわち成膜炉の中央部)に保持するとともに自転させることで、部品本体の側面上のある位置と対面するターゲットの種類が経時的に変更される。また、主として部品本体の一面にのみ成膜する場合には、被成膜面がターゲットのそれぞれの放電面と順次対面するように、部品本体を公転させればよい。さらに、他の面にも成膜するのであれば、部品本体を公転させつつ自転させればよい。また、各ターゲットの放電面がターゲット固定手段により外側を向いて配列されている場合であっても同様である。なお、部品本体を公転させる場合には、公転の軌跡上に複数の部品本体を配置する(図1の配置Aおよび配置B参照)ことで、一度の成膜で複数の部品本体を処理することも可能である。
【0025】
また、部品本体が平板状であって被成膜面が主として厚さ方向に垂直に延びる面のうちの一方の面であれば、被成膜面がターゲットの放電面と対面して保持されるとよい。部品本体がターゲット固定手段の中央部に対して公転されることで、被成膜面は各ターゲットの放電面と順次対面する(図1の配置Aおよび矢印a参照)。また、部品本体が平板状であって被成膜面が主として厚さ方向に垂直に延びる表裏面であれば、被成膜面がターゲットの放電面に対して垂直となるように保持されるとよい。部品本体が自転、または、部品本体がターゲット固定手段の中央部に対して公転しつつ自転する(図1の配置Bおよび矢印a,b参照)ことで、部品本体の大きさにもよるが、被成膜面全体に成膜が可能である。また、平板状の部品本体の表裏面を一度に処理することが可能となるため、複数の平板部品本体を厚さ方向に間隔を隔てて積層した状態で部品本体を配置すれば、さらに多量の部品本体を一度に処理することができる。
【0026】
なお、部品本体は、その材質や形状に特に限定はなく、材質や形状は摺動部品の種類による。部品本体が金属製であれば、鉄、アルミニウム、銅およびマグネシウムのうちの少なくとも1種を含むのが好ましい。たとえば、合金であれば、鋼や、Mg、Cu、Zn、Si、Mn等を含むアルミニウム合金、Zn、Al、Sn、Mn等を含む銅合金などが好ましい。また、部品本体の表面に、中間層としてメッキ処理、溶射処理、陽極酸化処理または化成処理や、ショットブラスト、エッチング等の粗面形成処理などの表面処理がされていてもよい。これらの表面処理がされている場合には、部品本体と摺動層との密着性を向上させることができる。
【0027】
本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法は、以上詳説したスパッタリング装置を用いる。成膜の際には、はじめに、成膜炉を5×10−3〜5×10−4Pa程度まで排気し、その後、アルゴンガス等の希ガスを導入する。電源装置により、たとえばマイナスの電圧をターゲット固定手段(ターゲット)に印可することにより、ターゲットをプラズマ放電させる。プラズマ放電で発生した希ガスイオンは、電界で加速され、希ガスイオンの衝突でターゲット表面の原子や分子がはじき出される(スパッタリング)。この原子や分子が部品本体(たとえば、アース)に堆積することにより、成膜される。そして、上記スパッタリング装置を用いれば、部品保持手段により部品本体が移動して対向するターゲットの種類が連続的に変更されるため、部品本体の表面に、炭素、硫化物を構成する原子、金属原子が部品本体の表面に周期的に順次堆積される。
【0028】
たとえば、ターゲット固定手段が、炭素ターゲット、第1硫化物ターゲット、金属ターゲット、第2硫化物ターゲット、を順にリング状に配列する場合には、部品本体が自転および/または公転することで、…炭素→硫化物を構成する原子→金属原子→硫化物を構成する原子→炭素→硫化物を構成する原子→金属原子→硫化物を構成する原子…の順に周期的に部品本体表面に順に堆積される。この際、極薄い層がナノメートルスケールの厚さで何層にもなって繰り返し積層するように部品保持手段により部品本体を移動させることにより、非晶質炭素と硫化物を構成する原子(分子状態の硫化物を含む)と金属原子とが部品本体の表面に微視的かつ周期的に順次堆積されることとなる。なお、「第1硫化物ターゲット」と「第2硫化物ターゲット」とは、ターゲットの組成が同一であっても異なってもよい。
【0029】
さらに、硫化物ターゲットと金属ターゲットとが隣接して固定される場合、すなわち、硫化物を構成する原子と金属原子とが隣接して堆積する場合には、成膜中のエネルギー(たとえば部品本体温度の上昇)により金属原子が硫化物へと容易に拡散する。その結果、硫化物と金属原子とが複合化する。このようにして、硫化物と金属原子とが拡散により複合化すること、また、堆積して形成される各層が極薄い層であることから、巨視的に、炭素、硫化物を構成する原子および金属原子が均一に分散した低摩擦複合膜が得られる。
【0030】
以上のようにして得られた低摩擦複合膜では、硫化物と金属原子とが複合化した膜がもつ低摩擦係数と、非晶質炭素層がもつ耐焼付き性と、が良好に発現される。これは、非晶質炭素、硫化物を構成する原子、金属原子、から構成される各層が、ナノメートルスケールの厚さで成膜された極薄い層として何層にもなって繰り返し積層され、複合化されているからである。
【0031】
なお、低摩擦複合膜は、非晶質炭素が堆積しはじめた位置から次に非晶質炭素が堆積しはじめるまでの厚さが0.5〜20nmとなる堆積速度となるよう、部品本体の移動速度や印可電圧などを調整することで、成膜を行うのが望ましい。なお、「非晶質炭素が堆積しはじめた位置から次に非晶質炭素が堆積しはじめるまでの厚さ」とは、周期的に堆積された複合膜の一周期分の厚さを意味する。そのため、1つの成膜炉内で炭素ターゲットを2つ用いることにより一周期のうちに非晶質炭素が2度堆積される場合には、炭素ターゲットの放電により非晶質炭素が堆積しはじめた位置から次に同じ炭素ターゲットにより非晶質炭素が堆積しはじめるまでの厚さに相当する。この際、一周期は、3〜6層から構成されるとよい。一周期の厚さが薄いほど良好に複合化された膜が得られ、耐摩耗性が向上する。そのため、一周期分の厚さは、0.5〜5nmであればさらに望ましい。そして、最終的に得られる低摩擦複合膜の厚さは、1〜3μmであるのが好ましい。
【0032】
また、低摩擦複合膜は、全体を100at%としたときに炭素を20〜80at%含み、残部が主として金属原子と硫化物とからなるのが好ましい。炭素量が20at%以上であれば、優れた耐摩耗性とともに低摩擦を示す。さらには、耐凝着性も良好となる。炭素量が80at%を超えると、硫化物のもつ低摩擦の効果が低減されるため好ましくない。さらに好ましい炭素量は、20〜60at%である。
【0033】
また、金属原子は、硫化物に対して5〜20at%の割合で含まれるのが好ましい。金属原子量が5〜20at%であれば、金属原子と硫化物とが複合化した層は、摩擦係数が小さく、優れた摺動特性を示す。その結果、低摩擦複合膜の摺動特性は、向上する。さらに、低摩擦複合膜中では、金属原子の存在により、膜中での硫化物クラスターの動きが抑制されるため、膜の硬度が向上する。さらに好ましい金属原子の含有量は、硫化物に対して8〜12at%である。
【0034】
低摩擦複合膜において、非晶質炭素層は、炭素原子のみからなる層の他、シリコン(Si)やタングステン(W)などの他の元素が添加された非晶質炭素層であってもよい。また、硫化物は、二硫化モリブデン(MoS)および/または二硫化タングステン(MoW)であるのが好ましい。金属原子は、周期律表の第IVa族〜第VIa族に属する元素のうち少なくとも1種からなるのが好ましく、特に好ましくは、チタン(Ti)および/またはクロム(Cr)である。MoSやMoWとTiやCrとが複合化した層は、摩擦係数が小さく、優れた摺動特性を示す。
【0035】
低摩擦複合膜の組成は、ターゲットの種類や印可電圧などによって決定される。たとえば、硫化物ターゲットとしてMoSからなるターゲットを複数個用いて膜中のMoS量を増加させてもよいし、そのうちの1つをWSターゲットに変更してもよい。
【0036】
本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法により堆積物として得られる低摩擦複合膜は、以上詳説したように、優れた摺動特性を発現する。すなわち、本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法は、少なくとも部品本体の摺動面側に低摩擦複合膜をもつ圧縮機用摺動部品としてとらえることができる。低摩擦複合膜が成膜される部品本体は、特に、斜板式圧縮機の斜板であるのが好ましい。部品本体が斜板であれば、平板状の部品本体を配置する場合(前述)と同様にして斜板を炉室内に配置して移動させることで、良好な成膜が行える。
【0037】
以上、本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法および圧縮機用摺動部品の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の摺動部品の実施例を比較例とともに、表1、表2および図1〜図9を用いて説明する。
【0039】
[実施例1]
部品本体として斜板式圧縮機の斜板(鋳鉄(FCD600:φ97mm×6mm)、表面粗さ:0.1〜0.2μmRa(JIS))および方形平板(炭素鋼(S45C:30mm×30mm×5mm)、表面粗さ:0.1〜0.2μmRa(JIS))を準備した。以下の手順により、斜板と方形平板の摺動面側に、CFUBMS法により低摩擦複合膜を成膜した。
【0040】
なお、CFUBMS装置には、Teer Coatings Limited 社製UDP550/4を用いた。装置の概要を図1を用いて説明する。本装置は、図示しないチャンバー内に、1個の黒鉛ターゲット11と、黒鉛ターゲット11と対向する1個のチタン(Ti)ターゲット13と、互いに対向する2個の二硫化モリブデン(MoS)ターゲット12、14を有する。4個のターゲットは、ターゲット固定手段10により、それらの放電面が全て内側を向くように、リング状に配列されている。4個のターゲットは、黒鉛ターゲット11、MoSターゲット12、Tiターゲット13、MoSターゲット14、の順に、マグネトロン16〜19に載置された状態でターゲット固定手段10に固定されている。マグネトロン16〜19は、隣接するマグネトロンが異なる極性を有するため、閉鎖磁界(図1の点線参照)を形成する。また、ターゲット11〜14は、図示しない電源装置により、それぞれ独立に作動させて放電させることができる。もちろん、同時に放電させることも可能である。部品本体は、部品保持手段20により、装置の中央部に保持される。部品保持手段20は、それ自体が矢印a方向に自転することにより、保持された部品本体Aおよび部品本体B(配置Aおよび配置B)を公転させる回転手段を有する。また、部品保持手段20に保持されたそれぞれの部品本体Bを矢印b方向(斜板であれば、その周方向)に自転させる回転手段を併せて有する。
【0041】
成膜装置のチャンバー内に部品本体を載置した。部品本体の被成膜面がターゲット11〜14の放電面に対して対面するように固定された部品本体を部品本体A、被成膜面がターゲット11〜14の放電面に対して垂直に固定された部品本体を部品本体B、とした。成膜炉内を到達真空度が1×10−3Paまで排気した。つぎに、チャンバー内にアルゴンガスを供給し、成膜前の前処理としてイオンボンバード処理を行い、部品本体の表面をエッチングした。イオンボンバード処理の後、チャンバー内の真空度を0.5Paに調整した。そして、Tiターゲット13のみをグロー放電させ、0.1μmのTi膜(中間層)を成膜した。
【0042】
その後、ターゲット11〜14をグロー放電させ、部品保持手段20を4rpmで矢印a方向に回転させて部品本体を移動させた。さらに、部品本体Bに関しては、12rpmで矢印b方向に回転させた。部品保持手段20の回転速度を4rpmとすることで、ターゲット11により非晶質炭素が基板Aの表面に堆積しはじめた位置から次の非晶質炭素が堆積されるまでの厚さを2.5nmとする(以下、「2.5nmピッチ」と略記)ことができる。また、ターゲットに供給される電力を調整することで、膜組成が、C:50at%、Ti:5at%、MoS:45at%となるように調整した。
【0043】
部品本体Aの位置では、120分間の放電により1.7μmの低摩擦複合膜F−1をもつ摺動部品1が得られた。なお、部品本体Bの位置においても、部品本体の表面に低摩擦複合膜が成膜された。
【0044】
[実施例2]
部品本体に対して−40Vのバイアス電圧を印可した他は、実施例1と同様にして、部品本体の表面に低摩擦複合膜F−2をもつ摺動部品2を作製した。
【0045】
[実施例3]
Tiターゲット13をクロム(Cr)ターゲットに変更した他は、実施例1と同様にして、部品本体の表面に低摩擦複合膜F−3をもつ摺動部品3を作製した。
【0046】
[実施例4]
部品保持手段20の回転を8rpm(1.25nmピッチ)に変更した他は、実施例3と同様にして、部品本体の表面に低摩擦複合膜F−4をもつ摺動部品4を作製した。
【0047】
[実施例5]
部品保持手段20の回転を8rpmに変更した他は、実施例1と同様にして、部品本体の表面に低摩擦複合膜F−5をもつ摺動部品5を作製した。
【0048】
[評価]
[1]単体摺動評価装置を用いた評価
摺動部品1および4について、神鋼造機株式会社製単体摺動評価装置を用い、摺動試験を行った。試験では、摺動部品1および4として摺接面に低摩擦複合膜F−1、F−4をもつ斜板(それぞれ「斜板1」「斜板4」とする)と、相手材としてアルミニウム合金製で摺接面にNi−P−Bメッキを施したシュー(φ15.4mm×6.5mm)と、を互いに無潤滑で摺動させた。摺動試験は、回転速度を1960rpm、荷重を20MPaとして、50秒間行った。また、比較例として、非晶質炭素膜(黒鉛ターゲットとCrターゲットを使用して成膜)を成膜した斜板C、MoS/Ti複合膜(TiターゲットとMoSターゲットを使用して成膜)を成膜した斜板M、を準備し同様の試験を行った。試験時間に対する摩擦トルクの変化を図2に示す。また、試験後の斜板およびシューの摺動面を撮影した図面代用写真を図3〜図6に示す。
【0049】
斜板1、斜板4および斜板Mを用いた試験では、摩擦トルクに大きな変動は見られず、摩擦係数は小さかった。一方、非晶質炭素膜を有する斜板Cでは、摩擦係数が大きかったため、摩擦トルクが増大して試験中に摺動が停止した(図2)。また、斜板Mでは、試験終了後のシューの摺接面に、MoS/Ti複合膜が移着しているのが目視で確認された(図6)。一方、斜板1および斜板4では、シューの摺接面に大きな変化は見られなかった(図3および図4)が、斜板4とシューの摺接面に僅かな摩耗が生じた(図4の拡大写真参照)。そこで、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)により、シューの摺接面を定性分析したところ、斜板4と摺動したシューには微量のMo、S、Crが確認されたが、斜板1と摺動したシューでは検出されなかった。すなわち、斜板1および斜板4は、移着が生じ難く、耐焼付き性に優れる摺動部品であった。
【0050】
なお、斜板Cでは、非晶質炭素膜の摩耗粉が発生してシューへ移着しているのが確認された(図5)。ただし、この摩耗粉は、超音波洗浄により大部分が除去可能であった。
【0051】
[2]ボール・オン・ディスク試験による評価I
ボール・オン・ディスク試験により、摩擦係数および低摩擦複合膜の摩耗率を測定した。ボール・オン・ディスク試験では、摺動部品1〜5として摺接面に低摩擦複合膜F−1〜F−5をもつ方形平板である平板試験片(それぞれ「平板1」〜「平板5」とする)と、直径5mmの円柱状で一端に摺接面としてWC−Co6at%コートされた半球面をもつピン型試験片と、を互いに無潤滑で摺動させた。試験は、平板試験片の摺接面にピン型試験片を荷重1kgfまたは3.8kgfで押圧した状態で、ピン型試験片を線スピード200mm/秒で往復動させて行った。また、[1]と同様に、比較例として、非晶質炭素膜を成膜した平板C、MoS/Ti複合膜を成膜した平板M、を準備し同様の試験を行った。荷重1kgfでの摩擦係数および各荷重での平板試験片の摩耗率を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
平板Cは、耐摩耗性に優れる反面、摩擦係数が高かった。一方、平板1〜5および平板Mは、摩擦係数が0.04以下で小さく、優れた摺動性を示した。なかでも、低摩擦複合膜における金属原子をCrとした平板3(複合膜F−3)平板4(複合膜F−4)では、摩擦係数が大幅に低減(0.016)された。また、部品本体の回転速度を速くして作製した平板4および5(複合膜F−4およびF−5、1.25nmピッチ)では、優れた耐摩耗性を示した。一方、部品本体にバイアス電圧を印可した平板2(複合膜F−2)では、平板1よりも摩擦係数は小さかったものの、耐摩耗性が低下した。電圧の印可により複合膜が脆化したと推測される。
【0054】
[3]ボール・オン・ディスク試験による評価II
上記のボール・オン・ディスク試験により、下記実施例6の方法で方形平板に成膜された低摩擦複合膜の摩耗率を測定した。また、比較例として、MoS/Ti複合膜を成膜した上記平板M、および、MoS膜(MoSターゲットのみを使用して成膜)を成膜した平板M’、を準備し、同様の試験を行った。結果を表2に示す。
【0055】
[実施例6]
黒鉛ターゲットに印可する電力を変更して炭素量を調整した他は実施例1と同様にして、表2に示す組成の平板試験片(平板6−1〜6−7)を作製した。
【0056】
【表2】

【0057】
平板M’および平板Mの結果より、MoSからなる膜にTiを添加することにより耐摩耗性が大きく向上することが分かるが、炭素との複合化により、さらに耐摩耗性が向上することが分かった。特に、低摩擦複合膜が含有する炭素量が80at%以下であれば、低摩擦係数を示し耐焼付き性に優れる本発明の低摩擦複合膜がもつ性質に加え、高い耐摩耗性を示した。低摩擦複合膜が含有する炭素量が60at%以下であれば、高荷重である摺動条件下でも高い耐摩耗性を示した。
【0058】
[4]低摩擦複合膜の観察
低摩擦複合膜F−1の断面観察を行った。透過電子顕微鏡(TEM)写真を図7および図8に示す。図7では、部品本体の表面上に複合膜F−1が形成されており、複合膜F−1が一層からなる均一な膜であることが確認された。また、図8は、図7の複合膜F−1の中央部における拡大写真であるが、層状の縞模様などは見られず、炭素が堆積した非晶質炭素層、硫化物が堆積したMoS層、Tiが堆積したTi層の境界を確認することはできなかった。すなわち、複合膜F−1は、C、Ti、MoSが均一に分散したMoS/Ti/DLC複合膜であることがわかった。
【0059】
また、電子エネルギー損失分光(EELS)法による膜の厚さ方向の線分析の結果を図9に示す。図9の右図は、左図のスペクトル強度より求めた各成分の組成比を示す。図9によれば、C、Mo、Sのいずれの成分についても、分析位置によって大きな変動は見られなかった。したがって、複合膜F−1は、C、Ti、MoSが均一に分散したMoS/Ti/DLC複合膜であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の圧縮機用摺動部品の製造方法に用いられるスパッタリング装置の一例であって、装置の主要部を示す説明図である。
【図2】単体摺動評価装置を用いた摺動試験における試験時間に対する摩擦トルクの変化を示すグラフである。
【図3】単体摺動評価装置を用いた摺動試験終了後の斜板1およびその相手材であるシューの摺動面を撮影した図面代用写真である。
【図4】単体摺動評価装置を用いた摺動試験終了後の斜板4およびその相手材であるシューの摺動面を撮影した図面代用写真である。
【図5】単体摺動評価装置を用いた摺動試験終了後の斜板Cおよびその相手材であるシューの摺動面を撮影した図面代用写真である。
【図6】単体摺動評価装置を用いた摺動試験終了後の斜板Mおよびその相手材であるシューの摺動面を撮影した図面代用写真である。
【図7】摺動部品1(実施例1)の断面を観察したTEM写真である。
【図8】摺動部品1の断面を観察したTEM写真であって、図7の低摩擦複合膜F−1の中央部における拡大写真である。
【図9】低摩擦複合膜F−1の断面において、厚さ方向に線分析を行ったEELSの分析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0061】
10:ターゲット固定手段
11:炭素ターゲット
12:硫化物ターゲット(MoSターゲット)
13:金属ターゲット(TiターゲットまたはCrターゲット)
14:硫化物ターゲット(MoSターゲット)
16〜19:マグネトロン
20:部品保持手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機内で摺動運動を行う圧縮機用摺動部品の製造方法であって、
成膜炉と、
少なくとも炭素からなる炭素ターゲットと、硫化物からなる硫化物ターゲットと、金属原子を含む金属ターゲットと、を前記成膜炉内でリング状に配列するターゲット固定手段と、
部品本体を保持するとともに該部品本体を移動させて該部品本体と対向する前記ターゲットの種類を連続的に変更する部品保持手段と、
少なくとも前記ターゲット固定手段に結線され前記各ターゲットを放電させる電源装置と、
を具備するスパッタリング装置を用い、
前記電源装置を操作して前記各ターゲットを放電させるとともに前記部品保持手段により前記部品本体を移動させて、非晶質炭素と前記硫化物を構成する原子と前記金属原子とを該部品本体の摺動面側に微視的かつ周期的に順次堆積させて低摩擦複合膜を成膜することを特徴とする圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項2】
前記部品保持手段は、非晶質炭素が堆積しはじめた位置から次に非晶質炭素が堆積しはじめるまでの厚さが0.5〜20nmとなるように前記部品本体を移動させる請求項1記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項3】
前記ターゲット固定手段には、全ての前記ターゲットの放電面が内側を向くように該ターゲットが配列され、
前記部品保持手段により、該ターゲット固定手段の内側で前記部品本体を保持するとともに該部品本体を自転および/または該ターゲット固定手段の中央部に対して公転させる請求項1記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項4】
前記ターゲット固定手段は、炭素ターゲット、第1硫化物ターゲット、金属ターゲット、第2硫化物ターゲット、を順に配列する請求項1記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項5】
前記低摩擦複合膜は、全体を100at%としたときに炭素を20〜80at%含み、残部が主として前記金属原子と前記硫化物とからなり、該金属原子を該硫化物に対して5〜20at%含有する請求項1記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項6】
前記硫化物は、二硫化モリブデンおよび/または二硫化タングステンである請求項1記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項7】
前記金属原子は、周期律表の第IVa族〜第VIa族に属する元素のうち少なくとも1種からなる請求項1記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項8】
前記金属原子は、チタン(Ti)および/またはクロム(Cr)である請求項1記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項9】
前記部品本体は、斜板式圧縮機の斜板である請求項1〜8のいずれかに記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項10】
前記ターゲット固定手段には、全ての前記ターゲットの放電面が内側を向くように該ターゲットが配列され、
前記斜板は、前記部品保持手段により該ターゲット固定手段の中央部に対して公転することで該斜板の摺動面が該ターゲットのそれぞれの放電面と順次対面する請求項9記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項11】
前記ターゲット固定手段には、全ての前記ターゲットの放電面が内側を向くように該ターゲットが配列され、
前記斜板は、前記部品保持手段により該斜板の摺動面が該ターゲットの放電面に対して垂直となるように保持されるとともに該ターゲット固定手段の中央部に対して公転しつつ該斜板の周方向に自転する請求項9記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項12】
前記スパッタリング装置は、前記ターゲットがそれぞれ載置される複数のマグネトロンを有するマグネトロンスパッタリング装置である請求項1記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項13】
前記マグネトロンスパッタリング装置は、前記マグネトロンが互いに異なる極性である内側極と外側極を有し、該外側極が互いに異なる極性となるように複数の該マグネトロンがリング状に配設されたクローズドフィールドアンバランストマグネトロンスパッタリング装置である請求項12記載の圧縮機用摺動部品の製造方法。
【請求項14】
圧縮機内で摺動運動を行う圧縮機用摺動部品であって、
成膜炉と、
少なくとも炭素からなる炭素ターゲットと、硫化物からなる硫化物ターゲットと、金属原子を含む金属ターゲットと、を前記成膜炉内でリング状に配列するターゲット固定手段と、
部品本体を保持するとともに該部品本体を移動させて該部品本体と対向する前記ターゲットの種類を連続的に変更する部品保持手段と、
少なくとも前記ターゲット固定手段に結線され前記各ターゲットを放電させる電源装置と、
を具備するスパッタリング装置を用い、
前記電源装置を操作して前記各ターゲットを放電させるとともに前記部品保持手段により前記部品本体を移動させて、非晶質炭素と前記硫化物を構成する原子と前記金属原子とを該部品本体の少なくとも摺動面側に微視的かつ周期的に順次堆積させてなることを特徴とする圧縮機用摺動部品。
【請求項15】
前記部品本体の堆積物は、非晶質炭素が堆積しはじめた位置から次に非晶質炭素が堆積しはじめるまでの厚さが0.5〜20nmである請求項14記載の圧縮機用摺動部品。
【請求項16】
前記部品本体の堆積物は、全体を100at%としたときに炭素を20〜80at%含み、残部が主として前記金属原子と前記硫化物とからなり、該金属原子を該硫化物に対して5〜20at%含有する低摩擦複合膜である請求項14記載の圧縮機用摺動部品。
【請求項17】
前記硫化物は、二硫化モリブデンおよび/または二硫化タングステンである請求項14記載の圧縮機用摺動部品。
【請求項18】
前記金属原子は、周期律表の第IVa族〜第VIa族に属する元素のうち少なくとも1種からなる請求項14記載の圧縮機用摺動部品。
【請求項19】
前記金属原子は、チタン(Ti)および/またはクロム(Cr)である請求項14記載の圧縮機用摺動部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−217768(P2007−217768A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41319(P2006−41319)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】