説明

圧縮賦形装置および方法並びに繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法

【課題】強化繊維基材の厚みが変化し傾斜面を有する場合にあっても、その傾斜面に対応させて容易に望ましい形状に賦形することが可能な圧縮賦形技術を提供する。
【解決手段】強化繊維基材1を金型間に挟んで加圧することにより金型賦形面3a、3bの形状に沿う形状に賦形する少なくとも二つの金型2a、2bと、少なくとも一つの金型に開閉動作をさせ、強化繊維基材1を加圧、開放する金型駆動手段4と、金型2a、2bによる開閉動作に合わせて強化繊維基材1を金型2a、2bに対し搬入、搬出する搬送手段5とを備え、少なくとも一つの金型2aの金型賦形面3aが、強化繊維基材1の搬送方向Bに対し平行な平行面6aと、該平行面6aに段差なく連接され搬送方向に対し傾斜した傾斜面6bとを併せ持つことを特徴とする圧縮賦形装置10および方法、並びにそれらを用いて製造された繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維を含み傾斜面を有する強化繊維基材を所定の形状に賦形する圧縮賦形装置および方法、並びにそれらを用いて製造された繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維を強化繊維として用いた繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量でかつ高い耐久性を有するものであることから、自動車や航空機などを構成する各種の構成部材として理想的な材料である。このFRPの成形方法としては、例えば強化繊維材を複数枚積層した積層体からなる強化繊維基材を、相対する金型で挟み加圧することにより所定の形状に賦形し、含浸樹脂を硬化させて所定の形状のFRPに成形する方法が知られている。
【0003】
強化繊維基材としては、例えば強化繊維をシート状に複数本引き揃え、エポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させ、シート状に成形したプリプレグシートが用いられている。このプリプレグシートを複数枚積層し、金型内で加圧・加熱してマトリックス樹脂を硬化させ所定形状のFRPに成形する。また、マトリックス樹脂が含浸されていない、ドライの強化繊維基材を用いたFRPの成形も行われている。これはResin Transfer Molding(以下、RTMという)成形方法や真空RTM成形方法などと呼ばれる成形方法であり、例えば層間接着樹脂が付加された強化繊維材を複数枚積層し、その積層体を金型で賦形してプリフォームと呼ばれる形態の中間成形品を製作した後、このプリフォームに低粘度の液状マトリックス樹脂を注入して硬化させるものである。
【0004】
これらFRPの成形においては、I形やH形の横断面形状を持つ梁部材を製造する装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。これは積層体を所定の断面形状に金型で賦形した後、金型を開き積層体を所定量移動させ、再度賦形するということを繰り返し、長尺の成形品を成形する装置である。このような装置を用いることで、長手方向に一様な断面形状を持つ梁部材の成形を、その梁部材の全長分、大型の金型を用いることなく、小さな金型にて製造することができる。
【0005】
しかしながら、例えば片持ちの構造物を考えた場合、一般的にそれを支える梁部材は根元にいくほど剛性が高くなることが求められる。そのため、長尺の成形品を製造するための積層体では、強化繊維材の積層枚数(積層体成形品の厚み)を長手方向の根元に対して増加していくことでこの要求に対応している。一方、上記従来技術は、基本的に一定形状、一定厚みの断面にて順次成形していくものであるため、このような成形品の厚み変化の要求には対応できなかった。すなわち、強化繊維材の積層枚数を長手方向に対して変化させ、それに伴って所定形状に賦形すべき強化繊維基材の厚みが長手方向に変化する場合には、賦形対象となる強化繊維基材部位に傾斜面が存在することになるが、基本的に一定形状、一定厚みの断面にて順次成形していく従来の賦形技術では、このような傾斜面が存在する強化繊維基材部位に対して精度よく所定形状に賦形することが困難であった。
【0006】
また、強化繊維基材の積層枚数(積層体成形品の厚み)を長手方向に対して増加する方法として圧縮賦形装置が知られている(特許文献2)。しかしながら、強化繊維基材の積層枚数の変化に対応してシート状のスキマ調整部材を金型間に挿入する方法では、段差ができ積層枚数が大きく変化する場合の局所変化に強化繊維基材が追従できず所定形状に賦形することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−191418号公報
【特許文献2】特開2008−179130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、前記した従来技術の問題点を解決するために、強化繊維基材の厚みが変化し強化繊維基材が傾斜面を有する場合にあっても、その傾斜面に対応させて容易に望ましい形状に賦形することが可能な圧縮賦形装置および方法、並びにそれらを用いて製造された繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る圧縮賦形装置は、強化繊維を含む強化繊維基材を金型間に挟んで加圧することにより金型賦形面の形状に沿う形状に賦形する少なくとも二つの金型と、少なくとも一つの金型に開閉動作をさせ、強化繊維基材を加圧、開放する金型駆動手段と、金型による開閉動作に合わせて強化繊維基材を金型に対し搬入、搬出する搬送手段とを備えた強化繊維基材の圧縮賦形装置であって、前記金型のうちの少なくとも一つの金型の金型賦形面が、強化繊維基材の搬送方向に対し平行な平行面と、該平行面に段差なく連接され前記搬送方向に対し傾斜した傾斜面とを併せ持つことを特徴とするものからなる。
【0010】
このような圧縮賦形装置は、例えば、強化繊維基材が、強化繊維を含むシート材の積層体からなり、積層枚数が変化し、それに伴って強化繊維基材が傾斜面を有する場合に好適なものである。この強化繊維を含むシート材は、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなる場合、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなる場合のいずれの場合も可能である。
【0011】
このような本発明に係る圧縮賦形装置においては、金型の開閉動作を行い、強化繊維基材を順次加圧賦形していく金型の金型賦形面が強化繊維基材の搬送方向に対し平行な平行面と搬送方向に対し傾斜した傾斜面とを併せ持っているので、基材表面を傾斜面に形成すべき強化繊維基材部位が金型による加圧部に搬送されてきたとき、該金型は、強化繊維基材の長手方向における、強化繊維基材の表面の目標賦形形状に関して、搬送方向に対し平行な平行面(基材厚さが一定の面)と搬送方向に対し傾斜した傾斜面(基材厚さが変化する面)との両方を同時に賦形できるようになる。すなわち、賦形すべき強化繊維基材の平行面と傾斜面を併せ持つ金型賦形面の金型を用いることにより、特別な操作を伴うことなく所定の金型で容易に、基材の平行面と傾斜面、およびそれらの境界部が、同時に目標とする形状に賦形されることになる。とくに、このとき、金型賦形面の平行面と傾斜面とは段差なく連接されているので、賦形される強化繊維基材の平行面と傾斜面も段差なく連なって賦形され、基材の平行面と傾斜面の境界部は望ましい目標形状に賦形される。
【0012】
上記の基材の平行面と傾斜面の同時賦形においては、金型賦形面の平行面と傾斜面の境界部と、賦形すべき強化繊維基材の平行面と傾斜面の境界部とが、丁度一致していることが望ましく、それによって基材の目標形状への賦形が精度良く行われることになる。これを達成するために、本発明に係る圧縮賦形装置は、さらに、上記搬送方向に搬送される強化繊維基材の長手方向における厚さ変化に伴う基材表面の傾斜部の位置を検出する基材傾斜部検出手段と、該基材傾斜部検出手段による検出情報に基づき強化繊維基材の搬送を制御する搬送制御手段を有することが好ましい。このような手段により、基材の搬送が精度良く制御され、賦形動作時に、賦形すべき強化繊維基材の平行面と傾斜面の境界部が、金型賦形面の平行面と傾斜面の境界部に精度良く合わせられる。
【0013】
また、上記金型駆動手段としては、一つの金型に対し一つの加圧機構を有する構成とすることもできるし、複数箇所の加圧機構を有する構成とすることもできる。後者の場合には、上記のような平行面と傾斜面を併せ持つ金型に加圧動作を行わせる際、平行面と傾斜面の両方を均等に、賦形すべき強化繊維基材の平行面と傾斜面に対し加圧させることが可能になり、より精度の良い所望形状への賦形が可能になる。
【0014】
また、本発明に係る圧縮賦形装置は、強化繊維基材の目標賦形横断面形状が屈曲部を有する場合にも、適用できる。つまり、強化繊維基材の目標賦形横断面形状に屈曲部が含まれる場合には、金型のうちの少なくとも一つの金型がその屈曲部に対応する横断面形状を有していればよい。
【0015】
本発明は、上記のような圧縮賦形装置を用いて製造された繊維強化複合材料やプリフォームについても提供する。本発明に係る繊維強化複合材料は、強化繊維基材がマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなり、該強化繊維基材が、上記のような圧縮賦形装置を用いて賦形され、マトリックス樹脂が硬化されて製造されていることを特徴とするものからなる。
【0016】
また、本発明に係るプリフォームは、強化繊維基材がマトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなり、該強化繊維基材が、上記のような圧縮賦形装置を用いて賦形されていることを特徴とするものからなる。この場合、繊維強化複合材料は、上記のように賦形されたプリフォームにマトリックス樹脂が含浸され、含浸されたマトリックス樹脂が硬化されて製造される。
【0017】
本発明に係る圧縮賦形方法は、強化繊維を含む強化繊維基材を少なくとも二つの金型間に挟んで加圧することにより金型賦形面の形状に沿う形状に賦形するに際し、少なくとも一つの金型に開閉動作をさせて強化繊維基材を順次賦形していくとともに、金型による開閉動作に合わせて強化繊維基材を金型に対し搬入、搬出する強化繊維基材の圧縮賦形方法であって、前記金型のうちの少なくとも一つの金型の金型賦形面を、強化繊維基材の搬送方向に対し平行な平行面と、該平行面に段差なく連接され前記搬送方向に対し傾斜した傾斜面とを併せ持つ金型賦形面に形成し、長手方向において厚さ変化を伴い基材表面に傾斜部を有する強化繊維基材の該傾斜部が搬送されてきたときに、前記金型賦形面の平行面と傾斜面の両方を用いて強化繊維基材を加圧することを特徴とする方法からなる。
【0018】
この圧縮賦形方法は、例えば、強化繊維基材が、強化繊維を含むシート材の積層体からなり、積層枚数が変化し、それに伴って強化繊維基材が傾斜面を有する場合に好適なものである。この強化繊維を含むシート材は、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなる場合、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなる場合のいずれの場合も可能である。
【0019】
また、本発明に係る圧縮賦形方法においては、上記の基材の平行面と傾斜面の同時賦形における、金型賦形面の平行面と傾斜面の境界部と、賦形すべき強化繊維基材の平行面と傾斜面の境界部の位置を一致させるべく、搬送される強化繊維基材の上記基材傾斜部の位置を検出し、該検出情報に基づき強化繊維基材の搬送を制御することが好ましい。
【0020】
また、一つの金型に対し複数箇所にて加圧動作を行わせることもできる。
【0021】
また、本発明に係る圧縮賦形方法においては、強化繊維基材の目標賦形横断面形状に屈曲部が含まれる場合、該屈曲部に対応する横断面形状を有する少なくとも一つの金型を用いて強化繊維基材を賦形することが好ましい。
【0022】
本発明に係る繊維強化複合材料の製造方法は、強化繊維基材がマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなり、該強化繊維基材を、上記のような圧縮賦形方法を用いて賦形し、マトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする方法からなる。
【0023】
本発明に係るプリフォームの製造方法は、強化繊維基材がマトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなり、該強化繊維基材を、上記のような圧縮賦形方法を用いて賦形することを特徴とする方法からなる。この場合、繊維強化複合材料は、上記のように賦形されたプリフォームにマトリックス樹脂を含浸し、含浸されたマトリックス樹脂を硬化させることにより製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る圧縮賦形装置および方法によれば、強化繊維基材の長手方向における厚さの変化に伴い強化繊維基材が傾斜面を有する場合にあっても、平行面とそれに連接する傾斜面を併せ持つ金型賦形面により、強化繊維基材の平行面、傾斜面、両者の境界部を効率よく同時に賦形することができ、目標とする望ましい形状に極めて容易に賦形することができる。とくに強化繊維基材の傾斜面の位置を検出して基材の搬送を制御するようにすれば、一層精度の良い目標形状への賦形が可能になる。したがって、比較的長尺のものにあっても、容易にかつ効率良く所定形態に賦形することができる。
【0025】
本発明に係る繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法によれば、上記のような目標とする形状に精度よくかつ効率よく賦形することが可能な圧縮賦形装置および方法を用いるので、比較的長尺のものにあっても、均一に成形され高い繊維体積含有率を有する繊維強化複合材料の製造が可能になるとともに、製造における歩留りを向上して高い生産性を達成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施態様に係る圧縮賦形装置の概略側面図であり、(A)〜(C)は基材に対する賦形動作順を示している。
【図2】本発明の別の実施態様に係る圧縮賦形装置を含む連続賦形装置全体の概略斜視図である。
【図3】図2の装置を使用する場合の最終形状を示す繊維強化複合材料の斜視図である。
【図4】図2の装置を使用する賦形用金型の一例を示す拡大斜視図である。
【図5】図2の装置における圧縮賦形装置部分を示しており、(A)は概略横断面図、(B)は概略側面図である。
【図6】本発明のさらに別の実施態様に係る圧縮賦形装置の概略側面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施態様に係る圧縮賦形装置の概略側面図である。
【図8】本発明のさらに別の実施態様に係る圧縮賦形装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る圧縮賦形装置および方法において賦形対象とするのは、強化繊維を含む強化繊維基材であり、代表的には、基材長手方向に、例えば積層枚数によって厚みが変化する傾斜面部を有する強化繊維を含むシート材の積層体である。本発明における「強化繊維」としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などが挙げられる。強化繊維はその形態としては、織物、編み物、組み物、不織布、一方向に引き揃えられた強化繊維シートなどが挙げられる。強化繊維を含むシート材としては、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグの形態のもの、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材の形態のもののいずれも使用可能である。上記「積層体」は、このようなプリプレグの形態のシート材を複数枚積層したもの、あるいはドライの強化繊維材の形態のシート材を複数枚積層したものからなる。ドライの強化繊維材を用いる場合には、結着性物質を使用してもよく、この結着性物質は、強化繊維に付着し、強化繊維同士を結着することで、強化繊維をシート状の形態に安定して維持させるものであり、結着性物質としては、例えば、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ナイロン、ポリウレタンなどの熱可塑性樹脂、また、例えばエポキシ、フェノール、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂などが挙げられる。また、結着性樹脂は、ドライの強化繊維材の積層体を所望の形状に賦形した際に、その形態を保持する役割を果たす。
【0028】
図1は、本発明の一実施態様に係る圧縮賦形装置およびそれを用いた圧縮賦形方法を示している。本実施態様においては、圧縮賦形装置10は、強化繊維を含む強化繊維基材1(例えば、強化繊維材シートの積層体やプリプレグシートの積層体)を上側の金型2aと下側の金型2b間に挟んで加圧することにより金型賦形面3a、3bの形状に沿う形状に賦形する少なくとも二つの金型2a、2bと、少なくとも一つの金型2aに矢印A方向に加圧動作、それとは反対方向に開放動作となる開閉動作をさせる金型駆動手段4と、金型2a、2b間での加圧による賦形動作に合わせて強化繊維基材1を金型2a、2b設置部位に対し矢印B方向に搬入、搬出する搬送手段5とを備えている。搬送手段5は、例えば、強化繊維基材1を矢印B方向に牽引する牽引手段に構成されている。ただし、この搬送手段5は、強化繊維基材1を把持して引き抜くように搬送する手段であってもよく、金型2a、2bの入口側から押し込むように強化繊維基材1を搬送する手段であってもよい。このような圧縮賦形装置10において、本実施態様では、金型2aの金型賦形面3aが、強化繊維基材1の搬送方向Bに対し平行な平行面6aと、該平行面6aに段差なく連接され搬送方向Bに対し傾斜した傾斜面6bとを併せ持つ面形状に形成されている。この金型賦形面3aの平行面6aは、強化繊維基材1の厚さが一定で賦形すべき基材の表面が搬送方向Bに対し平行な基材平行面7aの形状に対応しており、金型賦形面3aの傾斜面6bは、強化繊維基材1の厚さが変化し賦形すべき基材の表面が搬送方向Bに対し傾斜した基材傾斜面7bの形状に対応している。
【0029】
なお、本実施態様では、下側の金型2bは固定型の金型とされているが、下側の金型2b側を上記の上側の金型2aのような可動型の金型に構成してもよく、両方とも可動型の金型に構成することも可能である。また、本実施態様では、金型2aの金型賦形面3aが、平行面6aと傾斜面6bとを併せ持つ形状に形成されているが、金型2b側の金型賦形面3bをこのような形状に形成することもでき、両金型2a、2bの金型賦形面3a、3bをこのような形状に形成することもできる。
【0030】
このような圧縮賦形装置10において、強化繊維基材1の圧縮賦形が図1(A)、(B)、(C)に示すように行われる。搬送方向Bに搬送される強化繊維基材1に対し、図1(A)に示す動作は、強化繊維基材1の厚さが一定で賦形すべき基材の表面が搬送方向Bに対し平行な基材平行面7aの形状の基材部位での賦形状態を示しており、金型2aの金型賦形面3aの平行面6aだけが基材平行面7aに押圧されて、この部位の基材形状が所定の厚さ一定の形状へと圧縮賦形される。図1(B)は、強化繊維基材1の基材傾斜面7bが金型2a、2b間位置まで搬送され、金型賦形面3aの平行面6aと傾斜面6bの両方を使用して、強化繊維基材1の基材平行面7aと基材傾斜面7b、さらにはそれらの境界部が同時賦形される様子を示している。この圧縮賦形時には、前述の如く、強化繊維基材1の基材平行面7aと基材傾斜面7bの境界部が、金型賦形面3aの平行面6aと傾斜面6bの境界部と一致していることが好ましく、この一致は、例えば図1(A)に示すような、基材表面の傾斜部(基材傾斜面7b)の位置あるいは強化繊維基材1の基材平行面7aと基材傾斜面7bの境界部の位置を検出可能な基材傾斜部位置検出手段8(例えば、非接触式または接触式のセンサ)と、その検出情報に基づいて強化繊維基材1の搬送を制御可能な搬送制御手段9(例えば、搬送手段5の駆動制御手段)とによって達成可能である。金型賦形面3aの平行面6aと傾斜面6bによる強化繊維基材1の基材平行面7aと基材傾斜面7bの同時賦形により、極めて容易に効率よく、しかも精度良く、この部分における強化繊維基材1を目標とする形状に賦形することができる。図1(C)は、強化繊維基材1の基材傾斜面7bの賦形が終了し、強化繊維基材1がさらに搬送方向Bに搬送されて、再び基材平行面7a(上記図1(A)における部位よりは厚さのより厚い部位の基材平行面7a)の賦形が、金型賦形面3aの平行面6aだけを使用して行われている様子を示している。このように、所定量の間欠的な基材搬送と、金型2aの開閉動作の繰り返しにより、長尺の強化繊維基材1の各部位が次々と効率よく目標形状に賦形されていくことになる。
【0031】
図2に、本発明の別の実施態様に係る圧縮賦形装置を含む連続賦形装置全体、とくに横断面形状に屈曲部を有し、全体としてT字形の横断面形状に基材を賦形する圧縮賦形装置を含む連続賦形装置11を例示する。本実施態様においては、最終的に図3に示すような、横断面がT字形で(ただし、図3は天地を逆転して図示してある)、かつ、長手方向の途中に厚さ変化部32を有する、比較的長尺の繊維強化複合材料31を製造することができる(プリフォームへの賦形も、図3に示すような形状となる)。図2においては、長手方向の途中に厚さ変化部を有する強化繊維基材12、13がそれぞれ搬送され、一方の強化繊維基材12は、キャッププレス14で予備賦形された後、全体を所定のT字形の横断面形状に賦形する、本発明に係る圧縮賦形装置としてのT字形プレス15に搬送される。他方の強化繊維基材13には、繰り出されてきた離型シート16が離型シート貼付プレス17部で貼り付けられ、押し込み円板18でV字形に変形された後、ウェブプレス19、ドレープローラ20を用いて横断面T字形に整形され、T字形の脚が交差する付け根部に繰り出されてきたコーナーフィラー部材21の素材条体がフィラー型22を用いて配置された後、T字形プレス15に搬送される。T字形プレス15では、搬送されてきた予備賦形後の強化繊維基材12、13が、本発明に係る圧縮賦形方法を用いて、所定のT字形の横断面形状に賦形される。T字形プレス15への基材の搬入、T字形プレス15からの基材の搬出は、引き込み装置23により、賦形動作に併せて間欠的に行われる。
【0032】
T字形への賦形は、T字形プレス15内のT字形の頂面側に配置される金型24と、T字形の両側に配置される金型25を用いて行われ、本発明に係る基材の厚さ変化部に対応した傾斜面の賦形は、主として金型25によって行われる。この賦形に使用される金型25は、例えば図4に示すように形成される。図4に示す金型25においては、金型賦形面26、27が形成されており、例えば、金型賦形面26がT字形の頂部下面を賦形する金型賦形面を、金型賦形面27がT字形の脚部側面を賦形する金型賦形面を、それぞれ構成している。図3に示したような厚さ変化部32の賦形に対応するために、金型賦形面26は平行面26aと傾斜面26bが段差なく連接された形状で、金型賦形面27は平行面27aと傾斜面27bが段差なく連接された形状をしている。
【0033】
上記厚さ変化部32に対応した賦形は、例えば図5(A)、(B)に示すように行われる。図5(A)に示すように、上側の固定金型24と、下側でかつT字形の脚部両側面側に配置された可動金型25(25a、25b)との間で、強化繊維基材12、13からなるT字形に予備賦形された強化繊維基材41が、所定のT字形横断面形状に賦形される。図5(A)、(B)に示すように、可動金型25a、25bは、ガイド42に沿って金型駆動手段43a、43bにより強化繊維基材41のT字形脚部に向けて加圧されるとともに、ガイド44に沿って金型駆動手段45によって、ガイド42部分を含めた可動により、強化繊維基材41のT字形頂部下面に向けて加圧される。図5(B)に示すように、強化繊維基材41の厚さ変化部46が丁度金型25の傾斜面26bに対応する位置まで搬送されると、金型25による圧縮賦形が行われる。この場合、前述したように、金型25の平行面26aと傾斜面26bにより、強化繊維基材41の厚さ変化部46(傾斜面部)と平行面部の賦形が同時に行われることになる。強化繊維基材41の厚さ変化部46(傾斜面部)の位置合わせは、例えば強化繊維基材41の厚さ変化部46に対し予め所定の位置関係にある部位に、位置検出用のマーク47を付与しておき、そのマーク47の検出情報に基づき強化繊維基材41の搬送を制御することによって、高精度に位置決めを行うことが可能である。
【0034】
本発明においては、種々の変化形態を採り得る。例えば、図6に示すように、強化繊維基材41の搬送方向(矢印方向)に賦形用の金型として加熱型51と冷却型52を直列に配置することができる。このようにすれば、平行面と傾斜面を備えた加熱型51により所定の形状に賦形した強化繊維基材41を、その直後に冷却型52で冷却することができ、それによって賦形された強化繊維基材41の所定形状を固定することが可能となる。また、図7に示すように、強化繊維基材61を加熱型62により賦形に適した温度へと加熱し、その直後に、冷却型63により基材61を所定の形状に賦形すると同時に冷却して賦形形状を固めてしまうようにすることも可能である。また、図7に示すように、基材61の搬送方向に対する厚さ変化部の傾斜面の傾斜方向は、図6に示した方向とは逆向きにすることも可能であり、その傾斜面に対応した賦形用金型を準備すればよい。さらに、図8に示すように、強化繊維基材41賦形用の金型71(図示例では、加熱型)のうち本発明における平行面と傾斜面を併せ持つ金型71において、傾斜面72の両側(基材搬送方向両側)に平行面73a、73bが段差なく連接された形状の金型賦形面とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る圧縮賦形装置および方法は、傾斜面と平行面を有するあらゆる強化繊維基材の賦形に適用でき、繊維強化複合材料やプリフォームの製造分野に広く適用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 強化繊維基材
2a、2b 金型
3a、3b 金型賦形面
4 金型駆動手段
5 搬送手段
6a 平行面
6b 傾斜面
7a 基材平行面
7b 基材傾斜面
8 基材傾斜部位置検出手段
9 搬送制御手段
10 圧縮賦形装置
11 連続賦形装置
12、13 強化繊維基材
14 キャッププレス
15 T字形プレス
16 離型シート
17 離型シート貼付プレス
18 押し込み円板
19 ウェブプレス
20 ドレープローラ
21 コーナーフィラー部材
22 フィラー型
23 引き込み装置
24、25、25a、25b 金型
26、27 金型賦形面
26a、27a 平行面
26b、27b 傾斜面
31 繊維強化複合材料
32 厚さ変化部
41 強化繊維基材
42 ガイド
43a、43b 金型駆動手段
44 ガイド
45 金型駆動手段
46 厚さ変化部
47 位置検出用のマーク
51 加熱型
52 冷却型
61 強化繊維基材
62 加熱型
63 冷却型
71 金型
72 傾斜面
73a、73b 平行面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維を含む強化繊維基材を金型間に挟んで加圧することにより金型賦形面の形状に沿う形状に賦形する少なくとも二つの金型と、少なくとも一つの金型に開閉動作をさせ、強化繊維基材を加圧、開放する金型駆動手段と、金型による開閉動作に合わせて強化繊維基材を金型に対し搬入、搬出する搬送手段とを備えた強化繊維基材の圧縮賦形装置であって、前記金型のうちの少なくとも一つの金型の金型賦形面が、強化繊維基材の搬送方向に対し平行な平行面と、該平行面に段差なく連接され前記搬送方向に対し傾斜した傾斜面とを併せ持つことを特徴とする圧縮賦形装置。
【請求項2】
前記強化繊維基材が、強化繊維を含むシート材の積層体からなる、請求項1に記載の圧縮賦形装置。
【請求項3】
前記強化繊維を含むシート材が、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなる、請求項2に記載の圧縮賦形装置。
【請求項4】
前記強化繊維を含むシート材が、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなる、請求項2に記載の圧縮賦形装置。
【請求項5】
さらに、前記搬送方向に搬送される強化繊維基材の長手方向における厚さ変化に伴う基材表面の傾斜部の位置を検出する基材傾斜部検出手段と、該基材傾斜部検出手段による検出情報に基づき強化繊維基材の搬送を制御する搬送制御手段を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の圧縮賦形装置。
【請求項6】
前記金型駆動手段が、一つの金型に対し複数箇所の加圧機構を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の圧縮賦形装置。
【請求項7】
強化繊維基材の目標賦形横断面形状に屈曲部が含まれ、前記金型のうちの少なくとも一つの金型が前記屈曲部に対応する横断面形状を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮賦形装置。
【請求項8】
強化繊維基材がマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなり、該強化繊維基材が、請求項1〜7のいずれかに記載の圧縮賦形装置を用いて賦形され、マトリックス樹脂が硬化されて製造されていることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項9】
強化繊維基材がマトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなり、該強化繊維基材が、請求項1〜7のいずれかに記載の圧縮賦形装置を用いて賦形されていることを特徴とするプリフォーム。
【請求項10】
請求項9に記載のプリフォームにマトリックス樹脂が含浸され、含浸されたマトリックス樹脂が硬化されて製造されていることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項11】
強化繊維を含む強化繊維基材を少なくとも二つの金型間に挟んで加圧することにより金型賦形面の形状に沿う形状に賦形するに際し、少なくとも一つの金型に開閉動作をさせて強化繊維基材を順次賦形していくとともに、金型による開閉動作に合わせて強化繊維基材を金型に対し搬入、搬出する強化繊維基材の圧縮賦形方法であって、前記金型のうちの少なくとも一つの金型の金型賦形面を、強化繊維基材の搬送方向に対し平行な平行面と、該平行面に段差なく連接され前記搬送方向に対し傾斜した傾斜面とを併せ持つ金型賦形面に形成し、長手方向において厚さ変化を伴い基材表面に傾斜部を有する強化繊維基材の該傾斜部が搬送されてきたときに、前記金型賦形面の平行面と傾斜面の両方を用いて強化繊維基材を加圧することを特徴とする圧縮賦形方法。
【請求項12】
前記強化繊維基材が、強化繊維を含むシート材の積層体からなる、請求項11に記載の圧縮賦形方法。
【請求項13】
前記強化繊維を含むシート材が、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなる、請求項12に記載の圧縮賦形方法。
【請求項14】
前記強化繊維を含むシート材が、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなる、請求項12に記載の圧縮賦形方法。
【請求項15】
搬送される強化繊維基材の前記基材傾斜部の位置を検出し、該検出情報に基づき強化繊維基材の搬送を制御する、請求項11〜14のいずれかに記載の圧縮賦形方法。
【請求項16】
一つの金型に対し複数箇所にて加圧動作を行わせる、請求項11〜15のいずれかに記載の圧縮賦形方法。
【請求項17】
強化繊維基材の目標賦形横断面形状に屈曲部が含まれ、該屈曲部に対応する横断面形状を有する少なくとも一つの金型を用いて強化繊維基材を賦形する、請求項11〜16のいずれかに記載の圧縮賦形方法。
【請求項18】
強化繊維基材がマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなり、該強化繊維基材を、請求項11〜17のいずれかに記載の圧縮賦形方法を用いて賦形し、マトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項19】
強化繊維基材がマトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなり、該強化繊維基材を、請求項11〜17のいずれかに記載の圧縮賦形方法を用いて賦形することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法により製造されたプリフォームにマトリックス樹脂を含浸し、含浸されたマトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−173166(P2010−173166A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17847(P2009−17847)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】