説明

圧電セラミックス、圧電セラミックスの製造方法、圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータ及び塵埃除去装置

【課題】 圧電特性および機械的強度が良好なチタン酸バリウム系圧電セラミックス及びそれを用いた圧電素子を提供する。
【解決手段】 そのための本発明は、少なくともチタン酸バリウム粒子を有する酸化物粉末とバインダーを有する成形体を成形する工程と前記成形体を焼結する工程と前記焼結する工程の後に降温する工程とを含む圧電セラミックスの製造方法であって、前記焼結する工程が前記成形体の収縮過程の温度である第一の温度まで昇温し保持する工程(A)と、工程(A)の後に前記成形体の液相焼結過程の温度である第二の温度まで昇温する工程(B)と、工程(B)の後に前記成形体の収縮過程の温度である第三の温度まで降温する工程(C)と工程(C)の後に前記第三の温度で保持する工程(D)を少なくとも有することを特徴とする圧電セラミックスの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックス、その製造方法、圧電素子、液体吐出ヘッド、超音波モータ及び塵埃除去装置に関する。特に、結晶粒の大きさを制御することで圧電性能と機械的強度が良好なチタン酸バリウム系圧電セラミックス、その製造方法、前記圧電セラミックスを用いた圧電素子およびこれを利用した液体吐出ヘッド、超音波モータ及び塵埃除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックスは、チタン酸ジルコニウム酸鉛(以下「PZT」という)のようなABO型のペロブスカイト型酸化物が一般的である。
【0003】
しかしながら、PZTはAサイト元素として鉛を含有するために、環境に対する影響が問題視されている。このため、鉛を含有しないペロブスカイト型酸化物を用いた圧電セラミックスが求められている。
【0004】
鉛を含有しない非鉛ペロブスカイト型酸化物の圧電セラミックス材料としては、チタン酸バリウムが知られている。特許文献1には、2段焼結法を用いて作製したチタン酸バリウムが開示されている。ナノサイズのチタン酸バリウム粉末を前記2段焼結法によって焼結すると、最大粒径5μm以下の圧電特性に優れた緻密なセラミックスが得られることが記載されている。
【0005】
しかしながら、前記の2段焼結法において、第1焼結温度の保持時間は短時間である必要がある。そのため、焼結されるセラミックスの温度が不均一となり、高い圧電特性の再現性に欠けるという課題があった。
【0006】
例えば、実用的な大きさのチタン酸バリウムセラミックスを焼結しようとすると、急激な昇温と、1分間程度の保持時間ではセラミックス自体の温度が均一にならない。すなわち、焼結セラミックスの全ての箇所が理想的なナノ構造とならないので、PZTを代替するのに十分な圧電特性は得られていなかった。
【0007】
また、結晶粒径を大きくすることでチタン酸バリウムの圧電特性を向上させる方法がある。特許文献2には、カルシウムを添加したチタン酸バリウムセラミックスの平均粒径と圧電定数の関係が開示されている。すなわち、圧電セラミックスの平均粒径が、1.3μmから60.9μmまで大きくなるにしたがって、圧電定数(d31)も増加している。
【0008】
特許文献2では、仮焼粉末の湿式混合の時間を調整することでセラミックスの平均粒径を調整している。それ以外に、仮焼粉末の作成後に行われる本焼成温度を高くすることでセラミックスの平均粒径を大きくしている。
【0009】
しかし、上記のような従来の方法でチタン酸バリウムセラミックスの平均粒径を大きくすると、結晶粒同士の接触面積が小さくなる。そのために、セラミックスの機械的強度が低下して、加工成形時や圧電素子の駆動時にセラミックス部分が割れやすくなるという問題があった。
【0010】
すなわち、チタン酸バリウム系圧電セラミックスには、良好な圧電特性と高い機械的強度の両立が望まれている。
【0011】
また、超音波モータ等の共振デバイスにおいては、機関品質係数Qmが高いことが望まれている。例えば、チタン酸バリウムの場合はCr、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を添加することで高Qmを得ることが可能である。しかし、Mn等の元素は、チタン酸バリウムの焼結に対して異常粒成長を誘発する粒成長のアクセラレータとして作用する。このため、特許文献1、特許文献2のような手法で粒径を制御するのは困難である。
【0012】
また、非特許文献1では、チタン酸バリウムは室温付近に正方晶と斜方晶との構造相転移が存在するため、圧電特性の温度履歴において、温度上昇時と温度下降時における同一温度での圧電特性に差異が生じることが問題であった。このため、チタン酸バリウムは室温の特性は高い圧電特性を示すものの圧電特性の制御性に乏しいため、圧電素子としての実用化が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−150247号公報
【特許文献2】特開2010−042969号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Journal of Applied Physics,Vol.47,No.1,January 1976
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、圧電特性および機械的強度が良好な圧電セラミックスおよびその製法を提供するものである。
また、本発明は、前記圧電セラミックスを用いた圧電素子、液体吐出ヘッドおよび超音波モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するための圧電セラミックスの製造方法は、少なくともチタン酸バリウム粒子を有する成形体を成形する工程と前記成形体を焼結する工程と前記焼結する工程の後に降温する工程とを含む圧電セラミックスの製造方法であって、
前記焼結する工程が前記成形体の収縮過程の温度である第一の温度まで昇温し保持する工程(A)と、
工程(A)の後に前記成形体の液相焼結過程の温度である第二の温度まで昇温する工程(B)と、
工程(B)の後に前記成形体の収縮過程の温度である第三の温度まで降温する工程(C)と、
工程(C)の後に前記第三の温度で保持する工程(D)と、
を少なくとも有することを特徴とする。
【0017】
前記課題を解決するための圧電セラミックスは、チタン酸バリウムおよび該チタン酸バリウムに対して0.04質量%以上0.20質量%以下のマンガンを含有する多結晶体の圧電セラミックスであって、前記圧電セラミックスを構成する結晶粒の平均円相当径が2μm以上9μm以下であり、円相当径が20μm以下である結晶粒が99個数%以上であり、前記圧電セラミックスの相対密度が97.5%以上かつ100%以下であることを特徴とする。
【0018】
前記課題を解決するための圧電素子は、第一の電極、圧電セラミックスおよび第二の電極を少なくとも有する圧電素子であって、前記の圧電セラミックスが上記の圧電セラミックスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、圧電特性および機械的強度が良好な圧電セラミックスおよびその製法を提供することができる。
また、本発明は、前記圧電セラミックスを用いた圧電素子、液体吐出ヘッドおよび超音波モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例の加熱温度条件を示す図である。
【図2】本発明の実施例1の圧電セラミックスの表面の顕微鏡写真である。
【図3】本発明の比較例1の圧電セラミックスの表面の顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例1の圧電評価素子のY11の温度特性を示す図である。
【図5】本発明の比較例1の圧電評価素子のY11の温度特性を示す図である。
【図6】成形体の焼結過程をそれぞれ説明する概念図である。
【図7】本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。
【図8】本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。
【図9】本発明の塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。
【図10】本発明の塵埃除去装置に設けられた圧電素子の構成を示す概略図である。
【図11】本発明の塵埃除去装置の振動原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0022】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、少なくともチタン酸バリウム粒子を有する成形体を成形する工程と前記成形体を焼結する工程と前記焼結する工程の後に降温する工程とを含む圧電セラミックスの製造方法であって、
前記焼結する工程が前記成形体の収縮過程の温度である第一の温度まで昇温し保持する工程(A)と、
工程(A)の後に前記成形体の液相焼結過程の温度である第二の温度まで昇温する工程(B)と、
工程(B)の後に前記成形体の収縮過程の温度である第三の温度まで降温する工程(C)と、
工程(C)の後に前記第三の温度で保持する工程(D)と、
を少なくとも有することを特徴とする。
【0023】
本発明における「セラミックス」とは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた結晶粒の凝集体(バルク体とも言う)、いわゆる多結晶を表す。焼結後に加工されたものも含まれる。ただし、粉末や、粉末を溶液に分散させたスラリーは、この用語に含まない。
【0024】
本発明の圧電セラミックスは、チタン酸バリウムを主成分とする。前記チタン酸バリウムは、一般式BaTiOで表されるようなABO型のペロブスカイト型結晶であることが好ましい。
【0025】
主成分とは、圧電特性を発現するための主体成分がチタン酸バリウムであるいう意味である。例えば、前記マンガンのような特性調整成分や製造上含まれてしまう不純成分が圧電セラミックスに含まれていても良い。
【0026】
具体的には、圧電セラミックスに含有されるチタン酸バリウムの含有量は、80質量%以上、好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上99.96質量%以下である。圧電セラミックスに含有されるチタン酸バリウム以外の成分は20質量%未満に留めることが望ましい。圧電特性に寄与しない成分が20質量%を超えると、圧電セラミックス全体の圧電性が不十分となるおそれがある。
【0027】
チタン酸バリウムのバリウム(Ba)サイトを別の二価金属や擬似二価金属で一部置換していても良い。Baサイトを置換できる二価金属の例としては、Ca、Srなどが挙げられる。Baサイトを置換できる擬似二価金属としては、(Bi0.5Na0.5)、(Bi0.50.5)、(Bi0.5Li0.5)、(La0.5Na0.5)、(La0.50.5)、(La0.5Li0.5)などが挙げられる。Baサイトを別の二価金属や擬似二価金属で一部置換する際の置換率は20at.%以下、好ましくは10at.%以下である。置換率が20at.%を超えると、チタン酸バリウム固有の高い圧電特性が充分に得られないおそれがある。Baサイトを置換する金属として、好ましくはCaであり、置換率は20at.%以下である。Ca置換は、室温の圧電特性が置換していないチタン酸バリウムより劣るが、室温付近に存在する相転移点が低温側にシフトするために温度安定性の高い圧電セラミックスを得ることができる。
【0028】
チタン酸バリウムのチタン(Ti)サイトを別の四価金属や擬似四価金属で一部置換していても良い。Tiサイトを置換できる四価金属の例としては、Zr、Hf、Si、Sn、Geなどが挙げられる。Tiサイトを置換できる擬似四価金属の例としては、二価金属と五価金属の組み合わせ(M2+1/35+2/3)や三価金属と五価金属の組み合わせ(M3+1/25+1/2)、三価金属と六価金属の組み合わせ(M3+2/36+1/3)などが挙げられる。
【0029】
成形体の原料粉となるチタン酸バリウム粒子を有する酸化物粉末は、ゾルゲル法、固相法、共沈法、水熱合成法、アルコキシド法、蓚酸塩法などによる製造方法によって得ることができる。尚、本発明では、製造方法を制限するものではない。
【0030】
本発明のバインダーには、PVA、PVB、アクリル系などが挙げられる。造粒は、成形性が高く、原料に適合した最適なバインダーを選択し焼結後のセラミックスが気孔が最小限に抑えることのできる条件であるとよい。また、押し出し成形や鋳込み成形で用いるスラリーも同様に、成形性が高く、焼結後のセラミックスの気孔が最小限に抑えることのできる条件であるとよい。
【0031】
成形体の成形方法には、一軸加圧成形のプレス成形、等方加圧成形の冷間等方加圧成型(CIP)、温間等方加圧成型(WIP)、熱間等方加圧成型(HIP)、一軸加圧成形後に等方加圧成形を行ってもよい。また、押し出し成形や鋳込み成形などの型成形であってもよい。
【0032】
焼結する方法には、抵抗加熱の電気炉、ガス加熱炉、イメージ加熱炉、マイクロ波加熱炉、ミリ波加熱炉などの加熱炉を用いることができる。
【0033】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、前記第一の温度が900℃以上1200℃以下であり、前記第二の温度が1350℃以上1550℃以下であり、前記第三の温度が900℃以上1200℃以下であることを特徴とする。
【0034】
焼結状態の把握のために、成形体の加熱中の焼結過程を観察しながら成形体の寸法を計測し、収縮率を算出することができる。観察の方法には、加熱ステージ中で加熱しながら顕微鏡で観察する方法や加熱中に直接計測計を接触させ、その変位を読み取る熱収縮率計(ブルカーAXS社製、TD5020SA)を用いる方法が挙げられる。収縮率は、温度上昇時あるいは温度下降時の温度変化率を一定保った状態において、ある温度域に対する単位温度当たりの変位から算出することができる。図6に顕微鏡を用いた観察する方法によるチタン酸バリウムの温度に対する収縮率の変化を示す。尚、本発明の計測方法は特に前記方法に制限されるものではない。
【0035】
図6にてチタン酸バリウムを主成分とする成形体の焼結過程における温度と収縮率の変化を例示する。図6の上部に、温度によるそれぞれの焼結過程を説明し理解を促すための概念図を例示した。
【0036】
この例では、図6より、室温から800℃付近までの温度域では、熱によってほとんど変位をしない過程である。この例では、更に温度上昇が進み、およそ900℃付近から1200℃付近までの温度域の間で、成形体が徐々に縮む方向へ変位する。本発明では、このように徐々に収縮する過程を「収縮過程」と呼ぶ。またこの例では、およそ1200℃付近から1400℃付近までの温度域の間で、「収縮過程」の収縮率に対して、さらに収縮率が大きくなる温度域がある。この温度域はまず固相反応が始まり、その後温度上昇に伴い粒子の表面等に局所的に液相反応も始まるため、固相反応と液相反応は実質的に共存する温度も存在するが、本発明では、この収縮過程を、固相反応焼結が主反応となる過程として「固相焼結過程」と呼ぶ。またこの例では、更におよそ1400℃付近から1500℃までの温度域の間で、収縮率の変化の変曲点を境に急激に収縮率が小さくなり(=温度上昇に対してグラフ値が急増)、最終的に融点に達する過程がある。この温度域も一部固相反応と液相反応が実質的に共存する温度域を含んでいるが、本発明では液相反応焼結が主反応となる過程として「液相焼結過程」と呼ぶ。各焼結過程は、温度と収縮率とのグラフのプロファイル及びその変曲点、試料端部の液化の観察などから識別できる。
【0037】
図1に本発明の成形体の加熱条件を示す。
図1中のdは、脱脂工程(degrease)である。図中の1、2、3の示す温度はそれぞれ第一の温度、第二の温度、第三の温度である。本発明では成形体を、成形体の収縮過程の温度である900℃から1200℃の間の温度域を第一の温度1とし、その第一の温度1まで昇温し、保持を行うこと(工程(A))で、粒成長を伴わない成形体の収縮が進むため、成形体形成時に加圧成形した以上の高密度の成形体の状態にすることができる。
【0038】
次に、成形体の液相焼結過程の温度である1350℃から1550℃までの温度域を第二の温度2とし、その第二の温度2まで昇温し(工程(B))、第二の温度2から成形体の収縮過程の温度である900℃から1200℃までの温度域を第三の温度3とし、第三の温度まで降温すること(工程(C))で、液相反応焼結を行いながら異常粒成長することなく、およそ10μm以下の粒径の揃った結晶子を形成することができる。
【0039】
更に次に、成形体の収縮過程が生じる温度である900℃から1200℃までの温度域の第三の温度3で保持すること(工程(D))より、形成した結晶子の内部応力や歪みを緩和し、欠陥を排除しながら再配列し高密度化することができる。
【0040】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、更には前記工程(B)、(C)、(D)を2回以上20回以下繰り返してもよい。
【0041】
前記工程(B)、(C)、(D)は、粒径の揃った結晶子の形成に必要であるが、この一連の工程を繰り返すことにより、結晶子の一つ一つの結晶化の程度が向上し、より高品位の結晶子を形成することができる。単純に回数が多い方が品質は向上するが、生産性を考慮すると20回以下が望ましい。
【0042】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、前記工程(B)における前記第二の温度まで昇温する速度を10℃/分以上30℃/分以下とすることを特徴とする。
【0043】
昇温する速度は、電気炉内の成形体付近に設置した熱電対の示す温度の単位時間当たりの温度変化である。前記速度が10℃/分より遅い場合は、液相焼結過程の温度で反応が進み、異常粒成長が起こりやすくなる恐れがある。また、30℃/分より速い場合は、加熱を行う電気炉が持つ能力を超えてしまう恐れがあり、例え可能だとしても装置の負担が大きすぎるため生産性を考慮すると望ましくない。また更に、速すぎる加熱は成形体全体の温度の均一性が保てず、焼結ムラを起こす原因となる恐れがある。このため、10℃/分以上30℃/分以下が好ましい。より好ましくは、15℃/分以上25℃/分以下である。
【0044】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、前記工程(A)の前に前記第一の温度以下で保持する脱脂工程を有することを特徴とする。
【0045】
脱脂工程は、成形体形成時に必要としたバインダー成分を排除する工程であるが、成形体の形状保持が困難な場合は、成形体の焼結工程と同時に行ってもよい。
【0046】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、前記工程(B)における第二の温度と、前記工程(A)における第一の温度との差が200℃以上500℃以下であることを特徴とする。
【0047】
前記温度差は、材料の組成により異なるが、結晶子形成と再配列との各工程を明確に分離しより効率化するためには、少なくとも200℃以上の温度差が必要である。また、温度差が500℃以上になると収縮が進まないか、融点を超える恐れがあるので好ましくない。より好ましくは、前記温度差が350℃以上450℃以下である。
【0048】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、前記工程(A)における第一の温度と前記工程(C)、(D)における第三の温度の差が30℃以下であることを特徴とする。
【0049】
前記温度差により、工程(A)の結晶子の粒径と前記工程(C)、(D)の結晶子の粒径は異なるが組成は同一なので温度差は30℃以下が適当である。
【0050】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、前記工程(A)における保持時間が60分以上240分以下であることを特徴とする。
【0051】
前記保持時間が60分より短い場合、粒成長を伴わない成形体の収縮が不十分であるため、その後の結晶子形成時に結晶子間距離が開くため高密度のセラミックスを得ることができなくなる恐れがある。また、生産性を考慮し、240分以下の方がよい。より好ましくは、保持時間は150分以上200分以下である。
【0052】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、前記工程(B)の後に前記第二の温度で5分以下保持することを特徴とする。
【0053】
前記第二の温度が5分より長い場合、保持時間の間に液相焼結が過度に進行し、異常粒成長を起こしてしまう恐れがある。より好ましくは、3分以下保持である。
【0054】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、前記工程(D)における累積の保持時間が10時間以上70時間以下であることを特徴とする。
【0055】
前記工程(D)における累積の保持時間が10時間より短い場合、形成した結晶子の内部応力や歪みを緩和や、欠陥を排除しながらの再配列が不十分となる恐れがある。また、生産性を考慮し、70時間以下が好ましい。より好ましくは、10時間以上30時間以下である。
【0056】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、前記酸化物粉末がチタン酸バリウムに対して金属換算で0.04〜0.20質量%以下のマンガンを含有することを特徴とする。
【0057】
チタン酸バリウム成分に対して0.04質量%以上0.20質量%以下、好ましくは0.05質量%以上0.17質量%以下のマンガンを含有する。マンガンは金属マンガンに限らず、マンガン成分として圧電セラミックスに含まれていれば良く、その含有の形態は問わない。例えば、マンガンはチタン酸バリウムに固溶していても良い。または、金属、イオン、酸化物、金属塩、錯体などの形態でマンガン成分が圧電セラミックスに含まれていても良い。主成分がチタン酸バリウムである圧電セラミックスが前記範囲のマンガン成分を含有すると、絶縁性や機械品質係数Qmが向上する。マンガン成分の含有量が0.04質量%未満ではマンガンの添加による効果を得られず、0.20質量%をこえると圧電性に劣る六方晶のチタン酸バリウムが混合するので、圧電セラミックス全体の圧電性が不十分となるおそれがある。
【0058】
本発明に係る圧電セラミックスの製造方法は、原料粉となる前記成形体に含まれる前記チタン酸バリウム粒子の一次粒子の平均粒径が1μm以下であることを特徴とする。
【0059】
前記成形体に含まれる前記チタン酸バリウム粒子の平均粒径が1μmより大きい場合、焼結後の結晶粒子の多くの円相当径が20μmより大きい結晶粒子となるため、所望の圧電特性が得られない。成形体に含まれる前記チタン酸バリウム粒子の一次粒子の平均粒径は、より好ましくは300nm以下である。
【0060】
本発明に係る圧電セラミックスは、チタン酸バリウムおよび該チタン酸バリウムに対して0.04質量%以上0.20質量%以下のマンガンを含有する多結晶体の圧電セラミックスであって、前記圧電セラミックスを構成する結晶粒の平均円相当径が2μm以上9μm以下であり、円相当径が20μm以下である結晶粒が99個数%以上であり、前記圧電セラミックスの相対密度が97.5%以上かつ100%以下であることを特徴とする。
【0061】
本発明における「円相当径」とは、顕微鏡観察法において一般に言われる「投影面積円相当径」を表し、結晶粒の投影面積と同面積を有する真円の直径を表す。本発明において、この円相当径の測定方法は特に制限されない。例えば圧電セラミックスの表面を偏光顕微鏡や走査型電子顕微鏡で撮影して得られる写真画像を画像処理して求めることができる。対象となる粒子径により最適倍率が異なるため、光学顕微鏡と電子顕微鏡を使い分けても構わない。セラミックスの表面ではなく研磨面や断面の画像から円相当径を求めても良い。
【0062】
本発明に係る圧電セラミックスは、−30℃から50℃の範囲において、ヤング率Y11の極小値が昇温時と降温時で異なることを特徴とする。
【0063】
ヤング率Y11は、電極を有する圧電素子を作製し、共振反共振法を用いて算出することができる。測定時の温度制御には汎用の恒温恒湿器を用い、およそ−40℃から60℃までの温度を昇温、降温を繰り返しながら各温度において共振反共振法で測定ができる。尚、本発明において、Y11の測定法は特に制限されるものではない。
【0064】
本発明に係る圧電素子は、第一の電極、圧電セラミックスおよび第二の電極を少なくとも有する圧電素子であって、前記の圧電セラミックスが上記の圧電セラミックスであることを特徴とする。
【0065】
第一の電極および第二の電極は、5nmから2000nm程度の層厚を有する導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Agなどの金属およびこれらの酸化物を挙げることができる。第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であっても良い。
【0066】
第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いても良い。
【0067】
以下に本発明の圧電セラミックスを用いた圧電素子について説明する。
【0068】
本発明に係る圧電素子は、第一の電極、圧電セラミックスおよび第二の電極を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電セラミックスが上記の圧電セラミックスであることを特徴とする。
【0069】
第一の電極および第二の電極は、厚み5nmから2000nm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの酸化物を挙げることができる。第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であっても良い。
【0070】
第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いても良い。
【0071】
図7は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。図7(a)(b)に示すように、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電素子101を有する液体吐出ヘッドである。圧電素子101は、第一の電極1011、圧電セラミックス1012、第二の電極1013を少なくとも有する圧電素子である。圧電セラミックス1012は、図7(b)の如く、必要に応じてパターニングされている。
【0072】
図7(b)は液体吐出ヘッドの模式図である。液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。図において圧電素子101は矩形状だが、その形状は、楕円形、円形、平行四辺形等の矩形以外でも良い。一般に、圧電セラミックス1012は個別液室102の形状に沿った形状となる。
【0073】
本発明の液体吐出ヘッドに含まれる圧電素子101の近傍を図7(a)で詳細に説明する。図7(a)は、図7(b)に示された液体吐出ヘッドの幅方向での圧電素子の断面図である。圧電素子101の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。
【0074】
また、振動板103と下部電極の間にバッファ層108が存在しても良い。
【0075】
前記液体吐出ヘッドにおいては、振動板103が圧電セラミックス1012の伸縮によって上下に変動し、個別液室102の液体に圧力を加える。その結果、吐出口105より液体が吐出される。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンタ用途や電子デバイスの製造に用いる事が出来る。
【0076】
振動板103の厚みは、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。振動板のSiにBやPがドープされていても良い。また、振動板上のバッファ層、電極層が振動板の一部となっても良い。
【0077】
バッファ層108の厚みは、5nm以上300nm以下であり、好ましくは10nm以上200nm以下である。
【0078】
吐出口105の大きさは、円相当径で5μm以上40μm以下である。吐出口105の形状は、円形であっても良いし、星型や角型状、三角形状でも良い。
【0079】
次に、本発明の圧電素子を用いた超音波モータについて説明する。
【0080】
図8は、本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。
【0081】
本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、図8(a)に示す。超音波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電セラミックスで構成される。
【0082】
本発明の圧電素子に位相がπ/2異なる二相の交流電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。
【0083】
圧電セラミックスに電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電セラミックスは伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電セラミックスの伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の超音波モータは、この原理を利用したものである。
【0084】
次に、積層構造を有した圧電素子を含む超音波モータを図8(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電セラミックスにより構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって締結され、圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
【0085】
圧電素子2042に位相の異なる交流電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
【0086】
ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
【0087】
次に、本発明の圧電素子を用いた塵埃除去装置について説明する。
【0088】
図9(a)および図9(b)は本発明の塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。塵埃除去装置310は板状の圧電素子330と振動板320より構成される。振動板320の材質は限定されないが、塵埃除去装置310を光学デバイスに用いる場合には透光性材料や光反射性材料を振動板320として用いることができる。
【0089】
図10は図9における圧電素子330の構成を示す概略図である。図10(a)と(c)は圧電素子330の表裏面の構成、図10(b)は側面の構成を示している。圧電素子330は図10に示すように圧電セラミックス331と第1の電極332と第2の電極333より構成され、第1の電極332と第2の電極333は圧電材料331の板面に対向して配置されている。図10(c)において圧電素子330の手前に出ている第1の電極332が設置された面を第1の電極面336、図10(a)において圧電素子330の手前に出ている第2の電極332が設置された面を第2の電極面337とする。
【0090】
ここで、本発明における電極面とは電極が設置されている圧電素子の面を指しており、例えば図10に示すように第1の電極332が第2の電極面337に回りこんでいても良い。
【0091】
圧電素子330と振動板320は、図9(a)(b)に示すように圧電素子330の第1の電極面336で振動板320の板面に固着される。そして圧電素子330の駆動により圧電素子330と振動板320との間に応力が発生し、振動板に面外振動を発生させる。本発明の塵埃除去装置310は、この振動板320の面外振動により振動板320の表面に付着した塵埃等の異物を除去する装置である。面外振動とは、振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動を意味する。
【0092】
図11は本発明の塵埃除去装置310の振動原理を示す模式図である。上図は左右一対の圧電素子330に同位相の交番電界を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子330を構成する圧電セラミックスの分極方向は圧電素子330の厚さ方向と同一であり、塵埃除去装置310は7次の振動モードで駆動している。下図は左右一対の圧電素子330に位相が180°反対である逆位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。塵埃除去装置310は6次の振動モードで駆動している。本発明の塵埃除去装置310は少なくとも2つの振動モードを使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃を効果的に除去できる装置である。
【0093】
前述したように本発明の圧電素子は、液体吐出ヘッド、超音波モータや塵埃除去装置に好適に用いられる。
【0094】
本発明の配向性酸化物セラミックスを含む非鉛系の圧電セラミックスを用いることで、鉛を含む圧電セラミックスを用いた場合と同等以上のノズル密度、および吐出力を有する液体吐出ヘッドを提供出来る。
【0095】
本発明の配向性酸化物セラミックスを含む非鉛系の圧電セラミックスを用いることで、鉛を含む圧電セラミックスを用いた場合と同等以上の駆動力、および耐久性を有する超音波モータを提供出来る。
【0096】
本発明の配向性酸化物セラミックスを含む非鉛系の圧電セラミックスを用いることで、鉛を含む圧電セラミックスを用いた場合と同等以上の塵埃除去効率を有する塵埃除去装置を提供出来る。
【0097】
本発明の圧電セラミックスは、液体吐出ヘッド、モータに加え、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、強誘電メモリ等のデバイスに用いることができる。
【0098】
<実施例1から14>
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0099】
水熱合成法で製造された平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子の表面にスプレードライヤー装置を用いて酢酸マンガン(II)を付着させた。ICP質量分析によると、この粉体におけるマンガンの含有量は0.12質量%であった。マンガンの含有量は、スプレードライヤー装置への原料仕込み比により制御可能であった。
【0100】
この粉体をプレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を作製した。この成形体は冷間等方加圧成型機を用いて、更に加圧しても構わない。
【0101】
この成形体の加熱条件決定のために、収縮率変化測定を行った。収縮率変化測定のために、まず成形体の脱脂を行った。脱脂には、抵抗加熱の電気炉を用い450℃で50時間の加熱を行うことで、バインダーなどの有機成分を排除し、脱脂した。脱脂した成形体は、室温から1500℃まで加熱観察が可能な加熱ステージに設置できるサイズに加工し観察用試料とした。観察は光学顕微鏡を用いて行い、20℃/分で昇温しながら、およそ20℃おきに写真を撮影し、1℃当たりの変位量を計測することで、収縮率を算出した。
【0102】
その結果、本実施例の観察用試料の各加熱温度における収縮率の変化を分類した。
【0103】
室温から900℃付近までの温度域の収縮率はほとんど変位をしなかった。およそ900℃付近から1050℃付近まで徐々に、成形体が徐々に縮む方向へ変位した。本発明では、この温度領域を「収縮過程」とした。また、1050℃付近から1350℃付近まで、「収縮過程」の収縮率より高い収縮率で収縮した。この温度領域を「固相焼結過程」とした。また、1350℃を超えると徐々に収縮率が減少し、1450℃で収縮率がゼロになり融点に達した。このとき顕微鏡の観察では、試料の端部から液化が観察できる。この温度領域を「液相焼結過程」とした。
【0104】
このときの成形体の主成分とMnの添加量の仕込み組成、原料の一次粒子平均粒子径、この成形体の収縮率測定で判定した収縮過程の温度域、固相焼結過程の温度域、液相焼結過程の温度域及び融点を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
本実施例1の加熱条件は表1を元に決定した。焼結条件は、まず室温から600℃まで10℃/分で昇温し、到達した600℃で3時間保持し、脱脂を行った。この後、第一の温度1010℃まで10℃/分で昇温し、到達した1010℃で3時間保持し、成形体の収縮を行った。十分な収縮の後、20℃/分で第二の温度1420℃まで昇温し、第二の温度1420℃で1分保持後、20℃/分で第三の温度1010℃まで降温し、その後3時間の保持を行った。この過程で一次結晶粒子径を数μm相当まで成長を行った。引き続き、第三の温度1010℃から第二の温度1420℃へ昇温し、第二の温度1420℃から第三の温度1010℃まで降温する工程を繰り返した。その後、第三の温度で10時間の保持を行い、室温まで放冷で降温し、前工程で形成した粒子径を維持しながら粒子の再配列を促し、内部応力が少なく、高密度のチタン酸バリウム酸化物セラミックスを得た。
【0107】
上述の実施例1に加え、実施例2から実施例14のそれぞれの加熱条件とそのとき用いた表1に示す成形体の組み合わせを表2に示す。表2の加熱条件とは、第一の温度、第一の温度の保持時間、第一の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第二の温度、第一の温度から第二の温度までの昇温レート、その保持時間、第二の温度の昇温回数、そして、第二の温度が観察した液相焼結温度域であるかどうかの判定、液相焼結温度域である場合は○、液相焼結温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第三の温度、その保持時間、そして第三の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。
【0108】
【表2】

【0109】
<実施例15から20>
カルシウム添加のチタン酸バリウムを作製するために、水熱合成法で製造された平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子と固相反応法で製造された平均粒径300nmであるチタン酸カルシウムを9:1のモル比で混合して、ボールミルで24時間混合した。この混合粉の表面に製造例3と同様にして酸化マンガン(II)を付着させて、マンガンの含有量が0.12質量%であるチタン酸バリウムカルシウム粒子を得た。マンガンの含有量は、スプレードライヤー装置への原料仕込み比により制御可能であった。
【0110】
この粉体をプレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を作製した。この成形体は冷間等方加圧成型機を用いて、更に加圧しても構わない。
【0111】
この成形体の加熱条件決定のために、収縮率変化測定を行った。収縮率変化測定のために、まず成形体の脱脂を行った。脱脂には、抵抗加熱の電気炉を用い450℃で50時間の加熱を行うことで、バインダーなどの有機成分を排除し、脱脂した。脱脂した成形体は、室温から1500℃まで加熱観察が可能な加熱ステージに設置できるサイズに加工し観察用試料とした。観察は光学顕微鏡を用いて行い、20℃/分で昇温しながら、およそ20℃おきに写真を撮影し、1℃当たりの変位量を計測することで、収縮率を算出した。
【0112】
その結果、本実施例の観察用試料の各加熱温度における収縮率の変化を分類した。
【0113】
室温から950℃付近までの温度域の収縮率はほとんど変位をしなかった。およそ950℃付近から1200℃付近まで徐々に、成形体が徐々に縮む方向へ変位した。本発明では、この温度領域を「収縮過程」とした。また、1200℃付近から1450℃付近まで、「収縮過程」の収縮率より高い収縮率で収縮した。この温度領域を「固相焼結過程」とした。また、1450℃を超えると徐々に収縮率が減少し、測定装置上1500℃以上は直接測定できないが、1550℃近辺で融点である収縮率がゼロに達することが予測できる。このとき顕微鏡の観察では、試料の端部から液化が観察できる。この温度領域を「液相焼結過程」とした。
【0114】
このときの成形体の主成分とMnの添加量の仕込み組成、原料の一次粒子の平均粒子径、この成形体の収縮率測定で判定した収縮過程の温度域、固相焼結過程の温度域、液相焼結過程の温度域及び融点を表1に示す。
【0115】
本実施例15の加熱条件は表1を元に決定した。焼結条件は、まず室温から600℃まで10℃/分で昇温し、到達した600℃で3時間保持し、脱脂を行った。この後、第一の温度1100℃まで10℃/分で昇温し、到達した1100℃で3時間保持し、成形体の収縮を行った。十分な収縮の後、20℃/分で第二の温度1550℃まで昇温し、第二の温度1550℃で1分保持後、20℃/分で第三の温度1100℃まで降温し、その後3時間の保持を行った。この過程で一次結晶粒子径を数μm相当まで成長を行った。引き続き、第三の温度1100℃から第二の温度1550℃へ昇温し、第二の温度1550℃から第三の温度1100℃まで降温する工程を繰り返した。その後、第三の温度で10時間の保持を行い、室温まで放冷で降温し、前工程で形成した粒子径を維持しながら粒子の再配列を促し、内部応力が少なく、高密度のチタン酸バリウムカルシウム酸化物セラミックスを得た。
【0116】
同様に、カルシウム添加のチタン酸バリウムを作製した実施例15から実施例20の加熱条件とそのとき用いた表1に示す成形体の組み合わせを表3に示す。表3の加熱条件とは、第一の温度、第一の温度の保持時間、第一の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第二の温度、第一の温度から第二の温度までの昇温レート、その保持時間、第二の温度の昇温回数、そして、第二の温度が観察した液相焼結温度域であるかどうかの判定、液相焼結温度域である場合は○、液相焼結温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第三の温度、その保持時間、そして第三の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。
【0117】
【表3】

【0118】
<実施例21から26>
カルシウム添加のチタン酸バリウムを作製するために、水熱合成法で製造された平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子と固相反応法で製造された平均粒径300nmであるチタン酸カルシウム及び平均粒径300nmであるジルコン酸カルシウムを81:13:6のモル比で混合して、ボールミルで24時間混合した。この混合粉の表面に製造例3と同様にして酸化マンガン(II)を付着させて、マンガンの含有量が0.12質量%であるチタン酸バリウムカルシウム粒子を得た。マンガンの含有量は、スプレードライヤー装置への原料仕込み比により制御可能であった。
【0119】
この粉体をプレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を作製した。この成形体は冷間等方加圧成型機を用いて、更に加圧しても構わない。
【0120】
この成形体の加熱条件決定のために、収縮率変化測定を行った。収縮率変化測定のために、まず成形体の脱脂を行った。脱脂には、抵抗加熱の電気炉を用い450℃で50時間の加熱を行うことで、バインダーなどの有機成分を排除し、脱脂した。脱脂した成形体は、室温から1500℃まで加熱観察が可能な加熱ステージに設置できるサイズに加工し観察用試料とした。観察は光学顕微鏡を用いて行い、20℃/分で昇温しながら、およそ20℃おきに写真を撮影し、1℃当たりの変位量を計測することで、収縮率を算出した。
【0121】
その結果、本実施例の観察用試料の各加熱温度における収縮率の変化を分類した。
【0122】
室温から950℃付近までの温度域の収縮率はほとんど変位をしなかった。およそ950℃付近から1200℃付近まで徐々に、成形体が徐々に縮む方向へ変位した。本発明では、この温度領域を「収縮過程」とした。また、1200℃付近から1360℃付近まで、「収縮過程」の収縮率より高い収縮率で収縮した。この温度領域を「固相焼結過程」とした。また、1360℃を超えると徐々に収縮率が減少し、測定装置上1500℃以上は直接測定できないが、1550℃近辺で融点である収縮率がゼロに達することが予測できる。このとき顕微鏡の観察では、試料の端部から液化が観察できる。この温度領域を「液相焼結過程」とした。
【0123】
このときの成形体の主成分とMnの添加量の仕込み組成、原料の一次粒子の平均粒子径、この成形体の収縮率測定で判定した収縮過程の温度域、固相焼結過程の温度域、液相焼結過程の温度域及び融点を表1に示す。
【0124】
本実施例21の加熱条件は表1を元に決定した。焼結条件は、まず室温から600℃まで10℃/分で昇温し、到達した600℃で3時間保持し、脱脂を行った。この後、第一の温度1100℃まで10℃/分で昇温し、到達した1100℃で3時間保持し、成形体の収縮を行った。十分な収縮の後、20℃/分で第二の温度1450℃まで昇温し、第二の温度1450℃で1分保持後、20℃/分で第三の温度1100℃まで降温し、その後3時間の保持を行った。この過程で一次結晶粒子径を数μm相当まで成長を行った。引き続き、第三の温度1100℃から第二の温度1450℃へ昇温し、第二の温度1450℃から第三の温度1100℃まで降温する工程を繰り返した。その後、第三の温度で10時間の保持を行い、室温まで放冷で降温し、前工程で形成した粒子径を維持しながら粒子の再配列を促し、内部応力が少なく、高密度のジルコンチタン酸バリウムカルシウム酸化物セラミックスを得た。
【0125】
同様に、カルシウム添加のチタン酸バリウムを作製した実施例21から実施例26の加熱条件とそのとき用いた表1に示す成形体の組み合わせを表4に示す。表4の加熱条件とは、第一の温度、第一の温度の保持時間、第一の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第二の温度、第一の温度から第二の温度までの昇温レート、その保持時間、第二の温度の昇温回数、そして、第二の温度が観察した液相焼結温度域であるかどうかの判定、液相焼結温度域である場合は○、液相焼結温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第三の温度、その保持時間、そして第三の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。
【0126】
【表4】

【0127】
<比較例1から16>
本比較例で用いた成形体は実施例1で用いた表1の成形体Aと同様である。
【0128】
このときの成形体Aの仕込み組成と原料の一次粒子平均粒子径に対する成形体収縮過程、固相焼結過程、液相焼結過程及び融点の温度領域を表1に示す。
【0129】
本比較例1の加熱条件は表2に示す。焼結条件は、まず室温から600℃まで10℃/分で昇温し、到達した600℃で3時間保持し、脱脂を行った。この後、液相焼結の温度域である第二の温度1400℃まで10℃/分で昇温し、到達した1400℃で2時間保持し、成形体の焼結を行った。その後、室温まで放冷で降温し、比較例1のチタン酸バリウム酸化物セラミックスを得た。
【0130】
同様にして決定した比較例1から比較例16の加熱条件とそのとき用いた表1に示す成形体の組み合わせを表2に示す。
【0131】
表2の加熱条件とは、第一の温度、第一の温度の保持時間、第一の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第二の温度、第一の温度から第二の温度までの昇温レート、その保持時間、第二の温度の昇温回数、そして、第二の温度が観察した液相焼結温度域であるかどうかの判定、液相焼結温度域である場合は○、液相焼結温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第三の温度、その保持時間、そして第三の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。
【0132】
<比較例17から32>
本比較例で用いた成形体は実施例15で用いた表1の成形体Hと同様である。
【0133】
このときの成形体Hの仕込み組成と原料の一次粒子平均粒子径に対する成形体収縮過程、固相焼結過程、液相焼結過程及び融点の温度領域を表1に示す。
【0134】
本比較例17の加熱条件は表3に示す。焼結条件は、まず室温から600℃まで10℃/分で昇温し、到達した600℃で3時間保持し、脱脂を行った。この後、液相焼結の温度域である第二の温度1550℃まで10℃/分で昇温し、到達した1550℃で2時間保持し、成形体の焼結を行った。その後、室温まで放冷で降温し、比較例17のカルシウム添加のチタン酸バリウム酸化物セラミックスを得た。
【0135】
同様に、カルシウム添加のチタン酸バリウムの比較例である比較例17から比較例32の加熱条件とそのとき用いた表1に示す成形体の組み合わせを表3に示す。
【0136】
表3の加熱条件とは、第一の温度、第一の温度の保持時間、第一の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第二の温度、第一の温度から第二の温度までの昇温レート、その保持時間、第二の温度の昇温回数、そして、第二の温度が観察した液相焼結温度域であるかどうかの判定、液相焼結温度域である場合は○、液相焼結温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第三の温度、その保持時間、そして第三の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。
【0137】
<比較例33から48>
本比較例で用いた成形体は実施例21で用いた表1の成形体Nと同様である。
【0138】
このときの成形体Nの仕込み組成と原料の一次粒子平均粒子径に対する成形体収縮過程、固相焼結過程、液相焼結過程及び融点の温度領域を表1に示す。
【0139】
本比較例33の加熱条件は表4に示す。焼結条件は、まず室温から600℃まで10℃/分で昇温し、到達した600℃で3時間保持し、脱脂を行った。この後、液相焼結の温度域である第二の温度1450℃まで10℃/分で昇温し、到達した1450℃で2時間保持し、成形体の焼結を行った。その後、室温まで放冷で降温し、比較例33のカルシウム添加のチタン酸バリウム酸化物セラミックスを得た。
【0140】
同様に、カルシウム添加のチタン酸バリウムの比較例である比較例33から比較例48の加熱条件とそのとき用いた表1に示す成形体の組み合わせを表4に示す。
【0141】
表4の加熱条件とは、第一の温度、第一の温度の保持時間、第一の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第二の温度、第一の温度から第二の温度までの昇温レート、その保持時間、第二の温度の昇温回数、そして、第二の温度が観察した液相焼結温度域であるかどうかの判定、液相焼結温度域である場合は○、液相焼結温度域外である場合は×で示す。また、第二の温度については、第三の温度、その保持時間、そして第三の温度が観察した収縮過程温度域であるかどうかの判定、収縮過程温度域である場合は○、収縮過程温度域外である場合は×で示す。
【0142】
(圧電セラミックス分析)
表4に、実施例1から実施例14及び比較例1から比較例16で得られた圧電セラミックスの相対密度、平均円相当径、円相当径20μm以下の個数百分率、室温での圧電定数d31、e31、機械品質係数Qm、ヤング率Y11、機械的強度について示す。
【0143】
【表5】

【0144】
また、表6に、カルシウムを添加した組成を用いた実施例及び比較例である実施例15から実施例20及び比較例17から比較例32の圧電セラミックスの相対密度、平均円相当径、円相当径20μm以下の個数百分率、室温での圧電定数d31、e31、機械品質係数Qm、ヤング率Y11、機械的強度について示す。
【0145】
【表6】

【0146】
また、表7に、カルシウムを添加した組成を用いた実施例及び比較例である実施例21から実施例26及び比較例33から比較例48の圧電セラミックスの相対密度、平均円相当径、円相当径20μm以下の個数百分率、室温での圧電定数d31、e31、機械品質係数Qm、ヤング率Y11、機械的強度について示す。
【0147】
【表7】

【0148】
表5、表6、表7の圧電セラミックスは、1mm厚の円盤状に研磨加工して、X線回折測定(XRD)、蛍光X線元素分析(XRF)、アルキメデス法による密度測定に用いた。
【0149】
また、表5、表6、表7に記載していないが、いずれの圧電セラミックスもチタン酸バリウムを主体としたペロブスカイト型単一相の結晶であった。
【0150】
また、いずれの圧電セラミックスも、実施例1から14のチタン酸バリウムの理論密度6.01g/cmに対して5.86g/cm以上、つまり相対密度97.5%以上の良好な密度値を示した。また、実施例15から20のカルシウム添加のチタン酸バリウムの理論密度5.76g/cmに対して5.62g/cm以上、つまり相対密度97.5%以上の良好な密度値を示した。また、実施例21から26のカルシウム、ジルコン添加のチタン酸バリウムの理論密度5.85g/cmに対して5.75g/cm以上、つまり相対密度98.0%以上の良好な密度値を示した。
【0151】
圧電セラミックスの結晶粒状態の観察には、主に顕微鏡を用いた。観察は、セラミックスの焼結後表面と研磨後表面の両方で実施したが、結晶粒のサイズや状態に大きな違いは無かった。平均円相当径と20μm以下の円相当径の個数百分率のデータには代表して焼結後表面の値を採用したが、研磨により現れる断面であっても傾向は同様である。
【0152】
上記の顕微鏡観察で撮影した写真の一例を図2と図3に示す。
【0153】
図2は、本発明の実施例1の圧電セラミックスの表面を顕微鏡で拡大して撮影した写真である。前記写真から円相当径を計測し、その結果を表3に示す。その結果、実施例1から20の平均円相当径が2μm以上9μm以下であり、円相当径が20μmである結晶粒が99個数%以下であることを確認した。
【0154】
図3は、本発明の比較例1の圧電セラミックスの表面を顕微鏡で拡大して撮影した写真である。前記写真から円相当径を計測し、その結果を表3に示す。比較例1は、異常粒成長がみられ平均円相当径も20μm以上であった。このことが機械的強度の低い要因と考えられる。
【0155】
また、それぞれの結晶構造の特定には、X線回折装置、を用いて、2θ/θ測定を行なった。その結果、いずれの実施例及び比較例の圧電セラミックスにおいてもc/a=1.02程度の正方晶構造を有している事がわかった。
【0156】
それぞれのマンガン含有量の特定には、ICP分析及び蛍光X線分析装置(パナリティカル社製)の波長分散型XRF分析を用いた。その結果、Ba/Ti比、(Ba+Ca)/Ti比及びマンガン含有量の特定をし、ほぼ仕込み組成と同じであることを確認した。
【0157】
(圧電定数の評価)
実施例1から実施例26及び比較例1から比較例48で得られた圧電セラミックスの表裏面にDCスパッタリング法で金電極を形成して電極とした。この電極つきのセラミックスを切断加工して、12mm×3mm×1mmの短冊状セラミックスを作成した。
【0158】
短冊状セラミックスをシリコーンオイル中で分極処理した。オイル温度は100℃、分極電圧は直流1kV、電圧印加時間は30分間とした。
【0159】
分極処理済の短冊状セラミックスを用いて、圧電定数測定を行なった。具体的には、インピーダンス・アナライザ装置(アジレント社、商品名4294A)を用いて、セラミックス試料のインピーダンスの周波数依存性を測定した。そして、観測された共振周波数と反共振周波数より圧電定数d31(pm/V)を求めた。圧電定数d31は、負の値をとる定数で絶対値が大きいほど圧電性能が高いことを意味する。また同時に、機械品質係数Qm、ヤング率Y11が算出できる。このときのヤング率Y11と圧電定数d31の積から圧電定数e31も算出ができる。結果は表4、表5に記載の通りである。
【0160】
表4、表5の結果、平均円相当径が大きいものが圧電特性、機械品質係数Qmが高いが、機械的強度が低くなる傾向がある。平均円相当径が5μm付近のものは、圧電特性d31とヤング率Y11と圧電定数d31の積である圧電定数e31と機械品質係数Qmが高いのと同時に、機械的強度もおよそ100MPa以上と高い強度を持ち合わせることが分かる。
【0161】
また、各特性の温度依存性の評価のために、恒温加熱器を用いて、−40℃から50℃までの環境温度を変化させながら共振反共振測定を行った。そのときの実施例1のヤング率Y11の温度変化依存を図4に示し、比較例1のヤング率Y11の温度変化依存を図5に示す。
【0162】
図4の実施例のヤング率Y11は昇温時と降温時の極小値に温度差がありおよそ10であった。また、同じく昇温時と降温時の極大値に温度差がおよそ10℃である圧電定数d31とヤング率Y11の積である圧電定数e31は、相殺されて温度に対して安定した値を示した。
【0163】
これに対し、図5の比較例のヤング率Y11は昇温時と降温時の極小値に温度差が数℃と小さいために、昇温時と降温時の極大値に温度差がおよそ10℃である電定数d31とヤング率Y11の積である圧電定数e31に昇温時と降温時の値に差異がある履歴が生じた。
【0164】
(機械的強度の評価)
機械的強度は、3点曲げ試験を、引張・圧縮試験装置(オリエンテック社製、商品名テンシロンRTC−1250A)により評価した。測定には、12mm×3mm×1mmの短冊状セラミックスを用いた。電極は設けず、従って分極処理も施していない。該短冊状セラミックス試料が割断するまで応力を増加させた時の最大応力値を表3に記載した。最大応力値が100MPa以上であると、圧電素子として継続的に駆動させる十分な機械的強度である。
【0165】
表4、表5により本実施例の圧電セラミックスと比較例のセラミックスを比較すると、本実施例の圧電セラミックスは圧電性および機械的強度ともに優れていることがわかる。
【0166】
また、実施例のうちでは、Mn量の多い例で機械的強度が高いが、圧電性との両立という点では実施例1の特性が最も優れていた。
【0167】
<実施例27>
実施例1と同じ圧電セラミックスを用いて、図1および図2に示される液体吐出ヘッド及び超音波モータを作成した。液体吐出ヘッドでは、入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。超音波モータでは、交番電圧の印加に応じたモータの回転挙動が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明の圧電セラミックスは、圧電特性および機械的強度が良好で、環境に対してもクリーンなので、液体吐出ヘッド、超音波モータや圧電素子等の圧電セラミックスを多く用いる機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0169】
d 脱脂工程
1 第一の温度
2 第二の温度
3 第三の温度
7 圧電セラミックス
10 圧電素子
11 吐出口
12 連通孔
13 個別液室
14 共通液室
15 振動板
16 下部電極
18 上部電極
19 バッファ層
21 弾性体リング
22 圧電素子
24 振動体
25 ローター
61 振動子
62 ローター
63 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともチタン酸バリウム粒子を有する成形体を成形する工程と前記成形体を焼結する工程と前記焼結する工程の後に降温する工程とを含む圧電セラミックスの製造方法であって、
前記焼結する工程が前記成形体の収縮過程の温度である第一の温度まで昇温し保持する工程(A)と、
工程(A)の後に前記成形体の液相焼結過程の温度ある第二の温度まで昇温する工程(B)と、
工程(B)の後に前記成形体の収縮過程の温度である第三の温度まで降温する工程(C)と、
工程(C)の後に前記第三の温度で保持する工程(D)と、
を少なくとも有することを特徴とする圧電セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記第一の温度が900℃以上1200℃以下であり、前記第二の温度が1350℃以上1550℃以下であり、前記第三の温度が900℃以上1200℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)、(C)、(D)を2回以上20回以下繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記工程(B)における前記第二の温度まで昇温する速度を10℃/分以上30℃/分以下とすることを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記工程(A)の前に前記第一の温度以下で保持する脱脂工程を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記工程(B)における第二の温度と、前記工程(A)における第一の温度との差が200℃以上500℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記工程(A)における第一の温度と前記工程(C)、(D)における第三の温度の差が30℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記工程(A)における保持時間が60分以上240分以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項9】
前記工程(B)の後に前記第二の温度で5分以下保持することを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項10】
前記工程(D)における累積の保持時間が10時間以上70時間以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項11】
前記酸化物粉末がチタン酸バリウムに対して金属換算で0.04〜0.20質量%以下のマンガンを含有することを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項12】
前記成形体に含まれる前記チタン酸バリウムの一次粒子の平均粒径が1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックスの製造方法。
【請求項13】
チタン酸バリウムおよび該チタン酸バリウムに対して0.04質量%以上0.20質量%以下のマンガンを含有する多結晶体の圧電セラミックスであって、前記圧電セラミックスを構成する結晶粒の平均円相当径が2μm以上9μm以下であり、円相当径が20μm以下である結晶粒が99個数%以上であり、前記圧電セラミックスの相対密度が97.5%以上かつ100%以下であることを特徴とする圧電セラミックス。
【請求項14】
−30℃から50℃の範囲において、ヤング率Y11の極小値が昇温時と降温時で異なることを特徴とする請求項12に記載の圧電セラミックス。
【請求項15】
第一の電極、圧電セラミックスおよび第二の電極を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電セラミックスが請求項13乃至14のいずれかに記載の圧電セラミックスであることを特徴とする圧電素子。
【請求項16】
請求項15に記載の圧電素子を配した振動部を備えた液室と、前記液室と連通する吐出口を少なくとも有する液体吐出ヘッド。
【請求項17】
請求項15に記載の圧電素子を配した振動体と、前記振動体と接触する移動体と、を少なくとも有する超音波モータ。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126636(P2012−126636A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257778(P2011−257778)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】