説明

圧電デバイス用基板の製造方法と圧電デバイス用基板、及びこれを用いた表面弾性波デバイス

【課題】二次相が発生せず、組成の均一な結晶を育成できるLaGaSiO14単結晶の製造方法、及びこれを用いた圧電デバイス用基板を提供する。
【解決手段】LaGaSiO14の化学量論組成を含まない組成領域(点A、点E、点F、点Gで囲まれる組成範囲)から、点A1(La2O3が47.81重量%、Ga2O3が46.50重量%、SiO2が5.69重量%)、点B1(La2O3が47.97重量%、Ga2O3が46.26重量%、SiO2が5.77重量%)、点C1(La2O3が48.04重量%、Ga2O3が46.50重量%、SiO2が5.46重量%)で囲まれる組成範囲を除外した組成範囲内で原料を秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内からLaGaSiO14単結晶を引き上げ育成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAWフィルタ等に好適な圧電デバイス用基板の製造方法と圧電デバイス用基板、及びこれを用いた表面弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、La3Ga5SiO14(Langasite:ランガサイト)単結晶は、温度による弾性波伝搬速度、周波数の変化率が小さく、圧電性の大小を表す電気機械結合係数(電気エネルギーと機械エネルギーの相互変換効率を示す係数)が大きいことから、表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタ等の圧電デバイス用の基板材料として研究が行われている(例えば、H.Takeda,K.Shimamura,V.I.Chani,T.Fukuda,Effect of starting melt composition on crystal growth of La3Ga5SiO14,J.Crystal Growth 197(1999)204.等)。すなわち、このランガサイト単結晶は、水晶と同等の温度特性を持ち、しかも電気機械結合係数が水晶の約3倍あり、携帯電話等に多用されているSAWフィルタの広帯域化と小型化を図ることが可能になる。例えば、特許文献1にランガサイト単結晶を用いた表面弾性波デバイスが記載されている。
従来、このランガサイト単結晶を育成するには、化学量論比の組成に基づいた原料ペレットを融解して単結晶を育成していた。
【特許文献1】特開平10−126209号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、化学量論的組成等の従来用いられている組成でランガサイト単結晶を育成すると、結晶には二次相が出やすく、結晶が割れやすくなるという不都合がある。また、二次相の発生を抑制するために成長速度をかなり低い値にしなければならなく、生産効率が悪くなってしまう問題があった。さらに、ランガサイト単結晶を構成する原子のうち、Gaは揮発し易い性質を有するため、組成によっては高い揮発性のために安定した引上成長が難しいという不都合があった。
【0004】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、二次相が発生し難く、さらにGaの揮発性の影響が少ない圧電デバイス用基板の製造方法と圧電デバイス用基板、及びこれを用いた表面弾性波デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ランガサイト単結晶の製造技術について研究を行ってきた結果、二次相がほとんど存在しない組成条件を見出すことができた。さらには、Gaの揮発性の影響が少なく、安定した成長が可能な組成条件を見出すことができた。したがって、本発明は、この知見に基づいた技術であり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
【0006】
すなわち、本発明の圧電デバイス用基板の製造方法は、LaGaSiO14単結晶を育成して圧電デバイス用基板に加工する圧電デバイス用基板の製造方法であって、添付図面1に示す点A(Laが47.98重量%、Gaが46.32重量%、SiOが5.70重量%)、点E(Laが47.50重量%、Gaが46.32重量%、SiOが6.18重量%)、点F(Laが47.50重量%、Gaが46.00重量%、SiOが6.50重量%)、点G(Laが47.98重量%、Gaが46.00重量%、SiOが6.02重量%)で囲まれる組成範囲から、点A1(Laが47.81重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.69重量%)、点B1(Laが47.97重量%、Gaが46.26重量%、SiOが5.77重量%)、点C1(Laが48.04重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.46重量%)で囲まれる組成範囲を除外した組成範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内からLaGaSiO14の単結晶を引き上げ育成することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の圧電デバイス用基板は、LaGaSiO14の単結晶で形成された圧電デバイス用基板であって、添付図面1に示す点A(Laが47.98重量%、Gaが46.32重量%、SiOが5.70重量%)、点E(Laが47.50重量%、Gaが46.32重量%、SiOが6.18重量%)、点F(Laが47.50重量%、Gaが46.00重量%、SiOが6.50重量%)、点G(Laが47.98重量%、Gaが46.00重量%、SiOが6.02重量%)で囲まれる組成範囲から、点A1(Laが47.81重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.69重量%)、点B1(Laが47.97重量%、Gaが46.26重量%、SiOが5.77重量%)、点C1(Laが48.04重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.46重量%)で囲まれる組成範囲を除外した組成範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内から引き上げ育成された単結晶であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の圧電デバイス用基板は、引き上げにより育成されたLaGaSiO14の単結晶で形成された圧電デバイス用基板であって、前記LaGaSiO14は、添付図面1に示す点a(Laが47.98重量%、Gaが46.32重量%、SiOが5.70重量%)、点e(Laが47.52重量%、Gaが46.32重量%、SiOが6.16重量%)、点f(Laが47.51重量%、Gaが46.01重量%、SiOが6.48重量%)、点g(Laが47.98重量%、Gaが46.02重量%、SiOが6.00重量%)で囲まれる組成範囲から、点a1(Laが47.82重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.68重量%)、点b1(Laが47.97重量%、Gaが46.27重量%、SiOが5.76重量%)、点c1(Laが48.03重量%、Gaが46.49重量%、SiOが5.48重量%)で囲まれる組成範囲を除外した組成範囲内の単結晶であることを特徴とする。
【0009】
これらの圧電デバイス用基板の製造方法及び圧電デバイス用基板では、後述する実験結果に基づいて、La3Ga5SiO14の原料であるLa23、Ga23及びSiO2のそれぞれ組成範囲を上記範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内からLa3Ga5SiO14の単結晶を引き上げ育成し、またLa3Ga5SiO14が、La23、Ga23及びSiO2が上記組成範囲内の単結晶であるので、二次相の発生が極めて少ない高品質なLa3Ga5SiO14単結晶が得られるとともに、バラツキの少ない表面弾性波伝搬速度及び均一な中心周波数を有する基板が得られる。
【0010】
さらに、本発明の圧電デバイス用基板の製造方法は、添付図面1に示す点A(La23が47.98重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.70重量%)、点B(La23が48.50重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.18重量%)、点C(La23が48.50重量%、Ga23が47.50重量%、SiO2が4.00重量%)、点D(La23が47.50重量%、Ga23が47.50重量%、SiO2が5.00重量%)、点E(La23が47.50重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が6.18重量%)で囲まれる組成範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内からLa3Ga5SiO14の単結晶を引き上げ育成することが好ましい。
【0011】
また、本発明の圧電デバイス用基板は、添付図面1に示す点A(La23が47.98重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.70重量%)、点B(La23が48.50重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.18重量%)、点C(La23が48.50重量%、Ga23が47.50重量%、SiO2が4.00重量%)、点D(La23が47.50重量%、Ga23が47.50重量%、SiO2が5.00重量%)、点E(La23が47.50重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が6.18重量%)で囲まれる組成範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内から引き上げ育成された単結晶であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の圧電デバイス用基板の製造方法は、前記La3Ga5SiO14が、添付図面1に示す点a(La23が47.98重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.70重量%)、点b(La23が48.48重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.20重量%)、点c(La23が48.49重量%、Ga23が47.49重量%、SiO2が4.02重量%)、点d(La23が47.52重量%、Ga23が47.49重量%、SiO2が4.99重量%)、点e(La23が47.52重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が6.16重量%)で囲まれる組成範囲内の単結晶であることが好ましい。
【0013】
これらの圧電デバイス用基板の製造方法及び圧電デバイス用基板では、La3Ga5SiO14の原料であるLa23、Ga23及びSiO2のそれぞれ組成範囲をさらに上記範囲内に限定秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内からLa3Ga5SiO14の単結晶を引き上げ育成し、またLa3Ga5SiO14が、La23、Ga23及びSiO2が上記組成範囲内に限定した単結晶であるので、二次相の発生を抑制するだけでなく、Ga23の高い組成比により、Gaの揮発性による成長への影響を極力低減することができる。
【0014】
また、本発明の圧電デバイス用基板は、デバイスが利用する表面上の一定方向に表面弾性波が伝搬したときの伝搬速度のバラツキが100ppm以下にあることが好ましい。
この圧電デバイス用基板では、上記伝搬速度のバラツキが100ppm以下にあるので、SAWフィルタ特性の均一性を向上させることができる。
【0015】
本発明の表面弾性波デバイスは、上記本発明の圧電デバイス基板の表面上に表面弾性波を送受信する電極を形成したことを特徴とする。
この表面弾性波デバイスでは、上記本発明の圧電デバイス基板を用いることで、高品質で特性のバラツキが少ないとともに高い信頼性を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、La3Ga5SiO14の原料であるLa23、Ga23及びSiO2のそれぞれ組成範囲を上述した範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内からLa3Ga5SiO14の単結晶を引き上げ育成し、またLa3Ga5SiO14が、La23、Ga23及びSiO2の組成範囲が上述した範囲内の単結晶であるので、二次相の発生が極めて少ない高品質なLa3Ga5SiO14単結晶が得られ、結晶が割れ難くなると共に、成長速度を低くする必要が無く、生産効率を維持することができる。また、均一な中心周波数及び伝搬速度を有する基板を得ることができる。すなわち、長さ方向及び横方向の組成の均一なランガサイト単結晶を育成でき、この結晶から切り出された圧電デバイス用基板は、その表面弾性波伝搬速度のバラツキが大幅に減少し、弾性波素子性能のバラツキも十分に小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る圧電デバイス用基板の製造方法と圧電デバイス用基板、及びこれを用いた表面弾性波デバイスの一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
【0018】
本実施形態の圧電デバイス基板及び表面弾性波デバイスを製造するには、まず、図1に示す第1の組成範囲、すなわち、図1に示す点A(La23が47.98重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.70重量%)、
点B(La23が48.50重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.18重量%)、
点C(La23が48.50重量%、Ga23が47.50重量%、SiO2が4.00重量%)、
点D(La23が47.50重量%、Ga23が47.50重量%、SiO2が5.00重量%)、
点E(La23が47.50重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が6.18重量%)、
点F(La23が47.50重量%、Ga23が46.00重量%、SiO2が6.50重量%)、
点G(La23が47.98重量%、Ga23が46.00重量%、SiO2が6.02重量%)で囲まれる組成範囲内で原料を秤量する。
【0019】
なお、この組成範囲は、La23が47.50重量%から48.50重量%までとし、Ga23が46.00重量%から47.50重量%までとし、SiO2が4.00重量%から6.50重量%までとした組成範囲内から、La23が47.98重量%を越えていると共にGa23が46.32重量%未満の組成範囲を除いた組成範囲である。
次に、これらの原料を振動攪拌機で1時間混合させ、外径100mm×60mmの寸法をもったペレットに成形する。次に、ペレットを電気炉で1200℃の温度で、1時間空気中で焼成する。
【0020】
結晶の育成は、高周波加熱育成炉において、図2に示すように、イリジウム製のルツボ1を用いて行い。該ルツボ1の外側と上方にアルミナ及びジルコニアの断熱材2を設け、ホットゾーンを形成する。断熱材2の外側には、加熱用の高周波ワークコイル3を設置する。なお、ルツボ1底部には、熱電対4が設置されている。
【0021】
育成の際に、ルツボ1の中に焼成されたペレットをチャージし、加熱、融解させて所定温度の融液Lとする。そして、ランガサイト(La3Ga5SiO14)の種結晶Sを引き上げ軸5に固定し、所定の回転数と引上速度で融液Lからランガサイト単結晶Cを育成する。自動直径制御は、引き上げ軸5につながる重量センサ6で検出した結晶の重量変化信号により行う。
【0022】
このようにして育成したランガサイト単結晶C(直径85cmで直胴部の長さが190cm)は、秤量時の組成範囲と同様の組成範囲内の単結晶となる。すなわち、上記組成範囲の秤量で育成した単結晶は、図1に示す点Aの組成では点a(La23が47.98重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.70重量%)の組成となり、点Bの組成では点b(La23が48.48重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.20重量%)となり、点Cの組成では点c(La23が48.49重量%、Ga23が47.49重量%、SiO2が4.02重量%)となり、点Dの組成では点d(La23が47.52重量%、Ga23が47.49重量%、SiO2が4.99重量%)となり、点Eの組成では点eLa23が47.52重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が6.16重量%)となり、点Fの組成では点f(La23が47.51重量%、Ga23が46.01重量%、SiO2が6.48重量%)となり、点Gの組成では点g(La23が47.98重量%、Ga23が46.02重量%、SiO2が6.00重量%)の組成となった。したがって、この単結晶は、図1に示す点a〜gで囲まれる組成範囲内の単結晶である。これらの組成範囲内におけるランガサイト単結晶には、二次相がほとんど発生していない。
【0023】
次に、このランガサイト単結晶Cは、スライスされて圧電デバイス用基板に加工される。さらに、この圧電デバイス用基板には、図3に示すように、その表面に励振電極(すだれ電極(櫛歯電極))7が形成されてSAWフィルタ(表面弾性波デバイス)8が作製される。
なお、上記圧電デバイス用基板は、表面弾性波音速(表面上を表面弾性波が伝搬したとき、すなわちデバイスが利用する一定方向(励振電極3の対向方向)に伝搬したときの伝搬速度)のバラツキが100ppm以下となっている。
【実施例】
【0024】
次に、本発明に係る圧電デバイス用基板の製造方法と圧電デバイス用基板、及びこれを用いた表面弾性波デバイスを、実施例により図1、図4から図7を参照して具体的に説明する。
【0025】
上記製造方法において、La23、Ga23及びSiO2の組成を変えて圧電デバイス基板を製造し、これらの基板における二次相の発生の有無を調べた実験データを、以下の表1及び図1に示す。なお、図1中のマークは、二次相が発生した場合は■、発生しない場合は□としている。また、図1中のX点は、従来の化学量論的組成(La23が48.04重量%、Ga23が46.06重量%、SiO2が5.91重量%)に基づいて育成した単結晶の場合であり、Y点は、上述したJ.Crystal Growth掲載の論文で記載されている組成(La23が47.99重量%、Ga23が46.30重量%、SiO2が5.71重量%)に基づいて育成した単結晶の場合である。
【0026】
【表1】

【0027】
表1及び図1に示すように、上述した組成範囲内の組成で製造した試料番号AからGまでは、二次相が発生しておらず良質な結晶が得られているのに対し、上記組成範囲外の試料(試料番号HからM)については、二次相が発生してしまっていることがわかる。
【0028】
また、上記組成範囲のうち、La23が47.93重量%、Ga23が46.66重量%、SiO2が5.41重量%の組成で原料を秤量し、ペレットを作製してルツボ1中にチャージし、直径85cm直胴部の長さ190cmのランガサイト単結晶Cを育成した。そして、このランガサイト単結晶の結晶長さ方向における組成をICP分析(Inductive Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)で分析した。その結果、表2及び図4、5に示すように、各成分の含有量は、投入組成の±0.02%以内の誤差で一致した。したがって、上部、中部、下部を通して均一性の良い結晶が得られたことが判明した。さらに、このランガサイト単結晶は、二次相も発生しなかった。
【0029】
【表2】

【0030】
なお、比較例として、表3及び図6に示すように、原料を従来の化学量論比組成に基づいて秤量し、上記実施例と同様に、結晶を育成した。なお、この結晶の上部(肩部)の形成段階において二次相が発生した。そして、結晶上部から下部にかけて組成の変動が目標含有量の±0.5%であった。この結晶の下部は、弾性波素子として使用できないものであった。
【0031】
【表3】

【0032】
次に、上記実施例のランガサイト単結晶から50度回転Y軸のウェハを作製した。このウェハ面内の表面弾性波音速(伝搬速度)のバラツキを調べるために、スパッタによってアルミ電極の励振電極7を形成し、上記実施形態のSAWフィルタ8を作製した。そして、ネットアナライザを用いてSAWフィルタ8の中心周波数fcを測定した。この測定では、SAWフィルタの入力端子に交流信号をかけ、出力端子から出力信号を測定し、周波数走査によってフィルタの出力信号と入力信号の相対振幅の周波数特性を得た。
【0033】
なお、中心周波数fcは、この周波数特性のピーク値から通過損失が−10dBになる通過帯域中心点の周波数である。ここで、表面弾性波音速vは、v=fc・2dという関係式によって求めることができる。なお、2dはSAWフィルタ8の励振電極(すだれ電極)7の周期であり、その寸法の精度は電子顕微鏡で確認されている。こうすることによって、SAWフィルタの中心周波数から表面弾性波音速を求め、表面弾性波音速の基板面内バラツキを調べることができる。
さらに、結晶の上部、中部、下部からの基板の総合的なバラツキも調べた。その結果、図7に示すように、表面弾性波音速のバラツキが100ppm以下であり、結晶の組成の均一性によるSAWフィルタの特性均一性の向上が判明された。
【0034】
なお、結晶の組成変化が表面弾性波音速のバラツキに与える影響を調べるために、比較例として化学量論比組成に基づいて育成した従来例の結晶を実施例と同様に、圧電デバイス用基板に加工し、SAWフィルタを作製した。なお、この実験では、結晶上部の透明部しか使わなかった。このSAWフィルタの中心周波数を測定すると、結晶の育成方向の表面弾性波音速バラツキは400ppmであり、弾性波素子としてバラツキが大きすぎる結果となった。
【0035】
すなわち、本発明では、ランガサイトの原料であるLa23、Ga23及びSiO2のそれぞれ組成範囲を上記範囲内で秤量してルツボ1内で融解させ、該ルツボ内からランガサイト単結晶Cを引き上げ育成するので、二次相の発生が極めて少なく長さ方向及び横方向(ウェハ面内)の組成の均一な高品質ランガサイト単結晶が得られるとともに、均一な伝搬速度を有する基板が得られる。そして、表面弾性波音速バラツキが100ppm以下の圧電デバイス用基板が得られることから、該基板を用いることにより、SAWフィルタ特性の均一性が向上して、高品質なデバイスを高歩留まりで得ることができる。
【0036】
なお、Gaの揮発性を考慮した場合において、圧電デバイス基板及び表面弾性波デバイスを製造するには、図1に示す第2の組成範囲、すなわち、図1に示す点A(La23が47.98重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.70重量%)、
点B(La23が48.50重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が5.18重量%)、
点C(La23が48.50重量%、Ga23が47.50重量%、SiO2が4.00重量%)、
点D(La23が47.50重量%、Ga23が47.50重量%、SiO2が5.00重量%)、
点E(La23が47.50重量%、Ga23が46.32重量%、SiO2が6.18重量%)で囲まれる組成範囲内で原料を秤量する。
【0037】
このように、さらに組成範囲を限定した秤量によって上記と同様に引上成長を行うと共に、引き上げたランガサイト単結晶を圧電デバイス用基板に加工し、該圧電デバイス用基板に上記と同様にSAWデバイスを作製する。
すなわち、Ga23の組成比が46.32重量%よりも低いと、Gaの揮発による組成比の変化が無視できなくなり、引上成長に影響を与えるが、上記第2の組成範囲にさらに限定してGa23の組成比を高くすることにより、二次相の発生を抑制するだけでなく、Gaの揮発性による成長への影響がほとんど無くなり、安定した成長を行うことができる。このような圧電デバイス用基板では、より組成比のバラツキが少なくなり、この基板を用いたSAWデバイスでは、さらに安定した特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る一実施形態における圧電デバイス基板及びその製造方法において、組成を変えて育成した各ランガサイト単結晶の組成表示及び二次相の発生の有無を示す状態図である。
【図2】本発明に係る一実施形態における圧電デバイス基板の製造方法において、CZ法による引き上げ育成を示す概略的な断面図である。
【図3】本発明に係る一実施形態の表面弾性波デバイスを示す斜視図である。
【図4】本発明に係る一実施形態における圧電デバイス基板及びその製造方法において、結晶の長さ方向における測定個所を示す単結晶の概略的な正面図である。
【図5】本発明に係る一実施形態における圧電デバイス基板及びその製造方法において、結晶の長さ方向における測定個所に対する各原料の含有量を示すグラフである。
【図6】本発明に係る従来例における圧電デバイス基板及びその製造方法において、結晶の長さ方向における測定個所に対する各原料の含有量を示すグラフである。
【図7】本発明に係る一実施形態における表面弾性波デバイスにおいて、SAWフィルタのSAW音速の基板面内バラツキを示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 ルツボ 7 励振電極 8 SAW(表面弾性波)デバイス C ランガサイト単結晶 L 融液 S 種結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LaGaSiO14単結晶を育成して圧電デバイス用基板に加工する圧電デバイス用基板の製造方法であって、
添付図面1に示す点A(Laが47.98重量%、Gaが46.32重量%、SiOが5.70重量%)、
点E(Laが47.50重量%、Gaが46.32重量%、SiOが6.18重量%)、
点F(Laが47.50重量%、Gaが46.00重量%、SiOが6.50重量%)、
点G(Laが47.98重量%、Gaが46.00重量%、SiOが6.02重量%)で囲まれる組成範囲から、
点A1(Laが47.81重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.69重量%)、
点B1(Laが47.97重量%、Gaが46.26重量%、SiOが5.77重量%)、
点C1(Laが48.04重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.46重量%)で囲まれる組成範囲を除外した組成範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内からLaGaSiO14の単結晶を引き上げ育成することを特徴とする圧電デバイス用基板の製造方法。
【請求項2】
LaGaSiO14の単結晶で形成された圧電デバイス用基板であって、
添付図面1に示す点A(Laが47.98重量%、Gaが46.32重量%、SiOが5.70重量%)、
点E(Laが47.50重量%、Gaが46.32重量%、SiOが6.18重量%)、
点F(Laが47.50重量%、Gaが46.00重量%、SiOが6.50重量%)、
点G(Laが47.98重量%、Gaが46.00重量%、SiOが6.02重量%)で囲まれる組成範囲から、
点A1(Laが47.81重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.69重量%)、
点B1(Laが47.97重量%、Gaが46.26重量%、SiOが5.77重量%)、
点C1(Laが48.04重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.46重量%)で囲まれる組成範囲を除外した組成範囲内で秤量してルツボ内で融解させ、該ルツボ内から引き上げ育成された単結晶であることを特徴とする圧電デバイス用基板。
【請求項3】
引き上げにより育成されたLaGaSiO14の単結晶で形成された圧電デバイス用基板であって、
前記LaGaSiO14は、
添付図面1に示す点a(Laが47.98重量%、Gaが46.32重量%、SiOが5.70重量%)、
点e(Laが47.52重量%、Gaが46.32重量%、SiOが6.16重量%)、
点f(Laが47.51重量%、Gaが46.01重量%、SiOが6.48重量%)、
点g(Laが47.98重量%、Gaが46.02重量%、SiOが6.00重量%)で囲まれる組成範囲から、
点a1(Laが47.82重量%、Gaが46.50重量%、SiOが5.68重量%)、
点b1(Laが47.97重量%、Gaが46.27重量%、SiOが5.76重量%)、
点c1(Laが48.03重量%、Gaが46.49重量%、SiOが5.48重量%)で囲まれる組成範囲を除外した組成範囲内の単結晶であることを特徴とする圧電デバイス用基板。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の圧電デバイス基板の表面上に表面弾性波を送受信する電極を形成したことを特徴とする表面弾性波デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−327934(P2006−327934A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193317(P2006−193317)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【分割の表示】特願2000−165114(P2000−165114)の分割
【原出願日】平成12年6月1日(2000.6.1)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】