説明

圧電性材料を作成する工程

【課題】実行するのがより簡単であるにも関わらず、粗さが低く、且つ、従来技術の材料の圧電定数よりも高い圧電定数を有する圧電性材料を得る方法を提供する。
【解決手段】1つまたはそれ以上の圧電性の酸化セラミックに基づいて材料を作成する工程であり、以下の連続するステップを構成する。
a)酸化物セラミックの前駆体として、酸化セラミックの粉末とゾルゲル溶液、つまり、圧電性である酸化物セラミック及び/もしくは圧電性の酸化セラミックの前駆体であるゾルゲル溶液を含む分散の層を基板へ液体による方法で蒸着する。
b)ステップa)を1回またはそれ以上繰り返すステップで、それによって少なくとも2つの層から成る多層構造のフィルムを得る。
c)相当するセラミックに変換する為に前記の層を熱処理する。
d)ステップa)と同一もしくは異なるゾルゲル溶液で多層構造を浸漬被覆することにより、ステップc)で得られた多層構造のフィルムを浸透するステップ。
e)ステップd)を1回もしくはそれ以上反復するステップ。
f)前記多層構造を熱処理し、多層構造のフィルムを浸透しているゾルゲル溶液を変換して相当するセラミックに変換するステップであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、酸化物セラミックから成る圧電性材料をゾルゲル法により作成する為の工程である。又、本発明の主題は、この工程により得ることが可能な圧電性材料でもある。
【背景技術】
【0002】
圧電性材料は特別な誘電性材料であり、この誘電性材料は弾性変形のエネルギーを変換して電気エネルギーに変換させることが可能である。さらに正確に言えば、これらの圧電性材料は、機械的に圧力を加えられた場合、極性化される能力を有する。それら圧電性材料の表面に現れる電荷は、生じた変形に比例する。そのような材料は、圧電性の点灯器、変換器、アクチュエータ、超音波発生装置もしくは超音波受信装置、触覚インターフェイスの設計といったような多様な分野に適用することができる。
【0003】
圧電性材料の中には、更に、自然発生的な分極軸と呼ばれる選択的な軸(Preferential axis)に沿った自然分極を有する焦電気性材料により形成される下位分類がある。この分極の大きさは強く温度に依存し、故にそれらの名前となっている。これらの焦電材料は検出分野、特に赤外線検出分野で適用可能である。
【0004】
また、最後に、圧電性材料の中には強誘電材料が述べられるかもしれない。この強誘電材料は、2つまたはそれ以上の方向に分極できる特定の特徴を有し、各方向は同様に起こりうる。電場をかけることによって、その分極を1方向から他方向へ変換することができる。この現象は、主としてこれら材料の圧電性の特徴に関与し、前記変換は、これら材料の結晶構造を局所的に変え、他の材料における効果よりもより明白な効果とする。そのような材料は、勿論アクチュエータや変換器の分野で適用が可能である。
【0005】
長年数多くの研究対象であったこれらの圧電性材料は、酸化物セラミック材料の形態である。酸化物セラミック形態の圧電性材料の実例は、長年開発されて来た、チタン酸ジルコン酸鉛(PZTと呼ばれる)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、亜鉛ニオブ酸鉛チタン酸鉛(PZNT)、ニオブ酸マグネシウム鉛(PMN)、チタン酸鉛(PT)、ニオブ酸カルシウムカリウム、チタン酸カリウムビスマス(BKT)、及び、ストロンチウムビスマスチタン酸塩(SBT)等のペロブスカイト構造の材料を含む。
【0006】
これらの酸化物セラミックタイプの圧電性材料は、気相、プラズマ相、固相もしくは液相における工程により得ることができる。
【0007】
工程を気相で行うことに関して、最も一般的に使用される工程は蒸着である。そこでは蒸着させられるセラミックが、蒸気を形成し、冷却した基板の上に被覆もしくはフィルムの形状で再び凝結させられる温度まで熱せられるつぼ(crucible)に入れられる。
【0008】
プラズマ相を含む工程に関しては、スパッタリング法が言及されるかもしれない。この技術では、プラズマによって発生したイオンが、蒸着させられるセラミックに衝突する。そのプラズマにおけるイオンの速度エネルギーは、蒸着させられる材料の原子に伝わり、この原子は高い初速度で被覆される基板上に投射させられ、その基板上へコートもしくはフィルムの形態で蒸着する。
【0009】
固相にて行う工程に関しては、有機金属化合物の分解が言及される。これは、一方でこの分解の間において生成される有機物質の除去、他方でセラミック化を引き起こす程十分に高い温度にてこれらのセラミックの前駆体化合物を熱的に分解することを含んでいる。
【0010】
また、セラミック粉末を有機溶媒と混合すること、この分散をフィルムの形状で基板上に蒸着させること、及び、このフィルムを熱処理すること、を含む固体と液体の分散に関する技術にも言及されるかもしれない。もう1つの技術は、粘着剤の添加した基板上にセラミック粉末を焼結することを含む。これら2つの技術では、フィルムの厚さは正確に制御できない。
【0011】
しかしながら、(気相、プラズマ相、固相での)これらの工程は、非常に高温(一般的に約1000℃)と耐熱性の装置の設置とを必要とする。
【0012】
これらの問題を回避する方法の1つとして、液相でのみ行う方法を使用することがあり、これがまさしくゾルゲル法である。
【0013】
そのゾルゲル法は、以下のステップを含む。まず第1に酸化物セラミックを分子状態(有機金属化合物、金属塩)の前駆体として含んでいる溶液を作成し、次にゾル(ゾルゲル溶液とも呼ばれる)を形成する。第2に、このゾルがフィルムの形状で基板上に蒸着させられる。周囲の蒸気の接触がある場合、この前駆体は加水分解し、濃縮して溶媒を補足する酸化物格子を形成し、ゲル化する。その後、フィルムを形成するゲルの層は熱処理され、セラミックフィルムを形成する。
【0014】
そのゾルゲル法は、上記の工程において多くの利点を有する。
―複雑な表面に被覆を形成することができる。
―組成、厚さの観点で、均一な被覆を与えることができる。
及び
―分子スケールで種類の混合が起こり、これにより例えば3つまたはそれ以上の元素を含む複合の酸化物を実現することができる。
【0015】
しかしながら、そのゾルゲル法を使用してフィルムを蒸着させ、1μm以上の厚さを達成することは困難である。
【0016】
ここで、その圧電性材料への適用の多様性は、これらの材料が非常に広い厚さの範囲(100nm〜100μm)を有することを意味する。1μm以上の厚さを達成する為に、ある著者は、持続的な分散媒として圧電性の酸化物セラミック前駆体のゾルゲル溶液と、分散相として圧電性の酸化物セラミックの粉末とを含んでいる分散を蒸着の溶液として使用することを提案している。
【0017】
それゆえ、D.A.Barrowらは、チタン酸ジルコン酸鉛から成る10μm以上の厚さの圧電性被覆を作成する工程を記載している(非特許文献1)。
この工程は、前記セラミック粉末の分散を含むPZTセラミック前駆体ゾルゲル溶液の2、3のフィルムを基板上へ蒸着すること、それに続いて適切な熱処理が行われることを含む。この工程の後、得られた被覆は使用された溶液の複合性により、多くの表面の不規則性と非常に高いレベルの気孔率を有する。これは、低い誘電率の材料が得られるという結果となる。
【0018】
上述の欠点を改善する為に、著者のDoreyらは、上記に定められるような分散フィルムを蒸着させる各ステップに続いて、そのフィルムの熱処理の後に粉末を含まないゾルゲル溶液でそのフィルムに染み込ませるステップを行うことを提案している(非特許文献2)。これらの工程は、得られる材料の相対的な誘電率の上昇に役立つが、70pC/Nを超えない圧電定数d33の値には、明白な影響を及ぼさないようである。
【非特許文献1】Surface and Coating Technology 76-77 (1995)の113〜118頁
【非特許文献2】Integrated Ferroelectrics, 2002, vol. 50 111〜119頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
それ故本発明者は、実行するのがより簡単であるにも関わらず、粗さが低く、且つ、従来技術の材料の圧電定数よりも高い圧電定数を有する圧電性材料を得る方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、本発明で設定された目的を達成した。本発明の目的の内容は、1つまたはそれ以上の圧電性の酸化セラミックに基づいて材料を作成する工程であり、以下の連続するステップを構成する。
a)酸化物セラミックの前駆体として、酸化セラミックの粉末とゾルゲル溶液、つまり、圧電性である酸化物セラミック及び/もしくは圧電性の酸化セラミックの前駆体であるゾルゲル溶液を含む分散の層を基板へ液体による方法で蒸着する。
b)ステップa)を1回またはそれ以上繰り返すステップによって少なくとも2つの層から成る多層構造のフィルムを得られる。
c)相当するセラミックに変換する為に前記の層を熱処理する。
d)ステップa)と同一もしくは異なるゾルゲル溶液で多層構造を浸漬被覆することにより、ステップc)で得られた多層構造のフィルムを浸透するステップ。
e)ステップd)を1回もしくはそれ以上反復するステップ。
f)前記多層構造を熱処理し、多層構造のフィルムを浸透しているゾルゲル溶液を変換して相当するセラミックに変換するステップ。
【発明の効果】
【0021】
本発明の工程は、従来技術の工程の数多くの問題点、特に上記非特許文献2に起因する問題を克服することが可能となる。この理由としては、1枚1枚ではなく、全体の多層構造をゾルゲル溶液にて浸透することが挙げられ、これが非常に従来技術を簡素化することに役立っている。加えて、著者らは発明の工程によって得られた材料の圧電性の特徴が非常に改良されていることを実際に示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明によれば、その工程は第1に、酸化セラミックの前駆体として酸化セラミックの粉末とゾルゲル溶液を含む、つまり、圧電性である酸化セラミック粉末及び/または圧電性の酸化物セラミックの前駆体であるゾルゲル溶液を含む、分散の層を基板に蒸着するステップを踏み、この蒸着は液体の工程で起こるものである。
【0023】
第1の選択として、酸化物のセラミック粉末が圧電性であるか、またはゾルゲル溶液が圧電性の酸化物セラミックの前駆体であることのどちらかが注目されるべきであり、逆もまた同様である。第2の選択として、その酸化物セラミック粉末が圧電性であり、且つ、ゾルゲル溶液が圧電性の酸化物セラミックの前駆体であることが注目されるべきである。この場合、その圧電性の酸化物セラミック粉末は、その前駆体のゾルゲル溶液の熱処理から生じる圧電性の酸化物セラミックと同一の組成を有する場合がある。
【0024】
液体の工程での蒸着技術のうち、次のものが予想される。
−浸漬被覆(dip coating)
−スピン・コーティング(spin coating)
−層流コーティング(laminar-coating)(メニスカスコーティング(meniscus coating)
−吹き付け塗装(spray coating)
−Doctor Blade法によるコーティング(doctor-blade coating)
【0025】
これらの技術の中で最も有用なものは浸漬被覆の技術であり、この技術はすばらしい結果を達成することができ、複雑な形状の基板への蒸着が可能となる。分散の層が蒸着されるその基板には、様々なものがある。
【0026】
好適には、この基板が熱処理中に例えばイオンの移動により、その蒸着した層を汚染してはならず、その層の良好な粘着を確かなものとする必要がある。好適には、その軟化温度は蒸着された層に対して行われた熱処理の温度よりも高くなければならず、その熱膨張係数は前記の層の熱膨張係数と両立して、アニ―リング中の圧力を制限することが可能でなければならない。
【0027】
特にその基板は、次の材料、すなわち、ステンレス鋼、ニッケルを含む鉄鋼、任意に金属化されたシリコン、アルミニウム、アルミナ、チタニウム、炭素、ガラス、または重合体から成る基板から選択される場合がある。
【0028】
特にその基板が、金属、すなわち、アルミニウムまたはチタンの基板を基礎としている場合、例えばSiO、Ta2O5、ZrO2、Al2O3、TiO2、PZT、BSTとそれらの組合せから選択される酸化物の厚い層を(分散の層の蒸着を助ける役割をする)基板の表面へ蒸着することが好適である場合がある。
【0029】
この層は障壁層として機能し、故に熱処理中にその基板に属している原子が多層構造のフィルムの中へと拡散することを防止する。この障壁層はゾルゲル溶液をこの層の成分の酸化物セラミック前駆体として基板に蒸着することにより得られる場合がある。そのようなゾルゲル溶液は、上述した液体の蒸着技術の1つにより蒸着されうる。
【0030】
層の形状で基板に蒸着される分散は、伝統的な方法で酸化物の前駆体としてゾルゲル溶液中に酸化物セラミック粉末を分散させることにより得られる。その酸化物セラミック粉末は圧電性であり、及び/又は、そのゾルゲル溶液は圧電性の酸化物セラミックの前駆体であり、それゆえその粉末はゾルゲル溶液が持続的な分散媒を構成する中、分散相を構成する。
【0031】
好適には、その酸化物セラミック粉末は圧電性であり、ゾルゲル溶液もまた圧電性の酸化物セラミックの前駆体である。
【0032】
酸化物のセラミック粉末が圧電性のセラミック粉末である場合、好適にはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、亜鉛ニオブ酸鉛チタン酸鉛(PZNT)、ニオブ酸マグネシウム鉛(PMN)、チタン酸鉛(PT)、ニオブ酸カルシウムカリウム、チタン酸カリウムビスマス(BKT)、及び、ストロンチウムビスマスチタン酸塩(SBT)から選択される。
【0033】
ゾルゲル溶液を圧電性の酸化物セラミックの前駆体と見なすので、これは好適にはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、亜鉛ニオブ酸鉛チタン酸鉛(PZNT)、ニオブ酸マグネシウム鉛(PMN)、チタン酸鉛(PT)、ニオブ酸カルシウムカリウム、チタン酸カリウムビスマス(BKT)、及び、ストロンチウムビスマスチタン酸塩(SBT)から選択されるセラミックの前駆体である。
【0034】
その酸化物セラミック粉末が圧電性であり、且つ、そのゾルゲル溶液が圧電性の酸化物セラミックの前駆体である場合、組成物の粉末の酸化物セラミックは、その粉末が分散したゾルゲル溶液を熱処理して生じる酸化物のセラミックの組成と同一の組成を有する場合がある。
【0035】
本発明に係る粉末は、市販されている粉末かもしくは事前に作成することができる粉末である。ゆえに、その酸化物のセラミックの粉末は一般的な粉末作成方法により作成される場合があり、その一般的な粉末作成方法の中で粉末冶金やゾルゲル法等の液体の工程について言及されるかもしれない。
【0036】
ゾルゲル法によれば、その粉末は有機溶剤もしくは水溶性の溶剤を構成する溶媒に添加された分子の金属の前駆体から得ることができる。これら分子の金属の前駆体は、その粉末の組成物である酸化物セラミックの組成に使用を意図される金属の元素を含む。これらの前駆体は、金属アルコキシド又は金属塩の場合がある。有機溶媒を構成する溶媒は一般的にアルコール性の溶媒であり、この溶媒の機能は分子の前駆体を溶解させることにある。この溶媒は水溶性の溶媒である場合がある。
【0037】
この技術を使用すると2つの方法が予想される。
―重合の方法
及び
―コロイドの方法
重合の方法によれば、前記の有機溶媒に分子の前駆体を溶解することにより得られた溶液は、一般的に水溶性の酸もしくは塩基の添加により加水分解させられ、それにより上述の前駆体が濃縮しゲルを形成する、つまり、1つの固体で無定形の3次元ネットワークが有機溶媒を捕捉するのである。
【0038】
以下のステップはそのゲルを乾燥させ、その結果結晶格子の間の溶媒を除去し、この後乾燥ゲル(乾膠体)が再生させられ、もし後者が粉末以外の形状の場合、この乾膠体を製粉する任意の方法が続く。得られる粉末の性質によって、その乾燥の後に、焼成ステップのような熱処理ステップを行い、残存するかもしれない有機化合物の残存物を除去したり、また、アニ―リングステップのような熱処理ステップを行い、所望の結晶系でその粉末を結晶化するようにする必要がある場合がある。
【0039】
コロイドの方法によれば、その上述の分子の前駆体を可溶化もしくは溶解させることにより得られたその溶液は、加水分解され小さな酸化物の粒子の分散を形成する。次に、その溶媒が蒸発させられ、その得られた酸化物の粒子が焼成され、この後所望の酸化物の粉末が得られる。
【0040】
好適には、その粉末はゾルゲル溶液から作成され、そのゾルゲル溶液にはその粉末が引き続いて分散してその分散を形成する。
【0041】
ゾルゲル法の一部を成す改良型は、その酸化物セラミック粉末を水溶性の溶媒に懸濁又は溶解している前駆体に高温及び/又は高圧下で熱を加えることにより酸化セラミック粉末を作成する。その前駆体は大抵金属塩、金属酸化物、有機金属化合物の金属のような無機物の化合物である。それらは大抵はオードクレーヴ内にて攪拌を伴いながら水の沸点よりも高い運転温度で水溶性の溶媒と接触させられる。
【0042】
この温度が選択されることにより上述の前駆体を分解し、所望の酸化物セラミック粒子の形成反応を起こすことができる。この加熱はことによると数分〜1時間以上の時間続けられるかもしれず、その間その圧力と温度は一定に保たれている。この時間の経過後、その加熱は止められ、その温度と圧力はそれぞれ室温と常圧に戻される。次に、酸化物の粉末形状であるその産物が例えば濾過等により再生させられる。この技術は一般的に水熱法(hydrothermal technique)と呼ばれる。
【0043】
本発明の状況の中で使用されたその粉末は、好適には平均粒径が10〜100μmの範囲である。その粒子が上述のゾルゲル溶液に取り込まれる前に、それらは例えば摩滅フライス削りなどによる粉砕ステップを経て、さらに細かい粒子が得られる。
【0044】
その粉末が分散したその酸化物セラミック前駆体の溶液は、その名が示す通りにゾルゲル法により、さらに正確には、有機溶媒中の1つ又はそれ以上の上記で特定される分子の前駆体を可溶化または溶解させることにより得られる。
【0045】
本発明によれば、その粉末はその分散の総量に関連して上限80重量%、望ましくは10〜60重量%の含有量でゾルゲル溶液に取り込まれる場合がある。この取り込まれる粉末の含有量は、所望の厚さにより当業者によって容易に選択される場合がある。
【0046】
この作成された分散は、次に(上で説明された)液体の工程により上述のような基板に層の形状で蒸着させられる。この蒸着率は、その層の所望の厚さによって選択される。大抵蒸着される各層の厚さは0.05〜15μmの範囲である。
【0047】
浸漬被覆(dip coating)の場合、被覆される基板は事前に作成された分散に浸漬させられ、所定の割合で引き上げられる。その引き上げの割合は一般的に1〜30cm/minである。スピン・コーティング(spin coating)、層流コーティング(laminar-coating)、及び、浸漬被覆(dip coating)などの液体での蒸着の技術は蒸着される層の厚さを正確に制御できる利点を有する。
【0048】
この蒸着のステップは1回又はそれ以上の回数繰り返され、少なくとも2以上の層、例えば50層までを成す多層構造のフィルムを得る。この繰り返しのステップの回数は1μmより厚くすることができる所望の多層構造のフィルム膜の厚さによって当業者によって設定される。
【0049】
本発明の工程は前記の層を熱処理することによるセラミック化を含んでいる。これは、いわば上述の分散で行われた熱処理のステップであり、ゾルゲル溶液を相応するセラミックに変換する目的で行われる。
【0050】
第1の選択肢によると、その熱処理は層ごとに行われる場合がある。この場合、その熱処理は一般的に連続して以下のステップを含む。
―前記の層のゲル化を引き起こすことに適した温度でその層を乾燥するステップ、
―その層の中の有機物質を除去するのに適した温度における焼成のステップ、
及び、
―その層を酸化物セラミックとして結晶化することに適した温度でアニ―リングするステップ。
【0051】
この熱処理は蒸着された夫々の層で繰り返される、言い換えれば蒸着された層が存在するだけ何度も繰り返される。本発明によれば、この熱処理はその全体の多層構造のフィルムをアニ―リングするステップでもって完遂されうる。
【0052】
第2の選択肢によれば、その熱処理は以下のように行われる場合がある。
―蒸着された夫々の層を乾燥するステップ、
―蒸着された夫々の層を焼成するステップ、
及び
―n個の蒸着された層全てをアニ―リングするステップで、nの範囲は2〜蒸着された層の総数である。
【0053】
どの選択肢が考えられようと、その乾燥は大抵100℃以下の温度にて行われる。この乾燥はゾルゲル溶液の中のその前駆体を近接させ、凝結させてゲルを形成させる。この凝結の間、アルコールや炭酸塩などの有機物質が遊離される。
【0054】
その焼成のステップは、その分子の前駆体の凝結から生ずる有機及び/又は無機の物質の除去を意図しており、大抵は300℃以上の温度、アルコールのような有機物質の場合は例えば340〜380℃、存在するかもしれない炭酸塩を除去するためには例えば380〜400℃の範囲の温度にて行われる。最後に、そのアニ―リングステップは一般的に550℃以上の温度にて行われ、それらの層を結晶化する。
【0055】
一度その多層構造のフィルムが生成されると、発明に係る工程は酸化物セラミックの前駆体としてのゾルゲル溶液(前記の粉末を含まない溶液)でその完成した多層構造のフィルムを浸透するステップを設けており、第1のステップで使用された前記溶液は上述の蒸着ステップでの持続的な分散媒と同一のタイプもしくは異なるタイプであり、この浸透のステップは1回またはそれ以上繰り返される。この前駆体の溶液は、持続的な分散媒として上述の蒸着のステップで使用されたタイプと同一かもしくは異なるタイプである場合がある。
【0056】
この浸透のステップは、1回もしくはそれ以上繰り返される。当業者は浸透のステップの回数を決定し、それにより可能な限り最少の粗さを有する表面の仕上がりを得る。例えば当業者はこれらの浸透の後に浸透の回数を設定し、浸透していない多層構造のフィルム膜と比較して、表面形状測定装置で測定した場合で10倍まで減少した多層構造のフィルム膜の表面の粗さを得ることとなる。これらの浸透のステップは、上述の技術、望ましくは浸漬被覆(dip coating)を用いて液体の工程で行われる。
【0057】
浸透された多層構造のフィルム膜は、その後熱処理され、その多層構造のフィルム膜を浸透している前駆体のゾルゲル溶液が相応する酸化物セラミックに変換させられる。
【0058】
第1の選択肢では、その熱処理は各浸透処理のステップの終わりに行われる場合がある。この場合、それは大抵100℃以下の温度で行う乾燥のステップを含み、続いて、300度以上の温度にて行われ、有機物質や溶液からゲルへの変換でことによると生じた炭酸塩を除去することを意図した焼成のステップ、大抵最後に酸化物のセラミックを結晶化することを意図したアニ―リングのステップが行われ、このアニ―リングステップは大抵500℃以上の温度にて行われる。
【0059】
第2の選択肢では、その熱処理は以下のステップを連続で含む。
―各浸透における乾燥のステップ、
―各浸透における焼成のステップ、
及び、
―全てのm浸透でのアニ―リングステップであり、mは2〜浸透の総数までの範囲である。
【0060】
特に有用な圧電性の特徴を有するセラミック材料は、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、亜鉛ニオブ酸鉛チタン酸鉛(PZNT)、ニオブ酸マグネシウム鉛(PMN)、チタン酸鉛(PT)、ニオブ酸カルシウムカリウム、チタン酸カリウムビスマス(BKT)、ストロンチウムビスマスチタン酸塩(SBT)、及び、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)であり、PZTは特にPbZrTi(1−X)を満たし、Xは0.45〜0.7である。それゆえ発明の工程は、PZTの圧電性コーティングの設計に極めて自然に適用される。
【0061】
特に好適な浸透の方法の1つによれば、粉末に関して分散の溶媒として機能するそのゾルゲル溶液が、浸透のステップの為の分散の溶媒やことによるとその粉末を作成する為のゾルゲル溶液として使用される。
【0062】
好適には、その粉末に関して分散の溶媒として機能するゾルゲル溶液と、場合によっては浸透のステップの為のゾルゲル溶液と、場合によってはその粉末作成用のゾルゲル溶液とが、連続する次のステップによって得られる場合がある。
―PZTセラミックの前駆体としてのゾルゲル溶液が、ジオール溶媒を含む有機溶媒中にて作成されるステップ、
―上記で作成されたゾルゲル溶液は、時間経過につれて実質的に一定のままで残る粘性を有するゾルゲル溶液を得るために必要とされる十分な時間の間、置かれる(stand)ステップ、
及び、
―かくして得られたゾルゲル溶液が、第1の段階で使用されたゾルゲル溶液と同一、もしくは、第1の目的で使用されたジオール溶媒と混和性であり異なる、ジオール溶媒で所定の希釈レベルまで希釈されるステップ。
【0063】
この工程では、ゾルゲル溶液が安定化される(置く(standing) ステップに該当する)ステップを有するという利点がある。このゾルゲル溶液の安定化は、特に第1の段階で作成されたゾルゲル溶液を適する時間の間、攪拌せずに室温に置き、前記溶液の粘性を安定化するという事実に依拠する。このステップは、前記の溶液を成熟させるということに相当する。
【0064】
これらの成熟段階の間、その溶解した分子の金属の前駆体(鉛、チタニウム、ジルコニウムを基礎とした前駆体)は凝結し、平衡状態に達するまで重合する。時間の経過である値の定数に達する、つまりその平衡状態が達成される時まで、この重合がそのゾルゲル溶液の粘性上昇の証拠となる。
【0065】
本発明によれば、この成熟化段階に続いて希釈が行われるが、この希釈はその生じたゾルゲル溶液の粘性を決定的に調節する効果を有し、そのため同じ操作条件下で産生されたゾルゲル溶液から層の蒸着の再現性、及び、層の蒸着の再現性を、この工程で得られたゾルゲル溶液の安定性により保証する。
【0066】
この工程において、まず、鉛、チタニウム、ジルコニウムの1つまたはそれ以上の分子前駆体を、ジオール溶媒を含む有機溶媒中で一つにすることにより、PZTセラミックの前駆体としてのゾルゲル溶液が作成される。例えば、そのようなゾルゲル溶液を製造する特別な方法の1つは、チタニウムとジルコニウムを基礎として混ぜ合わせたゾルゲル溶液が加えられているジオール溶媒において、このジオール溶媒中にて鉛を基礎とする分子の前駆体を可溶化することにより、鉛を基礎とするゾルゲル溶液の作成することを含む。
【0067】
前記混ぜ合わせたゾルゲル溶液は、プロパノールのような脂肪族アルコールの場合のように、前記のジオール同一のジオール、または前記ジオールと相容れることができる溶媒、つまり前記のジオールと混和することができる溶媒中にて、ジルコニウムを基礎とした分子の前駆体を可溶化することにより作成することができる。
【0068】
鉛を基礎とするゾルゲル溶液を最初に化学量(stoichiometry)に関して、〜10%過剰とするのが好ましい。この前記ゾルゲル溶液の混合液は、その反応液の沸点に近い温度にて攪拌を伴いながら還流するという方法が取られる場合がある。好適には、その還流は一緒に混ぜ合わされるゾルゲル溶液の均一性を担保する。
【0069】
好ましくは、分子の金属の前駆体に基づいたゾルゲル溶液の作成に用いられるジオール溶媒は、炭素数が2〜5の範囲のアルキレングリコールである。この種の溶媒は、特にキレート剤として機能し、鉛、そしてここにおいて適切なチタニウムとジルコニウムの配置圏を満たすことによって、その金属の前駆体の可溶化を容易とするのに役立つ。
【0070】
本発明を実施するある特別な方法によれば、その使用されるジオール溶媒は、エチレングリコールである。本発明によれば、その鉛、チタニウム、ジルコニウムを基礎とした前駆体は各種からなるが、市販されており、且つ、安価な前駆体が望ましい。
【0071】
例を挙げるために、鉛の前駆体として酢酸のような有機体の鉛塩、塩化物のような鉱物鉛塩、炭素数を1〜4の範囲で有するアルコラートのような有機金属化合物を使用することができる。望ましくは、その使用される亜鉛の前駆体は、酢酸鉛3水和物のように水和された有機塩である。この前駆体は、安定であるという利点を有し、容易に手に入れることができ、且つ、安価である。
【0072】
しかしながら、そのような水和された前駆体が使用された場合、後者を脱水させるのが望ましい。というのも、そのゾルゲル溶液を伴う攪拌の場合、水の存在によりその金属の前駆体の不完全な成熟が起こり、続いて重合が行われてしまうからである。この攪拌のステップから生じるものは、もはやチタニウム、ジルコニウム、鉛を基礎とする攪拌されたゾルゲル溶液ではなく、反応液産物はゲルではあるが、このゲルを蒸着させてフィルム形状に製造することは困難である。
【0073】
例えば、この酢酸鉛3水和物は、そのゾルゲル溶液を混ぜ合わせることに使用されるジオール溶媒中の酢酸鉛3水和物を蒸留することで脱水させられる場合がある。好ましくは、そのチタニウム前駆体は、チタンイソプロポキシドのようなアルコキシドである。同様に、そのジルコニウム前駆体は、好ましくはジルコニウムn−プロポキシドのようなアルコキシドである。
【0074】
留意すべきことは、この第1のステップの後に20%以上、好ましくは約20%〜40%、例えば26%前後のPZT質量当量濃度を有するゾルゲル溶液が得られることである。その濃度がPZTの質量の当量で表現されることに注目すべきである。いわば熱処理の後にそのゾルゲル溶液の全質量に比例して得られるセラミックを重量パーセントとしたものである。
【0075】
次に、そのゾルゲル溶液は、「成熟」のステップを経る、発明の第1のステップ後に得られる。上述のようにこの期間は、そのゾルゲル溶液を時間が経過するにつれてその粘性が一定になるまで置くことを含む。好適には、第1のステップの間に得られたゾルゲル溶液は、攪拌を伴わない状態で1日〜5週間の間、室温に置かれる。
【0076】
一度そのゾルゲル溶液の観察された粘性が安定化させられると、前記ゾルゲル溶液は希釈させられ、それにより事前に作成された低濃度のゾルゲル溶液が得られる。この溶液により後でそのゾルゲル溶液を使用することが特に容易にする。かくして20%以上のPZTの質量当量濃度を有するゾルゲル溶液からスタートし、そのゾルゲル溶液が希釈されて例えば1−20%のPZTの質量当量濃度を有するゾルゲル溶液を得るという場合がある。
【0077】
例えば、26%の濃度の溶液、工程の第2のステップで生じる前記ゾルゲル溶液からスタートすると、そのゾルゲル溶液を希釈して、20%のPZTの質量当量濃度を有するゾルゲル溶液を得ることが可能である。所定のレベルにまで希釈することにより、一方ではその粘性を任意の値に調節でき、他方ではこのゾルゲル溶液を使用して特に層の形状で蒸着させることができる。
【0078】
本発明によれば、この希釈溶液は濃縮されたゾルゲル溶液を作成する溶液と相容れることができなければならない。それは、前記ゾルゲル溶液を作成するための溶液と同一か、もしくは異なる場合があり、望ましくは脂肪族の単一アルコールから選択される。
【0079】
そのPZTの粉末は好適にはゾルゲル溶液から作成され、その作成は以下に説明される。粉末をゾルゲル溶液等から得るには、上で説明したようなステップ、つまり、
―ゾルゲル溶液を加水分解することによってゲル化するステップ、
―乾燥ステップ、この後に乾燥ゲル(乾膠体)が得られ、
及び、
―熱処理のステップ、その乾燥ゲル(乾膠体)を結晶化する。
【0080】
本発明によれば、その作成された分散は次に層の形状で基板に蒸着される。この蒸着は、スピン・コーティング、層流コーティング(laminar-coating)、浸漬被覆(dip coating)、Doctor Blade法によるコーティング(doctor-blade coating)、望ましくは浸漬被覆(dip coating)のような液体の工程により行われる。この蒸着操作は1回またはそれ以上繰り返され、所望の厚さを有する多層構造のフィルムが得られる。
【0081】
本発明によれば、この蒸着された層は熱処理されてぺロブスカイト(灰チタン石)系で結晶化したPZTからなる多層構造のフィルムが得られる。この熱処理は様々な方法で行われる場合がある。
第1の選択肢では、その熱処理は以下のステップを含む。
―前記の層のゲル化を引き起こすのに適した温度、一般的に100℃以下である温度にてその層を乾燥するステップ、
―その層の中にある有機物質を除去するのに適した温度における焼成のステップ、
及び、
―その層を酸化物のセラミックとして結晶化するのに適した温度におけるアニ―リングのステップ。
【0082】
この熱処理は蒸着された各層で繰り返される、すなわち蒸着された層の数分繰り返される。最終的な熱処理が多層構造のフィルム膜の全体がアニ―ルされるステップにより行われる。
【0083】
第2の選択肢では、そのセラミック化は次の態様で行われる。
―蒸着された各層を乾燥するステップ、
―蒸着された各層を焼成するステップ、
及び、
―蒸着されたそのn個の層全てをアニ―リングするステップで、nの範囲は2〜蒸着された層の総数である。
【0084】
考えられた選択肢がどれであっても、その乾燥は前記の蒸着された層がゲル化することを確実にすることを意図している。更に正確には、このステップはそのジオール溶媒のいくらかを蒸発させることと、連続的な分散媒として機能してゾルゲル溶液の作成に使用されるその希釈溶液の幾分かを蒸発させることとを意図している。この効果的な温度と乾燥を確実にするための持続時間は、当業者により例えば赤外線(IR)分光測定を使用して容易に決定される。
【0085】
一度それらの層がゲル化すると、それらの層はゲル形成の間に渡ってその凝縮反応液から生ずる有機物質を除去することに適した時間の間、ある温度で焼成の処理が行われる。その焼成の温度が選択されることで、その蒸着された層から有機化合物を除去、特にゾルゲル溶液を作成し希釈する為の溶媒から分子の前駆体の間において反応により生成した有機化合物を除去する。
【0086】
適温とは、炭素の種類に相当する吸収帯をもはや含まない赤外線スペクトルを有する層の温度である。発明を実施するこの特別な方法では、その焼成のステップは300〜390℃にて1〜30分行われる場合がある。
【0087】
最後に、一度焼成されたそれらの層にはアニ―リングステップが行われる。このステップの目的はぺロブスカイト(灰チタン石)系で結晶化したPZTの層を得ることである。そのアニ―リングの温度と持続時間は、X線構造解析などの構造解析により容易に確認できる結晶化を得るように選択される。好ましくは、このアニ―リングステップは600〜800℃で1分〜4時間の間行われる。
【0088】
このアニ―リングは各種の技術を使用することで実施される場合がある。例えば、そのアニ―リングは従来の加熱炉などでRTA(急速な熱アニール:Rapid Thermal Annealing)により行われる場合がある。
【0089】
一度その多層構造のフィルム膜が結晶化すると、フィルムは、好適には連続の分散媒を形成するために使用されたものと同じ方法で作成されたゾルゲル溶液で浸透させられる幾つかのステップに供される。これらの浸透のステップは、上述した液体での蒸着の技術、最も好適には浸漬被覆(dip coating) ような液体の蒸着の技術により実施される。
【0090】
次に、浸透させられたその多層構造のフィルムは、その多層構造のフィルムに浸透するゾルゲル溶液をセラミック化する意図で熱処理される。この熱処理は、上述した一般的な態様における熱処理に近しい。好適には、この浸透のステップは浸漬被覆(dip coating)によって行われる。
【0091】
かくして安定したゾルゲル溶液を採用する、PZTに適用した本発明の工程により、圧電定数が600pC/Nといったような優れた特徴を有する圧電性材料を得ることができる。
【実施例】
【0092】
本発明の主題は、上記に定められた工程により得ることが可能な圧電性の酸化物セラミック材料でもある。ここでこの発明は本発明の1つの特別な実施例に関して説明されて図面が与えられるが、これらはなんら本発明を制限するものではない。
【0093】
<実施例1>
この実施例は本発明の工程に係るPZT圧電性材料の作成について説明する。この実施例では次のものが連続で作成される。
―組成式がPbZr0.52Ti0.48であるセラミックの前駆体としての安定的なゾルゲル溶液。
―組成式がPbZr0.52Ti0.48のセラミックの粉末。
―上記で定められたセラミックの粉末と上記で定められた安定的なゾルゲル溶液とを含む分散。
1)組成式(PbZr0.52Ti0.48)のPZT酸化物セラミックの前駆体としての安定的なゾルゲル溶液の作成
【0094】
この部分は鉛を基礎とする前駆体、すなわち酢酸鉛とチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体からアルコキシドの形状で式(PbZr0.52Ti0.48)のPZTのセラミックの前駆体としての溶液を作成することについて説明する。
【0095】
使用されたジルコニウムアルコキシドとチタニウムのアルコキシドは、プロパノール中に70重量%でジルコニウムn―プロポキシドを含む、市販されている溶液と、チタン酸テトライソプロピルであった。酢酸鉛は3水和物の形であった。
【0096】
その粘度はキャピラリーチューブの粘度計または回転シリンダーの粘度計を使用して20℃付近にて測定された。実施のこの特別な方法によれば、そのゾルゲル溶液の作成は脱水された鉛を基礎とするゾルゲル溶液を作成するといった予備的な段階を含んでいた。
a)脱水した鉛を基礎とするゾルゲル溶液の作成
【0097】
丸底フラスコに検量されて蒸留の試料台の上に置かれたのは、酢酸鉛3水和物751.07g(1.98mol)と、エチレングリコール330g(5.32mol)であった。その混合液は70℃付近にて均一化され、酢酸鉛が溶解された。その得られた均一の溶液の温度は、次に上昇させられて鉛を基礎とする前駆体が蒸留によって脱水させられた。蒸留したうちの120gが収集され、そのゾルゲル溶液の鉛の濃度は2.06mol/kg付近とされた。
b)式PbZr0.52Ti0.48のセラミック前駆体としての安定的なゾルゲル溶液の作成
【0098】
その作成は、アルゴン流下でチタン酸テトライソプロピル225.13g(0.792mol)をnプロパノール264g(330ml)に加えられて始まり、
続いて、n−プロパノール中に70重量%でジルコニウムn―プロポキシドを含む溶液401.52g(0.858mol)、次にエチレングリコール458.7g(412.5ml)が続いて加えられた。その混合液は攪拌をともなって室温で20分置かれた。
【0099】
フィルムの熱処理の間に失う酸化鉛(PbO)を補完する為に10%ほど余剰に有している、事前に用意された鉛の前駆体ゾルゲル溶液1.815molが、3又試験管で検量された。そのTi/Zrを基礎とするゾルゲル溶液は、次にアルゴン流下にて激しく攪拌(600r.p.m)されながら素早く加えられた。この添加の終わりに、乾燥ガードを載せている濃縮器がぴったりと取り付けられてアルゴン流が止められた。
【0100】
そのフラスコは加熱しながら2時間(101℃)還流させられた。その温度上昇の間、その攪拌は250r.p.mに下げられた。還流後、PZTの当量濃度が26%付近の濃縮され混合されたゾルゲル溶液が得られた。この混合ゾルゲル溶液は、時間経過で粘度定数を得るまで攪拌をともなわずに室温で維持された。この実施例では、この濃縮された混合のゾルゲル溶液は攪拌をともなわずに1週間室温で維持された。その濃縮された混合のゾルゲル溶液は、次にPZTの当量濃度が20%、すなわち、0.75Mの濃度となるまでエチレングリコールにて希釈された。
【0101】
希釈後に得られたそのゾルゲル溶液では、(20℃で測定された)初期の粘度が33.4センチポアズであった。このゾルゲル溶液の粘度は、その12ヶ月後に再度測定された。33.25センチポアズの粘度が測定された(行った測定は1回目の測定と同条件である)、すなわち、ほとんど無視できるほどの僅かな変化であった。結論としてその溶液は、その期間の間になんらの化学的変化をしておらず、長期間完全に安定ということである。
2)チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)粉末の作成
【0102】
その作成は、ポイント1)で作成されたPb1.1Zr0.52Ti0.483+εのゾルゲル溶液60gを塩基性(pH=10)アンモニア水溶液20gと攪拌しながら混合することにより開始された。その混合液は、オーブン(80℃)で30分間置かれた。ゲルが得られ、次に200℃で6時間加熱された。この加熱後に黄色い固体が得られ、これが最初に臼にて挽かれ加熱炉にて700度で4時間焼成された。
3)分散の作成
【0103】
その事前に作成された粉末は、ポイント1)にて作成されるPZTのゾルゲル溶液と混合される前に、前もって臼にて挽かれる。この比率は、50/500(質量)である。この得られた分散は20分間攪拌を伴って超音波にて分解され、それにより粒子サイズが減らされ、分散が均一化させられた。次にこれら全ては少なくとも1日間は攪拌された。
4)分散の蒸着
【0104】
弾性のステンレス鋼の基板(寸法6×3cm、厚さ200μm)が使用された。この基板は事前に石鹸で洗浄されて水とエタノールでリンスされた。この基板は支持体に結合させられて片面を保護する。
【0105】
この蒸着は浸漬被覆(dip coating)を使用して行われた。この基板は1分間浸され、10cm/分の速さで引き上げられた。その支持体から完全に離れた後、そのフィルムは50℃のホットプレート上に5分間置かれ、次に360℃で5分置かれた。この溶液は各蒸着の間で攪拌が維持された。その攪拌は浸漬被覆(dip coating)の間は止められた。5つの連続的な層が蒸着された後、600℃、10分間で加熱炉内での処理が行われた。10つの層から成る最終的な多層構造のフィルムは700℃、4時間で処理された。
5)その多層構造のフィルムの浸透
【0106】
多層構造のフィルムを浸透するために、ポイント1)で説明されたように作成されたゾルゲル溶液が使用された。その基板はその溶液に約1分間浸された。その浸透は浸漬被覆(dip coating)により行われ、引き上げの割合は5〜10cm/分であった。引き続いて夫々の浸透は50℃、5分→360℃、5分→388℃、10分で加熱された。
【0107】
この加熱処理は片面に生成されたそのコーティングに対してホットプレート上にて行われた。4回の浸透の後、600℃、10分の処理が(ホットプレート上で、加熱炉の中で)行われた。その操作はフィルムの明白な飽和状態が得られるまで繰り返された。浸透は表面形状測定装置によってそのフィルムの粗さが10倍減少したことが測定された場合に終了すると考えられている。この実施例では17回の浸透が行われた。その多層構造のフィルムは最終的に700℃で4時間アニ―リングされた。そのフィルムの総合的な厚さは35μmであった。
6)εとd33の測定
【0108】
εとd33の測定するため、得られたそのフィルムはアルミニウムを用いてスパッタリング法もしくは蒸着法により厚さ4000Åで蒸着されて金属化させられた。
【0109】
比誘電率は、誘電率を測定する装置(HP4284)を使用して0V、10kHz及び30mvにて測定された。その帯電定数はフィルムを90℃のオイルバスで6〜9kV/mmで分極化させた後に測定された。その結果は以下の表に与えられる。
ε=81
33=600pC/N
<比較実施例>
【0110】
その粉末は、実施例1のように作成された。
1)分散の作成
その粉末は実施例1で作成されたようなPZT前駆体溶液と混ぜ合わされる前に臼で前もって挽かれた。その比率は重量で50/50であった。その分散は攪拌を伴いながら20分間超音波にて分解され粒子サイズが減らされ、溶液が均一化された。これら全てはその後少なくとも1日間攪拌された。
2)圧電性材料の形成
【0111】
弾性のステンレス鋼基板(寸法6×3cm、厚さ200μm)が使用された。これは事前に石鹸で洗浄され、水そしてエタノールでリンスされた。この基板は支持体に結合され片面を保護する。
【0112】
分散の層は、浸漬被覆(dip coating)の技術により蒸着された。これを行う為、その基板が1分間、事前に用意されたその分散に浸され、次に10cm/分の割合で引き上げられた。その層で被覆された基板は、次に50℃のホットプレートに5分間置かれ、次に360℃で5分間置かれた。
【0113】
その処理された層は、浸漬被覆(dip coating)により、ポイント1)で説明されたように作成されたゾルゲル溶液を使用して浸透させられた。これを行う為、その層は1分間その溶液に浸され、次に5〜10cm/分の範囲の割合で引き上げられた。その浸透の操作は2回繰り返された。
【0114】
それぞれの浸透の後、材料が50℃で5分間、次に360℃で5分間加熱させられた。この3回の浸透の後、その材料は388℃で10分間、次に600℃で10分間加熱させられた。この層の蒸着/浸透のサイクルが4回繰り返された。5つの層から成る、この最終的な多層構造のフィルムは、最後に700℃で4時間アニ―リングされた。
【0115】
同時に、他の試行が行われ、それぞれの層が4回浸透された2つの層から成る多層構造のフィルムを得た。
3)εとd33の測定
【0116】
εとd33を測定するために、得られたそのフィルムはアルミニウムを用いてスパッタリング法もしくは蒸着により厚さ4000Åで金属化させられた。この誘電率は、誘電率を測定する装置、HP4284を使用して0V、10kHz及び30mvにて測定された。
【0117】
その帯電定数は、そのフィルムを90℃のオイルバスで6〜9kV/mmで分極化させた後に測定された。その結果は以下の表に与えられる。
−それぞれの層毎に3回の浸透をした、5つの層からなる多層構造のフィルムについて
ε=141
33=25pC/N

−それぞれの層毎に4回の浸透をした、2つの層からなる多層構造のフィルムについて
ε=206
33=5pC/N
【0118】
これはつまり、その浸透が層ごとに行われた場合、その圧電性の特性は、実施例1で実際に行われたような、全部の多層構造のフィルム膜に行われた浸透時に得られる圧電性の特性よりもかなり劣ることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0119】
発明の工程は、従来技術の工程の数多くの問題点、特に上記非特許文献2に起因する問題を克服することが可能となる。この理由としては、1枚1枚ではなく、全体の多層構造をゾルゲル溶液にて浸透することが挙げられ、これが非常に従来技術を簡素化することに役立っている。加えて、著者らは発明の工程によって得られた材料の圧電性の特徴が非常に改良されていることを実際に示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する以下のステップを含む1つまたはそれ以上の圧電性の酸化物セラミックに基づいて材料を作成する工程、
a)酸化物セラミックの前駆体として、酸化物のセラミックの粉末とゾルゲル溶液とを有する分散の層を液体に関する方法によって基板の少なくとも1つの面に蒸着するステップで、前記酸化物セラミック粉末は圧電性であり、及び/又は、前記ゾルゲル溶液が圧電性で酸化物のセラミック前駆体であり、
b)ステップa)を1回またはそれ以上繰り返し、少なくとも2つの層から成る多層構造のフィルムを得るステップ、
c)前記の層を熱処理し、相当するセラミックに変換するステップ、
d)ステップc)で得られた多層構造のフィルムを、ステップa)で使用されたゾルゲル溶液と同一または異なるゾルゲル溶液で浸漬被覆(dip coating)することにより浸透するステップ、
e)ステップd)を1回またはそれ以上繰り返すステップ、
及び
f)前記多層構造のフィルムを熱処理して、その多層構造のフィルムを浸透させているゾルゲル溶液を相当するセラミックに変換するステップ。
【請求項2】
基板がステンレス鋼、ニッケルを含む鋼、白金で任意にメッキされたシリコン、アルミニウム、アルミナ、チタニウム、またはカーボンから選択される材料であることを特徴とする請求項1記載の工程。
【請求項3】
ステップa)の前に、その基板の片面または両面に障壁層の蒸着を含み、この障壁層が二酸化珪素(SiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ジルコニウム(ZrO)、アルミナ(Al)、酸化チタン(TiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)およびこれらの組合せから選択される材料から成る層であることを特徴とする請求項1または2に記載の工程。
【請求項4】
酸化物セラミック粉末が、その分散の総重量に対して可能性としては80%重量までの含有量でその分散中に存在することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の工程。
【請求項5】
酸化物のセラミック粉末が、その分散の総重量に対して10〜60%重量の含有量でその分散に存在することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の工程。
【請求項6】
酸化物セラミック粉末の粒子直径の平均が10nm〜100μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の工程。
【請求項7】
ステップa)の蒸着が浸漬被覆(dip coating)によって行われることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の工程。
【請求項8】
ステップc)で行われる熱処理が連続的に以下のステップ:
前記層のゲル化を引き起こす為に適した温度で蒸着した夫々の層を乾燥するステップ、
その層の中にある有機物質を除去することに適した温度で蒸着した夫々の層を焼成するステップ、
及び
その層を酸化物のセラミックとして結晶化することに適した温度で蒸着した夫々の層をアニ―リングするステップ、
を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の工程。
【請求項9】
ステップc)で行われる熱処理が連続して以下のステップ:
前記層のゲル化を引き起こすことに適した温度で蒸着した夫々の層を乾燥するステップ、
その層の中にある有機物質を除去することに適した温度で蒸着した夫々の層を焼成するステップ、
及び
蒸着されたn個の全ての層(nは2〜蒸着された層の総数)をアニ―リングするステップで、前記アニ―リングがその層を酸化物のセラミックとして結晶化することに適した温度で行われるステップ、
を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の工程。
【請求項10】
圧電性の酸化物セラミック材料が、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)、亜鉛ニオブ酸鉛チタン酸鉛(PZNT)、ニオブ酸マグネシウム鉛(PMN)、チタン酸鉛(PT)、ニオブ酸カルシウムカリウム、チタン酸カリウムビスマス(BKT)、及び、ストロンチウムビスマスチタン酸塩(SBT)から選択される材料であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の工程。
【請求項11】
圧電性の酸化物セラミック材料がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)であることを特徴とする請求項10記載の工程。
【請求項12】
PZT前駆体のゾルゲル溶液がステップa)の分散がステップc)の浸透に使用されるゾルゲル溶液と同一であることを特徴とする請求項10記載の工程。
【請求項13】
ステップa)で使用された分散のPZT前駆体のゾルゲル溶液と、ステップc)の浸透に役立つPZT前駆体のゾルゲル溶液とが、連続する以下のステップ:
PZTセラミックの前駆体としてのゾルゲル溶液がジオール溶媒を含む有機溶媒中にて作成されるステップ、
上記で作成された溶液が、時間が経つにつれて実質的に一定のままで残存する粘性を有するのに必要で十分な時間の間、置かれるステップ、
得られたその溶液が次に第1のステップで使用されたジオール溶媒と同一のジオール溶媒、または、作成段階で使用されたジオール溶媒と混和性である異なるジオール溶媒、で所定のレベルまで希釈されるステップ、
から生じることを特徴とする請求項12記載の工程。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の工程によって得ることが可能な1つまたはそれ以上の圧電性のセラミックに基づく材料。

【公表番号】特表2008−504672(P2008−504672A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516015(P2007−516015)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050453
【国際公開番号】WO2006/003342
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】