説明

圧電振動デバイス

【課題】圧電振動板の保持において、導電接合材の塗布量を増やすことなく必要な保持強度を得ることができ、小形化されても短絡などの危険性がない信頼性の高い圧電振動デバイスを提供する。
【解決手段】有底の収納部に導電パッド12、13が形成された段部と、前記収納部と段部を囲む堤部とを有するセラミック多層基板1に、圧電振動板2が導電性接合材Dを介して前記導電パッド上面に保持されてなる圧電振動デバイスであって、前記導電パッドは、外部端子と接続される基部121、131と圧電振動板の端部近傍が接続される保持部122、132を有しており、前記基部の上面で、堤部に近接した一部の領域には、前記導電性接合材のぬれ性を低減させる膜Aが被覆されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はセラミック多層基板を用いた圧電振動デバイスに関するものであり、特にはんだなどの導電接合材によって圧電振動板を保持する導電パッドの構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
気密封止を必要とする圧電振動デバイスの例として、水晶振動子、水晶フィルタ、水晶発振器等があげられる。これらはいずれも水晶振動板(圧電振動板)の表面に金属薄膜電極を形成し、この金属薄膜電極を外気から保護するため、気密封止されている。
【0003】
これら水晶応用製品は部品の表面実装化の要求から、例えば、特許文献1に示すような、セラミック多層基板に気密的に収納する構成が増加しており、適切な気密封止方法を選択することにより、良好な気密性を確保することができる。このようなセラミック多層基板は全体として、中央部分に凹形の収納部の形成された直方体形状であり、収納部周囲の堤部の上面には金属シール部が形成されている。収納部内の底部には段部と、当該段部上面に形成された導電パッドが形成されており、ビアにより外部端子へと導かれている。当該導電パッド上に水晶振動板が搭載され、導電接合材により電気的機械的に接続されているとともに、フタを被せて気密封止する。
【0004】
【特許文献1】
特開平9−199972号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
最近においては電子機器のさらなる小型化、軽量化により、圧電振動デバイスも超小型化が求められており、これに伴いパッケージ内部に収納される圧電振動板のサイズも小型化されている。しかしながらパッケージが小さくなると保持領域も小さくなり、耐衝撃性の低下、短絡の危険性が考えられる。特に、導電接合材として、はんだ(鉛錫はんだ等)を用いるものでは、そのぬれ性に伴って、パッケージの導電パッド全体にはんだが広がり、パッケージと圧電振動板との十分な接合強度が確保できず、耐衝撃性が著しく低下する。
【0006】
これは前記導電パッドが比較的大きくかつ導電パッドの上面が平坦であり、はんだが他の導電性樹脂接着剤に比べて電極上面で広がりやすい点にも依存している。これに対する従来の手法として、はんだの塗布量を増やして接合強度を向上させることが考えられるが、近年の小型化パッケージではその保持領域も小さく、短絡の危険性が極めて高くなるといった問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、圧電振動板の保持において、導電接合材の塗布量を増やすことなく必要な保持強度を得ることができ、小形化されても短絡などの危険性がない信頼性の高い圧電振動デバイスを提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は特許請求項1に示すように、有底の収納部に導電パッドが形成された段部と、前記収納部と段部を囲む堤部とを有するセラミック多層基板に、圧電振動板が導電性接合材を介して前記導電パッド上面に保持されてなる圧電振動デバイスであって、前記導電パッドは、外部端子と接続される基部と圧電振動板の端部近傍が接続される保持部を有しており、前記基部の上面で、堤部に近接した一部の領域には、前記導電性接合材のぬれ性を低減させる膜が被覆されてなることを特徴とする。
【0009】
また、特許請求項2に示すように、前記導電パッドは、外部端子へ接続するビアが形成された基部と圧電振動板の端部近傍が接続される保持部を有しており、前記基部は保持部より幅広に形成されてなり、前記基部のビアの一部を含む上面で、堤部に近接した一部の領域には、前記導電性接合材のぬれ性を低減させる膜が被覆されてなることを特徴とする。
【0010】
また、特許請求項3に示すように、前記導電性接合材がはんだであり、ぬれ性を低減させる膜がアルミナ、酸化珪素、酸化クロム、アルミのいずれかであることを特徴とする。
【0011】
また、特許請求項4に示すように、前記堤部を構成する各セラミック層の間には、セラミック多層基板の平坦度を修正するアルミナコートが全周にまたがって形成されており、当該セラミックコートの一部がぬれ性を低減させる膜として構成されたことを特徴とする。
【0012】
また、特許請求項5に示すように、前記導電パッドの基部が、セラミック多層基板の堤部内部にその一部が入り込んだ状態で形成されてなることを特徴とする。
【0013】
また、特許請求項6に示すように、前記導電性接合材がはんだであり、導電パッドの最上面が金で構成されるとともにぬれ性を低減させる膜が銀であることを特徴とする。
【0014】
【発明の効果】
本発明の特許請求項1によれば、表面実装化に対応したセラミック多層基板を用いた構成において、前記導電パッドは、外部端子と接続される基部と圧電振動板の端部近傍が接続される保持部を有しており、前記基部の上面で、堤部に近接した一部の領域には、前記導電性接合材のぬれ性を低減させる膜が被覆されているので、導電性接合材が導電パッドの基部の堤部に近接した領域へ広がらず、電極パッドの保持部に導電性接合材を留めることができる。このため、保持部に留まった導電性接合材が圧電振動板の側壁に導電性接合材が回り込むので、接合強度が向上する。
【0015】
本発明の特許請求項2によれば、上述の作用効果に加えて、導電パッドとして基部より幅狭の保持部を設けることで、圧電振動板が接続される保持部の導電パッドエリアの電極面積を縮小させて、この保持部上面での導電接合材の広がりをなくすので、より一層、電極パッドの保持部に導電性接合材を留めることができる。このため、圧電振動板の側壁に導電性接合材が回り込むのがより一層促進され、接合強度がさらに向上する。
【0016】
また、圧電振動板の接合に寄与しない必要以外の導電接合材は保持部から基部へ流出させ、必要以外の導電接合材が保持部に滞留しないので、不必要な導電接合材の広がりや、圧電振動板への不必要な導電接合材のはい上がりによる圧電振動子の特性の変化、短絡等の不具合をなくすことができる。
【0017】
このように、保持部では、圧電振動板の接合強度を向上させるのに、最適な盛り上がりがなされた状態で導電接合材が塗布される。
【0018】
さらに、幅広の基部にビアを形成しているので、セラミック多層基板の成型時の位置ずれに対応でき、外部端子との確実な導通が施される。前記基部のビアの一部を含む上面で、堤部に近接した一部の領域に、前記導電性接合材のぬれ性を低減させる膜により被覆されているので、当該膜によってビア近傍の表面における機械的強度を補強することができ、しかも、平坦度の低いビア近傍から隔離された保持部で、圧電振動板を傾きを生じさせることなく安定して搭載できる。
【0019】
本発明の特許請求項3によれば、上述の作用効果に加えて、導電性接合材としてはんだを用い、はんだのぬれ性を低減させる膜として、アルミナ、酸化珪素、酸化クロム、アルミにより構成することで、本発明の構成を容易に実現できる。これらの膜は、導電パッドの上部に形成されており、はんだが接合されない材質であるので、導電パッド部分にはんだを留める堤防となり、はんだの溜め込みをよくする。このため、圧電振動板の側壁に導電性接合材が回り込むのがより一層促進され、接合強度がさらに向上する。
【0020】
本発明の特許請求項4によれば、上述の作用効果に加えて、セラミック多層基板の堤部の各層間に隙間を発生させないので、気密封止後にリーク不良が発生しないより気密の信頼性の高い圧電振動デバイスを提供できる。
【0021】
本発明の特許請求項5によれば、上述の作用効果に加えて、セラミック多層基板の成型時に堤部の位置ずれても、電極パッドのあるなしによってセラミック多層基板の各層間に隙間にばらつきを生じさせないので、気密封止後のリーク不良がより一層発生しにくい構成となる。
【0022】
また、前記導電パッドの基部が、セラミック多層基板の堤部内部にその一部が入り込んでいるので、ビアの形成領域を堤部の近傍させ、ビア周辺の機械的強度をさらに向上させることができる。
【0023】
本発明の特許請求項6によれば、上述の作用効果に加えて、導電性接合材としてはんだを用い、導電パッドの最上面を金で構成されるとともにぬれ性を低減させる膜として銀により構成することで本発明の構成を容易に実現できる。銀の膜は、はんだのぬれ性を低減させるが、はんだとも接合されるので、はんだの広がりを抑制した状態で銀の一部と接続されるので接合強度が向上する。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明による第1の実施形態を表面実装型の水晶振動子を例にとり図1〜図4とともに説明する。図1は本実施の第1の形態を示す斜視図であり、収納部に水晶振動板(圧電振動板)を搭載する状態を示している。図2は図1において水晶振動板を搭載した状態における平面図である。図3は図2のX−X線に沿った断面図であり、図4は図3のY−Y線に沿った断面図である。
【0025】
表面実装型水晶振動子は、全体として直方体形状で、上部が開口した凹形の収納部1aを有するセラミック多層基板1と、当該セラミック多層基板の中に収納される圧電振動デバイス素子である水晶振動板2と、図示していないが、パッケージの開口部に接合される金属フタとからなる。
【0026】
セラミック多層基板1に収納される水晶振動板2は、音叉形状をなしており、脚部に形成される励振電極(図示せず)と、基部に形成される各励振電極からの導出電極21、22が形成されている。各導出電極21、22は、後述の導電パッド12、13と電気的機械的に接合される。
【0027】
断面でみてセラミック多層基板1は凹形であり、有底の収納部1aと、収納部周囲の堤部(側壁)10を有している。当該堤部10上面には周状の金属シール部11が形成されている。金属シール部11は、タングステン等からなるメタライズ層と、メタライズ層上に形成される金属膜層とからなる。金属膜層は例えばメタライズ層に接してニッケルメッキ層と、当該ニッケルメッキ層の上部に形成される極薄の金メッキ層とからなる。
【0028】
収納部1aの底部には段部1b、1cを有しており、当該段部上面に導電パッド12、13が形成されている。これらの導電パッドは、基部121、131と水晶振動板が搭載される保持部122、132が形成されている。前記基部は保持部より幅広に形成され、図4R>4に示すように、その一部がセラミック多層基板の堤部10におけるセラミック層の間に入り込んだ状態で形成されている。この基部の中央には、外部端子へ導くビアVが形成されている。保持部122、132は、前記基部の一部から段部の端に沿って、各保持部122、132が延伸している。前記導電パッド、ビアは、セラミック積層技術を用いタングステン等からなるメタライズ層と、メタライズ層上に形成される金属膜層とからなる。金属膜層は例えばメタライズ層に接してニッケルメッキ層と、当該ニッケルメッキ層の上部に形成される極薄の金メッキ層とからなる。
【0029】
前記基部121、131のビアVの一部を含む上面から堤部10に向かう領域に、アルミナコートAが被覆されている。このアルミナコートAは、前記堤部を構成する各セラミック層の間に、セラミック多層基板の平坦度を修正するアルミナコートが全周にまたがって形成されており(他の層間については図示せず)、図4に示すように、当該アルミナコートAの一部が後述したはんだのぬれ性を低減させる膜として構成されている。このため、はんだぬれ性を低減させるだけでなく、セラミック多層基板の堤部の平坦度を修正し、セラミック多層基板の各層間に隙間を発生させないので、気密封止後にリーク不良が発生しないより気密の信頼性の高い構成となる。上述の導電パッド(メタライズ)やアルミナコートは、スクリーン印刷法等により容易に作成できる。
【0030】
そして、水晶振動板2の導出電極21、22と前記導電パッドの保持部122、132とが、導電性接合材としてのはんだDにより電気的機械的接合され、前記金属シール部11上に前記金属フタ(図示せず)を搭載し、この状態で電子ビーム溶接あるいはレーザー等のビーム溶接により金属フタと金属シール部を溶融させ、気密封止する。
【0031】
当該実施の形態においては、前記ビアVと、このビアより大きな寸法でビアを囲って形成される基部121、131は、前記段部のうちセラミック多層基板の角部に最も近接する前記堤部の内壁角11b、11cの近傍に形成されているので、ビア成形時の位置ずれ込みの影響をなくし、確実な外部端子との電気的接続を確保するとともに、ビア近傍の機械的強度の弱さを隣接する2辺の堤部で補うことができる。
【0032】
また、図3に示すように、前記水晶振動板2の厚みをTとし、堤部10からアルミナコートAの幅をW1とし、当該アルミナコートAの端部から導電パッド12、13に搭載された水晶振動板の端部までの幅をW2とした場合、前記W1の寸法を0.1mm以上とすることで、堤部のずれ込みを吸収し、かつ、前記W2の寸法を1/2T〜3/2T(好ましくはTと同じ寸法)程度に設定したときが最も保持強度が向上した。前記W2が1/2Tより小さい場合や、3/2Tより大きい場合は、水晶振動板の側壁にはんだが十分に回り込まず(はんだのフィレットが十分に形成されず)、接合強度が確保できない。
【0033】
次に、本発明による第2の実施形態を表面実装型の水晶振動子を例にとり図5とともに説明する。図5は本発明の第2の実施形態を示す断面図である。なお、基本構成は上記実施の形態と同じであるので、同じ構成部分については同番号を用いて説明するとともに、一部説明を割愛する。本実施の形態においては、上記第1の実施形態に対して、はんだのぬれ性を低減させる膜が異なっている。導電パッドの最上面を金で構成されるとともに導電パッドの基部121、131のビアVの一部を含む上面から堤部10に向かう領域には、金よりぬれ性の低減した銀の膜Gが被覆されている。本形態では、はんだの広がりを抑制した状態で銀の膜Gの一部と接続されるので接合強度が向上する。
【0034】
次に、本発明による第3の実施形態を表面実装型の水晶振動子を例にとり図6とともに説明する。図6は本発明の第3の実施形態を示し、水晶振動板を搭載しない状態で、セラミック多層基板の導電パッド部を示す平面図であり、上記第1の実施形態に対して、導電パッドの平面形状、または、はんだのぬれ性を低減させるアルミナコートの平面形状が異なっている。基本構成は上記第1の実施形態と同じであるので、同じ構成部分については同番号を用いて説明するとともに、一部説明を割愛する。図6(a)は、略コ字上のアルミナコートAが形成されており、導電パッドの中央にはんだが留まる形態となっている。図6R>6(b)は、導電パッドの保持部の先端に向かうにしたがってアルミナコートAの領域を広くし、また、図6(c)、図6(d)は、導電パッドの保持部122、132を微細に形成することで、保持部先端側のはんだが過大に塗布されず、最適な盛り上がりが得られる構成となっている。
【0035】
なお、本発明では、導電性接合材としてはんだに限るものではない。低融点の金属ろう材や鉛フリーはんだ(錫銅はんだ、錫銀銅はんだ、錫銀はんだ、錫銀銅ビスマスはんだ等)にも適用できる。また、導電性接合材のぬれ性を低減させる膜として、アルミナ以外に、酸化珪素、酸化クロム、アルミにより構成することができる。また、上記説明において圧電振動デバイスの例として、音叉型の水晶振動子を例示したが、厚みすべり振動する方形状の水晶振動子でもよい。例えば上記実施の形態において、水晶振動板の下部空間に発振回路を構成するICを取り付け、必要な配線を行い、水晶発振器を構成してもよいし、また1素子または多素子からなる水晶フィルタ等の他の圧電振動デバイスにも適用できる。また、封止の方法として、ビーム溶接を例にしているが、シーム溶接による封止、あるいはガラス封止、樹脂封止等でもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態を示す斜視図。
【図2】図1において水晶振動板を搭載した状態における平面図。
【図3】図2のX−X線に沿った断面図。
【図4】図3のY−Y線に沿った断面図。
【図5】第2の実施形態を示す断面図。
【図6】第3の実施形態を示す平面図。
【符号の説明】
1 セラミック多層基板
10 堤部
11 金属シール部
2 水晶振動板(圧電振動板)
12、13 導電パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底の収納部に導電パッドが形成された段部と、前記収納部と段部を囲む堤部とを有するセラミック多層基板に、圧電振動板が導電性接合材を介して前記導電パッド上面に保持されてなる圧電振動デバイスであって、
前記導電パッドは、外部端子と接続される基部と圧電振動板の端部近傍が接続される保持部を有しており、
前記基部の上面で、堤部に近接した一部の領域には、前記導電性接合材のぬれ性を低減させる膜が被覆されてなることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項2】
前記導電パッドは、外部端子へ接続するビアが形成された基部と圧電振動板の端部近傍が接続される保持部を有しており、前記基部は保持部より幅広に形成されてなり、
前記基部のビアの一部を含む上面で、堤部に近接した一部の領域には、前記導電性接合材のぬれ性を低減させる膜が被覆されてなることを特徴とする特許請求項1記載の圧電振動デバイス。
【請求項3】
前記導電性接合材がはんだであり、ぬれ性を低減させる膜がアルミナ、酸化珪素、酸化クロム、アルミのいずれかであることを特徴とする特許請求項1、または特許請求項2記載の圧電振動デバイス。
【請求項4】
前記堤部を構成する各セラミック層の間には、セラミック多層基板の平坦度を修正するアルミナコートが全周にまたがって形成されており、当該セラミックコートの一部がぬれ性を低減させる膜として構成されたことを特徴とする特許請求項1、または特許請求項2記載の圧電振動デバイス。
【請求項5】
前記導電パッドの基部が、セラミック多層基板の堤部内部にその一部が入り込んだ状態で形成されてなることを特徴とする特許請求項4項記載の圧電振動デバイス。
【請求項6】
前記導電性接合材がはんだであり、導電パッドの最上面が金で構成されるとともにぬれ性を低減させる膜が銀であることを特徴とする特許請求項1、または特許請求項2記載の圧電振動デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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