説明

圧電発振器

【課題】同一のICを用いて広範囲の周波数に対応した圧電発振器を得る。
【解決手段】圧電振動子と、発振回路と、定電流回路と、メモリ回路と、を備えた圧電発振器であって、前記発振回路は、トランジスタのコレクタとベースとの間にコレクタ電位を決める第1の可変抵抗回路を有し、前記定電流回路は、複数のカレントミラー回路からなり、出力電流に関わるカレントミラー回路のトランジスタ素子に第2の可変抵抗回路が接続され、前記メモリ回路の出力部は、前記発振回路の第1の可変抵抗回路と、前記定電流回路の第2の可変抵抗回路と、に信号線で接続され、前記定電流回路の出力電流を制御し、前記トランジスタのコレクタ電位を制御する圧電発振器を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電発振器に関し、特に発振回路の駆動電流と、コレクタ電位とを圧電発振器の発振周波数、圧電振動子の諸定数に基づいて制御する圧電発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電発振器は周波数安定度、小型軽量、低価格等により携帯電話等の通信機器から水晶時計のような民生機器まで、多くの分野で用いられている。中でも圧電振動子の周波数温度特性を補償した温度補償型圧電発振器(TCXO)は、周波数安定度を必要とする携帯電話等に広く用いられている。特許文献1には、図6に示すようにタイマ51と、スイッチ部52と、電流供給部53と、発振部54と、切り替え回路55と、バッファ部56と、を備えた発振回路が開示されている。タイマ51は、電源投入による電源電位の印加時点から経過時間を計測し、その経過時間が所定の時間に達したときに計測結果を出力する計測手段である。スイッチ部52は、タイマ51からの信号により、所定のノード間のオン/オフの制御を行う。電流供給部53は、カレントミラー回路を有しており、定電流源を介してカレントミラー回路に出力電流が流れる。この電流は発振部54が発振動作を維持するための最小値に設定されている。
【0003】
そして、発振部54は、インバータの出力側には圧電振動子の一端が接続され、他端はインバータの入力側に接続されている。圧電振動子には並列に帰還抵抗が接続されており、両者で正帰還回路を構成している。インバータの入力及び出力側には夫々発振動作を安定化させるためのコンデンサが接続され、該コンデンサの他端は夫々接地されている。切り替え回路55は、ゲートに与えられる信号S17が“H”のときオン状態となり、NMOSのドレインは接地電位となり、発振信号の後段への出力が遮断される。また、信号S17が“L”のときは、NMOSはオフとなり、発振信号は後段に出力される。バッファ部56は、波形を整形し所定のレベルを有する発振信号を出力する機能を有する。
【0004】
以上のように発振回路を構成することにより、電源投入から所定の経過時間までの間は、大きな電源電流で駆動することにより、発振動作の立ち上がり時間を短縮できる。更に、所定の経過時間の後は小さな電源電流で駆動することにより、低消費電力で発振動作を維持することができると、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−135741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された発振回路は、発振立ち上がり時間を短縮するために、初期は大きな電流で駆動し、所定の時間が経過した後は小さな電流で駆動する発振回路であり、広範囲の周波数の圧電発振器を同一のIC回路を用いて構成する場合に、直面する問題の解決には役立たない。つまり、圧電発振器に対する小型化、薄型化、低コスト化等の要求は益々強くなり、この要求に応えるべく発振回路のIC化が図られてきた。しかし、発振回路のIC化は初期費用が大幅に掛かるため、多量に使用しないと発振器1台当たりのコストが下がらないという問題が生じた。コストを下げるため、ICを広範囲の周波数、例えば10MHzから50MHzの範囲で用いる、つまり汎用化の必要が生じてくる。圧電振動子の周波数が広がり、小型、薄型が要求されるため、圧電振動子の実効抵抗が増加し、また周波数ディップ等が生じる。実効抵抗を改善し、周波数ディップを抑圧するため、圧電振動子の容量比等の諸定数が広がり、同一ICを用いて広範囲の発振器を製作する際に、負性抵抗が設計値を満たさないという問題、また発振しても温度変化等により発振が不安定、あるいは発振停止という問題があった。
本発明は上記の問題を解決するためになされたもので、同一のICを用い広範囲の周波数に対応した圧電発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、同一のICを用いて広範囲の周波数に対応した圧電発振器を得るため、本発明の圧電発振器は、圧電振動子と、可変抵抗回路と発振用のトランジスタとを有する発振回路と、定電流回路と、を備え、前記定電流回路は、第1のカレントミラー回路と、該第1のカレントミラー回路に流れる電流を制御して該定電流回路の出力電流を調整可能にする為の電流制御回路とを備え、前記第1のカレントミラー回路の出力端側を前記発振用のトランジスタのコレクタまたはベースのうち少なくとも一方と前記可変抵抗回路を介して接続し、前記電流制御回路の制御をすると共に前記可変抵抗回路の抵抗値を制御する制御回路を前記電流制御回路と前記可変抵抗回路に接続したことを特徴とする。
以上のように圧電発振器を構成すると、メモリ回路の出力部からの信号に基づいて、定電流回路の出力電流を制御し、発振回路のトランジスタのコレクタ電位を適正な電位に設定できるので、発振回路の負性抵抗を広温度範囲にわたり適正に設定することができるので、同一ICを広範囲の周波数の圧電発振器に適用できるという利点がある。
【0008】
また本発明の圧電発振器では、前記定電流回路は前記電流制御回路と、前記第1のカレントミラー回路と、定電流源と、を備え、前記電流制御回路が第2のカレントミラー回路であり、前記第2のカレントミラー回路が、前記定電流源の出力電流の供給を受けるトランジスタと該トランジスタとカレントミラー接続する複数のトランジスタとを備え、前記複数のトランジスタを互いに並列に接続すると共に、前記第1のカレントミラー回路に接続し、前記制御回路が前記複数のトランジスタのコレクタ電流が流れる経路中にスイッチ回路を接続した構成であることを特徴とする。
以上のように圧電発振器を構成すると、客先要求の周波数に応じ、メモリ回路の出力部からの信号に基づいて、定電流回路の出力電流を制御し、発振回路のトランジスタのコレクタ電位を適正な電位に設定できるので、使用温度範囲にわたり、発振回路の負性抵抗を適正に設定することが可能となるので、同じICを広範囲の周波数の圧電発振器に用いることができるという効果がある。
【0009】
また本発明の圧電発振器は、前記発振回路が、ピアース型発振回路であることを特徴とする。
このようにピアース型発振回路を用いて圧電発振器を構成すると、発振周波数範囲が広がると共に、雑音特性が改善されるという利点がある。
【0010】
また本発明の圧電発振器は、前記発振回路が、コルピッツ型発振回路であることを特徴とする。
このようにコルピッツ型発振回路を用いて圧電発振器を構成すると、コルピッツ型発振回路は、発振回路として最も多く用いられる回路であるので、利用範囲が広がるという利点がある。
【0011】
また本発明の圧電発振器は、前記可変抵抗回路が、抵抗にスイッチを並列接続した回路を複数個直列接続した回路であることを特徴とする。
以上のように圧電発振器を構成すると、メモリ回路の出力部からの信号により、前記可変抵抗回路のスイッチを開閉し、可変抵抗回路の抵抗値を可変し、発振回路のトランジスタのコレクタ電位を適正な電位に設定できるという効果がある。
【0012】
また本発明の圧電発振器は、前記可変抵抗回路が、抵抗とスイッチとの直列回路を複数個並列接続した回路であることを特徴とする。
以上のように圧電発振器を構成すると、メモリ回路の出力部からの信号により、前記可変抵抗回路のスイッチを開閉して、可変抵抗回路の抵抗値を可変し、発振回路のトランジスタのコレクタ電位を適正な電位に設定できるという効果がある。
【0013】
また本発明の圧電発振器は、前記スイッチ回路が、抵抗とスイッチとの直列接続回路を前記複数のトランジスタのコレクタ電流が流れる経路に夫々接続した回路であることを特徴とする。
以上のように圧電発振器を構成すると、メモリ回路の出力部からの信号により、第2の可変抵抗回路のスイッチを開閉し、定電流回路の出力電流を適正な電流値に設定できるという効果がある。
【0014】
また本発明の圧電発振器は、前記圧電発振器を構成する回路のうち、圧電振動子以外の回路がIC化されていることを特徴とする。
このように圧電振動子を除いた回路をIC化することにより、圧電発振器の小型化、薄型化が可能となり、更に定電流回路の出力電流、発振回路のトランジスタのコレクタ電位を、コンピュータを用いた自動機により適切に設定できるという効果がある。また、IC回路を広範囲の周波数の圧電発振器に用いることにより、ICのコストが下がり、ひいては圧電発振器の低コスト化が可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本本発明に係る圧電発振器の構成を示す回路図。
【図2】発振回路のコレクタ電圧Vcと、定電流回路の出力電流IDの温度特性を示す図。
【図3】第2の実施例の圧電発振器の構成を示す回路図。
【図4】第3の実施例の圧電発振器の構成を示す回路図。
【図5】第4の実施例の圧電発振器の構成を示す回路図。
【図6】従来の発振回路の構成を示す回路図。
【図7】(a)(b)(c)(d)は夫々カレントミラー回路の基本構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る第1の実施の形態の圧電発振器の構成を示す回路図であり、圧電発振器1は、圧電振動子Xと、発振回路6と、定電流回路11と、制御回路であるメモリ回路13と、を備えている。図1に示す発振回路6は、ピアース型発振回路であり、発振用のトランジスタTrのエミッタを接地し、コレクタを定電流回路11に接続すると共に、ベースに圧電振動子Xの一方の端子を接続し、他方の端子を容量C1の一方の端子を接続し、容量C1の他方の端子を接地する。トランジスタTrのベース−接地間に容量C2を接続すると共に、容量C1と圧電振動子Xとの接続点に容量C3の一方の端子を接続し、容量C3の他方の端子をコレクタに接続する。更に、トランジスタTrのコレクタとベースとの間にコレクタ電位を決める第1の可変抵抗回路を接続する。第1の可変抵抗回路の一例は、図1に示したように、抵抗R11と、抵抗R12とスイッチ5との並列回路と、抵抗R13とスイッチS6との並列回路と、を直列接続して構成する。そして、メモリ回路13の出力部とスイッチS5、S6とを夫々信号線を用いて接続する。
【0017】
トランジスタTrのコレクタとベースとの間に、第1の可変抵抗回路を接続し、メモリ回路13の出力部からの信号によりスイッチS5、S6を開閉することにより、トランジスタTrのコレクタ電位を制御することができる。いま、定電流回路11から一定の電流IDが発振回路6に供給されるものとして、抵抗R11に流れる電流をIA、トランジスタTrのコレクタ電流をIBとして、トランジスタTrの直流電流増幅率をhFEすると、スイッチS5、S6を閉じた場合には、ID=IA+IB、IB=hFE×IAであるからR11×ID/(1+hFE)の電圧がトランジスタTrのコレクタ−ベース間(コレクタとベースとの間)の電圧となる。スイッチS5、S6を共に開いた場合には(R11+R12+R13)×ID/(1+hFE)の電圧がコレクタ−ベース間の電圧となる。更に、定電流回路11の出力電流IDも後述するように可変することができるので、トランジスタTrのコレクタ−ベース間の電圧を制御することによりコレクタ電位Vcを制御することができる。そして、使用する圧電振動子Xの振動周波数、等価直列抵抗値(圧電振動子の2端子間の位相差が0°となるときの抵抗値)、容量比(モーショナルキャパシタンスに対する静電容量の比)等に基づき、発振回路の負性抵抗が適切になるように、定電流回路11の出力電流IDを設定することができる。
【0018】
図1に示した定電流回路11は一例であり、定電流回路11は、抵抗R3とトランジスタQ3(NチャネルMOS−FET)とトランジスタQ4と抵抗R4からなる回路に更にトランジスタQ1、Q2及び抵抗R1、R2からなるカレントミラー回路と、を備えた定電流源と、トランジスタQ5、Q6(共にPチャネルMOS−FET)からなるカレントミラー回路と、トランジスタQ7、Q8、Q9、Q10、抵抗R6、R7、R8、R9及びスイッチS1、S2、S3からなるカレントミラー回路(電流制御回路)と、から構成される。抵抗R3の一方の端子を電源電圧Vccに接続し、他方の端子をトランジスタQ3のゲートと、トランジスタQ4のコレクタとに接続し、トランジスタQ4のエミッタを接地すると共に、トランジスタQ4のベースを、抵抗R4を介して接地する。更にトランジスタQ4のベースとトランジスタQ3のソースとを接続すると共に、トランジスタQ3のドレインをトランジスタQ1のコレクタに接続する。
【0019】
更に、トランジスタQ1のベースとコレクタを短絡し、トランジスタQ1、Q2の夫々のエミッタを、抵抗R1、R2を介して電源電圧Vccに接続する。トランジスタQ2のコレクタを、抵抗R5を介してトランジスタQ7のコレクタと接続し、トランジスタQ7のベースとコレクタを短絡し、トランジスタQ7のエミッタを、抵抗R6を介して接地する。トランジスタQ8、Q9、Q10は互いに並列接続した構成であり、トランジスタQ8、Q9、Q10の夫々のコレクタと、トランジスタQ5のドレインとを接続する。トランジスタQ7、Q8、Q9、Q10のベースを接続すると共に、トランジスタQ8、Q9、Q10の夫々のエミッタと接地間に、抵抗R7とスイッチS1との直列回路(スイッチ回路)、抵抗R8とスイッチS2との直列回路(スイッチ回路)、抵抗R9とスイッチS3との直列回路(スイッチ回路)を夫々接続し、抵抗R7〜R9とスイッチS1〜S3とで第2の可変抵抗回路を構成している。そして、トランジスタQ5のゲートとドレインとを短絡し、トランジスタQ5、Q6の夫々のソースを電源電圧Vccに接続し、トランジスタQ6のドレインから出力電流IDを取り出すように構成されている。また、メモリ回路13の出力部と定電流回路11のスイッチS2、S3とは信号線にて接続されている。尚、定電流回路11のスイッチS1をメモリ回路13の出力部に接続した構成を備えていても構わない。
【0020】
定電流回路11のスイッチS1は常時接続し、スイッチS2、S3はメモリ回路13からの信号により開閉し、PチャネルMOS−FETQ6の出力電流IDを可変する。トランジスタQ7、Q8、Q9、Q10からなるカレントミラー回路のトランジスタ素子とスイッチを増加させることにより、出力電流IDをより細かく制御することができる。また、トランジスタQ8、Q9、Q10を構成する半導体上の素子のサイズを変えることにより、トランジスタQ8、Q9、Q10を流れる電流を増減することができる。例えば、トランジスタQ8、Q9、Q10の素子のサイズを同一にして、夫々のエミッタ電流を1:1:1に設定することもできるし、素子のサイズを変えて、1:2:4にすることも可能である。
【0021】
定電流回路11に用いられているカレントミラー回路について、図7(a)を用いて基本的な説明をする。入力電流I1を加える側のトランジスタQaは、ベースとコレクタを結合したダイオード接続で、トランジスタQaのコレクタ電圧をトランジスタQbのベースに加えるように構成されている。トランジスタQaのエミッタ電流IE1はコレクタ電流IC1とベース電流IB1との和であり、IE1=IC1+IB1となる。入力電流I1はIC1とIB1とトランジスタQbのベース電流IB2との和であり、これはIE1とIB2の和でもある。トランジスタQa、Qbの特性が等しければトランジスタQaのエミッタ電流IE1と、トランジスタQbのエミッタ電流IE2は等しくなる。しかし、入力電流I1からベース電流IB2を分流するので、IE1はI1よりIB2だけ少なくなる。つまり、入力電流I1と出力電流I2との関係は、I1−I2=2IB2となるので、入力電流I1と出力電流I2とを近づけるためにはトランジスタQbにHFEの高い素子が望ましい。
図7(b)は、同図(a)のトランジスタQa、Qbのエミッタに夫々抵抗Ra、Rbを付加して、カレントミラー回路の精度と安定度とを高めた回路構成であり、同図(c)は複数の出力を有する多連出力型のカレントミラー回路である。また、図7(d)は、同図(a)のバイポーラトランジスタQa、Qbの代わりにMOS−FETを用いた例で、バイポーラトランジスタにある欠点が解消され、入力電流I1と出力電流I2との関係は、理想的なI1=I2が実現できる。
【0022】
定電流回路11の動作について説明する。抵抗R3を介して電源電圧Vccから電流がながれ、トランジスタQ3のゲートとトランジスタQ4のコレクタに電圧が印加される。トランジスタQ3のゲートとソース間電位の値に応じてトランジスタQ3のドレイン電流が決定される為、トランジスタQ3のソースにはカレントミラー回路を構成するランジスタQ1、Q2を通して定電流が流れる。そして、トランジスタQ1に流れる定電流、ほぼ同じ値の電流がトランジスタQ2に流れ、この電流が抵抗R5通して、トランジスタQ7に流れる。トランジスタQ7とトランジスタQ8、Q9、Q10の素子のサイズが等しい場合、トランジスタQ7に電流が流れると、トランジスタQ8、Q89、Q10のコレクタには夫々のトランジスタQ7のコレクタ電流と等しい値の電流を流すことが可能であり、この電流の和に相当する電流がトランジスタQ5に流れる。このとき、トランジスタQ5とトランジスタQ6の素子のサイズが同じであればトランジスタQ5と同じ量の電流がトランジスタQ6に流れて、出力電流IDとなる。従って、スイッチS2、S3をメモリ回路13からの信号により開閉することで、トランジスタQ5のドレイン電流を調整することができるので出力電流IDを制御することができる。
また、メモリ回路13は、発振回路6のトランジスタTrのベース−コレクタ間に設けたスイッチS5、S6の開閉を制御する信号を送出し、Trのコレクタ電位を制御し、コレクタ電位を適切な電圧に設定することができる。
【0023】
発振器用ICを新たに設計する際に大きくな初期投資が必要となるので、大量の発振器に適用し、コストを大幅に低減する必要がある。そのため、同一の発振器用ICを広範囲の周波数で使用しなければならない。従来は客先仕様に基づき、発振周波数、温度特性、周波数の可変範囲、出力電圧等を考慮して仕様に適した諸パラメータを求め、専用の圧電発振器を設計していた。しかし、最近の小型・薄型化、低価格の要求には従来の設計方式では満たせず、圧電振動子を除いた回路のIC化は避けられない。そこで、同一の発振器用ICを用い、広範囲の周波数の発振器を設計するには、ICに内蔵するメモリ回路を用いて発振回路のエミッタ電流、コレクタ電位等を発振周波数に適した値に設定しなければならない。特に、使用温度範囲における発振回路の発振条件、即ち負性抵抗は最も重要な設計パラメータの一つである。負性抵抗はエミッタ電流に比例し、角周波数の二乗に逆比例することが知られている。これ以外に圧電振動子の実効抵抗、発振回路の容量等のパラメータが発振条件には関与するが、大まかにいうと、周波数が高くなると負性抵抗が二乗で小さくなるので、その分エミッタ電流を増やす必要がある。
【0024】
図2は、発振回路6のトランジスタTrのコレクタ電圧Vcと、定電流回路11の出力電流IDとの温度特性を示した図である。温度t1におけるTrのコレクタ電圧がVc1であったとする。この場合、電源電圧Vccとコレクタ電圧Vc1との電圧差が、トランジスタQ6を安定動作させるのに十分なソース−ドレイン電圧を確保できている。しかし、温度がt2に下がるとトランジスタTrの温度特性により、コレクタ電圧はVc2へ上昇し、(Vcc−Vc2)はトランジスタQ6のソース−ドレイン間電圧が十分に確保できなくなり飽和状態になる。その結果、カレントミラー回路を構成するトランジスタQ5、Q6の出力電流IDが減少を始め、発振回路6の発振維持に必要なエミッタ電流を供給できず、発振回路が不安定になる。このため、発振回路6のトランジスタTrのコレクタの電位Vcを下げる必要が生じる。図1に示すように、第1の可変抵抗回路、つまり抵抗R1と、抵抗R12とスイッチS5との並列回路と、抵抗R13とスイッチS6との並列回路と、が直列接続された回路が、トランジスタTrのベース−コレクタ間に接続されている。メモリ回路13の出力部からの信号によりスイッチS5、S6を開状態または閉状態にして、第1の可変抵抗回路の抵抗値を調整し、トランジスタTrのコレクタ電圧Vcを、カレントミラー回路を構成するトランジスタQ6のドレイン−ソース電圧VGSが適切になるように設定する。
【0025】
本発明の特徴は、IC回路に内蔵したメモリ回路13の信号により、使用する発振周波数で発振回路6の発振条件、消費電流、雑音特性等が最適になるように、定電流回路11の出力電流と、発振回路6のトランジスタTrのコレクタ電位と、を最適に設定できるように構成した圧電発振器である。図1の例では、定電流回路11に3個のスイッチ、発振回路6に2個のスイッチと2個の抵抗の例を示したが、これらの数を多くして、出力電流、バイアス電圧をさらに細かく設定できるようにしてもよい。また、発振回路6のトランジスタTrのコレクタと、定電流回路11の出力とを直結した例を示したが、この間に抵抗を挿入してもよい。
また、図1の回路図ではメモリ回路13の出力部と第1の抵抗回路及び第2の抵抗回路とが独立の信号線で接続されているが、第1の抵抗回路と第2の抵抗回路とを連動するように信号線を接続してもよい。つまり、第2の抵抗回路のスイッチS2、S3を閉じて定電流回路11の出力電流IDを大きくする場合、第1の抵抗回路のスイッチS5、S6を閉じてTrのコレクタ電位Vcを下げるように、連動させてもよい。
【0026】
図3は、第2の実施例の圧電発振器2の構成を示す回路図であり、図1に示した圧電発振器1と異なる点は、発振回路7のトランジスタTrのコレクタ−ベース間の第1の可変抵抗回路の構成である。図3に示すように、第1の可変抵抗回路は抵抗とスイッチとの直列回路を複数個並列接続した回路である点である。つまり、抵抗R14と、抵抗R15とスイッチS5との直列回路と、抵抗R16とスイッチS6の直列回路と、を共に並列接続して構成した点である。この例でもメモリ回路13の出力部からの信号により、スイッチS5、S6を開閉し、第1の可変抵抗回路の抵抗値を可変し、Trのコレクタ電位を適正な電位に設定することができる。
【0027】
図4は、第3の実施例の圧電発振器3の構成を示す回路図であり、図1に示した圧電発振器1と異なる点は、発振回路8がコルピッツ型発振回路を用いて構成されている点である。コルピッツ型発振回路は、トランジスタTrのコレクタを、第1の可変抵抗回路を介して定電流回路11に接続し、ベースと電源VDD間に抵抗R17を接続してベースバイアス電圧とする。トランジスタTrのベース−エミッタ間に容量C1を接続すると共に、エミッタと接地間にエミッタ抵抗REと、容量C2との並列接続回路を接続し、図示しないが発振出力はコレクタから容量Coを介して取り出す。なお、電源電圧Vccはバイパスコンデンサ(図示せず)を介して高周波的に接地されている。
第1の可変抵抗回路は、抵抗R11と、抵抗R12とスイッチ5との並列回路と、抵抗R13とスイッチS6との並列回路と、を直列接続して構成する。そして、メモリ回路13の出力部とスイッチS5、S6とを夫々信号線を用いて接続する。メモリ回路13の出力部と、スイッチS5、S6と信号線で接続する。メモリ回路13からの信号によりスイッチS5、S6を開閉し、第1の可変抵抗回路の抵抗値を可変し、Trのコレクタ電位Vcを適正な電位に設定することができる。
【0028】
図5は、第4の実施例の圧電発振器4の構成を示す回路図であり、図3に示した圧電発振器2と異なる点は、発振回路9がコルピッツ型発振回路を用いて構成されている点である。第1の可変抵抗回路は、抵抗R14と、抵抗R15とスイッチS5との直列回路と、抵抗R16とスイッチS6の直列回路と、を共に並列接続して構成し、メモリ回路13の出力部と、スイッチS5、S6と信号線で接続する。メモリ回路13からの信号によりスイッチS5、S6を開閉し、第1の可変抵抗回路の抵抗値を可変し、Trのコレクタ電位Vcを適正な電位に設定することができる。
【符号の説明】
【0029】
1,2,3,4 圧電発振器、6,7,8,9 発振回路、11 定電流回路、13 メモリ回路、Tr トランジスタ、Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6,Q7,Q8,Q9,Q10 トランジスタ、R1,R2,R3R4,R5,R6,R7,R8,R9,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R18 抵抗、C1,C2,C3,C11,C12 容量、S1,S2,S3,S4,S5 スイッチ、X 圧電振動子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子と、可変抵抗回路と発振用のトランジスタとを有する発振回路と、定電流回路と、を備え、
前記定電流回路は、第1のカレントミラー回路と、該第1のカレントミラー回路に流れる電流を制御して該定電流回路の出力電流を調整可能にする為の電流制御回路とを備え、前記第1のカレントミラー回路の出力端側を前記発振用のトランジスタのコレクタまたはベースのうち少なくとも一方と前記可変抵抗回路を介して接続し、
前記電流制御回路の制御をすると共に前記可変抵抗回路の抵抗値を制御する制御回路を前記電流制御回路と前記可変抵抗回路に接続したことを特徴とする圧電発振器。
【請求項2】
前記定電流回路は、前記電流制御回路と、前記第1のカレントミラー回路と、定電流源と、を備え、
前記電流制御回路が第2のカレントミラー回路であり、前記第2のカレントミラー回路が、前記定電流源の出力電流の供給を受けるトランジスタと該トランジスタとカレントミラー接続する複数のトランジスタとを備え、
前記複数のトランジスタを互いに並列に接続すると共に、前記第1のカレントミラー回路に接続し、
前記制御回路が前記複数のトランジスタのコレクタ電流が流れる経路中にスイッチ回路を接続した構成であることを特徴とする請求項1に記載の圧電発振器。
【請求項3】
前記発振回路は、ピアース型発振回路であることを特徴とする請求項1に記載の圧電発振器。
【請求項4】
前記発振回路は、コルピッツ型発振回路であることを特徴とする請求項1に記載の圧電発振器。
【請求項5】
前記可変抵抗回路は、抵抗にスイッチを並列接続した回路を複数個直列接続した回路であることを特徴とする請求項1に記載の圧電発振器。
【請求項6】
前記可変抵抗回路は、抵抗とスイッチとの直列回路を複数個並列接続した回路であることを特徴とする請求項1に記載の圧電発振器。
【請求項7】
前記スイッチ回路は、抵抗とスイッチとの直列接続回路を前記複数のトランジスタのコレクタ電流が流れる経路に夫々接続した回路であることを特徴とする請求項2に記載の圧電発振器。
【請求項8】
前記圧電発振器を構成する回路のうち、圧電振動子以外の回路がIC化されていることを特徴とする請求項2に記載の圧電発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−227967(P2012−227967A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175829(P2012−175829)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2007−292859(P2007−292859)の分割
【原出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】