説明

圧電素子およびその製造方法、アクチュエータ、並びに、液体噴射ヘッド

【課題】第1基体から第2基体へ転写され、かつ、簡易な配線方法によって配線されることができる圧電素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】圧電素子300の製造方法は、第1基板110の上方に第1電極132、圧電体層135、第2電極136および絶縁層138をこの順で形成し、第2電極136の少なくとも一部が露出し、かつ、絶縁層138が第2電極136に対し上方に突出する突出部138xを有するように、絶縁層138をエッチングする。そして、第2基板211と突出部138xとが接し、かつ、第2電極136と第3電極212とが接するように、被転写体130と第2基体200とを接合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子およびその製造方法、アクチュエータ、並びに、液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に圧電素子に用いられるPb、ZrおよびTiを含む酸化物からなるPZT系のような圧電体材料は、その結晶化のために、700℃程度以上の高温で加熱する必要がある。その結果、基板材料がシリコン基板などの高温材料に限定されてしまう。基板材料として、例えば、ガラスや水晶などの透明基板を用いる場合、直接それらの基板上に圧電体などのデバイスを形成することは困難である。そのため、例えば、特開平10−125929号公報には、あらかじめ耐熱性に優れた基板上に被剥離物を形成し、被剥離物に対して加熱処理を行った後に、基板から被剥離物を離脱させて、被剥離物を耐熱性に劣る別の基板に転写する方法が開示されている。
【0003】
ここで、別基板に転写された被剥離物を圧電素子として駆動させるためには、被剥離物を配線することが必要となる。しかしながら、上記文献には、被剥離物を配線する方法が、開示されていない。
【特許文献1】特開平10−125929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、特に第1基体から第2基体へ転写され、かつ、簡易な配線方法によって配線されることができる圧電素子およびその製造方法を提供することにある。
【0005】
また、本発明の目的は、本発明の圧電素子を含む、アクチュエータ、並びに、液体噴射ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、
被転写体を有する第1基体を形成する工程と、
第2基体を形成する工程と、
前記被転写体を前記第1基体から前記第2基体に転写する工程と、を含み、
前記被転写体を形成する工程は、
第1基板の上方に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極の上方に圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の上方に第2電極を形成する工程と、
前記圧電体層を結晶化する工程と、
少なくとも前記第2電極の上方に、絶縁層を形成する工程と、
前記第2電極の少なくとも一部が露出し、かつ、前記絶縁層が前記第2電極に対し上方に突出する突出部を有するように、前記絶縁層をエッチングする工程と、を有し、
前記第2基体を形成する工程は、
第2基板の上方に第3電極を形成する工程を有し、
前記転写する工程は、
前記第2基板と前記突出部とが接し、かつ、前記第2電極と前記第3電極とが接するように、前記被転写体と前記第2基体とを接合させることができる。
【0007】
本発明に係る圧電素子の製造方法によれば、特に第1基体から第2基体へ転写され、かつ、簡易な配線方法によって配線されることができる圧電素子を得ることができる。
【0008】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に他の特定のもの(以下「B」という)を形成する」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。同様に、「下方」という文言は、A下に直接Bを形成するような場合と、A下に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとする。
【0009】
本発明に係る圧電素子の製造方法において、
さらに、前記第2基板の上方に第4電極を形成する工程と、
配線層によって、前記第1電極と前記第4電極とを電気的に接続する工程と、を有し、
前記配線層は、前記絶縁層を介して、前記第2電極および前記第3電極と接していないことができる。
【0010】
本発明に係る圧電素子の製造方法において、
前記配線層は、インクジェットにより形成されることができる。
【0011】
本発明に係る圧電素子の製造方法において、
前記圧電体層を形成する工程は、前記第1電極が、平面的にみて、前記圧電体層の内側になるように形成され、
前記第1電極と前記第2電極とに挟まれていない前記圧電体層の一部が、前記配線層と接していることができる。
【0012】
本発明に係る圧電素子の製造方法において、
前記エッチングする工程は、ウェットエッチングにより行われることができる。
【0013】
本発明に係る圧電素子の製造方法において、
前記第1基体を形成する工程は、さらに、前記第1基板と前記被転写体との間に犠牲層を形成する工程を有し、
前記転写する工程は、さらに、前記第1基板を剥離する工程を有することができる。
【0014】
本発明に係る圧電素子は、
基板と、
前記基板の上方に形成された第3電極と、
前記第3電極の上方に形成され、前記第3電極と接する第2電極と、
前記基体の上方に形成された絶縁層であって、前記第2電極に対して下方に突出した突出部を有し、該突出部が前記基体と接している前記絶縁層と、
前記第2電極の上方に形成された圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された第1電極と、を含むことができる。
【0015】
本発明に係る圧電素子において、
前記第1電極は、配線層によって、前記基板の上方に形成された第4電極と電気的に接続され、
前記配線層は、前記絶縁層を介して、前記第2電極および前記第3電極と接していないことができる。
【0016】
本発明に係る圧電素子において、
前記第1電極は、平面的にみて、前記圧電体層の内側になるように形成され、
前記第1電極と前記第2電極とに挟まれていない前記圧電体層の一部が、前記配線層と接していることができる。
【0017】
本発明に係る圧電素子において、
少なくとも前記第3電極と、前記絶縁層との間に空洞部を有することができる。
【0018】
本発明に係る圧電素子において、
前記圧電体層は、前記第2電極から前記第1電極に向かうに従って、徐々に幅が広くなるテーパー形状であることができる。
【0019】
本発明に係るアクチュエータは、
前記圧電素子を含み、
前記基板が振動板を有することができる。
【0020】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、
前記アクチュエータと、
前記基板に形成された流路と、
前記基板の下方に形成された、前記流路に連続するノズル穴を有するノズルプレートと、を含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
1.圧電素子
図1は、本実施形態に係る圧電素子300を模式的に示す断面図である。
【0023】
圧電素子300は、図1に示すように、基板210と、基板210の上方に形成された第3電極212と、基板210および第3電極212の上方に形成された被転写体130と、を含む。ここで、被転写体130は、第3電極212と接する第2電極136と、基板210の上方に形成された絶縁層138であって、第2電極136に対して下方に突出した突出部138bを有し、突出部138bが基板210と接している絶縁層138と、第2電極136および絶縁層138の上方に形成された圧電体層135と、圧電体層135の上方に形成された第1電極132と、を有する。
【0024】
基板210は、単層構造であっても多層構造であってもよい。基板210は、例えば、振動板を含んで構成されてもよい。基板210の材質は、例えば、半導体、絶縁体などを用いることができ、特に限定されない。具体的には、基板210としては、例えば、ガラス基板、水晶基板、石英基板などとすることができる。
【0025】
第3電極212は、基板210の上に形成される。第3電極212の上には、被転写体130の第2電極136が形成される。第3電極212は、被転写体130の第2電極136と、電気的に接続される配線としての機能を有する。第3電極212の幅は、第2電極136の幅と、同じであってもよいし、異なってもよい。第3電極212は、単層構造であっても多層構造であってもよい。第3電極212は、金属、導電性酸化物などの材料で形成される。第3電極212の材質は、例えば、金などを用いることができる。第3電極212の厚みは、例えば、100nm程度することができ、特に限定されない。
【0026】
第2電極136は、第3電極212の上に接して形成される。第2電極136は、第1電極132と対になり、圧電体層135を挟む一方の電極として機能する。第2電極136の材質は、例えば、イリジウム、白金、チタンなどの各種の金属、それらの導電性酸化物、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物(SrRuO:SRO)、ランタンとニッケルの複合酸化物(LaNiO:LNO)などを用いることができる。第2電極136は、前記例示した材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。第2電極136の下面の材質は、下方の第3電極212の上面との接合の形態によって選択されてもよい。例えば、金属の熱溶着によって接合される場合には金などが好ましく、表面活性化接合によって接合される場合には、白金なども選択できる。第2電極136の厚みは、例えば、200nm〜800nmとすることができる。
【0027】
圧電体層135は、第2電極136の上に設けられる。圧電体層135には、圧電性を有する材料を用いることができる。圧電体層135は、例えば、一般式ABOで示されるペロブスカイト型酸化物からなることができ、Aは、鉛を含み、Bは、ジルコニウムおよびチタンのうちの少なくとも一方を含むことができる。前記Bは、例えば、さらに、ニオブを含むことができる。具体的には、圧電体層135としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O:PZTN)などを用いることができる。圧電体層135の厚みは、圧電素子300の用途によるが、例えば、500nm〜3000nmとすることができる。
【0028】
圧電体層135は、例えば、第1圧電体層133と第2圧電体層134とを有することができる。第1圧電体層133の側面は、例えば、第1電極132の側面と連続するように形成されることができる。第1圧電体層133および第1電極132は、平面的にみて、第2圧電体層134の内側になるように形成されることができる。すなわち、圧電体層135は、第1電極132と第2電極136とに挟まれている部分と、第1電極132と第2電極136とに挟まれていない部分と、を有することができる。第1電極132と第2電極136とに挟まれていない部分は、例えば、後述する配線216による外乱などから、圧電体として主に駆動する第1電極132と第2電極136とに挟まれている部分を、保護する機能を有する。なお、図示はしないが、圧電体層135は、例えば、単層から構成されてもよいし、3層以上の積層から構成されてもよい。また圧電体層135は、第2電極136から第1電極132に向かうに従って、徐々に幅が広くなるテーパー形状とすることができる。
【0029】
第1電極132は、第1圧電体層133の上に形成される。第1電極132は、第2電極136と対になり、圧電体層135を挟む一方の電極として機能する。第1電極132の材質は、例えば、イリジウム、白金、チタンなどの各種の金属、それらの導電性酸化物、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物(SrRuO:SRO)、ランタンとニッケルの複合酸化物(LaNiO:LNO)などを用いることができる。第1電極132は、前記例示した材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。第2電極136の厚みは、例えば、200nm〜800nmとすることができる。
【0030】
絶縁層138は、基板210の上に形成される。絶縁層138は、第2電極136に対して、下方に突出した突出部138bを有する。突出部138bの厚さは、例えば、第3電極212の厚さと、同じにすることができる。また、突出部138bは、基板210と接することができる。突出部138bと基板210とが接することにより、例えば、第3電極212と、後述する配線216とが接することを防止できる。すなわち、絶縁層138は、配線216と、第2電極136および第3電極212とを、絶縁する機能を有する。絶縁層138の側面は、例えば、圧電体層135の側面と、連続するように形成されることができる。絶縁層138の材質は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウムなどを用いることができる。
【0031】
絶縁層138は、例えば、第3電極212との間に、空洞部139を有するように形成されることができる。空洞部139は、第3電極212と配線216との配線容量を小さくし、第3電極212と配線216とをより確実に絶縁する機能を有する。空洞部139は、例えば、絶縁層138と、第2電極136および第3電極212と、の間に形成されてもよい。
【0032】
圧電素子300は、さらに、基板210の上に第4電極214を有し、第1電極132は、配線層216によって、第4電極214と電気的に接続されることができる。
【0033】
第4電極214は、配線層216によって、第1電極132と電気的に接続される。第4電極214は、金属、導電性酸化物等の材料で形成される。第4電極214は、単層構造であっても多層構造であってもよい。第4電極214の材質は、例えば、金などを用いることができる。第4電極214の厚みは、例えば、100nm程度することができ、特に限定されない。
【0034】
配線層216は、第1電極132と第4電極214とを、電気的に接続するように形成される。配線層216は、絶縁層138を介して、第2電極136および第3電極212と接しないように形成される。すなわち、配線層216は、絶縁層138によって、第2電極136および第3電極212と絶縁されている。このため、配線216の形状の自由度を高めることができる。配線層216は、図示はしないが、例えば、被転写体130の全体を覆うように形成されてもよい。配線層216は、例えば、圧電体層135と接することができる。また、配線層216は、例えば、絶縁層138と接することができる。配線層216は、金属、導電性酸化物等の材料で形成される。配線層216の材質は、例えば、金などを用いることができる。
【0035】
本実施形態に係る圧電素子300は、例えば、以下の特徴を有する。
【0036】
本実施形態に係る圧電素子300は、配線層216が、絶縁層138を介して、第2電極136および前記第3電極212と接していない。これにより、配線層216と、第2電極136および第3電極212とを、絶縁することができ、配線層216の形状の自由度を高めることができる。
【0037】
本実施形態に係る圧電素子300は、第1電極132が、平面的にみて、圧電体層135の内側になるように形成され、第1電極132と第2電極136とに挟まれていない圧電体層135の一部が、配線層216と接するように形成されることができる。これにより、第1電極132と第2電極136とに挟まれていない部分は、配線層216による外乱などから、圧電体として主に駆動する第1電極132と第2電極136とに挟まれている部分を保護する機能を有し、圧電体層300は、高い信頼性を有することができる。
【0038】
本実施形態に係る圧電素子300は、第3電極212と、絶縁層138との間に空洞部139を有することができる。これにより、第3電極212と配線層216との配線容量を小さくでき、圧電体層300は、良好な特性を有することができる。また第3電極212と配線216とをより確実に絶縁することができる。
【0039】
2.圧電素子の製造方法
次に、本実施形態に係る圧電素子300の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図2〜図12は、本実施形態に係る圧電素子の製造工程を概略的に示す断面図である。
【0040】
本実施形態に係る圧電素子300の製造方法は、被転写体130を有する第1基体100を形成する工程と、第2基体200を形成する工程と、被転写体130を第1基体100から第2基体200に転写する工程と、を含む。
【0041】
(1)まず、被転写体130を有する第1基体100を形成する工程について、説明する。
【0042】
図2に示すように、第1基板110を準備し、第1基板110の上に、犠牲層120a、第1電極132a、第1圧電体層133aを、この順番で形成する。
【0043】
第1基板110は、単層構造であっても多層構造であってもよい。第1基板110の材質は、例えば、半導体、絶縁体などを用いることができ、特に限定されない。具体的には、第1基板110としては、シリコン基板などとすることができる。
【0044】
犠牲層120aの材質は、後述するドライエッチングの際のエッチングレートが被転写体130や第1基板110のエッチングレートより、大きくなるように選ばれる。犠牲層120aは、単層構造であっても多層構造であってもよい。犠牲層120aの材質は、例えば、シリコンの同素体、すなわち、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、単結晶シリコンなどを用いることができる。犠牲層120aの厚みは、例えば、100nm〜20μmとすることができる。犠牲層120aは、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などにより形成される。
【0045】
第1電極132aは、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成される。
【0046】
第1圧電体層133aは、例えば、ゾルゲル法、CVD法、MOD(Metal Organic Deposition)法、スパッタ法、レーザーアブレーション法などにより形成される。
【0047】
図3に示すように、第1圧電体層133aと第1電極132aとをパターニングし、第1圧電体層133と第1電極132とを形成する。パターニングは、例えば、公知のフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により行われる。パターニングは、各層ごとに行ってもよいし、各層を一括して行ってもよい。
【0048】
図4に示すように、犠牲層120aおよび第1圧電体層133の上に第2圧電体層134aを形成し、第2圧電体層134aの上に第2電極136aを形成する。
【0049】
第2圧電体層134aは、例えば、ゾルゲル法、CVD法、MOD法、スパッタ法、レーザーアブレーション法などにより形成される。
【0050】
第2電極136aは、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成される。
【0051】
図5に示すように、第2電極136aをパターニングし、第2電極136を形成する。パターニングは、例えば、公知のフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により行われる。第2圧電体層134aは、例えば、パターニング時のオーバーエッチングにより、上面がエッチングされてもよい。
【0052】
第2電極136を形成した後、第1圧電体層133および第2圧電体層134aを結晶化させるために、焼結を行うことができる。この焼結により、非晶状態または不十分な結晶状態にある圧電体層を、より十分に結晶化させることができる。焼結は、例えば、500℃〜1100℃の温度で行われる。なお、結晶化させるための焼結は、被転写体130を第1基体100から第2基体200に転写する前に行えばよく、例えば、図4に示す第2電極136aを形成した後に行ってもよいし、図2に示す第1圧電体層133aの形成後と図4に示す第2圧電体層134aの形成後とに、それぞれ行ってもよい。
【0053】
図6に示すように、第2電極136および第2圧電体層134aの上に、絶縁層138aを形成する。絶縁層138aは、例えば、CVD法などにより形成される。
【0054】
図7に示すように、エッチングにより、第2電極136を露出させる。第2電極136は、上面の全てが露出されてもよいし、上面の一部のみが露出されてもよい。また第2電極136は、側面が露出されてもよい。エッチングは、第2電極136に対し、絶縁層138aが上方に突出した突出部138bを有するように行われる。エッチングは、例えば、ウェットエッチングなどの等方性エッチングにより行われてもよいし、ドライエッチングなどの異方性エッチングにより行われてもよい。ただし、プロセスのコストおよび容易性を考慮すると、エッチングは、ウェットエッチングにより行われるのが好ましい。ウェットエッチングなどの等方性エッチングにより、絶縁層138aは、曲線部138cを有することができる。曲線部138cは、図11に示すように、被転写体130が第2基体200に接合された際、空洞部139の一面を形成することができる。
【0055】
図8に示すように、絶縁層138aと第2圧電体層134aとをパターニングし、絶縁層138と第2圧電体層134とを形成する。ここで、第1圧電体層133と第2圧電体層134とは、圧電体層135を構成する。パターニングは、平面的にみて、第1電極133が第2圧電体層134の内側になるように形成される。絶縁層120aは、図示のようにパターニングされなくてもよいし、されてもよい。パターニングは、例えば、第2圧電体層134が、第2電極136から第1電極132に向かうに従って、徐々に幅が広くなるテーパー形状となるように行われることができる。パターニングは、例えば、公知のダイシング技術、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術などにより行われる。パターニングは、各層ごとに行ってもよいし、各層を一括して行ってもよい。なお、図示はしないが、圧電体層135は、例えば、単層から構成されてもよいし、3層以上の積層から構成されてもよい。
【0056】
以上の工程により、被転写体130を有する第1基体100が形成される。
【0057】
(2)次に、第2基体200を形成する工程について、説明する。
【0058】
図9に示すように、第2基板210を準備し、第2基板210の上に第3電極212および第4電極214を形成する。第2基板210は、図1に示す基板210に相当する。第3電極212および第4電極214は、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD法、めっき法などにより、形成される。なお、第3電極212と第4電極214とは、同時に形成されてもよいし、別々に形成されてもよい。
【0059】
以上の工程により、第2基体200が形成される。
【0060】
(3)次に、被転写体130を、第1基体100から第2基体200に転写する工程について、説明する。
【0061】
図10に示すように、第1基体100において、前述した犠牲層120aの密着性を小さくした犠牲層120を形成する。犠牲層120を形成することにより、例えば、外力やレーザー光線などによって、簡単に第1基板110から被転写体130を剥離することができる。犠牲層120は、例えば、犠牲層120aを、フッ化キセノンをエッチャントに用いたドライケミカルエッチングなどと反応させることにより、形成することができる。
【0062】
図11に示すように、第2基板210と絶縁層138の突出部138bとが接し、かつ、第2電極136と第3電極212とが接するように、被転写体130と第2基体200とを接合させる。図11には、図10に示した第1基体100の上下を反転して第2基体200の上に重ねた断面図が描かれている。突出部138bと第2基板210とが接することにより、例えば、第3電極212と、後述する配線216とが接することを防止できる。また、第2電極136と第3電極212とは、例えば、熱溶着法、表面活性化接合法などによって接着され、機械的にも電気的にも接続される。なお、図10に示した犠牲層120aの密着性を小さくして犠牲層120を形成する工程は、被転写体130と第2基体200とを接合させた後に行ってもよい。
【0063】
図12に示すように、第1基板110を被転写体130から剥離する。前述のとおり、犠牲層120は密着性が小さいため、例えば、外力やレーザー光線などによって、簡単に第1基板110から被転写体130を剥離することができる。
【0064】
以上の工程により、被転写体130を第1基体100から第2基体200に転写することができる。
【0065】
(4)図1に示すように、本実施形態に係る圧電素子300の製造方法は、さらに、配線層216によって、第1電極132と第4電極214とを電気的に接続する工程と、を有することができる。
【0066】
配線216は、絶縁層138を介して、第2電極136および第3電極212と接しないように形成される。すなわち、配線216は、絶縁層138によって、第2電極136および第3電極212と絶縁されている。そのため、配線層216の製法の自由度を高めることができる。配線層216は、例えば、インクジェットなどの簡易な方法で形成されることができる。
【0067】
以上の工程によって、図1に示すような本実施形態に係る圧電素子300を製造することができる。
【0068】
本実施形態に係る圧電素子300の製造方法は、例えば、以下のような特徴を有する。
【0069】
本実施形態に係る圧電素子300の製造方法によれば、配線216は、絶縁層138を介して、第2電極136および第3電極212と接しないように形成される。これにより、配線層216の製法の自由度を高めることができる。例えば、ボンディングに比べ、機械的衝撃が少なく、位置精度が良好なインクジェットなどで、配線層216を形成することができ、簡易なプロセスで圧電素子300を製造することができる。
【0070】
本実施形態に係る圧電素子300の製造方法によれば、ウェットエッチングにより絶縁層138をエッチングし、第2電極136の一部を露出させることができる。これにより、簡易なプロセスで圧電素子300を製造することができる。
【0071】
本実施形態に係る圧電素子300の製造方法によれば、圧電体層135を結晶化させるための焼結を、転写する前に行うことができる。これにより、例えば、耐熱性に劣る基板上に圧電素子300を形成することができる。
【0072】
3.液体噴射ヘッド
次に、本発明に係る圧電素子がアクチュエータとして機能している液体噴射ヘッドについて説明する。
【0073】
図13は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド1000の要部を概略的に示す断面図である。図14は、本実施形態に係る液体噴射ヘッド1000の分解斜視図である。なお、図14は、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0074】
液体噴射ヘッド1000は、図13に示すように、ノズルプレート24と、基板21と、アクチュエータ350と、を含む。アクチュエータ350は、基板21の上に形成された振動板23と、振動板23の上に形成された第3電極212と、振動板23および第3電極212の上に形成された被転写体130と、振動板23の上に形成された第4電極214と、被転写体130と第4電極214とを接続する配線層216と、を有する。被転写体130は、第1電極132と、圧電体層135と、第2電極136と、絶縁層138と、を有する。なお、図14において、被転写体130の各層、第3電極212、第4電極214および配線層216の図示は、省略されている。
【0075】
液体噴射ヘッド1000は、図14に示すように、さらに、筐体28を有する。筐体28に、ノズルプレート24、基板21、振動板23、第3電極212および被転写体130が収納される。筐体28は、例えば、各種樹脂材料、各種金属材料等を用いて形成される。
【0076】
ノズルプレート24は、例えば、ステンレス製の圧延プレート等で構成されたものである。ノズルプレート24には、液滴を吐出するための多数のノズル穴25が一列に配置されている。ノズルプレート24には、基板21が固定されている。基板21は、ノズルプレート24と振動板23との間の空間を区画して、リザーバ26、供給口27および複数の流路22を形成する。リザーバ26は、液体カートリッジ(図示せず)から供給される液体を一時的に貯留する。供給口27によって、リザーバ26から各流路22へ液体が供給される。
【0077】
流路22は、図13および図14に示すように、各ノズル穴25に対応して配設されている。ノズル穴25は、流路22と連続している。流路22は、振動板23の振動によってそれぞれ容積可変になっている。この容積変化によって、流路22から液体が吐出される。
【0078】
振動板23の所定位置には、図14に示すように、振動板23の厚さ方向に貫通した貫通孔29が形成されている。貫通孔29によって、液体カートリッジからリザーバ26へ液体が供給される。
【0079】
被転写体130は、圧電素子駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)することができる。振動板23は、被転写体130の振動(たわみ)によって振動し、流路22の内部圧力を瞬間的に高めることができる。
【0080】
アクチュエータ350の製造方法および液体噴射ヘッド1000の製造方法において、被転写体130、第3電極212、第4電極214および配線層216のそれぞれは、上述した実施形態に係る被転写体130、第3電極212、第4電極214および配線層216の製造方法を用いて形成される。また、液体噴射ヘッド1000の製造方法は、基板21上に振動板23を形成する工程と、基板21に流路22を形成する工程と、基板21の下にノズルプレート24を形成する工程と、を含む。振動板23、流路22およびノズルプレート24は、公知の方法により形成される。
【0081】
本実施形態に係る圧電素子300は、上述のように、簡易なプロセスで製造されることができる。従って、簡易なプロセスで製造されるアクチュエータ350および液体噴射ヘッド1000を提供することができる。
【0082】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図2】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図3】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図5】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図6】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図7】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図8】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図9】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図10】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図11】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図12】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図13】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す断面図。
【図14】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
【符号の説明】
【0084】
21 基板、22 流路、23 振動板、24 ノズルプレート、25 ノズル穴、26 リザーバ、27 供給口、28 筐体、29 貫通孔、100 第1基体、110 第1基板、120 犠牲層、130 被転写体、132 第1電極、133 第1圧電体層、134 第2圧電体層、135 圧電体層、136 第2電極、138 絶縁層、138x 突出部、139 空洞部、200 第2基体、210 基板、210 第2基板、212 第3電極、214 第4電極、216 配線層、300 圧電素子、350 アクチュエータ、1000 液体噴射ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被転写体を有する第1基体を形成する工程と、
第2基体を形成する工程と、
前記被転写体を前記第1基体から前記第2基体に転写する工程と、を含み、
前記被転写体を形成する工程は、
第1基板の上方に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極の上方に圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層の上方に第2電極を形成する工程と、
前記圧電体層を結晶化する工程と、
少なくとも前記第2電極の上方に、絶縁層を形成する工程と、
前記第2電極の少なくとも一部が露出し、かつ、前記絶縁層が前記第2電極に対し上方に突出する突出部を有するように、前記絶縁層をエッチングする工程と、を有し、
前記第2基体を形成する工程は、
第2基板の上方に第3電極を形成する工程を有し、
前記転写する工程は、
前記第2基板と前記突出部とが接し、かつ、前記第2電極と前記第3電極とが接するように、前記被転写体と前記第2基体とを接合させる、圧電素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
さらに、前記第2基板の上方に第4電極を形成する工程と、
配線層によって、前記第1電極と前記第4電極とを電気的に接続する工程と、を有し、
前記配線層は、前記絶縁層を介して、前記第2電極および前記第3電極と接していない、圧電素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記配線層は、インクジェットにより形成される、圧電素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3において、
前記圧電体層を形成する工程は、前記第1電極が、平面的にみて、前記圧電体層の内側になるように形成され、
前記第1電極と前記第2電極とに挟まれていない前記圧電体層の一部が、前記配線層と接している、圧電素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記エッチングする工程は、ウェットエッチングにより行われる、圧電素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記第1基体を形成する工程は、さらに、前記第1基板と前記被転写体との間に犠牲層を形成する工程を有し、
前記転写する工程は、さらに、前記第1基板を剥離する工程を有する、圧電素子の製造方法。
【請求項7】
基板と、
前記基板の上方に形成された第3電極と、
前記第3電極の上方に形成され、前記第3電極と接する第2電極と、
前記基板の上方に形成された絶縁層であって、前記第2電極に対して下方に突出した突出部を有し、該突出部が前記基板と接している前記絶縁層と、
前記第2電極の上方に形成された圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された第1電極と、を含む、圧電素子。
【請求項8】
請求項7において、
前記第1電極は、配線層によって、前記基板の上方に形成された第4電極と電気的に接続され、
前記配線層は、前記絶縁層を介して、前記第2電極および前記第3電極と接していない、圧電素子。
【請求項9】
請求項8において、
前記第1電極は、平面的にみて、前記圧電体層の内側になるように形成され、
前記第1電極と前記第2電極とに挟まれていない前記圧電体層の一部が、前記配線層と接している、圧電素子。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれかにおいて、
少なくとも前記第3電極と、前記絶縁層との間に空洞部を有する、圧電素子。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれかにおいて、
前記圧電体層は、前記第2電極から前記第1電極に向かうに従って、徐々に幅が広くなるテーパー形状である、圧電素子。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれかに記載の圧電素子を含み、
前記基板が振動板を有する、アクチュエータ。
【請求項13】
請求項12に記載のアクチュエータと、
前記基板に形成された流路と、
前記基板の下方に形成された、前記流路に連続するノズル穴を有するノズルプレートと、を含む、液体噴射ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−54786(P2009−54786A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219933(P2007−219933)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】