説明

圧電素子およびその製造方法、圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、並びに、液体噴射装置

【課題】上部電極における応力の集中を緩和することができる信頼性の高い圧電素子を提供する。
【解決手段】本発明に係る圧電素子100は、基板10と、基板10の上方に形成された下部電極20と、下部電極20を覆う圧電体層30と、圧電体層30の上方に形成された上部電極40と、を含み、圧電体層30の側面34は、圧電体層30の上面32と接続し、基板10の上面12に対して第1角度αで傾く第1部分35と、第1部分35と接続し、基板10の上面12に対して第2角度βで傾く第2部分36と、を有し、第2角度βは、第1角度αより小さく、上部電極40は、少なくとも第1部分35および第2部分36を覆っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子およびその製造方法、圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、並びに、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、電圧印加によりその形状を変化させる特性を有する素子であり、圧電体層を電極で挟んだ構造を有する。圧電素子は、例えばインクジェットプリンターの液滴吐出ヘッド部分や、各種アクチュエーターなど多様な用途に用いられている。
【0003】
圧電素子を構成する圧電体層は、外部の湿度の影響を受け、特性が劣化することがある。圧電体層の耐湿性を確保する方法としては、例えば、圧電体層を上部電極で覆う構造が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に開示された構造では、上部電極の一部(例えば、圧電体層の側面と、基板(振動板)の上面と、が接続する部分近傍に形成された上部電極)に応力が集中することがある。そして、応力が集中した上部電極の一部が破壊し、圧電体層の耐湿性を確保できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−88441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上部電極における応力の集中を緩和することができる信頼性の高い圧電素子およびその製造方法を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記圧電素子を含む圧電アクチュエーター、液体噴射ヘッド、並びに、液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る圧電素子は、
基板と、
前記基板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極を覆う圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された上部電極と、
を含み、
前記圧電体層の側面は、
前記圧電体層の上面と接続する第1部分と、前記第1部分と接続する第2部分と、を有し、
前記第1部分は、前記基板の上面に対して第1角度で傾いており、
前記第2部分は、前記基板の上面に対して第2角度で傾いており、
前記第2角度は、前記第1角度より小さく、
前記上部電極は、少なくとも前記第1部分および前記第2部分を覆っている。
【0007】
このような圧電素子によれば、前記上部電極における応力の集中を緩和することができ、高い信頼性を有することができる。
【0008】
なお、本発明に係る記載では、「上方」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上方」に他の特定のもの(以下「B」という)を形成する」などと用いている。本発明に係る記載では、この例のような場合に、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上方」という文言を用いている。
【0009】
本発明に係る圧電素子において、
前記第1部分および前記第2部分の形状は、それぞれ平面であることができる。
【0010】
このような圧電素子によれば、例えば、前記圧電体層の側面が曲面である場合に比べて、加工精度が高く、ばらつきの小さい前記圧電体層を形成することができる。
【0011】
本発明に係る圧電素子において、
前記圧電体層の側面は、前記第2部分と接続する第3部分を、さらに有し、
前記第3部分は、前記基板の上面に対して第3角度で傾いており、
前記第3角度は、前記第2角度より大きく、前記第1角度より小さいことができる。
【0012】
このような圧電素子によれば、前記圧電体層の幅(前記基板の厚み方向と直交する方向の長さ)を必要以上に大きくすることなく、前記上部電極における応力の集中を緩和することができる。
【0013】
本発明に係る圧電素子において、
前記下部電極、前記圧電体層および前記上部電極からなる積層構造は、複数設けられ、
前記下部電極は、複数の前記積層構造において、個別電極であり、
前記上部電極は、複数の前記積層構造において、共通電極であることができる。
【0014】
このような圧電素子によれば、前記上部電極を共通電極とする場合においても、前記上部電極における応力の集中を緩和でき、高い信頼性を有することができる。
【0015】
本発明に係る圧電素子の製造方法は、
基板の上方に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極を覆うように圧電体層を成膜する工程と、
前記圧電体層の上方に第1上部電極を成膜する工程と、
前記第1上部電極および前記圧電体層をパターニングする工程と、
パターニングされた前記第1上部電極および前記圧電体層の上方に第2上部電極を形成する工程と、
を含み、
前記パターニングする工程では、
前記圧電体層の上面と接続し、前記基板の上面に対して第1角度で傾く前記圧電体層の側面の第1部分と、
前記第1部分と接続し、前記基板の上面に対して第2角度で傾く前記圧電体層の側面の第2部分と、
を形成し、
前記第2角度は、前記第1角度より小さく、
前記第2上部電極を形成する工程では、
少なくとも前記第1部分および前記第2部分を覆うように、前記第2上部電極を形成する。
【0016】
このような圧電素子の製造方法によれば、前記上部電極における応力の集中を緩和し、高い信頼性を有する圧電素子を形成することができる。
【0017】
本発明に係る圧電アクチュエーターは、
本発明に係る圧電素子を含み、
前記基板は、可撓性を有し、前記圧電体層の動作によって変形する。
【0018】
このような圧電アクチュエーターによれば、前記圧電素子を含むので、高い信頼性を有することができる。
【0019】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、
本発明に係る圧電アクチュエーターと、
ノズル孔と連通し、前記圧電アクチュエーターの動作によって容積が変化する圧力室と、
を含む。
【0020】
このような液体噴射ヘッドによれば、前記圧電アクチュエーターを含むので、高い信頼性を有することができる。
【0021】
本発明に係る液体噴射装置は、
本発明に係る液体噴射ヘッドを含む。
【0022】
このような液体噴射装置によれば、前記液体噴射ヘッドを含むので、高い信頼性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図2】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図3】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図4】本実施形態に係る圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図5】本実施形態の第1変形例に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図6】本実施形態の第2変形例に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図7】本実施形態の第3変形例に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図8】本実施形態の第4変形例に係る圧電素子を模式的に示す断面図。
【図9】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す断面図。
【図10】本実施形態に係る液体噴射ヘッドを模式的に示す分解斜視図。
【図11】本実施形態に係る液体噴射装置を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
1. 圧電素子
まず、本実施形態に係る圧電素子100について、図面を参照しながら説明する。図1は、圧電素子100を模式的に示す断面図である。
【0026】
圧電素子100は、図1に示すように、基板10と、下部電極20と、圧電体層30と、上部電極40と、を含む。
【0027】
基板10の材質としては、例えば、導電体、半導体、絶縁体などを列挙することができ、特に限定されないが、基板10の上面12に下部電極20を形成することから、基板10の表層は、絶縁体が好ましい。より具体的には、基板10としては、例えば、単結晶シリコン基板を用いることができる。また、基板10は、可撓性を有し、圧電体層30の動作によって変形(屈曲)する振動板であってもよい。この場合、圧電素子100は、圧電アクチュエーターとして機能することができ、基板10としては、例えば、単結晶シリコン上に酸化シリコン(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)とを積層したものを用いることができる。
【0028】
下部電極20は、基板10上に形成されている。下部電極20の材質としては、例えば、白金、イリジウム、それらの導電性酸化物、ランタンニッケル酸化物(LaNiO:LNO)などを列挙することができる。下部電極20は、前述の例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。下部電極20の厚さは、例えば、50nm〜300nmである。下部電極20は、圧電体層30に電圧を印加するための一方の電極である。
【0029】
圧電体層30は、下部電極20を覆って形成されている。図示の例では、圧電体層30は、下部電極20の上面および側面と、基板10の上面12と、を覆っている。圧電体層30としては、ペロブスカイト型酸化物の圧電材料を用いることができる。より具体的には、圧電体層30としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O:PZTN)などを用いることができる。圧電体層30の厚さは、例えば、300nm〜3000nmである。圧電体層30は、上面32と、上面32に接続する側面34と、を有する。図示の例では、圧電体層30の上面32は、平坦な面(平面)であり、基板10の上面12と平行(ほぼ平行)である。圧電体層30の側面34は、圧電体層30の上面32から、基板10の上面12まで設けられている。側面34は、第1部分35と、第2部分36と、を有する。
【0030】
第1部分35は、圧電体層30の上面32と接続している。第1部分35は、基板10の上面12に対して第1角度αで傾いている。図1の例では、便宜上、第1部分35は、上面12と平行な架空線L1に対して、第1角度αで傾いて図示されている。第1角度αは、鋭角であり、例えば、30度〜70度である。第1部分35は、平坦な面(平面)であることができる。
【0031】
第2部分36は、第1部分35と接続している。図示の例では、第2部分36は、さらに、基板10の上面12と接続している。第2部分36は、第1部分35よりも下方側の側面である。第2部分36は、基板10の上面12に対して第2角度βで傾いている。第2角度βは、第1角度αよりも小さく、例えば、5度〜20度である。第2部分36は、平坦な面(平面)であることができる。
【0032】
圧電体層30の側面34は、基板10の上面12に対して異なる傾きを有する第1部分35および第2部分36によって、屈曲部38を有することができる。すなわち、屈曲部38は、第1部分35と第2部分36との境界に位置している。屈曲部38から基板10の上面12までの距離(膜厚)は、例えば、圧電体層30の上面32から基板10の上面12までの距離(膜厚)の1/10程度である。また、圧電体層30の上面32から基板10の上面12までの距離が1.2μm程度である場合、屈曲部38から、圧電体層30の側面34と基板10の上面12との接続部39までの距離は、例えば、1.3μm程度である。
【0033】
上部電極40は、圧電体層30上に形成されている。上部電極40としては、例えば、下部電極20の説明で例示した材料と同じ材料を用いることができる。上部電極40の厚さは、例えば、50nm〜300nmである。上部電極40は、圧電体層30に電圧を印加するための他方の電極である。図示の例では、上部電極40は、第1上部電極42と、第2上部電極44と、を有する。図示はしないが、上部電極40は、第2上部電極44のみから構成されていてもよい。
【0034】
第1上部電極42は、圧電体層30の上面32を覆っている。第1上部電極42の材質および厚さは、例えば、圧電体層30との密着性、圧電体層30への拡散性などを考慮して選択される。より具体的には、第1上部電極42の材質としては、例えば、イリジウム(厚さ15nm)を列挙することができる。
【0035】
第2上部電極44は、第1上部電極42と、第1部分35および第2部分36と、を覆っている。図示の例では、第2上部電極44は、さらに、基板10の上面12上にも設けられている。第2上部電極44の材質および厚さは、例えば、耐湿性(水分バリア性)、導電性などを考慮して選択される。より具体的には、第2上部電極44の材質としては、例えば、イリジウム(厚さ50nm)を列挙することができる。上部電極40、圧電体層30および下部電極20は、積層構造110を構成することができる。
【0036】
本実施形態に係る圧電素子100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0037】
圧電素子100によれば、圧電体層30の側面34は、第1部分35と、第2部分36と、を有することができる。第1部分35は、基板10の上面12に対して第1角度αで傾いており、第2部分36は、基板10の上面12に対して第1角度αより小さい第2角度βで傾いている。そして、圧電体層30の側面34(第2部分36)は、基板10の上面12に対して、第2角度βで接続されている。そのため、例えば、側面が角度αで傾く部分のみからなる場合に比べて、圧電素子100における側面34は、小さい角度βで基板10の上面12に接続されることができる。これにより、上部電極40(第2上部電極44)における応力の集中を緩和することができる。例えば、圧電体層の側面と基板の上面との接続する角度が大きい場合(垂直に近い場合)は、圧電体層の側面と基板の上面との接続部(角部ともいえる)近傍に形成された上部電極に応力が集中する。すなわち、圧電素子100では、第1部分35および第2部分36を有する側面34によって、上部電極40における応力の集中(より具体的には、圧電体層30の側面34と基板10の上面12との接続部近傍に形成された上部電極40における応力の集中)を緩和でき、高い信頼性を有することができる。
【0038】
また、例えば、圧電体層の側面と基板の上面との接続する角度が大きい場合は、上部電極の基板および圧電体層に対する密着性およびカバレッジが悪くなる場合がある。これに対し、圧電素子100では、圧電体層30の側面34と基板10の上面12との接続する角度を小さくすることができるので、上部電極40の密着性およびカバレッジを向上させることができる。
【0039】
さらに、例えば、側面が角度βで傾く部分のみからなる場合に比べて、圧電素子100では、圧電体層30の幅(基板10の厚み方向と直交する方向の長さ)を小さくすることができる。すなわち、圧電素子100では、小型化を図ることができる。
【0040】
圧電素子100によれば、第1部分35および第2部分36の形状は、平面であることができる。例えば、圧電体層の側面が曲面からなる場合は、製造時のプロセスが困難となる場合があり、精度の高い(ばらつきの小さい)圧電体層を形成することが困難となる場合がある。特に、ウェットエッチングによって圧電体層の側面を曲面に形成する場合は、ドライエッチングによって圧電体層の側面を平面に形成する場合に比べて精度が低くなることがある。したがって、圧電素子100では、加工精度が高く、ばらつきの小さい圧電体層30を形成することができる。
【0041】
2. 圧電素子の製造方法
次に、本実施形態に係る圧電素子100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図2〜図4は、本実施形態に係る圧電素子100の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0042】
図2に示すように、基板10上に下部電極20を形成する。下部電極20は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成される。より具体的には、基板10上に、導電層(図示せず)を形成し、該導電層をパターニングすることにより、下部電極20を形成することができる。
【0043】
図3に示すように、下部電極20を覆うように、基板10の上面12の全面に圧電体層30aを成膜する。圧電体層30aは、例えば、ゾルゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、MOD(Metal Organic Deposition)法、スパッタ法、レーザーアブレーション法などにより形成される。ここで、例えば、圧電体層30aの材質がPZTである場合、酸素雰囲気で700度程度のアニールを行うことにより、圧電体層30aを結晶化することができる。なお、結晶化は、圧電体層30aをパターニングした後に行うこともできる。
【0044】
次に、圧電体層30aの全面に第1上部電極42aを成膜する。第1上部電極42aは、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成される。
【0045】
次に、第1上部電極42a上に、所定の形状のレジストRを形成する。レジストRは、例えば、第1上部電極42aの上面に対して、角度θで傾く側面を有するように形成される。角度θの大きさは、露光時間や、ベーク温度によって調整される。
【0046】
図4に示すように、レジストRをマスクとして、第1上部電極42aおよび圧電体層30aをエッチングし、第1上部電極42および圧電体層30を形成する。すなわち、第1上部電極42aおよび圧電体層30aをパターニングする。エッチングは、例えば、ICP(Inductively Coupled Plasma)のような高密度プラズマ装置を用いたドライエッチングにより行うことができる。該高密度プラズマ装置(ドライエッチング装置)において、1.0Pa以下の圧力に設定すると良好にエッチングを行うことができる。第1上部電極42aをエッチングするためのエッチングガスとしては、例えば、塩素系ガスとアルゴンガスの混合ガスを用いることができる。圧電体層30aをエッチングするためのエッチングガスとしては、例えば、塩素系ガスとフロン系ガスとの混合ガスを用いることができる。塩素系のガスとしては、例えば、Cl、BClなどが挙げられる。フロン系のガスとしては、例えば、C、CFなどが挙げられる。このような混合ガスを用いて圧電体層30aをエッチングすることにより、第1部分35および第2部分36を有する側面34を形成することができる。その理由を以下に説明する。
【0047】
圧電体層30の材質がPZTである場合、エッチャントは主に塩素系ガスである。上記の混合ガスによりエッチングを行うと、フロン系のガスによって塩素ラジカルが多量に発生し、反応性の高いエッチングになる。この場合、エッチングガスが構造体の側壁(圧電体層30の側面34近傍や、基板10の上面12近傍など)に供給されにくくなり、その部分のエッチングレートが小さくなる。そのため、第1部分35と第2部分36とを有する側面34が形成されると推察される。なお、第1角度αおよび第2角度βの大きさは、オーバーエッチング量や、レジストRの角度θの大きさで調整することができる。
【0048】
図1に示すように、レジストRを除去し、第1上部電極40および圧電体層30上に第2上部電極44を形成する。第2上部電極44は、第1部分35および第2部分36を覆うように形成される。第2上部電極44は、例えば、スパッタ法、めっき法、真空蒸着法などにより形成される。より具体的には、全面に、導電層(図示せず)を形成し、該導電層をパターニングすることにより、第2上部電極44を形成することができる。
【0049】
以上の工程により、圧電素子100を製造することができる。
【0050】
本実施形態に係る圧電素子100の製造方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0051】
圧電素子100の製造方法によれば、上述のように、第1部分35および第2部分36を有する側面34によって、上部電極40(第2上部電極44)における応力の集中を緩和できる信頼性の高い圧電素子100を形成することができる。
【0052】
圧電素子100の製造方法によれば、圧電体層30の上面32を、第1上部電極42で覆うことができる。そのため、プロセスダメージ(圧電体層30aをエッチングするときのダメージや、レジストRを除去するときのダメージなど)から、圧電体層30の上面32を保護することができる。そのため、信頼性の高い圧電素子100を製造することができる。
【0053】
3. 圧電素子の変形例
(1)次に、本実施形態の第1変形例に係る圧電素子200について、図面を参照しながら説明する。図5は、圧電素子200を模式的に示す断面図である。以下、本実施形態の第1変形例に係る圧電素子200において、本実施形態に係る圧電素子100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0054】
圧電素子200では、図5に示すように、圧電体層30の側面34は、第1部分35と、第2部分36と、さらに、第3部分237と、を有する。
【0055】
第3部分237は、第2部分36と接続している。図示の例では、第3部分237は、さらに、基板10の上面12と接続している。第3部分237は、第2部分36よりも下方側の側面である。第3部分237は、基板10の上面12に対して第3角度γで傾いている。第3角度γは、第2角度βよりも大きく、第1角度αよりも小さい。第3部分237は、平坦な面(平面)であることができる。なお、図示の例では、第2部分36は、便宜上、基板10の上面12と平行な架空線L2に対して、第2角度βで傾いて図示されている。
【0056】
圧電素子200によれば、圧電体層30の側面34は、第1部分35および第2部分36に加え、さらに、基板10の上面12に対して第3角度γで傾く第3部分237を有することができる。第3角度γは、第2角度βよりも大きい角度である。そのため、圧電素子200では、例えば圧電素子100の例に比べて、圧電体層30の幅(基板10の厚み方向と直交する方向の長さ)を小さくすることができる。すなわち、圧電素子200では、小型化を図ることができる。
【0057】
また、圧電素子200によれば、第3角度γは、第1角度αよりも小さい角度である。そのため、角度αで傾く部分のみからなる側面に比べて、圧電素子200では、特に、圧電体層30の側面34と、基板10の上面12と、の接続部近傍に形成された上部電極40(第2上部電極44)における応力の集中を緩和することができる。
【0058】
(2)次に、本実施形態の第2変形例に係る圧電素子300について、図面を参照しながら説明する。図6は、圧電素子300を模式的に示す断面図である。以下、本実施形態の第2変形例に係る圧電素子300において、本実施形態に係る圧電素子100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0059】
圧電素子300では、図6に示すように、下部電極20、圧電体層30および上部電極40は、積層構造110(積層体110ともいえる)を構成しており、積層構造110は、複数設けられている。図示の例では、積層構造110は、3つ設けられているが、その数は特に限定されない。より具体的には、図示の例では、複数の下部電極20と、複数の圧電体層30と、複数の第1上部電極42と、1つの第2上部電極44が設けられている。第2上部電極44は、複数の積層構造110において、共通電極であるといえる。第2上部電極44は、複数の積層構造110において、連続しているともいえる。第2上部電極44は、複数の第1上部電極42の各々と、複数の圧電体層30の各々と、基板10の上面12と、を覆っている。これに対し、下部電極20は、複数の積層構造110において、個別電極であり、電気的に分離されている。
【0060】
圧電素子300によれば、上部電極40(第2上部電極44)を共通電極とする場合においても、第1部分35および第2部分36を有する側面34によって、上部電極40における応力の集中を緩和でき、高い信頼性を有することができる。
【0061】
(3)次に、本実施形態の第3変形例に係る圧電素子400について、図面を参照しながら説明する。図7は、圧電素子400を模式的に示す断面図である。以下、本実施形態の第3変形例に係る圧電素子400において、本実施形態の第2変形例に係る圧電素子300の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0062】
圧電素子300の例では、第2上部電極44は、連続する1つの共通電極であった。圧電素子400では、図7に示すように、さらに圧電体層30が、複数の積層構造110において、共通の圧電体層となっている。すなわち、圧電素子400では、複数の下部電極20と、1つの圧電体層30と、複数の第1上部電極42と、1つの第2上部電極44が設けられている。圧電体層30は、複数の積層構造110において、連続しているともいえる。第2上部電極44は、複数の第1上部電極42の各々と、圧電体層30と、を覆っている。
【0063】
圧電素子400によれば、第2上部電極44は、基板10と接触していない。そのため、第2上部電極44は、圧電体層30(および第1上部電極42)との相性(密着性、反応性など)を考慮すればよく、第2上部電極44の材料の選択肢を広げることができる。また、例えば、基板10として可撓性を有する振動板を用いた場合は、圧電体層30の残し量(基板10と接触する部分の膜厚量)を制御することによって、容易に共振周波数を調整することができる。
【0064】
(4)次に、本実施形態の第4変形例に係る圧電素子500について、図面を参照しながら説明する。図8は、圧電素子500を模式的に示す断面図である。以下、本実施形態の第4変形例に係る圧電素子500において、本実施形態の第2変形例に係る圧電素子300の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0065】
圧電素子300の例では、第2上部電極44は、連続する1つの共通電極であった。圧電素子500では、図8に示すように、第2上部電極44は、複数の圧電体層30に対応して、複数設けられている。複数の第2上部電極44は、配線(図示せず)によって、電気的に接続されて、共通電極となっていることができる。
【0066】
圧電素子500では、圧電素子300,400の例に比べて、隣り合う積層構造110において、一方の圧電体層30の駆動が、他方の圧電体層30の駆動に及ぼす影響(クロストーク)を小さくすることができる。そのため、高い信頼性を得ることができる。
【0067】
4. 液体噴射ヘッド
次に、本発明に係る圧電素子が圧電アクチュエーターとして機能している液体噴射ヘッド600について、図面を参照しながら説明する。図9は、液体噴射ヘッド600の要部を模式的に示す断面図である。図10は、液体噴射ヘッド600の分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0068】
液体噴射ヘッド600は、本発明に係る圧電素子を有することができる。以下の例では、本発明に係る圧電素子として圧電素子100を有する液体噴射ヘッド600について説明する。なお、上述のとおり、圧電素子100が圧電アクチュエーターとして機能する場合、基板10は、可撓性を有し、圧電体層30の動作によって変形する振動板となることができる。
【0069】
液体噴射ヘッド600は、図9および図10に示すように、ノズル孔612を有するノズル板610と、圧力室622を形成するための圧力室基板620と、圧電素子100(圧電アクチュエーター100ともいえる)と、を含む。さらに、液体噴射ヘッド600は、図10に示すように、筐体630を有することができる。なお、図10では、圧電素子100の積層構造110を簡略化して図示している。
【0070】
ノズル板610は、図9および図10に示すように、ノズル孔612を有する。ノズル孔612からは、インクが吐出されることができる。ノズル板610には、例えば、多数のノズル孔612が一列に設けられている。ノズル板620の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを列挙することができる。
【0071】
圧力室基板620は、ノズル板610上(図10の例では下)に設けられている。圧力室基板620の材質としては、例えば、単結晶シリコンなどを列挙することができる。圧力室基板620がノズル板610と基板10との間の空間を区画することにより、図10に示すように、リザーバー(液体貯留部)624と、リザーバー624と連通する供給口626と、供給口626と連通する圧力室622と、が設けられている。すなわち、リザーバー624、供給口626および圧力室622は、ノズル板610と圧力室基板620と基板10とによって区画されている。リザーバー624は、外部(例えばインクカートリッジ)から、基板10に設けられた貫通孔628を通じて供給されるインクを一時貯留することができる。リザーバー624内のインクは、供給口626を介して、圧力室622に供給されることができる。圧力室622は、基板10の変形により容積が変化する。圧力室622はノズル孔612と連通しており、圧力室622の容積変化によって、ノズル孔612からインクが吐出される。
【0072】
圧電素子100は、圧力室基板620上(図10の例では下)に設けられている。圧電素子100の積層構造110は、圧電素子駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて動作(振動、変形)することができる。基板10は、積層構造110(圧電体層30)の動作によって変形し、圧力室622の内部圧力を瞬間的に高めることができる。なお、図9では、圧電体層30の側面34と基板10の上面12との接続部39が平面視において圧力室622の外側に配置されているが、内側に配置されていてもよい。
【0073】
筐体630は、図10に示すように、ノズル板610、圧力室基板620および圧電素子100を収納することができる。筐体630の材質としては、例えば、樹脂、金属などを列挙することができる。
【0074】
液体噴射ヘッド600によれば、上述のとおり信頼性の高い圧電素子100を有することができる。これにより、信頼性の高い液体噴射ヘッド600を得ることができる。
【0075】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッド600がインクジェット式記録ヘッドである場合について説明した。しかしながら、本発明の液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0076】
5. 液体噴射装置
次に、本実施形態に係る液体噴射装置について、図面を参照しながら説明する。図11は、本実施形態に係る液体噴射装置700を模式的に示す斜視図である。液体噴射装置700は、本発明に係る液体噴射ヘッドを有する。以下では、液体噴射装置700がインクジェットプリンターである場合について説明する。
【0077】
液体噴射装置700は、図11に示すように、ヘッドユニット730と、駆動部710と、制御部760と、を含む。さらに、液体噴射装置700は、装置本体720と、給紙部750と、記録用紙Pを設置するトレイ721と、記録用紙Pを排出する排出口722と、装置本体720の上面に配置された操作パネル770と、を含むことができる。
【0078】
ヘッドユニット730は、例えば、上述した液体噴射ヘッド600から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット730は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ731と、ヘッドおよびインクカートリッジ731を搭載した運搬部(キャリッジ)732と、を備える。
【0079】
駆動部710は、ヘッドユニット730を往復動させることができる。駆動部710は、ヘッドユニット730の駆動源となるキャリッジモーター741と、キャリッジモーター741の回転を受けて、ヘッドユニット730を往復動させる往復動機構742と、を有する。
【0080】
往復動機構742は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸744と、キャリッジガイド軸744と平行に延在するタイミングベルト743と、を備える。キャリッジガイド軸744は、キャリッジ732が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ732を支持している。さらに、キャリッジ732は、タイミングベルト743の一部に固定されている。キャリッジモーター741の作動により、タイミングベルト743を走行させると、キャリッジガイド軸744に導かれて、ヘッドユニット730が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0081】
制御部760は、ヘッドユニット730、駆動部710および給紙部750を制御することができる。
【0082】
給紙部750は、記録用紙Pをトレイ721からヘッドユニット730側へ送り込むことができる。給紙部750は、その駆動源となる給紙モーター751と、給紙モーター751の作動により回転する給紙ローラー752と、を備える。給紙ローラー752は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラー752aおよび駆動ローラー752bを備える。駆動ローラー752bは、給紙モーター751に連結されている。制御部760によって供紙部750が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット730の下方を通過するように送られる。
【0083】
ヘッドユニット730、駆動部710、制御部760および給紙部750は、装置本体720の内部に設けられている。
【0084】
液体噴射装置700によれば、上述のとおり信頼性の高い液体噴射ヘッド600を有することができる。これにより、信頼性の高い液体噴射装置700を得ることができる。
【0085】
なお、上述した例では、液体噴射装置700がインクジェットプリンターである場合について説明したが、本発明の液体噴射装置は、工業的な液体吐出装置として用いられることもできる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。
【0086】
なお、上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0087】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0088】
10 基板、12 基板の上面、20 下部電極、30 圧電体層、30a 圧電体層、
32 圧電体層の上面、34 圧電体層の側面、35 第1部分、36 第2部分、
38 屈曲部、39 接続部、40 上部電極、42 第1上部電極、
42a 第1上部電極、44 第2上部電極、100 圧電素子、110 積層構造、
200 圧電素子、237 第3部分、300 圧電素子、400 圧電素子、
500 圧電素子、600 液体噴射ヘッド、610 ノズル板、612 ノズル孔、
620 圧力室基板、622 圧力室、624 リザーバー、626 供給口、
628 貫通孔、630 筐体、700 液体噴射装置、710 駆動部、
720 装置本体、721 トレイ、722 排出口、730 ヘッドユニット、
731 インクカートリッジ、732 キャリッジ、741 キャリッジモーター、
742 往復動機構、743 タイミングベルト、744 キャリッジガイド軸、
750 給紙部、751 給紙モーター、752 給紙ローラー、
752a 従動ローラー、752b 駆動ローラー、760 制御部、
770 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上方に形成された下部電極と、
前記下部電極を覆う圧電体層と、
前記圧電体層の上方に形成された上部電極と、
を含み、
前記圧電体層の側面は、
前記圧電体層の上面と接続する第1部分と、前記第1部分と接続する第2部分と、を有し、
前記第1部分は、前記基板の上面に対して第1角度で傾いており、
前記第2部分は、前記基板の上面に対して第2角度で傾いており、
前記第2角度は、前記第1角度より小さく、
前記上部電極は、少なくとも前記第1部分および前記第2部分を覆っている、圧電素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1部分および前記第2部分の形状は、それぞれ平面である、圧電素子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記圧電体層の側面は、前記第2部分と接続する第3部分を、さらに有し、
前記第3部分は、前記基板の上面に対して第3角度で傾いており、
前記第3角度は、前記第2角度より大きく、前記第1角度より小さい、圧電素子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記下部電極、前記圧電体層および前記上部電極からなる積層構造は、複数設けられ、
前記下部電極は、複数の前記積層構造において、個別電極であり、
前記上部電極は、複数の前記積層構造において、共通電極である、圧電素子。
【請求項5】
基板の上方に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極を覆うように圧電体層を成膜する工程と、
前記圧電体層の上方に第1上部電極を成膜する工程と、
前記第1上部電極および前記圧電体層をパターニングする工程と、
パターニングされた前記第1上部電極および前記圧電体層の上方に第2上部電極を形成する工程と、
を含み、
前記パターニングする工程では、
前記圧電体層の上面と接続し、前記基板の上面に対して第1角度で傾く前記圧電体層の側面の第1部分と、
前記第1部分と接続し、前記基板の上面に対して第2角度で傾く前記圧電体層の側面の第2部分と、
を形成し、
前記第2角度は、前記第1角度より小さく、
前記第2上部電極を形成する工程では、
少なくとも前記第1部分および前記第2部分を覆うように、前記第2上部電極を形成する、圧電素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の圧電素子を含み、
前記基板は、可撓性を有し、前記圧電体層の動作によって変形する、圧電アクチュエーター。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電アクチュエーターと、
ノズル孔と連通し、前記圧電アクチュエーターの動作によって容積が変化する圧力室と、
を含む、液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の液体噴射ヘッドを含む、液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−18723(P2011−18723A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161560(P2009−161560)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】