説明

地下構造物の構築方法

【課題】 並設された複数本のトンネルを利用して築造する地下構造物について、土圧に対する耐力(抵抗力)を確保しつつ、トンネルの一体化を簡易に行うことを可能とした、地下構造物の構築方法を提供する。
【解決手段】 トンネル1を複数段複数列並設し、これらのトンネル1,1,…の周辺地盤Gに面する覆工11を残置させて外周部2を形成し、この外周部2の内周に沿って内周部3を形成する地下構造物の構築方法であって、トンネル軸方向において撤去区間と支保区間とを交互に設定し、支保区間において外周部2となる覆工11以外の覆工11の少なくとも一部を支保として利用しつつ、撤去区間において内周部3を構築する際に邪魔になる覆工11を撤去し、撤去区間において内周部3を閉合した後に、支保区間において支保として利用された覆工11を撤去したうえで、支保区間において内周部3を閉合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
並設された複数本のトンネルを利用して築造した地下構造物が特許文献1に記載されている。この地下構造物は、その横断面の全てを実質的に包含するように複数本のトンネルを縦横に並べて構築し、その後、各トンネルの不要な覆工を撤去して大きな空間を形成することにより築造される。なお、複数のトンネルは、時間差をもって順次に構築され、後行のトンネルは、先行のトンネルの隣りに構築される。また、各トンネルは、推進工法またはシールド工法により構築される。
【0003】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の函体を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進する。一方、シールド工法とは、トンネル切羽に設置された掘進機で地山を掘削するとともに、掘進機の内部でトンネルの覆工となるセグメントを組み立ててトンネルを構築する工法である。なお、シールド掘進機は、その内部で組み立てられたセグメントに反力をとって自ら掘進する。
【0004】
ところで、特許文献1に記載された構成では、各トンネルの残置された覆工がそのまま地下構造物の本設の底版や側壁になっていることから、各トンネルの覆工を予め重厚なものにしておく必要がある。つまり、各トンネルの残置された覆工をそのまま本設の構造体として利用する場合には、各トンネルの覆工の厚さや強度を、閉断面のトンネルに使用する場合に必要な厚さや強度(すなわち、施工時に必要な厚さや強度)よりも大きくしておく必要がある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−214699号公報(段落0022、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本設の構造体としてそのまま利用できる程度に各トンネルの覆工を重厚なものにすると、覆工を構成する函体やセグメントの重量が嵩むことになるので、その搬入作業や組立作業に支障をきたす虞がある。
【0007】
そのため、各トンネルの函体やセグメントを一次覆工として、内部の不要な部分を撤去した後、二次覆工としてコンクリートを打設することで、本設の構造体を構築する場合がある。しかし、このような施工を実施するためには、各トンネルの函体やセグメントの解体は、土圧下での実施のため、土圧を一旦、他の構造物に受け替える必要があり、そのための作業に手間がかかるという問題点を有していた。
【0008】
このような観点から、本発明は、並設された複数本のトンネルを利用して築造する地下構造物の構築方法であって、土圧に対する耐力(抵抗力)を確保しつつ、トンネルの一体化を簡易に行うことを可能とした、地下構造物の構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために創案された本発明に係る地下構造物の構築方法は、トンネルを複数段複数列並設し、前記各トンネルの周辺地盤に面する覆工を残置させて外周部を形成し、前記外周部の内周に沿って内周部を形成する、地下構造物の構築方法であって、前記並設された複数段複数列のトンネルに、トンネル軸方向において撤去区間と支保区間とを交互に設定し、前記支保区間において前記外周部となる前記覆工以外の覆工の少なくとも一部を支保として利用しつつ前記撤去区間において前記内周部を構築する際に邪魔になる覆工を撤去し、前記撤去区間において内周部を閉合した後に、前記支保区間において支保として利用された前記覆工を撤去したうえで、前記支保区間において内周部を閉合することを特徴としている。
【0010】
かかる地下構造物の構築方法は、支保区間において、前後の撤去区間を含めて土圧等の外力に対する耐力(抵抗力)を確保しているため、撤去区間において各トンネルの不要な覆工(周辺地盤に面する覆工以外の覆工)を撤去しても、安定した状態で、施工を行うことが可能となる。また、土圧等の外力の受け替えについて、新たな部材の配置や、トンネルの覆工を予め重厚なものにすることを要しないため施工性に優れ、かつ、経済的にも優れている。また、支保区間における内周部の構築は、前後の撤去区間における内周部の施工の進行に応じて行うため、安全性は確保されている。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、トンネルを複数段複数列並設し、前記各トンネルの周辺地盤に面する覆工を残置させて外周部を形成し、前記外周部の内周に沿って内周部を形成する、地下構造物の構築方法であって、前記並設された複数段複数列のトンネルに、トンネル軸方向において撤去区間と支保区間とを交互に設定し、前記支保区間において前記外周部となる前記覆工以外の覆工の少なくとも一部を縦支柱または横支柱として利用しつつ前記撤去区間において前記内周部を構築する際に邪魔になる覆工の撤去を行う工程と、前記撤去区間において前記内周部の底版の構築を行う工程と、前記支保区間において横支柱として利用された前記覆工のうち、前記内周部の側壁を構築する際に邪魔になる覆工の撤去を行う工程と、前記撤去区間および前記支保区間において内周部の側壁の構築を行う工程と、前記撤去区間において前記内周部の頂版の構築を行い、該内周部を閉合する工程と、前記支保区間において縦支柱として利用された前記覆工を撤去する工程と、前記支保区間において内周部を閉合する工程とを備えることを特徴としている。
【0012】
かかる地下構造物の構築方法は、撤去区間の構築を支保区間により耐力(抵抗力)を確保した状態で行い、撤去区間における内周部の構築の進行に伴い、支保区間の不要な覆工の撤去および内周部の構築を行うため、適切に土圧の受け替えを行うため、好適である。
【0013】
この地下構造物は、各トンネルの覆工であって周辺地盤に面している覆工を利用して形成した外周部と、その内周に沿って形成した内周部との二層構造になっているので、内周部の厚さや強度を適宜調節することで、完成後に外周部が負担すべき荷重を小さくすることができる。つまり、各トンネルは、その施工時に必要な覆工の厚さ(すなわち、閉断面のトンネルである場合に必要な厚さ)を備えていればよく、したがって、各トンネルの覆工が必要以上に重厚になることがない。
【0014】
また、本発明に係る地下構造物の構築方法において、トンネル軸方向に隣り合う前記覆工同士を連結してもよい。このようにすると、支保区間と撤去区間との間で隣り合う覆工同士が一体化されるため、支保区間と撤去区間に加わる外力を、適宜、互いに受け替えることを可能とし、地下構造物の施工を安全に行うことを可能としている。また、隣り合う覆工同士が一体化されることになるので、外周部の剛性を向上させることができる。なお、隣り合う覆工同士は、例えば、ボルト・ナットからなる継手やくさびを利用した継手を介して連結してもよいし、溶接により連結してもよい。
【0015】
また、前記内周部が、トンネル横断方向に隣り合う前記覆工同士の境界部分を跨ぐように打設されたコンクリートを含んで構成されていれば、複数のトンネルを並設したときにその境界部分に生じる覆工間の隙間(継ぎ目)がコンクリートで塞がれて、この隙間からの地下水等の浸入を防止することができる。なお、コンクリートを打設する際には、外周部がそのまま周辺地盤側の型枠になることから、施工性がよい。
【0016】
さらに、前記コンクリートには、前記境界部分を跨ぐように配置された鉄筋を埋設してもよい。このようにすると、鉄筋の補強効果によって内周部の剛性が向上し、さらには、各トンネルの残置された覆工同士が鉄筋を介して互いに連結されることになるので、外周部の剛性も向上することとなる。なお、各トンネルの覆工が鋼製の部材で構成されている場合には、コンクリートとともに所謂オープンサンドイッチ構造を形成することになるので、内周部のコンクリート厚さを小さくすることができ、また、外周部のない単純な鉄筋コンクリート構造に比べ鉄筋量を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る地下構造物の構築方法によると、並設された複数本のトンネルの各覆工が必要以上に重厚になることがなく、土圧に対する耐力(抵抗力)を確保しつつ、トンネルの一体化を簡易かつ迅速に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。ここで、図1は、本実施形態にかかる地下構造物を示す断面図である。また、図2は、本実施形態の地下構造物の全体を示す斜視図である。また、図3は、本実施形態の地下構造物の構築方法に係る支保区間と撤去区間とを示す平面図である。さらに、図4(a)〜(f)、図5(a)〜(f)、図6(a)〜(c)は、本実施形態の地下構造物の構築方法に係る各施工段階を示す断面図であって、図7は、箱抜き状況を示す平面図である。
【0019】
本実施形態に係る地下構造物の構築方法は、図1に示すように、トンネル1を複数段複数列(本実施形態では2段3列)並設し、各トンネル1,1,…の周辺地盤Gに面する覆工を残置させて外周部2を形成し、外周部2の内周に沿って内周部3を形成することにより、大断面トンネル(地下構造物)Tを構築するものである。この場合において、図3に示すように、並設された複数段複数列のトンネル1,1,…に、トンネル軸方向において函体10毎に撤去区間Aと支保区間Bとを交互に設定し、支保区間Bにおいて外周部2となる覆工11以外の覆工11の少なくとも一部を支保として利用しつつ撤去区間Aにおいて内周部3を構築する際に邪魔になる覆工11を撤去し、撤去区間Aにおいて内周部3を閉合した後に、支保区間Bにおいて支保として利用された覆工11を撤去したうえで、支保区間Bにおいて内周部3を閉合するものである。
【0020】
本実施形態に係る大断面トンネルTは、図1に示すように、その横断面の全てを包含するように並設された複数本(本実施形態では六本)のトンネル1,1,…を利用して築造したものであり、周辺地盤Gに面する外周部2と、この外周部2の内周に沿って形成された内周部3とを備えている。
【0021】
そして、本実施形態では、図2に示すように、盛土E上に形成された既設道路Rにランプ部を新設する際に、既設道路Rへの取付道路Raとして既設道路Rの下を通過する曲線線形を有した大断面トンネル(地下構造物)Tを構築する。
【0022】
ここで、大断面トンネルTの横断面は、図1に示すように、矩形を呈しており、各トンネル1の横断面は略正方形を呈している。また、複数のトンネル1,1,…は、同一の横断面形状を有しており、かつ、複数のトンネル1,1,…の横断面の面積の合計と大断面トンネルTの横断面の面積とがおおよそ等しくなっている。なお、本実施形態では、各トンネル1の横断面を略正方形に形成するものとしたが、各トンネル1の横断面形状は限定されるものではないことはいうまでもない。また、前記各トンネル同士は、互いに設けられた継手手段Jを介して、一体に接合されている。
【0023】
次に、各トンネル1の施工時の覆工11(覆工構造)について詳細に説明する。ここで、各トンネル1は、推進工法またはシールド工法により構築することができるが、本実施形態では、推進工法により構築する場合を例示する。なお、トンネルTの施工時の覆工11には、周辺地盤Gに面していて、かつ、大断面トンネルTの完成後も残置される覆工11aと、内周部3の内空側に露出し、かつ、完成前に撤去される覆工11bとがある。なお、以下の説明では、残置される覆工11aを「残置覆工11a」と称し、撤去される覆工11bを「撤去覆工11b」と称することがある。
【0024】
函体10(覆工11)は、角筒状に形成されたスキンプレート(図示省略)と、トンネル軸方向に間隔をあけて配置された複数の枠状の主桁(図示省略)と、隣り合う主桁間においてトンネル軸方向に沿って配置された複数の縦リブ(図示省略)とを含んで構成されている。
【0025】
なお、本実施形態においては、函体10を鋼製の部材で構成したが、この他、球状黒鉛鋳鉄製の部材で構成してもよく、さらには、鉄筋コンクリート製の部材で構成してもよい。また、図示は省略するが、複数のセグメントを組み合わせて函体10を構成してもよい。なお、この場合には、残置覆工11aと撤去覆工11bとの境界部分にセグメントの継手(継ぎ目)を位置させると、撤去覆工11bの撤去を簡易迅速に行うことが可能となる。
【0026】
次に、図1を参照して、大断面トンネルTを構成する外周部2および内周部3について詳細に説明する。なお、以下の説明において、トンネル横断方向とは、図1において左右方向または上下方向を意味する。
【0027】
外周部2は、角筒状の外殻を形成するように配置された複数の残置覆工11a,11a,…を含んで構成されていて、内周部3とともに本設構造体を形成している。つまり、各トンネル1の断面矩形枠状の覆工11のうち、周辺地盤Gに面する断面略L字状または断面略一文字状の残置覆工11aによって本設構造体の一部として機能する外周部2が構成されている。また、トンネル横断方向に隣り合う残置覆工11a,11aは、継手手段Jを介して互いに連結されている。このようにすると、トンネル横断方向に隣り合う残置覆工11a,11aが強固に一体化されることになるので、外周部2の剛性を向上させることができる。なお、本実施形態では、継手手段Jとして、一方の覆工11に形成された溝部に他方の覆工11に形成された突条を挿入するものを採用したが、継手手段Jの構成は限定されるものではなく、適宜公知の手段から選定して採用すればよい。
【0028】
内周部3は、必要に応じてトンネル軸方向(図1において紙面垂直方向)に間隔をあけて配筋された複数の鉄筋(図示省略)と、外周部1の内周に沿って打設されたコンクリートとを含んで構成されていて、本実施形態では、頂版TA、底版TBおよび側壁TCを備えている。
【0029】
以下、本実施形態に係る大断面トンネルTの構築方法について詳細に説明する。
大断面トンネルTの構築は、図1に示すように、大断面トンネルTの横断面の全てを実質的に包含するように複数本のトンネル1,1,…を並設し、各トンネル1の周辺地盤Gに面する覆工(外周部2)に沿って内周部3を構築するものである。
【0030】
より詳細には、この大断面トンネル1の構築方法は、以下に説明するトンネル構築工程と内周部構築工程により行われる。
【0031】
トンネル構築工程は、図1に示すように、築造すべき大断面トンネルTの横断面の全てを実質的に包含するように複数本のトンネル1,1,…を並設する工程である。つまり、トンネル構築工程は、大断面トンネルTが構築される領域を均等に分割してなる複数の小領域のそれぞれにトンネル1を構築する工程であり、総てのトンネル1の構築が完了した時点で、大断面トンネルTが構築される領域の掘削と支保とが完了する。
【0032】
複数のトンネル1,1,…を施工順にトンネル1a〜1fと称してトンネル構築工程をより具体的に説明する。まず、図1に示すように、築造すべき大断面トンネルTの下部外側の小領域に基準となる一本目のトンネル1aを構築したうえで、この一本目のトンネル1aの横隣りの小領域に、一本目のトンネル1aをガイドにして二本目のトンネル1bおよび三本目のトンネル1cを構築する。続いて、一本目のトンネル1aの縦(上)隣りの小領域にこれをガイドにして四本目のトンネル1dを構築し、さらに、トンネル1dおよびトンネル1bに隣接する小領域にこれらをガイドにして五本目のトンネル1eを構築し、トンネル1cおよびトンネル1eに隣接する小領域にこれらをガイドにして六本目のトンネル1fを構築する。なお、トンネル1a〜1fの構築順序は、前記のものに限らず、適宜変更しても差し支えない。
【0033】
各トンネル1は、複数の函体10,10,…を図示せぬ坑口から順次押し出す(押し込む)ことにより構築される。なお、トンネル1の施工中は、函体10の周囲に滑材を注入・充填しておき、トンネル1の構築が完了した後に、硬化性の裏込材に置き換える。また、図示は省略するが、各トンネル1において、トンネル軸方向に隣り合う函体10,10は、図示せぬボルト・ナット等を用いて互いに連結するとよい。ここで、本実施形態では、函体10の配置時に滑材を注入充填し、トンネル1の構築完了時に裏込材と置き換える構成としたが、滑材と裏込材とを兼用した材料であれば、置き換える必要はないことはいうまでもない。
【0034】
なお、トンネル1の施工に使用する掘進機は、その後方にある函体10に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、函体10を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。
【0035】
内周部構築工程は、各トンネル1の周辺地盤Gに面しており、残置された覆工である外周部2に沿って内周部3(頂版TA、底版TBおよび側壁TC)を構築する工程であり、次に示す第一工程〜第七工程により行われる。
【0036】
地下構造物の構築は、図3に示すように、トンネル軸方向において撤去区間Aと支保区間Bとを交互に設定された、複数のトンネル1,1,…の集合体について、(1)支保区間Bにおいて各トンネル1,1,…の覆工11を縦支柱12および横支柱13(支保)として利用しつつ、撤去区間Aにおいて外周部2として残置される覆工11以外の覆工11bの撤去を行う第一工程と(図4(a)および図4(b)参照)、(2)撤去区間Aにおいて内周部3の底版TBの構築を行う第二工程と(図4(c)参照)、(3)支保区間Bにおいて前記内周部3の側壁TCに対応する箇所の覆工11bの撤去を行う第三工程と(図4(f)参照)、(4)撤去区間Aおよび支保区間Bにおいて内周部3の側壁TCの構築を行う第四工程と(図5(a)および(b)参照)、(5)撤去区間Aにおいて内周部3の頂版TAの構築を行い、該内周部3を閉合する第五工程と(図5(c)参照)、(6)支保区間Bにおいて縦支柱12として利用された覆工11bを撤去する第六工程と(図5(f)参照)、(7)支保区間Bにおいて内周部3を閉合する第七工程と(図6(b)参照)、により行う。
【0037】
(1)第一工程
第一工程では、図4(b)に示すように、支保区間Bにおいて、各トンネル1の覆工を縦支柱12および横支柱13として残置して、撤去区間Aも含めて当該大断面トンネルT(トンネルの集合体)に作用する外力(土圧等)Pに対する耐力(抵抗力)を保持するものとする。この時、各トンネル1のトンネル軸方向に隣り合う覆工同士が連結されているため、撤去区間Aと支保区間Bとの外周部2が一体として、外力を受け持つ構成となっている。一方、撤去区間Aでは、図4(a)に示すように、内周部3の施工が可能となるように、外周部2に対応する覆工(残置覆工11a)以外の覆工11(撤去覆工11b)を撤去する。なお、本実施形態では、撤去区間Aにおいて最終的に撤去される撤去覆工11bのすべてを第一工程で撤去するものとしたが、撤去覆工11bの撤去のタイミングはこれに限定されるものではなく、例えば、第一工程では内周部3を構築する際に邪魔になる撤去覆工11bのみを撤去してもよい。
【0038】
(2)第二工程
第二工程では、図4(c)に示すように、撤去区間Aにおいて、内周部3の底版TBを構築する。また、支保区間Bでは、図4(d)に示すように、右下および左下にあるトンネル1,1内において、内周部3の側壁TCの脚部に対応する箇所の底版(以下、単に「脚部」という場合がある)TB’の施工を行う。この時、外周部2に加わる外力Pは、支保区間Bの縦支柱12および横支柱13により受け持っている。
【0039】
なお、覆工同士の境界部分(撤去区間Aと支保区間Bとの境界部分)を跨ぐようにコンクリートを打設し、撤去区間Aの底版TBと支保区間Bの脚部TB’とは、連続して一体に構築するのが望ましい。また、撤去区間Aの底版TBおよび支保区間Bの脚部TB’は、支保区間Bの縦支柱12から所定の間隔を有した状態で構築されるものとし、図7に示すように、内周部3の底版TBに箱抜き3aがされた状態で構築される。つまり、撤去区間Aの底版TBは、支保区間Bの縦支柱12に対応する箇所について、縦支柱12との間に形成された間隔の分、細く形成されている。
ここで、底版TBと脚部TB’の施工時に、必要に応じて鉄筋を配筋するものとし、この鉄筋の配筋についても、覆工同士の境界部分(撤去区間Aと支保区間Bの境界部分)を跨ぐように配筋するものとする。また、底版TBおよび脚部TB’は、後記する側壁TCとの接合部に、予め図示しない鉄筋(主筋またはさし筋)を所定長突出させた状態で施工を行う。
【0040】
(3)第三工程
第三工程では、図4(f)に示すように、支保区間Bにおいて、内周部3の側壁TCを構築する際に邪魔になる撤去覆工11b(本実施形態では右上のトンネル1と右下のトンネル1の境界にある覆工11bおよび左上のトンネル1と左下のトンネル1の境界にある覆工11b)の撤去を行う。つまり、図4(e)に示すように、撤去区間Aの底版TBの施工が完了し、外周部2に加わる外力Pのうち、側圧Pbについて撤去区間Aの底版TBにより受け持つことが可能となった段階で、図4(f)に示すように、支保区間Bの横支柱13を切断することで、側圧Pbを横支柱13から撤去区間Aの底版TBへと受け替える。したがって、図4(e)および図4(f)に示すように、大断面トンネルTに加わる外力Pは、鉛直力Paについては支保区間Bの縦支柱12、水平力Pbについては撤去区間Aの底版TAにより受け持つ。
【0041】
(4)第四工程
第四工程では、図5(a)および図5(b)に示すように、撤去区間Aおよび支保区間Bにおいて、内周部3の側壁TCの構築を行う。この時、側壁TCは、覆工同士の境界部分(撤去区間Aと支保区間Bの境界部分)を跨ぐようにコンクリートを打設し、一体に連続して構築するのが望ましい。また、側壁TCには、必要に応じて鉄筋を配筋するものとし、この鉄筋の配筋についても、覆工同士の境界部分を跨ぐように配筋するものとする。また、側壁TCの施工は、後記する頂版TAとの接合部(上端部)から図示しない鉄筋(主筋またはさし筋)を所定長突出させた状態でおこなう。
【0042】
(5)第五工程
第五工程では、図5(c)に示すように、撤去区間Aにおいて、内周部3の頂版TAの施工を行い、内周部3を閉合する。一方、支保区間Bでは、図5(d)に示すように、右上のトンネル1および左上のトンネル1内において、内周部3の側壁TCの上端部に対応する箇所の頂版(以下、単に「上端部」という場合がある)TA’の施工を行う。この時、外周部2に加わる外力Pは、図5(c)および図5(d)に示すように、鉛直力Paは支保区間Bの縦支柱12、水平力Pbは撤去区間Aの底版TBにより受け持っている。また、撤去区間Aの頂版TAおよび支保区間Bの上端部TA’は、支保区間Bの縦支柱12から所定の間隔を有した状態で構築されるものとし、図7に示すように、内周部3の頂版TAに箱抜き3aが形成された状態で構築される。つまり、撤去区間Aの頂版TAは、支保区間Bの縦支柱12に対応する箇所について、縦支柱12との間に形成された間隔の分、細く形成されている。
【0043】
(6)第六工程
第六工程では、撤去区間Aの内周部3が所定の強度に達した段階で、支保区間Bにおいて、図5(f)に示すように、縦支柱12として利用した覆工11(撤去覆工11b)の撤去を行う。つまり、図5(e)に示すように、撤去区間Aの頂版TAの施工が完了することで、撤去区間Aの内周部3が閉合されるため、外周部2に採用する外力Pを、撤去区間Aにより受け持つことが可能となる。そのため、支保区間Bの縦支柱12を撤去することで、鉛直力Paを支保区間Bの縦支柱12から撤去区間Aへと受け替える。
【0044】
(7)第七工程
第七工程では、図6(b)に示すように、支保区間Bの縦支柱12の存在により内周部3の底版TBおよび頂版TAに形成された箱抜き3a(図7参照)について、コンクリートの打設を行い、支保区間Bの内周部3の閉合を行う。これにより、図6(a)および図6(b)に示すように、撤去区間Aおよび支保区間Bにおいて、内周部3が閉合されて、大断面トンネルTの外殻が完成する。
【0045】
そして、第七工程により、大断面トンネルTの内周部3の構築が完了したら、図6(c)に示すように、大断面トンネルTの内部の各種構造物4を構築し、道路トンネルを完成させる。
【0046】
以上説明したように、この大断面トンネルTは、各トンネル1の覆工11を利用して形成した外周部2と、その内周に沿って形成した内周部3との二層構造になっているので、内周部3の厚さや強度を適宜調節することで、完成後に外周部2が負担すべき荷重を小さくすることができる。つまり、各トンネル1は、その施工時に必要な覆工11の厚さ、または、縦支柱12および横支柱13として外力Pに対応する耐力(抵抗力)を備えていればよく、したがって、各トンネルTの覆工11が必要以上に重厚になることがない。
【0047】
また、以上のような施工手順で大断面トンネルTを築造すると、外周部2に加わる外力Pを適宜、残置覆工11aまたは内周部3に受け替えるため、各トンネル1の覆工11を必要以上に重厚にしておく必要がない。
また、内周部3に対応する箇所の覆工11を撤去してから、内周部3の施工を行うため、施工の妨げとなることがなく、また、内周部3完成後に撤去する場合に比べて、撤去作業が容易である。
【0048】
本実施形態の地下構造物の構築方法によれば、土圧に対する耐力(抵抗力)を確保しつつ、複数並設されたトンネルの一体化を簡易に行うことが可能となるため、好適である。
【0049】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
例えば、前記した実施形態では、大断面トンネルの横断面が矩形である場合を例示したが(図1参照)、これに限定されることはなく、例えば、L字形状、T字形状、コ字形状、凹形状などであってもよい。また、各トンネルの横断面も矩形に限定されることはなく、例えば、角丸四角形や小判形を呈していても差し支えない。
【0050】
また、前記実施形態では、大断面トンネルが構築される領域を均等に分割してなる複数の小領域のそれぞれに同一の寸法・形状を有するトンネルを構築したが(図1参照)、必ずしも均等に分割する必要はない。すなわち、複数のトンネルの横断面の面積の合計と大断面トンネルの横断面の面積とがおおよそ等しくなっていれば、各トンネルの横断面の寸法や形状等は、二種類以上であってもよい。
【0051】
また、前記した実施形態では、大断面トンネルが構築される領域を二段三列に分割した場合を例示したが、領域の分割方式がこれに限定されることがないのは言うまでもない。
【0052】
また、前記実施形態では、既設の道路の下方を横断させて構築する、ランプ部の取り付け道路について、本発明の地下構造物の構築方法を採用するものとしたが、本発明の地下構造物の構築方法の適用箇所は限定されるものではない。
同様に、前記実施形態では、曲線線形を有した大断面トンネルについて説明したが、直線線形からなる場合にも適用可能であることはいうまでものない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本実施形態にかかる地下構造物を示す断面図である。
【図2】本実施形態の地下構造物の全体を示す斜視図である。
【図3】本実施形態の地下構造物の構築方法に係る支保区間と撤去区間とを示す平面図である。
【図4】(a)〜(f)は、本実施形態の地下構造物の構築方法に係る各施工段階を示す断面図である。
【図5】(a)〜(f)は、本実施形態の地下構造物の構築方法に係る各施工段階を示す断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、本実施形態の地下構造物の構築方法に係る各施工段階を示す断面図である。
【図7】本実施形態に係る大断面トンネルの箱抜き状況を示す平面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 トンネル
2 外周部
3 内周部
10 函体
11 覆工
11a 残置覆工
11b 撤去覆工
12 縦支柱
13 横支柱
A 撤去区間
B 支保区間
T 大断面トンネル(地下構造物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルを複数段複数列並設し、前記各トンネルの周辺地盤に面する覆工を残置させて外周部を形成し、前記外周部の内周に沿って内周部を形成する、地下構造物の構築方法であって、
前記並設された複数段複数列のトンネルに、トンネル軸方向において撤去区間と支保区間とを交互に設定し、
前記支保区間において前記外周部となる前記覆工以外の覆工の少なくとも一部を支保として利用しつつ前記撤去区間において前記内周部を構築する際に邪魔になる覆工を撤去し、
前記撤去区間において内周部を閉合した後に、前記支保区間において支保として利用された前記覆工を撤去したうえで、前記支保区間において内周部を閉合することを特徴とする、地下構造物の構築方法。
【請求項2】
トンネルを複数段複数列並設し、前記各トンネルの周辺地盤に面する覆工を残置させて外周部を形成し、前記外周部の内周に沿って内周部を形成する、地下構造物の構築方法であって、
前記並設された複数段複数列のトンネルに、トンネル軸方向において撤去区間と支保区間とを交互に設定し、
前記支保区間において前記外周部となる前記覆工以外の覆工の少なくとも一部を縦支柱または横支柱として利用しつつ前記撤去区間において前記内周部を構築する際に邪魔になる覆工の撤去を行う工程と、
前記撤去区間において前記内周部の底版の構築を行う工程と、
前記支保区間において前記横支柱として利用された覆工のうち、前記内周部の側壁を構築する際に邪魔になる覆工の撤去を行う工程と、
前記撤去区間および前記支保区間において前記内周部の側壁の構築を行う工程と、
前記撤去区間において前記内周部の頂版の構築を行い、該内周部を閉合する工程と、
前記支保区間において前記縦支柱として利用された覆工を撤去する工程と、
前記支保区間において内周部を閉合する工程と、
を備えることを特徴とする、地下構造物の構築方法。
【請求項3】
トンネル軸方向に隣り合う前記覆工同士を連結することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の地下構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−2603(P2007−2603A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186605(P2005−186605)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】