説明

地熱交換器及び空調装置

【課題】土壌の膨大な熱容量を有効に利用するための地熱交換器及びそれを利用して、熱効率が極めて良く、運転費が極めて少ない空調装置が要望されている。
【解決手段】地熱交換器を複数の熱交換管と、複数の熱交換管に熱媒体を供給する供給槽と、複数の熱交換管からの熱媒体を収集する収集槽と、で構成し、一年中温度が殆ど変わらない地中に、または大気との間に断熱材を備えて、地中に熱的に導通した蓄熱材の中に埋設する。熱媒体として空気を使用し、外気が地中温度より低い時、または室内温度が冷房設定温度より高い時に、外気をその地熱交換器経由で建物に入れる。これにより冬冷たい外気を地中温度付近まで温め、夏熱い外気を地中温度付近まで冷やして建物に取り入れるので冬暖房の補助をし、夏冷房する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気または不凍液を土壌と熱交換させる地熱交換器及びその地熱交換器を利用して建物を空調する空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌の熱特性を利用して住宅の冷房と暖房の補助を行う技術が開発され、実用化されてきた。地表の温度は土壌の熱特性と、気温や日射量等の気象条件により変化するが地中約5m地点では温度は一年中ほとんど変わらなく、ほぼ気温の年間の平均温度である。以下その温度を地中温度と呼ぶ。土壌の熱容量は大きい(地質により異なるが、1立方メートルあたり約500Kcal/k)ので、土壌との接触面の大きい熱交換器で土壌と熱交換することにより膨大な熱量を土壌から収集、または土壌に蓄積することができる。つまり、冬季は土壌の熱を収集し暖房の補助とし、夏季は熱を土壌に蓄積し家を冷房できる。
【0003】
土壌の熱を利用するために管を地中深く埋め、その管の中に空気または液体を流して熱交換する方法があるが長い管を地中深く埋めるための埋設工事が高価である。地表の温度は、外気の気温等の気象条件の影響で変わるので地表を気象条件の影響を受けないようにすれば地表は地中との熱伝導によりほぼ地中温度となる。従って、地表を外気から断熱することにより、長い管を地中深く埋設せずに、地表で地熱を利用することができ、その方法が開発された。
【0004】
その1例(例えば、特許文献1参照)は、断熱材を住宅の基礎の外側にほぼ水平に2m幅で敷設し、その地下約1mの深さに外気導入管を埋設するものである。外気導入管は住宅をほぼ1周し、緩勾配で配管し、その最下部に結露枡を配置して結露した水を処理する。外気は長い外気導入管を通過する過程で土壌と熱交換し、外気導入管から出る時、外気は地中温度付近になる。その空気を住宅に入れて住宅を空調する。
【0005】
他の例(例えば、特許文献2参照)は、住宅の基礎コンクリートの外側に断熱材を敷設し、熱交換器を基礎コンクリートの上に設置して熱交換するものである。図7を参照して説明する。図7の家は高気密高断熱の家であり、換気の空気を地熱伝達器50で冬季に冷たい外気を暖め室内に導入して暖房の補助をし、夏季に熱い外気を冷やし室内を冷房するものである。家の気密断熱空間は気密断熱層33と基礎コンクリート37で形成されている。地中断熱材34は土壌より上の気密断熱層33の延長で寒冷地では地中約1mまで敷設され、基礎コンクリート37直下の土壌36を家の外部の土壌35の地表から断熱している。給気口22から給気ファン23により取り入れられた外気は、切換えダンパー24によりバイパスダクト27を通るバイパス経路と地熱伝達器50を通る地熱伝達経路かのいずれかを通って吹出し口28から室内に入いる。室内の空気は不図示の排出口から排出される。暖房が必要な冬季に切換えダンパー24により地熱伝達経路に切換え、外気を基礎コンクリート37の表面温度まで暖めて室内に入れて暖房の補助をする。また、冷房が必要な夏季に切換えダンパー24により地熱伝達経路に切換え、外気を基礎コンクリート37の表面温度まで冷やして室内に入れて室内を冷房する。
【0006】
地熱伝達器50は熱抵抗の小さい地熱伝達器台51の上にその全底面を接触して設置する。地熱伝達器台51は地熱伝達器50内で結露した水を排水管53に集めるためにその上面が傾斜している。地熱伝達器台51は熱拡散率の大きい銅やアルミニューム等で作成された熱伝達板52の上に設置されている。熱伝達板52は基礎コンクリート37の上に密着して設置されている。熱伝達板52の面積は大きいほどその直下の基礎コンクリート37及び土壌の熱容量を利用できるため、できるだけ大きくするのが好ましい。地熱伝達器50の内部には垂直に配置され互いに熱的に導通した複数の薄い金属シートからなる熱伝達フィンがあり、通過する空気との熱伝達を大きくして空気が地熱伝達器50を出るときにその温度がほぼ熱伝達フィンの温度となるようにする。熱伝達フィンの面積が大きいほど、熱伝達フィン間の間隔が狭いほど熱伝達が大きい。
【0007】
【特許文献1】特開平7−208764
【特許文献2】特願2004−047762(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
土壌と熱交換する熱交換器(地熱交換器)を空調に使うためには地熱交換器から排出される風量が十分であり、且つ地熱交換器から排出される空気の温度が地中温度付近である必要がある。つまり冬季は冷たい外気を地中温度程度にまで暖め暖房の補助をし、夏季は熱い外気を地中温度程度まで冷やし、室内を快適な温度にする。土壌には空気と熱交換した熱が地熱交換器付近に蓄積され、地熱交換器の温度はその蓄熱量が増加するに従って次第に外気温度に近づく。つまり、冬季または夏季の初めは地熱交換器の温度は地中温度付近であるので地熱交換器から排出される空気の温度は地中温度付近であるが、冬季または夏季の終りに近づくにつれて地熱交換器から排出される空気の温度は外気温度に次第に近づく。冬季または夏季の終りに地熱交換器から排出される空気の温度を地中温度付近に保つためには地熱交換器と土壌の接触面積を大きくし、且つ地熱交換器の出口付近の土壌の温度を地中温度付近に保つ必要がある。
【0009】
従来の、外気導入管により外気を土壌と熱交換する方法は土壌との接触面積を大きくするために長い熱交換用の外気導入管を地中に埋める。そのために次のような問題がある。外気導入管の内径が小さい場合、土壌との接触面積が小さく、また風量を確保するために風速が大きくするので外気導入管に発生する圧力損失が大きくなり、強力なファンが必要である。従って、内径が比較的大きい外気導入管を使う。外気導入管は地中に埋められるので機械的な強度が必要であり、且つ耐腐食性があり、且つ熱伝導率の高い材料を使う必要があるために高価になる。更に、深さ約1mの所に埋設されているため管が地震等で破損した場合や埃で汚れた場合のメンテナンスが困難である。更に、建物の周囲の外側に断熱材を敷設するために幅が約2mの土地が必要である。
【0010】
また、従来の熱伝達器を使う方法は熱伝達板とコンクリートとの接触面が平面のため次のような問題がある。熱伝達板の面積が大きい場合、熱伝達板とコンクリートの間に空気層ができ、熱伝達板とコンクリートの間の熱伝導率が低下し、熱伝達器からの空気の温度が地中温度付近にならない。熱伝達器の底面積が大きい場合、熱伝達器の制作費が高価になり、熱伝達器の底面積が小さい場合、面積が大きい熱伝達板を使う必要があり、熱伝達板で熱を広く伝達するために厚い熱伝達板を使う必要があり高価になる。熱伝達板の面積が小さい場合、多数の熱伝達器が必要であり、高価になる。
【0011】
本発明は前記従来例の不具合を解消し、土壌との熱交換により、空気の温度を地中温度近くまで変化させ、熱容量が大きく、圧力損失を小さく保ち、設置が容易で、メンテナンスが容易で、安価な地熱交換器及びその地熱交換器を利用して建物を空調する空調装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の本発明によれば、本発明の地熱交換器は、熱媒体を介して土壌を含む蓄熱材に熱を貯蔵または前記蓄熱材から熱を回収する地熱交換器であって、高熱伝導材で作られ、互いにほぼ平行に配管された複数の熱交換管と、前記複数の熱交換管の各々の一端に接続され、前記熱媒体を前記複数の熱交換管に供給する供給槽と、前記複数の熱交換管の各々の他端に接続され、前記複数の熱交換管からの前記熱媒体を収集する収集槽と、を含み、前記蓄熱材は一年中温度が殆ど変わらない地中の土壌、または前記地中の土壌に熱的に導通し、大気との間に断熱材を備えている土壌を含むことを特徴とする。
【0013】
複数の熱交換管を供給槽と収集槽の間に配置することにより、(1)熱媒体と蓄熱材の接触は熱交換管を介して行われるのでその接触面は曲面であり、空気層はできない。(2)熱交換管の長さと直径と流速を適切に選択するにより、圧力損失を小さく保ち、かつ熱媒体の温度を地中温度に近くできる。(3)熱交換管の数量を大きくすることにより圧力損失を大きくせずに流量を大きくできる。(4)熱交換管の長さと数量と間隔を適切にして建物の床下の広い面積を熱交換に利用でき、土壌と交換する熱量を大きくできる。(5)熱交換管は市販のアルミ、ステンレス等の金属の円管を使えるので建材費も安く、設置も容易である。(6)地表に設置すればメンテが容易である。(7)蓄熱材として潜熱蓄熱材を使えば熱容量を大きくできる。地熱交換器は一年中温度が殆ど変わらない地中に埋設しても良いし、また大気との間に断熱材を備えて、地中に熱的に導通した蓄熱材の中に設置しても良い。
【0014】
請求項2記載の本発明によれば、前記蓄熱材は建物の床下のコンクリートと土壌を含み、前記熱媒体は建物に取り入れられる空気であり、前記収集槽は排水口を備えていることを特徴とする。
【0015】
建物とその床下の空気は大気から床下の土壌とコンクリート(蓄熱材)を断熱し、床下の土壌とコンクリートは地中に導通しているので、床下の土壌とコンクリートの温度は、他に熱源が無い場合、一年中温度が殆ど変わらない地中温度である。従って、そこに地熱交換器を設置して、建物に取り入れる外気を熱媒体とすれば、外気を夏涼しくし、冬暖かくして建物に取り入れ、建物を空調できる。夏、高温多湿の空気が冷やされると結露する。収集槽の排水口は熱交換管で結露した水を排水する。結露した水を流すために熱交換管は供給槽側を収集槽側より少し高く設置し、水の流れを促進する。また収集槽は傾けて設置するのが好ましく、収集槽の最下部に排水口を設けるのが好ましい。
【0016】
請求項3記載の本発明によれば、前記熱媒体は不凍液であることを特徴とする。
【0017】
不凍液の単位体積あたりの熱容量は空気のそれに比べて遥かに大きいので、建物が大きい場合や地熱交換器と建物の距離が長い場合、熱媒体として不凍液を使うのが好ましい。また不凍液は結露しないので地中に埋設する場合は空気より好ましい。不凍液と空気は共に流体であるので地熱交換器の構造は同様である。
【0018】
請求項4記載の本発明によれば、本発明の空調装置は、請求項1〜3のうちいずれか一項目に記載された地熱交換器を備えていることを特徴とする。
【0019】
本発明の地熱交換器を利用することにより、熱媒体として空気を使った場合、ファンで外気を本発明の空調装置に送るだけで、冬冷たい外気を地中温度付近まで温め、夏熱い外気を地中温度付近まで冷やすことができるので、極めて熱効率が良く、運転費が少ない空調装置を構築できる。建物が大きい場合や地熱交換器と建物の距離が長い場合は熱の運搬中の熱の損失を少なくするために熱媒体として不凍液を使うのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明の地熱交換器は、建物の床下の蓄熱材に埋設した場合は管を地中深く埋設する必要が無い。更に本発明の地熱交換器は構造が簡単であり、使用部材の長さ等の加工が容易であるので建物の床下のレイアウト等に合わせて容易に作成でき、建物の床下を最大限利用できる。更に蓄熱材と熱交換管との接触面に空気層ができないため蓄熱材と地熱交換器間の熱伝導が良い。熱交換管の長さと本数と直径を適切にすることにより、地熱交換器から排出される熱媒体の温度と流量を適切にでき且つ地熱交換器の圧力損失を適切にできる。更に地熱交換器の構造が簡単で、床下の土壌またはコンクリートの表面に埋設した場合、製作費が安く、設置とメンテナンスが容易である。更に外断熱した建物の床下に設置することにより床下の大部分を地熱交換器に活用できる。更に排水口を配置しているので空気が高温多湿の場合に生じる結露を排水し、メンテナンスを容易にする。更に、蓄熱材として潜熱蓄熱材を使えば熱容量を大きくできる。更に、熱媒体として不凍液を使った場合、熱容量を大きくでき、かつ地熱交換器と空調の場所の距離を長くできる。従って、本発明の地熱交換器を利用することにより、極めて熱効率が良く、運転費が少ない空調装置を構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は空気を熱媒体とした本発明の地熱交換器10が建物の床下に設置された場合の垂直方向の断面図であり、図2はその水平方向の断面図である。図2のBB面の断面図が図1であり、図1のAA面の断面図が図2である。複数の熱交換管13は土壌18の上の家の基礎コンクリート17の上に盛られたコンクリート16に埋設されている。上流ダクト11は供給槽12に連結し、供給槽12は複数の熱交換管13の各々の一端に連結している。複数の熱交換管13の各々の他端は収集槽15に連結し、収集槽15は下流ダクト14に連結している。熱交換管13は収集槽15側に向けて下がるように傾斜して埋設されている。収集槽15は緩勾配で設置され、その最下部に排水管19が設置されるのが好ましい。上流ダクト11と供給槽12、供給槽12と熱交換管13、熱交換管13と収集槽15、収集槽15と下流ダクト14は全て空気が漏れないように連結されているので上流ダクト11に入った空気は、排水管19から排出される空気を除いて、全て下流ダクト14から排出される。
【0022】
不図示のファンで上流ダクト11を通して送られた空気は、供給槽12を経由して複数の熱交換管13を通過し、収集槽15で収集され下流ダクト14から排出される。供給槽12と収集槽15のBB面の断面積は熱交換管13の断面積より遥かに大きくするのが好ましい。その場合、供給槽12と収集槽15のBB面の断面に垂直な空気の流れの速度は小さいので、供給槽12と収集槽15内の気圧はほぼ均一であり、各熱交換管13の両端にかかる気圧はほぼ同じである。更に、各熱交換管13の内径は同じであるので各熱交換管13に流れる風量はほぼ同じであり、各熱交換管13で熱交換される量もほぼ同じである。従って、各熱交換管13の温度分布もほぼ同じであり、各熱交換管13から出てくる空気の温度もほぼ同じである。空気は熱交換管13を通過する過程で、高熱伝導材の熱交換管13と熱交換し、その熱はコンクリート16と基礎コンクリート17を経由して土壌18に伝達される。空気と熱交換管13の温度差に比例した熱量が熱交換され、空気の温度はその熱量に比例して変わり、次第に地中温度に近づく。一方同じ熱量が熱交換管13に伝達し熱交換管13とコンクリート16と基礎コンクリート17と土壌18の温度を変える。熱交換した空気は収集槽15に集められ下流ダクト14から排出される。
【0023】
空気を熱媒体とした本発明の地熱交換器を家の冷暖房に利用した1実施例を図3に示す。図3の家は高気密高断熱の家であり、換気の空気を地熱交換器25と26で冬季に冷たい外気を暖め室内に導入して暖房の補助をし、夏季に熱い外気を冷やし室内を冷房するものである。家の気密断熱空間は気密断熱層33と基礎コンクリート37で形成されている。地中断熱材34は土壌より上の気密断熱層33の延長で寒冷地では地中約1mまで敷設され、基礎コンクリート37直下の土壌36を家の外部の土壌35の地表から断熱している。給気口22から給気ファン23により取り入れられた外気は、切換えダンパー24によりバイパスダクト27を通るバイパス経路と地熱交換器25と26を通る地熱交換経路かのいずれかを通って吹出し口28から室内に入いる。室内の空気は不図示の排気口から排出される。暖房が必要な冬季に切換えダンパー24により地熱交換経路に切換え、外気を基礎コンクリート37の温度まで暖めて室内に入れて暖房の補助をする。また、冷房が必要な夏季に切換えダンパー24により地熱交換経路に切換え、外気を基礎コンクリート37の温度まで冷やして室内に入れて室内を冷房する。なお、配水管は図面を簡単にするために図に示していない。
【0024】
地熱交換器の平面はほぼ長方形であるので基礎コンクリートのレイアウトによっては複数の地熱交換器を設置することにより基礎コンクリートと熱交換する面積を大きくできる場合がある。特に地熱交換器の個数が少なく、熱交換管の長さが比較的短い(3m程度)場合は直列に接続するのが好ましい。それは、空気は熱交換管を通過する過程で、空気と熱交換管の温度差に比例した熱量が熱交換され、その熱量が熱交換管に伝達し熱交換管の温度を変える。熱は温度の低い方に拡散されるのでその近傍の温度を変える。例えば、夏、外気温度が高い場合、熱交換管の供給槽付近で熱交換された熱は下流方向にも拡散され下流を温める。季節の終りにはその影響は3m程度にまで及び、地熱交換器からの空気の温度が上昇する。この影響を排除する1つの方法は地熱交換器を直列に接続し、最終段の地熱交換器の収集槽を初段の地熱交換器の供給槽から5m程度離なすことである。図3は地熱交換器を2段直列に接続した例を示す。
【0025】
図3のように外気を地熱交換器で熱交換させて空調に使用する場合、上流ダクトからの空気は外気であり、その温度は時々刻々変化する。また熱交換管やコンクリートや土壌の温度は場所により異なり、且つそれぞれ時間的変化の割合も異なるので正確な解析は困難である。ここでは季節の初めに蓄熱材の温度分布は均一であり、地中温度と等しいとし、季節の終りにどの程度の熱量を蓄積できるかを見積もる。土壌の熱特性は地質等により異なるが、説明を簡単にするために土壌の熱容量を1立方メートルあたり500Kcal/kとし、熱伝導率を1.0Kcal/mhkとする。また、コンクリートの熱特性はほぼ土壌の熱特性と同じであるので以下の説明では同じとする。
【0026】
地表に建物や断熱材が無く土壌が外気に直接接触している場合、図4に示したように、土壌の温度は地中深くになるにつれてほぼ指数関数的に地中温度に近づくことが知られている。図3の実施例では空気が強制的に熱交換管に送られているので単位面積あたり熱交換する熱量は大きく、また地熱交換経路が断続的に選択されるので熱交換が断続的に行われる。しかし蓄熱材の熱特性は同じであり、熱交換が行われる期間はほぼ同じであるので温度分布はほぼ同じ特性を示すと考えられる。つまり、季節の終り頃、土壌の地中方向への温度分布は図4で示すように地中深くになるにつれてほぼ指数関数的に温度が地中温度Toに近づくと考えられる。土壌に蓄えられた熱量は斜線の面積で表されるので、地表の温度をTsとすると1平方メートルあたり土壌に約(Ts−To)x750Kcalの熱が蓄えられる。
【0027】
図1において、空気が熱交換管13を通過する時に空気は熱交換管13と熱を交換し、交換した熱量は空気と熱交換管13の温度差に比例する。空気の温度はその交換した熱量に比例して変わる。一方同じ交換した熱量は熱交換管13に伝達し熱交換管13とコンクリート16と基礎コンクリート17と土壌18の温度を変える。また、季節の初めと終りでは温度分布は大きく異なり、また地熱交換器の面積が大きい場合と小さい場合では大きく異なる。従って、熱交換管13の温度分布と熱交換管13内の空気の温度分布は非常に複雑であり、正確な温度分布を求めるのは困難である。
【0028】
ここでは熱交換管13の温度分布を図5と6を参照して定性的に説明する。位置xは図2に示したように熱交換管13の位置を示し、供給槽12との接続点が0であり収集槽15との接続点がLである。説明を簡単にするために季節の始めに熱交換管13とコンクリート16と基礎コンクリート17と土壌18の温度は全て地中温度Toとし、外気温度Taは季節の期間中同じとする。
【0029】
図5(A)は冬の初めの熱交換管13に沿った熱交換管13の温度分布43と熱交換管13内の空気の温度分布44を示す。熱交換管内の空気の温度は熱交換管の表面付近では熱交換管の温度に近く、熱交換管の中央付近では熱交換管の温度との差が大きい。温度分布44で示された温度は熱交換管内の平均温度である。冬の初めでは蓄熱量が少ないので熱交換管13の温度は、入口(x=0)付近で空気と熱交換管13の温度差が大きく、xが大きくなるに従って急激に高くなり、その後温度変化は緩やかになり、熱交換管13の出口(x=L)の温度Tcはほぼ地中温度Toである。なお蓄熱量は斜線の領域の面積に比例する。熱交換管13内の空気の温度は熱交換管13の入口(x=0)においてTaであり、熱交換管13の温度Tsよりかなり低く、xが大きくなるに従って急激に高くなり、その後温度変化は緩やかになり、熱交換管13の出口(x=L)の温度Tcはほぼ地中温度Toである。
【0030】
図5(B)は地熱交換器が有効に外気を暖める最後の頃(この時期が冬季の終りになるのが好ましい)の温度分布を示す。熱交換管13付近の熱は空気に大量に放熱され熱交換管13の入口(x=0)の温度Tsは外気温度Taに近づいている。熱交換管13の温度はxが大きくなるに従って高くなり、出口(x=L)の温度Tcは地中温度Toより少し低い。熱交換管13内の空気の温度もxが大きくなるに従って緩やかに高くなり、出口(x=L)の温度Tbは熱交換管13の出口(x=L)の温度Tcより少し低い。地熱交換器が有効であるためには出口の温度Tbと地中温度Toとの温度差が数度(例えば5度)以下であるのが好ましい。図5(C)は地熱交換器による放熱が飽和状態になり、熱交換管13の出口(x=L)の空気の温度Tbは地中温度Toよりかなり低く有効に空調できない状態である。季節の終りにこのようになった場合、地熱交換器の面積を大きくすることにより改善できる。
【0031】
図6(A)は夏の初めの熱交換管13に沿った温度分布を示す。夏の外気は高温多湿であり、外気を冷やすと結露するので温度分布は冬季に比べて更に複雑になる。温度分布45と46はそれぞれ熱交換管13と熱交換管13内の空気の温度分布を示す。夏の初めでは地熱交換器に蓄熱された熱量が少ないため熱交換管13の入口付近で空気と熱交換管13の温度差が大きく、xが大きくなるに従って急激に温度が低くなる。空気が冷やされると相対湿度が大きくなり、100%になった時結露が始まり、その温度をTdで示す。例えば外気の温度が30度、湿度が70%の時結露が始まる温度Tdは24度であり、24度以下になると結露する。24度以下では1度下がるごとに空気1立方メートルあたり約1.2gの水が生成され、650calの凝縮熱が放出される。空気は結露しない時1度下がるごとに1立方メートルあたり300calの熱を放出するので結露した場合は1度下がるごとに1立方メートルあたり950calの熱を放出する。つまり空気が冷やされ結露が始まると空気の熱容量が約3.2倍になったように見え、従って、温度分布45と46に示したように空気の温度変化は緩やかになり、空気の放熱量が多くなり、熱交換管13の温度の上昇が大きくなる。
【0032】
外気が高温で湿度が低い場合は結露しない。外気が高温で湿度が常に低い場合は温度分布47と48で示したように熱交換管13と熱交換管13内の空気の温度は共に急激に低くなり、その後温度変化は緩やかになり、熱交換管13の出口(x=L)では共にほぼ地中温度Toである。
【0033】
図6(B)は地熱交換器が有効に冷房できる最後の頃(この時期が夏季の終りになるのが好ましい)の温度分布を示す。熱交換管13の付近に熱が大量に蓄熱され熱交換管13の入口(x=0)の温度Tsは外気温度Taに近づいている。熱交換管13の温度はxが大きくなるに従って低くなり、熱交換管13内の空気の温度もxが大きくなるに従って低くなり、温度Tdで結露が始まる。結露が始まると空気の温度変化は上記で述べたように緩やかになり、温度分布46のようになる。地熱交換器が有効であるためには出口の温度Teと地中温度Toとの温度差が数度(例えば7度)以下であるのが好ましい。図6(C)は地熱交換器による蓄熱が飽和状態になり、熱交換管13の出口(x=L)の空気の温度Teは地中温度Toよりかなり高く有効に空調できない状態である。季節の終りにこのようになった場合、地熱交換器の面積を大きくすることにより改善できる。
【0034】
季節の終りの熱交換管13の温度分布は図5(B)と図6(B)の様になるのが好ましく、熱交換管13の平均の表面温度はほぼTsとToの中間と考えられる。従って、地熱交換器の面積をSとすると、季節の終りに蓄えられる熱量は約(Ts−To)xSx375Kcalとなる。熱交換管13の入口の温度Tsは季節の終りには外気温度Taに近いので(Ts−To)を14度とすると季節の終りに蓄えられる熱量は約Sx5000Kcalとなる。
【0035】
次にこの地熱交換器を使った冷暖房の例を示す。夏、図3のように換気の空気を地熱交換器で冷やし住宅を冷房するとする。換気の風量を毎時150立方メートルとし、6月中旬から9月中旬の内の30日間、一日8時間冷房するとし、冷房している時の平均の外気の温度を30度、湿度を70%とし、地熱交換器からの空気の温度を21度、湿度を100%とすると地熱交換器が吸収する熱量は約170,000Kcalである。30度、70%の空気が21度、100%になると1立方メートルあたり3.9gの水が結露し、その時に放熱する凝縮熱も含めた。地熱交換器の面積が34平方メートル以上であり、冷たい換気の空気だけで冷房できる高断熱の家は地熱交換器だけで冷房できる。
【0036】
冬、図3の例のように換気の空気を地熱交換器で地中温度付近まで暖めるとする。暖房期間を12月から3月の4ヶ月間とし、外気が1日12時間地中温度より低いとし、その間の外気の温度の平均温度を5度、地熱交換器からの空気の温度を10度とすると340,000Kcalの熱が交換される。地熱交換器の面積が68平方メートル必要である。熱交換器の面積が68平方メートル以下の場合、換気の空気が地中温度よりかなり下がり、冬の終り頃は図5(C)のような温度分布になる。高気密高断熱の家で強制給気の換気をする場合、直接外気を室内に導入すると、冬外気が冷たくて不快であるので外気を地熱交換器で暖めて室内に導入することにより不快感が減少させ、且つ暖房の熱量を減少させることができる。
【0037】
熱交換管の長さは主に敷設する基礎コンクリートのレイアウトにより決まるが3m以上あるのが望ましい。熱交換管の間隔は狭いほど基礎コンクリートの表面が均一になるので熱効率が良くなるが熱交換管の本数が増加し高価になるので10cm程度が好ましい。熱交換管の内径は熱交換器で許容される圧力損失と熱交換管の風量から摩擦抵抗線図を使用して算出できる。
【0038】
図7は不凍液を熱媒体とした本発明の地熱交換器10が建物の床下に設置された場合の垂直方向の断面図であり、図8はその水平方向の断面図である。図8のBB面での断面図が図7であり、図7のAA面での断面図が図8である。複数の熱交換管63は土壌68の上の家の基礎コンクリート67の上に盛られたコンクリート66に埋設されている。上流管61は供給槽62に連結し、供給槽62は複数の熱交換管63の各々の一端に連結している。複数の熱交換管63の各々の他端は収集槽65に連結し、収集槽65は下流管64に連結している。
【0039】
不図示のポンプで上流管61を通して送られた不凍液は、供給槽62を経由して複数の熱交換管63を通過し、収集槽65で収集され下流管64から排出される。供給槽62と収集槽65のBB面の断面積は熱交換管13の断面積より遥かに大きくするのが好ましい。その場合、供給槽62と収集槽65のBB面の断面に垂直な不凍液の流れの速度は小さいので、供給槽62と収集槽65内の液圧はほぼ均一であり、各熱交換管13の両端にかかる液圧はほぼ同じである。更に、各熱交換管63の内径は同じであるので各熱交換管63に流れる流量はほぼ同じであり、各熱交換管63で熱交換される量もほぼ同じである。従って、各熱交換管63の温度分布もほぼ同じであり、各熱交換管63から出てくる不凍液の温度もほぼ同じである。不凍液は熱交換管63を通過する過程で、高熱伝導材の熱交換管63と熱交換し、その熱はコンクリート66と基礎コンクリート67を経由して土壌68に伝達される。不凍液と熱交換管63の温度差に比例した熱量が熱交換され、不凍液の温度はその熱量に比例して変わり、次第に地中温度に近づく。一方同じ熱量が熱交換管63に伝達し熱交換管63とコンクリート66と基礎コンクリート67と土壌68の温度を変える。熱交換した不凍液は収集槽65に集められ下流管64から排出される。
【0040】
図9は不凍液を熱媒体とした地熱交換器を空調に使用した1実施例を示す。建物83の基礎コンクリート84の外側には断熱材82が埋設されている。1階の空調は基礎コンクリート84に設置された地熱交換器72と熱媒体を循環させるポンプ74と熱媒体管77と1階に設置されたラジエータ76と換気ファン75で構成されている。
【0041】
換気ファン75は常に運転され、外気をラジエータ76を介して建物83内に取り入れ、建物83内を換気する。ラジエータ76は不凍液と通過する空気の熱交換をする。ポンプ74は不凍液を熱交換器72とラジエータ76を回る経路を循環させ蓄熱材に貯蔵された熱をラジエータ76に運ぶ。ポンプ74は不図示の空調のコントローラにより室内温度が冷房設定温度より高い場合、または外気温度が外気設定温度以下の場合に運転される。これにより、外気が冷たい時、外気は地中温度付近まで温められて室内に取り入れられ、室内が冷房設定温度より高い場合、外気は地中温度付近まで冷やされて室内に取り入れられ、室内を冷房する。
【0042】
換気の空気のみでは室内を充分冷房できない場合、ポンプ80とファン78を運転する。ポンプ80は不凍液を熱交換器71とラジエータ79を回る経路を循環させてラジエータ79に冷熱を送り、ファン78は室内の熱い空気をラジエータ79に送り、室内の空気を冷やして室内に戻し、室内を冷房する。熱交換器71と72は平行に設置されているので一方の熱交換器が貯蔵した熱を他方がその熱を回収できる。
【0043】
建物83の2階は地熱交換器を地表から浅い所(例えば地表から1mの所)に埋設した場合の1実施例を示す。地表から浅いので地表の温度変化の影響を避けるために断熱材81が地熱交換器73と地表との間に埋設されている。建物83の3階は地熱交換器を地表から深い所(例えば地表から5mの所)に埋設した場合の1実施例を示す。地表から深いので地表の温度変化の影響を受けないので断熱材は不要である。
【0044】
なお、不凍液を熱媒体とした地熱交換器を空調に使用した場合の地熱交換器の周辺の温度分布は空気を熱媒体とした地熱交換器を空調に使用した場合のそれと同様である。
【0045】
以上、図示例に基づき説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。床下に基礎コンクリートが敷設されていない場合は土壌に地熱交換器を埋設しても良い。また基礎コンクリートの中にパッケージされた潜熱蓄熱材を埋め、熱容量を大きくしても良い。更に、本発明の地熱交換器を備えた蓄熱装置をヒートポンプの熱源として使用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】空気を熱媒体とした本発明の地熱交換器の垂直方向の断面図である。
【図2】空気を熱媒体とした本発明の地熱交換器の水平方向の平面図である。
【図3】空気を熱媒体とした本発明の地熱交換器を空調に使用した1実施例を示す。
【図4】地中の温度分布を示す。
【図5】冬季の熱交換管とその内部の空気の温度分布を示す。
【図6】夏季の熱交換管とその内部の空気の温度分布を示す。
【図7】不凍液を熱媒体とした本発明の地熱交換器の垂直方向の断面図である。
【図8】不凍液を熱媒体とした本発明の地熱交換器の水平方向の平面図である。
【図9】不凍液を熱媒体とした本発明の地熱交換器を空調に使用した1実施例を示す。
【図10】従来の地熱交換器の1実施例を示す。
【符号の説明】
【0047】
11 上流ダクト 12 供給槽 13 熱交換管 14 下流ダクト 15 収集槽
16 コンクリート 17 基礎コンクリート 18 土壌 19 排水管 22 給気口
23 給気ファン 24 切換えダンパー 25、26 地熱交換器 27 バイパスダクト
28 吹出し口 29 床 33 気密断熱層 34 地中断熱材 35 外部の土壌
36 直下の土壌 37 基礎コンクリート 41 夏季の地中温度分布
42 冬季の地中温度分布
43 冬季の熱交換管の温度分布 44 冬季の熱交換管内の空気の温度分布
45 夏季の熱交換管の温度分布(結露あり)
46 夏季の熱交換管内の空気の温度分布(結露あり)
47 夏季の熱交換管の温度分布(結露なし)
48 夏季の熱交換管内の空気の温度分布(結露なし)
50 地熱伝達器 51 地熱伝達器台 52 熱伝達板 53 排水管
61 上流管 62 供給槽 63 熱交換管 64 下流管 65 収集槽
66 コンクリート 67 基礎コンクリート 68 土壌
71、72、73 地熱交換器 74、80 ポンプ 75 換気ファン
76、79 ラジエータ 78 ファン 81、82 断熱材
83 建物 84 基礎コンクリート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体を介して土壌を含む蓄熱材に熱を貯蔵または前記蓄熱材から熱を回収する地熱交換器であって、
高熱伝導材で作られ、互いにほぼ平行に配管された複数の熱交換管と、
前記複数の熱交換管の各々の一端に接続され、前記熱媒体を前記複数の熱交換管に供給する供給槽と、
前記複数の熱交換管の各々の他端に接続され、前記複数の熱交換管からの前記熱媒体を収集する収集槽と、を含み、
前記蓄熱材は一年中温度が殆ど変わらない地中の土壌、または前記地中の土壌に熱的に導通し、大気との間に断熱材を備えている土壌を含むことを特徴とする地熱交換器
【請求項2】
前記蓄熱材は建物の床下のコンクリートと土壌を含み、前記熱媒体は建物に取り入れられる空気であり、前記収集槽は排水口を備えていることを特徴とする請求項1記載の地熱交換器
【請求項3】
前記熱媒体は不凍液であることを特徴とする請求項1記載の地熱交換器
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項目に記載された地熱交換器を備えていることを特徴とする空調装置


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−32910(P2007−32910A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215646(P2005−215646)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(303008105)
【Fターム(参考)】