説明

地磁気センサを用いて歩行者の端末所持状態を判別する携帯端末、プログラム及び方法

【課題】端末姿勢の変動状態を判別することによって、端末姿勢が変動しない第1の進行方向決定技術と、端末姿勢が腕振りによって変動する第2の進行方向決定技術とを自動的に使い分けることができる携帯端末、プログラム及び方法を提供する。
【解決手段】携帯端末は、3軸の地磁気ベクトルを出力する地磁気センサを有し、当該携帯端末に対する地磁気ベクトルの向きの変動量を算出する変動量算出手段と、変動量が所定閾値以上である場合、当該携帯端末は姿勢不変動状態にあり、そうでない場合、当該携帯端末は姿勢変動状態にあると判別する姿勢状態判別手段とを有する。変動量算出手段は、地磁気ベクトルを正規化する正規化手段と、正規化された地磁気ベクトルから、地磁気ベクトル変動量Cを算出する地磁気ベクトル変動量算出手段と、その変動量Cにおける所定個数nの移動平均変動量Caを算出する移動平均変動量算出手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地磁気センサを用いて歩行者の端末所持状態を判別する携帯端末、プログラム及び方法に関する。特に、進行方向及び現在位置をリアルタイムに導出する自律航法技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加速度センサ及び方位センサを用いて、進行方向及び現在位置をリアルタイムに導出する自律航法技術がある。自律航法技術は、GPS(Global Positioning System)技術と組み合わされて、主にカーナビゲーションシステム(Car Navigation System)に利用されている。カーナビゲーションシステムは、自動車の運転者に対して、正確な進行方向及び現在位置と、目的地への走行経路案内とを、ディスプレイに表示する。
【0003】
カーナビゲーションシステムは、GPSによって測位した現在位置情報を、車速パルス又はジャイロのような自律航法技術によって補正する。また、道路地図情報を必要に応じて読み出し、現在の走行経路が道路上と一致するように、進行方向及び現在位置を補正する(投影法によるマップマッチング技術、例えば特許文献1参照)。これにより、センサの誤差によって、現在位置が、道路上でない位置になることを防ぐことができる。
【0004】
これに対し、このようなナビゲーション技術を、歩行者の所持する携帯端末に適応したシステムもある。具体的には、検出した歩行者の「歩数」と、その歩行者の「歩幅」とを用いて、始点からの累積的な現在位置を導出する(例えば特許文献2参照)。自律航法技術を歩行者に適応した場合、水平方向の移動以外の加速度成分も検出される。従って、測定される距離は、単純に加速度センサの出力を積分するのではなく、歩数及び歩幅から導出される。
【0005】
「歩数」は、携帯端末内の加速度センサによって検出された軸毎の加速度を二乗和の平方根とし(√(x2+y2+z2))、そのピーク−ピーク間を1歩として検出する(例えば特許文献3参照)。「歩幅」は、利用者が予め設定するか、若しくは利用者の身長から判別する。又は、他の技術によれば、歩行者に規定距離を歩行させることによって、その歩幅をキャリブレーションする技術もある(例えば非特許文献1参照)。
【0006】
「進行方向」は、「方位センサ」によって検出される。方位センサとしては、一般に「地磁気センサ」が用いられる。この地磁気センサを用いて、端末の鉛直方向(端末姿勢)を決定した後に、鉛直方向加速度と進行方向加速度との関係を利用して進行方向を決定する技術もある(例えば特許文献4参照)。これに対し、端末姿勢が一定していなくても、歩行者の腕振りの特徴から進行方向を決定する技術もある(例えば非特許文献2参照)。また、進行方向に交差点を介して複数の道路が存在する場合、その交差点を、現在位置とする技術もある(例えば特許文献5参照)。
【0007】
更に、自律航法技術を用いた現在位置の決定について、センサデータの累積的誤差の影響を防ぐために、交差点での右折左折を検出した際に、その交差点を、現在位置の特定のための始点とする技術もある(例えば特許文献6参照)。即ち、方向転換が検出される毎に、センサデータの累積的誤差がリセットされることなり、その後の現在位置の特定に、先の累積的誤差が影響しない。
【0008】
【特許文献1】特開平5−061408号公報
【特許文献2】特開平9−089584号公報
【特許文献3】特開2005−038018号公報
【特許文献4】特開2008−039619号公報
【特許文献5】特開平3−099399号公報
【特許文献6】特開昭63−011813号公報
【非特許文献1】「Nike+iPodユーザーズガイド」、第27頁、「online」、[平成20年6月19日検索]、インターネット<URL:http://manuals.info.apple.com/ja/nikeipod_users_guide.pdf>
【非特許文献2】上坂大輔、岩本健嗣、村松茂樹、西山智、「携帯電話における加速度・地磁気センサを用いた位置取得システム」、マルチメディア、分散、協調とモバイルシンポジウム論文集, pp.761-767、2008年7月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4に記載された第1の進行方向決定技術によれば、端末姿勢を決定した後で、歩行者の進行方向を決定する。即ち、進行方向を決定する一定時間について、端末姿勢が変動しないことを前提としている。一方で、非特許文献2に記載された第2の進行方向決定技術によれば、歩行者によって携帯端末が手持ちされた状態で、その腕振りの特徴から歩行者の進行方向が決定される。即ち、進行方向を決定する一定時間について、端末姿勢が腕振りによって変動していることを前提としている。
【0010】
しかしながら、端末姿勢が変動しない第1の進行方向決定技術と、端末姿勢が腕振りによって変動する第2の進行方向決定技術とを使い分けるには、例えばユーザが端末姿勢状態を予め設定しておく必要があった。
【0011】
そこで、本発明は、歩行者が所持する携帯端末に搭載された地磁気センサを用いて、端末姿勢の変動状態を判別することによって、端末姿勢が変動しない第1の進行方向決定技術と、端末姿勢が腕振りによって変動する第2の進行方向決定技術とを自動的に使い分けることができる携帯端末、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、3軸の地磁気ベクトルを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末であって、
時間経過に応じて、当該携帯端末に対する地磁気ベクトルの向きの変動量を算出する変動量算出手段と、
変動量が所定閾値以上である場合、当該携帯端末は姿勢不変動状態にあり、そうでない場合、当該携帯端末は姿勢変動状態にあると判別する姿勢状態判別手段と
を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、変動量算出手段は、
時間経過に応じて地磁気ベクトルを正規化する正規化手段と、
正規化された2時点の地磁気ベクトルから、地磁気ベクトル変動量Cを算出する地磁気ベクトル変動量算出手段と、
地磁気ベクトル変動量における所定個数nの移動平均変動量Caを算出する移動平均変動量算出手段と
を有することも好ましい。
【0014】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、
正規化手段は、3軸の地磁気ベクトル(x,y,z)に対して、
n=x/√(x2+y2+z2)
n=y/√(x2+y2+z2)
n=z/√(x2+y2+z2)
によって正規化地磁気ベクトル(xn,yn,zn)を算出し、
地磁気ベクトル変動量算出手段は、第0の時点の正規化地磁気ベクトル(xn0,yn0,zn0)とし、第1の時点の正規化地磁気ベクトル(xn1,yn1,zn1)とし、
C=xn0n1+yn0n1+zn0n1
によって地磁気ベクトル変動量Cを算出し、
移動平均変動量算出手段は、
Ca=1/n・Σni=1i
によって移動平均変動量Caを算出することも好ましい。
【0015】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、
3軸の加速度ベクトルを出力する加速度センサと、
地磁気ベクトル及び加速度ベクトルを用いて姿勢が維持された状態における重力ベクトルから進行方位を算出する第1の進行方位算出手段と
地磁気ベクトル及び加速度ベクトルを用いて手持ち状態における腕振り運動及び重力ベクトルから進行方位を算出する第2の進行方位算出手段と
を更に有し、
姿勢状態判別手段によって、姿勢不変動状態と判別された場合、第1の進行方位決定手段によって進行方位が算出され、姿勢変動状態と判別された場合、第2の進行方位決定手段によって進行方位が算出されることも好ましい。
【0016】
本発明によれば、3軸の地磁気ベクトルを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
時間経過に応じて、当該携帯端末に対する地磁気ベクトルの向きの変動量を算出する変動量算出手段と、
変動量が所定閾値以上である場合、当該携帯端末は姿勢不変動状態にあり、そうでない場合、当該携帯端末は姿勢変動状態にあると判別する姿勢状態判別手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、3軸の地磁気ベクトルを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末における姿勢状態判別方法であって、
時間経過に応じて、当該携帯端末に対する地磁気ベクトルの向きの変動量を算出する第1のステップと、
変動量が所定閾値以上である場合、当該携帯端末は姿勢不変動状態にあり、そうでない場合、当該携帯端末は姿勢変動状態にあると判別する第2のステップと
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の携帯端末、プログラム及び方法によれば、歩行者が所持する携帯端末に搭載された地磁気センサを用いて、端末姿勢の変動状態を判別することによって、端末姿勢が変動しない第1の進行方向決定技術と、端末姿勢が腕振りによって変動する第2の進行方向決定技術とを自動的に使い分けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下では、図面を用いて、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、歩行者による携帯端末の所持状態を表す説明図である。
【0021】
図1(a)によれば、歩行者は、携帯端末を手持ちにし、その手を前後に振りながら歩行している。このような一般的な歩行態様を横方向から見れば、携帯端末の位置は、円弧を描きながら振り子状に前後に変動している。また、進行方向から見れば、携帯端末の位置は、上下に変動している。
【0022】
また、図1(a)によれば、歩行者及び携帯端末に対しては、地磁気が到来している。歩行者が、端末を一定の姿勢で保持し、一方向に真っ直ぐ進行している限り、その地磁気のセンサ座標系における到来方向は同じである。しかしながら、歩行者は、手持ちにした携帯端末を前後に振るために、その腕振りに応じて、地磁気の到来方向が、曲線を描いて変動する。この曲線の変動は、携帯端末に搭載された地磁気センサによって検出される。即ち、ある時点の地磁気ベクトルに対する直前の地磁気ベクトルからの変動である「地磁気ベクトル変動量」が検出される。
【0023】
図1(b)によれば、歩行者は、携帯端末を、胸ポケットに挿入した状態で所持している。この場合、端末の姿勢が変動しないために、地磁気の到来方向も殆ど変動しない。
【0024】
そこで、本発明は、地磁気到来方向の変動を検出することによって、端末姿勢が変動しない所持状態であるか、又は端末姿勢が変動する手持ち状態であるかを判別する。
【0025】
図2は、本発明の携帯端末における機能構成図である。
【0026】
図2によれば、携帯端末1は、プロセッサ・メモリ10と、地磁気センサ11と、加速度センサ12と、GPS部13と、地図情報記憶部14と、ディスプレイ部15とを有する。
【0027】
地磁気センサ11は、3軸方向(前後方向、左右方向及び上下方向)の地磁気の方向を測定する。地磁気センサ11は、ホール素子を分離し、分離したホール素子からそれぞれ検出された値を出力する。
【0028】
加速度センサ12は、加速度、即ち単位時間当たりの速度の変化を検出する。携帯端末の傾きを検出することができる3軸タイプの場合、3次元の加速度を検出でき、地球の重力(静的加速度)の計測にも対応できる。
【0029】
GPS部13は、基準の現在位置となる緯度経度情報を測位する。測位された現在位置を基準点として、歩行者の現在位置を、歩数、歩幅及び進行方向によって積算することができる。
【0030】
地図情報記憶部14は、例えば道路地図のような走行経路を表す地図情報を記憶する。また、ディスプレイ部15は、プロセッサ・メモリ10から出力された進行方向及び現在位置を、地図情報と共に表示する。これにより、歩行者に対してナビゲーション機能を提供する。
【0031】
プロセッサ・メモリ10は、歩行タイミング決定部101と、進行方向決定部102と、方向転換判定部103と、歩幅決定部104と、移動量積算部105と、現在位置決定部106として機能するようなプログラムを実行する。
【0032】
ここで、本発明の特徴となる進行方向決定部102について、詳細に説明する。進行方向決定部102は、変動量算出部1021と、姿勢状態判別部1022と、第1の進行方位決定部1023と、第2の進行方位決定部1024とを有する。
【0033】
変動量算出部1021は、時間経過に応じて、当該携帯端末に対する地磁気ベクトルの向きの変動量を算出する。ここで、変動量算出部1021は、正規化部10211と、地磁気ベクトル変動量算出部10212と、移動平均変動量算出部10213とを有する。
【0034】
正規化部10211は、時間経過に応じて地磁気ベクトルを正規化する。具体的には、3軸の地磁気ベクトル(x,y,z)に対して、
n=x/√(x2+y2+z2)
n=y/√(x2+y2+z2)
n=z/√(x2+y2+z2)
によって正規化地磁気ベクトル(xn,yn,zn)を算出する。
【0035】
地磁気ベクトル変動量算出部10212は、正規化された2時点の地磁気ベクトルから、地磁気ベクトル変動量Cを算出する。具体的には、第0の時点の正規化地磁気ベクトル(xn0,yn0,zn0)とし、第1の時点の正規化地磁気ベクトル(xn1,yn1,zn1)とし、
C=xn0n1+yn0n1+zn0n1
によって地磁気ベクトル変動量Cを算出する。Cは、第0の時点の正規化地磁気ベクトルと第1の時点の正規化地磁気ベクトルとからなる角の余弦となる。
【0036】
移動平均変動量算出部10213は、地磁気ベクトル変動量における所定個数nの移動平均変動量Caを算出する。具体的には、
Ca=1/n・Σni=1i
によって移動平均変動量Caを算出する。
【0037】
姿勢状態判別部1022は、変動量が所定閾値以上である場合、当該携帯端末は姿勢不変動状態にあり、そうでない場合、当該携帯端末は姿勢変動状態にあると判別する。ここで、姿勢不変動状態と判別された場合、第1の進行方位決定部1023によって進行方位が算出され、姿勢変動状態と判別された場合、第2の進行方位決定部1024によって進行方位が算出される。
【0038】
第1の進行方位決定部1023は、地磁気ベクトル及び加速度ベクトルを用いて姿勢が維持された状態における重力ベクトルから進行方位を算出する。例えば特許文献4に記載された技術を実行する。
【0039】
第2の進行方位決定部1024は、地磁気ベクトル及び加速度ベクトルを用いて手持ち状態における腕振り運動及び重力ベクトルから進行方位を算出する。例えば非特許文献2に記載された技術を実行する。
【0040】
図3は、端末姿勢変動状態(端末手持ち状態)における数値例である。また、図4は、端末姿勢不変動状態における数値例である。
【0041】
図3及び図4によれば、観測値としての地磁気ベクトル(x,y,z)と、正規化地磁気ベクトル(xn,yn,zn)と、地磁気ベクトル変動量Cと、移動平均変動量Caとが表されている。ここで、移動平均変動量Caは、n個のベクトルの平均である。図3及び図4によれば、n=16で設定されており、例えば地磁気センサの1秒分のサンプル数であってもよい。
【0042】
端末姿勢変動状態にある図3によれば、移動平均変動量Ca=0.97407である。また、端末姿勢不変動状態にある図4によれば、移動平均変動量Ca=0.99976である。
【0043】
ここで、算出された移動平均変動量Caと、所定閾値と比較することによって、端末所持状態を判別することができる。
Ca<閾値:端末姿勢変動状態(端末手持ち状態)
Ca≧閾値:端末姿勢不変動状態
【0044】
例えば、閾値=0.99719と設定したとする。
図3によれば、移動平均変動量Ca=0.97407 < 閾値=0.99719 であるので、端末姿勢変動状態(端末手持ち状態)と判別される。
図4によれば、移動平均変動量Ca=0.99976 ≧ 閾値=0.99719 であるので、端末姿勢不変動状態と判別される。
【0045】
次に、第2の進行方位決定部1024について、簡単に説明する。第2の進行方位決定部1024は、例えば非特許文献2に記載された技術を実行する。第2の進行方位決定部1024は、歩行基準ベクトル算出部と、方位基準ベクトル算出部と、方位角算出部とを有する。
【0046】
歩行基準ベクトル算出部は、腕振り運動に基づく加速度面に対する法線ベクトルとなる歩行基準ベクトルUを算出する。方位基準ベクトル算出部は、加速度データ及び地磁気データから、重力ベクトルと、該重力ベクトルに対応する地磁気ベクトルとを導出し、重力ベクトル及び地磁気ベクトルの方位基準面に対する法線ベクトルとなる方位基準ベクトルPを算出する。方位角算出部は、歩行基準ベクトルU及び方位基準ベクトルPに基づいて、進行方向の方位角θを算出する。具体的には、方位基準ベクトルP及び歩行基準ベクトルUを用いて、内積とノルム(ベクトルの大きさ)積から、両ベクトルのなす角αを以下の式によって算出する。
α=arccos((P・U)/(|P||U|))
また、方位基準ベクトルP及び歩行基準ベクトルUの外積ベクトル(P×U)と、重力ベクトルGとのなす角βを算出する。そして、方位角θを、α及びβから以下の式によって算出する。
cosβ≧0:θ=α
cosβ<0:θ=360−α
【0047】
図5は、第2の進行方向決定部における歩行基準ベクトル及び方位基準ベクトルを表す説明図である。
【0048】
図5(a)によれば、加速度センサから得られた3軸の加速度データ(x、y、z)と、地磁気センサから得られた3軸の地磁気データ(x、y、z)とが、3次元座標系にプロットされている。
【0049】
これに対し、図5(b)によれば、異なる端末位置で測定された加速度データのプロットから、加速度面が検出される。そして、加速度面(歩行者の進行方向)に対する右方(又は左方)を示すベクトルを、「歩行基準ベクトル」とする。また、図5(b)によれば、歩行者は、南から到来している地磁気に対して、方位角θの方向へ歩行している。このとき、重力方向を示す加速度ベクトルと、北方向を示す地磁気ベクトルとから、方位基準面を検出することができる。そして、東方(又は西方)を示すベクトルを、「方位基準ベクトル」とする。図5(b)によれば、携帯端末を手持ちした歩行者による腕振り動作に応じて、進行方向右方に「歩行基準ベクトル」が検出でき、東方向に「方位基準ベクトル」が検出できる。本発明によれば、歩行基準ベクトル及び方向基準ベクトルに基づいて、方位角θを算出することができる。
【0050】
尚、図2に表された携帯端末1における他の機能構成部について更に説明する。
【0051】
歩行タイミング決定部101は、加速度センサ12から出力された加速度データ列を、所定時間毎、例えば歩数毎、又は歩数に基づく時間単位毎の、加速度データに分割する。例えば、合成加速度の変化、即ち移動時の揺れ具合から歩数を算出することもできる。
【0052】
進行方向決定部102は、所定時間毎に、地磁気センサ11からの地磁気データと、加速度センサ12からの加速度データと、歩行タイミング決定部101からの歩行タイミングデータから、進行方向を決定する。本発明は、この進行方向決定部102における進行方向の特定方法に基づく。
【0053】
方向転換判定部103は、進行方向決定部102から進行方向のデータを受け取る。方向転換判定部103は、メモリを有し、進行方向のデータを時間経過に応じて記憶する。そして、方向転換判定部103は、メモリに記憶された一定の時間範囲の進行方向について、方向転換がなされたか否かを判定する。
【0054】
歩幅決定部104は、歩行タイミング決定部101から1歩分の加速度データを受け取り、1歩毎の歩幅を決定する。決定された歩幅は、移動量積算部105へ出力される。尚、歩幅決定部104は、その歩幅の情報を方向転換判定部103にも出力する。
【0055】
移動量積算部105は、進行方向決定部102から進行方向の情報を受け取り、歩幅決定部104から歩幅の情報を受け取る。そして、移動量積算部105は、1歩分の進行方向及び歩幅を積算する。現在位置決定部106は、地図情報記憶部14から地図情報を取得し、積算された移動量から現在位置を特定する。現在位置決定部106は、方向転換判定部103が方向転換したと判定すれば、地図情報における近傍の交差点の位置を現在位置として決定する。また、方向転換していないと判定すれば(直進したと判定すれば)、マップマッチングによって投影された位置を、現在位置として決定する。
【0056】
以上、詳細に説明したように、本発明の携帯端末、プログラム及び方法によれば、歩行者が所持する携帯端末に搭載された地磁気センサを用いて、端末姿勢の変動状態を判別することによって、端末姿勢が変動しない第1の進行方向決定技術と、端末姿勢が腕振りによって変動する第2の進行方向決定技術とを自動的に使い分けることができる。
【0057】
前述した本発明における種々の実施形態によれば、当業者は、本発明の技術思想及び見地の範囲における種々の変更、修正及び省略を容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】歩行者による携帯端末の所持状態を表す説明図である。
【図2】本発明の携帯端末における機能構成図である。
【図3】端末姿勢変動状態(端末手持ち状態)における数値例である。
【図4】端末姿勢不変動状態における数値例である。
【図5】第2の進行方向決定部における歩行基準ベクトル及び方位基準ベクトルを表す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 携帯端末
10 プロセッサ・メモリ
101 歩行タイミング決定部
102 進行方向決定部
1021 変動量算出部
10211 正規化部
10212 地磁気ベクトル変動量算出部
10213 移動平均変動量算出部
1022 姿勢状態判別部
1023 第1の進行方位決定部
1024 第2の進行方位決定部
103 方向転換判定部
104 歩幅決定部
105 移動量積算部
106 現在位置決定部
11 地磁気センサ
12 加速度センサ
13 GPS部
14 地図情報記憶部
15 ディスプレイ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸の地磁気ベクトルを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末であって、
時間経過に応じて、当該携帯端末に対する地磁気ベクトルの向きの変動量を算出する変動量算出手段と、
前記変動量が所定閾値以上である場合、当該携帯端末は姿勢不変動状態にあり、そうでない場合、当該携帯端末は姿勢変動状態にあると判別する姿勢状態判別手段と
を有することを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
前記変動量算出手段は、
時間経過に応じて前記地磁気ベクトルを正規化する正規化手段と、
前記正規化された2時点の地磁気ベクトルから、地磁気ベクトル変動量Cを算出する地磁気ベクトル変動量算出手段と、
前記地磁気ベクトル変動量における所定個数nの移動平均変動量Caを算出する移動平均変動量算出手段と
を有することを特徴とする請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
前記正規化手段は、3軸の地磁気ベクトル(x,y,z)に対して、
n=x/√(x2+y2+z2)
n=y/√(x2+y2+z2)
n=z/√(x2+y2+z2)
によって正規化地磁気ベクトル(xn,yn,zn)を算出し、
前記地磁気ベクトル変動量算出手段は、第0の時点の正規化地磁気ベクトル(xn0,yn0,zn0)とし、第1の時点の正規化地磁気ベクトル(xn1,yn1,zn1)とし、
C=xn0n1+yn0n1+zn0n1
によって前記地磁気ベクトル変動量Cを算出し、
前記移動平均変動量算出手段は、
Ca=1/n・Σni=1i
によって前記移動平均変動量Caを算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の携帯端末。
【請求項4】
3軸の加速度ベクトルを出力する加速度センサと、
前記地磁気ベクトル及び前記加速度ベクトルを用いて姿勢が維持された状態における重力ベクトルから進行方位を算出する第1の進行方位算出手段と
前記地磁気ベクトル及び前記加速度ベクトルを用いて手持ち状態における腕振り運動及び重力ベクトルから進行方位を算出する第2の進行方位算出手段と
を更に有し、
前記姿勢状態判別手段によって、姿勢不変動状態と判別された場合、第1の進行方位決定手段によって進行方位が算出され、姿勢変動状態と判別された場合、第2の進行方位決定手段によって進行方位が算出されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の携帯端末。
【請求項5】
3軸の地磁気ベクトルを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
時間経過に応じて、当該携帯端末に対する地磁気ベクトルの向きの変動量を算出する変動量算出手段と、
前記変動量が所定閾値以上である場合、当該携帯端末は姿勢不変動状態にあり、そうでない場合、当該携帯端末は姿勢変動状態にあると判別する姿勢状態判別手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする携帯端末用のプログラム。
【請求項6】
3軸の地磁気ベクトルを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末における姿勢状態判別方法であって、
時間経過に応じて、当該携帯端末に対する地磁気ベクトルの向きの変動量を算出する第1のステップと、
前記変動量が所定閾値以上である場合、当該携帯端末は姿勢不変動状態にあり、そうでない場合、当該携帯端末は姿勢変動状態にあると判別する第2のステップと
を有することを特徴とする姿勢状態判別方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−78492(P2010−78492A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248132(P2008−248132)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】