説明

垂直磁気記録媒体

【課題】軟磁性裏打ち層に起因するノイズを低減し、外部磁場の影響によって記録磁化が消去されることがなく、向上した媒体性能を有する垂直二層磁気記録媒体の提供。
【解決手段】非磁性基体と、軟磁性裏打ち層と、非磁性結合層と、硬磁性ピニング層と、非磁性中間層と、磁気記録層とをこの順に有し、軟磁性裏打ち層と硬磁性ピニング層が非磁性結合層を介して常温で反強磁性結合しており、硬磁性ピニング層の磁化容易軸が非磁性基体表面に対して垂直方向であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種磁気記録装置に搭載される垂直磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
1997年以降、ハードディスクドライブ(HDD)の記録密度は年率60〜100%の割合で急速に増加してきた。このような著しい成長の結果、これまで用いられてきた面内記録方式が高密度化の限界に近づこうとしている。このような状況から、近年、高密度化が可能な垂直記録方式が注目を浴び、盛んにその研究開発がなされてきた。そしていよいよ2005年より、一部の機種で垂直記録方式を採用したHDDの製品化が始まっている。
【0003】
垂直磁気記録媒体は、硬質磁性材料の磁気記録層と、この記録層への記録に用いられる磁気ヘッドが発生する磁束を集中させる役割を担う軟磁性材料の裏打ち層とから構成される。この中で軟磁性裏打ち層はヘッドの一部とも言われており、垂直磁気記録媒体の記録容易性を維持するために必須の構成要素である。
【0004】
しかしながら、この軟磁性裏打ち層に関して以下の(1)〜(3)の問題点が指摘されている。(1)軟磁性裏打ち層に形成される磁壁に起因してスパイクノイズと呼ばれるノイズが発生する。(2)軟磁性裏打ち層に磁気記録層の磁化が転写されることによりノイズが発生する。(3)HDD内の浮遊磁場や磁気記録層に書き込まれた磁化の発生する磁場がヘッドを介して軟磁性裏打ち層と磁気回路を形成することで記録した磁化が消失する。
【0005】
(1)の問題を抑制するために、従来は、軟磁性下地層と基板との間に硬磁性ピニング層を設け、軟磁性下地層の磁化を一方向に揃える方法(特許文献1参照)、軟磁性裏打ち層と反強磁性層の交換結合を利用して磁化をピン止めする方法(特許文献2参照)、軟磁性裏打ち層を2層にしてそれらを反強磁性的に結合させる方法(特許文献3参照)などが提案されている。
【0006】
しかし、硬磁性ピニング層によるピニングはディスク全面で軟磁性裏打ち層の磁化を特定方向(例えば半径方向外向き)に向けることは非常に困難であり、実際は内外周において磁壁に起因したスパイクノイズが発生することが知られている。また、反強磁性層を用いた方法で十分な交換結合磁界を得るためには、成膜後に数分〜数時間を要する熱処理をする必要があったり、軟磁性層と反強磁性層を何層も積層する(非特許文献1参照)など、複雑かつコスト高な方法を使わざるを得なかった。軟磁性層を2層化してそれらを反強磁性的に結合する方法は、実際には多磁区構造となり、小さいながらもスパイクノイズが発生することが分かっている。
【0007】
また、(2)および(3)の問題点に関しては、問題視されてはいるものの抜本的な対策方法は見つかっていないというのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開平7−129946号公報
【特許文献2】特開平6−103553号公報
【特許文献3】特開2001−155321号公報
【特許文献4】特開2002−170216号公報
【非特許文献1】K. W. Wierman, et al., IEEE Trans. Magn., vol. 37, No. 6, pp. 3956-3959, 2001
【非特許文献2】A. Chekanov, E. N. Abarra, and G. Choe, Digests of the INTERMAG 2005, CB11, p. 255 (2005)
【非特許文献3】Y. Nakatani et al., J. Appl. Phys. 93 p. 7744 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、軟磁性裏打ち層に関する以下の3つの問題点、(1)磁壁に起因してスパイクノイズと呼ばれるノイズが発生する問題点、(2)磁気記録層の磁化が転写されることによりノイズが発生する問題点、(3)HDD内の浮遊磁場や磁気記録層に書き込まれた磁化が発生する磁場がヘッドを介して軟磁性裏打ち層と磁気回路を形成することで記録した磁化が消失する問題点を同時に解決することで、媒体性能の向上を実現することである。
【0010】
軟磁性裏打ち層に起因した問題を解決するためには、そのメカニズムについて考える必要がある。
【0011】
問題点(1)については、軟磁性裏打ち層に形成された磁壁が原因であることが古くから知られており、前述の通り様々な対策が考案されている。
【0012】
問題点(2)について図を用いて説明する。図1は、従来型垂直磁気記録媒体における磁気記録層106および軟磁性裏打ち層102(上部のみ)の磁化(図中矢印で示す)の模式図であり、図1(a)は低密度記録時を示し、図1(b)は高密度記録時を示す。なお、単純化のために、図1には磁気記録層および軟磁性裏打ち層のみを示し、非磁性中間層等は省略している。図1(a)および(b)に示すように、磁気記録層106の磁化は軟磁性裏打ち層102に転写される。図1(a)の低記録密度時に示すように、軟磁性裏打ち層102の磁化が垂直方向を向くだけでもノイズの原因になる。それに加え、軟磁性裏打ち層102の記録分解能が低いために、図1(b)に示す高密度記録時には必ずしも磁気記録層106の磁化の方向と軟磁性裏打ち層102の磁化の方向が一致せず、更にノイズが大きくなる。これが、問題点(2)においてノイズが発生するメカニズムである。
【0013】
問題点(3)については、HDD内の浮遊磁場がヘッドに集中する問題はアンテナ効果として知られている。また、磁気記録層が発生する磁束がヘッドのリターン・ヨーク(あるいはトレーリングシールド)に集中し、それが還流してライト・ポール側で媒体の記録を消してしまう現象は、ポール・イレージャ(PE)の原因の一つとして知られている(非特許文献2参照)。アンテナ効果とPEについては、ヘッド側で主に改善が図られているが、記録媒体側での改善方法はほとんど提案されていないとういのが現状である。
【0014】
これらの問題点は全て、軟磁性裏打ち層の上層部(磁気記録層に近い部分)の磁化が非磁性基体表面に対して垂直方向に向くために起こることである。この現象は軟磁性裏打ち層の磁化を強く面内(非磁性基体表面と平行)に向けることで解決できると考えられる。しかしながら、磁化が強く面内に向くと、軟磁性裏打ち層がヘッドが発生する記録磁場を引き込む効果が弱くなり、記録容易性が損なわれてしまう。そこで、「記録時には軟磁性裏打ち層として働き、読み取り時には軟磁性裏打ち層上部の磁化が見かけ上消失している」という状態が理想的であると考えられるが、そのような構造はこれまで実現されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような状況を鑑み、発明者らは鋭意検討を進めた結果、軟磁性層上部(軟磁性層に対して非磁性基体と反対側)に、非磁性結合層を介して、非磁性基体表面に対して垂直方向に異方性を有する硬磁性ピニング層を設け、硬磁性ピニング層と軟磁性裏打ち層とを反強磁性結合することで、上述の軟磁性裏打ち層に係る3つの問題点を同時に解決し、本発明を完成するに至ったものである。
【0016】
本発明の垂直磁気記録媒体は、非磁性基体と、軟磁性裏打ち層と、非磁性結合層と、硬磁性ピニング層と、非磁性中間層と、磁気記録層とをこの順に有し、軟磁性裏打ち層と硬磁性ピニング層が非磁性結合層を介して常温で反強磁性結合しており、硬磁性ピニング層の磁化容易軸が非磁性基体表面に対して垂直方向であることを特徴とする。ここで、軟磁性裏打ち層が、非磁性基体表面に対して平行かつ半径方向に一軸磁気異方性を有してもよい。また、非磁性結合層を、V、Cr、Cu、Nb、Mo、Ru、Rh、Ta、W、ReおよびIrからなる群から選択される金属またはこれらを主成分とする合金から形成してもよい。望ましくは、非磁性結合層が2nm以下の膜厚を有する。一方、硬磁性ピニング層を、Coを主成分とし、CrおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む材料、あるいは非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料から形成してもよい。硬磁性ピニング層は、好ましくは、10nm以下の膜厚を有し、および/または5×10erg/cm(5×10J/m)以上の一軸異方性定数、および磁気記録層よりも低い保磁力を有する。さらに、磁気記録層が、非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
前述したように、軟磁性裏打ち層上部(軟磁性裏打ち層に対して非磁性基体と反対側)に、非磁性結合層を介して、非磁性基体表面に対して鉛直方向に異方性を有する硬磁性ピニング層を設け、硬磁性ピニング層と軟磁性裏打ち層を反強磁性結合することで、軟磁性裏打ち層に関する、(1)磁壁に起因してスパイクノイズと呼ばれるノイズが発生する問題点、(2)磁気記録層の磁化が転写されることによりノイズが発生する問題点、(3)HDD内の浮遊磁場や磁気記録層に書き込まれた磁化が発生する磁場がヘッドを介して軟磁性裏打ち層と磁気回路を形成することで記録した磁化が消失する問題点、という3つの問題点を同時に解決することができる。これにより、媒体ノイズの低減やSNR(再生信号対ノイズ比、Signal to Noise Ratio)の向上による記録密度の向上が実現されるとともに、媒体の信頼性も改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図2は、本発明に係る垂直二層磁気記録媒体の断面模式図である。ここで、垂直二層磁気記録媒体とは、硬磁性の磁気記録層と軟磁性裏打ち層とを有する垂直磁気記録媒体を意味する。図2に示すように、本発明に係る垂直二層磁気記録媒体は、非磁性基体1と、非磁性基体1の上に順次設けられる軟磁性裏打ち層2、非磁性結合層3、硬磁性ピニング層4、非磁性中間層5、磁気記録層6、保護膜7、液体潤滑材層8を有する。保護膜7および液体潤滑材層8は、任意選択的に設けてもよい層であるが、実用上は設けることが高度に好ましい層である。また、軟磁性裏打ち層2と非磁性結合層3の間に軟磁性を有するシード層を適宜設けてもよい。
【0019】
非磁性基体1としては、当該技術において知られている、表面が平滑である様々な基体を用いることができる。例えば、磁気記録媒体用に用いられる、NiPメッキを施したAl合金または強化ガラス、結晶化ガラス等を、非磁性基体1として用いることができる。
【0020】
軟磁性裏打ち層2としては、FeTaC、センダスト(FeSiAl)合金などの結晶性材料、またはCoZrNb、CoTaZrなどのCo合金を含む非晶質材料を用いることができる。軟磁性裏打ち層2の膜厚は、記録に使用する磁気ヘッドの構造や特性によって最適値が変化するが、おおむね10nm以上500nm以下程度であることが、生産性との兼ね合いから望ましい。
【0021】
また、軟磁性裏打ち層2が、非磁性基体1表面(すなわち基板面)に対して平行かつ半径方向に一軸磁気異方性を有することが好ましい。軟磁性裏打ち層の一軸磁気異方性は、たとえばマグネトロンスパッタ法を用いて成膜する際に、マグネトロンからの漏れ磁場を利用して非磁性基体1表面(すなわち基板面)に対して平行かつ半径方向に揃えることができる(特許文献4参照)。このような一軸磁気異方性を付与することによって、軟磁性裏打ち層2が発生するノイズをさらに低減できる。軟磁性裏打ち層2の磁化が基板面に対して平行かつ半径方向に一軸磁気異方性を有する場合、軟磁性裏打ち層2に起因するノイズ(SULノイズ)が減少して媒体のSNRが向上することは良く知られている(例えば、非特許文献3を参照)。本発明においても例外ではなく、軟磁性裏打ち層2の磁気異方性の向きを前述の通りにすることで、SULノイズを低減して媒体のSNRをさらに向上することができる。
【0022】
軟磁性裏打ち層2上に軟磁性を有するシード層を設ける場合には、NiFeAl、NiFeSi、NiFeNb、NiFeB、NiFeNbB、NiFeMo、NiFeCrなどのようなパーマロイ系材料、CoNiFe、CoNiFeSi、CoNiFeB、CoNiFeNbなどのようなパーマロイ系材料にCoをさらに添加した材料を用いて、シード層を形成することができる。軟磁性を有するシード層の膜厚は、磁気記録層6の磁気特性や電磁変換特性が最適になるように膜厚を調整することが望ましいが、おおむね3nm以上50nm以下程度であることが、媒体特性と生産性との兼ね合いから望ましい。
【0023】
非磁性結合層3は、軟磁性裏打ち層2と硬磁性ピニング層4の反強磁性的な結合エネルギを大きくして、軟磁性裏打ち層2/硬磁性ピニング層4間の反強磁性結合を容易にすると同時に、硬磁性ピニング層4の結晶配向を良好に保ち、硬磁性ピニング層4の材料の磁化容易軸を非磁性基体1表面に対して垂直に維持するための層である。V、Cr、Cu、Nb、Mo、Ru、Rh、Ta、W、ReおよびIrからなる群から選ばれる金属、または前述の金属を主成分とする合金を用いて非磁性結合層3を形成することができる。また、非磁性結合層3の前述の2つの機能を両立させるために、非磁性結合層3の膜厚を2nm以下、より好ましくは0.4〜1.2nmとすることが望ましい。
【0024】
硬磁性ピニング層4の結晶配向を良好に保ち、その磁化容易軸を適切に垂直配向させるという観点からは、さらに以下のようにすることが好ましい。すなわち、体心立方(bcc)構造を有するV、Cr、Nb、Mo、Ta、Wを用いて非磁性結合層3を形成する場合、非磁性結合層3の膜厚を1nm以下、より好ましくは0.4〜0.8nmとすることが望ましい。これは、bcc構造を有する材料を用いる場合、より薄い膜厚であるほど任意選択的なシード層(面心立方(fcc)構造)および硬磁性ピニング層4(六方最密充填(hcp)構造)とエピタキシャルな関係に成り易く、そのため硬磁性ピニング層4を適切に垂直配向させ易いためである。また、大きな反強磁性的な結合エネルギーを得るという観点からも1nm以下程度が好ましい。一方、fccまたはhcp構造を有するCu、Ru、Rh、ReおよびIrに関しては、前述の2nm以下、より好ましくは0.4〜1.2nmの膜厚において、硬磁性ピニング層4の結晶配向を良好に保ち、その磁化容易軸を適切に垂直配向させることが可能である。
【0025】
硬磁性ピニング層4は、非磁性結合層3を介して軟磁性裏打ち層2とHDDの使用温度範囲(たとえば、−20〜80℃)において反強磁性結合を形成することによって、軟磁性裏打ち層2に由来するノイズを低減させるための層である。硬磁性ピニング層4は、Coを主成分とし、CrおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む材料からなり、好ましくは少なくともCoとPtを含む合金の強磁性材料からなる。また、硬磁性ピニング層4を形成する材料はhcp構造を有し、該hcp構造のc軸が非磁性基体1表面に垂直方向に配向していること、すなわち磁化容易軸が非磁性基体1表面に垂直方向に配向していることが必要である。硬磁性ピニング層4は、CoPt、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTaなどの合金材料からなる単層膜であってもよく、[Co/Pt]、[Co/Pd]などの多層積層膜であってもよい。このような材料を用いることによって、硬磁性ピニング層4の垂直方向への異方性を高め、軟磁性裏打ち層2に起因するノイズを効果的に低減することが可能となる。
【0026】
あるいはまた、硬磁性ピニング層4を、非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料を用いて形成することがさらに好ましい。用いることができるグラニュラー構造を有する材料は、CoPt−SiO、CoCrPtO、CoCrPt−SiO、CoCrPt−Al、CoPt−AlN、CoCrPt−Siなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明においては、グラニュラー構造を有する材料を用いることによって、硬磁性ピニング層4の記録分解能を高め、軟磁性裏打ち層2が発生するノイズをより効果的に低減することが可能となる。また、グラニュラー構造を有する材料は、その上に形成される非磁性中間層5や磁気記録層6の材料の結晶粒径を決定するテンプレートとして機能する点においても有用である。
【0027】
また、硬磁性ピニング層4は、記録容易性の低下を抑制しながら軟磁性裏打ち層2に起因するノイズを低減するという観点から、10nm以下、より好ましくは3〜8nmの膜厚を有することが望ましい。
【0028】
さらに、硬磁性ピニング層4の一軸異方性定数が5×10erg/cm(5×10J/m)以上であることが、硬磁性ピニング層4を効果的に機能させる上で好ましい。前述のような一軸異方性定数を有することによって、硬磁性ピニング層4を硬磁性に維持し、反磁界の影響を受けることなしに磁化を非磁性基体1表面に垂直方向に適切に配向させることが可能となる。
【0029】
また、硬磁性ピニング層4の保磁力は、磁気記録層6の保磁力よりも小さいことが、硬磁性ピニング層を効果的に機能させる上で好ましい。前述のように保磁力を設定することによって、硬磁性ピニング層4が磁気記録層6への記録を補助する機能を果たして、本発明の磁気記録媒体の記録容易性を適切に維持することが可能となる。
【0030】
非磁性中間層5は、磁気記録層6の磁気特性および電磁変換特性を維持するための層である。非磁性中間層5は、Ru、Pt、Ir、ReおよびRhからなる群から選択される金属、またはC、Cu、W、Mo、Cr、Ir、Pt、Re、Rh、Ta、Vからなる群から選択される1種または複数種の材料をRuに添加したRu基合金などを用いて形成することができるが、これらに限定されるものではない。高密度記録を実現するためには、磁気記録層6の磁気特性や電磁変換特性を劣化させない範囲で、非磁性中間層5の膜厚をできる限り薄くすることが必要である。具体的には、非磁性中間層5の膜厚を1nm以上20nm以下とすることが望ましい。
【0031】
磁気記録層6は、好適には、少なくともCoとPtを含む合金の強磁性材料を用いて形成することができる。本発明の磁気記録媒体を垂直磁気記録媒体として用いるためには、磁気記録層6の材料の磁化容易軸(例えば、hcp構造のc軸)が非磁性基体1表面に垂直方向に配向していることが必要である。磁気記録層6を形成するための強磁性材料は、CoPt、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtTaなどの合金材料を含む。また、[Co/Pt]、[Co/Pd]などの多層積層膜を磁気記録層6として使用することができる。
【0032】
あるいはまた、非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料を用いて、単層または多層からなる磁気記録層6を形成することがさらに好ましい。用いることができるグラニュラー構造を有する材料は、CoPt−SiO、CoCrPtO、CoCrPt−SiO、CoCrPt−Al、CoPt−AlN、CoCrPt−Siなどを含むが、これらに限定されるものではない。本発明においては、グラニュラー構造を有する材料を用いることによって、磁気記録層6内で近接する磁性結晶粒子間の相互作用を抑制し、ノイズの低減、SNRの向上および記録分解能の向上といった媒体特性の改善を図ることができる。
【0033】
任意選択的に設けてもよい保護膜7は、下にある磁気記録層6以下の各構成層を保護するための層であり、たとえば、カーボンを主成分とする薄膜を用いることができる。その他にも、当該技術において磁気記録媒体保護膜用の材料として知られている種々の薄膜材料を使用して、保護膜7を形成してもよい。
【0034】
任意選択的に設けてもよい液体潤滑材層8は、書込み/読み出し用ヘッドが磁気記録媒体に接触している際の潤滑を付与するための層であり、たとえば、パーフルオロポリエーテル系の液体潤滑剤、または当該技術において知られている種々の液体潤滑剤材料を使用して形成することができる。
【0035】
非磁性基体1の上に積層される各層は、磁気記録媒体の分野で通常用いられる様々な成膜技術によって形成することが可能である。軟磁性裏打ち層2から保護膜7に至る各層の形成には、たとえば、スパッタ法(DCマグネトロンスパッタ法、RFマグネトロンスパッタ法などを含む)、真空蒸着法、CVD法などを用いることが出来る。また、液体潤滑材層8の形成には、たとえば、ディップ法、スピンコート法などを用いることができる。
【0036】
本発明に係る媒体を用いたときの書込み時および読み出し時の軟磁性裏打ち層の磁化の挙動についてより詳細に説明する。図3(a)は、本発明の垂直二層磁気記録媒体の書込み時の磁化の模式図を示す。なお、図3においては、簡潔性を維持するために、非磁性基体1、保護膜7および液体潤滑材層8を省略した。図3(a)において、右端のビットを書き込む場合、軟磁性裏打ち層2の上層部の磁化は、ヘッド磁場20に従って、下方向を向く。同時に、強いヘッド磁場20により硬磁性ピニング層4の磁化もヘッド磁場20に従う。すなわち、書込み時にヘッド直下に存在し書込みが行われる部分では、硬磁性ピニング層4と軟磁性裏打ち層2上部の磁化はヘッド磁場20に従って同一方向を向き、磁気記録層6におけるビット書込みに必要な磁気回路が形成される。
【0037】
次に、読み出し時について考える。図3(b)は、本発明の垂直二層磁気記録媒体の読み出し時の磁化の模式図を示す。読み出し時にはヘッド磁場20が取り去られるが、異方性の比較的高い硬磁性ピニング層4の磁化の向きはそのまま(書込み時のヘッド磁場20の方向と同一)である。この硬磁性ピニング層4の磁化との常温における反強磁性結合により、異方性の低い軟磁性裏打ち層2上部の磁化は、硬磁性ピニング層4の磁化と正反対の向き(書込み時のヘッド磁場20と正反対の方向)に向く。このようなメカニズムにより、読み出し時には硬磁性ピニング層4および軟磁性裏打ち層2上部の磁化が打ち消し合い、見かけ上、軟磁性裏打ち層2上部の磁化が消失し、軟磁性裏打ち層2に起因するノイズを抑制することが可能となる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
非磁性基体1として表面が平滑な化学強化ガラス基板(HOYA社製N−5ガラス基板)を用い、これを洗浄後DCマグネトロンスパッタ装置内に導入し、Co5Zr8Nb(全原子を基準として5at%のZr、8at%のNb、および残余のCoで構成される。以下同様)ターゲットを用いて、膜厚60nmのCoZrNb非晶質軟磁性裏打ち層2を成膜した。次にRuターゲットを用いて、膜厚0.7nmのRu非磁性結合層3を成膜した。次に、Co20Cr10Pt4Bターゲットを用いて、膜厚6nmのCoCrPtB硬磁性ピニング層4を成膜した。軟磁性裏打ち層2、非磁性結合層3および硬磁性ピニング層4の製膜は、圧力0.67PaのArガス中で実施した。引き続いて、Ruターゲットを用いて、圧力4.0PaのArガス中で膜厚10nmのRu非磁性中間層5を成膜した。引き続いて、2層構成のグラニュラー構造を有する磁気記録層6を形成した。最初に、90(Co12Cr16Pt)−10SiOターゲットを用いて、ガス圧5.3Pa下で膜厚8nmのCoCrPt−SiO第一磁気記録層を製膜し、引き続いて96(Co20Cr12Pt)−4SiOターゲットを用いて、ガス圧1.2Pa下で膜厚8nmのCoCrPt−SiO第二磁気記録層を成膜した。最後に、材料ガスとしてエチレンを用い、ガス圧約0.13Pa下でのプラズマCVD法によって、膜厚4nmのC保護膜7を成膜し、得られた積層体を真空装置から取り出した。また、磁気記録層6以下の全ての層はDCマグネトロンスパッタリング法により製膜した。その後、ディップ法を用いて、膜厚2nmのパーフルオロポリエーテルからなる液体潤滑材層8を形成し、垂直磁気記録媒体とした。
【0039】
また、軟磁性裏打ち層2の特性を評価するため、CoCrPt硬磁性ピニング層4以下の層を成膜した後、非磁性中間層5と磁気記録層6を設けることなく保護膜7を成膜したサンプルを作製した。
【0040】
[実施例2]
CoZrNb軟磁性裏打ち層2成膜後に、Ni12Fe4Siターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタ法によって膜厚6nmのNiFeSi軟磁性シード層を成膜したことを除いて、実施例1と全く同様にして垂直磁気記録媒体を作製した。
【0041】
また、実施例1と同様に、軟磁性裏打ち層2の特性を評価するための非磁性基体1/軟磁性裏打ち層2/非磁性結合層3/硬磁性ピニング層4/保護膜7の構造を有するサンプルを作製した。
【0042】
[実施例3]
非磁性結合層3の形成において、Ruターゲットに代えてCuターゲットを用い、膜厚0.6nmのCu非磁性結合層3を成膜したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、垂直磁気記録媒体を作製した。また、実施例1と同様に、軟磁性裏打ち層2の特性を評価するためのサンプルを作製した。
【0043】
[実施例4]
硬磁性ピニング層4の形成において、Co20Cr10Pt4Bターゲットに代えて90(Co14Cr16Pt)−10SiOターゲットを用い、膜厚5nmのグラニュラー構造を有するCoCrPt−SiO硬磁性ピニング層4を成膜したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、垂直磁気記録媒体を作製した。また、実施例1と同様に、軟磁性裏打ち層2の特性を評価するためのサンプルを作製した。
【0044】
[実施例5]
硬磁性ピニング層4の形成において、Co20Cr10Pt4Bターゲットに代えてCo20Crターゲットを用い、膜厚8nmのCoCr硬磁性ピニング層4を成膜したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、垂直磁気記録媒体を作製した。また、実施例1と同様に、軟磁性裏打ち層2の特性を評価するためのサンプルを作製した。
【0045】
[比較例1]
非磁性結合層3および硬磁性ピニング層4を形成しなかったことを除いて、実施例2の手順を繰り返して、垂直磁気記録媒体を作製した。また、実施例2と同様に、軟磁性裏打ち層2の特性を評価するためのサンプルを作製した。
【0046】
[比較例2]
非磁性基体として表面が平滑な化学強化ガラス基板(HOYA社製N−5ガラス基板)を用い、これを洗浄後DCマグネトロンスパッタ装置内に導入し、Co5Zr8Nbターゲットを用いて、膜厚30nmの第1のCoZrNbの非晶質軟磁性裏打ち層を成膜した。次に、Ruターゲットを用いて、膜厚0.7nmのRu層を成膜した。次いで、再度Co5Zr8Nbターゲットを用いて、膜厚30nmの第2のCoZrNbの非晶質軟磁性裏打ち層を成膜した。次に、Ni12Fe4Siターゲットを用いて膜厚6nmのNiFeSi軟磁性シード層を成膜した。引き続いて、Ruターゲットを用いて、圧力4.0PaのArガス中で膜厚10nmのRu非磁性結合層を成膜した。以下、実施例1と同様にして磁気記録層、保護膜および液体潤滑材層を形成し、垂直磁気記録媒体を作製した。
【0047】
また、軟磁性裏打ち層の特性を評価するため、第2のCoZrNb軟磁性裏打ち層以下の層を成膜した後、NiFeSiシード層、Ru非磁性中間層、磁気記録層を設けることなく保護膜を成膜したサンプルを作製した。
【0048】
[評価]
なお、実施例1、3、4および5の垂直磁気記録媒体では非磁性結合層3と硬磁性ピニング層4がシード層と同様の役割をするため、非磁性中間層5および磁気記録層6が適切に垂直配向(非磁性基体1表面に対して垂直方向にhcp構造の結晶のc軸が配向)した。一方、比較例1および2の層構成ではシード層を用いないと非磁性中間層および磁気記録層の垂直配向が得られないため、NiFeSiシード層を用いて実施例2と類似の構造とした。
【0049】
前述の各実施例において得られた軟磁性裏打ち層の特性評価用サンプルについて、Candela社のOSA(Optical Surface Analyzer)を用いて磁区構造を観察した。図4に実施例1、比較例1および2に係る媒体のOSA像を示す。なお、実施例2〜5に係る媒体のOSA像は実施例1の媒体と全く同様であった。図中に見られる線状の模様が磁区構造を表しており、磁区構造が見える媒体には磁壁が存在している。図4(a)に示した実施例1に係る媒体では磁区構造が全く見られないのに対し、図4(b)に示した比較例1に係る媒体では明確な磁区構造が観察された。また、図4(c)に示した比較例2に係る媒体では、弱いながらも磁区構造が見られることが分かる。
【0050】
ここで、比較例2における第1および第2軟磁性裏打ち層の磁化は、その中間にある膜厚0.7nmのRu層を挟んで反平行に結合していた。すなわち、第2のCoZrNb軟磁性裏打ち層の磁化は基板面内に配向していた。これは、今回使用したCoZrNbの異方性定数が、反磁界(約1.4×10erg/cm(1.4×10J/m))に対して小さいためである。比較例2の第2CoZrNb軟磁性裏打ち層の磁化の状態は、実施例1から4における硬磁性ピニング層4の磁化が基板面内に配向している場合に相当すると解釈できる。しかしながら、この場合には磁区構造を排除することができないことは、図4(c)から明らかである。
【0051】
以上の結果から、本発明に係る媒体構造を用いることで、磁壁の無い軟磁性裏打ち層が得られることが分かった。
【0052】
次に、各実施例において得られた垂直磁気記録媒体について、Kerr効果測定装置を用いて保磁力Hを測定した。また、各実施例において得られた軟磁性裏打ち層の特性評価用サンプルについて、Kerr効果測定装置を用いて非磁性基体1表面に垂直方向のKerr loopを測定し、軟磁性裏打ち層2と硬磁性ピニング層4の結合状態に関して検討した。図5(a)は実施例1に係る媒体の非磁性基体1表面に垂直方向のKerr loopを示し、図5(b)は比較例1に係る媒体の非磁性基体1表面に垂直方向のKerr loopを示した。図5(a)においては、磁場強度ゼロ前後の部分に磁化がゼロとなる領域が存在していることが分かる。一方、図5(b)のKerr loopにおいては、そのような領域は存在しない。この領域の存在は、実施例1に係る媒体において、軟磁性裏打ち層2と硬磁性ピニング層4とが、非磁性結合層3を介して非磁性基体1表面に対して垂直方向に反強磁性結合していることを示している。実施例2〜5において得られた特性評価用サンプルにおいても、実施例1のサンプルと同様のKerr loopが明確に観察された。以上の結果から、本発明に係る構造を採ることによって、常温において、軟磁性裏打ち層2と硬磁性ピニング層4とが、非磁性基体1表面に対して垂直方向に反強磁性結合していることが確認された。
【0053】
さらに、リード・ライトテスタを用いて、垂直磁気記録媒体の電磁変換特性を評価した。評価項目として、スパイクノイズ、軟磁性層起因ノイズ(SULノイズ)、ポール・イレージャ(PE)、トラック平均信号出力(TAA)、再生信号出力−ノイズ比(SNR)、記録分解能(Resolution)を用いた。
【0054】
スパイクノイズおよびSULノイズは、軟磁性裏打ち層の特性評価用サンプルを用いて評価した。スパイクノイズに関しては、信号のバックグラウンドに対してスパイク状の信号が明確に見られる場合を×、明確なスパイクノイズは見られないが、ベースラインが太く、弱いスパイク状のノイズが見られる場合を○、スパイクノイズが見られない場合は◎として評価した。さらに、この際の軟磁性裏打ち層からの信号出力の媒体1周分の合計値をSULノイズとして数値化した。
【0055】
非磁性中間層5および磁気記録層6を設けた垂直磁気記録媒体に関して、回転速度4200rpm、媒体中周位置において、以下の手順に従ってPEの評価を行った。(1)プラス方向(DC+)またはマイナス方向(DC−)にバンド消去を行う、(2)消去バンド中央のトラックに記録密度53kfciの信号を記録し、初期のトラック平均出力(TAA)を測定する、(3)測定トラックを128セクタに分割し、それぞれのセクタの先頭で書込み電流をオン/オフする、(4)前記オン/オフを300回転にわたって繰返した後、TAAを測定する、(5)初期のTAAから前記(4)で測定したTAAへの減衰を、初期のTAAを基準とした減衰比率(%)として評価する。上記の評価は、PEが起こりやすいヘッドを使用して実施した。
【0056】
さらに、記録密度510kfciの信号を用いて、SNRの評価を行った。また、記録密度510kfciおよび146kfciの信号を用いて、記録分解能を測定した。記録分解能は、146kfciの場合のTAAを基準とした、510kfciの場合のTAAの比率(%)として評価した。得られた評価結果を第1表にまとめた。
【0057】
【表1】

【0058】
保磁力Hの値を比較すると、いずれの例の垂直磁気記録媒体も358.2〜366.2A/mm(4500〜4600Oe)の値を有しており、媒体間で大きな差は無い。このことは、各磁気記録媒体の磁気記録層の構造に大きな差がないことを表している。したがって、以下に述べる電磁変換特性の差は、主に軟磁性裏打ち層起因のノイズに依存するものと考えられる。
【0059】
図6に、実施例1、比較例1および比較例2の軟磁性裏打ち層の特性評価用サンプルの信号出力を示す。図6(a)に示した実施例1のサンプルにおいては、スパイクノイズは観察されなかった。実施例2、3および4のサンプルに関しても、図6(a)に示した実施例1のサンプルと同様にスパイクノイズは観察されなかった。一方、図6(b)に示した比較例1のサンプルにおいては、強いスパイクノイズが顕著に観察された。さらに図6(c)に示す比較例2のサンプルにおいては、明確なスパイクノイズは観察されないものの、信号出力のベースラインが太く、かつ弱いスパイク状のノイズ(記録密度510kfciの出力の1/10程度、約0.2mV)が観察された。以上の観察結果は、図4に示したOSAによる磁区構造の観察結果と定性的に一致する。以上の結果から、本発明に係る媒体構造を用いることで、スパイクノイズの発生のない軟磁性裏打ち層が得られることが明らかとなった。
【0060】
次に、SULノイズを比較すると、図6に示した結果からも予想される通り、比較例1および2のSULノイズに比較して、実施例1〜5のSULノイズが小さくなっていることが分かる。この結果から、本発明に係る媒体構造を有する実施例1〜5に係るサンプルでは、スパイクノイズを抑制できるだけではなく、軟磁性裏打ち層起因のノイズそのものを小さくできることが分かった。
【0061】
次に、TAAおよびSNRについて比較すると共に、媒体の信号出力への軟磁性裏打ち層起因出力の重畳について考察する。第1表から、実施例1〜5の媒体のSNRは、比較例1の媒体に比べ約2.9〜3.5dB、比較例2の媒体と比較して約1.2〜2dB高いことが分かる。SNR向上の原因の1つは、前述のSULノイズの低減によるものであると考えられる。加えて、SNRに対する軟磁性裏打ち層起因出力の影響も考えられる。そこで、軟磁性裏打ち層起因出力に関して考察する。第1表に示したそれぞれの磁気記録媒体の高記録密度(510kfci)および低記録密度(146kfci)におけるTAAならびに記録分解能を比較すると、実施例1〜5の垂直磁気記録媒体においては、低記録密度時のトラック平均信号出力(TAA−1)に比較して高記録密度時のトラック平均信号出力(TAA−2)が高く、記録分解能が高くなっていることが分かる。保磁力Hの測定から磁気記録層6そのものには大きな差がないと考えられるので、この差は軟磁性裏打ち層に起因すると考えられる。軟磁性裏打ち層を有する垂直磁気記録媒体では、低密度記録時には磁気記録層の出力に軟磁性裏打ち層の出力が重畳されるのに対し、高密度記録時には軟磁性裏打ち層の記録分解能が低いため軟磁性裏打ち層からの出力の寄与が小さく,その結果として垂直磁気記録媒体全体としての記録分解能が低く見えることが知られている。以上を考慮すると、この信号出力および記録分解能の差は、実施例1〜5の媒体においては、高密度記録時だけではなく低密度記録時においても軟磁性裏打ち層起因の出力が小さくなっているためと考察できる。
【0062】
次いで、PEについて比較する。第1表に示した通り、実施例1〜5および比較例2に係る垂直磁気記録媒体は、比較例1の垂直磁気記録媒体に比べてPEが大幅に低減されることが分かる。加えて、軟磁性裏打ち層2と硬磁性ピニング層4とが非磁性結合層3を介して非磁性基体1表面に対して垂直方向に反強磁性結合をしている実施例1〜5の垂直磁気記録媒体のPEは、2つの軟磁性裏打ち層の磁化が非磁性基体1表面の面内方向で反平行に結合をしている比較例2の垂直磁気記録媒体のPEよりもさらに小さいことが分かる。
【0063】
次いで、実施例1、4および5における硬磁性ピニング層4の一軸異方性定数を測定した。実施例1、4および5における硬磁性ピニング層4は、それぞれ、1.5×10erg/cm(1.5×10J/m)、3.5×10erg/cm(3.5×10J/m)、5.0×10erg/cm(5.0×10J/m)の一軸異方性定数を有した。上記の検討から、5.0×10erg/cm(5.0×10J/m)以上の一軸異方性定数を有する硬磁性ピニング層4が、適切な垂直配向を有し、軟磁性裏打ち層に起因するノイズを低減できることが明らかとなった。
【0064】
以上の結果から、軟磁性裏打ち層2と硬磁性ピニング層4とが非磁性結合層3を介して非磁性基体1表面に対して垂直方向に反強磁性結合をしている本発明に係る媒体構造を用いることで、SULノイズ(磁気記録層が無い場合にも存在する軟磁性層裏打ち層起因のノイズ)、および磁気記録層の磁化が軟磁性裏打ち層に転写されることにより発生するノイズを抑制し、媒体SNRが向上することが明らかとなった。また、本発明に係る媒体構造を用いることによって、外部磁場に対する抵抗性が高く、外部磁場による消去が発生しない垂直磁気記録媒体が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】従来型の垂直磁気記録媒体の磁気記録層および軟磁性裏打ち層の磁化を示す模式図であり、(a)は低密度記録時を示す図であり、(b)は高密度記録時を示す図である。
【図2】本発明に係る垂直二層磁気記録媒体の断面模式図である。
【図3】本発明に係る垂直二層磁気記録媒体の書込み時と読み出し時の磁化を示す模式図であり、(a)は書込み時を示す図であり、(b)は読み出し時を示す図である。
【図4】実施例1、比較例2および3に係るサンプルのOSA像を示す図であり、(a)は実施例1のサンプルのOSA像を示す図であり、(b)は比較例1のサンプルのOSA像を示す図であり、(c)は比較例2のサンプルのOSA像を示す図である。
【図5】軟磁性裏打ち層特性評価用サンプルの垂直方向のKerr loopを示す図であり、(a)は実施例1のサンプルのKerr loopを示す図であり、(b)は比較例1のサンプルのKerr loopを示す図である。
【図6】実施例1、比較例1および比較例2の垂直磁気記録媒体の信号出力を示す図であり、(a)は実施例1の垂直磁気記録媒体の信号出力を示す図であり、(b)は比較例1の垂直磁気記録媒体の信号出力を示す図であり、(c)は比較例2の垂直磁気記録媒体の信号出力を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 非磁性基体
2、102 軟磁性裏打ち層
3 非磁性結合層
4 硬磁性ピニング層
5 非磁性中間層
6、106 磁気記録層
7 保護膜
8 液体潤滑剤層
20 ヘッド磁場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基体と、軟磁性裏打ち層と、非磁性結合層と、硬磁性ピニング層と、非磁性中間層と、磁気記録層とをこの順に有し、軟磁性裏打ち層と硬磁性ピニング層が非磁性結合層を介して常温で反強磁性結合しており、硬磁性ピニング層の磁化容易軸が非磁性基体表面に対して垂直方向であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記軟磁性裏打ち層が、非磁性基体表面に対して平行かつ半径方向に一軸磁気異方性を有することを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
非磁性結合層が、V、Cr、Cu、Nb、Mo、Ru、Rh、Ta、W、ReおよびIrからなる群から選択される金属またはこれらを主成分とする合金からなることを特徴とする請求項1および2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
非磁性結合層が2nm以下の膜厚を有することを特徴とする請求項1から3に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
硬磁性ピニング層が、Coを主成分とし、CrおよびPtからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む材料からなることを特徴とする請求項1から4に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
硬磁性ピニング層が、非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料からなることを特徴とする請求項1から5に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
硬磁性ピニング層が10nm以下の膜厚を有することを特徴とする請求項1から6に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
硬磁性ピニング層の一軸異方性定数が5×10erg/cm(5×10J/m)以上であり、かつ保磁力が磁気記録層よりも低いことを特徴とする請求項1から7に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
磁気記録層が、非磁性酸化物または非磁性窒化物のマトリクス中に磁性結晶粒子が分散されているグラニュラー構造を有する材料からなることを特徴とする請求項1から8に記載の垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−71406(P2008−71406A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248628(P2006−248628)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】